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国民教育の権利
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国民教育の期間を、満六歳より満十六歳までの十ヵ年間とし、男女を同一に教育す。
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学制を根本的に改革して、十年間を一貫せしめ、日本精華に基づく世界的常識を養成し、国民個々の心身を充実具足せしめて、各々その天賦を発揮し得べき基本を作る。 |
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英語を廃して国際語(エスペラント)を課し第二国語とす。 |
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女子の形式的また特殊的課目を廃止し小学、高等小学、中学校に重複するものを廃して一貫の順序を正しくす。 |
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体育は男女一律に丹田の鍛冶より結果する心身の充実具足に一変す。従って従来の機械的直訳的運動及び兵式訓練を廃止すべし。男女の遊戯は撃剣・柔道・大弓・薙刀・鎖鎌等を個人的又は団体的に興味づけたるものとし従来の直訳的遊戯を廃止す。 |
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この国民教育は国民の権利として受くるものなるをもって無月謝、教科書給付中食ノ学校支弁を方針とす。
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男生徒に無用なる服装の画一を強制せず。校舎はその前期を各町村に存する小学校舎としシ、後期を高等小学校舎とし、一切物質的設備に浪費せず。 |
注1 |
男女共中学程度終業をもって国民たる常道常識を教育せらるるもの。ようやく文字を解し得るか得ざるかの小学程度をもって国民教育の終了とするは国民個々の不具と国家の薄弱を来すものなり。これ教育すべき国家の窮乏せると、教育せらるべき国民に余裕なかりしをもってなり。一貫したる十年間の教育は、その終了と同時に完全具足したる男女たるべく、さらにその基本をもって各々その使命的啓発に向って進むを得べし。 |
注2 |
女子を男子と同に一教育する所以は、国民教育が常識教育にしてある分科的専攻を許すべき齢にあらざると共に、満十六歳までの女子は男子と差別すべき必要も理由もなきをもってなり。従って女学校特有の形式的課目女礼式、茶湯、生花の如きまた女子の専科とせる裁縫、料理、育児等の特殊課目は全然廃止すべきものとなる。前者を強制するは無用にして有害なり。後者は各家庭に於いて父母の助手として自ら修得すべし。女子に礼式作法が必須課目ならば男子にも男子のそれがしかるべく、茶の湯、生花が然るならば男子に謡曲を課せざれば不可。車夫の娘に「ビフテキ」の焼方を教授し外交官の妹に袴の裁方を説明し、月経なき少女に育児を講義する如き、今の女子教育の全ては乱暴愚劣真に百鬼夜行の態なり。学校は全てにあらず。各人の欲するところに随い各家の生活事情に応じて学ぶべき幾多のものを有す。 |
注3 |
一切にわたりて英語を廃する所以。英語は国民教育としてテ必要にもあらず、また義務にもあらず。現代日本の進歩に於いて英語国氏が世界的知識の供給者にあらず。また日本は英語を強制せらるる英領インド人にあらず。英語が日本人の思想に与えつつある害毒は英国人が支那人を亡国民たらしめたる阿片輸入と同じ。ただ英語ほど普及せずしてしかも英語思想以上に影響を与えたるドイツ語によりてその害毒の緩和せられたる天佑を有するのみ。
英語国民の浅薄なる思想を通じて空洞なる会堂建築として輸入されたるキリスト教。人格権の歴史的覚醒たる民主々義が哲学的根拠を欠如したる民本主義となりて輸入されつつある「デモクラシー」。英米人の持続せんとする国際的特権の為に宣伝されつつある平和主義・非軍国主義が、その特権を打破せんが為に存する日本の軍備及び戦闘的精神に対する非難として輸入されつつある内容皆無の文化運動。単にこれらをのみ視るも一利に対して千百害あること阿片輸入の支那を思わしむ。言語は直ちに思想となり思想は直ちに支配となる。一英語の能否をもって浮薄軽兆なる知識階級なるものを作リ、店頭に書冊に談話にその単語を挿入して得々情々として恥無き国民に何の自主的人格あらんや。国民教育に於いて英語を全廃すべきは勿論、特殊の必要なる専攻者を除きて全国より英語を駆遂することは、国家改造が国民精神の復活的躍動たる根本義に於いて特に急務なりとす。 |
注4 |
国際語を第二国語として採用する所以。しかしながら実に他の欧米諸国に見ざる国字改良、漢字廃止、言文一致、ローマ字採用等の議論百出に見る如く、国民全部の大苦悩は日本の言語文字の甚だしく劣悪なることにある。その最も急進的なるローマ字採用を決行するとき、幾分文字の不便は免るべきも言語の組織そのものが思想の配列表現に於いて悉く心理的法則に背反せることは、英語を訳し漢文を読むに全て日本文が顛倒して配列せられたるを発見すべし。
国語間題は文字又は単語のみの問題にあらずして言語の組繊根抵よりの革命ならざるべからず。しかして不幸なる幸は中学教育に英語を課し来れる慣習の為に、その程度の教育者も被教育者も、何らかの言語を習得すべきことを必須的に確信せることなり。国際語の合理的組織と簡明正確と短日月の修得とは世人の知ル如し。成年者が三月又は半年にて足る国際語の修得が、中学程度の児童、一二年にして完成すべきことは、英語が五年間没頭してなお何の実用に応ずる完成を得ざる比にあらず。
児童は国際語をもって国民教育期間に世界的常識を得べし。しかしてテ欧米の革命的団体は大戦のはるかに以前これをもって国際語とせんと決議せしほどのもの。最も不便なる国語に苦しむ日本はその苦痛を逃るる為にまず第二国語として並用スル時、自然淘汰の理法によりて五十年の後には国民全部が自ずからから国際語を第一国語として使用するに至るべし。従って今日の日本語は特殊の研究者にとりて梵語、「ラテン」語の取扱を受くべし。 |
注5 |
国際語の採用が特に当面に切迫せる必要ありという積極的理由。下掲国家の権利に説く如く、日本は最も近き将来に於いて極東・シベリア・濠州等をその主権下に置くとき、現在の欧米各国語を有スル者の他に新たにインド人・支那人・朝鮮人の移住を迎うるが故に、ほとんど世界全ての言語を我が新領土内に雑用せしめざるべからず。これに対して朝鮮に日本語を強制したる如く我自ら不便に苦しむ国語を比較的好良なる国語を有する欧人に強制するあたわず。インド人・支那人の国語また決して日本語より劣悪なるというあたわず。この難間題ハ実に三、五年の将来に迫れるものなり。主権国民がシベリアに於いて露語を語り濠州に於いて英語を語る顛倒事を為すあたわざるならば、日本領土内に一律なる公語を決定し彼らが日本人と語るときの彼らの公語たらしめざるべからず。劣悪なる者が亡びて優秀なる者が残存する自然淘汰律は日本語と国際語の存亡を決する如く、百年を出でずして日本領土内の欧州各国語、支那、インド、朝鮮語はまた当然に国際語の為に亡ぶべし。言語の統一なくして大領土を有することはただ瓦解に至るまでの槿花一朝の栄のみ。 |
注6 |
体育を丹田本位と決定する所以は、ただ肉体の一面のみを見るも根本的体育たるをもってなり。既に日本の各方面に先覚者の簇出して実証を示しつつあるところなり。これらに示さるる如くインドに起りたるアジア文明は世界より封鎖せられたる日本を選びて天の保存したるもの。単に手足を動かし器具に依頼し散歩遠足をもって肉体の強健を求むる直訳的体育は実に根本を忘れて枝葉に走りたる彼らの悪摸倣なり。特に女子をして優美繊麗のままに発達したる強健を得せしむるには丹田の根本を整うる以外一の途なし。変性男子の如き醜き手足を作りてしかも健康の根本を培わざる直訳体操は特に厳禁を要す。 |
注7 |
兵式体操を廃止する所以は、その形式また実に丹田の充実を忘れたる外形的整頓に促われたるものによるも一理由なり。且つ下掲の如く日本国民は永久に兵役の義務を有し、且つ一年志願兵特権はこれらの訓練あるを一理由と為すをもってそれをも廃止するが故に、兵役に於いてすべきことは全て兵営に於いてすべし。さらに他の一理由は日本の将来は陸上にあると同一以上の程度に於いて海上にあるが故に、国民教育に於いてただ陸軍的摸倣を為さしめて海兵的訓育を閑却することの矛盾なるをもってなり。国民教育の要は根本の具足充実にあり。丹田本位の心身を鍛冶し十年間一貫の常識教育を施さばもって海兵に用うべくもって陸兵に用うべし。兵の素質に於いて二等卒も今の少尉級に劣らず。 |
注8 |
単純なる遊戯として男子が撃剣柔道に遊び女子が長刀鎖鎌を戯るるはその興味に於いて「べースボール」「フートボール」等と雲泥の相違あり。精神的価値等を挙げて遊戯の本旨を傷くべからず。これは生徒の自由に一任すべし。現今の武器の前に立ちてこれらに尚武的価値を求むるに及ばず。日本人の一般生活に没交渉なる直訳的遊戯を課するの滑稽さは床柱を背にして小猿の如く跪坐する洋服姿と同じ。 |
注9 |
国民教育の児童に対して無月謝、教科書給付、中食の学校支弁とする所以は、国家の児童に対する父母としての日常義務を果すものなり。現今の中学程度に於ける月謝と教科書とは一般国民に対する門戸閉鎖なり。無月謝より生ずる負担は各市町村これを負うべく、教科書は国庫の経費をもって全国の学校に配布すべし。中食の学校支弁の理由は第一に登校児童の為に毎朝母を労苦せしめざることなり。第二の理由はその中食に一塊の「パン」薩摩芋、麦の握飯等の簡単なる粗食を為さしめ、もって滋養価値を云々して真の生活を悟得せざる科学的迷信を打破することにあり。第三の理由は幼童の純白なる頭脳に口腹の欲に過ぎざる物質的差等をもって一切を高下せんとする現代までの悪徳を印象せしめざるにあり。学校としては簡単なる事務にして、もし児童の家庭が悪感化によりて食事を肯んせざる者あらば教師の権威をもってその保護者を召喚訓責すべし。 |
注10 |
今の中学程度の男生徒に制服として靴洋服を強制することは実に門戸閉鎖の有力なる一理由なり。その不合理なることあたかも現時の欧米に「キモノ」服が普及したるをもってそれを室内の制服として強制せんというと一般なり。和服の不便なる裁方なりというは別問題なり。居常の衣服を登校に用ゆるを得ざる大々的不便をその父母の経済に課して何の便不便ぞ。実に今の日本教育の全ては教育にあらずして、ただ外形の摸倣なりとす。 |
注11 |
校舎に巨費を投ずるはまた最悪なる直訳的摸倣なり。この国民教育の根本的革命は戒厳令施行中より実施すべきものなるをもって、現時の校舎を直ちに使用すべきことを明示したり。器械的科目たる理化学に於いても今の中学校程度に於いて別個の教室を設備する如き摸倣的浪費の一。 |
注12 |
以上の国民教育の説明によりて大学及び大学予備校の方針、またそれが生徒の自費たること等は推想し得べし。しかして不用なるべき各地の中学女学校舎はあるいはこれを取り毀ち、又は学予備校の校舎又は単科大学の校舎となすを得。 |