【運輸省関係】 田中角栄の反民営化論、国鉄民営化反対論

 更新日/2022(平成31.5.1栄和元/栄和4).8.23日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「田中角栄の反民営化論、国鉄民営化反対論」を傾聴しておくことにする。

 2008.3.19日 れんだいこ拝


【角栄の反民営化論】
 角栄は、中曽根政権の押し進めようとした国鉄民営化に反対した。その論旨を確認しておくことにする。中曽根式国鉄改革とは全く違うことに気づかされよう。「田中角栄の国鉄改革 投稿者:バード 投稿日:2007/10/22」その他を参照する。 
 角栄は、「地方の赤字線は廃止すべきではない」として次のように述べている。
 「国鉄は民営にすべきである。北海道の国鉄や全国に散在する赤字線を止めろという意見が、マスコミで繰り返し主張されているがね、しかし、鉄道というものは赤字線からどんどんお客が集まって、最後は東海道新幹線に乗り込むから、新幹線が儲かることになっているんだよ。山のなかの小さな流れがいつのまにか、たくさん合流して、筑後川や富士川、信濃川、利根川ができるのとおんなじだ。利根川はいっぺんにできるわけじゃない。鉄道もしかりである。地方線というのはすべて、艦船の培養線なんだ。地方の赤字線をみんな廃止しちゃったら、東海道新幹線に今のような大勢の客が乗りますか? 乗るはずがないだろう」(早坂茂三「田中角栄回想録」118p )。
 「今、国鉄の財政赤字を理由にして、新幹線の新しい建設に反対する人たちがいる。しかし、そんな近視眼じゃダメなんだ。今の時代に我が国ほどの実力を持ちながら、新幹線を新たに作るのは無理だなんていうのはね、浅見短慮というしかない」(早坂茂三「田中角栄回想録」122p)。

 「国鉄に多角経営を認め、赤字を解消させるべきである」として次のように述べている。早坂茂三「田中角栄回想録」を参照する。
 「かっての鉄道省が今日、日本国有鉄道という国営になった。その結果はどうだ。これも嫌な問題だけれども、結果、国鉄職員の給料が民間よりも安い。にもかかわらず国鉄は赤字だ。民間鉄道は一割配当しているけれども国鉄は無配だよ。理由は色々あるが、まず人間が多すぎるということだな。しかも、労働組合は公労法(公共企業体等労働関係法)で手厚く保護され、親方日の丸で、赤字に関係なく、わがままのし放題だ。民鉄の方は一銭でも黒字を出そうとやっているのに、国鉄はそういう創意、工夫をしない。(中略)しかしそれもいいとして、国鉄の最大の問題は何か。それは兼業を許していないことだ。民鉄はたとえば沿線の宅地開発をしたり、ホテルを経営したりして、鉄道本体の経営を助けているが、国鉄にはこれが許されていない。そういうふうに多角経営を禁じておきながら、国鉄に『赤字を出すな』といったって、たくさんの人間を抱えた国鉄に、それができるわけがない。そうだろう。だから国鉄は民営にすべきである」(早坂茂三「田中角栄回想録」118p )。

(私論.私見)

 早坂氏は、末尾で「だから、民営にすべきである」と記しているが、角栄がそう述べたかどうか疑わしい。文意からすれば、だから国鉄は民営にすべきであるではなく、だから国鉄にも多角経営を認めさせるべきであるではなかろうか。

 次のようにも述べている。
 「ただ、北海道だけはしようがない。あそこだけは、鉄道公社でなきゃいかん。北海道で鉄道をやめたら、560万の人口はやってはいけない。あふれた人が100万も東京に来れば、鉄道の赤字の百倍も社会保障費を払わなきゃならんようになる。これは大問題だ。(中略)問題は、5千−6千キロに及ぶ地方の赤字線だ。これは実際には培養線なんです。そこから人が集まってくるから本線が黒字になっている訳です。だからこれは付近の市町村に無償で供与すべきだ。これは法律によって早くやらなきゃダメ。一刻も早くだ」。
(私論.私見)
 角栄は元々は国鉄の民営化反対論者であった。但しこの頃は民営化やむなし論に転換していたのかもしれない。だがしかし北海道だけは云々、というセンテンスで読み取る必要があろう。

 次のようにも述べている。

 「今後の激しい国際競争のなかで日本が生きていくためには、貿易立国の政策とともに、内需拡大が必要である。これは当然のことだ。しかし、そのためには均衡のとれた国土の発展を実現し、北海道や東北などの内にフロンティアを求め、確立していかなきゃならない。その為にも高速鉄道と高速自動車道路の建設は絶対に必要なんだ。そういう時に財政赤字を理由に尻込みしておってはダメだ。低成長経済の中で、財政赤字の中で、どうすれば高速道路が作れるか、脳漿を絞り切つて知恵を出すことだよ。

 国鉄は途方もない広さの敷地を活用することだ。今は海底に高圧線が通っている時代だろう。鉄道の敷地は全部、パイプラインになる。ガスも石油も通信線も、いろんなパイプラインはすべて鉄道の敷地を使って建設すればいいんだ。日本人と云うのは、超高層ビルの隣に藁葺きのしもた屋が建ち、そこで汁粉や蜜豆を売っているほど考え方が多種多様な人種なんだ。鉄道の多角的利用なんて、すぐできるはずじゃないの。とにかく、日本国中どこを探しても、今の鉄道と同じ広さの用地面積がまとまって確保されているところはないんだから。

 国鉄が民営になれば、経営者は必ず用地の多角利用をやるだろうな。わたしならすぐ始めるよ。そして6、7年で黒字にしてみせる。そのためには、地方開発とタイアップすることが必要だ。つまり、列島改造が一緒になって動き出すことだ。国鉄の赤字解消、民営移管には、そうした問題を総合的に考えながら取り組まなくちゃならない。とにかく、国鉄を国土全体の新しい発展策の中にきちんと位置づける。そして総合的、根本的な改造を工夫することだ。(中略) 国鉄再建の至上命令は人減らしである。これがなんとかならない限り、再建の目途はたたんわけだ。しかし、経営を合理化すれば、人数を半分にできるんだ。それができないのは、バッサリ首を切ろうとするからなんだ。(中略)だからやっぱり、国鉄を会社にして兼業も増やし、採算の取れる商売を興して、そこに人を早く出すことだ。人減らしは、これしかない」(早坂茂三「田中角栄回想録」124p )。

 「都市と農村の有機的結合をすれば、赤字線解消の道が開ける」として次のように述べている。早坂茂三「田中角栄回想録」を参照する。

 「『日本列島改造論』は、いかにすれば人々が安心して地方に住めるようになるか、そのような政策をします、と訴えた本である。全国新幹線網、高速道路網、三つの本四架橋など、気負いが過ぎる欠点があるものの、基本的な思想と方針、政策は、目を見張るものがある。テンポさえ速すぎたり遅すぎたりしなければ、政府全体がまじめに取り組めば、そして国民が協力的であれば、失敗しなかったであろう。農村工業を進めれば、その地域の人口は増えることになる。それによって、赤字線解消の道が開けてくる。このように、多角経営化と農村工業化を進めるのが、田中角栄の国鉄改革の基本思想だ」。

 「角栄は国鉄改革論者ではあるが、中曽根式国鉄の細分化と赤字路線切捨てによる民営化には異論をもっていた」。次のように述べている。早坂茂三「田中角栄回想録」を参照する。

 「おやじ(田中角栄)の考えでは、国鉄改革と列島改造は表裏一体なのである。国鉄の分割・民営化は既に関係法規も制定され、62年(1987年)4月には分割・民営の会社が発車することになった。田中は早くから、国鉄の細分化と赤字路線切捨てによる民営化には異論をもっていた。彼は国鉄改革論者であり、民営化論者ではあるけれども、地方住民の夢と期待を考えに入れない国鉄改革には、あくまでも批判の姿勢を崩さない」。

Re::れんだいこのカンテラ時評890 れんだいこ 2011/01/22
 【角栄頭脳発見の旅 田中角栄の幻論文「国鉄廃止は愚の骨頂!」を発掘せよ】

 れんだいこは、田中角栄の国鉄民営化反対論が堂々と開陳された月刊誌「現代」誌上の論文を捜している。これが目下のところネット検索で出てこない幻論文となっている。どう云う訳か、れんだいこが知りたいと思う重要な論文になればなるほどサイトアップされていない傾向にある。強権著作権論者の指摘に従いリンク掛けで済ませていたら、いつの間にか消えてなくなることもある。それを思えば、強権著作権論者の言に従わず取り込んでおかないと安心できない。

 この論文がなぜ必要なのか。それは、中曽根−小泉政権下の民営化論、最近の菅政権下の環太平洋連携協定(TPP)即ち食料自給体制破壊論と云う風に次から次へと繰り出されている国際金融資本帝国主義の国際支配戦略に対して警鐘乱打する見事なハト派系の内治主義理論足り得ているからである。我々はまずは論には論を、闘争には闘争を対置する必要があると考える。そういう意味で、角栄の幻論文が欲しい。どなたかサイトアップして欲しい。残念ながら、れんだいこには国立図書館まで足を運ぶ余裕がない。

 そういう関心を持ちにがらネット検索していると、1985(昭和60).7.10日の「第102回国会 運輸委員会 第1号」に出くわした。
 (http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/102/1290/10207101290001a.html

 これを読むのに、「運輸事情等に関する調査(国鉄問題に関する件)」のやり取りの中で次のような言及があったので確認しておく。 目黒今朝次郎氏が次のように述べている。「それからもう一つ、『現代』で、『田中角栄“国鉄廃止は愚の骨頂!」”』というのに引かれて、きのう青森に行く列車の中で私は買ったんです。(中略)田中角栄さんのは読みました」。これに答えて、参考人・亀井正夫氏が次のように答弁している。「表題に、国鉄をつぶしたらいかぬと田中角栄氏が言ったというような見出しを大きく書いてあるんですが、文章を読みますと、例えば、今せっかくある鉄道をはいでいくのは愚の骨頂だということを言っておられるわけでして、別に廃止するのは愚だとは言っておられない。どうも見出しとか何かで非常に印象が違うわけであります」。

 上記の言及によれば、月刊誌「現代」誌上の田中角栄の国鉄民営化反対論は、1985(昭和60).7月号ないしはそれ以前の直近の号に掲載されていると云うことになる。且つ、当時の識者から既にかなり注目されていたことになる。角栄が「国鉄廃止は愚の骨頂!」とはっきり明言していたことになる。れんだいこの思い違いではなく、そういう論文が存在していたことが確認できた。

 れんだいこの記憶によれば、タイトル名は忘れたが内容的にはそういう記述であったと思う。例えば北海道の例を挙げ、赤字路線を廃止すれば回り回って北海道の経済が荒廃し、目先利益にはなっても追っ付け却って大きな損失になる云々と指摘していたと思う。結果は、角栄の予見通りとなった。そういうことを確認する為にも、角栄の幻論文の発掘が急がれているように思う。

 これは一事万事で、金権問題から発して角栄政治を悪しざまに言えば云うほど正義であるかのような論調が1980年代初頭の中曽根政治から始まり今日に至っているが、それが大きな間違いであったとそろそろ確認すべきではなかろうか。それは当然現在の小沢どんバッシングにも通底している。角栄政治、小沢政治を悪しざまに言えば云うほど正義であるかのような論調が喧伝されているが、事実は逆ではないのか。れんだいこは、そういうことが云いたいわけである。

 現在、菅政権は、黒船来航以来の第二の開国と称して環太平洋連携協定(TPP)即ち食料自給体制破壊政策に突き進もうとしている。この流れに並行して消費税増税、軍事防衛費の更なる上乗せが企図されている。この対日アジェンダの請負政治として菅派が雇われ、菅、仙石、岡田、枝野、前原、野田、海江田、北沢、与謝野、玄葉、片山、江田その他その他のシオニスタンが総員揃い踏みしている感があるのが菅政権である。興味深いことは、明らかに売国奴政治であるのに、シオニスタン政治こそが救国政治であるかのような逆宣伝で首ったけなことである。思うに、これらのシオニスタンの粗脳に於いては粗脳に相応しく本当にそう思っているのかも知れない。

 そこで、田中角栄の国鉄民営化反対論が登場せねばならないことになる。民営化論、増税論、軍備増強論、その他開国論に対して、1970年代までの日本政治の舵取りに有能な見識を見せ施策を講じ、外交的にも手腕を発揮した角栄政治の言を対比させることにより、中曽根政権以降現在に至るまでの反角栄政治の愚昧さを際立たせてみたい。

 反角栄政治にシフトすればするほど日本は沈没し、今後ますます疲弊と荒廃と国際的地位の低下が必至となる。にも拘わらず、この道へ先導しようとしているシオニスタンの粗脳と対決する為に、角栄頭脳を復権せねばならない。角栄の「国鉄廃止は愚の骨頂!」論文開示にはそういうインパクトがある。足掛かりとして、角栄の国鉄民営化反対論を再確認してみたい。どなたか発掘頼む。ご協力を頼みたい。

 田中角栄の反民営化論
 (kakuei/gyosekico/kokutetumineikahantaironco.html

 2011.1.22日 れんだいこ拝

 「★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK105」のSOBA氏の「栄頭脳発見の旅 田中角栄の幻論文「国鉄廃止は愚の骨頂!」を発掘せよ(れんだいこのブログ)」のコメントに次の情報が寄せられた。
 「北海道の国鉄や全国に散在する赤字線を止めろという意見が、マスコミで繰り返し主張されているがね、しかし、鉄道というものは赤字線からどんどんお客が集まって、最後は東海道新幹線に乗り込むから、新幹線が儲かることになっているんだよ。山のなかの小さな流れがいつのまにか、たくさん合流して、筑後川や富士川、支那に側、利根川ができるのとおんなじだ。利根川はいっぺんにできるわけじゃない。鉄道もしかりである。地方選というのはすべて、艦船の培養線なんだ。地方の赤字線をみんな廃止しちゃったら、東海道新幹線に今のような大勢の客が乗りますか? 乗るはずがないだろう」。

 「このストラテジーは素晴らしいすな」とコメントされている。

【月刊現代に「田中角栄 国鉄廃止なんて愚の骨頂だ!」】
 1985(昭和60).8月号の月刊現代に「田中角栄 国鉄廃止なんて愚の骨頂だ!」が掲載されている。れんだいこの呼びかけに応えて、H氏が取り寄せてくれた。これを転載しておく。

 「“最後”の独占インタビュー」、「発病直前に怒りを爆発!」のルビが付されている。次の語りが添えられている。
 「『倒れたのは創政会のせいです!』 ハナ夫人は肩をふるわせる。発病一週間前、ドンは咽喉をつまらせ、赤ら顔をひときわ紅潮させて憤懣をぶちまけた。『誰も解っちゃいない。列島大改造を断行しなけりゃ日本は滅びる。オレにはまだまだやることがあるんだ!』」。

 以下、本文を転載する。
 自民党最大の実力者・田中角栄が脳梗塞で倒れて四カ月、シナリオライターのいなくなった中央政界は、群雄割拠の様相を呈し、解散総選挙、秋の党役員、閣僚人事の季節を迎え、混迷の度合いは一層、深まってきた。元首相は東京逓信病院にーかつぎこまれる七日前(2月20日)、東京・平河町イト―ピアの田中事務所で、約二時間にわたって本誌に熱弁をふるった。ときおり咳をし、タオルで顔をふき、水を多飲する赤ら顔の元首相は、我々には風邪を思わせた。

 「自民党に期待されるニューリーダーとは」といった質問には耳をかさず、数字と法案を機関銃のように並べたてて、列島改造を協調した。発病前“最後の”独占インタビューである。昭和47年、今太閤と迎えられ、二年にして金脈問題で失墜、さらに二年後、ロッキード疑獄に連座。「総理大臣の犯罪」は克明に追及されてきた。この9月に入ると“主”不在のままロッキード丸紅ルートの控訴審裁判も始まる。しかし、つい半年前まで猛威をふるい、“闇将軍”とまで畏怖された“日本のドン”は、パワーゲームの世界での影響力は激減した。

 だがなぜ、彼が拍手をもって迎えられ、一時代を画したのか。“カネ”と“情”の政治家とされ、コンピューターつきブルドーザーといわれた元首相の発想、考え方には、たしかに示唆に富む内容が盛られている。7月末に予定される国鉄再建監理委員会の答申にも、このインタビューでは大胆な反論が展開されている。今後は政界復帰に執念を燃やし、リハビリに最後を賭けるという。本誌はこの四カ月、「創政会」問題、入退院騒動の渦中での政治的タイミングを考慮し、元首相の回復を期待してきたが、ここにきて明確になった闘病生活の長期化と、問題山積の国鉄民営化、急を要する財政改革を考え、発病直前の田中角栄の「日本再建」の絶叫を掲載する。
 政治の最大問題は領土論だ

 私は政治家としてこれまでいろいろやってきたが、その中で、一番残念というか、心残りは、私の「日本列島改造論」が正しく理解されなかったことだ。正確に云えば、これは「日本の国土利用計画法の草案」であって、日本列島というのは政治の基本です。国の統治権とか国の政治の基本というのは国民生活の安定―というよりも、誰もが高い生活を維持するような国家を作ることにある。そうすると必ず領土論になってくるわけです。

 領土論というのは、この頃はタブーになっているが、政治の一番大きな問題は何かと云えば戦争です。版図の拡大だ。世界の歴史、人類の歴史、全部そうです。今でもユダヤとアラブがやっている。イラクとイランも争っている。フォークランド事件は起きるし、米ソの緊迫というものは解けない。日本はポツダム宣言を受諾して戦争は永久にやりません―こういっているわけだ。日本は領土の拡張ということはもう一切、未来永劫に放棄したわけです。

 しかし人間は増えるからね。日本列島37万平方キロの中に、115年前には3500万人しかいなかった。それが少なくとも今、1億2千万人いる。終戦から今日まで40年間で、人間の寿命はちょうど50%伸びた。つまり男子の平均年齢は49歳11カ月から75歳まで、女の人は80歳になった。これは平均だから、百歳まで生きるわな。人間はどんどん増えているんだ。じゃ領土をどうするか。

 この頃は海中都市とか空中都市といっている人もあるが、広げられなければ、確かにそう云う考えも出てくる。そのうちにきっとね、アメリカの宇宙船は月に行って帰ってくるけれども、日本は行ったっきりなんですよ。行ったっきりの宇宙船の乗客を募集するようになるかもしれませんよ(笑)。
 日本の人口をどうするのか

 日本は、そういう意味では、戦争が終わったときに、既に、新しい日本をどうするべきであるかということを考えるべきだったんです。しかし、まず食うことに汲々としたわけだ。そしてこれは成功した。五十余国を相手にして戦争しながらね、とにかくまぁ民主日本というものを作ったんだから。押しつけられたにしろ何にしろ、これは大したもんですよ。私は、戦時中に吹かなかった神風がそよそよ吹いてきたんだと思っているんです。領土の分割も避けられた。日本人がほとんど犠牲者を出さなかったのは、日本が世界に比類のない同族国家だったからだ。それを忘れちゃいけない。

 しかしその後、日本人がいくら勤勉だって働く所がなければ、国民総生産が拡大するはずがないじゃないの。昭和25年までは、日本の二次産業は必要最小限を残して賠償施設として撤去される運命にあったんです。だって工場には全部有刺鉄線が張ってあって「賠償施設として撤去するにつき日本人立ち入るべからず」と立札が立っていた。だから農村人口が、その時は36%まで増えたんです。一次産業へ逆戻りですよ。

 ところが朝鮮動乱が起り、世界が急激に変わって、占領軍政策も変わったわけだ。これは「吉田回顧録」とか「小説・吉田学校」を読まなくても、誰も知っている話だ。大学出てて知らないなんていったら、よほど大学に行かなかったんだな(笑)。そういう歴史のもとにね、日本は自由化民主化の名における弱体化、細分化、被占領化、絶対に銃はとれない国家国民と云うことを強いられながら、それを何とか乗り越えて、今日までやってきた。そして防衛費はまだGNPの1%以内である。これは平和の証拠ですよ。

 以前の日本は、世界で最も戦略的に要衝を持っていたんです。千島の果てから南洋委任統治領まで持っていたんだから。領土は小さいけど、戦略的に見たら、これは世界最大の戦略拠点にあったわけだ。しかし全千島もとられ、台湾はお返ししたし、かっての第一次世界大戦の戦火のもとに日本が委任統治をした南洋の島々は全部アメリカへいった。そして今、日本は四つの島だけになってしまったんです。

 その中で人口はどんどん膨張していく。国土はこれ以上拡張しない。ではどうするか。そういう意味で、列島改造論というのは存在すべきものなんですよ。大平内閣の時は「田園都市構想」、宮澤喜一君は「国民資産倍増論」、名前は別ですが、これは責任ある政治家なら誰でも艦が偉ければならない大問題なんです。
 国鉄は国民の敵に非ず

 具体的にいいましょう。東京の人口は四、五年前までは1500万人だが、これがどんどん働いている。どこに働いているか。これは埼玉県に行っているわけだ。神奈川県にも行っているわけだ。だんだん行けば群馬県へ行く、栃木県へ行く。ちょうど武蔵野線が40キロ圏です。これは私が作った。今、川越線という所へ第二環状線を作る。これが50キロ圏だ。もう一つはね、茨城県の北総港という港を作っている。そこから宇都宮を通り、前橋を通って、そして高崎まで、約100キロ圏だ。だから八高線というのを作った明治時代の人は先見の明があったと思うね。八高線の上を、高速道路を作れば十分の一のカネでできます。私は、武蔵野線を作る時、高速道路と併設すれば良かったと今思っていますけどね。

 国鉄は今みんなから、“国民の敵”なんて云われているけれども、国民の敵であるもんか。国鉄があったからこそ、第一次産業人口の二分の一が、第二次、第三次産業に移動した。第二次産業の収益が大きくならないで、どうして第三次産業が発達するんですか。第二次産業の収入が良くならないで、どうして小学校の子供を大学までやれるんですか。大学までやれるようにならなきゃ、先生の数なんか要りませんよ。昔の髪結いさんは曲がった毛を一本ずつ真っすぐにした。大変だと思う。今は折角まっすぐないいやつをもじゃもじゃにすれば5千円とか8千円になるんだからね(笑)。これは収入があるからだ。

 そういう意味でね、37万平方キロしかない国土に、一体どうしてこれからのこれだけの高度な国民が生きられるのか、それを考えるのが政治だ。今、家がないと云う。家なんかあります。あってもウサギ小屋だという。冗談じゃない。日本は高温多湿ですから、ほんとはスダレ小屋みたいなのが一番いいんです。漆喰で、木造の柱の家がいい。それで6月7日の梅雨期には壁が全部その湿気を吸って、1月2月の乾燥期にそれを出して温湿度調整をやる。これは世界で最高だ。それをウサギ小屋でござい―なんて、学問もなくてよう云うなと思ってるんだ、おれ(笑)。

 そうでなくて、1300年も五重塔が持ちますか。正倉院の宝物が今に残るのは校倉造のお陰です。これらは力学的にも最高の傑作だ。日本人の特性というものを無視して、外国カラ―万能になるのは考えものだ。個人の権利を守る為には、新宿の超高層、300mの上に人が住むのもいいでしょう。しかし蕎麦屋(そばや)やあん蜜屋はやっぱりり平屋が一番いいね。
 首都圏と地方を直結せよ

 私は昭和26年に議員立法で公営住宅法を作った。政府立法でも何でもない、議員立法だ。そうしなければ、労働力の移動が可能でなかったんですよ。農村の人口は36%にも膨れ上がるし、労働力がとにかく都会に寄ってこない。住む家がないからだ。それで家を作ろうとしたら、「個人にそういうものを提供するのは憲法違反だ」と反対した豪傑がいたな。「それなら舞鶴に収容者住宅を作っている仮設住宅、あれは憲法違反か」と、私は答えたんです。それが公営住宅法です。

 これによって、昭和28年から最低でも百万戸、最高百七十万戸、家を作ってきた。20歳以上の投票人口は七千四百万票だ。男女別に分ければ三千七百万。三千八百万戸あればいいんです、算術的なことを云えば。だから、何も家がないことなんかない。それはウサギ小屋かもしれないが、数においてはちゃんとできているんですよ。もちろんスペースを提供すれば住宅はいいんだなどとは考えていません。日本の風土気候、歴史的な人間性、そういうものがなければ住居の用に供せられるものではないんです。

 そこで今度は土地付きの家が欲しいと云うことになるんですな。東京では土地持てるわけないでしょう。でもそれは新幹線を作ればちゃんとできる。高速道路を作ればできるんです。今、とにかく五十キロ圏から都心まで通うのに二時間半かかるんでしょ? 二時間半かかるから夕方途中でひっかかるんですよ。新宿とか、それで明け方帰ったりして奥さんに嘘ばかり云って(笑)。みんなそうなんだから。中継所があるとダメなんだ。だから家へ帰る者は家まで真っすぐに、途中で降りられないように乗り物に乗せないといけない。オヤジはとにかく降りたいんだから。この頃はオヤジだけでなく、奥さんだって降りるもの(笑)。

 首都圏に人間が集中し過ぎるから、いろいろ問題が出てくる。ではどうすればいいか。ここで私の「25万都市構想」です。地方都市を拡充発展させて、新幹線や高速道路を作って、首都圏と直結させると云うことだ。
 都市に人か集まるのは当然だ

 37万平方キロの国土をどう使うかということを考える時、歴史的にこれを見ると、昔は殿様が居て各地を統治していたわけですが、日本は85%が山なんです。この山が全部水系をなしている。この水と海と合する所が城だ。山城は少ない。明治の初めに廃藩置県になって、今の47都道府県ができてきたが、これは全部川が絡んでいます。なぜなら川のない所に大きな都市はできないんですよ。

 今、人口百万人以上の都市が、東京から川崎まで入れて十あります。人口五十万以上は広島から東大阪、浜松まで入れてちょうど20ある。人口三十万人以上、これはいっぱいあるな。その他を含めると、全人口の71%以上が都市に住んでいる。都市と云うものは殿様の居城であった。行政の中心地、そこに官学を作ったんだよ。帝国大学だね。東京大学、大阪大学、京都大学、東北大学、九州大学、全部官学です。政治の中心地であり、学問の中心地であり、文化の中心地です。そこが経済の中心地にならないはずがない。文化の恵沢、恩恵の豊かなところに人は集まる。これは当たり前の事です。

 結局、都市へ人が集まるのは如何ともし難い。山の中では50歳以上の人は離婚できない。離婚しても就職できませんから。たとえば東京だったら60歳でも離婚できる。病院の角に立ってりゃね。その日から寝食付きだもの。掃除婦はあるし付添人があるしね。つまり一定規模以上の都市形態を持たない所に人間は住めないんです。

 私は、この都市というものをあらゆる意味で世界的に検討した。失敗したのはロンドンのニュータウンだ。ロンドンは850万人が絨毯爆撃をやられたから、ニュータウンを作ったけど、距離が近すぎた。それで結局、全部セカンドハウスになってしまった。これではなんにもならない。イタリアは共同生活を作った。私は昭和26年に日本の公営住宅法を作って、27年に施行だ。法律を作ってからイタリアへ行った。だが、イタリアの国民総生産は拡大しないと思ったね。なぜって、イタリアは共同住宅を作ったけど、家賃を永久に上げないという。これでは国家収益が上がりませんよ。飯が食えて、家賃タダだったら、人間は働きません。
 国鉄赤字の何万倍の恩恵が

 都市へ人間が集まるのはこれはどうしても避けられない。実際、日本の場合を見ても、戦後、急速に東京に人が寄ったんだな。東京の次は大阪。大阪の次は遺憾ながら京都じゃなくて、横浜なんだ。特別区はね、東京、横浜、大阪、名古屋―今は横浜が2番目です。そして、東京、神奈川、千葉、埼玉を入れたら、これは世界最大の平面都市だ。これは集まるなといっても集まってくるんです。当然、人が集中してくれば、あらゆる意味で政治的にも行政的にも配慮がなされます。そこに不平等という問題が出てくるんです。

 北海道の人がいいますよ。「東京で酔っぱらって寝てりゃ、まだ20代のやつらでも消防署が迎えに来るじゃないの」(笑)って。「新潟はどうですか」、「新潟や東北は雪に埋もれても死ぬことはないだろう」、「北海道だったら確実に凍死するか、熊に食われるか、どっちかだ」。熊も居るんだよ。つまり、政治は不公平だというわけです。それでも北海道を離れないのは、「北海道は我々のじいさん、ばあさんが百年前に日本中から集まってきて作り上げた、そして我々も北海道で生まれ育った、骨をうずめるのはやっぱり北海道だ」という誇りがあるからです。

 それを北海道が赤字だから鉄道外せ、なんていうバカがいる。バカと云うのが悪かったら、利口でない人の暴論、バカ論です。たった百十年前に人口四万人足らずの北海道が、今、人口五百七十万人になる為には、彼らがどれだけの苦労をし、辛酸をなめてきたか。北海道の鉄道は全部赤字です。これから百年赤字だ。その代わり、鉄道の赤字の何万倍以上、国民総生産に寄与しているじゃないの。

 北海道から鉄道を外したら、65歳以上、ちょうど国から生活費をもらえる人が東京へ百万人来ますよ。百万人、長男や何かのウサギ小屋へ来たら一体どうするんですか。それこそ鉄道の何百倍の社会保障費が増大するんです。北海道の連中がいうんだから。「北海道の鉄道を外すなら外して御覧なさい。わしら65歳以上は全部東京へ行くから。それよりも、わしらは米を出すのに何キロも向こうをまわっていくんだから、橋をかけた方がいいですよ」つて。

 考えるまでもなくその通りでしょ? それを短絡的に赤字だから鉄道を外せと棒論を吐く。北海道には五百七十万人、札幌には百五十万人おる。生産はないし、物価は日本一高い。それでも北海道に人がいるのは、北海道に生まれ育ったからだ。北海道に骨をうずめるつもりなんだ。何も北海道だけでなく、これは地方のあらゆる都市に共通していることでしょ。そういうことを考えない政治とか経済とかというものは、もうたわごととしか思えないね、私には。
 花巻地区は必ず開発される

 もう一つ大事なことは水です。都会の生活でもって一番の問題は電力と水だ。この水をどうするか。全世界の海軍の本拠地はね、良質な飲料水を無制限に確保できる所に決まっているんです。商港というのは、まだね、いい湾があればできるが、海軍は命懸けで―艦船に水は生命ですから、良質の水を摘み込めない所には、絶対に良質の軍港というのはない。それと同じで、人間が住むには水が必要です。だから、さっきも言ったように日本の人口の7割は川の河口に住んでいる。

 雄物川の下は秋田だし、最上川は山形県の酒田だし、信濃川は新潟だし、とにかく利根川、鬼怒川があるから人がいる。荒川や多摩川もそうだ。また多摩川なくして横浜があるわけがないんですよ。みんなそうです。天竜川あり、大淀川あり、九頭竜川あり、徳島は吉野川だ。吉野川の水は四県でもって争奪を百年続けたじゃないの。あれ愛媛側に落とせば、愛媛県の半分は工業地帯になる。あるいは早明浦ダムからあの水を三分の一ね、香川県に落とせば、弘法大師の作った溜池は全部いらなくなって、香川の領土は2倍になるんじゃないの。だから百年闘争にもなっているわけですよ。

 中間帯であってもね、例えば花巻の所ね、ちょうど鈴木善幸君の選挙区だ。あれは日本のチベットと云われている。しかしあそこは一番いいところだ。小岩井の御料牧場があったのだから、いいところでないはずがない。哀しいかな、北上川が下を流れているんだ。あの高台には水を揚げなきゃならない。それだけにね、あそこが未開発なんだ。これは必ず開発できますよ。十年を待たずして、あそこに何千億何兆円という投資が行われる。私は断言して憚らない。
 「提案者 田中角栄君」

 だからね、電力水はどうすることもできない絶対条件なんです。水だ・電力だ。そのために干拓もやっているし、原子力発電所の問題もある。この原子力発電所反対なんてやっている連中は、昼間寝てて夜電気をつけるんだ。この頃夜やるからね。あれ、全く変わっていると思うねぇ(笑)。この電力の問題ですがね、昭和26年には日本の総発電力は860万キロワットしかなかった。今日、1億5900万キロワットです。30年以上かけてここまできた。私がやったんです。

 私は昭和27年から法律を78本作った。この電力の問題は、国土開発委員会の中に焦土開発小委員会というのを作りましてね、委員長は荒木万寿夫です。私は小委員長。それで電源開発から水の大家を全部証人として喚問してやったものです。そして26年、27年、28年と、ずっと法律を作ってきた。その中に電源開発促進法、公営住宅法、そればかりじゃない、ガソリン税を目的税にした。大正8年制定の自動車道路法を新道路法にしたんです。有料道路制も採用した。全部やったんだ、おれは。衆参両院の速記録を見てごらんなさい。全部、提案者、田中角栄君(笑)。

 明治29年制定の河川法の改正もやった。そればかりじゃありませんよ。熱海温泉都市建設法、別府温泉都市建設法の名においてね、国有財産法の規定にかかわらず国は無償で譲与しなければならん、という大原則を確立した。北海道開発、東北開発公団を作った。道路公団を作った。住宅公団を作った。そんなこと35年やってきたんですよ。
 おれの銅像は海に沈む!?

 昭和37年か38年、岡山1日内閣というのをやった。その時にこんな質問が出た。「瀬戸内海の水を保全するにはどうするか、具体策を示せ」。その時の建設大臣は河野一郎で、私は大蔵大臣だ。いわゆる瀬戸内海に面している港の外航船舶を排除しなければ、瀬戸内海の水の保全はできない。そのためには橋をかけて新幹線を走らせるしかない。私の考えはこうだった。河野建設大臣もペラペラしゃべった上で、「本州−四国に一本橋をかけます」と答弁した。「その橋はどこだ」。「もちろん淡路―鳴門にかけます」と河野建設大臣が答える。今度は私の番だ。「大蔵大臣は一体どうか」。「私は四国に三橋かけます」。これを聞いて、河野が怒ったね。「わしが一橋といっているのに!」って。ちょうど演壇のこちらに池田総理がいて、私はその左隣、河野は池田の右隣だ。しかし、河野が怒ったって、おれはこっちにいるんだから。第一、質問が出たとき、池田総理からきたの。「おれの選挙区は島が多くて困っとる、せめて因島大橋だけかけてくれ」って。それで「オーケー」と書いた紙を渡したんです(笑)。河野は怒ったが、私はいってやった。「金を出すのは(大蔵大臣の)おれだ」って(笑)。

 私が朝日新聞に褒められたのは三回しかないが(笑)、今でもはっきり覚えているのは郵政大臣になったときとこのときだな。その翌日に、八段ぐらいで朝日が「大蔵大臣、本四に三橋をかける」と書いたんです。奇しくも一昨年12月の総選挙公示の前日、因島大橋の竣工式があった。これで私も池田さんに約束を果たすことができた。一番西ま因島大橋のたもとには池田隼人の銅像が建つはずだ。因島大橋ができた時には愛媛県側に今の知事、白石春樹の銅像が立つと思う。歴史の上でそれ以上の人はいない。この政策遂行に対して、瀬戸大橋のたももとには大租平正芳の銅像が建つであろう。ところが、姫路側と徳島側はいない。推進したやつがいない。反対した者の銅像を作るわけにはいかないからね(笑)。俺の銅像を置こうと云う話もあったが、それは辞退した。俺の銅像を一つ置いたらね、闇の夜に放り込まれちゃうもの、どっかへ(笑)。
 「死ぬまで頑張らんとね」

 いろんなことをやっているんだよ、おれは。今、無用の長物だといっている人もあるそうだがね。これは高度経済成長時代だからできたんです。新幹線も高速道路も全部できた。津軽海峡の下へ新幹線のパイロット隧道も掘った。これは昭和38年にできた。それから関門第二架橋もかけたし、大野伴睦がいったから、若狭湾から日本海横断と運河構想に1千万円つけたら、さすがに大野伴睦も返納してきた。あれは永久的にできないだろう。せめて能登半島ぐらいぶった切っておけばよかったかな。

 私はね、池田内閣に居た時ね、自分の作った法律に全部予算をつけたんだ。37年新幹線、38年、39年、40年と。今の社会保障制度でも全部私の時にやった。しかし赤字国債は1枚も出していない。金使った金使ったというけど、私は国民が働いてくれたから金使っただけでね、借金して使ったんじゃないんですよ。私が誇れるのを一つだけあげるとすれば、大蔵大臣の時に、東京―大阪間515キロの新幹線計画が、当初は1700億円だと見込んでいた。それが2100億円追加になった。私は「すぐ出します」といった。みんなはたまげちゃったなぁ。しかし大体、515キロの新幹線が1700億円でできると思ったのが錯覚だ。倍でもできればまず最高のほうだ。こういったら、実際その通りだった。今、7千億円でもできない。7兆円でもできない。私もいいことをしているんですよ(笑)。

 別に評価してもらうことなんか、これっぽっちも考えたことはない。まだ死ぬまでは相当あると思うから、それまではもっと頑張らんとね。道路法を出した時にはね、社会党の鈴木茂三郎から片山哲まで全部、賛成議員に回っています。佐々木更三にもいった。「お前、これに判こつかなかったら、お前の嫁は長岡からいってんだから、嫁引き上げるぞ」って。やつはたまげてね(笑)。「まあいいや。判押しゃいい」って、ポンとついたんだ(笑)。新幹線とか高速道路いかいうのは、反対できないんだ。自分の選挙区はみんな賛成。全部、賛成だ。公明党の諸君もみんな賛成ですよ。賛成しないのは、一番早く乗る癖して、反対のようなことを云っている人間だけです。
 人口は分散されねばならない

 私が作った道路三法の公布の時には、日本人の車の保有台数は55万台です。今、運輸大臣、道管に届けられている車は4600万台で、東京都には500万台以上の車がある。しかも、ハイオクタンの、ガスと石油を使っている。街角には石油スタンドがある。自分の家のすぐ1メートル下に高圧ガス・パイプラインがクモの巣のようになっている。間違って一つ火をつけたらどうなるか。街の三分の1は吹っ飛んでしまいます。

 世界で一番車が過密なのはニューヨークです。ニューヨークでは都市面積の25%が道路だ。東京は12.5%しかない。この東京にマグニチュード9の地震で15メートルの風上から火が付いたらどうなるか。そういうことに対応するために、私は昭和29年に耐火建築助成法を作ったし、そのあと「都市政策大綱」というのを作っています。人間というのは、何度もいうように恩恵が多いところに寄ってくる。文化のレベルの高いところに集まってくる。しかし東京だけが異常に肥大して、人口が膨張すればいろいろな歪みが出てきます。それに地方を活性化するという大問題がある。そこで出てきたのが「中核25万都市構想」というものです。

 人間が快適な生活を営む上で、最小限の社会施設を作るには、学校も幼稚園も、ゆりかごから墓場まで、せめて恰好だけでも作るには、最低25万人いるんです。たとえば奥さんが、オヤジさんが急に交通事故で亡くなったときでも、職業の選択ができる、ただちに職業が与えられる為には、最低25万人の人口規模の都市が必要なんです。それが25万人都市構想であって、それが日本中にいっぱいでき、人口が拡散されることが望ましい。そうすることによって、首都圏や大都市の人口過密から来る諸弊害を解決し、37万平方キロの国土を最大限に活用することになる。これが「日本列島改造論」の基本的な考えなんです。
 十年前から東大移転を考えた

 今は、民間の力のほうが早い。大正12年のあの関東大震災のあと、東京都復興助成会社というのができて、一挙に片付けられた。その歴史は厳然として輝いている。それと同じことをすればいいんだ。東京湾横断でも、日本の公団がやれば15年かかる。最低15年。これを株式発行して、東京は7割、神奈川は2割、千葉は1割持たして、政府はノウハウの提供、税制上、金融上の処置をとってやるだけで、5年半か6年でできるんですよ。だから中曽根君が今、民間の力活用といっているが、民間活力でやる以外にない。民間が税金を納め、主権は在民だもの、もうとにかく、できるだけ早い機会にやるべきだ。東北はまず新幹線と高速道路を―一番初めに東北をやるんです。新潟はもういいし、中央道はいいんだから。みんな東京まで一日圏に入りたいんだ。一時間圏、一時間半圏、もう二時間以上の所はいらない。これは飛行機の方がいいからね。

 日本は水戸電力、つまり一つずつの川があれば、25万都市以上になって、みんな生きられるようになる。だから私は10年前に東大の移転を考えたんだ。京都大学の移転とか、大阪大学の移転を全部考えたわけだ。私はちゃんと明確に国会で答弁しています。東大はもつと緑の多い、静穏なところへ行けばいい。富士山の麓はうるさいから、赤城山麓でもいい。そして東大の跡は医療センターにする。そのときになれば全部テレビで脳外科の手術ができるようになります。全日本のデータがもう全部集まっている。今ももうそうなっているんじゃないの。会社でもね、本社なんか要らなくなるんです。東京に一室あればいい。常務会でもって、日本中の工場のコントロールができるようになる。これからは教育だってテレビでできるようになります。もうすぐテレビ電話も使える時代が来る。
 おれは人間が単純だから

 もう一つ、私がいっておきたいのは、経済摩擦の問題なんです。日本の生きる道はあるか。アメリカは市場を開放しろといっている。日本の産業の秘密は全部、安全保障条約でアメリカが日本にタダでやったんじゃないか、国民総生産の1%でやったか。7万トン船を作ったのも、時速600キロでもって飛んできたB29を落とした「雷電」も、時速900キロあったけどね。そいつらは全部、国民総生産の1%以下でやったわけじゃない、昭和19年にはGNPの75%を対象に臨時軍事費を出したじゃないか、アメリカは指摘しているわけですよ、本当は。ところが中曽根は踊りがうまいからね、聞こえないふりをしているんだな(笑)。舞台の名優と同じなんだよ、外交官は。しかしも、そんなものは後ろから手でつねってギュッとやられるんだから(笑)。

 まぁ、ロンとヤスはポン友だからね。飛んで行って雲の上の話をしているからいいけど、下でろくろを回して汗をかいている外務省や大蔵省や通産省はやっつけられているんだから、これは苦労していますよ。とにかく向こう側には、日本に対する不満がある。日本は一つ製品をもらえば、一ヶ月もあれば同じものを作ってしまう。それで彼らは、日本人は発明家ではない、人間ではない、あれはサルだ、ジャップモンキーといったわけだ。そこまで人間は云わなくてもいいと思いますけどね。

 まあねぇ、政治と云うものはそんなに簡単ではないんだな。大蔵大臣になったときは44歳ですからね。小僧めと思われたかもしらんけども、おれだってもう66歳(2月当時)だから、歳に不足はないですよ。人間は物差しが一つでなければダメなんです。クジラ尺もあるし、カネ尺もあるし、センチメーターもあるし、ミリメーターもある。しかし一番正しいのは目測だ。ゴルフのうまくなる人は、目測が正しくなければダメです。センチメーター居士やミリメーター居士はゴルフなんか当たるわけがない(笑)。たとえノーベル賞学者でもね。物差しが違うんですから。

 飛距離はいくらである。あとグリーンまでどのくらいか。それを正確に目測できて打てば当たるに決まっています。マスコミはそうでもないけどね。これは難物だ(笑)。そう云う意味では、おれは人間が比較的単純なんだ。
 赤字国債は百兆円でも返せる

 今の政治家、後輩は私とはだいぶ違うな。私が政策を出せば、みんな賛成議員になる。だってね、金あるんだもの。国会では350億ドルの黒字ですと。そんなことはない。365億ドルがアメリカの対日赤字です。アメリカは世界に貸しているのが850億ドル。日本は千億ドル。その千億ドルの利息だけで50億ドル入っているんですよ。黙ってても。その金をちょろちょろと主計局からひっぱり出してきて予算をつけているわけです。

 金はある。百兆円なんか何でもありませんよ。電電公社はとにかく十兆七千億円だけど、百兆円以上ある。第二電電作れば200兆円ですよ。5兆円を10倍で売れば50兆円は返っちゃう。だから75年までかかって赤字国債が100兆円になっても返せるんです。それは国民の蓄積だから、一部の者にロウ断させてはならない。これだけは体を張ってもおれはやる。蓄積がどこにあるかなんてのは全部知っているんですから。第二電電作って、その利息の範囲内において建設国債を発行すれば、新幹線なんて10年間でちゃんとできますよ。

 30分ちょっと新幹線に乗って行けば、水なんていくらでもある。第一、人間と云うものが、必要な所から水を引いたのはどこかというとね、アメリカ西海岸だけです。これはコロラドの水を引いた。その先は、ローマへ世界で初めて高架鉄道を引いたと云うやつ、世界の歴史にたった二つしかない。後は全部、町があって川ができたんじゃないんですよ、水辺に集落を営んで今に至っている。これを逆行させては断じてならないんです。

 (東洋経済オンライン) 小牟田哲彦田中角栄は「赤字ローカル線」をどう考えていたか」参照。
 田中角栄は著書『日本列島改造論』で、日本における鉄道の重要性を説いていた。全国を新幹線ネットワークで結ぶ構想を提唱し、他方で地方の鉄道路線についても配慮している。作家の小牟田哲彦氏が新著「日本列島改造論と鉄道」(交通新聞社新書)でその点を深く分析している。これを参照する。
 日本列島改造論の鉄道政策は、全国新幹線鉄道網ネットワーク整備拡大と在来線の有機的活用の二本立てにしている。その上で、地方の赤字ローカル線問題に関する見識が次のように開陳されている。
 「もう一つ、ふれておかなければならないのは日本国有鉄道の再建と赤字線の撤去問題である。国鉄の累積赤字は47年3月末で8100億円に達し、採算悪化の一因である地方の赤字線を撤去せよという議論がますます強まっている。しかし、単位会計でみて国鉄が赤字であったとしても、国鉄は採算と別に大きな使命をもっている。明治4年にわずか9万人にすぎなかった北海道の人口が現在、520万人と60倍近くにふえたのは、鉄道のおかげである。すべての鉄道が完全にもうかるならば、民間企業にまかせればよい。私企業と同じ物差しで国鉄の赤字を論じ、再建を語るべきではない。都市集中を認めてきた時代においては、赤字の地方線を撤去せよという議論は、一応、説得力があった。しかし工業再配置をつうじて全国総合開発を行なう時代の地方鉄道については、新しい角度から改めて評価しなおすべきである。北海道開拓の歴史が示したように鉄道が地域開発に果す先導的な役割はきわめて大きい。赤字線の撤去によって地域の産業が衰え、人口が都市に流出すれば過密、過疎は一段と激しくなり、その鉄道の赤字額をはるかに越える国家的な損失を招く恐れがある。豪雪地帯における赤字地方線を撤去し、すべてを道路に切り替えた場合、除雪費用は莫大な金額にのぼる。また猛吹雪のなかでは自動車輸送も途絶えることが多い。豪雪地帯の鉄道と道路を比較した場合、国民経済的にどちらの負担が大きいか。私たちはよく考えなくてはならない。しかも農山漁村を走る地方線で生じる赤字は、国鉄の総赤字の約1割にすぎないのである」。

 要するに、中曽根政権の赤字路線廃止政策に対して大異論を唱えていることになる。小牟田哲彦氏は論旨を次のように要約している。
 この短い項目にまとめられている同書の主旨を整理すると、次の4点に分けられる。
@国鉄のローカル線問題は民間企業の尺度で測るべきではない。
A赤字線を廃止すれば、その地域の過疎化と都市部への人口流入による過密化が進む。
B特に豪雪地帯では、鉄道の方が道路より有用である。
C全国の赤字ローカル線の運営によって発生する赤字額は国鉄全体を揺るがすほどのものではなく許容範囲である。

  @に関連して、国鉄の単年度収支がまだ黒字だった昭和37(1962)年、運輸省内に設置されていた鉄道建設審議会(鉄建審)という諮問機関の会合での次のような角栄発言を紹介している。
 概要「私は、鉄道はやむを得ない事であるならば赤字を出してもよいと考えている。採算のとれないところの投資をしてはならないということは間違いと思う。鉄道敷設法はそんな精神によって制定されたものと考えていない、鉄道の制度の考え方でペイするとかしないとか考えていたら、鉄道の持つ本当の意義は失われると思う」。

 「『日本列島改造論』の刊行はこれらの鉄建審での発言から10年後であり、鉄道の経営に対する田中の基本的な考え方は全くぶれていないことがよくわかる」とコメントしている。 

 Aに関連して、中曽根政権の赤字路線廃止政策に対する諫言として次のように述べている。
 「工業の再配置や地方都市づくりをすすめるためには、交通網や情報網の先行的な整備が欠かせない条件である。人、物、情報の早く、確実で、便利で、快適な大量移動ができなければ、生産機能や人口の地方分散はできないからである。地方都市や農村の多くは、産業に必要な労働力、土地、水を持っているが、大都市にくらべて、長年にわたって蓄積された社会資本にとぼしい。そこで鉄道、道路をはじめとする産業や生活の基盤をつくり、地方における産業立地の不利をおぎなうことが必要である」。 

 Bに関連して、雪国特有の事情に言及したうえで、「雪深い地域に住む人たちの、とにかく通年で毎日列車が運行される鉄道を待望する気持ち」に政策的に配慮する必要を説いている。 

 Cに関連して、国鉄地方ローカル線の赤字状況のフレームアップに反対し「角を矯めて牛を殺す愚である」と批判している。地方線の営業赤字総額は国鉄全体を揺るがすほど高額ではない、赤字の所と黒字の所が全体的に補完し合っている面があるので総合的に評価せねばならない、地方線の赤字は国鉄全体の他部門の営業収入によってカバーできるはずであり、我が国の国有鉄道政策としては車の両輪として位置づけるべきである、という論旨を打ち出している。




(私論.私見)