JBPressに寄稿したカイロ大「小池氏は卒業生」声明の正しい読み解き方では、小池百合子都知事がエジプトの軍閥に握られた弱みについて書いた。その弱みとは小池がエジプト軍閥の〝子飼い”となり、カイロ大学の〝超法規的”卒業枠を得たことである。その結果、軍閥が掌握する権力構造に組み込まれてしまった。 |
●学歴詐称で済まされない問題の核心は何か
その軍閥の最上層部に位置するのが「エジプト革命評議会」とその後継者たちであり、1954年の「カイロ大学粛清事件」以来、大学を支配下に置いている。そして、革命評議会の情報・文化・メディア責任者、ムハンマド・アブドゥルカーデル・ハーテム氏こそが、小池がエジプトに滞在した1970年から亡くなる2015年まで彼女の後ろ盾であった。
➡ハーテム氏を“エジプトのパパ”と呼ぶ小池百合子(左) 小池百合子と同居し、“子飼い“にしたエジプト元情報相ハーテム氏(右)出典:http://gate.ahram.org.eg/Media/News/2013/7/25/2013-
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後ろ盾を引き継いだのがシシ大統領であり、その傘下のエジプト国家情報部である。シシ大統領は、ハーテムから見れば、軍人時代の弟分タンターウィー(元国軍総司令官、2013年の軍事クーデター後の国家元首代行)の部下、つまり孫弟子にあたる人物だ。情報部はといえば、元々ハーテムが創設した組織である。その裏付けとして、ハーテムが最高執行委員を務めていた政府系新聞アハラーム紙の記事を同記事では一部示した。今回、さらに細部にわたり分析していく。そして問題の核心は、後ろ盾に対する見返りが何かということだ。単なる一知事の「学歴詐称」では済まされない、日本の国益にかかわる問題である。その核心について、現地メディアにおける小池の発言から解明していく。まず、小池とハーテムの関係を振り返っておこう。 |
●小池とハーテムの関係を“政府系新聞”から読み解く
政府系新聞アハラーム紙の記事(2016年8月3日付)で「小池氏は非常に特殊な女性である。ハーテム情報大臣の支援を受け、彼女は社会学科を卒業。彼は小池を自分の子供のようにみなしていた」(抜粋)とある。小池自身も同紙インタビューで、ハーテムは「私のエジプトのパパ」、「私のスピリチュアル・ファーザー(守護者)」などと複数回、語っている。例えば、2004年3月2日付けのアハラーム紙では「カイロ大学時代の教授陣(複数形)は?」の質問に対して、「私の教授はアブドゥルカーデル・ハーテム博士で、私にとってエジプトの父です」と答えている。 普通、教授陣の名を聞かれれば、専攻学科(小池氏の場合、社会学科)の恩師や少なくとも印象に残っている先生について語るものだが、小池は違う。カイロ大学の教授ですらないハーテムの名をあげるのみだ。 ハーテムは当時、エジプトの副首相(情報担当)であったが、2人は一体、どういう関係だったのか。
「ハーテム氏に面倒をみてもらい、小池氏はカイロでの留学中のかなりの期間、ハーテム家で家族と子供たちと住んでいた」(アハラーム紙2011年9月3日付)。つまり、同居していたのだ。小池が1976年、カイロを後にしたのちはどうなったのか。アハラーム紙が記録に残している。 「ハーテム氏と学生から政治家、そして大臣になった彼女の関係は、カイロの地で途切れたわけではない」(同上)、「彼女はスピリチュアル・ファーザーと呼ぶハーテム博士(中略)と常に連絡を取り合ってきた」(同)、「小池氏は2003年2月から日本の環境大臣であり、日本の内閣でイスラム教の寛容性を説いているとハーテム博士に語った。博士は彼女から連絡を受けることをうれしく思っている」(アハラーム紙2004年6月21日)、「(小池氏が今回、カイロにきたのは)ハーテム博士から(2011年)8月に掛かってきた電話でのリクエストがあったからだ」(同紙2011年9月3日付)、「彼女は学生時代に過ごしたハーテム家で家族や孫たちと再会した」(同上)、「そこで小池氏は、ハーテム博士に対して、エジプトやエジプトの友人のために奉仕するプロジェクトを話題にした」(同)。以上が、小池はハーテムの“後ろ盾”で卒業、その後も二人の関係は継続し、エジプトに何かしら貢いでいたことをエジプト政府(系新聞)が公認した内容である。 |
●「カイロ大学の声明」を出した組織の正体とは
公認といっても、所定の学業を修めたという普通の意味での卒業ではない。卒業と記すアハラーム紙はハーテムが最高執行委員を務めていた新聞である。もちろん、ただの新聞ではない。彼が創設したエジプトの国家情報部の従属下におかれた「政治機関である」(国家情報部ウェブサイト上の『ハーテム回想録 10月戦争政府の首長』紹介ページ。筆者注:第四次中東戦争のこと。ハーテムは戦時中、首相代行を務めた)。記事はすべて、政治的意図をもって書かれた声明なのだ。
カイロ大学と国家情報部———この権力構造を裏返せば、真相が浮彫りになる。“小池の卒業”とは、カイロ大学ではなく、国家情報部の公認という意味になる。では、国家情報部の上部機関はどこか。エジプト大統領府、つまり、軍閥のトップ・シシ大統領である。カイロ大学長の任命権は誰にあるか。同じく、シシ大統領である。
この権力のピラミッド構造がわかれば、さらには、6月8日に出された「カイロ大学の声明」を出した組織の正体、そして声明の真の意味が読み解ける。声明の全文を引用しておく。
「カイロ大学は、1952年生まれのコイケユリコ氏が、1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された。遺憾なことに、日本のジャーナリストが幾度もカイロ大学の証書の信憑性に疑問を呈している。これはカイロ大学及びカイロ大学卒業生への名誉棄損であり、看過することができない。本声明は、一連の言動に対する警告であり、我々はかかる言動を精査し、エジプトの法令に則り、適切な対応策を講じることを検討している」。
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この声明は、大学公式サイトではなく、外交ルートである在京エジプト大使館のフェイスブックに掲載されたものだ。注目すべきは後段である。「本声明は、一連の言動に対する警告」と目的がはっきり書かれている。卒業証明ではない。その根拠を一切示さず、証書の信憑性に疑問を呈する“日本のジャーナリストへの脅迫”目的の声明なのだ。外国ジャーナリストを取り締る権限のあるエジプトの管轄官庁といえば、どこか。答えは国家情報部である。軍閥専制国家であるエジプトにおいて、越権行為は許されない。カイロ大学は声明の“表の顔”に過ぎないというわけだ。 |
●政治的な意図が明白だった大学の声明
では何のために、声明の正体“裏の顔”である国家情報部がこんな声明を出すのか。“学歴詐称”がバレ、窮地に陥った“子飼い”の小池を都知事選に再選させるためである。陰謀論じみて聞こえるだろうが、そう言っているのは私ではない。国家情報部のコントロール下にあるエジプト現地メディアの報道である。声明発表の3日後、6月11日に一斉に報じられた記事の見出しをいくつか紹介する。
「カイロ大学、小池都知事のために都知事選に‟点火”」(ウェブ報道サイト「アルバラド」)
「カイロ大学、危機に瀕する東京都知事を救うために介入」(同「アハバーラック」)
「カイロ大学、都知事の卒業証書を認めない日本メディアに対し法的手段で脅迫」(政党系日刊新聞「アルワフド」ネット版)
“カイロ大学”声明とは、事実の公表ではなく、政治的な意図があることが明白になった。知事再選に助け舟を出し、小池に恩を売りつけるためである。この政治声明に歩調を合わせ、小池は「(卒業の)ひとつの証になるかと思う」(6月9日)ととぼけるが、その見返りは何なのか。そして、エジプト国家情報部の正体とは…。(続く) |
2020.07.02、エジプト軍閥の“子飼い”小池百合子の運命② 「私は100%エジプト人なの」(特別寄稿)
https://agora-web.jp/archives/2046908.html
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現地メディア「カイロ大声明は小池の再選目的」連載第1回で、エジプトの軍閥が「カイロ大学の学長声明」を通じて、東京都知事選に政治介入した背景と権力構造を解き明かした。カイロ大学は軍部・情報部に粛清され、長年、その支配下にある。学長の任命権を持つのが軍事政権のシシ大統領だ。情報部の方は、小池が〝エジプトのパパ″と呼ぶハーテムが創設、掌握し、彼女を子飼いにしてきた文献証拠を示した。二人は小池のカイロ大学時代の一定期間、同居し、その関係は氏が亡くなるまで続いてきた。その間、ハーテム情報相の権力で小池はカイロ大学に飛び級の不正入学と裏口卒業(学業の実体はないが“超法規的”な卒業証書保持者)を果たす。また、そのハーテムからみれば、シシ大統領は軍閥序列のなかで孫弟子にあたる。そのうえで前回、「カイロ大学声明」の政治的意図を明らかにした。それは、都知事選を前に、“学歴詐称”疑惑で窮地に陥るエジプト軍閥の“子飼い”小池に再選させるためである。これは私が憶測で言っていることではない。国家情報部の支配下にあるエジプトの現地メディアがはっきり、カイロ大声明は小池の再選目的だと書いている。 |
軍の“諜報テレビ”取材で常軌を逸した小池発言
しかし、なぜそこまでして、小池をかばうのか。小池自身がエジプトの現地テレビの取材で種明かしをしている。
「私は100%エジプト人なの」(小池都知事、エジプト軍閥系テレビネットワークDMC、2018年8月30日インタビュー番組での発言、都庁で撮影) |
小池がこう語ったテレビ局DMCとは、軍最高評議会議長シシ(現大統領)が軍事クーデター後、軍閥のプロパガンダを流すために開局した新興テレビ局である。軍や政府の要人への取材や機密性の高い場所へのアクセスは、この局だけに許されており、現在、独占的な洗脳メディアとしての地位を築いている(そのYouTubeチャンネルは登録者数500万人を超える)。国内プロパガンダに加え、DMCにはもう一つの目的がある。
「DMCはシシ率いる国家の公式の声であり、エジプトを攻撃する外国メディアに対抗するために創設された(中略)そのため、別名『軍の諜報テレビ』『シシ・チャンネル』と呼ばれている」(ウェブ報道サイト「ノンポスト」2016年9月3日) |
小池はこのテレビ局から東京都知事としてインタビューを受けながら、「私は100%エジプト人なの」と語り始めたのだ。政治家としてだけでなく、1人の日本人として、常軌を逸した発言である。子飼い″として、自分はエジプトの利益を代表していることを吐露したといえる。本人からすれば、エジプトの軍閥と国民向けのリップサービスに過ぎないのだろうか。 |
小池批判への強権的脅迫
冒頭で掲げた「カイロ大学声明」による都知事選への介入も、軍閥系DMCの目的と同じだと考えればわかりやすい。“100%エジプト人”の要人・小池知事を攻撃する日本メディアは、エジプトを攻撃したと同然とみなされているのだ。では、都知事選への介入を認める一連の記事の中には一体なにが書いてあるのか。各記事に共通する箇所と主要な論点を抜粋する。
「小池東京都知事は、7月5日に迎える都知事選において、危機に瀕している」 |
「現都知事の反対勢力はその都知事戦を前にして、小池百合子氏に対し、疑惑キャンペーンと闘争を展開中である」 |
「都知事の反対派たちは、小池氏が取得した学位はカイロ大学に認められていないという情報を日本のメディアにリークしてきた」 |
「反対派の見解では、小池氏はカイロ大学の学位を取得していない、または、卒業証書はカイロ大学のものと異なるというものだが、それは真実に反する」 |
「カイロ大学は声明を発表し、日本のエジプト大使館がホームページでそれを公開したとおり、小池百合子氏は1976年、文学部社会学科を卒業しており、卒業証書に対し、日本のメディアが疑念を呈したことを非難した」 |
「カイロ大学はこれらの疑念に対して、法的な対抗措置を検討している。カイロ大学は世界でもっとも権威ある大学の一つであるから、こうした非難を無視することはできない」(声明を発行した)カイロ大学は(取材に対し)コメントを拒否しながらも、エジプト共和国の日本における公式代表であるエジプト大使館の発表した内容のどおりだと認めた」。 |
現地メディアが解説してくれたように、カイロ大学の声明の意図は誰の目にも明らかである。小池の学歴を検証し、疑念を呈する者はみな都知事の反対勢力とみなし、小池に代わってエジプトが国家として、対抗措置をとるとの強権的な脅迫である。「本声明は、一連の言動に対する警告であり…」と、もとの声明文にもその本意が書き込まれている。 |
脅しに屈してしまった都議会自民党
見え透いた脅しに聞こえるだろうが、効果は抜群である。この見え透いた脅しこそ、もっとも心理的な抑圧効果を生むというのが、エジプト国家情報部が得意とするプロパガンダ戦の基本である(小池氏と同居していた、情報部の創始者ハーテム著『プロパガンダ:理論と実践』未邦訳)。実際、脅しの効果は抜群であった。小池都知事の反対勢力である都議会自民党は「小池氏のカイロ大卒業の証明を求める決議案(6月9日)」を取り下げたのだ(6月10日)。その理由として、川松真一朗都議は「声明直後に決議を出せば、僕らはエジプトと闘うことになる」(6月10日日刊スポーツ)と語ったが、まさにエジプト国家情報部の思うツボである。川松氏は「間違ったメッセージのようにとらえられかねず、冷静に判断した」と続けるが、それは脅しに屈した者が発する常套句そのものだ。元々、尋常ではない脅迫メッセージを発したのはエジプト側であり、小池氏の学歴詐称疑惑(筆者の結論では、学業の実体はないが、ハーテム情報相の権力による超法規的な卒業証書保持者)はむしろ深まったと解釈するのが知性だが、それを吹き飛ばすのがプロパガンダである。カイロ大学声明が出たのは、決議案が出された同日の夜という絶妙なタイミングだった。現地メディアが報じたとおり、まさに「危機に瀕する東京都知事を救うための介入」に成功したのだ。
ここで日本の国益にとって問題となるのが、助け舟を出したエジプト軍閥への見返りは何か。借りを作ってしまった小池が何を差し出すかである。この点についても、小池は自ら現地メディアの取材の中で何度も答えを示してくれている。一例として、小池が環境大臣に就任後に受けた現地紙でのインタビュー記事をとりあげる。「エジプトは私に対し、長い間、投資してきたと思っています。今では私への投資が有益で、成功であったことがはっきりしています。そうだよね!(筆者注:原文でエジプト方言の口語体での発言であることを強調して)」。隠喩的な表現なので、わかりやすく言い換えよう。ハーテム情報相を通じてえたカイロ大学の超法規的な卒業待遇というエジプト軍閥からの借りに対し、私は十分に見返りを果たしてきたと自負する発言だ。つまり、小池とエジプトは貸し借り関係にあり、過去の借りを国会議員になってから何らかの形で清算してきたという意味にとれる。上の発言につづき、小池はこう述べる。「日本は、環境分野を含む多くの協力分野でエジプトを支援しています(中略)神が望めば、エジプトは将来、さまざまな地域で日本からの協力プロジェクトを目撃することになるでしょう」(アハラーム紙2004年3月2日)。日本政府の大臣という要職に就き、小池氏はようやく包み隠さず、エジプトへの経済支援=見返りを現地の政府メディアでお披露目できるようになったのだ(その後の小池氏の見返りの詳細については、次回の記事で触れる)。エジプト軍閥にとってみれば、今後、さらに利用価値が高まる「日本初の女性首相候補」と呼ばれる小池の都知事再選に助け舟を出すことなど、お安い御用だったというわけだ。(続く) |