補足・丸紅側弁護人の最終弁論要旨(第190回公判) |
丸紅側最終弁論も3日間、桧山、伊藤、大久保と三者三様の弁論を展開。桧山側は、「ロッキード社の献金話を田中首相に伝えたに過ぎない」と「丸紅メッセンジャー論」を強調。伊藤側も田中首相への5億円請託を否定した。大久保側はこれに対し、これまで同様、検察側の主張に添って論旨を述べた。最終日の弁論で、弁護人同士が互いに反論し合うという異例の場面を現出し、丸紅被告側の亀裂がクローズアップされた。
桧山側の宮原弁護人が立ち、竹内誠弁護士の「裁判は7、5,3で行われる」という言葉を引用し(「10の事実のうち、弁護人は7の事実を依頼者から知らされ、検察官は5の事実を捜査で収集し、裁判は3の事実で審理される」)、「本件では、特にその感を強くするのであります−−−客観的なものがないために、検察官も多少、仮説を立てて取り組んだのではないでしょうか」と切り出した。
「検察官の主張には三つの無理がある」として、「第一は、5億円をL1011型機(トライスターに結びつけた無理、第二は、首謀者がロッキード社でありながら、丸紅を主犯として構図を組み立てた無理、第三は、児玉誉士夫、小佐野賢治(国際興業社主)の裏のルートが未解明のままに事件を組み立てた無理」があると主張した。その補足として、「裏工作の玄人筋(ロ社や児玉)の工作に、素人衆の丸紅が巻き込まれたのであります」を付け加えた。
「事前共謀については、桧山、伊藤、大久保は三人三様であります。三人とも記憶が悪い人で、そこを検察官が空白を埋めていったのであります」。「本件の最大の特徴は、検察側に誘導するタネ本があったということであります。初めに補強証拠ありき、ということです。最初に補強証拠があり、それにあわせて自白をとっていったのであります」。
大久保供述の信用性を攻撃し、「大久保は大変記憶の悪い人です」と述べ、公判中の供述の食い違いなど33箇所の例を挙げた。最後にとして、「検察官の職務熱心のあまりが、冤罪の原因となるのであります。それに正義の味方を自任するマスコミがおり、加熱化させました。『静は動に勝つ』と申します。裁判所は冷静に判断していただきたい。これで終わります」。
伊藤側の大西弁護人が立ち、「(経過から見て)伊藤らの調書を作成する前に、コーチャンらの嘱託尋問で供述内容を手に入れ、伊藤調書と『合わせた』のではないか」と指摘した。
大久保側の安西弁護人が立ち、「大久保被告は法廷において、自分の知っている部分的な体験事実を、正しい裁判を受けるために、できる限り正確に、正直に表現し続けて来たのであります。そして、同時に推測がいかに危険であるかを知るだけに、自己の推測をできるだけ避けたのであります」。「大久保被告に対し、訴訟関係人から桧山電話の証言は嘘である、などの反論がありましたが、大久保被告が他人を陥れるような卑劣なことは断じてありません」。
「ユニット三千万円のうち一千万円は、伊藤被告によれば田中総理に渡すべく榎本に届けたと言い、榎本被告はこれを受け取っていないと供述いたしております。どちらかにウソがあることは明らかです」、「この一千万円には『全日空の依頼』または『丸紅の礼』という要素ではない別の要素があるのではないか、金の性格が変わっていったのではないか、そういう疑問もでてくるのであります」。この後、伊藤攻撃を展開しながら、「この疑問点を解明する簡単な答えとして5億円の支払いが検事の主張する日時とは別の日時に、大久保あるいは桧山の知らない時期に為されたのではないか、というような推測の生まれてくる余地がありそうであります」。
「さらに、昭和48.6月の榎本側よりの催促なるものは元々なかったのではないか、だからデリバリーが奇妙な形になっているのではないか、こんな推測が生まれてくるのであります。これらの推測は全て当弁護人の全くの推測であり、これを裏付ける証拠はありません。しかし、前記した疑問点を合理的に解明しようとすると自然に行き着く一つの推論なのであります」。
この後、それぞれの弁護人が追加、補充弁論を行い、主に大久保供述の信頼性を廻って論争が為された。既に終わった弁論後ということでも、双方の批判の応酬という意味でも異例の事態となった。注目すべきは、ここで「P3C絡み」の発言が為されていることである。嗚呼だがしかし、一番最後のところでやっと本当のことがちょこっと出てくるとは。この裁判は一体何だったんだろう。
(私論.私見)