放送法の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。現行放送法が制定されましたのは昭和二十五年五月であります。当時の放送界は日本放送協会の独占の状態でありまして、いわゆる民間放送なるものは一局も存在しなかったのであります。ただ、漸次民間放送局の出現の機運は予見できる情勢でありましたので、放送法は、かかる事態に備えて、民間放送局に対する二、三カ条の条文を設けるほかは、すべて日本放送協会を規律する条文のみより成り立っているのでありまして、いわばこの放送法は日本放送協会法であると申しましても過言ではないのであります。加うるに、当時としては、協会におきましてもラジオ部門のみで、まだテレビジョン放送は皆無でありました。
その後今日に至る八年間における放送関係の科学及び技術の発達並びに電波の利用の増大はきわめて著しいものがございます。なかんずく、新しい事業形態としての民間放送の出現、新しい放送形式としてのテレビジョン放送の出現及び放送局数及び受信者数の顕著な増高により、放送界の事情は一変してしまったのであります。すなわち、放送法制定当時皆無でありました民間放送局は、今日では、ラジオ放送については四十社、九十局、テレビジョン放送については、予備免許中のものを含めて、四十三社、四十五局が出現しております。一方、日本放送協会の放送局も、ラジオ放送については当時約百局であったものが今日では二百局に、テレビジョン放送については三十局近くに増加しております。受信契約者の数も、ラジオ放送については、当時約九百万であったものが、今日では一千五百万になんなんとしている状況であり、テレビジョン放送については、昭和二十八年発足の当初三千未満であったものが昨年末では七十五万に達し、今後三年間には四百万になると予想せられるのであります。
かくのごとく、放送界の現状は、現行法制定当時には夢想だになし得なかった状態に成育しているのでありまして、現行放送法をもってしては、とうていこれを規律し得ないのであります。さらに、その放送内容につきましては、社会、経済、外交等国民の生活全般に及んで格段の進歩向上を見、国民のこれに対する関心も非常に増大を来たし、国民教育、国民教養、健全娯楽の各方面について、放送内容の向上、充実を要望する世論は異常に高まりつつあるのであります、特にこの傾向はテレビジョンの発達に伴いまして強烈なものがあります。しかも、今後さらに新しい放送としてFM放送やカラー・テレビジョンが登場し、UHF帯の電波が放送事業に利用されるようになるのも決して遠い将来ではないという情勢になって参っております。
以上述べましたような事情からいたしまして、放送法についても全面的に考え直さなければならない時期が参っているものと認められます。
翻って、現行放送法は、冒頭に申し上げましたように、昭和二十五年に制定された後は、昭和二十七年に議員立法によりテレビジョンの受信料徴収のための改正が行われたほか、何ら改正が行われておらず、昭和二十八年、第十六回国会においても、政府は放送法の一部改正案を提案いたしましたが、審議未了と相なっております。そのとき以来、現行放送法は、進歩発達する放送界の実情に即し得ない点があるとの理由で、国会初め各方面からその改正が問題とされるに至ったのであります。ここにおきまして、政府といたしましても、放送法の改正について、日本放送協会、民間放送連盟などの意見も徴し、臨時放送法審議会に諮問するなど、鋭意努力を傾注して参ったのであります。
私も、このような進歩発達した放送界の現状及び国民の放送に求める要望を勘案いたしまして、昨年十月下旬、日本放送協会並びに民間放送三十六局に予備免許をいたします際、現行法の許容する最大限度において最善の努力をいたしたのでありますが、現行法の予想をはるかに越えた現実の放送界の状況に即応いたしますためには、あまりにも実情に即しない現行法をもってしては、いかにも不十分であると痛感いたし、早急に放送法を改正すべきことを決意し、放送法審議会の答申その他各方面の意見をも十分に検討いたしました結果、次のごとき方針により放送法の一部を改正することにいたしたのでございます。その第一は、放送が国民生活に及ぼす影響力がきわめて重大となってきていることにかんがみ、放送番組の適正を確保するため必要な措置を講ずることであります。この場合、放送の言論機関たる特性を十分に考慮し、ごうも表現の自由を侵すものでないように配意をいたしております。
放送は、申すまでもなく、新聞、雑誌と同じく有力なマス・メディアの一つでありまして、積極的には、日々の国民生活上必須の知識を提供し、国民の資質の向上に資し、国民に健全な慰安娯楽を与え、もって国民生活を豊富にし、国民文化の前進に貢献することができる非常に有力な手段でありまして、条約上の制約を受け、技術的にも限りある貴重な電波の使用を許された特定人は、これを最もよく公共の福祉に適合するように使用する責務を有しているものと考えます。従って、一般放送及び教育放送に関して積極的意味における準則を設け、放送事業者の指標としてこれを明定することが、公共の福祉に適合するゆえんであろうと思われます。
他方、放送事業が、ほしいままに、あるいは不注意によって国民の享受すべき放送の恩恵を奪い、あるいは国民に不測の害毒を流すことがないように、何らかの措置が必要であると考えます。この意味で、そのような害毒を防除するための規定が必要であると認め、従来規定されています、放送は公安を害してはならないことと、公平、公正でなければならないという規定のほかに、善良な風俗を害してはならない旨の規定を設けることにしております。
さて、これらの準則を、いかにして表現の自由を侵すことなく実効あらしめるようにするかが最もむずかした問題でありまして、種々工夫いたしました結果、あとで申し上げます放送事業者の放送の準則及び番組審議機関を設けて、放送事業者の自律によって番組の適正をはかる措置を講ずることにいたしました。
方針の第二は、日本放送協会の責務の重大化、業務の増大に対処する必要な措置を講ずることでありまして、協会の公共的性格の明確化、業務範囲の拡張、経営機構の整備、財務能力の拡大について所要の規定を整備しようとするものであります。先にも申しましたように、今日では、放送法制定当時実在しなかった民間放送局群の出現によりまして、放送界は異常なにぎわいと活況を呈しておりますが、この間にあって、もっぱら公共の福祉を目的として設立された法人である協会の負うべき責務がますます重大となっており、協会それ自体の業務の範囲及び業務量が著しく増大している今日、右の措置はきわめて当然のことでございます。
この場合、協会が全国を放送区域とする言論機関である点にかんがみ、特に協会の自主性を尊重し、いやしくも言論機関に対する政府の圧力ということが案ぜられるごとき規定を避けております。会長の任免の手続、収支予算等に関する制度、協会の財務の調査等については、各方面の有力な意見があったにもかかわらず、現行に据え置いたのは、右のような配慮からでございます。
方針の第二は、民間放送の増加及び事業者の間の競争の激化による弊害の発生を防ぐために、事業運営の自主性、主体性を確保するための措置を講ずることであります。この場合、その自由な事業活動を阻害しないため、必要最小限の規定にとどめることにいたしております。
以上の方針にのっとり、改正案で規定しているおもなる事項は次の通りであります。第一は、番組の適正をはかるための措置に関する規定でありまして、これは大体において協会と一般放送事業者に共通なものでございます。国内放送の放送番組の編集及び放送に当っては、積極的に国民に必要なニュースを提供し、教育、教養に資し、健全な慰安娯楽を提供することによって、国民の生活を豊富にし、その向上に資するようにするとともに、その内容が、現行法の規定する通り、公安を害さず、公正なものであるばかりでなく、新たに善良な風俗を害してはならないこととし、これらの事項を法に明定しようとするものであります。特に教育番組については、これ自体が国民の資質の向上を目的とするものでありますので、明確にその準則を設けております。
これらの法で明定した放送番組の編集及び放送についての準則の実効を確保する方法といたしましては、方針にもはっきり出しております通り、放送が言論機関たる特性にかんがみ、行政権による規制を避けて、次のごとき自律的な方法を採用いたしております。すなわち、放送事業者に自主的な放送番組審議機関の設置を義務づけ、放送事業者はこの番組審議機関に諮問して、その番組編集の基準を作成し、及び、これを公表する義務を負わせ、その事業者は、その番組基準に従って放送番組の編集及び放送をしなければならないものとして、その順守を公衆の批判にまかせようとするものであります。また、その番組審議機関には、放送された番組の批判機関たる任務をも持たせ、彼此相合して番組の適正をはかろうとするものであります。
第二は、日本放送協会の責務の重大化並びに業務の範囲及び業務量の増大に対処するに必要な措置であります。右の措置の一として、協会の公共的性格を明確にし、その業務の範囲を拡張する措置に関する規定を設けました。現行放送法は、民間放送についてはきわめてわずかな条文しか規定しておりませんが、わが国の放送は、英国における公共放送一本建及び米国における民間放送一本建の長所を取り入れ、カナダや豪州と同じく、協会と民間放送の二本建をとっております。ただ、前にも述べましたように、現実に民間放送の発足前に制定されたものでありますために、協会が放送界全体において占める地位、特に一般放送事業との関係が必ずしも明らかでありませんので、今回の改正案におきましては、特にこの点を明らかにするため、次のように規定いたしました。すなわち、協会は、ラジオ及びテレビジョンを全国にあまねく普及しなければならない旨及び国際放送を行うものである旨を明定しています。また、現行法では、その業務は協会の放送に限ることに厳格に限定されておりますが、改正案は、この点を拡張して、一般放送事業の進歩発達にも寄与することができるようにいたしてお号ます。すなわち、協会の行うべき研究及び調査の実施に当っては、業務の遂行に支障がない限り、学識経験を有する者及び放送に関係を有する者の意見を尊重するとともに、研究の成果をできる限り一般の利用に供しなければならないこととし、また、放送番組及びその編集上必要な資料を一般放送事業者等の用に供し、委託を受けて放送及びその受信の進歩発達に寄与する調査研究、放送設備の設計その他の技術援助並びに放送に従事する者の養成を行うことができることといたしました。
措置の二として、協会の責務の重大化並びに業務範囲及び業務量の増大に対応して、経営機構の改善をはかるため所要の規定の改正を行いました。すなわち、経営機構については、意思決定機関と業務執行機関の責任と権限を明確にする措置として、経営委員会の任務は、協会の経営方針その他業務運営に関する重要事項を決定することとし、会長を経営委員会の構成員であることをやめて、もっぱら業務を執行する機関としております。また、経営委員会の機能をより高めるために、有為な人材を広く選任することができるように、全国を通じて選出される委員四名を加え、若干ではあるが、選出の条件を緩和し、かつ、委員は従来報酬を受けなかったのを改め、勤務日数に応じ相当の報酬を受けることができるようにしました。また、業務の範囲及び業務量の増大に伴い、理事及び監事を増員することにしております。会長等の役員の任免の方式については、先にも述べましたように、現行の通りといたしております。
措置の三として、財政能力の強化をはかるため、協会の業務の拡大による所要資金の増加に対応して、放送債券の発行限度額を引き上げるとともに、一般放送事業者が放送に対する対価を受けることを禁止することにより、その収入を確保する道を講じました。
なお、収支予算等に関する制度及び受信料に関する制度については、これを改正すべきであるという意見もかなりございますが、今回は現行のままとしましたが、収支予算等について、示度頭初までに国会の承認が得られなかった場合の暫定措置を講じております。
第三は、一般放送事業者の自主性、主体性を確保するため必要な措置であります。一般放送事業については、先に述べましたごとく、現行法ではきわめてわずかな規定があるのみでございます。一般放送事業に関する規定で最も重要なことは番組の適正をはかるための措置に関するものでございまして、これについては、すでに申し述べた通りでございます。番組の適正をはかるための措置以外の規定としてこの法案で規定しておりますのは、学校向けの教育番組の放送を行う場合の広告の制限並びに放送事業者の自主性及び主体性を確保するための措置であります。
一般放送事業者の自主性及び主体性を確保する措置としては、名義貸し並びに番組協定について、特定の者からのみ放送番組の供給を受けることとなる条項、及び、放送番組の供給を受ける者がその放送番組の放送の拒否または中止を禁止する条項を含むことを禁止する規定を設けました。なお、そのほかに、事業経営のあり方として、一般放送事業者は受信者から放送の受信の対価を受けてはならない旨規定いたしました。
以上のほか、郵政大臣は、放送法の施行に必要な限度において、日本放送協会及び一般放送事業者に対し、その業務に関し報告をさせることができることといたしました。
今回の改正は、以上述べたところでおわかりのごとく、今日の放送界の実情を直視するとともに、明日の放送の姿をも想定し、これらに対応するため、表現の自由を確保しつつ、かつ、放送番組の適正を期するための自主的規制を中心とした番組の編集及び放送に関する準則並びにこれを確保するための規定を設け、日本放送協会については、その公共的な性格を明らかにし、及び、その活動をより活発にするため所要の改正を行うとともに、一般放送事業についてはその業務の運営に関する若干の規定を設けようとするものでありまして、きわめて現実に即した必要不可欠の改正のみであります。以上が、この法律案の趣旨でございます。 |
竹内さんにお答えいたします。まず第一点は、放送法の改正に際して三本建か二本建にいうことを考えながら、なぜ一本建としたか、こういう御質問でありますが、私も、初めは、放送法改正に当って、できるならば三本建にしたいという考えを持ったことは、御承知の通りであります。この種の法律に対しては、大体、基本法及び事業法、もう一つは、特殊な公社や特殊な機関に対しては、その機関を律する法律、三本建になっていることは、御承知の通りであります。これは、電気関係においても、鉄道関係におきましても、そういうふうな形態をなしておりますので、できればそういうふうにいたしたいという考えでございましたが、放送法の持つ重要さ、また、放送法というものを、そういうように形式を変えることによって、無用にいじったというふうな感じを出すことは、摩擦を起すことでありますので、このたびの改正では、在来の放送法をそのまま改正を行うことにいたしたわけでございます。
第二には、番組の向上の重点の一つとして番組の問題を考えておるけれども、現在行われておるテレビやラジオの番組に対して、一体いいと思うか悪いと思うか、こういう御意見でありますが、これは、いいという議論と悪いという議論か両方ございます。大体、放送事業者は、だんだんよくなりつつあるのだから、このままで自主的に規律をしていけばいいということをいわれておりますが、新聞、雑誌その他の論評によりますと、一部においては、一億白痴化だ、こういうこともいわれておりますので、私といたしましては、このよしあしの二つの議論の調和をこれから考えなければならないということが、この放送法の改正の大きな焦点になっております。しかし、番組につきましては、最近非常に番組がよくなってきておるという事実も、御承知の通りであります。しかし、一部においてまだ相当な批判もございますので、この批判には十分放送事業者もわれわれも耳を傾けて、りっぱな番組を放送しなければならぬことは、論を待たないわけでございます。そういう意味で番組審議会を法定いたしましたが、この番組審議会に対しては郵政大臣が免許を行なっておるのであるから、番組審議会に対しては、官が干渉しないという程度で相当強化しろという議論と、もう一つは、絶対に自主的な運営にまかすべきものであって、強化をしてはならないという両論がございますので、調和点をとって法律に明定はいたしましたが、業者の全くの自律にまかしてあるということでありますので、現在の状態では、これ以上規律をするといろいろな問題があり、全くないと一億白痴化だといわれるので、まあこの程度が妥当だ、こう考えておるわけでございます。
第三番目は、NHKの公共性をさらに明確にするために、受信料についてはっきりとした明文を置いてはどうかという御意見でございますが、これは、さきに設けられました臨時放送法審議会の答申によりますと、NHKの受信料は法定すべきものである、こういうふうに明確に答申がなされております。私も、できるならば放送法改正に当りまして法定をいたすことがいいという考えでございましたが、これに対してもいろいろな議論がございます。特に、これを法定するということになりますと、いわゆる電波税式なものか、自由契約に基くものかという、受信料そのものに対して明確な線を打ち出さなければならないということで、今度の改正案では裏面からではありますが、逆に、一般放送事業者は、名目のいかんを問わず、受信料を受けることができない、こういうことを規定しましたために、受信料はNHKだけが受ける特権であるということを明確にいたしたわけでございます。これによりまして、国民の受信のための負担の増大を避けるとともに、協会の収入の確保に努めたということを御了承いただきたいと思います。
第四には日本放送協会、すなわちNHKが国家機関だ、こういうことを言ったが、一体どういうことか、間違いだろうが、という非常に御親切な御発言でございますが、私も、もちろん、NHKが政府機関であり国家機関であるという考えは毛頭持っておりません。しかし、国会が、公共の福祉に供するものとして、特に法律によって設けました全国民的な放送機関、こういうのでありますから、広い意味で言うと、国家的な目的を持った機関、こういうことぐらいは言えると思いますが、少くとも、受信料を特別に受ける権利を有しておるだけをもって、政府機関、国家機関というような考えは毛頭持っておりません。しかし、民放とは違って、確かに国民的な、国家的な機関であるということは間違いないと思います。また、そうでないと、国の財政資金をこれに貸すようなことはできなくなるのでありまして、そういう意味から考えても、国民的な機関という方が正しいと思います。
それから、受信料を値上げするようなことを言っておったが、どうして一体上げなかったのか、選挙対策じゃないかというような、ちょっとお話もあったようでありますが、受信料は御承知の通り、現行放送法――改正法でもそうでありますが、郵政大臣――政府が値上げ、値下げをきめるようにはなっておりません。協会が郵政大臣に提出し、大臣はこれに対して意見を付して、自動的に国会の承認を仰ぐことになっております。そういう意味で、政府が、また、郵政大臣が、固有の権限でこれを上げたりなんかできない状態でございます。その意味で、三十三年の予算提出に対して、NHKがどういう案を出してくるかと思っておりましたら、御承知の通り、今日の状態において値上げをすべきではない、こういう考えのもとでありましょう、値上げをしないで、二十二年度の徴収料率をもって三十三年予算を編成いたし、提出され、私の意見を付して、過日国会に御審議をわずらわすべく提案をいたしておるわけでございまして、決して政府の選挙対策などではございませんから、明確にお答え申しておきます。
第六には、NHKに対して業務報告をさせる真意いかん、これが言論統制、干渉の突破口にならないかということでありますが、これは全くそういうことではないのであります。御承知の通り、放送法審議会の答申には、もう郵政省設置法に基いて監督をしておるのでありますから、業務の報告を求められないという規定自身がおかしいのであって、法律でもって報告を求めるばかりではなく、会計に対し監査を行えるように法律に明定すべきであるというふうな、きつい答申が出ておることも、御承知の通りであります。これらの問題を十分考えたのでございますが、新たに監督を強化するのではないという線を明確に打ち出しつつ、合理的なものとするにはどうするかということで、ついに答申案に出ておりました会計監査の規定を削って、報告を求めるというにとどめたのでありますから、新たに監督を強化し、統制の道を開くなどということは絶対にないということを、明確に申し上げておきます。
第七に、NHKと民法との番組の相違と調和に対しての御質問でございましたが、これはざっくばらんに申し上げますと、NHKと民放に対して、聴取料を取れるものと聴取料を禁止せられておるものとの差は番組面に現われてこなければならないことは、常識的に当然であります。でありますから、NHKは、将来は、教育、教養、技術、産業というような、そういうものに重点を置いて番組が進められていくべきであることは当然であります。民間は、逆に、教育、教養ももちろんやってもらわなければならないのでありますが、国民の健全な娯楽をNHKよりも多少多く放送するような番組を組む、こういうことが理想的だと考えられるわけでございます。
第八番目に、最後の問題でございますが、教育放送を普及させるためにどうするか。教育放送に対してはっきりした考えを申し上げますと、教育放送はNHKが行うべきだという考えを明確に持っております。しかし、民間放送は規定がないからといって全然やらないでいいというものではないのであります。公けの波を公けの立場で特殊な人たちが受けて、この波を運営しておるのでありますから、教育、教養に対しても意を用いてもらわなければならない。すなわち、報道、教育、娯楽の三者が調和のとれた番組を放送してもらわなければならぬことは当然であります。しかし、教育番組といいますと、これは大体ペイ・ラインに乗らない、こう見てもいいと思いますので、現在の考え方では、ラジオにおきましてはNHKの第二放送を使って教育番組の放送を行なっております。また、テレビに対しても、現行VHF帯の第二放送を使って教育放送を行うということを、先ほどもお話がございました通り、VHF帯だけではまかなえないので、UHF帯のチャンネル・プランの決定も早急に行なって、これも教育、教養番組を放送できるようなNHKのものを優先的に割当しなければならない、こういう考えでございます。なお、FM放送のチャンネル・プランも早急にこれを決定して、ラジオの中波帯から混信を防ぐ意味において移行するものを除いては当然教育放送にこれが使用せらるべきだと考えておるわけでございます。以上、八点にわたってお答えを申し上げた次第でございます。 |
松前さんにお答えいたします。第一点は放送法の改正とあわせてこの国会に提案をせられておる郵政省設置法の一部を改正する法律案の中に、NHK及び民放の監督を強化する規定がある、こういうことを言われましたが、そういう改正案は提案いたしておりません。全然監督規定を新しく設けるというようなものではございません。現行法にNHKに関する事項というのがございますから、その次に新たに一般放送事業者に関する事項ということをつけ加える全く事務的なものでありまして、郵政省設置法のどこを見ても、NHK及び一般民間放送業者を監督する規定のないことは明確でありますから、御承知を願います。
それから第二点は、値上げの問題であります。NHKの予算編成に対して郵政大臣は値上げをするということを言ったじゃないか。それをどうして政府資金のようなものにすりかえたのかというお話でございましたが、これは松前さん御承知の通り、現行放送法によって郵政大臣や政府が値上げができるものじゃないのでありまして、私自身が値上げをするというようなことを言明したことはありません。こういうことを申したのであります。三十三年度のNHKの予算編成に対して、現行の三カ月二百円で一体まかなえるのか、三十三年度の予算を組むときに当りまして新しく事業計画をしなければならないのでありますが、財源が不足であるので、郵政大臣は一体その場合どう考えるかということでありましたから、値上げをするというのも一案でありますし、政府が金を貸すというのも一案でありますし、それからNHKが自主的に民間から金を借りるということも一案であります、そういうふうに新しく事業を始め、しかも、一カ月六十七円でまかなえないという場合には、何らかの財政的措置をとらなければならない、こう申したのであって、値上げをしなければならないということは、私は権限がないのでありますから、そういうふうに申し上げたのではないということを、明確に申し上げておきたいと思います。
三十三年分予算案は御承知の一通り、国会に提案をせられておりますが、公共企業料金の値上げを行う時期ではない、こういう経営委員会及びNHKの首脳者の考えによって、三十二年度予算におけるものと同率、すなわち、ラジオにおいては、一カ月六十七円、三カ月二百円という現行料率で変更なく予算を組んで、国会の審議を仰いでおるわけでございます。これが値上げをするか、財政資金、一般資金をもってまかなうこともいけないということをいって値上研をするとすれば、それは国会の力でもってやっていただく以外にないので、ありまして、現行放送法にも明確にそう規定してございますので、政府や郵政大臣が値上げができるものじゃないということだけを申し上げておきます。
それから第三番目には、現行VHF帯においてテレビの免許は失敗じゃなかったかということ、もう一つは地方において新聞がラジオに対して相当な勢力を持っておる、そのラジオ会社がテレビを兼営することによってマス・コミの独占にならないか、こういうお話でございます。これは委員会でも十分御議論があったものでございまして、なるべくというよりも、できるだけマス・コミの独占を排除しなければならぬということは、私が申すまでもないことでございます。でありますから、政府は、昨年十月二十二日において三十四社、三十六局の予備免許を与えるに際しても、この問題を一番重要に考えたわけであります。その意味で、単独免許を行わないで、競願者の合併整理を行なって、御承知の通りマス・コミの独占を排除しようという措置をとり、かつ、その方式が円満に行われるかいなかを確実に認証する時期まで、すなわち、今年三月三十一日まで停止条件付の免許を与えておることも、御承知の通りであります。そういう意味で、いかにこの問題に対して慎重であったかということも、おわかりになっていただけると思いますこの予備免許を与えた民間テレビ局の効力発生の時期も間近でございますこの三月三十一日までの効力停止でございますから、近く確認を行わなければならないわけでございますが、全国的には円満と申し上げられるような状況で進行をいたしておりますので、期限の三月三十一日までには、おおむね予備免許を交付したときの条件が満たされ、円満に確認が行えるということを考えています。
それから、放送番組審議会は、これはお手盛り機関であって、あまり大したことでないじゃないかというような御意見のようでありますが、これは非常にむずかしいところであります。放送法改正の山であります。放送番組の低俗化を防ぎ、そして、国民が喜ぶように、また、国民のためになるような番組を作らなければいかぬ。どれが一体教育に合致し、どれが教養に合致し、どれが娯楽であるかということを、だれが見分けるのかということは、非常にむずかしい問題であります。それを私が見分けたり、岸内閣が見分けたりするということは、これは言論統制のはしりであるというので、それもできない。では全然やらないでいいかという御議論になるようでありますが、全然番組審議会を作らぬでいいということにはならないのであります。少くとも倫理規定を設けまして、法律では番組審議会を作らなければならない、番組審議会の意見を尊重しなければならない、こういう倫理規定を作ることだけでも番組の向上に役立つであろうということは、これは論を待たないのであります。倫理規定さえも必要はないということは、まさに野放し免許であって、私が三十六局に免許を与えた責任者といたしましては、この程度は、最小やむを得ざる措置だと考えておるわけでございます。
それから、NHKと民放の両立免許に対して、民放に対しては一切受信料を取ってはならないということを改正法では規定いたしております。NHKと同じように民放も取っていいじゃないか、どうして一体取らないようにしたのだ、アメリカにおいてはもうすでに有料テレビという問題があるじゃないかという、非常に示唆に富まれた御発言でございますが、これも改正の過程において十分論議した問題でございます。しかし、現在、アメリカも、民間有料テレビの問題は、御承知の通り、これは有線放送によるものであります。無線放送、いわゆる日本の放送法は無線放送による放送を律しておるものでありますから、アメリカといえども、無線放送による有料テレビの問題は起きておりません。この有線の有料テレビの問題も、御承知の通り、もう一週間ばかり前から、アメリカの各州は、全部有料テレビの免許をしてはならないという決議を各州で行なっていることも、御承知だろうと思うのであります。しかし、アメリカと日本と違うことは、先ほども申し上げましたように、NHKと民放と両立するような免許方式をとっておりますので、公共放送であるNHKの性格を明確にし、そうして、民間放送と公共放送との二本建を行うということになりますと、NHK以外の民放は、名目のいかんを問わず、聴取料を取ってはならないと規定することは、より明確である、こういう考えで、民間テレビに対しては聴視料の禁止を規定いたしたわけでございます。なお、いろいろ詳細につきましては委員会で御質問にお答えし、申し上げたいと思います。
最後に申し上げますことは、先ほども申されたのでありますが、何か放送法が官の統制のはしりというふうにお考えでございますけれども、これは、番組の問題を含めて、学識経験者から成ったところの放送法改正審議会の答申よりも非常に後退した、現在の状態で必要やむを得ざるものだけ規定いたしたのでございまして、これを通していただかないと野放し免許になるおそれがございますので、ぜひ一つお願い申し上げたいと思います。 |