著作権法附則第14条考

 (最新見直し2009.9.19日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「著作権法附則第14条」を確認しておく。「著作権法附則第14条」は、我が国の著作権行政史上、本来の著作権派と強権著作権派のせめぎあいの最後の産物であったと思われる。これが取り除かれたことにより、強権著作権派式著作権論が満展開し始めることになり今日に至っている。その元一日を訪ねる意味で、著作権法附則第14条考が避けて通れない。そういう意味があることが分かってきた。

 2009.9.19日 れんだいこ拝


 1889(明治32)年、著作権法(旧法)制定。この時代、著作権は、著作権者と管理権社、出版社間の権利関係を定めるもので、あるいは海賊版規制に効能を持つものであった。

 1934(昭和9)年、旧著作権法が改正で、レコード演奏に著作権は及ばないとされた。「旧法30条1項8号」は、適法に作成されたレコードを用いて「興行」又は「放送」を行うことは、出所の明示を条件として、著作権侵害とならないと明記した。これにより、レコード演奏に関しては全て商業施設に支払い義務はなかった。つまり、自由に音楽が流され、聴けたことになる。但し、例外として、生演奏の場合にのみ演奏権が行使された。

 ジャスラックを始めとする強権音楽著作派は、この手かせ足かせ外しに向かい、旧著作権法を全面的に見直し、新著作権法の制定を画策した。 

 1970(昭和45)年、旧著作権法が全面改定され、現行の新著作権法が制定された。この時、著作権法第22条(上演権及び演奏権)で次のように規定された。
 「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する」。

 この規定は、著作権者の上演、演奏権を認めることにより、裏意味で、利用者に対する課金の権利を認めたことになる。これにより、
レコード演奏をも含め、音楽を流したり聞かせる全ての商業施設に対して含む支払い義務を発生させた。

 この時、「旧法30条1項8号」規定の見直しも大きな課題となり、録音物の再生演奏も生演奏同様の扱いを受けるべく改正作業が行われたが、反対意見も根強く、紆余曲折を経て、既存の社会秩序の維持という観点から、放送や有線放送での利用については適用を認めたものの、経過措置としてしばらくの間存続させることとされた。
著作権法附則14条は、「当面の経過措置」として次のように規定した。
 著作権法附則第14条(録音物による演奏についての経過措置)

 適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、旧法第三十条第一項第八号及び第二項並びに同項に係る旧法第三十九条の規定は、なおその効力を有する。

 つまり、「旧法30条1項8号」規定を存続させた。但し、著作権法施行令付則第3条で、次の3分野については免除外とした。
 喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの(たとえば、名曲喫茶、ジャズ喫茶など)。
 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる営業(ディスコなども含まれる)。
 音楽を伴って行われる演劇、演芸、舞踊その他の芸能を観客に見せる事業。

 これによれば、1・音楽喫茶など音楽を鑑賞させる営業、2・客にダンスをさせる営業、3・音楽を伴う演劇、演芸、舞踊など芸能を見せる事業の3分野に於いては、著作権者側からの録音物の再生演奏の権利を認め、新たに課金対象の道を開いたが、いわば一般大衆が日常的に愛用するレコードの再生演奏に対しては従前通り非課金として保護し、対象外とされた。つまり、レコードの再生演奏は、例え営利目的の事業であっても演奏権は及ばず、著作者の許諾を必要とせず、従来通り無料で流したり聞くことができた。そういう風に政策的に配慮されたということになる。かく、レコード演奏と生演奏を識別し、生演奏は課金対象、レコード演奏は非対象とした。極めて日本的な創意工夫であったことになる。これを逆に云えば、次第に外堀が埋められていったということにもなる。

 ジャスラックを始めとする強権音楽著作派は、このようにレコード演奏と生演奏を区別する規定は世界でも例がなく、ベルヌ条約違反ではないか、著作権者の立場を護れ、課金対象を公平にせよ云々と述べて改正を働きかけていった。附則第14条は、「当分の間」とされていたが、長年にわたり改正されなかった。

 1996(平成8)年、WTO(世界貿易機関)TRIPS理事会が、日本的慣行たる著作権法附則14条は著作権の国際条約である「ベルヌ条約」に違反するのではないかと指摘された。JASRACは、これに勢いを得て著作権法附則14条撤廃運動を開始した。こうして、内圧外圧共々による著作権法附則14条撤廃の動きが強められていった。

 1998(平成10)年、JASRACが、文化庁長官に、「附則14条廃止」の著作権法改正要望書を提出。著作権審議会第1小委員会が審議のまとめを公表する。

 1999(平成11).6.15日、著作権法改正が行われ、著作権法附則第14条の廃止を国会で決議。同法附則第14条が現行法制定以来30年を経て廃止された。廃止は平成12年1月1日から施行され、CD等の録音物を利用した店内BGMにも著作権が及ぶことになった。実際に音楽の著作権者が権利行使をするのは利用者との使用料に関する協議など様々な準備が必要であったことから、早くても平成14年4月以降とされている。

 「著作権審議会1998/12 答申等 著作権審議会第1小委員会審議のまとめ 」がサイトアップされており、これを転載しておく。
著作権審議会第1小委員会審議のまとめ 

平成10年12月
平成8年12月にWIPO(世界知的所有権機関)の外交会議において,デジタル化・ネットワーク化の進展等に対応した著作権等に関する新しい国際的枠組みとして「WIPO著作権条約」及び「WIPO実演・レコード条約」の二つの新条約が採択された。これらの新条約の規定中,インターネット等のネットワークを通じたインタラクティブ送信に対応するための「利用可能化権」については,平成9年6月に所要の法改正を行ったが,著作権審議会第1小委員会では,マルチメディア小委員会における検討と並行して,この二つの条約の批准を目指し,それに要するその他の著作権法改正事項について検討を進めてきた。
具体的には,本年4月以来,これらのWIPO新条約に盛り込まれている規定のうち,(1)著作物等一般に対する頒布権,(2)「公衆への伝達権」について検討した。さらに,長年の懸案である(3)音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)の取扱いも併せ,関係8団体からのヒアリングを行うなど,検討を進めてきたところである。これらの点について,当小委員会としてまとめた審議結果は,次のとおりである。

1 著作物等一般に対する頒布権について

(1)WIPO新条約について
「WIPO著作権条約」第6条並びに「WIPO実演・レコード条約」第8条及び第12条は,著作物並びに音に関する実演及びレコードに関し,「Authors of literary and artistic works (Performers,Producers of phonograms) shall enjoy the exclusive right of authorizing the making available to the public of theoriginal and copies of their works (performances fixed in phonograms,phonograms) through sale or other transfer of ownership(文学的及び美術的著作物の著作者(実演家,レコード製作者)は,販売又はその他の所有権の移転により,その著作物(レコードに固定されたその実演,レコード)の原作品又は複製物を公衆に利用可能にすることを許諾する排他的権利を享有する)(仮訳)」として一般的頒布権の規定を置くとともに,「Nothing in this Treaty shall affect the freedom of Contracting Parties to determine the conditions,if any ,under which the exhaustion of the right in paragraph (1) applies after the first sale orother transfer of ownership of the original or a copy of the work (fixed performance,phonogram) with the authorization of the author (performer,producer of the phonogram)(この条約のいかなる規定も,著作物(固定された実演,レコード)の原作品又はその複製物について,著作者(実演家,レコード製作者)の許諾を得て最初に販売又はその他の所有権の移転が行われた後に(1)の権利(頒布権)が消尽する条件を締約国が定める自由に,影響を与えるものではない)(仮訳)」と規定し,各締約国がこの権利の消尽に関する条件を定めることができることとしている。

(2)現行著作権法における取扱い
現行著作権法(以下「法」という。)では,「頒布」は,「有償であるか無償であるかを問わず,複製物を公衆に譲渡し,又は貸与すること」(法第2条第1項第19号)と定義されている。頒布権は,複製物の頒布について第三者に対抗できる物権的な効力を有し,この権利によって複製物の流通をコントロールすることも可能となるものである。

法では,頒布権は映画の著作物,映画の著作物において複製されている著作物及び映画の著作物において翻案されている著作物についてのみ認められており,それ以外の著作物については,頒布行為のうち貸与に関する権利(貸与権)は認められているが,譲渡に関する権利(以下この「まとめ」においては,これを「頒布権」という。)は認められていない。

複製物の頒布行為は,著作者等の経済的利益に結びつくものであり,また,無断複製物の頒布は権利侵害を顕在化するものであって,著作権等の保護に大きな影響を有する行為である。しかし他方で,複製物は一旦市場に出た後は当該複製物の流通ルートにおいて譲渡されることが予測されるものであり,複製物の流通の各段階に対して権利が行使されることは,円滑な流通を妨げる可能性がある。また,通常の場合,頒布を目的として複製が行われ,複製者と頒布者とが同一であることが多いことから,複製許諾の際の条件として頒布も契約によりコントロールすることができること,違法複製物の頒布についてはみなし侵害規定(法第113条第1項)を設けたことにより権利者の保護が図られていることから,これまで我が国においては著作物一般に対して頒布権は認められていなかった。

これに対し,映画の著作物については,
(1)映画の製作には多額の資本が投下されており,複製物1本あたりの経済的価値が高いため,その流通・利用を効果的にコントロールして効率的な資本回収を図る必要があること,
(2)配給制度により複製物の流通がコントロールされている実態があること,
(3)上映権だけでは,意図しない上映を事前に押さえることが困難であることから,その前段階である頒布行為を押さえて上映権の実効性を確保する必要があること,
(4)ベルヌ条約では映画の著作物に関してのみ頒布権が認められていること,
などを理由として,頒布権が認められているものと考えられている。

(3)著作物等一般に頒布権を認める意義
WIPO新条約においては,各締約国が消尽の条件を定めることができることとされているものの,著作物,実演,レコードの原作品又は複製物(以下「著作物等」という。)の頒布について著作者,実演家,レコード製作者(以下「著作者等」という。)の権利を認めることが求められている。
また,ドイツ,フランス,イギリス,アメリカ等先進諸国においても,著作者等の権利として頒布権が認められているところであり,このような国際的な動向に鑑みれば,著作権・著作隣接権制度の国際的ハーモナイゼーションの観点から,著作者等の基本的権利としてわが国でも著作物等一般に頒布権を認める必要がある。
さらに,著作物等の頒布が著作物等の利用による経済的利益を獲得する主要な手段の一つであることを考えれば,頒布について著作者等の意思を反映させることは権利者の保護という観点から見ても重要な点である。
著作物等一般に対して頒布権を認めることにより,違法複製物が頒布される場合や頒布権者の許諾を得ずに複製物が頒布される場合には,頒布権侵害として差止請求(法第112条)の対象となりうることになるなど,著作者等の保護に資するものと考えられる。


(4)頒布権の認められる範囲(「消尽」)について
(消尽について)
著作者等に対し,頒布について一定の権利を認めることが,著作権・著作隣接権制度の国際ハーモナイゼーションや著作者等の権利の保護のために必要であるとしても,著作物等が一旦頒布された後は当該複製物の流通ルートにおいて譲渡されることが予想されるものであることを考えれば,その後の頒布全てに著作者等の許諾を要することとすれば,流通に混乱を招き,取引の安全を害するおそれがある。従って,新たに著作物等一般を対象として設定する頒布権に関しては,消尽の考え方(頒布権者又はその許諾を得た者が著作物等を譲渡した場合等について,当該著作物等については頒布権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや頒布権の効力は,以後の譲渡には及ばないとする考え方)を導入し,頒布権の及ぶ範囲を限定する必要がある。このことは,法第1条に規定する「文化的な所産の公正な利用に留意しつつ」との法の趣旨にも沿うものであり,また(1)で述べたとおり,WIPO新条約もこれを認めているところである。

(消尽の段階について)
頒布のどの段階で頒布権を消尽させるかについては,取引の安全に配慮する必要性が高いこ,頒布権を認めている諸外国ではいわゆるファースト・セール・ドクトリンを採用していること等を踏まえ,頒布権者又はその許諾を得た者が著作物等を譲渡した場合に頒布権は消尽し,当該著作物等の以後の公衆への譲渡については権利は及ばないこととすることが適当である。この場合,有体物の所有という外形を信頼して取引が行われている実態に鑑み,一次頒布(公衆に対する譲渡)ではなく,一次譲渡(公衆以外の者に譲渡した場合を含む)が頒布権者の許諾を得る等して行われたときに頒布権が消尽するものとすることが適当である。なお,頒布権者の許諾を得ずに著作物等が譲渡された場合には頒布権は消尽せず,二次的な頒布に対して頒布権を主張できることとなるが,取引の安全の確保の見地から,善意取得者による二次的な頒布については頒布権侵害とはしない特例措置が必要である。

(映画の著作物の頒布権について)
法は,頒布権(ここでは譲渡及び貸与に関する権利をいう。)を映画の著作物についてのみ認めており,その頒布権は消尽しないものと解されている。
しかし,近年では,映画の著作物に消尽しない頒布権が認められているのは劇場用映画の配給という実態を踏まえたものであること等から,ビデオソフトや音楽と映像が融合したいわゆるマルチメディアソフトについては,その円滑な流通を図るため,頒布権は消尽するとすべきであるとの意見がある。
他方,映画の著作物がビデオ化された場合についても,消尽しない頒布権を前提とした流通秩序が存在することから,ビデオソフトについても消尽しない頒布権を引き続き認める必要性は高いという意見もある。
また,いわゆるゲームソフトについては,近年映画以上の多額の資本を投下して製作されいる実態もあり,もっぱら販売を通じて利益を確保している現状からは新品ソフト販売直後からの中古ソフト販売によって著作権者等の経済的利益に多大の影響が生じており,著作権者の正当な利益を確保するためには消尽しない頒布権を与えるべきであるとの意見もある。
さらに最近のデジタル化の進展によりゲームソフト以外にも多くのデジタル化された著作物等が存在し,これらは使用による劣化がなく,中古品でも新品同様の価値を有するものもあることから,デジタル形式の著作物等全般に消尽しない頒布権を認めるべきであるとの意見もある。
頒布権の消尽の有無は取引秩序に重大な影響を与えるものであり,現時点では映画の著作物の頒布権について従来の取扱いを変更すべき決定的な理由も見いだしがたいところから,消尽の規定を置かず,現行の規定を維持することとするのが適当である。なお,ゲームソフトの映像については,映画の効果に類似した視覚的又は視聴覚的効果を有するものが増加する傾向にあり,これを映画の著作物に該当するとの判断を示した裁判例も存在することから,その解釈に委ねることとし,現時点では,ゲームソフトについて特段の対応をする必要がないものと考える。
なお,この問題は,いわゆるマルチメディアを含む視聴覚著作物やデジタル化された著作物等の問題とも関連することから,今後のデジタル化・ネットワーク化の進展の状況等も踏まえながら,適切に検討を行っていく必要がある。

(国外で譲渡された場合の消尽について)
経済のグローバル化にあわせて,著作物等の流通は国境を越えて広範かつ大量に行われており,円滑な流通及び取引の安全の確保の必要性は,国際取引においても国内取引同様に妥当する。したがって,国外において適法に譲渡された著作物等がその後わが国で譲渡される場合についても頒布権は及ばないこと(消尽)とするのが適当である。
なお,権利者が安心してその著作物等を国外で流通に置くことができるよう,国外で既に譲渡された著作物等のわが国への輸入又は輸入後の譲渡について頒布権の行使を認めるべきとする意見もあり,これについては,他の知的所有権制度とのバランスや諸外国の動向等を踏まえ,さらに検討していくべき課題であると考える。
2 「公衆への伝達権」について

(1)WIPO著作権条約について
「WIPO著作権条約」第8条においては,「authors of literary and artistic works shall enjoy the exclusive right of authorizing any communication to the public of their works, by wire or wireless means,including the making available to the public of their works in such a way that members of the public may access these works from a place and at a time individually chosenby them.(文学的及び美術的著作物の著作者は,有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達を許諾する排他的な権利を享有する。ここでいう公衆への伝達には,公衆の構成員が個別に選択した場所及び時において著作物にアクセスできるように,当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含むものとする。)(仮訳)」として「公衆への伝達権」(Right of Communication to the Public)を規定している。なお,同条の「公衆への伝達」には,ベルヌ条約の第11条(上演権・演奏権),第11条の2(放送権等),第11条の3(朗読権等),第14条(上映権等)等に既に規定されている方法によるものは含まれず,主として自動公衆送信に対応することが,この権利を創設する目的であった。また,ここでいう「公衆への伝達」の意義については,隣室にいる公衆に伝達されればこれに該当する(同室の場合は該当しない)と解されている。
わが国においては,この規定の対象となる行為のうち,無線・有線の方法で自動公衆送信を行うことについては既に法整備(昭和61年に有線送信権創設,平成9年に公衆送信権への統合及び送信可能化権の創設)を行っている。しかし,これに加え,公衆送信以外の有線又は無線の方法による公衆への伝達,例えば特定の場所にポイント・ツー・ポイント送信し受信場所で公衆に提示すること,同一構内で公衆への送信を行い受信場所で提示することなど,有線又は無線の方法による公衆への伝達で自動公衆送信を伴わないものについて著作者の権利を認めることが必要となる。

(2)現行著作権法における取扱い
現行法上,著作物を公衆を対象として伝達することに関連する著作者の権利としては,以下のものが認められている。
(1)「映画の著作物を公に上映(著作物を映写幕その他の物に映写すること)する」権利及び「映画の著作物において複製されている著作物を公に上映する」権利(上映権)(第26条)
(2)「著作物を公に上演し,又は演奏する権利」(上演権,演奏権)(第22条)
(3)「著作物を公衆送信する(送信可能化を含む)権利」(公衆送信権)(第23条第1項)及び「公衆送信される著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」(公の伝達権)(第23条第2項)
(4)「言語の著作物を公に口述する権利」(口述権)(第24条)
(5)「美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物を原作品により公に展示する権利」(展示権)(第25条)
上記(2)及び(4)については,法第2条第7項の規定により,直接公衆の前で生の上演,演奏又は口述を行うことの他に,「録音され,又は録画されたものを再生すること」及び「電気通信設備を用いて伝達するもの」が含まれることから,上演,演奏又は口述を録音又は録画したものを再生することなどにも権利が認められている。ただし,公衆送信される著作物をさらに公衆に伝達することについては,上演権等でなく,上記(3)の公の伝達権が認められることになる。
したがって,公衆送信される場合の公衆への伝達については,全ての著作物に「公の伝達権」が認められ,それ以外の場合には,音楽や言語の著作物など音で伝達される著作物については「演奏権」又は「口述権」が,映画や演劇・舞踊の著作物など動画系の著作物については「上映権」又は「上演権」が認められている。一方,美術や写真の著作物など静止画系の著作物や,文字・図表等で示された著作物については,美術・写真の著作物の原作品による「展示権」のみが認められ,公衆への伝達一般についての権利が認められていない。
このような権利の態様となっているのは,これまで,ディスプレイ装置等を用いて公衆に提示される著作物としては音や映像が主であったこと,また,著作物の公衆への提示は,ほとんどがいったん編集行為等により新たな複製をした後に,その複製物を再生することにより行われていることから,このような場合,複製権の行使により権利確保を行うことが可能であることなどによるものであると考えられる。
(3)著作権法改正に当たっての考え方
WIPO著作権条約に盛り込まれている「有線又は無線の方法による公衆への伝達」に関する権利に対応するためには,美術や写真の著作物など静止画系の著作物や,文字・図表等で示された著作物について,新たに有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆送信を伴わないもの)を権利の対象とすることが必要となる。従って,WIPO著作権条約の批准のため法改正を要する部分は,「著作物を同室内以外の場所にいる公衆に対して,有線又は無線の方法によりスクリーンやディスプレイ画面等に映し出すことにより視覚的又は視聴覚的に提示する行為」となる。
しかし,わが国の著作権法においては,以下の理由により,条約への対応を超えて,「著作物をスクリーンやディスプレイ画面等に映し出すことにより公衆に対して視覚的又は視聴覚的に提示する行為」(以下「ディスプレイ」という。)そのものに着目して,同室内で公衆に対してディスプレイする場合も含め,ディスプレイに対して権利を認めることが適当である。
(1)映像表示技術の進展に伴い,イベントや博物館等における展示用などとして高精細のディスプレイ画面が利用されるなど,ディスプレイ装置の利用が近年急速に拡大している。また,ディスプレイ装置により提供される著作物も,映画にとどまらず,文字,静止画像などあらゆる情報がデジタル化され,コンピュータによる処理を経て公衆に提供されるようになっており,ディスプレイ装置を用いた公衆への提示が著作物の利用形態として経済的にも価値のあるものの一つとなっていること。

(2)現在,映画の著作物や演劇・舞踊の著作物等の動画系の著作物については,上映権,上演権が認められているが,デジタル化,ネットワーク化の進展や映像表示技術の進歩等により,美術の著作物や写真の著作物などの静止画系の著作物についても上映的な利用が可能な状況となっていることから,映画の著作物等と他の著作物との保護水準の均衡を図っていく必要があること。

(3)現在権利が認められていない静止画系の著作物について,いったん複製した上でディスプレイする場合に複製権を主張しようとすると,ディスプレイ前の編集段階における無断複製を立証することが必要であるが,これは事実上困難であり,ディスプレイ段階に権利を認めることで,権利保護の実効性が確保されることとなること。

(4)条約への対応のみを考えて,送信を介して同室内以外の場所にいる公衆に提示される場合のみを権利の対象とすると,美術の著作物等一部の著作物については,著しくバランスを欠いた状況が生じてしまうと考えられること。

(4)著作権法における位置づけについて
ディスプレイの対象となるものとしては,映画の著作物,美術の著作物,写真の著作物,言語の著作物,図形の著作物等様々なものがあるが,これらの著作物のディスプレイは,現行著作権法における「上映」の概念(著作物を映写幕その他の物に映写すること)に該当することから,具体的には,「上映権」を映画の著作物に限らず一般的に付与することにより対応することが適切である。また,権利制限の問題については,上映権等の制限について規定している法第38条第1項と同様に,非営利,無料などの要件に該当する場合に権利を制限することとするのが適当である。

3 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)について

(1)現行著作権法における取扱い
音楽の著作物を公衆に対して技術的装置を用いて聴覚的に提示することについては演奏権(第22条)が認められている。なお,「演奏」には直接公衆の前で生の演奏を行うことの他に,「録音されたものを再生すること」及び「電気通信設備を用いて伝達するもの」が含まれる(第2条第7項)。
しかし,演奏権については,附則第14条により,当分の間,市販のレコード等適法に録音された音楽の著作物の再生演奏については,公衆送信に該当するもの及び著作権法施行令附則第3条の各号に定める音楽喫茶,ダンスホール,ディスコ等営利を目的として音楽の著作物を使用する事業を除き,演奏権が制限され,著作権者の許諾を得なくても自由に行うことができることとなっている。この附則第14条の規定は,旧法下においては,適法に録音された音楽の著作物の再生演奏が自由に行えることとなっており,このような長期間にわたり形成された社会的慣行やレコード使用の実態を踏まえると,昭和45年の著作権法全面改正時に,即時に演奏権を適用することは社会的影響が大きいと考えられたことから設けられたものである。

(2)附則第14条の取扱いについて
附則第14条については,現行法制定後相当の期間が経過していることから,著作権審議会において,これまでも検討が行われてきており,平成4年3月の第1小委員会の審議のまとめにおいては,「音楽著作権の管理体制の整備及び利用者の理解の促進などの条件整備を進め,その進捗状況に応じ具体的な立法措置について判断を行うことが適当である。」とされ,また,平成8年9月の第1小委員会審議経過報告においては「利用者団体の理解を得るための広報活動への積極的取組み及び附則第14条を廃止した場合の円滑な権利処理ルールの整備に向けた具体的取組みが必要であることを踏まえつつ,できるだけ早期に法律改正を行う方向で,今後も,積極的に検討を進めていくべきものであると考えられる。」とされているところである。なお,附則第14条については,平成8年7月にWTO(世界貿易機関)の場で行われたTRIPS理事会における各国著作権法レビューにおいても,ECからベルヌ条約違反ではないかと公式に指摘されていたところである。

附則第14条の取扱いについては,(1)近年の有線音楽放送の発達・普及に伴い,遊技場や喫茶店等,従来附則第14条により演奏権の対象外として大きな割合を占めていた施設等が,レコードの再生演奏から有線音楽放送の利用に転換してきており,附則第14条の廃止による直接的な社会的影響は減少してきていること,(2)本規定は当分の間の規定であるにも関わらず,既に現行法制定後約30年が経過しており,一定の条件整備を前提としながらも,附則第14条の廃止に関する利用者団体等の理解も得られつつあること,(3)2(「公衆への伝達権」について)で記述したとおり,他の著作物については公衆への伝達に関する権利が認められることとなるにも関わらず,音楽の著作物のみ,公衆への伝達のうち適法録音物の再生演奏について権利を認めないことは,権利保護の均衡を著しく失することとなること等から,早急に附則第14条を廃止することが必要である。

その際,音楽の著作物が幅広く社会的に利用されている実態を踏まえ,権利者団体は,利用者団体等に対し,実際の権利処理のルール,スケジュールを早期に提示するとともに,利用者団体等との十分な協議を行うなど,演奏権管理の円滑な実施に向け,十分配慮する必要がある。
 (文化庁長官官房著作権課)

 「著作権審議会 1998/10/23 議事録 著作権審議会  第1小委員会 ((第11回)議事要旨 」がサイトアップされている。これを転載しておく。
著作権審議会第1小委員会(第11回)議事要旨

 平成10年10月23日(金) 10:00~13:00 霞山会館「梅・桜の間」

・出席者
  委  員:齊藤主査,阿部,大山,佐野,土井,道垣内,土肥,野村,紋谷の各委員
  事務局:吉田著作権課長,岡本国際著作権課長,片山マルチメディア著作権室長,その他の担当官

1.開会

2.議事(◎:説明者,○:委員,△:事務局)
(1)附則第14条の見直しに関するヒアリング
      社団法人日本音楽著作権協会から,附則第14条を廃止した場合の権利処理の在り方や関係団体等への広報の状況について,配付資料に基づき説明があり,その後質疑応答が行われた。
  
○  管理対象として想定している,録音物の再生演奏9万件と有線音楽放送の伝達112万件は重複して計算されているのか。

◎  重複しているので,実際の対象件数は重複している分が相殺されることになる。

○  段階的な管理を行うということであるが,権利管理を当面送らせる分野としては,どのような場合を考えているのか。

◎  病院における医療目的の利用や予備校などにおける教育目的の利用のほか,商業目的ではあるが工場での従業員の能率向上目的や福利厚生目的の利用,常設でない露店での一時的利用については,先送りしたいと考えている。

○  教育目的の音楽利用については,学校法人なら第38条によって演奏権の対象外となり,学校法人でないものは演奏権の対象となるということか。

△  私塾等については,「営利目的の教育機関」であるから第35条の権利制限(教育機関における複製)の対象から除外されていると解されるが,非営利・無料の音楽演奏について権利の制限を定める第38条第1項も,第35条の考え方と同様に考えられる。

○  著作権法施行令附則第3条に定める音楽喫茶やダンス教室等では,実態として現在でもレコード演奏をしているのか。レコード演奏の実態が全体的に減っているのであれば,使用料よりも管理コストの方が大きくなっているのではないか。

◎  音楽喫茶はかなり少なくなっているが,ダンス教室等におけるレコード演奏の実態は,以前より少ないもののかなりある。全体としては有線放送の利用に移行しつつあるが,音楽を営利目的で利用しているのであれば,レコード演奏の利用もその他の利用も等しく管理の対象とし,できるだけ効率的な管理をすることにより権利者に多くの使用料を分配したいと考えている。

○  元栓処理を徹底すれば採算の問題は少なくなると思われる。利用団体との調整はどのようなスケジュールで進めるのか。

◎  本年12月には関係業界に附則第14条廃止に関する理解・協力を求める文書を送付し,それ以降,個々に協議を進めたい。なお,現在対策委員会を設置したところであり,今後その場で具体的なスケジュールを決定する予定である。

○  附則第14条を廃止した場合,管理対象の店舗等のうち何%くらいから使用料が実際に徴収できると考えているか。

◎  飲食店については,店舗改廃率が年約20~30%であることから,70~80%を到達目標と想定している。ただし,飲食業界について元栓処理を実施することができれば,その率はさらに上昇すると考えられる。

○  特定の分野については使用料を免除するのであれば,不公平感の解消という意味では附則第14条を廃止しても同じではないか。

◎  一律演奏権の対象とした上で,特定の分野についてはスケジュールを明確にして段階的に実施するものであり,不公平にはならないのではないか。

○  レコード演奏と有線音楽放送の伝達の両方を利用している場合は重複して使用料を徴収するのか。例えば有線音楽放送に関して既に元栓処理されている場合はそれで徴収済みとするのか。

◎  背景的な利用について元栓処理をする場合であって複数の利用方法を併用している場合の取扱いについては,現在,検討中である。

○  背景的利用か事業に不可欠な利用かという利用目的を勘案して使用料を徴収することと,一律に元栓処理をするということでは矛盾が生じないか。

◎  音楽の利用が必要不可欠な場合には個別処理,背景的利用の場合については元栓処理を考えており,両者を併用している場合にはそれぞれ加算して徴収することを考えている。ただし,元栓処理については背景的利用を行わない店もこの対象に含まれる可能性もあるため,関係団体等と調整する必要がある。

○  使用料の徴収に際して,音楽利用が不可欠な場合とそうではない場合とどのような判断基準で区分するのか。

◎  音楽の演奏プログラムを事業者自ら作っているか委託しているか,という観点などで区別できるのではないかと考えているが,音楽利用が不可欠な場合であっても治療目的の利用のように例外的取扱いが考えられるものもある。

○  使用料の分配方法については,どのように考えているか。

◎  当分の間,複製権等既成の支分権に係る分配額に加算することを考えているが,有線音楽放送の伝達による利用については,有線音楽放送事業者からサンプリング調査に基づく資料を入手しているので,これを参考にすることも考えられる。

△  附則第14条については,条約違反という指摘もある。ベルヌ条約上,複製権以外の権利については制限を認める規定はないが,ベルヌ条約第9条第2項の「3つの条件」を満たす場合には,「小留保」が認められると解されている。ただし,附則第14条については,この3つの条件を満たしているか極めて疑わしい。条約は国内権利者の保護とは無関係なので,条約との関係で問題となるのは外国人の権利であるが,平成8年7月のWTO「TRIPS理事会」では,ECから「日本法の附則第14条はベルヌ条約・TRIPS協定違反である」と指摘されており,最悪の場合WTO提訴もあり得る。また,IFPIもレコード製作者のいわゆる「演奏権」を日本で実現するための障害となるので,附則第14条に関心を持ちつつある。

○  条約適合性については,著作権法第5条があるので,外国の著作物については附則第14条ではなくベルヌ条約そのものが適用され,JASRACが外国の著作物については権利を行使し得るとも考えられる。条約の関係では,むしろ内外無差別の例外が生じてしまっている異様さの問題かもしれない。

○  附則第14条を廃止した場合に,カラオケによる利用の取扱いはどのようにするのか。

△  カラオケボックスについては既に東京地裁において著作権法施行令附則第3条第1号の「客に音楽を鑑賞させるための特別の装備を設けているもの」に該当するという判決が下されているが,附則第14条が廃止された場合には再整理を行うことが必要と考える。

○  関係団体との調整等の条件が全て整った後に附則第14条を廃止するので時間がかかりすぎる。まず,廃止をしてから,使用料について関係団体との調整を行うことも考えられるのではないか。


(2)ディスプレイに係る権利について
      事務局より,「ディスプレイ」に係る権利について配付資料に基づき説明があり,その後質疑応答が行われた。

○  多数の人が同時に視聴できるようなディスプレイ行為だけが権利の対象となるのか。

△  ビデオブースのような不特定の者を対象にしているものも権利の対象となる。

○  もともと,刑法上は故意犯でなければ罰することはできないので,上演等の主体の問題について,ことさらに刑法の責任主義の原則を挙げる必要はないのではないか。

△  ディスプレイ行為に関する民事上・刑事上の責任の所在については,それぞれの分野における既存の理論を適用すれば足りるので,御指摘の場所は再度整理したい。

○  権利制限規定について,「ディスプレイに係る権利そのものの制限」として新たに要件を考えるべきではないか。また,送信権について権利制限規定を設けないまま,ディスプレイ権についてのみ権利制限規定を設けた場合,混乱が生じないか。

△  WIPO新条約への対応と他の著作物とのバランスを考え,上映権をすべての著作物に付与することを考えているが,ディスプレイが将来的にどのように利用されるか予測できない部分があるため,現時点では既存の権利制限規定で対応したいと考えている。

○  利用行為に関して経済的価値の高低に着目して権利の付与を判断するような書き方は疑問である。

○  行為主体のところは,他人の手足としてディスプレイ行為をした場合でも,故意であれば刑事罰の対象となる。

○  それも既存の法理で判断すればよい。そもそも行為の主体についてこのペーパーにおいて議論する必要があるのか。

△  欧州では,ディレクティブの策定に際して,ネットワークプロバイダーの責任に関して議論がなされていることから,我が国においても平成9年の「送信可能化権」創設の際に同様の議論が起きたが,我が国においては既に「有線送信権」が規定されており,責任の主体に係る問題は解決済みであったため,欧米と比較するとそれほど問題とならなかった。今回のディスプレイ権の責任主体についても考え方は変わらない。

○  公衆送信を受けて一旦固定した後のディスプレイ行為について,送信する者の注意義務違反については,どのように考えるか。

△  ディスプレイ行為への関与の度合いによっては共同不法行為者となりうるのではないか。


3.今後の日程等
    事務局から,次回の本小委員会について,11月6日(金)に開催し,(社)コンピュータソフトウェア著作権協会の頒布権に関するヒアリング及び今回までの議論を受けた「審議経過のまとめ(案)」についての審議を予定しておりいる旨伝達された。  

(文化庁著作権課)

 著作権審議会第1小委員会審議のまとめ」がサイトアップされているので、これを転載しておく。
○著作権審議会第1小委員会審議のまとめ 平成10年12月

 目 次

 1 著作物一般に対する頒布権について

  (1) WIPO新条約について
  (2) 現行著作権法における取扱い
  (3) 著作物一般に頒布権を認める意義
  (4) 頒布権の認められる範囲(「消尽」)について

 2 「公衆への伝達権」について


  (1) WIPO著作権条約について
  (2) 現行著作権法における取扱い
  (3) 著作権法改正に当たっての考え方
  (4) 著作権法における位置づけについて

 3 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)について


  (1) 現行著作権法における取扱い
  (2) 附則第14条の取扱いについて

 著作権審議会第1小委員会委員名簿


 著作権審議会第1小委員会審議経過

 平成8年12月にWIPO(世界知的所有権機関)の外交会議において、デジタル化・ネットワーク化の進展等に対応した著作権等に関する新しい国際的枠組みとして「WIPO著作権条約」及び「WIPO実演・レコード条約」の二つの新条約が採択された。

 これらの新条約の規定中、インターネット等のネットワークを通じたインタラクティブ送信に対応するための「利用可能化権」については、平成9年6月に所要の法改正を行ったが、著作権審議会第1小委員会では、マルチメディア小委員会における検討と並行して、この二つの条約の批准を目指し、それに要するその他の著作権法改正事項について検討を進めてきた。

 具体的には、本年4月以来、これらのWIPO新条約に盛り込まれている規定のうち、 [1] 著作物等一般に対する頒布権、[2] 「公衆への伝達権」について検討した。さらに、長年の懸案である[3] 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)の取扱いも併せ、関係8団体からのヒアリングを行うなど、検討を進めてきたところである。

 これらの点について、当小委員会としてまとめた審議結果は、次のとおりである。
1 著作物等一般に対する頒布権について
(1) WIPO新条約について
 「WIPO著作権条約」第6条並びに「WIPO実演・レコード条約」第8条及び第12条は、著作物並びに音に関する実演及びレコードに関し、

 「Authors of literary and artistic works (Performers, Producers of phonograms) shall enjoy the exclusive right of authorizing the making available to the public of the original and copies of their works (performances fixed in phonograms, phonograms) through sale or other transfer of ownership

 (文学的及び美術的著作物の著作者(実演家、レコード製作者)は、販売又はその他の所有権の移転により、その著作物(レコードに固定されたその実演、レコード)の原作品又は複製物を公衆に利用可能にすることを許諾する排他的権利を享有する)(仮訳)」として一般的頒布権の規定を置くとともに、

 「Nothing in this Treaty shall affect the freedom of Contracting Parties to determine the conditions, if any, under which the exhaustion of the right in paragraph (1) applies after the first sale or other transfer of ownership of the original or a copy of the work (fixed performance, phonogram) with the authorization of the author (performer, producer of the phonogram)

 (この条約のいかなる規定も、著作物(固定された実演、レコード)の原作品又はその複製物について、著作者(実演家、レコード製作者)の許諾を得て最初に販売又はその他の所有権の移転が行われた後に(1)の権利(頒布権)が消尽する条件を締約国が定める自由に、影響を与えるものではない)(仮訳)」と規定し、各締約国がこの権利の消尽に関する条件を定めることができることとしている。
(2) 現行著作権法における取扱い
 現行著作権法(以下「法」という。)では、「頒布」は、「有償であるか無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」(法第2条第1項第19号)と定義されている。頒布権は、複製物の頒布について第三者に対抗できる物権的な効力を有し、この権利によって複製物の流通をコントロールすることも可能となるものである。

 法では、頒布権は映画の著作物、映画の著作物において複製されている著作物及び映画の著作物において翻案されている著作物についてのみ認められており、それ以外の著作物については、頒布行為のうち貸与に関する権利(貸与権)は認められているが、譲渡に関する権利(以下この「まとめ」においては、これを「頒布権」という。)は認められていない。

 複製物の頒布行為は、著作者等の経済的利益に結びつくものであり、また、無断複製物の頒布は権利侵害を顕在化するものであって、著作権等の保護に大きな影響を有する行為である。しかし他方で、複製物は一旦市場に出た後は当該複製物の流通ルートにおいて譲渡されることが予測されるものであり、複製物の流通の各段階に対して権利が行使されることは、円滑な流通を妨げる可能性がある。また、通常の場合、頒布を目的として複製が行われ、複製者と頒布者とが同一であることが多いことから、複製許諾の際の条件として頒布も契約によりコントロールすることができること、違法複製物の頒布についてはみなし侵害規定(法第113条第1項)を設けたことにより権利者の保護が図られていることから、これまで我が国においては著作物一般に対して頒布権は認められていなかった。

 これに対し、映画の著作物については、
(1) 映画の製作には多額の資本が投下されており、複製物1本あたりの経済的価値が高いため、その流通・利用を効果的にコントロールして効率的な資本回収を図る必要があること、
(2) 配給制度により複製物の流通がコントロールされている実態があること、
(3) 上映権だけでは、意図しない上映を事前に押さえることが困難であることから、その前段階である頒布行為を押さえて上映権の実効性を確保する必要があること、
(4) ベルヌ条約では映画の著作物に関してのみ頒布権が認められていること、
などを理由として、頒布権が認められているものと考えられている。
  (3) 著作物等一般に頒布権を認める意
 WIPO新条約においては、各締約国が消尽の条件を定めることができることとされているものの、著作物、実演、レコードの原作品又は複製物(以下「著作物等」という。)の頒布について著作者、実演家、レコード製作者(以下「著作者等」という。)の権利を認めることが求められている。

 また、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ等先進諸国においても、著作者等の権利として頒布権が認められているところであり、このような国際的な動向に鑑みれば、著作権・著作隣接権制度の国際的ハーモナイゼーションの観点から、著作者等の基本的権利としてわが国でも著作物等一般に頒布権を認める必要がある。

 さらに、著作物等の頒布が著作物等の利用による経済的利益を獲得する主要な手段の一つであることを考えれば、頒布について著作者等の意思を反映させることは権利者の保護という観点から見ても重要な点である。

 著作物等一般に対して頒布権を認めることにより、違法複製物が頒布される場合や頒布権者の許諾を得ずに複製物が頒布される場合には、頒布権侵害として差止請求(法第112条)の対象となりうることになるなど、著作者等の保護に資するものと考えられる。
  (4) 頒布権の認められる範囲(「消尽」)について
 (消尽について)

 著作者等に対し、頒布について一定の権利を認めることが、著作権・著作隣接権制度の国際的ハーモナイゼーションや著作者等の権利の保護のために必要であるとしても、著作物等が一旦頒布された後は当該複製物の流通ルートにおいて譲渡されることが予想されるものであることを考えれば、その後の頒布全てに著作者等の許諾を要することとすれば、流通に混乱を招き、取引の安全を害するおそれがある。

 従って、新たに著作物等一般を対象として設定する頒布権に関しては、消尽の考え方(頒布権者又はその許諾を得た者が著作物等を譲渡した場合等について、当該著作物等については頒布権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや頒布権の効力は、以後の譲渡には及ばないとする考え方)を導入し、頒布権の及ぶ範囲を限定する必要がある。このことは、法第1条に規定する「文化的な所産の公正な利用に留意しつつ」との法の趣旨にも沿うものであり、また(1)で述べたとおり、WIPO新条約もこれを認めているところである。
 (消尽の段階について)

 頒布のどの段階で頒布権を消尽させるかについては、取引の安全に配慮する必要性が高いこと、頒布権を認めている諸外国ではいわゆるファースト・セール・ドクトリンを採用していること等を踏まえ、頒布権者又はその許諾を得た者が著作物等を譲渡した場合に頒布権は消尽し、当該著作物等の以後の公衆への譲渡については権利は及ばないこととすることが適当である。この場合、有体物の所有という外形を信頼して取引が行われている実態に鑑み、一次頒布(公衆に対する譲渡)ではなく、一次譲渡(公衆以外の者に譲渡した場合を含む)が頒布権者の許諾を得る等して行われたときに頒布権が消尽するものとすることが適当である。

なお、頒布権者の許諾を得ずに著作物等が譲渡された場合には頒布権は消尽せず、二次的な頒布に対して頒布権を主張できることとなるが、取引の安全の確保の見地から、善意取得者による二次的な頒布については頒布権侵害とはしない特例措置が必要である。
 (映画の著作物の頒布権について)

 法は、頒布権(ここでは譲渡及び貸与に関する権利をいう。)を映画の著作物についてのみ認めており、その頒布権は消尽しないものと解されている。
しかし、近年では、映画の著作物に消尽しない頒布権が認められているのは劇場用映画の配給という実態を踏まえたものであること等から、ビデオソフトや音楽と映像が融合したいわゆるマルチメディアソフトについては、その円滑な流通を図るため、頒布権は消尽するとすべきであるとの意見がある。

 他方、映画の著作物がビデオ化された場合についても、消尽しない頒布権を前提とした流通秩序が存在することから、ビデオソフトについても消尽しない頒布権を引き続き認める必要性は高いという意見もある。

 また、いわゆるゲームソフトについては、近年映画以上の多額の資本を投下して製作されている実態もあり、もっぱら販売を通じて利益を確保している現状からは新品ソフト販売直後からの中古ソフト販売によって著作権者等の経済的利益に多大の影響が生じており、著作権者の正当な利益を確保するためには消尽しない頒布権を与えるべきであるとの意見もある。

 さらに最近のデジタル化の進展によりゲームソフト以外にも多くのデジタル化された著作物等が存在し、これらは使用による劣化がなく、中古品でも新品同様の価値を有するものもあることから、デジタル形式の著作物等全般に消尽しない頒布権を認めるべきであるとの意見もある。

 頒布権の消尽の有無は取引秩序に重大な影響を与えるものであり、現時点では映画の著作物の頒布権について従来の取扱いを変更すべき決定的な理由も見いだしがたいところから、消尽の規定を置かず、現行の規定を維持することとするのが適当である。なお、ゲームソフトの映像については、映画の効果に類似した視覚的又は視聴覚的効果を有するものが増加する傾向にあり、これを映画の著作物に該当するとの判断を示した裁判例も存在することから、その解釈に委ねることとし、現時点では、ゲームソフトについて特段の対応をする必要がないものと考える。

 なお、この問題は、いわゆるマルチメディアを含む視聴覚著作物やデジタル化された著作物等の問題とも関連することから、今後のデジタル化・ネットワーク化の進展の状況等も踏まえながら、適切に検討を行っていく必要がある。
 (国外で譲渡された場合の消尽について)

 経済のグローバル化にあわせて、著作物等の流通は国境を越えて広範かつ大量に行われており、円滑な流通及び取引の安全の確保の必要性は、国際取引においても国内取引同様に妥当する。したがって、国外において適法に譲渡された著作物等がその後わが国で譲渡される場合についても頒布権は及ばないこと(消尽)とするのが適当である。

 なお、権利者が安心してその著作物等を国外で流通に置くことができるよう、国外で既に譲渡された著作物等のわが国への輸入又は輸入後の譲渡について頒布権の行使を認めるべきとする意見もあり、これについては、他の知的所有権制度とのバランスや諸外国の動向等を踏まえ、さらに検討していくべき課題であると考える。/TD>

 2 「公衆への伝達権」について
 (1)  WIPO著作権条約について
 「WIPO著作権条約」第8条においては、

「authors of literary and artistic works shall enjoy the exclusive right of authorizing any communication to the public of their works, by wire or wireless means, including the making available to the public of their works in such a way that members of the public may access these works from a place and at a time individually chosen by them.

 (文学的及び美術的著作物の著作者は、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達を許諾する排他的な権利を享有する。ここでいう公衆への伝達には、公衆の構成員が個別に選択した場所及び時において著作物にアクセスできるように、当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含むものとする。)(仮訳)」として「公衆への伝達権」(Right of Communication to the Public)を規定している。

 なお、同条の「公衆への伝達」には、ベルヌ条約の第11条(上演権・演奏権)、第11条の2(放送権等)、第11条の3(朗読権等)、第14条(上映権等)等に既に規定されている方法によるものは含まれず、主として自動公衆送信に対応することが、この権利を創設する目的であった。また、ここでいう「公衆への伝達」の意義については、隣室にいる公衆に伝達されればこれに該当する(同室の場合は該当しない)と解されている。

 わが国においては、この規定の対象となる行為のうち、無線・有線の方法で自動公衆送信を行うことについては既に法整備(昭和61年に有線送信権創設、平成9年に公衆送信権への統合及び送信可能化権の創設)を行っている。しかし、これに加え、公衆送信以外の有線又は無線の方法による公衆への伝達、例えば特定の場所にポイント・ツー・ポイント送信し受信場所で公衆に提示すること、同一構内で公衆への送信を行い受信場所で提示することなど、有線又は無線の方法による公衆への伝達で自動公衆送信を伴わないものについて著作者の権利を認めることが必要となる。
 (2) 現行著作権法における取扱い
 現行法上、著作物を公衆を対象として伝達することに関連する著作者の権利としては、以下のものが認められている。
(1) 「映画の著作物を公に上映(著作物を映写幕その他の物に映写すること)する」権利及び「映画の著作物において複製されている著作物を公に上映する」権利(上映権)(第26条)
(2) 「著作物を公に上演し、又は演奏する権利」(上演権、演奏権)(第22条)
(3) 「著作物を公衆送信する(送信可能化を含む)権利」(公衆送信権)(第23条第1項)及び「公衆送信される著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」(公の伝達権)(第23条第2項)
(4) 「言語の著作物を公に口述する権利」(口述権)(第24条)
(5) 「美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物を原作品により公に展示する権利」(展示権)(第25条)

 上記(2)及び(4)については、法第2条第7項の規定により、直接公衆の前で生の上演、演奏又は口述を行うことの他に、「録音され、又は録画されたものを再生すること」及び「電気通信設備を用いて伝達するもの」が含まれることから、上演、演奏又は口述を録音又は録画したものを再生することなどにも権利が認められている。ただし、公衆送信される著作物をさらに公衆に伝達することについては、上演権等でなく、上記<3>の公の伝達権が認められることになる。

 したがって、公衆送信される場合の公衆への伝達については、全ての著作物に「公の伝達権」が認められ、それ以外の場合には、音楽や言語の著作物など音で伝達される著作物については「演奏権」又は「口述権」が、映画や演劇・舞踊の著作物など動画系の著作物については「上映権」又は「上演権」が認められている。一方、美術や写真の著作物など静止画系の著作物や、文字・図表等で示された著作物については、美術・写真の著作物の原作品による「展示権」のみが認められ、公衆への伝達一般についての権利が認められていない。

 このような権利の態様となっているのは、これまで、ディスプレイ装置等を用いて公衆に提示される著作物としては音や映像が主であったこと、また、著作物の公衆への提示は、ほとんどがいったん編集行為等により新たな複製をした後に、その複製物を再生することにより行われていることから、このような場合、複製権の行使により権利確保を行うことが可能であることなどによるものであると考えられる。
  (3)  著作権法改正に当たっての考え方
 WIPO著作権条約に盛り込まれている「有線又は無線の方法による公衆への伝達」に関する権利に対応するためには、美術や写真の著作物など静止画系の著作物や、文字・図表等で示された著作物について、新たに有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆送信を伴わないもの)を権利の対象とすることが必要となる。従って、WIPO著作権条約の批准のため法改正を要する部分は、「著作物を同室内以外の場所にいる公衆に対して、有線又は無線の方法によりスクリーンやディスプレイ画面等に映し出すことにより視覚的又は視聴覚的に提示する行為」となる。

 しかし、わが国の著作権法においては、以下の理由により、条約への対応を超えて、「著作物をスクリーンやディスプレイ画面等に映し出すことにより公衆に対して視覚的又は視聴覚的に提示する行為」(以下「ディスプレイ」という。)そのものに着目して、同室内で公衆に対してディスプレイする場合も含め、ディスプレイに対して権利を認めることが適当である。
(1) 映像表示技術の進展に伴い、イベントや博物館等における展示用などとして高精細のディスプレイ画面が利用されるなど、ディスプレイ装置の利用が近年急速に拡大している。また、ディスプレイ装置により提供される著作物も、映画にとどまらず、文字、静止画像などあらゆる情報がデジタル化され、コンピュータによる処理を経て公衆に提供されるようになっており、ディスプレイ装置を用いた公衆への提示が著作物の利用形態として経済的にも価値のあるものの一つとなっていること。
(2) 現在、映画の著作物や演劇・舞踊の著作物等の動画系の著作物については、上映権、上演権が認められているが、デジタル化、ネットワーク化の進展や映像表示技術の進歩等により、美術の著作物や写真の著作物などの静止画系の著作物についても上映的な利用が可能な状況となっていることから、映画の著作物等と他の著作物との保護水準の均衡を図っていく必要があること。
(3) 現在権利が認められていない静止画系の著作物について、いったん複製した上でディスプレイする場合に複製権を主張しようとすると、ディスプレイ前の編集段階における無断複製を立証することが必要であるが、これは事実上困難であり、ディスプレイ段階に権利を認めることで、権利保護の実効性が確保されることとなること。
(4) 条約への対応のみを考えて、送信を介して同室内以外の場所にいる公衆に提示される場合のみを権利の対象とすると、美術の著作物等一部の著作物については、著しくバランスを欠いた状況が生じてしまうと考えられること。
(4)  著作権法における位置づけについて
ディスプレイの対象となるものとしては、映画の著作物、美術の著作物、写真の著作物、言語の著作物、図形の著作物等様々なものがあるが、これらの著作物のディスプレイは、現行著作権法における「上映」の概念(著作物を映写幕その他の物に映写すること)に該当することから、具体的には、「上映権」を映画の著作物に限らず一般的に付与することにより対応することが適切である。

また、権利制限の問題については、上映権等の制限について規定している法第38条第1項と同様に、非営利、無料などの要件に該当する場合に権利を制限することとするのが適当である。

 3 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)について
 (1)  現行著作権法における取扱い
 音楽の著作物を公衆に対して技術的装置を用いて聴覚的に提示することについては演奏権(第22条)が認められている。なお、「演奏」には直接公衆の前で生の演奏を行うことの他に、「録音されたものを再生すること」及び「電気通信設備を用いて伝達するもの」が含まれる(第2条第7項)。

 しかし、演奏権については、附則第14条により、当分の間、市販のレコード等適法に録音された音楽の著作物の再生演奏については、公衆送信に該当するもの及び著作権法施行令附則第3条の各号に定める音楽喫茶、ダンスホール、ディスコ等営利を目的として音楽の著作物を使用する事業を除き、演奏権が制限され、著作権者の許諾を得なくても自由に行うことができることとなっている。

 この附則第14条の規定は、旧法下においては、適法に録音された音楽の著作物の再生演奏が自由に行えることとなっており、このような長期間にわたり形成された社会的慣行やレコード使用の実態を踏まえると、昭和45年の著作権法全面改正時に、即時に演奏権を適用することは社会的影響が大きいと考えられたことから設けられたものである
  (2)  附則第14条の取扱いについて
 附則第14条については、現行法制定後相当の期間が経過していることから、著作権審議会において、これまでも検討が行われてきており、平成4年3月の第1小委員会の審議のまとめにおいては、「音楽著作権の管理体制の整備及び利用者の理解の促進などの条件整備を進め、その進捗状況に応じ具体的な立法措置について判断を行うことが適当である。」とされ、また、平成8年9月の第1小委員会審議経過報告においては「利用者団体の理解を得るための広報活動への積極的取組み及び附則第14条を廃止した場合の円滑な権利処理ルールの整備に向けた具体的取組みが必要であることを踏まえつつ、できるだけ早期に法律改正を行う方向で、今後も、積極的に検討を進めていくべきものであると考えられる。」とされているところである。なお、附則第14条については、平成8年7月にWTO(世界貿易機関)の場で行われたTRIPS理事会における各国著作権法レビューにおいても、ECからベルヌ条約違反ではないかと公式に指摘されていたところである。

 附則第14条の取扱いについては、<1>近年の有線音楽放送の発達・普及に伴い、遊技場や喫茶店等、従来附則第14条により演奏権の対象外として大きな割合を占めていた施設等が、レコードの再生演奏から有線音楽放送の利用に転換してきており、附則第14条の廃止による直接的な社会的影響は減少してきていること、<2>本規定は当分の間の規定であるにも関わらず、既に現行法制定後約30年が経過しており、一定の条件整備を前提としながらも、附則第14条の廃止に関する利用者団体等の理解も得られつつあること、<3>2(「公衆への伝達権」について)で記述したとおり、他の著作物については公衆への伝達に関する権利が認められることとなるにも関わらず、音楽の著作物のみ、公衆への伝達のうち適法録音物の再生演奏について権利を認めないことは、権利保護の均衡を著しく失することとなること等から、早急に附則第14条を廃止することが必要である。

 その際、音楽の著作物が幅広く社会的に利用されている実態を踏まえ、権利者団体は、利用者団体等に対し、実際の権利処理のルール、スケジュールを早期に提示するとともに、利用者団体等との十分な協議を行うなど、演奏権管理の円滑な実施に向け、十分配慮する必要がある。

(参考)
著作権審議会第1小委員会委員名簿
(敬称略、五十音順)

阿 部 浩 二 岡山商科大学教授・岡山大学名誉教授
大 山 幸 房 帝京科学大学教授
川 井   健

帝京大学教授・元一橋大学長

主 査  斉 藤   博 専修大学教授
佐 野 文一郎 (財)内外学生センター会長
玉 井 克 哉 東京大学先端科学技術研究センター教授
土 井 輝 生 札幌大学教授
道垣内 正 人  東京大学教授
土 肥 一 史 福岡大学教授
中 山 信 弘 東京大学教授
野 村 豊 弘 学校法人学習院常務理事
半 田 正 夫 青山学院大学教授
堀 田   力 さわやか福祉財団理事長
松 田 政 行 日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
紋 谷 暢 男 成蹊大学教授
著作権審議会第1小委員会審議経過

平成10年1月9日
「WIPO著作権条約」「WIPO実演・レコード条約」
批准に向けたスケジュールについて
平成10年2月24日
頒布権について (1)
平成10年4月13日
頒布権について (2)
平成10年5月19日
頒布権に関するヒアリング (1)
[1] 社団法人コンピュータソフトウエア著作権協会
[2] 社団法人日本音楽著作権協会
社団法人日本レコード協会
社団法人日本芸能実演家団体協議会
平成10年6月5日
頒布権に関するヒアリング (2)
[1] 社団法人日本書籍出版協会
[2] 社団法人経済団体連合会
[3] 社団法人日本映像ソフト協会
社団法人日本映画製作者連盟)
平成10年7月28日
頒布権について (3)
平成10年8月31日
「ディスプレイ」に係る権利について (1)
平成10年10月6日
「ディスプレイ」に係る権利について (2)
平成10年10月23日
「ディスプレイ」に係る権利について (3)
演奏権に係る経過措置(附則第14条)に関するヒアリング
(社団法人日本音楽著作権協会)
平成10年11月6日
頒布権に関するヒアリング (3)
(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)
平成10年11月30日
審議のまとめ(案)について

 「プレスリリース」の社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)の「2001.10.19BGM管理通達」を転載しておく。
 BGMの管理を来年4月から開始します

 平成11年6月15日の著作権法改正で、同法附則第14条が廃止(平成12年1月1日施行)され、CD等の録音物を利用した店内BGMにも著作権が及ぶことになりました。店内等でのBGMには、CD等の録音物の再生演奏と有線音楽放送などがありますが、現在では圧倒的に有線音楽放送によるものが多く、JASRACはこの法改正にともない、録音物の再生演奏の管理と合わせて、これまで権利の行使を控えてきた有線音楽放送などを店内等で流すときの「公衆送信の伝達」の管理も開始することとしました。

 「公衆送信の伝達」については、著作権法第23条で、従来から著作権者の権利を認めていましたが、同じ効果をもたらす利用でありながら録音物による再生演奏については、同法附則第14条により権利が及ばなかったため、JASRACは社会的公平性の観点からこれまでこの権利の行使を控えてきました。

 今回新たに管理対象となるのは、飲食店はじめ、銀行、ブティックなど一般小売店、コンビニエンスストア、百貨店、ホテル、旅館、また遊園地や空港のロビーなどがありますが、それらの施設のほとんどは、有線音楽放送やBGM貸出事業者の音源を利用しています。管理対象の施設数はおよそ120万件、このうちの約90%が有線音楽放送を利用しているものとみています。

 そこで、有線音楽放送事業者やBGM貸出事業者の協力を得て、いわゆる元栓での著作権処理の方法により、膨大な管理対象を短期間で適法な状態にできることを最優先とする管理方針のもと、BGMを利用している飲食店等の利用者団体や有線音楽放送事業者などの音源提供事業者と協議を重ねた結果、徴収方法および使用料について協議が整い、去る10月2日に文化庁長官に使用料規定[第13節 BGM]の届出を行いました。

 BGMの使用料は「使用料規定」のとおり、1施設における使用料と音源提供事業者が包括的に契約をする場合の使用料を定めており、この規定の適用開始は平成14年4月1日を予定しています。なお、福祉、医療、教育機関での利用、従業員のみを対象とした事務所や工場、露天等での短時間かつ軽微な利用については、当分の間使用料を免除します。

 [著作権法附則14条とは]

 昭和9年の旧著作権法改正で、レコード演奏に著作権は及ばないとされ、さらに昭和45年の著作権法全面改定の際には同法附則第14条により、放送や有線放送、また音楽喫茶、ダンスホールなど政令で指定された事業以外は著作権者の権利が制限されてきました。「当分の間」とされた附則第14条ですが、長年にわたり改正されず、JASRACは著作権者の立場から早期の廃止を働きかけてきました。レコード演奏と生演奏等で及ぶ権利を区別する規定は世界でも例が無く、平成8年のWTO(世界貿易機関)TRIPS理事会でも著作権の国際条約である「ベルヌ条約」に違反するのではないかとの指摘を受け、一昨年ようやく廃止されました。

 この件についてのお問い合わせは
 JASRAC演奏部まで  TEL.03-3481-2167 (直通)


 



(私論.私見)