「ヒトラー古記事問題」で見えてくる著作権の本質 |
更新日/2023(平成31.5.1栄和改元/栄和5).4.5日
(れんだいこのショートメッセージ) |
れんだいこに対する著作権違反云々の指弾が絶えない。窮すれば通ずという訳で、次のような有益情報を見つけた。「『ヒトラーを褒め称えた古い雑誌記事』のウェブログ掲載で著作権論議」(日本語版:藤原聡美/長谷 睦)であるが、これは非常に重要なことをメッセージしており、現代著作権法の本質について考えさせられる。 次のような内容になっている。れんだいこ風に分かりやすく編集し直す。 2005.111.18日 れんだいこ拝 |
【「その1、発端。ウォルドマン氏がヒトラー記事掲載】 | |||
1938年、イギリスの「ホームズ&ガーデンズ」誌が、ヒトラーのバイエルン地方での山荘生活の様子を伝えた記事を掲載した。記事は、「バッヘンフェルトの名士」という表現でヒトラーを次のように賛美していた。
時日が特定できないがその後、イギリスの日刊紙「ガーディアン」紙デジタル版の発行責任者であるサイモン・ウォルドマン氏が、この記事を発見し、同氏のインターネットサイト「ウォルドマンの言葉」(Words of Waldman)に「ヒトラーの山荘、ハウス・バッヘンフェルトを訪ねて」と題する3ページものを掲載した。 ウォルドマン氏は後日、自身のウェブログにこう書いている。
これによれば、ウォルドマン氏がヒトラー記事に注目し掲載したのはヒトラー賛美ではなく、「ヒトラー賛美を風潮としていた時代のニューマを揶揄する」観点からであったことが分かる。ところが、この記事がホロコースト見直し論者に注目され、ウェブサイトも含め、このページのミラー版がウェブ上に広がった。僅か数週間でウェブログへのトラフィックは1日1万件にも達し、訪問者の大多数が記事をダウンロードした。 |
【その2、抗議。「ホームズ&ガーデンズ」誌社が著作権を主張して抗議】 | |
これに対し、版権を持つ「ホームズ&ガーデンズ」誌社が、ウォルドマン氏に著作権を主張して抗議した。ウォルドマン氏は、「ホームズ&ガーデンズ」誌の論説委員にして英国IPCメディア社のイソベル・マッケンジー=プライス氏に電子メールを送り、この記事の掲載誌を持っているかと尋ねた。 これに対し、マッケンジー=プライス氏は次のように返信した。れんだいこの理解に誤りなければ次のような内容となっている。
ちなみに、英国IPCメディア社は、米AOLタイムワーナー社の子会社で、「ホームズ&ガーデンズ」誌のほか、「イン・スタイル」誌、「マリ・クレール」誌、「ファミリー・サークル」誌のイギリス版など76の雑誌を発行している。 |
【その3、ウォルドマン氏がヒトラー記事削除】 | |
ウォルドマン氏は最終的にIPCメディア社の要請に応じ、記事を削除した。但し、記事が見られるミラーサイトへのリンクは削除しなかった。この時、サイト上にマッケンジー=プライス氏との遣り取りの経緯を掲載し、次のように述べている。
ウォルドマン氏は、マッケンジー=プライス氏にコメントを求めたが、返答はなかった。ウォルドマン氏は後日、「著作権を行使するというIPCメディア社の決定に異議を唱えるつもりは全くない」と述べている。 テクノロジー専門家でネオテニー最高経営責任者(CEO)の伊藤穣一氏は、ウェブログ上で、記事のスキャンはおそらく著作権法に違反するだろうと指摘している。 |
【その4、アービング氏が、ウォルドマン氏のミラーページを掲載】 | |||
事件は更に展開する。ヒトラーの再評価を主張するイギリス人歴史家のデビッド・アービング氏は、自身のウェブサイトでヒトラー関連コンテンツのインデックスを管理しており、ホロコーストなど起こらなかったとの信念を持っている。そのアービング氏が、ウォルドマン氏の元記事に注目し、ミラーページを掲載した。アービング氏は次のように述べている。
アービング氏は、ワイアード・ニュース宛ての手紙の中で、次のように書いている。
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【その5、強権著作権派によるアービング氏批判】 | ||
しかし、アービング氏の言に対して次のような反論が為された。
アメリカン大学のピーター・ヤーシ教授(法学)は、そのほかの点でもアービング氏の反論は通りそうにないとして、次のように述べている。
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【日本語版関連記事】 | |||
・「ガレージ扉開閉装置」に著作権はあるのか? ・RIAAに訴えられた違法ファイル交換ユーザー、それぞれの言い分 ・著作物は誰のため? 作品の再利用をめぐる米国の現状 ・今春発効の著作権条約で世界の著作権は守られるか? ・独政府、「ネブラスカのヒトラー」のサイトに閉鎖圧力 ・「著作権至上主義は文化の衰退をもたらす」 ・ドイツ最高裁判決「反ナチス法は国外サイトにも適用可能」 ・ドイツ国内での『わが闘争』ネット販売は是か非か |
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「極まった時こそ事象の本質が見えてくる」という公理に従えば、「ヒトラー古記事問題」は、著作権の本質の何たるかを浮き彫りにさせている。一体、「ヒトラー関連の古記事」を紹介したところで何の害があろう。害があると主張する者はあまりにも傲慢僭越だ。我々は、いろんな知識を知り、学び、咀嚼して自前の見解を練る必要がある。例え、ヒトラーであろうとも歴史から隠蔽されるには及ばない。それこそ姑息な焚書的対応ではないのか。「雑誌マルコポーロ廃刊事件」も背景が同じであろう。 |
【「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質】 | ||||||||||
「ヒトラー古記事問題」と同種事案を採りあげている「ドイツ最高裁判決「反ナチス法は国外サイトにも適用可能」(上)」を転載しておく。(読みやすくするため、論旨を変えぬ範囲でれんだいこ責任で多少アレンジしている)
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【「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質】 | ||||||||
「ドイツ国内での『わが闘争』ネット販売は是か非か」も転載しておく。 (読みやすくするため、論旨を変えぬ範囲でれんだいこ責任で多少アレンジしている)
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【「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質】 | ||||||
「独政府、「ネブラスカのヒトラー」のサイトに閉鎖圧力」([日本語版:中沢 滋/高橋朋子])も転載しておく。(読みやすくするため、論旨を変えぬ範囲でれんだいこ責任で多少アレンジしている)
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以上、ヒトラーに関連する著作の規制として著作権理論が振り回されている事実を確認した。これを仮に「ヒトラー著作規制著作権論」とする。著作権の発生そのものは、近代以降の対価主義の反映として首肯せざるを得ないものがあるのであろうが、著作権の本来の歴史的登場の在り方が、「ヒトラー著作規制」の登場によって大きく変質せしめられ、今や「時の政府の意向に反する見解の規正法」として機能せしめられつつあるという認識が必要ではなかろうか。 こういう場合、「ヒトラー著作規制」の場合には仕方がないのだとするのが正しい所作だろうか。れんだいこは、理念と基準の開陳なき「ヒトラー著作規制」の一人歩きの方を心配する。一般に、ある対象をを批判したければ、その研究を盛んにした方が目的に叶うのではないのか。ヒトラーの場合なぜ例外なのか。ここを問わなければならないように思う。優し過ぎるおせっかいには、いつの世でも裏がある。そういうことだろう。 2005.11.22日 れんだいこ拝 |
(私論.私見)