大祓詞(おおはらいのりと)文考

 更新日/2025(平成31.5.1栄和改元/栄和7)年2.20日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 れんだいこは今日ふと祝詞(のりと)を知っておきたくなり急きょサイト化した。既成の祝詞文を推敲し、その意味を探った。「にっぽん文明研究所の大祓え」、「【祝詞】大祓詞 おおはらえのことば」、「天津祝詞と神言」、「上野八幡神社祝詞集」その他を参照する。

 2009.3.4日、2014.04.05日再編集  れんだいこ拝


【大祓詞(おおはらいのりと)文考】
 神社庁指定の「大祓詞」(おおはらへののりと、原文は平仮名の部分が万葉仮名)は大正3年に内務省が制定したもので、以降神社本庁の定本として各神社で用いられているが、古来の原文から離れていると思われる。これを仮に「定本・大祓ののりと」と命名する。通説は、「大祓のことば」と読むようである。「定本・大祓ののりと」とは別に別文「六月晦大祓祝詞(みなづきつごもりのおおはらえののりと」(出典:延喜式卷八「祝詞」)がある。これを仮に「別文・大祓ののりと」と命名する。れんだいこは、こちらの方が原文に近いと見立てるので、これを下敷きにして記述を取り入れ推定復元した。まだ十分にはできていないが、判明次第更に書き直すものとする。これを仮に「れんだいこ文・大祓ののりと」と命名する。

 「れんだいこ文・大祓ののりと」は「前口上」、「本口上」、「後口上」の三部作構成とする。「前口上」は祓詞(はらえのことば)、「本口上」が大祓詞(おおはらえのことば)と云われているものである。これに「後口上」を加え仮に「卜部詞(うらべのことば)」とする。「大祓ののりと」の原型が、この三部作で成り立っていたと推定するからである。「れんだいこ文・大祓ののりと」と「定本・大祓ののりと」の違いは、天津神の罪、国津神の罪を列挙している下りが顕著で、「定本大祓詞」では削除されている。「別文・大祓ののりと」には記載されている。れんだいこは、「別文・大祓ののりと」の方が正しいと見立て、徒に原文改訂は良くないと考え復活させた。但し、「別文・大祓ののりと」の記載も語調が不自然で、そのままでは使えなかった。そこで修正した。両者の罪の違いが却って興味深い。

 他にも文言を挿入している。為に若干の違いが生じている。恐らく「定本・大祓ののりと」が削除し「別文・大祓ののりと」には痕跡が残っている合理性のある句を挿入した。「本口上」後半の下りでの「かくいでば」と「天つ宮ごともちて、天つ金木(かなぎ)を本(もと)打ち切り末打ち断ちて」の間に「大中臣(おおなかとみ)」を挿入した。更に「天つ祝詞(のりと)の 太(ふと)のりとごとを 宣(の)れ」の「太のりとごと」の前に「祓へ清めの」を挿入した。「かくきこしめてば 罪といふ罪はあらじと」の「かくきこしめてば」の後に「皇御孫(すめみま)の命の朝廷(みかど)を始めて天下(あめのした)四方(よも)の国(くにぐに)には」を挿入した。末尾段落の「払へたまひ清めたまふことを」の前に「高天原に耳振り立てて 聞くものと馬ひき立てて 今年の六月の晦の日の 夕日の降(くだち)の大祓に」も挿入した。末尾の「共ににきこしめせと まをす」の「まをす」の前に「恐(かし)こみ恐こみ」を挿入した。

 以上は挿入であるが、読みにも工夫した。原文の「磐根樹根立草乃片葉乎母」の下りを「磐根(いはね)、樹根(きね)立ち、草の垣葉(かきは)をも」と読んでいるが、「磐根(いはね)、樹根(きね)、立ち草の垣葉(かきは)をも」に改めた。趣意から見てこう読むべしと思うからである。

 「定本・大祓ののりと」では後半に出てくる「持」を「持つ、持ち」と解読しているのを排して、「も」と解して前の文節に括った。してみれば、大伴家持の名は「やかもち」と読まれるが「やかま」と読む筋もあるやに思われる。これについては今後考察することにする。「以」、「雲」、「母」も「も」と読むが、その使い分けについては今後考察することにする。正しいかどうかは分からないが、訳文上はかく理解した方が意味が通じ語調も頗る良い。これは、れんだいこの新たな発見の一つになった気がする。

 なお、別文では「後口上」があり「四国(よくに)の卜部」が登場している。これをどう読み解くべきか。「四国(よくに)」と「卜部」につき何か重要な歴史的ヒントが隠されているように思われる。いずれにせよ、別文の記載が正しいと見立て、別文にある以上採りいれるべきとして採用した。他にも気がついたことは、「定本大祓詞」の文節が不自然に区切られており、ただでさえ分かりにくいのに余計に分かりにくくされていることだった。意味が通るよう、れんだいこ式に仕切りなおしした。

 そういう訳で、「れんだいこ文・大祓ののりと」を創案した。ここに、その万葉仮名原文、現代文、解釈文を記しておく。全体に格調の高い美文になっている。且つ隠語による暗喩が込められており、古代史上の最大政変をそれとなく伝承している気がする。幾度も復唱暗誦することで自ずと意味が通ずるように工夫されているように思われる。

 留意すべきは、あくまで天津系の手になる「大祓詞」であり、出雲系の「大祓詞」が対置的に別に存在すると考えられることである。但し、こちらは秘されていると思われ、その限りで不明である。出雲国造奏上文「出雲国造神賀詞」(いずものくにやっこかむよごと、又はかむほぎのことば)があるが、それは出雲系の「大祓詞」とは又別文であろう。「出雲国造神賀詞」については「出雲国造家考」で確認する。 

【前口上、禊祓詞(みそぎはらえのことば)その1】
 「禊祓詞」(みそぎはらへの言葉)は、次の「大祓詞(おおはらへの言葉)」の前振りとして奏上される。「禊祓詞(はらへの言葉)」を受けて、「大祓詞(おおはらへの言葉)」が奏上される。以下、読みに合わせてれんだいこ式に仕分ける。その1、2、3とある。
 かけまくもかしこき いざなぎの大神
 筑紫の日向(ひむか)の 橘の小戸(おど)の 阿波岐原に
 御禊(みそぎ)祓へ 給いし時に 生(な)りませる
 祓戸(はらえど)の 大神たち
 諸々の禍(まが)ごと 罪 穢れ あらむをば 
 祓へたまへ 清めたまへと
 曰(まを、申)すことを 聞こしめせと
 恐(かしこ)み恐み 曰す
 かけまくもかしこき いざなぎの大神 筑紫の日向の 橘の小戸の 阿波岐原に 御禊(みそぎ)祓へ 給いし時に なりませる 祓戸(はらえど)の大神たち 諸々の禍(まが)ごと 罪 穢れ あらむをば 祓へたまへ 清めたまへと 曰(まを、申)すことを 聞こしめせと かしこみかしこみ曰す

【前口上、禊祓詞(みそぎはらえのことば)その2】
 高天原(たかまのはら)に 神留(づ)まり坐(ま)す
 神漏岐(かむろぎ) 神漏美(かむろみ)の 命(みこと)以(も)ちて
 皇御祖神(すめみおやかむ) 伊邪那岐(いざなぎ)の大神(おおかみ、命) 
 筑紫の日向(ひむか)の 橘(たちばな)の小戸(おど)の 阿波岐原(あわぎはら)に
 御禊(みそぎ)祓ひ 給いし時に 生(な)りませる
 祓戸(はらえど)の 大神たち
 諸々のまがごと 罪 穢れ あらむをば
 祓へ給(たま)へ 清めたまへと
 曰(もまを、申)すことの由(よし)を
 天つ神 国つ神 八百万(やおよろず)の神等(たち)共に
 天の班馬(ふちこま)の耳 振り立てて 聞こしめせと  
 恐(かしこ)み恐み 曰す
 (とおかみえみため祓へ給へ 清めたまへ)

【前口上、禊祓詞(みそぎはらえのことば)その3】
 黒住教の禊祓詞(みそぎはらえのことば)
 高天原(たかまのはら)に 神づまります 
 かむろぎ かむろみの 命(みこと)もちて
 皇御祖神(すめみおやかむ) いざなぎの命 
 筑紫の日向(ひむか)の 橘の小戸(おど)の 阿波岐原に
 御禊(みそぎ)祓え 給う時に 生(あれ)ませる
 祓戸(はらえど)の 大神たち
 諸々のまがごと 罪 穢れを
 祓えたまえ 清めたまえと
 曰(もまを、申)すことの由(よし)を
 天つ神 国つ神 八百万の神等(たち)共に
 天の班馬(ふちこま)の耳 振り立てて 聞こしめせと  
 恐(かしこ)み恐み 曰す
 (とおかみえみため祓え給え清め給え)

【前口上、宣詞(のりことば)】

 

 六月(みなづき)の晦(つごもりの)大祓(おほはらへ) 〔十二月もこれに准(なら)へ〕
 集侍(うごな)はれる親王(みこ)たち
 諸(もろもろの)王(おおきみ)たち
 諸(もろもろの)臣(おみ)たち
 百(ももの)官(つかさ)たち
 諸(もろもろ)聞こしめせと宣(の)る。
 天皇(すめら)が朝廷(みかど)に仕(つか)え奉(たてまつ)る
 比礼(ひれ)挂(か)くる伴男(とものを)
 手襁(たすき)挂くる伴男
 靫(ゆぎ)負(お)ふ伴男
 剱(たち)佩(は)く伴男
 伴男の八十(やそ)伴男を始めて
 官官(つかさづかさ)に仕え奉る人等(ども)の
 過(あやま)ち犯しけむ 雑雑(くさぐさ)の罪を
 今年(こぞ)の六月(みなづき)の晦(つごもり)の
 大祓(おおはらへ)に
 祓ひたまひ 清めたまふことを
 諸(もろもろ)聞こしめせと宣る。
 集侍(うごな)はれる親王(みこ)たち 諸(もろもろ)の王(おほきみ)たち 諸の臣(おみ)たち 百(もも)の官(つかさ)のたち 諸(もろもろ)聞こしめせと宣(の)る。

 天皇(すめら)が朝廷(みかど)に仕(つか)え奉(たてまつ)る 比礼(ひれ)挂(か)くる伴男(とものを) 手襁(たすき)挂くる伴男 靫(ゆぎ)負(お)ふ伴男 剱(たち)佩(は)く伴男 伴男の八十(やそ)伴男を始めて 官官(つかさづかさ)に仕え奉る人等(ひとども)の 過(あやまち)犯しけむ雑雑(くさぐさ)の罪を 今年(こぞ)の六月(みなづき)の晦(つごもり)の大祓(おおはらへ)に 祓ひ給ひ 清め給ふことを 諸(もろもろ)聞こしめせと宣る。

【本口上 大祓詞(おおはらえのことば) 読み下し(れんだいこ編現代文)】
 高天原(たかまのはら)に 神(かむ)づまり坐(ま)す 皇(すめら)が親(むつ)
 神漏岐(かむろぎ) 神漏美(かむろみ)の 命(みこと)もちて 
 八百万(やほよろづ)の神等(たち)を
 神 集(つど)へに 集へたまひ
 神 議(はか)りに 議りたまひて
 我(あ)が皇御孫(すめみま)の 命は
 豊葦原(とよあしはら)の 水穂の国を
 安国(やすくに)と平(たひら)けく 治(しろ)しめせと 
 事依(ことよ)さし奉(まつ)りき
 かくよさし奉りし 国中(くぬち)に 荒ぶる神たちをば 
 神 問(と)はしに 問はしたまひ
 神 掃(はら)ひに 掃ひたまひて
 語(こと)問ひし
 磐根(いはね) 樹根(きね) 立ち草の垣葉(かきは)をも
 語(こと)止(や)めて
 天(あめ)の磐座(いわくら)放(はな)ち
 天の八重雲(やへぐも)を
 伊頭いづ)の千別(ちわき)に 千別きて
 天降(あまくだ)し よさし奉りき
 かくよさし奉りし 四方(よも)の国中(くになか)と
 大倭(おほやまと) 日高見(ひだかみ)の国を
 安国と 定め奉(まつ)りて
 下つ磐根(いはね)に 宮柱 太(ふと)敷(しき)立て 
 高天原に 千木(ちぎ)高しりて 
 皇御孫(すめみま)の命の
 (みづ)の御殿(みあらか)へ 仕へ奉りて
 天の御陰(みかげ) 日の御陰と 隠(かく)りまして
 安国と平けく 治(しろ)しめさむ
 国中に 成り出(いで)む
 天の益人(ますひと)等(ら)が 過(あやま)ち犯(おか)しけむ
 種々(くさぐさ)の罪ごとを 法(の)り別(わ)ける
 畦放ち(あぜはなち)
 溝埋(みぞうめ)
 樋放ち(ひはなち)
 頗蒔(しきまき)
 串刺し
 生剥(いけはぎ)
 逆尿戸(くそへ)
 国つの益人らが 禍ち犯しけむ
 種々の罪ごとを 法り別ける
 生膚断絶(いきはだたちし) 
 死膚断死(しにはだたちし)
 白人胡久美(しらひとこくみ)
 己(おの)が母犯せる罪
 己が子犯せる罪
 畜(けもの)犯せる罪
 昆虫(はうむし)の患い
 高つ神の災い
 高つ鳥の災い
 蟲物(まじもの)為(な)せる罪  
 天津罪 国津罪 許許太久(ここだく)の罪 出でむ
 かく出でば
 大中臣(おおなかとみ) 天つ宮ごともちて 
 天つ金木(かなぎ)を 本(もと)打ち切り 末打ち断(た)ちて 
 千座(ちくら)の置座(おきくら)に 置き足(たら)はして
 天つ菅麻すがそ)を 本刈り断ち 末刈り切りて
 八針(やはり)に取り辟(さ)きて
 天つ祝詞(のりと)の 祓へ清めの
 太(ふと)祝詞ごとを 宣(の)れ
 かく宣らば 
 天つ神は 天の磐門(いはと)を 押し披(ひら)きて
 天の八重雲を  伊頭の千別(ちわ)きに 千別きて
 聞こし食(め)さむ
 国つ神は 高山(たかやま)の末 短山(ひきやま)の末に 上(のぼ)りまして
 高山の伊褒理(いぼり) 短山の伊褒理を 掻(か)き別(わ)けて 聞こしめさむ
 かく聞こしめしてば
 皇御孫の命の 朝廷(みかど)を始めて 
 天下(あめのした) 四方(よも)の国(くにぐに)には
 罪といふ罪はあらじと 
 科戸(しなど)の風の 天の八重雲を
 吹き放つ ことの如く
 朝(あした)の御霧(みぎり) 夕(ゆふべ)の 御霧を
 朝風 夕風の吹き払ふ ことのごとく
 大津辺(おほつべ)に居(を)る 大船(おほふね)を
 舳(へ)解(と)き放ち 艫(とも)解き放ちて
 大海原(おおうなばら)に 押し放つ ことの如く
 彼方(をちかた)の 繁木(しげき)が本(もと)を
 焼き鎌(がま)の 利鎌(とがま)持ちて
 打ち掃ふ ことの如く
 遺(のこ)る罪はあらじと
 祓へたまひ 清めたまふことを
 高山の末 短(ひき)山の末より
 佐久那太理(さくなだり)に 落ちたぎつ
 速川(はやかは)の瀬にます
 瀬織津(せおりつ)姫(比売) といふ神
 大海原に持()出(い)でなむ
 かく出で往(い)なば
 荒潮(あらしほ)の 潮の
 八百道(やおぢ)の 八潮道(やしおぢ)の
 潮の八百会(やおあひ)にます
 速開都(はやあきつ)姫 といふ神
 加加呑(かかの)みてむ
 かく加加呑みてば
 氣吹(いぶき)戸にます 氣吹戸主(ぬし)といふ神
 根の国 底の国に 氣吹(いぶき)放ちてむ
 かく氣吹放ちてば
 根の国 底の国にます
 速佐須良(はやさすら)姫 といふ神 さすらひ失(うしな)ひてむ
 かくさすらひ失ひてば
 今日より始めて
 現身(うつそみ)の身にも心にも
 罪といふ罪はあらじと
 高天原に耳振り立てて
 聞くものと馬ひき立てて
 今年の六月の晦の日の
 夕日の降(くだち)の大祓に
 払へたまひ 清めたまふことを
 天つ神 国つ神 八百萬の神たち
 共に聞こしめせと
 恐(かし)こみ恐こみ曰(まお)す
 (とおかみえみため祓え給え清め給え)
 高天原(たかまのはら)に 神(かむ)づまり坐(ま)す 皇(すめら)が親(むつ) 神漏岐(かむろぎ) 神漏美(かむろみ)の 命(みこと)もちて 八百万(やほよろづ)の神等(たち)を 神 集(つど)へに集へたまひ 神 議(はか)りに議りたまひて 我(あ)が皇御孫(すめみま)の命は 豊葦原(とよあしはら)の 水穂の国を 安国(やすくに)と 平(たひら)けく しろしめせと ことよさし奉(まつ)りき 
 かく よさしまつりし 国中(くぬち)に 荒ぶる神たちをば 神 問(と)はしに問はしたまひ 神 掃(はら)ひに 掃ひたまひて 語(こと)問ひし 磐根(いはね) 樹根(きね) 立ち草の片葉(かきは)をも こと止(や)めて 天(あめ)の磐座(いわくら)放ち 天の八重雲(やへぐも)を 伊頭(いづ)の千別(ちわき)に 千別きて 天降(あまくだ)りし よさし奉りき 
 かくよさし奉りし 四方(よも)の国中(くになか)と 大倭(おほやまと) 日高見之国(ひだかみのくに)を 安国と 定めまつりて 下(した)つ岩根(いはね)に 宮柱 太(ふと)しき立て 高天原に 千木(ちぎ) 高しりて 皇御孫(すめみま)の命の (みづ)の御殿(みあらか)へ 仕へ奉りて 天の御陰(みかげ) 日の御陰と 隠(かく)りまして 安国と平けく 治(しろ)しめさむ 国中に 成り出(いで)む
 天の益人(ますひと)等(ら)が 過(あやま)ち犯(おか)しけむ 種々(くさぐさ)の罪ごとを 法(の)り別(わ)ける 畔放(あはなち) 溝埋(みぞうめ) 樋放(ひはなち) 頻蒔(しきまき) 串刺(くしざし) 生剥(いけはぎ) 逆剥(さかはぎ) 屎戸(くそへ) 
 国つの益人らが 過ち犯しけむ 種々の罪ごとを 法り別ける。生膚断死(いきはだたちし) 死膚断死(しにはだたち) 白人胡久美(しろひとこくみ) 己(おの)が母犯せる罪 己が子犯せる罪 畜(けもの)犯せる罪 毘虫(はうむし)の災(わざはひ) 高つ神の災い 高つ鳥の災い 畜倒(けものたお)し 蟲物(まじもの)為(な)せる罪
 天つ罪 国津罪 許許太久(ここだく)の罪出む かくいでば 大中臣おおなかとみ) 天つ宮ごともちて 天つ金木(かなぎ)を 本(もと)打ち切り 末打ち断ちて 千座(ちくら)の置座(おきくら)に 置きたらはして 天つ菅麻(すがそ)を 本(もと)狩り断ち 末刈り切りて 八針(やはり)に取り辟(さ)きて 天つ祝詞(のりと)の 祓へ清めの 太(ふと)祝詞(のりと)ごとを 宣(の)れ 
 かく 宣(の)らば 天つ神は 天の磐門(いはと)を 押し披(ひら)きて 天の八重雲(やへぐも)を 伊頭の千別(ちわ)きに 千別きて きこしめさむ 国つ神は 高山(たかやま)の末 短山(ひきやま)の末に 上(のぼ)りまして 伊褒理(いぼり)のいぼり 短山の伊褒理を 掻(か)きわけて 聞こしめさむ かく聞こしめしてば 皇御孫(すめみま)の命の 朝廷(みかど)を始めて 天下(あめのした) 四方(よも)の国(くにぐに)には 罪といふ罪はあらじと。
 科戸(しなど)の風の 天の八重雲(やへぐも)を 吹き放つ ことの如く 朝(あした)の御霧(みぎり) 夕(ゆふべ)の 御霧を 朝風 夕風の 吹き払ふ ことのごとく 大津辺(おほつべ)に居(を)る 大船(おほふね)を 舳(へ)解(と)き放ち 艫(とも)解き放ちて 大海原(おおうなばら)に 押し放つ ことの如く 彼方(をちかた)の 繁木(しげき)が本を 焼き鎌(がま)の 利鎌(とがま)持ちて 打ち掃(はら)ふ ことの如く 遺(のこ)る罪は あらじと 祓へたまひ清めたまふことを 高山の末 短山の末より 佐久那太理(さくなだり)に 落ちたぎつ。
 速川(はやかは)の瀬にます 瀬織津(せおりつ)姫 といふ神 大海原にも出(い)でなむ かくもいで往(い)なば 荒潮(あらしほ)の 潮の 八百道(やほぢ)の 八潮道(やしほぢ)の  潮の八百会(やほあひ)にます 速開都(はやあきつ)姫といふ神も 加加呑(かかの)みてむ かく加加呑みてば 氣吹(いぶき)戸にます 氣吹戸主(ぬし)といふ神 根の国 底の国に 氣吹(いぶき)放ちてむ かく氣吹放ちてば 根の国 底の国にます 速佐須良(はやさすら)姫といふ神も さすらひ失(うしな)ひてむ かくさすらひ失ひてば 今日より始めて 現身(うつそみ)の身にも心にも 罪といふ罪はあらじと
 高天原に 耳振り立てて 聞くものと 馬牽立(ひきたて)て 今年の六月の晦(つごもの)の日の 夕日の降(くだち)の大祓(おおはらひ)に 祓へたまひ 清めたまふことを 天つ神 国つ神 八百萬(やほよろづ)の神たち 共ににきこしめせと 恐(かし)こみ恐こみ曰(まお)す (とおかみえみため祓え給え清め給え)

【大祓詞(おおはらへの言葉)の万葉仮名原文と和訳文対照(れんだいこ編)】
  「天津系祓詞(はらへの言葉)」を受けて、「天津系大祓詞(おおはらへの言葉)」が奏上される。
 本口上 大祓詞(おおはらえのことば)
 高天原爾 神留坐須 
 高天原(たかまのはら)に 神(かむ)づまり坐(ま)す 
 皇賀親 神漏岐 神漏美 乃命以知テ
 皇(すめら)が親(むつ) 神漏岐(かむろぎ) 神漏美(かむろみ)の 命(みこと)もちて
 八百萬神等乎 
 八百万(やほよろづ)の神等(たち)を 
 神集閉爾集賜比 
 神 集(つど)へに集へたまひ 
 神議里爾議賜比テ
 神 議(はか)りに議りたまひて
 我賀皇御孫命波 
 我(あ)が皇御孫(すめみま)の命は 
 豊葦原水穂國乎 
 豊葦原(とよあしはら)の水穂の国を
 安國登平介久 
 安国(やすくに)と平(たひら)けく 
 知食世登 事依奉里伎 
 しろしめせと ことよさしまつりき
 此久依奉里志 國中爾 
 かくよさしまつりし 国中(くぬち)に 
 荒振留神等乎婆 
 荒ぶる神たちをば
 神問婆志爾問賜比 
 神 問(と)はしに問はしたまひ 
 神掃比爾掃賜比テ  
 神 掃(はら)ひに掃ひたまひて 
 語問比志
 語(こと)問ひし
 磐根 樹根 
 いはね きね 
 立草乃片葉乎母
 立ち草の片葉(かきは)をも 
 語止米テ 
 こと止(や)めて 
 天乃磐座放知 
 天(あめ)の磐座(いわくら)放ち
 天乃八重雲乎 
 天の八重雲(やへぐも)を
 伊頭乃 千別伎爾千別伎テ  
 いづの ちわきにちわきて 
 天降志  依奉里伎
 天降(あまくだ)りし よさしまつりき
 此久依奉里志 四方乃國中登  
 かくよさしまつりし 四方(よも)の国中(くになか)と 
 大倭日高見國乎
 大倭日高見之国(おほやまとひたかみのくに)を
 安國登 定奉里テ
 安国と 定めまつりて
 下都磐根爾 宮柱太敷立テ 
 下(した)つ岩根(いはね)に 宮柱太(ふと)しき立て 
 高天原爾 千木高知里テ
 高天原に 千木(ちぎ)高しりて
 皇御孫命乃 
 すめみまの命の 
 瑞乃御殿 仕奉里テ
 みづの御殿(みあらか) 仕(つか)へまつりて
 天乃御蔭 日乃御蔭登 
 天の御蔭(みかげ) 日の御蔭と 
 隠坐志テ
 隠(かく)りまして
 安國登 平介久 知食左牟
 安国と 平(たひら)けく しろしめさむ 
 國中爾 成出傅牟
 国中に なりいでむ
  天乃益人等賀 過氾志介牟 
 天つの益人(ますひと)等(ら)が 過(あやま)ち犯(おか)しけむ 
 種種乃罪事
 種々(くさぐさ)の罪ごと (を法(の)り別(わ)ける)
 畔放(あはなち) 
 樋放(ひはなち) 
 頻蒔(しきまき)
 串刺(くしざし) 
 生剥(いけはぎ) 
 逆剥(さかはぎ) 
 屎戸(くそへ)
 国津乃益人等賀 過氾志介牟 
 国つの益人等(ますひとら)が 過(あやま)ち犯(おか)しけむ 
 種種乃罪事
 種々(くさぐさ)の罪ごと (を法り別ける) 
 生膚断死(いきはだたちし)   
 死膚断死(しにはだたち)
 白人胡久美(しろひとこくみ)
 己(おの)が母犯せる罪 己が子犯せる罪 
 畜(けもの)犯せる罪 毘虫(はうむし)の災(わざはひ) 
 高つ神の災い 高つ鳥の災い 
 畜倒(けものたお)し 蟲物(まじもの)為(な)せる罪
 天津罪 国津罪 許許太久罪
 天つ罪 国津罪 ここだくのみ 
 此久出傅婆
 かくいでば
 大中臣 天都宮事以知テ 
 大中臣(おおなかとみ) 天つみやごともちて
 天都金木乎 本打切里 末打斷知テ
 天つかなぎを もと打ち切り 末打ち断ちて
 千座乃置座爾  置足波志テ 
 千座(ちくら)の置座(おきくら)に 置きたらはして 
 天都管麻乎 本刈斷 末刈切里テ
 天つすがそを 本(もと)狩り断ち 末刈り切りて
 八針爾取辟伎テ 
 八針(やはり)にとりさきて 
 天都祝詞乃 (祓へ清めの) 太祝詞事乎 宣禮
 天つ祝詞(のりと)の 祓へ清めの 太(ふと)のりとごとを 宣(の)れ
  此久宣良婆 
 かくのらぱ 
 天都神波 天乃磐門乎 押披伎テ
 天つ神は 天のいはとを 押しひらきて
 天乃八重雲乎 伊頭乃 千別伎爾千別伎テ  
 天の八重雲(やへぐも)を いづの ちわきにちわきて 
 聞食左牟
 きこしめさむ
  國都神波 高山乃末 短山乃末爾 
 国つ神は 高山(たかやま)の末 ひきやまの末に 
 上坐志テ
 のぼりまして
 高山乃伊褒理 短山乃伊褒理乎 掻別介テ 
 高山のいぼり 短山(ひきやま)のいぼりを かきわけて
 聞食左牟
 きこしめさむ  
 此久聞食志テ婆
 かくきこしめてば
 皇御孫(すめみま)の命の朝廷(みかど)を始めて天下(あめのした)
 四方(よも)の国(くにぐに)には 
 罪都云布罪波在良自登
 罪といふ罪はあらじと
 科戸乃風乃  天乃八重雲乎 
 しなどの風の 天の八重雲を 
 吹放都 事乃如久
 吹き放つ ことの如く
 朝乃御霧  夕乃御霧乎 
 朝(あした)のみぎり 夕(ゆふべ)のみぎりを
 朝風  夕風乃 
 朝風 夕風の 
 吹拂布 事乃如久
 吹き払ふ ことのごとく
 大津邊爾居留 大船乎 
 おほつべに居(を)る 大船(おほふね)を 
 舳解放知 艫解放知テ 大海原爾
 へとき放ち ともとき放ちて 大海原(おおうなばら)に
 押放都 事乃如久
 押し放つ ことの如く
 彼方乃 繁木賀本乎 
 彼方(をちかた)の 繁木(しげき)が本を 
 燒鎌乃 利鎌以知テ 
 焼きがまの 利鎌(とがま)もちて 
 打掃布 事乃如久
 打ち掃(はら)ふ ことの如く
 遺留罪波 在良自登 
 遺(のこ)る罪は あらじと 
 祓給比清給布事乎
 祓へたまひ清めたまふことを
 高山乃末 短山乃末與里 
 高山の末 短山の末より 
 佐久那太理爾 落多岐都
 さくなだりに おちたぎつ。
 速川乃瀬爾坐須 
 速川(はやかは)の瀬にます 
 瀬織津比賣登云布神 
 せおりつひめといふ神 
 大海原爾持 出傳奈牟
 大海原にも 出(い)でなむ。
 此久持 出往奈婆 
 かくも いで往(い)なば 
 荒潮乃 潮乃 
 荒潮(しほ)の 潮の  
 八百道乃 八潮道乃
 八百道(やほぢ)の 八潮道(やしほぢ)の
 潮乃八百會爾坐須
 潮のやほあひにます
 速開都比賣登云布神持 
 はやあきつひめといふ神も 
 加加呑美テ牟
 かかのみてむ。
 此久加加呑美テ婆 
 かくかかのみてぱ
 氣吹戸爾坐須 氣吹戸主登云布神 
 氣吹(いぶき)戸にます 氣吹戸主(ぬし)といふ神 
 根國底國爾 氣吹放知テ牟
 根の国 底の国に 氣吹(いぶき)放ちてむ
 此久氣吹放知テ婆 
 かくいぶきはなちてば 
 根國底國爾坐須 速佐須良比賣登云布神持 
 根の国 底の国にます はやさすらひめといふ神も 
 佐須良比失比テ牟
 さすらひうしなひてむ
 此久佐須良比失比テ婆 
 かくさすらひうしなひてば 
 (今日より始めて
 罪登云布罪波 在良自登
 罪といふ罪は あらじと
 現身(うつそみ)の身にも心にも 罪といふ罪はあらじと
 高天原に耳振り立てて
 聞くものと馬牽立(ひきたて)て
 今年の六月の晦(つごもの)の日の 
 夕日の降(くだち)の大祓(おおはらひ)に)
 祓給比清給布事乎 
 祓へたまひ清めたまふことを
 天都神 國都神 八百萬神等(たち) 
 天つ神国つ神 やほよろづの神たち 
 共爾聞食世登 恐恐白須
 共ににきこしめせと 恐(かし)こみ恐こみ曰(まお)す

後口上、卜部詞(うらべのことば)
 四国(よくに)の卜部(うらべ)等(ども)
 四国(よくに)の卜部(うらべ)等(ども) 
 大川道(ぢ)にも退出(まかりいで)て
 大川道(ぢ)にも退出(まかりいで)て
 祓ひやれと宣る
 祓ひやれと宣る

中臣祓(なかとみのはらへ)
 「定番・大祓詞(おおはらへの言葉)」の他に「中臣祓(なかとみのはらへ)」がある。延喜式に所収されている。 但し、こちらも一様ではないらしい。とりあえず以下の文を確認しておく。大祓に読み上げる祝詞(のりと)。古くは、中臣(なかとみ)氏が宣読した。

 高天原に神留(づま)り坐(ま)す 皇が親(すめらがむつ)神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命(みこと)を以ちて 八百万(やほよろづ)の神等を 神集に集へ賜ひ 神議に議り賜て 我(あ)が皇の孫の尊(すめみまのみこと)をば 豊葦原の水穂の国を 安国と平けく所知食(しろしめせ)と 事依(よさ)し奉(たてまつり)き

 如此(かく)よさし奉(まつり)し国中(くぬち)に 荒振る神達を 神問わしに問はし賜ひ 神掃いに掃ひ賜ひて 語(こと)問ひし 磐根 樹根 立ち草の片葉(かきは)をも 語(こと)止(や)めて 天の磐座(いはくら)放ち 天の八重雲を 伊豆の千別(ちわき)に千別て 天降しよさし奉き

 かくよさし奉し 四方の国中に 大倭日高見の国を 安国と定め奉(まつり)て 下津磐根に 宮柱太敷き立て 高天原に 千木高知りて 吾が皇孫尊の 美頭(みづ、瑞)の御舎(みあらか)に 仕え奉て 天の御蔭日の御蔭と 隠坐(かくりまし)て 安国と平けく しろしめせむ 国中に成り出む 

 天の益人等が 過犯(おかし)けむ 雑々(もろもろ)の罪事を 天津罪とは 畦放 溝埋 樋放 頻蒔 串刺 生剥 逆剥 屎戸 許々太久の罪を 天津罪と法別(のりわけ)て

 国津罪とは 生膚断 死膚断 白人胡久美 己が母犯せる罪 己が子犯せる罪 母と子と犯せる罪 子と母と犯せる罪 畜(けもの)犯せる罪 昆虫(はふむし)の災ひ 高津神の災ひ 高津鳥の災ひ 畜仆し 蟲物為(はうものせる)罪 許々太久の罪出でむ

 かくいで出(いで)ば 天津宮事を以ちて 天津金木を 本打切り 末打断ちて 千座(ちくら)の置座(おきくら)に 置き足(たら)はして 天津菅曾(すがそ)を 本苅り断ち末苅り切りて 八針に取り辟(さき)て 天津祝詞の 太祝詞事を宣(の)れ 

 かく宣(のら)ば 天津神は 天の磐門を 押し開きて 天の八重雲を 伊豆の千別(ちわき)に 千別て 所聞食(きこしめせ)む 国津神は 高山の末 短山(ひきやま)の末に 登りまして 高山の伊穂理 短山の伊穂理を 掻き分けて 聞こしめせむ

 かく聞こしめせてば 罪と云ふ罪は在らじと 科戸の風の 天の八重雲を 吹き放つ事の如く 朝(あした)の御霧 夕べの御霧を 朝風夕風の 吹き掃う事の如く 大津辺に居る 大船の舳(へ)解き放ち 艫(とも)解き放ちて 大海原(おおわだのはら)に 押し放つ事の如く 彼方(をちかた)の繁木が本を 焼き鎌の敏(と)鎌以ちて 打ち掃う事の如く 遺る罪は不在(あらじ)と 祓ひたまひ 清めたまふ事を 高山の末 短山の末より 佐久那太理に落ち瀧つ 

 速川の瀬にます 瀬織津比刀i姫)と云う神 大海原に持(も)出なむ かくも出往ば 荒塩の塩の八百道の八塩道の 塩の八百会にます 速開都姫と云う神も 可可呑(かかのみ)てむ かく可可呑ては 気吹戸にます 気吹主と云う神 根国底国に気吹放ちてむ

 かく気吹放ちては 根国底国にます 速佐須良姫と云う神も 佐須良(さすら)ひ失ひてむ かく失ひては 今日より始めて 罪と云う罪 咎と云う咎は不在物(あらじ)と 祓いたまひ 清めたまひと 申す事の由を 天津神国津神 八百万神等諸共に 左男鹿(さおしか)の 八の耳を振り立てて 聞こしめせと申す


【中臣の壽詞】
 「中臣の壽詞」があり、これを確認しておく。内容が大きく変わっている。
 つ(あき)つ御神大八島國知(しろ)し食(め)す大倭根子(おほやまとねこ)天皇(すめら)が御前に、天(あま)つ神の壽詞を称(たたへ)辞(ごと)定め奉(たてまつ)らくと申す。

 高天原に神留(づま)り(ま)す、皇親(すめむつ)神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命(みこと)を持ちて、八百萬(やほよろず)の神達を集め賜(たま)ひて、皇孫(すめみま)の命は高天原に事始めて、豊葦原の瑞穂(みづほ)の國を安国と平らけく知ろしめして、天津日嗣(あまつひつぎ)の天津高御座(たかみくら)に御坐(ましま)して、天津御膳(みけ)の長(なが)御膳の遠御膳と千秋(ちあき)の五百秋(いほあき)に瑞穂を平らけく、由庭(ゆにば)を平らけく安らけく由庭に知ろしめせと事依(よ)さし奉りて、天降りしし。

 後に、中臣の遠津(とおつ)(みおや)、天兒屋根命、皇御孫(すめみま)の尊(みこと)の御前(みまえ)に仕へ奉りて、天の忍雲根(おしくもね)の神を天の二上(ふたかみ)に上せ奉りて、神漏岐神漏美命の前に受けたまはり申しに、皇御孫の尊の御膳都水は、宇都志(うつし)國の水に、天津水を加へて奉らむと申せと事教へたまひしによりて、天の忍雲根の神、天の浮雲(うきくも)に乗りて、天の二上に上りまして神漏岐神漏美命の前(みまへ)に申せば、天の玉櫛(たまぐし)を事よさし奉りて、この玉櫛を刺し立てて、夕日より朝日の照るに至るまで、天津詔戸(のりと)の太(ふと)詔刀言を以ちて告(の)れ。かく告らば、麻知は弱蒜(わかひる)に由津五百(たかむら)生ひ出でむ、その下より、天の八井(やゐい)出でむ。これを持ちて天津水と聞こしめせと事よさし奉りき。

 かくよさし奉りし任任(まにま)に聞しめす由庭の瑞穂を四國の卜部(うらべ)等(ども)、太兆(ふとまに)の卜事を持ちて仕へ奉りて、悠紀(ゆき)に近江國の野洲(やす)主基(すき)に丹波國の冰上(ひかみ)を齋(いは)ひ定めて、物部(もののべ)人達(ひとたち)、酒造兒(さかつこ)、酒波、粉走、灰焼薪採、相作、稲實公等、大甞會(おほにゑ)の齋場(ゆには)に持ち齋(いは)まはり参(まね)来(き)て、今年の十一月(しもつき)の中都卯日に、由志理(ゆしり)伊都(いつ)志理も恐み恐み清麻波利に仕へ奉り、月の内に日時を撰び定めて獻(たてまつ)る。

 悠紀主基(ゆきすき)の黒木白木の大(おほ)神酒(みき)を、大倭根子天皇が、天津御膳の長御膳の遠御膳と汁にも實にも、赤丹(あかに)の穂にも聞こしめして、豊(とよ)の明(あかり)に明りましまして、天津神の壽詞を、称辞、定め奉る皇神等も千秋五百秋(ちあきいほあき)の相甞に、相(あひ)宇豆(うづ)の比(ひ)奉り 堅磐に常盤に齋ひ奉りて、伊賀志御世に栄えしめ奉り、康治元(はじめ)の年(とし)より始めて、天地月日と共に照し明しましまさむ事に、本末傾かす茂(いか)し槍(ほこ)の中執り持ちて仕へ奉る。中臣祭主(いほひぬし)正四位(よつのくらゐつかさ)上行(かみしな)神祇(かみつかさ)大副(おほひすけ)、大中臣朝臣(あそみ)清親、壽詞を称へ辞定め奉らくと申す。

 又申さく天皇が朝廷に仕へ奉れる親王等王等、諸臣百官人等天下(あめのした)四方(よも)の國の百姓(おほみたから)諸々集侍りて、見食べ、尊み食べ、歓び食べ、聞き食べ、天皇が朝廷に茂し世に、八桑枝(やくわえ)の立ち栄え仕へ奉るべき、祷(よごと)を聞しめせと、恐み恐み申し給はくと申す。(参照文献:大祓詞の解釈と信仰/岡田米夫)

 中臣寿詞
 現御神と大八嶋国所知食す大倭根子天皇が御前に、天神乃寿詞を称辞定め奉らくと申す。

 高天原に神留(づま)ります皇親(すめむつ)神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命(みこと)を持ちて、八百万(やほよろず)の神等を集へ賜ひて、皇孫尊は、高天原に事始めて、豊葦原の瑞穂の国を安国と平らけく知ろしめして、天都日嗣(あまつひつぎ)の天都高御座(たかみくら)に御坐(ましま)して、天都御(みけ)膳の長御膳の遠御膳と、千秋(ちあき)の五百秋(いほあき)に、瑞穂を平けく安けく、由庭に(ゆにば)知ろしめせと、事依(よ)し奉りて、天降し坐しし。

 後に、中臣の遠つ祖(みおや)天児屋根命、皇御孫(すめみま)の尊の御前に仕へ奉りて、天の忍雲根(おしくもね)神を天の二上(ふたかみ)に上せ奉りて、神漏岐神漏美命の前に受け給り申すに、皇御孫尊の御膳都水は、宇都志(うつし)国の水に、天都水を加へて奉らむと申せと、事教へ給ひしによりて、天忍雲根神、天の浮雲(うきくも)に乗りて、天の二上に上り坐して、神漏岐神漏美命の前(みまへ)に申せば、天の玉櫛を事よさし奉りて、此の玉櫛を刺立て、夕日より朝日照るに至るまで、天都詔戸(のりと)の太諸刀言を以て告れ。

 かく告らば、麻知は、弱蒜(わかひる)に由都五百篁(たかむら)生ひ出でむ。その下より天の八井(やゐい)出でむ。これを持ちて、天都水と所聞食せと、事依(よさ)し奉りき。

 かくよさし奉りし任任(まにま)に、聞こしめす由庭の瑞穂を、四国の卜部等(うらべども)、太兆(ふとまに)の卜事を持ちて仕へ奉りて、悠紀(ゆき)に近江国の野洲(やす)、主基(すき)に丹波国の氷上(ひかみ)を斎(いは)ひ定めて、物部の人等、酒造児(さかつこ)酒波・粉走・灰焼・薪採・相作・稲実公等、大嘗会(おほにゑ)の斎庭(ゆには)に持ち斎(いは)はり参来(まねき)て、今年の十一月(しもつき)の中つ卯日に、由志理(ゆしり)伊都(いつ)志理、持ち恐み恐みも清麻波利に仕へ奉り、月の内に日時を撰び定めて献る。

 悠紀主基(ゆきすき)の黒木白木の大御酒(おほみき)を、大倭根子天皇が、天都御膳の長御膳の遠御膳と、汁にも実にも、赤丹(あかに)の穂にも、聞こしめして、豊明(とよのあかり)に明りましまして、天都神乃寿詞を称辞定め奉る。皇神等も、千秋五百秋(ちあきいほあき)の相嘗に、相(あひ)宇豆(うづ)乃比奉り、堅磐常磐に斎ひ奉りて、伊賀志御世に栄えしめ奉り、康治元(はじめ)の年(とし)より始めて、天地月日と共に、照し明らしましまさむ事に、本末傾けず茂(いか)槍(ほこ)の中執持ちて仕へ奉る。中臣、祭主(いほひぬし)正四位(よつのくらゐつかさ)上行(かみしな)神祇(かみつかさ)大副(おほひすけ)大中臣朝臣(あそみ)清親、寿詞を称辞定め奉らくと申す。

 又申さく、天皇が朝廷に仕へ奉る親王等、王等、諸臣、百官人等、天下(あめのした)四方(よも)国の百姓(おほみたから)諸諸集侍はりて、見食べ、尊み食べ、歓び食べ、聞き食べ、天皇が朝廷に茂し世に、八桑枝(やくわえ)の立ち栄え仕へ奉るべき祷(よごと)を聞こしめせと、恐み恐みも申し給はくと申す。(参照文献:大祓詞の解釈と信仰/岡田米夫)

【黒住教の禊祓詞(みそぎはらえのことば)、大祓詞(おおはらえのことば)】
 禊祓詞(みそぎはらえのことば)

 高天原(たかまのはら)に神(かむ)づまります神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命(みこと)もちて 皇御祖(すめみおや)神(かむ)いざなぎの命 筑紫の日向の橘の小戸(おど)の阿波岐原に御禊(みそぎ)祓へ給う時に あれませる祓戸(はらえど)の大神たち 諸々のまがごと、罪、穢れを祓へたまへ清めたまへとまをすことの由(よし)を天津神国津神八百万(やほよろづ)の神たち共に 天(あま)の斑馬(ふちこま)の耳振り立てて聞(きこ)し召せとかしこみかしこみも曰(まお)す。
 大祓詞(おおはらえのことば)

 高天原(たかまのはら)に神(かむ)づまります皇(すめら)が親(むつ)神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命(みこと)もちて 八百万(やほよろづ)の神たちを神集(つど)へに集へたまひ 神議(はか)りに議りたまひて  我(あ)が皇御孫(すめみま)の命は豊葦原(とよあしはら)の水穂の国を安国(やすくに)と平(たひら)けくしろしめせと ことよさしまつりき

 かくよさしまつりし国中(くぬち)に 荒ぶる神たちをば神問(と)はしに問はしたまひ神掃(はら)ひに掃ひたまひて語(こと)問ひし。磐根(いはね)樹根(きね)たち草の片葉(かきは)をも語(こと)止(や)めて 天(あめ)の磐座(いわくら)放ち天の八重雲(やへぐも)を伊頭(いづ)の千別(ちわき)に千別きて天降(あまくだ)し よさしまつりき

 かくよさしまつりし四方(よも)の国中(くになか)と 大倭日高見(おほやまとひたかみ)の国を安国と定めまつりて 下つ磐根に宮柱太しき立て高天原に千木(ちぎ)高しりて 皇御孫の命の(みづ)の御殿(みあらか)仕へまつりて 天の御陰(みかげ)日の御陰と隠(かく)りまして 安国と平けくしろしめさむ国中になりいでむ

 天の益人(ますひと)らが過(あやま)ち犯しけむ種々(くさぐさ)の罪ごとは 天つ罪国つ罪許許太久(ここだく)の罪出でむ かくいでば天つ宮ごともちて天つ金木(かなぎ)を本(もと)打ち切り末打ち断ちて千座(ちくら)の置座(おきくら)に置きたらはして 天つ菅麻(すがそ)を本刈り断ち末刈り切りて八針(やはり)に取り辟(さ)きて 天つ祝詞(のりと)の太(ふと)祝詞ごとを宣れ

 かく宣らば天つ神は天の磐門(いはと)を押し披(ひら)きて天の八重雲を伊頭の千別きに千別きて聞こしめさむ 国つ神は高山(たかやま)の末短山(ひきやま)の末に上(のぼ)りまして 高山の伊褒理(いぼり)短山の伊褒理を掻(か)きわけて聞こしめさむ かく聞こしめてば罪といふ罪はあらじと

 科戸(しなど)の風の天の八重雲を吹き放つことの如く 朝(あした)の御霧(みぎり)夕(ゆふべ)の御霧を朝風夕風の吹き払ふことのごとく 大津辺(おほつべ)に居(を)る大船(おほふね)を舳(へ)解(と)き放ち艫(とも)解き放ちて大海原(おおうなばら)に押し放つことの如く 彼方(をちかた)の繁木(しげき)が本を焼き鎌(がま)の利鎌(とがま)持ちて打ち掃ふことの如く 遺(のこ)る罪はあらじと祓へたまひ清めたまふことを高山の末短山の末より佐久那太理(さくなだり)に落ちたぎつ

 速川(はやかは)の瀬にます瀬織津(せおりつ)姫といふ神大海原に持ち出(い)なむ。かく持ち出でなば荒潮(あらしほ)の潮の八百道(やおじ)の八潮道(やしおぢ)の潮の八百会(やほあひ)にます速開都(はやあきつ)姫といふ神持ち加加呑(かかの)みてむ。かく加加呑みてば氣吹(いぶき)戸にます氣吹戸主(ぬし)といふ神 根の国底の国に氣吹放ちてむ。かく氣吹放ちてば 根の国底の国にます佐須良(はやさすら)姫といふ神持ちさすらひ失(うしな)ひてむ。かくさすらひ失ひてば現身(うつそみ)の身にも心にも罪といふ罪はあらじと 祓えたまえ清めたまえと曰(まお)す 

 とおかみえみため祓えたまえ清めたまえ





(私論.私見)