IPOD(アイポッド)問題考

 (最新見直し2008.5.10日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 「IPOD(アイポッド)問題(IPOD(アイポッド)に印税をけろ)」が持ち上がっている。2005.8.22日付日経新聞が取り上げている。それによると、米国アップルコンピュータの携帯音楽機器に日本音楽著作権教会(JARAC)や日本レコード協会などが、著作権料を支払うよう文化庁に働き掛けているが、関係者の反発で難航している、と云う。

 現在、MD(ミニディスク)などデジタル方式の記録媒体、録音機器などには私的録音録画補償金が課されているが、メーカー側は、音楽通信サービス「iチューンズ・ミュージックストア」が著作権料込みで曲を販売しており、「IPODに補償金をかけると消費者は著作権料を二重払いすることになる」として反対している。

 2005.4月、「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」で本格論議が始まった。JARAC評議員で、キャンディーズの「春一番」などのヒット曲を作曲した樋口雄石氏は、概要「ちまちました規制で儲けようとせず、アップルを見習って、もっと大きなビジネスを作って欲しい」と述べているとのこと。

 2008.5.8日、文化庁は、文化審議会著作権分科会の小委員会で、著作権料(補償金)を録音機器などの価格に上乗せする「私的録音録画補償金制度」の見直し案を正式に提示した。急速に普及している「IPOD」などのデジタル音楽プレーヤーやハードディスク内臓ビデオレコーダーにに新たに課金する一方、対象機器に一律に課金する制度自体を徐々に縮小する方向を明確に打ち出した。

 文化庁は、見直し案を基に議論を更に進め、夏を目途に制度改訂の方向を示す方針で、2010年度にも「IPOD課金」が始まる可能性がある。

【私的録音録画補償金制度考】
 1992(平成4)年、著作権法が改正され、私的録音録画補償金制度が創設された。以来、年がら年中改正されている。この改正により、「私的使用を目的として、”デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器であって政令で定めるもの”により、”当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるもの”に録音又は録画を行う場合(著作権法30条2項)」が挿入され、これまで著作権法上咎められなかった私的利用による複製が、一定の場合に限ってダメにされることになった。「一定の場合」というのはデジタルでコピーする場合で、アナログでコピーする場合は対象にならない。現在対象となっているのは、デジタルオーディオテープレコーダー(DAT)、デジタルコンパクトカセット(DCC)、ミニディスク(MD)、オーディオ用CD-R、オーディオ用CD-RWの5つ。

 これにより、その対価として「補償金を払え」ということになり、私的録音補償金管理協会の私的録音補償金規程が生まれた。どれだけ上乗せされるのか、どれくらいが適正かにつき「指定管理団体が機器や記録媒体の製造業者等の団体に意見を聴いた上で定め、文化庁長官が文化審議会に諮問をした上で許可を与える(104条の6)」ことになった。これにより、録音については私的録音補償金管理協会(SARAH, サーラ)が、録画については私的録画補償金管理協会(SARVH, サーブ)という指定管理団体が設立された。

 これによると、音楽CDなどの録音の場合、映画などの録画の場合は、録画機器につき基準価格(カタログに表示された価格の65%)の1%、記録媒体は基準価格(カタログに表示された価格の50%)の1%。プレーヤーなどの録音機器で基準価格(カタログに表示された価格の65%)の2%、生CDのように記録媒体は基準価格(カタログに表示された価格の50%)の3%が課金されることになり、デジタル機器&記憶媒体、ひらたくいえばCDプレーヤーとか生CD-Rの購入時に価格に上乗せられている。


 この「補償金」の分配方法は、「目的事業に支出する額を差し引いた上で、残りが各団体の補償金分配規程に則って」行われ、録音系は著作権者の団体である日本音楽著作権協会 (JASRAC) に36%、実演家の団体である日本芸能実演家団体協議会に32%、レコード製作者の団体である日本レコード協会に32%の割合で分配され、録画系は著作権者の団体である私的録画著作権者協議会に68%、実演家の団体である日本芸能実演家団体協議会に29%、レコード製作者の団体である日本レコード協会に3%の割合で分配される。その後各団体がそれぞれ規程に則って権利者へ分配することとなる。

 ここに「ハードディスク内蔵型録音機器」であるiPod問題が発生する。JASRACをはじめ関連団体(例えば日本芸能実演家団体協議会とか)など7団体が意見書を政府に出し課金制を要請している。(「今週の1枚(05.10.17)」参照)

【アップル社の文化庁批判考】
 (「【著作権】 アップル 「日本の著作権行政、消費者を無視している!」「文化庁、もはや著作権行政運営の資格なし!」参照)

 アップル社は、私的録音に関する著作権者への補償金支払いをiPodなどのデジタルオーディオプレーヤーにも義務づけようとする、いわゆる「iPod課金問題」に対し、アップルジャパン名で意見書を内閣官房に提出した。全文が首相官邸のサイト(http://www.kantei.go.jp/)に公開された。

 アップルは、意見書の中で、この制度には科学的根拠がないとして、「科学的かつ客観的証拠に基づかない理由による私的録音録画補償金制度は即時撤廃すべきである」と強く主張している。文化庁を激しく非難して「文化庁、もはや著作権行政運営の資格なし」とまで述べている。

 その根拠を確認すると次の5点から構成されている。1点は、1つの家庭で同じCDなどの著作物を2枚、3枚と買う可能性は極めて低い。これはそもそも音楽レーベルも理解していることで、そこには「黙示の承認がある」という。承認しているのであれば、CDの販売料金に加えてさらに料金を徴収するのは二重課金にあたるという。米国では、著作物は販売した時点で「売り切り」のものであるという考え方が定着しているという。

 2点めの理由として、そもそも私的複製ができない措置を取っていない音楽レーベルにこそ問題があるという。私的複製により権利侵害を被ったというのであれば、自らの手で技術的に防ぐべきではないかと指摘しており、「自ら製造販売している製品の不備をハードウェア会社に責任転嫁するのは無責任かつ自己中心的な姿勢である」と述べている。

 3点めは、補償金制度を携帯機器に対して導入しているのは僅か11カ国、全体の6%に過ぎず、国際的に見て標準的なものではないとしている。

 4点めは、iPodが有料かつ合法的なコンテンツ流通の推進役となっており、iPodユーザーは一般ネットユーザーの3倍有料コンテンツサイトから毎月購入しており、ユーザーがPtoPサイトなどで違法コンテンツをやりとりするのを防いでいると主張している。

 
5点めは、アップルが世界最大のデジタルコンテンツ流通企業であるとしており、iTunesを通して販売されている楽曲は累計20億曲におよび、2006年度には12億曲を販売したと紹介したうえで、「(アップルは)iTunesからの売上から世界で最も著作権料を著作権者に納付している企業である」としている。

 さらにアップルは文化庁の行政運営を次のように批判している。
 概要「著作権者団体の意見のみを汲み取り、消費者、機器メーカーの立場は無視し続けている」
 概要「アップルを私的録音録画小委員会から閉め出し、欠席裁判で物事も決める閉鎖的な体質を持つ文化庁の典型的な隠蔽体質を良く表している。(中略)はなから『結論ありき』の審議会運営をする著作権事務局には真摯な姿勢は微塵も感じられず、もはや公平公正な著作権行政を運営する適切な省庁とは言い難く、速やかに著作権行政を他の省庁に移管することを強く望む」。


 



(私論.私見)