加戸守行考その2、愛媛県知事時代の履歴

 更新日/2017(平成29).7.24日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「愛媛県知事時代の履歴」について確認しておく。

 2017(平成29).7.24日 れんだいこ拝


 1999(平成11)年、第14回愛媛県知事選に出馬。1.3日の「正月選挙」で、新人の加戸守行氏が現職の伊賀貞雪を破って初当選を果たした。加戸守行424,394、 伊賀貞雪239,828、投票率63.10%。加戸氏が全国の都道府県知事で唯一の文部省出身知事となった。加戸知事は2003年、2007年と再選され、2010年まで旧文部省OBとして1999年から2010年まで3期12年、愛媛県知事を務めることになる。

 山本順三 活動報告」の「加戸守行 愛媛県知事 三選出馬表明」が次のように証言している。
 「振り返ってみると、丁度八年前の今頃は、現職知事に対抗して 県議会議員有志が出馬要請した 新人候補 加戸守行氏の自民党推薦をめぐって 党内でもめ続け、常任総務会の決定の是非・臨時党大会・また 県庁内での現職知事側県職員の選挙活動による庁内の混乱や 県議会における 人事委員会委員他の問責決議、さらに 選挙管理委員会による1月3日投票日設定による正月選挙の是非 等々 様々な混乱が生じ、激しい中傷ビラや汚い怪文書などが氾濫する中での壮絶な選挙戦が展開されました。今 思い出しても、二度と味わいたくないような 強烈な 選挙でした」、「それにしても、あの激しい八年前の知事選挙は、その渦中にいた私にとって忘れ難い程のインパクトがあり、自分自身の選挙や政治に対する考え方を大きく変える出来事であったことは 間違いありません」。
 加戸県政は「選挙戦のしこり」を残し、伊賀を推した農業団体、特に農協トップの姿勢にことのほか厳しい姿勢を見せた。
 但し、2007年の投票率は過去最低の43・12%で、加戸守行が出馬した選挙は投票率が低い現象を遺している。

 【「えひめ丸衝突事故事件」】
 2001(平成13).日本時間2.10日午前8時45分頃、ハワイ州オアフ島沖で愛媛県宇和島水産高等学校の実習船「えひめ丸」(499トン、35名乗組み)が、緊急浮上した米原子力潜水艦「クリーンビル」(6080トン、130人乗組み)に衝突され沈没、乗員35名中9名(内高校生4名)が行方不明になった。これを「えひめ丸衝突事故事件」と云う。「事故が起きた時、森総理は私にすぐ電話をくれて、『加戸ちゃん何でもやるから言ってくれよな』と連絡があった」と証言している。

  米側はブッシュ大統領より森総理(当時)、パウエル国務長官より河野外務大臣(当時)に電話で謝罪した他、大統領特使ファロン海軍大将が大統領親書を携行して来日(2月27日~3月1日)し、愛媛県も訪問(2月29日)。米国はあらゆる面での責任を認めている。

 2002(平成14).1.10日、愛媛県は宇和島で「えひめ丸事故犠牲者合同慰霊式」を開催。小島前外務大臣政務官、中谷防衛庁長官、岸田文部科学副大臣、ベーカー在日米大使、藤崎外務省北米局長、チャップリン在日米海軍司令官他が参列。

 御遺族等の要望を受け、愛媛県はホノルル及び宇和島での慰霊碑の建立を決定。事故発生一周年となる平成14年2月10日(日本時間)、愛媛県等はホノルルで「えひめ丸慰霊碑除幕式」を開催。被害者9遺族25名、救出者4家族8名、植竹外務副大臣、ウィラード太平洋艦隊副司令官、加戸愛媛県知事、カエタノ・ハワイ州知事他が参列。なお、宇和島での「えひめ丸慰霊碑除幕式」は同月22日、宇和島水産高等学校において開催。

 【歴史教科書採択問題】
 2001年、2002年の県立中学(中高一貫校)、県立学校の教科書採択に際し、歴史教科書について、「新しい歴史教科書をつくる会」による扶桑社版歴史教科書に賛否両論があるなか、「国の歴史に対する愛情を深めさせる。学習指導要領の方向に一番ぴったり」、「扶桑社版がベスト」と発言。県教育委員会は扶桑社版(いわゆる「つくる会」教科書)を採用。結果、県立ろう・養護学校の一部で採択された。 当時の県教育長も知事の意向を汲んだとの発言をしており、加戸知事の教育への介入ではないかと議論を呼んだ。加戸知事はその後も扶桑社版教科書の採択を「県政の重要課題」に位置づけた。

 【原水禁の「伊方原発の安全再点検を求める申し入れ」】
 2002.9.9日、「伊方原発の安全再点検を求める申し入れ」。
 愛媛県知事 加戸守行 様

原水爆禁止愛媛県協議会 議長 横井必孝
愛媛労働組合会議 議長 松本修次
社会民主党愛媛県連合 代表 笹田徳郎

 去る8月29日経済産業省の原子力安全・保安院が、東京電力福島第一、第二および柏崎刈羽の三原発の原子炉13基で、ひび割れや摩耗などの損傷データを改ざんしていたこと、国への報告を怠っていたことが報道されました。その後の調査で、2年前に内部告発で指摘されていたにもかかわらず、真剣な調査をせず、公表もしていなかったこと、さらに現在でも8基でひび割れや摩耗を放置したまま運転されていることなどが明らかとなっています。電力会社の多くが、安全チェック作業を下請け・孫請け企業に依存している問題を市民団体、専門家らがかねてから指摘していましたが、それにとどまらず東京電力が原発トラブルを隠し、記録を改ざんしていたことは言語道断、けっして許されるものではありません。その危険性から『安全と信頼性』『情報公開』がもっとも問われる原子力発電に関して起きた今回の改ざん事件は、原子力安全行政の限界を露呈すると同時に、原発依存・原発推進行政のあり方が根本的に問われているといわざるを得ません。作業を請け負っていたGEII社は、東京電力にとどまらず、他社の原発検査も行っています。また同様の問題が各地の原発、再処理工場および核燃料サイクル施設などにも広がっている、虚像の中の『安全神話』でしかないとの疑いを持たざるを得ません。原発の安全運転および県民の不安払拭を求める立場から、以下の点について申し入れ、誠意ある対応を求めます。

  1. 1977年9月以降の定期点検時の項目および点検結果、修理内容などの記録を再点検、過去10年間のトラブルとその対応について再点検を求め公表すること。
  2. 住民の安全、安心、理解を得るために、3基の原発の総点検を実施すること。
  3. 自主点検作業が適正に実施されていたか、「県」立ち会いのもと総点検を早期に実施すること。また2004年度から予定している新検査制度を前倒し実施するよう国に要請すること。
  4. 運転から30年を経過した原発はすみやかに廃炉にすること。
  5. プルサーマル計画を中止し、原子力利用の政策から自然エネルギーへの転換をすすめること。
  6. 平常時にも、第三者機関での調査団を編成すること。

 *注 6項目目は申し入れ時に口頭で追加

 四国電力株式会社宛の申し入れもほぼ同文。(項目の3,6は無し)


 【加戸知事が再選される】
 2003(平成15).1.26日、第15回愛媛県知事選が行われ、加戸守行397,508、和田宰123,851で加戸愛媛県知事が再選された。投票率44.22%。

 【飲酒運転で摘発の県議の擁護発言】
 2004.1.18日、愛媛県警・松山南署が行った飲酒検問で西条市選出の渡部浩自民党県議が飲酒運転の疑いで現行犯逮捕された。議会からは「自発的な辞職を求めるべきだ」との声が上がったが、知事は22日の会見で、「適切ではなく、大変残念だ」と表明しながら、議会が求めている議員辞職については「県議としての活動が継続出来なくなるような重大な事態とまでは思っていない。進退は御本人が判断されること」とコメントした。

 【歴史教科書採択問題】
 2005.8月の採択でも、県立学校では扶桑社版を引き続き採用した。2005年夏の愛媛県下の市町村教育委員会による採択では、扶桑社版を採用する市町村は結果的に一つもなかった。この結果について、加戸知事は1990年の旧・文部省の通知を引き合いに出し、現場教員に対するアンケートや採択委員会での順位付けを重視するのではなく、教育委員会が主体性をもって決すべきとの立場から、疑問を呈する発言を行った。

 【今治市の加計学園誘致に賛同支援】
 2005年、加計学園が今治市に獣医学部をつくる話を提案し、加戸知事が素晴らしいと賛同した。結果、政治的に実現せず(このときは自民党政権下)。
 「★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK230」の紫式部氏の2017 年 8 月 07 日付投稿「加計学園獣医学部が目指す生物化学兵器研究所」参照。
 今治市の経済戦略特区を利用して作ろうとしている加計学園の獣医学部を作る極秘目的は、ABC兵器の一環である生物化学兵器の研究にある。Aは原子爆弾などの核兵器。Bは昆虫、細菌、ウイルスなどの生物兵器。Cは毒ガス、枯葉剤などの化学兵器を指す。これらの研究は国際条約によって厳しく規制されている。それを、獣医学部の名前を使って研究施設を作って、秘密裏に生物兵器と化学兵器の研究施設に転換し研究を進める狙いがある。加計学園の加計孝太郎は、誰に教唆されたか、加計学園獣医学部を口実に生物化学兵器研究所に仕上げる計画を持つ。

 満州での石井部隊による細菌兵器の研究を手本にする。731部隊は旧日本陸軍が1933年に、「防疫給水」を表向きの任務として満州に作り、ペストやチフス、赤痢、壊疽などの細菌兵器の研究、開発を進めた。初代部隊長の石井四郎軍医中将の名前から、「石井部隊」とも呼ばれた秘密組織である。戦後、石井中将は岸信介と同じく無罪放免になって米国に協力した。加計学園の獣医学部にはBSL3施設が用意され、そこでは結核菌や狂犬病、鳥インフルエンザなどのウイルス、細菌を取り扱う実験施設を持つ。万一その管理が杜撰で細菌が漏れれば、周辺地域は感染によって原発事故以上の危険な場所になりかねない。その危険性について予告した内海医学博士は、それについて次のサイトで警告を発しており、36分頃から45分頃にかけて生物兵器についての発言をしているが、全体の報告もとても重要である。https://www.youtube.com/watch?v=NKCN41In7VA&t=7763s 

 細菌兵器製造の隠れ蓑としての加計学園の獣医学部新設。加計学園の教室の5,6階にバイオハザード,バイオセーフティーレベル3の施設に、コーネル大学から、細菌兵器(生物化学兵器)研究のテクニックを加計学園が習得し、世界に負けない、隠れた細菌兵器国家にすることがすでにバレている。

 加計の建物の外壁はもっとも安っぽい6cmのコンクリートパネル。プレハブみたいな建物の5階にBSL3のウイルスラボ。吉川学部長の設計自身がクレイジーだ。
http://blog.goo.ne.jp/beingtt/e/2936fb036f106f6bba583e489a794ba6
 「加計のBSL3のラボはバラックだ。こんなもんで、SARSや鳥インフルエンザなどを扱ったら、人が死ぬ」と、ライフサイエンスの専門家は語っている。
http://www.asyura2.com/17/senkyo230/msg/366.html ←コメント2:
 加計学園程度の私学にBSL3ラボの運用管理はムリなのは専門家の常識。吉川氏の図面からみても、BSL2の中にBSL3をおく……とんでもない。BSL3は完全別建物で隔離して独立して建てるのが普通。安っぽいプレハブ構造のビルの5F,6Fにおくと、いったん漏れたら階下のフロア全部汚染されていく。あーあぶなっかしー今治市民死ぬよ」 。

 【県立病院内での知事喫煙事件】
 2006.1.19日、知事定例会見で、松山市にある愛媛県立中央病院で人間ドックを受診した際、全館禁煙にもかかわらず控室であった特別室内でたばこを吸ったことを明らかにした。知事は「全館禁煙の認識はあったが、灰皿があったから・・・気の弱さかもしれません」と釈明し、「極めて不適切であったと反省している」と陳謝した。健康増進法第25条やたばこ規制枠組条約では受動喫煙防止が定められており、この規定に沿って全館禁煙を定めた県の施設において県のトップである知事がルールを破って喫煙をしたこと、さらに受動喫煙防止が義務付けられているはずの県立病院が灰皿を用意していたことには県内外から批判が集中した。だが「これを機にたばこをやめてはどうか」との記者の質問には「私に禁煙しろというのは極論すれば死ねということ。人に迷惑を掛けないように吸いたい」と答えた。

 2006年、加戸知事は前副知事の矢野とコンビで、関谷とは犬猿の仲。加戸側近に「関谷が出るならワシも出る。関谷は愛媛県を駄目にする男だから許せない」と日常的に漏らしていた。
 3月現在、ボランティア活動の振興などを中心とした「愛と心のネットワーク」づくりを県政の柱の一つとして進めているが、県民に浸透しておらず、中身がないとの批判もある。 愛媛県立武道館の移転新築に着手したが、手抜き工事が発覚し、看板施策に泥を塗られる結果となった。

 4.6日、加戸は県東京事務所で執務の後、都内で音楽関係者らと会談。森喜朗氏が六本木ヒルズの中に所有する某クラブで会談。「加戸のバックは文教族の森元総理」が透けて見えてくる。

 【愛媛県知事、愛媛県同和対策協議会長、白鳳会館理事長としての補助金流用疑惑】
 6月、愛媛県議会で、佐々木泉県議が、知事が会長を努める県人権対策協議会、県人権教育協議会が(財)県白鳳社に貸付をしているのは事実か。県人権対策協議会と県人権教育協議会には県の補助金が支出されており、その団体が他団体に巨額の貸付を行うとすれば補助金支出の趣旨にそぐわず、また貸付が焦げ付くようなことになれば、補助金が焦げ付きの穴埋めに使われることになり、いずれにしても問題が多いと考える、との質問をしている。加戸は愛媛県知事として補助金を支出する側であり、かつ愛媛県同和対策協議会長、白鳳会館の理事長でもある。その加戸が答弁に立たず県民環境部長に代理答弁させた。①公益法人検査で事実を確認している。②使途も関係書類により、適正に執行されていることを確認している、との「木で鼻をくくった」ような答弁で済ませている。風評ではこの補助金は、①亀岡愛媛県同和対策協議会会長代理の息子が経営している土建業・「タイシン建設」に流れている。②加戸氏の過去の2回の知事選挙の資金として流れている。とのことです。(「愛媛県知事加戸守行【疑惑】」)

 【加戸知事の3選出馬声明】
 9.21日、加戸知事(72)が県議会で次期知事選に3選を目指して立候補する意向を明らかにし、 来年1月27日任期満了の知事選に向けた動きがスタートした。全国都道府県知事の中で4番目という高齢でもあり「体力、気力、知力が今後も激務に耐えうるか、自問自答を重ねてゆく」と決断を延ばしていた。
 2006年9月21日、「山本順三 活動報告」の「加戸守行 愛媛県知事 三選出馬表明」。
 本日(9月21日)開かれた 愛媛県議会九月定例議会において、与党自民党 西原進平議員の代表質問にこたえて、ようやく加戸知事が三選出馬表明をされました。いよいよ 1月後半の知事選投票日に向けて、我々国会議員団も 自民党県連と相協力して 強固な体制づくりをしていかなければなりません。知事選の圧勝こそが、続いて行われる統一地方選挙・参議院選挙の勝利へとつながることを確信しているところです。

 振り返ってみると、丁度八年前の今頃は、現職知事に対抗して 県議会議員有志が出馬要請した 新人候補 加戸守行氏の自民党推薦をめぐって 党内でもめ続け、常任総務会の決定の是非・臨時党大会・また 県庁内での現職知事側県職員の選挙活動による庁内の混乱や 県議会における 人事委員会委員他の問責決議、さらに 選挙管理委員会による1月3日投票日設定による正月選挙の是非 等々 様々な混乱が生じ、激しい中傷ビラや汚い怪文書などが氾濫する中での壮絶な選挙戦が展開されました。

 今 思い出しても、二度と味わいたくないような 強烈な 選挙でした。

 それから 約8年、今回の知事選挙は前回に引き続き、あまり波風の立たない静かな選挙になると予想していますが、加戸知事におかれては、二期八年の実績をベースとして、次の四年間に向けての愛媛の財政構造改革の推進に向け 全力を傾注されるよう 期待するところです。

 それにしても、あの激しい八年前の知事選挙は、その渦中にいた私にとって忘れ難い程のインパクトがあり、自分自身の選挙や政治に対する考え方を大きく変える出来事であったことは 間違いありません。


 【加戸知事の原発政策】
 2006(平成18).10.13日、(共同通信)電気事業連合会は、2010年度までに16基から18基でプルサーマルをやりたいと言っている。もし、1号機、2号機でもという話があった場合、知事はどのように考えるか。(知事)これは国全体の話の中のワン・オブ・ゼム(one of them)でしょうけれども、伊方の方が理解が得られやすいから、福島の予定した1基をこちらへなんてことがね、ないとは言えないんでしょうけれども、それはその時点で改めてまた検討する話じゃないでしょうか。
 2006(平成18).10.13日、「伊方発電所3号機プルサーマル計画の了解に関する知事記者会見の要旨について」。場所/知事会議室、 テレビ愛媛(幹事社)。
テレビ愛媛  先ほど四国電力に事前了解したが、計画同意の理由はどうか。
知事  まず、本日、伊方3号機プルサーマル計画を了解することといたしまして、四国電力常盤社長に対しまして、午前10時40分に了解文書を交付させていただきました。このプルサーマル計画に対しましては、これまで安全性の確保と県民の理解を前提として総合的に判断すると申し上げてまいりましたが、まず安全性に関しては、国の17カ月に及ぶ厳正かつ慎重な安全審査により、安全性は確保し得るとして、本年3月に許可されたこと、並びに、伊方原子力発電所環境安全管理委員会から国の安全審査結果は妥当との意見がいただけたことから安全性は確保されるものと考えております。また、県民の理解につきましては、これまで四国電力による住民説明会、国による2回のエネルギー講演会やプルサーマルシンポジウムが開催されたことや、愛媛県主催の公開討論会における、推進、慎重、双方の議論や参加者との意見交換等により県民の理解が深められたこと、県民の声を代表する県議会において活発な議論を踏まえた上で推進の決議がなされたこと、そして何よりも重要である地元伊方町の判断として、昨日、伊方町長から直接、計画承認の意向を承ったことなどにより、一部反対の声があることは十分承知いたしておりますが、大方の県民の理解が得られたものと考えております。 ただ、県議会でのプルサーマル計画推進決議に関し、県政与党の一員である社民党県議団の反対、民主党県議の半数の棄権があったことを考えますと、知事としては辛い立場におかれておりますが、以上申し上げた諸事情を総合的に判断して、本日、プルサーマル計画を了承することとしたものでございます。 今後とも、MOX燃料の製造過程、燃料の装荷、運転等の各段階の安全性を確保していくことが重要と考えておりますので、四国電力に対しましては、計画の了解と併せて、プルサーマル導入の各段階における適切な安全確認、伊方発電所の品質保証体制と安全管理体制の充実・強化、プルサーマル実施までに新耐震指針の再評価結果の確認を受けること、県民の一層の理解促進と不安解消に努めること、の4点を強く要請し、併せて原子力本部の本県への移転について真剣に検討いただく旨をお願いしたところでございます。また、経済産業大臣及び原子力安全委員長に対しまして、今後の検査確認の徹底等を要請いたしますが、県としてもプルサーマル導入の各段階において、安全性の確認を行いますとともに、県民のさらなる不安解消と理解促進のため、情報の公開と提供に努めていきたいと考えております。なお、八幡浜市からプルサーマル導入に関して、安全運転管理への主体的関与等の申入れをいただいておりましたが、本日、八幡浜市長との間で、安全協定の運用等に関する確認書を交わしたところであり、隣接市である八幡浜市民の安全・安心の確保にも誠実に対応させていただいたところでございます。以上です。
テレビ愛媛  一部に反対の声や県政与党にも慎重な声があるが、それは判断に大きな影響を与えなかったということか。
知事  いえ、それは当然不安を抱かれる方もいらっしゃるでしょうし、それは賛成する立場の方でもやはり安全・安心の確保ということが共通の思いでしょうから、そういった点で、反対意見の中でいろいろ出ております問題点の解消、あるいは理解の促進、その他、今後の道行きの中で、安全・安心、あるいは信頼性の確保ということが図られていくということを強く期待し、そのことを願っての今回の了解に至ったわけでございます。
南海放送  県民の理解が概ね得られたという話があったが、具体的にはどの部分をもって理解が得られたというのか。
知事  大方の理解が得られていると考えております。反対派のおっしゃる方々、特に県主催の公開討論会でも賛否両論と言われましたが、これは意図的に推進派3名、消極派3名という方々をお選びした結果として、当然、賛否両論分かれることは予想していたわけでございますから、そのことは、結果として、賛否両論あるからという材料が県民の理解が半分であるということにはつながらないと考えております。問題は反対をされている方々のおっしゃっている様々な心配、懸念、そのことが科学的、合理的、あるいは今後の伊方原発運営等々に関しまして、どこまで不安解消につなげられるのか、そのことに関する今後のさらなる住民理解を深めていくことにより、多くの県民の理解は得られる、また、現段階でも得られていると私は判断いたしました。
愛媛新聞  反対派の心配、懸念は科学的、合理的ではないという判断なのか。
知事  全てとは言いませんが、少なくとも私自身もパネリストの討論を直接聞きましたし、また、自分なりにも考えましたし、様々なご意見等が原発自体への反対に根ざすものであり、その延長線上としての反対ということになりますと、これは伊方原発そのものの否定につながるわけですから、これを判断の材料にするのは適切でないと私自身は考えております。
それから、プルサーマル計画自体への固有の問題として、そのことが、いうなれば、ウラン燃焼に比べれば、プルトニウム燃焼の毒性の強さというような言葉で表現されておりますけれども、現時点でウラン燃焼の場合であっても、当然プルトニウムの核分裂を熱発生の材料と、主力源としてるわけでございますから、そこは、プルトニウム使用量の問題である、そのことが在来のウラン燃料による発電と、今回のプルサーマル、MOX燃料による発電との間の安全性の確保という点で、基準自体、あるいは安全性の許容の範囲内であるかどうかというご議論は冷静に判断すれば、多くの、いずれ理解を得ていくことが可能なことではないかという視点で安全性の問題は考えましたし、またそのことは、冷静に、十分に、分かりにくい方々にも分かりやすく説明していく努力をさらに積み重ねていくことによって、相当程度の解消を図れるのではないかと思ってもおります。
愛媛新聞  耐震性については、プルサーマル固有の問題とは直接は関係ないとしていることと、今回、装荷実施までに耐震安全性を確認することを打ち出したこととの整合性について、どのように考えているのか。
知事  耐震性の問題は今まで申し上げましたように、伊方原発自体にかかる大きな事柄でありまして、プルサーマル計画固有の問題ではないと考えておりました。ただ、そのことを理由とする耐震問題への住民不安が存在することは事実ですから、県公開討論会におきましても話題にしていただきましたし、また、環境安全管理委員会の審査におきましても耐震設計指針の取り扱い等についての、また、考え方についてのご議論もお願いして審査の材料とさせていただいております。念のためと言えば念のためでございますが。もちろん、今回、耐震設計指針の改訂がございましたから、その改訂にあわせての再評価、見直しということで、四国電力が誠実に対応していただくということを前提として、MOX燃料装荷までの間の判断を再評価をちょうだいし、それを国と県とにおいて評価した上で、具体的なMOX燃料装荷というステップに至るという措置を、考え方を取りましたのは、あくまでも住民不安の解消につなげることを目的としたものでございます。
朝日新聞  本日了承したことにより、総額60億円の核燃料サイクル交付金が入ってくる。先週の金曜日に国の官報で規則が定まり、県が利用計画を立てるに当たっては、立地町及びこれに隣接する市町村の行政運営に資するものという一文が入ったが、今後県が計画を立てるに当たり、地元伊方町、それから今日確認書を交わした八幡浜市には、どのように配慮するのか。
知事  これは、いつからちょうだいできるのかということは、地域振興計画、それぞれ具体的に立てていきますから、一定の、もちろん予算の制約があるでしょうから、その枠内において、当然、要望としてはそれをはるかに上回る要望が出るだろうと思いますけれども、計画自体の妥当性等を考えて詰めていく、もちろん相談をしながら詰めていくというステップを踏むようになると思いまして、現時点では全く白紙でございます。
愛媛新聞  基本的なスタンスとしては、伊方町はもちろん、八幡浜市も恩恵を受けられるという考え方なのか。
知事  当然のことながら地域といった場合に、立地町の伊方が圧倒的なウエイトを占めるでしょうけれども、隣接地域もございますし、あるいは地域だけではなくて、愛媛県全体として、原発関連での施策として出てくる場合もあるでしょうし、従来の原発交付金とはちょっと、今回のはプルサーマルのみに関する特別措置でございますから、プルサーマル計画との連関性というのは当然必要になるとは思いますが、今のところ全く白紙の状態で取り組みたいと考えています。
産経新聞  今回の了解に当たり、原子力本部の移転は条件ではないようだが、どのくらいウエイトを占めているのか。
知事  プルサーマル計画を原子力本部の移転との取り引きにするとか、そんな考え方は全くございません。ただ、万々が一の様々な事故等を想定した場合に、交通手段の遮断とか、様々な予測不可能な事態の発生等もあるでしょうから、そういった場合に、原子力本部が高松にあるのか、本県にあるのかとでは、対応の迅速性、あるいは判断の的確性、様々な点を考えたときに、本県に所在する方が望ましいというのは、県議会の強い意向でもございますから、そこを真剣かつ真摯に受け止めて検討願いたいというお願いをしているわけですから、最終的にそれが可能か不可能か、不可能ならば代替手段があるのか、あるいはその理由、説明なりが納得し得るものであるか、今後、継続して、たゆみなくお願いをしていくというスタンスでございます。
愛媛新聞  福島県、新潟県ではプルサーマルの事前了解を与えた後、電力会社側の問題発生により事前了解を撤回したが、今後、例えば、何らかのそういう信頼を裏切るようなことがあった場合、仮定の話になるが、県として一回出した事前了解を白紙撤回することを考えているのか。
知事  今まで、愛媛県と四国電力は、原子力発電、伊方原発に関して、運命共同体という認識で、愛媛県ではそういう考え方を取ってまいりましたから、当然のことながら運命共同体というのは、相互の強い信頼関係が存在しなければなりませんので、その相互の強い信頼関係を揺るがすような事態ということは、あり得ないと考えておりますけれども、いずれにしても、そういった愛媛県の信頼を揺るがすような事態は生じないことを願っております。
愛媛新聞  これも仮定の話になるが、心配される想定外の事象が発生した場合、了解を出した立場として、県の責任をどのように考えるか。
知事  常にこれは、万々が一ということは、絶対あり得ないということはないわけですから、当然のことながら、四国電力と愛媛県、連帯して運命共同体としての大きな責任を、結果として負うことになるだろうと思ってもおりますし、このことは当然国も大きな責任を負っていただくということにもなると思います。
愛媛新聞  これまでの過程を見ると、県が2年前に県政与党に配付したスケジュールにほぼ沿った形になっているが、これまでの過程についての見解はどうか。
知事  ちょっとご質問の主旨が分かりかねるのですが。
愛媛新聞  既定路線に沿った形ではないかという指摘があるがどうか。
知事  四国電力が原子炉設置変更の許可申請を出され、それを国が厳正に審査して許可されたということは、国の方針が出てるわけですから、国の許可に対して、それが適当であるか妥当であるかという判断のプロセスと、もちろんこれは安全性を中心とした問題ですが、併せて県民の理解ということを前提として議論し、いろんな場を通じての理解促進に努めてきたわけですから、今おっしゃったのが、期間の面でおっしゃっているのか、流れでおっしゃっているのか、双方の意味でありましても、流れとしては許可の当否ということを特に専門的な見地から環境安全管理委員会でご検討いただく、これは手法として正しいと思ってもおりますし、理解の面に関しては、様々なシンポジウム、あるいは公開討論会等、あるいは四国電力による直接の住民説明という手法も正しいと、つまり議会における議論等も含めてですけれども、そういった点では自然体の流れの中で今日に至ったと、私は考えておりますので、シナリオどおりとか既定路線どおりということでは、必ずしもないと考えております。
共同通信  知事にとって、反対派の意見が説得力を持たなかったということだと思うが、ここが違うと思うところはどこか。
知事  まず最初に原発反対派の方々が、原発否定の前提に立たれて、その延長線上で、さらに強い毒性をという形でのお話は、おそらく未来永劫に議論しても決着のつかないことであろうということで、従来の原子力発電に比べてのプルサーマル計画ということが、どの程度の安全・安心に関する不安を招くのか、その招く原因、理由、動機、根拠は何なのかというのを私なりに様々なデータ、あるいはご議論等を通じながら、肌で自ら感じようと努めさせていただきまして、なるほどなとうなずくに足りる強い論拠を私としては見出し難かったということは言えると思います。
読売新聞  プルサーマルの必要性というものを、知事の立場でどのように認識しているのか。
知事  ご承知のように僅か4%の自給率しか持たない日本国のエネルギー事情の中であって、最近の問題では原油価格の高騰、それから、石炭火力発電も同様ですけれども、将来のエネルギー資源としての今後の需給見通し、あるいは価格変動、あるいは価格高騰、それからさらに地球温暖化の原因となる二酸化炭素の発生等々諸般の事情からすれば、原子力発電に対する依存度というのが今まで以上に強まることは、国際的な流れの中でも見えてきております中で、国としての、いうなれば核燃料サイクル計画を国のエネルギー大綱としての国家政策として打ち出されているわけですから、そのことに対して、これを否定するというに足りるだけの論拠、考え方、日本国のエネルギー事情、国民の未来等々含めた場合に、それなりの説得性のある理論的根拠がなければ、それは国の政策には太刀打ちできないだろうと私は思いますし、国のエネルギー政策、原子力大綱を否定するに足りる材料としては見出し難かったということは言えると思います。
南海放送  今の意見を聞くと、積極的に必ずしもやらないといけないというような印象を受けないが、否定する部分がないので認めなければならないという受け止め方なのか。
知事  事前了解を与えないということは何を意味するかといえば、核燃料サイクルに関して、四国電力伊方発電所に関しては、愛媛県として協力できないということを意味いたします。そのことが今、国のエネルギー政策の中でどんな意味合いを持つかということは、日本国の構成員である愛媛県としては考えなければならないことだと私は思います。日本国あっての愛媛県であって、愛媛県の意向で、佐賀県は認める、愛媛県は認めない、福島県は認めない、島根県が認める、なんていうようなことがあり得ていいのかなというのは正直思います。それは、伊方特有の事情に基づくもの、例えば、耐震設計指針の問題とも関連しますけれども、他の地域に比べれば、伊方の耐震補強度はもっと高くあるべきであるとかいう固有の理由が存在すれば別ですけれども、およそ国家政策で進めているエネルギー政策で、地域によって、進める、進めない、なんてことがあり得た場合には、もはや日本国家としての体をなさなくなるんじゃないのかなという感じは正直いたしはしております。だから、積極的に進めるとか、あるいは消極的に進めるということじゃなくて、問題はイエスかノーかですから、今回の事前了解はそういった諸般の状況、万般眺めあわせた上で、県内の情勢を踏まえて、事前了解に踏み切ったということであります。
愛媛新聞  国家政策としての核燃料サイクル計画は、使用済MOX燃料の処分も不透明で、プルトニウムの国内での加工工場もこれからの話であり、また、東京電力や関西電力が頓挫しているように前途多難の状況であるが、国に対する注文はないのか。
知事  国は国なりの努力はされてるんでしょうけど、それぞれ地域の事情が あるでしょうし、特に福島の場合は、燃料データの偽装とかいう問題もあっただけに、そういう一種の嫌悪感みたいなものがあるのかなという特殊事情は分かりますけれども、やはり今の原発を続けていった場合の、高放射性廃棄物の処理の問題というのは、これは四国電力や伊方が対応できるわけじゃありません。国家政策としてなさることでしょう。だから、どこもなかなか前に進まないから、一緒に並んで待ってましょうということは、いうなればプルトニウムがどんどんどんどん蓄積していくわけですから、そのことが果たして日本にとっていいことなのかどうか、将来の問題というのは、当然、様々な対応を国としても出されてるわけですから、そのことは愛媛県や四国電力が独自に対応できる問題ではない、それはもう国を信頼し、国の政策を進めることに関して、愛媛県や四国電力が手かせや足かせになることは適当でないと私は考えております。
共同通信  電気事業連合会は、2010年度までに16基から18基でプルサーマルをやりたいと言っている。もし、1号機、2号機でもという話があった場合、知事はどのように考えるか。
知事  これは国全体の話の中のワン・オブ・ゼム(one of them)でしょうけれども、伊方の方が理解が得られやすいから、福島の予定した1基をこちらへなんてことがね、ないとは言えないんでしょうけれども、それはその時点で、改めてまた検討する話じゃないでしょうか。

 【加戸知事三選】
 2007(平成19).1.27日、第16回愛媛県知事選が行われ、加戸知事が三選された。加戸守行328,640、和田 宰95,368、楠橋康弘86,124、投票率43.12%。投票率は過去最低で、加戸守行が出馬した選挙は投票率が低い現象を遺している。

 【地方局再編】

 2008年、県内に5箇所あった地方出先機関「地方局」を東予、中予、南予の3箇所に集約した。

 【歴史教科書採択問題】
 2009.8月の採択では、県教育委員会による県立学校の扶桑社版歴史教科書採用に続き、今治市と越智郡上島町の教育委員会でも、2010年度から管内の公立中学校で扶桑社版の歴史および公民教科書を採用することを決めた。

 【加戸知事退任】
 2010.5.26日、任期満了前の勇退表明し、同年9.14日の県議会で任期満了前に退任することを正式に表明した。任期を2ヶ月残して退任することは「正月明けの選挙を避け、来年度予算や人事を新知事に委ねるため」としている。
 2010.11.30日、退任。3期12年知事を続け、退職金だけでも合計一億二千万円。退任会見で、12年間で自分だからこそできた施策として愛媛県武道館の建設、後悔の残ることとして義務教育費国庫負担の国の負担率引き下げを挙げた。

 【加戸守行知事退任あいさつ】
 「加戸守行知事退任あいさつ」。
 日時:平成22年11月30日(火曜日) 11時30分
 場所:県庁第二別館6階 大会議室

 皆さん、こんにちは。本日、皆さんとお別れする瞬間が参りました。12年間にわたる県庁職員の皆様方の懸命な御努力、御支援、御協力に心から感謝申し上げます。

 思い返すと、平成11年1月28日にこの壇上に立ち、皆様方に訴えました。知事や上司といった上にではなく、愛媛県民や県内の市町村に目線を合わせて欲しいと要請しました。この基本的な考え方に基づいて、12年間で素晴らしい愛媛県に転換したことを評価させていただきます。県知事の仕事は、掛け声をかけたり、思いつきを言ったり、そういった傾向は無きにしも非ずですが、県民の社会保障や福祉をはじめとする行政サービスを展開するため、全員一致の協力体制がなくては何事も成し得ません。表面的にはいろんな現象が見えます。しかし、物事が成るまでの間の、下積みや裏方の懸命な汗と涙の結晶が、一つの事象の成果として表れるものです。

 県民の負託に応えるため、今日まで私なりの思いをもって走らせていただきました。その間、例えば用地の買収や県税の徴収、あるいは県民からの何くれとない相談への対応や普及指導員としての農家の方とのさまざまな接触、これらすべてのことが愛媛県の現在、未来をつくってきたわけです。お礼を申し上げたいことの一つは、県民の間に溶け込み、率先垂範して素晴らしい活動を展開していただいたことです。

 平成16年の新居浜、西条地域における豪雨災害・土石流の災害で、復旧支援に駆けつけたボランティアの過半数が県庁職員だったことは、12年間の知事生活の中で最大の誇りと悦びでありました。皆さん方にはずいぶん無理を申しました。国際航空路線であるソウル便、上海便搭乗率の減少など、国際問題があった等々で路線の存続が危ぶまれるたびに、県庁職員に協力を要請しました。中には、3回も4回も利用された方々もおられます。そういった支えがあって、2つの国際路線は今日までキープできているのです。

 また、スポーツの振興という視点で、愛媛FCあるいは愛媛マンダリンパイレーツ県民球団を盛り立てていきたいとの思いから、折目節目に入場者の確保の動員をかけました。時間をさいて、スタジアムや球場に足を運び応援いただいた皆様方にもお礼を申し上げます。なかんずく三位一体改革による地方財政の極度の逼迫の中、あらゆる事務事業の削減や県有財産の売却など、歳入確保のいろんな手当てをした後に、禁じ手とも言える県庁職員の給与カットに踏み切らせていただきました。ちょうど生活において子弟が進学されるなど、家計が苦しい方々にとって給与カットは残酷な措置であったと思います。愚痴を言わずについてきていただき、心から感謝申し上げます。

 この考え方の基本にあったのは、中国の宋時代の政治家、范仲淹(はんちゅうえん)が『岳陽楼記』の中で残している言葉です。「天下の憂いに先だちて憂い、天下の楽しみに後れて楽しむ」。いわゆる先憂後楽とダイジェストされて日本では使われていますが、県庁職員が率先垂範してこの財政危機に対応し乗り切っていくということがあって、はじめて県民に行政サービスの低下や事業量の減少等について理解を示してもらえると思いました。私が知事の職から去るにあたり、せめてもの償いとして、来月から給与カットの措置を大幅に緩和させていただきますが、今後、国・地方の財政状況は、まだまだ安心できないのではないかと懸念しています。任期を若干残して退任するのも、新しい知事の下、新しい愛媛をつくる基礎づくりのため、来年度の予算編成あるいは組織・機構の見直し等々に期間が必要と考えたからであります。

 私の好きな言葉に「人生意気に感じては成否を誰かあげつらう」があります。愛媛に対する思いを持ち、仕事で意気に感じて取り組んだことが、結果として吉と出るか凶と出るかは、いずれ後世の人々が評価するでしょう。人間は目指す方向への思いを持って仕事をすることに生きがいを感じるものである、このことを自分の信条として今日まで対応して参りました。

 実は、私が知事に就任した3ヵ月後、皇太子殿下、雅子妃殿下の御来県を仰ぎ、しまなみ海道の開通式典が盛大に開催されました。その時、自分自身は県知事として、しまなみ海道開通に関し、何ら寄与、貢献もしていないと感じながらも、県知事であるが故に主役として、晴れがましい舞台に立ちました。思えば、それまで数十年にわたっての、先人のさまざまな取り組み、努力など、多くの方々の貢献が結集してあの式典につながったわけですから、自分自身が企画して成功させ、自分の手で祝おうと考えるべきではないと思いました。

 世の中の評価は、その時代に何があったかということで見ます。その晴れがましい時点で知事のポストにあった人、あるいは部長のポストにあった人、課長のポストにあった人の関わりはいささかであり、多くは先人の努力によるものです。道州制が実現した場合は別にして、明治初期以来の愛媛県の歴史はそういう形でつくられてきたのだろうと思います。仕事をする上での一つの考え方であり、そんな思いで今日まで仕事をして参りました。それまでの間、地道な努力を重ねてきた多くの方々がいる中で、その時期にポストにある人が代表して栄誉を受けているに過ぎない。皆さん方もこのことを肝に銘じて職務に取り組んでいただければ幸いです。

 楽しい思い出もたくさんつくってもらいました。県民ミュージカルに出演したほか、私の願いであった県民オペラは3回開催することができました。この、舞台の公演もたった一日です。そこで展開されたオペラは素晴らしい芸術であると評価されるでしょうが、それに至るまでの長い期間の仕込み、あるいは舞台の裏で努力されている多数の方々の努力の結晶が、わずか短い時間で評価されているのです。

 私自身、全国知事会では、どちらかと言えば少数派の知事でした。三位一体改革の時には、3兆円の税源移譲と義務教育費国庫負担金の廃止がテーマとなり、全国知事会で徹底抗戦いたしました。確かに義務教育は市町村で行われる教育ですが、義務教育を課しているのは国ですから、就学義務を課すことの財源は国が100パーセント手当てすべきであり、地方の税収で賄うものではないという信念からでした。残念ながら、何でもいいから地方に金を持ってきたいという流れの中、全国知事会では3分の2の多数決で敗れ、義務教育費国庫負担金の補助率は、2分の1から3分の1にカットされて決着しましたが、私自身は、このことで正論を主張し続けたことに誇りを持っています。

 最近では、国・地方を通じた財政難の中、「地方財政の展望と地方消費税特別委員会」の委員長として、47都道府県知事の中で誰よりも先に、誰よりも強く、地方消費税の引き上げなしに、地方における社会保障を中心とした行政サービスの維持は極めて困難であるという主張を繰り返して参りました。全国知事会の中でも理解は進んできましたが、もっともっと強く声を上げ、あるいは県庁職員全員が、県民に理解を求める努力をしていかなければ、財政破綻への道をひたむきに歩んでいる傾向は変わらないと思っています。

 愛媛県知事になった時、誇らしかったことの一つは愛媛県という県の名前でした。大体4年に1回、県知事は、天皇陛下、皇后陛下、皇太子殿下に県政概要を御説明する機会を得ます。その時に、胸を張って申し上げたのは、1300年前に太安万侶によって編纂された『古事記』の中の国生みの神話です。淡道之穂之狭別島(あわぢのほのさわけのしま)の次に、伊予之二名島(いよのふたなしま)、今の四国が生まれました。「此嶋は身一つにして面四つ有り。伊予国を愛比売(えひめ)と謂い」。

 1300年前の文献で、47都道府県の中、唯一表れている地名が愛比売であり、愛しい媛、愛らしい媛といった、こんな素晴らしい名前の県はないと思っています。今日、名前に関してうれしかったのは、今まで常用漢字に含まれていなかった、愛媛の「媛」、才媛の「媛」の字が、本日付けの内閣の告示で常用漢字に追加されたことであり、胸を張って愛媛という字を書くことができるようになりました。また、愛媛にある「愛」も、私にとって誇りでした。「愛」あるブランドで県産品を宣伝させていただきましたし、坂村真民先生の書による「愛媛産には、愛がある。」は、愛媛のブランドマークであります。明日、知事に就任される中村時広さんに、名刺に「愛媛産には、愛がある。」を使ってくださいとお願いをしました。普通、知事が交代すれば、新しいコンセプトで自分自身の好みの名刺を作られますが、後任に注文をつけてはいけないことは重々承知の上で、愛媛の思いがこもっている「愛媛産には、愛がある。」を使っていただくことにしました。

 愛媛には1200年前からの、衛門三郎以来の遍路文化があり、お接待の心があります。私は、人に対する思いやりの気持ちを「愛と心のネットワーク」というコンセプトで提唱いたしました。サマーボランティアの参加数をはじめ、さまざまな分野で、この花が大輪のごとく咲き誇っていくことを大変うれしく思っています。幸いなことに、中村時広新知事にも「愛と心のネットワーク」の精神は継承・発展させると約束いただいており、全国に誇る愛媛県のこのコンセプトを今後とも大切にしてほしいと願っております。

 私はこれまで、3月末に退職される県職員に、明治の詩人、与謝野晶子が歌集『草の夢』の中で詠んでいる歌をはなむけの歌として呈して参りました。「劫初よりつくりいとなむ殿堂にわれも黄金の釘一つ打つ」。「劫初」の「劫」というのは未来永劫の劫で、「劫初より」は、愛媛県がスタートした時点から今日に至るまで、「殿堂」は建物のことではなく、愛媛県、愛媛県庁という組織・機構の意味と理解していただければと思います。その殿堂に、自分も黄金の釘を一本は打った、という思いを持って県庁を去っていただきたい、そんな思いから申し上げて参りました。私が今日、県庁を去るにあたり、この歌を自分自身に贈りたいと思います。愛媛県の歴史の中で、皆さんとともに黄金の釘を打つことができた喜びを、この歌に託して感じたいと思っております。

 これからは一県民として、愛媛県の発展を祈って参ります。どうか、街でお会いする機会があったら、「加戸さん元気ですか」と声をかけてください。加戸ちゃんと言われると一番うれしいのですが、これは小中学生に委ねます。皆さんとともに愛媛の発展を願い、一県民として皆さん方の御健闘を祈ります。

 最後に、先ほど触れた坂村真民先生の「あとから来る者のために」という詩を読ませていただきたます。県庁で仕事をするということは、過去の歴史・伝統文化を引き継ぎ、現在の時代に合わせて変化・対応を考え、そして未来から来る者のためにバトンタッチをすることであると思うからです。

 「あとから来る者のために田畑を耕し種を用意しておくのだ
 山を川を海をきれいにしておくのだ
 あああとから来る者のために苦労をし我慢をしみなそれぞれの力を傾けるのだ
 あとからあとから続いてくるあの可愛い者たちのために
 みなそれぞれ自分にできるなにかをしていくのだ」。

 あとから来る、これから産まれてくる子どもや孫たちのために、愛媛県が何をなすべきか、それぞれの立場でお考えいただき、この県庁の中で、自分にできる何かをがんばっていただければ幸いです。

 「愛媛の歌」は県政発足100年を記念して制定されました。藤岡抱玉先生の書による1番の歌詞がそこに飾ってあります。時々は眺めてください。私の大好きな「愛媛の歌」の1番、2番の歌詞に、県庁職員が目指すべき方向性がすべて盛り込まれています。「愛媛の歌」とともに働き、生き、心の支えにされ、新知事の下、再結集して愛媛の未来を築いていかれることを祈ります。ありがとうございました。

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 【加戸知事語録】
 「加戸守行前知事発言集」。

平成22年度(平成22年11月30日以前)

平成21年度

平成20年度

平成19年度

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 【加戸県政評/考】
 「知事時代、松山市街地の建築規制を緩めて高層マンションだらけにして湯の町道後の風情もブチ壊し市民カンカン」の評がある。自分の出身地に近い処は優遇し、愛媛県の東部に位置する地域は気嫌いされ、公共工事が相当に減らされていたと聞く。県全体を考えることなく、己の都合や好みを優先する人物と思われる。「この7年間、愛媛県を全国最低県にした加戸氏は、根っこは加戸氏とその妻道子氏の公私混同にある。愛媛県の出身というだけで愛媛県をまったく知らず、地方財政に無知。情実予算編成で財政破綻を呼び込んだ全国最悪の加戸知事」の評がある。

 「加戸守行 前知事に聞く シリーズ①(聞き手 立花慶三)
 「民自公で消費税増税を」
 平成22年11月まで愛媛県知事を3期務めた加戸守行さん=写真。知事就任を前後して、極めて異例な愛媛県政の権威主義、形式主義というすさまじさに驚かされた。決して褒められることのない悪弊とどう向かい合い、公平で簡略な県政改革へ取り組んだのか。その一端をこのシリーズで赤裸々に語っていただくが、まずは発足したばかりの野田内閣へ何を期待しているか伺った。
 野田総理にいかがな感想をお持ちでしょう
 「とりあえず(彼が選ばれて)よかったと思いますよ。野田さんに期待するのは消費税の増税です。去年の参議院選挙のとき菅さんが突然、狂ったかのように自民党の10%に乗っかったでしょ。やっとこれで民主党も変わるな、打開の道ができたなと思ったら参院選で惨敗したために引っ込めちゃった。野田さんが自民党と組んだ救国内閣、また大連立でなくてもいいから自民党と民主党が握手して消費税アップをやらなければ日本はギリシャやスイス、スペインと同じような状況になるのが目の前の話じゃないかと思う
 デフレスパイラルのなか消費税増税への異論は根強い 
 「それは消費税アップの議論が出るたびに以前から言われています。どの内閣でも消費税の増税をやろうとしながら景気に悪影響が出ると言って先送りをしてきた。その結果が現在の長期債務900兆円、短期債務を入れると1100兆円でしょう。この数字は増え続けています」
 どこかで消費税増税に踏み切らないといけないと。一方、地方で税金をとれるシステムを作ってほしいと確か、加戸さんがおっしゃっていましたよね 
 「今愛媛県がやっているのは森林環境税と資源循環促進税。しかし両方を合わせても60億円ですからね。毎年、何十億円も増える社会保障の経費には焼け石に水です。所得税、法人税の税収は景気の影響で大きく変動しますが唯一、コンスタントな税収を見込めるのが消費税。増え続ける社会保障費には安定的な財源が必要です。私は知事会における立場としては、このままだと地方は潰れてしまう、夕張市に続いていく自治体が続出すると。だから早く税制改革をやってくれというのが私の意見でした
 地方はどうやりくりすればいいのか
 「地方がどうやって耐えているのか。国は地方で借金をしてくれと言う。しかしその手段がない。そこで臨時財政対策債で足りない金は県や市町村が債権を発行して借金しなさい、というわけです。借金の返済は将来、地方交付税で国が面倒を見るからと。愛媛県の予算でも今、6割はその借金ですよ。国は金をよこせないから、代わりにあんた借金してくださいと。将来の元利償還は国が交付税で面倒を見るからとね」
 でも国も金がない
 「そう、返す時になったら国に金があるわけがない。要するに国は借金をしては地方に送るしかないでしょう。実質、元利償還のときには国が仕送りすると約束しているわけだから国の借金と同じですよね。それを入れると国、地方を合わせた債務の894兆円という中身は、地方の借金がどんどん増えているということになります」
 当面、消費税はどの程度上げればいいとお考えに?
 「私は福田内閣のときに社会保障国民会議の委員として議論をしましたが、20%に上げなければ持ちません。スウェーデン、ノルウェー、デンマークが25%ですからね、本当は25%でもいいぐらいです
 それらの国の消費税率は高いかも知れませんが、教育などそれなりに社会保障に手厚い。その辺を一様に消費税率の多少だけで比較していかがなものかという気がしますが
 「だから税の一体改革ということをやっていますよね。現在の社会保障をキープした場合に消費税がいくら必要か、という議論がされています。野田さんは消費税問題を自公民3党の合意で一気呵成にやるしか打開の道はない」
 野田さんの任期中に消費税の増税をやれる?
 多分、小沢さんグループは反対でしょう。だからできないかもしれませんが指針だけは示しておかないと。だって900兆が950兆円になったら、1000兆円になったらといってだれも何も感じない。もう不感症にさえなっていますからね」
 みんなの党だったか、消費税を上げなくても100兆円からの基金のようなものがあるじゃないか、と言っていましたがあれはどういうものですか
 「これはですね、例えば年金のファンド。言うなれば運用している年金を崩すことがメインだろうと私は見ています。つまり毎年払う年金の金はありますが、今の人が10年先に払うときの原資というのは積み立てて置くわけですからそれに手をつけてしまえばまた借金と同じじゃあないですか」
 それに手をつけろというわけですか
 「そうです。要は借金をしようと思えばいくらでもできるわけです。例えば埋蔵金と言われているのが何かといえば、為替変動基金みたいに一変に円高、円安にガッと振れたりすると大きな差損が出るからそのための金を持っている。それを使うことはできるけど、そんなことをやったら為替の大変動が本当にあったときにはたちまちパンクしてしまいますよ」
 確かに為替の変動というのはだれも予測がつかない
 「原資をどこからひねり出すか。赤字国債を発行するのも結果は同じです。民主党がやろうとして失敗したけれど、為替特別会計や財政投融資特別会計から吸い上げて使った金は本来、余って余分になっていれば毎年国債の償還に充てるべきもの。それを借金返済に充てないで政府予算で使った。無茶苦茶をやっているのは今年の税収が38兆円ですよね、赤字国債は38兆円、建設国債が66兆円。つまり税収38兆円に対して44兆円って言っているけど埋蔵金から9兆円ぐらいを使い込んでいる。しかも借金返済に充てるものを返済しないで。だから純粋にみたらバランス上は税収38兆円に対して50何兆円の借金をしているわけですよ。まったく無茶苦茶な財政運営なんです」
 地方はとうていそんな無茶なことはできない
 「国だから借金してもいいのかって。地方で困るのは、増加する社会保障の経費に何から充てるか。地方は国のように埋蔵金はありません、借金の手段がありません。となると金額は限られてきますよね。地方が頭にきているのはこれだけ給与カットをやったりして色々とやりくりをしているのに国は給与カットはやらない、定数削減をやらない、議員定数も減らさない。地方から国に対して、がんがん不平不満が出ているわけです」
 公務員の給与カットは民間にも反映してくるから他人事でなく厳しい
 「だけどおよそ世界中で38兆円しか収入がないのに国債と埋蔵金とで53兆円も借金をする国なんて全世界にありませんよ。国家財政だけでとまっているならいいけど。頭にくるのは地方を見捨てているじゃあないかと。自分たちで必要な借金はしまくっていて、地方が足りないというとお前らも借金せよって、それはないでしょ」
 消費税を20%に上げたとしてもまた「子ども手当」などのばら撒き政策など、政局運営のために使われると何のための値上げなのか分からない 
 「そりゃ、消費税を上げるときには当然、徹底的に切りましたという形を見せない限り国民は到底、納得はしませんよ」
 野田さん個人をどう評価していますか?
 「『A級戦犯は戦争犯罪人ではない』と明言しました。彼が総理として靖国神社に参拝するかどうかは分かりませんが、少なくともそういう考え方の持ち主であり、一国の総理がそれだけの見識を持っていることは評価できます。あれだけはっきり言った人は自民党の総理でも安倍さん以外にはいなかったんじゃないですか、小泉さんだって言ってない」
 「加戸守行 前知事に聞く シリーズ②」(聞き手、立花慶三)。
 「加戸流が変えた権威・形式主義」
 出馬を固辞されながら最終的に応じられたのは?
 「知事選にまだ関係のないときですが大洲の兄貴から呼び出しがあり、八幡浜のロータリークラブの記念式典の講演を頼まれました。テーマは『惻隠の心』。その講演のテープが県内にばらまかれて。そして兄貴に言われたことが、『お前も愛媛で育ててもらった恩義がある。こんなに愛媛が困っているときに見捨てるのか。それでは守行の信条の〝惻隠の心〟に反するじゃないか』って。その言葉でギャフンとなりました」
 あくまで固辞されようとした真意は?
 「正直、お金もかかりますし。さらには、今こうしていい人生の終わりを迎えようとしているところに、何でそんなドロドロとしたところに身を置かなければならないのかという思いがあった」
 確かに当時は強権力やら何やらが複雑に絡み合っていた。さて、そうしたなかに足を踏み入れて、いかがでしたか。
 「まず、選挙戦がひどかった。言葉は悪いですけど当時の体制というのはまさにかつてのカダフィー大佐、精神的にはそれに近い状況でした」
 あの権威主義って何でしょう、白石(春樹)さんが始まり?
 「これは私の感覚ですが、久松知事がお殿様であり君主的存在だった。そういった精神的に権威的な土壌を背景に白石さんが最高実力者として全てを仕切られた。お殿様から白石天皇〟へと引き継がれ、そして伊賀貞雪さんでしょ。いうなれば〝県庁50年の王様〟という3代続いてのフォーミュラっていうか形式が確立された。『天皇は神聖にして冒すべからず』という大日本国憲法ではないけれど、愛媛県憲法、愛媛県知事は神聖にして冒すべからずという状況だったですよね(笑)」
 国会議員がひれ伏すほど、すさまじいばかりの権威が構築された。
 「ホントに帰ってきてびっくりしたのは、選挙戦を終わって私が愛南町に行ったときのこと。知事がお見えになると、当時の近隣の市町村長がぞろぞろやってきて。秘書課の職員はというと宿泊する旅館の玄関から廊下の長さ、部屋までをメジャーで測って、座布団の厚さ、テーブルの厚さまでチェック。お茶は宇治の何とかという銘柄を指定し、しかもその温度は何十何度と。さらには職員が当日の食事を作って出せといってそれを試食し、これなら結構だって(笑)」
 まるで行幸といった感じ。
 「いやいや天皇陛下でも、そんなことなさっていませんよ(笑)。とにかく驚くべきものばかりでした」
 それは白石さんの時代以来のことでしょうか。
 「そうですね、白石さん以来でしょうね。私が聞いたのは伊賀さんのときにはすでにこうだったって言うから、もう漫画ですね」
 今となれば漫画かも知れませんが、当時は取材拒否もあり深刻かつ悲壮な実態がありました。
 「権威っていうのはずっと水の中に入れておけば神々しく見えるんです、実像を見せない方が。お偉い方、知事様がいらっしゃいますよって言うだけでね」
 そうした悪弊を突き崩したかった。
 「というか、私にとって楽だったのは文部省時代の課長や局長になっても通した自分のスタイルでやれば変えられるなって思ったから。無理しなくていいんですよ、私の生き方に適合した自然体の知事像を出せばいいやって」
 いざ知事の椅子に座ってみていかがでした?
 「例えば知事室へ部長が来れば直立不動で要旨を述べ、『よかろう』って言ったら『はっ、ありがとうございます』っていう形式だった。知事の前では直立不動という、バカげた話です。ですから私はソファーに座って部長をそばに座らせて話を聞くようにしたんです」
 「加戸守行 前知事に聞く シリーズ③」(聞き手、立花 慶三)。
 <形式で醸成される権威の仮面>
 権威主義、形式主義を象徴する事例とは。
 「例えば県議会の議場の知事の椅子。背もたれが他の椅子の倍ほどもある特別な椅子で、中国の皇帝の玉座のようでした。みんなと同じものにすぐに取り換えるよう指示をしましたが、これも壮大な椅子に座っているだけでみんなが権威を感じるってことでしょうね」。
 権威とは形式から入る?
 「県庁の玄関から三階に上がるじゅうたんは赤だった。国会も赤じゅうたんですから私には抵抗はなかったのですが、愛媛県の場合は赤じゅうたんがあるから県庁の敷居が高い。赤じゅうたんは知事が歩き、県職員はじゅうたんを敷いてない両端を歩くという。これも何とかしなければと、大人しいベージュ色に取り換えました。そして、知事室の荘厳な扉を開けて中に入るというのは気持ちがすくむだろうから最初から開けておきなさい、と」。
 私もドア畏怖派(笑)。その怖さってよく分かります。
 「さらに権威の象徴だったのは知事選の最中でしたが、車で街宣しますよね。まずびっくりしたのがあらゆる工事の看板に『発注者 愛媛県知事○○○○』と書かれていたこと。松山市なども市長名が書かれていて同様です」。
 多くの県民はそれが当たり前と思っていた。
 「建設省管理の国道11号、33号、56号線という二ケタ国道は、四国地方整備局というだけで局長名など入っていません。ところが三ケタの197号線といった国道は県の管理国道だから県道とともにありとあらゆる所、どこへ行っても○○○○…。選挙で一番役に立つ名前を知ってもらえる(笑)」。
 税金を使って。
 「そう、知事個人で金を出しているわけじゃあない。だから愛媛県知事とか愛媛県中予地方局道路建設課、そして連絡先の電話番号と、それだけでいいから知事の名前は全部消せと」。
 権威主義の弊害とは?
 「みんなが奉り過ぎ、怖がってモノが言えなくなることですね。そんな偉い人に反対意見や批判的な意見など言える訳がない。さらには緊張感ばかりが先行して自由闊達に仕事ができず、県民も接しにくい」。
 なるほど。
 「古くから統治の基本理念に『由(よ)らしむべし、知らしむべからず』(論語)とあります。『県がやることにみんなついてこい。理由など分からせなくていいから』。これこそまさに権威があってできることなんですね。県がやろうとしていること、これは知事の意向だ、みな逆らっちゃイカンと。それが具体的に様々に出てくるところが形式であり、格好である訳です」。
 メディアにはどんな印象を。
 「知事に当選して、マスコミにあいさつに行きました。びっくりしたのは例えばテレビ局では社長以下、役員全員が玄関に整列して出迎える」。
 それも、よく分かる心境ですが(笑)。
 「新聞社もそうでした。ですが一国の総理でさえ、例えばテレビ局へ行ったときに役員が玄関に整列してお迎えするなんてありませんよ。だから、なんで愛媛県ではそうなさっているんですかと聞きました。そして、送迎無用です、ってね」。
 愛媛県の常識は非常識?
 「ことほど左様にあらゆることが天皇陛下に準じるというか、それ以上の形式で保護されてきましたよね。それを愛媛の人は当たり前だと思っている。よその県でそんなことはない。だからやっぱり井の中の蛙、愛媛県は古くからそんなもんだとみんな不思議に感じてなかったんですよ」。
 そうした残像がとれるのに時間はかかりましたか。
 「ずいぶんと矢継ぎ早にやりましたから、みんなすぐに慣れたと思いますよ」。







 



(私論.私見)