「アメリカは、自国の戦史も外国の戦史も、ともに実によく研究している。それを将来の指針とするためである。歴史の研究といっても、いつ、どこで、何が起ったのかといった記録やその分析にはとどまらない。そこでは、必ず、『イフ(ifもしも)』の研究が行われる。つまり、もしも歴史の事実とは異なる事態が起ったとしたら、あるいは、もしも政治家が異なる選択をしていたとすれば、といった仮定を、研究に取り入れるのだ。コンピューターが発明されるずっと以前から、欧米諸国ではこの『イフ』の研究が盛んだった。いわば、思考のシミュレーションである。歴史研究の最大の効用は、この思考実験にあるといってもいいくらいだ」。 |
「歴史を研究し、そこから導き出される教訓を未来に生かす。このことが重要である。特に戦争は、国家にとって極めて重要な歴史である。同時に、よく研究すれば、得られる教訓は多い。ところが、日本では、それをしない。戦争を歴史として科学的に研究することをしない」。 |
概要「官僚制が腐敗すると『省益』が国益に優先することになる。軍事官僚は、外に対する自分たちの役割を忘れ、関心は内向きの省益優先に拘るようになる。これが腐朽した官僚組織に共通の特徴だ。腐朽官僚制の特徴は、軍人が、戦争が分からなくなることだ。大蔵官僚が、経済が分からなくなるのと同じである。本来の目的を、自分たちの役割を、見据えていないから、分からなくなる。
そうした指導者には、『戦争哲学』がない。『戦争哲学』とは、戦争の目的をしっかりと把握し、そのために何をすべきか、それを高い次元で考えるということだ。戦争哲学をしっかりと頭脳の中心に据え、その上でプロフェッショナルの視点から創出されるのが『戦略』であり、その戦略が、戦いのそれぞれの局面で適切な『戦術』へと具体化される。戦争を闘うために最も重要で不可欠な観念、それが『戦争哲学』である。大東亜戦争を戦った日本の軍事官僚にはそれが欠けていたと、判断せざるをえない」。 |