2006.04.20  筆坂英世「日本共産党」

れんだいこのカンテラ時評その160 れんだいこ 2006/04/20
  【筆坂秀世著「日本共産党」】
 れんだいこは、「左往来人生学院掲示板」での2006.4.17日付投稿「れんだいこのカンテラ時評第159」で次のように記した。
 こたび筆坂が興味深そうな暴露本を出版したようである。宮顕がどう不破がどうというより、自身が参席した幹部会の会議の様子をこそ明らかにさせるべきであろう。左派運動の指導部としては凡そ不具合な陰険謀議にうつつを抜かしていただろうと思われる。

 早速書店に行き、筆坂著「日本共産党」(新潮文庫、2006.4.20日初版)を購入して中身を確認した。れんだいこの予想通りの日共党中央の腐敗を内情暴露しており、いわば内部告発本となっている。(実際には筆坂は離党しているので、正しくは内部告発というより内情告発と云うべきだろう) 筆坂は、日共党中央からの迫害が予見される危険を顧みず、何故敢えて我が身に引き受けたか。ここに関心がもたれる。

 れんだいこは、次のように推理する。その1の理由として、筆坂は、宮顕ー不破ラインの不倒翁執行部による党中央の腐敗が一般に予想されている以上に酷いものであり、自身の人生の過半を投じた党活動履歴の自負に賭けてこれを告発せざるを得なかった。その2の理由として、宮顕ー不破ラインの不倒翁執行部の腐敗は、もはや自浄能力を欠いているどころか養分を吸い尽くした後の立ち枯れ木状態にあり、むしろ筆坂の駄目押しを期待していると読んだ。その3の理由として、その2に関連して、党中央にはもはやかっての宮顕御用的特務機関の威力が無く、彼らも党中央の腐敗を持て余しており、故に迫害されない。迫害されるほどの力が無い。

 筆坂は以上のいずれかの読みから「日本共産党」を出版したものと思われる。れんだいこに云わせれば、筆坂の告発は、党中央に居合わせた者からの宮顕ー不破ライン執行部の際限の無い腐敗暴露という点で希少価値がある。その威力は、袴田の「昨日の友へ」以来のものであろう。袴田が宮顕を、筆坂が不破を告発したことになる。願うらくは、筆坂は、知りえた情報をもっと公開し、歴史に遺さねばならない。それは、党中央潜入スパイ派の実態を暴露する意味で貴重なドキュメント証言となろう。

 彼らは、能力の不足により党指導を歪めたのではない。党の換骨奪胎を狙う異分子故に能力を党指導を歪めるように使う。御身保全だけでは理解できない数々の反革命的悪行に手を染めている。筆坂が暴露すればするほど、れんだいこのこの指摘の正しさが確認されることになるだろう。故に、筆坂は口封じされる運命にある。永遠にか金銭でか、それは分からない。

 筆坂の告発は、日共の現綱領、現路線を概ね肯定的に捉えた上で、派生的腐敗を告発するというスンタスに特徴がある。故に、不破ー志位執行部は逆に反撃し辛(づら)い。党内事情の酸いも甘いも、手の内を知り尽くした相手であるだけに、これまでと同じような批判を浴びせる訳にはいかない。そういう意味で、当面様子見の黙殺以外に手の施しようが無いと思われる。

 れんだいこの診るところ、筆坂の政治能力は宮顕ー不破イデオロギーにかなり深く洗脳されており、その分詰まらない。如何にうまく使われ、使い捨てにされたのかの両面に於いて、使い捨てにされたことによる反発から事を為している様子は伝わるが、如何にうまく使われたのかの分析がまるで出来ていない。

 筆坂が正気に戻るにはもう少し日数がかかるのかも知れない。付言すれば、かっての新日和見事件の被害者達の心情もそのようなものであった。彼らは決して日共の路線批判にまでは向わない。その分物足りない。

 以上が、筆坂の内情告発に対するれんだいこの総合感想である。以下、個別に検討してみたい。

 まず、宮顕観について見ておく。筆坂は次のように述べている。
 「あの戦時中の過酷な弾圧下で、12年間も牢獄につながれながら非転向を貫いた宮本氏は、私たちにとっては次元が違いすぎて憧れることすら憚られるほどの大きな存在であった。私が日本共産党に入党して以降も、『仮に宮本さんのような弾圧を受けたら黙秘で頑張ることができるか』と自分に問いかけ、到底その自信がない自分に恐れおののいたものである。戦後、今の共産党の路線をつくりあげたのは、間違いなく宮本氏の卓越した政治的眼力とリーダーシップであった」。

 「筆坂の宮顕観」は、拵えられた通説に過ぎない。れんだいこは、宮顕論でそのウソを告発し抜いている。にも拘わらず何の弁証も無くこれを無視し続け、通説の俗説に固執するのはいわば「サバの頭」を信仰しているに過ぎない。そう思いたい故に我はそう思う、という手合いに漬ける薬は無いので処置無しと云える。

 れんだいこ史観によれば、宮顕が「12年間も牢獄につながれながら非転向を貫いた」という神話自体のウソさ加減に思い至らない頭脳では政治指導者としてそれだけで失格であろう。逆に、「即時虐殺された幹部が居る中で、何故宮顕だけが非転向を貫けたのか」を問うことこそが事態の核心に迫ることのできる道である。

 実際には、数々の資料と証言を付き合わせれば、宮顕は監獄内で放し飼い状態にあり、特段の拷問も受けていないと理解すべきである。従って、「仮に宮本さんのような弾圧を受けたら黙秘で頑張ることができるか」などと問い、恐れおののく必要は無い。「黙秘で頑張ることができる」などという事は在り得ない。それが在り得たという事は、宮顕と当局が共同して拵えた神話であり、ここに疑惑を持たねばならない。

 何なら、当時の特高の誰それに確認すればよかろう。「当時、黙秘で、取調べを頑張り通すことが出来ましたか」と。れんだいこの結論は「有り得ない」。故に、それを在り得たとするのは、陰謀により生み出されたフィクションでしかない。

 故に、筆坂の「宮本氏の卓越した政治的眼力とリーダーシップ」を高く評価する見識もいただけない。実際は、日共を今日の如く役立たずにしてしまった路線を敷いた張本人であり、それも意図的故意に「闘う日共解体戦略」に基づき持ち込まれたものに過ぎない。もうこれぐらいにしとこ。

 次に、筆坂が、数々の疑惑追及につき国会で追求したことを次のように自画自賛している。
 「田中金脈事件、ロッキード事件、KDD汚職、KSD汚職、内閣官房機密費問題、ムネオ事件等々、日本共産党が抜きん出た調査力を発揮した汚職・腐敗事件は多い」。

 筆坂が思いつくままに挙げた「日本共産党が抜きん出た調査力を発揮した汚職・腐敗事件」は曲者である。れんだいこの観るところ、日共の疑惑追及は背後で操作されたような訴追の仕方が多く、むしろそこをこそ詮索すべきであろうに、筆坂は今に至るまで無自覚なようである。

 時に特ダネを飛ばすが、不自然に入手された特ダネが多い点を気にかけるべきだろう。特に、政府自民党内のタカ派とハト派の抗争に於いて、専らハト派の不祥事追求に精力的になる癖の原因を解明すべきだろう。中曽根ー小泉系譜のシオニスタン系タカ派の汚職・腐敗事件例えばFX選定事件、ダグラス・グラマン事件、リクルート事件等々に関して、誇るほどの訴追をしなかった原因をこそ探るべきだろう。

 筆坂はその他、幹部会、党財政、政党助成金、民主集中制、党勢拡大運動、選挙総括、党内選挙、党内人事、党指導部、党員、拉致事件、自衛隊、皇室、民主連合政府等々に関わる諸問題での党中央の対応を批判している。それぞれの論点を列挙すればキリが無いので割愛するが、宮顕ー不破ー志位党中央の恐るべき空疎な指導ぶりを明らかにしている。

 要するに、「至らない者が至ろうとして生起させた諸問題ではなく、党中央が党をわざと至らせない為に仕組んだ数々の不祥事問題」として受け止めない限り理解できない、ということである。ここを見抜かずにマジメそうに注進する者が後を絶たないが、党中央は分かった上で意図的故意にやっているという認識に立つ必要がある。たとしたら、注進者より役者が上ということになろう。このことが分からない下手な役者の正義ぶりが多過ぎる。

 2006.4.20日 れんだいこ拝




(私論.私見)