種子法廃止法案考

 更新日/2019(平成31→5.1栄和改元)年.11.26日

 2017.4.14日、稲や麦、大豆の種子の生産、普及を都道府県に義務付ける主要農作物種子法の廃止法案が、参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。種子生産に民間企業の参入を促す狙いだが、民進、共産両党などは「種子の安定供給に支障が出る可能性がある」などとして反対した。来年4月1日に施行される。種子法は戦後の食糧増産を目的に、1952年に制定された。都道府県が優良品種の審査、指定、栽培などを行ってきたが、優良品種は都道府県が自ら開発した品種に偏っており、政府はこの状況を問題視。種子生産の民間参入を妨げ、多様な品種開発を阻害しているとして廃止を提案した。採決に先立つ討論で、民進党の徳永エリ氏(道選挙区)は種子法廃止により外資参入が進む可能性を指摘し、「種子価格の高騰を招きかねない」と批判。共産党の紙智子氏(比例代表)も「都道府県にとって育種予算確保の根拠がなくなる」と反対した。法案は賛成158票、反対73票で可決、成立した。
 http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/agriculture/1-0389766.html
 https://news.yahoo.co.jp/byline/matsudairanaoya/20170309-00068507/

 タネの世界ではさらに自給率が低く、野菜のタネに関しては、なんと8割~9割を輸入に依存している現状がある。モンサントは種子から農薬までセットで安価で販売してる。しかも種子のできない種子(ターミネーター種子)だから種そのものが根絶される。開かれた市場を目指す右翼と
閉鎖的な市場を死守する左翼、なんなんこれ 。農産物も水道も外資にプレゼントしちゃう自称愛国もとい売国自民党とその別働隊の維新や日コロ。モンサントを受け入れると…、・在来種&古来種農家は脅されてモンサントに切り替えさせられる。・F1種を使っていた農家もモンサントに切り替えさせられる。・お米もカリフォルニア米などの種に切り替え強要。 ・大豆は日本で作るなと脅しアメリカ産を大量輸入強制。・ジャガイモ&たまねぎなんか真っ先にモンサント種にさせられる。・モンサント種を拒否した農家は潰す。成長促進剤や成長ホルモンを使った食肉も「商品には表示をしなくていい」ことになっているから日本には入り放題になってる。世界各国は表示を義務化したり輸入禁止措置をとってる。遺伝子組み換えを原材料に使っていても、完成品の成分検査で遺伝子組み換えの遺伝子情報が出なければ商品パッケージに表示しなくていい。これも自民党系と農水省が決めた。もう各国で失敗してるから遺伝子組み換え種子を使う人は少ないかもしれないが、農業法人として特にアメリカ企業の顔した実質支那資本が参入したら使いまくるだろうな。どうみても売国なんだから右も左も無いよな。日本で人体実験、日本国民を売る日本の総理大臣。遺伝子組み換え作物による何らかの病気が蔓延したとき、アメリカの製薬会社がまた儲かる。外食とかにも今以上にバンバン使われるだろうな。 遺伝子組み換えの表記も禁止にする予定だよ。違反した時の罰則も用意してる。実は出来ても種がない作物とか永遠にモンサントから種子買い続け、そのうち、実はできても決まった年齢で癌になるとか、包茎になるとか、どんな種子売られても受け入れるしかなくなるやんけ。遺伝子組み換え食品は癌になるからやめろや。日米FTAでもISDを結べばそうなる。 オーストラリアはFTAは結んでもISD条項だけは頑なに拒否したが、この国は結ぶだろう。あらゆる社会毒の人体実験列島。


 「★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK266 」の 赤かぶ氏の2019 年 10 月 26 日付投稿「種子法廃止とこれからの日本の農業について 元農林水産大臣・山田正彦(長周新聞)」。
 種子法廃止とこれからの日本の農業について 元農林水産大臣・山田正彦
 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/13829
 2019年10月26日 長周新聞

 福岡県糟屋郡宇美町立中央公民館で20日、「種子法廃止と、これからの日本の農業について―食と農 命と暮らしを守るために福岡県独自の種子条例を制定しよう」と題して、地元有志でつくる「糟屋地区の未来を考える会」の第2回シンポジウムが開催された。山田正彦元農林水産大臣の基調講演を受けて、「グローバル化が進展する日本において国民の生活をどう守るか」をテーマに、山田正彦(元農林水産大臣)、野田国義(参議院議員)、原竹岩海(福岡県議会議員)、原田和明(北九州市立大学)、時任裕史(宇美町議会議員)の五氏によるパネルディスカッションがおこなわれた。種子法の廃止、種苗法改定、水道民営化や漁業法改定など、公共の分野が多国籍企業に明け渡されていく現状に警鐘を鳴らすと同時に、真実を知り、地方から変えていく道筋について熱のこもった議論が、農家や種子を守る市民運動をしている参加者をまじえておこなわれた。山田正彦元農林水産大臣の講演を紹介したい。記事は基調講演の内容に質疑応答のなかでの発言を加えたものである。なお、文中の表・写真は山田氏が示した資料を参考に本紙が作成した。
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 私は五島列島出身で、29歳のときに400頭くらい牛を飼っていた。豚も年間8000頭くらい出荷していたので、相当な規模だった。うまくいかず自分で肉屋もやり、最後は県庁前で牛丼屋までやったが、さんざん失敗した。当時4億円くらい借金を抱えた。忘れられないのは当時の農水省の勧めで大型畜産をやった仲間が2人自殺したことだ。私は破産状態だったが、弁護士の資格だけは持っていたので、弁護士をして借金の支払いをしながら、なんとも悔しかったので衆議院に出た。3回敗れて4回目に通り、5期衆議院議員をさせていただき、運良く農林水産大臣にさせていただいた。そのときに、戸別所得補償や飼料米制度、林業再生プラン、漁業の所得保障などいろいろやらせてもらった。そのときちょうどTPP交渉に参加したいという話があり、閣議で大げんかして大臣を辞め、今日までTPP反対運動を続けてきた。

 ところがTPPは昨年12月30日に発効した。たった5日間で牛肉の輸入量は半月分になるほど急増した。今年2月1日に日欧EPAも発効し、なんとEU産豚肉は五割増になった。チーズやバター、乳製品、果物類も今だいたい昨年に比べて3割増だ。そんななか日米FTAがいよいよ来年1月には発効する。一番恐れていたことだ。

 アメリカは農産物しか売る物がない。日本を見るとトヨタ自動車一社の売上だけで30兆円だ。農林水産物はあわせても8兆円しかない。2年前に「トヨタ自動車その他日本の自動車に25%の報復関税をかける」とトランプからいわれ、霞が関の官邸や農林水産省、経産省から聞こえて来るのは、「このさい、報復関税25%をなんとか延期してもらうために、農林水産物は譲るだけ譲る」ということだった。そしてアメリカの農務省長官も、はっきり「もう日本とは話がついた」と、今年5月からツイッターでいっている。今後大変なことになっていくのではないかと思う。

 今、アメリカもオーストラリアもどんどんコシヒカリをつくっている。これが60㌔4000円で入ってくる。私が農林水産大臣のときにおこなった試算では、今日本のコメの生産原価は60㌔当り1万5000円だ。昨年の農家の手取りが1万3300円だった。試算ではTPPに参加すると日本の食料自給率は14%まで落ち込むという結果になった。韓国ですら今、食料自給率は48%だ。日本は本当にどうなるのかと心配している。

 TPP協定は条約であり、憲法の下で、国内法の上になる。米韓FTAを結んだ韓国が200本の法律を変えたように、日本もTPP協定(8000ページ・30章)に従って、この2年間、次次に法律を変えている。一番最初に変えたのが主要農産物種子法の廃止だ。これについて私は5年前から、「明らかに国の主権を損なうものだ」としてTPP違憲訴訟をしている。その判決が昨年10月31日にあったが、判決のなかで種子法廃止について「背景事情の一つにTPP協定に関する動向があったことは否定できない」と、TPP協定と種子法廃止の関連を最高裁判所は認めた。水道法改定、漁業法の改定、市場法の事実上の廃止、森林管理法の改定など、すべてこれはTPP協定によるものなのだ。

種子法で日本のコメ、麦、大豆は守られてきた

 今私たちはおいしいお米を当たり前のように食べている。これは全部、伝統的な固定種だ。種子法のおかげで私たちの主食であるコメ、麦、大豆など、それぞれおいしいものを食べることができた。これがどうなるか。

 野菜で考えていただくとわかりやすい。野菜は30年前、みんな伝統的な固定種だった。ところが野菜の種子はF1に変わり、今、90%を海外で生産している。2年前にモンサントの遺伝子組み換え農産物の見学会に行ったとき、思いがけないことを聞いた。「日本の野菜の種子はモンサントでつくっています」といわれたのだ。そんなことはパッケージに書いていない。「委託生産し、委託販売している」という。調べてみるとモンサントは野菜の種子だけで800億つくっている。世界の種子は今、モンサント(バイエル)、ダウ・デュポン、シンジェンダ(中国化工集団傘下)の3社で世界の種の7割を握っている。同時にこの3社で世界の農薬の7割、世界の化学肥料の7割を握っている。

 こうして野菜の種子はF1になり、ニンジンでいえばカロチンなど栄養価は3分の1に減っている。F1は科学的にそこまで問題になるとはいわれていないものの、主食のコメ、麦、大豆の公共の種子がなくなると、民間の種子を使わざるを得なくなる。すでにコメ、麦、大豆の民間の種子ができている。

種子法とは

 種子法ではコメ、麦、大豆の伝統的な日本の在来種を国が管理し、各都道府県に原種・原原種の維持、優良品種の選定、奨励、審査を制度として義務づけてきた。そのもとで、各地の農業試験場で雑種の混入や不良な種を取り除き、厳格に監査した優良な品種を公共品種として安く安定して提供してきた。

 原原種の栽培では、コシヒカリやヒノヒカリなどを1本ずつ植え、毎年つくっている原種を純粋なコシヒカリに合わせて開花時期、丈の高さを揃えていく。四割くらいは黒米や赤米になったりするので、それをとり除いていくと、そこで6割くらいしか残らない。農業試験場に見学に行くと、穂先が1㌢くらい伸びているなかから、1㍉か2㍉違えばとり除いていた。その後も10回前後の抜きとり作業をおこなうなど、「異株」に対して細心の注意を払い、発芽率90%の種をつくり、その後に原種をつくる。3年目にようやく県が種子栽培農家を選定し、圃場を選定して、福岡県であれば「ヒノヒカリ」「発芽率90%以上」と、県として責任を持って保証書を出し、だいたい1㌔500円ほどでコメ農家に提供してきた。それをコメ農家は4年目につくり、われわれは5年目に食べることができる。そうやって純粋な伝統的な品種をしっかり守っている。麦も大豆も同じだ。

 ところが、種子法を廃止するとき政府は「種子法があることで民間の優秀な品種が普及できない」「なかなか売れない」といった。民間の優秀な品種(三井化学の「みつひかり」など)があるではないかと説明して回った。「みつひかり」は野菜と同じようにF1の種子で、伝統的な固定種ではない。価格を見ると、「みつひかり」の種子は4000円なので、公共の種子と比較すると8~10倍する高い物だ。野菜の種子もF1になって多国籍企業がつくるようになってからは、イチゴやトマトなど1粒1~2円だったものが、今は40~50円だ。いずれコメ、麦、大豆の種子も40~50倍になっていくことは間違いないと思っている。

農家を大企業に隷属させる

 私は三井化学の「みつひかり」や住友化学の「つくばSD」の生産者、日本モンサントの「とねのめぐみ」の生産者など、さまざまな方に会ってきた。話を聞くと、民間の種子には必ず、収量がコシヒカリの1・2倍~4倍、味はヒノヒカリ以上、コシヒカリ以上という内容が書いてある。そしてつくりやすく倒伏しない。しかし実際は必ずしもそうではない。最初の年は化学肥料をやるのでいくらか収量があるが、土壌が追いつかず、だんだん収量が減ってくるのでやめた農家もけっこういた。

 実際の契約書を見ると、モンサントの契約書は有名で、何十ページもあって肝心な部分は英語で書かれているのだが、これがたった1枚だった。そのなかに「指示されたことに従わない場合はモンサントに生産者は責任を負う」と書かれている。農薬や化学肥料の指示はなかったのかと聞くと、その方は「そういう指示はなかった」といっていた。

 しかし、「つくばSD」の契約書は10ページあり、指定された農薬と化学肥料を必ず使わなければならない、反すると損害賠償責任を負うと書かれていた。そして「収穫されたものはすべて住友化学の指定するところに納めなければならない」となっている。価格については住友化学と生産者とで、「収穫後にそのときの相場を見て決める」となっている。今回の台風のときのように全滅する場合はどうかというと、「災害時の責任はすべて生産者が負う」となっている。これは非常に一方的な契約だ。

 「みつひかり」の生産者の話では、最初の年は60㌔1万2000円で全量引き取りだったからつくったが、翌年は60㌔1万円、その次の年は9000円になったのでやめたという。私は「よくやめられましたね」といった。この「みつひかり」の契約書だと、正当な理由がなければ、やめるにしても莫大な損害賠償を請求される恐れがある。

 これから、地方自治体が公共の種子をつくらなくなると、モンサントなど民間との契約の下、農家はまさにがんじがらめに縛られて、アメリカの農家のように奴隷農場に、借金漬けになっていく。

 日本のコメ農家がモンサントへロイヤリティを支払う

 もう一つ、「農業競争力強化支援法」の八条三項のなかで、「銘柄が多すぎる」といっている。日本には各県の奨励品種だけで約300品種ある。天皇家の古代米だけで17種類だから、全国でだいたい1000種類のコメがつくられている。そのコメを数種類に集約するという。「民間の種子に」という意味だ。農協潰しの法案といわれた「農業競争力強化支援法」だが、八条四項では、日本(国の農研機構や各都道府県)が蓄積してきた育種知見をすべて民間に提供するとされている。国会で「海外のモンサントなどにも提供するのか」と聞くと、当時の斉藤農水大臣は「TPP協定は内外無差別だから、当然そうなる」と答えている。

 そうなるとどうなるか。メキシコはトウモロコシの原産国だが、今、メキシコの農家はモンサントなどにロイヤリティを払わなければトウモロコシをつくることができない。フィリピンもそうなった。日本のコメ農家もそうなっていくということだ。

 たとえば福岡県でやっとできたおいしいコメの品種も、提供するとロイヤリティを払わなければならない。国民の税金、県民の税金でつくった新しい品種だ。この育種知見がTPP協定によって多国籍企業に出て行くことになる。



 じつは農水省の事務次官が平成29年11月15日付で、「都道府県に一律の制度を義務付けていた種子法及び関連通知は廃止するものの、都道府県が、これまで実施してきた稲、麦類及び大豆の種子に関する業務のすべてを、直ちに取りやめることを求めているわけではない」という通知を出した。「いずれやめなさい」「予算をつけませんよ」という意味だ。さらに、「民間事業者による稲、麦類及び大豆の種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術等の種子の生産に係る知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担う」とある。

 三井化学の「みつひかり」や日本モンサントの「とねのめぐみ」などのように、麦でもすでにF1の麦もできている。そういった民間のものが普及するまでの間だけ、各都道府県は育種知見を維持し、その間に民間にそれらの知見をすべて提供する義務があるという通知だ。実際に種子法が廃止になった昨年四月に奈良県、和歌山県、大阪府は県が責任を持ってつくるのをやめ、民間に委託した。県の保証するコメ、麦、大豆の種子は三府県ではなくなった。福岡県も条例をつくらなければそうなっていく。

 日本も遺伝子組換えのコメ、麦、大豆を作付けするようになる?

 飼料米制度は私が大臣のときにつくったものだ。今コメでは農家は赤字だが、飼料米制度で何とか食べてきている。その飼料米農家に先日、農政局から説明があり、「反当り11俵以上とれないと補助金を出さない」という話が出てきたという。調べて見ると、すでにゲノム編集の飼料米の種子が用意されていた。その農家が「これからはF1か遺伝子組み換えの飼料米をつくらなければいけないのではないか」と心配していたが、まさにそうだった。そして「WRKY45(ワーキー45)」というゲノム編集のコシヒカリの種子も用意されていた。

 ゲノム編集について、昨年8月7日の『日本農業新聞』の1面に「GM技術該当せず」とある。ゲノム編集は遺伝子組み換えの一つだが、「遺伝子組み換え技術に該当せず、安全だ」といい始めたのだ。『日本経済新聞』(今年3月19日付)には「ゲノム編集食品、夏にも」とある。実際にはこの10月1日にゲノム編集食品は解禁された。任意の届け出のみで表示もないまま、いよいよ流通し始める。

 ゲノム編集とはなにか。例えばトマトの熟成する遺伝子だけを粉砕すると、熟成せず腐らなくなる。3年間、青青としているトマトができている。それを収穫して倉庫に入れておき、出荷のさいにエチレンガスをかけると真っ赤になる。それが本当に安全なものなのだろうか。

 EUでは、遺伝子組み換えは原則禁止しており、ゲノム編集は遺伝子組み換えであるとして使わないようにしている。ところが日本は、「ゲノム編集は遺伝子組み換えと違い、新しい別の種類の遺伝子を組み換えて入れるわけではない。アミノ酸に変わりないから安全だ」といっている。ところがアメリカもそうではない。先日訪米し、遺伝子組み換えの分野では右に出る人はいないというチャペラ教授に話を聞いたが、最初「ゲノム編集」といっても伝わらなかった。そして「そうか、山田さんがいっているのはNEW GMOのことだな」といわれた。アメリカでもみな、遺伝子組み換えの延長線上の話だという認識だ。しかし日本だけはゲノム編集は遺伝子組み換えと違うといい出した。

 今、ネイチャー誌に論文が載っているように、「ネズミ1匹の遺伝子を粉砕すると1600」の副作用がある。

 たとえば、中国でゲノム編集によって双子の赤ちゃんが生まれた。父親がエイズだったので、生まれてくる子どもがエイズにならないよう、ウイルスにかかっている遺伝子だけを壊した。すると思いがけず双子が生まれた。しかし、2人はエイズにはかからないが、西ナイル熱ウイルスにはかかる、インフルエンザにかかると重症化する、免疫疾患になる、短命であるなど、さまざまな影響があることがわかってきた。

 ゲノム編集食品で最初に、もうすでに日本に入ってきているのは高オレイン酸大豆だ。アメリカでは「ゲノム編集の大豆」「遺伝子組み換え大豆」というと、今ほとんど売れない。それで安倍総理は日米FTA交渉のなかで受け入れた。何の表示もないまま、食用油としてすぐに店頭に並ぶと思う。これがどういう作用があるのかはまったくわからない。

 ゲノム編集の高オレイン酸大豆や、カーギルが関与している除草剤耐性のあるナタネなどが日本に入ってきたところだと思うが、さらに政府はそれについて「有機(JAS)」の認証をできないか検討を始めた。9月30日に第1回の検討会があり、第2回が近く予定されている。アメリカですでに用意されている遺伝子組み換えのコメの種子、ゲノム編集のコメの種子、麦、大豆、ジャガイモなどについて、「有機」の認証をしたいというのだ。話を聞き、資料を読んでみると、認証することが前提の検討会になっている。今、遺伝子組み換え食品について、日本は政府が318種類も承認している。アメリカですら197種類だから日本はダントツだ。

 遺伝子組み換え農作物は、すべて除草剤・ラウンドアップ耐性だ。ラウンドアップをまくと植物は枯れる。主成分のグリホサートはベトナム戦争の枯れ葉剤と考えればよい。植物がアミノ酸をつくるシキミ酸経路を破壊するので、植物はアミノ酸をつくれず枯れる。ところがグリホサート耐性を持たせた農作物は、いくらグリホサートをまいても死なず、すくすくと生きている。ところが、そのラウンドアップで今大変なことが起きている。

 ラウンドアップ裁判

 アメリカで昨年8月10日、歴史的な裁判があった。

 学校の用務員ジョンソンさんが、校庭の除草のために20~30回ラウンドアップをまくと、腕に腫瘍ができ、末期ガンであることがわかった。モンサントのラウンドアップ以外に考えられないと、モンサントを訴えた裁判だが、モンサントに320億円支払えという評決が出た。判決は86億円に訂正されたが、これは世界のトップニュースになり、世界中に激震が走った。

 世界各国でじつは今、グリホサート、ラウンドアップの規制が広がっている。ラウンドアップをやめた国は24カ国、規制している国は33カ国にのぼっている。隣の韓国もラウンドアップの使用をやめ、ネオニコチノイドの空中散布や屋外の使用を一切禁止している。



 ラウンドアップをめぐる裁判は次次に起きており、ジョンソンさんの次には88億円、3例目の夫婦のガン患者には2200億円支払えという評決が出た。サンフランシスコでジョンソンさんに会い、インタビューをすることができたが、腕はケロイド状で肉が出ていた。彼は、「妻がハグすると皮がずりっと落ちて大変なので、今優しく抱いてもらっているだけだ。子どもはどうやらあきらめがついたようだが、妻はまだあきらめがついていないようだ」と話していた。日本に対するメッセージを求めると、「ラウンドアップの使用をできるだけ早くやめてほしい。日本だけでなく世界の人にそういいたい」といわれていた。

 その後、この訴訟にかかわったロバート・ケネディ・ジュニア弁護士にもインタビューした。彼は叔父のジョン・F・ケネディがホワイトハウスにいるときに、レイチェル・カーソン女史に会ったという。当時、モンサントはDDTを世界中で売りまくっていて、レイチェル・カーソン女史は「鳥も鳴かない春が来る」といい、モンサントから徹底的に糾弾されていたそうだ。そのときからロバート・ケネディ・ジュニア弁護士は30年間モンサントとたたかってきたという。

 裁判で勝利できたのは、モンサントが所有している最高の内部機密資料を裁判に出すことができたからだという。その内部機密資料によって、モンサントは19年前から、遺伝子組み換え作物やグリホサートでガンになることを認識していたことが明らかになった。実証の結果わかっていたのに悪質な隠蔽工作を続け、今日まで売り続けてきていたのだ。ロバート・ケネディ・ジュニア弁護士の話では、例えばニューヨークでは「ラウンドアップはコーヒーやピクルスと同じように飲んでも健康な大丈夫なものです」と宣伝していた。これは明らかな間違いなので、モンサントは莫大な罰金を払わされることになったという。

 日本では、「すぐに生分解されて自然に戻るから害がないとコマーシャルしている」と話すと、明らかに虚偽の事実で、公共放送でやるなど考えられないといわれていた。TPP違憲訴訟をするうえで裁判資料の提供を依頼すると、喜んで承諾して下さり、「日米で一緒にたたかいましょう」という話になった。

 今回、劇的な裁判となったが、すでにアメリカで5万件、同様の裁判が起こされており、カナダやオーストラリアでもモンサントに対する同様の裁判がなされている。モンサントを昨年6月に買収したバイエルは今、株価が5割下がっている。そしてついに正社員の1割に当たる1万2000人のリストラを発表し、動物医薬品を売るドル箱だった会社を売却した。アメリカでもEUでも「モンサントは終わった」といわれ、バイエルも危ないといわれているほどだ。

 オーガニック食品の広がり

 今、アメリカのスーパーはどこに行ってもオーガニック、「NON GMO」があふれている。アメリカを変えた女性といわれているゼン・ハニーカットさんにもお会いした。彼女はロバート・ケネディ・ジュニア弁護士やジョンソンさんと一緒になって裁判をひっ張って来た人だ。

 彼女の子どもは3人ともアレルギーで、そのうち次男のボダイ君は小麦アレルギーがなかったのでパンやパスタをたくさん食べさせた。するとある日突然、理由もないのに怒り出し、暴れ出して自閉症の症状を起こした。驚いて病院に連れて行き、腸内細菌を調べると、クロストリジウムという脳神経を直接おかしくする細菌が、ヨーロッパの環境基準の四倍見つかった。このせいではないかと彼女は考えた。

 アメリカでは10年前から小麦の収穫前にラウンドアップをまいていた。ラウンドアップをまくと小麦が枯れるため、コンバインで刈る手間がなくなる。主成分・グリホサートは小麦の芯まで浸透し、水分が一滴もなくなるため、日本に運んで来るまでにカビが生えたり細菌が発生することもない。彼女はこのグリホサートのせいではないかと考え、小麦粉製品を食べさせるのをやめ、有機の物と発酵食品にするとボダイ君の症状は劇的に改善された。

 それまで、「グリホサートは食べ物から体内に入ってもすぐに分解されて尿として排出され、体内に残ることはない」という研究論文の下で、アメリカ環境保護局(EPA)も認めて来た。しかし、体内にグリホサートがあるかもしれないと考えた彼女が、母親たちの協力を得て母乳中のグリホサートの検査をすると、9割以上の母親からグリホサートが検出された。

 私はそれを聞いて日本で何とか調べたいと思い、フランスのクズサイエンスというところに髪の毛を送って調べてもらった。1キット5万円したが、30キット購入し、国会議員23人や私も含め総勢30人を調べると30人中21人からグリホサートが検出された。これを黒田純子博士が聞いて驚いた。「尿で検査すると日本人みんなから検出されるのではないか」と。

 今の医学では1個の細胞が生きるのに10個の腸内細菌の力を借りなければいけないといわれている。私たちは腸内細菌で生かされている。グリホサートはその腸内細菌のうち善玉菌をほとんど殺してしまう。そうなるとガンになったり、切迫流産や生殖系の機能を阻害したり、自閉症になることなどが明らかになってきている。黒田純子博士は、「じつはグリホサートは遺伝子を傷つけるのではなく、メチル化するのだ」といわれた。メチル化とは、遺伝子のオン・オフを人によって突然切り替えるのだそうだ。そうなるとこの遺伝子がそのままゲノム編集と同じ効果になる。
 ネズミの実験ではF0(大人の世代)、F1(子どもたちの世代)にはほとんど影響はないという。ただF3(孫)、F4(ひ孫)の時代に異常が出てくるという。遺伝子そのものが変わるため、最初の角度が一度違っても、遠くに行くほど角度が開くそうだ。

 ラウンドアップにかわる除草剤

 ラウンドアップは今のJAでもどこでも売っている。しかし、お母さんたちが反対運動をしてダイソーは8月8日から販売をやめた。ラウンドアップにかわる天然素材の除草剤はないか調べていると、オーストラリアでオーガニック・コンタクト社の除草剤を、昨年暮れ近くになって政府が有効な除草剤としたことがわかった。この話を聞いてすぐにサンプルを輸入してもらい、試験してみた。すると1時間で雑草に黒く斑点ができてひっくり返っていき、4時間後には一部だが茶色く枯れた。これを、アメリカのEPAが除草剤として承認した。EUも審議中で、スリランカ、ニュージーランドも承認し、4カ国が承認したところだ。何とかしてラウンドアップをやめたい。

 世界に逆行する日本―世界の流れは有機・自然栽培、非遺伝子組み換え作物に

 アメリカのダイソーで販売しているポテトチップには警告として「揚げたジャガイモ(ポテトチップスなどの)には、発がん性や、先天性血管、そのほかの生殖系への悪影響を引き起こすことが知られている、アクリルアミドという化学物質が含まれています」という表示がされている。日本では普通に食べている。カラムーチョもそうだ。世界は食品表示が厳しいのに、これから日本で売られるゲノム編集の大豆やナタネでつくられる食用油は、何の表示もないまま合法的に売られる。しかも政府はこれを「有機(JAS)」で売りたいという検討会まで始めている。まさに世界の流れと逆行している。

 韓国のスーパーでもオーガニックコーナーができ、オルゴク小学校(清州市・500人)では、有機・無償で学校給食を提供している。パンやサンドイッチは輸入小麦に頼らざるを得ないのではないかと思ったが、パンやパスタは一切使わず、うどんは全部国産の小麦粉だという。日本の大手3社の小麦粉を調べてみると、グリホサートがたくさん含まれている。もっとも入っているのが日清製粉の「全粒粉強力粉」だ。オルゴク小学校はアレルギーの子どもが七人しかいなかった。

 韓国の農水省の課長に全国の状況を聞くと、ほぼ小・中学校は有機・無償でやっており、高校はもう少しかかるということだった。保育園・幼稚園でも始め、何年か後には妊婦にも有機の物を食べさせたいと思っているという話だった。

 韓国も台湾も、食の安全に対する取り組みを始めている。日本は農薬や食品添加物の基準でいうと台湾の400倍も緩い。小麦粉のグリホサート残留農薬基準は中国の150倍緩い。そして世界各国がグリホサート、ラウンドアップを規制しようとしているなかで、こともあろうに日本だけがグリホサートの残留農薬基準を、物によっては400倍にまで緩めた。そば粉やナタネなどは75倍、100倍、テンサイは75倍だ。今、世界で一番農薬の残留基準が緩いのが日本だ。

 ロシアも2016年に遺伝子組み換え農産物はつくらせない、輸入させないという法律を上院下院で通した。中国も2017年から同じように輸入も国内栽培も禁止している。いずれも国を挙げて有機栽培に力を入れている。アメリカも、じつは遺伝子組み換え農産物は2016年から頭打ちで、今オーガニックの生産がなんと年に10%の割合で伸びている。

 先月アメリカに行き、モンタナ州(小麦の大産地)を訪れた。そこで10年前までケミカル農業(農薬や化学肥料を使う農業)をしてきたが、オーガニックに変えたという農家に会った。やめた理由を聞くと、「ケミカル農業をしている農家は家に帰るとすぐに服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びないと子どもをハグできなかった。今は子どもたちと一緒に畑の中に入ることができる」という話だった。今、彼のつくった小麦は1ポンド14㌦だが、ケミカル農業の小麦は1ポンド3・7㌦だという。農薬や化学肥料にも金がかかる。「彼らは赤字だ。私は早く切り替えてよかった。アメリカでももう有機にしないと農業はやっていけない」と話していた。

 自家採種の禁止

 政府が自家採種を原則禁止するという種苗法の改定案を、いよいよ来年の通常国会で提出することがはっきりした。今年3月から9月25日まで5回にわたって検討会を開いてきたものだ。

 自家採種(自家増殖)というのは、たとえばイチゴの場合は苗を10本とか15本購入し、ランナーで芽出しして次の年に植えたりすることだ。イモやサトウキビ、ジャガイモも同じだ。木の場合は接ぎ木する。そのような自家増殖を現行の種苗法では、二一条にあるように、モンサントなどが登録した品種でも、農家は種を買ったら自由に自家採種し、次の年に植えたり、加工することができる。原則自家採種自由だ。

 ただし、第三項に「農林水産省が特例でもっていわば適用しない品目を定めることができる」となっていた。じつは自家採種の禁止は始まっていた。最初はバラ、カーネーションなどの花、その次はキノコ、TPPを批准してからはキャベツ、ブロッコリー、ナス、トマト、スイカ、メロン、キュウリ、ダイコン、ニンジンなど、あらゆるメジャーな野菜や果樹をはじめとする357種類もの植物が指定され、今年新たに野菜のみで31種類指定され、400種類近くになっている。この登録品種を勝手に自家採種したら懲役10年、1000万円以下の罰金で、しかも共謀罪の対象だ。

 ところが、アメリカでも主要農産物の小麦は自家採種が3分の2で、3分の1が公共の種子、カナダは8割が自家採種、2割が公共の種子だ。オーストラリアは95%が自家採種で5%が公共の種子だ。それなのに日本はいよいよ自家採種禁止法案を出してきた。農水省の課長に「コメも麦も大豆も自家採種禁止にするのか。それが本当の狙いで、邪魔だったから公共の種子法を先に廃止したのか」と聞くと黙っていた。ところが検討会のとりまとめ(9月25日)には、わざわざ「これまで種苗法では非常に例外が多くて複雑だったから、シンプルなものにして、一律、自家増殖禁止の条文にしたい」と書いてある。そうすると「あまおう」をつくっているイチゴ農家もこれまでのように増殖できない。苗を1本250円ほどで6000本買わなければいけなくなる。

 検討会でプレゼンをした茨城県の横田農場は、過疎地のため、人に頼まれて耕作面積が増え、今150㌶でコメをつくっている。8品種のコメを作付けしているが、そのうち登録品種だけで7㌧くらい自家採種しているという。コシヒカリなど育種期間(25年)が切れている品種もあるが、まだ切れていない新しい品種(「ゆめぴりか」など)の自家採種をやめて種子を購入すると500万円ほどかかり、「われわれはやっていけない」とプレゼンした。これが民間の種子になるとその10倍=5000万円かかる。ところがこれに一切コメントなしで、自家採種一律禁止という方向で条文にし、来年の通常国会で審議が始まることになった。自民党はどんなことがあってもこの法案を通すとはりきっているという話を耳にし、大変心配しているところだ。

 なぜ自家採種を禁止するのか、その理由として農水省は「シャインマスカットなど日本の優秀な育種知見がそのまま中国や韓国に流れた。これを取り締まらなければならない」という。そのために種苗法を改正して、許諾・承認を得るか、新しく買うかしなければいけないのだという。しかし、海外流出を食い止めるのであれば、宮崎県が種牛の精液が海外流出するのを刑事告訴したように、現行法で刑事告訴すれば足りることだ。海外に出たものを取り締まるには、農水省が海外でシャインマスカットの育種登録もしくは商標登録などをすべきではなかったか。それを怠っていて、政府は「種苗法を改正しなければ海外流出を食い止めることができない」といういい方をしている。

 1週間ほど前に「日本の種を守る会」は農水省の知財課長を呼んで話を聞いた。そこで農水省は「育種権者が第三者、企業にかわった場合、育種権はどうなるか」を説明した。思い出してほしい。農業競争力強化支援法で、例えばマスカットは農研機構の育種知見だが、それらをモンサントなどの民間企業に譲渡するようになっている。譲渡されて育種権者がかわった場合、そこから許諾を得るか、種苗を買わなければいけなくなるのではないか。県民や国民の税金で開発した育種知見を民間企業に譲渡しておいて、農家(国民・県民)が使うときには民間企業にロイヤリティを払わなければ許諾するわけはないだろう。県や国であれば許諾するであろうし、研究者はみんな使ってほしいと思っている。しかし、民間企業は当然、許諾料をとるか、1本ずつ買えとなるのではないか。

 もう一つ、農水省は「これまでの伝統的な固定種をつくっている有機栽培の農家は大丈夫だ。安全だ」と説明している。家庭菜園は私も大丈夫だと思っているが、有機栽培の農家は安心ではない。種苗法二一条では、「登録された品種」と「特性により登録された品種と明確に区別されない品種」も自由に自家採種できるようになっている。野菜は土地と風土、栽培する人や年によって少しずつ変化していくものだ。登録品種であっても変化していくので、今モンサントは子会社を使ってナスやブロッコリー、トマトなど、さまざまな野菜をどんどん登録品種にしている。これらの登録品種と、有機栽培で農家がつくっている野菜のどこが違うのか区別はしにくい。こうして新規の育種登録を次次にした民間企業が、野菜農家などに育種権の侵害として賠償金を求めるようなことになりはしないかと心配している。

 すでに企業から生産者が訴えられる裁判が6件起こっている。モンサントの裁判は有名だが、カナダでは有機栽培の伝統的なナタネ農家がモンサントから訴えられて裁判で負けた。日本で有機栽培をしている農家も、ある日突然、モンサントから20億、30億円の賠償金を請求されることもあり得る。実際、今度の種苗法の検討会でリードしたのは知的財産権ネットワークの弁護士だ。日弁連の雑誌にも、「これからは育種権の争いが論点になってくるだろう」と書かれている。

 農水省の知財課長の説明では、こうした争いになった場合、裁判所は育種登録した品種の現物と、農家がつくっている作物の違いを求めようとするという。しかし、実際には登録したモンサントの野菜の品種も変化してくるから、その特性を6項目くらい法制化し、それに反したら育種権違反だとやれるよう改正案を準備しているという。これはモンサントなど種子企業が裁判で争えるように改正する内容だ。

 アメリカで10年ほど前に自家採種禁止法案が通ったときも、「伝統的な固定種を栽培している有機栽培農家は安全だ」と説明していたが、今は本当に伝統的な有機栽培農家も種子を買わなければならなくなり、事実上、自家採種禁止になってしまった。このことはエップ・レイモンドさんの米国からの報告に詳しく書かれている。決して有機栽培農家、自分で種とりをして伝統的な固定種を栽培している農家も安心ではない。今度の種苗法改定案はどのようなことがあっても反対しなければならない。

 種子法が廃止されたとき、農水省は自民党議員のところを「種苗法で守る」といって回った。ところが種苗法改定で自家採種を禁止し、コメも麦も大豆も、すべての種を買わせるのが狙いだった。アメリカもそうだったが、国家は嘘をつくものだ。

 私たちは裁判でも争っているが、今後は広島県のジーンバンクのように伝統的な固定種を県が発掘し、それを保存・管理することが大事になってくる。広島県はそれを農家に無償で貸し出している。福岡県でもそのような条例をつくって、企業や民間や県も出資して公社をつくり、守ることが必要になってくる。

日本の経済、地域の経済を発展させていく施策

 種子条例は、九州では宮崎県が1番につくり、今、熊本県が種子条例のパブコメで骨子案を発表した。鹿児島県知事もつくることを表明した。この前の議会までに11の道県でできたが、新しく栃木が先日採決し、宮城県の種子条例もパブコメをした。島根県も種子条例をつくることを発表し、岩手県は議員提案でやることが決まった。滋賀県もやる。年内にだいたい16の道県で種子条例ができそうだ。秋田、青森なども動き出しているし、福島も動き出した。来年度までに26の道県で種子条例ができるのではないかと思っている。

 種子条例ができる一つのきっかけは、市町村のみなさんが動き出したということだ。1番最初につくった新潟県では、柏崎市が日本で1番最初に種子条例の制定を求める意見書を出した。県内各市町村で動き出し、それをもとに新潟県がつくり、兵庫県、埼玉県、山形県というようにどんどん動いてきた。



 地方分権一括法では、国が地方自治体に指揮命令することは一切禁止している。国が地方にいえるのは単なる通知だけだ。通知は法律的にいうと「技術的助言」に過ぎない。法律に反しない限り地方自治体は何でもできるのだ。今治市は食と農の条例をつくった。「遺伝子組み換え農産物はつくらせない」という条例だ。もし市長の承認なくつくれば、2年間の懲役、500万円以下の罰金など、非常に厳しい内容だ。この町で「ゲノム編集のものは表示なくして流通させない」といった条例に刑罰まで定めてつくることができる。韓国は学校給食を条例で全部無償でやっているが、おそらく日本でも学校給食を有機でやる市町村が出てくる。世田谷の区長は無償で学校給食を始めた。同時に今、有機でやろうと真剣に考えているところだ。千葉県いすみ市の学校給食はコメは有機100%だ。普通入札で60㌔1万3000円くらいだが、2万円で買い、差額を市が補填している。

 じつは安倍官邸が悪いといっている時期ではない。農薬から自家採種禁止まで大変なことになろうとしているが、私たちの暮らしは自分で守るしかない。そして自分で守ることができる。住民には請願権が認められている。知っている市会議員や町会議員を通じて、この町で学校給食を有機農産物でやるという条例案を審議してくれという請願を出すと市町村議会はそれを審議しなければいけない。次次にそういったものを出していくことによって地方から変えていくことができる。今、自分が動けば何でもできる。私たちが主役だ。


 2016.6.22日、「タネが危ない!わたしたちは「子孫を残せない野菜」を食べている。~野口のタネ店主 野口勲さん」。
 世界の人口が70億人を超え、膨大な人口を限られた資源で支えるためにさまざまな品種改良や農薬や化学肥料の開発、生産方法の開発が行われてきました。その究極とも言えるのが作物の遺伝子や種子に手を加えること。いま世界の農家で使われているほとんどのタネが「F1」と呼ばれる一世代限りしか使えないタネ。そしてF1の中でもオシベがない「雄性不稔」と呼ばれる、生物学的には異常なタネが増えていると言います。食糧生産の効率化のために増え続けるF1のタネ、その一方で私たちの食の安心や安全への意識は高まっています。このジレンマをどのように解決すればよいのか。著書や講演でF1種子の危険性を訴え、在来のタネを守る活動を広めている「野口のタネ」店主、野口勲さんにお話をお聞きました。
 <プロフィール>
 野口のタネ・野口種苗研究所代表 野口勲さん
 1944年生まれ。全国の在来種・固定種の野菜のタネを取り扱う種苗店を親子3代にわたり、埼玉県飯能市にて経営。伝統野菜消滅の危機を感じ、固定種のインターネット通販を行うとともに、全国各地で講演を行う。著書に「いのちの種を未来に」「タネが危ない」、共著に「固定種野菜の種と育て方」等。家業を継ぐ前には、漫画家・手塚治虫氏の「火の鳥」初代担当編集者をつとめた経歴を持つ。
 野口のタネ・野口種苗研究所(http://noguchiseed.com/
 おいしさの8割はタネで決まる

 現代の農業では、おなじ規格のものを大量に作ることが農家に求められています。そして、規格通りの野菜を作るためには「F1」のタネを使わなければならない。「F1(雑種第一世代)」のタネから育った野菜は、みんな同じ成育のしかたをし、型にはまったようなかたちになり、そして同じ時期に収穫できます。つまり、出荷しやすく、売りやすいということです。

 一方で「在来種」や「固定種」と呼ばれる、昔から使われているタネは一粒一粒に特徴があり、多様性があり、早く育つものもあれば遅く育つものもある。葉の形を見たり、成育の状況を見ながら、大きくなったものから収穫します。一度タネをまけば長い間収穫できますが、需要に合わせてまとまった量を定期的に出荷することができないから、お金にするのは難しい。でも味も昔の野菜そのままで美味しいので家庭菜園に向いています。そして、いくら無農薬や有機肥料で育てても、味を決める8割はタネ、本当に昔ながらの美味しい野菜を食べたいなら在来種を自分で育てるしかありません。

 だから私は家庭菜園のタネの店として在来種や固定種を売っていて、買う人もほとんど個人の方です。あくまでもタネを売る店で、育てるのはお客さんなんですね。講演会をやると7割以上の人が30代〜40代の女性ですが、質疑応答の時間になって必ず最初に受ける質問は「そんな野菜はどこで買えるんですか?」と。だから私は毎回「買えません、自分で育ててください。」と言うんです。実際、固定種の栽培は都内でやるほうが向いています。

 なぜかというと日本の野菜はアブラナ科のものが多くて、かぶ、なっぱ、大根など交雑しやすいんですね。自家採種、自分でタネ取りするためには混ざりやすい野菜から隔絶した場所でやらなければならない。都内は畑がないから種採りするのがラクなんですよ、そばに同じような野菜がないから。そもそも、最近のF1野菜は花粉ができないから交雑しない、種を汚染しないのですが。タネ取りを都内の庭や畑でやるのはオススメできます。

 ただ、F1野菜はいまの社会に必要なんですよ。昔は日本の8割の人がなんらかの農業をやっていました。お侍だって自分の畑を耕して野菜を育てていました。それがどんどん工業化が進み、高度成長期になると農村部に残って食べ物を育てる人が少なくなった。いまの日本では、215万軒(H27時点、農水省統計)の農家が1億2000万人の食べ物を作っているわけです。だから効率が良くないといけないし、周年栽培(1年中栽培すること)して供給しなければならない、だから社会全体の食の需要を賄うにはF1のタネが必要なんです。

 ただ、そのF1の作りかたにもいろいろあって、人工授粉でやっていた時代や、アブラナ科の自家不和合性(自家受粉しない性質)を利用してやったり、自然の植物が持つ特性を活かして作られるF1に対しては、私も反対なんてしてなかったのですが。いま、どんどん雄性不稔」というオシベを持たない異常な株を利用して作られたタネが増えて、花粉ができない、子孫ができない、そういう野菜が増え続けていて、これが危険なのではないかと訴えている、危惧しているんです。

 オシベがない、タネができない「雄性不稔」

 雄性不稔を使ったF1の技術はアメリカでできたもので、それがいま世界標準になっています。もともと日本にあったF1のタネはアブラナ科の野菜から作られていました。しかしアブラナ科の野菜は海外にほとんどないんです。菜っ葉なんて食べているのは日本、韓国、中国くらい、欧米ではあまり食べないんです。

 日本独特のF1技術というのが自家不和合性というもので、これを日本で採種していたときはよかったんだけど、タネ取りをする農家がいなくなって、F1の需要が増えて、それだけの量を日本で生産するにはコストが見合わなくなった。

 だから父親と母親のタネの原種を渡して、採種をほとんど海外に任せるようになった。でも海外では母親を雄性不稔にして花粉のでない株をつくり、それを使ってタネを作るようになった。いま日本のタネがどんどん雄性不稔に変えられているんです。日本人の主要な食べ物である菜っ葉などが雄性不稔になって、それを日本人が食べるということ。だから私はいま危機感でいっぱいなんです。

 雄性不稔の野菜かどうか、スーパーに並んでいるものを見てもわかりませんが、花を咲かせればすぐにわかります。試しに、スーパーで売っている大根やニンジン、タマネギなんかを庭に植えてみてください。やがて花が咲きますが、その花の先を虫眼鏡でよく見るとオシベがありませんから。オシベがない野菜ばかりになってるんです。つまり子孫を残せない野菜ばかりを食べてるんです、私たちは。それは危険なんじゃないのかと。でも誰もそんなこと知らないし、知ってるのはタネ屋だけだけど、タネ屋はそんなこと何も言わない。だからだれも知らないんです。もし私が死んで、こういう固定種や在来種のタネを扱う店がなくなってしまったら、もうどこにもなくなってしまう。だから今のうちに私のところからタネを買って、自分で育てて、それを子孫に繋いでくれ、と言って回ってるんです。

 誰もタネを採らなくなった

 いまうちで販売しているタネも、どんどん種類が減ってきています。日本の菜っ葉は交雑しやすいので、すべてのタネを一カ所で自家採種することは難しい。例えばうちはカブのタネを採ってるんですが、カブをやると菜っ葉のタネは取れないんです。みんな交雑しておかしくなっちゃうから。菜っ葉の下がカブになってしまったり、カブの葉っぱが小松菜になっちゃったり白菜になっちゃったりするから。だからカブ以外のタネは他所から買うしかないんです。だからどんどん減ってるんです。

 タネを採る人がいなくなったから、タネもなくなってきているんです。タネは採るものじゃなくて買うものだという時代になってしまったから。いまタネ採りの仕方を知っている農家は、80~90歳くらいの人だけ。その下の世代の50~60代の人たちはタネを採るなんて面倒くさい、それよりも買った方が安いし楽だしお金になる野菜ができると考えています。

 タネを採るためには9月にタネをまいて、12月にだいたい野菜ができる。そのなかからいいものを選んでもう一度植えて、そして3〜4月に花が咲いて そのタネを採れるのが7月になる。一枚の畑をそれだけの期間占領してしまうんです。でも今の農業は同じ畑をいかに回転させて効率よくお金にするかという農業だから、半年以上ムダなことに畑を使うなんてもったいないという考えなんですね。

 だから僕の話を聞いたり本を読んだ人から「種採りをしたいんですけど、どうすればよいですか? 採るのは難しいですよね?」とよく訊かれるんですが、難しいことなんてないんです。植物は人間に食べられるためじゃなくて、自分の子孫を残すために生きてるんだから、ほっとけばみんなタネになるんです。

 昔は世界中の何億人という農民がみんなやってきたことなんです。それが昭和30年代後半くらいからF1のタネができて、形のいい揃いのいい市場で売れやすい野菜ができるというので農家がみんなよろこんで買って、そしてタネを自分で採ってみた。すると先祖帰りしてしまって、次の代ではめちゃくちゃなものしかできないということがわかった。そこからタネはもう採るもんじゃない、買うもんだ、ということになってしまった。昭和50年代くらいからタネ採りをする農家はなくなってしまいました。

 日本のタネは外国製?

 大手の種苗会社はF1か雄性不稔か自家不和合性かなんて言う必要がないから自分からは言わない。雄性不稔か自家不和合性かなんて訊いても絶対に教えてくれない。JAで売られているのもほとんどF1で、しかも古いタネです。そして、いまのF1のタネはほとんど海外採種になってしまいました。海外から入るF1のタネと国内で採る固定種のタネの値はそんなに変わらない。海外の方が安く入る場合もあります。

 昔は海外の種採りメーカーも、1エーカー作らせてくれたら何でも採りますよ、ぜひ依頼してくださいと言ってたのが、いまでは5エーカー作らせてくれないと採ってやらないぞ、ということになってきて、5エーカーというと2町歩、2ヘクタールのタネというと何トンもの量になる。それが海外でできると、アメリカやイタリアなどの北半球では日本と同じように7月ころにタネが実って、それが船に乗って日本の神戸か横浜について、港の植物検疫所で菌や虫の卵が付いていないか検査されて、そのあと日本の種苗会社に入ってくるわけです。

 昔の種苗法という法律では、採取年月を表示する義務があったんですが、海外採種のタネが日本に入ってくる頃には蒔き時を過ぎるので、古いタネを次のシーズンに売ることになってしまう。そこで農水省と大手種苗会社で相談をして、最終発芽試験から1年間有効という表示に法律を変えてしまった。そのために、何トンというタネが、採取から半年後に日本に入ってきて、農水省が何億もの補助金を出して作った種子貯蔵庫に保管する。

 その中に入っている限り発芽率は落ちないという前提で、温度は15℃以下で湿度が30%以下、タネの保存に最適な環境を作り出す。タネは呼吸しているから、梅雨時から真夏にかけて呼吸作用が増えて体力を消耗して、夏を過ぎるころにはガクンと発芽率が落ちてしまう。ところが、湿度温度が一定のところで保管すると発芽率はそんなに落ちない、5年経っても10年経っても。農水書の決めた標準発芽率をクリアしている限り、いつでも新しいタネとして売ることできるんです。

 「タネなし」を好む現代人

 うちのお客さんは大きく二つのピークがあって、ひとつは70代から80代の方。会社を定年退職して、いままではスーパーで買っていた野菜はどうも美味しくないから、自分で有機栽培して、昔に食べたおいしい野菜を食べたいと思って栽培を始めたけどどうも昔の味にならない。理由を調べると、やっとタネが違うからだということに気が付いて、うちから買うようになった人たち。もう一つは30代から40代の方で、子供が生まれて、健康に育てたいという人たち。その間のお金を稼ぎたい年代の人たちは一切興味がない。

 いまの人の「美味しい」は、甘くて柔らかいもの、生で食べられるもの。昔の大根なんて堅くて辛い。なぜかというと細胞のひとつ一つが緊密で均一だから。F1だと固定種で3〜4ヶ月かかるところを2ヶ月で収穫してしまう。2ヶ月で成育するということは、細胞が水ぶくれのようにフニャフニャで、その細胞を維持するために細胞壁が強くなって根が崩れるのを防ぐ。だからいまの大根を大根おろしすると水分でペチャペチャものが出てきて、おろし金の方には繊維が残って付いている。昔の大根をおろすと均質なものになります。いまの大根はすぐに煮えますが、昔の大根は時間をかけると辛みが甘味にかわる、味も全然違うんです。

 いまの子供はトマトにタネがあるのも嫌がるという。タネがないものがおいしい野菜なんです。子供がよろこぶからという理由で、トマトまで雄性不稔になっています。本来植物は人間に食べられるために生きてるんじゃない、タネをつくって子孫を残すために生きている。そのタネを邪魔だというような世の中になってしまったんですね。

 植物以外にも広がる「雄性不稔」

 クロレラ工業という会社が私の講演会を主催してくれたのですが、彼らから面白い話を聞きました。種無しぶどうは花が咲いたらジベレリンという植物ホルモンにどぶ漬けして、ホルモン異常を起こすことでタネをできなくするのですが、その種無しぶどうにクロレラを散布するとタネが復活するというんです。要するにクロレラの持っているミトコンドリアがタネをつくれるように修復するんだね。雄性不稔もミトコンドリア異常によって起こるものなので、ミトコンドリアの力が強いタネのちゃんとした野菜を食べていたら、人間の無精子症のようなことにも効くのかもしれないと思っています、まだ証明されたわけじゃないのですが。

 関連する話で、世界的にアメリカで特に問題になったミツバチの大量死の問題があります。原因はネオニコチノイドを使った農薬だと言われていますが、他に原因があるのではないかと私は思っています。日本で起きたケースでは、蜂の死骸が巣箱のまわりに積み上がっていて、ネオニコチノイド農薬をなめた蜂が巣箱に帰るまでにバタバタと倒れたということが想像できますが、アメリカのケースでは「いないいない病」と言われていて、死骸がどこにもない。昨日まで大量にいた蜂が突然巣箱から消えた。

 これが2006年から2007年に起こって、全米で飼われていた240万箱のミツバチの巣箱のうち、3分の1の巣箱が空になってしまった。養蜂家で生物学者の方によると、これに似た現象が20年に一度づつ繰り返し起きているという。ということは1990年代に住友化学が作ったネオニコチノイドが原因ではないことになる。

 1960年代に初めて起き、そこから20年前に何らかの原因が作られたと考えると、1940年代、まさにその時に世界で初めて雄性不稔、つまりミトコンドリア異常のタマネギのタネが売り出された年なんです。雄性不稔の母親に対して、オシベのある父親を3:1で植え付けて、雄性不稔のF1種を大量生産するのですが、その受粉にミツバチが使われているんです。

 女王蜂は2年生きるのですが、全部メスの働き蜂と雄蜂は1年しか生きない。雄蜂は精子を提供するだけの目的で、女王蜂に精子を出した瞬間に即死します。巣箱に残っているオスは、自分ではエサをとる事のできない、なまけものの「ドローン」のオス蜂なんです。これが秋になって冬が近づいて花がなくなると、メスの働き蜂から巣箱を追い出されてしまう。自分で蜜をとる方法を知らないオス蜂は、そのままのたれ死にする。

 冬になると巣箱の中は何万の働き蜂と女王蜂、メスだけになる。2月くらいになって花が咲き始めると、働き蜂の偵察隊が外へ出て行って最初にとった蜜をローヤルゼリーにして2年目の女王蜂に与える。女王蜂はその刺激で卵管が開いて、また卵を産み始める。そこで生まれた卵が次の女王蜂と、雄蜂と働き蜂になる。

 2006年から2007年にかけて蜂がいなくなったということは、冬から春になる時期というのは、メスだけのコロニーになった巣箱に、待望の雄蜂が生まれたときなんですね。20年に1度起こるという事は、女王蜂でいうと10世代。この間で女王蜂に蓄積された何かが原因で、10世代目の女王蜂が生んだ雄蜂が、無精子証になって生まれたんじゃないか、もしそうだとしたら、もうその巣箱には未来がない。

 ミツバチというのは500万年前に進化が止まっていて、その間ずっと同じ事をやってきた。しかし20年に1度づつ、何が起こったかわからないけど、精子を持たないオスが生まれてしまった、巣の未来がなくなった。種を残すというアイデンティティを失ったメスのミツバチたちが未来に絶望してどこかへ飛んで行ってしまった、そういうことが起こったのではないか、というのが僕の仮説です。こんなことを言ってるのは世界中で僕一人なんですが…。

 人間のタネは大丈夫か?

 これは人間にも起こりうる話で、精子の数というのは1940年代に最初の統計があるのですが、この時期に人間の精子1cc(ml)あたり平均1億5000万いたそうです。しかし、いまは4000万、しかも年々減り続けています。これが2000万以下になると、無精子症と呼ばれるレベルで、性交しても自然には受精させることができない。

 無精子症はミトコンドリアの異常で、精子の尻尾の付け根にはミトコンドリアが棲んでいて、尻尾を振るエネルギーをミトコンドリアが作っている。これによって精子は自分で卵子に向かっていく。この運動量、睾丸で生まれて卵子に辿り着くまで、人間のスケールに直すと100km、だいたいマラソンを2回走るくらいのエネルギーを尻尾の付け根にいる100匹くらいのミトコンドリアが生んでいるんです。

 そのミトコンドリアの力が弱くなってる、精子が泳ぐ事もできなくなってる。いまの人間の精子を顕微鏡で見るとノタノタしていますね。牛の精子を選んで人工授精をしている人によると、人間の精子なんてもうほとんどが牛だったら使えないレベルだそうです。これは食べ物からきてるんじゃないでしょうか?

 もともと動物は脳を持っていなくて腸で全て判断していました。だからクラゲのような腔腸動物には脳がなくて、腸がその役割をしています。食べたものを腸で判断して、その中で大事なものを次世代に残すために生殖器官へ渡す。人間の精巣や卵巣が変化しているのも食べたもののミトコンドリアに原因があるのではないのかと思っているんです。動物が最初に目を持ったのは、腔腸動物のような生き物が植物プランクトンを食べて、その光を感じる遺伝子を生殖細胞に取り込むことで初めて目を持った。食べたものが子孫を変えていくんです。

 種を未来に残すために

 雄性不稔のタネと同様に、安全性に疑問を持たれていたのが遺伝子組み換えのタネですが、こちらはあまりにも消費者から評判が悪くなってしまって、ヨーロッパの方ではもう遺伝子組み換えのタネを受け入れている国はスペインだけになってしまいました。それでモンサントのような巨大タネメーカーも遺伝子組み換えからは手を引き始めています。アフリカの貧困国の援助のためだけにタネを作っていてもしょうがないということで。

 最近モンサントが新たにはじめたことが、日経サイエンスでは「組み替えなしで高速育種」、WIREDでは「完全野菜」というタイトルで紹介されています。これからはこれだと、モンサントが一生懸命進めようとしているのですが、交配技術で作るということは雄性不稔で作っているのではないかと。ミトコンドリア異常で子孫をつくれない野菜を交配してできたF1の野菜を完全野菜と称して世界中にばらまこうとしているのではないかと懸念しているんです。

 タネが採れないということは、タネを盗まれないということ。自社の技術を独占できるということなんです、こんなに簡単なことはない。遺伝子組み換えというのは花粉にまで遺伝子が含まれていますから技術を独占できない。誰かがタネを採ろうと思ったら取れてしまう、だからいまは特許で縛っています。でも雄性不稔にすれば、花粉そのものがなくなるから、タネが盗まれる心配はない。タネさえ持っていれば独占できる、大もうけできるわけです。

 昔は世界で何億人もの農家たちがみんなタネ採りをやっていたから、タネを支配しようなんてことはできなかった。しかしタネは買うものになったら、種苗会社を吸収してどんどん大きくしてモンサントみたいな巨大企業になってタネを独占すれば世界の食糧を支配できる、つまり世界を支配できるんです。

 私もよくタネ屋なのになぜ自家採種をお客さんに勧めるんですか、と聞かれるんです。タネを売って儲けるだけなら、こんな商売はしていません。自家採種して一軒だけでも自分の家族は健康に育てたいとタネを採ってくれていれば、もし世界中のタネがモンサントに独占されたり、そのタネのせいで人類が滅亡するとなったときに、日本中の家庭菜園のどこかに固定種のタネが残っていれば、その健康なタネを元にして、また増やすことができる。もう一度人類を復活させることができる。そのために固定種と在来種のタネの販売を続けているんです。

 タネを残す「ノアの方舟」は機能するか?

 いまビル・ゲイツなどがノルウェー国家と一緒になって「最後の審判の日のための種子」と称して、もしも人類が滅亡するような時があったらそのタネで生き抜こうという目的のためにタネの保管庫を作りました。ところがそれは、零下18度から20度で冷凍保存されたタネは1000年でも2000年でも生き続けるという学術論文に基づいて行われていて、その論文を書いたのが日本の農水省のジーンバンクです。

 ジーンバンクでは1980年代に、このまま雄性不稔のF1が増えていったら日本のあちこちにある在来種が消えてしまうと危惧して、それで日本中の種子屋が協力して種を集めて保存しているんです。そこではただタネを保存しているだけじゃなくて、各県の園芸試験場や育種団体、種苗会社などに新しいタネをつくる素材として譲ることもしています。

 保存庫からタネを出すとき、零下18度からいっぺんに外に出すと体内の水分が膨張してタネの細胞を殺してしまうのでゆっくり常温に戻して、それを数グラム5000円で分けてくれる。しかし、ある種苗会社から聞いたのは、筑波のジーンバンクからF1品種の菜っ葉をつくろうとして十何品種手に入れたけど、芽が出たのは一つだけだったよと。

 理論上は1000年でも2000年も生きてるはずですが、たかだか30年くらいでタネが死んてしまう。要するにタネの持っている生命力、代謝を止められた生命というのはそんなに長く生きるもんじゃないということです。その理論に基づいてノルウェーでやってるんだから、あれはおそらく壮大な無駄遣いになるでしょう。ホームページによると大根だけでも500種類くらい、だいたい1種類500粒くらい、うちで売ってる一袋の分量しか保存されていない。

 筑波のジーンバンクでも最初の理想としては、ただ一カ所に保存するんじゃなくて10年か20年たったら筑波の畑に蒔いて、もう一度タネを更新して、また保存するという決まりでした。いまは委託先の団体がタネの更新をしているみたいですが、それがノルウェーになると氷河の下に穴を掘って保存しているタネ、たかだか一種類500粒くらいのタネを更新しようとしても外は氷の世界だし、ただただムダに保存しているだけだと思いますね。

 タネを残すために、私たちにできること

 一時期のEUではEU内各国で農作物の共通の価格を維持するために、国に承認されたタネしか売買や流通ができなくなり、各国の政府の審査と認可が必要になりました。イギリスだと1品種あたり70万円の認可料で、特にフランスでは勝手にタネを採って流通させたら罰せられるという状況になった。自家採種したタネを交換した罪で多くの農家が投獄されましたが、最近は緩和されたようです。その理由が、認可された新しいタネの野菜より昔の野菜の方が美味かった、流通する品種が減ることは生物多様性の上で問題であると。

 フランスでは4000〜5000人規模の「ココペリ」というタネを交換する団体があり、タネを自由に売買できないので、会員制の組織を作って年会費を払って、カタログに載っているタネを会員が無料でもらえる仕組みができました。育てた野菜は流通させずに自家消費して、採ったタネをまた会に送り返す。そのようなやり方で多様性が維持されています。

 植物というものは本来変化していくべきものなんです。生命にとって「変化」は重大なテーマで、環境が変わったら自分も変わらなければ生き続けられない。植物というのは自分で歩けないので、根が生えた世界を生きるしかない。人間にとって神経や脳にあたるような思考する器官、自分の育っている環境を判断する能力は根の表面にあって、根を張ったその土地に合った子供をつくって、それが花を咲かせて、また同じ土地に落ちてまた育っていく。その土地の環境にあった体に変わっていくんです。自家受粉性の植物でも土地が変化すると、土地に合わせてどんどん変わっていきます。だから人間が品種を変えるまでもなく、植物自身が変わっていく力を持っているんです。

 私はタネ屋を継ぐ前、手塚治虫の漫画編集の仕事をしていました。彼のテーマ、作品の根幹は生命。命をつなぐこと、地球の環境と生命を持続させることでした。このタネ屋のテーマも同じです。このままだと世界はお金持ちや大企業の思う方向に進むだけであって、その中で私たち個人が生き延びるためには、自分でタネをまいて野菜を育てて、それを食べて、自分でタネを採って、それを自分の子供につなぐしかないと思っています。

 それをやるかやらないか、それはあなたがたの問題です。うちはタネを提供するだけです。そして一度買ったタネは二度とうちから買わないでほしい、タネをちゃんと採って欲しい。あなたの土地に合ったタネを育てて欲しい。それが野口のタネの営業方針です。

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(私論.私見)