石破茂の見識考

 更新日/2020(平成31→5.1栄和改元/栄和2).1.12日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「石破茂の見識考」をものしておく。

 2015.10.03日 れんだいこ拝


【石破防衛相の発言】
●私は防衛庁長官時代にも靖国神社を参拝したことがない。第二次大戦の時に日本の戦争指導者たちは、何も知らない国民を戦線に駆り出し、間違った戦争をした。だから私は靖国神社に参拝しない、あの戦争は間違いだ、多くの国民は被害者だ。
●日本には南京大虐殺を否定する人がいる。30万人も殺されていないから南京大虐殺そのものが存在しないという。何人が死んだかと大虐殺があったかは別問題だ。
●日本には慰安婦についていろいろな見解があるが、日本軍が関与していたことは間違いない。
●日本人が大東亜共栄圏の建設を主張したことは、侵略戦争に対する一種の詭弁だ。
●(中国は日本に対する脅威であるから対中防衛を強化せよという人たちは)何の分析もしないで、中国は日本に対する脅威だと騒いでいる。
●日本は中国に謝罪するべきだ。

【徴兵制】
 「石破幹事長が「軍法会議」で暴言出動命令拒否は「死刑」も」、2013.7.17日、宮本次郎「戦争に行かない人は死刑?」石破幹事長のホンネ」その他参照。
 2013.4.21日、自民党の石破茂幹事長が、BS番組「週刊BS―TBS報道部」のインタビューを受け、「国防軍命令に従わなければ軍法会議で死刑」と発言した。これを仮に「石破の死刑発言」と命名する。概要次のように述べている。
 (自民党改憲案は)国防軍を明記し、軍事裁判所(自民草案では「審判所」)的なものを創設するという規定を設けました。自衛隊が軍でない何よりの証拠は軍法裁判所がないことであるという説があって、それは今の自衛隊員の方々が「私はそんな命令は聞きたくないのであります」(私はそのような命令にはとてもではないが従えないのであります)、「私は今日かぎりで自衛隊をやめるのであります」と言われたら、「ああそうですか」という話になるわけです。

 国防軍の出動命令に従わない者に対し、(今の法律では)めいっぱいいって懲役7年(編注:自衛隊法の刑罰の上限は7年以下の懲役・禁錮)。これは気をつけてモノを言わなければいけないけれど、人間ってやっぱり死にたくないし、ケガもしたくない。「これは国家の独立を守るためだ」、「出動せよ」って言われた時、でも行くと死ぬかもしれないし、行きたくないなという人がいない保証はない。だからその時に従わなければその国における最高刑に死刑がある国なら死刑、無期懲役なら無期懲役、懲役300年なら300年を科すとする法を作り、国防軍の規律を維持するためには軍法会議設置による命令違反への厳罰化をしておく必要がある)。(そうなってはじめて)そんな目にあうぐらいだったら出動命令に従おうっていうことになる。お前は人を信じないのかって言われるけど、やっぱり人間性の本質から目をそむけちゃいけないと思う。今の自衛官たちは服務の宣誓というのをして、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる」っていう誓いをして、自衛官になっているんです。でも、彼らのその誓いだけがよすがなんです。本当にそれでいいですかっていうのは問わねばならない。軍事法廷っていうのは何なのかっていうと、すべては軍の規律を維持するためのものです。
 東京新聞の7月15日付朝刊で、「石破の死刑発言」が紹介された。石破幹事長は、軍事法廷の設置と、その最高刑としての死刑制を作ろうとする見解を示している。ちなみに軍隊を持つ大半の諸外国では、なんらかの形で軍法会議を設置しており、罰として死刑など刑法上の最高刑を科している。防衛省防衛研究所の奥平穣治氏が記すところによれば、たとえば「敵前逃亡」は米陸軍では「最高で死刑」、「命令拒否・不服従」や「部隊不法指揮」、「秘密漏洩」なども戦時中は死刑の対象となりうる。イギリス、ドイツなど死刑制度が廃止されている先進的な国でも、石破幹事長の言うようにそれ相応の厳しい刑罰が設けられており、それと比べれば、日本の自衛隊の刑罰は「全般的に、主要国の軍法より軽い傾向がある」という(「防衛司法制度検討の現代的意義」より、2011年1月)。自民党が主張する「国防軍の創設」は、徴兵制と軍法会議とセットになっており、「戦争にかない人は死刑」という話にもなるわけで、恐ろしい。
 2015.6.20日、「石破氏が衆院特別委で初答弁 必殺・ネチネチ論法で「徴兵制」の印象操作に猛反撃!」。
 衆院平和安全法制特別委員会で19日、徴兵制をめぐり石破茂地方創生担当相が初めて答弁に立った。徴兵制を憲法18条が禁じた「意に反する苦役」とする政府見解と、安全保障に一家言持つ石破氏の持論に矛盾があるとみた民主党が出席を求めた。しかし石破氏は「政府見解に従う」と明言した上で「兵役は苦役のような発想が国際的には異様だ」と指摘。得意のネチネチ論法を駆使して安保法制を徴兵制復活と結びつける印象操作に反撃した。石破氏は平成14年に国会で、徴兵制について「意に反した奴隷的な苦役だとは思わない」と述べている。特別委では民主の寺田学衆院議員らが「徴兵制を認める余地があるとの発言か」と石破氏に質問した。これに対し、石破氏は「政府見解に私も従うのは当然だ」と明言。現代戦では兵員に高度な技能が必要なため「今日的な軍隊では徴兵制を採る意味はない。これから先、徴兵制があり得るか。必要性がない以上、そういうことはない」と解説した。

 さらに石破氏は「平和国家」といわれるスイスが国民投票で徴兵制の廃止を否決したことを指摘。自身が過去にドイツの与野党政治家から「ナチスをつくらないため徴兵制を維持する。軍隊は市民社会の中になければならない」と聞かされたエピソードも紹介した。そのうえで「苦役とは思わない」との持論の真意を解説。徴兵制を苦役とする議論について「国際社会でどう受け取られるかは念頭に置いたほうがいい」と、たしなめるように語った。ただ、民主党は「閣議決定で集団的自衛権が行使できるなら、同様に閣議決定で徴兵制も敷ける」として国民の不安をあおる戦術を展開している。石破氏の解説を聞いた寺田氏も「現時点で徴兵制はないと言われても信じがたい」と述べただけだった。(千葉倫之、千田恒弥)

【外交・安全保障】
 自民党きっての外交・安全保障の論客、政策通で知られ、「軍事オタク」や、「防衛オタク」などと呼ばれることもある。
 防衛庁長官就任後、情報収集機関の調査隊を改組し、防衛庁長官の直轄部隊の情報保全隊を組織した。
  • 市民社会と軍隊が、かけ離れた存在とならないよう、市民が軍隊という組織を実感して理解するという意味で、徴兵制度の利点を認める発言をしているが、日本での徴兵制の導入については、国会答弁で、政府見解と同じく、日本国憲法第十三条の「幸福追求権」や、第十八条の「意に反する苦役」の趣旨からみて、違憲との見解を示している。
  • 自衛隊を機動的に動かせるような法改正を繰り返し主張しており、特に北朝鮮有事の際の邦人救出の必要性を強調している。2008年の自民党総裁選挙に立候補した際は「動乱が起き、北朝鮮の(日本)国民が逃げなきゃいけない時でも自衛隊は(国内法の制約で)助けに行けない。そんな国でいいのか」と述べた。2013年1月27日には、同月に発生したアルジェリア人質事件を受けて、「日本人の生命、財産を守るのは国家の当然の責務。必要最小限の武器使用は(憲法が禁じる)武力行使ではない」と述べ、在外日本人を緊急時に自衛隊が救出するために武器使用基準を緩和すべきと主張した。
  • 映画『シン・ゴジラ』でゴジラに対し、「自衛権」の行使にあたる防衛出動自衛隊に下令されたことについて、ゴジラは「国または国に準ずる組織」ではなく、害獣駆除として災害派遣が法的に妥当とし、国または国に準ずる組織から自国の独立を守ることが目的である自衛権の行使「武力の行使」と、害獣駆除のような場合の、国民の生命と財産、公の秩序を守ることが目的の警察権の行使「武器の使用」は、内容自体が同じ自衛隊の行為であっても明確に異なると述べている。また、それに関連して現実世界での脅威である、北朝鮮のミサイル発射や、他国等による領海侵犯などを例にあげ、現在の法制では、例えば外国勢力による領海侵犯に対しては、まずは海上保安庁や警察が対応し、対応が困難な場合には自衛隊が「警察権」の行使として対応するが、国際的な常識では「自衛権」で対応するのが妥当であり、今のままの法制で十分な抑止力が働くのか疑問を呈している。さらに、国会で安保法制などの議論においても、自衛権と警察権の違いといったような、防衛法の基本が理解されないまま議論が重ねられていることに危機感を感じると述べ、中には議論をすること自体を批判する雰囲気もあるが、「現行法で対応が困難な場合には超法規で対応」のほうが、よっぽど問題であると述べている。その他、映画の中で多摩川の河川敷に最新鋭の戦車が勢ぞろいしているシーンに対して、本州にはあれほどの数は配備されておらず、実際には北海道にあり、現実的には首都中枢に駆けつけるのには時間がかかるので、戦車より火力などは劣るが、機動性は優れている装輪装甲車の導入を大臣時代に推進したエピソードなどを語っている。

【教育】
 「愛国心は国が政策面で強制するものではない」という理由から改正教育基本法への愛国心の明文化に反対する意向を表明した。なお改正教育基本法には「我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」と愛国心教育について明記された。
 子ども手当

 民主党の政策である子ども手当について、子どもを母国に残した在日外国人も対象になっていることに触れ「(在日外国人であるが)子どもさんは国外にいる。そして、子どもさんは日本国籍を有していない。どう考えても、こういう方々に対して、日本国民の税金を使って支給すべきではない」と述べている。

【移民政策】
 加速度的に進む、日本の人口減少と高齢化の中において、将来的に限定的な移民の受け入れを進めるべきと主張している。その上で、日本人が嫌がるような仕事を外国人にさせるというような考えを持つべきではないし、日本人と同じ仕事ならば賃金も一緒でなければならないと述べ、加えて、医療や年金などの社会保障の考慮や、言語や習慣などにお互いが違和感を持つようなことがないような施策が必要との考えを示した。

【外国人参政権】
 2010年の自由民主党大会で、永住外国人への地方選挙権付与について、「憲法上の議論が多く残り、国民的議論も成熟していない。私どもは拙速な法案成立に断固反対する」と述べ、党として法案に反対する考えを表明、また「(憲法上の)住民とは日本国民をさすと考えており、私どもは多くの疑義があると考えている。国の形そのものにかかわる問題だ」、「この問題は国の形そのものにかかわるものだ。憲法のあり方からしても、拙速な法案成立には断固反対していく」と述べた。

【政治発言語録】
 「勇気と真心をもって真実を語る」、「政策には大衆受けしないものもあるが、これを言えば選挙に不利だから言わないでおこうなどとはしてはいけない」といった趣旨の発言をしばしばするが、これらの発言は石破が議員になる前に聞いた、渡辺美智雄の講演から影響を受けたもので、石破は渡辺の言葉について、「政治・政治家の目的は次の時代を考えることであって、選挙に当選することや支持率を上げることは手段にすぎない。だが、選挙に落ちては次の時代を考えることはできない。だからこそ、大衆受けの悪い真実を語っても落選することのない、自身の真意が伝わるような日常活動が必要」、「『どうせ難しいことは国民はわからない』、『これを言ったら選挙に落ちる』といって、聞こえの良いことばかり言う政治家がいるとすれば、それは内心、国民を軽蔑して信用していないのではないか。国民を信じない政治家が、国民から信用される道理はない」と述べている。
 「鳥取、島根は日本のチベット」(他党議員の発言)

 民主党選挙対策委員長(当時)の石井一の「鳥取・島根は日本のチベット」発言に対し「日本海側の人間はかつて裏日本と言われ悔しい思いをしてきた訳で、地域の人を見下す対応をする人が選挙を仕切っているのが民主党のやり方だ」と批判した。


【歴史認識】
 太平洋戦争について、「政府の総力戦研究所が日米戦争のシミュレーションで日本必敗の結論を出して、政府中枢にも報告しているのに、勝てないとわかっている戦争を始め、何百万という国民を死に追いやった責任は厳しく問われるべき」、「天皇の質問にも正確に答えず、国民に真実も知らせず、国を敗北に導いた行為がなぜ「死ねば皆英霊」として不問に付されるのか理解できない」と述べ、当時の日本の指導者たちを批判している。

 東京裁判に対しては、「平和に対する罪」などが事後法である問題等を踏まえた上で、それでも裁判自体を受け入れたからこそ今日の日本があるとの見解を示し、さらに、東京裁判を受け入れることと、戦前の日本はすべて間違いと断罪するのは決して同義ではない。逆に、東京裁判が法的に無効とする立場の人たちからは、戦前の日本にまったく誤りがなかったのかという議論が見受けられないと述べ、「すべてが間違ってる、あるいは正しい」といったような極論の、自虐史観と一部の保守派の史観の両方を批判している。
 南京大虐殺とも呼ばれる、南京事件について、「少なくとも捕虜の処理の仕方を間違えたことは事実であり、軍紀・軍律は乱れていた。民間人の犠牲についても客観的に検証する必要がある」との見解であるが、「大虐殺」があったとは発言していないし、従軍慰安婦問題でも、「狭義の強制性(軍や官憲による強制連行)があった」などとは一度も発言していないと述べている。

 総理をはじめ政治家の靖国参拝や、「東京裁判は誤りで無効」「大虐殺はなかった」「狭義の強制性はなかった」といった行為や歴史認識に対して、政治家がそのような行為や発言をすることが果たして日本の国益となるのかと、現に外交上問題となった例を挙げて疑問を呈し、日本に真の共感を持つ国を増やして国益を守るのが政治家の務めと述べ、加えて、靖国参拝については、戦死者との約束の一つは天皇が靖国に親拝することであり、政治家が参拝することが事の本質ではないとし、後者の歴史認識については法律家や歴史家が主張すべきことであって、政治家の役割はそうしたことができるような環境を整えることだと主張している。実際に石破は、2002年の防衛庁長官で初入閣以降は靖国神社に参拝していない。地元の護国神社には毎年8月15日に参拝している。また、靖国神社からの「A級戦犯の分祀」を主張している。
 田母神俊雄航空幕僚長(当時)の論文問題に関して、「現職の自衛官が自らの思想信条で政治をただそうというのは、憲法の精神に反している」と指摘。自身のブログでも、かつての部下である田母神を批判した。 2013年5月、高市早苗・自由民主党政調会長が「村山談話に違和感を覚える」と発言した際に「誤解を招く発言は厳に慎んでもらいたい」と苦言を呈した

【皇室】
 2009年12月の天皇特例会見問題では、石破が委員長を務める「天皇陛下の政治利用検証緊急特命委員会」は民主党政権の対応を「陛下の政治利用にあたる」と指摘。石破は民主党政権の対応を「かなり異例」、「大事じゃない国はルール通りだが、大事な国はひっくり返して会見するのは政治判断だ。そういうことをしていいのか」、「(ルールが)時の政府の意向で左右されることであってはいけない」と民主党政権を重ねて批判した。

 2010年2月25日、鳩山由紀夫内閣が天皇の公的行為に関してまとめた統一見解に関し、官房長官の平野博文(当時)が記者会見で「本来、憲法で言っている概念からいくと、天皇は国政に関する権能を有しないので、政治利用が存在することはあり得ない」と述べ、天皇の政治利用はそもそも存在しないとしたことに対し、石破は「ルールはいらないというなら、憲法の趣旨や陛下の立場を無視した考えられない見解だ」と述べた。

 2016年8月8日の今上天皇の、象徴としての務めについての発言を受けて、天皇の譲位を認めるべきとした上で、皇室のあり方について以下の考えを示している。
 象徴天皇として即位した今上天皇が築いてきた、国民統合の象徴としての天皇の責務は、天皇が代わっても不変であるべきと考え、天皇の明確な意思表明、皇族会議の議決、国会の全会一致による議決などの厳格な要件のもとに、1代限りの特措法ではなく、恒久的な皇室典範の改正が妥当である。なお、天皇の意思表明について「高齢」のみを理由とすることは、「高齢」の基準が曖昧なので、他の重大な理由で表明する余地も認めるべき。
 日本国憲法第二条では、皇位継承については皇室典範に定めるとしており、皇室典範の改正をせず譲位を可能とすることは憲法違反の恐れがある。また、特措法のような皇室典範改正以外の手段で譲位を認めると、かえって政治的な意図で翻弄される可能性を大きくしてしまう。
 日本国憲法第一条の、「国民の総意」を体現するためには、全国会議員の出席のもと、全会一致が望ましい
 摂政の設置について、皇室典範第一六条では、「天皇が成年に達しない」、「精神若しくは身体の重患又は重大な事故がある」場合に限り、摂政を置くと定めているが、加齢による体力低下で責務を果たすことが困難な場合については想定していない。また、形式的な国事行為は摂政でも行うことができるが、地方訪問、被災地の見舞い、外国訪問など、象徴としての天皇の公的行為は、摂政が代行できず、天皇の権威を損なうことになるので、この論は採りえない。
 女系天皇容認論

 将来的に皇族は悠仁親王ただ一人になってしまう可能性は否定できず、男系男子のみで皇位を継承し続けることは不可能に近い。皇室の安定的な継続を考える上で、このことに対しての議論を避ける訳にはいかない。旧宮家の復活案もあるが、一般国民として長く人生を送ってきた人物を皇位継承者とすることは妥当性に疑問がある。皇室が途絶えることは、日本の国体そのものの滅失を意味するものであり、男系男子の皇位継承を基本としつつ、女系天皇の可能性も敢えて追求するべき。

【政治とカネ、派閥】
 石破はこれまで総裁選に4回出馬し、そのたびに国会議員票を集められず敗れてきた。石破自身も、その不人気ぶりについて《石破は面倒見が悪いという悪口も聞きますが、金とポストを配れば面倒見がいいというのもナンセンスですよね》と’20年の婦人公論のインタビューで語っている。

 石破が自民党内の不祥事や政策に対してのコメント。パーティー券問題についても、テレビ番組で「お金の流れを明確にすることが政党の義務ではないか」と発言。正論をぶるが、統一教会との関係などでもそうだが、同じ穴のムジナであることがすぐにばれてしまう。

 2020/09/03日、元TBS政治記者で現在は流通経済大教授の龍崎孝氏がTBS系「グッとラック!」に出演。番組では自民党総裁選について特集したが、その中で小林麻耶が「聞きたいことがあるんですけど」と龍崎氏に質問。「石破さんが議員の皆さんからあまり支持されないというのは、具体的な理由、ズバリ教えていただけますか?」と切り込んだ。これには龍崎氏も「とても答えにくい質問をいただいて、嫌だなと思っている」と苦笑しつつ、龍崎氏が石破氏と酒席を共にした時の話を切り出した。

 龍崎氏は石破氏と飲みに行き「一次会が終わって、二次会になってカラオケに行きました」。石破氏は大ファンを公言するキャンディーズを熱唱し、龍崎氏も「お上手ですね、僕も同じ世代ですから大好きです」などと言ったところ、石破氏は「そんなことより君、さっきの防衛問題、こういうこと言ったけどそれは間違い。もっと勉強しなきゃだめだ」と説教が始まったという。龍崎氏は「記者ですから、(自分は)説教されても全然いいんですが、聞くと、仲間の議員にもやることがあると。そうすると、本人は勉強しろと励ましているんです。でもせっかくお酒を飲んで(ワイワイ)やろうとしている時にそう言われると、シュンとしてしまう人もいる」とコメント。「石破さんの愛情がそのままちゃんと伝わればいいんですが、そういうものでもなかなかない。その辺のズレがたくさんあるのかな…」と語った後、「本当はこんな話したくなかったんです」と言いだしスタジオは爆笑。

【2018/麻生太郎副総理兼財務相の石破批判】
 2018.9.17日、産経新聞【政界徒然草】石破茂元幹事長の“過去”つつく麻生太郎副総理 「麻生降ろし」の恨みか… 」その他参照。
 2018.8.15日夜、麻生太郎副総理兼財務相(77)が、山梨県鳴沢村にある笹川陽平日本財団会長の別荘で、安倍晋三首相(63)や森喜朗元首相(81)、小泉純一郎元首相(76)らを前に石破茂元幹事長(61)を当てこすった。森氏が5年に下野した自民党の幹事長として離党者が相次いだ当時の苦労を語ると、麻生氏はこう相づちを打った。「そういう苦しい時こそ人間性が分かるんですよ」。石破氏もその時期に党を離れた。総裁選への出馬表明をしていた石破氏を指していることは明白である。

 石破氏も麻生氏の発言にはかちんと来たようで、反論している。8月16日のBS日テレ番組で「私は派閥解消なんて言ったことがない。人が3人寄れば派閥はできる。首相を作り、政策を作り、選挙は助け合おうというもので、利権集団ではない」などと説明した。派閥の領袖同士が密室で次期総裁を決めるといった派閥政治の弊害を廃し、政策を錬磨する集団としてのグループであれば是認されるとの見解を示した。しかしながら、石破氏が「派閥解消論」を唱えていたとは衆目が一致するところである。石破氏は自民党が野党に転落していた22年2月の記者会見で、「(派閥が持つ)選挙、政策の機能は党に集約すべきだ」などと主張している。

 石破氏が派閥を結成した当時、違和感を抱く側近の一部は参加を見送った。5年の離党をめぐり、いまだに党内の一部で不信感を抱かれていることは石破氏も自覚しており、著書や講演で釈明している。石破氏によれば、現自由党代表の小沢一郎氏(76)こそ真の保守政治家であると考え、小沢氏が立ち上げた新進党に参加したが、結党後に消費増税や集団的自衛権の行使をめぐる考えの違いが露見したという。「思ったのは『青い鳥はいない』ということだ」(8月6日の講演)などと当時の失望を振り返っている。但し、石破氏は当時の判断自体は間違っていなかったと判断している。今月2日、石破氏の離党を「汚点」と表現して質問したところ、「自分の政治信条に正直にやったことで、その表現は適切ではないと思う」と反論している。
 自民党総裁選(20日投開票)をめぐり、麻生副総理兼財務相が石破元幹事長への“口撃”を強めている。石破氏が党内で不信を抱かれる「派閥結成の経緯」、「自民党離党の過去」などをあげつらっている。
 「来年に参院選、地方選を抱えておりますが、『選挙の顔』としてどちらを選ぶか、よう考えてみてください。どちらの顔が戦いやすい顔か。暗ーい感じの顔ですか。答えははっきりしているんじゃないかと…」。9月4日、福岡市内での党会合で、こんな“麻生節”が炸裂した。「暗い顔」が石破氏を指すのは明らかだ。容姿に言及することへの賛否はあるだろうが、麻生氏の石破氏批判はこれにとどまらない。石破氏が党内で隠然と批判を浴びる“過去”をチクリチクリと刺している。たとえば、8月11日の北九州市での会合では、こう語っている。「『派閥を解消する』と言って無派閥の会(無派閥連絡会)をつくり、それを石破派に変えた。言っていることと、やっていることが違うじゃないか」。

 石破氏は27年9月に石破派を結成するまで、派閥政治には批判的だった。党内では行動が言行不一致だとする石破氏への批判は根強い。
 麻生氏と石破氏の間には因縁がある。平成21年7月、麻生政権末期、石破氏は、林水産相として麻生内閣に身を置きながら「麻生降ろし」の先頭に立った。現石破派(水月会、20人)の何人かが「麻生降ろし」に関わった。総裁選前倒しを念頭に置いた両院議員総会の開催を、財務相だった与謝野馨氏らと麻生氏に働きかけた。首相退陣を突きつけたようなものだった。麻生氏にとっては、閣内に起用した石破氏の造反は飼い犬に手をかまれたようなもので苦々しく思ったに違いない。さらに石破氏に先駆けて、現在石破派に所属する後藤田正純元内閣府副大臣(49)、平将明元内閣府副大臣(51)らも麻生氏退陣を突きつけている経緯がある。

 2020年9月5日、「(再掲記事)これが石破茂だ!~国を亡ぼす危険人物~【山岡鉄秀】 」参照。
 石破氏の歴史観を再確認する。2017年5月23日付韓国東亜日報のインタビュー記事が産経新聞(同5月24日)で次のように報じられた。
 「韓国紙の東亜日報(電子版)は23日、自民党の石破茂前地方創生担当相が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し「(韓国で)納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたとするインタビュー記事を掲載した。石破氏が日韓合意に反する発言をしたと受け取られかねないが、石破氏は24日、産経新聞の取材に「『謝罪』という言葉は一切使っていない。『お互いが納得するまで努力を続けるべきだ』と話した」と述べ、記事の内容を否定した。ただ、抗議はしない意向という」。

 誤報にもかかわらず抗議しないのであれば、石破氏は認めていると受け取られても仕方がない。こういう場合、一次資料に当たるのが原則だ。そこで私は、東亜日報のオリジナル記事を取り寄せ、プロの翻訳者に全文を和訳してもらった。するとそこには慰安婦問題のみならず、憲法、天皇、靖國、日韓併合、そして北朝鮮問題に至るまで、石破氏の歴史観が赤裸々に語られていた。期せずして、石破氏の歴史観の全容を知ることとなったのだ。まず、石破は、完全な「反安倍」として次のように紹介されている。
 「「安倍一強」体制の日本の自民党の中で、ほぼ唯一の反安倍の声をあげている人がいる。〝ポスト安倍〟に挙げられている石破茂前地方創生担当相は、今月3日の憲法記念日に安倍晋三総理が明らかにした改憲構想についても、政界で一番に反対意見を出した」。

 次に、韓国人記者との1問1答をいくつか抜粋してみよう。
記者  (「憲法と天皇問題」について、)2012年自民党草案は天皇を「国家元首」と規定するなど、あまりにも保守的だという指摘が多いですが。
石破  国家元首案には私も反対をしています。今の天皇も絶対に受け入れることができないでしょう。そういったところまで含め、議論を発展させていかなければいけません。また、安倍首相が9条1項、2項をそのままにして、3項を追加するのは、連立与党である公明党の反対を抑えるための窮余の策です。憲法なので論理的整合性は備えなければいけません。彼は「自分の手で改憲する」という考えに陥っています。
記者  (太平洋戦争なついて、)改憲と関連し、韓国では日本が戦争のできる国になろうとしていると懸念しています。
石破  日本が戦争のできる国になるのであれば、太平洋戦争の反省が前提にされなければいけません。日中戦争、太平洋戦争、原爆投下と敗戦で、200万人が犠牲になりました。なぜ戦争を開始したのだろう。なぜ途中でやめなかったのだろう。正しく検証し、反省しなければなりません。当時の政府、陸海軍のトップたちは勝つことができないことを知りながらも、雰囲気に流され戦争に突入しました。当時のマスコミをはじめ、誰も反対していないことも大きいです。誰も真実を言いませんでした。
記者  (靖國神社について、)靖國神社参拝をしていない理由もそのためでしょうか。右翼の攻撃が激しいと言っていましたが。
石破  若いころは何も知らずに参拝しました。しかし、靖國神社の本当の意味を知っているので、今は行けません。国民を騙し、天皇も騙して戦争を強行したA級戦犯の分祀が行われない限り、靖國神社に行くことはできない。天皇が参拝できるようになれば、行こうと思います。
記者  (日本会議について、)日本会議などの右翼勢力は敗戦を認めず、戦前に回帰したいという傾向が強い。現在現れている歴史修正主義的傾向も、この基盤の上にあります。同じ保守といっても石破議員は、このような傾向とは異なりますが。
石破  私の考えは違います。日本は敗戦を徹底的に反省した上で独立主権国家、民主国家としての道を見つけていくべきだと思っています。
記者  (慰安婦問題、)慰安婦問題などで韓日関係が難しくなっていることについては、どうお考えでしょうか。
石破  本当に難しい問題です。慰安婦問題について日本にも多くの意見がありますが、人間の尊厳、特に女性の尊厳を侵害したという点において、あってはならないことであり、謝罪すべきです。ただ、歴代首相、天皇まで何度も謝罪の意を明らかにしても、韓国で受け入れられていないことについては不満も大きい。それでも、納得を得られるまでずっと謝罪するしかないでしょう。
記者  (北朝鮮問題について、)韓国では、日本の政界が北朝鮮のミサイルの脅威を利用し危機意識を煽っているという批判が多いですが。
石破  日米韓が強固に協力して対処をしていますが、国によって北朝鮮のミサイルに関しての脅威度は違うようです。ミサイルが米国本土に到達するのに時間があるし、北朝鮮が韓国に撃つ可能性は希薄です。ですが、いたるところに米軍基地を持つ日本は、足元の火のように感じています。国ごとに感じている危険の程度が違うので、反応も違う。
 金正恩の最も恐ろしい点は、何をするのか分からないこと。ただ、今の安倍政権のように「北朝鮮の脅威が深刻だ。だから安倍政権を支持してほしい」と利用することは問題です。対策は静かに、静かに進行すればいい。
付記  石破は日韓併合についても、次のように語ったとされている。
 日本は「当時の国際法上違法ではなかった」と主張していますが、「違法ではないから併合した。以上!」と終わる問題ではない。国を失うということは、その国の伝統と歴史、言語、文化をすべて失うという意味であり、その国の国民の自尊心に深刻な傷を与えることです。ですが、私がこのような話をすると、すぐに 「石破は韓国の味方か」と攻撃されるんです(笑)

 2020.9.12日、古谷経衡 | 作家/文筆家/評論家石破茂氏はなぜ「保守」に嫌われるのか?~自民党きっての国防通が保守界隈から批判される理由~」参照。
 石破は小泉純一郎内閣下で防衛庁長官(2002年~2004年)、福田康夫内閣下で防衛大臣を務めた(2008年~2009年)。従来から憲法9条改正や集団的自衛権の行使に前向きな姿勢を表明している。石破が小泉政権下、防衛庁長官を退任した後に出版された自身の著「国防」(新潮社、2005年)は次のように述べていてる。
 「私は中国から何か言われても、すぐに平身低頭”ごめんなさい”という気はありません。”理屈がおかしいんじゃないですか”と言えばいいのです。(中略)”日本は侵略国家だ。中国はとにかく理屈より謝罪だ”というような論法の人には、通じない話でしょうが」(P.150-151)
 「私がなぜ、徴兵制を憲法違反だとする発想がすごく嫌いなのかというと、民主国家と言うのは本当にみんなで努力しないと守っていけないものだという認識が欠落しているからです。民主国家を守るためには、口で語るのではなく、税金を納め、そして国防の任に就くというのが、本来あるべき姿のはずです。しかし、いかにして税金を逃れるかということが流行り、徴兵制を憲法違反だと得々と言う。私は日本にはそういう国家であってほしくないと思っています」(P.159)。
 「アメリカら言われたからではなく、日本としてこう考えるという独自の案を持って、それをぶつけて交渉するのが、独立国のあり方、同盟国のあり方です。”お代官さま、おねげぇでございますから、まけてくだせえまし”みたいな調子では、被占領国とあまり変わりません」(P.224-225)。

 かなりタカ派的言辞をしている。その石破に対する所謂「保守界隈」からの評価は批判的である。批判的に変わった第一の転換点は、2017年5月24日の産経新聞報道が端緒である。この時の報道は次の通り。

 「韓国紙の東亜日報(電子版)は23日、自民党の石破茂前地方創生担当相が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し『(韓国で)納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない』と述べたとするインタビュー記事を掲載した。記事は、石破氏が日韓合意に反する発言をしたと受け取られかねないが、石破氏は24日、産経新聞の取材に『‘’謝罪‘’という言葉は一切使っていない。お互いが納得するまで努力を続けるべきだと話した』と述べ、記事の内容を否定した。ただ、抗議はしない意向という」。

 当時現役閣僚であった石破に関するこの記事に対して、2018.3.19日、作家の百田尚樹が、この産経報道を引用する形で「朝日新聞が石破を推す理由の一つがこれだ。石破だけは絶対に総理にしてはならない!!!!!絶対にだ」とツイートして。産経の上記の報道は2017.5月だが、百田は約10か月後になって唐突にこの産経報道を引用して石破氏批判を展開した。百田は、2018.3月放送のDHCテレビ「虎ノ門ニュース」』でジャーナリストの有本香氏と対談し、次のように語っている。
居島(司会)  今月19日、作家の百田尚樹氏が自身のツイッターで自民党の石破茂元幹事長について怒りのつぶやきをアップしました。百田氏は2017年5月24日の産経新聞の記事を引用。この記事では、韓国紙の東亜日報電子版が、自民党の石破茂氏が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し、「韓国で納得を得るまで日本は謝罪するしかない」と述べたとするインタビュー記事が掲載され、これについて石破氏が産経新聞の取材に「謝罪という言葉は一切使っていない」と反論したという内容です。(後略)
百田  まー、あのー、まーこれが、石破さんの過去の発言ですけども、えー、去年です。あの東亜日報に対してね、えー、これまあ作家の村上春樹さんも同じこと言ってますけど、「相手が納得するまで謝らなければ」と。これはまあ日本の戦後の、いわゆるまー、日本をダメにした、あーいわゆるサヨクの、まーもう何十年も使い続けた言葉ですよね。これが日本全体をこう、国際社会にひどい貶めることになったわけですが。これをね、こんなこと言う人間。これに対して産経新聞の人は、(石破氏に)何でこんなこと言ったんやいうたら、いやいや謝罪という言葉は使ってないと言ってるんですが、本人は東亜日報に全く抗議していないんですよね。
有本  謝罪とは言ってないとは言ったんだけど、「両方が納得するまで」とは言ったんということですよ。それで東亜日報には一切抗議をしてない。
百田  それで抗議しないんですか、と言ったら抗議はしませんと。こりゃ本来抗議ですよね、もし言うてないんだとしたら。「何言うてんねん、そんな表現してないだろ、アホンダラボケ、クソ」と言わなあかんのに言うてない。(中略)

 朝日はですね、この数年何とか安倍倒閣を、安倍内閣を倒したいという。えーこのじゃあ実際、現実的にどういった安倍内閣を倒すんだと、なってくるとね。これはね、最初は朝日はアホです、アホですからいわゆる選挙でひっくり返そうと思うとったんです。何度もね。ところが野党がもう軒並みドアホやから、もうナンボやっても選挙に勝てない。これはおそらく自民党を倒すのは無理だと。(中略)そうすると、朝日新聞は何を考えたかというと、自民党内で、自民党はしゃーないから、安倍首相だけは変えようと。いうことですよね。

有本  安倍で選挙を勝たしておいて、頭だけすげ替えて、自分たちがまあその、要するにえーその人の首根っこを押さえられるような者にトップを変えてしまおうと、こういう風です。
百田  この作戦をいま一生懸命朝日はやってるんですよ。そうなってくると、じゃあその人物を、自分が自分が、あー居のままに操る人物を自民党の中で選ばなあきませんね。それで選ばれた一人が、石破さん。
有本  一人がっていうか、この人しかいないと思いますよ。朝日が推せる人は今。例えば野田聖子さんなんかもそりゃ朝日に覚えがめでたい部分があるんだけど。野田さんは党内で推薦人集まりません。だからおそらく出られない、総裁選に。総裁選に出て、そこそこ安倍総理のカウンターとしてぶつけられて、なおかつ、えーそのなんというのかな、朝日がですね、えーその生殺与奪を握ると、いう人と言ったら石破さんしかいない。石破さんは、確かに百田さんおっしゃるように、ひとつはこの問題ですね。慰安婦の問題。
百田  慰安婦に関して韓国に納得するまで謝ると。
有本  それからいろいろあるんですよ。石破さんになったら恐らく消費税増税です。はい。(中略)
百田  いま朝日新聞は、安倍総理を叩く、昭恵さんを叩く、一方で石破さんに一生懸命梯子をかけてる。
有本  石破さんをアゲてますよね。(中略)
百田  いまから朝日新聞は、安倍おろしと同時に石破アゲを、一生懸命まあ両方やってるわな。

 2018.3月時点で、「石破=朝日新聞=親韓=左翼」という図式が保守界隈で出来上がっていた。その結果、石破に関する過去の報道が「発掘」されることになった。保守界隈がことさら石破氏批判に躍起になった根拠は、2017.5.24日の産経新聞報道である。保守派は従来から「従軍慰安婦は高い給料を貰っており、よって日本が謝る必要はない」、「従軍慰安婦はでっち上げ」、「日本側からの謝罪」という世界観はもっての外」等と繰り返してきた。

 保守界隈による石破批判はそれ以前から鬱積していた。2008.6月、月刊誌WiLLにおける故・渡部昇一(上智大学名誉教授)による石破批判論文「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」(P.270~)がそれである。当時、石破は福田康夫内閣下で防衛大臣を務めていた。渡部は石破の何が「国賊行為」として檄文を書くに至ったのか。渡部論文の要旨は次の通りである。

 「総論 中国共産党系の新聞(世界新聞報・2008年1月29日)における石破氏のインタビューでの同氏の発言内容が以下の様にけしからんものである。
 私は防衛庁長官時代に靖国神社を参拝したことがない。第二次体制の時に日本の戦争指導者たちは、何も知らない国民を戦線に駆り出し、間違った戦争をした。だから私は靖国神社に参拝しない、あの戦争は間違いだ、多くの国民は被害者だ。
 日本には南京大虐殺を否定する人がいる。30万人も虐殺されていないから南京大虐殺そのものが存在しないという。何人が死んだかと大虐殺があったかは別問題だ。
 日本には慰安婦についていろいろな見解があるが、日本軍が関与していたことは間違いない。
 日本人が大東亜共栄圏の建設を主張したことは、侵略戦争に対する一種の詭弁だ。
 日本は中国に謝罪するべきだ」(等々) 。

 WiLL編集部は石破事務所に対し、「世界新聞報のインタビューでの発言内容は事実であるか」と照会したところ、「事実に即していないと言うほどではありませんが、事実そのままでもありません」、「(発言内容の訂正を求める等の)特段の対処はしておりません」と記す回答書を、同号本文P.271に掲載している。渡部論文は、石破がインタビュー通りに発言をしたことを前提に次のように批判している。

 「”中国に対して謝罪すべきだ”と言うような防衛大臣が指揮する中で、日本の自衛隊が奮い立てるでしょうか。本当にこの内容を話したのであれば、これは国賊行為です」(P.272)。
 「私は”国家名誉褫奪(ちだつ)罪”を作るべきだと思います。投獄したり財産を没収するのではなく、国から贈られた名誉を剥奪すべきです」(同) 。
 「この石破防衛大臣のような人を生んだ背景に、戦後日本の一番の問題があります。それは占領軍による日本人へのギルト・コンシャスネスの植え付け、すなわち日本人に罪悪感を与え、日本から正統な歴史を奪うプログラムです。そのために占領軍は様々な占領政策を施し、それが日教組を通じて、左翼の教育関係者や言論人に行き渡り、彼らがそれに乗って、戦後の日本人を洗脳し続けてきた。その結果として、石破防衛大臣の世代があります」(P.272~P.273)。
 「自衛隊は謝罪しながら国防に当たるのか。そんなアホなことを防衛大臣は部下に要求するのか。しかも、石破氏は現役の防衛大臣です。(中略)中国に対して、朝日新聞も驚くような『謝罪外交』をする人物に日本の防衛は務まらない。辞任するべきでしょう」(P.279)。

 2017年の産経新聞報道をきっかけに始まったかに見える保守界隈からの石破批判は、時をさかのぼる2008年の時点で、当時保守界隈の重鎮である渡部氏から出ていたことになる。この渡部論文には後日談があり、2008.9月の月刊誌正論で、この渡部論文を受けて石破自らが評論家の潮匡人と対談の形で反論を試みている。「我、国賊と名指しされ―防衛大臣としての真意を語ろう」(P.108~)として対談形で石破による反論が掲載されている。

 「最近の保守系メディアの論調が、エキセントリックな論調になっていることへの違和感は覚えます。(中略・米上院外交委員長を務めたフルブライトの言葉を引用し)過激な言葉は決して他人の共感を呼ばない。私はこの言葉を高校時代に読んで以来、過激な言葉は使うまいと誓った。過激な表現は多くの人々の共感を得ないし、納得も得られない。結局、世の中をよくすることにならない。エキセントリックで刺激的な言葉ではなく、もっと静かに、真摯に話し合うべきだと思うのです。(中略)ただ、渡部先生は政治家ではなく学者ですし、私への叱責も国会の論戦ではなく、商業ジャーナリズムの世界での批判ですから、ご事情は理解しますが、こういう傾向が強まることが本当にいいことなのか、かなり疑問です」(P.109) 。
 
 この対談の中で石破は、渡部論文に対する反論の中核として、決定的な歴史観を開陳する。それは防衛庁長官に就任してから靖国神社に参拝していない理由を説明したものである。以下引用する。
 「あの戦争は、まともに考えれば勝てるはずのない戦争だった。決して後知恵で言っているのではありません。昭和16年7月には陸軍主計課が緻密な戦力分析を行い、8月にはそのデータを引き継いだ政府の総力戦研究所が日米開戦のシュミュレーションで日本必敗の結論を出して、総理はじめ政府中枢に報告している。(中略)勝てないとわかっている戦争を始めたことの責任は厳しく問われるべきです。(中略)負けるとわかっていて何百万という国民を死に追いやった行為が許されるのか。さらに”生きて虜囚の辱めを受けることなかれ”と大勢の兵士に犠牲を強いた。神風特攻隊も戦艦大和の海上特攻も、何の成果も得られないと分かった上で、死を命じた行為が許されるとは思わない。陛下の度重なる御下問にも正確に答えず、国民に真実も知らせず、国を敗北に導いた行為が、なぜ”死ねば皆英霊”として不問に付されるのか私には理解できない。敗戦時に”一億総懺悔”という言葉が流行ったが、なぜ何の責任もない人まで懺悔しなければならないのか。本当はもっとそこがきちんと議論されるべきではないでしょうか」(P.112)。

 潮も猪瀬直樹著「『昭和16年夏の敗戦』(文春文庫)で描かれた通りなのでしょう」と賛同している。

 前年の産経新聞報道約10か月後、2008年に渡部昇一氏によって展開された「石破は国賊」という批判が、DHCテレビでの百田氏・有本氏の対談で、まるで「発掘」したようになされている。

 元正論編集長の上島嘉郎が右派系番組「日本文化チャンネル桜」に出演し、2017.5月に「石破茂の国賊行為を叱る / 国連という“外圧”を利用する人びと」で、渡部による石破批判を引用して石破批判を再展開した。上島は同時期の2017.6.2日、経済評論家の三橋貴明氏が主宰する新日本経済新聞に寄稿し、渡部昇一に直接伺った話として、「石破氏に日本を貶める意図はないとしても、不当な非難に抗して日本の名誉を守る意欲が感じられません。日本国の大臣である以上、中立という立場はあり得ないということがわかっていない。石破氏は歴史学者や評論家ではないはずです」と伝え、上島の総論として「石破氏は将来の総理大臣候補の一人であると見なされていますが、相応しいかどうかの判断材料の一つがここにあります」と結んでいる。

 石破は、憲法9条2項改正で、集団的自衛権の行使にも賛成の立場である。ちなみに石破氏は、「国防」の中で次のように述べている。

 「核に関して言えば、日本では議論することすらタブーになっています。この国は変な国で、核抑止力を正面からちゃんと議論したことが過去にありません。(防衛庁)長官であった時には言えなかったのですが、個人的には非核三原則にも疑問があります」(P.144、カッコ内筆者)

 石破は「日本核武装論を議論すべき」、「非核三原則に疑問がある」と述べつつ「私は”日本核武装論”を採らない人間」(P.146)と断っている。(了)

 「古谷経衡」作家/文筆家/評論家

 1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』(コアマガジン)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『戦後イデオロギーは日本人を幸せにしたか』(イースト・プレス)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。


 2020.9.5日、「(再掲記事)これが石破茂だ!~国を亡ぼす危険人物~【山岡鉄秀】」。
 まず、石破氏の歴史観を再確認してみよう。石破氏の歴史観を理解する上で最適なのは、2017年5月23日付韓国東亜日報のインタビュー記事だ。この記事が産経新聞(同5月24日)で次のように報じられた。
 《韓国紙の東亜日報(電子版)は23日、自民党の石破茂前地方創生担当相が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し「(韓国で)納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたとするインタビュー記事を掲載した。石破氏が日韓合意に反する発言をしたと受け取られかねないが、石破氏は24日、産経新聞の取材に「『謝罪』という言葉は一切使っていない。『お互いが納得するまで努力を続けるべきだ』と話した」と述べ、記事の内容を否定した。ただ、抗議はしない意向という》

 誤報にもかかわらず抗議しないのであれば、石破氏が噓をついていると思われても仕方がない。全体の文脈を見れば、石橋氏が何を言ったか、ある程度の予想がつくだろう。この場合、一次資料に当たるのが原則だ。
 語られた国家観と歴史観
 そこで私は、東亜日報のオリジナル記事を取り寄せ、プロの翻訳者に全文を和訳してもらった。するとそこには慰安婦問題のみならず、憲法、天皇、靖國、日韓併合、そして北朝鮮問題に至るまで、石破氏の歴史観が赤裸々に語られていた。期せずして、石破氏の歴史観の全容を知ることとなったのだ。まず、石破氏は、完全な「反安倍」として紹介されている。
《「安倍一強」体制の日本の自民党の中で、ほぼ唯一の反安倍の声をあげている人がいる。〝ポスト安倍〟に挙げられている石破茂前地方創生担当相は、今月3日の憲法記念日に安倍晋三総理が明らかにした改憲構想についても、政界で一番に反対意見を出した》

 次に、韓国人記者との1問1答をいくつか抜粋してみよう。
憲法と天皇
─2012年自民党草案は天皇を「国家元首」と規定するなど、あまりにも保守的だという指摘が多いですが。
石破  国家元首案には私も反対をしています。今の天皇も絶対に受け入れることができないでしょう。そういったところまで含め、議論を発展させていかなければいけません。また、安倍首相が9条1項、2項をそのままにして、3項を追加するのは、連立与党である公明党の反対を抑えるための窮余の策です。憲法なので論理的整合性は備えなければいけません。彼は「自分の手で改憲する」という考えに陥っています。
モリカケ問題
─事実、最近の安倍首相は、あまりにも無理が多く詭弁が目立っています。森友学園への不当な支援問題に続き、加計学園獣医学部の新設支援問題など、本人が関係しているスキャンダルが相次いで飛び出るからでしょうか。
石破  彼を代表として選んだ自民党の人々には、首相が間違った道に行かないようにする責任があります。今は誰も「おかしい」とか「間違っている」という言葉を言わない。これは深刻な問題です。
太平洋戦争
─改憲と関連し、韓国では日本が戦争のできる国になろうとしていると懸念しています。
石破  日本が戦争のできる国になるのであれば、太平洋戦争の反省が前提にされなければいけません。日中戦争、太平洋戦争、原爆投下と敗戦で、200万人が犠牲になりました。なぜ戦争を開始したのだろう。なぜ途中でやめなかったのだろう。正しく検証し、反省しなければなりません。当時の政府、陸海軍のトップたちは勝つことができないことを知りながらも、雰囲気に流され戦争に突入しました。当時のマスコミをはじめ、誰も反対していないことも大きいです。誰も真実を言いませんでした。
靖國神社
─靖國神社参拝をしていない理由もそのためでしょうか。右翼の攻撃が激しいと言っていましたが。
石破  若いころは何も知らずに参拝しました。しかし、靖國神社の本当の意味を知っているので、今は行けません。国民を騙し、天皇も騙して戦争を強行したA級戦犯の分祀が行われない限り、靖國神社に行くことはできない。天皇が参拝できるようになれば、行こうと思います。
日本会議
─日本会議などの右翼勢力は敗戦を認めず、戦前に回帰したいという傾向が強い。現在現れている歴史修正主義的傾向も、この基盤の上にあります。同じ保守といっても石破議員は、このような傾向とは異なりますが。
石破  私の考えは違います。日本は敗戦を徹底的に反省した上で独立主権国家、民主国家としての道を見つけていくべきだと思っています。
慰安婦問題
─慰安婦問題などで韓日関係が難しくなっていることについては、どうお考えでしょうか。
石破  本当に難しい問題です。慰安婦問題について日本にも多くの意見がありますが、人間の尊厳、特に女性の尊厳を侵害したという点において、あってはならないことであり、謝罪すべきです。ただ、歴代首相、天皇まで何度も謝罪の意を明らかにしても、韓国で受け入れられていないことについては不満も大きい。それでも、納得を得られるまでずっと謝罪するしかないでしょう。
北朝鮮問題
─韓国では、日本の政界が北朝鮮のミサイルの脅威を利用し危機意識を煽っているという批判が多いですが。
石破  日米韓が強固に協力して対処をしていますが、国によって北朝鮮のミサイルに関しての脅威度は違うようです。ミサイルが米国本土に到達するのに時間があるし、北朝鮮が韓国に撃つ可能性は希薄です。ですが、いたるところに米軍基地を持つ日本は、足元の火のように感じています。国ごとに感じている危険の程度が違うので、反応も違う。
 金正恩の最も恐ろしい点は、何をするのか分からないこと。ただ、今の安倍政権のように「北朝鮮の脅威が深刻だ。だから安倍政権を支持してほしい」と利用することは問題です。対策は静かに、静かに進行すればいい。

 付記として、石破氏は日韓併合についても、次のように語ったとされている。
─日本は「当時の国際法上違法ではなかった」と主張していますが
石破  「違法ではないから併合した。以上!」と終わる問題ではない。国を失うということは、その国の伝統と歴史、言語、文化をすべて失うという意味であり、その国の国民の自尊心に深刻な傷を与えることです。ですが、私がこのような話をすると、すぐに 「石破は韓国の味方か」と攻撃されるんです(笑)

 2020.9.6日、石破茂氏「UFO信じるか」質問に9分間熱弁。菅氏は50秒、岸田氏は2分…担当記者が見た。

 安倍晋三首相(65)=自民党総裁=の後継を決める自民党総裁選(8日告示、14日投開票)に立候補する石破茂元幹事長(63)が6日、国会内でスポーツ7紙の合同インタビューに応じた。石破氏の取材は、これまでの菅、岸田両氏にない独特のテンポと雰囲気で進んだ。総裁選の戦況は劣勢だが、その苦境をはねのけるエネルギーを決して表には出さない、4度目の出馬への静かな覚悟を感じた。 【自民党総裁選をイラストで読み解く!】自民党派閥とポスト安倍相関図  取材中は、マイペースに「~なんでしょうなぁ」とゆったりとした口調で、一聞けば十以上返ってくる引き出しの多さが際立った。「UFOを信じるか」という合同取材の“恒例”となった他紙の質問に、菅氏は約50秒、岸田氏は約2分かけて答えたが、石破氏は他候補を圧倒する9分間にわたる持論を語った。石破氏は「理論家」で少し「くせ者」といったイメージだったが、ある意味イメージ通りだった。写真撮影時、色紙にしたためた「鷲鳥不群(しちょうは群れず)」の言葉通り、「強い者は群れない」のスタンスで他者の目を気にすることなく、我が道を進む印象を受けたが、「眼鏡」を巡っては意外な反応がうかがえた。黒縁眼鏡を新調した経緯を問われると、「秘書など20人ほどに聞いたら、みんな黒縁の方がいいと言ったので」と明かした。「でも評判があまり良くなくて、世の中難しいなぁ…」と“群衆”からのイメージを気にする一面をのぞかせた。(奥津友希乃)





(私論.私見)