広瀬 | 今年の11月1日に、おしどりマコちゃん・ケンちゃんの司会で「STOP伊方原発再稼働! 11・1全国集会in松山―福島をくり返さない―」があり、私も行ってきました。愛媛県知事の中村時広が伊方3号機の再稼働に同意した直後の集会で、全国から4000名が参加し、「再稼働を許さない」と訴える人たちの熱のこもった集会でしたね。そのときのステージで、マコさんが「原発事故が起こってから、知り合いの人が6人亡くなった」と言っていたことが気になりました。くわしい話を聞かせてください。 |
マコ | 病死が2人、自死が4人です。報道関係が4人で、研究者が2人です(今は、病死が3人、自死が4人です。報道関係4人で研究者が3人。『見捨てられた初期被曝』を岩波書店から出版されたstudy2007さんも、2015年11月13日にお亡くなりになりました)。 |
広瀬 | 報道関係というのは『報道ステーション』のディレクターの方ですか? |
マコ | そう、お一人は去年亡くなった『報道ステーション』のディレクターです。あの方には、亡くなる前日にも会っていました。プライベートでも仲がよかったので、なぜ自死したんだろうと疑問に思っていました。いろいろ調べて、最終的にはご遺族にもお会いできました。遺書や保険の話も教えてもらって、相当長く自死の計画を立てていたことがわかりました。 |
広瀬 | 自死の計画というのは? |
マコ | 彼とのメールのやり取りを振り返ってみると、2012年頃は、「被曝の取材は何十年も続けなくてはならない。被災地の人との信頼関係が重要だから、お互いに連携してやっていこう」という感じでいました。それが2013年末になると、「次の3月11日の『報道ステーション』がラストチャンスだから全力でやる」という言い方に変わったのです。私は「別にラストじゃないでしょ。5年後も10年後もずっとやりましょう」とメールしたのですが、その頃から決めていた、ということが、いろいろ調べて後でわかりました。彼の場合、局からの圧力があったことは事実だし、そのほか冤罪事件も追いかけていて、自死する原因は1つではなく、いろいろなことが重なっていたと思いますが……。 |
広瀬 | 原発に関して調べていると、いろいろな圧力がかかってきます。それが負担だったのでしょうね。 |
■ 研究者への大学からのすさまじい圧力 | |
マコ | 「ラストチャンスだから」と言ってつくった彼のニュースは、環境省から名指しで異議を唱えられました。でも、彼はその直後に「平気だよ」と言っていました。一般的に、メディアの方は比較的バッシングに慣れていると思うのですが、大学の研究者の方は違います。ネットで研究内容がバッシングされて、匿名の電話が大学にかかることもあります。学内での圧力は、相当なものですね。 |
広瀬 | 研究費がゼロになったり、研究が黙殺されたり、存在を無視されたりと、いろいろあります。一番卑劣なのは、人格否定の噂を広めるやり方です。 |
マコ | 広瀬さんが先ほどおっしゃった松山の集会の2日前に、琉球大学の研究者、野原千代さんが病死しました。千代さんは、福島原発事故による被曝とヤマトシジミ(蝶)の関係について命がけで研究していました。この研究はすばらしく、山本太郎議員が国会での質問にも 使っていました。 |
広瀬 | 私も読みました。琉球大学でも、彼女は圧力を受けていたのですか? 沖縄ですよ。 |
マコ | 初めて彼女に会いにいったとき、論文の解説はするけれど、いろいろあって取材は受けられないから、私(マコ)が独自に論文を理解して記事にしたことにしてほしい、と言われました。亡くなった方々とのメールのやり取りを振り返って思うのですけれど、自死すると決めている人、余命が数ヵ月と知っている人が、本当に命がけで原発事故の被曝の問題を報道したり研究したりしていたんだなと、改めて思いました。 |
広瀬 | 短い命と知っての活動ですか。言葉もない。つらい話ですね。 |
マコ | 野原千代さんの最後のフェイスブック投稿は、岡山大学の津田敏秀先生の会見のことでした。 |
広瀬 | ダイヤモンド書籍オンライン連載第39回で紹介しましたが、岡山大学の津田敏秀先生が、2015年10月8日に東京都内にある日本外国特派員協会で記者会見して、「1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のあとに甲状腺がんの発症が多発したケースが、福島に重なる事態は避けがたい」と警告したことですか? |
マコ | そうです。「津田先生は、本当に率直、真っ正直な方です」と、フェイスブックに書いていました。フリーランスの記者で、東電の記者会見に通っていて亡くなった友人は、昨年12月31日に大阪のラジオで私たちが原発事故のことを話したことを、ツイッターで最後につぶやいてくれました。みなさん最期まで、原発事故のことを考えて亡くなられたんだなと思います。 |
■ 半径2メートルに公安が立っている「異常な日常」 | |
広瀬 | 亡くなった人たちに共通していたのは、バッシングされたことですね。最近では、右翼からたたかれるケースも増えているようですが。 |
マコ | 一昨年くらいから、直接的な圧力がきたという感じがします。今年6月には、知り合いや公安OBの人から、「逮捕されるから気をつけろ」と言われました。公安や警察が、「今日、おしどりはどこにいますか」、「おしどりと、最近いつ会いましたか」、「おしどりは今日、誰と何をしゃべっていますか」などと、内偵が入ってくるそうです。「2週間に14回は異様だから、近々逮捕されるよ。弁護士さんの準備をしておいたほうがいい」と言われました。2013年秋には2、3週間、常に公安調査庁にマークされていた時期がありました。 |
広瀬 | 公安は顔を見ればわかる。目つきが違うから。私は以前に、知人の新聞記者から「あなたは、いま尾行されている」と教えてもらったことがありました。そういうときは、店に入るんです。すると尾行している公安が困って立ち止まる。そこで、いきなり目の前に出て、顔をにらむと逃げていきます。マコさんの場合はどんな感じでしたか。 |
マコ | 公園で取材していたら、1メートルくらいの場所に男の人が立っているんです。取材相手の人が不思議に思って、「マネージャーさんですか?」と聞かれたので、「たぶん、追っかけです」と答えたけれど、実は尾行だったのね。北茨城市役所に福島のママたちと一緒に取材に行ったときは、2メートルくらいの距離にずっと立っている男性がいました。「市役所の人ですか?」、「このあたりの人ですか?」と聞いても、終始無言でした。帰りに福島のママの車に乗せてもらったら、いきなり車のナンバーと顔写真を撮るのです。明らかに「威嚇」です。 |
広瀬 | マコちゃんや私たちはいいけど、一緒にいる人はイヤだよね。その威嚇で、しゃべらせないよ うにするんだ。私が浜岡で講演したときは、駐車場に止まっている車のナンバーを、中部電力が全部記録していました。講演会の参加者にとっては、それが町内で、ものすごい圧力になります。それから私の経験でいうと、福井と青森は気をつけたほうがいい。時々、殺気を感じます。敦賀は本当にこわくて、電車の中で取り囲まれたことがありました。講演会が終わって夜遅く一人で列車移動していたら、ジリジリと取り囲まれたから1つ前の駅で飛び降りた。とにかく福井と青森は気をつけたほうがいい。考えると、両方とも核燃料サイクルに関係しています。プルトニウムに、ね。 |
マコ | 東京電力にも、私たちについて公安調査庁から内偵がきたそうです。私たちが何のために取材しているか、どこかの政党がついているのか、どこからかお金がついているのか、と調べていた。東電が公安調査庁に返事したのは、「おしどりは、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属しています」ということだけだった、そうです。でも、実際それしかないのよ! 税金のムダ遣い! |
広瀬 | そうですね。彼らアホは、一体何を考えているんだろう。公安の予算は大きいから、失業対策だと、私は思ってきましたがね。ただし、いまは公安の裏で、電力会社が、つまり電事連が糸を引いていることは間違いない。次回は、「まったく報じられない『排気筒問題』と2号機『大惨事』の危険性」について議論しましょう。 |