パレスチナ問題を解くための歴史 12、現代史篇その6、2020、30年代

 更新日/2023(平成31.5.1栄和/令和5).10.16日

 2021年、イスラエルは2008年、2012年、2014年に続き4度目の、ガザに対する長期的な軍事攻撃を開始した。


 2022年11月1日に執行されたクネセト総選挙リクードは32議席で第1党を維持し、右派連合が過半数の64議席を獲得し勝利。13日にイツハク・ヘルツォグ大統領より組閣を要請された。
 2022.12.21日、極右・宗教政党と連立政権樹立で合意しベンヤミン・ネタニヤフがイスラエルの首相に就任する意向を表明した。同月29日、国会でこの連立政権が賛成多数で承認され、ネタニヤフ政権が正式に発足した。

 ​その4カ月後、イスラエルの警官隊がイスラムの聖地であるアル・アクサ・モスクに突入。、​10月3日、イスラエル軍に保護されながら同じモスクへ832人のイスラエル人が侵入。​イスラム教徒に対する強烈な挑発だ。ネタニヤフ首相、そして彼の後ろ盾が新たな戦争を望んでいた可能性は高い。

 アメリカやイスラエルを支配する私的権力にはガザを消滅させたい理由がある。イスラエル北部で推定埋蔵量約4500億立方メートルの大規模なガス田を発見したとノーブル・エナジーが発表したのは2010年。USGS(アメリカ地質調査所)の推定によると、エジプトからギリシャにかけての海域には9兆8000億立方メートルの天然ガスと34億バーレルの原油が眠っている。そのエネルギー資源を売るマーケットとしてヨーロッパが想定されたはずだ。ライバルはロシアということになる。

 ネタニヤフ首相の父親、ベンシオン・ネタニヤフは1910年3月にワルシャワで生まれ、40年にアメリカへ渡った。そこで「修正主義シオニズム」の祖であるウラジミル・ヤボチンスキーの秘書を務めている。その年にジャボチンスキーは死亡、ベンシオンは第2次世界大戦後にコーネル大学などで教鞭を執った。ヤボチンスキーに接近したひとりにレオ・ストラウスという人物がいる。1899年にドイツの熱心なユダヤ教徒の家庭に生まれ、17歳の頃にヤボチンスキーのシオニスト運動に加わったのだ。このストラウスは後にネオコンの思想的な支柱と言われるようになる。カルガリ大学のジャディア・ドゥルーリー教授に言わせると、ストラウスの思想は一種のエリート独裁主義で、「ユダヤ系ナチ」だ。(Shadia B. Drury, “Leo Strauss and the American Right”, St. Martin’s Press, 1997)
 ストラウスは1932年にロックフェラー財団の奨学金でフランスへ留学し、中世のユダヤ教徒やイスラム哲学について学ぶ。その後、プラトンやアリストテレスの研究を始めた。(The Boston Globe, May 11, 2003)
 1934年にストラウスはイギリスへ、37年にはアメリカへ渡ってコロンビア大学の特別研究員になり、44年にはアメリカの市民権を獲得、49年にはシカゴ大学の教授になった。
 ストラウスと並ぶネオコンの支柱とされている人物が、やはりシカゴ大学の教授だったアルバート・ウォルステッター。冷戦時代、同教授はアメリカの専門家はソ連の軍事力を過小評価していると主張、アメリカは軍事力を増強するべきだとしていたが、その判断が間違っていたことはその後、明確になっている。
 ヤボチンスキーの系譜に属すネタニヤフ親子やネオコンはユーフラテス川とナイル川で挟まれている地域を支配しようとしている。「大イスラエル構想」だ。

 2021.5月、ハマスとイスラエル軍の前回の大規模戦闘。その際、イスラエル軍はガザ地区への空爆でハマスの軍事拠点、地下兵器工場、軍事用地下トンネルの多くを破壊した。 2021年の戦闘の前の大規模戦闘が2014年だったので、この戦闘の準備には7年をかけていたことになる。

 2023.10.9日、「イスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃、これまでの経緯は」。
 10.7日午前6時半ごろ、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、大規模な奇襲攻撃を実施しロケット弾がイスラエル上空に飛来した。サイレンはテルアビブの地域でも聞こえた。イスラエル軍によれば、イスラエルに向けて発射されたロケット弾は約2200発。ハマス側は5000発を発射したとしている。ハマスのメンバーが陸海空からイスラエルに侵入した。パラグライダーを使ったものもいた。これにより数百人のイスラエル人が死亡した。ハマス軍事部門のデイフ司令官は今回の作戦を「アルアクサの嵐」と呼び、イスラエルに対して攻撃を行ったことについて、女性への攻撃やイスラム教の聖地「アルアクサ・モスク」に対する冒とく、現在行われているガザ包囲への対応だと説明した。ハマスは、イスラエル軍兵士を拘束したとし、拘束したとされる兵士の動画をSNSに投稿している。  ハマスは2021.5月、ハマスとイスラエル軍の前回の大規模戦闘から2023年10月までの2年5か月で、数千発のロケット弾を製造し、多くの発射機を製造、兵士たちの携行兵器を調達し、奇襲に使う多くの地下トンネルを再建し、訓練所を建設し(襲撃後にハマスが発表した動画によれば最低6か所)、兵士の訓練を行ったことになる。
 ハマスとは

 ハマスは軍事部門を有するイスラム組織で、イスラム教スンニ派の「ムスリム同胞団」を母体に1987年に発足した。 ハマスという単語自体は、「イスラム抵抗運動」のアラビア語の頭文字から来ている。ハマスは、パレスチナの大部分の派閥や政党と同じく、イスラエルは占領国であり、パレスチナを解放しようとしていると主張している。ハマスはイスラエルを国家として認めていない。 イスラエルを国家として承認していないことが、ハマスにとって、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で成立した93年の「オスロ合意」に反対する理由の一つとなっている。 ハマスは自身について、イスラエルを承認し、和平構想に何度も失敗しているパレスチナ自治政府に代わる存在と位置づけている。 ハマスは何年にもわたり、イスラエルに対して複数の攻撃を行っており、米国や欧州連合(EU)、イスラエルはハマスをテロ組織に指定している。

 10.16日、「世界最重量級のイスラエル軍装甲兵員輸送車「ナメル」 1両がハマスの手に」。
 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスのテロリストたちが7日にイスラエルとガザ地区の間の壁を突破したとき、1日中続いた殺人と拉致を実行する前にイスラエル南部ナハル・オズのイスラエル軍基地をすばやく制圧した。テロリストたちが獲得したものは大きかった。基地制圧では12両前後のアチザリットも奪った。アチザリットはイスラエル軍が鹵獲(ろかく)したアラブ諸国のT-55戦車の車台を使っている、かなり重量のある装甲兵員輸送車(APC)だ。 だが重量49トンのアチザリットは、ハマスがナハル・オズで奪った最も重いAPCではなかった。ハマスの戦闘員らは少なくとも1両のナメルも奪取した。世界でも最重量級で、最も防御力の高い兵員輸送車だ。 重量が70トンもあるナメルは巨大だ。ナメルよりもわずかに重い戦車もあるが、そう多くはない。例を挙げると、米国の最新型のM1A2エイブラムス戦車があるが、戦車の重量の少なくとも3分の1は砲塔と主砲が占める。ナメルは遠隔操作式の機関砲を搭載しているが、その重量は2トン未満だ。 ナメルの場合、防御のための装備がその重量を占めている。爆発反応装甲の下にはセラミックや鋼鉄、ニッケルが何層にも重ねられている。 ナメルはイスラエル軍が独自に開発した。その開発は1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻に端を発している。同軍の旅団が82年にレバノン南西部の街ティルスに侵攻したとき、パレスチナの対戦車ミサイル部隊が待ち構えていた。 イスラエル軍のAPCであるM113はミサイル部隊にとって格好の標的だった。重量14トンのM113をあっという間に数両破壊した。「すぐにイスラエル軍の歩兵は市街地でM113を降りて移動した」と米陸軍大尉のジェームズ・リーフは同軍機甲学校が出版している軍事専門誌『アーマー』に2000年に掲載された論文で説明している。「APCはすぐに支援の役割に追いやられた」。 薄いアルミ製の装甲を持つ1960年代のM113は、当時から対戦車兵器に対する防御力に乏しかった。イスラエル軍はこのことを辛い経験を通して思い知った。2014年にハマスの戦闘員がロケット推進擲弾でM113を攻撃し、兵士7人が死亡したのだ。 1982年の戦争後、イスラエル軍はAPCを適切なものにしようと決意。かなり重くする必要があったため、イスラエル軍は鹵獲した数百両のアラブ諸国のT-55戦車の砲塔を取っ払ってアチザリットに改造した。 だがアチザリットは一時しのぎのものだった。イスラエル軍はさらに重量のある新APCのベースとして新型のメルカバ戦車に目をつけた。ナメルの開発には時間がかかり、物議を醸した。しかし、最初の2両が2008年のガザ戦争に投入されたとき、その価値はすぐに証明された。そして6年後、イスラエル軍が再びハマスと戦争を始めたときには120両ものナメルが運用されていた。 かなりの重量であるナメルは、イスラエル軍が2014年にガザに侵攻した際、ロケットやミサイルによる攻撃をしのいだと報じられた。10月7日にハマスが鹵獲したナメルは、イスラエル軍が初めて戦闘で失ったものになる。この損失はミサイルやロケットではなく、テロリストの奇襲攻撃によるものであることは明らかだ。 ナメルの戦争は始まったばかりだ。ガザとの境界沿いに集結したイスラエル軍の旅団は約300両のナメルを運用している。これらのナメルは近いうちに戦闘に従事するだろう。

 10.8日、イスラエルは報復の空爆を行い正式に宣戦布告した。ネタニヤフ首相はハマスによる攻撃の直後、ビデオメッセージで、「我々は軍事作戦ではなく、戦争状態にある」、「ハマスは多大な代償を支払うことになる」と述べた。ハマスは大量のロケット弾を撃ち込んだほか、武装集団をイスラエルに送り込み、多方面にわたる前代未聞の攻撃を行った。イスラエルは攻撃を受けて、「ソード・オブ・アイアン」作戦を開始し、ガザ地区の複数の目標を攻撃した。 イスラエル軍はガザ地区の民間人に対して、即座に居住地域を離れるよう呼び掛けた。

 今年は特に暴力が激化している。ヨルダン川西岸地区でイスラエル軍によって殺害されたパレスチナ人の数は、武装組織のメンバーと民間人を合わせて、過去20年間で最も多い。パレスチナ人による襲撃で死亡したイスラエル人や外国人の数もやはり過去最多の水準となっている。殺害されたのは大部分が民間人だ。

 イスラエルとハマスの武力衝突は87年に起きた、イスラエルによるガザ地区とヨルダン川西岸地区の占領に反対する第1次インティファーダ(対イスラエル蜂起<ほうき>)にさかのぼる。 イスラエルは67年の戦争でエジプトからガザ地区を奪ったが、2005年にガザ地区から撤退していた。ハマスは07年、パレスチナ自治政府の主流派「ファタハ」と衝突した後、ガザ地区を支配下におさめた。ガザ地区には約200万人のパレスチナ人が暮らす。 ハマスがガザ地区を掌握した後、イスラエルとエジプトはガザを厳重に包囲した。イスラエルはガザ地区の空と海も封鎖している。

 「ガザにおける今回の戦闘激化が提起した疑問
 2023年10月8日、パレスチナ武装勢力がガザ市からイスラエルに向けて発射したロケット弾。(AFP)
 また始まった。イスラエル国内でのハマスによる驚くべき攻撃を受け、2005年以降6回目となる、イスラエルによるガザへの軍事作戦が本格化している。軍事作戦の再開は驚くことではない。それは避けられなかった。ガザは何も変わっていなかったのだから。衝撃的だったのは、ハマスがこれほど劇的で血なまぐさい作戦を試み、成功させたことだ。危機は進行中であり、詳細がほとんど確認されていない状態であるため、初期評価にはリスクが伴う。7日未明にガザで起きたハマスの攻撃は、多くの疑問を投げかけた。これまでのところ、はっきりした答えはほとんどない。

 ハマスがこのようなかつてない規模の奇襲攻撃を仕掛けたのはなぜか。なぜこのような大胆で無謀な行動にでたのか。ハマスは何を達成したいのか。民間人を殺すことが彼らの大義にとってプラスになるのか。民間人を標的にすることは戦争犯罪である。ハマスがイスラエルの子どもたちをガザに連れ去ったこともあったようだ。ハマスによれば、それはアル・アクサに対するイスラエルの脅威を阻止し、囚人を釈放させるためだという。それは事実なのだろうか。それとも他の問題が関係しているのだろうか。誰がこの決定を下したのか。そしてハマス指導部のどこがこの極秘作戦を知り、承認したのか。イランやその他の第三国がハマスに働きかけているのだろうか。パレスチナ市民が今後耐えなければならない恐怖について、少しでも考えた者はハマスの中にいたのだろうか。
 イスラエルはどう動くのか。またしてもガザへの長期的な砲撃や地上侵攻が行われるのだろうか。イスラエル史上もっとも過激な現政権は、その軍事行動の際、さらに残忍になるのだろうか。イスラエルは、ガザ地区の完全かつ直接的な軍事再占領を目指すのだろうか。イスラエルは占領国ではあったが、ほとんどの場合、休戦ラインや海、空からガザを支配してきた。これは、ガザ地区内にイスラエル軍が戻ってくることを意味するが、それはほとんどの人にとって歓迎されないシナリオだ。どのような作戦が実施されるにせよ、最後には首が飛ぶことになり、その中にはベンヤミン・ネタニヤフ首相の失脚も含まれるだろう。

 パレスチナ自治政府に何かできるのか、あるいは何かするつもりはあるのだろうか。多くの選択肢があるのだろうか。あるとしても、これは自国民を救うための解決策も戦略も持ち合わせていないマフムード・アッバス大統領の弱みを露呈させただけだ。一部の人々はそれを誤った判断だと見なすかもしれないが、パレスチナ人の多くは、ハマスが何かをしようとしていると見るだろう。

 どのような事態が予測されるだろうか。これは短期的な戦闘激化で終わりそうもない。イスラエルは、2014年にヨルダン川西岸で10代のイスラエル人3人が誘拐されたときのように、危険な地上侵攻を選ぶかもしれない。ハマスは、可能な限り、イスラエルにロケット弾を撃ち続けるだろう。暴力はおそらくガザだけにとどまらない。すでに東エルサレムのシュアファトキャンプ内で衝突が表面化していることが報じられている。ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人は、検問所に閉じ込められながら生き延びなければならない。一方、入植者たちは、より多くの土地と水を奪うという長期的な戦略目標に向け、さらに多くのパレスチナ人が村や先祖代々の土地から逃げ出さざるを得ないような、強制的な環境を作り出そうとしている。

 ハマスとイスラエルの間で、先週の状況に戻るための短期的な取引が行われる可能性はあるだろうか。その可能性はきわめて低い。イスラエル国内に向けては、イスラエルの情報・安全保障における1973年以来最大の失敗に対応する姿を見せなければならないことをネタニヤフ首相はわかっている。このことは安全保障体制全体を揺るがすだろう。ハマスの中には、イスラエルの捕虜を確保することが自分たちのカードになる、保険になると考えている者もいるかもしれない。しかしこれは非常に疑わしい。少なくとも、イスラエル軍がハマスの能力に甚大なダメージを与え、教訓を与えたと彼らが見なすまでは。
 長期的な解決策を見出すことを優先し、リーダーたちが責任のなすりあいをやめてくれるといいのだが。
 クリス・ドイル

 しかし、長期的な視点において最大の問題は、国際社会がどのように対応するかである。イスラエルとハマスが対立するたびに採用されてきた伝統的な脚本に従えば、両国民の期待を裏切ることになる。サウンドバイトやスローガンは戦略の代わりにはならない。たしかにイスラエルには自衛権がある。しかし、パレスチナ人にも同じ権利があるという声は聞かれるだろうか。国際社会はイスラエルに、自衛には限界があり、民間人への積極的な攻撃はその範囲を超えるものであることを思い起こさせるだろうか。そして、冷静さを取り戻すことが大事だという金言が聞かれることはあるのだろうか。占領下での生活は侵略であり、決して穏やかではない。

 国際社会は明確に発言し、断固として行動する必要がある。ハマスはすでに制裁を受け、孤立している。ガザに住む200万人以上の人々に対する、イスラエルとエジプトによる16年にわたる封鎖を終わらせる取り組みはどうだろうか。これは民族全体に対する集団的懲罰であり、戦争犯罪である。パレスチナ人を野外刑務所に閉じ込め、貿易も旅行も普通の生活もできないようにするのは紛争のもとである。パレスチナ人は、動物でさえ口にすべきでないほどひどい水の、過密スラムに住んでいる。ガザの人々を人間として見るときだ。このような封鎖が子供たちにどのような影響を与えるか、この地獄のような場所を一度もでたことがない80万人の子供たちには外の世界がどんなものかという概念もないというのがどういうことか、私たちは考えるべきだ。ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの違法行為を無視してきた結果でもある。

 国際社会が何もしなければ、私たちは多数の人命の損失と人々の生活の破壊を目にすることになる。すでに両国民の死者数は3桁に達しており、イスラエルの軍事作戦が続けば、パレスチナ人の死者数は刻一刻と増えていくだろう。また、ヒズボラは今のところ関与していないが、北方戦線にまで対立が広がる危険性もある。

 長期的な解決策を見出すことを優先し、リーダーたちが責任のなすりあいをやめてくれるといいのだが。これらの解決策は、すべての人々にとって得るものがなくてはならない。それは、ガザの人々が自由に息をできるようになり、抑圧や占領から解放された新しい生活を夢見ることができるようになることだ。適正かつ合法的な経済生活の繁栄を認めるということだ。そして、ガザのパレスチナ人とヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の交流を妨げる封鎖を終わらせることだ。

 それはまた、ガザ周辺のコミュニティーに住むイスラエル市民が、ロケット弾や迫撃砲による攻撃や、今回のようにコミュニティに侵入してくる武装戦闘員による攻撃から解放され、安全に暮らせることでもある。

 そのいずれも、明確で実行可能な政治的プロセスなしには実現しない。米政権は今年、イスラエルによる行動の多くに対し、より力強く発言してきたが、それは当然のことである。しかし、パレスチナ人の苦境に対処するための政治的なプロジェクトは何も進展させていない。


 アメリカがイスラエルとサウジアラビアの正常化合意を推進する中、サウジアラビアはパレスチナ問題に対する真の解決策を放棄するよう圧力を受けてきた。サウジアラビアがこれに対抗し続けているのは正しい判断だ。

 これらの出来事からあらためてわかるのは、この紛争の核心にあるのはパレスチナ人の未来だということである。あるイスラエル人コメンテーターが言うように、「ガザの生活が地獄である間は、イスラエルが楽園になることはない」のだ。この問題を公正かつ合理的な方法で解決しなければ、世界中のいかなる国交正常化交渉も、イスラエル人とパレスチナ人に平和と安全をもたらすことはない。

 クリス・ドイル氏は、ロンドンを拠点とするアラブ・イギリス理解協議会の会長である。エクセター大学でアラビア語とイスラム研究を専攻し、最上級の優等学位で卒業した後、1993年から同協議会で勤務している。アラブ諸国への議会代表団を数多く組織し、同行してきた。

 イスラエル・レバノン国境の緊張は想像を絶する事態への懸念をもたらす
  次の地域的あるいは世界的な災難を予知することに熱心な破滅論者ならば、イスラエル・レバノン国境での最近の緊張に目を向ける価値があるかもしれない。この緊迫した国境で大規模な戦争が起こってから17年が経った。イスラエルとヒズボラが再び戦うことで誰が得をするのか想像するのは難しいが、今や不可能なこと、考えられないことが、しばしば「可能」の扉をノックする時代である。戦争が起こる可能性はどれほど現実的なのだろうか。国境での事件は紛れもなくエスカレートしている。レバノンの国連平和維持軍(UNIFIL)は、イスラエルとレバノンの過激派組織ヒズボラの双方が、国境「ブルーライン」間の国際的な協定に違反していると非難している。UNIFILは、中東でいつまでも存続する暫定的な組織の1つだが、少なくとも重要な警告システムとしての役割は果たしている。イスラエルの軍事アナリストは、紛争の可能性は2006年以降、いつにも増して高まっていると考えている。 レバノン人なら誰もが知っているように、イスラエルは意のままに、そしてあまりにも恒常的にレバノン領空を侵犯してきた。UNIFILは、今年最初の4カ月だけで131件の領空侵犯を報告し、そのすべてが国連安全保障理事会決議1701に違反していたと述べている。イスラエルは3月、過激派が国境を越え、メギド近郊の道路沿いに爆弾を仕掛けたと主張した。そして4月初旬、イスラエル軍は、ハマスがイスラエルに向けて34発のミサイルを一斉発射したと非難した。その後、イスラエル機は、レバノンのティール南部にあるパレスチナ難民が居住するラシディヤ・キャンプ付近の3カ所を攻撃した。

 5月と6月、ヒズボラはブルーラインの反対側100フィート(約30メートル)の場所に2つのテントを設置した。ヒズボラの指導者であるハッサン・ナスラッラー師は、イスラエル、レバノン、シリアの国境の交差点に位置し、ブルーラインが2つに分かれているガジャール村の一部をイスラエルが封鎖したことに抗議してテントを建てたと主張した。イスラエル軍は、UNIFILが退去を要請したにもかかわらず、2006年に占領した村の北部から一度も撤退していない。イスラエルは国境のインフラを強化しているが、ヒズボラも存在感を高めている。
 イスラエルとヒズボラはシリア国内でより直接的に対立している。
 クリス・ドイル
 イスラエルとヒズボラはシリア国内でより直接的に対立している。イスラエルは、イランからレバノンのシーア派組織へのハイテク兵器の移転に関与しているとイスラエルが主張するシリア国内の拠点を頻繁に爆撃している。ヒズボラがそれを快く思うわけがない。しかし、どの当事者にとっても失うものが多い。レバノンもしくはイスラエルに、戦争をする余裕があるのか。ヒズボラ、シリア政権、イランはどうか。

 イスラエルもレバノンも、国内の広範な政治的混乱に直面している。イスラエルは過去31週間、イスラエル史上紛れもなく最も過激で暴力的で反民主的な連立政権が推し進める司法改革に反対する大規模な抗議デモに耐えてきた。パイロットを含むイスラエルの予備兵たちは兵役を拒否している。

 ヒズボラや他のグループがイスラエルを弱い標的と見なすのは賢明ではないだろうが、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエルに再びもたらした混乱を利用しようと考える者が出てくるかもしれない懸念がある。ネタニヤフ氏といえども、リスクを考慮すれば、国民の気をそらすためのレバノンへの攻撃はためらうかもしれない。イスラエルにとってガザは、これまでずっと、この点ではるかにリスクの少ない攻撃対象だった。

 ヒズボラについては、イスラエルの出来事に細心の注意を払っているのは確かだ。ナスラッラー師は、自身の見解を臆面もなく語り、イスラエルは「崩壊、分裂、消滅への道を歩んでいる」と主張した。ヒズボラがテントを設置したのは、イスラエルの意思を試すためだったのだろうか。


 レバノンは4年間、政治的、経済的、社会的危機に耐えてきた。そのことは先週、まだ誰も責任を問われていないベイルート港爆発事故から3周年を迎えたことで、痛々しいほど浮き彫りになった。10月末以来、レバノンでは大統領職の空席が続いている。国会は新大統領の選出に12回失敗している。レバノンには適切な政府だけでなく、大胆で思い切った、痛みを伴う改革が必要だ。

 国際社会はレバノンを支援する道筋を見いだせないでいる。経済状況は悲惨を極めており、政府は根本的な問題に対処することができない一方で、枯渇した外貨準備を食いつぶしている。レバノン人は、失業率の急増、食料や医薬品の深刻な不足、日常的な停電に直面している。世界食糧計画(WFP)によると、レバノンの食料価格のインフレ率は350%と世界で最も高くなっている。

 その他の不安定要因としては、レバノンにいる150万人のシリア難民の将来が挙げられる。レバノン人は10年以上にわたって難民を受け入れ、信じられないほどの寛大さを示してきたが、レバノンのシリア政権支持者が反難民的な偏見を煽ることに熱心で、善意は枯渇しつつある。
 ヒズボラや他のグループがイスラエルを弱い標的と見なすのは賢明ではないだろう。  
 クリス・ドイル
 アイン・アル・ヒルウェにある最大の国連パレスチナ難民キャンプでの戦闘(現在の死者数は13人)も同様に、パレスチナ問題がレバノンで依然として根強いことを示している。相変わらず、何千人もの人々が戦闘で避難し、いつ戻れるか分からない状態だ。ハマスによるロケット弾攻撃が示しているように、パレスチナのグループも国境での敵対行為に関与する可能性がある。

 イスラエルとレバノンが昨年署名した重要な海上国境協定も、紛争が起きた場合のリスクを高める変化だ。双方の多くが強い疑念を抱いていたが、合意に至った。協定のメリットは大きい。というのも、大規模なガス田は、レバノンが盲目的に陥った深い穴から抜け出すのに役立つかもしれないためだ。

 レバノンの情勢は緊迫している。ほとんどのレバノン人は、国境をめぐる出来事に対して、自分たちにはどうすることもできないと感じている。「私たちは無力だ。私たちの運命は相変わらず他者の手に委ねられている」と、あるレバノンの学者は私に言った。これは、よく耳にする意見だ。イスラエルとヒズボラの対立はどのような影響を及ぼすのだろうか。あらゆることが、破壊と人命の損失が、1000人以上のレバノン人と159人のイスラエル人が命を落とした2006年7月の34日間の戦争よりもはるかにひどいものになるだろうということを示している。

 イスラエルの指導者たちは一貫して、ヒズボラとの将来的な戦争を躊躇しないと明言している。歴代の政治的・軍事的指導者が脅してきたように、イスラエルはレバノンをはるかに激しく攻撃する可能性があるが、イスラエル当局者でさえ、ヒズボラの能力が大きな進歩を遂げたことを認めている。イスラエルは、ヒズボラが2006年にはわずか1万5000発だったロケット弾を今では約13万発保有しており、イスラエル全土の標的を攻撃できると計算している。とはいえ、シリアとイランの政権に代わってヒズボラがシリアに関与したことで、ヒズボラの地域的地位は損なわれた。2006年、ヒズボラは、敵対勢力を困惑させ、多くの人々に英雄的に描かれた紛争から離脱した。今日、ヒズボラははるかに二極化している。

 論理的に考えれば、互いに損をすることは確実であり、従って、戦争はいかなる当事者にとっても望むべきものではない。イランでさえ、万一イスラエルがヒズボラを攻撃するようなことがあった場合、ヒズボラを介した対応能力を失うリスクを冒したくはないはずだ。

 軍事的勝利が戦略的な政治的勝利につながるかどうかは、まったく分からない。しかし、この国境が緊迫するたびに、人々は偶発的な戦争を懸念する。賢明な頭脳が冷静さと統制を保てば、こうした緊張は収まるかもしれないが、あまりに多く存在する感情的で短絡的な人々が、考えられないようなことをする可能性は十分にある。

 クリス・ドイルは、ロンドンを拠点とするアラブ英国理解評議会のディレクター。エクセター大学でアラブ・イスラム研究の第一級優等学位を取得し、1993年から同評議会に所属している。これまでに数多くのアラブ諸国への英国議会代表団の取りまとめ、および同行を行っている。Twitter: @Doylech
 多大なる犠牲を払ったイラク介入を絶対に繰り返してはならない

20年前の3月、イラクに戦争を仕掛けるという英国と米国が下した決断の結果が、それ以後、イラクと周辺地域を悩ませてきた。この戦争により、この2カ国の地位が低下し、米国は中東だけでなく世界全体への影響力を失った。

夢の世界の住人だけが、侵略とその後の占領が大失敗ではなかったと認めることができないでいる。戦争を支持した多くの人々は、大失敗だったと認めている。一部の政治家は、戦争を支持したことを後悔していると公に認めている。

イラク戦争の是非について、議論は尽きないかもしれない。この苦い過去の記憶が、イラクという国についての議論を汚してしまう。この議論を蒸し返すことは無意味である。さまざまな調査機関が私たちイラン国民のために調査を行っている。英国のチルコット報告書には、英米の失敗について、260万語に及ぶ分析の中で驚くべき批判を展開した。150ページに及ぶ報告概要は、じっくりと読む価値がある。

イラク戦争について、ある目新しさが際立っている。軍事行動に関するその後の意思決定を損ない、将来においても再び影響を及ぼす可能性があるのである。当然のことながら、議会は戦争に踏み切る際の発言力を高めてきた。

2003年の英国下院の議決は、議会が事前に戦争の許可を与えた史上初の出来事だった。これは、緊急事態を除き、軍事行動については下院で議論した上で議決すべきとして、先例となった。

英国やその他の国で選挙で選ばれた政治家は現在、このようなことにも判断を下さねばならない、厄介な義務を負っている。英国では、2011年のリビア、イラクのダーイシュ、そしてシリアに対する武力行使に賛成したが、2013年8月のシリアに対する武力行使は反対した。多くの国会議員がイラクについて賛否を表明することを負担だと感じている。国会議員はもう、イラクにおける差し迫った安全保障上の脅威を知らせる自国の首相に盲目的に従う覚悟を持たなくてもよい。

しかし、かつてないほど多忙な政治家が、どうすればイラク、リビア、シリアのような紛争地域を理解するために必要な時間を注ぎ込むことができるのか。国会議員がにわか仕立ての専門家にはなれない。率直に言って、国際問題、特に中東についての深い知識や理解で選出されたという議員はいない。そんな時代は遠い昔のことだ。政治家は有権者の関心事に時間を割かなければならないのである。政治の関心がますます局所的になっている。

2003年当時もそうだったが、間違いなく、この傾向は強まっている。明らかに、国会議員は効果的に行政を精査できず、壊滅的な結果を招いた。2002年10月、議会は武力行使を承認した。多くの人、とりわけ米国の多くの人が、イラクに民主主義を輸出すれば、イランやシリアのような周辺国にドミノ効果をもたらすことになるという、単純な考え方で、何年も前からイラク侵攻について考えを固めていた。イラクのサダム・フセイン政権が依然として、兵器開発の計画を進行させているという、基本前提に疑問を呈する人があまりにも少なかった。2003年当時、ウェストバージニア州の民主党のロバート・バード上院議員は、上院がイラクに関する議論にほとんど時間を割かなかったことを批判した。

イラクについて、最も激しく辛辣な議論が行われたのは英国議会であった。トニー・ブレア首相は議決を得ることができたが、その背景には、街頭で戦争反対の抗議をしていた何百万人もの国民の存在があった。

しかし、2002年から2003年まで長時間かけて行われた議論を見直すと、一つのことがはっきりと浮かび上がる。この時代を振り返ってみて、チルコット報告書でさえほとんど取り上げられていない、ある要因である。それは、イラクという国に対する関心や知識が驚くほど欠如していることだ。議論の中心は、大量破壊兵器の存在と正当性、アルカイダによるイラク政権への協力の有無だった。13年に及ぶ残酷な制裁と数十年にわたるサダム政権の支配の後も生き延びようとするイラク国民に何が起こるのか、考えられていなかった。

国会議員は効果的に行政を精査できず、壊滅的な結果を招いた。

クリス・ドイル

占領国になることについて、どこで議論がなされたのだろうか。米国と英国は数週間で、国連の役割について明確にせずに、主権国家を交戦国が占領することにしたのである。この占領には、2500万のイラク国民に対し、法的・倫理的に重大な責任が伴う。議論の中で支援についての言及はあったが、紛争後の統治については、仮にあったとしてもまれであった。米国と英国は一体、イラクをどのように統治するつもりだったのか。

略奪に遭ったイラク博物館など主要な施設のセキュリティについて、適切な計画が考えられていなかったのも、何ら不思議ではない。連合国暫定占領当局代表のポール・ブレマー氏が、イラク軍の解散やバース党員の排除の方針を決めたことは、米国や英国の議会で問題にされなかった。

イラク国民は侵略してくる軍隊を諸手を挙げて歓迎し、その到着を祝ってくれるだろうと、誰もが思い込んでいた。一部のイラク国民は歓迎した。しかし、占領軍が基本的なサービスを回復させることができなかったため、イラク国民の喜びはすぐに冷めてしまった。イラクの歴史を少しでも知っている人であれば、イラク国民は誇り高い国民であり、外国の占領下に置かれることを進んで受け入れないことは、自明であっただろう。当時、英国の野党のリーダーだったイアン・ダンカン・スミス氏は、「サダム・フセインがいなくなっても、誰も涙を流したりしないと断言できる」と語った。多くのイラク国民がサダム・フセインを敬愛していなかったかもしれないし、涙を流さないもっともな理由もある。しかし同時に、政権崩壊後に何がおきるのか、次の支配者が誰か、無政府状態の危険性についても恐れを抱いていた。

中東地域の専門家、特にアラブ支持者が多くのイラク国民と同じことを恐れていたが、無視された。2002年11月、6人の学者がブレア首相に対し、イラク占領がいかに困難であるかについて説明した。この6人を含む他の学者たちも、イランとシリアの両国が、英米の侵略と占領を徐々に損なうことが自国の利益になるとみなすようになると警告したが、結局、イランとシリア両国は極めて効果的に実行に移した。イランはイラクに固執した。政治家はまたしても、このような国家建設がいかに難しいのか、十分に理解できなかった。

イラクの専門家に相談したり、信頼したりできなかったのも特徴である。2003年当時、計略を隠そうともしないイラク人のアフマド・チャラビーのような人物に、あまりにも多くのイラク国民が心を奪われていた。サダム・フセインを嫌悪するイラク国民なら、イラク占領における複雑な問題を説明できる人が他にもたくさんいたはずだ。今もシリアの専門家は、自国のことが議論されているその場に同席していないのである。中東以外の大国は、その教訓を学ぶべきである。

しかしほぼ間違いなく、中東以外の大国の議会で行われた、介入についてのその後の議論は少しは改善されている。政治家たちは自らの責任を受け入れている。それが政治家にとっての重しとなっている。リビアについては、出口戦略や最終目標について、これまでより多くの疑問が投げかけられた。しかし、それでも不十分で、再び悲惨な介入を防ぐことはできなかった。その根底には、再び、ムアンマル・カダフィのリビアに対する深い理解が欠如していた。

もし米国や欧州の選挙で選ばれた政治家が、世界の他の地域への介入について議論し賛否を決めるのであれば、戦争の根拠を精査し、戦後についての計画を立てるために、適切な時間と労力と資源を割くことが、これらの国の議会の責務である。2003年の貧弱な議論と不十分な精査のために、イラク国民は途轍もない犠牲を払い、いまも犠牲を払い続けているのだ。このようなことを決して繰り返してはならない。

 クリス・ドイルは、ロンドンのアラブ・イギリス理解推進協議会(Council for Arab-British Understanding)の会長(director)である。

10.11日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と前国防相で野党「国家統一」を率いるベニー・ガンツ党首は、パレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの武力衝突に対応するため、抗議デモにまで発展した両者の激しい政治的対立を一時的に脇に置くことで合意し、国家緊急政府を樹立することを表明した。イスラエル首相府が発表した声明において、ネタニヤフ首相は「わが国の運命が危機に瀕しているため、われわれは他のあらゆる事項を脇に置き、イスラエル市民とイスラエル国家のため、肩を並べて協力する」と述べた。また、「われわれはあらゆる前線で全力で戦っている。世界がISを排除したように、われわれはハマスを排除する」、「ハマスのメンバーは全員「死人も同然」、同組織の一掃を期す」とした。

ガンツ党首は「戦争をする時が来た。今、われわれは皆、イスラエル国家の兵士なのだ。今こそ団結し、勝利する時だ。ハマスというものを地球上から抹殺する用意ができている」、「私は、イスラエルの全ての市民に向けて、敵は滅び、治安は回復し、われわれの英雄たちが倒れた殺戮(さつりく)の場は再建され、イスラエル国家全体が新たに栄え、強化されることを告げたい」と述べた。

なお、イスラエル国防軍(IDF)によると、10月13日現在まででハマスから6,000発以上のロケット弾が発射され、2,687弾が着弾し、少なくとも1,300人が死亡、3,200人以上が負傷している。ガザ側では、パレスチナ自治政府(PA)の保健省によると、12日午後10時30分時点で1,532人が死亡し、6,612人が負傷した。


 2023.10.12日「ハーバード学生団体がイスラエル非難声明 富豪ら「署名者は雇わない」と激怒
 パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの軍事攻撃について、米ハーバード大学の学生団体が責任は全面的にイスラエルにあるという主旨の声明を出し、米国で物議を醸している。著名投資家のビル・アックマンは10日、声明の主張に強い異議を唱え、賛同した学生は採用したくないとして、氏名の公表を求めた。

 ハーバード大の学生新聞「ハーバード・クリムゾン」によると、声明は「ハーバード学部生パレスチナ連帯委員会」という学生団体が7日に発表し、この団体のほか同大の33団体が署名している(編集注:同紙によると、賛同した団体のリストは安全上の懸念を理由に10日午後までに削除された)。ガザを「天井のない監獄」と呼びつつ、ハマスが同日に仕掛けた襲撃は「脈絡なく起きたことではない」とし、「責めを負うべきなのは(イスラエルの)アパルトヘイト(人種隔離)体制だけだ」などと訴えた。 声明では、ハマスの戦闘員がイスラエル南部に侵入したことで始まった暴力はイスラエル側に「全面的に責任がある」とも断じている。 米ヘッジファンドのパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの最高経営責任者(CEO)であるアックマンはX(旧ツイッター)で、「複数のCEO」から、署名した各学生団体の名簿を大学側は公表しないのだろうかと尋ねられたことを明かし、それは「わたしたちが彼らをうっかり雇ってしまうことがないようにするため」だと続けた。 サラダチェーンを運営する米スウィートグリーンのジョナサン・ネーマンCEOはこの投稿に、「こうした人たちは絶対に雇わないので自分も知りたい」と反応。米ヘルスケアサービス企業イージーヘルスのデービッド・デュエルCEOも「同感」と応じた。 このほか、米投資会社ダブヒル・キャピタル・マネジメントのジェイク・ワーザックCEOも、学生の名前を公表すべきだとするアックマンの主張に賛意を示した。ただ、支持一辺倒というわけではなく、米投資会社メッズ・ドットコムのスティーブン・サリバンCEOは「大学当局や教員に対しては怒るべき」としつつ、学生の氏名公表は控えるべきだとの考えを示している。
 ■大学側はハマス非難の声明
 声明は全米の注目を集め、企業経営者のほか一部の政治家らも反応している。共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は9日、「ハーバードはいったいどうしてしまったんだ」とXで反発した。 ハーバード大の学長も務めた経済学者のローレンス・サマーズは、学生団体の声明と大学側の対応を受けて「これほど幻滅し、疎外されたことはない」とXにつづった。声明の発表後、大学側がすみやかに対応をとらず沈黙したのは「ユダヤ人国家イスラエルに対するテロ行為に対して、よく言って中立」の立場であるという印象を与えたと批判した。

  ハーバード大のクローディン・ゲイ学長は10日、ハマスの「テロリストによる残虐行為」を「忌まわしいと」非難する声明を発表した。学生団体の声明には言及していないが、「学生団体はたとえそれが30集まっても、ハーバード大学やその指導部を代弁するものではない」とも強調した。一部の同大教員からも学生団体の声明を批判する声が上がっている。 今回の紛争による死者はこれまでにイスラエル側で1200人、ガザ側で1055人にのぼり、米国の民間人少なくとも22人も犠牲になっている。ジョー・バイデン米大統領や民主党の幹部もハマスの攻撃を強く非難している。

 2023.10.13日、TBS報道番組にイスラエル大使が大激怒『これは何だ?』連呼 ネット上では「国際問題」「子に罪はない」

 10.11日、BS―TBS「報道1930」にジャーナリスト、重信メイが、「中東やパレスチナ問題を長年取材しているジャーナリスト」という紹介で出演した。「メイ氏はレバノン・ベイルート生まれで、母親は2022年5月に出所し、話題になった元日本赤軍リーダーの重信房子氏。父はパレスチナ人活動家です。日本赤軍は1972年、イスラエルの空港で旅行客らに自動小銃を乱射し、24人が死亡する事件を起こしている。身を隠しながら生活していた房子氏の影響で、長年、無国籍状態でしたが、2001年に日本国籍を取得。同年4月に初めて、日本に入国して以降、ジャーナリストとして活動を始めました」(国際担当記者)

 11日の放送では、メイ氏は「パレスチナ人はなんで武器を持っていることがいけないの?」という疑問を呈したうえで、パレスチナが弾圧されてきた歴史を説明。「イメージがわかないと思うが、例えて言うと、要は日本で、学校でいじめる子がいたら、常に常に毎日のようにいじめられていじめられていじめられている子が、やっと初めてやり返したら、それに対して焦点が当たったような感じ」、「パレスチナの場合は“抵抗”ではなくて、テロになってしまうことが問題」などと発言した。番組冒頭に、現在の戦闘状況について聞かれた、慶応大学教授の田中浩一郎氏、笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄氏らほかのコメンテーターが、1分程度のコメントだったのに対して、メイ氏は約4分にわたりコメントを述べていた。 「番組としても『“天井のない監獄”ガザ地区の現状』と題して、パレスチナ側の悲惨な実態をクローズアップする内容になっていました。そのため、パレスチナ側を全面擁護するメイ氏のコメントが番組全体でも多く占めるようになっていました」(前出・国際担当記者)。
 メイ氏の起用についてSNSで疑問の声があがった。 《日本赤軍の指導者重信房子の娘として生まれ、その思想を色濃く受け継いだ重信メイをゲストに招いてイスラエル批判させる程度には本邦マスコミは左翼過激派のシンパに牛耳されていた》 《テロリスト重信房子の娘の重信メイをジャーナリストとして出演させるのがTBSです》 《重信メイさんは、重信房子の娘さん。自分の母親のテロが正義だと考えている人を番組に迎えたTBS》

 10.15日、ネタニヤフ首相は、与党と野党党首らが連携して発足させた戦時下の「挙国一致内閣」を初めて招集。ネタニヤフ首相 「(兵士たちは)再び我々を殺そうとする血まみれの怪物を根絶やしにするために行動する準備ができている」。大規模な侵攻を改めて強く示唆した。
 アメリカのバイデン大統領はイスラエルがガザ地区を再び占領することについて「大きな過ちだ」と述べた。バイデン大統領 「(ガザの再占領は)大きな過ちだと思う。私の考えでは、ハマスやその他の過激派はパレスチナの人全員を代表している訳ではない」。一方で、ハマスについては「排除されなければならない」との考えを示した。バイデン大統領について、アメリカのニュースサイト「アクシオス」などは、近日中にイスラエルを訪問することを検討していると報じてい。。

 2023.10.16日、「血まみれの怪物を根絶やしにする準備できている」イスラエルのネタニヤフ首相 大規模侵攻を示唆。10日目に入ったイスラエルとイスラム組織「ハマス」の衝突。イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスを「根絶やしにする」と述べ、ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を改めて強く示唆しました 15日もイスラエル軍によるハマスへの報復攻撃が行われたパレスチナ自治区ガザ。死者は2700人以上に上っています。 一方のイスラエル側でも… 記者(15日) 「ハマス側から撃たれてきたロケットを今、迎撃しています」 。この日もハマスの攻撃が。イスラエル側の死者は1400人に達し、犠牲者は双方合わせ、4100人を超えました。 それぞれが攻撃を続けるイスラエルとハマス。イスラエルは近く、ガザへの地上侵攻に踏み切ろうとしていて、15日、ネタニヤフ首相は強い言葉で侵攻を改めて示唆しました。


 イスラエル ネタニヤフ首相 「(兵士たちは)再び我々を殺そうとする血まみれの怪物を根絶やしにするために行動する準備ができている」。イスラエル南部・スデロット。JNNのクルーが訪れた15日も、ハマスの攻撃がありました。この一帯には、衝突が始まってからハマスのロケット弾900発以上が飛来。120発ほどが着弾し、市民2人が犠牲になりました。 一方で… 記者 「今、煙が上がりました。そして大きな音、またガザに今、攻撃がありました。煙がこちら側に流れてきていますが、焼け焦げた臭いも感じます」。ガザでは、この日もイスラエル軍の報復攻撃が続き、救助活動が行われていました。すでに100万人が家を失ったとされるなど、人道危機は深刻に。南部にいる国連機関の職員は… ガザ南部にいるUNRWA職員 「ガザを助けて下さい。お願いですからガザを助けて。ガザは死にかけているんです」。国連機関によりますと、ガザではイスラエルが電力と燃料の供給を止めたことで停電も続き、病院では非常用電源の燃料がまもなく底を尽くということです。 そして、イスラエルが近く踏み切ろうとしているのが、ガザに対する地上侵攻。

 イランの外相は、イスラエルが地上侵攻の準備を進めるなか、ガザ地区への残虐的な攻撃が続けばイランが直接関与する可能性を示し、イスラエルに警告しました。ロイター通信によると、イランのアブドラヒアン外相は「ガザ地区での残虐行為を止めなければ、イランは傍観者ではいられなくなる」と述べ、イスラエルに警告した。イスラエルを支援するアメリカに対しては、「戦争が拡大すれば、アメリカにも大きな損害が及ぶだろう」と牽制(けんせい)した。アブドラヒアン外相は14日、国連の中東和平特使との会談で、「イスラエルがガザへの地上侵攻を実行に移せば対応せざるを得ない」と述べ、イランが直接関与する可能性に言及した。ハマスの指導者とも会談し、イスラエルへの攻撃について「歴史的な勝利だ」と称賛した。




(私論.私見)