米大統領選は8日に投票日を迎える。WSJ ワシントン支局長のジェラルド・F・サイブが両候補の勝利に不可欠な注目州について解説する Photo:
AP By MICHELLE HACKMAN
米国時間8日夜に固唾(かたず)をのんで米大統領選の開票結果を見守る人々にとって、幾つかの米東岸諸州の早期開票結果が、その後の展開を占うカギになるだろう。以下は、開票結果が明らかになるにつれて、注意して見るべき最初の幾つかの州だ(時刻は米東部標準時と日本時間での各州の投票終了時間)。
米東部時間8日午後7時(日本時間9日午前9時):
バージニア州とジョージア州
この2州で何が民主党候補ヒラリー・クリントン氏を神経質にするだろうか。バージニア州でオバマ大統領は前回選挙と前々回選挙の2度勝利した。世論調査によると、同州ではクリントン氏が一貫してリードしている。しかし、8日夜になったばかりの頃は、スリリングだろう。少なくとも民主党を支持する傾向がある同州北部の人口密集地からの開票結果が出るまではそうだ。
これに対し、共和党候補のドナルド・トランプ氏を神経質にするものは何か。ジョージア州でもバージニア州と同様に投票所は午後7時に閉まる。同州では1992年以降、民主党候補は勝利していないが、幾つかの最近の調査では、トランプ氏がクリントン氏を1ポイントか2ポイント・リードしている。もし開票結果が接戦のようなら、アフリカ系アメリカ人(黒人)の有権者(ジョージア州の有権者全体の3分の1近くを占めると予想されている)が全米各地でクリントン氏に大挙して投票している一つの兆候かもしれない。逆に黒人の有権者の投票率が低いようだと、クリントン氏にとって他の諸州で問題が生じる兆しになるだろう。ペンシルベニア州やミシガン州などでは黒人有権者の投票がクリントン氏の勝利に決定的に重要だからだ。
米東部時間8日午後7時30分(日本時間9日午前9時30分):
オハイオ州とノースカロライナ州
オハイオ州とノースカロライナ州でトランプ氏は何を期待するだろうか。選挙人団の過半数を確保するために、トランプ氏の計画はオハイオ州に大きく依存している。同州は、フロリダ州に次いで全米最大のスイングステート(勝者が入れ替わる激戦州)だからだ。大半の世論調査では、トランプ氏は同州でリードしている。したがって同州で同氏が負ければ、全米で一層大きな問題が生じるシグナルになる。
トランプ氏がオハイオ州で負けると、同氏は同州の18人の選挙人票を別の州で獲得して埋め合わせねばならない。つまり、他の幾つかの大きな州の一つ、例えばミシガン州で勝つ必要がある。
これに対し、クリントン氏は何を期待しているだろうか。ノースカロライナ州は、クリントン氏が共和党から奪還できる可能性のある少数の州の一つだ。選挙人団の勝利へのトランプ氏の道は既に狭くなっている。このためクリントン氏がノースカロライナ州で勝てば、トランプ氏の勝利への道はさらに険しくなる。同州では2012年の前回大統領選挙で共和党が約2ポイント差で勝利している。
加えて、クリントン氏が同州で勝った場合、それは米国の西部諸州(同様に多様な有権者のいる地域だ)でクリントン氏が順調に軌道に乗っているシグナルになる、とデューク大学の政治学者デービッド・ロード氏は言う。
米東部時間8日午後8時(日本時間9日午前10時):
ニューハンプシャー州とフロリダ州
クリントン・トランプ両候補ともにニューハンプシャー州とフロリダ州には注視するだろう。
ニューハンプシャー州は、大統領選の行方、および民主、共和どちらの党が上院を制するかの戦いを占う重要な目安になる。
同州は、マイノリティー有権者が大きく集中していない州だ。つまりクリントン氏が他の多くの州ではずみをつけている大きなマイノリティー集団に欠ける州ということだ。しかし、有権者全体をみると、圧倒的に白人であるものの、わずかに民主党寄りだ、とニューハンプシャー大学のダンティ・スカラ教授(政治学)は言う。同州では大卒の有権者の比率が大きく、多くの世論調査では、クリントン氏寄りに傾斜している。
今年、大卒の白人は、クリントン氏の支持者連合の重要な要素として登場した。一方、労働者階級の白人有権者は、一部の元民主党支持者を含め、トランプ氏支持に動いた。専門家たちは、同州の大卒白人の間でクリントン氏がどれほど得票できるかに着目し、その他の地域でも同氏が大卒白人層の支持取り付けに成功するかを予測するだろう。
ニューハンプシャー州はまた、共和党が上院の過半数議席を獲得できるかどうかを占う有力な目安にもなる。1期目のケリー・エイヨット上院議員(ニューハンプシャー州選出)は、再選を狙う共和党議員の中で最もぜい弱な議員の一人とみられている。今回の改選議員の勢力は共和党24議席、民主党10議席となっている。
しかしエイヨット議員は、対抗馬であるマギー・ハッサン同州知事(民主党)と接戦になっている。スカラ教授は「エイヨット議員は逆風の選挙年にもかかわらず、しぶといことを証明した」と述べ、「同議員は、極めて困難な環境で極めて良く選挙戦を戦っている候補者だ」と語った。
フロリダ州は、トランプ氏が大統領選で勝利するためには恐らく最も重要な州だ。クリントン氏は同州の選挙人29人なしでも勝利への道を幾つか描ける。これに対しトランプ氏は、フロリダ州を落とすと選挙人の過半数維持が極めて困難になるだろう。オバマ大統領は2012年の前回選挙で、同州ではわずか1ポイント未満の小差で勝利した。
フロリダ州やその他の州での期日前投票のパターンをみると、ヒスパニック系有権者の投票率が史上最高に達し得ることが示唆されている。問題は、それがクリントン氏の勝利をもたらすのに十分かということであり、フロリダ州のうち有権者がそれほど多様化していない地域で同氏がトランプ氏の強い支持基盤を突き崩せるかどうかが焦点になる。
ヒスパニック系の投票の力がとりわけ目立つのはマイアミ・デイド郡だろう。同郡は、オバマ氏が前回選挙で20万8000票の差をつけ、フロリダ州全体で7万5000票弱という小差で勝利する原動力になった地域だ。今年、この差が拡大すれば、マイアミの伝統的に共和党寄りのキューバ系アメリカ人が民主党支持にくら替えしている一つの兆候になる。
フロリダ州でのヒスパニック系有権者の投票行動はまた、ヒスパニック系有権者がネバダ州、コロラド州、そしてアリゾナ州でどう投票するかのヒントになる。特にアリゾナ州は伝統的に共和党が勝つ州だが、今年はヒスパニック系の投票率次第でスイング(くら替え)する可能性がある。
|