「ファイル交換ソフト・Winny(ウィニー)事件」考

 更新日/2018(平成30).11.13日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 「ファイル交換ソフト・Winny(ウィニー)事件」について、れんだいこはメカのことが分からないので及び腰になるが、この事件の本質は、進化し続けるインターネットソフト産業に対し、全方位著作権者と権力機関当局が結託して、その芽を潰そうとしている現代版ラッダイト運動のように思える。

 一体全体、ファイル交換ソフトの開発自体が非である訳がなかろう。その開発者を逮捕するなどとは野蛮の極みである。文明の利器とは常に両刃であり、人がそれをどう活用するのかその主体性が問われるべきものである。誘引論を満展開させたならば全てが犯罪に繋がろう。

 その論理で行けば、包丁も使用禁止にすれば良い。インターネットそのものがいとも容易く情報を交叉させる媒体であるからして、それをも禁止することになろう。そったら馬鹿な取締りが許されて良いだろうか。開発者には何の責任もない、むしろ人間知力の可能性をどんどん証させていくべきだろう。唯一規制される理念は、人類全体の倫理と福祉の観点からのものであり、権利的なものではなかろう。

 開発者の著作権侵害意図的誘引行為でさえ、元々発明にはその種の動機が付き物でそれ自体の背徳を責めるのは如何なものであろうか。生殺与奪的な社会犯罪的要件が立証された場合のみ問題にされるべきで、発明によって既成の産業的権利が打撃を受けることは致し方ない。歴史にはそういう事例があふれかえっている。してみれば、決して、近時の全方位包括的承諾要件式著作権理論の偏狭な様式に従わされるべきものではなかろう。そういう意味からも著作権法の正確な理解が無ければならない。近時の全方位包括的承諾要件式著作権理論には実は法的裏づけがない。

 「ウィニー事件」は、著作権法について原点からの問い直しをするのに格好教材であるように思われる。今こそ文明のシロアリ理論に対して正当なる疑問を呈していくべきではなかろうか。れんだいこが「ウィニー事件」を評すれば、本来激賞されるべき者が逮捕される、という本末転倒事象が生起しているということになる。

 2004.8.3日 れんだいこ拝


【「ファイル交換ソフトとは」】
 「ファイル交換ソフト」とは、コンピューターの利用者同士がネットを介して音楽や映像などのファイルをやり取りするソフトのことである。国内の利用者は推定200万強に上るとみられる。

 ウィニーは、P2P(ピア・ツウ・ピア=個人対個人)と呼ばれる技術の一つで、利用者が手持ちのファイルを直接検索し合う仕組みを構築している。ウィニーを使っている人が、ある情報を自分のパソコンに保存すれば、他の利用者もこの情報を取り込めるようになっており、これにより、映像や音楽などの情報を共有、交換し合えることになる。欲しい情報を短時間で検索できることにもなる。

 ウィニーは、匿名者間でのネットワーク上での情報複製を可能にする。この効能が違法コピーの流通による著作権侵害の温床になっているとの指摘がある。実際に、ウィニー利用者によって京都府警の捜査関係書類が流出する不祥事も起きた事例が報告されている。しかし、それは、「ファイル交換ソフト・ウィニー」を取り締まる方向においてではなく、別の手立てを講ずる必要が生まれた、ということではなかろうか。

【「ファイル交換ソフト・Winny(ウィニー)事件」の概要】
 10歳のころからパソコンソフトの作製を手がけたという経歴を持つ東京大大学院助手の金子勇容疑者(33歳)は、インターネット掲示板でファイル交換(共有)ソフト「Winny(ウィニー)」の開発を宣言し、約1カ月で完成させ、これをネット上で公開して無償で配信した。「これにより、金子氏は『インターネットソフト界の伝説の天才』になった」。ウィニーを配信していたホームページでは、「従来のデジタルコンテンツビジネスモデルはすでに時代遅れ」と指摘、「デジタル証券システム」といった試論を登場させていた。

 これに京都府警が監視の目を光らせた。2001.11月、別のファイル交換ソフト「WinMX」の利用者を逮捕。昨秋以降、金子氏を任意聴取していた。金子氏は既存秩序を否定する刺激的な供述を繰り返した、という。これに対し、京都府警は、金子氏が著作権侵害の現状の深刻さを分かった上で、ウィニーによってさらに広げようとしており悪質として逮捕に踏み切った。金子容疑者がウィニーによる著作権侵害が広がっていることを知りながら、236回のバージョンアップを繰り返したことについても、「ウィニーが違法に利用されることを認識していた」と判断し、逮捕の根拠とした。警察側は金子氏の「挑発的な態度」を逮捕の要因とした、という情報もある。

 京都府警による金子被告逮捕に抗議の声が挙がっている。ウィニーによる捜査関係書類流出の仕返しと読む声もあり、京都府警はいら立ちを隠さない。「Winny(ウィニー)は、『次世代のネットシステム』か『プライバシー侵害ソフト』か」を廻ってホットな議論が続いている。

 京都府警による金子被告逮捕問題は、インターネット上で音楽や映像などの情報を直接やりとりできるファイル交換プログラムソフトの開発者に対し、著作権法違反の「幇助」罪の適用ができるのかどうかにある。 捜査当局は、開発の「意図」を問題にして事件化したが、日進月歩のデジタル技術と利用者の爆発的拡大に対する対応として取り締まり一辺倒でよいのかどうか、勇み足ではないのか等々難しい問題が宿されている。米国ではソフト開発者ではなく、利用者の責任を問うのが主流になりつつある」。

 金子助手の知人でソフトウエア開発会社社長・新井俊一(26)氏は、「今回は幇助の範囲をとても広く解釈している。これではいつでもソフトウエア技術者を逮捕できるようになる」と懸念している。

【警察及び検察の論理】

 2004.5.31日、京都地検が、ファイル交換(共有)ソフト「Winny(ウィニー)」の開発者・東京大大学院助手の金子勇容疑者(33歳)による同ソフトのインターネット上での公開行為に対し、同ソフト利用者の著作権侵害を幇助したとして著作権法違反(公衆送信権の侵害)幇助罪で起訴した(「Winny(ウィニー)著作権法違反事件」、略して「ウィニー事件」)。ソフトの開発者の刑事責任が問われるのはきわめて異例であり、成り行きが注目される。

 起訴状によると、金子助手は2002.5月上旬からウィニーをネット上で公開して無償で配信。ソフトが著作権侵害行為に利用されていることを知りながら、不特定多数が最新版を入手できる状態にし、昨年9月、群馬県高崎市の風俗店従業員(41)=同法違反罪で公判中=らがウィニーを使って映画やゲームソフトを不特定多数のネット利用者に送信できるようにした著作権侵害を手助けしたとされている。 

 地検の見解は次の通り。地検は、ウィニーは映像や音楽の違法コピーソフトであるとし、この見地から実際の使われ方を追跡していった結果、「被告自身、ウィニーを違法コピーにしか使っていなかった。著作権侵害の意図は明らか」として著作権法違反(公衆送信権の侵害)幇助罪に該当すると判断した。「ウィニーによる著作権侵害が広がっている事実を雑誌などの報道で知りながら、ソフト改良を繰り返しており、悪質性は高い」とした。高田明夫・次席検事は、「ソフトのやり取り数十万件のうち、適法なものは2%にすぎなかった」と指摘している。


【金子氏の反論】
 金子氏の見解は次の通り。
 「インターネットが普及した現在、デジタルコンテンツが違法にやりとりされるのは仕方ない。新たなビジネススタイルを模索せず警察の取り締まりで現体制を維持させているのはおかしい」。
 「著作権侵害をさせるためのものとして開発したのではない。侵害をした正犯者の二人と面識がなく彼らが著作権違反をするなど全く分からなかった(金子被告は逮捕当初、容疑を認める供述をしていたとされるが、現在は全面否認に転じている)」。

 地検は、金子容疑者のこの主張をもって「確定的な故意が認められる」、「その後のソフト改良の動きも含めて悪質性が高い」と判断したと云うが、まことに物言えば唇寒しとはこのことだろう。

【「金子勇氏を支援する会」結成される】
 ソフトウエア開発会社社長・新井俊一(26)氏は、金子逮捕という局面を受け、仲間のソフトウエア技術者らと「金子勇氏を支援する会」を結成した。2週間余りで約1500万円の支援金が集まり、応援メールも200通近く寄せられた。壇弁護士は、「今回の不当逮捕への関心の高さを実感する」と自信を見せる。

 インターネットサイト「FreeKaneko.com 」が立ち上げられ、支援活動している。

【急増するファイル交換ソフトの利用者】

 2004.5.31日付け毎日新聞は、「急増するファイル交換ソフトの利用者」との見出しで、次のような記事を掲載している。

 自分のパソコンにある音楽、映像などをインターネットを通じて交換し合う「ファイル交換ソフト」の利用者は、ここ数年で急増している。

 コンピュータソフトウェア著作権協会と日本レコード協会によると、利用・経験者は昨年1月で185万人と、前年から40万人も増えた。特にウィニーは暗号化されたデータが管理者なしで自動転送されるため、利用者が特定されにくく人気を呼んだ。昨年1月には約22万5000人が使ったことがあると答えた。

 違法なファイル交換に対し、米国では民事上の解決が一般的だ。リサーチ会社「ガートナーG2」のアナリスト、マイク・マクガイア氏は「刑事事件としてソフト開発者を摘発するのは極めて異例だ」と指摘する。

 全米レコード工業会(RIAA)は99年、音楽ファイル交換サービス会社「ナップスター」を著作権法違反で提訴。サンフランシスコの連邦地裁は00年、業務停止の仮処分決定を出し、同社は閉鎖に追い込まれた。

 RIAAは、ナップスターとは違って利用者同士が直接やりとりするソフトの開発企業も提訴したが、ロサンゼルスの連邦地裁は昨年4月、「開発・配布だけでは違法と言えない」と、違法コピーした利用者とは線引きした。RIAAは昨秋以降、利用者個人の民事責任追及を本格化させている。【柴沼均、ワシントン河野俊史】


【金子助手の逮捕後の対応の様子】

 金子助手の逮捕後、「違法なファイルはやり取りしなくなった」(会社員・31歳)という利用者もいる。だが、ネット上では金子助手に代わって一部の利用者がウィニーの改良を続けている。

 99.10月に創刊され、ウィニーの紹介もしてきた上中級者向け雑誌「ネットランナー」発行元のソフトバンクパブリッシング広報は、「ウィニー自体は違法ではないと考えるが、著作権法違反が広がっていると認識しているので、違法だと疑われるファイルのやり取りは掲載せず、使用方法の紹介にとどめてきた。今後も倫理的な編集方針を守る」としている。


【司法の場での論点考】
 事件はさまざまな波紋を広げており、法廷でネット社会の著作権論争が行われる見込みで、ネット上を巻き込んだ論議は司法の場に移った。@・ファイル交換(共有)ソフト「Winny(ウィニー)」はネット社会に何をもたらすのか。A・違法コピーに使われたファイル交換ソフト開発の是非、B・金子被告の開発行為は著作権法違反の手助けに当たるのか。C・利用者による違法コピーという犯罪を被告が予見できたか否かや、故意の有無、などが争点となり初めて法廷で争われる。
 
 捜査当局は、「著作権侵害幇助の意思が開発者にあり、ウィニー自体も幇助するシステム」だとして、開発の「意図」を重視したが、開発者よりも違法コピーした利用者側の民事責任を問うのが主流の米国では、異例のことと受け止められている。日進月歩のデジタル技術と利用者の爆発的な拡大に、法整備はなかなか追いつかない。ネット社会の著作権保護のあり方が問われている。

 概要「インターネットが普及した現在、デジタルコンテンツが違法にやりとりされるのはやむを得ない。これを新たなビジネスチャンスととらえず、そのビジネススタイルを模索せず、警察の取り締まりで既存の体制を維持しようとする企業の方が問題だ。著作権の概念を変える必要がある」。

 弁護団は、「ホームページに『違法ダウンロードをしないように』と注意書きをつけており、違法行為を広める意図はなかった」、「利用者と意思の連絡がなく、ほう助罪を認定するのは乱暴」と著作権侵害の意図自体を争う姿勢だ。有志のソフト技術者らは「金子勇氏を支援する会」を設立し、ホームページで支援を呼びかけている。弁護団によると、1879件1507万円もの支援金(31日現在)が集まった。

 著作権法に詳しい小倉秀夫弁護士(東京弁護士会)は「(被告が)個々の利用者レベルの具体的な使用を明確に認識していたかが問題。不正使用を助長するかのような掲示板への一連の書き込みとは別次元の話で、それを元にした逮捕・起訴は解釈を広げ過ぎている。これでは150キロで走れる車を製造した会社は、速度違反に問われた運転手のほう助になる。産業界全体の商品開発にも波及しかねない問題を含んでいる」と指摘する。

 検察側は「著作権侵害ほう助の意思が開発者にあり、ウィニー自体もほう助するシステムだ」と立証に自信を見せる。弁護団は「(利用者と)意思の連絡がなく、ほう助罪を認定するのは乱暴」と全面的に争う方針だ。


【「ウィニー被害裁判」提訴される】 

 2004.6.1日、「ウィニー」で捜査資料流出、19歳会社員被害男性が賠償求め提訴。 ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」が原因で、北海道警江別署巡査の私物のパソコンから、逮捕された際の捜査関係資料をインターネット上に流出されたとして、江別市内の会社員少年(19)が「著しい精神的打撃を受けた」として6.1日、北海道庁を相手に200万円の損害賠償を求める訴えを札幌地裁に起こした。

 訴えによると、少年は3月25日、同市内で道警江別署に道路交通法違反の現行犯で逮捕されたが、その後、同署の男性巡査が作成し、私物パソコンに保存していた8人分の捜査報告書などが、ウィニーを通じてインターネット上に流出。氏名、住所、生年月日、勤務先などが記されており、交通違反の詳細な内容が不特定多数に閲覧され、精神的損害を受けた、としている。

 この巡査のパソコンから流出した捜査資料は、現行犯人逮捕手続書や実況見分調書、捜査報告書など5種類6件で、計8人分の個人情報が含まれている。

 ウィニーによる捜査資料流出は、京都府警でも発覚しているが、原告の弁護士は「賠償を求める訴訟は全国で初めてではないか」としている。

 原告側は「巡査の軽率な行為が直接の不法行為だが、道警が私有パソコンの(業務への)使用を容認し、禁止してこなかった組織的不作為が問題だ」としている。


【「ウィニー事件」初公判】

 2004.9.1日、インターネットを通じて映画や音楽のファイルを交換できるパソコン用ソフト「Winny(ウィニー)」を開発して著作権侵害を助けたとして、著作権法違反(公衆送信権の侵害)の幇助(ほうじょ)罪に問われたいわゆる「ウィニー事件」の金子被告に対する初公判が京都地裁(氷室真裁判長)で始まった。著作権侵害事件でソフトウエアの開発者が刑事責任を問われるのは初めて。

 検察は、起訴状で、金子被告は自分が開発したウィニーをインターネットのホームページに公開し、だれでも自由に入手できるようにし、これにより、群馬県高崎市の風俗店従業員(42)=同法違反罪で公判中=らがウィニーを使って映画やゲームソフトを不特定多数のネット利用者に送信する著作権侵害行為を幇助した、などと述べ告発した。

 検察側は冒頭陳述で、「被告は現行の著作権法は時代遅れだという疑問を持っていた」と指摘。犯行の動機について「匿名性の高いファイル交換ソフトを作れば、警察に摘発されることがなく、著作物の提供者は新しいビジネスモデルの開発に着手することになると考えた」と述べた。

 さらにウィニーの利用実態のほとんどが著作権のある音楽や映像の違法コピーであることを指摘したうえで、被告は著作権法違反を増長させることを意図していたとした。 

 弁護側は、「実際に著作権侵害をした被告らとは面識もなく、利益も得ていない」などとして、ソフトの開発は罪にあたらないと主張し、インターネットを通じてさまざまなファイルを共有できるウィニーの有用性を強調するなど、起訴の不当性を訴える方針を示した。「起訴状ではウィニーが違法であるとする根拠やウィニーの開発が著作権法違反幇助となる理由が明らかにされていない」などと検察側に釈明を求めた。

 金子被告は、「ウィニーは技術的な実験として開発・公開したもので、著作権侵害行為を手助けする意図はなかった」と述べ、無罪を主張した。その後、金子助手は用意した意見書を朗読。「技術の進化は止まらないし、止めようとしても止まるものではない。技術そのものを有効活用する方向を目指すべきだ。ソフト開発が犯罪の幇助に当たるという前例が作られれば、開発者には大きな足かせになってしまう。私は無罪です」と述べた。


【「ウィニー効果」と悪用事例】

 「ウィニー効果」。

 ネット起業家として知られる伊藤穣一さんは「コンピューターを利用して曲や映像をつくるアマチュア制作者が増えている。作品をできるだけ多くの人に見せたい側からすれば、こうした技術は有効。技術は良いことにも悪いことにも使える」と云う。

 摘発後の10日夜もインターネット上には、ウィニーを入手できるホームページが多数あった。データ量の小さなプログラムなので、瞬時に自分のパソコンに取り込める。起動した画面で、テレビドラマのタイトルなどを指定してやると、いろんな人が持っている該当のドラマのファイル名の一覧が表示され、選択すればコピーできる。そのたび検索しなくても、キーワードを指定して自動的にコピーされるようにも設定できるので、留守中や夜間でも欲しいものが手に入る。見逃したドラマ、新しい曲やゲーム、映画などの取得が多いという。

 悪用事例。

 一方ウィニーでは管理サーバーがなく、ファイル検索は利用者間で直接行うため、曲などの提供者や取得者の匿名性が高まり、違法コピーのソフトの交換やウイルスの流布といった悪用も目立つようになった。


 (只今精査工事中)

【「ウィニー事件」に対する視点その一】
 「どこまで問えるソフト開発者の責任 ウィニー逮捕の波紋」(2004.5.10日付朝日新聞)、ウィニー論争さらに過熱 批判派『プライバシー侵害ソフト』、擁護派『次世代のネットシステム』私の意見・見解 誰のための権力なのか、それが問題だ(2004.5.21日)その他が参考になる。以下、検証する。
 
 ウィニー擁護派の見解は次の通り。

 概要「金子氏のプログラミングの腕前は一頭地を抜いている。理想にあふれた研究者で、インターネットソフト界の伝説の天才」と評されている。竹内郁雄・電気通信大教授(計算機科学)は、概要「(被告は)コピーを自由にできる代わりに、正当な対価を自動的にコピー元に支払えるシステムの構築を夢見たのかもしれない。既存秩序の先に新たな秩序を思い描いていたのではないのか」と推測している。

 弁護団は、ウィニーの特徴として、大容量のデータをやりとりするのに適した次世代のシステムとして有用で、匿名性が高く自由な言論を保障するのに有効だと主張する。
 匿名性についてはむしろプライバシーが守られるソフトとして評価する専門家も多い。「従来のサーバー/クライアント型ネットワークの場合、末端の個々のパソコンはすべて情報を配信するコンピューターであるサーバーにつながり、サーバー側は利用者の特定が可能だ。そのため利用者が発信する情報がサーバー管理者に問題があると判断された場合、その利用者との接続を断ち切られたり、発信情報を削除される場合もある。

 これに対し、ウィニーのような「ピア(仲間、人の意味)トゥピア型(P2P)ネットワーク」は、個々のパソコン同士が結びついており、サーバーはない。管理者もおらず、情報発信などやりとりは自由だ。新たなネットビジネスにつながる可能性を秘めている。この仕組み自体が従来のネットに置き換えられうる可能性があり、むしろ激賞されるに相応しい」。

 「このようなすばらしい技術の開発者を幇助という理由で逮捕されたり処罰を受けるとすれば、ほかのプログラマーまで不安を感じ、ソフト開発者が萎縮(いしゅく)する。技術の発展が止まる」と懸念されている。
 概要「Winnyは単なる道具であって、実際に著作権を侵した人物とはなんら関係がない、道具を作っただけの開発者を犯罪幇助とするのは無理がある。切れ味のいい包丁を作ったからといって、包丁が悪用された場合、包丁を作った人まで悪いというのはおかしい。電子ネットワークを経由して生じた問題は、末端の利用者同士の自己責任で解決すべきだ」との声もある。
 弁護士十数人でつくる「Winny弁護団」事務局長の壇俊光弁護士は次のように指摘している。「法定速度以上で走ることができる自動車を作り、運転者が速度違反で逮捕されても、自動車メーカーの技術者は逮捕されない。金子被告は違法なファイルをやりとりしないように求める説明書をウィニーに添付しており、利用者が悪用したにすぎない。結局は利用者のモラルと著作権侵害をしやすいウィニーの周辺環境の問題だ」。他にも「ウィニー開発を裁くのではなく、音楽CDやゲームソフトのメーカーがソフトをコピーされないような技術を導入し、対応すべき問題だろう」との提言が為されている。
 「映像でも音楽でも文章でも、ものごとを公表する従来の秩序をゲリラ的に破壊しながら進み、事件や論争を経て徐々にビジネス化、合法化してきたのがインターネットだ。数年前なら電子商取引など危なくて信頼できなかったが、それは使ってみて問題点が明らかになったから。ウィニーも同じだ」

 ウィニー批判派の見解は次の通り。
 「ウィニーは著作権侵害だけではなく、一般市民のプライバシーを侵害する装置として使える」。
 独立行政法人産業技術総合研究所グリッド研究センターの高木浩光・セキュアプログラミングチーム長は、技術の未熟に拠る弊害を次のように説いている。概要「ウィニーの問題点の一つは、一度ネット上に提供されたファイルは、削除することができない点だ。ある特定の人物を攻撃する目的で、その人物の盗撮映像をウィニーに出すと、途中で削除できないままどんどん広がる。回復不能で重大なプライバシー侵害を引き起こすことができる。ウィニーにも削除機能はあるという主張もあるが、機能していない」、概要「個々のパソコンがファイルを中継し、分散して効率的に通信処理を行うこともウィニーの特徴だが、それを実現するため、中継に使われたパソコンにはファイルが残り、暗号化されて表示される。ユーザーは中継したファイルの多くが違法だと知っていたはずだが、暗号化されているから自分が権利侵害に加担していることを認識しにくい。ユーザーのモラルを低下させ、うそつきにするシステムだ」。
 高木氏は更に、「言論の自由の保障や匿名性を保証するシステムの研究は大事だ」と前置きした上で、そもそもウィニーが生まれた経緯を疑問視する。「外国人が作ったWinMXというファイル交換ソフトを使い違法なファイル交換をした学生二人が二〇〇一年に逮捕された。これを機にMXでは匿名性が低く違法なファイル交換が当局に発覚するということで、次のソフトが模索され始めた。匿名性を高めたウィニーが登場したのはこういう経緯からで、金子被告つまり47氏も盛んにこの点を宣伝していた」と指摘。「P2P利用の新しいビジネス展開などという理屈は後付けだ」と手厳しい。
  

 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会見解。
 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会は「ソフトの開発者が、悪用されることを予見した上で開発・配布した場合は、一定の責任が生じると考える」との趣旨の声明を出し、開発者側の責任を指摘した。

 

 アメリカの事例。

 米ナップスター社による音楽ファイルの交換サービスも、インターネットを介して不特定多数の人が映像ファイルなどを交換できるソフトの一種であり、注目を集めた。同社のコンピューター(サーバー)は、利用者がそれぞれ持っている曲をリストにして管理し、リスト中に欲しい曲を見つけた他の利用者が求めると、曲の所有者のコンピューターから曲のデータ(ファイル)を受け取れる仕組みになっていた。

 このソフトの登場により、アメリカの音楽CD業界は打撃を受けた。00年に9億4200万枚だったアルバムの出荷は、03年には7億4500万枚に減じた。業界団体の全米レコード協会(RIAA)は、「人気曲などが無料でファイル交換されていることが音楽CDの売り上げ減につながっている」、「その影響で数千人が解雇されている」として、ファイルを交換している個人を、著作権違反で民事提訴した。

 以前はファイル交換ソフトを開発した会社を訴えることが多かった。代表的事例として、米ナップスターに対し、音楽業界が著作権法違反だとして提訴したことがある。裁判所は、01年に交換差し止めの判決を出し、ナップスターはサービス停止に追い込まれた。しかし、03年4月、米裁判所がファイル交換ソフト会社の責任を認めず、米レコード・映画業界の訴えを退ける判断を下している。

 ナップスターの場合、同社のサーバーの手助けによって利用者がファイルを交換できる仕組みであったが、ファイル交換ソフトは更に進化した。それ以降の「グヌーテラ」などの交換ソフトは、サーバーを仲介しない方式になっている。RIAAは、03年秋から、ファイルの提供を行っている個人に対する大量提訴を開始し始め、これまでに2400人以上の個人を提訴している。潮目が変わった。


【「ウィニー事件」に対する視点その二】

 「共同私通信」2004.6.21日付私の意見・見解の「誰のための権力なのか、それが問題だ」が貴重な分析をしている。それによれば、「ウィニー事件」の背景には、当局に取締りを要請する「著作権エージェント」達の暗躍があるとの見解が披瀝されている。「著作権エージェント」とは、「著作者ではなくその権利で商売している連中」のことであり、いわば「著作財産権を持つ版権者」達のことである。企業名を挙げれば、JASRAC、ニンテンドー、ソニーコンピュータエンタテインメントが該当する。

 筆者は、「この問題を考えるに当たって、持ちたい視点の一つが『誰が得をするか─誰のためになるか、という視点だ」と述べ、「この事件で警察はどこの為に動いたか、というと企業の為に動いた。資本を増やすことが主義であるところの、企業というものの為に動いた、というところが肝心だ。警察という大きな権力が、個人のためではなくて、企業の為に動いた。それは現在の社会=資本主義&似非民主主義(半社会主義)という日本の体制を維持するために、権力が使われたということだと思う」と云う。 

 縷々見解を述べた後、「この争いは、現体制 対 現体制を変えようとする人 という図式として見えることもできるということを読者の皆さんは覚えていて欲しい。ネットで事実上、自由に発言する権利まで奪われたら、この国はおしまいだ」との観点を披瀝している。


【第一審判決】
 2006.12.13日、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を開発し、ゲームや映画ソフトの違法コピーを容易にしたとして、著作権法違反ほう助の罪に問われた元東大助手、金子勇被告(36)に対し、京都地裁(氷室真裁判長)は、罰金150万円(求刑懲役1年)の判決を言い渡した。京都地裁判決で有罪となったウィニー開発者の金子勇元東大助手は、閉廷後の記者会見で、 「判決は残念。控訴して技術開発の在り方を世に問う」、「技術者が、あいまいなほう助の可能性に委縮して有用な技術開発を止めてしまう」と用意した文面を淡々と読み上げた。桂充弘弁護団長は、「一体どうすればほう助にならないのか全く明らかでない。今後の技術開発に悪影響を与える。控訴して逆転無罪を勝ち取る」と断言。同席した別の弁護士も「海外では無罪。国際的な潮流に反する判決」と批判した。

【第一審判決要旨】

 判決文は、インターネット上の著作物の著作権に関する法理論を解析しないまま、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」開発者に有罪を科した恨みが残る。

 まず、「被告が開発、公開したウィニー2は、それ自体はセンターサーバーを必要としない技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものだ。技術自体は価値中立的であり、価値中立的な技術を提供することが犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助(ほうじょ)犯の成立範囲の拡大も妥当でない」としながらも、「結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである」として、その利用のされ方が問題となるとする立場を採った。

 その上で、「被告は、ウィニーが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容した。そうした利用が広がることで既存とは異なるビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーを開発、公開しており、公然と行えることでもないとの意識も有していた。そして、ウィニー2がウィニー1との互換性がないとしても、ウィニー2には、ほぼ同等のファイル共有機能があることなどからすれば、本件で問題とされている03年9月ごろにおいても同様の認識をして、ウィニー2の開発、公開を行っていたと認められる。ただし、ウィニーによって著作権侵害がネット上に蔓延(まんえん)すること自体を積極的に企図したとまでは認められない」との判断を示した。

 「幇助の成否」を廻って、「
ネット上でウィニーなどを利用してやりとりされるファイルのうち、かなりの部分が著作権の対象となり、こうしたファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されている。ウィニーが著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、広く利用されていたという現実の利用状況の下、被告は、新しいビジネスモデルが生まれることも期待し、ウィニーが上記のような態様で利用されることを認容しながら、ウィニーの最新版をホームページに公開して不特定多数の者が入手できるようにしたと認められる。これらを利用して正犯者が匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機とし、公衆送信権侵害の各実行行為に及んだことが認められるのであるから、被告がソフトを公開して不特定多数の者が入手できるよう提供した行為は幇助犯を構成すると評価できる」と認定した。

 
「被告は、ウィニーを開発、公開することで、これを利用する者の多くが著作権者の承諾を得ないで著作物ファイルのやりとりをし、著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識、認容していたにもかかわらず、ウィニーの公開、提供を継続していた。このような被告の行為は、自己の行為によって社会に生じる弊害を十分知りつつも、その弊害を顧みることなく、あえて自己の欲するまま行為に及んだもので、独善的かつ無責任な態度といえ、非難は免れない。

 また、正犯者らが著作権法違反の本件各実行行為に及ぶ際、ウィニーが、重要かつ不可欠な役割を果たした▽ウィニーネットワークにデータが流出すれば回収なども著しく困難▽ウィニーの利用者が相当多数いること、などからすれば、被告のウィニー公開、提供という行為が、本件の各著作権者が有する公衆送信権に与えた影響の程度も相当大きく、正犯者らの行為によって生じた結果に対する被告の寄与の程度も決して少ないものではない。

 もっとも被告はウィニーの公開、提供を行う際に、ネット上における著作物のやりとりに関して、著作権侵害の状態をことさら生じさせることを企図していたわけではない。著作権制度が維持されるためにはネット上における新たなビジネスモデルを構築する必要性、可能性があることを技術者の立場として視野に入れながら、自己のプログラマーとしての新しい技術の開発という目的も持ちつつ、ウィニーの開発、公開を行っていたという側面もある。被告は、本件によって何らかの経済的利益を得ようとしていたものではなく、実際、ウィニーによって直接経済的利益を得たとも認められないこと、何らの前科もないことなど、被告に有利な事情もある。以上、被告にとって有利、不利な事情を総合的に考慮して、罰金刑に処するのが相当だ」と判示した。

 開発者の利用責任論という新たな法理論を生んだことになる。


【第二審判決】
 2009.10.8日、、大阪高裁が、インターネットを通じて映像や音楽を交換するソフト「ウィニー」を開発し、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問われた元東京大大学院助手、金子勇被告(39)の控訴審で、罰金150万円とした一審・京都地裁判決(06年12月)を破棄し、逆転無罪判決を言い渡した。一審判決は、「著作権侵害を認識していた」として罪の成立を認めたうえで、「その状態をことさら生じさせることは企図していない」として罰金刑を選択していた。懲役1年を求刑した検察側は「刑が軽すぎる」として、被告・弁護側は無罪を主張してそれぞれ控訴していた。

 小倉正三裁判長は、「著作権侵害が起こると認識していたことは認められるが、ソフトを提供する際、違法行為を勧めたわけではない」と指摘。技術を提供しただけでは幇助罪は成立しないと判断した。且つ、ウィニーで流通する違法ファイルの割合については、調査によって全体の9割から4割まで幅があり、9割前後とする検察側主張を否定した。

 金子元助手は02年5月、自ら開発したウィニーをインターネットで公開。03年9月、松山市の無職少年(当時19)ら2人=著作権法違反の罪で有罪確定=がウィニーでゲームソフトや映画をダウンロードし、不特定多数へ送信できるようにした行為を手助けしたとして起訴された。

 高裁判決はまず、ウィニーの技術自体への評価を検討。「技術、機能を見ると、著作権侵害に特化したものではなく、多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に可能にする有用性があるとともに、著作権の侵害にも用い得るという価値中立のソフトであると認めるのが相当」と述べ、検察側の「およそ著作物ファイルの送受信以外の用途はない」との主張を退けた。

 また判決は、金子元助手はウィニーが著作権侵害に使われることを容認していたと認定したが、それだけでは著作権法違反の幇助罪は成立せず、外部への提供行為自体がほう助行為として違法性を有するかは、1・その技術の社会における現実の利用状況や、2・それに対する認識、3・さらに提供する際の主観的態様によるとのほう助犯成立の基準を示した。即ち「おもに違法行為に使うことをネット上で勧めた場合に成立する」との新たな基準を明示したうえで、元助手は違法ファイルを流通させた少年ら2人と面識はなく、違法ファイルのやりとりをしないようネット上で呼びかけていたことを挙げ、刑事責任は問えないと結論づけた。

 控訴審判決が新たに示した基準と論拠は次の通り。

 「被告がウィニーを提供する対象は不特定多数の者で、その者の行為には独立性がある。開発したソフトをインターネット上で公開した提供者はダウンロードした者を把握できず、その者が著作権法違反行為をしようとしているか否かを把握することもできない。価値中立のソフトを提供した行為について、ほう助犯の成立を認めれば、ソフトが存在し、ソフトを用いて違法行為をする者が出てくる限り、提供者は刑事上の責任を無限に問われることになる。

 ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況について把握するのは困難で、どの程度の割合の利用状況によってほう助犯が成立するのか原判決の基準では判然としない。また、いかなる主観的意図の下で開発されたとしても、主観的意図がインターネット上で明らかにされることが必要か否かが原判決の基準では判然とせず、基準は相当でない。

 インターネット上におけるソフトの提供行為で成立するほう助犯は、新しいほう助犯の類型で、刑事罰を科すには慎重な検討を要する。ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然(がいぜん)性があると認識し、認容しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為の用途のみに、または主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めて提供した場合にほう助犯が成立すると解すべきである。被告は、ウィニーをインターネット上で公開・提供した際、著作権侵害をする者が出る可能性・蓋然(がいぜん)性を認識し、それを認容していたと認められるが、著作権侵害の用途のみ、またはこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてウィニーを提供していたとは認められないから、ほう助犯の成立を認めることはできない。

【ウィニーの画期的意義考】
 ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK72」のtaked4700氏の2009.10.9日付け投稿「「ウィニー」開発者に逆転無罪の意味、検察はどうするのか?」.は次のようにコメントしている。

 次に引用する記事のようにウィニー開発者に著作権法違反幇助の罪に関して無罪の判決を大阪高裁が出した。天晴れな判決だと思う。

 しかし、もともと、ウィニー開発者に著作権法違反幇助の罪を問うこと自体が無理なことだった。かなり強引な例えだが、ナイフや包丁を作っている工場に対して、それらの刃物を使った犯罪の幇助罪を問うようなものだからだ。そして、そのことを示したのが今回の判決だった。では、なぜ、警察・検察はウィニーを問題視したのだろうか?多分、それは、開発者がウィンドウズ仲間とも言える人たちではなかったこと、そして、インターネットの本当の目的、つまり、情報収集の仕組みをかなり正確にウィニー開発者が理解していたからではないだろうか?

 CIAが、ソ連崩壊とともに、それまでの対共産圏諜報活動から米国の富の増強そのものを目的にするように変わったと言うことはかなり知られた事実であるはずだ。だから、ソ連崩壊の直後から数年は、ヨーロッパの会社が本来受注するはずだった仕事をアメリカの会社にとられたが、それは、CIAのコンピュータを使った諜報活動があったからだとかなりよく話題に上ったものだった。つまり、パソコンまたはそのOSであるウィンドウズやインターネットの世界的な普及はもともとそれらを通じた非合法な情報収集とマインドコントロールを目的にしていたと見るとさまざまなことが合理的に説明できるのだ。

 ウィニーは、ウィンドウズまたはパソコンOS一般、そして、今のインターネットの仕組みに、情報収集を使用者が意識しない状態で可能にする仕掛けがあるということを明らかにしてしまった。だからこそ、ウィニー開発者は、本来問われる必要のない罪を問われたのだ。今後、検察は最高裁へ上告をするのだろうか?もし検察が上告をしたら、それこそ、日本のインターネット環境はマイクロソフトに支配されていることを検察自らが認めるようなものになるのではなかろうか。そして、そのことは、日本の富がどんどんとアメリカの資本家たちに吸い取られていくことを意味している。多分、日本の富がなくなったら、次に来るのは、日本の内戦だろう。


【金子勇逝去&追悼考】

 ファイル共有ソフト「ウィニー」開発者として知られる東大情報基盤センター特任講師、金子勇さんが6日夜、急性心筋梗塞のため42歳の若さで亡くなった。ウィニーの公開によって著作権法違反幇助(ほうじょ)罪に問われながら、最高裁で無罪を勝ち取った金子さん。天才プログラマーの突然の死は、ネットの世界に衝撃を与えている。

 ◇「暇なんで(中略)2chネラー向きのファイル共有ソフトの一つを作ってみるわ」。

 平成14年4月1日、巨大掲示板2ちゃんねるに書き込まれたこの一言から、ウィニー劇場の幕が開いた。約1カ月後に公開されたのは、利用者のパソコン同士を匿名性を保ったままつなぎ、直接データをやりとりするソフト。先の書き込み番号が47番だったことから開発者は「47氏」と呼ばれ、その技術力と発想力が称賛された。それが金子さんだった。だが、一時は数十万人が利用したとされるウィニーは、違法ファイル流通の温床となり、ウイルスに感染した利用者のパソコンからの情報流出も相次いだ。ウィニーでゲームや映画を違法流通させた利用者が有罪となり、金子さん自身も公開から2年後の16年5月、逮捕された。

 “包丁”開発者の責任

 「この人を絶賛してるやつ一杯いるけど、この人のせいで人生棒に振ったひともたくさんいるよな」、 「この人のせいじゃないだろ。包丁使って通り魔殺人があったとしても、悪いのは通り魔犯であって、包丁を作った職人さんじゃない」、「包丁は99%普通に使われる。ウィニーは99%違法行為に使われる」、「アメリカでは銃は100%人を傷つけるために使われるが、銃の製造者自体は犯罪者ではない」。

 これは、金子さんの死を受けてネット上で交わされた議論の一部だ。金子さんは「ソフト開発が罪となると技術者の大きな足かせとなる」として徹底的に争い、無罪を確定させた。ただ、長い裁判に伴い、ウィニーの開発は完全に止まった。「日本のインターネットの父」といわれる慶応義塾大の村井純教授(58)=情報工学=は、本紙の取材に「ひょっとしたらウィニーがビジネスの基盤に育っていた未来があったかもしれない。ただただ残念だ」とかみしめるように話す。P2Pと呼ばれるネットワーク技術を使い、大規模な利用にも耐えて作動するウィニーは革新的で、学術研究としても優れていたという。「ウィニーはソフト的にも社会的にも改善すべき点はあったが、世界で5本の指に入る大ソフトだった。金子さんは脂が乗っていた時期に改善に携われず、歯がゆかったろう」。

 プログラムは自己表現

 金子さんはウィニー開発以前から、個人サイトで数多くの実験プログラムを公開していた。自著「ウィニーの技術」(アスキー)では「キーボードを抱えたまま就寝、起きてまたキーボードに向かう。そのため電動式の起き上がりベッドを常用している」と暮らしぶりを明かしている。考えついたアイデアをすぐにプログラムして生活していたのだという。「私にとって、プログラムは表現手段」とも。金子さんには、プログラムは言葉を話すように、人生の一部だったのだろう。6月8日に更新された個人サイトに、新たなプログラムが加わることはもうない。一つの才能が失われた意味はあまりに大きい。(城)

 ◇【用語解説】「ウィニー」事件

 ファイル共有ソフト「ウィニー」公開によりネット上での違法コピーを手助けしたとして、金子勇さんが平成16年、著作権法違反の幇助(ほうじょ)容疑で京都府警に逮捕された事件。1審は有罪、2審は「違法使用をすすめていない」として逆転無罪。最高裁は23年12月、「著作権侵害を手助けしようという故意はなかった」として検察の上告を棄却し、金子さんの無罪が確定した。


【金子勇の継承者達考】
 2018.11.11日、「日本が失った天才、金子勇の光と影」。

 イノヴェイターとして脂ののった時期にWinny事件で逮捕され、紆余曲折を経て無罪を勝ち取ったものの、あっという間に他界した不世出の天才。金子勇がたどった無念の生涯は、「出る杭が打たれる」の典型といえるだろう。

 【対談】Winny開発者・金子 勇×インターネット寺院開祖・松本紹圭

 その社会的損失の大きさを伝えるべく、2018年現在、いろんな立場の人間が表現方法を模索している。なかでもユニークなのが、事件の映画化を目論む古橋智史だ。「出る杭が打たれない。そういう国にしたいと、本気で考えているんですよね」。古橋はIT系ヴェンチャー企業「スマートキャンプ」を率いる現役の経営者。金子からみて18歳年下の、若きフォロワーだ。彼は仕事の合間にクラウドファンディングで資金を募り、スタッフ集めや脚本づくりに奔走しつつ、金子の知人と会う機会をつくり、その生き様について教えを乞うている。そんな古橋に手を差し伸べるのは、株式会社Skeed。あのWinnyにおいて問題となった部分を改良・商用化すべく、生前の金子とその仲間が創業したスタートアップだ。代表取締役の明石昌也は、金子の右腕として辣腕を振るった経験をもつ。「ぜひ金子さんのことを、多くの人に知ってほしい。彼は発想の天才で、Winnyは彼の生んだプロダクトのひとつに過ぎない。なのに、あの事件が、彼から貴重な7年間を奪った。最先端にいる研究者の前途を潰したんです」。わたしたち日本人にとって、それは間違いなく悲劇だった。

 7年間を覆ったWinnyという「影」

 2002年に発表されるや否や爆発的に普及したファイル共有ソフトWinny1(Winny version1)は、データ転送における優れたアルゴリズムに加え、高い「匿名性」を実現していた。それゆえ、一部のユーザーが違法に入手した映画や音楽などの商用データ、果てはコンピューターウイルスまでWinnyにアップロードし、世界中に拡散するという事件が頻発。その結果、Winny1の開発者である金子までが(厳密にはWinny2を開発したかどで)「著作権法違反幇助」の嫌疑をかけられ、2004年に逮捕、起訴される。ツールを悪用した人物ではなく、ツールをつくったプログラマーに「悪意があった」とするのは過剰かつ不当な対応だ。そもそもWinny自体は合法なファイルも共有できる。いまでいえば、YouTubeに著作権違反の動画がアップされるたびに、YouTubeの経営者が投獄されるようなものである。現在では、動画や音楽などの配信サーヴィスに違法なデータがアップロードされた場合、著作権者が申し立てれば運営側が削除する、という対応が一般的だ。ところが当時のWinnyは、問題の起きたファイルを削除する機能を搭載していなかった。金子はWinnyにその機能を付加する方法を考えついていたが、京都府警に拘留されてしまった結果、開発を継続できなくなる(その後、Winnyを引き継いだSkeed社製品に搭載)。世界を変えるほどの新しい技術は、未知へのチャレンジ精神が生み出すものだ。しかし、それが誰にどう使われるか、何がどう課題となるのかは、世に問うてみなければわからない。本質的に、研究とは「守られるべき存在」であり、技術とは「改良し続けるべきもの」だ。しかし、当時の警察にはそういった深慮が欠けていた。理解できず、だから疎んじる。それは最悪だ、と古橋は憤る。「だってそうでしょ? Winnyのような攻めたプロダクトをつくろうとするイノヴェイターが、萎縮してしまう結果につながりかねないんですよ」。

 金子の盟友だった明石は、その温厚な人柄を懐かしむ。私利私欲にほだされず、ものごとに動じない。他人の悪意に無頓着で、細かいことはあまり気にせず、そして子どものようにプログラミングに熱中した男。「裁判の費用を有志で募ったのですが、3週間で1,600万円が集まりました。いまでいうクラウドファンディングですよ。金子さんが、みんなに愛されていた証拠です」。地裁では有罪判決が下り、150万円の罰金刑を言い渡された金子は、控訴を決意する。それも「らしい」決断だった。「金子さん自身は争いごとが大嫌い。そのまま罰金刑を受け入れてもいい、と思っていた。でもきっと、後に続く人たちが困る。それで闘う決意をしたんです」。

 2011年、ようやく金子の無罪が確定。だが2013年の夏、金子の生涯はあっけなく幕を閉じる。東京大学の特任講師として職に復帰してから、わずか半年後のことだった。ひとつの技術自体を潰すことよりも、ひとりの才能を潰したことの方が罪深い、と明石は指摘する。「たったひとり、1カ月であのWinnyをつくった。つくり方も凄かったんです。2ちゃんねるの掲示板を活用して、試作品を公開し、見ず知らずのユーザーからの意見を募って、改良する…。いまどきのITコンシューマライゼーション(消費者主導型IT)を、グーグルより先にやったのが金子なんです」。その先見性には驚くべきものがある。1台のサーヴァーが多数の端末に提供するサービスが主流だった2000年頃に、金子は「P2P(ピア・ツー・ピア:端末同士によるネットワーク)」を基礎におくWinnyを手がけた。のちに仮想通貨の基となるブロックチェーン技術を生み出し、これからのIoT社会を支える基盤技術と目されているP2P──。金子には、まるで2020年頃までインターネットの未来が見通せたかのようだ。

 ところが日本の社会は彼の資質を活かすことができず、7年もの長きにわたり、ただネガティヴに受けとめ続けた。古橋は、被った損失の大きさを広く知らしめるべきだと主張する。「たったひとりのプログラマーがつくったツールを、100万人ものユーザーが使っていた。いま考えると、やっぱりとんでもないプロダクトだったんです」。そんな天才の遺志を継ぐのが、Skeed社だ。

 金子の遺産、SkeedOzという「光」

 係争中の金子とともに有志が立ち上げた株式会社Skeed(旧・ドリームボート)は、P2P型のファイル共有技術、そして独自のプロトコルに基づく高速データ転送技術を駆使し、さまざまなプロダクトを市場に投じている。その最新型たるネットワーク基盤技術が「SkeedOz」。Skeed社のIoTエバンジェリスト・柴田巧一は、災害対策で力を発揮するテクノロジーだ、と胸を張る。総務省のバックアップを受け、徳島県での実証試験も始まっている。「津波の被害が想定される町で、住民にはBluetoothのタグを携帯してもらいます。そして、タグの位置を把握するための中継器を、町内に40〜50個ほど設置しました。スマートフォンにアプリを入れておけば、住民がお互いの居場所を常に把握できます」。SkeedOzに基づいて動作するタグと中継器のシステムは、インターネットを介さずに独自のネットワークを形成する。仮に災害が生じ、通信キャリアがダウンしたとしても、安定して動作し続ける。さらにP2Pの利点として、何台かが壊れてしまっても、残った中継器が力を合わせ、バッテリーの電力が続く限りシステムは動作する。各々がGPSを搭載しているから、波に流されたり崖から転げ落ちたりしても、その場所を自ら把握しつつ、傍を通った住民の位置を割り出し、知らせ続けてくれる。「IoTとP2Pを組み合わせた事例として開発しました。この中継器は扱いも簡単で、細かい設定がいらない。充電さえできていて、何台か置いちゃえば、自律的に動きます」。

 しかも、金子がWinnyを通じ世に問うた技術には、「階層化されたP2P」という独創性が備わっているという。その価値が明らかになるのは、むしろこれからだと柴田は預言する。「端末すべてにAIが搭載されて、それぞれに役割をこなすようになって、お互いの能力とかスピードを把握しつつ、全体が最適化されていく…。これはまさに、Winnyが動いていた原理と同じなんです」。金子に端を発するP2P技術を牽引するSkeed。その最新事例が防災システムだという事実を知り、古橋は感嘆の声をあげた。「凄い。災害の多い日本にとって、とても重要なテクノロジーだと思います。もう実証試験が始まってるんですね。あの頃の技術が、こんなふうに活きているなんて…」。

 金子勇とは何者だったのか。Winnyとは、P2Pとは。仮想通貨の問題を金子ならどう解決したか。あるいは…。事件を語り継ぎ、技術を進化させ、いまも彼と歩み続けるフォロワーたち。失われた7年を取り戻そうとする人々の手によって、Winnyという暗闇のなかから、幾筋もの光芒がみてとれる。残念ながら日本は金子を失った。けれど金子が放った矢はまだ失速していない。天才の残像はいまもなお、未来を目指し、走り続けている。

 「日本が失った天才、金子勇の光と影」の「コメント」。
 どのような天才だろうと、ある一点を満たせなければ、その人は悪人にされ、抹消される。つまり、金持ちに、より多くの富をもたらすという点がかけていた結果起こった悲劇だ。彼が開発、立案したのは、そのどれもが人の為、世の為を思っての素晴らしいものだった。が、それが普及すれば、既得利権が脅かされるものばかりだ。理想なら、非営利団体が彼を支援して守り、より良いモノを開発できるよう支援すべきだったが、その非営利団体でさえ金持ちのいいなり。ただ明るみに出てないだけでもっと潰されているんじゃないのかな?
 アップル創業者のジョブズはウォズニアックと電話のただ掛け機械・ブルーボックスを売っていたし、Facebook創業者のザッカーバーグは、ハッキングしてFacemashをつくった。どちらもそれぞれの創業者の「影」の部分で、アメリカではそこまで問題視されていないけど、日本だったら、どうだっただろうか。日本は「影」の部分ばかり取り上げて、その人の持っている「光」を覆い隠してしまうようなことばかりしている印象がある。それは色々な意味でもったいないんだけど、誰かの瑕疵を叩くことへの快感が、よいことを評価する行為に勝っている。まずこの状況を何とかしないといけないんだろうな。
 故金子氏が利用したP2Pの技術って、今世界中の様々な分野で利用されているんですよね。
私が携わっている放送分野でも、大容量の動画データをその場で転送するためにP2P(所謂ブロックチェーン)技術が使用されているのですが、大変残念なことに日本ではこの事件をきっかけとした司法による印象操作のため、この技術を利用するユーザーが極めて少なく、高解像度動画編集の分野で大きく後れを取っているという実情があります。「日本の司法は中世並みだ」という風刺も国際会議の中で揶揄されていた通り、過度に封建化された日本の法律は一度大きく見直されるべきであると私は考えています。
 開発時、リアルタイムで金子氏の掲示板への書き込みを見ていました。著作権違法の問題については、「デジタル・データは、完全コピー出来る事こそが最大の利点。だから、制限したり禁止するのではなく、コピーされたり、ダウンロードされた時点で著作権者に利益が自動的に入るようなシステムをネットに作り出す未来が必要、それが可能な仕組みをいろいろ考え中であり、皆も考えて欲しい」と言ってました。現在、YouTubでは、著作権者が自分でアップしてCM収入を得られるので、部分的にはネットで実現出来ています。もし、ずっと存命であれば、また違った未来をネット社会に提供して下さったかも知れないと思うと残念です。
 Winnyはインターネットの未来を感じた凄いソフトだった。金子氏が逮捕されたのは国家にとって脅威になるレベルの天才だったからだと思いたい。もし本当に著作権侵害幇助云々のみの理由で逮捕したのなら日本の警察や司法はチンパンジー以下の白痴揃いだろう。そんな万引きレベルの瑣末な事などどうでもいいと思える程、国家による統治さえ超える個の結びつきの可能性を秘めた革命だった。急死は本当に病死だったのか疑念を抱く程の危険な才能だった。



 



(私論.私見)