ロッキード事件の概要2(田中逮捕時前後のドキュメント

 更新日/2021(平成31→5.1栄和元/栄和3).2.7日 
 これより以前は、】に記す。

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「ロッキード事件の概要1−3(日米合同国策捜査発動)」をものしておく。

 2003.9.16日再編集 れんだいこ拝


【三木首相の指揮権と逆指揮権】
 いわゆる「ロッキード贈賄高官」追及に対する、当時の三木首相と稲葉法相(中曽根派)・松野頼三政調会長コンビが果たした「指揮権と逆指揮権」の様子があまり詮索されていない。この動きが「アメリカの謀略説」の影に隠蔽されている感がある。主体がそうであったとしても、これに呼応した我が日本側のエスタブリッシュメントの果たした役割もまた解明されないと片手落ちと云うべきだろう。

 当初、「ロッキード贈賄最高官」は中曽根と田中に疑惑が向けられていた。このうち中曽根に対しては指揮権発動で免責し、田中に対しては逆指揮権発動で逮捕に向かわせたというのが実際の構図であったように思われる。「ロッキード事件」の構図はここが出発点として踏まえられないと見えてこない。

 それにしても、中曽根の角栄逮捕時のコメントを窺う時、コヤツほど鉄面皮なワルはいないことが判明する。そういう御仁及びその一派ががこの後マスコミ評価を高めていくことになる訳だが、マスコミも又同罪というべきか。以下、その流れを追跡する。


【田中逮捕の経過の概要】
5.18日  稲葉法相(新潟2区選出)が、国会答弁で「捜査当局が130人も呼んでいて、イワシやサバだけということはあるまい」と答弁して波紋を投げかけている。
6.24日  ロッキード事件の強制捜査が始まり、7名が逮捕される。
6.26日  稲葉法相が伊勢講演。この時法務省刑事局長安原美穂も伊勢に立ち寄っている。稲葉は「会わなかった」と会談を否定。
7.3日  三木首相はサンファン・サミットに出席した帰路ワシントンに回り、フォード大統領と首脳会談。ロッキード事件究明の協力を要請。7.3日、サンフランシスコで同行記者団と懇談、「ロッキード事件が解明されない限り今後の政治日程は立てられない」、「『三木下ろし』には断固戦っていく」と繰り返した。
7.4日  毎日新聞朝刊1面トップと2面に「稲葉法務大臣の核心インタビュー」と題する特ダネ記事が掲載される。稲葉法相が、毎日新聞記者とのインタビューで次のように述べている。
 「私は今までの法相とは違う。歴代法相の中では法解釈、法の適用についての判断----僕が一番確かだと自負している。(中略)逮捕した連中だって、相撲にたとえれば十両か前頭13、4枚目ぐらい。これからどんどん好取組が見られますよ。横綱が出てくるのは、これも推定だが、2ヶ月ぐらいかかりますよ。(中略)奥の奥まで神棚の中までやるよ。想像したよりテンポが速いから、できないわけはない」。

 「横綱級は2ヶ月以内に」とロッキード事件での大物逮捕を予告した。田中が逮捕されるのはこの発言から3週間後である。
7.10日  稲葉法相のオフレコ発言。
 「福田一なんてピンぼけだ。いま法務大臣を敵に回しては、内閣が持たないよ。俺がヘソを曲げたらコトだぞ」。
 「小佐野をやらなき、国民が納得すまい。贈賄の横綱だからな」、「検察はよくやっているよ」。
 「検察はよくやっているよ」。
7.11日  稲葉法相が、愛媛県波方町の講演で次のように述べている。
 「事件にふたをしたら自民党は駄目だ。自民党の再生の道はこの事件で出すべきウミは出し、『よく思い切ったな。自民党も良心があるな、反省をして出直そうとしているな』と国民が思ってくれるようにすれば、総選挙では負けないで済む」。
7.19日  検察首脳会議で、「7.27頂上作戦」が決定されたと今日伝えられている。
7.22日  稲葉法相のオフレコ発言。
 「政府高官逮捕は、ここ暫くはないね。今検察は布団の中。布団の中で泳ぐ練習をしている。まもなくプールに飛び込んで本当に泳がなくちゃならんから、一生懸命さ。あまりゆっくりもできんだろうから」、
 「針を入れれば、どんどん釣れるようになるぞ。もう釣り針は仕掛けてある。後は釣り上げるだけだ」。
7.23日  三木。福田・大平の三社会談。この席で田中逮捕のリークが為されたか為されなかったのかが闇となっている。
【7.26日(逮捕前日)】
午後3時頃  稲葉法相に、法務省刑事局長から「田中逮捕を請求したいが、宜しいか」と連絡が入り、「起訴に持っていけるのか。公判維持できるのか」と確かめて、「それならよろしい(やむをえない)」と答えたと伝えられている。この時、「山形県の五十川でアユ釣りの糸を垂れていた」と脚色されている。
 晩遅く  福田副総理の要請で、早坂秘書が赤坂の料亭「たん熊」で会食した。福田が挨拶もそこそこに次のように述べた。「色々な動きがあるので角さんのことを心配している」、「三木のやり方はおかしい。角さんの為に何かできることがあれば遠慮なく言ってほしい」。早坂秘書は次のように述べている。「ご心配ありがとうございます。副総理のお言葉は間違いなく主に伝えます」。
【7.27日(逮捕当日)】
午前6時半頃

 稲葉法相が三木首相に電話を入れ、「実は、法務省の安原美穂刑事局長から、田中前首相に対して、外国為替法違反容疑で逮捕したいので許可願いたい旨の電話があり、許可しました」と伝えている。三木首相は、「おお、そうか、おおそうか」と繰り返した、と伝えられている。

午前6時半頃  特捜部検事の松田昇(その後預金保険機構理事長)、特捜部資料課長・田山太市郎ら5名が角栄邸へ入り、田中前首相に東京地検への出頭を求めた。
午前6.30頃  稲葉法相が三木首相に田中逮捕の件で電話を入れたと伝えられている。
午前6.35  東京地検特捜部、田中前首相の秘書榎本の自宅などの家宅捜索を開始
午前7.12  角栄は、「留守中は、皆が一つになって仲良くやってくれ」の言葉を残して、東京地検の松田検事らに付き添われて目白台の自宅から地検に向かった。
午前7.15  東京地検の前正面玄関前に主任検事の吉永祐介、川島興特捜部長、副部長がわざわざ出てきて、誘導用のロープを張る。その後、守衛とともにカメラマンを整理し始める。これは異例のことで「尋常でない何事かが起こる」前触れとなった。
午前7.20分過ぎ  フジテレビがいち早く「田中前総理大臣が東京地検に出頭しました」を速報する。
午前7.27  田中前首相を乗せた車が東京地検に到着。松田検事が吉永主任検事と相談の上、記者やカメラマンがいる検察庁正面から入った。
 田中前首相出頭後、そのまま地検5階の取調室で、高瀬礼二検事正、石黒皓久特捜部副部長の取調べを受け、石黒の尋問を受ける。
午前7.30分前後  テレビ局各社が「田中角栄が東京地検に出頭」速報を伝える。
午前8.20  稲葉法相、自宅から法務省へ直行。
午前8.20  三木首相は、この日この時官邸でのTBSテレビの録画「総理と語る」を予定しており、出演準備。
午前8.50  高瀬礼二検事正立会いの下、石黒皓久特捜部副部長が、「田中角栄、外国為替法違反容疑で逮捕する」と逮捕令状執行する。これは「別件逮捕」だった。
午前8.55  砂防会館3階の田中派7日会事務所に、久野忠治代議士が現われ、各方面に電話連絡し始める。
午前8.57  海部官房副長官が報道陣の質問に答えぬまま駆け足で官邸に入る。
午前9.10  三木首相、報道陣に対して「驚いている、驚いている」と云いながら私邸を出る。
午前9.10  井出官房長官が、官邸の中で記者団に掴まり、「午前7時ごろ、法務大臣から連絡を受けました。総理に伝えると『いよいよ重大な云々』と云ってました」とコメントする。
午前9.10  東京・平河町にある砂防会館の田中事務所へ地検の捜査官が現れ、家宅捜査を始める。田中の報道担当秘書・早坂茂三が立ち会う。
午前9.14  閣僚が続々官邸に入る。この時報道陣に対して、福田副総理は「感想は何も無い。立ち話はしない」と厳しい表情で答える。大平蔵相は「よく調べてみなければ分からない」。福田国家公安委員長は「法治国家だし、当たり前のことだ。平民でも宰相になれるかわりに、悪いことをすれば調べられる。ただし、やったかどうかはまだ分からんがね」。
午前9.15  稲葉法相が、安原刑事局長を伴い、官邸へ向かう。法務省を出るとき、「きのうアユを釣った。小物ばかり釣れたよ」と意味深な新潟でのアユ釣りの話をする。
午前9.15  平河町の砂防会館にある田中派の7日会事務所に、検事・小林幹男以下15名の東京地検係官がやってきて家宅捜査開始。
 急を聞いて駆けつけた西村、二階堂、江崎、田村、久野、橋本龍、橋本登らが7日会会長室に入る。
午前9.20  三木首相は、テレビの録画撮りの準備を終え、会議室に入る。「田中さんは関係ないといっていたのに残念だ。法律は何事にも公平。事態を見守っている以外、何もいうことは無い」と短くコメントしている。同じ頃、中曽根幹事長は、「深刻な事態だ」とつぶやいて、私邸から党本部へ向かう。
午前9.25  ロッキード事件関係閣僚連絡協議会を開く。
 7時35分から9時半まで高瀬検事正が、角栄を取り調べている。逮捕状を執行された後、角栄は「紙をくれ」と要求し、離党届けと派閥の脱会届けを書き、「中曽根に渡してくれ」と頼んでいる(田中良紹「裏支配」)。
午前9.30  田中派「7日会」の西村英一会長が心配そうな表情で砂防会館の田中事務所に駆けつける。二階堂進氏ら田中派幹部と対策を協議。
午前9.35  角栄が、職員専用エレベーターで正面玄関に現れ、パトカー1台の先導で小菅の東京拘置所に向けて出発。同時に関係各方面で強制捜査が開始された。
午前9.40  その後、高瀬礼二検事正と豊島英次郎次席検事が緊急記者会見を開き逮捕を発表をしている。普通、記者発表は、豊島英二郎次席検事が行うところ、異例にも検事正が行っている。
午前9.40  灘尾総務会長、沈痛な表情で「今は何もいえない」と云いながら党本部に入る。
午前9.50  永井文相が、閣議前に「政治は重大局面に入る。だが私は教育に全力を挙げます」と語る。
午前10.00  閣議始まる。三木首相は、稲葉法相の報告に続いて、概要「時局は極めて重大である。(田中の逮捕が)自民党の結党以来の最大の試練に直面している。お互いに言動を慎み、団結してこの試練を克服しなくてはならない。田中さんは関係ないと言っていたが残念だ。しかし、法律は誰にも公平でなければならない。私の心境は粛然として事態の推移を見守るとともに、ロッキード事件の真相を解明して、国民の疑惑と不信を解消する責任を一層痛感している。この際は、検察当局を全面的に信頼して、一切を司直の手による厳正な執行に委ねたい」と、捜査を督励している。
午前10.05  社会党ロッキード政治献金調査特別委員会のメンバーが談話を発表。他の野党も続く。
午前10.18  角栄が東京拘置所へ収監される。
午前10.24  閣議後記者団のコメント要請に対して、福田副総理は「始まったなぁ---。意表をついたやり方だ」と不快感を表明。この時、稲葉法相は終始無言。大平も「言うことは無い」。
午前10.30  閣僚たちがそれぞれ記者会見に応じ感想を語る。稲葉法相は、概要「政界はあまり動揺せず、冷静沈着に推移を見守ってほしい。検察のやることだから、正しいはずだ。私は満腹の信頼を置いている。一切の政治関与をしないと云ったのは、そういうことだ。真相解明の為に、報道機関も冷静に対処してほしい」等のコメントを発している。

 大平蔵相は「大変なショック。なんとしても残念だし---。政界に身をおく者として、また友人として国民に申し訳ない気持ちだ。予想もしていなかった---」と腕組みして、うつむき加減にコメントしている。

 金丸国土庁長官は、「想像もしていないことで大変ショッキングである。私は今もなお、田中氏を信頼している。事件発足直後に、直接尋ねたら『金丸君、君までそういうのか。私は政治家として誇りを持っている』と云われたの巣が、今でも耳の底に残っている。田中派をどうするかは、事件の推移を見ながら、幹部の間で相談するが、こういう事態になって、何を信じていいか分からない。政治家を続けるのが嫌になった」と絶句。

 元社会党委員長・佐々木更三は、「国家有用の人材に対して何と言うことをするのだ」と怒り狂ったと伝えられている。
午前10.58  首相官邸で、緊急の政府・与党首脳会議。「政府にとっては重大な事態であり、党にとっても結党以来、最大の危機である。襟を正して冷静に対処すべきである。もう少し醸成の推移を見守る」との認識で一致。会議が始まる前、石田博英が稲葉法相を捕まえて、「釣りがうまいな。大きいのを引っ掛けたねぇ」と軽口を飛ばしている。中曽根幹事長が、「粛然と襟を正し、全党結束して試練を乗り切る」との幹事長談話を発表。
午前10.58  三木首相が内閣記者会と緊急記者会見。「自民党結党以来、最大の試練」と深刻な表情を見せつつ「国民に信頼してもらえる自民党に再生するため、全力和傾ける責任を感ずる」と語る。この発言をテレビで見ながら、福田副総理は「三木はあれを言いたいんだ」と吐き捨てるようなコメントをしている。
 砂防会館3階の田中事務所に続々と議員が集まってきた。若手の橋本龍太郎が「好きなんです。僕は、角さんが好きなんだから仕様がない」と、人目はばからずなきじゃくった。
 概要「三木首相の逆指揮権発動だ。惻隠の情がなさ過ぎる。やり過ぎだ」の声が挙がった。
 羽田孜は次のように明かしている。
「私の父はこういった。孜、よく聞きなさい。今、田中さんは非難の矢面に立たされている。もしかしたら、本当はロッキード社からカネを貰ったのかも知れない。だが、あの田中さんが真剣な顔をして『オレは受け取っていない』というのだから、貰っていないんだ。俺はそう信じる。人を信じるということはそういうことではないか」。
 椎名悦三郎談。
「角さんはね。5億というんだけど、自分のところにいつどうやって入ったのか、本当は分かっていないんじゃないか。しかも、仮に入ったところで、それはすぐ出て行ったんじゃないか。あの男の目の前をベルトコンベアーに乗って右から左に流れているだけじゃないんか」。
午前11.00  自民党中堅、若手の超派閥集団「有志議員懇談会」が、党本部に各派代表世話人を集めて、対応策を協議。
午前11.10  角栄の秘書・榎本敏夫が、都内の病院に入院中のところ、角栄との共謀による外為法違反容疑で逮捕状が執行された。
午前11.50  三木首相が、内閣記者会と緊急記者会見を開く。「法相から報告を聞き驚いている。これは自民党結党以来の最大の試練である。国民に信頼してもらえる自民党に再生するため、全力を傾ける責任を感ずる」、「田中さん自身も国民の疑義を晴らしたいと言っていた。法律的な問題は中途半端にするつもりはない」と語る。
正午過ぎ  党本部で総務会が開かれる。荒れ模様であったが「自民党にとって重大であり、事態を深刻に受け止め、結党して党再建に努める」ことで一致。中曽根幹事長が「談話」を読み上げている途中で、東京地検を通じて田中からの「一身上の都合により、自民党を離党させていただきます」の自筆の離党届が届けられる。
正午過ぎ  「7日会」の西村英一会長が事務所で臨時記者会見して「田中さんを信じている。一日も早く真相が解明されるように---」談話を発表。
正午過ぎ  社会党が党本部で緊急幹部会を開いた後、成田委員長が記者会見。「三木首相は、自分自身の責任を忘れている。首相の政治的、道義的責任を追及していく」談話を発表。
午後1.50  三木首相が首相官邸でTBSテレビの「総理に聞く・ロッキード事件と政治の責任」の録画撮り。
 この頃、自民党の各派は緊急部会などを開き、それぞれ対応策を協議。野党側も同様で、社会党は街頭行動へ繰り出す。
午後3.40  椎名副総裁が、静養先の静岡県須走から帰京。新聞記者の質問に「総理・総裁経験者が逮捕されたことは残念だ。この際、党員全体が反省して、一から出直す覚悟で、粛党に心がけなければならん」、「極めて重大な問題なのに、多少乱暴のような気もする」、「ロッキードと政局は別だ。人心一新を求める党内の声には変わりはない。福田、大平の認識も変わりないはずだ。ワシは今後も人心一新を実現するため、側面援助していく」と語る。
 新聞各社夕刊が1面トップに同じ見出し「田中前首相を逮捕」で記事を載せる。
午後4.40  田中派が在京有志議員総会を開いて、一致団結を確認。この頃、田中事務所の家宅捜索が終わる。
午後5.00  三木首相が参院ロッキード調査特別委員会に出席。野党質問に、「自民党員として深く責任を追及している。これを痛感しているからこそ、今後も事件の真相を究明し、こういうことのないよう、政治改革を進め、国民の信頼を回復することが当面の私の責任だ」と答える。6時6分に終わる。
午後6.25  三木首相、私邸に帰る。疲れた顔つきで「今日は長い一日だった」。
午後8.30  帰宅した灘尾弘吉政調会長が、夜回りの記者に「仮にも前総理、総裁を逮捕するのなら、なぜ事前に話をして、議員を辞める道などを開いてやりなかったのだ。そうすればまた、田中君も、党へ帰ってくることもできるんだ」と述懐。
この日の夜  赤坂の料亭「鶴よし」で、中曽根幹事長と河本通産相とが会合し、田中逮捕後の政局についての意見交換と、ロッキード事件の徹底解明と三木・中曽根派の一層の協力体制強化を意思統一している。この会合には、三木派から井出一太郎官房長官、中曽根派から桜内義男、法相の稲葉修が出席していた。これを仮に「疑惑の5者会談」とする。この時、稲葉法相が「中曽根に就いては大丈夫だ」と保証して見せた、と伝えられている。

 この時「カンパーイ」との声が何度も聞こえ、祝杯が挙げられていた。これを伝聞された田中派から「前総裁・総理が逮捕された『通夜』の晩によくもやってくれる」と非難の声があがる。他派閥からも「不謹慎」の声があがる。野党からは、事件解明の最中に法務大臣が出席する場ではないと批判が出された。
7.28日  大平派幹部鈴木善幸が二階堂に電話を入れ、「大変だったなぁ」、「何でも相談に乗って協力するよ」と述べ、二階堂が「心配かけて済まん、予想しなかったことだが、大丈夫、7日会はまとまって行く」と答えていることが伝聞されている。
7.28日 参院議長の河野謙三は、モントリオール・オリンピックの日本選手団団長として外航していたが、帰国後「実に悲しむべきことだ。誰がいい、悪いということではなく、与野党みんなが厳しく反省しなくてはいかん」、「前総理を別件逮捕とは---」と悲痛な表情で語っている。
7.29日  朝日新聞が「コーチャン証言などに中曽根氏ら---」の特報が載る。
7.30日  元衆院議長の船田中は、灘尾氏との会談で、「前総理の地位にある人を、外為法違反という別件容疑で、いきなり逮捕するのは、やや行き過ぎの感じがする。三木君は『知らなかった』ということだが、それにしても、事後すぐに顧問会議でも開いて、善後策を協議すべきだった」と三木批判をしている。
8.1日  稲葉法相が、高松市内の時局講演会で、「あと一週間か10日すれば、事件のヤマを越すだろう」、「田中逮捕で刑事責任の被追及者が出揃ったわけではない。民間にもありそうだ」と、捜査の見通しに言及している。

 更に、「臨時国会の召集は、8.20日以前には無理だが、もう1週間か10日すれば、ロッキード事件のヤマは越すだろう。そうすれば、臨時国会召集の時期は、あと2、3日、ないし4、5日で党執行部が決定できることになると思う。会期は45日か50日、臨時国会は10.10日までで、選挙の投票日は11月の第一日曜日(7日)になると思う」と、首相か幹事長のような発言をしている。
8.2日  稲葉法相が、大阪の岸や会見で、「ロッキード問題だけが政治ではない。臨時国会など政治日程も詰まっており、捜査も遅疑逡巡することは許されない」と、前日に引き続き首相か幹事長のような発言をしている。田中逮捕までは「ロッキード事件が解明されるまで、政治日程は立たない。政変や国会開会は、捜査の支障になる」と云いつづけていたが、田中逮捕後は一転豹変して「ロッキード問題だけが政治ではない」とポストロッキード論にシフトを催促している。
8.2日  田中前運転手、笠原正則の変死体発見される。
8.3日  自民党有志議員懇談会が開かれ、各派閥の激論となる。゛
8.5日  越山会緊急幹部会開催、田中出馬要請を全会一致で決議。後
8.13日  稲葉法相が、自宅でオフレコ発言。「きのうの検事総長との会談は、田中のことが主だ。受託収賄で起訴の方向だ。田中については、証拠固めが大変なんだそうだ。下手をすると、お礼参りをされるからな。俺のほうにもお礼参りが来るかもしれん。証拠を十分固めておかねばならんので大変なんだ」。
8.15日  稲葉法相が、自宅でオフレコ発言。「今まで中曽根を、いろいろと弁護して来てやったが、もうやめようと思う。あまり彼のことをしゃべると、逆効果で、却って話がおかしくなると、ある人に云われたんだ」。
8.16日  東京地検、田中前首相を受託収賄罪と外為法違反の罪で東京地検に起訴。
8.17日  閣議で、稲葉法相が事件の捜査状況を説明し、最後に「検察当局は、これからの政治日程を進めてもらって結構という意向だった」と結んだところ、福田一自治省が、「検察当局が政治日程にまで触れるのは、検察ファッショではないか」と噛み付いている。
8.17日  田中前首相、東京拘置所を出所。保釈金2億円。

【三木・中曽根派のコメント】
 三木・中曽根派は、角栄逮捕に際して次のようにコメントした。「田中前首相のスケープゴート(いけにえ)論」、「田中派をカネに群がる権力亡者の集団視」していることが判明する。
 「ロッキード事件は、田中派の特異体質から出たもので、自民党は関係ない」。
 「自民党のほんの一部がダーティーなんだ。その部分を手直しすればよい」。
 「田中逮捕で、国民に共感があるのは事実だ」。
 「田中逮捕が保守再生につながり、日本の民主政治が健在であるとの意識を植えさせることを基本認識に置くべきだ」。

【三木首相は、事前に知っていたか】
 7.30日、三木首相と福田副総理との間に会談がもたれ、この時、三木首相が田中逮捕を事前に知っていたのかいなかったのかの談義が為されており、三木は「知らなかった。事後報告で知った」ないしは「直前に知った」と言い張り、福田は「総理大臣に事前了解がないということは有り得ない。総理大臣ってそんな軽いものかい」と吐き捨てるように突っぱねている。福田はこの後「ウソを付くのも、ほどほどにしろ」と側近につぶやいている。ここには、両者とも田中とは抗争関係にあったとはいえ、処世仁義とも云うべきものに対処する資質の違いが伺えて興味深い。

 藤原弘達氏は著書「角栄もういいかげんにせんかい」の冒頭で、角栄逮捕の二日前に三木首相から呼び出しを受けた秘話を明らかにしている。それによれば、次のように指南役を仰せつかったと云う。
 「『すぐにでも会いたい、なんとか都合をつけてくれんだろうか』と三木首相直々の電話で呼び出され、いったい何事ですかとの問いに、『とにかく、大変なことになってねぇ』と角栄逮捕の情報を事前漏洩された。『ここは一つの仮定として話したいんだが』と云いつつ『そういう異常事態になった場合の、情勢がどのように展開するか、それをあなたに聞きたいんだ』、『(当然予想される三木下ろしに対して)総理大臣としては、どういう行動を取るべきかね。遠慮なく率直に云って欲しいんだ』。気が付くと、午前3時半を回っていた。かれこれ6時間も話しつづけたことになる」。





(私論.私見)