オペラ「ナクソス島のアリアドネ」上演を廻る著作権侵害訴訟考

 (最新見直し2008.6.23日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 2008.6.23日付け日経新聞16面の「著作権延長に新たな課題」と題する記事の中で、オペラ「ナクソス島のアリアドネ」上演を廻る著作権侵害訴訟が紹介されている。興味深い内容なのでこれを検証する。

 2005.11.18日 れんだいこ拝


【著作権保護期間を廻る「戦時加算問題」考】
 著作権問題が極めて政治的な関わりを持つことが「著作権保護期間を廻るに見て取る事ができる。「戦時加算」とは、第二次世界大戦時の日本で、米英などの連合国の著作権が保護されなかったしいう理由で、サンフランシスコ講和条約の際に、同条約で連合国民の著作物の日本での保護期間が戦時期間上乗せさせられて引き延ばされたことを指す。

 「戦時加算」の主な対象国は、サンフランシスコ講和条約の批准国45ケ国のうち、同条約の発効時までに、著作権の国際ルールで日本がその国、国民の著作権を保護する義務を負っていたとされる国とされている。加算日数は、日本が大東亜戦争を開始した1941.12.8日から起算して、当該国との講和条約発効までの日数を計上する。これにより、米英仏加オーストラリアが3794日(約10.39年)、ブラジルが3816日(10.45年)、オランダが3844日(10.53年)、ベルギーが3910日(10.71年)、ギリシャが4180日(11.45年)となっている。旧ソ連と中国は講和条約に署名しておらず、戦時加算の対象外となっている。

【オペラ「ナクソス島のアリアドネ」上演を廻る著作権侵害訴訟考】
 2002年、オペラ「ナクソス島のアリアドネ」上演を廻る著作権侵害訴訟が発生した。どういう問題かと云うと、同オペラの作曲者はドイツ人のリヒャルト・シュトラウス(1949年没)で、日本での著作権は1999年に失効した。第二次世界大戦で同盟国だったドイツと日本の間には戦時加算が関係しないはずであるが、英国の出版社が同オペラの上演を準備していた民間団体「日独楽友協会」に対し、「著作権料を支払え」との催促書が届けられた。

 英国出版社は次のように主張していた。
 「シュトラウス作品の著作権を持つドイツの出版社が1938年に英国に亡命し、1943年、当社が買収した。シュトラウスの著作権は日本の戦時加算の対象であり、現在も著作権は切れていない。約90万円を支払え」。

 「日独楽友協会」の代表にして指揮者の杉山直樹氏は納得せず、上演を強行した。杉山氏は弁護士無しで訴訟に立ち向かった。2003.2月、東京地裁判決が下され、杉山氏側が勝訴した。同判決は次のように認定した。
 「シュトラウスは出版社に著作権の管理を委託していただけで、著作権を譲渡してはいなかった」。

 英国出版社側が控訴したが、同年の控訴審、最高裁決定でも杉山氏側が勝訴し結審した。

【ジャスラック参戦考】
 その後、ジャスラックが参戦し、英国出版社の日本代理店を相手取り、「切れたシュトラウスの著作権に対し、日本の利用者が支払ってきた著作権料を返せ」と提訴した。

 2005年、判決が下され、ジャスラックが勝訴し、約1200万円を取り戻した。

【その後の「戦時加算問題」考】
 2007.6月、ジャスラックなどの要請を受け、著作権管理団体の国際組織「CISAC」が総会を開き、「戦時加算の権利を行使し無いよう、著作権者に要請する」ことを決議した。但し、その時期を、「日本が著作権の保護期間を70年に延長する時期が基準」とした。つまり、著作権延長を前提とした。



 



(私論.私見)