テレビ番組の録画転送機器レンタルを廻る著作権訴訟考

 (最新見直し2009.1.28日)

 (れんだいこのショートメッセージ)


 2009.1.28日 れんだいこ拝


Re::れんだいこのカンテラ時評531 れんだいこ 2009/01/28
 【知財高裁の画期的な新判決考】

 2009.1.27日、「テレビ番組の録画転送機器レンタルを廻る著作権訴訟」で、知財高裁が画期的な新判決を打ち出した。これを確認しておくことにする。

 当該訴訟は、テレビ番組を日本の親機で録画し、海外の子機にネット経由で接続すれば視聴できる「インターネット親子ビデオ機器HDDレコーダー『ロクラク』」のレンタルサービスを提供していた日本デジタル家電(浜松市)に対し、NHKと民放テレビ局9社が著作権法違反であり、番組複製権の侵害にあたるとして総額約1億3800万円の損害賠償などを求めて提訴したことにより勃発した。

 2008.5月、一審の東京地裁は、「著作権侵害にあたる」として日本デジタル家電に対し計733万円の損害賠償金の支払いと録画機器の廃棄などを命ずる判決を下した。「日本デジタル家電が、サービスを利用するための環境の提供も含め、親機を実質的に管理し、テレビ番組を複製する行為も管理支配して利益を得ている」との法理であった。日本デジタル家電はこれを不服として知財高裁に控訴していた。

 この日、知財高裁(田中信義裁判長)は、「著作権侵害にはあたらない」として、差し止めと賠償を命じた一審判決を取り消し、テレビ局側の請求を棄却した。「番組を録画、転送しているのは利用者自身で、著作権法で認めた私的使用のための複製に当たる」、「日本デジタル家電は利用者の意思に基づく適法な行為をサポートしているにすぎない」との法理を示している。これにより、テレビ局側の請求を棄却し、1審・東京地裁判決を取り消し、テレビ局側敗訴の逆転判決を言い渡した。

 日本デジタル家電の代理人は、「著作権法の趣旨に合致する全く正当な判決だ」とのコメントを声明した。これに対し、テレビ各局は、「判決内容を精査して対応を検討する」とのコメントを出し困惑振りを見せている。

 れんだいこが評するにこういうことになる。こたびの知財高裁判決は、ここ30年来の強権営利主義式著作権行政の流れを変える初見的意義を持っており、アリの穴より堤が崩れる頂門の一針になる可能性がある。司法判決が、強権的な著作権行政の根本的見直しにようやく辿り着いた感がある。

 判決全文が分からないので詳しい法理論の精査まではできないが、次のように理解すべきであろう。当局は1970年代より次第に、ユダヤ商法と云うべき徒な権利偏重営利主義に基く判例の積み重ねにより「そこのけそこのけ著作権が通る」とばかりな強権著作権行政を強いてきたが、こたびの知財高裁判決は、あくまで依拠すべきは著作権法であるとして著作権法の規制趣旨レベルに立ち戻り、本邦初の是非判断に及んだ。これを打ち出したのが知財高裁というところに値打ちがある。

 現代の文明的な問題として、著作権規制の乱舞により却って科学技術の成果が引き出せず、あちこちで宝の持ち腐れが起き技術の成果が不当に押さえ込まれているという現象が頻発している。加えてジャスラック式課金制の満展開により、結果的に文化団体各界の事業の進展を損ね当該文化の健全な発展を齟齬させているという逆事象が際立ちつつある。これにどう対処すべきなのか。ここが問われている。

 滑稽なことに、著作権行政に対する危機意識では、何と官学の雄である東大の中山信弘教授(現在既に退官)、渡部裕(ひろし)東大大学院文学資源学教授の方が現体制批判的であり、反東大でジェラシーするその他大勢の教授の識見の方が現体制迎合的であり、あるいは更に強権著作権論の更なる強権化の旗振り役を務めたりしている。こうなると、去る昔の保守体制派としての帝大系、民主的進歩派としての私学系という構図が全く破産していることになる。れんだいこが分かりやすく説けば、やはり東大頭脳は賢く、その他の頭脳はお粗末と云うことになる。

 それはともかく、「2009.1.27知財高裁判決」は、著作権訴訟を抱える裁判官に、最高裁判決をダシにしてその他各種の判例のコピペで済ませていたこれまでの安逸に対して、新たな頭痛の種を与えたことになるのは間違いない。成り行きに注目しよう。

 2009.1.28日 れんだいこ拝



 



(私論.私見)