7―1  既成翻訳の検証その一

 (最新見直し2007.6.25日)

 既存市販品の「共産党宣言」を検証していくうちに、果たしてこれが「単なる誤訳」として見なし得るものだろうか、という気持ちが抑え切れない。実際には、各自が同じ作業をしてみればよりきっきりと分かるだろう。とにかく、あちこちが酷すぎるのだ、しかし、肝心なところを廻ってチャランポラン訳されている気配がある。れんだいこは、「誰が、一体何の為に」と訝らざるを得ない。これをいつの日か一目瞭然にさせてみようと思う。

 検索していると、「『共産党宣言』の翻訳を研究する」に出くわした。本サイトによって、エエカゲンさがズバリ指摘されている。とりあえず全文転載しておく。


 2004.1.16日 れんだいこ拝


「共産党宣言」の翻訳を研究する。

日本語の論理性は、どこで壊されているか? 

(その1)

 我々がふだん使っている日本語について、論理性を詮議することは余りない。が、これを機械翻訳(英語)に掛けると、意味不明な英文に早変わりする。主語がない・重複が多い・適切な用語でない・意味曖昧・形容の範囲や因果関係が不明…等々。従って、機械翻訳 (内容の精度によるが)を有効に使うには、まず日本語文章を論理的に整えることが必要である。インターネット上で日本語を国際語として使おうとするなら、我々自身が日本語を論理的に表現することに習熟しなければならない。では、どうすればこの欠点―非論理性の発生源―に気付けるだろうか?  

ISO品質マニュアルの原文・ビジネス英語や聖書の英文を散見するうちに、我々は、英語を「忠実に」翻訳してみることだ、と気付いた。そこで事件性を求め、時節柄もっとも広く探究されている『共産党宣言』を採用した。翻訳日本語文の教科書として、碩学(せきがく):大内兵衛・向坂逸郎・訳(岩波書店版)を俎上にした。英文はエンゲルス校閲の1888年英語版で、インターネットに「共産党宣言研究グループ」のテキストとして掲載されていたものを拝借した。以下は、全文を我々の独自翻訳の作業中に、「碩学の」訳文で日本語の使い方の非論理性を学んだ部分の記録である。

 このレポートの仕組みは、次の通りです。英文の次、【直訳】欄に我々独自の直訳文を掲げ、次いで【訳文】欄に岩波本の訳文 (漢字の使い方は標準に直したところもある)を掲載ページ付きで紹介し、その後に【研究】欄を設け、論理的疑問点としての考察を加えました。読者のご批正を戴ければ幸甚です。なお、日本語の論理性を反映した「共産党宣言」全文についての独自の翻訳文をこの研究終わり次第掲載するつもりです。ご期待ください。(サロン・主任、敬白)

Ⅰ 冒頭前文

A spectre is haunting Europe--the spectre of communism.

【直訳】 幽霊がヨーロッパに出没している―共産主義の幽霊が。

【訳文】ヨーロッパに幽霊が出る―共産主義という幽霊である。(37p)

【研究】「出没している」を「出る」と訳しているが、幽霊の属性は「出没する」である。日本語で「幽霊が出る」と言う意味には「没する」も含まれている…と言い逃れしたくなるが、日本語でもそれが許されるのは幽霊が「特定の場所」に出るときだけである。ヨーロッパという広域概念では日本語でも「出る」は非論理的となる。 

All the powers of old Europe have entered into a holy alliance to exorcise this spectre:

【直訳】古いヨーロッパの全ての権力が、この幽霊を追い払うための神聖同盟に入った。

【訳文】古いヨーロッパの全ての強国は、この幽霊を退治しようとして神聖な同盟を結んでいる。(37p)

【研究】幽霊は、追い払うことは出来ても退治することはできない。原語にも「退治する」という意味はない。「妖怪を退治する」なら論理性はある、がこの言葉は原文とは縁がない。思想としての共産主義は弁証法的存在であるから、時に追い払うことはできても、退治することはできない、と言う意味でも幽霊に通ずる。原文は単的にそれを指摘している。 

Two things result from this fact:

【直訳】この事実から二つのことが由来する。

【訳文】この事実から二つのことが考えられる(37p)

【研究】「 result;由来する」は、客観的事実factからthingへの、流れの因果性を表すが、「考えられる〈分かる〉」は論理的脈絡もなく判断という主観的行為を介入させていることになる。勿論resultに「考える、分かる」などの意味はない。文章の論理性を無造作に破壊する日本人の思考に内在する「非連続の連続」の反映であろう。日本語自体に罪はない。  

a manifesto of the party itself

【直訳】共産主義者仲間の宣言

【訳文】党自身の宣言(37p)

【研究】the partyの性格を指示するitselfは次の行にある、Communists of various nationalities have assembled in London「ロンドンに集まったさまざまの国籍をもつ共産主義者」(37p)たちのことである。一般認識の「党」ではない。安易に党として以来、「共産党宣言」が書名の定説となってきたが、これは論理的ではない。  

Ⅱ 第1章 ブルジョアとプロレタリア 

The history of all hitherto existing society is the history of class struggles.

【直訳】今までのところ・存続している・社会全ての歴史は、階級闘争の歴史である。

【訳文】今日まであらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である。(38p)

【研究】hithertoの扱いが問題。直訳と対比すれば、訳文がいかに大雑把で曖昧か、が一目瞭然である。取り上げる社会の、最小限の時間的・空間的規定を棚上げして「むかしむかし…」の「ものがたり」で、この偉大な「歴史的文書」(エンゲルスの序文)を扱おうとしている。翻訳で平易にしようという『善意』で論理性を犠牲にすることは本末転倒である。一見単純なこの文言には「1845年現在の人間の到達した知識の限界では」という意味がこめられている。  

In the earlier epochs of history, we find almost everywhere a complicated arrangement of society into various orders, a manifold gradation of social rank.

【直訳】歴史のより早い諸々の新紀元において、我々は、ほとんど至る所で、様々な身分への・社会の複雑な配置、社会的地位の多種多様な段階を発見する。

【訳文】歴史の早い諸時期には、われわれは、ほとんどどこでも社会が種々の身分に、社会的地位のさまざまの段階に、完全にわかれているのを見出す。(39)

【研究】 “epochs” のもつ特別な「科学的意味」を、原文通り直訳的に保存すべきであろう。これらは翻訳において一番大事なことである。訳者の第二の悪い特徴は、「社会が」と言う主語を、原文には無いのに導入していること、そのため「わかれている」という述語動詞も捏造せざるを得なくなっていることである。こうして『社会が……に、わかれている』という判断を、原文とは関係なく、定言的に読者に押し付ける。しかし、社会はいろいろな人間組織の統一体である、分かれていれば社会という概念はなくなる、「見出す」こと自体不可能なはずだ…という自家撞着に陥る。見逃しがちなこういうところが日本語には論理性がない、と言われる所以であろう。 

From the serfs of the Middle Ages sprang the chartered burghers of the earliest towns.

【直訳】中世の農奴から、最も初期の都市で特許を受けた中産階級市民が躍り出た。

【訳文】中世の農奴から、初期の諸都市の城外市民が生まれた。(40p)

【研究】sprangの訳語が問題だ。出現のし方の歴史的ニュアンスに訳者は無関心。生きた歴史の論理的感覚を、原文は動詞の使い分けで表現しているのだが。又、「城外市民」と言う訳語も原文の規定を勝手にローカル化した造語であって日本語でも一般化されていない(辞書にもない)  

The feudal system of industry, in which industrial production was monopolized by closed guilds, now no longer suffices for the growing wants of the new markets.

【直訳】産業の封建制システム、その中では、工業生産が閉鎖的ギルドによって独占されていた、が今や新しい市場の中から成長する欲望に対してもはや十分ではない。

【訳文】これまでのような工業の封建的もしくはギルド的経営様式は、もはや、新しい市場とともに増大する需要をみたすには足りなかった。(40p)

【研究】両方の訳文を比べれば、原文 (直訳)の方はテンポが小刻みで歴史的因果関係が直接に「目」に飛び込んでくる。訳文は「封建的若しくはギルド的経営様式」などと原文から遊離して、封建とギルドの同心円的立体関係を並列的平面関係で扱い、閉鎖的ギルドによる独占という核心が消失している。ために新市場の中から成長するwantsを「需要」と平板な意味に訳す、どうしてdemandでなくてwantsとしたか。wantsには「欠く、不足する;を欲しがる」の意味があるが、「需要」の意味はない。欲望が供給に支えられるとき需要になる。単語(ワード)が他の単語との論理的関係の中で使われるとき、それは概念となる。

 その歴史的契機がここではnowなのだ。訳者にこの感覚が無ければ翻訳で無視することになる。犠牲者は日本語と読者である。  

division of labor between the different corporate guilds vanished in the face of division of labor in each single workshop.

【直訳】異なる企業のギルド間分業は、おのおのの単一職場における分業に直面して消滅した。

【訳文】異なる組合間の分業は姿を消して、個々の仕事場自身の中の分業があらわれた。(40p)

【研究】原文が明示する因果関係に注意することなく、事件発生の順序が平然と逆転させられている。これでは歴史を論理と並行して正常に把握することが出来ない。勿論、日本語に罪はない。 

This development has, in turn, reacted on the extension of industry; and in proportion as industry, commerce, navigation, railways extended, in the same proportion the bourgeoisie developed, increased its capital, and pushed into the background every class handed down from the Middle Ages.

【直訳】この発達は、順番に、工業の拡張に反応した。そして比例して工業、商業、航海、鉄道が伸びた、同じ割合で・ブルジョアジーが発展し、その資本を増大させた、そして、中世から伝承された全ての階級をバックグラウンドに押しやった。

【訳文】この発展はまた工業に反作用して、それを大きく伸ばした。そして工業、商業、航海、鉄道が伸びる程度に応じて、ブルジョア階級は発展し、その資本を増加させ、中世から受け継いだすべての階級を背後に押しやった。(41)

【研究】ここで注意すべきはまず、① in turnである。次いで、② in proportion asに重ねてin the same proportionがあることの意味であろう。①は反作用ではなく工業の内部が順番に膨張していく様を映す。②は、それに比例して、工業・商業・航海・鉄道が伸展したこと、そして所有関係という次元の異なる分野で、ブルジョアジーの発展が同じ比例を示した、という二重の分析を反映している。訳者は、言葉が似ているからと、「比例して」と「同じ割合で」をまとめて「程度に応じて」でケリをつけようとした。  

Each step in the development of the bourgeoisie was accompanied by a corresponding political advance in that class.

【直訳】ブルジョアジーの発展途中の各段階は、その階級に一致する政治的な進歩を伴った。

【訳文】ブルジョア階級のこのような発展の一つ一つの段階に伴なって、それにふさわしい政治的進歩があった。(41p)

【研究】翻訳を柔らかな日本語調にしよう、という訳者の努力 (?)がみえるが、それによって何が失われるかの典型である。

 ①主語の入れ替え:すなわち『各段階は』を『政治的進歩が』に。これによって意味を不明瞭にした。「…の段階に伴なって、それにふさわしい政治的進歩が…」という文脈では、『それに』が段階を指示することになり、「政治的進歩」は「段階」に従う。しかし原文では、政治的進歩は、ブルジョアジーに従っている。

 ②corresponding(一致する)の訳語に、訳語と認められない用語『ふさわしい』(似つかわしい・釣り合っている)をあてた。「ふさわしい」に該当する英語は37通りもあるがcorrespondingは遂に入っていない。

 ③このような……があった』という冗文・冗語を必要とした。国際語の条件は、重複・冗語を避け、論理的核心を鮮明にしなければならない。翻訳文でみれば、リズムのある直訳がそれを提供するように思われる。国語を直訳文のように書く訓練が必要であろう。 

An oppressed class under the sway of the feudal nobility, an armed and self-governing association of medieval commune : here independent urban republic (as in Italy and Germany); there taxable "third estate" of the monarchy (as in France); afterward, in the period of manufacturing proper, serving either the semi-feudal or the absolute monarchy as a counterpoise against the nobility, and, in fact, cornerstone of the great monarchies in generalthe bourgeoisie has at last, since the establishment of Modern Industry and of the world market, conquered for itself, in the modern representative state, exclusive political sway. The executive of the modern state is but a committee for managing the common affairs of the whole bourgeoisie.

【直訳】すなわち、封建貴族の支配の下で抑圧された階級。中世コミューンの武装した自治組合としては、ここでは(イタリア及びドイツのように)独立した都市共和国、かしこでは(フランスのような)君主国で課税対象とされた「平民」。その後、ほどよいマニュファクチュア時代に入っては、セミ・封建制もしくは絶対君主制の両方に、貴族階級に対抗する釣合いの錘として奉仕しながら、事実上、たいていは大君主国の礎石。となった―ブルジョアジーは、ついに、近代産業と国際市場の確立以後、近代的代議制国家において、独占的な政治支配を、自身のために獲得した。近代国家の行政府は、全ブルジョアジーの共通事務を管理するためのほんの委員会にすぎない。

【訳文】ブルジョア階級は、封建君主の支配下にあっては圧迫された身分であり、コンミューンにあっては武装し、自治を持った組合をなした。そして後の場合は独立した都市共和国、前の場合は君主政体下の納税義務をもつ第三身分であった。次にマニュファクチュアの時代になると、かれらは身分制的王制または絶対的王制において貴族と平衡を保つ錘の役目を果たし、大君主制一般の主要な基礎となった。そしてついには、大工業と世界市場とが建設されて以来、ブルジョアジ階級は近代的代議制国家において、ひとり占めの政治支配を闘いとった。近代的国家権力は、単に、全ブルジョアジ階級の共通の事務をつかさどる委員会にすぎない。(41p)

【研究】この部分は、前文を受けてブルジョアジー発展ステップのスケッチを配列し、「―」を介して現在の「遂の姿」を結論づけたものだ。が、これを訳文は、「ブルジョア階級は」を主語にセットして、新たに起こされた別な文章として扱った。原著者の意向を尊重するならば、補語として「すなわち」を頭につければ、原文構造をそのまま再現できるはずである。末文の The executive of the modern state を「近代的国家権力」と訳すのは完全な誤訳である。文章としても意味が通らない。  

The bourgeoisie, wherever it has got the upper hand, has put an end to all feudal, patriarchal, idyllic relations. It has pitilessly torn asunder the motley feudal ties that bound man to his "natural superiors", and has left no other nexus between people than naked self-interest, than callous "cash payment". It has drowned out the most heavenly ecstacies of religious fervor, of chivalrous enthusiasm, of philistine sentimentalism, in the icy water of egotistical calculation.

【直訳】ブルジョアジーは、それが優勢になったところでは何処でも、全ての封建制、家長制、牧歌的関係を終わらせた。それは、人間を彼の「血のつながった長上者」に結び付けた色とりどりの封建的紐帯を無慈悲にばらばらに引きちぎり、そして、むきだしの自己利益以外、冷淡な「現金払い」以外、人々の間に他の如何なる関係も残さなかった。それは、宗教的情熱の、騎士道的熱狂の、俗物的感傷主義の、最高に至福なエクスタシーを、自己中心主義的打算から成る氷水の洪水で立ち退かせた。

【訳文】ブルジョア階級は、支配を握るに至ったところでは、封建的な、家父長的な、牧歌的ないっさいの関係を破壊した。かれらは、人間を血のつながったその長上者に結びつけていた色とりどりの封建的な絆を容赦なく切断し、人間と人間とのあいだに、むきだしの利害以外の、つめたい「現金勘定」以外のどんな絆をも残さなかった。かれらは、信心深い陶酔、騎士の感激、町人の哀愁といった清らかな感情を、氷のように冷たい利己的な打算の水の中で溺死させた。(42p)

【研究】got the upper hand に『支配を握る』、has put an end に『破壊した』、has drowned outを『溺死させた』というように、原文にはない過激な意味を訳文に盛り込むのは、レーニン的ヤクザ精神の反映であろう。また、man, people と次に出てくるpersonalをすべて「人間」と訳しているのは、日本語にはそれ以外の語彙がないのかと思わせる。学の悲哀はこういう非学者的精神にその土壌を持つ! 「… 、町人の哀愁といった清らかな感情を、」にみられる、といったは口語の日本語独特の継詞で、日本語にただ冗長をもたらすだけでなく、論理の断絶を誘発する曲者であるから使うべきではない。  

It has resolved personal worth into exchange value, and in place of the numberless indefeasible chartered freedoms, has set up that single, unconscionable freedom -- Free Trade.

【直訳】それは、個人の価値を交換価値で決定した、そして、無数の破棄できない公認の自由の代りに、あのたった一つの、非良心的な自由―『自由貿易』を据えてしまった。

【訳文】かれらは人間の値打ちを交換価値に変えてしまい、お墨付きで許されて立派に自分のものとなっている無数の自由を、ただ一つの、良心を持たない商業の自由と取り代えてしまった。(42p)

【研究】「人間の値打ち」という概念は存在しない。『個人』である。これを「交換価値に変えてしまう」と言うことも非論理的だ。使用価値は価値と交換できるだけで、それぞれの存在を「変えて」消失するのではない。「良心を持たない商業の自由」という概念も原文にはない。 

The bourgeoisie has torn away from the family its sentimental veil, and has reduced the family relation into a mere money relation.

【直訳】ブルジョアジーは、家族からその感情的なベールをひきはがし、家族関係を単なる金銭関係に圧縮した。

【訳文】ブルジョア階級は、家族関係からその感動的な感傷のヴェールを取り去って、それを純粋な金銭関係に変えてしまった。(43p)

【研究】この文には、家族と家族関係という二つの概念があるが、訳者はそれに気がつかない。前に指摘したように、原文が man, personal…のように単語を使い分けても、その差別が内包する意味を捉えようとはしない、そういう論理学に「無智」であるのは、reduceを「変える」と訳している事にも躍如としている。  

The bourgeoisie has disclosed how it came to pass that the brutal display of vigor in the Middle Ages, which reactionaries so much admire, found its fitting complement in the most slothful indolence.

【直訳】ブルジョアジーは、反動主義者たちがそれほどにたくさん賞賛する、中世における獣のような体力の誇示が、最も無精な怠惰のうちに、どうしてそのぴったりの補足物を発見することになったかを暴露した。

【訳文】ブルジョア階級は、反動家たちがどんなに賛美しようと、中世の残忍な暴力行使を適当に埋め合わせるものがもっとも怠惰なのらくら生活であったということを明らかにした。(43p)

【研究】訳文は disclosedisplayが関連した用語であることを認識していない。Reactionariesが誇示displayした背後を、the bourgeoisieが暴露discloseしたのである。  

It has been the first to show what man's activity can bring about.

【直訳】それは、人間の活動が何をもたらすことができるか示す最初のものだった。

【訳文】人間がその活動によって何を成し遂げうるかを初めて証明したのは、彼等であった。(43p)

【研究】この訳は、日本語の悪文の見本である。人間が、「人間」と「彼等」となって二度出てくる。そのうえ「彼等」とは誰を指すか、という難問を提起して自家撞着に陥る。It(それは)を活かした原文直訳の持つ単純明快な論理性を学ぶべきだ。Itは、前文のブルジョアジーのデイスクローズ行為そのものを指している。  

It has accomplished wonders far surpassing Egyptian pyramids, Roman aqueducts, and Gothic cathedrals; it has conducted expeditions that put in the shade all former exoduses of nations and crusades.

【直訳】それは、エジプトのピラミッド、ローマの水路、そしてゴシック様式の大聖堂をはるかに凌ぐ奇蹟を完成した。それは、昔の民族および十字軍の集団的大移動を全て目立たないものにしてしまう遠征を行った。

【訳文】かれらは、エジプトのピラミッドやローマの水道やゴチック式の大寺院とは、全く違った驚異を成し遂げた。かれらは、民族移動や十字軍とは全く違った遠征を実行した。(43p)

【研究】itは何を指すか? 訳者は「かれら」としてブルジョアジーを指示する。私は前文のman's activityを指示するのが自然であると指摘したい。また、訳者はfar surpassingput in the shadeを共に「全く違った」と無味乾燥な死に言葉に『置き換え』て翻訳を放棄している。すなわち、原文を損壊し、日本語には語彙がないかのような侮辱を加えている。  

The bourgeoisie cannot exist without constantly revolutionizing the instruments of production, and thereby the relations of production, and with them the whole relations of society.

【直訳】ブルジョアジーは、生産用具に、そしてそれによって生産関係に、そしてそれと共に社会の全関係に、絶えず革命を起こすことなしには、存在することができない。

【訳文】ブルジョア階級は、生産用具を、したがって生産関係を、したがって全社会関係を、絶えず革命していなくては生存しえない。(43p)

【研究】原文は、ブルジョアジーが生存するために起こさざるを得ない、革命の波及順序・立体関係を定義している。それを平板な因果律:「したがって」 (therefore, consequently)に解消している。これまた原文損壊である。 

Constant revolutionizing of production, uninterrupted disturbance of all social conditions, everlasting uncertainty and agitation distinguish the bourgeois epoch from all earlier ones.

【直訳】生産の絶えず続く革命、社会状態全ての絶え間ない騒乱、永久に続く不確実と興奮は、ブルジョア的な時代を全てそれ以前の時代から識別する。

【訳文】生産の絶えまない変革、あらゆる社会状態の止むことのない動揺、永遠の不安定と運動は、以前のあらゆる時代と違うブルジョア時代の特色である。(43p)

【研究】disturbanceは、心について使うとき「動揺」だが、社会については「不安、混乱、騒動、暴動」を意味する。uncertaintyは不確実。agitationは無味乾燥な「運動」などではない。  

All fixed, fast frozen relations, with their train of ancient and venerable prejudices and opinions, are swept away, all new-formed ones become antiquated before they can ossify.

【直訳】すべての固定され、速くに凍結された諸関係は、それら一連の古臭く、神さびた偏見や所信と共に、速やかに廃止され、全て新しく形成されたものは、それらが因習的な型にはめられる前に古臭くさせられた。

【訳文】固定した、錆びついたすべての関係は、それにともなう古くて尊い、いろいろの観念や意見とともに解消する。そしてそれらがあらたに形成されても、それらはすべて、それが固まる前に、古臭くなってしまう。(43p)

【研究】「そしてそれらが」は、原文にない。前文の「廃止された」ものが復活する意味もないのに、復活した扱いの用語だ。そうすると後の文は「それが固まる前に古臭くなる…」という「悪しき無限」に陥らざるを得ない。前文と後文は別立てである。 

All that is solid melts into air, all that is holy is profaned, and man is at last compelled to face with sober senses his real condition of life and his relations with his kind.

【直訳】すべて形在る物は空に帰す、すべて神聖なものは冒涜される、而して人間は遂にはしらふの感覚で彼の生活の真の有様、また彼の家柄にまつわる利害関係と無理にも面と向かわざるを得ない。

【訳文】一切の身分的なものや常在的なものは、煙のように消え、一切の神聖なものは汚され、人々は、遂には自分の生活上の地位、自分たち相互の関係を、冷ややかな眼で見ることを強いられる。(44p)

【研究】これは直訳の方がステータスだ。「冷ややかな眼」はいただけない。 sober sensesは酒を飲んでいない正常な状態での意識を指す。his relations with his kindを「自分たち相互の関係」とするのも曖昧模糊とした翻訳放棄というほかない。「すべて形在る物は空に帰す」は、まさに「色即是空」ではないか。  

The need of a constantly expanding market for its products chases the bourgeoisie over the entire surface of the globe. It must nestle everywhere, settle everywhere, establish connections everywhere.

【直訳】製品にとって絶えず拡張する市場の必要性は、地球の全表面にブルジョアジーを追い立てる。それは、至る所で身を寄せ合い、至る所で殖民し、至る所で関係を設立しなければならない。

【訳文】自分の生産物の販路を常に益々拡大しようという欲望に駆り立てられて、ブルジョア階級は全地球をかけまわる。どんなところにも、彼等は巣を作り、どんな所をも開拓し、どんなところとも関係を結ばねばならない。(44p)

【研究】訳文は、前文で主語を入れ替え、格調ある文章を「駆り立てられて……駈け回る」と、動詞を重複させざるを得ないような、駄文に貶めてしまった。単に駄文であるにとどまらず、意識を決定する動機が、主観にあらず客観的存在であるという真理、に反する叙述に落ち込んだ。文としての概念の配列は真理認識の順序である、ことを知らないといえる。また、 nestlesettleに、「巣を作り・開拓し」と同義語程度の訳を与えていることにも、事態の展開を反映している原文の論理性、についての無関心が示される。  

The bourgeoisie has, through its exploitation of the world market, given a cosmopolitan character to production and consumption in every country.

【直訳】ブルジョアジーは、世界市場の活用を通じて、すべての国での生産と消費に国際的な性質を与えた。

【訳文】ブルジョア階級は、世界市場の搾取を通して、あらゆる国々の生産と消費とを世界主義的なものに作り上げた。(44p)

【研究】訳文の「世界市場の搾取」という言葉はない。マルクスがexploitationを使えば「搾取」以外の意味はないとでも思っているのだろうか。まさか、と思いたい。  

In place of the old wants, satisfied by the production of the country, we find new wants, requiring for their satisfaction the products of distant lands and climes.

【直訳】自国の生産物で満足していた、昔の欲望の代わりに、我々は新しい欲望を、その充足を追い求めつつ、遠く離れた国や気候の産物に、発見する。

【訳文】国内の生産物で満足していた昔の欲望の代りに、新しい欲望があらわれる。この新しい欲望を満足させるためには、最も遠く離れた国や気候の生産物が必要となる。(44p)

【研究】「…の代りに、新しい欲望があらわれる」という訳し方は、「新しい欲望を…に発見する」という原文の論理を反映しているだろうか。『発見する』行為が無ければ新しい欲望は自動的には生まれない。論理の歪曲のために、requiring for their satisfactionに「超訳」 がなされる。

In place of the old local and national seclusion and self-sufficiency, we have intercourse in every direction, universal inter-dependence of nations.

【直訳】昔の地方的民族的鎖国と自給自足の代わりに、我々は、あらゆる方面との交通、世界諸国民の普遍的な相互依存をもつ。

【訳文】昔は地方的、民族的に自足し、まとまっていたのに対し、それに代ってあらゆる方面との交易、民族相互のあらゆる面にわたる依存関係が現れる。(44p)

【研究】漢字も日本語であるから訳文は原文どおりに、漢字を使って単的が良い。「…が現れる」なる用語が無自覚・無批判に、頻繁に使われるが、歴史を創る「我々」主観の存在意義を避けようとする、日本人の神道観念によるものか?   

The cheap prices of commodities are the heavy artillery with which it batters down all Chinese walls, with which it forces the barbarians' intensely obstinate hatred of foreigners to capitulate.

【直訳】商品の安い価格は重砲隊である、それをもってそれは、すべての中国の外壁をぶち壊し、異国人に対する未開人の強烈にして頑固な嫌悪に、降伏することを強要する。

【訳文】彼等の商品の安い価格は重砲隊であり、これを打ち出せば万里の長城も破壊され、未開人のどんなに頑固な異国人嫌いも降伏を余儀なくされる。(45p)

【研究】「強要する」と「余儀なくさせる」とは同意だが、「余儀なくされる」は受け手が抵抗の甲斐もなく降伏することを意味する。強要しても直ちに余儀なくされることは滅多にないのが歴史の真実であるから、事実関係を把握することなしに能動態を単純に受動態に置き換えてはならない。 

It compels all nations, on pain of extinction, to adopt the bourgeois mode of production; it compels them to introduce what it calls civilization into their midst, i.e., to become bourgeois themselves. In one word, it creates a world after its own image.

【直訳】商品の安い価格は全ての国民に、絶滅の痛みを口実に、生産のブルジョア的様式を採用することを強要する。それは全ての国民に、かれらの間にそれが文明と呼ぶものを持ち込むことを、すなわち、彼等自身ブルジョアになることを強要する。一言で言えば、ブルジョアは自身の像に象って世界を創造する。

【訳文】彼等はすべての民族をして、もし滅亡したくないならば、ブルジョア階級の生産様式を採用せざるを得なくさせる。彼等はすべての民族に、いわゆる文明を自国に輸入することを、すなわちブルジョア階級になることを強制する。一言で言えば、ブルジョア階級は、彼等自身の姿に型どって世界を創造するのである。(45p)

【研究】bourgeoisie(ブルジョアジー)bourgeois(ブルジョア)とを、原文が使い分けるところでは、訳文もそうしなければならない。「ブルジョアジーの生産様式」という用法はない。又ここにある三つのitは何を指すか? 前の二つは「商品の安い価格」、三つ目はbourgeois(ブルジョア)でなければ文意が通らない。訳文は、こうした概念の規定性にほとんど無関心である。 

The bourgeoisie has subjected the country to the rule of the towns.

【直訳】ブルジョアジーは、農村を都市の規則に服従させた。

【訳文】ブルジョア階級は農村を、都市の支配に服従させた。(45p)

【研究】「…の支配に服従させた」は、用語の重複である。 

Subjection of nature's forces to man, machinery, application of chemistry to industry and agriculture, steam navigation, railways, electric telegraphs, clearing of whole continents for cultivation, canalization or rivers, whole populations conjured out of the ground -- what earlier century had even a presentiment that such productive forces slumbered in the lap of social labor?

【直訳】自然力の人間への従属、機械装置、工業や農業への化学の応用、蒸気力航行、鉄道、電信、耕作・運河開設もしくは河川のために手づかずの陸地を開拓すること、魔法で地表に呼び出した全血の人びと―以前のどの世紀が、せめて、このような生産諸力が社会的労働の幸運に恵まれて無為に過ごした、という予感くらいは持っただろうか?

【訳文】自然力の征服、機械装置、工業や農業への化学の応用、汽船航海、鉄道、電信、全大陸の耕地化、河川の運河化、地から湧いたように出現した全人口―これほどの生産諸力が社会的労働の懐の中にまどろんでいたとは、以前のどの世紀が予感しただろうか?(46p)

【研究】訳文にある非論理的 (非現実的)用語を列挙すると…「自然力の征服」、「全大陸の耕地化」、「河川の運河化」、「出現した全人口」。  

At a certain stage in the development of these means of production and of exchange, the conditions under which feudal society produced and exchanged, the feudal organization of agriculture and manufacturing industry, in one word, the feudal relations of property became no longer compatible with the already developed productive forces; they became so many fetters. They had to be burst asunder; they were burst asunder.

【直訳】これら生産手段及び交換手段の発達のある一定段階において、封建社会が生産し及び交換したもとでの諸条件、農業及びマニュファクチュアの封建的体制、一言で言えば、所有の封建的諸関係は、もはや既に発展した生産諸力と両立できないものとなった; それらは、それ相応の足かせとなった。それらは、ばらばらに破裂しなければならなかった ; それらは、ばらばらに破裂した。

【訳文】この生産手段と交換手段の発展がある一定の段階に達すると、封建社会の生産や交換が行われていた諸条件、農業と工場手工業の封建的体制、一言で言えば、封建的所有関係は、そのときまでに発展した生産諸力にもはや適合しなくなった。それは、生産を促進しないで、阻害するようになった。それはいずれもみな変じて足かせとなった。それは、粉砕されねばならなかった、そして粉砕された。(46p)

【研究】compatible withを「両立できる、矛盾しない」ではなく「適合する」と訳してあるが、このような意味はない。生産力と生産関係は対立概念であって、conformity「適合、一致」の関係になるはずはない。so many fetters に、原文とは無関係に長文を補填しているが、前文の重複にすぎず無意味である。 be burst asunder を「粉砕される」と訳しているが、burstに粉砕の意味はない。思いつきのままに「粉砕」とすれば、論理矛盾を内包することとなる。けだし、それは外力の行為を指示する。さにあらずしてここでは内蔵破裂のように内部に醸成された力による外皮の破裂状況をさす。すなわち、内部矛盾の解決の様相を指示するためにbe burst asunderと用語を厳選しているのである。総じて、マルクス・エンゲルスが、本書のように、特に用語・概念を厳密に点検した文書を翻訳するにあたり、その一番肝心な論理学を、ないがしろにしたところに、レーニンが培養した毒草(レーニン主義)、の繁茂を許した淵源がある。日本の碩学が論理学に忠実であったならば、日本にレーニン主義の共産党は根付かなかったろう。 

Into their place stepped free competition, accompanied by a social and political constitution adapted in it, and the economic and political sway of the bourgeois class.

【直訳】その場所に自由競争が歩を進め、それに適合した社会的及び政治的な機構によって、ブルジョア階級の経済的・政治的支配が随行した。

【訳文】それに代わって自由競争があらわれた。これに伴なって、それに適当した社会的並びに政治的制度があらわれ、ブルジョア階級の経済的ならびに政治的支配があらわれた。(46p)

【研究】直訳が示す原文は、主語が二つあり、これを「…が歩を進め、…によって、…が随行した」で結んでいる。論理的・歴史的叙述の格調の高さを感ずる。

 訳文は、主語を三つにし、動詞をすべて「あらわれた」と造作し、総花的な羅列に終えている。歴史が構造的に進んでいる臨場感が全く感じられない。勿論、日本語の責任ではない。

For many a decade past, the history of industry and commerce is but the history of the revolt of modern productive forces against modern conditions of production, against the property relations that are the conditions for the existence of the bourgeois and of its rule.

【直訳】過去数十年間、工業と商業の歴史は、ともかく、生産の近代の諸条件に対する、ブルジョワの生存と彼等の支配の実在に関わる条件である所有諸関係に対する、現代生産力の反乱の歴史である。

【訳文】数十年来の工業及び商業の歴史は、まさしく、近代的生産諸関係に対する、ブルジョア階級とその支配の生存条件である所有諸関係に対する、近代的生産諸力の反逆の歴史にほかならない。(46p)

【研究】訳文では conditions of productionを「生産諸関係」としているが、日本語では「所有諸関係」the property relationsと同義であるから、別の表現を原文に従って与えるべきである。 また the bourgeoisを、ブルジョア階級the bourgeois classと同義扱いしているために、the existenceofでかかる二つの意味の違いが見えてこない。 同じことが二箇所にある modernについても言える。「過去数十年間」に係るmodern conditions of productionは中世との対比であるから「近世」、現在反乱中のmodern productive forcesは「現代」であろう。 非常に短文ではあるがマルクスはここで「所有関係」の定義を与えている。それが「ブルジョアの生存と彼等の支配の実在に関わる条件」である。訳者はこれを「ブルジョア階級とその支配の生存条件」として理解不能のアポリアにしてしまっている。

It is enough to mention the commercial crises that, by their periodical return, put the existence of the entire bourgeois society on its trial, each time more threateningly. In these crises, a great part not only of the existing products, but also of the previously created productive forces, are periodically destroyed. In these crises, there breaks out an epidemic that, in all earlier epochs, would have seemed an absurdity

the epidemic of over-production.

【直訳】それは、商業危機に言及することで十分である。商業危機は、その周期的な繰り返しによって、全ブルジョワ社会の存在をその審判にさらし、そのたびに脅迫を強める。これらの危機中、現存する諸製品のみならず、以前に創造された生産諸力の大部分が、周期的に破壊される。これらの危機のさなか、そこに流行病が突発する、以前のすべての時代においては、不条理に見えただろうが―過剰生産と言う流行病である。

【訳文】ここには、かの商業恐慌をあげれば充分である。それは、周期的に繰り返しながら、ますます急迫的に全ブルジョア社会の存立を脅かす。この商業恐慌では、作り出された生産物の大部分ばかりでなく、これまでに作られた生産諸力の大部分さえ、破壊されるのが通例である。恐慌においては、以前のどんな時代にもとても起こるとは考えられなかったような社会的疫病―過剰生産という疫病が発生する。(47p)

【研究】最初の Itは「現代生産力の反乱の歴史」を指す。それは商業危機である。そのさなか、そこは過剰生産(over-production)という「流行病を突発(breaks out)した」法廷となる。過剰生産、それは全ブルジョワ社会の存在を審判にさらした姿である。訳文ではput……on its trialを省略し、breaks outを単に「発生する」としたため、「反乱の歴史」が商業危機と過剰生産の二重の舞台で展開される関係が明示されずじまいとなっている。 なお、 crisesは「恐慌」ではなく、「危機」である。恐慌の英語はpanicである。本文では「過剰生産という流行病」を『恐慌』と指摘する。 

The productive forces at the disposal of society no longer tend to further the development of the conditions of bourgeois property ; on the contrary, they have become too powerful for these conditions, by which they are fettered, and so soon as they overcome these fetters, they bring disorder into the whole of bourgeois society, endanger the existence of bourgeois property.  

【直訳】処分の自由を社会に任せられる生産諸力は、もはやブルジョア的所有の条件の発達を促進するのに役立たない。反対に、それら生産力は、所有の条件に束縛されることによって、これらの条件に対し一層強力になる、それゆえにそれらがこれらの束縛を圧倒するや否や、それらは、ブルジョア社会の全体に混乱をもたらし、ブルジョア的所有の存在を危険にさらす。

【訳文】社会が自由にすることのできる生産諸力は、もはやブルジョア的所有関係の促進には役立たないのだ。反対に、生産諸力はこの関係にとって強大になり過ぎ、生産諸力がこの関係によって歯止めをかけられるのだ。そして生産諸力が、この歯止めを突破すると、たちまち全ブルジョア社会は混乱におちいり、ブルジョア的所有の存在が脅かされる。(47p)

【研究】訳文で意味朦朧個所をあげて見よう。「社会が自由にすることのできる生産諸力」、「ブルジョア的所有関係の促進」。次の文は意味の順序が逆になっている。「生産諸力はこの関係にとって強大になり過ぎ、生産諸力がこの関係によって歯止めをかけられるのだ。」。共に、直訳文と対比すれば、原文の意味が論理的にすっきりする。 

〈以上 第1回〉終わり その2へすすむ

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「共産党宣言」の翻訳を研究する。

日本語の論理性は、どこで壊されているか?

(その2)

What is more, in proportion as the use of machinery and division of labor increases, in the same proportion the burden of toil also increases, whether by prolongation of the working hours, by the increase of the work exacted in a given time, or by increased speed of machinery, etc.

【直訳】 その上、機械装置の使用及び分業が増加することに比例して、同じ割合で苦役の重荷がまた増大する。それは労働時間の延長によるか、与えられた時間内に要求される労働の増加によるか、もしくは機械等の増加したスピードなどによる。

【訳文】それどころではない。機械装置や分業が進むにつれて、労働時間の増加を通してであれ、一定時間に要求される労働の増加や機械の速度の増大等を通してであれ、それだけ労働の量も増加する。(48p)

【研究】連続した長文を原文のとおりの順序で、頭から日本語に直していく工夫をしたのが(直訳文)である。見るとおり前文と後文の間に「。それは」を補足するだけでできる。そのお蔭で訳文が「…につれて、………、それだけ…」と離して曖昧語にしたものを「に比例して、同じ割合で」と原文どおり素直になった。ほかの訳語も正確になった、 the burden of toil(苦役の重荷)を、訳文は「労働の量」と、間に入れた………の惰性からくる【思いこみ語句】にした。まだある。「つれて、それだけ」には数量的概念が基礎にない、だから「機械装置や分業が進む」という非論理的誤訳がスネークインする。「機械装置が…進む」とはどういう意味?  

As privates of the industrial army, they are placed under the command of a perfect hierarchy of officers and sergeants.

【直訳】産業軍隊の兵卒として、彼等は、士官及び下士官の完全な階層制の指揮のもとに置かれる。

【訳文】かれらは下級の産業兵として、下士官や士官の完全な階級組織の監視のもとにおかれる。(49p)

【研究】「下級の産業兵」は重複語、「下級の」は不要、原文にもない。command に「監視」、hierarchyに「階級組織」の訳語は一般的にはない。

The more openly this despotism proclaims gain to be its end and aim, the more petty, the more hateful and the more embittering it is.

【直訳】公然とこの専制が、利得をその結果であり目的であると賛美すればするほど、それは、ますますけちな、ますますいまいましく、そしてますます苦々しいものになる。

【訳文】この専制は、営利が自分の最後の目的だとあからさまに公言するするようになればなるほど、ますますけちな、ますます意地汚い、ますます腹立たしいものとなる。(49p)

【研究】「営利」と「利得」は意味が違う、gainは「利得」。営利は利得を得る前の行為。 「あからさまに公言」は同義重複。「公然と…賛美」がいいにきまっている。 gainに「が」をつけ、its end and aimを「自分の最後の目的」などとするのは乱暴狼藉というものだ。いったい「営利が……公言する」などという日本語がまぎれこむこと自体、国際的な恥となる。助詞「は」と「が」を組み合わせて使うときの主語の位置を詮索しなければならぬような文章を書いてはならない。 全体の文章の性格から言って、「この専制は…」か「この専制が…」か? この場合後者でなければならない。後文最後の itが「それは」で効いているからである。訳文はこれを無視するので、専制の自己本位の行為を評価するかくれた主語が後文を成立させていることが伝わってこない。日本語における「現代正書法」の一ヵ条である。  

The less the skill and exertion of strength implied in manual labor, in other words, the more modern industry becomes developed, the more is the labor of men superseded by that of women.

【直訳】熟練と肉体労働に含まれる知力の発揮がますます重要でなくなれば、すなわち、近代工業がますます発展するにつれ、ますます多くなるのは、男性の労働が女性のそれによって取って代わられることである。

【訳文】手の労働に必要な熟練と力わざとが少なくなればなるほど、すなわち近代的工業が発展すればするほど、男子の労働は、ますます婦人の労働によって押しのけられる。49p

【研究】「手の労働に必要な熟練と力わざ」とはどういう意味か? 原文とは無縁の用語。最初の The lessは単に量の問題ではなくskill strengthの社会的な重んじられ方である。

No sooner is the exploitation of the laborer by the manufacturer, so far at an end, that he receives his wages in cash, than he is set upon by the other portion of the bourgeoisie, the landlord, the shopkeeper, the pawnbroker, etc.

【直訳】工場主による労働者の搾取が、彼が現金で賃金を受け取ることで終わりとなるや否や直ちに、彼は、他の部分のブルジョアジーによって、大家、小売商人、質屋等々をけしかけられる。

【訳文】労働者が自分の労働賃金を受け取って、工場主による労働者の搾取が終わると、そのとき、彼等には、他の部分のブルジョア階級がおそいかかる、すなわち、家主、小売商人、質屋等々が。49p

【研究】訳文の間違いは、直訳と対比すれば一目瞭然であろう。「家主、小売商人、質屋等々」はブルジョアジーには入らない。原文の主語を尊重しないと、「 is set upon by ①… ②…」が、「①…によって②…をけしかけられる」であることを見逃し、ブルジョアジーの概念に訳者は無関心なのかと疑わせることになる。  

The lower strata of the middle class the small tradespeople, shopkeepers, and retired tradesmen generally, the handicraftsmen and peasants all these sink gradually into the proletariat, partly because their diminutive capital does not suffice for the scale on which Modern Industry is carried on, and is swamped in the competition with the large capitalists, partly because their specialized skill is rendered worthless by new methods of production.

【直訳】中産階級のより低い層―小さい小売店主、商人及び一般に退職した熟練工、手職人及び小農―すべてこれらはだんだんプロレタリアートに零落する、それはある場合には彼等のちっぽけな資本が 近代産業の持ちこんだスケールに十分ではなく、大資本家との競争で手も足も出なくさせられるからであり、ある場合には、彼等の専門の技術が生産の新しい方法によって無価値にされるからである。

【訳文】これまでの下層の中産階級、すなわち小工業者、商人および金利生活者、手工業者および農民、これらすべての階級はプロレタリア階級に転落する。それは、ある場合には彼等の小資本が大工業の経営には足りず、もっと大きな資本家との競争に負けるからであり、ある場合には彼等の熟練が新しい生産様式によって価値を奪われるからである。

50p)

【研究】行頭の「これまでの」は無意味。金利生活者、手工業者」は、範疇として中産階級の下層には入らない、原文にもない。 sinkに「転落する」意味はない。 「小資本が大工業の経営には足りず」は当たり前のことで理由にはならない、原文もそんな愚かなことは言っていない。この部分の直訳「近代産業の持ちこんだスケールに十分ではなく」に戻さなければならない。 specialized skillを単に「熟練」とするのも文章の論理から見て概念放棄、翻訳放棄というしかない。  

They direct their attacks not against the bourgeois condition of production, but against the instruments of production themselves; they destroy imported wares that compete with their labor, they smash to pieces machinery, they set factories ablaze, they seek to restore by force the vanished status of the workman of the Middle Ages.

【直訳】彼等はその攻撃を、生産のブルジョア的条件に反対してではなくて、生産そのものの道具に反対して、向ける。すなわち、彼等は、彼等の労働と競争する輸入された製作品を破壊する、かれらは機械をこなごなに打ち壊す、かれらは工場を怒りで真っ赤に燃え立たせる、かれらは中世の職人の消滅した地位を力ずくで取り戻そうと努める。

【訳文】彼等はその攻撃を、ブルジョア的生産諸関係に向けるばかりでなく、生産用具そのものにも向ける。彼等は、競争する外国商品を破壊し、機械を打ち壊し、工場を焼き払い、中世的労働者の滅び去った地位を再び自分に取り戻そうと試みる。50p)

【研究】not against , but against の訳は直訳でなければ後文の史的事件と整合しない。

 直訳で復活させた「こなごなに」to pieces、「怒りで真っ赤に燃え立たせる」setablaze、「消滅した」vanished、「努める」seek toは、初期の労働者の歴史的悲哀を描写する不可欠の形容語句であるにもかかわらず、訳者は登記所のお役人の冷淡さで原語を破棄したり、丁寧に誤訳を与えているのは残念。 …を再び…に取り戻そう…」は無意識の重複であろう。 

Thereupon, the workers begin to form combinations (trade unions) against the bourgeois; they club together in order to keep up the rate of wages; they found permanent associations in order to make provision beforehand for these occasional revolts. Here and there, the contest breaks out into riots.

【直訳】その結果、労働者はブルジョアに対して団結(労働組合)を形成し始める。 彼等は賃金のレートを維持するために結束する。彼等は、これら時折の反乱に対する事前の準備を築きあげるために、永続する組合を作り出した。ここかしこで、抗争は、暴動に突発する。

【訳文】こうして労働者は、ブルジョアに対抗する同盟を結び始める。彼等はその労働賃金を維持するために集会する。彼等は自ら継続的な組合を作って、この不時の反抗のために食糧を準備する。時には闘争は暴動となって爆発する。51p)

【研究】団結(労働組合)の原語が combinations (trade unions)=「取引同盟」、何を取り引きするかといえば「賃金レート」であって「労働賃金」ではない。「彼等は自ら継続的な組合を作って、この不時の反抗のために食糧を準備する。」は順序が逆だ。原文の流れどおりにすると「食糧を準備する」が「事前の準備を築きあげる」となり、この結果が「永続する組合を作り出す」ことになる。なお、permanentに「継続的な」の意味はない。日本語でも「永続」と「継続」は意味が違う。 club togetherが「棍棒を持って結束する」意味であることを知れば、単に「集会する」という訳語を与えるのは、訳者の原著者に対する「つれなさ」と評価しておこうか。  

The real fruit of their battles lie not in the immediate result, but in the ever expanding union of the workers.

【直訳】彼等の戦いの真の果物は、即時的結果にあるのではなく、絶えず拡大する労働者の団結にこそ見出される。

【訳文】彼等の闘争の本来の成果は、その直接の成功ではなくて、労働者の団結がますます広がっていくことである。51p

【研究】原文は、一主語一述語( lie: ある、見出される)で無駄なくスマートにまとめられている。これに比し訳文は、主語を二つにし、動詞も二つでっち上げ、かくして伝達速度を半分にした典型的な悪文である。これでは国際競争に勝てるわけがない。 単語で目障りなのは「本来の」である、 realに平気でこの訳語を与えるのは日本語に対する無知と論理感覚の無さの見本、resultに「成功」を与えるのも同じ、失敗も結果に入る。  

The bourgeoisie finds itself involved in a constant battle.

【直訳】ブルジョアジーは、絶えず続く戦いに巻き込まれている自身を悟る。

【訳文】ブルジョア階級は、たえまなく闘わなければならない。(52p)

【研究】これは訳文ではない。「たえまなく闘」うだけでは、次に展開するブルジョアジーが闘わざるを得ない歴史の諸局面の叙述が不用になる。itself involved(巻き込まれている自身)を訳しこまなければ文章は気の抜けたビールになる。 

The bourgeoisie itself, therefore, supplies the proletariat with its own elements of political and general education, in other words, it furnishes the proletariat with weapons for fighting the bourgeoisie.

【直訳】ブルジョアジー自身は、それゆえに、プロレタリアートに、政治及び一般教育に関する自分自身の要素を供給する、言い変えれば、ブルジョアジーは自分の戦いのために、プロレタリアートに武器を与える。

【訳文】こうしてブルジョア階級は自ら、自分自身の教育要素を、すなわち自分自身に向けられる武器をプロレタリア階級に供給することになる。(52p)

【研究】「自分自身の教育要素」が、どうして「自分自身に向けられる武器」になるのか? また「自分自身の教育要素」とはそもそも何であるか? 訳文のミスが招くミステリーだ。 

Finally, in times when the class struggle nears the decisive hour, the progress of dissolution going on within the ruling class, in fact within the whole range of old society, assumes such a violent, glaring character, that a small section of the ruling class cuts itself adrift, and joins the revolutionary class, the class that holds the future in its hands.

【直訳】ついに、究極的に階級闘争が決定的な頃合に近づく時、続いて起こる崩壊の成り行きは、支配階級内で、現実には旧社会全範囲の内部で、異常な激しさ、目だった特徴を呈する。すなわち、支配階級のある小規模なセクションは自分自身を切り離して漂い、そして革命的な階級に合流する、その階級こそが将来をその手に握る。

【訳文】階級闘争がいよいよ決着に近づく時期になると、支配階級の内部における、旧社会全体の内部における分解過程は、きわめて激しい、きわめて鋭い性格をおび、支配階級の小部分はこの階級を見捨てて、革命的階級に、未来をその手に握る階級に結びつく。53p

【研究】革命が成熟し、旧社会の崩壊を目立って特徴付ける場面の歴史描写であるが、これは原文どおり頭から読み下す翻訳に迫力がある。この場合「…頃合に近づく時、続いて起こる崩壊の成り行き」、「自分自身を切り離して漂い、合流する」と言った原文にある用語をその通りの流れで再現することが必要であろう。

The other classes decay and finally disappear in the face of Modern Industry; the proletariat is its special and essential product.

【直訳】その他の階級は、次第に衰え最終的に 近代工業の前で消滅する。プロレタリアートは、その独特かつ本質的産物である。

【訳文】その他の階級は、大工業が起こるとともに衰退し、滅亡する。プロレタリア階級は大工業のもっとも独自な産物である。(53p)

【研究】言葉は似ていれば何を使おうと訳者の勝手、ならば科学は成立しない。原文は国際的に発表された歴史科学の論文である。直訳を尊重するのもそのためである。「次第に衰え最終的に 近代工業の前で消滅」を訳文は「大工業が起こるとともに衰退し、滅亡する」とし、また、「独特かつ本質的産物」を「もっとも独自な生産物」としている。見るとおり、訳文ではなく翻訳者の「脚本」に堕落している。日本語としても「起こるとともに衰退、滅亡」「もっとも独自」などと言う用語には意識がつまづく。 

The lower middle class, the small manufacturer, the shopkeeper, the artisan, the peasant, all these fight against the bourgeoisie, to save from extinction their existence as fractions of the middle class.

【直訳】下層中産階級、小さい工場主、店主、職人、農民、全てこれらは、ブルジョアジーに対して闘う、中産階級の端数としての彼等の生存を死滅から救うためである。

【訳文】中産階級、すなわち小工業者、小商人、手工業者、農民、これらはすべて、自分たちの中産階級としての存在を破滅から守るために、ブルジョア階級と闘う。(53p)

【研究】The lowerとfractionsとを訳文は訳をはずしている。一番肝心なところをだ。save fromを「破滅から守る」としているが、日本語の使い方でもこれはない。 

If, by chance, they are revolutionary, they are only so in view of their impending transfer into the proletariat;

【直訳】もし、偶然に、彼等が革命的であるならば、彼等は、単に彼等の差し迫ったプロレタリアートへの移行を考慮した結果そうであるにすぎない。

【訳文】彼等が革命的である場合、それは、自分の身に迫っているプロレタリア階級への移行を顧慮してのことであり。(53p)

【研究】「偶然に」 by chanceは、「彼等」が消滅する必然性にあっても、その故に革命的になる必然性はないことを言う。これは前項の叙述の展開を受けて、この層の革命性を説明するキーワードである。これを欠けば「彼等が革命的である場合」がいつか必然的に生まれる、という誤った判断を前提にすることになる。  

The proletariat, the lowest stratum of our present society, cannot stir, cannot raise itself up, without the whole superincumbent strata of official society being sprung into the air.

【直訳】プロレタリアート、我々のいる社会の最も低い階層は、自分自身を奮起させることができない、立ち上がらせることができない。公的社会の全抑圧階層が空中に跳ね飛ばされることなくしては。

【訳文】現代社会の最下層であるプロレタリア階級が起き上がり、立ち上がることができるためには、公的社会を形成する諸層の全上部構造を空中にけし飛ばさねばならない。(54p)

【研究】原文 (直訳)の構造を逆にいえば、訳文のようになるだろうか?  not [never]without doing… …しないで…することはない=…すればきっと…する.〉によれば、「公的社会の全抑圧階層が空中に跳ね飛ばされれば、プロレタリアートはきっと立ちあがれる」となる。訳文にはならない。訳文は「プロレタリアートが立ち上がれるには、全上部構造をけし飛ばさなければならない」という意味であるから、プロレタリアートが「けし飛ばし」に先ずかかれと言う号令となっている。それが出来れば既に彼等は立ち上がっていることではないか、という論理の矛盾に訳者は気付かない。 この混乱は、この一文の主語であるプロレタリアートが支配する述語の範囲がwithout以下には及んでいないことを見落としたことにある。構文上の法則に忠実でさえあればこんなミスを犯すことはない。ところが、この一文を訳文のように読み直したところに、実はレーニン主義の論理学的源泉があった。洗い出せば次の通りである。 公的社会の全抑圧階層が空中に跳ね飛ばされる」には何が必要だったのか? レーニンはボルシェビキの赤色テロをそこにセットしたが、マルクス・エンゲルスは全く違うものをこの文の直前にセットしていた。すなわち、

The proletarian movement is the self-conscious, independent movement of the immense majority, in the interest of the immense majority.

( プロレタリアの運動は、一人ひとりが自覚した、図り知れない大多数の利益に基づく計り知れない大多数の独立した運動である。)54p〉。

 また、レーニンのボルシェビキ運動を予見して、この文章の前に次のように書いている。

All previous historical movements were movements of minorities, or in the interest of minorities.

 ( 全てのこれまでのは、少数者集団の、もしくは少数者集団の利害関係の中での動きであった。)〈54p〉。

 レーニンの「社会主義革命」なるものは、歴史的な運動には相違なかろうが、ボルシェビキ(少数者集団)の利害関係のみの、後ろ向きの・前近代的範疇に属するものに過ぎないと、マルクス・エンゲルスは早くから指摘していた、ということになるし、訳者たちも翻訳していながらこの真相に気付けなかった、論理学音痴「学者」だったわけだ。アーメン。 

Though not in substance, yet in form, the struggle of the proletariat with the bourgeoisie is at first a national struggle. The proletariat of each country must, of course, first of all settle matters with its own bourgeoisie.

【直訳】実質的ではないが、今なお外観上、ブルジョアジーに対するプロレタリアートの闘争は、最初は国民的闘争である。各国のプロレタリアートは、当然、まず自国のブルジョアジーを相手とする諸問題を確定しなければならない。

【訳文】ブルジョア階級に対するプロレタリア階級の闘争は、内容上ではないが、形式上は、何よりも第一に国民的闘争である。おのおのの国のプロレタリア階級は、当然まず自分自身のブルジョア階級を片づけねばならない。(54p)

【研究】settle matters with its own bourgeoisieをどう翻訳するか? 訳文はmatters(諸問題)を見落としたところで大ミスを犯している。プロレタリアートの闘争が、最初は国民的形態をとる以上、当然ブルジョアジーを相手にした闘争の国民的課題を確定する必要がある。いきなり敵を片づけることがfirst of allの仕事になるわけがない。

 この思想の重大性について、マルクスは有名な次の定義を「政治経済学批判」(1859)に遺している。

Mankind always sets itself only such problems as it can solve; since, looking at the matter more closely, it will always be found that the task itself arises only when the material conditions for its solution already exist or are at least in the process of formation. (A Contribution to the Critique of Political Economy(1859) preface (translated by D.McLellan),(quoted from The Oxford Dictionary of Quotations 499p).

 ( 人類は常に、それが解決し得るような問題のみを自身に課す。故に、更に注意深くその問題を見て、既にその解答の物質的条件が存在する、もしくは、少なくとも形成の途中である時のみ、その課題がそれ自体現れるということが常に分かるであろう。

 この定義は、すべての領域で、「問題とは何ぞや」を解く唯一のキーワードとなっていることで有名である。 

In depicting the most general phases of the development of the proletariat, we traced the more or less veiled civil war, raging within existing society, up to the point where that war breaks out into open revolution, and where the violent overthrow of the bourgeoisie lays the foundation for the sway of the proletariat.

【直訳】プロレタリアート発展の最も一般的な諸段階を描写する作業で、我々は、多かれ少なかれ覆い隠された内乱を、現存する社会の中で荒れ狂いながら、その戦争が公然たる革命に転化する地点、更にブルジョアジーの暴力的打倒がプロレタリアートの影響力を行使するための土台を据え付ける地点、に至るまで、追跡した。

【訳文】以上、我々は、プロレタリア階級の発展のもっとも一般的な諸段階を描きながら、現存社会内の多かれ少なかれ隠れた内乱を追求して、それが公然たる革命となって爆発する点まで達した。こうしてブルジョア階級を強力的に崩壊させ、それによってプロレタリア階級がその支配を打ちたてるときがきたのである。(55p)

【研究】訳文は原文を無視して、下手なアジテーションを叫ぶだけ、に堕落した。如何に支離滅裂かは直訳を鏡とすれば一目瞭然。論理学として関心とすべき点は、「ブルジョアジーの暴力的打倒がプロレタリアートの影響力を行使するための土台を据え付ける地点」という言い方が弁証法。「ブルジョア階級を強力的に崩壊させ、それによってプロレタリア階級がその支配を打ちたてるときがきた」という捉え方が形式論理学。で、生きた歴史は弁証法的であるから、それを反映する概念の配列、文章の作り方もそれを意識しなければならぬ…。この核心を自家薬篭中のものにすることである。

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(私論.私見)