手洗い考

 更新日/2020(平成31→5.1栄和改元/栄和2).3.3日

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「コロナウィルス考」をものしておく。

 2011.03.21日 れんだいこ拝



 新型コロナでも最重要となる170年前の気づき 悲劇の医師「手洗いの父」の末路


大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたかについて、独自の視点で分析する。今回は産科医であり「手洗いの父」ゼンメルワイスを「診断」する。

*  *  *

 コロナウイルス・パンデミック、特に母子感染がにわかに注目を集めるようになったこの数週間、あちこちから御座敷がかかるようになってきた。産婦人科の世界でメジャーな分野は、がん治療を行う腫瘍(しゅよう)学や周産期医療、そして生殖医療である。しかし、へそ曲がりな筆者が産婦人科の中でもマイナーな母子感染と感染免疫を専攻するようになったきっかけは、半世紀近く前に読んだ一冊の本である。

 亡父(もともとは細菌学者で、後に臨床に転じて産婦人科医)が、中学生だった筆者に「これを読んでみたら」と渡してくれたのが『外科の夜明け』(トールワルド著、塩月正雄訳)という文庫本だった。ひと言で言うと「ゼンメルワイス医師が手洗いを広めて産褥熱(さんじょくねつ)が激減した経緯と、なかなか世に認められなかった彼の悲劇」である。

■消毒薬による手洗い

 私たちが、安全に苦痛なく手術を受けられるようになって、まだ200年も経っていない。痛みを制御する麻酔と、感染を制御する無菌法はいずれも19世紀半ばの発明である。感染の予防や制御には20世紀の抗生剤の発見や、様々なワクチンの開発がさらに大きくかかわってくる。

 18世紀までは、瀉血(しゃけつ)や水銀など怪しげな薬物療法が支配していた西洋医学をして、鍼灸と漢方薬主体の東洋医学(もちろんこれはこれで意味があるが)に対する圧倒的な優位をもたらした立役者が、ハンガリーの産科医イグナーツ・ゼンメルワイスである。

 ゼンメルワイスは、オーストリア帝国の属国であったハンガリーの首都ブタペストに1818年生まれた。小売業で成功したドイツ系商人というあまり学問とは縁のない中産階級出身だったが、努力家のゼンメルワイスは、当時帝国の最高学府であったウィーン大学で法学を学び、後に医学部に転じて1844年に博士号を取った。しかし人気のある内科には入れず、当時は助産婦の仕事と思われていた産婦人科を専門とし、2年後にはウィーン総合病院第一産院のヨハン・クライン教授の助手となった。

 当時、ウィーン総合病院には二つの産科があり、医学部学生が実習をしていた第一産科では、産婦の10%以上が産褥熱により死亡していた。一方で、助産婦が訓練を受けていた第二産科の死亡率は4%であった。ゼンメルワイスは病棟の込み具合や関与する医療スタッフの数、換気状態などをしらみつぶしに調べていたが、友人の病理学者ヤコブ・コレチカが産褥熱で死亡した患者の剖検中に誤ってメスで指を傷つけ、その後自身が産褥熱に似た症状で死去したことから、死体から目に見えない微粒子が侵入したという仮説を立てた。第一産科の研修医たちはがんの患者を診察し、亡くなった患者の遺体を解剖し、同時に分娩管理をしていたのに対し、第二産科の助産婦の卵たちは妊婦しか診なかったからである。

 彼は、これを解決するため、診察の前後に汚水処理に使われていたさらし粉(次亜塩素酸カルシウム)後には、昇汞(しょうこう。塩化水銀)を使って手を洗浄することを始めた。その結果、第一産科の死亡率は1847年4月の時点で18.3%だったのが、わずか3カ月後の7月には1.2%に激減した。それまでも研修医は手を洗ってはいたが、洗い方はおざなりで、前掛けや手ぬぐいで繰り返しぬぐっていただけなのである。

■先駆者の悲劇

 しかし、ゼンメルワイスは20年後に石炭酸(フェノール)による手術野の消毒で世界的名声を得たイギリスの外科医ジョゼフ・リスター卿とは対照的に、世間や医学界に受け入れられることはなかった。上司であるクライン教授に無視されただけでなく、病理学の大御所、フィルヒョウ教授にも嫌われた。そうして、ウィーン大学の職を追われたゼンメルワイスは、当時は田舎大学だったブタペスト大学(現在では彼の名を冠したゼンメルワイス大学というハンガリー最高学府)に職を得たのだった。

 ここでも多くの医師たちには受け入れられなかったが、頑固に「手洗い」を勧め、当然ながら産褥熱や他の感染症を激減させた。が、不幸にして病を得て1865年、47歳の若さでなくなった。晩年は精神を病み、院内で看護士に暴行を受けた創傷感染とも神経梅毒が原因であったともいわれるが、詳細はわからない。トールワルドの本では、最後に診た産褥熱患者からの院内感染としているが、亡くなる前の数カ月は入院していたのでこれは著者の脚色であろう。

 一般には、あまりに時代に先駆けた医師の悲劇として片づけられることが多い。しかし、ゼンメルワイス自身もちゃんとした論文を書かず、センセーショナルな一般書や公開質問状で当時の医学者たちを非難するなど、科学者にあるまじき感情的な行動をとっている。身分制度が厳しいハプスブルク帝国で、属国のハンガリー出身で、加えて親類縁者に医師や大学教授がいるわけでもなく、科学や哲学を冷静に討論する友人にも恵まれなかったのが、彼を不幸にしたのかもしれない。

 20年後には、パスツールやコッホが病原細菌を顕微鏡で観察して培養に成功し、これらの性質を明らかにしたり、治療薬を開発した北里柴三郎や秦佐八郎は異邦人の留学生だったが学会で高い評価を受けたりしている。この違いは、論文を書いたかそうでないかということに尽きる。これこそが、筆者が学生や院生に臨床でも基礎研究でも新しい発見をしたら「論文にせよ」と教える根拠である。

 昨今、あちこちで手洗いを勧めながら、ゼンメルワイスと本を勧めた父の霊よ安かれと思う毎日である。

◯早川 智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

※AERAオンライン限定記事

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『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたかについて、独自の視点で分析する。今回は産科医であり「手洗いの父」ゼンメルワイスを「診断」する。

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 コロナウイルス・パンデミック、特に母子感染がにわかに注目を集めるようになったこの数週間、あちこちから御座敷がかかるようになってきた。産婦人科の世界でメジャーな分野は、がん治療を行う腫瘍(しゅよう)学や周産期医療、そして生殖医療である。しかし、へそ曲がりな筆者が産婦人科の中でもマイナーな母子感染と感染免疫を専攻するようになったきっかけは、半世紀近く前に読んだ一冊の本である。

 亡父(もともとは細菌学者で、後に臨床に転じて産婦人科医)が、中学生だった筆者に「これを読んでみたら」と渡してくれたのが『外科の夜明け』(トールワルド著、塩月正雄訳)という文庫本だった。ひと言で言うと「ゼンメルワイス医師が手洗いを広めて産褥熱(さんじょくねつ)が激減した経緯と、なかなか世に認められなかった彼の悲劇」である。

■消毒薬による手洗い

 私たちが、安全に苦痛なく手術を受けられるようになって、まだ200年も経っていない。痛みを制御する麻酔と、感染を制御する無菌法はいずれも19世紀半ばの発明である。感染の予防や制御には20世紀の抗生剤の発見や、様々なワクチンの開発がさらに大きくかかわってくる。

 18世紀までは、瀉血(しゃけつ)や水銀など怪しげな薬物療法が支配していた西洋医学をして、鍼灸と漢方薬主体の東洋医学(もちろんこれはこれで意味があるが)に対する圧倒的な優位をもたらした立役者が、ハンガリーの産科医イグナーツ・ゼンメルワイスである。

 ゼンメルワイスは、オーストリア帝国の属国であったハンガリーの首都ブタペストに1818年生まれた。小売業で成功したドイツ系商人というあまり学問とは縁のない中産階級出身だったが、努力家のゼンメルワイスは、当時帝国の最高学府であったウィーン大学で法学を学び、後に医学部に転じて1844年に博士号を取った。しかし人気のある内科には入れず、当時は助産婦の仕事と思われていた産婦人科を専門とし、2年後にはウィーン総合病院第一産院のヨハン・クライン教授の助手となった。

 当時、ウィーン総合病院には二つの産科があり、医学部学生が実習をしていた第一産科では、産婦の10%以上が産褥熱により死亡していた。一方で、助産婦が訓練を受けていた第二産科の死亡率は4%であった。ゼンメルワイスは病棟の込み具合や関与する医療スタッフの数、換気状態などをしらみつぶしに調べていたが、友人の病理学者ヤコブ・コレチカが産褥熱で死亡した患者の剖検中に誤ってメスで指を傷つけ、その後自身が産褥熱に似た症状で死去したことから、死体から目に見えない微粒子が侵入したという仮説を立てた。第一産科の研修医たちはがんの患者を診察し、亡くなった患者の遺体を解剖し、同時に分娩管理をしていたのに対し、第二産科の助産婦の卵たちは妊婦しか診なかったからである。

 彼は、これを解決するため、診察の前後に汚水処理に使われていたさらし粉(次亜塩素酸カルシウム)後には、昇汞(しょうこう。塩化水銀)を使って手を洗浄することを始めた。その結果、第一産科の死亡率は1847年4月の時点で18.3%だったのが、わずか3カ月後の7月には1.2%に激減した。それまでも研修医は手を洗ってはいたが、洗い方はおざなりで、前掛けや手ぬぐいで繰り返しぬぐっていただけなのである。

■先駆者の悲劇

 しかし、ゼンメルワイスは20年後に石炭酸(フェノール)による手術野の消毒で世界的名声を得たイギリスの外科医ジョゼフ・リスター卿とは対照的に、世間や医学界に受け入れられることはなかった。上司であるクライン教授に無視されただけでなく、病理学の大御所、フィルヒョウ教授にも嫌われた。そうして、ウィーン大学の職を追われたゼンメルワイスは、当時は田舎大学だったブタペスト大学(現在では彼の名を冠したゼンメルワイス大学というハンガリー最高学府)に職を得たのだった。

 ここでも多くの医師たちには受け入れられなかったが、頑固に「手洗い」を勧め、当然ながら産褥熱や他の感染症を激減させた。が、不幸にして病を得て1865年、47歳の若さでなくなった。晩年は精神を病み、院内で看護士に暴行を受けた創傷感染とも神経梅毒が原因であったともいわれるが、詳細はわからない。トールワルドの本では、最後に診た産褥熱患者からの院内感染としているが、亡くなる前の数カ月は入院していたのでこれは著者の脚色であろう。

 一般には、あまりに時代に先駆けた医師の悲劇として片づけられることが多い。しかし、ゼンメルワイス自身もちゃんとした論文を書かず、センセーショナルな一般書や公開質問状で当時の医学者たちを非難するなど、科学者にあるまじき感情的な行動をとっている。身分制度が厳しいハプスブルク帝国で、属国のハンガリー出身で、加えて親類縁者に医師や大学教授がいるわけでもなく、科学や哲学を冷静に討論する友人にも恵まれなかったのが、彼を不幸にしたのかもしれない。

 20年後には、パスツールやコッホが病原細菌を顕微鏡で観察して培養に成功し、これらの性質を明らかにしたり、治療薬を開発した北里柴三郎や秦佐八郎は異邦人の留学生だったが学会で高い評価を受けたりしている。この違いは、論文を書いたかそうでないかということに尽きる。これこそが、筆者が学生や院生に臨床でも基礎研究でも新しい発見をしたら「論文にせよ」と教える根拠である。

 昨今、あちこちで手洗いを勧めながら、ゼンメルワイスと本を勧めた父の霊よ安かれと思う毎日である。

◯早川 智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員

研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

※AERAオンライン限定記事


 2020.4.10日、毎日新聞/佐藤慶「次亜塩素酸水 手指消毒の有効性は「未確認」 政府答弁書」。
 政府は10日の閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、品薄となっているアルコール消毒液の代わりに使われることのある「次亜塩素酸水」について、「現時点では手指の消毒に活用することについての有効性が確認されていない」とする答弁書を決定した。立憲民主党の早稲田夕季衆院議員の質問主意書に答えた。次亜塩素酸水は、塩酸や食塩水を電気分解してつくられ、調理器具の洗浄消毒などに使われる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うアルコール消毒液不足を受け、住民に無償配布を始めた自治体もある。政府は答弁書で、現時点で有効性が確認されていないことを指摘。アルコール消毒液の不足には「厚生労働省、経済産業省が作製したポスターで『手洗いを丁寧に行うことで、十分にウイルスを除去できる。さらにアルコール消毒液を使用する必要はない』などの内容を示すなどしている」と答えた。

 2020.4.10日、「北海道のグループホームでクラスター 70代女性が死亡 」。
 北海道千歳市のグループホーム「ぬくもりの里」でクラスター(感染者集団)が発生していた。8日に入居者2人の感染が判明していたが、新たに9日、入居者6人と介護していた職員1人の感染が確認された。先に感染が判明していた2人のうち、70代の女性が死亡した。運営するサンボウ(札幌市)の小林正樹代表によると、ホームは3階建てで、1階と2階にそれぞれ認知症の9人が入居。感染した入居者8人はいずれも、1階で暮らしていた。今のところ、2階の入居者は感染が確認されていない。食事や身の回りの世話は介護職員15人が交代であたり、感染した女性職員は基本的に1階で働いていた。各階には個室が9室あるが、入居者は各階の共用スペースで食事をしたりテレビを見たりして過ごすことが多かった。冬場は風邪やインフルエンザの心配があり、外出することはほとんどないという。

 ホームは2月20日ごろから、家族らとの面会を制限し、4月1日から全面禁止にしていた。道は、入居者は3月中に外部からの接触で感染したとみて、職員に加え、入居者の家族や出入り業者にも対象を広げて検査する。ただ、職員は出勤前に検温し、勤務中はマスクを着けていた。頻繁に消毒し、「室内に消毒液の臭いが漂うほどだった」という。

 死亡した70代の女性は3月29日、高熱を発した。その後、同じ1階の入居者が相次いで発熱した。女性職員は4月に入って症状を訴えたため、自宅待機していた。いずれも軽症という。1階と2階の入居者はイベントなどで一緒に外出するほかは交流がほとんどなかった。

 小林代表は「職員一丸となって頑張ってきたが、このような事態となり心が痛み、言葉がない。関係機関の指導を受けながら残された方の生活を守っていきたい」と話した。

 道高齢者保健福祉課によると、道内のグループホームは計998カ所。このうち札幌市に262カ所、旭川市に83カ所、函館市に48カ所ある。道は、グループホームを含む社会福祉施設などの利用者や家族に対し、37・5度以上の発熱がある場合の面会を控えることや、面会時間を最小限にすることを通知している。(志田修二、斎藤徹)

 ◇

 〈グループホーム〉 介護が必要な認知症高齢者のための共同生活住居。職員が入浴や排泄(はいせつ)、食事などの介護や、日常生活の世話をする。室内は、個室と、共同のトイレや浴室、食事などができる共用空間からなる。


 4.12日、「過敏症? 「アルコール消毒液」で手にかゆみや発疹、原因や対処法は?」。
 アルコール消毒は大切だが…

 新型コロナウイルスの感染拡大で「アルコール消毒液」が多用される中、体質的にアルコールを苦手とする人たちが苦しんでいます。消毒液に触れた手にかゆみを感じたり、発疹が出たり、重い場合には呼吸困難に陥る恐れもあるようです。これらの症状が出る人は「アルコール過敏症」「アルコールアレルギー」であるとも言われていますが、どのように対応すればよいのでしょうか。アヴェニュー表参道クリニックの佐藤卓士院長(皮膚科・形成外科)に聞きました。

 考えられる3つのパターン
Q.アルコール消毒液で、皮膚に異常が発生するのはなぜでしょうか。
佐藤  「アルコール消毒液に触れて赤くなったり、かゆくなったりするのは、その人が(1)いわゆる『アルコール過敏症』の場合(2)『アルコールアレルギー』による接触性皮膚炎を起こしている場合(3)アルコールの刺激で物理的な接触性皮膚炎を起こしている場合――が考えられます。アルコール過敏症は、お酒が飲めない『アルコール不耐症』のことをいいます(ここでいう『アルコール』はエタノールのこと)。アルコールを飲むと、顔や体の皮膚が赤く火照ったり、頭痛、動悸(どうき)、吐き気、嘔吐(おうと)などの症状が出たりする人ですが、消毒用アルコールに触れることでも、皮膚の発赤やかゆみが出現することがあります。原因は、アルコールの分解に関わる酵素の活性が遺伝的に低いことです。人間が摂取したアルコールは、肝臓でアルデヒドという物質に変化しますが、このアルデヒドがさまざまな症状をもたらします。アルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素により無害な酢酸となり、最終的に二酸化炭素と水に分解されます。アルコール過敏症は、アルデヒド分解酵素の活性が遺伝的に弱いか欠けていて、原因となるアルデヒドの分解がゆっくりであるため、症状が出やすくなります。アルデヒド脱水素酵素は皮膚にも存在していて、皮膚についたアルコールは皮膚で分解されます。アルコール過敏症の人がアルコールに触れると、アルコールの分解過程でアルデヒドが皮膚にたまり、毛細血管を拡張させるため、赤みやかゆみの症状が出るようになります。ただ、アルコール過敏症の人でも、皮膚に症状が出ない人もいます。酵素の活性の程度によると考えられます」。
Q.アルコールアレルギーの人は、どのようにして発症するのでしょうか。
 「アルコールアレルギーの場合は、アルコールがアレルゲン(アレルギー原因物質)となり、体内で過剰な免疫反応が起こり、さまざまな症状を引き起こします。発赤やかゆみが出る軽度の接触皮膚炎から、全身のじんましん、呼吸困難やアナフィラキシーショックといった重篤な症状が現れる可能性もあります。アレルゲンの量に関係なく、少しでもアルコールに触れたら、じんましんや呼吸困難などが現れる可能性があります。なお、アルコールアレルギーとアルコール過敏症は同じものではありません。アルコール過敏症の場合は、アルコールに触れる量が多くなるほど症状が強くなります」。
Q.「アルコールの刺激で物理的な接触性皮膚炎を起こしている場合」はどのような原因なのでしょうか。お酒に強い人でも症状が現れるのですか。
 「皮膚に接触した刺激物質が皮膚の中に侵入して炎症を起こすと、皮膚炎(かぶれ)が生じます。原因となる刺激物質は、日用品、化粧品全般、植物、食物、金属、医薬品などさまざまです。これはお酒に強い弱いに関係なく、また、アレルギーにも関係なく症状が起こり得ます」。
Q.医療機関を受診すべき目安はありますか。
 「(1)(2)(3)のいずれの場合でも、アルコール消毒を頻繁に使用して湿疹になり、悪化した場合は、皮膚科を受診して治療を受けた方がよいでしょう」。
Q.アルコール消毒液で手が荒れるなどして、「もしかしたらアルコール過敏症かもしれない」「アルコールアレルギーかもしれない」と思った人が、自己診断する方法はありますか。
 「アルコール過敏症かどうかは、自宅でできる簡易的なパッチテストが目安になります。消毒用アルコール数滴を染み込ませたばんそうこうを7分間、上腕の内側に貼り、剥がして10分後に肌の色を見ます。はがした直後に肌が赤くなっていれば、お酒が飲めないタイプ、10分後に赤く変化した場合は、お酒が弱いタイプの可能性があります。ただし、『アルコールアレルギー』の診断は、皮膚科やアレルギー科で検査を受けた方がよいでしょう」。
 もし、皮膚に症状が出たら…
Q.アルコール消毒液で皮膚症状が出た場合の治療法は。特に、呼吸困難になった場合はどうするのか、教えてください。
 「残念ながら、原因となるアルコール過敏症やアルコールアレルギーを改善する治療法はありません。アルコールやアルコールを含んだものを避けることが大切です。アルコール過敏症の人が消毒液を触って症状が出た場合は、水道水でよく洗い流した後、保湿クリーム等を塗って保護し、湿疹が出た場合はステロイドの軟膏(なんこう)を塗るなどします。アルコールの刺激で物理的な接触皮膚炎を起こした場合も、同様の治療となります。アルコールアレルギーでショックを起こしたり、呼吸困難になったりした場合は、命に関わる状態ですので、直ちに救急車を要請して救急病院に行くべきです」。
Q.新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、アルコール過敏症やアルコールアレルギーの人は、手指の消毒をどのようにすればよいのでしょうか。
 「アルコール消毒の主成分であるエタノールがダメな場合の代替薬として、まず『イソプロパノール』が挙げられます。イソプロパノールはエタノールと同等の殺菌力がありますが、やや刺激が強いため、肌荒れしやすい欠点があります。その他、殺菌力が強いものとして『ポビドンヨード』(商品名『イソジン』など)がありますが、色(褐色)がついていて、ヨウ素独特の臭いがあり、ヨードアレルギーの人は使用できません。その場合、エタノールより殺菌力は劣りますが、『クロルヘキシジン』『ベンザルコニウム塩化物』などを使用することになります」。

 2020.5.15日、「“効果減衰”に注意!容器入り次亜塩素酸水「誤解を招きかねない」」。

 次亜塩素酸水は新型コロナで脚光を浴びたが…

 機能水研究振興財団(東京都品川区、堀田国元理事長)が、新型コロナウイルス感染症拡大で市場に出回る容器入り次亜塩素酸水酸性電解水)についてホームページなどで注意喚起している。食材の洗浄や手指・調理用具の除菌が主用途の次亜塩素酸水は、現場で生成しながら流水として使うのが原則だが、市中では容器入りで販売する例が見られる。別物の次亜塩素酸ナトリウムに酸を混合・希釈し、次亜塩素酸水として売る事例もあるという。 資生堂に宝、サントリーも!品薄の消毒液に異業種参入相次ぐ。各企業の特徴とは?  電気分解で生成する次亜塩素酸水は高い殺菌・消毒効果を持つが、有機物に触れると瞬時に反応して水に戻るため安全で、食品添加物(殺菌料)指定を受けている。だが、取り置くと経時劣化だけでなく紫外線で分解が促され効果が減衰する。  新型コロナウイルス対策で消毒用アルコールの需給が逼迫(ひっぱく)して注目され、通信販売などで容器入り商品が急増。自治体などが次亜塩素酸水を無償配布する例も多い。同財団は誤解を招きかねない状況と認識し、ホームページなどで容器入り商品への注意喚起や機能・有効性への見解を発信している。  一方、塩素系殺菌剤(漂白剤)の主成分である次亜塩素酸ナトリウムも食品添加物だが、有効塩素濃度が高すぎると事故につながる。ほかの薬品と混合した水溶液は化学反応を起こすため、食品添加物としての販売も認められていない。  次亜塩素酸水の生成装置メーカーで組織する日本電解水協会(川田勝大会長=日本エコ・システムズ社長)は、新型コロナ感染症の拡大で脚光を浴びて困惑気味。「次亜塩素酸水は電解装置を付帯条件に、殺菌・消毒効果のある食品添加物として認可された。安全性が高く、新型コロナの感染防御にも役立つと考えられるが、次亜塩素酸水がどんなもので、どんな特性を持つのか理解されていない」(川田会長)としている。

 日刊工業新聞横浜総・青柳一弘

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 「ウィキペディア大口病院連続点滴中毒死事件」。
 2016(平成28).9月、大口病院(当時、現・横浜はじめ病院、神奈川県横浜市神奈川区大口通130)で、入院中の高齢男性2人が相次いで点滴中に界面活性剤を含む消毒液ヂアミトールを投与され中毒死した事件が発覚した。最初に判明した被害者の容体が急変した際、看護師が投与中の点滴袋をベッドに落とし、袋内の輸液が急激に泡立ったことから偶然にヂアミトールの点滴混入が発覚した。

 神奈川県神奈川警察署が管轄し、捜査すると、2日前に同じ部屋で死亡した別の患者の遺体からも同成分が検出された。被害者として立件された死亡者2人のほか、同時期に死亡していた別の2人の入院患者の遺体からもヂアミトールが検出された。ナースステーションに残されていた未使用の点滴袋約50個を調べると、10個ほどの点滴袋でゴム栓部分に封をする保護フィルムに細い針で刺した穴が見つかった。そして、同じフロアで亡くなった患者の数が、事件発覚までの7〜9月のおよそ82日間で48人に上ることが明らかになった。その後の約70日間の間は死亡者がゼロということから、4人以上の被害人数が疑われたが、発覚以前の死亡者は医師の診断により“自然死”扱いで火葬されていたため、既に証拠は失われていた。 点滴に混入させる手口から病院内部の者による殺人事件の犯行が疑われたが、捜査は難航した。

 犯行に使われたヂアミトールは、業務上使われるものだった為、院内各所に置かれており、犯人を特定することは困難を極めた。警察は院内にあるものの鑑定を実施。当時担当していた看護師全員の看護服を調べたところ、容疑者の服からのみ、ポケット付近からヂアミトールの成分が検出された。他にも、容疑者が事件発覚直後の夜勤中、投与する予定のない製剤を手に院内を歩き回る姿が県警の設置した防犯カメラに映っていたことや、被害者の病室に1人で入っていくのを同僚が目撃していて、そのおよそ5分後に容体が急変し死亡していた、といった状況証拠から絞り込んでいった。

 被疑者は、事件後、様々なテレビ局や新聞社によるインタビューや取材に応じ、逮捕前にもテレビ局に「何故、こんなひどいことをしたのか、自分の家族が同じことをされたらどう思うのか。絶対許せません」と、直筆の手紙を送るなどして自らの関与を否定する発言をしていた。

 2018(平成30).6月末、神奈川県警察は、状況証拠を踏まえ被疑者の看護師に任意の事情聴取を開始。被疑者の看護師は「点滴に消毒液(ヂアミトール)を入れたこと事に関し間違いありません」と容疑を認めた上で、「入院患者20人ぐらいにやった」との趣旨の話をした。犯行の動機については「自分の勤務時に患者に死なれると、家族への説明が面倒だった」という趣旨を供述した。さらに「患者が亡くなったときに同僚から自分の落ち度を指摘されたことがあり、それ以来、勤務時間外に死亡させることを考えるようになった」、「勤務を交代する看護師との引き継ぎの時間帯に混入させていた」、「混入を繰り返すうちに感覚がマヒしていった」とも話している。供述では「(事件の)2か月くらい前から点滴に消毒液を入れた」と話しており、その時期同病院に勤務していた看護師は「(亡くなったのは)最初は1日1人。それが3人になり、5人になり、9月になったらもっとひどくなって(1日に)8人とか。4階はおかしいな、という話があった」と証言している。

 7.7日、警察が、同病院で当時勤務していた女性看護師(当時31歳)を逮捕した。同7.28日、2016年9月に死亡した入院患者の点滴に消毒液を混入し殺害したとして殺人容疑で再逮捕した。殺人罪3件・殺人予備罪5件で起訴した。事件の名称について、神奈川県警察は「大口病院"入院患者殺人事件"」、神奈川新聞は「大口病院"点滴連続殺人事件"」としている。  
 事件前、現場病棟では「看護師の筆箱に、10本以上の注射針が刺され、針山のような状態になっていた」ことや「白衣が切り裂かれる」、「カルテが紛失する」、「ペットボトル飲料を飲んだ看護師スタッフの唇がただれる」などの看護師同士の壮絶ないじめトラブルが報告されており、以前より「『あのクリニックの先生は嫌いだから』、『あの患者の家族は嫌いだから』患者を受け入れない」といったことまで言う「『女帝』と呼ばれる60代パワハラ看護師の存在」や「人事査定でえこひいきがあったり、自分だけ忙しい仕事を回されたりしているといった不平不満があり、看護師同士で言い争いになったこともあった」という。被疑者自身も、逮捕前に「看護部長は看護師たちをランク付けして、気に入った子とそうでない子の扱いが極端だった。そういうのってよくないですよね」と述べている。

 病院では、そういった人間関係のトラブルや虐めが原因で複数の看護師が辞職しており、「看護師同士の世代間の対立が原因で、大口病院では患者のケアまでもが疎かになっていた」といい、「見舞いに行った家族の前で看護師が患者さんを怒鳴りつけ、その家族が『本当にひどい。ビデオに撮って告発すればよかった』と激怒していた」こともあったという。事件の被害者遺族も「女性看護師が別の看護師を怒鳴りつけたり、点滴袋が公共スペースに散見されたりするなど『今考えればおかしいところもあったかもしれない』」と指摘している。

 精神科医の片田珠美は「担当患者が以前死亡した際に同僚らから自分のミスの可能性を指摘されたとも説明しているので、もともと同僚や上司などに対して怒りを覚えていた可能性がある」と指摘し、(「白衣切り裂き」や「カルテの紛失」「ペットボトル異物混入」も同一犯によるものだとすると)他の看護師に対する怒りをこのような形で表現したのではと推測する。その怒りの矛先を患者に向け変えて(精神分析では「置き換え」)、患者の点滴に無差別に消毒液を入れる事によって「別の看護師の勤務時間中に患者が死亡するように仕向けたわけで、復讐願望を満たそうとしたともいえる」としている。

 2018年12月7日、横浜地検は、患者3人の殺人罪と5人分の点滴液に消毒液を混入した殺人予備罪で看護師を起訴した。4人目に対する殺人罪については、別の患者を殺害しようと消毒液を混ぜた点滴が結果的にこの患者に投与された可能性があるとして、不起訴処分とした。

 横浜市の対応

 
横浜市には事件前、「看護師のエプロンが切り裂かれた」、「看護師の飲み物に異物が混入された」など、この病院内のトラブルに関する情報が複数寄せられていたが、市は病院に詳細な内容を確認しなかった。市が設置した第三者検証委員会は「患者の安全に関わる内容もあったのに、後手に回った」と、市の対応を批判した

 病院の対応

 病院側にも、複数の看護師のエプロンが切り裂かれているのが見つかったり、6月にはカルテの一部が抜き取れられ、8月には看護師のペットボトルに異物が混入されていたにも関わらず、院長は「院内の出来事で、まして看護師の中の出来事だったので院内で何とか処理すべきだと思った」としながら、有効な手立てをとれず病院から警察に相談するという事もしなかったため、「病院が対処していれば事件はなかったかもしれない」などの批判の声が病院関係者からも寄せられた

 法的・制度上の課題

 事件後に市が設置した第三者検証委員会による報告書「横浜市の医療安全業務に関する検証報告書(大口病院に関する対応について)」の中で、医療法上、病院から市への報告義務も、市から病院への検査・指導権限も無いという問題が指摘された。医療法を根拠に市と病院の関係がある以上、医療法の範囲を超えた「制度の狭間」となるところに問題が発生したとき、市はどこまで対応できるのかという課題があり、今後、法的、制度上の課題に対しては、国に改善に向けた要望を行うことも考えられる、としている。


 2020.5.6日、「消毒液を水と勘違いし飲み死亡、刑務所収容の男性 エジプト 」。
 © Khaled DESOUKI / AFP エジプトの首都カイロにあるトラ刑務所(2020年2月11日撮影)。

 【AFP=時事】エジプトの検察当局は5日、首都カイロの刑務所に収容されていた男性が新型コロナウイルス対策で配布されていた消毒液を水と勘違いして飲んでしまい、アルコール中毒で死亡したと明らかにした。男性はミュージックビデオのクリエイターで、アブデルファタハ・シシ(Abdel Fattah al-Sisi)大統領を批判する映像を制作したとして逮捕・収容されていた。死亡したのはシャディ・ハバシュ(Shady Habash)さん(24)。検察によるとハバシュさんは水の入ったボトルだと勘違いして消毒液を飲み、その後、胃けいれんを起こしたと訴えたという。検察から事情聴取を受けたハバシュさんと同じ監房の被収容者によると、ハバシュさんは「誤って」消毒液を飲んだと述べていたといい、消毒液が入ったボトル2本が「ごみ箱に捨てられていた」という。ハバシュさんは2018年3月に「フェイクニュースの拡散」と「違法組織への所属」の疑いで拘束された。ハバシュさんの死をめぐっては、複数の人権活動家がソーシャルメディアで疑問を呈している。【翻訳編集】AFPBB News


 牧田寛もっと見る「次亜塩素酸水」の消毒薬としての評価に厚労相と経産省で食い違いの謎」。
 次亜塩素酸の殺菌効果

 次亜塩素酸(HClO)は、弱酸性で電離していない次亜塩素酸分子HClOが水に多く溶存し、電離した次亜塩素酸イオンClO-は余り存在しません。

 次亜塩素酸類が最も強力な酸化力=消毒能力を示すのは、HClOの状態であるとされ、実際にプールの消毒においてはアルカリ性になると殺菌力が下がるので中性から弱酸性に水質を維持するようにされています*。

〈* プールの塩素臭とされる臭いは、実はアンモニアと塩素による化合物であるクロラミン類の臭いで、要するにプールの中ではずいぶんオシッコをする人が居る〉

 従って、HClOそのものである次亜塩素酸、「次亜塩素酸水」は、非常に強力な消毒薬であると考えられてきています。実際に食品産業における消毒用食品添加物として次亜塩素酸ナトリウムと共に「次亜塩素酸水」は認められてきています。ここで誤解していけないのは、食品添加物であるから食べても安心ではなく、その食品を出荷する時点で次亜塩素酸類は残留しないことが義務づけられています。

「次亜塩素酸水」は、食塩水か塩酸の電気分解によって得られるものを指し、次亜塩素酸ナトリウムを酸で中和することで得られる高濃度の次亜塩素酸は、行政上の定義から「次亜塩素酸水」と名乗ることはできませんが、化学的には製法と濃度などに違いがあるだけでおなじものです。

「次亜塩素酸水」、高濃度次亜塩素酸ともに化学的に不安定で時間の経過と共に分解し、塩酸、塩素、酸素になってしまうという弱点があり、製造後有効塩素濃度が下がって行くという大きな問題があります。とくに「次亜塩素酸水」は、有効塩素濃度が10〜80ppm*とたいへんに少ないため、製造後時間が経過したものは水と変わらないという致命的な弱点があり、一般に流通させるのはかなり難しい物質です。

〈*水道蛇口最高残留塩素濃度の10〜80倍である。これだけ有効塩素濃度が低いにもかかわらず「効果はバツグン」であることが「次亜塩素酸水」の長所であるが、自然分解が早いために逆に商品としては大きな短所となる〉

 次亜塩素酸の厚労省による評価

 次亜塩素酸とくに「次亜塩素酸水」は、比較的安価かつ潤沢で使いやすいために、殺菌効果が強いという前提において食品業界などで食品や器具の洗浄に使いたいという要望が長くありました。結果、所轄官庁である厚生労働省による殺菌・消毒薬としての評価が行われてきています。とくにノロウィルス問題では2015年に報告書が出ています。

 まず細菌とカビに関する評価結果を引用します。詳しくは原典をご参照ください。

 評価結果は驚くべきもので、新鮮な53ppmの「次亜塩素酸水」は、ずば抜けた効果を示しています。とくに枯草菌、カンジタ、カビへの効果は目を見張るものがあり、53ppmですと皮膚にも悪さをしにくいためにたいへんに魅力を感じます。

 これならば次亜塩素酸が食品添加物として採用されたのも分かります。但し、そうであっても次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター)に比してかなり高価であり使用条件も限定的であるために次亜塩素酸ナトリウムを置き換えるには至っていません。また食品添加物と認められてはいますが、最終食品の完成前に除去され、出荷時点で残留しないことが条件となっています。ここ、大切なところです。

 次にウィルスへ効果についての評価を探すとノロウィルス問題に関して評価資料が公表されています。

 2015年の国立医薬品食品衛生研究所による報告を見る限り、ノンエンベロープウイルスではありますが、「次亜塩素酸水」はウイルスに十分な効果が無いと考えるほかありません。一方で高濃度次亜塩素酸は、同濃度の次亜塩素酸ナトリウム希釈液に準ずる効果があると考えて良いと思います。

 但し、コロナウイルスはエンベロープウイルス、ノロウイルスはノンエンベロープウイルスの違いがあります。従ってこの厚労省の結果がコロナウイルスにそのまま当てはまるものではありません。

 経産省による評価

 厚労省が次亜塩素酸水について新たな見解を出さない中、経済産業省が外郭団体の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に委託し、NITEが更に5箇所へ再委託した評価結果が2020/05/01に公開*されました。

〈*新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について、第2回検討委員会を開催しました。2020/05/01製品評価技術基盤機構、(資料3)検証試験の結果について2020/04/30 NITE)

 この資料を見るると、「次亜塩素酸水」は、エンベロープウィルスであるインフルエンザウイルスに対して絶大な効果を見せています。それではこの結果を採用できるのでしょうか。答えは否です。

 個々人で「自己責任」で意思決定するのならばNITEの資料を意思決定材料にすることを止めることはできません。しかし、そうでないのならこの資料はTake noteする(参考にする)ことで精一杯です。

 理由は、この評価の正確性と正当性が分からないためです。まず、同時に公開された資料には非公開箇所があります。また四つ評価機関について名前は公開されていますが、A,B,C,Dとの組み合わせが分かりません。更にD機関だけ実験条件が統一されておらず代用ウィルスのインフルエンザ型も違います。極めつけは、次亜塩素酸だけD機関のみでの評価です。おいおいおい……。

 また厚労省の報告書と異なり、所詮はpdf化しただけのパワーポイント資料です。考察等、子細は全く分かりません。これで学術的に合意を得ることは無理です。

 この結果そのものは、明るいものですが、この程度の資料に個人と集団の生命と健康に大きく関わる判断を委ねることは自殺行為と言うほかありません。やはり経産省は、経済振興省官庁であって、厚労省とは根本が違うと考えるほかありません。

 筆者は、厚労省による評価または、厚労省による評価基準に則った評価を待ちます。とくに統一した条件下、再現可能な公開条件下でのコロナウイルス(代替エンベロープウイルスで良い)に対する評価と、次亜塩素酸水の品質維持条件・期間について厳密な評価が公開されることは必須です。

 これらの課題さえ解決されれば「次亜塩素酸水」は、堂々と市中に流通できるようになります。逆に現在、経産省主導で行っているような「次亜塩素酸水」だけを特恵的に扱う危険な評価は行政が行って良い事ではありません。何か不幸な事故が起きれば、次亜塩素酸という見込みのある物質の商品としての命脈を永遠に絶つことになります。

 エチルアルコールは何処にありや 何処にありや。全世界は知らんと欲す

「エチルアルコールは何処にありや 何処にありや。全世界は知らんと欲す(WHERE IS RPT WHERE IS ETHYL ALCOHOL RR THE WORLD WONDERS)」

 消毒用エチルアルコール(エタノール)が市中から消え失せてすでに5ヶ月目に入ろうとしています。このために医療機関、介護・福祉機関だけでなく市民も困り果てています。

 本シリーズ第5回と第6回で解説したように、エタノール自体は、国内に大量に存在するにもかかわらず、薬機法(厚労省)、酒税法(財務省・国税庁)、アルコール事業法(経産省)の制約と省庁間の利害調整のために年間81万キロリットルが流通するエタノールが目詰まりを起こし、市中に出てきません。とくにエタノールの大部分、55万キロリットルを管掌する経産省が何もしていないようにしか見えません。あの国税庁ですら医療機関向けに消毒用のお酒について非課税扱いを始めたというのに、事業法アルコールの酒税相当加算額1リットルあたり1,000円も相変わらず特定アルコールには課税されたままです。

 医療機関や介護・福祉機関だけでなく、市民が消毒薬不足に困り果てて右往左往する理由は経産省にあると筆者は指摘します。

 そういった中、経産省は関連外郭団体のNITEに、以前からその市中での流通には解決すべき課題が山積している「次亜塩素酸水」について厚労省を差し置いて代用消毒薬として流通することにお墨付きを与えようとしてます。

 経産省にはもっと大切なやることがあります。さっさと事業法アルコールのなかで非課税扱い(取材相当加算額免除)である一般アルコールを「高濃度エタノール製品」として非課税のまま流通させれば良いのです。

 消毒薬については、国によるプッシュ型支援の一環か、医療機関に消毒薬を送付し始めましたが、医療機関側は求めもしない製品が、本来の価格の数倍という「極めて高額」かつ「代引き」で送付されるため、詐欺と判断して受け取り拒否する事例が生じていると報じられています*。

〈*国あっせんの高額消毒液 県内60診療所が購入拒否2020/05/21神戸新聞〉

 アベノマスクやマスクチーム、消毒薬などやっていることはかつてのブレジネフ末期以降のソ連邦における流通の大混乱と全く同じ失敗です*。

〈*ソ連邦は、計画経済によって物流も中央統制のプッシュ型流通であった。そこには需要側の都合は一切考慮されず、長期間の欠品、突然の大量供給の繰り返しであった。結果、ソ連邦市民は、老若男女を問わずアヴォーシカ(もしかしたら!)と呼ばれる網袋を必ず持ち歩き、行列を見つけたらとにかく並ぶ習慣となった。何を売っているかは並んでから聞く。パンでもラードでもバターでもウォトカでもハムでも靴でも何でも、アヴォーシカと行列と幸運で手に入れた。(価格は、国営商店の2〜3倍とかなり高いが市場は別)〉

 経産省は、火事場泥棒とみられても仕方ないような不完全な消毒薬評価などせず、アルコール事業法、とくに一般アルコールの特例的な消毒向け解放を行うことが第一です。

 そうすれば、エタノールと次亜塩素酸ナトリウムの潤沢な流通で、消毒薬不足など「パパッと解決」することは間違いありません。内閣支持率アップに大貢献です!

どうしても次亜塩素酸を使いたい方へ

 どうしても次亜塩素酸を使いたい方は、死なないために次のことに留意して下さい。

 1)高濃度次亜塩素酸

 アルカリ性でないことを除けば、次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター)の同濃度希釈液と注意点は変わりません。そして、品質維持期間がたいへんに短いので冷暗所保存(冷蔵庫推奨)ののち早く使い切りましょう。

 最も大切なことは、飲んだり、吸い込んだり、食べたり、注射したりして人体に取り込まないことです。胃で塩素ガスが発生する、血中に入り込むとメトヘモグロビン血症等で悶絶することになり、最悪死にます。皮膚に付いたら直ちに洗い流しましょう。

 2)次亜塩素酸水

 有効塩素濃度が50ppm程度と極めて低く、化学的に不安定なために短時間で水と変わらなくなります。遮光条件で冷蔵庫保管ののちにすぐに使い切りましょう。時間がたてばただの水です。無料配布の新鮮な「次亜塩素酸水」でも一月は持たないと思われます。

 毒性は無いといわれますが、単に濃度が薄いだけで胃にはいれば塩素ガスが発生しますし、血液に入ればメトヘモグロビンが発生します。塩素酸類は、飲んだり、食べたり、吸い込んだり、注射して体に入れてはいけません。皮膚に付いたものは、作業後に洗い流しましょう。

 次亜塩素酸には耐性菌は存在し得ないという報告がありますが、筆者にはその主張が理解できません。塩素系薬剤には緑膿菌が耐性を持ちますし、どのような薬剤でも濫用すればすぐに耐性菌が発生します。従って、必要なときに必要なだけ使うようにすることを強くお勧めします。

 次亜塩素酸ミスト常時発生装置については、筆者はその使用に同意できません。消毒薬の失敗の歴史にこの手の装置は瓦礫の山を築いています。

 次亜塩素酸は、有力な第三の消毒薬と評されますが、商品としては留意点が多く、「正しい使い方」に合意が形成されていません。くれぐれもその点に細心の注意を払ってください。そして忘れてはいけないのは・・・・・

 混ぜるな危険

 次亜塩素酸類については以上です。

 まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中



(私論.私見)