これは貴重な著作権者側よりするジャスラック批判

 (最新見直し2009.2.14日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 れんだいこ的観点からの批判ではないが、音楽著作権者側からするジャスラック批判の声がある。これを確認しておく。

 2009.2.14日 れんだいこ拝


【平沢進・氏の提言】
 「小寺信良:『補償金もDRMも必要ない』―音楽家 平沢進氏の提言」(2006.6.12日)過去を転載しておく。

 録音・録画補償金やDRMのあり方などの議論の舞台に登場するのは、いつもJASRACを始めとする権利団体。だが本当の意味での著作権者であるプロの音楽家は、今日の状況をどう考えているのか。現役ミュージシャンで音楽配信の先駆者である平沢進氏に話を聞いた。

 録音・録画補償金やDRMのあり方など、著作物の意義や対価システムが見直されようとしている。消費者にしてみれば、もちろん補償金もDRMもいやだということだけははっきりしているわけだが、権利者の団体はそれによって著作権者の利益が守られるのだと主張する。

 だがちょっと待って欲しい。権利者といっても、いつも議論の舞台に登場するのはJASRACを始めとする権利団体だ。本当の意味での著作権者である音楽家達は、補償金やDRMなどのことをどう考えているのかという話は、ちっとも伝わってこないのである。

 これはどう考えても、議論の席に座る人のバランスとしておかしいだろう。その権利者団体が、果たして正しくミュージシャンなど芸術家の総意を代表していると言えるのかがはっきりしないことには、権利者団体と話し合いをして意味があるのかも、実はわからないのではないか。

 実際のプロの音楽家が今日の状況をどのように考えているのか、それを語るにふさわしい人をいろいろと考えていった結果、平沢進氏に行き当たった。

 日本のテクノ・ニューウェーブシーンをリアルタイムで経験した年代の人間であれば、「平沢進」の名前を知らないはずはない。P-MODELのリーダー/ボーカリストであり、1989年以降はソロとしても活躍中である。

 同氏は1999年、まだ音楽配信など影も形もない頃に、自らのサイトでMP3を使った楽曲の音楽販売を開始した。文字通り音楽配信の先駆者である。

 またそれと並行してJASRACの権利支配のあり方に疑問を持ち、メジャーレーベルとの契約を自ら切り、作品の版権を引き上げて自分で管理するという方法に切り替えた。現役ミュージシャンで音楽配信や著作権、補償金の話を聞くのに、これ以上ふさわしい人はいないだろう。

 ライブパフォーマンスにおいては、会場のオーディエンスとネット上のファンによる「選択」で毎回違ったストーリーを展開していく、独特の「インタラクティブ・ライブ」を実践し、2001年には「デジタルコンテンツグランプリ」において最優秀賞である経済産業省大臣賞を受賞している。

 せんえつながら、この受賞したショウ「賢者のプロペラ」で、ネット上のインタラクティブサイトのグラフィックスデザインを行なったのが、筆者であった。今回はそのツテを頼って、平沢氏本人に直接お話をうかがうことができた次第である。

 音楽業界に深く根を張るJASRACの存在

 現在平沢氏は、茨城県つくば市に自らのレコーディングスタジオを構築し、活動拠点を移している。このインタビューは、つくば駅からほど近いホテルのラウンジにて行なわれた。

――平沢さんといえば音楽配信の先駆者であるわけですが、これを始めることとメジャーレーベルから離れるということは、関連した動きだったんですか?

平沢氏: そもそも私のやっている音楽は、メジャー向きじゃないんですね(笑)。私もバンドのメンバーも、メジャー的な姿勢で音楽を作っていったり、アルバムをリリースしていくことに関してずっと違和感を感じていました。ただデビューした79年という時代では、自ら音楽をリリースすることがそれほど簡単ではなかったんですよ。全国規模でプロモーション、ディストリビューション、レコーディングにかかる費用含めて、自分たちだけでは満足いくものは作れないということで、留まっていたんですね。ですがインターネットが普及してきたのと合わせて、MP3というインターネットに適したフォーマットが出現してきた。これをきっかけに、もう居る理由はないということで辞めてしまった。

――メジャーを去ることで、JASRACなど管理会社との関係はどうなったのでしょう?

平沢氏: JASRACとはこの業界の悪しき構造ゆえに、完全に縁が切れてはいない状態なんです。いくつかの楽曲はやむなくJASRACに管理を任せざるを得ないことになっていますが、基本的にはe-Licenseにライセンス管理をお願いしています。

 e-Licenseとは、2001年に著作権等管理事業法が施行されたときに立ち上がった、著作権管理事業者である。それ以前はJASRAC一社が音楽著作権のすべてを行なってきたわけだが、権利者自身が事業者を選べるようになることで、自由化を促した。

 だが音楽著作権にまつわるすべてが、新規事業者に任されているわけではない。著作権等管理事業法では、音楽著作権を4つに分けた。「演奏権等」「録音権等」「貸与権」「出版権等」である。これを「支分権」という。

 e-Licenseなど新規参入の管理事業者は、このうち「録音権等」のみの管理しか行なうことができず、そのほかの権利に関しては相変わらずJASRACが独占的に管理している。このため、管理事業法本来の趣旨が発揮できていないといった批判も強い。

 音楽出版会社とは何か

 普通我々一般人が思い描くアーティストとJASRACの関係は、アーティストがJASRACに著作権管理を委託していると思っている。だが実際にはその中間に、「音楽出版会社」というものが存在する。

 アーティストはこの出版会社に、自分の権利を「譲渡」する。そしてその出版社が、JASRACに権利を委託する、という二重構造になっている。出版会社に権利を譲渡するのは、そうしておかないと「委託の委託」という、権利の又貸し状態になってしまうからだ。

平沢氏: 例えばメジャーなレコード会社で活動してたとしますよね。レコーディングが終わるとある日突然、出版会社から契約書が届くんですよ。で、契約してくれと。契約条項にいろいろ書いてあるんですけど、契約書が送られて来た時点で、JASRACにもう勝手に登録されているんです。残念ながらアーティストは、著作権に関してまったく疎い。同時に私自身も疎かったがために、そういうものだと思いこんでいたわけですね。それによって、出版会社に権利が永久譲渡されている曲というのがあったりするんですよ。で、JASRACで集金されたお金は、この出版会社を通るだけで50%引かれて、アーティストへ戻るという構造があるんですね。出版会社は“プロモーションに努める”と言いますが、成果は保障せず、どんなプロモーションをするのか何度説明を求めても、回答しないことがほとんどです。大きなセールスが期待できるアーティストについては積極的に動きますが。

――通過するだけで50%天引きはすごい話ですが、この音楽出版会社というのは自分では選べないんですか?

平沢氏: ここが最近巧妙になってまして、レコード会社の中に出版会社ができているんですよ。ですからレコード会社の資金で使った楽曲は、そこの出版社に登録されて当たり前のような構造ができています。そこで私がおそらくミュージシャンで始めて主張したと思うんですが、なぜ私の権利が私の選んだ出版会社と契約できないんですかと、一回ゴネたことあるんですよ。ところがここの出版会社の言い分は、制作費を回収するためだというんです。

 これは一見まともな理屈に聞こえるが、実は違う。レコード会社が制作費を支払った対価として得るのは、著作隣接権に含まれる、原盤権である。著作権料は著作権者個人に支払われる対価であるが、音楽出版社はこの著作権を譲渡するように求めてくるわけだ。

 そうなるとJASRACが回収した著作権料は、権利を譲渡されて保持している出版会社が貰うことになる。アーティストには出版会社から、印税という形でお金を受け取る。50%天引きでだ。

 つまりレコード会社と出版会社のタッグは、原盤権も手に入れた上で著作権までもゲットし、その著作権料で制作費まで回収し、回収が終わっても曲が売れ続ける限り、著作権料としての利益を上げ続けることになる。

――音楽出版社というのは、必ず通さないといけないものなんですか?

平沢氏: これはもう動かせない構造として、存在するんです。JASRACの会員になるか、出版会社を通さないと、JASRACとそのほかの管理会社に対して支分権が振り分けられないんですね。e-Licenceというところは、それは理不尽だと考えているんです。そこでMCJPという出版会社を作っています。ここは単に支分権の振り分けを行なうだけで、50%という料金を取らないんです。

 DRMと補償金の関係

――ご自分で音楽配信ビジネスを立ち上げた立場として、今の巨大音楽ダウンロードサービスをどうご覧になりますか?

平沢氏: 現実として私がやっているように、すでにミュージシャン自身が制作・流通・決済が個人で可能なわけですよね。そういう状況の中で、一つの大手が沢山の楽曲を収集して陳列台に並べるということにどれだけ意味があるのか、ということなんですけども。反対に自分の楽曲を常に自分の管理下に置いて、どのようにお客さんが来ているのかを自分でモニターしながら活動を続けていくことと、最終的にどっちがアーティストにとって利益が大きいのか。ミュージシャンとしてマスに支持されることよりも、音楽をやることの動機のほうが勝っている人にとっては、そういうマーケットは向かないですよね。

――しかし人が集まれば、プロモーション的には有利ではないかと思うんですが。

平沢氏: それすら配信のテクニックや、インターネット上でのプロモーションでの仕方次第だと思うんですよ。音楽というのは聴いてみないとわからないじゃないですか。聴いてみて良かったらお金を払ってくれればいいと。半分そういう気持ちがありますね。昔「Grateful Dead」というバンドがありまして、音源はコピーフリー、それで良かったらコンサートに来てね、という姿勢もあるわけです。

 平沢氏の作品も、自身のサイトからかなりの楽曲が無償でダウンロードできるようになっている。

平沢氏: メジャーレーベルを辞めて自分で配信するようになってからは、作品の売れ行きは伸びて、マーケットも広がってます。無料のMP3配信を監視していると、ダウンロードが24時間止まらないんです。そうしているうちに、次は世界中からCDの注文が入ってくる。そう考えると、無料で音楽を配信すること、コピープロテクトをかけないことは、プロモーションにつながるんです。これはものすごい威力ですよ。お金を払ってまで欲しいと思ってくれなければ、やってる意味がない。違法コピーしてそれで満足してしまうようなものであれば、それは自分のせいだと。作品がその程度のものでしかないと判断する姿勢を、今のところ持っています。

――つまり音楽配信においても、DRMなど必要ないのだと。

平沢氏: 必要を感じてないですね。つまり私は音楽がデジタルコンテンツ化以前と今とでは、さほど変わりはないと思っているわけですね。昔はカセットでコピーして友達同士でやりとりしていたし、オンエアされたものをエアチェックしてコピーしていたわけですよね。それがデジタルコンテンツになったところで、何を騒ぐんだということですよ。不思議に思うのは、客を泥棒扱いして、オマエが泥棒ではないということを証明するために補償金を払えと、言ってるわけですよね。これ自体私には理解できません。プロテクトや補償金の話はビジネスの問題であって、コピーするしないは倫理の問題じゃないですか。彼らは倫理を大儀にして、ビジネスしているだけなんですよ。

――補償金は、JASRACを離れた平沢さんにも支払われているわけですか。

平沢氏: ちゃんと分配されています。支分権の一部をJASRACに登録していますので、連絡先と振り込み先は知っていますから、分配されるわけですね。ですがお金の振り分け方は、私にも全くわかりません。

 実際に、平沢氏に対して支払われている録音補償金のリストを見せていただいた。これをよく見ると、面白いことがわかる。1993年にリリースされたP-MODELのアルバム「big body」に収録されている、「BIIIG EYE」と「BIG FOOT」という2曲に注目してみた。

 録音補償金は、過去4年分に遡って支払われているが、この2曲を見ると、CDの売り上げ枚数のところが「0」となっている。なにぶん古いアルバムのことであり、現在は入手難のため、これはわかる。

 だが補償金の徴収料金は、「BIG FOOT」が245円、「BIIIG EYE」が172円と、違いが出ている。同じアルバムで売り上げなし、しかもどちらもシングルカットされていない曲でなぜ補償金の額が違うのか。もちろんJASRACは、各曲が誰がどんなメディアに何回コピーしたかなど、まったく関知していないし、調べる手段も持っていない。

平沢氏: さらに補償金は、誰に対して補償しているのかも問題ですよね。世の中にはJASRACに登録されていない沢山の作品があり、その人達の楽曲がコピーされているケースも数多くあるわけですよね。つまりそういう人たちには分配されないのか、ということですよね。

 どう守る? 著作権

――平沢さんのようにミュージシャンが自分で著作権を管理するためには、何が必要なんでしょう。法的知識だったりパソコンの知識だったり……。

平沢氏: まず著作権というのは、何もしなくても法律で保護されているんです。勘違いを起こしやすいのは、著作権管理団体が、著作権保護のために戦ってくれるのではないのか、という点です。そもそも使用料を徴収している団体というのは、単に料金徴収団体ですので、トラブルが起こったときには解決してくれません。私は何回もトラブルに巻き込まれていますが、ああそれは当事者同士で処理してください、ということになるんですよ。つまり著作権は、第三者がガードしてくれているわけではないということですね。

 著作権というのは以前のコラムにも書いたことがあるが、親告罪という性格の強い法律である。これは侵害された本人からの訴えがあって、始めて罪に問うことができるわけで、権利者本人以外の第三者が訴えることはできない。

 ここで問題なのは、多くのミュージシャンがこの大事な著作権を、出版会社に譲渡してしまっていることである。つまりミュージシャンが著作権侵害を発見しても、作った本人には著作権がなくなっているので、どうすることもできない。これは侵害以前に、大変な問題だ。

 出版会社自身が問題を感じれば解決のために動く場合もあるが、そのためには本来の著作者が、出版会社と交渉して動かさなければならない。今度は著作者と出版会社との間で、別のトラブルを抱え込むことも少なくない。

 2005年3月、あのYMOが乱発する過去音源の発売に対して、ファンに謝罪するという事件が起こった。これなどは、アルバムをリリースする権利、逆にリリースしない権利を、ミュージシャン本人が自由にできないという、もっとも有名な例であろう。

 平沢氏も自分の作品の著作権を取り戻すために、膨大な時間と労力を費やしたという。

 元々著作物を作った本人がなにもしなくても、あるいは音楽出版社の実情を知ってしまうと、「なにもしなければ」と言った方が適切かも知れないが、著作権は著作者のものである。

 では一個人が保有した著作権で何かトラブルがあったときに、それが自分の著作物であるという証明をどうするのかと心配する人もいるだろう。実は、方法があるのだ。著作物がその人のものであるという証明は、文化庁に登録することで得ることができる。

 プログラム以外の著作物は、それを公表した場合に登録できるので、「第一発行年月日等の登録」をすれば、それが証明になる。「著作権等及び出版権の登録申請書ならびに必要な添付資料の注意事項と記載例」というPDFの18ページ(資料上では34ページ)を見れば、50人以上の人にその著作物を見たり聴いたりしたことを証明してもらうことで、申請できる旨が書いてある。

 インディーズのミュージシャンでも、ファンやスタッフなどを集めれば50人ぐらいの証明書は集められるだろう。申請の手続きなど諸々が難しいと思ったら、民間の行政書士に依頼すればいい。

――最後に、今話題になっているiPod補償金が実現されれば、ミュージシャン側は収入が増えることになりますが。

平沢氏: さあどうでしょう? 分配の資料でお分かりのように、意味不明のこういう数字が出てくるわけですから、私たちはカモですね。それは多少のおこぼれは頂戴してますけど、別にうれしくないです。ネットワーク配信が始まってデジタル化されたとたんに、JASRACが「コピーは犯罪だ」とリスナーを泥棒扱いするようになったのも、おそらくネットワーク、デジタルコンテンツの領域にまで権益を拡大したいということでしょう。いいマーケットを見つけたと思いますよ。(苦笑)

 マスの音楽産業はこれまで、音楽を工業製品化し、大量生産・大量消費してきた。多くのミュージシャンは、売れれば儲かるという賭けにに乗って、才能の担保である著作権を他人に売り渡してしまうということを、当たり前のように受け入れている。そして音楽業界は、音楽の持つ文化的な背景や、なぜ人は音楽を聴くのかという、音楽市場の核となる部分を全く育ててこなかったのである。

 それでも我々は、必要のない音楽を日々大量に買わされているということに、薄々気付き始めている。いくら新曲を漁っても、一日中リピートして聴くたびに鳥肌が立つ音楽に出会えない今の現状は、音楽Loverとして不幸だ。

 大量廃棄物か、文化か。補償金とDRMの問題は、ある意味我々に音楽の意味を問う、一種の踏み絵となるだろう。






(私論.私見)