厳しく批判しておこう。以下、彼の主張と私の反論である。
===== 原発と原爆はまったくの別もの =====
これは原子力産業のすり込みである。原発と核兵器は全く別物であるかのように信じ込ませ、その裏で高純度のプルトニウム、ウランを生成し、核武装を目論んできたのが現実である。ウラン、プルトニウム(MOX)がわずかにしか含まれていなくても、ビルを吹き飛ばすぐらいの爆弾ができることを、3号機の爆発は証明した。テロリストが核燃料を手にいれれば、あのぐらいの爆発を起こすことは簡単であり、取り返しのつかない汚染が広がり、相手に致命的な打撃を与えることができる。原発や核燃料を世界に輸出するなど狂気の沙汰である。
===== 核は人間に制御できる =====
制御できないからこそ、チェルノブイリも福島第一も大爆発し、汚染された広大な土地は何百年も放置するしかない状況におちいったのだ。何百メートルも地下に沈降した溶融燃料をどうやって回収するのか。核が制御できるというのなら、責任をもってその方法を明確に提示すべきだろう。
===== 原発の安全性を証明する事件になるはずだった =====
原発の安全性は皆無であるという厳然たる事実を証明した事件であった。原子炉が止めることに成功したというが、その後、冷却できず、原発としては最悪のメルトダウン・スルーを起こしたので、安全に停止したとは言えない。論外である。
===== 福島の事故は電源さえ確保できていれば問題はなかった =====
デタラメである。地震で主蒸気系配管が破断したのは作業員の証言から明らかである。また津波で取水ポンプが流されてしまった。電源が無事でも冷却用の水をくみ上げることができず、やはり炉心溶融を起こしていたはずだ。
===== 事故を起こしたのは古い型の原発で、第3世代以降の新型原子炉は絶対安全だ =====
聞きあきた。原子力ムラのいつもの言いわけである。第3世代原子炉AP1000は福島原発事故以前の設計で、全く福島の教訓は活かされていない。第4、5世代も単なる夢物語、開発費用も技術も現在の原子力業界にはないし、安全性が向上するという保証も全くない。そもそも、古い型の原発の問題を改良、解決するだけの技術力がなければ、いくら新規に設計したところで、安全な原発ができるわけもない。原発は事故の現場検証をして設計にフィードバックできないから改良は不可能だし、安全性の検証も不可能だ。自動車のように衝突試験をするわけにはいかないのだ。目新しいアイデアを持ち込んで安全だ安全だと言っているだけで、何の科学的・技術的裏づけはない。新型世代の原子炉が爆発したら、それは古い型だからで最新鋭の原子炉は爆発しないとまた同じことを繰り返して言うのだろう。詐欺師と同じだ。第1、2世代の原発が危険であることを認めるなら、すぐに全部廃炉にしなければならない。新世代の原発に置き換えるのは、とんでもない金と時間がかかってまず不可能である。
科学・工学技術がわかる人は、人間の築いた技術の脆さや限界を知っているから、絶対に安全だとは口が裂けても言わない。彼のような無知かつ傲慢な人間には、天が怒りの鉄槌を振り下ろすだろう。いや、すでに福島原発事故という恐ろしい罰が下ったのだ。それでも懲りずに再稼働をしたから、まもなく致命的な事故がまた起きて日本は壊滅するだろう。
===== 第3世代以降の新型原子炉では水素爆発は起きない =====
沸騰水型原発の格納容器は、水素が発生しても酸素と化合して爆発しないように窒素で満たされている。それが全く役に立たなかったということだ。福島第一3号機は水素爆発ではなく核爆発が起きた。水素爆発ではオレンジ色の炎もキノコ雲も生じない。科学の常識だ。水素爆発を防げば安全というような単純な問題ではない。
===== 東電ではなくGEに損害賠償を要求すべきだ =====
地震が頻発し大津波に洗われる危険な土地に原発を建てた東電に責任がある。適地に建設すれば、津波にやられることも、1日400トンも湧き出す地下水に悩まされることもなかっただろう。欠陥品を売るほうにも問題があるが、それを選んで建設した買い手、使い手にも責任はあるのだ。そんな責任のなすり合いをやっても何の意味もない。どちらも共犯、同罪である。
===== ロシアは高速増殖炉の開発に成功した =====
商用電気の供給を始めたと実用化できたかのように言っているが、まだ実証炉の段階であり、売りに出せるレベルではない。燃焼させた核燃料以上に核燃料を生み出さなければ増殖炉とはいえないが、それが実現していないから単に高速炉と呼んでいるのだろう。冷却材に金属ナトリウムを使っているから、もんじゅと同様、危険なナトリウム漏れを何度も起こしているし、これからも起こすだろう。ナトリウムは水と爆発的に反応するので、火災が起きても放水できない。爆発事故が起きて、プルトニウムがまき散らかされ、ロシアどころか北半球が壊滅する可能性もある。ロシアの高速炉は、核兵器用の余剰プルトニウムを燃やすのが目的という指摘もある。日本がかつて目指した核燃サイクルとは用途が違うのだ。そもそも、核燃サイクルが完成しなければ高速増殖炉は意味がないが、原子力先進国の英、仏、米が技術・コスト的問題のため完全に断念、日本のもんじゅも死に体である。ロシアと中国は数十年遅れて同じ失敗を繰り返しているだけだ。いずれ使いものにならないことがわかり撤退するだろう。
===== 中国が原発大国になる =====
今や原発を推進しているのは、ロシアや中国など自由な電力市場がなく、技術的に周回遅れの国々だけである。まともな先進国はもう原発に興味はない。撤退だ。事故が起きると国家が滅びるほどの損害を受けることがわかったから原子力を放棄したのだ。だからこそウエスチングハウスは売りに出されたのだ。第三世代の欠陥原発AP1000をパクッただけの中国に優れた技術があるわけがない。ろくな人材も技術もないのに猛スピードで建設、大事故を起こすのは時間の問題である。
===== 各家庭に一台、ホーム原発の実用化が近い =====
爆笑ものだ。ムラの御用学者に吹き込まれたのだろうが、そんなものがどうやったらできるのか、前に座らせて小一時間問い詰めたいものだ。こんなホラ話を信じること自体、彼が原子力というものを全く理解していない証拠である。
===== 原子力の研究は続けるべきだ =====
原子力はお湯を沸かして蒸気の力で発電機を回す。火力と半分は同じである。お湯を沸かすためだけの技術に莫大な開発費を費やすのは馬鹿げている。使用済み燃料を安全に処理するという最重要技術が未開発なのだからお話にならない。原子力の研究は使用済み核燃料処理だけに限り、もっと役に立つ安全な未来技術にお金を費やすべきだ。
===== 長寿命核種を短寿命に変換する技術がそのうち実用化される =====
何十年もできるできると言われてきたが、全く実用化されない。技術的には可能でも時間や費用がかかりすぎれば無意味だ。今どき、こんな夢物語を信じているのは立花隆ぐらいのものだろう。たとえできたとしても、いったん原発が爆発して汚染された広大な土地や海を元に戻すことは不可能だ。
===== キュリー夫人の国、フランスの技術は優れている =====
それほど技術的に優れているのなら、なぜアレバは大赤字で倒産寸前、虫の息なのか。東電は大枚をはたいてアレバの汚染除去装置を購入したが、結局使いものにならず莫大な損失を被った。彼らの技術レベルはその程度である。稼働中の原発はボロボロで事故続き。最近では検査における何百もの不正も発覚している。隣国から危ないから早く止めろと強く抗議されてもいる。このままでは、大事故が起きてヨーロッパが壊滅することは必至である。
===== 太陽光発電は高い =====
太陽光発電はコストが非常に高くつくという認識はもう古い。ハーバード大のデビッド・キース応用物理学教授は、数年以内に太陽光発電のコストは、石炭火力を大幅に下回ると予想している。開発費も人材も乏しい斜陽産業の原子力と違い、太陽光発電は日進月歩であり、効率改善もコストダウンも猛烈な勢いで進んでいる。風力発電もしかり。どちらが最終的に勝利するかは言うまでもない。
以上、彼の原発推進論はせいぜい中学生レベルであり、反論・論破するのは赤子の手をひねるがごとく容易だ。技術に暗い文系ジャーナリストの限界と言えばそれまでだが、あまりにもオソマツである。単なる原子力ムラの受け売りをしているだけで、反対派の意見に耳を傾けることも自分で調査したり考えることもない。夢物語をさも実現できるかのように語るムラの連中も問題だが、それをそのまま信じ込む彼も救いようがない。技術的に可能であることとビジネスとして成り立つことは別問題であることも理解していない。格納容器を三重四重にしたりコア・キャッチャーを設置すればすこしは安全性は向上するだろうが、金がかかりすぎて非現実的である。とても他の発電方式には勝てない。発電もビジネスであり、激しいコスト競争に勝たなければ生き延びられない。だから安全性を犠牲にせざるを得ず、起こるべくして事故が起きたのだ。優れた評論を書いてきた彼がこの程度の浅薄な見解で原発推進を支持することに驚くが、ふり返れば、彼の科学ジャーナリストとしての仕事は提灯記事ばかりで、間違いや断定が多く、とくに理系の人間から厳しい批判を浴びてきたことも事実である。
彼には科学技術に対する懐疑心が一切ない。何か問題が起きても、科学の進歩により解決されると堅く、堅く妄信している。その信仰心の強さは異様であり、もはや科学礼讃カルト教とでも呼んだほうがよいぐらいだ。彼は「遺伝子組み換え食品は安全だ。僕は進んで食べている」と公言している。 そんなものを食べているから膀胱がんになったのだろう。一家に1台ホーム原発などと大真面目でバカなことを言うところをみると、脳にもがんが転移しているのではないか。
薬には必ず効果と副作用があるように、科学技術にも必ず長所と短所があり、短所をきちっと検証・批判しなければジャーナリストとして失格であり、単なる政府・企業のPR・宣伝係と言われても仕方があるまい。彼の科学に対する姿勢は、科学万能、ばら色の21世紀を夢見た50年前の小学生そのものだ。よく言えば純真、悪く言えば救いがたく単純かつ幼稚である。おそらく、キャラメル大の燃料で船や飛行機が何ヶ月も動くと夢見た鉄腕アトムの時代、原子力黎明の時代で彼の時計は止まったままなのだろう。科学技術の危険性を無視して、長年にわたり科学万能の幻想をまき散らかした罪は限りなく重い。これが日本を代表する「知」の巨人とは恐れ入る。「痴」の巨人と呼ぶべきだろう。
(関連情報)
「福島事故は、日本の文化人・知識人と呼ばれ、もてはやされてきた人間たちの仮面をはぎ取った:
広瀬隆氏 (晴耕雨読)」 (阿修羅・赤かぶ 2013/10/3)
http://www.asyura2.com/13/genpatu33/msg/846.html
「原発の安全性向上は絶対に不可能 -- その5つの理由」 (拙稿 2012/7/23)
http://www.asyura2.com/12/genpatu25/msg/793.html
「立花隆 は知の巨人なの? 原発をめぐる意見」 (コルクのぶらぶら日記 2011/8/28)
http://blog.goo.ne.jp/chuchukun/e/83bb93c31a00fac5c4b511546feda406
「中国の原発がヤバいことになっている?素人同然の技術者たちが、異常なスピードで建設中
いつ爆発が起きてもおかしくない」 (現代ビジネス 2016/3/3)
http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/48038
「第3世代新型原子炉AP1000には福島の教訓は全く活かされていない 安全性向上は大ウソだ 」
(拙稿 2016/4/1)
http://www.asyura2.com/16/genpatu45/msg/408.html
「ハーバード大教授が予想、MW当たり太陽光発電のコストは石炭火力を大幅に下回る
(businessnewsline)」 (拙稿 2016/5/13)
http://www.asyura2.com/16/genpatu45/msg/663.html
「ロシア版『もんじゅ』送電開始 『歴史的」現地報道』」 (朝日新聞 2015/12/16)
http://www.asahi.com/articles/ASHDH2PP1HDHUHBI00B.html
「立花隆の書棚」 (立花隆・著 中央公論社 2013/3/8)
「マスコミ堕落・政府広報化の象徴、田原総一朗は"御用"済みだ ただちに引退せよ!」
(拙稿 2016/1/15)
http://www.asyura2.com/15/genpatu44/msg/689.html