17条憲法考

 更新日/2018(平成30).5.8日

 (れんだいこのショートメッセージ)

 604.4.3日、推古天皇の御世12年夏、摂政職の聖徳太子が17条憲法を制定した。その趣旨は、1・指導理念としての和の政治、2・神道に代えて仏教に基づく政治、3・豪族連合体制から一層の天皇制中央集権化、4・官僚の服務規程等々を規定し説教したことにある。その言は、時代と体制を超えて今も有効な名句に散りばめられている。

 驚くべきことは、17条憲法の解釈もかなり杜撰であることである。それによって極力役に立たないように死文化せしめられているように思われる。確かに解読が難解な箇所もあるが、それなりに現代文訳しておくべきだろう。そして、目下の役人どもに言い聞かせねばなるまい。愛国心を云うのなら、17条憲法を連中の必須読本とさせねばなるまい。れんだいこの読むところ、連中には都合の悪い規定が網羅されているのが滑稽である。

 ここに「聖徳太子憲法」原文及び書き下し文を書きつけておく。有馬祐政・黒川真道編「国民道徳叢書第二篇」(博文館、明治44.12.25日発行)、飯島忠夫・河野省三編「勤王文庫第一篇」(大日本明道館、大正8.6.15日発行)、「十七条憲法」、「十七条の憲法」、「十七条憲法の考察」、「憲法十七条、聖徳太子の政治理念・哲学の表明」、「中野文庫」、「日本文学電子図書館」その他を参照し、れんだいこなりに現代文翻訳した。
 
 
 2006.12.20日 れんだいこ拝


【聖徳太子の十七条憲法】
 推古天皇十二年夏四月丙寅朔戊辰 皇太子親肇作憲法十七条
 (注)、條=条。
 推古天皇の御世12年夏(604.4.3日、皇太子自らが筆を執り憲法十七条を策定する。
 一曰。以和為貴。無忤為宗。人皆有党。亦少達者。是以或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦。諧於論事。則事理自通。何事不成。
 (第1条、総合規定その1、「和を以て貴しを旨とせよ」の規定)

 一に曰く、和を以て貴しと為し、争い無きを宗とせよ。人は皆な党派に属して群れたがるものであり、道理を弁える物分りの良い者は少ない。そういう訳で、時に君主の命に従わぬこともある。あるいは隣近所と仲違いを起し祖法に違うこともある。しかれども、上和し下睦み、互いが襟を正して事を論ずれば、物事の理自ら通じ、不祥事は起きないとしたものだ。
 (注)、和=やわらぎ。忤=逆らう。党=たむら。亦=又。君父=きみかそ。順=したがう。隣里=さととなり。論=あげつらう。諧=ととのえる。末尾の「何事不成」は意味不明。一字欠落している可能性が有り、「何事も成らずということなし」と意訳した。あるいは、不都合は起きない、と訳すべきか。
 二曰。篤敬三宝。三宝者仏法僧也。則四生終帰。万国之極宗。何世何人非貴是法。人鮮尤悪。能教従之。其不帰三宝。何以直枉。
 (第2条、総合規定その2、「仏教の教えを国の基本とせよ」の規定)

 二に曰く、篤く三宝を敬え。三宝とは、仏法僧のことである。仏教は、あらゆる生き物が最終的に帰すところの万国の極めの宗である。何れの世、何れの人かこの法を貴ばざるか。人は、はなはだ悪しき者は少なし。能く教えれば之に従う。それ、仏法に基づかね何を以て曲がれるを直さん。
 (注)、篤=あつい。三宝=さんぼう、仏教の仏・法理・僧侶のこと。仏法僧=ほとけのりほうし。仏=覚者、法=教義、僧=教えの実践者。四生=ししやう。胎生、卵生、湿生、化生の称で凡べての生物を云う。帰=よりどころ。尤=はなはだ。鮮=すくなし。枉=まがる。
 三曰。承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆地載。四時順行。方気得通。地欲覆天。則致壊耳。是以君言臣承。上行下靡。故承詔必慎。不謹自敗。
 (第3条、官吏服務規程その1、「天皇の詔勅を尊び従え」の規定)

 三に曰く、天皇の詔を承りては必ず謹んでそれに従いなさい。君主は天であり、臣は地である。天が地をおおい、地が天をのせている。これが道理であり、天が地を支配するからこそ四季が正しく廻り、四方の万物に精気が通うとしたものだ。逆に、地が天を覆うことを欲するときは、秩序が破壊され雑音がかまびすしくなる。君の言を臣が承わり、上の行いに下は靡くのが良い。故に、詔を承ては必ず謹んで従え。尊び従わねば自滅しようぞ。
 (注)、詔=みことのり。承=うけたまわる。臣=やつこら。地=つち。四時=四季。順=めぐる。方気=ほうき。覆=くつがえす。壊=やぶれる。言=のたまう。靡=なびく。
 四曰。群卿百寮。以礼為本。其治民之本。要在乎礼。上不礼而下非斉。下無礼以必有罪。是以君臣有礼。位次不乱。百姓有礼。国家自治。
 (第4条、官吏服務規程その2、「役人は礼儀を重んぜよ」との規定)

 四に曰く、役人は、礼を以て本と為せ。それ民を治むるの根本は礼にある。上に礼なければ下が斉(ととの)わない。下に礼なければ必ず罪を生む。これをもって君臣に礼あるときは職位の席次が乱れない、ことを知るべきだ。百姓(ひゃくせい)に礼あれば国家は自ずと治まる。
 (注)、群卿=まちきみたち。百寮=つかさづか。群卿百寮=。要=かならず。次=つぎ。)斉=ととのう。位次=。国家=あめのした。
 五曰。絶饗棄欲。明弁訴訟。其百姓之訟。一日千事。一日尚爾。況乎累歳。須治訟者。得利為常。見賄聴●(ゴンベン+「獻」)。便有財之訟。如石投水。乏者之訟。似水投石。是以貧民。則不知所由。臣道亦於焉闕。
 (第5条、官吏服務規程その3、「役人は職務を私物化する勿れ」との規定)

 五に曰く、役人は、饗応接待を絶ち、私欲を棄て、訴訟に対しては公明厳正に審査し判決しなければならない。それ百姓の訟えは一日に千件ほどあり、それ以上の日もある。一日でもこのありさまであるから、これを毎年累積させればどうなるか。この頃、訴訟を担当する者に私利私欲に走る者がある。彼らは、賄賂を見て裁決する。財力ある者の訴えは石を水中に投げるように受け入れられ、貧しき者の訟は水を石に投るに似て聞き入れられない。これにより貧民は頼るべきところが持てず困惑せしめられている。こういうことが罷り通るのは役人が君臣の道に背いているからである。
 (注)、饗=あぢはひのむさぼり。訴訟=うったえ。弁=わきまえる。爾=しかり。累=かさねる。須=すべからく。賄=まひなひ。●=ゴンベン+「獻」、ことわり。聴=ゆるす。便=すなはち。財=たから。所由=よるところ・せむすべ。臣=やつかれ。焉=ここ。闕=かける。
 六曰。懲悪勧善。古之良典。是以無惹人善。見悪必匡。其諂詐者。則為覆国家之利器。為絶人民之鋒剣。亦侫媚者。対上則好説下過。逢下則誹謗上失。其如此人。皆无忠於君。無仁於民。是大乱之本也。
 (第6条、官吏服務規程その4、「役人は阿諛追従を戒め忠義を重んぜよ」との規定)

 六に曰く、勧善懲悪は古よりの良き典(しきたり)である。これにより人が善に欠けることなく、悪を見ては必ず正すことになる。それ、諂(へつらい)いや偽りは、国家を覆(くつがえ)す利器であり、人民を滅ぼす鋭利な剣である。又、妬み媚びりは、上に対しては好んで下の者の過失を言いつけ、下の者に会えば上の過ちを誹謗(ひぼう)する。それ、これらの人は皆な、君主に対する忠義心がなく、人民に対する仁徳がない。これは大乱の基いである。
 (注)、懲=こらしめる。典=のり。惹=かくす。匡=ただせ。諂=へつらう。詐=いつはる。為=おこない。鋒剣=。侫=かたましい。媚=こびる。対=むかう。失=あやまち。誹謗=そしる。如此=これら。忠=いさをしきこと。无=なし。仁=めぐむ。
 七曰。人各有任掌。宜不濫。其賢哲任官。頌音則起。奸者有官。禍乱則繁。世少生知。尅念作聖。事無大少。得人必治。時無急緩。遇賢自寛。因此国家永久。社稷無危。故古聖王。為官以求人。不求官。
 (第7条、官吏服務規程その5、「役人の権力乱用の戒め」の規定)

 七に曰く、役人には各々任務があり、権力を乱用してはならない。それ、賢哲が官に任ぜられれば良い評判が立ち、悪賢い者が官に任ぜられれば災禍や戦乱が多くなる。世の中の人で道理を弁える者は少ないけれども、心掛け次第で聖人になることができよう。諸事大きなことも小さきことにも適任の人を得れば治まる。時代の動きの緩急に関係なく、賢者が出れば自ずと寛がせるものである。これによって国家は永久に安泰となり、朝廷が危うくなることはない。故に、古の聖王は、官職に相応しい人を求め、官職に相応しくない者は登用しなかった。
 (注)、任掌=よさしつかさどること。濫=みだす。任=よさす。頌=ほめる。有=たもつ。尅=よく。念=おもう。作=なす。寛=ゆたか。社稷=しやしよく。重臣、朝廷。故=かれ。
 八曰。群卿百寮。早朝晏退。公事靡●(「鹽」の右上の「鹵」の代りに「古」)。終日難尽。是以遅朝不逮于急。早退必事不尽。
 (第8条、官吏服務規程その6、「役人の出仕と退出の要領」の規定)

 八に曰く、群卿百寮(役人、官吏)は朝早く出仕し、遅く退出せよ。公務には暇なく一日中限がないぐらいで良い。逆に、朝遅く出仕すれば緊急の用に間に合わない。早く退出するようでは、事務を中途半端にし残してしまうことになろう。
 (注)、朝=まゐる。晏=おそい。退=まかる。終日=ひねもす。逮=およぶ。
 九曰。信是義本。毎事有信。其善悪成敗。要在于信。君臣共信。何事不成。君臣無信。万事悉敗。
 (第9条、官吏服務規程その7、「役人には信義誠実が肝要」との規定

 九に曰く、信はこれ義の根本である。事を司るに当っては、まずは信あれ。それ善悪成敗の肝要は信にある。君臣共に信あるときは、不祥事は起きないとしたものだ。君臣間に信無ければ、ゆることなすことがうまくいかないだろう(万事にことごとく失敗しよう)。
 (注)、毎=ごと。
10
 十曰。絶忿棄瞋。不怒人違。人皆有心。心各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理。誰能可定。相共賢愚。如鐶无端。是以彼人雖瞋。還恐我失。我独雖得。従衆同挙。
 (第10条、官吏服務規程その8、「役人は恣意的な怒りの専横を慎むべし、衆議を重んぜよ」との規定)

 十に曰く、怒りを絶ち、不明を棄て、人の間違いを怒ってはならない。人には皆なそれぞれに考えがあり、心には各々の拘りがある。彼が是としても我には非なり、我が是としても彼には非なり。我は必ずしも聖に非ず。彼も又必ずしも愚に非ず。共にそれ凡夫なのだ。是非の理を誰が能く定めることができよう。賢なる者も愚なる者も相共に、耳輪の端がないようなものである。故に、彼が不明なる者と雖も、却って我が過ちを恐れよ。自分独りが能く会得していることであっても、衆議に諮り挙手で決めるのが良い。
 (注)、忿=いかり。瞋=いかり。凡夫=ぼんぶ。鐶=みみかね。无=なし。還=かへつて。挙=おこなう。
11
 十一曰。明察功過。賞罰必当。日者賞不在功。罰不在罰。執事群卿。宜明賞罰。
 (第11条、官吏服務規程その9、「役人は信賞必罰を厳正にせよ」との規定)

 十一に曰く、官吏たちの功罪を明らかに察して、賞罰を厳正にせよ。この頃、賞が適正でなく、罪が罰として罰せられていない。最高権限を持つ官僚は、賞罰を厳正にせねばならない)
 (注)、明察=あきらか。日者=このごろ。罰=つみ。
12
 十二曰。国司国造。勿歛百姓。国非二君。民無両主。率土兆民。以王為主。所任官司。皆是王臣。何敢与公賦歛百姓。
 (第12条、官吏服務規程その10、「役人による民百姓に対する圧政厳禁」の規定)

 十二に曰く、国司、国造よ、民百姓を苛斂誅求すること勿れ。国に二君居ることが非のように、民百姓にも両主はない。国内の億兆の民百姓は王を主と為している。任に就いた役所の官吏は皆なこれ王の家臣である。税を賦課するのに何ぞ敢て百姓に苛斂誅求するのか。
 (注)、国司=みこともち。中央から地方に赴いた役人。国造=くにのやつこ。元地方の豪族にして世襲の地方官。斂=をさめとる。二君=ふたりのきみ。両の主=ふたりのぬし。率土=そつと。王=きみ。所任官司=よさせるつかさみこともち。公=おほやけ。与=とも。
13
 十三曰。諸任官者。同知職掌。或知職掌。或病或使。有闕於事。然得知之日。和如曾識。其以非与聞。勿防公務。
 (第13条、官吏服務規程その11、「役人の職務精通と業務引継ぎ」の規定)

 十三に曰く、諸々の任官者よ、職掌に精通しなさい。当初は、職掌に精通する面、役に未熟な面、職能不足の面があろうが、そうこうするうちにやがて業務に精通する日がこよう。知ったならば前々より精通していたかの如く振舞いなさい。それ、自分の管轄外だと云う理由で、公務を防げること勿れ。
 (注)、諸=もろもろ。任官者=よさせるつかさびと。職掌=つかさごと。闕=おこたる。和=あまなう。曾識=いむさきよりしる。公務=まつりごと。
14
 十四曰。群卿百寮。無有嫉妬。我既嫉人。人亦嫉我。嫉妬之患。不知其極。所以智勝於己則不悦。才優於己則嫉妬。是以五百之。乃令遇賢。千載以難待一聖。其不得聖賢。何以治国。
 (第14条、官吏服務規程その12、「役人は相互の嫉妬を慎め」の規定)

 十四に曰く、役人よ、互いに嫉妬してはならない。我が人を妬めば、人も又我を妬む。嫉妬の患いは極まりを知らない。そういう手合いは、相手の智が自分より勝っていれば悦べず、相手の才が自分より優れていれば妬む。五百年ぐらい経てば賢者に遇うことはできるかも知れない。しかし、たった一人の聖人が出現するのは千年でも難しい。それ、聖賢を得ざれば、どうやって国を治めようか。
 (注)、嫉=そねむ。妬=ねたむ。嫉妬=ねたむ。五百=いほとせにして。賢=さかしひと。
15
 十五曰。背私向公。是臣之道矣。凡夫人有私必有恨。有憾必非同。非同則以私妨公。憾起則違制害法。故初章云。上下和諧。其亦是情歟。
 (第15条、官吏服務規程その13、「役人は私心を慎め」の規定)

 十五に曰く、私心を捨てて公務に就くのが臣の道である。凡そ人に私心あれば必ず恨みあり。憾みあれば必ず同(ととのお)わない。同らざれば則ち私をもって公を妨ぐ。憾み起れば制度を狂わせ、法秩序を害う。故に、第一条で上下相和し襟を正して議論しなさいと指摘している。それは、こういう心情からであるぞよ。
 (注)、夫人=ひとびと。同=ととのう。制=ことはり。法=のり。害=やぶる。章=くだり。上下和諧=あまなひととのほれ。情=こころ。歟=かな)。
16
 十六曰。使民以時。古之良典。故冬月有間。以可使民。従春至秋。農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何服。
 (第16条、官吏服務規程その14、「役人による民百姓に対する労役賦課の際の原則」の規定)

 十六に曰く、民百姓を使役せしめるには時期を考慮せよとは古の良い典なり。それに拠れば、冬の月には暇あり。よって民を使うべし。春より秋に於いては農業や養蚕の季節であるので民を使うべからず。それ、農ならざれば何をか食はん。養蚕ならずば何をか着ん。
 (注)、古=いにしへ。良典=よきのり。故=かれ。間=いとま。農桑=なりはひこがひ、たつくりこがひ。節=とき。農=なりはい。桑=(くはとらず。服=きる。
17
 十七曰。夫事不可断独。必与衆宜論。少事是軽。不可必衆。唯逮論大事。若疑有失。故与衆相弁。辞則得理。
 (第17条、官吏服務規程その15、「役人は万機公論を重んぜよ」の規定)

 十七に曰く、それ、何事も独断すべからず。必ず衆議により共に宜しく論ずるべし。些細なことは衆と論ずることもない。但し、大事を論ずる際には万一の過ちある事を疑い、衆と共に相弁ぜよ。そうすれば道理にかなう結論が得られよう。
 (注)、独断=ひとりさだむ。衆=もろもろ。論=あげつらう。逮=およぶ。失=あやまち。弁=わきまえる。辞=こと。

Re:れんだいこのカンテラ時評244 れんだいこ 2006/12/21
 【れんだいこの聖徳太子の憲法17条現代文訳】

 推古天皇の御世12年夏(604.4.3日、皇太子自らが筆を執り憲法十七條を策定する。

(第1条、総合規定その1、「和を以て貴しを旨とせよ」の規定)

 一に曰く、和を以て貴しと為し、争い無きを宗とせよ。人は皆、党派に属して群れたがるものであり、道理を弁える物分りの良い者は少ない。そういう訳で、君主の命に従わぬこともある。あるいは隣近所と仲違いを起し祖法に違うこともある。しかれども、上和し下睦み、互いが襟を正して事を論ずれば、物事の理自ら通じ、不祥事は起きないとしたものだ。
 
(第2条、総合規定その2、「仏教の教えを国の基本とせよ」の規定)

 二に曰く、篤く三宝を敬え。三宝者とは、仏法僧のことである。仏教は、あらゆる生き物が最終的に帰すところの万国の極めの宗である。何れの世、何れの人かこの法を貴ばざるか。人は、はなはだ悪しき者は少なし。能く教えれば之に従う。それ、仏法に基づかね何を以て曲がれるを直さん。
 
(第3条、官吏服務規程その1、「天皇の詔勅を尊び従え」の規定)

 三に曰く、詔を承りては必ず謹め。君は天であり臣は地である。天が地を支配するからこそ四季が正しく廻り、四方の万物に精気が通うとしたものだ。逆に、地が天を覆うことを欲するときは、秩序が破壊され雑音がかまびすしくなる。君の言を臣が承わり、上の行いに下は靡くとしたものだ。故に、詔を承ては必ず従え。尊び従わねば自滅しようぞ。

(第4条、官吏服務規程その2、「役人は礼儀を重んぜよ」との規定)

 四に曰く、役人は、礼を以て本と為せ。それ民を治むるの根本は礼に在る。上に礼無ければ下が従わない。下に礼無ければ必ず罪人を生む。君臣に礼有るときは職位の席次が乱れない。百姓に礼有れば国家は自ずと治まる。

(第5条、官吏服務規程その3、「役人は職務を私物化する勿れ」との規定)

 五に曰く、役人は、饗応接待を絶ち、私欲を棄て、訴訟に対しては公明厳正に審査し判決しなければならない。それ百姓の訟えは一日に千件ほどあり、それ以上の日もある。一日でもこのありさまであるから、これを毎年累積させればどうなるか。

 この頃、訴訟を担当する者に私利私欲に走る者がある。彼らは、賄賂を見て裁決する。財力有る者の訴えは石を水中に投げるように受け入れられ、貧しき者の訟は水を石に投るに似て聞き入れられない。こういうことだから貧民は頼るべきところが持てず困惑せしめられている。こういうことが罷り通るのは役人が君臣の道に背いているからである。

(第6条、官吏服務規程その4、「役人は阿諛追従を戒め忠義を重んぜよ」との規定)

 六に曰く、勧善懲悪は古の良き法である。これにより人が善に欠けること無く、悪を見ては必ず正すことになる。それ、諂い偽る者は、国家を覆す利器であり、人民を滅ぼす鋭利な剣である。又、妬み媚びる者は、上に対しては好んで下の者の過失を言いつけ、下の者に会えば上の過ちを誹謗する。それ、これらの人は皆、君主に対する忠義心が無く、人民に対する仁徳が無い。これは大乱の基いである。

(第7条、官吏服務規程その5、「役人の権力乱用の戒め」の規定)

 七に曰く、役人には各々任務があり、権力を乱用してはならない。それ、賢哲が官に任ぜられれば良い評判が立ち、悪賢い者が官に任ぜられれば災禍が多くなる。世の中の人で道理を弁える者少なけれども、心掛け次第で聖人になることができよう。

 諸事大きなことも小さきことにも適任の人を得れば治まる。有事の急無い折には緩めるのが良い。賢者が出れば自ずと寛がせるものである。これによって国家は永久となり、朝廷が危うくなることは無い。故に、古の聖王は官職に相応しい人を求め、誰でもあてがったのではない。

(第8条、官吏服務規程その6、「役人の出仕と退出の要領」の規定)

 八に曰く、役人は朝早く出仕し、遅く退出せよ。公務には暇なく一日中限が無いぐらいで良い。逆に、朝遅く出仕すれば緊急の用に間に合わない。早く退出するようでは、事務を中途半端にし残してしまうことになろう。

(第9条、官吏服務規程その7、「役人には信義誠実が肝要」との規定)

 九に曰く、信はこれ義の根本である。事を司るに当っては、信有れ。それ善悪成敗の肝要は信にある。君臣共に信あるときは、不祥事は起きないとしたものだ。君臣間に信無ければ、万事にことごとく失敗しよう。

(第10条、官吏服務規程その8、「役人は恣意的な怒りの専横を慎むべし、衆議を重んぜよ」との規定)

 十に曰く、怒りを絶ち、不明を棄て、人の間違いを怒ってはならない。人には皆心が有る。心には各々拘りが有る。彼が是としても我には非なり、我が是としても彼には非なり。我は必ずしも聖に非ず。彼も又必ずしも愚に非ず。共にそれ凡夫としてあるのみであろう。是非の理、誰が能く定めることができよう。

 賢なる者も愚なる者も相共に、耳輪の端が無いようなものである。故に、彼が不明なる者と雖も、却って我が過ちを恐れよ。自分独りが能く会得していることであっても、衆議に諮り言と行いを協同せよ。

(第11条、官吏服務規程その9、「役人は信賞必罰を厳正にせよ」との規定)

 十一に曰く、功罪を明らかに察して、賞罰を厳正にせよ。この頃、賞が適正でなく、罪が罰として罰せられていない。最高権限を持つ官僚は、賞罰を厳正にせねばならない。

(第12条、官吏服務規程その10、「役人による民百姓に対する圧政厳禁」の規定)

 十二に曰く、国司、国造よ、政治に於いて民百姓を苛斂誅求すること勿れ。国に二君居ることが非のように、民百姓にも両主は無い。国内の億兆の民百姓は王を主と為している。任に就いた役所の官吏は皆これ王の家臣である。税を賦課するのに何ぞ敢て百姓に苛斂誅求するのか。

(第13条、官吏服務規程その11、「役人の職務精通と業務引継ぎ」の規定)

 十三に曰く、諸々の任官者よ、職掌を相応わしく精通しなさい。或る者は知り、或る者は未熟の者が有り、職能不足の者も居る。そうこうするうちにやがて業務に精通する日がこよう。知ったならば前々より精通していたかの如く振舞いなさい。それ、自分の管轄外だと云う理由で、前任者のしたことは分からないなどと云って公務を防げること勿れ。

(第14条、官吏服務規程その12、「役人は相互の嫉妬を慎め」の規定)

 十四に曰く、役人よ、互いに嫉妬してはならない。我が人を妬めば、人も又我を妬む。嫉妬の患いは極まりを知らない。そういう手合いは、相手の智が自分より勝っていれば悦べず、相手の才が自分より優れていれば妬む。五百年ぐらい経てば賢者に遇うことはできるかも知れない。しかし、たった一人の聖人が出現するのは千年でも難しい。それ、聖と賢なる者を得ぬままどうやって国を治めようか。

(第15条、官吏服務規程その13、「役人は私心を慎め」の規定)

 十五に曰く、私心を捨てて公務に就くのが臣の道である。凡そ人に私心あれば必ず恨み有り。憾み有れば必ず独断を招く。独断の私心は公務を妨げる。憾み起れば制度を狂わせ、法秩序を害う。故に、第一条で上下相和し襟を正して議論しなさいと指摘している。それは、こういう心情からであるぞよ。

(第16条、官吏服務規程その14、「役人による民百姓に対する労役賦課の際の原則」の規定)

 十六に曰く、民百姓を使役せしめるには時期を考慮せよとは古の良典なり。それに拠れば、冬の月には暇有り。よって民を使うべし。春より秋に於いては農業や養蚕の季節であるので民を使うべからず。それ、農ならざれば何をか食はん。養蚕ならずば何をか着ん。

(第17条、官吏服務規程その15、「役人は万機公論を重んぜよ」の規定)

 十七に曰く、それ、何事も独断すべからず。必ず衆議により共に宜しく論ずるべし。些細なことは衆と論ずることもない。但し、大事を論ずる際には万一の過ち有る事を疑い、衆と共に相弁ぜよ。そうすれば道理にかなう結論が得られよう。

 聖徳太子の十七条憲法の研究(rendaizi_rekishikankei_syotokutaishico.htm)

 2006.12.21日 れんだいこ拝

【(聖徳太子)十七条憲法考】
 17条憲法に貫く徳目の順序が興味深い。儒教思想によれば「仁、義、礼、智、信」と並ぶところ、17条憲法では「和(仁)、礼、信、義、智」となっている。




(私論.私見)