安田弁護士提出の各申立書考

 (最新見直し2010.01.29日)

 (れんだいこのショートメッセージ)

 2010.01.29日 れんだいこ拝


 2010.1.16日、小沢キード事件被告の一人・石川知裕民主党衆院議員の弁護人になった安田好弘と岩井信の両弁護人が連名で、法務大臣、検事総長、東京高等検察庁検事長、東京地方検察庁検事正宛に次の申入書を提出した。魚住昭責任編集ウェブマガジン「魚の目」の「弁護士業の現場から第二回」にサイトアップされており、これを転載しておく。

 (1)申入書

 2010年1月16日

 法務大臣殿 千葉景子殿
 検事総長殿
 東京高等検察庁検事長殿
 東京地方検察庁検事正殿

 被 疑 者  石  川  知  裕
 弁 護 人  安  田  好  弘
 同       岩  井     信

 政治資金規正法違反被疑事件における上記被疑者に対する取調について、公正な取調を確保し、自白強要を防止するため、直ちに以下の事項を実施するよう申し入れます。これらが履践されないとき、被疑者の当該調書に「任意にされたものでない重大な疑い」が生じることを、予め御承知おき下さい。

 記

 第1 申し入れ事項

 公正な取調を確保し、自白強要を防止するため、
1 すべての取調を可視化(一部ではなく、取調全過程のテープ録音ないしビデオ録画)すること。
2 1日の取調時間は合計4時間以内にとどめ、その間に、少なくとも30分以上の休憩(取調官と隔絶した場所における休憩)を確保すること。
3 1週間に少なくとも2日の割合で、取調のない日をおくこと。
4 黙秘権を十分に尊重し、被疑者が黙秘権を行使した場合には、その手段の如何を問わず、黙秘を止めさせるための一切の働きかけを行わないこと。
5 弁護人の接見の回数と時間を確保し、十分な弁護を受ける機会を保障すること。
6 調書を作成するに当たっては、本人が弁護人に対し、事前に調書の内容について相談し、その助言を得る機会を確保すること。
 

 第2 取調の全面可視化について

1 取調の全面可視化要求は、(1)憲法13条の自己情報支配権にもとづく自らの供述を正確に保持する権利として、(2)憲法38条1項の自己負罪拒否特権を手続的に担保するための必要最少限の保護措置として、(2)憲法31条、法1条の適正手続と実体的真実主義を全うする趣旨において、(4)憲法38条2項、法319条1項、32 2条1項から導かれるというべき「任意性」を あらかじめ担保・設定することが出来る被疑者の権利の最少限度の担保措置として、(5)憲法34条・憲法37条3項の弁護人依頼権から当然導かれる権利として、各条文上の根拠にもとづき要求するものである。
2 足利事件をはじめとして、取調の可視化は、捜査機関の自白強要やえん罪を防止し、刑事司法の適正化を確保する上で、不可欠であることが、広く社会一般で確認され、要請されている。
3 しかも、すでに、法務省においても取調の可視化導入の検討に入っている。
4 本件における任意の事情聴取においてさえ、検察官は被疑者に対して、「容疑を認めないと帰さない」等の脅迫的な取調による自白強要を行っている。
5 したがって、上記事項を申し入れるものである。

 以上

 (2) 準抗告申立書

 2010年1月16日
 東京地方裁判所刑事部 御中

 被 疑 者   石川知裕
 弁 護 人   安田好弘
 弁 護 人   岩 井 信

 上記の者に対する政治資金規正法違反被疑事件について、東京地方裁判所裁判官が本日なした勾留の裁判に対し、下記の通り、準抗告を申し立てる。
 

 第1 申立の趣旨

 1 原裁判を取り消す。
 2 検察官の勾留請求を却下する。
 との決定を求める。

 第2 申立の理由

 6 被疑者は国会議員である―議員の職務の執行の重要性

   被疑者は現職の国会議員である。本年1月18日(月)から通常国会が開始され、被疑者は国民によって選ばれた現職の国会議員として、国会の議場にいるべきものである。だからこそ、日本国憲法は議員の身体の自由を保障し、議員の職務の執行が妨げられないようにするため、国会議員の不逮捕特権を定めている。したがって、不逮捕特権を有する国会議員を逮捕・勾留するには、議員の職務の執行を妨げてでも、身体を拘束しなければならないほどの強度の必要性がなければならない。検察官は、不逮捕特権を避けるために国会の会期直前の1月15日(金)に被疑者を逮捕したが、これは議員の職務の執行を妨げても逮捕しなければならない事案であるかの議論を意図的に避けようとするものであって、不当というほかない。しかし、本件被疑事実の罪質からすれば、およそ、そのような強度の必要性はない。

 7 本件被疑事実の罪質

 本件被疑事実は、殺人や窃盗等のような自然犯ではなく、政治資金規正法違反の「形式犯」である。しかも、政治資金規正法は報告書の提出責任者を「会計責任者」としているところ、被疑者は「会計責任者」ではなく、身分犯ではない。したがって、被疑者は、勾留されずに、現職の国会議員として国民に向かい合い政治的責任を全うすべきであって、本件被疑事実の形式犯的要素に鑑みれば、議員の職務の執行を妨げてまでして逮捕・勾留の必要性がないことは明らかである。

 8 別件逮捕の疑い(→慎重に検討)

 被疑者には、後記の通り逃亡の危険も証拠隠滅の危険もないのであって、本件勾留は、これらの行為の防止という点では意味のないことである。本件被疑者に対する身体拘束の真の狙いは、被疑者を長時間にわたって孤立させ、精神的・肉体的に苦痛を与えることによって、被疑者及び関係政治家に対して政治的ダメージを与え、政治資金規正法違反の被議事実を超えて、別件についての供述を得ようとする別件逮捕である。未決拘禁は被疑者から自白を獲得するための制度ではないし、供述調書に署名捺印させるための制度でもない。このような未決拘禁制度の運用は、黙秘権を保障した日本国憲法38条1項、自由権規約14条3項(g)に違反するものというほかない。

 9 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がないこと

 (1)罪障隠滅の対象がないこと

 すでに関係多方面で実施された捜索・押収により、本件被疑事実に関する客観証拠はすべて確保された上で逮捕されている。したがって、そもそも罪障隠滅の対象がない。

 (2)罪障隠滅の客観的可能性がないこと

 この点、大阪地裁昭和38年4月27日決定は、勾留の裁判を取り消した決定の中で、勾留の要件としての「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の意義について次のように判示している(判例時報335号50頁)。

 およそ被疑者として捜査官憲の追及を受けている者は、聖人君子でもない限り、何らかの方法で罪証の隠滅をはかろうとするのが人間心理の自然であろう。にも拘わらず同条1項2号に勾留の要件として、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と規定されているのをみると、それは罪証隠滅の単なる抽 象的な可能性では足りず、罪証を隠滅することが、何らかの具体的な事実によって蓋然的に推測されうる場合でなければならないことが明らかである。

 これを本件についてみると、関係証拠が全て証拠化され、捜査を尽くしている以上、罪証隠滅の客観的可能性が認められないことは言うまでもない。 ましてや、本件において、被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由として、具体的な事実に裏付けられた相当程度高度の蓋然性は認められないのである。

 (3)罪証隠滅の主観的可能性がないこと

 また、被疑者には、罪証隠滅の主観的意思も全くない。被疑者は、現職の国会議員として、検察官の事情聴取に応じ、すでに調書も複数作成しており、罪証隠滅の主観的可能性もない。

 10 逃亡のおそれがないこと

 本件逮捕は被疑者が検察官の呼び出しに応じて、その結果、逮捕されたものである。被疑者は現職の国会議員であり、メディアをはじめ衆人環視のもとにあることは裁判所においても公知の事実であって、逃亡のおそれはない。

 11 結語

 以上のとおりであるから、原裁判は取り消され、被疑者は、勾留されずに、現職の国会議員として国民に向かい合い政治的責任を全うすべきであって、本件被疑事実の形式犯的要素に鑑みれば、議員の職務の執行を妨げてまでして逮捕・勾留の必要性がなく、検察官の勾留請求は却下されるべきである。

 以上


 (3)報道機関各位

 読売新聞は、本日、「小沢一郎・民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反事件で、逮捕された石川知裕衆院議員(36)(民主)が東京地検特捜部の調べに、土地購入前の2004年10月下旬頃、土地代金に充てる現金4億円を同会の同年分の政治資金収支報告書に記載しない方針を小沢氏に報告し、了承を得て いたと供述していることが、関係者の話で分かった。」と報道していますが、石川氏が上記のような供述をしたことは全くなく、上記の報道は完全な誤報です。

 2010/01/20

 石川知裕氏弁護人
 弁護士 安 田 好 弘
 同    岩 井 信


(4) 抗議書

 2010年1月22日
 東京都千代田区霞が関1−1−1
 東京地方検察庁
 岩村修二検事正 殿

 石川知裕弁護人
 弁 護 士  安 田 好 弘

 当職は、本年1月16日付で政治資金規正法違反被疑事件における上記被疑者に関し、公正な取り調べを確保し、自白強要を防止するため、取り調べの全面可視化等を貴殿に申し入れたところ、申し入れ事項は、現在に至るまで何ら実施されていない。むしろ、弁護人の接見時間を1人30分に制限して弁護権を不当に制約する一方で、逮捕翌日の今月16日(土)以降、毎日、就寝時間をはるかに超えて、夜11時ころまで、夜間の取り調べを強行している。これは、拷問・虐待と言うほかなく、人道上問題があるばかりか、自白を強要しているものであって、およそ許されない ものである。

 犯罪捜査規範は、深夜または長時間にわたる取調べを避けなければならないとし、国連拷問等禁止委員会も、2007年5月18日、日本政府に対し、取調べ時間について、違反した場合の適切な制裁を含む厳格な規則を速やかに採用すべきであると勧告している。夜間に及ぶ取調べこそが、被疑者を精神的肉体的に追いつめてい く拷問的取調べの基本形である。

 ただちに、夜間の取り調べを禁止し、申入書の内容を即時実施するよう、あらためて申し入れるものである。なお、夜間の取り調べが今後も行われるならば、しかるべき法的手続をとることを、予め通告します。

 以 上

 2010年1月22日


(5)準抗告申立書

 東京地方裁判所刑事部 御中

 被 疑 者   石川知裕
 弁 護 人   安田好弘

 上記の者に対する政治資金規正法違反被疑事件について、東京地方裁判所裁判官が本日なした勾留の延長の裁判に対し、下記の通り、準抗告を申し立てる。

 
第1 申立の趣旨

 1 原裁判を取り消す。
 2 検察官の勾留延長請求を却下する。
 との決定を求める。

 
第2 申立の理由

 1 本件勾留延長は、被疑者をしてもっぱら虚偽自白をさせようとするものであって、勾留制度の濫用であり、違法である。被疑者は、逮捕勾留以来、以下のとおり、毎日平均約8時間、合計約80時間の長時間の取り調べを受けている。しかも、その取り調べ時刻は、午前10時から深夜の午後11時半までに及び、その間、被疑者は、椅子に座り続けさせられ、「小沢議員は虚偽の収支報告をすることを知っていただろう!」「水谷建設からお金を受け取っただろう!」等と激しく追及され続け、また「嘘をつくな!」などと激しく罵倒され続け、肉体的にも精神的にも完全に疲弊させられており、筆舌に尽くしがたい苦痛を受けている。被疑者に対し、憲法36条が禁止している拷問が行われているのである。

日にち 曜日 取調時刻 取調時間
2010/1/16 18:30-23:30 5:00
2010/1/17 10:30-11:30
13:30-16:00
18:30-22:00
7:00
2010/1/18 不明
弁護人の聞き漏らし。
不明
2010/1/19 10:30-11:30
14:00-16:00
18:30-23:00
8:00
2010/1/20 10:45-11:30
13:30-16:20
18:30-23:10
8:15
2010/1/21 11:30-12:30
13:30-16:30
18:50-23:30
8:40
2010/1/22 10:30-12:30
14:00-16:30
19:40-23:00
7:50
2010/1/23 10:30-11:20
14:00-16:30
19:00-23:00
7:20
2010/1/24 13:50-16:30
18:30-23:00
7:10

 取調検察官が、合計約80時間もの時間をかけて、被疑者に訊いているのは、もっぱら、
(1) 虚偽の収支報告につき小沢議員と共謀したか否か、
(2) 土地購入資金のうち1億円は水谷建設からのヤミ献金ではないか、
 ということに終始している。そもそも、本件被疑事実は、大久保氏と共謀したというものであって、小沢議員と共謀したものではない。また、本件被疑事実は、収入を4億円少なく報告したというものであって、収入先を偽ったというものではない。従って、上記の各質問は、本件被疑事実とは全く関係のない事項である。

 もっとも、被疑者は、上記の質問について、当初から、そのような事実がないことを明確に述べているが、今日に至るも、執拗に、尋問が行われ続けている。被疑者が小沢議員と共謀したことがないこと、水谷建設から金銭を受け取ったことがないことは、言うまでもないことである。

 以上から、明らかなとおり、本件事件に関する捜査はすでに終了している。本件勾留延長は、被疑者をさらに10日間勾留して、さらに長時間の取調をして被疑者に苦痛を与え、もって虚偽の自白をさせようとするものにほかならず、勾留制度の濫用であって、違法である。
 
 2 以上のとおりであるので、本件勾留延長の取り消しを求める次第である。

  弁護人は、検察官に対し、取調の可視化と長時間および夜間の取調の禁止、調書作成に際して事前に弁護人の了解を得る機会の確保を求めているが、未だに何も行われておらず、本日、午後4時の弁護人による木村検察官に対する申入れにおいても、同人は弁護人の申入れを完全に拒否することを明言し、自分たちのやりたいように捜査を継続すると強弁している。

  裁判所は、刑訴法上、検察官の違法な取調をチェックし、これを制止すべき義務を負っている。弁護人は、裁判所が、その職責を怠り、検察官の虚偽自白の強要に手を貸すことがないよう、強く求めるものである。

 以上


 (6)接見禁止一部解除申立書

 2010年1月26日
 東京地方裁判所刑事部 御中

 被 疑 者   石川知裕
 弁 護 人   安田好弘

 上記の者に対する政治資金規正法違反被疑事件について、東京地方裁判所裁判官がなした接見禁止決定を一部解除するよう申し立てる。

 第1 申立の趣旨

 接見禁止の対象から、以下の書類の授受を除外し、接見禁止を一部解除する
 読売新聞(株式会社読売新聞東京本社)
 日刊スポーツ(株式会社日刊スポーツ新聞社)

 との決定を求める。

 第2 申立の理由

1 全面的接見禁止の理由はない

 原決定は罪証隠滅のおそれを理由に、全面的に接見及び文書の授受を禁止した。しかしながら、以下のとおり、身柄拘束に加えて全面的に接見を禁止しなければならない理由は全くない。少なくとも、公刊された大手新聞の購読を禁止する理由はない。なお、読売新聞および日刊スポーツはいずれも東京拘置所内で購読可能な新聞である。
 
2 被疑者は現職の国会議員である

 被疑者は現職の国会議員であって、国民から選挙で選ばれたものであって、憲法上の不逮捕特権を有する。したがって、その身体の拘束に際しては、必要最小限にとどめることが憲法上も要請されているのであって、接見禁止についてもその趣旨は十分斟酌されなければならない。本件での接見禁止の一部解除の対象は、公刊された誰もが知る大手新聞であって、それを通じての罪証隠滅はありえない。むしろ、被疑者は、現職の国会議員として、自らの逮捕・勾留についてメディアがどのように報道し、国民がどのように自らのことを考えているか知る必要がある。

 また、被疑者は、現職の国会議員として、本来出席すべき国会の様子をはじめ日本及び世界で起きている政治、経済等について最新情報を入手する必要がある。現職の国会議員として、必要な場合には、いつでも国会の議論に参加できるように準備をしておく必要があることは当然である。したがって、被疑者が不逮捕特権を有する現職の国会議員であることから、その職務の遂行を確保・準備するためには、最低限大手新聞については接見禁止の一部解除とされなければならない。
 
3 被疑者には休憩が必要である

 また、被疑者は、逮捕勾留以来、毎日平均約8時間、合計約80時間の長時間の取り調べを受けている。しかも、その取り調べ時刻は、午前10時から深夜の午後11時半までに及び、その間、被疑者は、椅子に座り続けさせられ、激しく追及され続け、また「嘘をつくな!」などと激しく罵倒され続け、肉体的にも精神的にも完 全に疲弊させられており、筆舌に尽くしがたい苦痛を受けている。被疑者に対し、憲法36条が禁止している拷問が行われているのである。

 このような取調が勾留制度の濫用であることはすでに準抗告によって争っているところであるが、少なくとも、ささやかな外界との窓を確保し、リフレッシュし、心身を解きほぐして休憩のひとときを確保するため、最低限大手新聞については認められるべきである。
 
 4 まとめ

 したがって、上記新聞については、接見禁止の一部解除がなされるべきである。






(私論.私見)