「ヒトラー古記事問題」で見えてくる著作権の本質

 更新日/2023(平成31.5.1栄和改元/栄和5).4.5日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 れんだいこに対する著作権違反云々の指弾が絶えない。窮すれば通ずという訳で、次のような有益情報を見つけた。「『ヒトラーを褒め称えた古い雑誌記事』のウェブログ掲載で著作権論議」(日本語版:藤原聡美/長谷 睦)であるが、これは非常に重要なことをメッセージしており、現代著作権法の本質について考えさせられる。

 次のような内容になっている。れんだいこ風に分かりやすく編集し直す。

 2005.111.18日 れんだいこ拝


【「その1、発端。ウォルドマン氏がヒトラー記事掲載】
 1938年、イギリスの「ホームズ&ガーデンズ」誌が、ヒトラーのバイエルン地方での山荘生活の様子を伝えた記事を掲載した。記事は、「バッヘンフェルトの名士」という表現でヒトラーを次のように賛美していた。
 概要「ヒトラーには建築家や室内装飾家としての才能があり、才気あふれる外国人、とくに画家や歌手、音楽家たちの一団を大いに楽しませる話し上手」云々。

 時日が特定できないがその後、イギリスの日刊紙「ガーディアン」紙デジタル版の発行責任者であるサイモン・ウォルドマン氏が、この記事を発見し、同氏のインターネットサイト「ウォルドマンの言葉」(Words of Waldman)に「ヒトラーの山荘、ハウス・バッヘンフェルトを訪ねて」と題する3ページものを掲載した。

 ウォルドマン氏は後日、自身のウェブログにこう書いている。
 概要「当時、イギリスでは中流の上の階級や上流階級に属する人々が、『ヒトラーという男はなかなかいいことを考えている』と感じていたらしいという話はよく耳にする。しかし、こんな風に滑稽なまでにこびへつらった内容の記事を見ると、後になれば嫌悪の対象にしかならないような人物が、その時代にあっては、人々に魅力的に映ることがあるのだととてもよくわかる」。
 概要「この記事は現代社会にさまざまな教訓を教えてくれると思う。最近は、外交政策において何が道義的に正しく、また何が間違っているのか混乱してしまうことが多い。良い人間と悪い人間の区別がまるでつかないこともしょっちゅうだ。うぬぼれの強い我々現代人は、こういったことは新たに出てきた風潮だと考えがちだ。だが、この記事を見れば、そんなことは昔からあるのだと教えてくれる」。 

 これによれば、ウォルドマン氏がヒトラー記事に注目し掲載したのはヒトラー賛美ではなく、「ヒトラー賛美を風潮としていた時代のニューマを揶揄する」観点からであったことが分かる。ところが、この記事がホロコースト見直し論者に注目され、ウェブサイトも含め、このページのミラー版がウェブ上に広がった。僅か数週間でウェブログへのトラフィックは1日1万件にも達し、訪問者の大多数が記事をダウンロードした。 

【その2、抗議。「ホームズ&ガーデンズ」誌社が著作権を主張して抗議】
 これに対し、版権を持つ「ホームズ&ガーデンズ」誌社が、ウォルドマン氏に著作権を主張して抗議した。ウォルドマン氏は、「ホームズ&ガーデンズ」誌の論説委員にして英国IPCメディア社のイソベル・マッケンジー=プライス氏に電子メールを送り、この記事の掲載誌を持っているかと尋ねた。

 これに対し、マッケンジー=プライス氏は次のように返信した。れんだいこの理解に誤りなければ次のような内容となっている。
 概要「かなり古い記事なので、当社は該当記事が掲載された雑誌を持っていない。しかし、IPCメディア社としては、著作権及び版権を主張する。当該記事が掲載されたのがいつであるにせよ、当方がその雑誌を保存していないにせよ、記事が版権者IPCに許可なく複製され公にされることを黙認するわけにはいかない。それゆえ、そちらのウェブサイトからこの記事を削除していただくようお願いする」。

 ちなみに、英国IPCメディア社は、米AOLタイムワーナー社の子会社で、「ホームズ&ガーデンズ」誌のほか、「イン・スタイル」誌、「マリ・クレール」誌、「ファミリー・サークル」誌のイギリス版など76の雑誌を発行している。

【その3、ウォルドマン氏がヒトラー記事削除】
 ウォルドマン氏は最終的にIPCメディア社の要請に応じ、記事を削除した。但し、記事が見られるミラーサイトへのリンクは削除しなかった。この時、サイト上にマッケンジー=プライス氏との遣り取りの経緯を掲載し、次のように述べている。
 概要「私は、この記事で金儲けをしているわけではなく、貴社の利益を奪うようなことはしておらず、誰であってもこの(ひどく質の悪い)スキャン画像を使って金儲けなどできず、『ホームズ&ガーデンズ』誌を毀損するような言動は、ほのめかしさえしていない。あなたがたはいささか大げさに騒ぎすぎている。こういった記事は重要かつ興味深い歴史文書だ。それははっきりおわかりのことだろう。こういうものはできるだけ大勢に見せ、そこから学んでもらうべきだ」。

 ウォルドマン氏は、マッケンジー=プライス氏にコメントを求めたが、返答はなかった。ウォルドマン氏は後日、「著作権を行使するというIPCメディア社の決定に異議を唱えるつもりは全くない」と述べている。

 テクノロジー専門家でネオテニー最高経営責任者(CEO)の伊藤穣一氏は、ウェブログ上で、記事のスキャンはおそらく著作権法に違反するだろうと指摘している。

【その4、アービング氏が、ウォルドマン氏のミラーページを掲載】
 事件は更に展開する。ヒトラーの再評価を主張するイギリス人歴史家のデビッド・アービング氏は、自身のウェブサイトでヒトラー関連コンテンツのインデックスを管理しており、ホロコーストなど起こらなかったとの信念を持っている。そのアービング氏が、ウォルドマン氏の元記事に注目し、ミラーページを掲載した。アービング氏は次のように述べている。
 「自分なら圧力をかけられても、妥協をせずに掲載を続けようとしただろう」。

 アービング氏は、ワイアード・ニュース宛ての手紙の中で、次のように書いている。
 概要「都合の悪いものを押さえ込むために何かが動いていると感じる。今回の『ホームズ&ガーデンズ』の行動の裏にはそうした意図があるのではないかと思う。私ならもっと断固とした態度を取り、限界まで頑張るだろう」。
 「自分なら記事の掲載は言論の自由を保障した合衆国憲法修正第1条によって保証され、公益に適う行為だと主張する」。

【その5、強権著作権派によるアービング氏批判】
 しかし、アービング氏の言に対して次のような反論が為された。
 「イギリスの法律は米国の修正第1条を認めていない。故に、ウォルドマン氏の行為は著作権違反に当たる」。

 アメリカン大学のピーター・ヤーシ教授(法学)は、そのほかの点でもアービング氏の反論は通りそうにないとして、次のように述べている。
 概要「米国の法律は著作権適用の例外事項として『正当な利用』によるケースを認めているが、これは、オリジナル作品の市場に影響しない批評や風刺、教育目的で使われる場合にのみ、複製を認めるというものだ。一方、イギリスの著作権にも『公正使用』と呼ばれる類似の概念が存在するが、米国における正当な利用の概念より適用範囲はずっと狭く解釈されることが多い。現行のイギリスの法律において、『公益性』に基づく例外扱いは理論上のものであり現実性はあまりない。故に、今回のケースには適用されないだろう」。

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ドイツ最高裁判決「反ナチス法は国外サイトにも適用可能」

ドイツ国内での『わが闘争』ネット販売は是か非か
(私論.私見) 「『ヒトラー古記事問題』で見えてくる著作権の本質」について
Re:れんだいこのカンテラ時評268 れんだいこ 2007/03/15

 「極まった時こそ事象の本質が見えてくる」という公理に従えば、「ヒトラー古記事問題」は、著作権の本質の何たるかを浮き彫りにさせている。一体、「ヒトラー関連の古記事」を紹介したところで何の害があろう。害があると主張する者はあまりにも傲慢僭越だ。我々は、いろんな知識を知り、学び、咀嚼して自前の見解を練る必要がある。例え、ヒトラーであろうとも歴史から隠蔽されるには及ばない。それこそ姑息な焚書的対応ではないのか。「雑誌マルコポーロ廃刊事件」も背景が同じであろう。

 これを思えば、著作権の本質とは要するに、学術的に考察される問題であるというよりは元々非常に政治主義的なものであり、時の最強為政者にとって不都合な記事が情報化され共認されるのを抑止する為の抑圧理論でしかないのではなかろうか。つまり、著作権の本質とは、時の最強為政者の支配基盤を有利にする為のプロパガンダを容認し、不利な言説に対しては反対に、著作権法を盾にして「表現の自由、知らしめる権利の抑圧」として機能させている、のではなかろうか。

 戦前では、マルクス主義関係文献が同じようなめに合わされた。戦後は規制できぬとなるや、人畜無害への表記書き換え、誤訳化、原典読まさず代わりに二束三文解説書を押し付けている。これらは同じ流れなのではなかろうか。

 これを思えば、いわゆるサヨ、ウヨが著作権に執心している様の反動性が見えてこよう。れんだいこは早くより、政党、宗教、ジャーナリズムがその言論紙に著作権を被せる行為を変調として批判しているが、「ヒトラー古記事問題」を通じてその権力的仕掛けが浮き彫りになったと思う。「『ヒトラーを褒め称えた古い雑誌記事』のウェブログ掲載で著作権論議」(日本語版:藤原聡美/長谷 睦)は、そういう意味で貴重な指摘をしていることになる。

 「ヒトラー古記事問題」で見えてくる著作権の本質 
 ttp://www.marino.ne.jp/~rendaico/hittler/tyosakukenco.htm

 2004.10.30日、2007.3.15日再編集 れんだいこ拝


【「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質】
 「ヒトラー古記事問題」と同種事案を採りあげている「ドイツ最高裁判決「反ナチス法は国外サイトにも適用可能」(上)」を転載しておく。(読みやすくするため、論旨を変えぬ範囲でれんだいこ責任で多少アレンジしている)
 ベルリン発。ドイツの最高裁が今週、国境を超えた判決を下した。この判決が何かを明らかにしたとすれば、インターネット上の自由の擁護論者と、人種差別や憎悪を煽る行為を監視する人々との間には、依然として大きな大きな隔たりがあるということだ。

 ドイツ連邦最高裁判所は12日(現地時間)、他国サイトへのドイツ法の適用に関する下級裁判所の判決を覆す判決を下した。対象となるコンテンツがドイツ国内からアクセス可能である限り、別の国でウェブ上にコンテンツを掲示する外国人に対しても、ドイツの法律が適用されるという判断を示したのだ。最高裁は、とりわけオーストラリア在住のホロコースト否定論者であるフレデリック・テーベン氏が「アウシュビッツの嘘」を広めたとして、同氏に有罪判決を下した。

 ドイツ生まれのテーベン氏は、オーストラリアを拠点にみずからが率いる組織『アデレード協会』のウェブサイトにおいて、ホロコーストには歴史的根拠がないとの考えを人々に広めている。

 今回の判決に対する世界の反応は、大きく分かれた。

 ベルリンの名高いハッカーグループ『カオス・コンピューター・クラブ』(CCC)のリーダーで、『インターネット・コーポレーション・フォー・アサインド・ネームズ・アンド・ナンバーズ』(ICANN)の新理事に選ばれたアンディー・ミュラー=マグーン氏は、判決の合法性についてどう思うかとの問い対してそっけなく答えた。
 「ドイツ最高裁は、事実上世界中を裁きたいようだ。これが何を意味するのか、誰もわからない。ただ、ひとつはっきり言えるのは、おそらくたいして内容を理解していない裁判官による判決だった可能性が高い、ということだ」。

 技術の未来を予見する人物として、ドイツではちょっとした著名人であるミュラー=マグーン氏は、さっそく措置を講ずる計画だという。週明けの18日午前にドイツ最高裁と連絡をとり、最高裁から代表者をドイツ議会に招いて、今回の判決、および判決を今後どのように適用すべきかについて討論を行なうつもりだと同氏は述べた。
 「最高裁の判決は、これまで下されたインターネット関連の判決の中でも最悪のものだ。もし諸外国がこれをある種の方向付けとしてとらえ、自国で活動する他国の市民に対しても法を適用しはじめたら、世界規模での自由な情報の流れは、現実世界において不自由な状況へと一気に突き進む恐れがある」。

 「(最高裁には)少し立ち止まって考え直してもらいたい」とミュラー=マグーン氏。有罪判決を受けたテーベン氏も、同様の主張を行なった。「ドイツは、インターネットにアクセスする人には選択の自由がないと言って、再び世界を支配しようとしている」と、テーベン氏はAP通信社に語った。

 一方、ロサンゼルスにあるサイモン・ワイゼンタール・センター(ホロコーストと人種差別などをテーマとした施設)の副責任者で、ユダヤ教のラビ(聖職者)でもあるエイブラハム・クーパー氏は、カリフォルニアから電話インタビューに答えて、次のようにドイツ最高裁の判決を評価した。
 「われわれは責任を貫いたドイツ当局を称賛する。これがドイツの民主主義であり、法律だ」。
 「今年に入ってからの最初の数ヵ月間、ドイツでは憎悪を煽る犯罪が1000件にものぼった。ドイツの民主政府が『わが国は反ナチス法を施行しており、現在もなおこの法律を必要としている』と言うとき、われわれは政府に注目し、政府に感謝の気持ちを持たねばならない」。
 「大西洋の反対側に住むわれわれにとっては、今回の判決は自分とは関係がないか、あるいは実感がわかないものかもしれない。だが、アデレード協会のウェブサイトに憤慨しないとしたら、[マーティン・ルーサー・キング牧師の功績に疑問を投げかける]『エムエルキング』(mlking.org)サイトはどうだろうか? これは白人至上主義者が主催するサイトだが、法律でこのサイトを禁止することはできない。しかし、これは早いうちに何とかすべきだというわれわれへの警告でもある。オンライン上に図書館員など存在しない。子どもたちはインターネットの世界で、ロシアンルーレットをやっているようなものだ」。

 クーパー氏は、インターネットの幅広い人気によってごく最近浮上してきた問題に対し、米国をはじめ各国のインターネット自由擁護論者は寛容な心で対するべきだと主張する。
 「ドイツやフランスが言っているのはおおむね、『これが我々の社会における憎悪や人種差別、ホロコースト否定といった問題への対処方法だ。米国には米国の法律があるだろうが、少なくともわれわれの価値観に敬意を表してほしい』ということだ。われわれはこの意見を尊重しなければならない」。
 概要「血を流したのは、彼ら自身なのだ。われわれにとってはただの物語でも、ドイツやフランスではれっきとした現実だ。インターネットのコミュニティーは、これらの問題をもっと平和的な方法で処理しなければならないだろう」。
 (12/19に続く)[日本語版:森口けい子/高橋朋子]
(私論.私見)
 「ドイツの最高裁が、ホロコースト否定論者の言論活動を制約するため、国境を超えてつまりいかなる国に於いてもホロコースト否定論を広めることを許さないとする判決を下した」ということになる。無茶苦茶な判決であるが、これが罷り通るのだろう。誰が糸を引いているのか明らかであろう。世界の司法が見識を問われている。

 しかし、片方の手で言論活動の自由を云い、他方の手で言論活動を規制するという便利な法理論が何ゆえのさばるのだろう。ヒトラー論と云いホロコースト論と云い、ネオシオニズム批判に及ぼうとすると必ずこうなる。

 2005.11.22日 れんだいこ拝

【「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質】
 「ドイツ国内での『わが闘争』ネット販売は是か非か」も転載しておく。 (読みやすくするため、論旨を変えぬ範囲でれんだいこ責任で多少アレンジしている)
 ベルリン発。ヤフー・ドイツ社がアドルフ・ヒトラーの自伝『わが闘争』を販売したという申し立てを受け、ミュンヘンの検察官が捜査を進めているとのニュースが今週、流れた。この報道によって、この種の物品の売買をいっそう厳しく規制すべきだという気運がドイツ国内で高まる可能性がある。

 「残念なことで、ショックを受けている」。ドイツのユダヤ人コミュニティーの広報責任者はこのように述べた。
 「反ユダヤ的な著作物や人種差別的、外国人差別的な著作物をインターネット・サービスを通じて販売する行為は、禁止されるべきだ。同じくヤフー社が関わるフランスでの一件からもわかるように、今後数週間から数ヵ月の間に、ヨーロッパではこの問題に対する新たな意見が出てくるだろう。新しい法体系を確立し、憎悪をかき立てるような著作物の流通を認めないようにしなければならない。憎悪をかき立てる著作物を流通させないというのは、世界共通の人道主義的メッセージだと私は思う」。

 インターネット上で国境を越えてものを買うことについては、国際的に議論が巻き起こっているが、きっかけとなったのは先週、フランスの裁判官がヤフー・フランス社に対して下した判決(日本語版記事)だ。裁判所は、フランス国民がヤフーのオンライン・オークションを通じてナチス関連の物品を購入することを阻止するような方策を講じるよう、同社に命じた。ヤフー社は、問題への技術的解決策を見いだすため3ヵ月の猶予を与えられたが、上訴するものと見られている。

 インターネット問題の専門家で、フランスのジャン=ジャック・ゴメ裁判官の要請に応じて法廷の証言台に立ったビント・サーフ氏は、英BBC放送のインタビューの中で、今回の判決はそういった種類の規制が持つ「限界や危険」を十分に考慮していないと語った。サーフ氏は先頃、『インターネット・コーポレーション・フォー・アサインド・ネームズ・アンド・ナンバーズ』(ICANN)の新しい理事会議長に選ばれた人物。

 「もし世界中の国の司法当局が、自分たちの国の中だけを対象に何らかのフィルターをかけるよう口々に主張したなら、ワールド・ワイド・ウェブは機能しなくなるだろう。判決ではこのような考え方が無視されている」とサーフ氏は言う。

 だがドイツでの一件は、フランスの一件とは事情が異なる。フランスの場合は、インターネットを媒体に世界的規模でビジネスを展開している米国企業が問題にされていたのに対し、ドイツの場合は、インターネットを媒体にドイツ国内でビジネスをしているドイツ企業という形で問題にされているのだ。

 ヤフー・ドイツ社がドイツ国内で『わが闘争』を販売すれば、ドイツの法律に違反することになる。ドイツ政府は、この本やその他の「憎悪をかき立てる著作物」にあたる物品の販売について、数々の厳しい規制を設けている。しかし、一部報道とは異なり、『わが闘争』という書物自体は、ドイツで違法というわけではない――違法なのは、インターネットなどを介してこれを無制限に販売することだ。

 昨年、米アマゾン・コム社がドイツ在住の複数の人間に対して『わが闘争』を販売していることが明らかになり、ドイツで大論争が起こった。ロサンゼルスにあるサイモン・ワイゼンタール・センター(ホロコーストと人種差別などをテーマとした施設)から要請を受けたドイツのヘルタ・ドイブラー=グメリン司法大臣は、アマゾン・コム社と米バーンズ&ノーブル・コム社に宛てて書簡を送り、ドイツ国民に対するこの本の販売を中止するよう求めた。なかには研究(もしくは報道)のためにこれを必要としている人がいるかもしれないにもかかわらず、アマゾン・コム社は販売中止に同意した。

 ドイツ司法省の報道官は当時、このように述べている。
 「町の書店へ行けば、そこには販売員がいて、客の顔を直接見ながら、たとえば相手が学生で、本当にその本に興味を持っているかどうかといったことが判断できる。禁止されているのは本そのものではなく、だれかれ構わずそれを販売する行為だ。インターネットを通じて売れば、どんな人間がそれを買おうとしているのかまったくわからない――誰にでも与えること、それが禁止されているのだ」。

 また別の報道官は、省の方針をこう説明した。
 「歴史に関心を持つ個人として『わが闘争』を買うこと、それは一向に構わない。『わが闘争』には編集が施されているさまざまな版があり、内容に注釈が付されている。ただ、第二次世界大戦中に出回っていた版だけは買うことができない。編集されていない版を販売することは犯罪だ。ドイツ国内で販売されているのは編集版のみで、オリジナル版はない」。
 「また、ナチスやそのシンボルに興味を持つ人に『わが闘争』を販売することも違法だ。要するに、これは基準の違いの問題だ。『わが闘争』のオリジナル版が米国で売られていることは知っているが、ドイツではそれはできない。だがインターネットを使えば、誰でも手に入れられる。だからこそ、基準の違いについてよく話し合い、対応策を見出さなければならないのだ」。

 『わが闘争』をめぐるこの新たな論争は、起こった時期もまずかった。ドイツではこの数ヵ月、政府が極右勢力のドイツ国家民主党(NPD)を活動禁止に追い込もうと計画していることに関して、国中ではげしい議論が巻き起こっているのだ。NPDは、ヒトラーの国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の理念に影響を受けている。

 つい先週も、1000人を超すスキンヘッドのNPD党員たちがベルリンでデモ行進を行ない、アレクサンダー広場で反対派と衝突して大混乱となったとき、警察がNPDのデモ行進を中止させるという事件があった。しとしとと霧雨が降る中、警官隊は「デモは終了した」と繰り返し、NPD党員たちをベルリン郊外へと移動させるため、特別に用意した列車に乗せた。NPDのデモ参加者は、手に手にドイツの旗やプラカードを持っており、そこにはナチスがプロパガンダに用いた「ドイツ人よ、自らを守れ」などのスローガンが書かれていた。

 先述したドイツのユダヤ人コミュニティーは、たとえ数がわずかでも、憎悪をかき立てる著作物の販売は、ドイツ国内で増大しつつある極右勢力の問題の一環として捉えられるべきだ、と述べている。
 「『わが闘争』を勉強目的で買うのは問題ではない。それがプロパガンダに使われうることが問題なのだ。この本は、反ユダヤ的な悪意ある著作物の中でバイブル的存在となっている。だからこそ、ドイツ国内ではこの本の販売が規制されているのだ」。
 [日本語版:藤原聡美/高橋朋子]
(私論.私見)
 アドルフ・ヒトラーの自伝「わが闘争」を廻っても規制がかかっていることになる。それが如何なる内容のものであれ、焚書したり発禁されることは民主主義に反するだろうに、そうすることが正義だと饒舌を聞かせてくれている。西欧の厳しい思想統制が教えられる記事である。

 2005.11.22日 れんだいこ拝

【「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質】
 「独政府、「ネブラスカのヒトラー」のサイトに閉鎖圧力」([日本語版:中沢 滋/高橋朋子])も転載しておく。(読みやすくするため、論旨を変えぬ範囲でれんだいこ責任で多少アレンジしている)
 ベルリン発。ドイツのオットー・シリー内務大臣は、米国で運営されているネオナチ系ウェブサイトへの対策に精力的に取り組んでいるが、その件でこのほど米国のジョン・アシュクロフト司法長官に協力を要請した。

 要請は先頃、両者が直接会談した際に行なわれた。その内容は、米国の某インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)に圧力をかけ、そこがホストしているサイトの1つを閉鎖させてほしいというものだ。問題のサイトは、ドイツ政府の公式サイトと思わせるドメイン名を持ちながら、実際はネオナチ関連のコンテンツを掲載している。

 9日(米国時間)現在、このサイトのアドレス『www.bundesinnenministerium.com』を入力すると、「Bundesinnenministerium」というドイツ語が表わすドイツ内務省ではなく、米国ネブラスカ州に住むゲアハルト・ラウク氏が運営するサイトのコンテンツが現れる。ラウク氏は、熱狂的なヒトラー信奉者であることから一部で「田舎の総統」と呼ばれる人物だ。

 シリー内務大臣の広報担当官ディルク・インガー氏は、次のように語る。
 「われわれは最初、プロバイダーに連絡をとり、『www.bundesinnenministerium.com』サイトを閉鎖するよう要請した。すると向こうはいろいろ言ってきた。最初はそのサイトをチェックしてみなければならないと言い、次にはこれからチェックを行なうと言った。それから、もう一度チェックすると言ってきた。しかし、サイトは今もそのままで何も変わっていない」。

 そのため、シリー内務大臣がアシュクロフト司法長官と会ったときに直接協力を仰ぐことになったのだという。二人は先月、テロリズムとの戦いについて協議するため、ワシントンとベルリンで二度にわたって会談している。

 「司法長官との話し合いは建設的なものだった。もちろん難しい問題ではある。何しろ、言論の自由を規定した米国憲法修正第1条などの法律が絡むものだから」とインガー氏。

 ドイツ内務省はまた、ワシントンにあるドイツ大使館と、国際的なユダヤ人人権団体『サイモン・ワイゼンタール・センター』(SWC)にも連絡し、このISPに直接働きかけるよう要請した。さらに、国連の専門機関である世界知的所有権機関(WIPO)のドメイン名紛争処理サービスにも連絡をとっている。

 問題のサイトを運営するラウク氏は米国人だが、1999年、人種偏見に基づく憎悪を煽ったとしてドイツから国外追放処分を受けた前歴がある。サイトでは、「12ヵ国語でナチス関連の新聞を発行している」と豪語し、ヒトラーばりに茶色のシャツと鉤十字の腕章を身につけ、口ひげをたくわえた自身のカラー写真も載せている。

 シリー内務大臣はかねてから、米国を拠点にしたネオナチ関連ウェブサイトを駆逐しようと、新たな対策方法を熱心に探っている。昨年4月には、ドイツ政府自らが『サービス拒否』(DoS)攻撃――要するにハッキング――を実行し、米国にあるいくつかのサイトの閉鎖を試みるかもしれないと示唆したほどだ。ただし、後にその案を撤回している。

 だが、そうした問題サイトは増える一方――インガー氏によれば、今や「1000件を超えている」という――であり、ドイツの極右グループも別のやり方で存在感を示している。

 昨年12月、極右政党のドイツ国家民主党(NPD)の党員およそ3000名が、ベルリンでデモを行なっていた左翼グループと衝突する事件が起きた。このような事態はドイツで深刻に受け止められ、中道左派の社会民主党(SPD)に属するベルリンのクラウス・ボーベライト市長はNPDに抗議し、NPDの行動は「いまだに歴史の教訓から学ばない人たちがいる」ことを示すものだと述べたほどだ。

 「ただ、これら2つのもの、つまりウェブサイトとデモの間に何らかのつながりを見出すことは非常に難しい」とインガー氏は言う。

 『www.bundesinnenministerium.com』サイトをホストしているISPへの直接的な圧力が功を奏さなかった場合、問題は最終的にICANN(インターネット・コーポレーション・フォー・アサインド・ネームズ・アンド・ナンバーズ)に持ち込まれる可能性もある。しかし、ICANNのヨーロッパ代表理事、アンディ・ミュラー=マグーン氏によれば、ICANNがシリー内務大臣の期待にそえる可能性は低いという。なぜなら、ラウク氏も、あるいはその賛同者たちも、何一つ法に触れる行為はしていないからだ。

 「今のところ解決法はない」とミュラー=マグーン氏は言う。「対応策はまだ検討されているところだ。だが私の予想では、シリー内務大臣が提起している問題は、3月にガーナで開かれるICANN会議で取り上げられることになるだろう」。なお、ミュラー=マグーン氏は、ベルリンの『カオス・コンピューター・クラブ』――名高いハッカーグループ――のリーダーでもある。

 「私なら、各国政府機関に1つの専用のドメイン名を作るという解決策を提案する。たとえば、政府機関しか登録できない『.gov』のようなドメイン名があれば、何者かが『www.bundesinnenministerium.com』といったドメイン名を登録しても問題はなくなる。ドイツ政府が企業でないことは誰もが知っているからだ」。

 ドイツは言論の自由に関して、たとえば米国などとはかなり異なる基準を持つ。そのため、危険性をはらむコンテンツの阻止に対しても、考え方が異なっている。

 ミュラー=マグーン氏は、情報の自由な流れこそが、人種差別コンテンツの問題に対抗する唯一の解決法だと信じているという。

 ミュラー=マグーン氏は次のように述べた。
 「シリー内務大臣の考え方は、彼と同世代のドイツ人に典型的なものと言える。世界には、特定の問題に関して神経過敏になっている政府がいくつもある……しかし、そうであっても、国際的な合意を取り付けない限り、自国の法律を他の国に強制する権利はない」。
(私論.私見)
 「ネオナチ系ウェブサイトへの対策」が行われていることになる。ならば、「ネオシオニズム系ウェブサイトへの対策」が行われているのだろうか。こちらは野放しでは片手落ちだろう。元々に於いて「ウェブサイト対策」なる発想そのものがいかがわしいことに起因しているのではなかろうか。

 2005.11.22日 れんだいこ拝

(私論.私見) 「ヒトラー記事問題」で見えてくる著作権の本質考】
 以上、ヒトラーに関連する著作の規制として著作権理論が振り回されている事実を確認した。これを仮に「ヒトラー著作規制著作権論」とする。著作権の発生そのものは、近代以降の対価主義の反映として首肯せざるを得ないものがあるのであろうが、著作権の本来の歴史的登場の在り方が、「ヒトラー著作規制」の登場によって大きく変質せしめられ、今や「時の政府の意向に反する見解の規正法」として機能せしめられつつあるという認識が必要ではなかろうか。

 こういう場合、「ヒトラー著作規制」の場合には仕方がないのだとするのが正しい所作だろうか。れんだいこは、理念と基準の開陳なき「ヒトラー著作規制」の一人歩きの方を心配する。一般に、ある対象をを批判したければ、その研究を盛んにした方が目的に叶うのではないのか。ヒトラーの場合なぜ例外なのか。ここを問わなければならないように思う。優し過ぎるおせっかいには、いつの世でも裏がある。そういうことだろう。

 2005.11.22日 れんだいこ拝




(私論.私見)