イルミナティの創始者であるヴァイスハオプトは非常にカリスマ性があり、何人も彼の話を聞くと、強い共感を覚えたといわれます。彼はその時点で既に大きな組織になっていた秘密結社フリーメーソンのあるロッジに自ら入会するのです。「組織を支配しようと思うなら、内部に入るべし」というユダヤ人の考え方の実践といえます。ヴァイスハオプトの強烈な個性と巧みな説得力はその組織のなかでめきめきと頭角をあらわし、押しも押されぬこのロッジの中心人物にのし上ったのです。このようにして、ヴァイスハオプトは、メーソンの組織内部にイルミナティ派を増やしていき、事実上ロッジを支配するようになっていたのです。
この動きをメーソンの本部は放っておかず、会員に命じていろいろな手を打ったのですが、既にメーソン内部でイルミナティの勢力は既にゆるぎないものになっていたのです。 1782年7月16日にイルミナティとフリーメーソンの間で会談が行われ、協議の結果、イルミナティは正式にフリーメーソンの中のひとつの派とすることになったのです。しかし、これはヴァイスハオプトの巧みにして、強引な説得力の賜物であり、イルミナティとの合併に強く反対するフリーメーソンの会員は少なからずいたのです。
その一方でイルミナティが加わったことで、フリーメーソンの会員は300万人を超える大組織になり、著名にして有望な会員が次々とイルミナティの思想に取り憑かれるような事態になっていったのです。とくに感受性の強い学者や作家、芸術家などがイルミナティの魅力に取り憑かれたといわれます。その1人がゲーテなのです。ゲーテは晩年、「ファウスト」によってドイツ文学の金字塔を築いたのですが、その作品はイルミナティ的な神秘主義をロマン主義文学に託したものなのです。
イルミナティとの合併以前からのフリーメーソンのメンバーでゲーテと同様にロマン主義文学者である哲学者のジャン=ジャック・ルソーもイルミナティに共感を抱き、その自由思想によってフランス革命に霊感を与えたといわれています。フランス革命といえば、経済的自由主義者として中心となって働いたオノーレ・ミラボーも、イルミナティに強い共感を覚えたフリーメーソン・メンバーとして知られています。
しかし、イルミナティはその思想があまりに過激であるために反発し警戒するフリーメーソンの穏健派のメンバーも多く、イルミナティ派の動きには強い批判も多かったのです。1783年のことです。イルミナティ派の一部が、時の政府と教会の崩壊を狙ってテロによる軍事行動を起こすクーデター計画があるという内部告発を受けて、バヴァリア政府が調査に乗り出したのです。 そして政府に動かぬ証拠を掴まれたイルミナティは、1785年3月2日に活動停止処分なり、ヴァイスハオプトは国外追放されたのです。これによってイルミナティは、フリーメーソンからはもちろん地上から完全に消滅したかに見えたのです。
秘密結社の研究家によるイルミナティについての一般的見解は次のようなものです。
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イルミナティは、陰謀史家のとり憑かれた頭の中の妄想としてしか存在しないような秘密結社である。彼らは、私たちすべての生活は、ある秘密のエリートたちによって支配されているという恐ろしいセオリーを成立させるために、ありとあらゆるものを動員しているのだ。――ニック・ハーディング
――海野弘著、『秘密結社の世界史』
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しかし、現在ではイルミナティは大きく変質しているのです。現在イルミナティは「三百人委員会」というエリート・グループに支配されており、その目的は「ニュー・ワールド・オーダー/世界秩序」をつくることであるといわれます。この新しいイルミナティ観に火をつけたのは、女性の陰謀史家とされるネスタ・H・ウェブスターの次の本です。
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ネスタ・H・ウェブスター著/馬野周二訳 『世界革命とイルミナティ』
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ウェブスターによると、フランス革命からロシア革命にいたるまですべてイルミナティの仕業であるというのです。現在、多く出版されている、いわゆる陰謀論のネタ本のひとつです。このように、もともとあったフリーメーソンという秘密結社にイルミナティという一派が入り込み、一体化したのです。すぐイルミナティ派は犯罪を計画して姿を消したのですが、フリーメーソンにはイルミナティ的な因子が多く残されているのです。したがって、フリーメーソンを語るとき、本来のフリーメーソンについて語るか、イルミナティ的なフリーメーソンを語るかによって、その内容は大きく異なってくるのです。
フリーメーソンについて書かれた本もどちらに重点を置いて書くかによって違ってきます。少しでも面白く書こうとすると、次の図式に重きを置くようになります。
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ユダヤ = イルミナティ =フリーメーソン
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私はフリーメーソンには、これらの両面があると考えるべきであると思っています。そのためには、イルミナティについても詳しく知る必要はあるのです。そういう意味からウェブスター女史の所説も取り上げたいと思います。 ・・・・・[秘密結社12]
≪画像および関連情報≫・ネスタ・H・ウェブスター女史について
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ネスタ・H・ウェブスター女史は、大英帝国の最盛期、ヴィクトリア女王時代の富豪である父と、大僧正の娘である母との間に生れた、奇しき運命の子である。世人が全く知るところがない、近代西洋世界を暗黒の中から動かしてきた秘密結社の正体を、女史の霊眼は余すところなくここに剔抉した。本書は単に過去の分析をもって終るものではない。90年代を再び暗黒に鎖すべく活動するイルミナティの危険。女史が幽界から打ち鳴らす警鐘を、読者は聞くことが出来るだろうか。本書は1921年初版、1961年女史の死の直前に第6改訂版が出され、今日なお幾種類かの翻刻版が出回っている。 http://item.rakuten.co.jp/book/418931/
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