著作権法は、「舞踊または無言劇」を著作物にあたるものの1つとして例示している。ここで保護の対象とされているものは、踊りや劇についての型や振り付けであり、これら「舞踊または無言劇」の著作物の創作者(著作者)には、複製権や上映権などの「著作権」、氏名表示権や同一性保持権などの「著作者人格権」が認められている。
一方、踊りや劇を創作した者ではない(著作者ではない)ものの、それらを舞い、演じる者(俳優や歌手など)は著作隣接権として「実演家の権利」を有し、録音・録画権などの「実演家財産権」、氏名表示権や同一性保持権などの「実演家人格権」が認められている。
よって、私的使用の範囲を超えて、振り付けを無断でコピーするなどの行為は「著作権」の侵害行為となり、俳優や歌手など実演家の演技を無断で録音・録画するなどの行為は「著作隣接権」の侵害行為となる、とされている。
一々尤もなようだが、これが万事に適用されていくとどうなるかだろう。思うに、著作権は勝れて思想的な問題である。あれもこれも芋づる式に認めていくことが社会的に良い事なのかどうか、著作権問題の初心に戻って限定的に再構成すべきではなかろうか。こういう問いかけ無しに安逸な正義を弄ぶ者がもっとも非正義者というジレンマに陥っているのではなかろうか。
れんだいこが危惧している通り、ジャスラック式音楽著作権が様々な分野へ飛び火し始めている。遂に、歌の振り付けとかダンスに創作性が認められ、振り付け師に著作権が認められる時代に入った。この調子で行けば、いずれ創意性のある身振り手振りにも著作権が適用される事になるということだろう。一つ認めればキリがなくなるという好例だろう。他にもこれまでは想像も及ばなかったあれやこれやに著作権が認められ始める事になろう。今のところ、歌手の歌唱権というものはないが、独特の節回しに認められるのは時間の問題だろう。そうやって、みんなが共同して住みにくい世の中づくりに精出していくのだろう。
振り付け著作権については既に、バレエや日本舞踊の振付師に著作権を認めた判決がある。これに加勢されて、「2007年、ピンクレディー提訴事件」が発生している。昭和50年代に一世を風靡した元ピンク・レディー(未唯(みい)、増田恵子)が、週刊誌「女性自身2007.2.27日号」に掲載された、何と過去のステージ写真をめぐり、「振りつけにもパブリシティー権がある」として、出版元の光文社に計312万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている事件を云う。ミイとケイに著作権に対する知識があると思われないので、誰かが知恵を付けたのだろう。
「2007年、ピンクレディー提訴事件」は、振り付け師でもない歌手が、振りつけにパブリシティー権を主張した初事例であり、著作権法を管轄する文化庁も初耳という。こうやって、どんどん著作権ないしは著作権まがいのものが社会を侵食し始めている。
ちなみに、「パブリシティー権」とは、ファンや客をひきつける力(顧客吸引力)のある著名人の名前や肖像などから生じる経済的な利益を、本人が独占的に得ることができる権利を云う。第3者が無断で商品を製造販売すると権利侵害となる。肖像権が人格権に基づくのに対し、財産権的な側面をもつ。
パブリシティー権については、東京高裁が平成18年、アイドルの写真を無断掲載した出版社に賠償を命じるなど、本人の姿に対しては認める司法判断が増えている。このゼニゲバ的パブリシティー権が認められる範囲については明文化した法的規定もまだなく、その線引きも定かでは無い。学説も分かれているのが実情だ。
2008.5.24日、社交ダンスブームを生み、ハリウッドでもリメークされた映画「Shall we ダンス?」(周防正行監督)のダンスシーンの振り付けを担当した舞踏家・わたりとしお氏が、「無断でテレビ放映やDVD化など二次利用され、著作権を侵害された」として、映画を製作した「角川映画」に約5300万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたことが分かった。これは、振付師の堂々たる振り付け著作権を廻る争いである。