ユダヤ人の能力と教育について

【教育を重視する伝統】

 M・トケイヤーの「日本人は死んだ」(箱崎総一訳・日新報道出版部・1975.12.20日初版)より。

 ユダヤ人は格別教育を重視する民族である。義務教育を世界で最初に施行したのはヤダヤ民族であった。西暦の紀元5年から行われている。してみれば2千年の歴史を持つことになる。学校を設置し、ん生徒数に対する教師の数を20人から28人に一人の割合で確保し、カリキュラムを作り上げていた。教師は非常に名誉ある職業とされ、教育長的役割を持つ学校の監察官との共同で教育の責任を全うした。こうした教育制度の確立がユダヤ人全体の能力水準を引き上げていくことになった。

 学校では、教訓に富んだ諺や寓話が教えられる。ヤダヤ教義に基づく宗教教育や民族教育も教え込まれるが、いずれにせよシンキングに富んだそれである。努力すること、暗記ではなく理解すること、学ぶこと、考えることの大事さが教え込まれる。「勉強こそが祈りの最高の形式である」。家庭教育も重視され、特に対話式のコミュニケーションで育成される。「教育は民族を救う」とする確乎たる知恵に支えられている。

 中世ヨーロッパでは、「本を読む人たち」として知られていた。
 古代都市エルサレムがローマ軍により包囲され、滅亡の危機に瀕していた。既に4年間包囲され、兵士達は果敢に戦ったが戦局の帰趨は明らかになっていた。この時、エルサレムの首席ラビであったベン・ザカイは、示唆に富む思慮を廻らした。ベン・ザカイが死亡したとして、ローマ軍に埋葬の為に葬儀の一行が城郭外へ出ることの許可を求めた。首尾よく墓地に辿り着くや、ローマ軍団長に面会を求め、「私、エルサレムの首席ラビ・ベン・ザカイは、あなたをローマ皇帝として敬意を払います」と述べた。その時、ローマ軍団長がローマ皇帝になることは予見されていなかったが、「数日後にエルサレムのユダヤ人は滅ぼされ、その後あなたはローマ皇帝に任命される。もし、この予言が実現したなら、私はあなたに一つだけお願いしたいことがある」と述べた。「お前は何を欲しいのか」との問いに、「このエルサレムの郊外に一部屋だけ、教室を作ることを許可してもらいたい。ただそれだけです」と答えた。数日後、この予言が当たり、ローマ皇帝急死の報とローマ軍団長がローマ皇帝に任命されたとの知らせがもたらされた。この結果、「このエルサレムの郊外に一部屋だけ、教室を作ることを許可してもらいたい」との要望は聞き届けられることになった。エルサレム郊外のヤブネという土地に家が建てられ、孤児が集められ、ユダヤの伝統についての教育が始まった。これが、ユダヤ史上最も古いユダヤ学園である。ヤダヤ人が教育を如何に重視していたのかのエピソードである。

【教育を重視する伝統】(「ユダヤ人問題」参照)
 1993年までの統計によれば、104名のユダヤ人がノーベル賞を受賞している。ノーベル賞受賞者総数の比率が非常に高い。

 
「ユダヤ人はなぜ優秀か?」という本によれば、ユダヤ人の子供はまだ言葉の意味を全然理解できない幼いときから、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)で「トーラ」と呼ばれるモーセの五書を丸暗記させられる。昔の日本の武士階級が漢籍の素読によって子供の知育を実行してきたように、幼い時期に暗記力を磨くことは、後の教育の強固な土台となるのかもしれない。

 ユダヤ教の教育に対する熱心さを示す統計資料がある。アメリカにおいては、ユダヤ人の25%以上が修士号を取得している、とのことである。いつ何時迫害によって国を追われるかもしれないユダヤ人にとって、知識というのは、唯一だれからも奪い取られる心配のないものなのであろう。そしてさらに4000年に及ぶ迫害の歴史が、彼らをして、中途半端で生ぬるい教育環境ではなく、せっぱ詰まった状況において学問に打ち込ませているのかもしれない。




(私論.私見)