裁判経緯その2、検察側の論告求刑要旨(第148回公判)

 (最新見直し2008.4.12日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 1983(昭和58).1.26日検察側は、563ページ、約34万文字に上る論告求刑を行った。その論告の中で、田中側が5億円授受の全面否認を争う姿勢に対し、「本件は、その規模、態様において類例をみないものである」、「(田中には)反省の色は全く見られない」、「その刑事責任は極めて重且つ大であるといわなければならない」と厳しく決め付け、懲役5年、追徴金5億円を求刑した。初公判から丸6年を費やしていた。

 小林検事、堀田検事により、受託収賄罪の適用、「民間航空会社の機種選定に関する内閣総理大臣の職務権限」、「5億円の授受を裏付ける情況事実」として「事件発覚後の田中側の揉み消し工作、丸紅側の証拠隠滅工作」、「榎本夫人美恵子による『ハチの一刺し証言』」、「『清水ノート』の証拠価値の否定」等々に言及した後、各被告の求刑に入った。「被告人田中を懲役5年、同榎本を同1年、同桧山を同4年、同大久保を同2年6月、同伊藤を同2年6月に各処するを相当と思料する」とした。


 この時の検察側の論拠を以下見ていくが、「疑わしきは闇雲に有罪へ」と結び付けていった様が判明する。ある意味で、この時に戦後検察の腐敗が宿されたのではなかろうか。今日検察上層部の腐敗が取り沙汰されているが、正義に背いた必然のなれの果てではなかろうか。そういう意味からしても、「元一日」に立ち帰る為に「ロッキード事件」の見直しが求められていると云えよう。


 「民間航空会社の機種選定に関する内閣総理大臣の職務権限」について

 「内閣を代表する内閣総理大臣としての田中は、右のような閣議で決定された基本方針に基づき−−−運輸大臣を通じ、あるいは運輸大臣に対する指揮監督権を背景として、自ら、特定の定期航空運送事業者に対し、特定の型式の航空機を早期に選定して輸入することについて勧奨するという行政指導を行う職務権限を有していたことは明らかである」


 「5億円の授受を裏付ける情況事実」としての「事件発覚後の田中側の揉み消し工作、丸紅側の証拠隠滅工作」について

 「これらの各情況事実は、そのいずれをみても、田中が榎本を介し丸紅側被告人らから本件5億円の供与を受けた事実がなければあり得ない事柄である」


 丸紅側に対する揉み消し工作を否認した田中供述について、「以上論述したところから、虚偽と認められる」


 「榎本アリバイ」について

 「榎本のアリバイの主張は、何らの裏づけが無く、本件金員授受の事実の存在を疑わしめるに足りるものとは、到底認められない」


 「ロッキード事件」について

 「国の行政の最高指導者である内閣総理大臣にかかる事件」であるうえ「賄賂の額が現金5億円にのぼる巨額なもの」であるほか、「その金員が外国企業により海外で調達され、密かに我が国に搬入されたという国際的な犯罪」であり、「その規模、態様において類例をみないものである」。「厳正な処断を欠くときは、ひいては、民主政治の根幹を揺るがす虞れがあるといっても過言ではない」


 「田中被告」について

 「ロッキード事件発覚後、国会における国政調査権の行使に際し、本件金員収受の事実等一切を秘匿するよう丸紅側に働きかけるなどの証拠隠滅工作を行い」、「捜査・公判を通じ、一貫して本件請託、金員の収受など一切を否定するなど、反省の色は全く見られない」、「内閣総理大臣をはじめ、大蔵大臣、通商産業大臣等数々の要職を歴任し、国家社会の為少なからぬ功績を挙げたとしても、その刑事責任は極めて重且つ大である」。


 「榎本被告」について

 「田中の指示によるとはいえ、ロッキード社の支出する5億円もの巨額の金員の授受に関与し、田中の本件収賄において重要な役割を演じたことに徴すると、その刑事責任は軽くない」、「虚構のアリバイを主張して本件金員の受領を否定するなど、いささかの改悛の情も認められない」。


 「桧山被告」について

 「本件収賄事件において終始主導的役割を果たしたのであって、その刑事責任は極めて重い」、「反省の態度が見られず、情状酌量の余地は無い」


 「大久保被告」について

  取り調べ段階で、全容を自供。公判が始まってからは、被告人質問でもほぼ調書の内容を認めた。ロッキード公判は、被告人や証人が取り調べ段階の供述を否定していくパターンが続いた。その中で大久保の態度は潔く見えたが、「本件贈賄における重要な役割を担っているのである」が、「事件発覚後における大久保の心情には他の被告人らとはいささか異なるところがあったと認められる」。但し、「国会において虚偽の陳述をし」、公判に於いては「本件請託内容の認識、本件金員の趣旨などの点については、これを否認し、あるいは、曖昧にして」、「必ずしも自己の責任を痛感しているものとは認め難い」と責任を問うた。


 「伊藤被告」について

 「5億円を田中側に引き渡すなど、重要な役割を果たしており、事件発覚後はいち早く田中側に連絡し、以後榎本と連絡を取りながら右犯行隠蔽の為の方策を検討し、国会の証人尋問に際しては、想定問答を作成するなどして虚偽の陳述をしたのである」。「公判審理の過程においても本件金員授受の事実は認めたものの、その他の点については種々の弁解を行うなど、改悛の情を認め難い」とした。





(私論.私見)