「私は中国から何か言われても、すぐに平身低頭”ごめんなさい”という気はありません。”理屈がおかしいんじゃないですか”と言えばいいのです。(中略)”日本は侵略国家だ。中国はとにかく理屈より謝罪だ”というような論法の人には、通じない話でしょうが」(P.150-151) |
「私がなぜ、徴兵制を憲法違反だとする発想がすごく嫌いなのかというと、民主国家と言うのは本当にみんなで努力しないと守っていけないものだという認識が欠落しているからです。民主国家を守るためには、口で語るのではなく、税金を納め、そして国防の任に就くというのが、本来あるべき姿のはずです。しかし、いかにして税金を逃れるかということが流行り、徴兵制を憲法違反だと得々と言う。私は日本にはそういう国家であってほしくないと思っています」(P.159)。 |
「アメリカら言われたからではなく、日本としてこう考えるという独自の案を持って、それをぶつけて交渉するのが、独立国のあり方、同盟国のあり方です。”お代官さま、おねげぇでございますから、まけてくだせえまし”みたいな調子では、被占領国とあまり変わりません」(P.224-225)。 |
かなりタカ派的言辞をしている。その石破に対する所謂「保守界隈」からの評価は批判的である。批判的に変わった第一の転換点は、2017年5月24日の産経新聞報道が端緒である。この時の報道は次の通り。
「韓国紙の東亜日報(電子版)は23日、自民党の石破茂前地方創生担当相が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し『(韓国で)納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない』と述べたとするインタビュー記事を掲載した。記事は、石破氏が日韓合意に反する発言をしたと受け取られかねないが、石破氏は24日、産経新聞の取材に『‘’謝罪‘’という言葉は一切使っていない。お互いが納得するまで努力を続けるべきだと話した』と述べ、記事の内容を否定した。ただ、抗議はしない意向という」。 |
当時現役閣僚であった石破に関するこの記事に対して、2018.3.19日、作家の百田尚樹が、この産経報道を引用する形で「朝日新聞が石破を推す理由の一つがこれだ。石破だけは絶対に総理にしてはならない!!!!!絶対にだ」とツイートして。産経の上記の報道は2017.5月だが、百田は約10か月後になって唐突にこの産経報道を引用して石破氏批判を展開した。百田は、2018.3月放送のDHCテレビ「虎ノ門ニュース」』でジャーナリストの有本香氏と対談し、次のように語っている。
居島(司会) | 今月19日、作家の百田尚樹氏が自身のツイッターで自民党の石破茂元幹事長について怒りのつぶやきをアップしました。百田氏は2017年5月24日の産経新聞の記事を引用。この記事では、韓国紙の東亜日報電子版が、自民党の石破茂氏が慰安婦問題をめぐる平成27年の日韓合意に関し、「韓国で納得を得るまで日本は謝罪するしかない」と述べたとするインタビュー記事が掲載され、これについて石破氏が産経新聞の取材に「謝罪という言葉は一切使っていない」と反論したという内容です。(後略) |
百田 | まー、あのー、まーこれが、石破さんの過去の発言ですけども、えー、去年です。あの東亜日報に対してね、えー、これまあ作家の村上春樹さんも同じこと言ってますけど、「相手が納得するまで謝らなければ」と。これはまあ日本の戦後の、いわゆるまー、日本をダメにした、あーいわゆるサヨクの、まーもう何十年も使い続けた言葉ですよね。これが日本全体をこう、国際社会にひどい貶めることになったわけですが。これをね、こんなこと言う人間。これに対して産経新聞の人は、(石破氏に)何でこんなこと言ったんやいうたら、いやいや謝罪という言葉は使ってないと言ってるんですが、本人は東亜日報に全く抗議していないんですよね。 |
有本 | 謝罪とは言ってないとは言ったんだけど、「両方が納得するまで」とは言ったんということですよ。それで東亜日報には一切抗議をしてない。 |
百田 | それで抗議しないんですか、と言ったら抗議はしませんと。こりゃ本来抗議ですよね、もし言うてないんだとしたら。「何言うてんねん、そんな表現してないだろ、アホンダラボケ、クソ」と言わなあかんのに言うてない。(中略)
朝日はですね、この数年何とか安倍倒閣を、安倍内閣を倒したいという。えーこのじゃあ実際、現実的にどういった安倍内閣を倒すんだと、なってくるとね。これはね、最初は朝日はアホです、アホですからいわゆる選挙でひっくり返そうと思うとったんです。何度もね。ところが野党がもう軒並みドアホやから、もうナンボやっても選挙に勝てない。これはおそらく自民党を倒すのは無理だと。(中略)そうすると、朝日新聞は何を考えたかというと、自民党内で、自民党はしゃーないから、安倍首相だけは変えようと。いうことですよね。 |
有本 | 安倍で選挙を勝たしておいて、頭だけすげ替えて、自分たちがまあその、要するにえーその人の首根っこを押さえられるような者にトップを変えてしまおうと、こういう風です。 |
百田 | この作戦をいま一生懸命朝日はやってるんですよ。そうなってくると、じゃあその人物を、自分が自分が、あー居のままに操る人物を自民党の中で選ばなあきませんね。それで選ばれた一人が、石破さん。 |
有本 | 一人がっていうか、この人しかいないと思いますよ。朝日が推せる人は今。例えば野田聖子さんなんかもそりゃ朝日に覚えがめでたい部分があるんだけど。野田さんは党内で推薦人集まりません。だからおそらく出られない、総裁選に。総裁選に出て、そこそこ安倍総理のカウンターとしてぶつけられて、なおかつ、えーそのなんというのかな、朝日がですね、えーその生殺与奪を握ると、いう人と言ったら石破さんしかいない。石破さんは、確かに百田さんおっしゃるように、ひとつはこの問題ですね。慰安婦の問題。 |
百田 | 慰安婦に関して韓国に納得するまで謝ると。 |
有本 | それからいろいろあるんですよ。石破さんになったら恐らく消費税増税です。はい。(中略) |
百田 | いま朝日新聞は、安倍総理を叩く、昭恵さんを叩く、一方で石破さんに一生懸命梯子をかけてる。 |
有本 | 石破さんをアゲてますよね。(中略) |
百田 | いまから朝日新聞は、安倍おろしと同時に石破アゲを、一生懸命まあ両方やってるわな。 |
2018.3月時点で、「石破=朝日新聞=親韓=左翼」という図式が保守界隈で出来上がっていた。その結果、石破に関する過去の報道が「発掘」されることになった。保守界隈がことさら石破氏批判に躍起になった根拠は、2017.5.24日の産経新聞報道である。保守派は従来から「従軍慰安婦は高い給料を貰っており、よって日本が謝る必要はない」、「従軍慰安婦はでっち上げ」、「日本側からの謝罪」という世界観はもっての外」等と繰り返してきた。
保守界隈による石破批判はそれ以前から鬱積していた。2008.6月、月刊誌WiLLにおける故・渡部昇一(上智大学名誉教授)による石破批判論文「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」(P.270~)がそれである。当時、石破は福田康夫内閣下で防衛大臣を務めていた。渡部は石破の何が「国賊行為」として檄文を書くに至ったのか。渡部論文の要旨は次の通りである。
「総論 中国共産党系の新聞(世界新聞報・2008年1月29日)における石破氏のインタビューでの同氏の発言内容が以下の様にけしからんものである。
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WiLL編集部は石破事務所に対し、「世界新聞報のインタビューでの発言内容は事実であるか」と照会したところ、「事実に即していないと言うほどではありませんが、事実そのままでもありません」、「(発言内容の訂正を求める等の)特段の対処はしておりません」と記す回答書を、同号本文P.271に掲載している。渡部論文は、石破がインタビュー通りに発言をしたことを前提に次のように批判している。
「”中国に対して謝罪すべきだ”と言うような防衛大臣が指揮する中で、日本の自衛隊が奮い立てるでしょうか。本当にこの内容を話したのであれば、これは国賊行為です」(P.272)。 |
「私は”国家名誉褫奪(ちだつ)罪”を作るべきだと思います。投獄したり財産を没収するのではなく、国から贈られた名誉を剥奪すべきです」(同) 。 |
「この石破防衛大臣のような人を生んだ背景に、戦後日本の一番の問題があります。それは占領軍による日本人へのギルト・コンシャスネスの植え付け、すなわち日本人に罪悪感を与え、日本から正統な歴史を奪うプログラムです。そのために占領軍は様々な占領政策を施し、それが日教組を通じて、左翼の教育関係者や言論人に行き渡り、彼らがそれに乗って、戦後の日本人を洗脳し続けてきた。その結果として、石破防衛大臣の世代があります」(P.272~P.273)。 |
「自衛隊は謝罪しながら国防に当たるのか。そんなアホなことを防衛大臣は部下に要求するのか。しかも、石破氏は現役の防衛大臣です。(中略)中国に対して、朝日新聞も驚くような『謝罪外交』をする人物に日本の防衛は務まらない。辞任するべきでしょう」(P.279)。 |
2017年の産経新聞報道をきっかけに始まったかに見える保守界隈からの石破批判は、時をさかのぼる2008年の時点で、当時保守界隈の重鎮である渡部氏から出ていたことになる。この渡部論文には後日談があり、2008.9月の月刊誌正論で、この渡部論文を受けて石破自らが評論家の潮匡人と対談の形で反論を試みている。「我、国賊と名指しされ―防衛大臣としての真意を語ろう」(P.108~)として対談形で石破による反論が掲載されている。
「最近の保守系メディアの論調が、エキセントリックな論調になっていることへの違和感は覚えます。(中略・米上院外交委員長を務めたフルブライトの言葉を引用し)過激な言葉は決して他人の共感を呼ばない。私はこの言葉を高校時代に読んで以来、過激な言葉は使うまいと誓った。過激な表現は多くの人々の共感を得ないし、納得も得られない。結局、世の中をよくすることにならない。エキセントリックで刺激的な言葉ではなく、もっと静かに、真摯に話し合うべきだと思うのです。(中略)ただ、渡部先生は政治家ではなく学者ですし、私への叱責も国会の論戦ではなく、商業ジャーナリズムの世界での批判ですから、ご事情は理解しますが、こういう傾向が強まることが本当にいいことなのか、かなり疑問です」(P.109) 。 |
この対談の中で石破は、渡部論文に対する反論の中核として、決定的な歴史観を開陳する。それは防衛庁長官に就任してから靖国神社に参拝していない理由を説明したものである。以下引用する。
「あの戦争は、まともに考えれば勝てるはずのない戦争だった。決して後知恵で言っているのではありません。昭和16年7月には陸軍主計課が緻密な戦力分析を行い、8月にはそのデータを引き継いだ政府の総力戦研究所が日米開戦のシュミュレーションで日本必敗の結論を出して、総理はじめ政府中枢に報告している。(中略)勝てないとわかっている戦争を始めたことの責任は厳しく問われるべきです。(中略)負けるとわかっていて何百万という国民を死に追いやった行為が許されるのか。さらに”生きて虜囚の辱めを受けることなかれ”と大勢の兵士に犠牲を強いた。神風特攻隊も戦艦大和の海上特攻も、何の成果も得られないと分かった上で、死を命じた行為が許されるとは思わない。陛下の度重なる御下問にも正確に答えず、国民に真実も知らせず、国を敗北に導いた行為が、なぜ”死ねば皆英霊”として不問に付されるのか私には理解できない。敗戦時に”一億総懺悔”という言葉が流行ったが、なぜ何の責任もない人まで懺悔しなければならないのか。本当はもっとそこがきちんと議論されるべきではないでしょうか」(P.112)。 |
潮も猪瀬直樹著「『昭和16年夏の敗戦』(文春文庫)で描かれた通りなのでしょう」と賛同している。
前年の産経新聞報道約10か月後、2008年に渡部昇一氏によって展開された「石破は国賊」という批判が、DHCテレビでの百田氏・有本氏の対談で、まるで「発掘」したようになされている。
元正論編集長の上島嘉郎が右派系番組「日本文化チャンネル桜」に出演し、2017.5月に「石破茂の国賊行為を叱る / 国連という“外圧”を利用する人びと」で、渡部による石破批判を引用して石破批判を再展開した。上島は同時期の2017.6.2日、経済評論家の三橋貴明氏が主宰する新日本経済新聞に寄稿し、渡部昇一に直接伺った話として、「石破氏に日本を貶める意図はないとしても、不当な非難に抗して日本の名誉を守る意欲が感じられません。日本国の大臣である以上、中立という立場はあり得ないということがわかっていない。石破氏は歴史学者や評論家ではないはずです」と伝え、上島の総論として「石破氏は将来の総理大臣候補の一人であると見なされていますが、相応しいかどうかの判断材料の一つがここにあります」と結んでいる。
石破は、憲法9条2項改正で、集団的自衛権の行使にも賛成の立場である。ちなみに石破氏は、「国防」の中で次のように述べている。
「核に関して言えば、日本では議論することすらタブーになっています。この国は変な国で、核抑止力を正面からちゃんと議論したことが過去にありません。(防衛庁)長官であった時には言えなかったのですが、個人的には非核三原則にも疑問があります」(P.144、カッコ内筆者) |
石破は「日本核武装論を議論すべき」、「非核三原則に疑問がある」と述べつつ「私は”日本核武装論”を採らない人間」(P.146)と断っている。(了)