棋理論4/攻防技術論 |
更新日/2023(平成31.5.1栄和改元/栄和5).2.15日
(囲碁吉のショートメッセージ) |
ここで、「棋理論4/攻防技術論」を書きつけておく。「別章【囲碁の知識7、中盤打ちまわし攻防、急所理論篇】」を姉妹編とする。「中盤の攻めと整形~坂田栄男『囲碁名言集』より」その他を参照する。 2005.6.4日、2015.3.3日再編集 囲碁吉拝 |
【格言「ボウシにケイマ」】 | ||||||||||||
「ボウシにケイマ」を確認する。 ボウシには、主として第三線にある相手の石に、中央からかぶせる手段である。まれには第四線の石にかぶせることもあるが、それは特殊な局勢の場合である。普通は損な手だから打たれない。第四線の石には中央からのぞむより、下からモグる手段をねらうほうが効果的なのである。ボウシは第三線の石にかぶせ、ボウシされた側は、ケイマに受けるのが正しい受けになる。
・黒はバランスのとれた好形であるが、「これ以上は発展させないぞ」というのが、白1のボウシの意図。 ※逆に黒から1とトバれた形と比較すれば、1がいかに好点かが知られるはず。 このように、ボウシは相手の模様のひろがりを制限するのが目的であり、同時に中央を制圧するねらいも持っている。そして、ボウシされた黒のほうは、イ(16, 八)またはロ(16, 十二)と、ケイマに受けて地を固めるのがいい。ただし、その場合、イとロとどちらを選ぶかは、よく考えて決めなくてはならない。 ☆この形、どちらを選ぶか?
・黒は右上隅が一間ジマリ、対する右下隅は星からの一間トビで、構えにはあきらかに差がある。 ・したがって、黒は1と、こちらにケイマして受けるのが着想としては正しい。 ・続いて白は2とツケて侵略をはかり、黒3のハネには白4と切ってさばく。 ※ボウシから、この2、4とツケ切る筋は、さばきにおける常用の手段である。 ・その後、黒5から9まではこうなるところ。☆抵抗しようとしても、あまりうまくいかない。 ⇒たとえば、黒5でイ(16, 十一、つまり白2の左)とアテるのは、白12とノビられてもまずいし、白7とアテ返されてもおもしろくない。 ・また黒7で9と打ちぬくのは、白7とアテられて黒4とツグほかなく、次に白12とノビられて、ロ(17, 八、つまり黒1の右)と出られるいやみが残る。 ・黒は9までと正確に受け、これでべつにハラも立たない。以下白10のカケツギ、黒は11、13という運びになる。 ※この結果、白は一応右辺を食い破って目的を達したが、もともと右辺は、そっくり黒地になるわけのものではないし、黒は右上に三十目近い地が固まったことで、十分に満足することができる。 ⇒ここに確定地ができたのは、黒1と受けた方向が正しかったからである。 それでは、黒が2図の1と、逆に下のほうに受けたら、どうなるか?
・次いで黒は11と、右上を守らなくてはならない。 ⇒省いて白イ(17, 四)とノゾかれては、たちまちシマリが浮きあがってしまう。 ・そして、ここで後手をとれば、白12と三々に入られるのが目に見えている。これでは、黒1とケイマした最初の囲いが、囲いの役目をフルに果たさない結果になる。 ※ボウシに対するケイマは、地を囲おうという手である。どうせ囲うからには、減らないほうを囲わなくてはつまらない。したがって、黒の受けは2図が正しく、3図では囲う効果が小さいわけである。おなじくケイマでも、方向によって、石の働きに差が生じるから、注意する必要がある。
・黒2、4とツケ引き、白5のツギに6とコスむ。 ※これは白に右辺を破らせまい、みんな地にしようという手段で、よくいえばがんばった、悪くいえば欲ばった手である。ときによると、こんな打ち方も有力であるが、こういうぐあいに態度を一方的に決めると、かえって白から手をつけやすい意味が生じてくるようだ。 ⇒むろん白7の三々には入りやすくなるし、右上にしても、白イ(17, 四)のノゾキで侵略の手がかりができる。 ・しかも、白5とつないだ形はいかにも手厚く、中央をにらむ一つの勢力となっている。 ※こう考えると、本図のようにネチっこく打つよりも、さらっとケイマに受けるほうが、味わいが深いといえる。 なお、ボウシに手ぬきする場合もないではないが、ボウシはバク然としたいわば“虚”であり、ケイマは地をとる“実”なのだから、受けて損な理屈はない。ボウシにはケイマに、ちゃんと受けておくことを、坂田栄男氏はすすめている。 (坂田栄男「囲碁名言集」119頁~123頁(有紀書房、1988年) |
【格言「欠け眼の急所」】 |
「相手の石を欠け眼にする点は形をくずす急所。同様に「三子(もく)のまん中」をノゾくのも急所中の急所である」。これを確認する。 【1図:欠け眼の筋の例】棋譜(133頁の1図) ![]() ・この白の眼形は、黒が1、2と打つことによってつぶれる。 ※だから、1と2と、この二つの点が白の形の急所となる。先に1の点に石があれば2の点が、2に石があれば1が、白の形をくずす一撃となる。 ※白はその両方を打たれぬよう、あらかじめ守っておかなくてはならない。 もっと具体的な例をあげてみよう。 【2図:欠け眼の筋にノゾキ】棋譜(133頁の2図) ![]() ・黒1は、次に切るぞという手である。これもノゾキの一種で、まさしく急所の中の急所である。 ⇒この一撃で白は完全に浮きあがる。 ・白2のツギなら、黒3とトンで攻めて、白は当分逃げまわることになる。 ※もし白から打つなら、やはり1の点に打って形を整備する。白1に一着加わると、これはもう眼形に富んだ弾力のある形となる。次にイ(14, 二)とコスむ筋もあって、ほとんど死活の心配はない。 ※このように、欠け眼の筋にノゾくのは、相手の形をくずし、眼形を奪って攻めるという、大きな効果がある。 【欠け眼の筋】棋譜(134頁の4図) ![]() ・黒1がきわめつきの急所、欠け眼の筋にあたる。 (こういう形を一見して、ピンと石の感じがここにくるようなら、もうしめたものである) ・白2に3とつなぎ、白4となった形を見ると、黒1が急所をついていることがわかる。 ※白2、黒3の交換など、切れるところをわざわざツガせる手で、白は大いにつらい。 (まさか白2で一路左にグズむわけにもいかない) こういう損な手を白に強要するのも、黒1が急所をついたからこそである。 ・黒5とトンでなおも大きく攻め、白は容易にラクのできない形である。 ※逆に、白1の点にトンだら、白の形はいっぺんにととのい、ちょっと攻めの糸口がつかめなくなる。その余裕を与えず、いきなり黒1とおびやかす呼吸をつかんでほしいという。いわゆる「三子(もく)のまん中」の急所も、意味はまったくおなじことであると付言している。 (坂田栄男「囲碁名言集」132頁~135頁(有紀書房、1988年) |
【格言「ノゾキあれこれ」】 |
「ノゾキは相手にツガせるのが目的。その場合、多くは利かしとなるが、アジ消しの悪手になるものもあり得る。またノゾかれたときは、一応はツガぬ手を考えるのがよい。ノゾキにツガぬ例は意外に多いのである」。これを確認する。 ノゾけるところはノゾかなくては損だとばかり、かたっぱしからノゾく人がいる。一方、「ノゾキにツガぬバカはなし」というので、ノゾかれると一考もせずにツグ人がいる。これはどちらも間違っている。ノゾキもツギも、もう少し大切に考える習慣をつける必要がある。ノゾキは相手にツガせるのが目的であるが、その前にまず、ノゾく必要があるかどうか、それを考えてみなくてはならない。碁はいつでも、必要のない手は打たぬほうがいいに決まっているからである。必要があればノゾくが、次には相手のツギが絶対かどうか、それを検討する。ノゾいても敵に反発の手段があり、ツガずに抵抗されるようでは、ノゾキがヤブヘビになるおそれがある。 ノゾキに関して、坂田栄男氏は次のような話を紹介している。明治時代に活躍した本因坊秀甫という人が、ある対局でノゾキを打った。ところが相手は、なかなか受けようとしない。すっかり考えこんだのを見た秀甫は、用事を思い出して席を立ち、しばらくして戻ってきた。だが、相手はまだ考えている。とうとうゴウを煮やして、大声で一喝した。「いったいなにを考えてるんだ。天下の秀甫のノゾキだぞ!」。つまり、ツグ一手じゃないか、というわけである。たぶんこれはつくり話であろう。本当に秀甫がいったとしても、冗談めかしたいい方をしたに違いない。秀甫という人は、自他ともに許していた秀和の跡目を、素行不良を理由に秀和の未亡人から反対されたと伝えられる。それくらい、多分に横紙破りのところはあったらしい。 ところで、この秀甫のエピソードは、二つの教訓的な意味を持っているようだ。 ①一つは、「天下の秀甫」ほどではないにせよ、相手の絶対ツガせるぞという自負――ノゾキはツガせるために打つ、ということである。 ②もう一つは、たとえ相手が誰だろうと、無条件にハイとはツガない。なんとか反撃しおうという相手棋士の態度である。 ノゾけるからノゾく、ノゾかれたからつなぐでは、アジも妙味もない。 【1図:ノゾキが悪手の例】棋譜(143頁の1図) ![]() ・黒1とノゾけば白2とツグ一手。 ☆たしかに黒は目的を達し、一本利かしたように見える。しかし、これはたいへんな悪手である。なぜだか、わかるだろうか? ・黒1、白2の交換がなければ、黒からはイ(15, 六)と切る手が成立する。 ※切られた四子を捨てるならともかく、助けようとすれば、白は大いに苦しまねばならないだろう。 そのイをいつ切るかは問題としても、ここにねらいがあるのは、あきらかに黒のプラス、白のマイナスである。それを黒1とノゾいて白2とツガせては、もう黒イとは切れない。切っても、白ロ(14, 五)とカケられ、簡単に取られてしまうからである。白2のツギがなければ、黒イに白ロとカケても、取ることはできない。うっかりノゾくと、こんな損をすることだってある。 ノゾキはツガせようとして打つ。だから、素直にツイで受けるのは、相手の思い通りである。つねに相手の裏をかき、相手の逆をとるように行くのが気合というものである。ノゾかれたら、「なにかツギにかわる手はないか」考えてみること。そういう態度で身構えていると、ツギに優る手を発見することがあんがい多いそうだ。 【2図:ノゾキとツギの交換が、黒の利かしとなった場合】棋譜(144頁の2図) ![]() ・黒1とノゾき、白2とツイだ調子に、3とトンで攻める。 ※1と2の交換は、はっきり黒の利かし(打ちドク)になっていて、棒石の白は、次にぴったりした手がない。もし黒がノゾかずに、1で単に3とトベば、白はイ(17, 五)とトビツケて、ラクにさばくことができた。 (この1、3という石の調子をのみこめるようなら、かなりするどい感覚といえるようだ) しかし一方、白の立場で考えてみると、2のツギはいかにも黒の意中を行く感じである。策に乏しい。なにかちょっとくふうがほしい。相手の調子をはずすような、ヒネリがほしい。 【3図:白のくふう~「タケフの両ノゾキ」にする形】棋譜(145頁の3図) ![]() ・白のくふうの一法として、白2の突っぱりがある。 ・黒3のノビには4とタケフにツギ、黒5に6と進出する。 ※このほうが前図に比べて足が早く、まともに攻められる心配は、まずないであろう。それに2、4となると、黒は切れないタケフを1、3と両側からノゾいた形になる。この点にも白の満足がある。 ⇒「タケフの両ノゾキ」という。 タケフを両側からノゾくのは、石が働かない形とされている。相手の石を働かせないのは、それだけ自分の石が働いているともいえる。 【4図:白のくふう~ツケてタケフの方向をかえる】棋譜(145頁の4図) ![]() ・もう少しくふうすると、黒1に白2とツケる着想が浮かんでくる。 ・黒3のハネに4とノビて、黒5、白6。 (5で6と出ても白5とゆるめるから、切られることはない) ※前図に比べ、今度はタケフの方向が、タテから横に変った。 ⇒攻めをかわす、緩和する、という意味なら、この打ち方がもっとも目的にかなっている。 ※白6までの形は、いつでも白イ(15, 十、つまり白4の下)のマガリが利いており、これ以上きびしい追及を受ける心配はなく、十分にさばけた形と見られる) ※黒の注文をそのままきいて、思うように打たせたのが2図。 一方、3、4図は相手の注文をはずし、少しでも石の能率を高めようという打ち方である。「ノゾキにツガぬバカはなし」といった固定した観念からは、こうした変化は生れてこないそうだ。文字通り臨機応変、たえず相手の逆をとろうとする態度でありたい。 もう一つ、ノゾキにツガない例をあげている。 【5図:白ノゾキは攻めの急所】棋譜(146頁の5図) ![]() ・白1のノゾキは攻めの急所。 ⇒こんな痛打を見舞われては、黒はダウン寸前、どうにも処置なしの感じである。といってノゾかれた二子をツガず、切らせてしまうのは大きすぎる。☆このピンチをどうきりぬけるか? 【6図:ツギは白の注文通りで無策】棋譜(147頁の6図) ![]() ・平易に黒1とツグのは、それこそ白の注文通り。 ・得たりと白2の突きあたりを利かされ、黒3、白4で、まずは一巻の終わり。 ※こんなことになるくらいなら、1では4の点にハネて、白1と切らせるほうが、よっぽどマシ。1のツギはあまりに無策。窮すれば通ずで、打開の道はある。 【7図:黒のツケコシがうまい手】棋譜(147頁の7図) ![]() ・黒1とツケこすのがうまい手。 ・白は2の一手、黒3と切って、白4、黒5。 ・続いて白が6とぬけば、黒は先手で7のハネにまわることができる。ゆうゆう危機を脱する。 (また白6で、7のノビなら、黒はイ(19, 五)と取って即座に活きる) ※黒1の一子がたくみな捨て石となって、先手をとるか、活きるかの、貴重なしのぎを黒にもたらす。 ※後手をひくか先手をとるか、これを「一手の差」という。6図の黒1か7図の黒1かで、結果は一手の差が生じる。「ノゾキにツガぬバカはなし」が一面の真理なら、「ノゾキにすぐツグバカはなし」というのは、もう一面の真理といえるようだ。 (坂田栄男「囲碁名言集」141頁~147頁(有紀書房、1988年) |
【格言「一間トビの鼻ツケ」】 |
「一間トビの鼻ツケ」を確認する。 ・黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてきたときは、おだやかに打つには下からハネ、白の二段オサエに切って押し上げる。強く攻めるには中央にノビて打つ。黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてくるのは、よくできる形である。置碁でも互先の碁でも、星打ちには毎局でも現れる形であるから、ぜひとも心得ておく必要がある。 【テーマ図:布石の一つの基本形】棋譜(164頁の1図) ![]() ・黒が星から一間トビに受け、星下へのヒラキを加えた形。この黒は布石の一つの基本形で、すっきりした構えである。 ・いつでも白から1とツケて、変化を求める手段がある。 ⇒これに対する応手をよく知っていないと、思わぬ混乱を招くおそれがある。あとの変化はある程度定石化しており、それさえ覚えておけば安心だという。 ☆白1のツケに対する黒の応手には、守りと攻めの二つがある。 ①イ(17, 七、つまり白1の右)のハネ:おだやかな受けで、守りを主とした手 ②ロ(15, 六、つまり白1の左斜め上)のノビ:白を攻めようという強い手 まず最初に、①守りのハネの応手の場合をみていこう。 【守りのハネの場合】棋譜(165頁の2図) ![]() ・黒1とハネると、白は2と二段にオサエてくる。 ・このとき黒は3と切り、5を押し上げるのが大切な手である。つまり、黒3、5と、「切ったほうを押す」と記憶すればいいようだ。 ※このことが、見出しにある「黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてきたときは、おだやかに打つには下からハネ、白の二段オサエに切って押し上げる」という意味である。 このことを碁盤上に図示すると、上図の【守りのハネの場合】である。つまり、この応手は、おだやかな受けで、守りを主とした手である。 <注意> ・ここで白に黒3をポンぬかせるのはいけない。 ※忘れずに黒5と、「切ったほうを押す」のがよい。 【その後の手順:黒は実利、白は厚みで定石化】棋譜(165頁の3図) ![]() ・続いて白は1と切り、黒2に3とノビるのが正着である。 ・そして黒4の手入れに5とマガリ、黒8までとなって一段落。 ※ここまでの手順は、すでに定石化している。 この結果、黒は目的通り、上下が連絡して実利をおさめ、白は中央に厚みをたくわえた。 ※この図は、白黒とも正々堂々の応酬で、いわばお手本ともいうべき打ち方である。 ただ、ことに置碁における白は、いつでもこうお手本通りにくるとは限らない。黒をまどわせようとして、奇策に出ることが考えられる。 【白の変化図】棋譜(166頁の4図) ![]() ・白1と切って、3と動き出してくる手がある。 ※前図を表通りとすれば、これは裏街道だという。 この変化を知っていないと、白に乗せられる。 ・黒が4、6などと打つのは俗筋の標本である。 ・なお、白に7、9と出切られ、どうにも収拾がつかなくなってしまうので、注意を要する。 (黒の対策としては、黒4で黒7(白3の左)のツギ) 坂田栄男九段は、白の変化図として、白の「あり得ない手」を、念のために付記している。 【白のあり得ない手】棋譜(167頁の6図) ![]() ・白が1の切りから、3、5とアテて出るような手は、「あり得ない手」と思っていいとする。 ・黒6、白7となるが、黒6とぬいた「亀の甲」の厚みは、ポンぬきに倍するといわれる圧倒的なものである。 しかも白1、黒2となっていて、俗にいう「亀の甲のシッポつき」の形であり、この型をつくらせたら、もうその碁は勝てないといわれているくらいである。 ・それに白7とハネても、隅は完全ではなく、黒イ(17, 三)で簡単に手になる。 次に、②白を攻めようという強い手であるノビの場合をみておく。 【攻めのノビの場合】棋譜(167頁の7図) ![]() ・次に黒2とノビる手であるが、このほうはあまり変化はないようだ。 ・白は3、5、7と黒を上下に裂き、黒も8から10と白を裂いて、もっぱら戦いの局面となる。 ※この場合、黒は右下方面に自軍の配置があることが条件で、逆に右下に白があるようだと、4以下の三子が攻められる形となり、おもしろくない。 ※以上、黒が下からハネて安全を期すか(①の場合)、あるいは強くノビて戦うか(②の場合)は、右下の配置によって決定されるわけである。 (坂田栄男「囲碁名言集」164頁~168頁(有紀書房、1988年) |
【格言「攻める石にツケるな」】 |
「攻めようとする相手の石には、ツケてはならない。逆に自分の石をさばくときは、相手の石にツケて打つのがよい」。 これを確認する。ツケは相手の石にジカに接触する手である。したがって、感じとしては、「きつい手、はげしい手」のような気がするが、たいへんな錯覚であるらしい。ツケは自分の形をととのえるのが主な目的である。ツケは守りの意味のほうが大きいそうだ。相手の石にツケて行くと、石が接触し合って変化が起こり、ある程度、形が決まってくる。その結果、自分の石も固まり、同時に相手の石も固まる。だから、ツケは攻める手にはなりにくいという。 【テーマ図】棋譜(154頁の1図) ![]() 黒の手番として、右上にカカっている白の一子を攻めるのに、どう打ったらいいのか。こんな場合、攻める石にツケない、接触を起こさないということが、考え方の基本となる。 【2図:ツケが悪い例】棋譜(155頁の2図) ![]() ・黒1とツケてくる人がおどろくほど多いようだ。 こういう人は完全に錯覚している。つまり、「ツケははげしい攻めの手」だと思いこんでいる。 ・ところが、白2とハネられ、黒3のノビに、白4から8までとなると、その結果はどうか。 ⇒白はたちまち好形となる。これ以上は攻められる心配がないばかりか、逆に黒のほうに、打ち込まれるスキが生じている。たとえば、白イ(17, 十二)や白ロ(16, 十二)といった打ち込みである。 ・つまり、黒1、3のツケノビは、ぜんぜん白への攻めになっていない。そればかりか、白を活かすお手つだいをしたようなものである。 【3図:サガリがきびしい攻め】棋譜(155頁の3図) ![]() それでは、どのように打つのが良いのか。この形では、黒1のサガリが一番きびしい攻めである。 ⇒隅を守りながら白の動きを制限し、白2ならまた黒3とサガって、鉄柱を築くのである。すると、白はさっぱりさばきの調子がつかず、乗ずるスキが見出せない。 ・次いで白4とトビ出すくらいである。むろんまだ眼形ができたわけでもない。 ※黒は先手に、1、3と固めることができて、攻めの効果は十分にあがっている。 ・これで上方はひとまず打ちきり、今度は5、7と下辺の白に攻めかかる。 ※こうして、次々と白を攻め出し、息つくいとまを与えないのが置碁の必勝法である。 ※なお、黒5は「コスミツケ」であって、「ツケ」ではないと断っている。黒7とハサむ前に5、6と決めておくと、白の石が重くなる。 (重い石とは捨てにくい石、さばきにくい石のこと) こうして、攻めがいっそう効果的になる。 このように、攻める石には、ツケないのが原則である。これを裏返しにすれば、「しのぐ石はツケよ」ということである。 (相手の石にツケて接触を起こし、それに乗じて形をととのえ、眼形をつくる) (坂田栄男「囲碁名言集」154頁~157頁(有紀書房、1988年) |
【格言「捨て石の効用」】 |
※形をととのえるには、捨て石が有効なことが多い。ことに第三線の石は、一つ第二線にサガって捨てるのがよい 格言「二子(もく)にして捨てよ」。 坂田氏によれば、「石を捨てる楽しさ」が碁にはあるという。相手に石を取らせ、それをタネにいろいろと仕事をする。捨て石がうまくいったときの楽しさは、石を取るのとはまた違った味わいがある。この捨て石のアジがわかるようになると、もう相当な腕前になっているはずだという。 初心のうちは、相手の石は取りたい、自分の石は取られたくないの一心である。石を捨てる、わざわざ取らせるなどということは、初心者は夢にも考えない。それがだんだん強くなると、要石と廃石の区別がつくようになる。さらに捨て石を投じて手割をうんぬんするようになると、もうアマチュアとしては、一人前の打ち手に成長している。よく「アマは石を取ろうとする、プロは捨てようとする」というが、一面の真理であるようだ。 〇石を捨てる目的の第一は、それによって相手をしめつけ、自分の形をととのえることにある。したがって、アタリにされた石をポンと打ちぬかせてしまっては、うまく目的を果たせない。とくに第三線の石を捨てる場合は、一つノビて取らせるのが原則になる。 ⇒ノビることによって手数をふやし、その間にしめつけをはかる。 【白ツケて整形】棋譜(182頁の1図) ![]() ☆黒の堅陣の中に白三子が孤立しているが、この白はなかなかの好形であるから、すぐにおさまることができる。 というのも、白1とツケるうまい手があるから。これを捨て石にして黒に取らせ、白はきれいに形をととのえる。 【白の働いた形】棋譜(182頁の2図) ![]() ・続いて黒2のハネ出しに白3と切り、4のアテに5とノビる。 ⇒この白5が「一つサガって捨てる」手である。 ・黒6のオサエで二子は取られるけれど、これをタネに白は7のアテ、そして9、11まで、ムダなくぴったり利かすことができる。 ⇒こうして、白は先手に整備し、もう攻められる心配はなくなった。 ※黒2とハネ出して以降、この手順は一本道である。 白の石はどれも効果的に働き、理想的な結果となっている。 【失敗図:白が捨て石を打たない場合】棋譜(183頁の3図) ![]() ☆前図の結果がいかに白の働いた形であるかを説明してみよう。つまり、白が捨て石を打たないと、どうなるのか? 〇もし白が捨て石を打たず、本図のように、白1と突きあたったとすれば、黒は2とぶつかってくる。 (また1で2と打てば、黒は1とくる) ※この形では、白が形をととのえるには、1と2の両点が急所なので、普通に打ったのでは、二つの急所を二つとも占めることはできない。 ※ところが前図では、打てないはずの急所を、二つとも白が打っている。 そこに捨て石の値打ちがある。 【手割:白の働きを確認】棋譜(184頁の4図) ![]() ☆手割で解剖して、白の働きを確認してみよう。 ・はじめに白1と突きあたったとき、黒は2とハネて受けた。 ・白3には4とサガり、白は5のマガリを利かして7とオサエる。 ・ここで黒は8と手入れをしたのである。 ⇒この形に白の捨て石の二子、黒が取るのに打った二子を加えると、2番目の図【白の働いた形】となる。 ☆本図の手順を見ていえることは、白の着手には一つのムダもないのに、黒の打った手は不合理だらけ、ということである。 ・第一、白1に黒2と打つことはありえない。 黒2は3と打つか、すくなくともイ(17, 六、つまり黒2の右)と引くところである。 ・黒4もイ(17, 六)とツグべきである。 ・最後の黒8に至っては、手のないところに手を入れた、不要の一手になっている。 〇捨て石がどんなに効果のあるものか、これでわかる。 (坂田栄男「囲碁名言集」182頁~184頁(有紀書房、1988年) |
【格言「右を打つには左から打て」】 |
坂田栄男氏の独自の格言として、「右を打ちたいときは、左を打て」というのがある。一つのところ、たとえば、右なら右でなにか仕事をしようとするとき、そんな場合、直接に右を打たずに、まず左に働きかける手を考えてみることが大切だという。左から打って相手の動きをうながし、それに乗じて右を打つ。序盤でも中盤でも、この呼吸が大いに役立つそうだ。 碁でこの方法が効果的なことを、忍者映画で見る手を例えにして、述べている。例えば、単身、敵陣深く潜入した忍者が、物かげにかくれてじっと息を殺している。行く手には数人の警備兵。と、かたわらの小石を拾った忍者は、あらぬ方向に向ってパッと投げる。バタバタとかけ出す兵士たち。そのスキに彼はまんまと城門をくぐりぬける。この忍者映画でよく見る手が、囲碁の名言としては、「右を打ちたいときは、左を打て」となるようだ。 【ストレートに白が右辺を打った場合】棋譜(195頁の1図) ![]() ・この形では、白はいそいで右辺を打たなくてはならない。右上隅に黒のシマリがあるので、黒からイ(17, 十一、つまり白1の下)とハサまれると、それがハサミとヒラキをかねる手となり、黒が十分の姿勢となるからである。 ・そこで当然考えられるのは、白1のヒラキである。 ⇒次いで黒2とコスみ、白3、黒4といった進行が予想される。 ※この結果だが、白はたしかに右辺を打ち、その意味では目的を達した。だが、黒も4とヒラいたのが、なかなかの好形である。あるいは4では一路左まで進めることもできるし、右辺にも黒ロ(17, 八)とツメる大場が残っている。 ☆白はもう少し何か働きのある手順がほしい。このようなとき、「右を打ちたければ左を」という作戦が、有力になってくる。 【白がまず左を打った場合】棋譜(195頁の2図) ![]() 棋譜再生 ・白のねらいは、あくまでも右辺の先取だけれど、その前にまず白1と左を打つ。 ・黒2のコスミに白3とケイマし、黒4、6は必然のコース。 ・こうしておいて、白は7と、目的の右辺にヒラくことができる。 ※白1はハサミであるが、この場合は隅の黒を攻めるというより、黒の動きを誘い、白3、5の姿勢を得る導火線の意味が大きい。 ※しかも白7までとなったあと、黒は前図のように、下辺に自由なヒラキは打てず、白からはイ(14, 十七)とコスむ急所が、一つのねらいとして残っている。 ※前図に比べ、本図のほうが白は働いている。 ☆右を打ちたいとき左から、左を打ちたいとき右から、相手の動きをうながし、それに乗じて打つ戦術は、布石の段階だけでなく、一局を通じて、つねに行なわれるものである。 攻撃における「左から右へ」の例をもう一つ挙げている。 【テーマ図】棋譜(197頁の5図) ![]() ☆六子の置碁で黒の手番を想定 黒の攻撃目標は、いうまでもなく右辺の白の一団である。といっても、この白は中央に頭を出しているから、黒が単純に攻めかかっても、戦果をあげるのはむずかしい。 ⇒うまくやっつけるには、上辺の白の欠陥を利用しなくてはならない。上辺の白の弱点を右辺への攻めにどう活かすか。 黒がもし単純に攻めかかったら、どうなるか? 【黒が単純に攻めかかった場合】棋譜(198頁の6図) ![]() ・黒1とノゾき、白2とツガせる。この交換にムダはなく、問題はそれからあとである。 ・黒3と単純に攻めかかっても、白4、6くらいであっさり逃げ出され、いっこう攻めの効果はあがらない。 【右を攻めたければ左から打った場合】棋譜(198頁の7図) ![]() 〇右を攻めたければ左から打つ。 ・黒は1のハサミツケから持って行く。こうして白の出方をうかがい、それに応じて、あとの作戦を決める。 ☆白としては、2と出るか、4とハネるかの二つに一つである。 ・白2と出れば、上図のようになる。 すると黒は3、5と切りサガリ、これを捨て石に大殺陣を展開する。白6まで必然である。 【その後の展開】棋譜(199頁の8図) ![]() ・その後、黒は1、3とアテを利かし、5のカケまで。 ⇒これで右辺の白は全滅である。 【白がハネた場合の変化】棋譜(199頁の9図) ![]() ・黒1のハサミツケに対し、白2とハネて受ければ、黒は3、5と利かし、やはり7とカケて打つ。 ・白8には9、白10には11とおそれずにオサえ、強引に封じこんで取ってしまう。 (坂田栄男「囲碁名言集」194頁~199頁(有紀書房、1988年) |
【格言「アテるな切るな」】 |
「アタリや切りは、必要があるまで打ってはいけない。必要のないアタリは、百パーセント悪手である」。これを確認する。 碁には、「必要のない手は打たない」という鉄則がある。山があるから登るのではなくて、必要な手だから打つ。ハネでもノビでもノゾキでも、それを打たねばならぬ理由があるから打つ。そういう必然の着手を追求し続けて終局するのが、碁というものの理想であるという。強くなるためには、やはりこういったきびしい態度が望まれるようだ。とくに、切りとアテとは、うかつに打たない心がけが大切であるらしい。というのは、必要のないアテや切りは、打てばかならず悪い結果になるから。つまり、必要なければ、アテるな切るな、というわけである。 【必要のないアテを打たない手】棋譜(186頁の1図) ![]() ☆黒が高目から辺にヒラいているところへ、白1と三々に入る形。 ・黒2なら白3から9までが定石である。 ※この手順中、白7が「必要のないアテを打たない手」で、手筋になっている。 ・白7で8と切る(アテる)ことはできるけれど、それは打たずに、単に7とハネるのである。 ・べつに8の点を切らなくとも、黒8でイ(18, 五)と切り、白ツギ、黒9と打つことはできない。(次に白8で両アタリだから) ・とすれば、白は8の点を切る必要はなく、だまって7とハネるのが正着というわけである。 白が切ったら、どうなるか? 【白が切った場合】棋譜(187頁の2図) ![]() ・白が1と切れば、黒2とツイで、白3、5という運びになるが、黒6までの結果は、白は前図に劣る。 ※黒を固めたばかりか、白は完封されている。 【白にツケられた場合】棋譜(187頁の3図) ![]() ・白1のツケに、白3はさばきの手筋。 ・このとき黒は「切りもアテも打たず」に、単に4とツグのが正着である。 ※黒4で5と切ったり、イ(17, 三)とアテたりしても、けっしていい結果は生まれない。 次に置碁での常出形について、言及している。 【置碁での常出形】棋譜(187頁の4図) ![]() ☆これは置碁での常出形である。 ・白1とツケ、黒2に3とハネるのは、白が攻められる前に、早いとこ、おさまろうというもの。 ・次いで黒4と二段にオサエるのが強手である。 ※この場合も、黒は切りやアテは保留するのがよく、だまって4が一番きびしい。 (なにか危険な感じがして、4とオサエるには勇気がいるかもしれない。しかし、白からこれといった反発の手段がないのは、容易にたしかめられる) 【続き】棋譜(188頁の5図) ![]() ・続いて白は、1と打つくらいのものである。 ・白に断点がなくなったから、黒は2のアテを打つ。 つまり、白1とツガれたことで、黒2とアテる必要が生じたわけである。 ・白3とツガせて、黒も4とカケツギ、黒6までとなるのが、双方とも正しい石の運びである。 ※白3でコウに受ける手など、おそれてはならない。 もう一つ例をあげている。 【トブツケの筋】棋譜(188頁の6図) ![]() ・黒1と打込んで、白2のトビツケはさばきの筋。 ・黒もやはり3とトビツケるのが手筋である。 ・次いで白イ(16, 四)とアテこむのが普通の打ち方である。 ☆このとき、もし白が4とハネこんできたら、どうするか? 【「アタリ、アタリのヘボ碁かな」の俗筋】 ≪棋譜≫(189頁の7図) ![]() ・つい黒1とアテたくなるところ。 ・白2とツガせ、また黒3とアテて5と出る。 ⇒こういう打ち方は、「アタリ、アタリのヘボ碁かな」という、ひどい俗筋である。 ・黒7は省けず、白8と切って補われる。 ⇒白の外勢はきわめて強大なものになっている。 【ハネこみという正しい筋:切りもアタリも打たない】棋譜(189頁の8図) ![]() ・黒はどの切りもアテも打たず、だまって1とハネこむのが正しい筋。 ・白は2とツグほかない。 ・そこで黒3とノビきり。 ・白4、黒5となれば、ノビきり黒3の一手が、すばらしいことがわかる。 (前図とは比較にならぬほど黒が勝っている) ※白2で3とオサエるのは、むろん黒2と両アタリにし、問題なし。 (坂田栄男「囲碁名言集」185頁~189頁(有紀書房、1988年) |
【攻防論/攻めはツケず、サバキはツケとツケコシが手筋】 |
攻める石にはなるべくツケぬのがよろし。ツケると相手をサバかせることになり悪し。逆に攻められている時のサバキは相手の石にツケ、ツケコシするのが宜し。 2016.02.05日 囲碁吉拝 |
【攻防論/ダマ下がりの威力を知ろう】 |
「ダマ下がりの威力を知ろう」。中盤から終盤に向かう頃の局面で、単騎突入の手と両翼に利くダマ下がりの手がある場合、突入の手は小さく生きても得しない場合が多い。むしろダマ下がりの方が単騎突入による小さな生きより大きい手になることが多い。じっと黙って相手の受け方を問うダマ下がりの術を習熟しよう。 2016.02.05日 囲碁吉拝 |
【攻防論/絶対の利き当りはヘボ当りで、打たないのが定法】 |
「絶対の利き当りはヘボ当りで、打たないのが定法」。ヘボほど当りを打つものだが、中でも絶対の利きのところの当りがヘボ当りの最たるものである。「絶対の利き当りは絶対に打ってはならない」と覚えるのが良い。その後の情況変化で別方向からの当りも考えられることもあるのに決めてしまうと味気ないことになる。 2018.4.2日 囲碁吉拝 |
【攻防論/相手の下ツケに対して、押えではなくツギに戻る方が賢い場合が多い】 |
相手の下ツケに対して、押えではなくツギに戻る方が賢い場合が多い。これは手割理論で論証できる。常に手割でどうなるかを確認しながら打つのが良い。 2015.12.26日 囲碁吉拝 |
【攻防論/キリ百両のタイミングを的確にせよ】 |
切れる所は切れとの教えがあるが、キリは直ちに切るべきキリ(これを仮に「キリ百両」と名づける。「マガリ千両」を意識しての造語である)と、キリのタイミングを図りながら様子見する場合、相手に手を入れさせる場合の三通りある。直ちに切るべきところを切らないで相手に手を戻らせるのも失敗であるが、相手に手戻りさせるのが良い場合に直ちにキリ、その石がお荷物になる場合とがある。キリの場合も「まずはこちらの安全確認してから」が良いようである。 |
(私論.私見)