閣僚答弁4

 (最新見直し2013.05.19日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、角栄の大臣時代の答弁を確認しておく。「田中角栄の衆議院本会議発言一覧」を参照する。

 2013.5.19日 れんだいこ拝


 田中角栄の国会発言を確認する。「第67回国会衆議院本会議第5号(1971/10/21、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 対米偏重、すなわち日本の貿易は米国に片寄り過ぎておるのではないか。そのような貿易構造を是正して、すべての国との貿易交流を拡大するほうがいいのだという御質問でございますが、趣旨はそのとおりでございます。わが国の貿易が年間四百億ドル、すなわち十五兆円ベースにも達しておるのでございますから、世界経済に大きな影響を持つことは申すまでもありません。このような状態でありますから、わが国の経済の安定的な成長のためには、互恵と国際協調の精神に基づき、摩擦を回避しながら貿易を確保してまいらなければなりません。その意味では、広く各国との貿易交流の拡大につとめてまいらなければならないことは御指摘のとおりでございまして、そのような方向で進めてまいるつもりでございます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第67回国会衆議院本会議第14号(1971/11/16、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 研究開発は、国民福祉の向上と経済発展のため不可欠な要請でございまして、その振興は政府の重要な使命でございます。経済社会の要請に応じ、総合的で大規模な研究開発を、官民の能力を結集しまして推進をする大型プロジェクト制度の役割りは、ますます重要になると思われるのでございます。しかしながら、このような技術開発は、御指摘のとおり、基礎研究の積み上げによって初めて可能になるものと存ずるわけでございます。通商産業省といたしましても、工業技術院傘下の試験研究機関におきまして、基礎研究を鋭意推進をしてまいってきたわけでございますが、今後とも基礎研究費、安全対策費の増大をはかることによりまして、その責任を果たしてまいるつもりでございます。
 今回の生田試験地の実験で多くの犠牲者を出しましたことは、はなはだ遺憾なことでございまして、犠牲になられた方々に、心から哀悼の意を表する次第でございます。地質調査所といたしましては、地質特性に関する研究の一環といたしまして、地質構造と崩壊状況との関連を観察するために協力参加をいたしたわけでございます。そのために観察しやすい場所に位置をしておったわけでございまして、このことが多くの犠牲者を出す結果につながったわけでございます。このような事故を再び起こさないために、研究管理上、安全確保に一そうの努力を重ねてまいる所存でございます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第67回国会衆議院本会議第20号(1971/12/03、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 今般、新潟沖におけるジュリアナ号事故につきましては、たいへん遺憾でございます。通商産業省といたしましては、係官を現地に出張せしめますとともに、業界技術陣を動員いたしまして、海上保安庁を中心に事態収拾に当たっておるわけでございます。被害がこれ以上拡大しないように全力を傾けておる次第でございます。しかし、ジュリアナ号は積載原油量は約二万トンでございますが、そのうち約四千トンが流出をして、現にその分散作業等を行なっておるわけでございますが、この当面の処置として必要な中和剤に対しては、十八リットルかんにして約五万かんの手配が済んでおるわけでございます。しかし、現地に送り、投入済みのものはそのうち二万かんでございます。しかし、残りの約一万四千トンが流出をするような事態は絶対に避けなければなりません。これが流出をするようになりますと、たいへんなことになります。中和剤、最低二千八百トン、約十五万かんを必要とするわけでございます。ところが、日本に現在備蓄しておりますものは十万かんでございます。その意味で、このような事故があってはならないことでございますが、また今度の事故は、あり得べからざるような初級的なミスによる事故でございます。そういう意味で、この十万かん備蓄のものを全国から集めるということだけでも非常にたいへんな仕事でございますが、不足をすれば、海外から輸送しても中和剤を集めて対処しなければならないということでございます。そういう意味で、第三の問題としては、将来起こり得べき問題に対して万全の対策をとるべしという御質問、そのとおりでございます。

 わが国の海外からの原油の搬入量は逐年増大をいたしておるわけでございまして、あと十年もしないうちに、自由世界の原油の輸送量の三分の一以上が日本に搬入をせられるというのが現状でございます。そういう意味から言いますと、起こしてはならないことではございますが、起こらないということはないわけでございまして、これに対する対策は十分考えなければならないことは言うをまちません。特にタンカーの型が非常に大きくなっております。いまのものが二万トンでこのようなことでございますが、いま建造許可を与えておるものは五十万トンでございます。いかにたいへんなことかは申すまでもないのでございまして、危険が起こるものとして体制を整備しなければならないわけでございます。具体的には、石油及び船舶業界における防災施設の整備、また薬剤の研究、備蓄の増大、分散技術の開発等、諸般の体制を整備しなければならないわけでございます。また、地域ブロック別にいろいろな体制をつくることも必要でございます。油濁防止、その処理技術の開発等は、業界の協力もまたなければならないわけでございます。今度の事故を契機にいたしまして、非常に大きな原油を搬入する日本としての特殊性から、万全の体制整備ということに踏み出したい、こう考えておるわけでございます。(拍手)
 御質問に対して、二点お答えをいたします。第一点は、事故補償についてでございます。第一次的には船主に補償責任がございます。当該船主が船主保険組合に加入していることが確認をせられております。また、石油会社による国際機関でございます海洋油濁補償協会による補てんの道もございますので、被害者の救済には遺漏がないものと考えられるわけでございます。政府は、救済が迅速かつ円滑に行なわれるよう、関係者を強力に指導してまいるつもりでございます。第二点は、自今の対策でございますが、いま運輸大臣が述べられたとおり、タンカー事故を未然に防止するため、対策の強化と体制を整備してまいります。第二は、事故が起きたときの対策として、被害を最小限に押えるための分散中和剤等の確保等、備蓄の拡充をいたしてまいるつもりでございます。第三には、薬品、技術の研究、開発の促進をしてまいります。第四には、石油船舶業界等の防災体制の確立をいたすわけでございます。以上申し上げましたように、災害に対しましては万全の体制措置をいたしてまいるつもりでございます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第67回国会衆議院本会議第25号(1971/12/21、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 まず、自由化対策について申し上げます。 今回の通貨調整によって、日米間の大きな懸案事項はおおむね解決したものと考えておるわけでございますが、今後の通商問題の基本といたしましては、対外経済政策に関する八項目の線に沿って進めてまいるべきだと考えます。その意味で、八項目に沿いました農林、通産物資等の自由化政策につきましては、できる限り進めてまいらなければならないと存じます。なお、第二の、電算機の自由化につきましては、このスケジュールについては、従来決定しておりますとおりであり、より以上の自由化を考えておりません。第三点、ドル切り下げで灯油価格は下げられるかという御質問でございますが、ドル建てで海外から輸入する原油は、ドル切り下げで有利となっておりますことは御指摘のとおりでございます。OPECの原油価格引き上げ等の圧力もあるわけでございますが、これらを吸収いたしまして、消費者価格が据え置きまたは引き下げられる方向で努力を続けてまいりたいと存じます。なお、円平価の調整によって影響を受ける中小、零細企業対策に対しては万全を期してまいります。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第4号(1972/01/31、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 私に対する御質問に対してお答えをいたします。第一は、中国向け輸出入銀行延べ払い適用等についてでございますが、前向きかつ積極的に対処することとなし、ケース・バイ・ケースで処理をいたすつもりでございます。第二点は、ココムリストの問題についてでございます。いかなる国とも貿易を拡大していくことを貿易政策の基本といたしております。ココムにつきましても、国際情勢の変化を見きわめながら、ココム加盟各国と協議をし、規制の大幅緩和についてさらに努力を継続していく考えでございます。第三点は、円元決済等についてでございますが、日中貿易の円滑な発展をはかってまいります見地から、関係者の間で納得する方式がまとまるならば、これを尊重の方向で検討を進めてまいるつもりでございます。第四点は、わが国経済運営の基本的態度についてでございますが、詳しくは総理大臣からお答えがございましたので、一言申し上げます。
 わが国は、GNPにおきまして西欧水準に近づき、戦後一貫して進めてまいりました目的はほぼ達成に近づきつつあると思うのでございます。その意味で、これからは社会資本の不足を補い、生活環境を整備、浄化し、かつ生活の安定性や快適性を確保する等、国民の高度化、多様化しておる欲求を満たすため、そのような方向で政策を推進すべきであると考えておるのであります。その意味で経済の安定成長をはかり、その成果を国民福祉、国際協力等に積極的に活用していくべきであると思います。

 最後にもう一点、四十七年度末外貨準備高二百億円という件について申し上げますが、これは、わが国経済が高度成長をしておることを謳歌した発言ではありません。今年度景気が浮揚せず、輸出が促進をされ、輸入が増大しないまま推移をしたならば、現在わが国が保有いたしております外貨百五十億ドルは二百億ドルに積み増しされるおそれがあります。そのような潜在経済力を意識しながら景気浮揚政策を推進することによって、対米輪出入がなるべく均衡するようになることが望ましい趣旨を強調したものでございます。念のため御答弁を申し上げます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第9号(1972/03/07、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 田中角榮君のあいさつ

  永年勤続議員として、特に院議をもって表彰をいただき、感激にたえません。 初めて本院議員に当選した昭和二十二年の四月は、敗戦の直後であり、混乱のさなかでありました。また、この年は新しい憲法が施行された年でもあります。 焼け果てた町の復興に寧日ない人々。一片のパンの配給に長蛇の列。外地から引き揚げてき数多くの家なき人たち。職を求める人の群。社会不安からくる思想の混乱など、国会が解決しなければならないことは山ほどありました。しかし、占領軍治下にあった国会の活動には、おのずから制約があり、自由で濶達な政治活動ができなかったこともまた事実でありました。当時、メモランダム・ケースといわれた幾つかの法律が制定されましたし、わが国の法律条文としてはなじまない直訳条文も数多く見られました。私は、これらの法律が施行されたときの混乱を考え、幾たびか抵抗を繰り返したことをあざやかに記憶しております。

  戦いに敗れた国の多くが、血で血を洗い、兄弟牆に攻めあう、暗く陰惨な歴史をつづってきたのが世界の現実であります。二千年余の長い歴史の中で生き続けてきた日本人だけは、この轍を踏んではならない。これこそ私たち、新たに議席を得た者の責務でなければならない。この誓いは、二十五年の歳月を経たいまも心の底に抱き続けておるのであります。戦後四半世紀余にわたる新しい日本の歴史は、みごとに書きつづられてきました。日本と日本人になじまない多くの諸法規、諸制度も、これを消化し、定着せしめた日本人の英知は、高くこれを評価すべきであります。私は、議員としてのみずからの非力を恥じながらも、日本国民の書いた戦後の歴史は、人類の歴史に新しく光彩ある一ページを飾ったものと信じています。

 永年勤続議員、それは私にとって夢のようなものでありました。私は、今日まで私を理解し、支援くださった多くの有権者の皆さまに、心からお礼を申し上げます。そして私は、私なりに懸命な努力を続けてまいるつもりでありますが、これからも皆さまの期待にこたえ、永年勤続議員の名に恥じない治績を積むべく、全力投球を続ける覚悟であります。真に議会政治の発展を信じ、国民皆さまの御理解を願って、私のごあいさつを終わります。

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第11号(1972/03/14、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 競輪資金は、工業の振興と公益事業に大別し配分をいたしておるわけでございます。補助金配分の手続といたしましては、毎年新聞公告、官報告示等をいたしまして募集いたしました補助要望に対しまして、基準により慎重審査の上、車両競技審議会の議を経まして、大臣認可の上決定をすることにいたしておるわけでございます。念のため、最近三年間の補助状況を申し上げますと、機械振興につきましては、四十四年百十六件、八十一億八千六百万円、四十五年百二十三件、九十一億七、十六百万円、四十六年百四十一件、百七億七千九百万円でございます。なお、公益事業関係につきまして申し述べますと、四十四年三百八十一件、七十二億九千万円、四十五年三百九十三件、八十八億六千三百万円、四十六年、三百六十七件、百三億六千四百万円でございます。自今も、自転車競技法に基づきまして振興会を監督し、配分資金の補助につきましては適正を期し、その実行にあたりましては効率的使用をはかってまいりたいと考えます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第13号(1972/03/17、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 工業再配置促進法案につきまして、その趣旨を御説明いたします。わが国の経済社会は、工業化と都市化を基調として成長、発展を続けてまいり、その結果、国民の生活水準は著しく向上いたしたのでございます。しかしながら、成長、発展の過程において国土面積の二〇%にしかすぎないいわゆる太平洋ベルト地帯に工業生産の七〇%強、人口の五〇%が集中し、一方では人口の著しい減少と財政窮迫に悩む市町村が全市町村の約三〇%にも及ぶに至り、これにより、住宅難、交通渋滞、環境悪化等の過密問題と過疎問題とが、同時に発生いたしているのが現状であります。こうしたいわば国土資源の片寄った利用による諸弊害を是正し、今後とも長期にわたってわが国経済社会の活力を持続し、国民生活の向上をはかっていくことが、われわれに課せられた重大な使命であると考えます。本法案は、かかる見地から工業生産の全国的な平準化の促進を柱として、国土利用の再編成を進めるため、工業が過度に集結している地域から工業の集積の程度が低い地域への工場の移転及びその地域における工場の新増設を、環境の保全と雇用の安定に配意しつつ推進しようとするものであります。

 次に、本法案の概要について御説明いたします。第一は、工業再配置の基本となる移転促進地域と工場の誘導をはかるべき誘導地域を定めることとしていることであります。移転促進地域は、大都市とその周辺の地域のうち、工業の集積の程度が著しく高い地域について、また、誘導地域は、工業の集積の程度が低く、かつ、人口増加率の低い地域について、政令で定めることとなしておるのであります。

 第二は、工業再配置計画を策定し、公表することとしておることであります。この計画は、目標年度における工業の業種別、地域別の配置目標、移転促進地域から誘導地域への工場の移転に関する事項、環境の保全に関する事項等について定めるもので、今後の工業再配置政策の基本となり、また民間企業の立地に関する指針としての役割果たすものであります。なお、計画の策定にあたっては、新全国総合開発計画その他各種の地域振興計画、農村地域工業導入基本方針等と調和のとれたものとなるよう十分調整をはかることといたしております。

 第三は、移転促進地域から誘導地域への工場の移転及び誘導地域における工場の新増設を促進するための税制上、財政上、金融上の措置を講ずることといたしておることであります。まず、移転促進地域から誘導地域へ移転する工場については、移転計画の認定制度を設け、この認定を受けた場合には、企業に対し償却の特例を認めるとともに、固定資産税の減免をした地方公共団体に対し減収分の補てん措置を講ずることとしておるのであります。また、財政上の措置といたしましては、誘導地域において企業が立地した場合に、主として市町村に交付される工業再配置促進補助金、地方公共団体等の造成する工業団地に対する工業団地造成利子補給金を昭和四十七年度予算において要求しております。そのほか、誘導地域における産業関連施設及び生活環境施設の整備の促進等に関し所要の規定を設けておるのであります。

 なお、本法に関連をいたしまして、工場の移転関連融資、工場用地の造成等工業再配置促進対策の重要な部分を実施させるため、現存の産炭地域振興事業団を改組拡充して工業再配置・産炭地域振興公団とすることとなし、別途、産炭地域振興事業団法の一部を改正する法律案を提案いたしておるのであります。よろしく御審議賜わりたいと存じます。以上が工業再配置促進法案の趣旨でございます。(拍手)
 工業再配置の必要は当然ではあるが、本法では不十分である、もっと抜本的な施策を行なうべきであるという御説でございまして、大体において御発言のような気持ちでおるわけでございます。しかし、この問題は、非常に長いこと懸案の問題でございました。同時に、焦眉の問題として解決を要する問題に対する具体的な第一弾ともいうべきものだと考えておるのでございます。いままでのように、新産業都市建設促進法とか、農村地域工業導入促進法とか、工業整備特別地域整備促進法とか、いろいろなものがございましたけれども、これらの法律、制度とあわせて緊急な問題を解決する処方せんの一つとして、本案を提案をいたしたのでございます。

 工業再配置促進法は、直接には工場立地に関する法律でございますが、しかし、問題は非常に多くのものを含んでおることは、ただいま御指摘のとおりでございます。東京、大阪、名古屋三カ所だけで、五十キロ半径で、その合計する地域は全国土のわずかに一%でございます。にもかかわらず、この一%の地域に三千二百万人、総人口の三二%が集中しておるところに、過度集中というのでございます。東京の例をとりますと、東京の法律でいう首都圏、半径百キロ圏には、驚くなかれ総人口の二八%、二千八百万に近い人が集中しておるのでございます。二千万台に及ぶ単を外国並みに運行せしむるためには、東京及び首都圏の道路面積を三倍にするか、道路を全部三階にしなければ、ニューヨーク並みの交通は確保できないというのが現状でございます。このような状態で年々大幅な公共投資を行なっておるわけでございますが、公共投資は、先進工業国十カ国の中の最大である西ドイツの一〇%をこす、約倍、二〇%の投資を行ないながら、社会資本の蓄積率はどんどんと減っておるのでございます。

 交通の渋滞、住宅の不足、社会環境の整備を必要といたす事実は、私が申し上げるまでもないのでございますが、しかし、昭和二十九年から三十九年まで十カ年間、平均一〇・四%の成長を続けたのであります。三十五年から四十五年までの十カ年を見ますと、一一・一%という高い成長を続けたのであります。だから、三十年度の一人当たり国民所得二百二十何ドルというのが、千六百ドル近くなったわけであります。その間に社会保障も拡充され、われわれの国民所得も増大をしたことは、私が申すまでもなく数字の上で明らかでございます。しかし、去年は四%台の低い成長率で非常に不況感を味わったわけでございますが、しかし、私が述べておりますとおり、これから六十年まで年率一〇%の成長を続けるとすれば、六十年度の国民総生産は三百兆円をこすのであります。七・五%成長としても二百二十兆円をこすわけでございます。

 このような数字を土台として現状を見ますときに、このままの自然発生を是認をする政策をとる限りにおいて、コストアップは避けがたいのであります。言うなれば、物価も公害も、特に過度集中から来る複合公害の問題を解決するとすれば、どんな政策よりも、工業の再配置を行なう以外には基本的な解決政策はないわけでございます。私は、この提案した法律をもって万全とはいたしておりません。全く初歩的なものだと考えますが、焦眉の問題を解決するための、どうしても必要とする法律の一つとして御審議をいただいておるのでございまして、皆さんの可及的すみやかなる御賛成をこいねがう次第でございます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第21号(1972/04/14、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 私から二点についてお答えを申し上げます。ただいま総理大臣がお述べになりましたように、因果関係の推定と通産省の関係について、まず申し上げます。無過失責任の立法化につきましては、当省といたしましても、かねてから前向きの姿勢でありましたことは御承知のとおりでございます。因果関係の推定につきましては、当初の環境庁案につきまして協議をいただきましたとき、法律的意味、影響、効果等を慎重に検討いたしました。最近の判例で見るごとく、法律に明文の規定を置かなくとも、同じ効果が期待できるという議論もあります。なお、他方、これを広く解釈すると、実際上の公害に関係なくとも責任を負わされる場合が起こり得るとの不安も産業界にあったことは事実でございます。このようなことから、判例、学説等も検討の上、環境庁は、本件に関しては判例の発展にゆだねることが適当という結論を出したわけでございます。

 第二は、差止請求権の問題についてででございます。公害により被害を受けるおそれのある者が、当該発生事業者に対し、事業の廃止または一部停止その他の措置をとるべきことを請求することができるというものでございます。環境庁の原案にもこの問題はございませんでした。今回の法律関係におきましては、特に検討が行なわれなかったのが事実でございます。いずれにせよ、本件につきましては、問題も多いものでございますから、慎重に検討すべきものと考えます。
 私から、三点にわたってお答えをいたします。まず第一点は、OECDにおけるPPP、すなわち汚染者負担の原則とわが国の公害対策との関連についてでございます。公害については、原因者負担が原則であることは、わが国の制度もそのとおりにいたしておるわけでございます。しかし、公害除去のためには、税制、財政、金融上の措置等がとられておることは事実でございます。現に御審議をいただいております四十七年度の総予算案におきましても、昨年度九千万円であった公害除去の工事助成金として約三倍に及ぶ事業費を計上しておるわけでございます。これらがPPPの原則とたがわないかということでございますが、原因者負担の原則を貫き、その上に政府、地方公共団体と力を合わせて公害防除につとめておるわけでありますから、原則的にこの方針と反するものではないわけであります。現にある公害を防除するためには、国民の生命、財産を守るという崇高な使命を果たすわけでありまして、原因者負担の原則だけにとらわれるものではなく、政府、地方公共団体、国民すべてが協力をし合って実をあげることが望ましいことは言うまでもないわけでございます。

 第二点は、PCBに関する問題でございます。昭和二十九年から四十六年末までに製造されたPCBの総量は五万五千トンに及ぶわけでございます。非常に高性能なものでございまして、閉鎖性と開放性に使われておるわけでございます。閉鎖性は、御承知のとおりトランス、コンデンサー等に使われてもおりますし、家電製品にも使われておるわけでございます。また、開放性はノーカーボン紙等に多く含まれておったわけでございまして、これを故紙として回収をし、ちり紙等をつくったときに、その中にPCBが非常に多く含まれておったということでございます。もうすでにこの生産は、三社でございますが、四月ないし六月には全面的に操業を停止をするわけでございます。この残っておりますものは現在五百トンでございます。非常に高性能なものであって代替品が見つからないということで、閉鎖性のもので完全に回収できるもの、電電公社、日本国有鉄道、その他そういうものに対しては、ごく限られた部分で、回収を原則として使用さしておるわけでございます。開放性のものに対しては全面禁止でございます。

 しかし、すでに五万五千トンも製造されておるものという汚染、これを回収しなければならないことは御説のとおりでございます。これはちり紙等、全国にばらまかれておるものでございまして、これを回収しなければならないということはそのとおりなんですが、回収するということに対してどういう処置があるかということは、閉鎖性のものは別でございますが、開放性として使われたものの回収は非常に困難であるということだけは事実でございます。しかし、特定なものとしては、田子の浦で製紙工場の廃液から流れたという、PCBが含まれておるどろがございます。もう一つは、川原に積み立てられておる、PCBを相当含むものがありますので、川原に積み立てられておるようなものは、これは固定化などをするということで処理ができるわけでございます。いずれにしても、PCBの公害というものは非常にたいへんなことでありますので、各界の協力も得ながら、精力的にこれが公害除去につとめてまいります。

 第三点、休廃止鉱山の公害防止の問題でございますが、鉱業法によりましては、非常に古い法律でございますが、無過失賠償責任の制度がちゃんと明定してございます。しかし、数百年の長い歴史を持つものでございまして、鉱山というものは、いま大体どのくらいあるのかというと、六千カ所ぐらいが推定をせられます。しかもその中で、公害に関して調査を要するものが千五十カ所と推定をされるわけでございます。現在、通産省が主体になって、二百五十鉱にわたり公害防除の施設等を行なっておるわけでございますが、もうすでに鉱業権者のないもの、無資力等のものがございまして、いろいろな問題を起こしておることは事実でございますので、まず実態調査を行ない、公害防止工事補助金を拡大し、休廃止鉱山の公守防止に全力を傾ける。以上で御理解をいただきたいと思います。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第26号(1972/05/09、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 中小企業基本法第八条に基づいて、先般政府が国会に提出をしました昭和四十六年度中小企業の動向に関する年次報告及び昭和四十七年度において講じようとする中小企業施策の概要を御説明申し上げます。まず、昭和四十六年度の中小企業の動向について見ますと、長期化した不況の中で、国際通貨調整問題も加わり、中小企業の事業活動は総じて沈滞し、収益は悪化傾向をたどったのでございます。金融緩和の浸透や政府が輸出関連中小企業を中心に実施した緊急融資、為替予約制度など一連の緊急中小企業対策の効果などもあって、倒産は低水準に推移しているものの、今後の動向には十分注意する必要があるものと思われます。また、今後は、公共投資を中心とする景気浮揚政策の実施により不況が打開され、新たな景気の局面が展開することが期待ざれるところであります。

 続いて、この年次報告で取り上げております中小企業の構造問題について御説明を申し上げます。従来、中小企業は、低賃金、低生産性を特徴とし、わが国経済の二重構造の底辺をなす存在であるといわれてまいったのであります。しかし、昭和三十年代以降の高度成長過程を通じて、大企業と中小企業との間の生産性及び賃金の格差は総じて縮小に向かうなど、いわゆる二軍構造は次第に解消しつつあるようにも思われるのであります。しかしながら、現存、中小企業をめぐる経済環境は急激に変化し、時代は中小企業にきびしい課題を問うていることもまた事実であります。課題の第一は、円切り上げに象徴されるように、わが国経済の本格的な国際化が進展し、中小企業もこれに対応していくことが期待されていることであります。輸出関連産地を中心として今回の国際経済上の調整措置の影響を強く受けている中小企業が、この苦境を打開するためには、製品の高級化や市場の多角化、さらには事業転換や海外投資などによる積極的な対応が必要とされておるといえます。課題の第二は、公審問題の深刻化や都市の過密化の進展等環境問題への対処であります。この課題に対しては、基本的には国土利用の再編成の立場から、産業の再配置を推し進める必要があり、中小企業にもその方向に沿った形での適応が求められておるのであります。ただ、この政策の推進に際しては、中小企業が、大企業にないさまざまの問題をかかえていることを十分認識し、その障害を解消するための施策を講ずることも必要と思われるのであります。課題の第三は、効率的な流通システムの確立等によって、国民の物価安定への要請にこたえ、国民生活の向上に資するほか、所得水準の上昇に伴う勤労者意識の変化に積極的に対応していくなど、人間尊重を基調とする高福祉社会に、中小企業が積極的に貢献していくことであります。 以上の諸課題に対処するための産業構造上の新たな方向として、中小企業についてもその知識集約化の推進が必要とされておるのであります。すなわち、知識集約的な付加価値の高い製品をつくることは、国際的な摩擦を回避し、公害の発光を少なくし、勤労者には働きがいを与えるという要請にこたえる最も望ましい方策であるといえましょう。

 中小企業がわが国産業構造の知識集約化に大きな役割りを果たしていくためには、基本的には、物的出産性の向上に加えて、製品を高級化、多様化することにより、付加価値地産性を高めるとともに、技術水準の向上、マーケティング能力の開発、情報の収集分析力の強化につとめるなど、総合的に企業力を充実させていくことが必要であります。さらにまた、需要構造の変化等に適応しきれない業種にありましては、有望業種へ前向きに転換していくことも有効な対応策と考えられるのであります。わが国の経済社会は、いままでにも増して変化の激しい、多様性に富んだ社会へと変貌しつつあるように思われます。こうした時代変化は、中小企業にとってこれまで以上にきびしい適応を求めるものであります。しかし、一方では需要の多様化等の結果、中小企業の活動分野が広がりつつあることもまた事実であります。今後中小企業は、このような時代認識に立って、資金不足、人手・人材不足などの短所を克服しつつ、多くの人々がそのメリットと認めている小回り、バイタリティー、創意くふうといったみずからの持てる長所を伸ばし、企業個性を創造していくことが期待されるのであります。政府といたしましては、中小企業が新しい事態に勇気をもって対応し、その総合的企業力を養うことによって日本経済全体の効率化を促進し、わが国経済社会の均衡のとれた発展に重要な役割りを果たしていくことを期待して、昭和四十六年度において次のような施策を実施いたしたのであります。

 まず、中小企業構造の高度化をはかるため、工場等集団化事業の拡充、業種別振興策の推進、下請中小企業の近代化の促進、中小商業の振興、設備近代化資金及び設備貸与事業の拡充、経営合理化のための診断指導事業の推進、技術対策の拡充等を行ないました。また、米国の輸入課徴金制度の実施、わが国の変動相場制への移行等いわゆる国際経済上の調整措置に対処して、輸出関連中小企業に対し、特別の緊急中小企業対策を実施いたしました。また、環境変化に対する適応力に乏しい小規模企業に対する対策として、経営改善普及事業の拡充、小規模企業共済制度の運用強化、金融・税制面における措置等を行ない、小規模企業の経常の安定に資することとした次第であります。また、こうした諸施策の推進と同時に、増大する中小企業者の資金需要にこたえ、金融の円滑化をはかるため、政府関係金融機関の貸し出し規模の拡大、信用補完制度の充実等を行ないました。また、税制面においても、中小企業者の税負担の軽減等をはかるべく所要の税制改正を実施した次第であります。

 次に、昭和四十七年度において講じようとする中小企業施策について御説明を申し上げます。昭和四十七年度におきましても、中小企業を取り巻く経済社会環境のきびしさは依然として続くものと思われ、中小企業は、より一そうの近代化、合理化のための努力を要請されるものと予想せられるのであります。こうした事態に対処するため、まず第一に、円切り上げ等の一連の国際経済上の調整措置の実施が、輸出関連中小企業を中心に景気沈滞下の中小企業に大きな影響を及ぼしていることにかんがみ、昨年度に引き続き、国際経済調整対策の総合的な実施をはかることとしております。まず、昨年臨時国会で成立をした国際経済上の調整措置の実施に伴う中小企業に対する臨時措置に関する法律の積極的運用をはかるとともに、過剰設備の廃棄を共同で行なう中小企業者に対し、高度化資金の融資を行なうことといたしております。

 第二に、中小企業公害防止対策の積極的推進をはかるため、中小企業金融公庫、国民金融公庫における公害防止貸し付けを創設または拡充するほか、公害にかかる事業転換貸し付けを新たに設けることとしておるのであります。また、組合ぐるみの公害防止事業を促進するため、公害共同処理施設に対する高度化資金の助成を強化するほか、公害防止設備の組合リース制度について、助成の道を開くことといたしました。このほか、公害防止技術面においても制度の新設をはかる等、総合的に対策を講じていくことといたしております。

 第三に、環境変化への適応力の乏しい小規模企業については、きめのこまかい配慮を行ない、特段の施策の拡充をはかることとしております。すなわち、設備貸与制度の拡充、国民企融公庫の融資の拡充等につとめるほか、経営指導員の待遇改善、指導施設の充実等を通じ、経常改善普及事業の大幅な拡充を期することとしております。また、小規模企業共済制度についても、小規模企業共済法の改正法案の成立を待って制度の拡充強化をはかることとしております。

 第四に、高度化事業については、中小企業振興事業団の高度化融資の事業規模の拡充を行ない、特に国際経済調整対策、公害防止対策などの観点から制度の新設を行なうこととしておるのであります。

 第五に、業種別振興策については、中小企業近代化促進法等に基づく構造改善を一そう推進するとともに、下請中小企業振興法の積極的運用をはかり、下請中小企業の体質改善を強力に推進することといたしております。

 第六に、流通近代化対策については、商業近代化地域計画の策定につとめるとともに、政府関係金融機関の流通近代化貸し付けの拡大をはかり、卸商業団地、ボランタリーチェーン、商店街近代化等商業における中小企業構造の高度化の推進をはかることとしております。

 第七に、中小企業における労働力確保と資質の向上をはかるとともに、中小企業の職場を安全で快適なものとするため、職業紹介、職業訓練等の施策の拡充をはかるほか、労働災害の防止等につとめ、労働者の福祉の向上をはかることといたしております。

 第八に、中小企業金融対策として、政府関係中小企業金融三機関に対し、財政投融資を大幅に増加し、その貸し出し規模の拡大をはかるとともに、種々の特別貸し付け制度の創設、拡充を行なうこととしております。

 第九に、中小企業税制については、中小企業の税負担の軽減をはかるため、所要の税制改正を行なうこととし、特に小規模事業者については、所得税における青色申告控除制度の創設、個人事業税における事業主控除の引き上げ等を行なうこととしております。最後に、五月十五日に本土復帰する沖繩の中小企業について申し上げますと、沖繩経済に占める中小企業の比重はきわめて高く、早急に本土並みにその体質の強化をはかる必要があるため、昭和四十七年度においては、小規模企業対策、指導事業、組織化対策及び技術対策に重点を置いた施策の展開をはかるとともに、金融面については、現在国会で審議中の沖繩振興開発金融公庫法案により設立される予定の沖繩振興開発金融公庫の貸し付けについて、所要の中小企業ワクを確保することとしておる次第であります。また、業種別の近代化の推進のため、沖繩振興開発特別措置法に沖繩に限った中小企業近代化促進制度を設けるなどの措置を講じ、かつ、助成の条件についても本土より一段と手厚いものとしておるのであります。以上が昭和四十六年度中小企業の動向に関する年次報告及び昭和四十七年度において講じようとする中小企業施策の概要であります。(拍手)
 まず第一に、国際経済調整対策を行なったわけでございますが、非常に影響の大きかった中小企業、特に下請に対してどう配慮したかということでございます。御承知のとおり、昨年夏の輸入課徴金の問題、年末の円切り上げ等におきましては、中小零細企業に一番しわの寄ることをおそれたわけでございまして、通商産業省は、特に下請企業にこのしわが寄らないように十分な配慮をいたしたわけでございます。輸出、輸入業者につきましては、中小企業との間に国際経済調整問題が直接及ばないように通達を出したり、追跡調査を行なったり、また、金融機関の貸付等においても十分な配慮をいたしてまいりました。

 第二は、その後中小企業の倒産等が低水準にあるが、これは倒産が先に延びておるだけではないかということでございます。数字から申し上げますと、四十六年度は、負債一千万円以上の倒産件教は八千六百件でございます。前年度比較一五・四%の減であります。今年度の四月一ぱいの数字を前年同月に比べますと、五百九十九件でございまして、二〇・八%減でございますから、数字の上では考えたよりも倒産が少ないということは事実でございます。しかしこれは、内容がよくて倒産がないのではなく、超金融緩和しておるので、どうも自転車操業が続いておるのじゃないかという御指摘、こういう問題については、通産省も、出先通産局を督励しまして、企業別に実態調査を行なっておりますし、そういうことのないように各般の施策を適切に行なってまいろうということでございます。これは、金融緩和の状態であるために、整理段階に入らなければならないものの一部が営業を続けておるということが皆無ではないということは事実だろうと思います。しかし、あくまでもこれらの実態把握をいたしまして、倒産等できるだけ防いでまいりたい、こう考えます。

 次は、中小企業の公害問題でございますが、中小企業の公害問題で一番問題になるのは資金の調達でございます。資金調達につきましては、前の国会で法律をお願いいたしましたり、制度上資金拡充の方途を講じたり、また、制度を新設したりいたしたわけでございまして、中小企業、零細企業といえども、公害防止施設の建設に対しては問題のないようにいたしたわけでございます。しかし、中小企業は、いずれにしましても、その体質上非常にむずかしい経営状態にありますので、将来とも、中小企業の公審防除対策については、積極的に助成、指導してまいる必要があると思います。

 それから、中小企業の事業転換。率直に申し上げますと、一部廃業等について、非常にこれはむずかしいことだといらう御指摘でございますが、それはそのとおりでございます。いままでは、中小零細企業といえども、ある時期においては転廃業が可能だったわけでございますが、今度の、去年のドル・ショック以後の中小企業というものは、戦後四分の一世紀以上相当高成長を続けてまいりました時点における転廃業というものと比較いたしますとき、これはいままでの考えよりも、もっと転廃業がむずかしいという状態でございます。これは将来の日本の産業のあり方、知識集約産業と一口で言いますけれども、知識集約産業の中でどのような方向が一体いいのかということになると、なかなか的確な答えが出ないわけでございます。将来的展望に立ちながら、政府も助成をし、指導をし、政府みずからが、将来の日本のあるべき姿の中に中小零細企業をどら位置せしむるか、新しく転廃業がどう可能なのかというようなことを十分考えながら、中小企業と一体になって転廃業等を進める。そのための税制、金融上の処置等、十分な配慮が必要でございます。

 それから、最後は、中小企業の製品の高級化及び多様化でございますが、これはもう日本の経済が拡大をし、貿易そのものが多様化しておるわけでありますので、高級化、多様化しなければ、過去のように高い水準で貿易を拡大していくことはできないわけでございます。なお、アメリカに片寄っておる輸出等が、だんだんと世界各国に多様化をしなければならないといら立場から考えても、輪出品の多様化、高級化というものに対しては、施策の上で助成、指導等を続け、制度上も、これらの目的が達成できるような制度の拡充をはかってまいるべきだと考えます。(拍手)
 長期的に世界貿易を拡大均衡の方向で維持をしていくためには、各国ともオーダリーマーケティングの確立、すなわち輸出秩序の確立が必要であることは御指摘のとおりでございます。わが国でも極々方策を講じておりますことを御承知いただきたいと思います。

 第二は、円の再切り上げを阻止するということでございますが、通商産業大臣の立場から見ますと、昨年のドル・ショック、円平価の調整等々、国際経済上の変動にようやく耐えてきた日本の経済であり、特に中小企業、零細企業の面から見ますと、円の再切り上げに耐えられるような体質にないということでございまして、こんなことが起こらないように万全な対策をとっておるわけでございます。

 第三には、大蔵省との間にいま検討いたしております第二外為会計等の問題でございますが、これは新たに新会計をつくることを目的とするものではなく、外貨が十分に活用せられること、外貨の流動性が確保されるということが望ましいのでございまして、具体的な政策につきましては、この国会で法律案を審議をいただくことを目的にしまして両者でいま調整をいたしております。近く結論が出ると考えておるのでございます。

 第四点、アメリカにおけるアンチダンピングの問題とか関税引き上げの問題等でございますが、御指摘のとおり保護貿易主義が台頭しておることは、はなはだ遺憾でございます。そういう意味で、日米間では専門家会議を設置いたしまして、これらの問題については具体的に調整を行なっておるわけでございますが、最終的には、日本の立場を主張するためにガットの場等で論議をしなければならないこともあるかと考えておるわけでございます。

 第五点、中小企業省の設置でございますが、本件につきましては、もう長いこと懸案になっております。しかし、結論的に見ますと、戦後四分の一世紀以上にわたって議論されてきた中小企業が、結論的には、一般産業行政と分離をして中小企業省をつくっても、必ずしも所期の目的を達することはできないという結論になっておるわけでございます。私は、一般産業行政と同一のワクの中で通商産業省が所管をするいまの制度を十分運用することによって足れるものだと考えておるのでございます。

 それから第六、中小企業と大企業との生産分野の確立についての御意見でございますが、これも研究をしなければならない重要なテーマでございます。現に国際機関において国際分業の必要性が論じられておるわけでございますし、国際機関においては、国際分業の推進ということが南北問題解決の唯一の道でさえあると極言をされておる状態から考えてみても、大企業と中小零細企業との間に、できるならば生産分野の調整が行なわれることが望ましいことは、言までもないのでありますが、議論と実際の間には必ずしも一致をしない面がございます。しかし、これらの問題については、困難な問題であっても、十分検討を進めていくべきだと思います。

 第七は、知識集約化の過程における大企業と中小企業との技術格差の問題でございますが、これは御指摘のとおり、技術格差を解消するために諸般の施策を行なうべきでございます。

 第八は、中期経済計画の中に中小企業の位置づけ、長期的プログラムがないということでございますが、御指摘のとおりでございます。新社会経済発展計画をつくるときには、少なくとも六十年展望の日本の経済の中で、中小企業、零細企業がどのように位置すべきであるかという望ましい姿か計算をされ、国民の前に明らかにされることが望ましいことである。なかなかめんどうな問題ではございますが、しかし、通商産業省は、所管省として、これらの理想的な青写真をかくため全力を傾けてまいるつもりでございます。最後に、週休二日制等の問題でございますが、これはもう生産から生活へと移行しなければならないといわれておる現在でございますので、週休一日制、できれば三日制という理想的な姿に向かって進むべきであることは、言うまでもないのでございます。しかし、現実的には、中小零細企業には、週休二日制をなさなければならないと同町に、その前段に行なわなければならない幾多の問題があるわけでございます。そういう意味で、理想は高々と掲げながら、あくまでも現実を一歩一歩前進をし、その過程において解決をすべき週休二日制だと思います。以上。(拍手)
 将来の中小企業の位置づけをなさなければならないという御発言でございましたが、現に新しい社会経済発展計画を再検討いたしておるわけでございます。こういう時期にあたりまして、新しい長期的経済計画の中で、中小企業、零細企業をどう位置づけなければならないということの青写真をかいて国民の前に提供することが望ましいことであるということは、先ほどの御質問に対しても、そのとおりでありますということをお答えしたわけでございますが、しかし、中小企業というのは、世界に例のない特殊なものでございます。小回りがきき、しかも日本的なメリットの多いものでございます。それだけに、一つ一つの企業は小さいものでございますが、しかも、日本の経済の中に占める中小零細小業のウエートというものがいかに大きいかということは、私が申し上げるまでもないのでありまして、全く日本の経済全体が転換をするというぐらいな考え方で中小零細企業の将来というものと取り組まなければならない、こういうことでございますので、新しい長期計画というものを策定中である現在、中小企業、零細企業というものを新しい視野と立場と角度から見詰め直す好機であるいうことだけは、そのとおりだと思います。

 それから、中小企業の事業転換ということでありますが、事業転換は、これはいままでは比較的に簡単に行なわれたわけでございますが、いまの段階における日本の中小零細企業の事業転換というのは、これは初めて困難な状態にぶつかった言っていいと思います。これは、縫製工場などを産炭地に持ってまいりまして、新しい工場ができました。そして人も雇用され稼働し始めたのであります。しかし同時に、今度のニクソン・ショックその他によって、新しく転換をし、新しく立地をした工場そのものが全部操業をやめなければたらないというような問題さえ起こっておるのでございまして、これからの中小企業の事業転換というものは、ただその角度から見て、自然的に転換を求めるということだけでは効果をあげることはできません。政府が相当明確な方向を示し、政策的誘導を行なうということをあわせて行なわなければ、この企業の転換等はスムーズに合理的に行なうことはできない、新しい問題として取り組まなければならない問題だと思います。

 第三は、新型産業、すなわちベンチャービジネスというような問題、これは情報産業とか教育関連産業というような新しい分野でございますが、こういうものに対して資金の確保、信用保険の対象にできないかということでございます。これは、いまの制度では製造とか物品販売業等が対象になっておりまして、いま述べられたような新しい産業は対象になっておりません。おりませんが、これは時代の動きに沿うように制度を改正しなければならないという面から考えますと、当然これらの新しい産業も信用保険の対象にすべきであろう、こう思って、その方向で検討を進めてまいります。中小企業の海外進出につきましては、総理大臣からお答えがございましたので、省略をいたします。

 第五は、下請産業の振興でございますが、長いこと下請産業というものに対して検討が進められてまいりましたが、結局下請に対しては、支払遅延防止法という法律ができましてからもうすでに二十年の歳月を経るわけでございますが、どうもこのほか具体的な問題としては取り上げられておらなかったわけでございます。しかし、今度下請企業振興協会というものを都道府県が設立をいたします。そして、国はこれに対して二分の一補助を行なうわけであります。そして、事業契約のあっぜんとかいろいろな苦情の処理を行なうということで、下請企業の振興に対しては一つの制度が発足をしたわけでございます。

 一番問題なのは、国際経済の波動が非常に大きい、こういうときに、この国際経済の波動というものをすべて中小企業や下請企業にしわ寄せをしてはならない。非常にめんどうな問題ではありますが、制度上確立をするということよりも、実際的な行政の運用におきまして、行政指導においてこれらの問題は処理をしてまいらなければならないわけであります。これはめんどうではありますが、中小企業、下請企業の振興にはそういう解決方法しかないわけでありますので、精力的に取り組んでまいりたいと思います。中小企業の公害防止の問題については、資金、技術、税制上の問題等があるわけでございますが、先ほどお答えを申し上げたことで御了承いただきたいと存じます。(拍子)
 総理大臣及び大蔵大臣からお答えのございました部分は除いてお答えをいたします。まず第一番目には、予算の中に占める官需公需の中で、中小企業向けの目標と実績が非常に違っておる、これをもっと再検討する必要はないか。四十二年、四十三年、四十四年、四十五年とやってまいったわけでございますが、四十五年は、目標三一・三%に対して二五・五%の実績であったことは遺憾でございます。四十六年度は三〇・一%の目標でございますが、これに近づけるべく、昨年度十分努力をしたわけでございます。まあこれだけの数字、三分の一程度ではよろしくないので、新しく目標を立ててこの部分を大きくしたほうがいいという御説でございますが、私もそのように考えておりますので、政府部内で十分協議をしながら、中小企業の分野が多くなるように努力を続けてまいりたいと存じます。

 第二は、中小企業の事業転換の重要性についてでございますが、今後一そう増加をしていくと思われますので、その事業転換を円滑に、また合理的に行なうためにも、民社党でお考えになっております産業構造高度化・転換促進法というものを参考にいたして、十分勉強をさせていただきたいと考えておるわけでございます。なお、総合的産業調整法のごときものの必要性はないかということでございますが、これら御指摘になりました案を読んでみますと、まことに示唆に富んだものだと思います。そういう意味で、御提案のものを十分勉強してまいりたい、こういうことでひとつ御了承いただきたいと存じます。

 第三点は、小規模企業対策についてでございますが、小規模企業に対しましては、従来から特段の配慮をいたしておるところでございます。小規模事業指導事業をはじめ、設備近代化資金及び設備貸与制度、それから信用補完制度、国民金融公庫からの融資、中小企業振興事業団の高度化融資制度、小規模事業者の税負担の軽減、小規模企業共済制度等の広範な施策を現に行なっておるわけでございます。また、去年よりも予算も格段にふえておるわけでございますが、これをもって足れりといたしておるわけではないわけでございます。中小零細企業対策というものがいかに重要であり、緊急を要するものかは、私が申すまでもないことでございますので、御発言の趣旨を十分体しながら、遺憾なきを期してまいりたいと存じます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第68回国会衆議院本会議第30号(1972/05/19、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 私から三点お答えを申し上げます。第一点は、農産品の残存輸入制限品目は二十四でございまして、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス等に比べても高くない、これ以上自由化を進めてはならない、進めるべきではないという御意見でございますが、申すまでもなく、保護貿易主義を押えまして自由貿易体制を維持していくことは、世界の大勢でございます。また、そうすることが平和維持のためにも大切なことでございますし、また、国内における物価を安定し、国民生活の向上をはかるためにも、自由化の推進は必要でございます。このために、農業の構造改善の諸施策を積極的に推進をすることもまた不可欠の要件でございます。農業の体制整備状況とも勘案の上、自由貿易の拡大政策を推進してまいりたいと存じます。

 第二は、向米一辺倒の輸入を改め、中国を含めて輸入先の自由化、輸入形態の再検討等が必要ではないか、もちろんそのとおりでございます、貿易量も非常に大きくなりましたので、輸入先の多様化、また多角化傾向が見られておりますし、そのように政策を進めなければならぬことは申すまでもありません。四十六年度の数字でもって申し上げますと、アメリカ合衆国より輸入いたしましたものは、対前年度よりも一〇・五%輸入量が減っております。それに比べて中華人民共和国から入りましたものは、二億五千四百万ドルが三億二千三百万ドルヘと、二七・三%の大幅増加がはかられておるのでございます。しかし、輸入は民間の自由な行動にまかせられておりまして、政府介入の余地は少ないことは御承知のとおりでございます。しかし、国交未回復国からの輸入に対しまして障害になるもの等がありとすれば、逓減、撤廃につとめてまいるつもりでございます。

 第三点は、農村地域工業導入促進法の実施状況について、また今後の見通しいかんという問題でございますが、四十六年度におきましては、四十二の道府県が、昨年策定されました国の基本方針に即しまして基本計画を策定をいたしました。また、この計画に基づきまして、拠点工業導入地区といたしまして、二十六の県及び百十二の市町村が実施計画を策定をいたしたわけでございます。なお、情報提供、あっせん、指導等を行なう民間の機関といたしまして、昨年十一月に財団法人農村地域工業導入促進センターなるものが設立をせられました。通産省といたしましても、財団法人の機能を十分活用いたしますとともに、本国会に御審議をいただいております工業再配置法案による措置ともあわせまして、地域開発の実をあげたいと考えておるのでございます。以上。(拍手)

首相時代の答弁

 田中角栄の国会発言を確認する。「第70回国会衆議院本会議第2号(1972/10/28、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 第七十回国会が開かれるにあたり、当面する内外の諸問題について、所信を述べます。本年七月国政を担当することになりましてから今日に至るまで、国民の皆さまから寄せられた激励に対し心からお礼を申し上げます。(拍手)特に、日中国交正常化のために中国を訪問した際に寄せられた各界各層をあげての御理解に対し、深く感謝申し上げます。(拍手)

 戦後四半世紀を過ぎた今日、わが国には内外ともに多くの困難な課題が山積しております。しかし、これらの課題は、これまで多くの苦難を乗り越えてきたわれわれ日本人に解決できないはずはありません。私は、国民各位とともに、国民のすべてがあしたに希望をつなぐことができる社会を築くため、熟慮し、断行してまいる覚悟であります。(拍手) 七〇年代の政治には、強力なリーダーシップが求められております。新しい時代には新しい政治が必要であります。政治家は、国民にテーマを示して具体的な目標を明らかにし、期限を示して政策の実現に全力を傾けるべきであります。(拍手)私が日中国交正常化に取り組み、また、日本列島改造を提唱したのも、時の流れ、時代の要請を痛切に感じたからにほかなりません。(拍手)

 政治は、国民すべてのものであります。民主政治は、一つ一つの政策がどんなにすぐれていても、国民各位の理解と支持がなければ、その政策効果をあげることはできません。私は、私の提案を国民の皆さんに問いかけるとともに、広く皆さんの意見に耳を傾け、その中から政治の課題をくみ取り、内外の政策を果断に実行してまいります。(拍手)

 今日の国際社会には、随所に不安定な要因のあることは事実でありますが、世界には対決ではなく、話し合いによる緊張緩和を求める動きが始まっております。このような世界情勢の中で、わが国は、中華人民共和国との国交の正常化を実現いたしました。私は、去る九月、中華人民共和国を訪問し、毛澤東主席と会見するとともに、周恩来首相をはじめ中国政府首脳と会談し、国交正常化問題をはじめ日中両国が関心を持つ諸問題について、率直な意見の交換を行ない、九月二十九日共同声明に署名いたしました。これにより、長い間の両国間の不正常な状態に終止符が打たれ、両国間に外交関係が樹立されました。ここにあらためて国会に御報告いたします。(拍手)

 多年の懸案であった日中両国間の国交が正常化され、善隣友好関係の基礎ができたのでありますが、日中問題が解決できたのは、時代の流れの中にあって、国民世論の強力な支持があったからであります。私は、このような国際情勢の変化と過去半世紀に及んだ日中両国の不幸な関係を熟慮した上で、国交正常化を決断したのであります。この機会に、日中関係の改善と交流の拡大に尽力してこられた各方面の方々に衷心より敬意を表するものであります。(拍手)

 日中両国は、今回の共同声明において主権及び領土保全の相互尊重、内政に対する相互不干渉をはじめとする諸原則の基礎の上に、平和と友好の関係を確立することを内外に明らかにいたしました。日中国交の正常化によって、わが国の外交は世界的な広がりを持つに至ったのでありますが、このことは、同時にわが国の国際社会における責任が一段と加わり、人類の平和と繁栄にさらに貢献すべき義務を負うに至ったことを意味するものであります。

 インドシナ半島においては平和が到来しようとしており、朝鮮半島においても南北の話し合いが進められております。このような好ましい事態を一そう発展させるためには、これらの国を取り巻く環境がより安定し、恵まれたものにならなければなりません。今日の国際社会は、これまでの東西の対立を清算して南北の問題に取り組むべき時期に直面をいたしております。すなわち、南北問題の解決なくして、世界の調和ある発展と恒久の平和は約束されません。先進工業国としてゆるぎない地歩を固めたわが国は、開発途上国、とりわけアジア諸国の経済の発展と民生の安定のために一そう寄与しなければなりません。

 私は、さきにハワイにおいてニクソン米国大統領と会談し、日米両国の当面する諸問題について、率直に意見の交換を行ない、相互に理解を深めてまいりました。日本と米国は、政治、経済、社会、文化の各分野において深い関係を持ってきたのでありますが、新しい段階に入った日米両国の今後における友好協力関係の維持増進は、日米両国にとどまらずアジア太平洋全域の安全と繁栄に欠くことのできないものであります。

 わが国とソ連は、貿易、経済、文化の各分野で交流を深めておりますが、さらに平和条約を締結して日ソ両国間に安定した友好親善の関係を樹立する必要があります。(拍手)このため、私は、日ソ国交樹立以来の懸案である北方領土問題を国民の支持のもとに解決したいと考えております。(拍手)最近世界的に緊張緩和の動きが見られるとはいえ、わが国が今後とも平和と安全を維持していくためには、米国との安全保障体制を堅持しつつ、自衛上最小限度の防衛力を整備していくことが必要であります。(拍手)このたび、政府が第四次防衛力整備計画を決定しましたのもこのためであります。(拍手)

 われわれは、戦後の荒廃の中からみずからの力によって今日の国力の発展と繁栄を築き上げてまいりました。しかし、こうした繁栄の陰には、公害、過密と過疎、物価高、住宅難など解決を要する数多くの問題が生じております。一方、所得水準の上昇により国民が求めるものも高度かつ多様化し、特に人間性充実の欲求が高まってきております。これらの要請にこたえ、経済成長の成果を国民の福祉に役立てていく成長活用の経済政策を確立していくことが肝要であります。(拍手)

 この観点から見て、日本列島の改造は、内政の重要な課題であります。(拍手)明治以来百年間のわが国経済の発展をささえてきた都市集中の奔流を大胆に転換し、民族の活力と日本経済のたくましい力を日本列島の全域に展開して国土の均衡ある利用をはかっていかなければなりません。(拍手)政府は、工業の全国的再配置と高速交通・情報ネットワークの整備を意欲的に推進するとともに、既存都市の機能の充実と生活環境の整備を進め、あわせて魅力的な地方都市を育成してまいります。(拍手)経済と人の流れを変えることにより土地の供給量は大幅に増加されます。また、全国的な土地利用計画の策定、税制等の活用によって土地問題の解決は一そう促進されるのであります。(拍手)

 公害については、規制の強化、公害防止技術の開発、工業の適正配置、いわゆる工場法の制定など各般の施策を強力に実施することによって、経済成長を続けながら公害を除去していくことが可能であります。(拍手)また、公害被害者に対する救済の実効を期するため、損害賠償保障制度の創設を進めてまいります。

 物価、特に消費者物価の安定は、国民生活の向上にとって必要不可欠の条件であります。従来から中小企業、サービス業等の低生産性部門の構造改善、生鮮食料品を中心とした流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備などの施策が進められてきました。しかし、なお努力を要する点のあることも事実であります。今後とも、総合的な物価対策を推進するとともに、消費者の手にする商品の安全性の確保など消費生活上の質的問題についても万全を期してまいります。(拍手)

 豊かな国民生活を実現するために欠くことのできないものは、社会保障の充実であります。このため、今日までの経済成長の成果を思い切って国民福祉の面に振り向けなければなりません。(拍手)特に、わが国は急速に高齢化社会を迎えようとしており、総合的な老人対策が国民的課題となっております。(拍手)また、今日の繁栄のために苦難の汗を流してこられた方々に対する手厚い配慮が必要であります。中でも年金制度については、これを充実して老後生活のささえとなる年金を実現する決意であります。(拍手)さらに、寝たきり老人の援護、老人医療制度の充実などをはじめ、高齢者の雇用、定年の延長などを推進してまいります。

 以上のほか、心身障害者をはじめ社会的に困難な立場にある人々のため施設等の整備、充実をはかり、難病に悩む人々に対しては原因の究明、治療方法の研究、医療施設の整備など総合的な施策を推進いたします。(拍手)

 なお、国民が十分な余暇を利用することのできる社会を実現するため、週休二日制をはじめ余暇利用の条件の整備につとめてまいります。(拍手) 農業については、総合農政の推進のもとに農村の環境整備を強力に実施して高生産農業の実現と高福祉農村の建設をはかり、農工一体の実をあげてまいります。(拍手)中小企業につきましては、国際化の進展等による環境の変化に適応し得るようにするため、構造改善の推進をはじめとする各般の施策を強化いたします。

 本年は、学制が発布されてから百年になります。先人のたゆみない努力によって世界に比類のない義務教育制度をはじめ、わが国の教育は目ざましい発展を遂げてまいりました。明治百年という時代の転換期にあたって、教育の占める役割は、重要となってきております。私は、学校施設の整備充実等をはかるとともに、さきの中央教育審議会の答申を踏まえ、科学技術の振興を含む教育の制度、内容の充実を積極的に推進し、あわせて次代をになう青少年の健全な育成につとめます。(拍手)

 当面する最も緊急な課題は、国際収支対策であります。昨年末、多国間通貨調整が実現し、さらに、去る五月以降対外経済緊急対策を実施してまいりました。しかし、わが国の貿易収支は引き続き大幅な黒字を続けております。国際的地位が急速に向上しつつあるわが国は、世界の経済交流の安定した拡大を維持していく上で大きな責任を持っております。経済の順調な発展をはかりつつ、両三年の間に経常収支の黒字額を国民総生産の一%以内にとどめるためには、有効な国際収支対策を実施しなければなりません。政府が去る十月二十日あらためて対外経済政策の推進について当面とるべき施策を決定したのはこのためであります。すなわち、貿易・資本の自由化をはじめ、関税率の引き下げによる輸入の拡大、開発途上国への経済協力の拡充等を促進していくことであります。

 いかなる国も他の国々との調和を欠いた経済政策を追求することは許されません。わが国のみが対外収支の黒字を累増させていくことは、国際的な理解を得られるものではありません。国際収支の均衡を回復し、世界各国と協調しながらわが国の繁栄を維持していくためには、日本経済の国際化を推進し、経済構造の改革をはかる必要があります。(拍手)また、充実した経済力を積極的に国民福祉の向上に活用していかなければなりません。

 当面している国際収支の問題は、わが国が経験したことのないきわめて困難な課題であります。私は、国民的英知を結集し、国民各位の理解と協力を得ながらこの問題に取り組んでまいります。(拍手)

 政府は、今国会に、公務員給与の改善、公共投資の追加などに必要な補正予算と、緊急に立法措置を要する諸法案を提出いたしました。公共投資については、道路、下水道、環境衛生施設の整備等のほか、災害復旧事業、社会福祉施設をはじめとする各種施設の整備をあわせ、事業費の規模は一兆円にのぼります。これらの公共投資は、相対的に立ちおくれている社会資本の整備を一そう促進するものであり、同時に、当面の緊急課題である国際収支の均衡回復に資するものでもあります。よろしく御審議をお願いいたします。(拍手)

 戦後四半世紀にわたりわが国は、平和憲法のもとに一貫して平和国家としてのあり方を堅持し、国際社会との協調融和の中で発展の道を求めてまいりました。私は、外においてはあらゆる国との平和維持に努力し、内にあっては国民福祉の向上に最善を尽くすことを政治の目標としてまいります。世界の国々からは一そう信頼され、国民の一人一人がこの国に生をうけたことを喜びとする国をつくり上げていくため、全力を傾けてまいります。(拍手)あくまでも現実に立脚し、勇気をもって事に当たれば、理想の実現は可能であります。(拍手)私は、政治責任を明らかにして決断と実行の政治を遂行する決意であります。(拍手)以上、所信の一端を申し述べましたが、一そうの御協力を切望してやみません。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第70回国会衆議院本会議第3号(1972/10/30、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 成田君の質問に対してお答えをいたします。まず第一は、日中国交正常化についてでございます。多年にわたり日中関係の改善、両国交流の促進に努力をしてこられた多くの方々に、衷心から敬意を表します。日中国交正常化の実現は、機が熟した結果、両国が合意に達し得たものと考えておるのでございます。

 第二は、これからの日本の外交はいかにあるべきか、日米安保条約の極東条項、日米共同声明の台湾条項は削除すべきではないかという趣旨の御発言でございますが、世界的に見ても緊張緩和の傾向が見られますが、アジア全域を見るとき、不安定な要素が残されていることも否定できません。わが国は、平和と独立を守るために必要な防衛力を整備しなければなりません。(拍手)米国との安全保障体制は堅持することによって、わが国の安全確保に万全を期す必要があります。(拍手)わが国の安全は、極東の平和と安全なくして維持し得ないものであって、政府としては、日米安全保障条約の極東条項は、わが国安全確保のために必要と考えており、これを削除するつもりはありません。(拍手)なお、一九六九年の日米共同声明のいわゆる台湾条項は、当時の日米両首脳の認識が述べられたものでありますが、台湾をめぐる情勢は、その後質的な変化を遂げており、これが現実に意味を持つような事態は起こらないと考えておるのであります。

 第三は、車両制限令等の改正とB52の沖繩大量飛来等、ベトナム戦争についてのことでございますが、政府はベトナム戦争の平和的解決ができますように希望しておるのでございます。近時南北問題が円満な解決の方向に向かっておるよう報道せられておることは喜ばしいことでございます。

 米軍車両の問題につきまして申し上げますが、八月上旬に米軍車両の通行問題が生じましてから、政府は法令の範囲内で円満に事態の解決がはかられるよう、あらゆる努力をしてまいったのでございます。しかしながら、通行許可の権限を持つ進路管理者が、道路の管理、保全とは関係のない理由をもって米軍関係の輸送許可を留保するなど、法令の適正な運用が阻害されるような状態が続いたのであります。わが国は、条約上米軍に対して国内における移動の権利を認めており、このような条約上の責任を果たすために、車両制限令を改正せざるを得なかったのであります。(拍手)

 また、B52の沖繩飛来につきましては、条約上わが国はこれを拒否できません。がしかし、国民感情にかんがみ、政府として台風避難など真にやむを得ない場合以外は飛来させないよう求めており、米側もこれに応じておるのであります。今回の飛来も、台風の接近によりやむを得ない措置であり、天候の回復によりその全部がグアム島に戻ったことは御承知のとおりであります。(拍手)

 第四問は、四次防は防衛白書に基づいてつくられたものである。政府は、いまなお中国、朝鮮などを強硬外交だと考えておるかどうか、こういうお話でございますが、四次防は、わが国の自衛のために必要最小限度の防衛力を整備することを目的として決定したものでございまして、去る四十五年の防衛白書発表当時の情勢に基づいて立案をしたものではございません。

 また、御指摘の中華人民共和国及び朝鮮民主主義人民共和国は、日中国交の正常化や米中の接近並びに朝鮮半島における南北間の対話の開始等に見られますように、事態を平和裏に解決しようとする努力を示しておるものと考えられるのでございます。

 政府は防衛力の限界をどこに置くのかという問題でございますが、四次防は、わが国が自衛のために必要とする最小限度の防衛力を漸進的に整備するため策定したものであり、防衛力の限界を定めなければ計画の立案ができない性質のものとは考えておりません。しかしながら、わが国の防衛力の規模が国際情勢、国力、国情に応じ、今後ともどの程度のものを適正とするかを見きわめる必要がありますので、おおよその整備目標を検討するよう防衛庁に指示をしておるのでございます。

 他方、このたび決定された主要項目の整備において示される五カ年間の防衛費の総額は、一応四兆六千三百億円と見込まれておりますが、これがGNPに占める比率は、経済成長率との対比において、ほぼ現状横ばい程度に推移するものと見込まれ、長期的に見て、今後の経済運営の支障となることはないと考えておるのであります。四次防、日米安全保障条約の廃棄、日ソ平和条約の締結、日本と中ソ朝との友好不可侵条約の締結等々に対して言及がございました。わが国の防衛力は、自衛のため必要とする最小なものに限られており、かかる四次防において他国を攻撃するような防衛力が計画されていないことは、その内容をごらんいただければ明らかでございます。また、わが国が今後とも平和と安全を享受していくためには、日米安保体制を堅持することが不可欠であると考えておるのでございます。(拍手)

 日本の防衛費が大きいかどうかという問題を例をあげて申し上げます。防衛というものは、よその国の防衛なのではないのであります。自分を含めた国民全体の生命と財産をどう守るかというのであります。(拍手)まず、その防衛体制が妥当であるかどうかという問題を考えるには、世界の国と比較をすることも一つの案であります。諸外国との国防費について見ますと、米ソ等の超大国はさておき、西独、英国、フランスの国防費は、年間二兆円前後であります。四次防の規模五年間の合計は、西独の一九七二年の国防費二兆三千億円のちょうど二年分にすぎないのであります。GNPとの対比につきましても、これら諸国の国防費は、GNPの三ないし五%を占めております。中立国スウェーデンにおいても約四%なのであります。スイスは約二%でございます。これに対して、わが国の場合は、四次防期間においても〇・八%台にとどまっておるのであります。(拍手)国民一人当たりの国防費につきましても、西独、英、仏にありましては年間四万円に近く、わが国の一人当たり約八千円は、その五分の一でございます。(拍手)中立国スウェーデンは約五万七千円であって、わが国の七倍。スイスも約二万七千円で、わが国の三・五倍の防衛費を負担しておるのであります。(拍手)

 このように、各国はそれぞれ自国の防衛のために相当の努力を払っておることを知らなければなりません。(拍手)その意味から考えてみましても、わが国においても、この程度の負担をするのはやむを得ないことだと思うのでございます。(拍手) 非武装中立論を前提にして国防論や防衛論をする方々との間には意見の相違があることはやむを得ませんが、しかし、国防や防衛という問題をそのような観念論によって律することはできないのであります。(拍手)

 なお、御発言がございました日中ソ朝友好不可侵条約の御構想については、その内容を十分承知する前に意見を申し述べることは差し控えますが、それが直ちに日米安全保障条約の廃棄、四次防の中止あるいは自衛隊の削減に結びつくものとの考えをとる必要はないと思います。なお、政府が日ソ平和条約の締結について各般の努力を重ねていることは、グロムイコ外相の来日、大平外務大臣の訪ソを見ても明らかなことでございますので、御了承賜わりたいと存じます。

 なお、ここで一言申し上げておきますが、周囲の情勢が変わってきたからといって、日米安全保障条約を廃棄しなければならないというような端的な議論にはくみしないのでございます。(拍手)それは、東西両独の間に雪解けの状態があり、独ソ条約が締結をせられる現状においても、NATO締約国の国々は、この条約を破棄しようとはしておらないではありませんか。(拍手)みずからの見識において、みずからの責任において、どうしてみずからを守るかということについては、数字に立って、現実を直視して、後代のためにも誤りのないように努力をすべきであると思います。(拍手)

 これからの経済運営について申し上げます。一人当たりの国民所得は、ほぼ西欧水準に達しました。しかし反面、公害、住宅、社会保障等の問題が生じてまいりました。政府は従来の生産、輸出の経済運営を改め、成長の成果を活用し、国民福祉の充実をはかるような方向に政策の方向を転換してまいります。私の提唱した日本列島改造論も、こうした国民福祉充実のための基礎条件を整備することを目的といたしておるのでございます。

 公害と生産の調整について申し上げます。住民の生活環境を破壊せず、自然を注意深く保全しながら、地域開発を進めなければなりません。志布志湾等の大規模工業基地の開発にあたっては、わが国の国土利用のあり方、その地域の生活水準の向上と並んで、環境の保全が最も大きな問題であります。したがって、その開発が環境に及ぼす影響を科学的なデータに基づいて十分チェックし、環境保全について十分な調整の上、しかも地元住民の理解と協力のもとにその方向を決定すべきものであります。発生源からの汚染物質の排出等の規制については、これを一そう強化してまいりますが、一歩進めて総量規制など、適切かつ合理的な規制方式を検討してまいりたいと存じます。汚染の原因者が公害防止費用を負担すべきであるという考え方につきましては、わが国の制度はすでにそのような考え方によっておるところでございます。企業が汚染者負担の原則を貫き、公害防止に万全を尽くさなければならないことは当然でございます。その上で、政府、地方公共団体も公害問題の早急な解決のために最善の施策を講じなければなりません。

 公害訴訟における因果関係の立証につきましても、実際上なかなか困難な問題がございます。最近の判例では、因果関係の認定についてゆるやかな方向が出ておりますが、因果関係の推定については、このような判例の動向を見守りつつ、その法制化について、引き続き検討してまいりたいと存じます。公害に対する立ち入り検査権の問題でございますが、現行の公害規制法において、工場等に対する立ち入り検査は都道府県知事が行なうことになっておるのでございます。政府としては、都道府県知事などが立ち入り検査を適切に行なうことにより、地域住民の期待にこたえるよう、十分指導してまいりたいと存じます。

 第九は、工業用地と農用地の問題でございますが、農業は国民の食糧を確保するとともに、国土を保全し、国民の生活環境を維持していくのに重要な役割りを果たしておることは御承知のとおりでございます。したがって、優良な農用地を十分確保すべきであり、また、工業用地の確保にあたっては、合理的な土地利用を計画的に行なうことにより、十分農用地との調整をはかってまいるつもりでございます。

 老人医療の無料化等についての御発言について申し上げます。老人医療無料化につきましては、七十歳以上の者を対象として四十八年一月から実施をするものでございますが、年齢を六十五歳まで引き下げることについては、今後の実施状況を見た上で考えたいと思っておるのでございます。乳幼児等の医療無料化につきましては、現在、未熟児など、保健上特に必要なものを対象として公費負担を行なっておりますが、これを乳幼児の疾病一般にまで拡大をすることにつきましては、今後慎重に検討してまいります。

 年金につきまして申し上げます。先般公にされた関係審議会の意見を考慮して、年金額について大幅な引き上げを行なうとともに、物価上昇等の経済変動に対応して年金額を調整し得る措置を講ずる等、年金制度の整備充実をはかってまいりたいと考えます。年金の財政方式を直ちに賦課方式に移行してはどうかという問題でございますが、当面は現行の修正積み立て方式を、実情に即した配慮を加えながら維持していくことが適当ではないかと考えられるのでございます。年金積み立て金の運用のうち、加入者の福祉増進に直接寄与する分野に充てられる還元融資につきましては、明年度からその融資ワクを、積み立て金の四分の一から三分の一に拡大する方針でございます。

 物価の問題について申し上げます。物価の安定は、国民生活の向上と安定のために基本的課題でございます。しかし、国土の一%の地域に三千二百万人の人口が集中しておるという事実を前提にする限り、物価問題の根本的な解決は困難なのであります。したがって、日本列島改造政策を根幹に据えつつ、低生産部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備などの施策を進めてまいることにより、物価安定に寄与してまいりたいと考えます。(拍手)

 地価安定対策に対して答弁申し上げます。一定規模以上の土地の取得について何らかの規制措置については、民間の取引件数、取引様態等を勘案して、最も適切かつ効率的に土地取引を規制する措置を検討してまいりたいと考えます。税制上の措置によってのみ土地需給の不均衡の是正をはかることは、おのずから限界がございますが、法人の所有する土地について何らかの税制上の措置を講ずべきかどうかについても検討を続けます。現行の地代家賃統制令をすべての土地について適用することは、必要な貸し地の供給を阻害し、住宅の供給を抑制するおそれがありますので、適切な手段とは考えられません。むしろ、公的住宅の大量建設とともに、低利融資、税制上の措置等により民間住宅の供給を促進することにより、需給関係の緩和を通じて地代、家賃の適正化をはかっていくべきものと考えられるのでございます。

 人間を尊重する政治に流れを変えること、この御説に対して申し上げます。私の日本列島改造のねらいとするところは、福祉が成長を生み、成長が福祉を約束するという、成長活用の経済運営のもとで過密と過疎の同時解消、公害の追放、物価の安定などをダイナミックに進めて、国民が安心して暮らせる、住みよい、豊かな日本をつくることにございます。具体的な処方せんにつきましては、国民各位の理解と支持を得ながら、決断し、実行してまいります。(拍手)

 公労法改正問題がございましたが、公労法問題に関しましては、公労法制定以来二十四年を経過をいたしております。内外情勢も法制定当時から大きく変化をいたしておりますので、公務員制度審議会において、諮問に対するすみやかな結論が出せることを期待しておるのが現状でございます。

 最後に、政治資金規正法の改正問題等につきまして申し上げます。政党政治の象徴、わが国の議会制民主主義の将来にかかわる重大問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案をされ、廃案になった経緯があることは、周知のとおりでございます。これを今日の時点において見ると、金のかかる選挙制度あるいは政党のあり方をそのままにして具体化するということにいろいろと無理があることを示しているように思いますが、くふうによっては、その方法も見出し得るものと考えられるのでございます。特に、現在、政党本位の、金のかからない選挙制度について選挙制度審議会で鋭意審議しているときでもございますので、このような情勢を踏まえ、徹底した検討と論議を積み重ねてまいりたいと考えるのでございます。以上。(拍手)
 櫻内君にお答えいたします。まず第一は、日米経済関係の真の姿を理解をするため、日米関係の改善に一そう努力をする必要があるという御指摘でございますが、まさにそのとおりでございます。戦後四半世紀の状態を見るまでもなく、日本の安全は、日米安全保障条約という重要な協定によって確保されておるのでございますし、日本の戦後の経済復興は、御指摘のとおりのような経緯を経て今日の繁栄を迎えておるのでございます。特に貿易は、輸出入とも三〇%のシェアを占めるという重要な状態でございますので、日米間については、常に十分なる理解と意思の疎通をはかっていかなければならないと思います。そういう意味で、前回のハワイ会談の際、私は、日米両国の間に間断なき対話の必要性を強調してまいったわけでございます。

 なお第二は、日米安保体制は日米だけの問題ではなく、自由諸国家にも深い関係があり、一部反安保の批判的行動があることは遺憾であるということでございますが、まことにそのとおりでございます。安全保障条約というものは、だれを守るのでもなく、お互いを含めた日本の安全保障のために存在をするのでございます。でございますので、これが必要性というものは、常に国民皆さんの中で理解を求められなければならないことは当然でございますが、しかし、日本の安全は、ただ日本だけの状態で確保できない。極東の、アジアの、世界の平和の中に大きな関連があることを十分理解をしなければならない、こう思うのでございます。でありますので、先ほど私は成田君に答弁を申し上げたように、質問があったからその部分に対してだけお答えをするというのではなく、そんなに異論があるにもかかわらず、自由民主党も内閣も現安保体制を守っていかなければならぬというには、それなりの理由があるからであります。そういう理由を十分国民各層に御理解を賜わるということでなければならない、こう思うのでございます。(拍手)
 それから第三は、経済大国日本が軍事大国にならないかという問題でございますが、経済大国になりますと政治大国になるということは、これはもう当然でございます。日本が経済大国である。すなわち、日本の輸出入の動向によって世界の情勢に影響を与えるということでありますから、好むと好まざるとにかかわらず政治的な影響を持つことは避けがたいのでございます。しかし、軍事大国にはならない。これは憲法が明定をしておるのでございます。国際紛争に対して日本は武力をもって解決できない、こういう大前提があるのでございまして、憲法を守ろうということを言う人は、特にこの事実を理解すべきでございます。(拍手)でありますから、日本の防衛力がどのような状態になろうとも、侵略的なものとか軍事的な大国というものには絶対に無縁のものである、日本を守るという全く防衛一筋のものであるということを理解すべきでございます。(拍手)

 日台関係が第四点でございますが、日中国交正常化の結果わが国は台湾との間の外交関係を維持できなくなりましたが、わが国と台湾との間に民間レベルで人の往来、貿易、経済等の実務関係が存続していくことは、いわば自然の流れでございます。政府としては、これら各種の民間交流が今後とも従来どおり継続されていくよう配慮してまいりたいと存じます。

 次は、日ソ平和条約交渉についてでございますが、日ソ平和条約交渉については、一月グロムイコ外務大臣が来日をしましたときに、ことしの秋口から交渉を進めたいということでございます。この申し出を踏まえて、過日大平外務大臣が訪ソいたしたわけでございます。そうして日ソの間には第一回の交渉が持たれたわけでございます。第二回以後の交渉は来年の春以降ということになっておるわけでございます。でございますので、大平訪ソはこの日ソ平和条約交渉の第一回交渉ということになっておるわけでございます。

 なお、その状態における北方領土問題に関するソ連の原則的立場というものでございますが、これは報道されるような少しかたい状態ではございますが、しかし、この問題が平和条約交渉において話し合われることまでを否定するという態度は示さない。新聞に報道されるとおり、次には領土問題は問題となり、話題となり、議題となるのだということを理解していただきたいと思います。しかし、ソ連側の態度は依然としてかたいものがあるということを前提にしてでございますが、政府は、国民的な願望を背景にして、これが返還実現のためにねばり強く、忍耐強く交渉を続けてまいるつもりでございます。

 日ソ経済提携、シベリア開発等に対する見解を述べよということでございますが、日ソの間には一年間に約十億ドルの交流がございます。これは年々大きくなりつつございます。なお、シベリア開発、チュメニの石油開発等を中心にして、六つ、七つの明確なプロジェクトをいま検討いたしております。これらの問題につきましても、現在は、検討しておるものもございますし、もうすでに三つばかり片づけたものもございます。内容が固まり次第、国益に沿うものであればその実施に協力してまいる、日ソの経済関係はだんだんと大きくなる、こういう状態でございます。

 それから、日中国交正常化後の国際的なわが国の使命、国際的な地位等でございますが、これは御指摘にあるとおり、日中の国交の正常化というものは、国際的にもわが国の外交を世界的な広がりというようなものに結びつけたものだと考えるわけでございます。また、先ほども申し上げましたように、経済的に大きな立場を持つ日本でありますので、政治的にも国際的な地位はだんだんと向上するとともに、国際的な日本の立場や義務も大きくなってまいるということでございます。われわれは、平和を主軸として経済的な面から国際協調、拡大均衡というものを推し進めていくために、新しくジャパンラウンド、ニューラウンドを提案しておるような状態でございます。

 それから、インドシナ復興に対してはどうするのかということでございますが、これはインドシナ問題が解決することが望ましいことは申し上げるまでもないことでございます。このインドシナ戦争が終われば、日本も民生の安定等に対して可能な限り十分な協力をしてまいりたい、こう考えるわけでございます。これは具体的方策としては、国際的な協力、国際機関を通じてというようないろいろな問題がございますが、関係各国との意見も十分調整をしながら、友好的な援助を実施したいと考えております。

 それから、国防についての問題は先ほど申し上げたとおりでございます。これは、世界の国々の国防費の状態等先ほども申し上げましたが、やはり、私もこの際申し上げたいのでございますが、ただ、四次防が三次防の数字において倍であるとか、そういうような意味でもって御質問また非難をされると、それはしかし、三次防の最終段階における四十六年度から四十七年度の予算を見ると、今度の四次防の第一年度の金額が八千億でございます。八千億の五年というと、ことしの予算をそのまま延ばしても、五、八の四兆円になるんだ、そういう答弁になるのであって、私は、そういう発言というものはあまり納得する問題ではないと思うのであります。百四十も国があるのです。その中で、緊張をしておるところの国は別でございますが、全く緊張をしておらないような平和な環境の中にある国でも、一体どのぐらいの国防費や防衛費を計上しているのか。だから、日本の現行憲法のように全く世界に類例のないものをつくろうという考えとか、しかも無防備中立がいいんだという前提に立っての考えとは、われわれの考えは合わないのです。どうしても合わないのです。(拍手、発言する者多し)ですから、ほんとうに考えるならば、平和な国であるというニュージーランドや、それがら大洋州のオーストラリアや、スウェーデンやノルウェーや、そういう国々は一体どの程度の国防費を持っているのかということと、まじめに比較をすべきなのであります。これは私が申し上げるのは、自民党と社会党の問題じゃないのです。日本人全体を守らなければならないのが国防であり、防衛であるということで、私は、感情とか、過去の行きがかりとかというものは全然別にして、新しい立場において日本の防衛は論じらるべきである、こう考えております。(拍手)

 それから、青少年の問題でございますが、日本の今日の青少年は、幸いにして戦禍を知らず、日本の目ざましい復興をまのあたりにしてこられた世代であります。私は、これら青少年諸君が、平和国家として発展を遂げているわが国の防衛に大いなる気概を持ち合わせておると確信をしておるのでございます。

 次に、全国的な土地利用計画の問題と日本列島改造について御発言がございました。日本列島改造というのは、私が常に申し上げておりますように、これはただ一つの政策として述べておるのではないのでございます。明治初年から百年間、九〇%あった一次産業人口は、ことし一五・九%になりました。なぜ九〇%もあった一次産業比率が一五%台になったかというと、一次産業から二次産業、三次産業へと人口が移動したのであります。その過程において、農村や漁村や山村の人口は減って、都市に人口が集中をしてまいったのであります。人口が二次産業、三次産業に移動する、すなわち、二次産業や三次産業比率が高くなるという過程において、国民総生産と国民所得は増大をしてまいりました。ところが、百年たった今日、都市集中のメリットとデメリットというものはほとんど同じくなった。これからはデメリットのほうが大きくなるんじゃないかというふうに考えられるようになりました。それは公害であります。それはうんと大きな投資をしても、なかなか交通問題は解決しないということであります。幾ら住宅をつくっても、都市に集まる人よりも、住宅をつくる数のバランスがとれないということでございます。北海道に対する鉄道は、キロ当たり三億五千万円で済むものを、東京や大阪の地下鉄は、キロ当たり七十五億円かかってもできない。やがてキロ当たり百億になる。しかもその北海道の鉄道は、赤字だというのではなく――初めから建設費の二分の一を補助してもなお大きな都市の地下鉄の運賃だけではペイしないという状態が起こっておるのであります。(発言する者あり)だから、まず静かに考えていただかなければならぬのは、だれがやったか、現状をどうしたか、じゃありません。現状をどうしなければならぬかというのが政治の責任であります。(拍手)皆さん、そういう意味で、都市集中の過程においては、月給が上がったり、国民所得や国民総生産が上がるというメリットはあるのです。同時に、今度は公害を除去しなければならないというようなデメリットがあるのであります。そういう意味で列島の改造が必要だと述べておるのでございます。

 皆さん、土地の価格を引き下げるとすれば、根本的な問題は供給をふやすよりないのであります。供給をふやすにはどうするか。列島改造以外に解決の道はない、こういうことでございます。(拍手)しかも、列島改造ということが行なわれることによって、既存の都市は理想的なものに改造せられるのであります。(拍手)その意味で、全国的土地利用計画が必要であるということは申すまでもないことでございます。これはいま列島懇談会でも検討いたしております。日本人のあらゆる英知を傾けて、六十年展望、六十五年展望、七十年展望という長期的な視野に立って、土地の全面的利用計画を定めてまいりたい、こう思います。(拍手)それから、土地利用の問題ばかりではなく、土地の利用規制の問題、また、現に行なわれておる投機的な問題に対する税制上の問題、抑制策等十分に配慮してまいります。

 次に、物価問題でございますが、御指摘のとおり、消費者物価は今年度は四%台に推移をする状態でございますが、卸売り物価が遺憾ながら上昇過程にあります。ただ、その内容を見ますと、鉄鋼、繊維、木材等が値上がりを示しておるのでございますが、鉄鋼に関しては不況カルテルの問題もございます。なお、繊維、木材については海外市況の問題がございます。これらの問題については十分な抑制が可能だと思いますけれども、この問題に対しては、一そう注意深く見守り、適切な処置をとってまいります。ただ、消費者物価の問題については、いろいろいわれますけれども、私は、ここで率直に申し上げると、消費者物価の異常の高騰の直接の一番大きな原因は何か。これは、一つは都市に過度に集中をしておるからであります。過度集中というものが解決しない限り物価の根本的対策にならないということが一つあります。

 第二の問題は労働賃金の問題であります。低生産性部門の産業も一律に、生産性の高い産業と同じように賃金が引き上げられるという問題が物価に大きな影響を持つことは、これは避けがたい事実でございます。(拍手)こういう問題も、流通機構の整備、自由化の促進、また構造改善等々十分な配慮によって対処してまいりたいと思います。
 年金の改善問題に対しては、先ほど申し上げましたとおりでございます。また、社会保障の問題についても先ほど申し上げましたので、こまかくは申し上げませんが、心身障害者の問題、また重度心身障害児や非常に重い病気を持っておる方々、難病、老人の病気等に対しては特に配慮をしてまいりたい、こう思います。

 年金の問題、一つだけ申し上げると、最も重要なものは、老人年金に対しては、少なくとも積極的な姿勢を示さなければならない、こう考えております。それから、大型補正予算につきましては、インフレ予算の批判もございますが、これは、今回の景気回復は財政支出と個人消費を中心にしたものでございますので、在来のような状態でインフレ予算と考える必要はないと思います。また、インフレを招くとは考えておりません。しかし、物価動向につきましては、今後とも十分に配意し、経済運営に全きを期してまいりたいと存じます。

 それから、円の再切り上げ問題でございますが、これは昨年の暮れに初めて多国間調整が行なわれ、円平価の調整が行なわれました。しかし、これだけの大きな問題でございましたが、必ずしも所期の目的を達成してはおらないということでございます。でございますので、今度のIMF総会に対してわが植木大蔵大臣も演説をしたわけでございますが、シュバイツァー専務理事が、日本に対してだけ円平価の再切り上げを求めない、こう言われたのは、求めるようなことによってすべてが解決できないということを端的に指摘をしておるわけでございます。

 しかし、円平価調整という大きな事態があったにもかかわらず、日本はその後依然として貿易収支は黒字を続けております。今度は、このような状態において、よそからの圧力、よそから求められるというだけではなく、日本だけが貿易収支、経常収支の大幅な黒字を続けておるという状態で各国の理解や協力が得られるはずはないのであります。新しい国際社会の中における日本として、日本自身の英知と努力によって、少なくとも三カ年以内には経常収支をGNPの一%以内に押えなければならない、こう申し上げておるのでございまして、円の再切り上げ問題という問題は、もっと新しい角度から見なければならない問題だと思います。いま円平価を切り上げられて、中小企業はこれにたえられるはずはありませんし、中小企業だけではなく、それは利益もなし、影響するところだけ非常に大きいということであって、平価の再調整を避けるためにも、あらゆる政策を進めなければなりません。その意味で、今度の補正予算もお願いをし、国際収支対策も議会でお願いをしておるわけでございます。(拍手)

 総合農政の問題につきましては、これは総合農政、新しい国際的に競争できるようにといいますが、それは理想であって、現実的には、一歩ずつ総合農政を進め、適地適作等をやってまいらなければなりませんが、ここで一言申し上げる問題は、日本の農村というものが純農政だけでやっていけるのかどうかという問題であります。これは、与野党を問わず考えていただきたいのは、結局先ほども申し上げたとおり、百年間に九〇%の一次産業人口が一五%台に減ったのです。しかし、いまなお減反政策を必要とするのでございます。その意味で必要なのは、申すまでもなく、これから一五・九%という一次産業比率は一〇%、なお減るでありましよう。

 この二次産業や三次産業に転出をしなければならない一次産業人口をそのまま都市に集めるとなると、これは物価問題とか土地問題というものが破局的になると考えなければなりません。そこで考えたのが、与野党一致で通した農村工業導入化法なんであります。それだけではありません。新産業都市建設法であり、地方開発を必要とするのはそういうことなんであります。ですから、一次産業人口からはじき出されるであろう、二次産業、三次産業へ移動しなければならないという人たちに、農村工業導入法や工業再配置法によって職場を与えよう、そして農工一体という新しい時代をつくらなければ一そこがほんとうに日本の農政のポイントであります。農業自体を専業農家と兼業農家というものに分けながら、どのような理想的な姿をかくかということでなければならない。それは、例を引いて申し上げると、返還された沖繩に、二次産業と三次産業の比率を上げなければ、沖繩の県民の所得は増大しないという事実を見れば、何人もが否定できない事実であります。(拍手)

 中小企業の問題は、いまも申し上げましたように、円平価の問題に徴しても重大な問題であり、国際競争力にたえ得るような中小企業の育成に努力をしてまいります。なお、新産業都市の建設、内閣機構の強化、行政機構の再編成、法制制度、慣例等の見直し、新しい政策を遂行し、責任政治をになうために果たさなければならない幾多の問題に対して御指摘がございましたが、この問題に対しては、また予算委員会で詳しく申し上げることにいたします。以上。(拍手)
 竹入君にお答えいたします。まず第一番目に、日中正常化と国民世論の成果について申し上げます。御指摘のとおり、日中国交正常化は、国民世論の強力な支持のもとで政府が努力をしたから実現したものでございまして、先ほども申し述べましたが、多年にわたって日中関係の改善と交流の促進のために努力をしてこられた方々に対して、重ねて敬意を表するものでございます。

 日中共同声明はなぜ国会の承認案件としないかということでございますが、先般の日中共同声明は、政治的にはきわめて重要な意味を持つものでございますが、法律的合意を構成する文書ではなく、憲法にいう条約ではございません。この共同声明につき国会の承認を求めないということでございます。しかし、この日中共同声明につきましては、事柄の性質上、非常に重要な内容も含んでございますので、国会において十分御審議を願いたいと考えております。

 アジアの平和構想を確立するため、日米安保を解消し、非軍事的な日米友好条約を結んではどうかという御発言でございますが、毎々申し上げておりますとおり、日米安全保障条約は、日本の安全と独立を確保するために必要なものとして、これを廃棄するとか変更するとかという考えは全く持っておりません。しかも、日中の国交回復につきましては、これは日米安全保障条約というものと関係なく日中の国交の正常化が行なわれたものでございまして、日中の国交正常化が行なわれたから、安全保障条約を別なものに変えなければ親善友好の関係が保てないというものでは全くないわけでございます。極東の範囲につきましても、台湾条項につきましても、先ほど申し上げたとおりでございまして、これを変更する必要はない、こういうことを基本的にいたしております。

 日中国交正常化の結果、台湾との問題についての御質問がございましたが、日中正常化の結果、わが国が台湾との外交関係を維持し得なくなったことは御承知のとおりでございますが、政府としましては、台湾とわが国との間の民間レベルでの交流を今後ともできる限り継続をしていくということを希望しておりまして、これがために必要な処置を講じつつございます。

 それから、日中国交正常化の結果として、日華平和条約は終了したものと認められるので、同条約第三条において予想されていた特別取りきめによる日台間の財産、請求権問題の処理は行なえなくなったのでございます。

 それから、アジアの不安定要因はどこにあるのかということでございますが、これは安定をしておって、すべてをなくするような状態にないということを申し上げておるのであって、これはよくおわかりになると思います。これはいま平和な方向に向かってはおりますが、ベトナムにも問題はございます。南北朝鮮も、話し合いの機運の中にはございますが、まとまったという状態でもございません。いろいろな問題があることは、いま日中の国交の正常化ということが行なわれただけでございまして、まだまだ東南アジア諸国だとか、また、中国とアメリカとソ連との利益も完全に一致はしておりません。このようなことは十分御理解がいただけることだと思うわけでございまして、アジアの不安定要因はこれとこれでございますというように言えるものでないことは、御理解いただけると思います。

 開発途上国に対する援助政策についてでございますが、これは御承知のとおり、GNPの一%を主要工業国は援助することになっております。日本の実績から申し上げますと、もうすでに〇・九六%ぐらいになっておりますので、申し合わせのGNPの一%にはなるわけでございます。しかし、問題は質の問題でございます。政府ベースの問題が問題になっておりますが、去る日のUNCTADの会議において、愛知わが国代表は、七〇年代末を目標にして、この現に〇・二三%である政府ベースの援助を〇・七%まで引き上げたいということを申し述べたわけでございます。これが実行されると南北問題に対しては非常に大きな貢献ができるわけでございます。実際、〇・七%まで拡大できるのかどうかという現実問題が議論せられておることは御承知のとおりでございまして、アメリカでもGNPの〇・七%政府援助を行なえるかどうかということでございますから、この問題がいかに大きいかということは御理解いただけると思います。この〇・七%ないし八%というのが、くしくも日本の防衛力に必要な金額と大体同じなのでございます。ですから、水田前大蔵大臣は、〇・七%とやすく言うけれども、日本の自衛隊と同じような金額を開発途上国に提供しなければならないというのであるから、これは相当腹をきめてかからなければならないことでありますと、こう述べておるのは、その間の事情を申しておるわけでございます。

 そういう意味から申しますと、人のためにもやらなければなりません。日本は国際的の中で当然信頼される日本にならなければなりませんし、貿易中心の日本でありますから、当然開発途上国に援助もしなければなりませんが、同じように、人にも援助をしなければならぬが、自分の生命、財産を守るためにもこの程度の金は使わなければならぬ、こういうことにもなるわけでございます。(拍手)そこらをひとつ、日本の防衛費とこれからの国際的援助という問題とのバランスを考えると――バランス問題じゃありませんが、やはり真剣に検討すべき民族的課題である、こう思います。(拍手)

 自主・等距離・中立外交のお話がございましたが、アジア諸国との中立、平和、連帯のための構想、アジア太平洋平和会議というようなものの提唱についての御発言がございました。わが国は、政治信条、社会体制のいかんにかかわらず、すべての国との友好的関係を維持してまいりますが、そのことが即等距離・中立の外交とはなり得ないのでございます。あくまでも自主外交でありますが、構造的に見ても、量的に見ても、わが国の平和外交は自由主義陣営の一員として、これと密接な関係の上に立って進めることが、より効率的であると考えておるのでございます。その意味で、アジア太平洋地域において平和な国際環境づくりのための提案がなされるならば、これを十分検討するにやぶさかでないということで御理解をいただきたい、こう思います。

 日ソ平和条約交渉につきましては、先ほどもお答えをいたしましたが、すでに開始をされており、去る日、大平外務大臣がモスクワを訪問したときに第一回の会談が行なわれ、第二回会談以後は来春を期して行なわれることになっておるのでございます。なお、御指摘がございました四つの島々、歯舞、色丹、国後、択捉、この四島につきましては、これは日本人の悲願であります。でございますので、御指摘のとおり、この四島の祖国復帰を前提としてねばり強い交渉を続けてまいりたいと存じます。御声援のほどを切にお願いをいたします。(拍手)

 朝鮮問題についての御発言がございましたが、これは、現在の時点としましては、南北朝鮮の対談ということを特に歓迎をいたしておりますということで御理解をいただきたい。

 それから、緊張緩和のもと、四次防というのは撤回しなければならないじゃないかということでございましたが、これは先ほど申し上げたとおり〇・七%。GNPに対する金額でございます。これと匹敵するものでございますし、この四次防というものは、三次防と比べてみると非常によくわかるのでございます。これは三次防の事実上の延長でございます。四次防の初年度であることしの防衛庁の費用が八千億でありますから、これを五カ年間そのまま延ばすと五、八の四兆円でございます。それに六千三百億円というものをまずおおよそのめどとして付加しておるということでございまして、内容をしさいに見ていただけると、これはもうこの程度のものは最小限必要であるということが御理解いただけると思いますし、この程度のものを持っていることで、アジアの国々が脅威を感ずる、そんなことはありません。そんなことは絶対ありません。

 なお、なぜこれほどの軍備増強をするか、日本に対する脅威の実体とは何かとか、自衛力の限界を示せ、兵器国産化は産軍複合体の危険がある、兵器輸出禁止法をつくったらどうか、こういういろいろな御指摘をいただきましたが、わが国国防の基本方針は専守防衛を旨とするものであり、四次防は、アジアの緊張を高めるような軍拡や軍備増強の計画では全くないということは先ほど申し上げたとおりでございます。現在、わが国に対する差し迫った侵略の脅威は存在せず、わが国をめぐる情勢は好ましい方向に進んでおります。しかし、限定的な武力紛争の生ずる可能性を否定することはできないということは、先ほど申し上げたとおりでございます。四次防は、わが国が自衛のために必要とする最小限の防衛力を整備していく過程のものとして策定したものでございまして、防衛の限界を定めなければ計画の立案ができないという性質のものではないわけでございます。

 しかしながら、わが国の防衛力は、一次防以来の各防衛力整備計画によって逐次充実されており、今後どこまで伸びるかという問題に答える必要はあると思いますので、おおよそその整備目標を検討するよう防衛庁に指示をしてあるわけでございます。

 それから産軍複合の問題でございますが、わが国の工業生産に占める防衛生産の比率はわずかに〇・四%でございます。そういう意味から考えまして、まあ飛行機等の別な部分は別でございます。防衛庁生産以外にない飛行機のシェア等は別にしまして、防衛生産と純工業生産というものとの比率を考えると、〇・四%というものであって、世界各国等の例に徴してもこれが産軍癒着というようなものでないということはもう申すまでもないのでございます。(拍手)

 それから、兵器輸出禁止法案というものの提出ということは、間々問題になっておる問題でございますが、兵器は輸出しないという三原則を十分守っておりますので、その後、法律案として必要があるかないか、これはまた状態を見てまいらなければならない問題だとして御理解をいただきたいと思います。

 政府は、沖繩国会の決議に基づき、基地の整理縮小に取り組むべし、御指摘のとおりでございまして、過去長いことかかって、皆さんの御協力も得て、基地はだんだん整理縮小、合理化の段階になっておるわけでございます。この後も整理統合につとめてまいりたい、こう思います。真剣に整理縮小のために関係各省で検討し、また米軍とも相談をしてまいりたい、こう思います。

 それから経済政策の問題についてでございますが、まず、経済政策の根本的な問題を申し上げますと、いままでは確かに御指摘のとおり生産第一主義といわれてもやむを得なかったんです。それは、三十年代の国民所得の状態や国民総生産の状態を見れば数字的に明らかでございます。初任給八千円などという問題が国会で大きく問題になったのでございます。まず生産を上げ、給与を上げなければならない、こういう大きな大前提がありましたので、国民所得増大のためには、やはり生産を前面に押し出さざるを得なかったわけでございます。しかし、その結果、ようやく国民所得は西欧諸国と比肩するような状態になったことは御承知のとおりでございます。そういう意味で、生産については生産第一主義から生活第一主義に、重化学中心工業から知識集約的な工業に移らなければならない、こういうことを政府は大きく国民の皆さまの前に押し出しております。ただ、そういう過程における社会福祉の問題は西欧に比べて非常に少ないじゃないか、そのとおりであります。

 社会福祉というのはどういうことかというと、まず国民所得を上げることが第一であります。その次には、生きていかなければならない、生活していかなければならないという前提に立つ社会資本の不足を補い、われわれの生活環境を整備をするということが第二なのであります。そうして第三は、必然的に社会福祉の拡大へとつながっていくのであります。われわれは、しかし、いま第一の国民所得の平準化というものをなし遂げつつございますが、まだ自分の家の問題やいろいろの問題とあわせて社会保障を向上せしめておるのであります。その意味で、社会的蓄積の多い西欧諸国に比べて、いま社会保障費が低廉であるということは、いままで事実でございますが、今度は先ほどから御指摘にありますように、国際収支も黒字でございますし、ようやくわれわれもこれから本腰を入れて社会保障と取り組めるような前提ができたというのであります。成長を確保せずして、所得を確保せずして、その前提がなくて社会保障の拡大ができるはずがありません。(拍手)

 そういう意味で、これから社会保障の理想的な姿を描き、強力に進めなければなりません。(拍手) まず、御指摘がございました、西欧より低いが、西欧並みにするために全力を傾けるかということでございますが、当然のことでございまして、ある時期には西欧を上回るように、地球上の最大の目標に向かって努力を進めなければなりません。(拍手)しかし、ここで申し上げるのは、社会保障の拡大は必ず生産の向上、国民所得や国民総生産のコンスタントな向上というものを前提にしていくから、初めて大きな理想的な社会保障体制ができるのだということをひとつ十分御理解いただきたい。

 それから社会保障に対して年次計画をつくるか。これはつくらなければなりません。ただ、ここで、与野党を問わず申し上げておきたいのは、やはり西欧諸国の社会保障を見ましても、イギリスの社会保障でもフランスの社会保障でも、その国の状態を見まして、必ずしも日本がそのまままねができるものでないということは御理解いただけると思います。日本には日本に最も理想的な社会保障が確立されなければなりません。

 そういう意味で、私は昭和六十年展望に立った全国の列島改造論を前面に押し出し、理想的な青写真をかいて、それを前提にして社会保障の年次計画ができ上がるということを申し上げておるのでございますから、まじめに御検討賜わりたいと思います。(拍手)

 それから、老齢年金の拡充を来年重点的に行なうということは先ほど申し上げましたが、竹入さんは、年金の引き上げは明年から大幅に引き上げるのではなく、昭和六十年から実効をあげるのだというふうに御指摘ございましたが、これは明年からできるだけ年金は引き上げていくということでありますので、この点はひとつ誤解のないように御理解を賜わりたい。

 それから、公害問題につきまして申し上げますと、公害は、これはもう公害を除去するためにいろいろな政策を行なっておるわけでございます。私は、公害問題はこの二、三年間急に大きな問題になってきたわけでありますが、先進工業国と比べて日本は、制度、いろいろな問題に取り組むに対しては非常に積極的であるということだけはいい得ると思います。ただ、先ほども申し上げましたように、東京、大阪、名古屋というような拠点に過度に集中をいたしておりますのと、四日市やいろいろな過密な新しい拠点に複合公害というものが起こっておるのでございますので、このような轍を踏んではならない。いま過密のものは地方にだんだんと疎開をしなければならないし、新しいものは新しい立地によって建設をしなければならない。そして工場がふえることが公害の拡散だなどと考えておることは、もう問題にならない議論であります。(拍手)それは、工場をつくれば全部公害の拡散だという考えで、もうそれは論議以前の論議でございます。(拍手)それは公害基準、立ち入り検査というようなものを強くすることによって公害は防除できるのです。また、公害は防除しなければならないのであります。だから、排出基準をきびしくすることによって、そして工場法をつくる等によって、環境は整備され、公害のない生産は拡大をするのであります。(拍手)

 また、無過失賠償責任制度につきましては、民法の過失責任の例外をなすものでございまして、無過失責任を典型公害のすべてに適用するかどうかにつきましては、今後引き続き検討してまいりたいと存じます。

 それから、御指摘ございました自動車の排気ガス規制につきましては、規制の抜本的強化をはかる方針であり、昭和五十年度以降、世界で最もきびしいアメリカのマスキー法による規制と同程度の規制を行なうことといたしております。したがって、自動車メーカーに対しては、その方針に適合する自動車を早急に実現させるよう、今後さらに一そう指導、助成を強化してまいりたいと存じます。

 土地問題について申し上げますが、最近の金融緩和を背景として法人による投機的な土地買い占めが進行しております。このような投機的土地取引を抑制するため、税制上の処置については現に検討いたしております。

 それから、全国の土地利用に対する基本法をつくれということでございますが、これはもう一日も早くつくらなければならぬのでございます。これは都道府県知事及び市町村長を中心にして全国土地利用計画ができるとすれば、土地の供給量はぐんとふえるわけでありまして、そういう根本的、抜本的な制度が土地問題の最も基本にある政策でなければなりません。その意味で、全国的土地利用計画に対する基本法の制定に対しては、皆さんの御意見も十分しんしゃくをいたして早急に立案をはかってまいりたい、こう考えます。

 それから、土地投機を行なった法人の利得を制限するようにというような問題、これは税制上の問題について可能な限り措置をすべくいま検討をいたしておるのでございます。それから、千平方メートル、すなわち三百坪以上の土地の売買を禁止するという一つの提案、これは提案として理解できますが、ただ反面、土地の取引件数や面積から見て、これをやるとすると膨大な機構と予算、人員を伴うという問題もありますので、かかる問題は慎重に検討してまいらなければならない問題だと思います。それから、道路、公園、学校等の公共用地につきましては、本年の十二月一日から公有地の拡大の推進に関する法律が適用をされ、先買い制度が施行されるわけでございますので、効力を発すると思います。土地の保有税等に対しても、いま鋭意検討いたしております。

 それから、物価の問題に対して申し上げますと、卸売り物価は確かにこの二、三カ月、対前年比上昇しております。ただ、内容をしさいに検討しますと、先ほども申し述べましたように、鉄鋼、繊維、それから木材等でございます。鉄鋼は、カルテルの問題がございますので、このカルテルをどうするのか。これはもう、当然この問題は処置しなければならない問題である。また処置することによって、いまの消費者物価にはね返っておる面は十分是正できるという考えに立っております。それから繊維及び木材は海外市況の影響でございますが、これは処置できるという立場に立っております。しかし、卸売り物価がいままで世界に類例のない横ばいを続けておったにもかかわらず、一面ではございますが、このような状態になっておる現況に徴し、推移を十分注視をしながら適切なる処置をとってまいりたい、こう考えます。

 それから公共料金の抑制、これはもう厳に抑制をしてまいりたいというのが答弁でございますが、ただ問題は、公共料金というようなものは普通から言うと応益負担が原則でございます。応益負担が原則であるものを一般会計でまかなうために、市町村のバスや鉄道の赤字を全部一般会計でまかなうために、ほんとうに市町村や国がなさなければならない業病とか重病とか難病とかいうものの患者を全部引き取るようなところに金が回せないというようないろんなものがある。だから、限られた予算の中で効率的に行なうにはおのずから取捨選択をしなければならないことは言うまでもありません。そういう意味で、公共料金の全面的ストップというのは政治姿勢としては当然貫かなければならないことでございますが、しかし、政府や地方公共団体が当面して国民に果たさなければならない責任というものの中で取捨勘案せられるものであるということは、ひとつ十分御理解をいただきたい、こう思います。

 管理価格の規制に対して法制化を行なってはどうかという御指摘でございますが、本件に関しては、独禁法等の運用によって十分配慮してまいりたいと存じます。

 最後に、調整インフレの回避の問題でございますが、調整インフレとは学問的なものでございまして、いま調整インフレ政策をとるなどということは全くありませんので、御懸念のないようにいただきたいと思います。

 円対策は不十分ではないか。今度の国会のほとんどの使命は国際収支対策でございます。この法律も、この御審議をいただいております予算も、ほとんどが円対策、国際収支対策といっても過言ではありません。しかし、去年の七月の七項目、八項目、今度の対策等、相当努力をしてまいったわけでございますが、ほんとうにこれが万全であって、すべての国際収支対策になるのかということでございますが、全力をあげていまの時点において最善のものとして御審議をお願いしている、こう申し述べる以外にありません。しかし、われわれは、四十八年度予算編成に際しても、この国際収支対策というものが、お互いが望ましい日本、国際社会環境にあって最も信頼される日本とならなければならないと言っておりながら、この国際収支対策が万全でなければ、すべてが水泡に帰するという状態でございますので、困難な問題ではありますが、これは両三年の間にGNPの一%以内に経常収支の黒字幅を押えられるまでは精力的に政策を進めてまいらなければなりません。しかし、自由化や関税引き下げに対しても、たいへんめんどうな問題があります。その意味では、与野党を問わず事実の上に立って御理解を賜わりたいと思うのでございます。(拍手)

 それから、国際分業や産業調整という問題にお触れになりましたが、これはほんとうに重要な問題、日本の産業構造そのものをほんとうに根本的に考えないと、ほんとうの国際収支対策にはならないということは、もう御指摘のとおりでございまして、政府も在野の英知を結集して、この問題に対しては勉強してまいりたいと思います。

 最後に、政治資金規正法の問題でございますが、成田君にもお答えを申し上げました。政治資金規正法改正の問題については、政党政治の消長、わが国の議会制民主主義の将来にかかわる重大問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案され、廃案になった経緯があることは周知のとおりでございます。先ほど申し上げましたが、重大な問題だからもう一ぺん同じことを申し上げておるのです。これを今日の時点に立ってみますと、金のかかる選挙制度、あるいは政党のあり方をそのままにして、これを具体化することにいろいろと無理があることを示しているように思われるのでございますが、お互いがくふうをすることによってはその方法も見出し得るものと考えられるのでございます。特に現在、政党本位の金のかからない選挙制度について、選挙制度審議会が鋭意審議いたしておるときでありますので、このような情勢を踏まえ、徹底した検討と論議を積み重ねてまいりたいと考えます。以上。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第70回国会衆議院本会議第4号(1972/10/31、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 お答えをいたします。日中正常化についてまずお答えをいたします。日中関係の正常化が実現をしたことは、アジアのみならず、世界の平和の基礎を固めるものとして画期的なできごとでございます。そのため、多年にわたり努力をしてこられた多くの方々に、重ねて衷心より敬意を表するものでございます。日中国交正常化の実現は、内外においてその機が熟した結果、両国が合意に達し得たものと考えております。私は、中国と密度の濃い対話を維持して、せっかく実現を見た正常化を、日中両国民の安寧のために、また広くアジア全域の安定のために活用するつもりでございます。

 日中共同声明は、国会の承認を求めるべきだという御議論でございますが、先般の日中共同声明は、政治的にはきわめて重要な意味を持つものでございますが、法律的合意を構成する文書ではなく、憲法にいう条約ではないわけでありまして、この共同声明につき、国会の承認を求める必要はないのでございます。もっとも、この日中共同声明につきましては、事柄の重要性にかんがみ、その内容につきましては、国会において十分御審議をいただきたいと考えております。

 台湾に対する外交関係。椎名特使の提言、貿易関係、輸銀資金の使用の問題、在台邦人、政府借款等々についてでございます。まず、台湾とわが国との関係について椎名特使の発言は、自由民主党日中国交正常化協議会の審議内容とその決議に基づいて、同特使の見解を説明したものでございます。日中国交正常化の結果、台湾とわが国との外交関係は維持できなくなりましたが、政府といたしましては、台湾とわが国との間で民間レベルにおける人の往来、貿易、経済関係はじめ各種の交流が、今後とも支障なく継続されていくよう配慮したいと考えております。延べ払い輸出に対する輸銀融資につきましては、具体的案件に即し慎重に勘案しつつ処理をいたしたいと考えます。各種の民間交流が続く限り、御質問の各種債権を含め、台湾に在留する邦人の生命、財産等が保護されるよう、できる限り配慮を尽くしてまいります。

 それから、台湾条項の消滅、台湾を極東の範囲から除外せよ、駐留なき安保というような問題について、お答えを申し上げます。今回の日中国交正常化は、安保条約に触れることなく達成をされたものでありますので、台湾が極東の範囲に入ることについては従前どおりであります。しかし、米中間の対話が始まり、台湾をめぐる情勢は質的な変化を遂げ、米中間の武力紛争は考えられない事態になっております。したがって現状のままで問題はありません。日米共同声明のいわゆる台湾条項についても同様でございます。他方、駐留なき安保に向かって条約を改正してはどうかとの提案がございますが、駐留しておることがわが国の安全保障のため必要な抑止力を構成しておると判断をされますので、かかる効果を失わしめるような提案には、遺憾ながら賛成いたしかねます。

 平和条約はいつ締結するのかという問題について、お答えをいたします。日中平和友好条約は、所要な準備を経て交渉に入りたいと考えております。平和友好条約の具体的内容について予測する段階ではございませんが、その基本的な性格は、将来長きにわたる両国間の平和友好関係を律するような前向きのものとすべきであるというのが、日中双方の一致した見解でございます。アジア集団安全保障の体制の推進、インドシナ半島経済復興基金の創設に対して御発言がございましたが、アジア集団安全保障体制の建設に取り組むべしという構想、ソ連のブレジネフ提案があると承知をいたしておるのでございますが、諸般の情勢から各国の反応もまちまちであると承知をいたしております。すなわち、まだ機が熟していないというのが現実だろうと思うわけでございます。インドシナ半島経済復興基金の創設ということにつきましては、御意見として承っておきたいと存じます。

 それから、きのうの機内議員に対する答弁につきまして、私の真意に対する御質問がございましたが、私も速記録を見てみまして、十分私の真意を伝えていないような点もございますので、ここにあらためて考え方を申し述べます。世界に類例のないわが国憲法の平和主義を堅持してまいりますことは、申すまでもないことでございます。その前提には変わりはないのでありますが、無防備中立の考え方と、最小限必要な自衛力を持つという私どもの考え方とは合わないのであります。(拍手)この際、明確にいたしておきます。

 第四次防計画を白紙に戻せ等の問題を中心にして、防衛の問題、基本的な立場、戦略守勢の防御ではなく専守防御に徹せよ、シビリアンコントロール、国家安全保障会議への改組、長期防衛計画は国会で承認案件にしてはどうかというような問題にあわせ、国土開発、公害の除去等の任務を加えてはどうかという問題でございますが、その前提となっております安全保障条約の改廃の問題について申し上げますと、これは申し上げるまでもないことでございますが、独立国である以上、独立を保持し、その国民の生命財産を確保してまいるためには防衛力を持たなければならないということは、論のないところでございます。理想的には、国連を中心にした集団安全保障体制が確立することが望ましいことでございます。しかし、現実の状態を見ますと、この機構は完備せられておりません。スエズが閉ざされても、これを開放する力もありませんし、御承知のアラブとイスラエルが毎日報復爆撃をやっておっても、これをとめることのできないような状態においては、最小限自分で自分を守るだけのことはしなければならぬのであります。(拍手)

 そういう意味で、最小限度の防衛力を保持するということは当然のことでございますが、しかし、もう一つの理想的な姿としては、自分だけで守るか、複数以上の集団安全保障の道をとるかということでございますが、これは東側、西側を問わず、自分だけで守ろうという国はないのであります。みんな複数以上で集団安全保障体制をとっております。日本だけがその例外になろうということは、それはできません。そういう意味で、国民の生命と財産を守らなければならない、しかし国民負担は最小限度で理想的な防衛体制でなければならないというと、どうしても日米安全保障条約が必要になることは、過去四半世紀近い歴史に明らかなところでございます。(拍手)そういう意味で、いま日中の国交が正常化をしたとか、アジアの緊張が緩和の方向にあるからといって、日米安全保障条約そのものを廃止するがようなことは、とうてい考えられないことでございます。(拍手)

 それから、四次防を持ったことによって日本が軍事大国になるのではないかというような考えは全く持っておりませんし、そのようなおそれは全くありません。きのう各国の比較を申し述べたことでも十分御承知がいただけると思うのでございます。それから、専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行なうということでございまして、これはわが国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるということは全くありません。なお戦略守勢も、軍事的な用語としては、この専守防衛と同様の意味のものであります。積極的な意味を持つかのように誤解されない――専守防衛と同様の意味を持つものでございます。それで、シビリアンコントロールの考えということでございますが、これは国会に存在すると考えますので、安全保障を所管する常任委員会が設けられることが望ましいことだと考えておるのでございます。

 それから、国防会議を国家安全保障会議に改組する考えはないかということでございますが、現在考えておりません。第四次防のような長期防衛力整備計画は国防会議にはからなければならないことになっております。これは、国会の議決を要する事項とするよりも、行政府の責任において策定することとしたほうが適当であるという考え方を持っておるのでございます。国会においては、国政調査の対象として判断を仰いでいくことが適当だと考えるわけでございます。それから、自衛隊法に、自衛隊の従たる任務として災害派遣、土木工事の受託等の民生協力を行なうこととされております。先般決定された「四次防の主要項目」においても、「部隊の施設作業能力を増強して災害派遣その他の民生協力のための活動を積極的に実施する」ことが明記されておるわけでございます。車両制限令の問題で、独断専行的なことにならないかという、たいへん御同情のある御発言でございますが、そういう心配はございません。車両制限令という問題は、これは道路構造を前提として、道路管理者は全く事務的に許可をしなければならぬのであります。あの道路を長い鉄材を積んで走るトラックに対しては、警察に届け出れば、赤い布をつけて、一般の交通に支障のないようににしなさいよといって、自動的にこれは認可されるのであります。にもかかわらず、今度の車両の問題については、道路の構造以外の理由によって許可が与えられないという事態が起こったのであります。それは、私が申し上げるまでもなく、そのような事態を放置せば、条約による日本政府の任務さえも遂行できないということになるわけでございまして、その意味で、車両制限令の問題が解決をせられなければならないようになったことは、十分御承知のはずでございます。そういう意味で、この問題はこの問題として御理解を賜わりたいと存ずるわけでございます。

 しかし、わが国の議会制民主政治は、敗戦という高価な代償の上に育ち、四半世紀の実績の上に定着をいたしております。政治は国民全体のものでございまして、七〇年代のどの課題をとっても、国民の参加と協力なくして解決できるものはないのでございます。その意味で、民主政治を大事に育てて後代の人々に引き継いでまいりたい、こう念じておるのが私の基本的な姿勢でございます。(拍手)

 経済運営の基本的な方向、また日本列島の改造のビジョン等についての言及がございましたが、明治初年から百年、百年間は、非常に低い国民所得、国民総生産の状態から、どんどんと国民総生産が拡大する状況になってまいりました。しかも、戦争が終幕をする事態においては、非常に困難な状態に立ち至ったわけでございますが、しかし、その後四半世紀の間に今日の経済繁栄をもたらしました。そうして日本人がまず考えなければならぬのは、国民総生産を上げて国民所得をいかにして向上させるかということでございます。三十年代にこの議場で、八千円の最低賃金を確保するためにどうしなければならぬかということを真剣に議論したことを考えれば、まさに今昔の感にたえないではありませんか。

 われわれはその意味で、まず、先進工業国であるヨーロッパ諸国と比肩するような国民所得を確保することができました。しかし、その第一の目標である、ヨーロッパ諸国と同じような国民所得を確保することはできたにしても、それは都市集中という一つの姿において基盤が確保されたのであります。しかし、その都市集中が前提である限り、公害の問題が起こってまいりました。地価の問題が起こってまいりました。物価の高騰の問題が起こってまいりました。水の不足が起こってまいりました。交通を確保するためにも、税金の大きな部分をさかなければならないような事態が起こってまいったわけでございます。そこで、ここで第二のスタートを要求されるような事態になったわけでございます。それは申すまでもなく、明治二百年展望に立って、われわれは新しい視野と立場と角度から、日本の新しい政策を必要とするという事態になっておるのであります。(拍手)

 その意味で、生産第一主義から生活中心主義へ転換をしなければなりません。公害を伴う重化学工業から知識集約的な産業へと転換をしていかなければならないのであります。そういう努力をしなければならない。また、その努力をすれば、いまわれわれが求めておる問題は解決できるのでございます。それが日本列島改造というテーマでございます。国民皆さんの前にこの問題を提案をして、そして、まず第一番目の国民所得の向上はできましたから、社会資本の拡充を行ない、生活環境を整備し、その土台の上に長期的な日本の社会保障計画を積み重ねようというのが、政治の理想でなくて何でございましょう。(拍手)そういう立場で、日本列島改造案を提案をしておるのでございますから、新しい経済運営の基本は、成長活用型となり、社会保障を中心とした生活重点的なものに切りかえられていくことで、御了解を賜わりたいと存じます。

 また、御質問の無公害社会の建設について申し上げます。無公害社会の建設は、日本列島改造の目的の一つでございます。公害規制の強化、公害防止技術の開発、工業の全国的再配置、いわゆる工場法の制定等を行なうとともに、産業構造の知識集約化を進めることによって、公害のない成長を確保してまいろうと考えておるのでございます。また、損害賠償保障制度の創設につきましては、公害被害者に救済の実効を期してまいりたいと存じます。

 それから土地問題の解決についてでございますが、これは春日さんも申されたとおり、土地の供給量、絶対量を増さなければならないのでございまして、土地需要の平準化をはかることと、全国的視野に立った土地の利用計画をつくってまいらなければなりません。知事及び市町村長を中心とした国土の利用基本法のごときものを早急につくらなければならないと考えております。通常国会には成案を得て御審議をいただきたいのでございますが、皆さんからも適切なる御意見があったら寄せられんことを期待いたします。(拍手)なお、この基本政策に加えて、投機的な土地の取引を抑制するため、取引の規制、税の活用等についても引き続き検討してまいりたいと存じます。

 物価対策について申し上げます。物価の安定は、国民生活の向上と安定のため、基本的課題でございます。しかし、きのうも申し上げましたとおり、物価は議論の中からだけでは抑制できないのであります。物価というものはどういうことによって起こるかというと、一つには、国民の半分も三分の二もが小さなところに過度に集中をすると公害が起こると同じように、物価問題が不可避の問題として起こるのであります。(発言する者あり)もう一つは、低生産性部門の給与が、高い生産性部門の工業と同じように一律的にアップされるところに、物価は押し上げられるのでございます。その意味で、列島改造によることと、低生産性部門の構造改善、流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備等、各般の施策を広範に行なうことによって物価を解決してまいろうと考えております。

 社会保障につきましては、先ほども申し上げましたとおり、長期経済計画を立てるときには、その中に長期社会福祉計画もあわせてつくらなければならないと考えております。急速に高齢化社会を迎えておりますので、老人対策は内政上重要な問題でございます。中でも年金制度につきましては、先般公にされた審議会の意見に沿って、年金額の大幅な引き上げを行なってまいりたいと考えます。年金の充実について長期計画を立てよということでございましたが、先ほど申し上げましたとおり、これからは社会保障に対しても長期計画、また年金に対しても長期計画を考えなければならないと思いますので、十分検討させていただきたいと存じます。

 租税政策に対して御提案がございました。夫婦子供二人を給与所得者の場合百三十万円まで免税にしたらどうかということでございます。百三十万円というと、一番高いのが、アメリカの百三十二万四千円というのが、日本よりも高いのでございます。日本は現在は百三万七千円までとなっております。英国においては七十九万九千円、西ドイツにおいては七十七万二千円、フランスは百三万六千円でございますので、その限りにおいてはヨーロッパ三国を上回ってはおりますが、アメリカよりもまだまだ三十万円も少ないわけでございますから、できるだけ所要の調整を加えてまいらなければならない、こう考えます。(「それを数字のごまかしというんだ」と呼ぶ者あり)これは、数字はことしの数字でございますから、数字にごまかしはありません。(拍手)

 事業主報酬の問題は、法人企業、個人企業、サラリーマンの税負担のバランスを十分考えながら、早急に具体的結論を得るよう検討してまいります。
 国際収支対策につきまして申し上げますと、昨年末、多国間通貨調整が実現し、さらに去る五月以降、緊急対策を実施してまいりましたが、わが国の貿易収支は引き続き大幅な黒字基調を続けておるのでございます。政府が去る十月二十日、対外経済政策の推進について当面とるべき施策を決定し、貿易、資本の自由化、関税の引き下げ、開発途上国への経済協力の拡充等の実施に踏み切り、また、公共投資の追加を含む補正予算を今国会に提出をした次第でございます。

 国際収支につきましては、両三年の間に経常収支の黒字幅をGNPの一%にし、この一%に当たる数字は、七〇年度の一番末には開発途上国に対する援助にしようということを世界に明らかにいたしておるわけでございます。この両三年以内に経常収支の黒字幅をGNPの一%以内にとどめるということが基本的に必要でございまして、問題解決まであらゆる努力を続けてまいりたいと考えております。

 最後に、解散問題について申し上げますが、私が内閣を組織して以来百十日余でございます。しかし、解決を要する内外の課題は山積をいたしておるのでございます。特に円対策は緊急でございます。国民の審判を受ける前にこれらの諸懸案をぜひ解決しておきたい、こういうのが現在の私の心境でございます。(拍手)
 堀さんにお答えいたします。第一点は、先ほど春日委員長にお答えを申し上げましたが、きのうの成田委員長に対する答弁の中で、憲法に関する問題に対して誤解を招くようなところがございましたが、先ほど述べましたとおり、世界に類例のないわが国憲法の平和主義を堅持してまいりますことは申すまでもないことでございます。こういうことでございますので、御了承を賜わりたいと存じます。

 消費者物価について申し上げますと、経済成長の過程で、給与所得者の所得が、消費者物価の上昇を上回る伸びを示し、国民生活の実質的な水準が着実に向上してきたことは事実でございます。しかし、物価上昇の要因としては、生産性の高い企業の賃金上昇が、中小企業やサービス業など、御指摘のとおり生産性の低い部門に波及するということも否定できない事実でございます。こういう状態の中から物価問題が起こってまいるわけでございます。御指摘のとおり、消費者物価の上昇は、預貯金を減価させ、あるいは利子、年金生活者等の生活を不安定にするというデメリットがございまして、これは物価対策を強力に推進しなければならぬことは申すまでもないことでございます。

 物価の上昇を押えるということについては、去年、おととし、五%余の年率でございましたが、今年は四%台の、一%以下低い状態で押え得るのではないかということが考えられるわけでございます。しかし、低生産性部門に対する施策を強化いたしましたり、流通機構の整備を行なったり、自由化を行なったり、いろいろなものがございますが、やはり前々申し上げておりますとおり、過度に拠点に集中しておるという問題にメスを入れながら、いわゆる日本列島改造を踏まえて消費者問題に十分な施策を行なってまいりたい、こう考えます。

 第三は、管理価格をやめるべきであるということでございますが、生産性向上の成果が、自由かつ公正な競争を通じて消費者にも還元されることは望ましいことでございます。今後とも管理価格の実態把握につとめるとともに、競争条件の整備等、対策面においても十分配慮してまいりたいと存じます。

 公害問題に対して申し上げます。公害対策は、国民の健康生活を守るため、内政上の重要な課題であることは御指摘のとおりでございます。関西新空港の問題について御指摘がございましたが、地元及び公共団体の意見等も十分尊重して計画を進めなければならないことは、申すまでもないことでございます。慎重に対処いたしてまいります。
 瀬戸内海の赤潮対策について申し上げますと、下水道の整備、工場排水の規制等、瀬戸内海に対する十分な調査を行なって、赤潮というだけではなく、瀬戸内海の汚染に対しては根本的な施策が必要であると考えるわけでございます。

 社会保障問題について申し上げます。日本のあるべき医療の理想図はどうかということでございますが、これは、堀さんがお医者さんでございまして専門家でございます。日本のあるべき医療の理想図をかかなければならないことは、人命に関する問題でもございますので、本件に関しては、鋭意努力を続けてまいりたいと存じます。

 第二点の医薬品の問題でございますが、医薬品の特質にかんがみ、安全で有効な医薬品を供給し得るよう公的規制を加えており、薬価基準につきましても、市場価格の下落を反映して年々引き下げが行なわれているところでございます。しかし、医薬分業等の問題、根本的な問題もございますので、十分検討の上、結論を出したいと思います。
 公的年金の併給問題について、堀木訴訟の件について御指摘がございました。御承知のとおり、一審で決定をしないということで控訴はいたしておりますが、問題は別といたしまして、障害福祉年金受給者に対する児童扶養手当の併給問題、これは、児童扶養手当についての併給が可能になるよう措置すべきであろうという方向で検討いたしております。

 老人対策につきましては、寝たきり老人に対する援護、就労の場の確保等、十分なる処置を必要とするわけでございますし、医療の無料化等も必要でございますが、堀さんの御指摘は、電話を一台ずつつけたらどうかということでございます。この問題に対しては、まだ十分検討いたしておりませんが、せっかくの御指摘でございますので、検討してみたいと思います。

 円対策について、貿管令の発動だけでは実効をあげがたい、輸出税を徴収すべきという御議論でございますが、これは、政府もこの問題に対して検討いたしておったのでございます。ただ、先般の円対策につきましては、輸出課徴金については、引き続いて検討しようという立場をとっております。それはなぜかと申し上げますと、西ドイツ等で輸出課徴金制度等を実行したのでございますが、そういう制度をただ実行すると、半年たつと、そのままその部分が平価の切り上げにつながるというようなこともございましたので、学問的にももう少し検討を必要とするというのでございます。ただ、貿管令だけで実効をあげがたいという面は確かにございます。でございますので、貿管令の発動というものと輸出課徴金というのは、うらはらの問題でもありますので、これらの問題は、政府、業界におきましても検討を継続しておるということで御理解をいただきたい、こう思います。角をためて牛を殺すということになってはならないのであります。(拍手)これは理論だけを追うことにきゅうきゅうとして、三カ月後、半年後に輸出課徴金、輸出税というものが、そのまま円平価の切り上げにつながるということになってはならないのです。(拍手)

 税の問題に対しての御指摘がございました。法人税は優遇に過ぎるのではないかということでございます。四十五年度から一・七五の付加税率を徴しておりますので、御指摘のとおりでございますが、現在、国税、地方税を合わせて実効税率は四五%強になっておるわけでございます。法人税負担のあり方等は、税のすべての問題とあわせて検討しなければならぬ問題でございます。直接税、所得税中心から、間接税にどの程度ウエートが変えられるのかというような、税の根本的な問題と、時の財政事情等を勘案して検討すべき問題でございます。これはもう堀さん専門家として十分御承知の件でございますので、以上申し述べておきます。
 交際費課税につきましては、逐年強化をしてまいりましたことは、御承知のとおりでございますが、来年三月末に現行制度の適用期間が到来をいたしますので、大蔵省を中心にして検討を進めております。配当控除につきましては、一五%から一二・五%に、そして来年から一〇%に引き下げられることになっておるわけでございますので、これ以上の問題は、税全般の中で勉強すべき問題だと思います。税は検討を必要とするのであります。

 それから、政治資金規正法につきましては、せっかくの御指摘がございましたけれども、改正案は、国会に間々提出をされ、廃案になっておる経緯がございますことは御承知のとおりでございます。選挙制度、それから政党の問題、政党のあり方、金のかからない選挙等々、いま選挙制度審議会で御検討いただいておりますので、その結果を待ちたいと思います。

 選挙区の定数の是正の問題は、長いこと問題になっておることでございますが、これは、選挙制度をどうするかという問題と定数という問題を切り離してはなかなかできないのでございます。一回、大都市の幾ばくかの選挙区に対して、定数を是正した経緯もございますが、現在選挙制度審議会において審議中でございますし、また、衆参両院を通ずる根本的な選挙制度改善、定数問題、こういうことで検討が続けられておるわけでございますので、この結果を待っていただきたい、こう思います。それから、出かせぎの実態、出かせぎの投票参加というものに対しては、これは輸送の問題、有給休暇の問題、外国の事例等、さらに勉強する必要があると思いますが、不在者投票制度が積極的に活用がはかられなければなりませんし、いまの制度は少しめんどうなような気もいたします。これは、お互いがこれらの問題に対しては十分承知しておる問題でございますので、出かせぎ等が投票に参加できるように最善の道を開くべきだと考えておるわけでございます。以上。(拍手)
 お答えいたします。極東条項、台湾条項を廃棄せよ、沖繩−台湾間の米軍海底ケーブルを撤去せよというような御質問でございますが、日中両国間の国交正常化は、海底ケーブルの問題を含め、安保条約に触れることなく達成されたものであり、台湾が極東の範囲に入ることにつきましては、従来とも変わりがないのでございます。わが国は、台湾を中国を代表する政府として認めることはできません。が同時に、米国その他の諸国が台湾と有している関係を否認する立場にはないわけでございます。

 私は、日中国交正常化を実現し、中国側との相互理解を深めるため訪中したのでありまして、私の訪中がそれ以外の目的を有しないことは明らかでございます。したがって、貴党に関する問題などは話題にしておりません。ベトナム和平に協力し、米軍の侵略に加担するな、ベトナム民主共和国、朝鮮民主主義人民共和国との正常化等についての御発言でございますが、ベトナム和平については、目下関係者が真剣な努力を重ねており、近くこれが実現するものと期待をいたしております。事態が鎮静化すれば、ハノイには本年初め、外務省の担当課長が訪問をしておることでもあり、北ベトナムとの往来は一そうひんぱんになるものと考えております。なお、朝鮮民主主義人民共和国とも、スポーツ、文化、経済と、だんだん交流を積み重ねておることは御承知のとおりでございます。

 安保条約を廃棄せよ、沖繩の毒ガスを点検せよ、四次防を撤回せよ、四次防を国会にはかれという問題でございますが、安保条約の目的は、間々申し上げておりますとおり、わが国の安全を確保することにありまして、政府としては、これを堅持してまいるつもりでございます。同様の理由により、四次防を撤回する考えもございませんし、四次防は重大な国防の問題でありますので、国会においてはもとより、広く国民各界各層において議論をしていただきたい、こう考えるのでございます。しかも、防衛問題に対する国会の審議機関としては、各党にもお願いを申し上げておりますが、安全保障に関する常任委員会のごときものを設けていただいて、十分国会で御審議をいただくのが正しいと考えておりますし、政府もそうお願いをしておるのでございます。御指摘の沖繩の毒ガスは、昨年五月にすべてが撤去をされておることが確認をせられておりますので、念のため御報告を申し上げておきます。

 経済政策につきまして申し上げますが、日本列島改造論のねらいは、福祉が成長を生み、成長が福祉を約束するという成長活用の経済運営のもとで、過密と過疎の同時解消、公害の追放、環境の保全、物価の安定などを勇断をもって行ない、国民が安心して暮らせる、住みよい、豊かな日本をつくることにあるのでございます。なお、日本列島改造論は、御指摘にありましたとおり、四十六年五月、当時幹事長であった私の名前で発表した「統一地方選挙とわれわれの反省」に強調している政策の方向を発展させたものであることを御承知いただきたい、こう思います。

 それから、列島改造は、六十年国民総生産を三百四兆円にすることを目的として、とお考えになっておるようでございますが、四十六年の国民総生産を基準にし、六十年まで年率一〇%の成長を続ければ三百四兆円になるし、八・五%の成長を続ければ二百四十八兆円になるという、一つのめどを示した数字であることを誤解のないようにしていただきたい、こう思います。すなわち、日本の持つ潜在成長率を数字で積算をし、それによって農業から転化しなければならない人員を吸収することも可能であるし、なお、われわれの、十五年間において国民総生産を四倍にすることも可能である、そういう数字を前提にして、理想的な将来図を描く基礎数字として提供したものであるということを御理解賜わりたい、こう思います。

 公害・物価、社会保障について申し上げますと、汚染の原因者が公害防止費用を負担すべきとの考え方につきましては、わが国の制度は、すでにそのような考え方をしておるところでございますが、公害防止には万全を尽くさなければなりません。また、発生源からの汚染物質の排出等の規制については、これを一そう強化いたしますが、さらに総量規制等、適切かつ合理的な規制方式を検討してまいります。物価安定のためには、日本列島改造をはじめ、各般の施策を講じてまいります。また、独占禁止法の厳正な運用によって、不当な価格形成は排除してまいりたいと存じます。また、年金の財政方式につきましては、直ちに賦課方式に移行するのではなく、現行の修正積み立て方式を、実情に即した配慮を加えながら維持していくことが適当だと考えます。以上。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第70回国会衆議院本会議第5号(1972/11/08、32期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 日中共同声明につきまして、ここに衆議院の御理解と御支持を得ましたことを感謝いたします。政府といたしましては、本日の決議の趣旨を十分尊重し、日中共同声明の精神にのっとり、日中両国間の恒久的な平和、友好関係を確立するために努力してまいる所存であります。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第71回国会衆議院本会議第3号(1973/01/27、33期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 第七十一回国会の再開にあたり、施政に関し、所信を申し述べます。世界が注目し、待望していたベトナム和平は、明日を期して実現することになりました。これは長かったベトナム紛争が解決に踏み出したというだけでなく、新しい平和の幕明けであります。人類が恒久平和と社会正義に基づく繁栄の実現に向かい、新しく進むべき第一日を迎えたものと思います。第二次大戦後、四半世紀余の歳月が過ぎました。国際政治は、力による対立の時代を経て、話し合い、協調へと移行してきました。これは、緊張と混迷の中で多くの経験を積んだ人類の英知の勝利であります。わが国は戦後、世界に例のない平和憲法を持ち、国際紛争を武力で解決しない方針を定め、非核三原則を堅持し、平和国家として生きてまいりました。これは正しい道であったと思います。(拍手)

 今日、大きな経済力を持つに至ったわが国は、国際政治、国際経済の転換期の中で、平和の享受者たるにとどまることなく、新しい平和の創造に進んで参画し、その責務を果たすべきであります。この際、平和を一そう確実なものとするため、核をはじめとする全般的な国際軍縮に貢献してまいりたいと考えます。東西問題のあとを受けて、大きく浮かび上がってきたのは、南北問題であります。地球上における富の偏在を改め、南北問題を合理的に解決することなくして、真の平和を確保することはできません。

 敗戦ですべてを失ったわが国も、四半世紀前はゼロから出発し、経済の復興に取り組んだのであります。その後、お互いが汗水を流し、一所懸命に働いたかいあって、IMF十四条国から八条国へのステップを踏み、わが国は、いまや国際社会に大きな影響を及ぼす国に成長したのであります。南の開発途上国が経済的な自立、社会的な安定を達成できるよう、わが国の経済力と技術の力を提供し、援助することは、わが国に対する世界的な要請であり、国際社会に対するわが国の責務でもあります。わが国の援助は、量的には、国際的目標である国民総生産の一%をほぼ達成しております。しかし、政府援助の拡大、借款条件の緩和、ひもつきでない援助の推進など、質の面ではOECD加盟諸国の平均水準を下回っております。援助の質の改善については、国連貿易開発会議において表明した基本方針に従って、最善の努力を続け、相手国にほんとうに役立つ援助をしてまいります。(拍手)

 わが国が直面している緊急課題は、ベトナムに実現しつつある平和を確固たるものにするための貢献であります。戦火に荒らされたインドシナ地域の復興、建設のため、できる限りの努力を尽くすとともに、ようやくできかけた和平を定着させるため、アジア諸国をはじめ太平洋諸国を網羅した国際会議の開催の可能性を検討したいと考えております。(拍手)もとより、アジアの国際政治はヨーロッパに比べてはるかに複雑であり、新しい安定の基盤を築くことは容易なことではありません。戦後の復興とインドシナ半島の平和維持のため、真剣な討議の場が設けられ、よりよい方策が見出されるならば、平和はやがてアジア全体の安定につながっていくのであります。

 政府が、長い間の懸案であった中華人民共和国との関係を正常化したのも、アジアの平和と安定に寄与すると考えたからであります。(拍手)今後は互恵平等の精神で、両国間の親善友好関係の基盤を一そう固めていかなければなりません。近く大使を派遣し、多くの実務関係の円滑な処理に当たらせたいと考えております。(拍手)
 同じく隣国であるソ連とは、平和条約の締結が懸案となっておりますが、すでに軌道に乗っております両国の関係は、経済、文化の分野で年々着実な発展を遂げております。特に、シベリアの開発協力については、日ソ両国にとって長期にわたり有意義なものとなるよう実現に努力したいと思います。わが国が政治信条や社会体制を異にする諸国との間に対話を進め、平和な国際社会の建設に積極的に参画していくためには、わが国と同じ自由と民主主義を奉ずる諸国との友好関係の維持が基本であり、実際的であることは言うまでもありません。その中で、特に日米関係が重要であることは、私が就任以来一貫して強調してきたところであります。(拍手)

 この機会に、わが国の防衛について一言いたします。わが国が必要最小限の自衛力を保持することは、独立国として平和と安全を確保するための義務であり、責任でもあります。しかし、自衛力の保持とあわせて、日米安全保障体制を維持しつつ、国際協調のための積極的な外交の展開、物心両面における国民生活の安定と向上、国民すべてが心から愛することのできる国土と社会の建設、これらがしっかりと組み合わされる中に、わが国の平和と安全が保障されることを強調したいのであります。(拍手)

 いまから二十年前、二千八百二十四カ所もあった本土の在日米軍施設区域は、いまや九十カ所に整理、統合されました。加えて、さきに開かれた日米安全保障協議委員会において、本土及び沖繩を通じ十カ所の施設区域の整理、統合が合意されました。これは、本土では関東平野の首都圏、沖繩では県都那覇という国民にとって社会的、経済的に最も重要な地域での整理、統合であり、その意義はきわめて大きいと思います。(拍手)政府は、わが国の独立と安全のため必要な施設区域は今後とも提供を続けてまいります。同時に、急速な都市化現象などによって引き起こされている基地問題と真剣に取り組み、その整理、統合を検討するとともに、基地と周辺住民の間に無用な摩擦が生じないように万全の対策をとっていく考えであります。(拍手)

 わが国は、いま、内外から国際収支の改善対策を迫られております。資源に乏しく、狭い国土に一億をこす人口をかかえるわが国は、海外から原材料を輸入し、これに付加価値を加え、製品として輸出するという貿易形態をとっております。貿易の振興を国是としてきたわが国は、自由世界第二位の経済力を持ち、二百億ドルに近い外貨準備を持つようになったのであります。しかし、わが国がいままでのように大幅な国際収支の黒字を累増させていくことは、国際的な理解を得られないだけではなく、国際社会において最も大切な信頼を失うことになります。このため昭和四十六年十二月、多国間通貨調整の一環として円平価の切り上げを行ないました。さらに、輸出の適正化、輸入の拡大、経済協力の拡充、国内景気の振興による輸出の内需への転換などに総力をあげて取り組んでまいりました。さきの臨時国会で過大ではないかとの批判を受けながらも、六千五百億円の補正予算を編成したのはこのためでありました。しかし、このような努力にもかからわず、なお、所期の目的を達成しておりません。輸入は増大しておりますが、輸出もなおかなりの高水準を続けており、昭和四十七年度を通じ貿易収支の黒字は、八十九億ドルと見込まれております。このような状況のもとで、一部に円の再切り上げ論が唱えられています。しかし、一昨年の平価調整の効果はまだ完全にあらわれておりません。円の再切り上げがわが国経済に与える影響を考えれば、切り上げ回避のためあらゆる努力をいたさなければなりません。貿易立国を国是としているわが国は、自由貿易が阻害されるような事態を避けるため、全力を傾ける必要があります。現に国際間には保護主義が台頭しつつあります。このような事態が進む場合、広い意味では南北問題を解決するための大きな障害ともなりますし、わが国経済の発展を阻害することにもなります。わが国がガットの場においてケネディラウンドを積極的に推進し、現に新国際ラウンドを提唱しておるのはこのためであります。

 国際収支の均衡をはかることば、緊急の課題であります。このため関税の引き下げ、輸入・資本の自由化を一そう推進しなければなりませんが、国内には自由化にたえられない分野があることも事実であります。しかし、政府としては、この大目標を達成するため、国内対策に万全を期しながら自由化を進めていかなければならないと考えます。
 わが国は、戦後驚異的な経済成長を遂げ、国民総生産は百兆円に達しようとしております。昭和三十年の十二倍であります。一人当たり国民所得も増大し、イギリスの水準に近づいてまいりました。社会保障制度も西欧先進国に劣らない制度を持つに至っております。しかし、その内容はまだ十分とはいえず、これを整備して国民福祉を充実しなければなりません。すべての問題を同時に解決することはできませんが、新しい長期経済計画のもとにおいて社会保障の位置づけを考えており、計画的に内容の整備をはかってまいります。(拍手)

 昭和四十八年度予算においては、社会保障費二兆一千億円を計上いたしました。理想には遠いかもしれませんが、最善の努力をいたしました。(拍手)すなわち、老齢福祉年金については、当面夫婦一万円に引き上げるとともに、厚生年金及び国民年金についても、いわゆる五万円年金を実現し、あわせて年金額の物価スライド制を導入することにいたしたのであります。(拍手)また、老人医療の無料化を六十五歳以上の寝たきり老人にまで拡大するほか、心身障害者をはじめ援護を必要とする人々についても、収容施設の整備充実をはじめ血の通った援護の手を差し伸べてまいります。(拍手)さらに、難病奇病について、原因の究明、治療費の公費負担及び医療体制の計画的な整備などの施策を推進いたします。国民共同の負担としての公費負担については、国民の要望が強く、かつ、重要なものから一つでも多く実現するため努力をしていることを御理解願いたいのであります。(拍手)社会保障は、国民各層の連帯感にささえられ、経済成長の成果が社会のすべての階層に対し行き渡るものでなければなりません。私は、引き続いて社会保障の充実に努力してまいります。また、働く人々がゆとりと潤いのある生活ができるよう、勤務条件の改善をはかるとともに、余暇を活用するための勤労者いこいの村の建設、余暇情報の提供などを行なってまいります。(拍手)

 物価の問題は、先進工業国に共通する現代の悩みであります。わが国の場合、消費者物価は過去数年来平均五%台の上昇を続けてきましたが、幸い卸売り物価はほぼ横ばいに推移してまいりました。ところが、昨年来、卸売り物価が高騰し始めております。羊毛、木材、鉄鋼など一部の商品を中心としたものではありますが、このような現象をそのままにしておくことはできません。欧米先進国においては、コスト圧力を生産性の向上によって吸収し得ないような事態が生じておりますが、わが国においてこのようなことが起こることは避けなければなりません。

 当面の物価対策としては、まず輸入の積極的な拡大をはかることであります。昨年、対外経済政策の一環として関税率の一律引き下げ、輸入割り当てワクの拡大など輸入増大政策を実施しましたが、今後も国民生活と密接な関係のあるものを中心として、関税率をさらに引き下げるとともに、輸入の自由化と輸入割り当てワクの拡大を推進いたします。また、生鮮食品など生活必需物資の価格安定をはかるため、生産対策、流通対策について格段の予算措置を講じたのであります。独占禁止法の厳正な運用によって、適正な価格形成が行なわれるよう競争条件を整備することも必要であります。さらに、労働力不足を緩和するため、中高年齢層、婦人などを対象とする職業訓練や職業転換対策など労働力の流動化を推進いたします。また、長期的な構造対策として、農業、中小企業、サービス業などの低生産性部門の高能率化及び輸送面における隘路の打開につとめます。このような物価対策を総合的に推進するため、経済企画庁に物価局を設置することといたしました。

 私は、これだけで物価問題が解決するとは考えません。物価安定の基本は、経済活動全体が均衡ある姿で安定した成長を続けることであります。このためには供給の円滑化をはかるほか、総需要面の動向を注視しながら財政の運営に慎重を期するとともに、金融政策の適時、適切な組み合わせが必要であります。外貨の累増などに関連して企業の手元資金が潤沢となり、土地などに対する投資に向けられたという事実は否定できません。過剰流動性は吸収されなければなりません。このためすでに、預金準備率の引き上げや窓口規制など金融面の措置もとられつつあります。物価の安定は、国民が最も求めている政治課題であり、私は、今後とも必要な施策を果断に実施してまいります。(拍手)

 土地問題は、政治が直面している最大の課題であります。土地は、財産であり、財産権は、憲法によって保障されております。しかし、財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律で定めるものとされ、また、正当な補償のもとでは、私有財産を公共のために用いることができることとなっております。私は、憲法が認める範囲内で、最大限に公益優先の原則を確立し、土地が広く公正に国民に利用されるよう努力いたします。(拍手)これが土地政策の基本であります。全国的な土地利用の混乱をなくし、土地の値上がりによる社会的な不公平を改めるには、長期政策と、緊急に必要な政策をあわせて行なう必要があります。このため、国土の総合的な利用によって土地供給の増加をはかるとともに、全国的な土地利用基本計画を策定し、あわせて土地取引の届け出制、取引の中止勧告、開発行為の規制などを行なってまいります。都道府県知事が指定する地域については、一定の期間、特に、土地の投機的取引を防止し、開発行為を凍結するため、土地取引の届け出制の拡充、先買い制度の創設、土地所有者から地方公共団体などに対する買い取り請求権の付与などの措置をとってまいります。

 公的な用地取得と宅地供給を促進するため、地方公共団体などによる土地の先買いを推進するとともに、住宅公団の機能の充実を行ないます。また、宅地の供給を促進するため、大規模な宅地開発事業、特に都道府県、市町村などによる事業の推進をはかってまいります。さらに、休耕田の活用をはかるとともに、農業協同組合などを通ずる土地賃貸方式も早急に導入する考えであります。

 政府は、土地に対する投機的な需要を抑制し、土地の供給を促進するため、法人の土地譲渡益について重く課税する一方、特別土地保有税も創設することといたしました。また、投機的な土地の取引に対する融資を抑制するため、金融機関に対する指導を強力に進める方針であります。

 戦後の高度成長と今日の繁栄をささえてきた人口や産業の都市集中の結果、公害問題が深刻になってきました。生命と健康が何よりも大切であることは言うまでもありません。その意味で、公害を防除して健康な生活環境と美しい自然環境を確保することは、政治に与えられた現在の至上命題であります。このため、生産第一から生活優先へ経済政策を転換し、地域の住民や職場で働く人々の生命、健康を害することのない産業と技術を開発していくことが緊急に必要であります。景気の回復に伴い、産業界には新しい設備投資に向かう動きが見られます。しかし、これまでのような民間の設備投資主導による経済成長を改め、公害防除のための設備投資、工場が過密都市から地方へ移転するための投資などに重点を置いていくことが必要であります。このため、金融当局とも協力して適切な指導を行なってまいります。

 政府は、全国の自然環境保全の基本方針を樹立し、国土の総合開発の施策との調整をはかりながら、自然保護対策を展開してまいります。また、汚染者負担の原則に立脚しながら汚染物質の減少をはかるため、環境基準をきびしく改め、排出規制における総量規制の導入など規制を強化するとともに、無公害コンビナート技術の開発をはじめ、公害防止技術の開発にも一そう努力したいと考えます。(拍手)新しい技術の開発や導入にあたっては、それが人間や自然に弊害を及ぼさないよう、その内容を総合的に把握し、技術の再点検を進めてまいります。

 公害被害者に対しては、救済に万全を期するため、新たに公害被害者の損害賠償を保障する制度を創設することとし、成案を得次第今国会に法律案を提出いたします。
 さらに、交通事故、危険な商品、労働災害、新しい職業病などに対して、国民の安全を確保するため、必要な施策を講じてまいります。以上のほか、環境問題をはじめ現代社会における広範な問題に対処して、実効性のある研究開発を助け、育成するため、シンクタンクの機能を持つ特別の機関を官民合同で設立することといたしております。

 現在、わが国の総人口の三二%に当たる三千三百万人の人々が、国土面積のわずか一%にすぎない地域に集中しております。しかも、わが国はアメリカのカリフォルニア州よりも狭いのであります。したがって、こうした過密地域においては、公害、物価、土地不足などの問題が生じ、深刻になるのは必然であります。特に、過密化している大都市では、都市の改造、再開発を急がなければなりません。しかし、人口や産業の大都市集中を無制限に放置したまま、その改造を行なうことは不可能であります。(拍手)
 このような現状を改め、国民が健康で豊かな生活ができるようにするためには、片寄った国土利用を改め、国土全体の均衡のとれた発展をはかり、きれいな空気と水、緑に恵まれた住みよく暮らしよい地域社会を計画的に建設することが必要であります。(拍手)私が、人と物と文化の大都市への流れを大胆に転換し、日本列島の改造を提唱してきたゆえんもここにあります。(拍手)

 政府は、今後、大都市の再開発、生活環境施設を中心とする社会資本投資の拡大、教育、文化環境の整備などを含めた総合的な施策を強力に進めます。また、交通・通信ネットワークの整備、工業の全国的な再配置、地方都市及び農村環境の整備などを実施してまいります。工業の全国的再配置の促進のため、地方へ移転していく工場に対しては、環境保全施設整備のための補助金、移転資金の低利融資、税制上の加速償却などを行なってまいります。また、工場を受け入れる市町村に対しては、緑地などの整備のために補助金を交付してまいります。さらに、移転した工場のあと地は、公園など公共の目的のために有効に活用してまいります。これらの施策を強力に推進するため、十分な企画調整権限を持った総合的な行政機構として国土総合開発庁、その実施機関として国土総合開発のための公団を創設することといたしました。この際特に申し上げたいのは、国土の総合開発を進めるにあたって、地域住民の意向を尊重するため、地方自治体などの意見を反映した政策を実現したいことであります。

 沖繩の振興開発につきましては、沖繩の特性を生かしながら環境の保全を優先させ、新しい時代に即した豊かな地域社会を実現するようつとめます。このため、昭和五十年に開かれる国際海洋博覧会のための施設の整備をはじめ、沖繩振興開発計画の実施を推進し、沖繩県民の長い歳月にわたる労苦に報いてまいります。(拍手) また、高能率農業の育成、生産と生活とを一体とした農村環境の総合的な整備をはじめとする農業の近代化政策を進めるとともに、中小企業については、これまでの施策に加えて、小企業を対象とした無担保、無保証の経営改善資金の融資制度を創設することにより、その近代化をはかってまいります。

 国鉄は国民の足であり、輸送の大動脈であります。わが国の輸送は、その地形、地勢上の理由からいって、道路、鉄道、内航海運が有機的に一体となって組み合わされてこそ、初めてその機能を十分に発揮できるのであります。現在国鉄は、その経営努力にもかかわらず、累積赤字が一兆二千億円に達しております。国鉄経営の健全性が維持されなければ、国民生活に重大な影響を及ぼすことになります。国鉄自身の合理化や経営努力だけでは国鉄の再建は不可能であります。このため政府は、国鉄に対し思い切った財政援助をすることといたしました。国鉄財政再建十カ年計画を策定し、一兆五千億円余の出資を行なうほか工事費補助、再建債に対する利子補給などを行なうこととしておりますが、これらの国の一般会計による助成は、国民全体の税金によってまかなわれるものであります。財源にはおのずから限度があります。社会保障など欠かすごとのできない支出の拡充が要請されるとき、国鉄の場合、必要最小限の負担は、利用者に求めざるを得ないのであります。(拍手)国鉄運賃の改定を提案するのは、このためであります。

 医療保険制度も、抜本的な解決をはからなければなりません。来年度においては、家族医療給付率を五割から六割に引き上げ、家族高額療養費の支給など給付内容の改善を行なうことといたしました。同時に、累積赤字二千八百億円に達する政府管掌健康保険に対しては、定率一〇%の国庫補助の導入により八百億円の財政援助を行なうことといたしたのであります。このように政府は、できる限りの対策を講ずる一方、保険料率を改定して、被保険者にも応分の負担を求め、その改善をはかってまいります。(拍手)

 教育の振興が重要なことは申すまでもないことであります。戦後行なわれた教育改革からすでに四半世紀の時を過ごし、その制度は定着をしましたが、なお改革を要する問題は数多くあります。国際人としてだれからも尊敬され、信頼される新しい日本人を育てるための教育制度の確立のために、私たちはたゆみない努力を払うべきであります。人間形成の基本が小、中学校で定まることを思えば、義務教育を充実し整備することは、何よりも大切な問題であります。(拍手)小中学校の校長が退職後再び町に職を求めなければならないような現状を改めるため、定年の延長について真剣に検討をいたしておるのであります。今回、これらの教員に対し給与の増額予算を計上したのは、子供を導く先生によき人材を得て、先生がその情熱を安んじて教育に傾けられるような条件を一日も早くつくりたいと願ったからであります。(拍手)この措置は、たとえささやかなものであっても、やがては大きく実を結ぶものと考えております。(拍手)

 大学は学ぶところであります。世の親たちは、子弟が大学生として広く、高い知識を吸収し、よき社会人として世に出ることを期待しております。しかし、いまだに学園に紛争が絶えないのは遺憾なことであります。かつてはよい環境の中にあった大学も、急速な都市の過密化によって大都市内の教育環境が破壊されているのも一つの原因であります。また、管理運営にとっても、過密は大きな支障をもたらしておるのであります。

 諸外国の大学に見られるように、山紫水明の立地条件のもとで理想的な教育環境をつくることができないはずはありません。(拍手)大学の地方分散と新しい大学の設立を考え、新たに調査費を計上したのもこのためであります。(拍手)私学の振興は重要な課題であり、助成措置の拡大をはかっております。教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための最も重要な課題であることを思い、理想的な教育の条件と環境の確立にたゆみない努力を傾ける所存であります。(拍手)

 以上申し述べましたように、本年の重点的な政治目標は、平和外交の推進、国際収支の不均衡の是正、社会保障の充実と生活環境の整備、物価の安定、国土総合開発の推進などであります。私は、これらの課題を解決するために最善の努力を傾ける決意であります。もとより新しい政策は、長期的な視野に立ち、国民的な支持と理解を得ながら総合的かつ計画的に実施していかなければなりません。このため、わが国経済社会の発展の方向と政策体系は、新しい長期経済計画をもって明らかにしてまいります。 現代社会は、大きく深い変化を経験しつつあります。内に外に変革期の課題は、山積しております。私は、さきの総選挙を通じて国民の政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取りました。

 人間性を回復した平和な新しい日本をつくるには、古い制度や慣行にとらわれることなく、産業や経済のあり方を大胆かつ細心に変えていかねばなりません。しかも、当面している難問を解く処方せんは、わが国の歴史に先例を求めることができません。他国にその例を見出すことも不可能であります。新しい時代の創造は、大きな困難と苦痛を伴うものであります。(拍手)しかし、私は、あえて困難に挑戦し、議会制民主主義の確固たる基盤に立って、国民のための政治を決断し、実行いたします。(拍手)そして結果についての責任をとります。(拍手)国民各位も積極的に発言し、ともに日本の将来を切り開く歴史的な事業に参加してほしいのであります。(拍手) 私たちは、これまでもお互いに多くの障害を乗り越えてまいりました。こうした日本人の英知と、日本経済の活力は、いささかも衰えてはいないのであります。一億をこえる私たち日本人が、ひたすらに平和の道を歩み、物心ともに豊かな社会を建設するため、総力をあげて国内の改革に進むとき、外に平和、内に福祉の新時代のとびらを開くことは、必ずできると確信をするのであります。(拍手)国民各位の御理解と御支援をお願いいたします。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第71回国会衆議院本会議第4号(1973/01/29、33期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 まず第一に、内閣に対する御所論に対してお答えをいたします。 さきの総選挙で、自由民主党は、二百八十四という絶対多数の議席を獲得し、引き続き政権を担当いたしておるのでございます。しかし、私は、総選挙を通じまして、国民の政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取ったのでございます。これらの期待にこたえていくことが内閣に課せられた政治課題だと考え、懸命な努力を続けたいと考えるのでございます。(拍手)

 インフレに対する措置、予算その他の御質問にお答えをいたします。国民福祉の向上、国際収支の不均衡の是正、物価の安定の三つの課題を同時に解決することはたいへん困難な問題でございますが、全力をあげてこれが解決に取り組んでまいりたい決意でございます。まず、四十八年度予算案は、国民福祉の向上という国民の期待に正面から取り組み、財政に課せられた役割りを果たすという立場で編成をしたのでございます。四十八年度経済見通しにおける中央、地方を通ずる政府の財貨サービス購入は一六・六%増となっておりまして、GNPの名目成長率一六・四%とほぼ同程度のものとなっておりますので、この予算がインフレ予算といわれるようなものでないことは、これを見ても御理解賜われると思うのでございます。

 なお、国債について言及がございましたが、前年度当初予算の依存度は一七%でございましたが、今年度の国債発行高を一六・四%にとどめるなど、経済の動向に十分配慮をいたしておるわけでございます。また、調整インフレの考えは全くないことを明らかにいたしておきます。

 対外均衡の達成のためには、輸入の拡大、輸出の適正化、経済協力の拡充などが一そう推進されなければならぬわけでございます。経済活動全体が均衡ある姿で安定した成長を続けることが物価安定の基本であることは申すまでもないことでございます。このためには、財政金融政策の適切な組み合わせが必要でございます。特に、国内の過剰流動性を押えるため、金融面の対策もとられつつあるわけでございます。

 当面の物価対策としましては、輸入の積極的拡大をはかってまいりたい、こう考えます。先ほども御指摘ございましたが、四十八年度予算の説明書による広い意味での物価対策費は、一兆三千五百億円ということでございます。流通対策、生鮮食料品対策、交通料金対策、地価住宅対策など、特に重点的な対策につきましては三千三百億円を計上いたしておりまして、これが金額は、前年対比五一・二%増という計上をいたしておるわけでございます。これらの対策を総合的に推進することによりまして消費者物価を押えてまいりたい。しかし、これは政府だけの力でできるものではないので、野党の皆さんも含めて格段の御協力を切にお願いをいたします。(拍手)

 法人税の税負担を高めるというお話がございましたが、四十八年度の改正におきましては、産業関連の租税特別措置の改廃により、平年度四百億円の増税措置を講じたわけでございます。また、固定資産税につきましても、その負担を高める措置が講じられておりまして、この面からも法人の税負担は加重されることになっておるわけでございます。

 四十八年度の国債発行額、先ほど申し上げたとおりでございます。国債発行額二兆三千四百億円のうち、資金運用部の引き受けが四千七百億円ございますので、市中消化予定額は一兆八千七百億円でございまして、四十七年度の補正後の予定額と同額であることを御承知いただきたいと思うのでございます。

 公共事業費は、総額二兆八千億円でございますが、この公共事業費が、消化ができないような大幅なものではないかという御説でございますが、対前年度補正後七・六%の伸びでございまして、関係省庁の消化能力を十分勘案をして編成をいたしたものでございます。

 公共料金について言及がございましたが、これは極力抑制せられなければならぬことは当然でございます。しかし、人件費等のコスト上昇の中で料金だけを固定化することは困難な面もございます。もちろん、国鉄、地下鉄のように公共性の高い、国民生活に密接な関係のある料金については、財政援助を大幅に拡大をいたしまして、必要最小限の負担増にとどめることといたしておるのでございます。

 土地対策についての御提案にお答えをいたします。一定規模以上の土地の取得は市町村の許可事項にせよという御提案がございましたが、一定規模以上の土地につきまして、市町村を経由して都道府県知事に届け出をさせることにいたし、都道府県知事が、投機的取引と認め、合理的な土地利用を阻害すると認めるものにつきましては、中止勧告をすることを立法化してまいりたいと考えております。

 次に、地域開発は、地方公共団体が主体となることが原則であり、その推進にあたりましては、住民の意思が十分反映されるよう、一そうの配意をいたしてまいります。地方自治体の土地先買い権を強化せよとの御提案でございますが、国土の総合開発を進めるにあたり、特に一体として開発し、整備し、または保全する必要のある地域は、特定地域の制度を設けてまいります。この特定地域につきましては、一定期間、特に土地の投機的取引を防止し、開発行為を凍結する必要がありますために、土地取引の届け出、勧告制とあわせて、地方公共団体等による土地の先買い制度を創設してまいりたいと考えます。また、公有地拡大推進法による先買い制度の対象区域の拡大についても、検討を続けておるのであります。標準地価をこえる譲渡所得に高率の譲渡税を課せよとのお考えでございますが、土地税制につきましては、今回、総合的な土地対策の一環として、特別土地保有税を創設し、法人の土地譲渡益に重い課税を行なうこととしておるのでございます。また、御提案によります問題につきましては、税制調査会でも議論をせられたわけでございますが、基準となるべき標準地価として何が適当であるかについて一般的な合意が確立しないままに、その実行をはかることは困難であるという面がございます。税制のみによって土地に対する一種の公定価格制度を推進することは無理がございます。むしろ、利用規制等を含めた税制以外の法制の整備が先決であります。(拍手)土地の増価分に大幅な分離課税をという御提案でございますが、かりに一定基準の土地評価額を上回る部分の土地譲渡益に対して重課せよということでございますれば、何を基準とするかということでむずかしい問題が存在をいたします。また、現に保有するあらゆる土地について強制的に評価、課税するということであるとすれば、最近において投機目的のために取得した土地には税負担が相対的に低く、古くから保有し本来の事業の用に供しておる土地ほど税負担が重くなるといった問題も生ずるのでございます。いま申し上げた問題は、この国会に法案として提案をするのであります。これは非常に画期的なものであります。(拍手)その意味において、皆さんから建設的御審議と早期成立のために御協力をお願いいたします。(拍手)

 なお、列島改造を取りやめろというお話でございますが、一億余にのぼる国民のうち、国土のわずか一%の地域に三二%、三千三百万人が過度に集中をしておるような現況を改めない限り、諸般の問題の解決は困難であります。(拍手)これは、自由民主党内閣でなくとも、社会主義的国家におきましても、都市に集中を抑制しておる現在を考えれば、おわかりになることであります。(拍手)この狭い日本を総合的に利用せずして、いろいろな問題が解決できるとは思えません。(拍手)しかも、公共用地の取得、都市周辺における空港の建設等に対して、一坪地主運動も行なわれておるではありませんか。このような状態を考えるときに、列島改造を進めずして諸般の問題が解決しない、とを明らかにいたします。(拍手)

 福祉対策について申し上げます。ILOの百二号条約につきましては、疾病、失業、老齢及び業務災害の各部門において、わが国の水準は、条約の基準を満たしており、現在でも一応批准可能と考えておるのであります。しかし、その批准につきましては、基準を満たしていない部門の今後の方向を含め、全体についても将来の見通しを立てた上で態度をきめることが妥当であると考えておるのであります。各種年金の充実についての御提案がございましたが、政府としても、四十八年度の予算編成の最重点項目として、年金改善を取り上げたわけでございます。具体的には、厚生年金及び国民年金について、いわゆる五万円年金の実現を目途とする年金額の大幅引き上げ、物価スライド制の導入をはかるとともに、老齢福祉年金を夫婦月額一万円に引き上げるなど、大幅な改善措置を講ずることといたしたわけでございます。賦課方式への切りかえの問題等もございますが、被保険者に比べ受給者数が少ない現段階においては、当年度に必要な給付費用をその年度の保険料でまかなうとすれば、当面は比較的に軽い負担で給付改善を行なうことも可能かと思います。しかし、今後は受給者が急増をいたしてまいりますので、給付改善を行なわない場合でも、保険料負担は今後急激に高価なものとなるなど、将来に大きな禍根を残すことになるわけでございます。年金制度の健全な発展をはかるためには、長期的視野に立った財政運営が肝要でございまして、政府としては、今回の改正にあたって、現行の財政運営のあり方の基本を変更することは適当でないという結論に達したわけでございます。

 公害対策について申し上げます。政府としては、中公審企画部会の中間報告の趣旨を真剣に受けとめ、環境基準、排出基準の強化等を進めますとともに、環境破壊をもたらさないような産業構造への転換をはかってまいります。また、開発に際しましては、事前に環境に及ぼす影響を十分調査し、環境に悪影響を及ぼさない範囲で開発を進めるなど、環境保全のための施策を強力に推進をしなければなりません。苫小牧東部、むつ小川原等の大規模な工業開発プロジェクトについて、公害を未然に防止し、自然環境の保全をはかるため、十分な事前調査を引き続き実施をしてまいります。開発にあたりましては、これらの調査の成果を踏まえ、かつ地域の住民の意向をただしつつ、各地域の環境制御が可能な範囲内で工業開発の規模を定めることとしたいと考えております。また、工場施設の配置にあたっては、工場環境の整備基準により規制をすることとし、公害に対する常時監視体制を整備してまいります。その意味で、これを取りやめるということは考えておりません。公害防止費用の原因者負担の原則は、公害対策基本法におきまして、わが国においてもすでに確立しておることを御承知いただきたいと思います。

 自動車の排気ガスによる公害の防止等についての御指摘がございましたが、従来から段階的に規制を強化しておるわけでございます。さらに、昭和五十年には、米国のいわゆるマスキー法に匹敵するきびしい規制を実施する方針でございます。自動車メーカーは、これらの規制に適合する有毒物質除去装置の開発に対して、現に全力をあげて推進をいたしておりますし、政府としても、公害防止技術の開発には懸命に取り組んでまいりたいと考えます。(拍手)

 所得減税につきましてのお話がございましたが、初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円に及ぶ減税を行なうことにいたしました。これは所得税の自然増収額一兆一千五百九十六億円の二七・二%でございまして、このような減税の結果、夫婦、子二人の標準世帯におきましては、課税最低限百十四万九千六十円ということになったわけであります。私は、これが最もいいものだとは考えておりません。しかし、西ドツイの七十七万円、英国の九十三万円、フランスの百万円を比べて、そこまできた努力はひとつ御理解を賜わりたい。(拍手)日本の夫婦、子二人の標準世帯百十四万九千六十円は、日本より所得のはるかに多いアメリカが百三十二万四千円であることを、これもひとつ御理解を賜わりたいと思うのでございます。(拍手)ただし、これをもって足れりとしておるものではないことを付言いたしておきます。

 防衛費と攻撃性の強いT2改機などの問題について言及がございましたが、防衛費につきましては、世界の各国が必ず、自分を守るために防衛費を組んでおります。私も、きょう勉強してまいりましたが、日本以外の国々で、歳出に占める防衛費で日本よりも小さい国は見当たりませんでした。(拍手)しかも、一番大きいのは四〇%をこしている国もございますし、三〇%をこしている国もございます。四次防を含めて、わが国の歳出に占める防衛費は、わずかに七・一%、八%未満である事実も十分御理解をいただきたいと思いまして、私は、やはりこの程度の負担は、日本の独立と自由を守るためには必要なものである、こう考えておるのであります。(拍手)

 わが国の防衛力は、憲法に許容する範囲内に限られ、侵略的、攻撃的な装備は保有できません。これは、石橋さん御指摘のとおりでございます。四次防もこの制約に従ってつくられたものでございます。四十八年度の防衛予算の中にも、その意味で、攻撃的な装備は一切含まれておりません。FST2改支援戦闘機につきましても御言及がございましたが、自衛のために必要な装備でございまして、同機の行動半径は短く、攻撃的脅威を与えるようなものでないことは、御専門である石橋さん、十分御理解をいただきたい、こう思います。

 どこまで日本の軍事力を増強するのか、平和時における自衛力の限界なるものについて御言及がございましたが、先ほども申し上げましたように、わが国の防衛力は、憲法の許容する範囲内で、国防の基本方針にのっとり漸進的に整備を進めてきておるものでございますが、昨年四次防を決定しました際、わが国の防衛力は今後どこまでも無制限に増加するのではないということを明らかにできれば、国民の防衛に関する理解を得るためにも幸いであると考え、平和時の防衛力として防衛庁に勉強、研究をするように指示したものでございます。これは非常にむずかしい問題でございますが、防衛庁では真剣に研究をしてくれておるのでございます。先般その考え方につきまして説明を聞いたのでございますが、中間報告の段階でございまして、最終的な説明を受けるに至っておらないわけでございます。現に勉強中と御理解賜わりたいと思うわけでございます。

 北朝鮮、北越、東独と国交を樹立せよ、これらの国連加盟に努力せよという趣旨の御発言がございました。いわゆる分裂国家にはそれぞれ特有の歴史的、政治的な背景と事情があり、当事者間の関係も異なるので、一律に論ずることはできません。政府は、人道、文化、スポーツ、貿易の分野で北鮮との事実上の接触を深めてまいります。南北会談の進展によって北鮮との関係がやりやすくなることを期待をしておるわけでございます。北ベトナムとも、これまであった接触は、今般の和平実現により拡大の余地ができてまいりました。外交関係の設定を行なう前に戦後復興等、北ベトナムとの交流増大のため、やることはたくさんあるわけでございます。東独等につきましては、東西両独間の基本条約の批准も間近になっておりますので、遠からず東独との外交関係を設定できると考えております。ドイツ民主共和国の国連加盟等につきましては、東西両独間の合意に基づいて近く双方の加盟申請が行なわれ、今秋の国連総会において加盟が実現するものと予想されます。(発言する者あり)とれは分裂国家に対して御説明をしておるのでございます。朝鮮、ベトナムにつきましては、当事国の意思を尊重する立場から、南北両鮮間の話し合い、ベトナム和平後の進展とにらみ合わせて考えてまいりたいと考えるのでございます。

 ベトナム復興、南北統一、わが国の協力態度等につきまして申し上げます。わが国は、一日も早いベトナム戦争の解決を念願をいたしておったのであります。(発言する者あり)今般和平が合意をされましたことを歓迎をいたします。和平が定着するためにはベトナムの民生安定と生活向上が不可欠であり、わが国としても、戦後復興と経済開発のために幅広い援助を行なってまいりたい、こう考えるのでございます。

 日米安全保障条約と四次防の中止の問題について御発言がございましたが、先ほど申し上げましたように、わが国の防衛力は、憲法を守り、必要最小限でなければならないということでございます。また、必要最小限の負担で独立と自由を守るためには、日米安全保障条約が不可欠なのでございます。そういう意味で、日米安全保障条約を維持しながら、最小限の負担で日本の独立、自由を守ってまいりたいという悲願を御理解賜わりたい。(拍手)

 アジア平和保障会議の問題について御言及がありました。アジアの平和維持は、わが国をはじめアジア諸国共通の関心事でございます。ベトナムに実現しつつある和平を確固たるものにするため、アジア・太平洋諸国による国際会議の開催の可能性を現に考えておるのでございます。その方途はいろいろございます。目下鋭意検討中でございます。

 タイで起こっておるような事件が世界各地で起こらないように努力をしなければならぬという御指摘でございますが、そのとおりでございます。そのためには、これから日本の経済援助、技術援助、また内容の改善等に対しても格段の配慮をしてまいるつもりでございます。

 最後に、政治資金及び議員定数の不均衡の問題等についての御言及がございましたので申し上げます。政治資金規正法改正の問題につきましては、政党政治の消長、わが国の議会制民主主義の将来にかかわる重大な問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案されながら廃案になった経緯があることは周知のとおりでございます。(発言する者あり)これを今日の時点に立ってみると、金のかかる選挙制度あるいは政党のあり方をそのままにしてこれを具体化することにいろいろと無理があることを示しておるように思うのでございますが、くふうによっては、その方法も見出し得るものと考えるのであります。今後は政党本位の金のかからない選挙制度の実現への動向も踏まえつつ、さらに政党法のあり方なども含めて、徹底した検討と論議を積み重ねてまいりたいと考えます。

 衆参両院議員の選挙区別定数の合理化は、もとより重要な問題であることは申すまでもありません。選挙区別の定数をどう改めるかという問題は、両院議員の総定数、選挙区制、選挙制度をどうするかという問題と切り離して結論を出すべきものではなく、選挙制度全体の根本的改善の一環として検討すべき性格の問題であると考えておるのであります。さきの第七次選挙制度審議会でも、選挙制度全般にわたって根本的改善を行なう場合、その一環として各選挙区の定数をどのように定めるかという点から審議が行なわれるという報告を受けております。政府としましては、このような考え方をもとにして、世論の動向、各政党の御意見等も十分に聞きながら、慎重に検討してまいります。以上。(拍手)
 倉石君にお答えをいたします。まず、経済協力のあり方を再検討し、政府開発援助を量、質の面で拡大をすべしということでございますが、わが国の経済協力は、一九七一年実績におきましては、量的におきまして米国に次ぐ第二位の地位を占めておるのでございます。しかし、質的には、政府援助は約その二四%にとどまっておりまして、DACの平均数字を下回っております。世界第二位の経済力を持つに至ったわが国でありますので、政府開発援助の量的拡大、借款条件の改善、アンタイイングの推進等、重点を置いてまいりたい、こう考えるわけでございます。

 第二には、インドシナ地域における復興、和平の定着のためのアジア諸国による国際会議の開催等についての御発言でございましたが、先ほども申し上げましたとおり、インドシナ地域の復興と安定に貢献するには、単独で協力をする場合、国際協力を通ずる場合、いずれの方法も考えられますが、わが国といたしましては、両面を考究すべきだと考えておるのでございます。至難の事業であるだけに、多くの国々の共同参加が求められることが効率的ではないかと考えております。そのためには、社会体制を異にする国々をも含めた関係各国との相談を重ねてまいりたい、こう考えます。しかし、バンドン会議のようなはでなものは必ずしも考えておらないわけであります。じみちな外交努力を展開することが先決であり、その段取りはかねてから検討しておる次第でございます。

 第三は、日ソ関係についての御発言でございましたが、日ソ関係は、経済、貿易、文化の各分野において年とともに着実に進展をいたしておりますことは御承知のとおりでございます。政府としては、今後とも互恵平等の原則の上に立って、隣国ソ連との多面的な関係の発展をはかる方針でございます。しかしながら、同時に、日ソ関係を真に安定的基礎の上に発展せしめるためには、懸案の北方領土問題を解決し、平和条約を締結することが不可欠でありますので、政府は、引き続きソ連との交渉に一そうの努力を傾けてまいりたい、こう考えます。(拍手)

 貿易、経済問題で日米間にある感情のもつれをどうするかということでございますが、日米両国は経済関係の維持、強化が、両国のためばかりではなく、世界経済の発展にとっても不可欠であることを十分認識をいたしておるのでございます。

 私は、ハワイでニクソン大統領と話し合いをいたしましたときに、日本としては、両三年以内に国際的な均衡を達成するよう努力することを申し述べ、理解を得てまいっておるわけでございます。対米貿易収支の不均衡是正に対しては、政府も、国民の理解を得て、精力的に行なっておるわけでございます。しかし、今年末までの予想をいたしますと、去年よりもなお日本から米国への貿易、俗に言う対米出超が拡大をいたしておるのでございまして、対米貿易是正のために、なお一そうの努力を傾けてまいらなければならない、こう考えておるのでございます。アメリカに対しても、日本に対する輸出の促進等に対して努力をしてもらうよう、要請もいたしておるわけでございます。日米間の友好の基礎を確保していくためにも、日米間の貿易不均衡というような問題は、どうしても国民各位の協力を得て、正常なものにしなければならない、それは焦眉の問題であるといわざるを得ないのであります。政府はこれが解決に全力を傾けるつもりでございますが、国民皆さんの御協力も切に願いたいのでございます。(拍手)

 国の安全保障に対する基本的見解について御発言がございました。自国民の生命と財産を守らなければならないことは国の義務であります。そのため、国防の基本方針に基づいて、最小必要限の自衛力を漸進的に整備し、将来、国連が有効な平和維持機能を果たし得るに至るまで、どうしても日米安全保障体制を維持しなければならぬのであります。先ほどもお答えを申し上げましたが、最も合理的な負担において専守防衛の実をあげておる日本としては、日本だけで平和と独立を守れないという状態でありますので、日米安全保障条約とあわせて、日本の完ぺきな安全を保障しておる、これは不可分のものであるということを十分御理解いただきたいのでございます。(拍手)言うなれば、日米安全保障条約というものがもし廃棄されて、日本だけで防衛を行なうとしたならば、いまのような四次防が大きいなどという考え方、そんなものでは日本が守れるものではないという事実を、十分御理解をいただきたい、こう思うのでございます。(拍手)その意味で、国連が有効な平和維持機能を果たし得る日まで、日米安全保障条約を維持してまいる、こう申し上げておるのでございます。しかし、これらの問題だけで解決できるのではなく、国際協調のための積極的な外交、物心両面における国民生活の安定と向上、国民が心から愛することのできる国土建設等の内政諸施策を推進して、これらの努力の総合の上に、わが国の独立と安全が保障されると考えるのでございます。先ほども御発言がございましたが、わが国は、平和な島国に閉ざされて、恵まれた四半世紀を過ごしてまいりましたので、ややもすれば防衛問題に対する国民の関心が薄いかもしれませんが、その当否はさておき、国会の内外において論議が重ねられ、国民の合意が得られるように、政府は努力をしてまいりたいと考えるのであります。

 基地に対する住民感情の問題等に対しての御発言がございました。しかも、基地に対する住民感情の問題と、安保廃棄というような問題、これは別な問題ではないか、別の問題として取り扱うべきであるということでございました。また、地域開発に支障のないように、支障となるものについては返還を求めたり、周辺整備事業に万全を期すようにという御注意でございますが、全く同感でございます。

 現在、いわゆる安保反対という政治的な立場と、地域的な基地問題とが結びつけられているという側面があることは、全く御指摘のとおりなのであります。わが国の安全を確保し、アジアの安定に資するためには、日米安全保障条約体制が必要であり、そのために必要とされる米軍施設、区域は、日本国民全体の安全と平和のために存在をするのでございます。したがって、施設、区域周辺住民の不便や負担は、国民全体でこれを分かち合うということでなければならぬのであります。(拍手)政府としましては、地域の福祉と発展にとってできる限り支障にならないように努力を傾けますとともに、周辺対策に万全を期する所存でございます。

 先般の日米安保協議委員会において十カ所の施設、区域の整理統合が合意されました。これからも積極的に、地域開発の必要のあるところの基地の周辺整備等、住民各位の期待にこたえられるように整備をしてまいりたいと考えておるのでございます。

 住民登録の拒否の問題についてでございますが、自衛隊についての住民登録が事実上拒否されておることは、国民としての権利義務行使の基礎となるものだけに、まさに憲法で保障された基本的人権にかかわる重要問題であって、はなはだ遺憾なことであります。こんなことが行なわれてはなりません。(拍手)こういうことが現に行なわれておって、憲法の基本人権などを論ずるということ自体がおかしいのであります。(拍手)政府は、この問題を地方自治の基盤をも脅かす重大な問題であると考えており、地方公共団体の良識を信頼して今日までその是正方を指導してきたところでありますが、今後もとのような認識に立って、すみやかな事態の解決のためにさらに努力を重ねます。(拍手)しかし、これは小さな問題ではありません。与野党とか、考え方の違いではないのです。憲法の基本人権を守るということの第一ページにある問題であります。(拍手)目的のために手段を選ばないというような問題に、かかることが使われることははなはだ遺憾であります。(拍手)

 賃金上昇が生産性上昇を上回り、物価にはね返ることにならないかという御指摘でございますが、昭和四十三年以降、賃金上昇率が生産性上昇率を上回る傾向が見られます。これは、物価問題のもととなっておる先進工業国で、賃金が生産性でまかなえない、賃金が生産性を上回るというような問題が続くと、どうしても、西欧先進国にあらわれておりますように、卸売り物価に影響いたします。それはすぐ消費者物価につながるのでございます。そういうことが起こらないようにと、先ほども施政方針演説で政府の基本的な考え方を述べたわけでございます。(拍手)

 その意味において、長期的に見ますと、わが国においては、両者は均衡がとれて推移をしてきたと認められておるのでございます。しかし、最近、物価や賃金の上昇が目立っておりますので、労使における価格及び賃金の決定が、国民経済全体の中で均衡のとれた形で行なわれることが望ましい、こう考えておるのでございます。

 国民福祉の指標を策定し、福祉社会のビジョンを国民に示さなければならないという意味の御発言でございました。全く御指摘のとおりでございます。政府は、今年度を社会福祉の年として、社会福祉拡充を目ざして予算編成をいたしたのでございますが、新しい長期経済計画の最重点項目の一つとして、国民福祉の充実も考え、またこの長期経済計画の中に、長期間にわたる社会保障の位置づけということを答申していただこうということを考えております。なお、この答申というものをいただきましたら、体系の整備等を含めて、計画的に社会保障の充実をはかってまいりたい、こう考えておるのでございます。

 教育の根本に対する所見いかんという問題でございますが、「教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための最も重要な課題である」と演説で申し述べましたが、私は教育が一番大切な問題であるとしみじみと感じておるのであります。(拍手)お互い人の子の親であります。われわれの生命には限りがあります。しかし、日本民族の生命は悠久なのであります。われわれの子供や孫が国際人として尊敬されほめられるような人になってもらいたいと思わない親はないと思います。私は、そういう意味で、教育というものは、知識を得るところではなく、人格形成の場でなければならない、(拍手)こう真に考えておるのでございます。日本人としてつちかわなければならない心をほんとうに教え込まれるような理想的教育環境を整備するために、政府は思い切った施策を行なうつもりでございますし、国民がこの教育充実のために真に努力を傾けられ、政府の施策に協力されることを心から期待してやみません。(拍手)特に先ほど倉石君の述べられたとおり、教育の任務は民族的伝統の継承と民主社会の規範の体得の上に個人の可能性の豊かな開花をはかることによって、平和な国家、社会の形成者を育成することができるのだという考え方も全くそのとおりでございます。(拍手)お互い、政府を鞭撻していただいて、世界に冠絶した、日本にほんとうに適合した教育環境をつくることに努力をしてまいりたいと思います。(拍手)
 まず第一に、今後の経済運営の考え方について申し上げます。政府は、従来の成長優先の発想を改め、適切な成長のもとで、わが国経済社会の活力を生かしつつ、福祉優先の政策を推進することといたしておるのでございます。このため、政府は近く新しい長期経済計画を決定し、長期的政策運営の基本的方向を提示することといたしておるのでございます。

 第二問は、経済の民主的、計画的運営のため、経済計画法あるいは経済基本法のごときものを制定するつもりはないかということでございますが、わが国経済は、民間の自由経済活動を中心として運営されておることは御承知のとおりでございます。その意味で、経済計画は、経済活動の全分野にわたり詳細にその内容を規定したり、厳格にその実施を強制するというような性格のものではなく、経済政策の基本的方向を示しますとともに、民間企業や国民の活動の指針となるものでございます。そういう意味で、経済計画は閣議決定の形式をとっておりますが、これで十分であると考え、現在、計画法を制定するというようなことは考えておりません。

 卸売り物価の高騰と消費者物価への波及の問題についてでございますが、四十七年度の消費者物価は四・五%でございまして、いままでに比べてほぼ落ちついておるといえるのでございますが、しかし、昨年来、御承知のとおり、木材、羊毛その他少数の商品ではございますが、卸売り物価の高騰が続きましたので、半年後、一年後には消費者物価へはね返ってくるのではないかという問題が起こってまいっておるのでございます。そういう意味で、卸売り物価の抑制をはかってまいりますとともに、これが消費者物価へはね返らないような努力をしてまいらなければならないわけでございます。その意味では、総需要の適正化、輸入の積極的拡大、競争条件の整備、生鮮食料品の安定的供給の確保、流通機構の近代化等の施策を引き続き行なうことによりまして消費者物価の安定をはかるということでございます。

 輸出第一主義の経済構造の根本的改革についての御発言がございました。対外均衡達成のためには、御指摘のとおり、従来の輸出優先の考え方から転換をし、経済構造の転換もはかっていかなければならぬことは申すまでもございません。したがって、今後とも輸入の拡大、輸出の適正化等により貿易構造の是正を促進します一方、国内面で社会資本の整備や社会保障の充実による福祉政策を積極的に推進をいたしまして、資源配分を福祉重点にするとともに、公害対策の推進、産業構造の知識集約化等により、国際的に調和のとれた産業構造へだんだんと転換をしていかなければならない、こう考えておるわけでございます。

 インフレを防止するために福祉予算とすべきではないかということでございますが、今度の予算は、演説でも申し上げましたとおり、福祉重点的な予算でございます。社会保障、福祉政策の積極的な推進を目途として編成をせられたものであることを御承知いただきたいのでございます。しかも、インフレ防止のためには、不急不要の経費は極力これを削減をしまして、重点的、効率的に資金配分につとめておるわけでございます。そういう意味で、福祉に対しては重点的に配分をいたしておりますが、しかし、インフレは起こさないようにという考えで編成をしたものでございます。

 一面においては、この予算が大きい大きいといいながら、社会福祉に対してはまだ不足である、こういう御発言がございますが、そのようにむずかしい問題を対象として、その両方ともうまくいくように予算を組んだのでございます。(拍手)

 法人税の基本税率を四〇%程度に引上げるべきだということでございますが、先ほども石橋さんにお答えをいたしましたとおり、租税特別措置の改廃等によりまして、平年度四百億円の増税措置を講じたりいたしたわけでございます。なお、固定資産税等の負担も高まる処置が講じられておりますので、この面からも法人の税負担は加重されることになります。

 それから、土地税制は庶民の購入価格に上乗せされるおそれがあるという問題でございますが、これは先ほども御発言がございましたが、国民が住宅用地として通常必要とする土地等につきましては、免税点制度を設けて土地保有税を課税をしないというようにいたしておりますので、国民が真に必要とする土地に対しては、これらの税制その他によって地価を押え、そして合理的な提供を行なおうという趣旨に出るものであることを御理解賜わりたい。

 円の再切り上げについて、参議院で、「円再切り上げの事態を招くならば、相当の責任と存じます。」と、こう私は述べておるのでございます。「円の再切り上げの事態を避けるべく努力をいたします。しかし、努力をしてもそうなったらどうするか。それは相当な責任だと存じます。」こう答えておるのでございます。円の再切り上げを回避しようとする私のなみなみならぬ決意を表明したものでございます。(拍手)この決意はいまも変わっておりません。通貨の呼称を変えるデノミネーションについての御発言がございましたが、現にデノミネーションを行なうことは全く考えておりません。

 それから、国鉄運賃の値上げをやめ、別途再建策を立てよということでございますが、本件については、先ほどもるる申し述べましたことでございますし、累積赤字が一兆二千億にものぼっておりますが、地形、地勢上の理由によって鉄道が運行不能になったり、国鉄が再建できなくなったらたいへんなのであります。しかも日本においては、国鉄は国民の足であり、動脈であります。それは過去百年の歴史を見れば明らかなとおりでございます。その意味で、ただ税金をもってすべてまかなえといってまかなえるものではありません。予算は小さくしなければならない、社会保障費は拡大しなければならないという要請をしながら、しかも国鉄の赤字は全部税金でまかなえということでは、国鉄の再建は不可能に近いのであります。(拍手)しかもそれを、ただ防衛費をやめてというような観念的なことで、こんなことはできません。(拍手)

 管理価格や寡占価格について、公取に立ち入り権及び勧告、原価公表などの権限を与えよということでございますが、自由経済体制のもとにおきましては、自由かつ公正な競争を維持、促進することにより不当な価格形成を防止することを基本とすべきであるとの見地に立ち、独占禁止法の厳正な運用により対処してまいりたいと存じます。

 五万円年金についてのお尋ねでございますが、五万円年金の実現、物価スライドということを今年の予算で実現をしたのでございまして、画期的な改善処置であると考えます。(拍手)それは、前の国会において、五万円年金ができるかどうかということに対して皆さんから御質問を受けたではありませんか。その五万円年金ができたのであります。しかも、物価のスライド制はやるのかやらぬのかと言っておったのが、ちゃんと実行いたしたではありませんか。(拍手)そういう意味で、この五万円年金と物価に対するスライド制が画期的でないということはできません。しかも、標準報酬の六〇%の水準の年金を実現するものでありまして、この水準は、国際的に見ましても遜色のない水準の年金であるということを御理解賜わりたい。

 なお、年金の財政方式として賦課方式を採用できない理由につきましては、石橋さんにお答えをしたので御理解を賜わりたい、こう思います。労働者の生涯にわたる職業生活の充実と不安のない老後の生活への円滑な移行をはかるため、現在の五十五歳定年を延長するよう政府としても行政指導につとめておるわけであります。老齢福祉年金の増額などについてのお尋ねでございますが、老齢福祉年金の受給者が老齢年金受給者の大宗を占めておることを考慮しまして、四十八年度においては三千三百円から月額五千円への引き上げをはかったわけでございますが、これは四十九年度には七千五百円、五十年度には一万円に引き上げたい、こういうことでございますので、五十年度には目標の一万円老齢年金が実現をする、こう考えていただいてけっこうであります。(拍手)なお、扶養義務者の所得制限につきましても、年収六百万円まで大幅に引き上げ、実質的には撤廃にひとしい緩和を行ないました。なお、今回の恩給の増額にあたりましては、厚生年金等、他の公的年金制度、現職公務員給与とのバランスなどを考慮して、国家公務員の給与改善率により恩給年額の改定を行なうことといたしました。

 物価スライドのかわりに賃金に対するスライド制を導入せよということでございますが、スライド制の導入はわが国年金制度にとって多年の懸案でありましたが、今回、物価を指標とする自動スライド制の導入に踏み切ったのでございます。健保に対してもっと大幅な国庫補助を導入せよということでございますが、御承知のとおり内容の拡充をはかるとともに、政管健保の赤字補てんとして一〇%にのぼる定率国庫補助を新設することにいたしたわけでございまして、給付改善の費用につきまして被保険者にも応分の負担をいただかなければならぬことはやむを得ないことでございます。社会党の医療保障基本法に対する所見でございますが、社会党の医療保障基本法案につきましては、国民によりよい医療を提供するという方向において、幾多の示唆が与えられております。しかし、医療に関する制度は、将来の国民の健康にかかわる重大な問題でありますから、さらに広くいろいろな角度からの意見を聞いて、慎重に方向を定めなければならないと考えております。

 社会保障長期計画の樹立に対しての御発言に対してお答えをいたします。社会保障につきましては、かねてより計画的拡充に努力をしてまいりましたが、現在、経済審議会に対して新しい長期経済計画を諮問いたしておるのでございます。近く答申が行なわれる予定でございますが、この長期経済計画の中に社会保障の規模とか方向づけが示されることを望んでおるわけでございますので、答申には、政府が考えておる社会保障の位置づけが答申されるものと考えておるのでございます。答申が出れば、この答申に沿って長期計画を策定したいと考えておるわけでございます。

 一兆円程度の減税をしなければならないのにということでございますが、四千六百億円、平年度五千二百億円、国税、地方税を通じての減税を行ないました。今度の減税の中で所得税中心の初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円というものは、先ほども申し述べたとおり、過去に例を見ないものでございます。しかし、これをもって足れりと考えておるのではございません。これから減税も年々行なわなければならないと、こう考えております。

 私は大蔵大臣在職中から一つの考え方を持っておることは、御承知のとおりでございます。それは、日本が直接税中心主義であるために財源を確保することには容易であるとしても、徴税機構が大きくなったり、また税の負担感が重いというような問題もありますので、もっと直接税と間接税とのバランスをとらなければならないという考えは、確かに個人的に持っております。しかし、それは間接税に移行すること、間接税のウエートを上げることが逆進税制に移行することだというような古い観念や古い考え方にとらわれて、なかなかそこのバランスをとることはむずかしい面もございます。それだけではなく、やはり大衆課税にならないようにするためにはどうするかというような問題も十分研究をし、案を国民に示して、国民の理解を前提としながら税の問題には転換をはかっていかなければならぬわけです。そういう意味で、現行税制下において減税が行なわれておる状態において、今年度の減税に対して政府が努力を重ねておることは、事実だけはひとつ考えていただきたい。税はうんとやりなさい。そうして間接税に移行してもなりません。社会保障はうんとやりなさい、しかも規模は縮めなさい。それはなかなかむずかしいことでございますから、よくお考えをいただきたい。(拍手)

 住民税の課税最低限八十万円から八十六万円、これは小さいということでございますが、国民生活水準の推移、地方財政の状況等を総合的に考慮しつつその引き上げを行なってきたところでございまして、今後においても住民負担の軽減をはかっていくつもりでございます。

 消費税あるいは付加価値税の問題については、これをどうも政府が考えておるのじゃないか。これは学問的には研究いたしております。いま申し上げたとおり、付加価値税とか所得税中心の税負担が重いから、しかも人生において一番高率投資を必要とする三十五歳から五十五歳くらいの人々、しかも子供を全部学校にやらなければならないような人たちは、確かに税負担が重いのであります。そういう意味で、そういうものを思い切って直さなければならないということになると、新しいこれにかわる税制というものはどうなるのかということも考えなければなりません。いまそういう意味で検討はしておりますが、付加価値税を実行するというような決定をしておるわけではないのでございまして、皆さんの御意見も十分聞かなければ実行に踏み出さないということでありますので、現状はそのように御理解をいただきたい。(拍手)

 公務員の労働基本権問題につきましては、現在、公労使三者構成の公務員制度審議会において慎重に御審議を願っておるところでございます。政府としては、同審議会の結論を待って対処したいと考えておるのでございます。ジェンクス事務局長の示唆に基づく協議は非常に重要であると同時に、複雑かつ困難な問題を含んでおりますが、政府としては今後とも誠意をもって対処してまいる所存でございます。

 ILO関係条約のすべてを批准するのかどうかということでございますが、政府としては、ILOの加盟国となっておる以上、ILO条約についても、可能なものから実情に即しつつできるだけ多く批准につとめるという態度で臨むべきものと考えております。今後ともこの方針にのっとり、批准の検討を促進をしてまいりたいと考えます。

 育英事業の拡充についての御発言がございました。育英ということばを使わないで奨学事業その他としたらどうかという問題に対する御発言もございましたが、これらの問題に対してはいろいろ勉強してまいりたいと存じます。

 育英奨学事業につきましては、高等教育改革の一環として充実をはかるべき課題であることを考えており、今後その施策について、御意見の趣旨も参考にしつつ検討したいと思います。現に貸与人員は、四十七年度実績で、大学は十九万人、大学院は修士一万二千人、博士一万人、これは博士課程に対しては在学生の八〇%強、修士課程においては在学生の五〇%弱、大学十九万人は在学生の一〇%強でございます。これらの問題等に対しては、これからも拡充してまいるつもりでございます。少し早口で申しわけありませんが、三十五問の質問にお答えをしなければならないのでありますから、どうぞひとつ御理解のほどをお願いいたします。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第71回国会衆議院本会議第5号(1973/01/30、33期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 第一は、ベトナム問題についてでございますが、政府は、今般、米国をはじめ関係当事者の努力により、南ベトナムの民族自決権を尊重したベトナム和平協定が調印されたことを歓迎するものであります。米国の南ベトナムに対する軍事的支援につきましては、米国は、南ベトナムの要請により、国連憲章第五十一条にいう集団的自衛権の行使であると説明をしておるのであります。今般停戦が実現し、戦火がおさまるに至ったことはきわめて歓迎すべき事熊でありまして、わが国としては、和平の定着化のためにできるだけ努力を払ってまいりたいと存じます。(拍手)

 基地提供の問題についてお答えをいたします。極東の平和と安全に関係のある場合、米軍が施設、区域を修理、補給などのために使用することは安保条約上認められておるのであります。

 次に、北ベトナムとの国交を樹立し、南ベトナムだけの支援をやめよというような趣旨の御発言について申し上げます。ベトナム停戦協定の成立により、これまであったわが国と北ベトナムとの接触を拡大する余地は出てきたと考えておるのであります。北ベトナムとの外交関係を設定する前に、戦後復興のための協力等、同国との交流増大のため、することはたくさんあります。しかし、わが国は南ベトナムと外交関係を有しておりますので、同国との友好関係も維持してまいります。

 次に、ジョンソン次官証言等について、米軍はどういう意味で日本の安全に役立つのかという御質問に対してお答えをします。安保条約第六条により、米軍は、日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、わが国に駐留をしておるのでございます。それは、米軍の駐留のもたらす抑止力が極東の安定のための大きなささえであり、これによってわが国及び周辺地域の平和の維持に米国が寄与できるとの共通の認識が日米双方にあるからでございまして、ジョンソン次官の発言は問題ないと考えております。(拍手)

 横須賀の母港化というようなものは日米軍事同盟を再編強化するものではないかという御質問に対して申し上げますと、空母の横須賀母港化問題は、空母の乗り組み員家族を横須賀基地及びその周辺の民間の借家に居住させようというものであり、安保条約及びその関連取りきめ上問題がないと考えております。そういうことでございまして、日米軍事同盟の再編強化などということは全くはかっておりません。(拍手)

 昨年の国防報告、すなわちレアード長官の報告に対してでございますが、レアード長官の問題に対して申し上げます。レアード国防長官が一昨年夏来日した際、防衛庁長官に対して、自衛隊の装備が古いので質の改善をはかる必要があるのではないかと感想を述べたということは聞いております。が、それは感想でございまして、米国政府から自衛隊の装備の近代化について奨励を受けたというような事実はありません。(拍手)

 日米安全保障条約の廃棄と日本の中立化を主張するという共産党の主張を述べられましたが、今日の国際社会において、単独でその安全を確保することは困難であります。わが国の場合、必要最小限の自衛力を整備するとともに、米国との安全保障体制によって安全を確保することが最も賢明な道であります。(拍手)なお、日米安全保障条約は、集団安全保障の一つであることは言うまでもありません。 高度成長政策を取り続けるつもりかということでございますし、もう一つは、過去の経済政策に対しての御質問がございました。

 戦争に破れてゼロから出発をしたわが国は、四半世紀の短い間でこれだけの日本になったではありませんか。(拍手)国民生活も向上いたしました。所得も増大をいたしました。ただ、正すべきところや修正を行なわなければならないところはたくさんありますが、少なくとも、持たざる国から持てる日本に転化をしてきたではありませんか。その意味で、過去の経済政策は成功であったといわざるを得ません。(拍手)

 しかし、これからの経済政策につきましては、政府は、従来の生産・輸出優先という運営を改めまして、国民福祉の充実を今後の基本的目標として各般の施策を推進することといたしております。四十八年度予算もこうした方向で編成をされたのであります。なお、政府は、近く決定される長期経済計画におきまして、適正な経済成長を維持しながら国民福祉の充実をはかってまいり、なお国際協調を推進いたしてまいりたいという方策を提示をする考えでございます。


 
なお、列島改造についての御言及がございましたが、これは、都市に集中をする傾向は全世界的な傾向でございます。そして、都市に集中をする過程において国民総生産や国民所得が増大をされてきておるのでございますが、集中し過ぎるということになりますと過密の弊害が出てくるわけでございます。そこに土地の問題や公害の問題や、生活環境が破壊をされるような問題が起こってまいっております。その意味で、狭いながらも楽しい日本をつくらなければならないというのが日本列島改造政策でありまして、大企業優先のものではありません。日本人のほんとうに豊かな生活を確保するためには、列島改造政策を進める以外にはないと確信をするのであります。(拍手)

 
生活向上の目標と具体的年次計画等につきましては、長期経済計画の中でお示しをいたしたいと考えます。なお、消費者物価等についての御言及がございましたが、四十八年度の経済見通しにおいては、景気の上昇や前年度の卸売り物価の上昇等、根強い物価上昇要因を極力抑制することによって消費者物価を五・五%に押えてまいるつもりでございます。しかし、これに対しては国民各位の心からなる御協力もお願いをいたしたいのでございます。

 国会に、チェックの機構を新設せよということでございますが、政府としては、独占禁止法の厳正な運用によって対処できると考えております。


 
それから、国鉄運賃の問題についての御言及がございましたが、国鉄は過去百年間、国内交通の大動脈として、国民生活の向上と国民経済の発展をささえてきた国民の足であります。特に地形、地勢上、限られたところにある日本の交通機関として、国鉄を無視することはできないのであります。その国有鉄道は一兆二千億にのぼる累積赤字をかかえておる事実も、御承知のとおりであります。しかも過去、物価を押えるために、国鉄運賃は一般物価よりも非常に低く押えられてきたという事実も認識をしなければなりません。その意味で、国鉄の再建政策は緊急の課題でございます。四十八年度から十カ年計画を立てて国鉄の再建を行なおうとしておるのでございますが、国は税金から、すなわち一般会計から三兆六千億、財政投融資から九兆三千億の援助をして、国民の足を確保しようと努力をしておるのであります。その意味で、財政の中にはもっともっと、きのうも申し上げましたように、ほんとうに公費負担でやらなければならない社会保障の要請もあるのでありますから、そういうことも考えながら、国民の皆さまには最小限の負担をお願いをしようというのが国鉄運賃法の改正でございますから、共産党もひとつ御賛成をいただきたい、こう思います。(拍手)

 大資本の持つ土地を適正価格で収用せよという問題でございますが、地方公共団体等は、新住宅市街地開発法、新都市基盤整備法等により、一定の区域について住宅用地を適正な価格で計画的に取得することができるようになっております。必要な場合は収用権も活用してまいりたいと考えます。

 年金問題についてお答えをいたします。年金につきましては、五万円年金の実現、物価スライド制の導入など、画期的な措置を講じたのでございます。年金は、現段階ではいまだ加入者数に比べ受給者数が少ないので、保険料収入の相当部分が将来の給付のために積み立てられておる過程でございます。年金の財政運営は長期的視野に立って行なう必要がございまして、財政方式、修正積み立て方式ともいう今度の方式をとっておるわけでございまして、賦課方式への移行はいま考えておりません。健康保険改正案について申し上げますと、今回の改正案は、多年改善をされないままであった給付の改善を行なうことを中心とし、あわせて大幅な国庫補助を投入して財政の健全化をはかろうとするものでございまして、出した法律をよく見ていただきたい。昨年廃案となったものを再提出するものではありません。

 公害問題に対してお答えをいたします。公害の調査、企業への立ち入り検査等の監視、取り締まりは行政庁が行なうこととなっておりますので、御指摘のような機構をさらに設ける必要はないと考えております。政府は、昭和四十五年の公害国会におきまして、公害対策基本法ほか十四法案を制定、改正するなど、公害関係法制の抜本的体系化を行なったことは御承知のとおりでございます。また、公害対策基本法につきましては、現行規定の運営により十分対処し得るものと考えておりますので、法改正は考えておりません。

 議員定数の是正及び政治献金を個人に限るべしというような問題がございましたが、本件につきましては、昨日、社会党の方々に十分申し上げておるとおりでございます。

 なお、学生集団による暴力その他暴力の一掃についての決意についての質問がございましたが、最近の学園の荒廃は目に余るものがあります。学園の秩序を維持することは、学園のみならず、わが国の平和な社会生活の保持のため絶対不可欠のものであります。およそ暴力は、これがいかなる団体もしくは個人によって行なわれるものであっても、許すことはできません。(拍手)政府は、従来から学園の秩序維持に全力を傾けてきたのでございますが、今後とも国民の協力を得て、暴力の絶滅に努力をしてまいるつもりでございます。以上。(拍手)
 まず第一には、政治路線を転換せよという問題についてお答えをいたします。人間性を回復した平和な新しい日本をつくるためには、古い制度や慣行にとらわれることなく、産業や経済のあり方を大胆かつ細心に変えていかなければなりません。経済政策も、生産第一から生活優先、福祉優先に切りかえていかねばならないと考えます。このたび国民福祉重点の予算を編成したのもこのためでございます。新しい時代の創造には、大きな困難と苦痛を伴います。しかし、私はあえてこの困難に挑戦し、国民のための政治を決断し、実行してまいりたいのであります。(拍手)

 
第二に、四十八年度予算案についてのお尋ねでございますが、社会保障の充実、生活環境施設の整備など、国民福祉の向上を実現するため、財政は従来以上に積極的な役割りを果たさなければなりません。四十八年度の予算は、このような観点から編成をされたのでございます。

 インフレ防止のために万全の対策を講じなければならぬことは申すまでもないことでございます。国内の過剰流動性を押えるため、金融面の措置もとられつつございますが、今後の経済運営にあたりましては、経済の動向を注視しながら、財政金融政策の適切な組み合わせにより、その安定成長をはかってまいります。いわゆる調整インフレの考えは全くとっておりません。

 第三、税制についての御質問でございますが、昭和四十八年度の減税規模は、国税、地方税を通じまして、初年度四千六百億円、平年度五千二百億円にのぼっておるのでございます。多岐にわたる財政需要にこたえながら、政府としてできるだけの努力をいたしたことを御理解賜わりたいのでございます。所得税減税は、初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円でございます。この結果、夫婦子二人の標準世帯におきましては、課税最低限は百十四万円余となって、西欧先進国を上回っておることは、先日も申し上げたとおりでございます。法人税の税負担を高める道は、税率の引き上げだけではなく、課税所得の拡大もその一つの方法でございます。四十八年度の改正におきまして、産業関連の租税特別措置の積極的な改廃によりまして、平年度四百億円の増税措置を講じたところでございます。なお、別途、固定資産税等につきましても負担を高める措置が講じられており、この面からも、法人の税負担の加重がはかられておるわけでございます。

 卸売り物価急騰対策についてでございますが、需給ギャップの著しいステンレス、鋼板部門を除きまして、鉄鋼業につきましては、御承知のとおり、昨年末をもって全面的に不況カルテルを打ち切ったわけでございます。今後、安定供給につきまして強力な指導を行なってまいるつもりでございます。

 なお、いわゆる管理価格の規制についてでございますが、自由経済体制のもとで、政府が直接企業の価格形成に介入することには慎重でなければならぬわけでございます。現在、公取委におきまして寡占の実態調査を行なっておりますので、不当な価格形成の事実があれば、独禁法の厳正な適用によって対処してまいるつもりでございます。

 国鉄の再建案につきましては、先ほどもお答えを申し上げましたが、国鉄は、明治から百年間、国民の足であり、日本の経済の大動脈であったわけでございます。この国鉄はいままで、言うなれば料金を一般の物価以上に押えてきたということは御理解がいただけると思います。そういう意味で、そのしわが国鉄に寄っておるという事実もございますので、今般、一般会計三兆六千億、財政投融資九兆三千億にも及ぶ助成措置を十年間においてとることにいたしまして、国鉄としての責めを果たさせようと考えておるわけでございます。

 なお、国有鉄道というものの赤字線であったようなものを一体どうして今度続けるようにしたんだという御指摘でございますが、国民生活上不可欠の路線や地域開発上先行投資の役割りを果たす路線については、その意義を再検討する必要があると考えたわけであります。国鉄というのは、大体道路と民間企業との中間を行くものであります。ある意味においては赤字であっても、政策目的を達成するために必要であれば、国費でまかなっても運行をしなければならないというところに国有鉄道法の意義があるのであります。(拍手)

 例をあげて申しわけありませんが、北海道の鉄道は、過去も現在も、まだ当分赤字だかもしれませんが、この国鉄の累積赤字の何千倍、何万倍北海道の国民総生産の拡大に寄与したかという事実を見れば明らかでございます。(拍手) しかも、鉄道や交通機関が赤字であるならばこれを廃止せよといえば、東京や大阪の地下鉄は、三三%から三分の二に近い公共負担を行なってもなお赤字であるということでございます。その意味で、国有鉄道というものの重要性は別な意味で御認識を賜わりたいのであります。(拍手)

 譲渡益に対して八〇%以上の土地課税を行なうべしという御提案でございますが、今回政府が実施をしようとしております法人の土地譲渡税は二〇%の上乗せをするということでございます。しかし、法人は、法人税や地方税、おおむね五〇%に近い税を課されておりますので、税負担は七〇%というものに近くなるわけでございまして、決して低い税負担ではないと考えておるのでございます。保有税の課税除外項目を限定せよということでございますが、保有税制の創設の趣旨から見て、課税除外の対象範囲は、住宅用地の供給等に重点を置きまして、安易に拡大することは考えてはおらないわけでございます。なお、特定地域の一千平方メートル以上の土地売買は公的機関を通じ、地方自治体の先買い権を強化せよという御提案でございます。公有地の拡大の推進に関する法律による先買い制度に加え.て、都道府県知事が指定した地域については、土地取引の届け出、中止勧告制とあわせて、地方公共団体等による土地の先買い制度を創設したいと考えておるのでございます。

 国土総合開発庁と公団の設置によって、住民自治の機能の弱体化がはかられるのではないかという御発言でございますが、およそ国土の総合開発を進めるにあたりましては、地域住民の意向を尊重し、地方自治体の意思を尊重することは当然でございます。国土総合開発庁及び公団の計画の策定及び事業の実施については、これを基本としてまいります。公共住宅政策の推進の問題についての御質問がございましたが、四十八年度におきましては、公的資金による住宅の規模の拡大と質の向上をはかるほか、日本住宅公団による長期特別分譲制度の新設、住宅金融公庫の融資の拡充等をはかるととにいたしておるわけでございます。

 地方自治体の超過負担の解消のための政府の財政援助の増加等についての御発言についてお答えをいたします。四十八年度予算におきまして新たに、児童、生徒が急増している市町村の公立小中学校校舎建設費の国庫負担率を、現行の二分の一から三分の二に引き上げてまいります。また、義務教育施設建設のための国庫負担事業等にかかる地方団体のいわゆる超過負担については、四十八年度及び四十九年の両年度において解消措置を講ずる考えでございます。

 福祉の向上に対して数点御質問がございました。以下、順次お答えをいたします。社会保障は長期計画を立てよということでございますが、長期計画につきましては、新しい長期経済計画の中にその位置づけをおおよそいたしたい、こう考えておるわけでございます。

 第二には、年金については、五万円年金の実現、物価スライド制の導入など、画期的な措置を講じたつもりでございます。なお、厚生年金の場合、二十年以上の加入者の標準的な年金額が五万円となるのでございます。年金の財政運営は、長期的視野に立って行なう必要があり、現段階で賦課方式への移行は考えておらないわけでございますが、しかし御指摘もございましたように、現在、積み立て方式を修正をして、修正積み立て方式ともいうべきものを採用いたして、これに対処いたしておるわけでございます。国民年金発足当時の任意加入対象者で、十年年金または五年年金に加入しなかった者は、今回の改正で措置をいたします。

 健保の改正は、家族給付の改善をはかるとともに、大幅な国庫補助、四十八年度八百億円を導入して、政管健保の財政の再建をはかるものでございます。その意味で、たいへんな改善だと考えておるわけでございます。老人医療の無料化は、四十八年一月から七十歳以上を対象として実施をいたしましたが、来年度予算では、さらに六十五歳以上の寝たきり老人等について医療費無料化の対象に取り入れたところでございます。また、三歳児までの乳幼児の問題についてのお話がございましたが、乳幼児の医療無料化につきましては、いわゆる難病を対象に治療費の公費負担を実施しております。

 
列島改造と産業構造の転換、公害防除の関係と施策の優先順位等に対しての広範なお話がございましたが、国土の改造、産業構造の転換、公害防除の推進は相互に深い関連がありますので、いずれも一体として強力に実施をする必要があると考えます。また、列島改造に対しては、自然環境の保護基準等を厳重にやってまいります。しかも、もうすでに国土の一%に三千三百万人もの人が住んでおるのでございまして、これを無制限に集中を是認するような状態で、お互いの生活環境がよくなるはずはないのであります。社会主義国においても、強力に大都市に対する抑制をいたしておる事実を考えてみれば、狭い日本でも、楽しい理想的な日本をつくるために、列島改造が合理的、理想的に進められなければならぬことは言うをまたないことでございます。(拍手)真に御理解をお願いいたします。

 
公害についての問題に対して、順次お答えをいたします。公害発生源規制の強化の一環として、できるだけ早く総量規制を導入することにいたしたいと考えております。また、環境制御システムの確立をはかるため、開発が環境に及ぼす影響を事前に評価するいわゆる環境アセスメントの手法開発、公害防止技術の開発促進等の施策を積極的に講じてまいりたいと考えております。無過失損害賠償責任制度について、因果関係の推定規定を設けよという御所論でございますが、公害訴訟における因果関係の立証については、実際上なかなか困難な点があることは御理解いただけると思います。しかしながら、最近の判例では、因果関係を事実上ゆるやかなしかたで認める方向になりつつありますので、因果関係の推定につきましては、このような判例の動向を見守りつつ、その法制化について引き続き検討してまいりたいと考えます。公害病認定患者の早期認定等についての御発言に対してお答えをいたします。公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法に基づいて、健康被害者に対してはすみやかに医療救済措置を講じておるのでございます。

 農政について申し上げます。今後の農政政策といたしましては、農産物需給の長期的展望に立ってわが国の農業生産を確保してまいります。このため、新たに総事業費十三兆円にのぼる土地改良十カ年計画を策定し、農業生産基盤の計画的な整備を進め、高能率農業の育成をはかってまいります。新たに農村総合整備モデル事業を実施いたしますとともに、農村地域への工業導入を促進してまいります。

 ベトナム問題についての御質問にお答えをいたします。わが国は、南ベトナムが民族自決の原則に従い、みずからの運命を平和的に決定できるように、また、すみやかに平和が回復されるように求めてまいりましたが、今次協定によって、かかる民族自決と和平の目的は達成されたと考えておるのであります。極東の平和と安全に関係のある場合、米軍がわが国の施設、区域を修理、補給などのために使用することは、日米安保条約上認められておるところでございます。わが国としては、長年の戦禍に苦しんだこの地域に平和の第一歩が踏み出されたことを心から歓迎いたすものであり、平和の定着と復興、建設のため、相当の努力を払ってまいりたいと考えております。

 事前協議等に対しての御発言にお答えをいたします。日米安全保障協議委員会において事前協議制度について討議をしましたが、日米間に密接な意思の疎通がありますので、運用上問題はなく、また、現在のような国際情勢のもとにあっては、事前協議を必要とするような事態は予想されないとの見解の一致を見ております。また、同委員会においては、必要でなくなった基地の整理、統合をも決定をいたしました。基地の整理、統合に伴う経費は日本側が負担をすることになっておるのであります。また、返還された軍用地の利用について、公共の用に供するように考えなければならないということは全く御説のとおりでございます。十分配慮してまいりたいと考えます。

 今後のアジア外交のあり方と日本の役割りについての御発言でございますが、過去一年余の間に起きた多くのできごとは、アジアの情勢が対決から対話の方向に進んでおることを示しておると思います。しかしながら、多くのアジア諸国は、独立を獲得してまだ四半世紀を経過したばかりで、政治的にも経済的にも歴史が浅いのであります。産業の分野でも、教育の分野でも、なお乗り越えるべき難問を山のようにかかえておるのであります。しかも、アジア諸国相互間のコミュニケーションは、おおむね不十分であり、関係も相互補完的ではありません。一口に言えば、かかる現実がアジアにおける不安定要因となっておるのであります。アジア諸国はそれぞれなみなみならぬ努力を払っておりますが、これらの自主的な努力をできるだけ助けて、アジアに安定を定着させたいというのがわが国アジア外交のあり方であり、日本の役割りであると考えておるのであります。

 日米安保条約の解消論にお触れになりましたが、わが国と米国を含む自由主義諸国との友好関係は、現在のアジアにおける国際政治の基本的なワク組みの重要な柱となっております。このようなワク組みの中で、政治信条や社会体制を異にする諸国とも友好関係の積極的な増進がはかられておるのであります。日米安保条約を解消することは考えておりません。

 軍備増強政策等に対しての御言及がございましたが、わが国は、憲法を守り、必要最小限の自衛力で自由と独立を守っていくことは国としての義務であり、責任であります。わが国は無制限な防衛力の拡張など全く考えておりませんし、厳重な制約もあることを承知をいたしております。

 平和憲法下における自衛力の限界ということでございますが、平和時の自衛力の限界という問題のように思いますので、その意味でお答えをいたしますが、昨日もお答えを申し上げたとおり、防衛庁に、むずかしい問題であっても、四次防等、国民の理解を得るためには、研究、勉強してほしいということを望んでおるわけでございます。国会も再開されるにあたって、防衛庁長官から中間報告を聴取いたしましたが、まだ結論が出ておりませんので報告になっておりませんが、引き続いて開かれる予算委員会でもこの審議が当然行なわれるはずであるから、引き続き早急に勉強してほしいということを私からも依頼をしてあるわけでございます。

 アジア太平洋平和会議の開催、北ベトナムの問題、ASPACの問題等に対してお答えをいたします。アジアの平和維持は、わが国をはじめアジア諸国共通の関心事でございます。この共通の関心事を生かすにはいろいろな方法がありますが、国際会議はその一つであると考えられるのでございます。北ベトナムとこれまであった接触は一そう拡大の余地ができました。外交関係の設定を行なう前、戦後復興と北ベトナムとの交流増大のためやることはたくさんあるのであります。また、ASPACにつきましては、わが国の一存で一方的にきめるよりは、豪州とかタイなどの関係国とも相談をしてまいることがいいことではないか、より合理的だと考えておるのでございます。

 朝鮮政策を明らかにせよということでございますが、北鮮とは人道、文化、スポーツ、貿易の分野で接触を深めてまいります。韓国とは、従来からの友好関係の維持発展をはかってまいります。国連における朝鮮問題は、軌道に乗ってきた南北当事者間の会談を無視して考えることはできないわけでございますので、これらの状態も十分配意してまいりたいと考えます。

 最後に、各政党とも一致した立場で北方領土の返還を求め、日ソ平和条約の締結をはかるべきだという御議論でございますが、北方領土問題に関し、各政党が一致した立場のもとに、国後、択捉、歯舞、色丹四島の返還をソ連に求めるべきであるという御趣旨と了解をしますが、政府はこれには全面的に賛成であります。(拍手)今後とも御趣旨に沿って、ソ連との交渉につとめる方針でございます。せっかく御支援のほどをお願いいたします。

 浅井君に対する御答弁は以上で終わりますが、先ほど村上弘君の御質問のうち、議員定数の問題、政治献金等の問題に対して、きのうの答弁をそのまま御了承願いたい旨を申し述べましたが、正確にやはり申し述べることがいいと思いますので、お許しを願って、二点に対してもう一ぺんお答えをいたします。

 衆参両院議員の選挙区別定数の合理化は、もとより重要な問題でありますが、両院議員の総定数、選挙区制、選挙制度をどうするかという問題と切り離して結論を出すべきものではなく、選挙区制全体の根本的改善の一環として検討すべき性格の問題と考えております。

 政治資金規正法の改正は、政党政治の消長、わが国の議会制民主主義の将来にかかわる重大問題で、幾たびか改正法案が国会に提案され、廃案になった経緯があることは周知のとおりでございます。これを今日の時点で振り返ってみますと、金のかかる選挙制度あるいは政党のあり方をそのままにして、これを具体化することにいろいろと無理があったことを示しているように思えるが、くふうによっては、その方法も見出し得るものと考えておるのでございます。今後は、政党本位の金のかからない選挙制度の実現への動向も踏まえつつ、さらに政党法のあり方なども含めて、徹底した検討と論議を積み重ねてまいりたいと考えております。以上。(拍手)
 経済成長率を、まず安定成長のために九%以下に押えよということでございますが、来年度の経済は安定的な拡大を続け、おおむね一〇・七%程度の成長となると見込まれるのでございますが、経済全体としての供給力にゆとりがありますので、バランスのとれた成長が実現できるものと思うのでございます。

 次は、来年度予算が大型のこともインフレを加速すると思うがどうかということでございますが、四十八年度一般会計予算は国民福祉の向上に重点が置かれ、前年度当初予算に対して二四・六%増となっておりますが、中央、地方を通ずる政府財貨サービス購入の伸び一六・六%は、ほぼ経済成長率一六・四%に見合った中立的なものとなっておりますほか、国債についても、前年度当初予算の依存率一七%を下回る一六・四%にとどめるなど、経済の動向に十分配意することといたしておりますので、インフレ予算ということは当たらないと思います。しかし、予算執行にあたりましては、物価問題に十分配意してまいりたいと考えておるのでございます。

 また、管理価格規制法を制定せよという問題を第三点において述べられたのでございますが、寡占価格の問題につきましては、独占禁止法の厳正な運用等によりまして対処する考えでございます。また、現在残っておる不況カルテルにつきましては、認可要件を欠くに至った場合にはすみやかに打ち切る所存であります。

 国鉄、健保の値上げをストップしてはどうかということでございますが、国鉄は御承知のとおりの状態でございますし、政府も多大の援助を行なって国鉄の使命を十分果たせるようにいたしたいと考えておるのでございますし、健保についても、その給付内容を改善をし、政府一般会計からの大きな資金援助も考えておるのでございますので、両法案提出の事情に対しては御了承の上、御協力のほどをお願いいたしたいのでございます。

 土地についての認識、地価安定のための私権制限の問題に対してお答えをいたします。土地に関しましては、憲法の定める範囲内で最大限に公益優先の原則を確立し、広く公正に国民に利用されるようにすべきものと考えます。このため、土地取引の届け出、中止勧告制度の新設、特定地域における土地利用規制の強化、開発行為の規制の強化のほか、土地の投機的取引を抑制するための法人の土地譲渡益に対する重課及び特別土地保有税の新設などの措置をとることにいたしたのであります。

 私権を制限するということに対して、その所有権に対しても制限を行なえということでございましたが、いま申し上げましたとおり、憲法に定める私有権ということも考えながら、公益優先の最大限の活用をはからなければならないわけであります。そのために、所有権を抑制するというのではなく、土地の利用を規制するということが最も正しいことであることを御理解願いたいのでございます。

 土地利用公社の設置についての御提案がございましたが、政府は、適正かつ合理的な土地利用をはかるため、都道府県が市町村の意見を聞いて土地利用基本計画を定めることといたしておりまして、この計画に定められた地域については、開発行為の規制をはかる等の立法措置を予定をいたしております。なお、利用計画を充実して、五十年ぐらいの間不変にしてはどうかという御提案でございましたが、五十年も長期にわたって計画の変更を認めないということは、かえって土地利用の硬直性を招き、変化への適応性を失うおそれがあるわけでございます。公的機関による土地取得の拡大については、土地開発公社等を活用してまいりたいと考えております。

 なお、今回実施をしようといたしております土地保有税や法人の譲渡税に対しての御言及がございましたが、しかし、現時点におけるこれらの制度は、地価抑制や、また地価の将来の値上がりを見越して買いあさりをするような行為、現に保有しておるものを吐き出さすという作用は相当行なわれるものと考えておるのでございまして、これ以上に高い、八〇%、八五%の税ということはいま考えておりません。

 福祉優先の問題に対してたくさん御指摘がございましたが、難病患者とか心身障害者に対しては、国として手厚い援助を行なわなければならぬことは当然でございます。特に、重度心身障害者のうち施設入所を必要とする者については、対象者全員の入所を目途に施設整備を促進しておるわけでございます。また、在宅の心身障害者に対しましては、障害福祉年金、特別児童扶養手当等の給付を行なうとともに、家庭奉仕員の派遣などの援護措置を講じておるのでございます。親がなくなり、保護者がいなくなった重症心身障害児については、当然収容施設でめんどうを見なければなりません。

 また、今後の道路整備にあたって、人命尊重のたてまえから、特に交通安全施設の整備を行なえという御発言に対しては、重点的に行なっておりますし、また、行なうつもりでございます。

 いわゆる五万円年金は、御指摘のとおり、標準的な加入期間の受給者について標準報酬の六〇%の水準の年金を実現するものでございまして、この制度は、国際的に見ても相当高い水準のものであります。また、積み立てておる資金を大企業に使っておるんだということでございますが、これは資金運用部に積み立てられておるわけでございまして、これは住宅とか、道路とか、国民生活に直接影響するものに投資が行なわれておることは御承知のとおりでございます。

 なお、瀬戸内海の環境保全について、現在の排水基準の強化や下水道施設の整備等を進めておりますが、今後さらに汚染実態の解明を急ぎ、環境保全マスタープランをまとめることにいたしたいと存じます。特段の立法を必要とするということでございますが、立法が必要であるかどうかは、その際あわせて検討いたしたいと存じます。

 次に教育問題に対してお答えをいたします。わが国における社会的風潮から、学校教育がとかく知育偏重になりがちな傾向が見られますので、学校教育において児童生徒の全人的な育成が行なわれるよう、さらに意を用いていきたいと存じます。また、身体障害者のための特別の教育施設である盲学校、ろう学校及び養護学校並びに小学校、中学校等に置かれる特殊学級につきましては、従来から国は積極的にその整備を進めておるのでございます。また、勤労青少年や社会人に対する大学教育のあり方については、夜間大学を含め、広く大学改革の一環として検討してまいりたいと存じます。

 私学の助成に対して御熱意ある御発言がございましたが、昭和四十八年度予算案では、前年度より四四%増の四百三十三億円余を計上いたしております。これで足れりとしておるのではないわけでございます。今後ともさらに努力を重ね、国立、私立大学間の格差是正等をはかってまいりたいと考えておるのでございます。

 現在の大学入試に伴う問題を改善するためには、入試方法の改善をはかるとともに、わが国の社会に根強く残っておる学歴主義の是正をはかり、さらに御指摘のように、大学における教育のあり方についても検討を加える必要があります。大学には入学はやすく、卒業はきびしくということでございますが、どこの親でもそういうことを考えておると思います。アメリカでは、現にあなたがいま御指摘になられたとおりのことをやっております。入学はだれでも入れる、しかし、勉強しない者は卒業できない。ところが、日本においては、御指摘にございましたように、入るまでは一生懸命勉強いたします。しかし、入ってしまうと、あまり勉強しなくても、ところてん式に卒業ができるという制度が望ましい制度でないことは事実でございます。私は、そういう意味において、いま御指摘ございましたような問題も、国民的合意を求めながら、改革の重点としていかなければならない問題だと考えております。

 農政の未来像についての御言及がございましたが、今後の農政の推進にあたっては、生産性の向上と農業従事者の所得の確保をはかることを基本として、農業生産基盤の整備、農業団地の育成等による農業の体質改善を進めますとともに、農産物価格の安定につとめてまいります。また、これらの施策と相まって、農村地域への工業導入も推進をしてまいりたいと考えるのでございます。

 ベトナム和平に伴い、駐留なき安保条約に変えるべきだという御説でございます。ベトナム和平の実現を見、緊張緩和の傾向が生まれていることは歓迎すべきことでございます。これを助長するため、あらゆる努力を払うべきでございますが、日米安保条約はアジア安定の維持のために必要な条件の一つであり、これを今後とも維持していくことが必要であると考えます。

 日本の独立と平和を維持するために、日米安全保障条約によってアメリカの協力を求めており、日本は、協定によって基地を提供いたしておるのでございます。基地を提供しない有事駐留ということは、考え方はよく理解できるのでございますが、率直に申し上げて、保険料を払わないで保険金をいただくのかという議論も考えられるわけでございまして、私は、そのような有事駐留ということが、望んでも二国間の協定において了解を得られるものではないような気がいたします。これはもう、考えることを率直に申し上げるわけでございます。(拍手)

 ベトナム和平により日米安保条約第六条の極東条項は不要となった、台湾条項は中国に対する国際信義からも削除せよという趣旨の御発言でございますが、平和を守っていくためには、急激な変化は避けつつ、対決から対話への転換をもたらした国際政治の基本的なワク組みを維持していかなければなりません。極東条項を含む日米安全保障体制は、極東におけるかかる安定要因として認識さるべきなのであります。

 一九六九年の日米共同声明のいわゆる台湾条項は、当時の両国首脳の台湾地域の情勢に対する認識を述べたものでございます。その後、情勢は大きな変化を遂げ、この地域をめぐって武力紛争が発生する可能性はなくなっており、右の認識も変化したというのが、政府の見解でございます。

 今回設置をされた安保運用協議会の任務は何かという御質問でございますが、安保運用協議会の任務は、安保条約と関連取りきめの運用について幅広く協議と調整をはかることにあり、安保条約第四条にいう随時協議の態様に該当しておるのでございます。

 事前協議制の運用についての問題がございましたが、日米安保協議委員会において事前協議制度の運用について討議をしたか、しないか、と。しました。が、日米間に密接な意思の疎通がありますので、運用上の問題はなく、また現在のような国際情勢のもとにあっては、事前協議を必要とするような事態は予想されないとの見解の一致を見ておるのでございます。

 基地に対しての御質問にお答えをいたします。政府は、わが国の安全確保とアジアの安定のために、所要の施設、区域の提供を続ける必要があると考えております。同時に、人口稠密地域の場合、地域住民の利益のために施設、区域の整理返還も進めなければなりません。このような二つの要請を調和のとれたものとするためには施設、区域をできるだけ統合し、合理的、効率的なものにしていく必要があるのであります。今回の本土、沖繩における整理統合はこのような目的に沿うものでございます。この施設、区域の整理統合を進めるにあたり必要とされる代替施設の建設を日本側が実施することは、施設、区域の提供は日本側の負担とする旨定めた地位協定第二十四条に合致するところでございます。ベトナム紛争について、対米戦争協力云々の御発言に対してでございますが、わが国はベトナム紛争が早期に解決することを希求してまいりました。こいねがってきたのであります。ベトナムには和平が成立をいたしました。和平の確保のため、これからはできるだけの協力を行なう考えでございます。

 インドシナの戦後復興基金を設立すべしということでございますが、復興基金の設立が必要かどうか、十分検討をしてまいりたいと考えております。選挙の公正、明朗化の推進、これはもうほんとうにそのとおりでございます。お互い長い間、選挙を通じて今日を迎え、日本の民主政治をつくり上げるためにいささか微力をいたしてきた私の立場から考えてみても、きょうは特に同僚が永年勤続議員としてこの壇上で表彰をせられたこの事実を前にしても、選挙の公正、明朗化に対して、お互いが努力をしなければならぬことは言うをまたないわけでございます。政府も熱意をもってこれが施策を進めてまいりたいと考えるのでございます。

 最後に、恩赦の問題等もございましたが、恩赦は、中央更生保護審査会の申し出に基づいて内閣が決定するものでございまして、今回の恩赦は、総選挙を目当てに行なったものでないことは当然でございますし、全く事務的に行なわれたものであるということを御理解いただきたい。 自民党の総裁選挙の公明化ということでございますが、私は、自民党の総裁選挙は公正に行なわれておると考えております。しかも、世界のどの国の歴史を見ても、政党の代表者が公選で争われるという制度がこんなに短い時間に定着をしたという歴史は、世界のどの国にもないのであります。(拍手)その意味では、自由民主党が公選において党首を選んでおるという事実も御理解をいただきたいのであります。しかし、自由民主党の総裁選挙が、一部にもうわさされるような事実があってはならないことは言うをまちません。その意味において、公正明朗化のためには、党則上の問題その他総裁選挙の運営に対して、十分ほめられるような制度をつくってまいりたい、こう考えておるのでございます。以上。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第71回国会衆議院本会議第6号(1973/02/14、33期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 第一は、今回の通貨不安が発生した経緯と理由に対して述べよということでございます。本年に入ってから、イタリアの二重市場制導入、スイスの変動相場制移行に端を発した欧州の通貨不安は、二月一日以降、西ドイツへの大量のドル流入となり、重大な局面に発展をしたのでございます。このことにつきましては、一部の欧州通貨の強い、弱いの問題があっただけではなく、一昨年十二月のスミソニアン協定以降も、米国の国際収支が改善しなかったことが密接に関係しておることは否定できないのでございます。
 この間にありまして、米国は、その国際収支改善として、ドルの信認を回復することが国際通貨情勢の安定のための基本的要件であるという認識に立ちまして、まず米国自身が一〇%のドル切り下げを決定し、これに対応して、各国がそれぞれ自国の置かれておる国際環境のもとで適切と考える措置をとることになったのでございます。わが国としましては、欧州主要諸国とともに、今回のドルの切り下げを歓迎するとともに、円の為替相場は当分の間フロートさせることにしたのでございます。

 第二は、IMF等、国際的な話し合いによって解決できなかったのかということでございますが、今回の措置も、関係国間の協議によって事態の収拾がはかられたものでございます。また、今回の通貨危機を通じまして、各国とも、長期的な国際通貨制度改革の緊要性をあらためて認識し、今後、IMF二十カ国委員会による通貨改革問題の討議の進展をむしろ早めることになるのではないかと考えておるのでございます。

 次は、国際収支の不均衡是正の問題でございますが、政府は一貫して国際収支の均衡を目ざして努力をしてまいりました。昨年十月には第三次円対策を決定し、関税の一律二〇%の引き下げ、輸入ワクの拡大、貿管令による輸出の適正化、大型補正予算による内需の拡大などを行なってまいったことは、御承知のとおりでございます。また、現在審議をお願いしております四十八年度予算及び財政投融資も、国民福祉の向上に重点を置きますとともに、国際収支の均衡回復を重要な柱として編成をしたものでございます。

 次は、産業構造を転換せよという問題でございますが、戦後のわが国経済政策の基本が輸出及び設備投資主導型であったことは、御指摘のとおりだと思います。これからは、経済社会基本計画で明らかにせられておりますように、生活優先、福祉優先の経済政策へ転換をはかるとともに、産業構造の高度化、知識集約化を推進して、国際分業を進めてまいりたいと考えております。(拍手)

 なお、為替レートの調整をもっと柔軟に考えよという趣旨の御発言に対して申し上げます。為替レートの安定が望ましいことは、申すまでもないことでございます。国際経済社会の中にあって、為替レートの変更は必ず他国に影響を及ぼすことになり、特に先進国間にあっては、国際協調の観点からも為替調整は慎重に取り扱わるべきものだと考えます。今回の措置は、米ドルの切り下げに対応し、関係国間の話し合いによって事態の収拾をはかろうとするものであり、わが国といたしましても適切にこれに対応してまいりたいと考えておるのでございます。

 フロート後の通貨情勢の見通し等に対して申し上げます。わが国が、切り下げられたドルに対する為替相場を直ちに決定しなかったのは、ここしばらくの間、今回のドル切り下げの効果と国際通貨情勢の推移を慎重に見守った上で、適正な水準を見出すことが適当であると判断をしたからであります。今後、為替市場の動向を見きわめた上で、適当な時期に固定相場制に復帰したいと考えております。輸入価格の引き下げ効果等に対してでございますが、政府としましては、今回の措置による輸入品価格の低下が消費者物価によりよく反映いたしますよう、輸入代理店対策、輸入の自由化、関税の引き下げ、輸入品にかかる流通機構の改善などの各種施策を、強力に展開をいたしてまいりたいと考えます。

 輸出関連産業、特に中小企業等に対する問題について申し上げます。政府といたしましては、今回の措置に伴い、輸出関連中小企業が受ける影響の実態を十分把握をいたします。その上、金融、税制、信用補完、為替取引の安定などの面で、適時適切なる対策を講じてまいります。赤字国の責任はどうだという問題でございますが、赤字国である米国が、国際収支改善のため、ドルの切り下げを行なったことは評価すべきであります。わが国が、今後の交渉において、主張すべき点は主張することは当然でございます。

 最後に、政府の経済見通しなどの改定は適当でないような御発言をもとにして、四十八年度予算に対してお触れになりましたが、御指摘のとおり、変動相場制下でのレートの水準、変動相場制の期間等、流動的な要因が多いので、現段階で、年度を通じた、経済全体に及ぼす影響や、税収を中心とした歳入の見積もり等に及ぼす影響を把握することは困難であります。したがいまして、このような段階で歳入見積もり等を改定するのは適当でないと考えております。また、変動相場制移行に伴う国内経済面への影響等を回避するためにも、現在御審議を願っております四十八年度予算は早期成立をはかり、予算の空白を生ずるような事態はぜひとも避けなければならないと考えております。以上であります。(拍手)
 第一は、数次の円対策は失敗であるということでございますが、政府は一貫して、国際収支の均衡を目ざして努力をしてまいったわけでございます。昨年十月には第三次円対策を決定し、関税の一律二〇%の引き下げ、輸入ワクの拡大、貿管令による輸出の適正化、大型補正予算による内需の拡大などを行なってまいったことは御承知のとおりでございます。

 また、現在審議をお願いしております四十八年度予算案及び財政投融資も、国民福祉の向上に重点を置きますとともに、国際収支の均衡を重要な柱として編成したものでございます。この予算案が出ましたときに、代表質問の中で、これは社会福祉を中心としたというけれども、国際収支対策予算ではないかという御質問をいただいたことによっても明らかなとおりでございます。(拍手)

 それから、今回の問題は、日本の経済力が低下をして円の切り下げが行なわれたのではなく、各種の処置をいたしてまいりましたが、しかし、日本の国際収支面はだんだんとよくなりつつございますけれども、輸出は依然として伸びております。輸入は増大し、均衡の方向に向かっておることは御承知いただけると思うのでございます。今回は日本が切り出した話ではなく、アメリカ自身が一〇%のドル切り下げを決定し、これに対応して、各国がそれぞれ自国の置かれておる国際環境のもとで適切と考える措置をとることになったのでございます。わが国といたしましては、本日から当分の間、円をフロートさせることにいたしたのでございます。
 今後とも国際収支を妥当な規模におさめる努力を続けてまいりたいと考えておるのでございます。第二は、いまこそ福祉優先の経済構造に転換すべきであるという御所論でございますが、政府は、経済社会基本計画におきましても明らかにいたしておりますように、輸出優先の経済構造から国民福祉指向型の経済構造へ転換をはかることが基本的に必要であると考えておるのでございます。このため、経済成長の成果がより一そう社会のすべての階層に行き渡り、国民がひとしくゆとりと潤いのある生活ができますように、社会保障の充実、生活関連社会資本の整備、豊かな自然環境の確保などにつとめてまいります。

 予算の再編成、経済見通しの修正などについて御発言がございましたが、円の変動相場制に移行後、流動的な要因が多く、現段階で、年度を通じた経済全体に及ぼす影響、したがって税収を中心とした歳入の見積もりなどに及ぼす影響を把握することは困難でございます。

 また、変動相場制への移行によりまして影響をこうむる輸出関連中小企業等に対しましては、緊急対策を必要とする場合には、予備費の使用等によって対処することが可能であると考えておりますが、なお、先ほど大蔵大臣が述べましたように、諸般の措置を講じてまいりたいと考えるのでございます。今回の措置が国内経済面に及ぼす影響を回避するためにも、現在御審議をいただいております四十八年度予算につきましてはその早期成立をはかり、予算の空白が生じるような事態はぜひとも避けなければならないと考えておるのでございます。(拍手)せっかくの御協力を切にお願いをいたします。

 なお、賃上げ抑制の問題等について御発言がございましたが、賃金問題につきましては、労使それぞれの立場から主張がなされております。基本的には労使の自主的な話し合いによってきめらるべきものでございます。政府としましては、労使が国民経済的な視野に立って合理的な解決をはかることを強く期待をいたしておるのでございます、

 なお、変動相場制等に対して相当の責任ということでございましたが、これらの問題については、予算委員会でも申し述べておりますように、日本は諸般の努力を続けてきたことは御承知いただけると思うのでございます。今度は、アメリカが依然としてドル不安から抜け出すことができないので、そして日本を含めた各国に対して一〇%の切り下げを提案をし、マルクはこれを受けたわけでございますし、そのほかのフランやポンドや円は変動相場制に移行したわけでございます。これは切り下げが行なわれる場合と、先般のオーストラリアのように切り上げが行なわれる場合もございます、こういう問題でございまして、日本が国際通貨の問題に取り組むとともに国際収支改善対策に努力を続けなければならぬことは、これは当然のことでございます、これからもなお懸命な努力を続けてまいりたいと思います。(拍手)
 第一は、アメリカのボルカー次官と会って何を相談したかということでございますが、アメリカのボルカー次官とは愛知大蔵大臣が会ったわけでございまして、私は会っておりません。これは、国際通貨全体の問題について話し合いをしたということで、具体的な問題については私は聞いておりませんので、愛知大蔵大臣からお答えをいたします。

 それから、固定相場制にはいつ戻るかというようなお話がございましたが、今後、為替市場の動向も見きわめた上で、適当な時期に固定相場制に復帰したいという考えでございまして、これも具体的な問題は大蔵大臣から答弁をいたします。

 それから、政府の円対策と責任問題についてお話がございましたが、政府は一貫して国際収支の均衡を目ざして努力をしてまいりました。昨年十月には御承知の第三次円対策、関税の一律二〇%引き下げ、輸入ワクの拡大、貿管令による輸出の適正化、大型補正予算と、御承知のとおりの措置をしてまいったわけでございます。また、現在審議をお願いいたしております四十八年度予算及び財政投融資も、国民福祉の向上に重点を置くとともに、国際収支の均衡回復を重要な柱として編成をしたものでございまして、これも国際収支対策の重要な施策の一つでございます。

 それから、今回の措置は、国際通貨制度の危機を打開するため、関係国間の協議を通じてドルの切り下げを中心に対応策が講ぜられたものでございます。わが国といたしましても、今後とも国際収支を妥当な規模におさめる努力を続けてまいりたい、こう考えるわけでございます。

 それから、アメリカに対して、ドル価値の維持に対して言うことを言っておるかということでございますが、これは一昨年の日米経済閣僚会議の場も、またサンクレメンテの場においても、強く要請をしておるわけでございます。それはアメリカのドルが基軸通貨としての責任を果たせないというようなことだけではなく、ドルが弱くなることは日本自体も影響を受けるのでございます。御承知のとおり、年間百四、五十億ドルも輸出入が日米間にあるわけでございます。今年度は日本からアメリカへの輸出が、アメリカからの輸入に対して四十億ドル以上も出超であるということを考えると、少なくともドルが安定をしてもらわなければならないということは、私が申し上げるまでもないのでございます。その意味でドル価値の維持のためには、アメリカも商売をうまくやってもらうこととか、売り込みに熱心になってもらうとか、それから海外に対する投資を抑制するとか、いろいろなドル価値の維持のために具体的政策をとられたいということを、私からも強く要請をいたしておるのでございます。金とドルとの交換が一日も早くできるように、基軸通貨としてのドルの価値維持ができるようにということを間々要請をしておるのでございまして、今回、しかるにもかかわらず、一〇%のドルの切り下げをしなければならないというような状態であったことは、はなはだ遺憾でございますが、これは事実問題として受けとめ、対処してまいりたい、こう考えるわけでございます。なお、いろいろな問題ございましたが、その他の問題については、関係大臣からお答えをいたします。(拍手)
 政府の円対策は失敗であるということでございますが、先ほどから申し上げておりますとおり、国際収支の均衡を目ざして努力を続けてまいったわけでございます。昨年の十月には第三次円対策をやったり、またずっと引き続いての対策を行ないながらまいったわけでございますし、現在御審議をお願いしております四十八年度予算案及び財政投融資も、国民福祉の向上に重点を置くとともに、国際収支の均衡回復を重要な柱として編成をしたものであることは御承知のとおりでございます。それから、今回の措置は、国際通貨制度の危機を打開するため、関係国間の協議を通じてドルの切り下げを中心に対策が講じられたものでございます。わが国といたしましても、今後とも国際収支を妥当な規模におさめる努力を続けてまいりたい、こう考えるわけでございます。

 赤字国の責任という問題、円に責任を転嫁しようとするアメリカに対する態度等についての御発言にお答えをいたします。赤字国でありますアメリカが、国際収支改善のためドルの切り下げを行なったことは評価すべきでございます。わが国が、今後の交渉において、アメリカに対して主張すべき点は主張することは当然でございます。それから、経済見通しと予算案等については、先ほども申し上げたとおりでございますが、いずれにしましても、予算案は一日も早く執行できるような体制にしてもらうこと自体が一つの対策でもございますので、格段の御配慮をお願いしたいと思うわけでございます。

 福祉路線の問題については、政府は、経済社会基本計画におきましても明らかにいたしておりますとおり、輸出優先の経済構造から国民福祉指向型の経済構造へ転換をはかります、こう申し上げておるのでございまして、このとおりだと思うわけでございます。なお、経済成長の成果が一そう社会のすべての階層に行き渡り、国民がひとしくゆとりと潤いのある生活ができるよう、社会保障の充実、生活関連社会資本の整備等を行ない、豊かな自然環境の確保などにつとめてまいりたい、こう考えるわけでございます。
 中小企業対策については、先ほど通産大臣から申し述べましたが、今回の処置に伴い、輸出関連中小企業が受ける影響の実態を十分把握した上、金融、為替取引安定などの面で、適時適切なる対策を講じてまいりたいと考えるのでございます。

 それから、輸入価格の引き下げを消費者価格へ反映させよという御説でございますが、政府としては、今回の措置による輸入品価格の低下が消費者価格によりよく反映するよう、輸入代理店対策、輸入の自由化、関税の引き下げ、輸入品にかかる流通機構の改善などの各種施策を強力に展開をしてまいりたいと考えております。

 最後に一言申し上げたいのは、国際収支対策をかかる強力にやってきたにもかかわらず、その効力を発せず、ドルの切り下げが行なわれたではないかということでございますが、これは、輸出振興ということは、比較的いろいろな施策があるにしても、経済力が強くなって、国際競争力が強くなって、輸出がなかなか減らないということに対しては、これは輸出を振興するよりもむずかしい面がございます。

 もう一つは、どうしても輸出を内需に振り向けなければならないわけでございまして、そのためには財政主導型の大きな投資が必要でございます。そのために四十七年度の予算の補正として六千五百億の審議をお願いしたときも、国際収支の面ではわかるけれども、こんな大きな予算はインフレ予算じゃないか、今度の予算も、提出をしたときにはそういうふうに見られるわけでございます。

 ですから、そういう意味で、輸出力が強くなっておる現段階において、日本だけの力でもってすべての国際均衡を保つということは、たいへん無理な面があるわけであります。ですから、そういう意味で、アメリカ自体としても、赤字国の責任を痛感して、ドル価値が維持するように諸般の政策の実施を求めたわけでございますが、どうしても――アメリカとしてはいろんなことをやったのです。第一回のドルの切り下げを行なったわけです。円平価の切り上げも行なってわずか一年半しかたたないときに、ドルみずからが一〇%の切り下げをしなければならないような状態になったということでありまして、その面からいうと、たいへんに遺憾なことだといわざるを得ません。しかし、国際均衡を保つ国際通貨制度の中で、協調して、アメリカがみずからの責任を痛感し、みずからの責任によってドルを切り下げたということは、評価をしなければならぬわけでございます。
 こういうめんどうな問題ではございますが、しかしまあ、円価値が切り下げられるような状態よりも、切り上げられる措置のほうが望ましいことは言うまでもありません。(拍手、発言する者多し)

 しかしそれは、切り上げられた場合において中小企業等に大きな影響がありますので、その影響がないように努力をしなければならぬことは言うをまちません。これはひとつ十分考えて配慮してまいります。昭和初年に一ドル対二円であったものが、二円五十銭対一ドルになり、三円対一ドルになり、最後には三百六十円対一ドルになったわけでございますが、ここで何十年ぶりかで円価値が上がっておるというのでございまして、そういうところはやはり評価をせざるを得ないのであります。(拍手) しかも、その円の切り上げによって影響を受ける面に対して万全な配慮をしなければならぬのが、政策遂行の責任だと考えておるわけでございます。(拍手)
 円平価の再調整を迫られるような事態が起こるまでに対しての実効があがらなかったではないかということでございますが、先ほどから間々御答弁を申し上げておりますとおり、政府は、一貫して国際収支の均衡を目ざして努力をしてまいったわけでございます。第一回目の通貨調整というのが多国間で行なわれたわけでございまして、異例な措置として行なわれたわけでございます。また、その後、御承知のとおりの国際収支対策をたくさんやってきたわけであります。臨時国会を開いてさえ、法案や予算の御審議を願ったこともございます。そういうようなことをしながら、日本がなさなければならない国際収支均衡対策に対しては全力を傾けたわけでございますが、いつも御指摘を受けるとおり、黒字国の責任だけでもってこのようなものは解消できないのだ、だから、ドルの価値維持ということに対して赤字国であるアメリカも努力をしなければならないということでございまして、私が先ほど御答弁申し上げたように、アメリカに対しても、ドルの交換性を回復するようにしてもらいたい。それは日本だけでもってできるものではないので、アメリカみずからがドルの価値維持のための諸施策を進められることと相まって日米間の不均衡は解消したい。そのためには、ハワイ会談におきましては、日本の基礎収支の均衡、少なくともGNPの一%以内に経常収支の黒字幅を押えるには三年間ぐらいかかりますよ、こう言っておったわけでございます。

 ところが、その後のいろいろな施策において、輸入は拡大をいたしました。一−三月は輸入期であるとはいいながら、史上最高の輸入というふうにもなっております。しかし、国内の景気が非常に上向きになってきて、いま御審議いただいております経済見通しでは、一〇・七%ということで出しておりますが、しかし、御審議の過程において、どうもいまの状態からいうともっと景気は上向くのじゃないか、そうすると五・五%と政府が考えておる物価も、もっと上がるのじゃないかという御質問を受けておるわけであります。ですから、一〇・七%に成長率を押え、五・五%に押えるためには、四十八年度、御審議をいただいておる予算の中で思い切った政策的な措置が必要でございます、そして、五・五%にし、一〇・七%に押えたいと思っております、こう述べておるわけでございます。

 そういう状態において、輸出が急激に内需へ転換もなかなかできないということでございます。しかも、現在のような高い成長率であっても輸出はふえるのでございますから、そうすれば、貿管令の適用とか、輸出税とか、いろいろなことを考えざるを得ないのであります。そういう意味で、前の前の国会には、国際経済調整に関する法律の御審議をお願いしたわけでありますが、しかし、国内の情勢を見れば、簡単にあの法律が成立ができなかった事情もございます。ですから、先ほども申し上げたように、輸出を伸ばすことは、税制上とかいろいろな問題でもって的確な効果をあげることはできますが、しかし、日米間の三十億ドル、四十億ドルという日本の出超を一ぺんに直すということはなかなかできないのであります。そういう事情は、日本の産業の力が大きくなり過ぎた、国際競争力がつき過ぎたという見方もありますし、同時に、アメリカや外国の状態が悪くなり過ぎておるということもあるわけであります。そういう両面からの問題がありましてついに今日のような状態に至ったわけでございまして、政府は、私は、これからも長期的に国際収支均衡に対して努力を続けてまいらなければならぬと思います。また、政府はやってまいります。やってまいりますが、今度の問題は日本の問題だけではなく、ドル対マルク、ドル対フラン、ドル対リラ、ドル対英国のポンド、そしてその影響を日本も避けることはできない、ドル対円と、こういう問題になり、主要国間の話し合いでアメリカが自発的に一〇%切り下げる、一〇%切り下げることは、現行レートを維持しておっても、こちらは自動的に一〇%価値が上がったということになるわけでございますが、やはりこれからの平価調整というものは、多国間でやるか二国間でやるかという問題はございますが、これからも日本だけではなく、相手の立場によって変動が起こるということは、これは理解をしていただきたい。

 羊毛を輸入しなければならないオーストラリアは、日本に黙って、ぽんと平価を上げておるのであります。そういう問題もございますし、今度は日米だけではきめられません。日本とドルだけではなく、日本とポンドの問題、日本とリラの問題、日本とマルクの問題が出てくるわけでございますから、変動相場制に移行をしながら事態の推移を見なければならない。国益を守るためにはそういう方法しかないのでございますから、そういう意味ではひとつ御理解をいただきたい。その意味では四十八年度の予算案も、国際収支対策ではないかとこの席上から御指摘を受けたぐらいに、三つの目標を持っておりまして、その一つには国際収支対策でございますとお答えをしておるわけでございますから、その意味ではぜひ御審議を賜わりたい、こう思います。(拍手)

 それから、中小企業対策につきましては関係大臣からお答えをしますが、私からも基本的な問題はお答えをしなければならないので答えます。今回の処置に伴い、輸出関連中小企業が受ける影響の実態を十分把握をいたしまして、適用する諸施策に万全を期します。これはいまある法律を延長していただかなければならないような、もう、前の国会でもってつくってもらっておる中小企業対策の法律もございます。こういうものを延長していただくとか、それから財政金融の状態で予備費を使用するとか、財投を弾力的に運用をするとか、いろいろな問題があります。こういう問題に対しては完ぺきな、万全の体制をとってまいりたい。これは一ぺんもうやっておりますから、手のうちは大体承知しておるわけでございますから、そういう意味では万全の対策をとってまいりたい、こう思います。

 それから輸入物価の引き下げ対策、これは、私が先ほどから申し上げておりますように、円平価が切り下げられるのではないんです。昭和の初年は切り下げられてきたわけです。一ドル対二円、一ドル対二円五十銭、一ドル対三円のときには戦争を始めなければならぬというくらい下がってきたわけでございますが、今度は三百六十円をピークにして、いよいよ何十年ぶりかでもって日本の円とドルとの価格は、円が強くなる。強くなるわけでありますから、輸入品は安く入るわけであります。そういう意味で、輸入品の価格の低下が消費者物価によりよく還元しますように、輸入代理店対策、輸入の自由化、関税の引き下げ、輸入品にかかる流通機構の改善などの各種施策を強力に転換をし、少なくとも物価対策に寄与できるようにしなければいいところはない、こういうふうになるわけでございますから、その意味では十分な配慮をしてまいりたいと思います。(拍手)

 それから最後の、国際通貨制度の安定化についてどうするかという問題でありますが、具体的な問題は大蔵大臣からお答えをいたします。しかし、やがて今後の国際通貨問題について、当面の混乱が収拾されたことにより、長期的な通貨改革への努力が推進されなければならないということは当然でございます。いまIMFの二十カ国委員会等がありますから、これを中心として行なわなければならないということでございます。しかし、これは三十九年の東京総会を中心にして国際流動性の問題が起こり、SDRが解決をし、そして今日の段階まで十余年の歳月を経てきておるわけであります。それで、基軸通貨であるドルが金との交換性を失ったというところにまず大きな問題があります。ですから、先ほども御指摘ありましたように、金・ドルの交換性の回復ということは、アメリカのためだけではなく、日本のためでもあり、拡大均衡を保っていく新ラウンドを推進するためにはどうしても必要であります。それができなければ新通貨を考えなければならないという議論が出ておるわけでございまして、私たちは、対米貿易がこれほど大きくなっておるということを考えますと、ドル価値が維持されて、かつての基軸通貨としてのドルの面目を維持してもらうようになってもらいたい、そして金との交換性を回復してもらいたい、そのためには日本も努力をし協力をすると同時に、アメリカ自身の強力な施策も求めていく考えでございます。(拍手)

 田中角栄の国会発言を確認する。「第71回国会衆議院本会議第9号(1973/02/22、33期)に於ける田中角榮発言」は次の通り。
 まず第一に、一兆円程度の減税をすべきではないかという問題に対してお答えをします。四十八年度におきましては、国税、地方税を通じまして、初年度四千六百億円、平年度五千二百億円の大幅減税を行なっておるわけでございます。特に中小所得者の負担軽減をはかるために、課税最低限の引き上げと、給与所得者に重点を置いて給与所得控除の拡充を行なうなど、初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円に及ぶ所得税減税を行なっておるわけでございます。このような減税の結果、夫婦子二人の給与所得者の場合、課税最低限は、現行百三万七千八百六十円から百十四万九千六十円となりまして、アメリカを除く、英国、西ドイツ、フランスの例を上回っておるのでございます。

 第二は、法人税の実効税率を引き上げるべしという御発言でございますが、法人税の負担を高める道は、税率の引き上げだけではなく、課税所得の拡大もその一つの方法でございます。四十八年度の改正におきましては、産業関連の租税特別措置の改廃等によりまして平年度四百億円の増税措置を講じたわけでございます。また、固定資産税につきましても、その負担を高める措置が講じられておりまして、この面からも法人の税負担は加重されることになるわけでございます。なお、法人税につきましては、十分勉強してまいりたいと存じます。

 第三点は、土地税制についてでございます。保有税を課する場合、土地供給を促進するため、一定地域を限って未利用地に対して高率の課税を行なう方法が考えられます。しかし、このような地域の限定や未利用地の判定が困難な事情もあり、今回実施しようとしております特別土地保有税は、課税地域を限定せず、利用度のいかんにかかわらず、一律的に課税する方法をとることといたしたわけでございます。このように広く一般的に課税するものである以上、税率をあまり高くすることは適当でない、こう考えております。

 なお、譲渡税につきまして、適用除外が多過ぎる、特に民間デベロッパーを除外しているのは不当であるということでございますが、今回の土地税制の主たるねらいは、土地投機の抑制に置かれており、同時に、土地供給が阻害されるという副作用をできるだけ緩和することに配慮をいたしておるわけでございます。投機の抑制ということと、同時に、供給が阻害されないようにという二つの目的を達成しようといたしておるわけでございます。一定の要件に該当する優良宅地の供給について適用除外としておりますのは、これにまで重課措置をやりますと、サラリーマン住宅の価格に転嫁されるおそれがございますので、これを防ぐためのものでございます。
 それから、適正利潤率はという問題に御発言がございましたが、これは、取得原価、造成費等をもとにいたしまして、一般の企業活動から通常得られる程度の利潤ということを考えておるわけでございます。

 それから、実施までの間、経過期間を設けたのはどういうことかということでございますが、課税開始までに一年の猶予期間を設けることにいたしております。それは、今回の譲渡税が、今後取得する土地の譲渡だけではなく、昭和四十四年一月一日にさかのぼっておるわけでございます。その意味で、一年間猶予期間を置きましたのは、これを直ちに徴収をするということによって供給がとまるということであってはなりませんので、猶予期間中に土地を放出する、供給促進の効果を期待をいたしたわけでございます。以上。(拍手)
 予算案における税収の見積もり等について、申し上げます。変動相場制下のレートの水準、変動相場制の期間等、流動的な要因が多いので、現段階で年度を通じた経済全体に及ぼす影響や、税収を中心とした歳入の見積もり等に及ぼす影響を把握することは困難であり、したがって、このような段階で経済見通しや歳入見積もりを改定するのは適当でないと考えておるのでございます。また、変動相場制移行に伴う国内経済面への影響を回避するためにも、四十八年度予算の早期成立をはかり、予算の空白を生じることのないよう、ぜひとも避けなければならないと考えておるのでございます。

 大衆減税、事業主報酬制度等の問題について御発言がございましたが、四十八年度におきましては、特に中小所得者の負担軽減をはかるため、課税最低限の引き上げと、特に給与所得者に重点を置いた給与所得控除の拡充をはかったことは、先ほども申し上げたとおりでございます。初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円に及ぶ所得税減税を行なうことにいたしたわけでございます。このような結果、先ほども申し上げましたように、アメリカを除き、英国、西ドイツ、フランスよりも、夫婦子二人標準世帯の課税最低限は上がったわけでございます。

 なお、事業主報酬制度につきましては、その実態が同族法人に類似をしている個人企業につきまして、法人と類似をした課税方式による道を開き、事業主に報酬の支払いを認めるものでございます。この制度により店と奥との経理区分を明確にし、企業経営の近代化、合理化を推進するという政策目的から、特別措置として創設したものでございまして、その意味からも青色申告に限ることとしたことは、先ほど大蔵大臣から述べたとおりでございます。

 それから、不動産譲渡所得等に対する問題についてお答えをいたします。土地譲渡税の税率は、通常の法人税や地方税の上に、さらに二〇%賦課するものでありますので、これは相当な重課であると考えておるのでございます。固定資産税について累進税率を導入することについては、個々の財産に対し課税する固定資産税の性格から見て、適当でないと考えられるわけでございます。しかし、法人の投機的な土地取得に対しましては、その抑制をはかる必要があると考えられますので、今回、一定面積以上の土地の取得及び保有に対して、新たに特別土地保有税を課税することといたしておるわけでございます。それから、中小企業に対する法人税率を五%くらい引き下げ、大企業に対しては高度累進課税率を適用せよというようなことでございます。現在、資本金一億円以下の法人に対する税率は、年三百万円までの所得については二八%となっております。資本金一億円超の法人に対する税率は三六・七五%でございますから、これを比較してみますと、相当大幅に中小企業は軽減をされておることでございます。また、累進課税は、所得や財産が最終的に帰属する自然人に課税を行なう所得税や相続税などにおいて端的に適用できる性格のものでございまして、法人税には本質的になじまないものと考えておるのでございます。租税特別措置につきましては、先ほどから申し上げておりますように、合理化をはかっておるわけでございまして、四十八年度にも改正をいたしておりまして、平年度四百億円近い増税をはかっておるわけでございます。最後に、大企業の為替差益に対して分離課税等が考えられないかという御説でございますが、為替相場の変動によって生ずる利益としては、外貨建て債務の換算差益、輸入価格の低下による利益など、種々の形態があるわけでございます。これらの利益は、経済的には最終消費者まで還元をはかっていくことが適当であると考えます。為替差益について高率の分離課税を行なうことは適当でないと考えております。(拍手)
 課税最低限を百五十万円にできないか、累進税率の緩和をはかるべきだと思うがというような御発言に対しては、先ほどからもお答えをいたしておりますように、政府は引き続いて中小所得者の負担軽減をはかってまいったわけでございます。四十八年度におきましても、間々申し上げておりますとおり、初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円に及ぶ所得税の減税を行なっておるわけでございます。しかも、この結果、標準世帯、夫婦子二人の給与所得者の場合の課税最低限は、アメリカを除く、英国とか西ドイツとかフランスの例を上回るところまで上がっておることも事実でございます。

 法人税につきましては、法人の税負担を高める道は税率の引き上げだけではなく、先ほども申し上げましたように、課税所得の拡大もその一つの方法であると考えておるのでございます。四十八年度の改正におきましては、産業関連の租税特別措置の改廃によりまして、平年度四百億円に及ぶ増税措置を講じておるわけでございます。また、固定資産税につきましても、その負担を高める措置が講じられておりまして、この面からも法人の税負担は加重されることになっておるわけでございます。

 土地税制について申し上げますが、今回の土地税制は、法人の土地譲渡益重課措置と特別土地保有税の組み合わせによって、法人による投機的土地取得を相当程度抑制することを期待しておるものでございます。ただ、地価対策は、もとより税制のみで解決し得るものではないのでございまして、土地の利用規制その他各般の土地対策を総合的に実施をすることによりまして、地価対策の実効を期してまいらなければならないわけでございます。

 また、経済社会基本計画による三%の税負担の増というものについての御発言でございますが、国民福祉の充実をはかるためには、その裏づけとなる財源を確保する必要があることは申すまでもないのでございます。このため、経済社会基本計画には、国民所得に対する税及び税外負担の比率が計画期間中おおむね三%程度高まらざるを得ないと指摘をしておるのは御承知のとおりでございます。具体的な負担のあり方につきましては、今後税制調査会にはかり、勉強してまいりますが、どちらかといえば間接税にウエートを置いて考えるべきではないかと考えるのでございますが、それは現時点における考えでございまして、慎重に対処してまいりたいと考えます。

 また、一月下旬の記者会見で、間接税の見直しということは何を具体的にさしておるのかということでございますが、それは福祉社会を建設するため必要な財源の調達ということで、間接税が税体系において適切な地位を維持するように検討を重ねていってはどうかということと、もう一つは、御承知のシャウプ税制以来、日本の税体系は直接税中心主義でございます。財源を確保するには都合のいい税制ではございますが、しかし、間接税とのバランスに対しては、各国の例にも見るとおり、まだ十分検討を必要とする状態にあることは事実だと思います。記者会見での発言は、付加価値税のような一般消費税の問題をさして述べたのではなく、間接税のあり方、直接税と間接税とのバランスをどうしなければならない、より合理的な税制のあり方を申したものでございます。なお、残余の問題に対しては、関係閣僚からお答えをいたします。(拍手)





(私論.私見)