科学技術庁資料「原発事故研究」その5

 (最新見直し2011.03.21日)

 附録 (E)放出放射能の農漁業への影響

I 直接汚染による汚染度の推定

原子炉事故が起つた際、農地に生育中の作物は直接その放出物を受けるが、その程度は 作物の生育のステージ、耕地上の作物の密度、作物の種類、形態によつて相異する。 そこで、大ざつばな推算を行うには、次のように種々の想定を用いて食用部分への各核 種の蓄積量を求める。

a 放出物の降下量の 1/2 が食用植物に附着するものとする。
b 葉菜類の収穫量を 2Kg/n2 (1)とし、水洗効果を 50% (2)とすれば、各核種が野菜に 蓄積される量は

降下量/m2 × 1/2 × 1/2 × 4/2 /Kg(生野菜)となる。

根菜類(いも、大根、ごほう)では食用部分が葉部でないからこれよりかなり小さくなる 筈である。又、豆類にてもその可食部は 1 部であり、また「さや」を食用としないもので は更に小さくなる。しかも、子実部がまだできないうちに被災した場合はより以上その蓄 は小さい。
c 米麦類では出穂期前こ被つたとき、附着したSr89,90の 0.05% 以下、Cs137 の 10% が米麦粒中に入り、出穂後に被つたときは、Sr89,90の 1%、Cs137の 10% が入るものとする。(3)

また、被災のときにと幼若なステージにあれが、収獲期までの雨による水洗効果、成長 による稀釈があるからかなり小さくなる筈である。

d したがつて、米麦収量を 0.3Kg/m2(1)とすると、
出穂期前被災のとき  Sr89.90→1/2 × 0.05/100 × 3 = 降下量 /m2×10-3/kg
Cs137→1/2 × 10/100 × 3 = 〃×10-1/kg
出穂期後被災のとき  Sr89.90→1/2 × 1/100 × 3 = 〃×10-2/kg
Cs137→1/2 × 10/100 × 3 = 〃×10-1/kg
によつて含有量が推定される。

ただしこれは玄米麦の場合であつて、精白部はこれより低くなるが、その値は被災の 時期にも関係し正確な推算ができない。また、直接汚染と共に土壌中に降下した核種が 吸収されて米麦粒中のものにプラスされるが、Cs137では土壌からの吸収率が低いので、 直接汚染によるものと比較して無視できる。Sr89.90の場合はかなりの程度プラスさ ることがあるが、被災の時から収獲までの期間の長短によつて非常に相異する。

そこで、米麦の場合の出穂後被災のとき、野菜の場合では土壌からの吸収によるものを 無視できるとし(それらの蓄積量表からみて)、出穂前被災の場合にては、Sr89、Sr90 の値を 3 倍する。(上表中の×3はその意味)。

e I131については米麦にては保存するから問題からはずし、野菜についてはSr、Csと 同様な考慮から降下量/m2×1/2×1/2×1/2 /kg とする。
f 被災地域の牛乳中にあらわれる核種は乳牛が被災時にそれらを吸入することと、汚染さ れた食物をせつ取することによつて生ずるが、前者は短期間に限られ後者は持続される ので、或程度以上長い半減期をもつものについては吸入のえいきようは無視できる。また、 I131(半減期 8 日)についても、その消化管吸収率が非常によいので、相対的に食物 からのせつ取が主たるものと考えて計算できる。

また。乳牛の飼料は欧米と異なり、北海道のようによく牧草地の発達した地域をのぞく と、非常に種々雑多である。種類を大別して牧草、野草、青刈作物(末成熟の作物のこと、 トーモロコシ、カプ、エンバク、サツマイモのツルなど)があり、これらの混合割合は甚 だしく相異する。また濃厚飼料(フスマ、ヌカ、大豆、ワラなど)を使用していることも ある。

このように飼料の変化が大きいので一概に計算できないが、汚染の最も考えられる牧草、 野草食の場合を算定しておけば被害はいずれの場合もこのうちに含まれ得るであろう。

g 大ざつぱに、生育密度を野草 0.6 Kg/m2、牧草 4kg /m2とし、野草地における降下 物の附着率を 1/8 牧草地のそれを殆ど 1 に近いとする。ただしこれは降下時のことで、 気象状態によつて時間の経過と共に洗らわれて地中に入ることは当然である。 成牛 1 日の生草せつ取を 50〜60 kg とすると、1 日せつ取量は
(野草)降下量/m2× 1/8 × 60/0.6 降下量 / m210/day
(牧草)降下量/m2× 1 × 60/4
となる。
h したがつて、このせつ取量から、牛乳中に出される各核種を計算すると次のようになる。
(1) I131 せつ取した草のI131がミルク中にでる割合は 5 〜 10% (4)(5) 牛乳分泌 量を 8 〜 10 l/day とすると、牛乳中渡度は

降下量/m2 × 10 × 1/10 × 1/10 = 降雨量/m2 × 1/10 × l

となる。これは Windscale の経験(6)( 1 μI 131C/m2 の牧章にて 0.01μ c/l 牛乳) とよく合う。
(2) Sr89,90 せつ取した草 Sr89,90 がミルク中にでる割合を 0.5〜1.5% (平 均 1%) (4) とすると、牛乳中 Sr89,90 濃度は

降下量/m2 × 10 × 1/100 × 1/10 = 降雨量/m2 × 1/100 × l

となる。
(3) Cs137 ミルク中にでる割合を約 10% とする。(4)(5)I131と同じになるから、ミ ルク中濃度は

降雨量/m2 × 1/10 × l

'となる。この値は Windscale の経験 (100mμcCs137/m2の牧場にて 10 mμc/l 牛乳であつた)によく合う。
i 以上の各食物における核種濃度の値は被災后の初期における濃度を示すものであつて、 生長による稀釈、雨による洗滌、放射性減衰、乳牛の飼料が冬になるに従つて保存飼料に 置き換わることなどによつて、次第に減少することは当然である。従つて、許容濃度と比 較する場合は、このことを計算に入れて、考察する必要がある。
j 原子炉からの放出を全放出、揮発性放出にわけ、それそれの場合におけるSr89,90、 Cs137、I131 の全放射能(放出后 24 時間のときの値)に対する%(前出)から、全 放射能にて 1c/m2 降下したときの各食品中の核種濃度を前述の計算式に従つて表にあら わすと次のようになる。
(2)全放出の場合
μC / kg Sr89 Sr90 Cs137 I131
米 麦 (出穂前) 18×3=54 2×3=6 440 -
米 麦 (出穂後) 360 45 440 -
野 菜 (生) 3,000 380 440 1,800
牛 乳 240 30 290 1,400
(2)揮発性放出の場合
μC / kg Sr89 Sr90 Cs137 I131
米 麦 (出穂前) 1×3=3 0.14×3=0.42 270 -
米 麦 (出穂後) 23 28 270 -
野 菜 (生) 200 24 270 5,400
牛 乳 15 2 180 4,300

II 農地汚染による作物の汚染度の推定

原子炉からの放出物が土壌中に入ると、直接に fission products を浴びた作物 を収獲した後も、半滅期の或る程度以上長いものについては翌年からその土地に生育する作 物に吸収されることになる。そこで、この場合に、各核種について、半滅期、土壌から作物 への分裂生成物の収量、人体への危害の大小などが関係し、I131、Ba140は半滅期の短い こと、Ru106(0.015)、Y91(0.006)、Ce144(0.004)、Zr95(0.02) などは土から作物体への Concentratiion factor (カツコ内の数字)が小さく(7) 、 かつそれらを人体がせつ取したときの消化管吸収が極めて悪い(みんな0.05%以下)(8) ので、Sr89,90、Cs137が農作物について問題となる。

a 農地であるから深さ 30cm くらいまで耕転するものとし、土地に降下した核種はその 深さまで同じように混合されたとする。日本の農地土壌のカルシウム渡度は極めて変異が 多い (0.05 〜 0.5% dry) が、概して低 Ca 濃度の土地も多い。

そこで、いま低 Ca 土壌として 0.05% (対乾土)の農地を考えると、1 平方メートル の土地で深さ 30cm までの Ca 量は大たい 150g となる。

そして土から作物への Sr−Ca 差別率は殆ど 1 に近いと考える。

だから、作物中の Sr89,90 / Ca は

Sr89,90降下量 / m2 × × 1/150
となる。そして作物中 Ca 濃度として次の値をとると
対 乾 物 Ca % 乾 物 1kg 中 Ca g
玄 米 0.015 0.15
白 米 0.005 0.05
0.004 0.4
野菜(乾) 1 10

各食物中の Sr89,Sr90 の濃度は後にでてくる表のように求められる。

b Cs137 の土壌から作物への Concentration factor は、やさいにて 0.1 〜 0.15(7) 米麦粒にて 0.02 〜 0.03(7)(9) とし、平方メートル深さ 30cm の土地の乾土重量 約 300 kg とすると、

             野菜 ‥‥‥‥‥‥‥ 降下量/m
2
 × 1/300 × 0.15 / kg (乾物)
             米麦 ‥‥‥‥‥‥‥ 降下量/m
2
 × 1/300 × 0.03 / kg (乾物)
によつて求められ、野菜の場合水分を 90% くらいとして生重量に換算し、全放射能 1C / m2 降下した時の各作物中 Sr89,90、Cs137濃度を表に示す。
(1)全放出の場合
μC/kg Sr89 Sr90 Cs137
玄 米 7.2 0.9 0.3
白 米 24 3
58 7
野菜(生) 140 18 0.15
(2)揮発性放出
μC/kg Sr89 Sr90 Cs137
玄 米 0.45 0.06 0.18
白 米 1.5 0.2
3.6 0.46
野 菜 9 1.1 0.1

III 土地汚染による牛乳の汚染

牧草、野草の利用又は枯死した後、次のシーズンに生育してくるそれらを飼料として乳牛 がミルクを生産するが、その時の牛乳中の核種については、農地汚染においてのべたと同様 の理由で、Sr89,90、Cs137が問題となる。

a まず、土地は耕さないから Sr89,90は表面から約 6cm くらいまでに大部分が吸着さ れ移動することは少ない。土壌中 Ca 濃度は農地の場合と同じく少ない値をとつて 30 gCa/m2 - 6cm とし、土→牧草→牛乳の Sr-Ca Discrimination factor を 0.1 〜 0.15(10)とすると、牛乳中 Sr89,90/Ca 濃度は

	降下量/m
2
×1/30×0.15/gCa
であらわされる。そして牛乳 1l 中 Ca は約 1g 含まれているから、この値はそのまま、 1l 中濃度として使用できる。

b 次に Cs137は士壊への吸着が大きく、表土約 2.5cm くらいまでに保持され、雨などに よつても動くことは殆どない。(11)m2―2.5cm の乾土は 2.5kg で、したがつて土中 Cs137 濃度は降下量/m2×1/25/kg (乾土)となる。

そして土からら牧草への concentration fuctor は 0.1〜0.15 (乾土) だから牧草中の Cs137濃度は降下量/m2×1/25/kg (乾物)となる。1日せ つ取量を生草 60kg (乾物にして 6kg )、ミルクへの分泌を 10%、ミルク生産量 10l /day とすると、ミルク中 Cs137濃度は

	降下量/m
2
×1/25×6×0.1×1/10/l
であらわされる。

c そこで、全放射能として 1C/m2降下したときの Sr89,90、Cs137が牛乳中にあら われる推定値は次の表のようになる。

(1)全放出の場合
μC/l Sr89 Sr90 Cs137
ミルク 120 15 1
(2)揮発性放出の場合
μC/l Sr89 Sr90 Cs137
ミルク 7.5 1 0.65

IV 淡水食用魚の汚染

淡水域としては河川、湖沼において種々の魚その他が漁獲され食用にされる。その汚染 度は、水中に加えられた放射性核種が水中に稀釈される割合、底土に吸着される割合などで 甚だしく相異し、一概に決めることができない。また河川においては水流が長い地域を通過 するから流域に吸着その他によつて核種の水中濃度は急速に減少する。

そこでいま水深 10m、水中 Ca 濃度 10mg/l(割合に低 Ca 濃度の湖水である)の 湖水を想定し底土に吸着されることによる水中濃度の低下を考想しないでその場合の魚肉 中 Sr89,90、Cs137 を推算してみる。実際には土壌中に相当の部分が吸着されるから、 これより放射性核種の蓄積は少ないし、また魚体と水との間に Sr90 その他の出入が平衡 状態に達するまでに時間を要するから現実の漁獲物はその放射能は少ない。しかし正確な推 算を行うには未だ研究せねばならない幾多の問題があり、また、条件によつて甚だしく相異 するから、今后、この推定値を引下げることは十分可能である。

a 1 平方メートル当りの降下量に対し水中に完全に混合されたときの濃度は、
	 降下量/m
2
×1/10
4
 l
又は降下量/m
2
×1/10
4
×10
2
/g Ca
となる。

そこで、水から魚肉への Sr-Ca Discrimination fatcor を 0.4(12)とする と、魚肉中 Sr89,90 濃度は

	降下量/m
2
×1/10
4
×10
2
×0.4/g Ca
となり、魚肉中 Ca 量を 72mg/100g 生肉(13)とすると、魚肉中 Sr89,90のg当 たりの濃度は
	降下量/m
2
×1/10
4
×10
2
×0.4×0.00072/g Ca
となる。
b 水から魚肉への Cs137 の concentration factor を 3,000 (wet basis) とすると(14)、魚肉中 Cs137 濃度は
	降下量/m
2
×1/10
4
×1/10
3
×3,000/g (生肉)
となる。
c これらの式に収量の表から Sr89,90、Cs137 の値を用いて全放射能 1C/m2 降下した ときの各核種の魚肉中濃度を計算すると次の表の如くなる。
(1)全放出の場合
μC/l Sr89 Sr90 Cs137
生 肉 0.07 0.0087 0.87
(2)揮発性放出の場合
μC/l Sr89 Sr90 Cs137
生 肉 0.0044 0.00055 0.54

V 海洋生物の汚染推定

沿岸に放出物が降下した場合、沿岸海流、潮流その他の海水移動や海域の深度などによつ て海水の汚染の払がり方や上下混合に非常な差があり、また汚染水塊の拡散、流失などの状 態も生物の汚染に大きく関係し、また回遊性の魚類自体の動きもその汚染度を左右する因子 の 1 つとなつている。ここでは比較的動きにくく、また浅海域に生息して最も汚染を浮け易 いものを選んでそれらの汚染度推定を行つた。しかもこれらの値は放射性核種の up take が完全に行われ外界と平衡になつた時のものであるから、汚染の最大値を示してお り、実際に漁獲されるものはそれ以下の値となる場合が多いと考えてよい。殊に一定期間を 週ぎて海水の汚染が稀釈されてくると、魚体中のそれらの濃度も次第に下つてくることは当 然である。

a

まず、貝類(アサリ、ダマグリ、カキ)養殖場(水深 1m)、のり養殖場(水深 3m)、 褐藻(コンプ、ワカメ)漁場(水深 5m)、沿岸漁場(定置網、釣など)(10m)を想 定する。

Sr89,90Cs137、I131(藻類における濃縮が大きいので特にこれを入れた)が 降下したときの水中濃度は水深に従つて各々容易に算出できない。これに次に示す各生物 の各元素に対する水からの concentration factor (wet basis) をか けて、生物体中の最大濃度を算出した。用いた concentration factor を次に 示す。ただし貝、魚においての値は可食部即ち肉の部分についての値である。

生物 貝類 のり 褐藻
Sr 10(15) 20(15) 20(15,17) 1(15)
Sc 10(15) 11(15) 1(15) 10(15,18)
I 70(16) 200(16) 1,400(16) 30(16)
b

この値を用い、全放射能 1C/m2 降下したときの各生物中の放射性核種の最大濃度は次 のようになる。

(1)全放出の場合
μC/g
(生肉)
貝類 のり 褐藻
Sr89 0.24 0.14 0.096 0.0024
Sr90 0.03 0.018 0.012 0.0003
Cs137 0.029 0.087 0.00058 0.0029
I131 0.98 0.84 4.2 0.042
(2)揮発性放出の場合
μC/g
(生肉)
貝類 のり 褐藻
Sr89 0.015 0.009 0.006 0.00015
Sr90 0.0019 0.0011 0.00076 0.000019
Cs137 0.018 0.00054 0.00036 0.0018
I131 3.0 2.6 13 0.13

附録 (D) / もくじ / 戻る / 附録 (E) 後半

VI 汚染度抑制の為の対策

a

直接汚染の場合の野菜の水洗効果はすでに計算の中に入つている。ただ、直接汚染の野 草、牧草を乳牛に与えるとき、放牧式でなく、刈取つた餌料として与える場合、水洗を行 うことによつて、牛乳中の I131 その他を半減させ得る。また、被災時には一切の生草 を止め、保存飼料を用いることによつて牛乳の汚染を防止し得る。

b

土地汚染による作物中 Sr90 の摂取については、その土壌が低 Ca 濃度の酸性土壌の 場合、石灰の投与によつて作物中 Sr90 濃度を低下し得る。土壌の塩基置換容量(30 〜40 meq/100g)に対し、150gCa/m2-30m(0.05% dry)の土壌は Ca がその 10% を占めるくらいであるから、Na、Mg などを考慮しなければ最大 1/l0 ま で土壌中の Sr90/Ca を下げることができる。ただし、実際には地のイオソが存在する し、また塩基置換容量自体が小さい場合もよくあるので大ざつばにいつて 1/2 〜 1/5 ていどが精々であろう。

c

汚染飼料を乳牛に与えねばならない場合、飼料にカルシウム剤を添加することは牛乳中 Sr90の濃度を低下し得る。

d

ブルトーザーによる排土により汚染土壌を除去することによつて作物の汚染を防止し得 る。この場合、Sr90 については表面から7cm、Cs137 については 3cm くらいに保 持されているから、この 1.5〜2 倍くらいの深さに排土するのが適当であろう。

VII 使用制限時間について

a

土壌中に長寿命の放射性核種が入つて、農業に使用でぎないとき、その使用制限の予想 される期間としては、Sr90、Cs137 の場合、排土を行わなければ、非常な長期間に 亘ると考えられる。ただ、耕地において、石灰投与を行つてもそれが次第に下層に流失す る現象がみられるので、それに伴つて少良の Sr90 も移動流失することが考えられる。 また、長期間の経過後には置換性 Sr90 も僅かずつ土壌粒子中に固定化され、植物に利 用されない形に変化することも考え得られる。そこで研究の進展に伴つて、制限期間を短 縮することが可能となるであろうとは考えられる。

b

淡水域、殊に河川にては汚染水塊の流出は短期間に行われその后、生物体中の放射性 核種も次第に失われるから、制限期間は数ヵ月から 1年をとれば殆ど大丈夫と考えられる。

ただし湖沼にては水の流出がないか又は少ないので、大きい部分が底土に吸着固定され た後はかなり長期間に亘つて汚染が残ると考えられる。しかし ここで推算した魚体中濃 度は放射性核種が底土に移行することによつて恐らくは 1/10 〜 1/100 ある場合にはそ れ以下に低下することが期待される。

そこで、数ヵ月から 1 年后、制限を 1 桁又は 2 桁ゆるめることが可能であろう。

c

沿岸海域は水塊の移動、拡散による稀釈がはやいから、制限期間はかなり少なくてすむ であろうが、個々のケースによつて甚だしく差があるので一概に決められないが、この場 合の被害算定には 3 ヵ月をとれば大きな誤りはあるまいと考えられる。

d

以上のようなことがらから、各地域における制限期間を次のように想定して被害算定を行うことにした。

制限期間
耕  地 10年以上
牧  場 10年以上
河  川 3ヶ月
湖  沼 1年
沿岸漁場 3ヶ月

VIII 使用制限域の推定

a 各核種のせつ取量

厚生省の栄養調査(19)をもとにして1人1日の各食品せつ取量を定め、これまでの計算値 を用いてその中に期待される核種の量を総計し、種々の場合における全放射能 1C/m2 降 下した時のせつ取量を計算した。

(1) 全放出の場合

イ 事故時しばらくの期間(単位μC)
せつ取源 重量
(生g)
Sr89 Sr90 Cs137 I131
野菜(直接汚染) 300 900 110 130 540
牛乳(〃) 200 48 8 58 280
沿岸魚 30 0.07 0.009 0.09 1.3
淡水魚 10 0.7 0.1 9 ?
10 2.4 0.3 0.3 9.8
計(成人)   951 116 197 831
Sr89 Sr90 Cs137 I131
新生児(ミルク 200g) 48 6 58 280
6ヶ月(ミルク 800g) 200 24 230 1,120
3才(ミルク 400g野菜150g) 546 67 181 830
10才(ミルク 400g野菜200g) 696 86 202 920
ロ 新米収穫後(単位μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米麦(直接汚染) 480 26 3 210
    170(出荷后被災) 22(同左)
野菜(土地汚染) 300 42 5.4 0.05
牛乳(〃) 200 24 3 0.2
海草 のり 30 4.2 0.4 2.6
   褐藻 20 1.9 0.2 0.02
計(成人) 98
242(出穂后被災)
12
31(同左)
213
ハ 翌年産米収穫後(μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米 麦    白米 380 2.7 0.34 0.1
(土地汚染) 麦 100 5.8 0.7 0.03
野菜(土地汚染) 300 42 5.4 0.05
牛乳(土地汚染) 200 24 3 0.2
75 9.4 0.38

(2) 揮発性放出

イ 事故時しばらくの期間(μC)
せつ取源 重量g Sr89 Sr90 Cs137 I131
野菜(直接汚染) 300 60 7.2 81 1,620
牛乳乳(〃) 200 3 0.4 36 860
沿岸魚 0.005 0.0006 0.05 4
淡水魚 0.044 0.005 5.4 ?
0.15 0.019 0.18 30
計 (成人) 63 7.6 123 2,500
新生児(ミルク200) 3 0.4 36 860
6ヶ月(ミルク800) 12 1.6 144 3,440
3才(ミルク400、野菜150) 36 4.4 113 2,530
10才(ミルク400、野菜200) 46 5.6 126 2,800
ロ 新米収穫後(μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米 麦(直接汚染) 480 1.4 0.2 130
    11(出穂后被災) 1.3(同左) 0.03
野菜(土地汚染) 300 2.7 0.3 0.03
牛乳(〃) 200 1.5 0.2 0.13
海草 のり 30 0.27 0.03 0.016
   褐藻 20 0.12 0.015 0.007
  6
15.6(出穂后被災)
0.75
1.8(同左)
130
ハ 翌年産米収穫後(μC)
せつ取源 重量 g Sr89 Sr90 Cs137
米 麦    白米 380 0.17 0.023 0.068
(土地汚染) 麦 100 0.1 0.02 0.018
野菜(土地汚染) 300 2.7 0.3 0.03
牛乳(土地汚染) 200 1.5 0.2 0.13
4.5 0.54 0.25

b 食品せつ取による被曝量の推定

体内に蓄積される核積の状況は大たい前節のようになり、全放出の場合は Sr90 が、 揮発性放出の場合は幼若児における I131 が最も重要な曝射を与えるものと考えられる。

そこで、全放出の場合、Sr90 による骨線量を年間 1.5rad におさえたとき、Cs137 による全身線量、I131 による甲状腺線量、Sr89 による骨線量を計算して表に示す。 ただしその計算は次の想定にもとずく。(20)

(1)  1 人 1 日 Ca せつ取量を 0.5g、食物から人骨への Discrimination factor を 0.5 とする。そこで 1 日 0.5mμC Sr90 をせつ取すると人骨内でほ 500スト ロンチウム、ユニットとなり、これによる線量率は年間 1.5rad 以下である。
(2)  Sr89 は decay を計算に入れ初期 1 日 50mμc にて総線量は 15rad 以下となる。
(3)  Cs137 は全身線量に関係するので、新生児体重 3.7kg、6ヵ月児 8.8kg、成人 7 0kg とし人体内半滅期を140日、食品の Cs137 濃度滅少を 70 日半減期として、 総線量全身 10rad 以下にするには、新生児で初期 1 日せつ取量 60mμc、6ヵ月 児で 150mμc、 成人で 1150mμcでおさえればよい。
(4)  食品中 Cs137 の減少を考慮に入れたのは、Cs137 が直接汚染のとき高く、土地 汚染による作物中への蓄積が極めて悪いことを考えた上である。
骨に与える線量 全身  
Sr89 Sr90 Cs137
1.2rad
(総線量)
1.5rad
(年間)
0.01rad (成人) 0.07rad (成人)
0.07 (6ヶ月児) 0.3 (10才)
0.17 (新生児) 0.8 (3才)
(総線量) 2.0 (6ヶ月)
(5)  6ヶ月児の甲状腺 1.8g、3才で 3〜4g、10才で 9.2g、成人で 25g とし、半 減期を考慮すると、初期 1 日せつ取量が 6ヶ月児で 60mμc、10才で 300mμc、 20才以上で 1,300mμc ならば甲状腺に与える総線量は 25rad を越えないとする。

次に揮発性放出の場合、6ヶ月児の甲状腺に与える総線量を 25rad におさえると、 全放出のときと同様、他の線量は次の表のようになる。
骨に与える線量 全身 甲状腺
Sr89 Sr90 Cs137 I131
0.33rad
(総線量)
0.40rad
(年間)
0.0018rad (成人) 0.85rad (成人)
0.17 (6ヶ月児) 4.0 (10才)
0.10 (新生児) 10 (3才)
(総線量) 25 (6ヶ月)
(総線量)

これらのときの降下量は全放射能で

	全放出の場合 ‥‥‥‥‥‥ 0.5/116 × 10
3
 = 4.3 × 10
-6
 C/m
2
	揮発性放出の場合 ‥‥‥‥ 60/3440 × 10
3
 = 1.7 × 10
-5
 C/m
2に相当することになる。

c 各地域の使用制限の推定

事故時における人体及びその器官に与える放射線量がどの程度まで許容され得るかにつ ついては、未だ多くの研究の余地が残されているが、いま次の値を基準として、(19)食品別 に使用制限を推算する。
骨に与える線量 全身 甲状腺
Sr89 Sr90 Cs137 I131
15rad 1.5rad 10rad 75rad (成人)
25rad (幼児)
総線量 年間線量 総線量 総線量

(1) 全放出の場合

前節の表に示した様に 4.3 × 10-6 C/m2 の降下量にて Sr90 による骨線量は 年間 1.5rad となり、Sr89、Cs137、I131 の線量はそれぞれの基準値に比 べて相当低いから、これを制限範囲にとることができる。そして、Sr90 せつ取量の 小さい品目についてはその濃度の範囲を上げることができる。

即ち、イ表では、沿岸魚で 102、淡水魚及び貝にて 10 をかけることが可能である。 又、ロ表では出穂后被災の米麦を除き全部 10 を、ハ表では全品目に 10 をかけること ができる。

(2) 揮発性放出の場合

同じようにして、3才児の甲状腺線量を 25rad におきえるのに降下量を 1.7×10-5 C/m2 に制限すると、他の核種による各線量は相当低いからこれを範囲とし、 せつ取量の低いものについて制限範囲をゆるめると、各品目について全放出のときと全 く同じように倍数をかけることができる。

以上をまとめて各食品とその生産場の使用制限範囲とその期間を一括して示す。

全放出の場合 C/m2 期間



米 麦 出穂前被災 4×10-5 棄却
出穂後被災 4×10-6
野 菜 4×10-6
牛 乳 4×10-6


使


水田、麦畑 4×10-5 10年
野 菜 畑
牧  場
淡水漁場 河川3ヶ月 湖沼 1 年
沿岸漁場 貝養殖場 3ヶ月
のり養殖場
海藻養殖場
沿岸漁業場 6×10-3
揮発性放出の場合 C/m2 期間



米 麦 出穂前被災 6×10-4 棄 却
出穂後被災 6×10-5
野 菜 6×10-5
牛 乳 2×10-5 保 存
6×10-5 棄 却


使


水田、麦畑 6×10-4 10年
野 菜 畑
牧  場
淡水漁場 河川 3ヶ月 湖沼 1 年
沿岸漁場 貝養殖場 3ヶ月
のり養殖場
海藻養殖場
沿岸漁業場 6×10-3

引用文献

 (1) 農林省統計表
 (2) NISHITA et al. (1957) UCLA Rep.401
 (3) MIDDLETON (1958) Nature 181. p.1300
 (4) COMAR et al. (1956) Progress in Nuclear Energy,Siries VI,
     Biol. Sci.vol. 1.
 (5) FAO (1959) Radioactive materials in food and agriculture.
     FAO/59/12/9811
 (6) DUNSTER, H.J. et al. (1958) 2nd Geneva Rep. vol. 18. p.296
 (7) REDISKE et al. (1956) 1st Geneba Rep.
 (8) HAMILTON.J.G. (1948) Rev. Mod. Phys. vol 20,NO.4
 (9) 三井進午他 (1959)
(10) COMAR. C.L. et al (1958) Sr-Ca movement from soil to man.
     Science 126. 485
(11) CHRISTENSEN, C.W. et al (1958) 3rd Nuclear Engineerign and
     Science Conference, Chicago
(12) ICHIKAWA (1960) Rec. Oceanogr. W. in Japna.
(13) 食品成分表
(14) PENDLETON et al (1958) 2nd Geneva Rep. vol. 18. p.419
(15) KRUMHOLZ, L.A. et al (1957) The effects of atomic radiation
     on oceanography and fisheries
(16) 大島幸吉 (1950) 水産動物化学
(17) VINOGRADOV, A.P. (1953) Sears foundation for marine research
     memoir II, Yale Univ
(18) CHIPMAN, W.A. (1956) Progress rep. 1956. U.S. Fish & Wildlife
     Series, Beaufort,N.C.
(19) 厚生省 国民栄養の現状
(20) MRC Rept. (1959) Brit. Med. J. April, 1959

附録 (E) 前半 / もくじ / 戻る / 附録 (F)

物的、人的損害額の試算基礎

I. はしがき

WASH においては、原子炉事故によつておこる損害額の計算に当り、物的損害については、一応の金銭的評価をおこなつているが、人的損害については、単に被曝線量とそれによる影響度を示した人数が算出されているのみで、その金銭的評価はおこなわれていない。

人的損害の金銭的評価が困難である、というよりも殆んど適正な評価が不可能であるということを知りつつも、われわれが敢えてこれをおこなつ たのは、本調査の目的から原子炉事故にともなう損害の全評価額を算出することであり、その数値を多少なりとも適正な数値に近づけさせるためである。

そこでわれわれがこれをおこなうことの意義を見出したのは、次のような簡明な論理である。すなわち、破滅的原子炉事故は人的および物的と いう 2 つの損害を惹起するということ、にも拘らず (それが、いかに困難であるからといつて)、人的損害の評価を全くおこなわない、すなわち零とするならば、結果は全損害額 = 物的損害額となつてしまうおそれなしとしない。したがつて特に過大評価にならない限り、人的評価を零でないとすることは必要であるということに基づいてい る。もつとも物的損害額のみを算出してコメントをつける方法もあるが往往にしてこのような 1 つの数値が結果的に出された場合、コメントがはづされて独り歩きするものであり、そのようなことに基づく誤謬を避けるための配慮を怠つてはなるまい。

物的損害の評価方法については、WASH に一応例示があるが個々の数直について、その根拠または算出ルートが殆んど示されておらず、しかも明らかに推計方法の誤りと思われるものもあり、わが国の 場合に引き移して考えるに際し、相当の補正をおこなわざるを得なかつた。また、人的損害の試算は極めて困難なものがあつたが、前述の考え方から、何とか数 値を示すという意味で、最後まで一応評価をおこなうこととした。

その試算方法は後に示す如く、物的損害よりはるかに大胆な、大まかな推定や仮定がなされているが、結果からいえば、過大評価にはなつておらず、しかも零でないところに結論が出たという意味で満足するほかはないであろう。

以下物的損害および人的損害の試算基礎についてのぺることとするが、ここに論じている損害の範囲は、実際に原子炉事故による損害が溌生した 場合のものよりも狭くなつていることはとくに注意を要する。何故なら明らかに損害賠償の対象になるとは思われても―律にこれを算出する手がかりが全くない ものは計算されていないからである。実際の損害賠償の範囲はおそらく相当因果関係の範囲であろうからわれわれが試算した額より大きくはなつても小さくはな らないと思われる。


附録 (E) / もくじ / 戻る / II 物的損害額の試算基礎

II 物的損害額の試算基礎

大型原子炉事故から生じうる敷地外の物的損害額の試算に当つて WASH では次のような見積り方法を採つている。(1)原子炉事故によつて影響をうける人数を算定する。(2)これらの人々をその影響の度合によつて 4 つの級別に分類する。(3) 1人当りの平均額を確定する。本調査に当つての損失試算においても方法自体はほゞこの WASH と同様な方法をとつた。

すなわち、沈着放射能によつて影響をうける度合に従つて、附録 (D) に示したように以下の 4 級別に分け、その各人について 1 人当りの平均損害額を試算することとした。

放射能量 影響をうける度合
揮発性放出 全放出
A 級 0.04 C/m2 0.07 C/m2 12 時間以内に全員立退き
B 級 0.01 〃 0.02 〃 1 ヶ月以内に全員立退き
C 級 6 × 10-4 4 × 10-5 都会居住者は 6 ヶ月間だけ退避
農村居住者は全員立退き
D 級 6 × 10-5 4 × 10-6 1 ヵ年間農業制限

以下 1 人当り平均損害額の計算にあたり問題となるべき点を述べることとするが、その結果として示された損害額は、もし万一大事故が生じたときに支払われるであろう賠償額よりもかなり過少評価となつているおそれがあることを指摘しておく要がある。

これらは、もちろん物的損失に対する賠償の対象をどの範囲に限定するか、拡大するかの考え方の相異による面もあるが、またこの試算に採用し うる既存資料の限界から、当然計上すぺき資産が除外されたという事情に基因した面もあつた。後者は今後さらに良い資料をうることによつてある程度解決しう る問題であり、本報告はその一例を示したものとして理解するべきである。

以上の諸点は各項おいて詳しく述べてあるが、仮りに事故に伴つて喪失するであろう資産の全てを誤りなく計算し、全額を補償したとしても、わが国の場合果して立退き先があるか、また立退き後それ以前と同様な経済活動を営みうるかは大きな問題として残されよう。

また本調査での試算は WASH と同様すべて全国の平均値である。附録 (B) において想定された原子炉設地点が海岸寄りの比較的人口密集地にある場合、全国を平均化することには若干問題がある。こうした配慮は本試算では全く行わな かつたが、実際の計算に当つてはこの面への調整は当然行わるべぎものと考えられる。

1. 物的損害額試算の前提となる問題点

(1)統計資料の年次

本試算について数多くの統計資料を取捨選択することとなるが、 これらの統計資料の全部について統一した年次はとり難い。もし年次の統一化を図れば、計数はかなり過去のものとなり現状と大幅なギヤツプを生じかねない。

WASH の場合についてみると、試算の全資料を「米合衆国統計大要 1955 年版」に求めている関係から、その内容は、1949 年現在の数値をそのまま引用することとなつたと考えてよく、この結果示された損害額は現状とかなりかけ離れたものとなつている。例えば、同統計大要によつ て時間的ギヤツプをみると、再現可能有体財産は 1949 年 7,207 億ドルに対し 1952 年では 9,684 億ドルであり、3ヵ年で 34% の増加を示しており、年間増加率を推算してもこれから現状を推測することは容易でない。

このため本試算ではできる限り最近の数値を求めることとした。この結果各種統計について年次は不統一となることを免れなかつた。とくに有 形資産 (家計資産を除く) については昭和 30 年末現在の資料を採用し、その一部を 33 年現在の資料で置き替えるという大胆な試みも行つた。これらの試みは経済成長率が高いというわが国の特殊事情を考慮したためである。がやはり全体的には昭 和 30〜33 年現在の数値となり、幾分現実の値に近づくことができたものの、やはりかなりの過少評価とならざるをえなかつた。

(2)損害計算の対象範囲

WASHにおいては物的損害計算を 1 級および 2 級の場合、再現可能有形資産 (Repoducible Tangible Assets) と土地について行つたとしている。しかし、これを原資料についてみると、前者についてはその全部を計上しているが、後者については私有地のうち農地 (Farm) と森林 (Forests) のみを計上しているにすぎず、土地価額のほぼ、3 分の 2 を占める「その他の私有地」( Private ) のうち Other と「公有地」( Public )) は計算の対象から除外している。また無形資産に対する評価は全然顧慮していない。

本試算においては損失の予想される全資産の総体を計算するように努力した。WASH について問題となる土地についても耕地、山林のみでなく宅地、原野などについて適当な評価を行つた。強いて本試算から脱漏した有形資産を示せば地下資源、 立木などの天然資源、自然物であろう。

事故に伴つて立退きを強制された場合には、その地域に存在する資産の全体を損害計算の対象とするべきであろう。したがつて無形資産につい ても、有形資産と同様な評価を行うへきと考える。とくにわが国の場合、被害範囲の一部が海上に及ぶことは当然予想されるところであり、もし漁業権などを考 慮しなければ海上における損失は皆無となり、実情とかけ離れたものになる可能性がある。しかし無形資産については、有形資産と異り個々のケースで大きな相 異があり平均化が困難であるばかりでなく、その統計資料の整備も不充分であるので本資産ではこれについての評価は行わなかつた。原子炉設置点を中心として 一つのモデル地域を設定し、この地域について無形資産の実地調査を行えばある程度まで資料がえられるかも知れない。

このほか物的損失に伴う補償を考慮する場合、立退き後における生活権も問題として考えられる。WASH では第 3 級の場合について、移転のための往復日数 4 日間の収入損失を補償の対象としている他は、第 1 級、第 2 級の場合とも損害発生時点はおける資産のみを損失としている。住居、家財のみでなく収入先の会社、工場が被災した場合において、その後の収入に対する保証 は何もない。多くの場合において長期間大幅な収入減が予想される。このことは一般勤労者に対してのみでなく、農業その他についても同様と考えられる。かか る収入減に対する損失計算は、無形資産の場合と同じく計算はほとんど不可能に近いが、といつて実際的にはこの面への配慮も忘れてはならない。

(3)有形資産の地理的区分

1 人当りの平均額を確定する計算を行うことは、損害額の総体を把握するための便宜的な手段であるが、1 人当りの平均額に換算することによる実情との遊離を少しでも少くするために、これを都会と農村に区分して計算した。被害地域面積が広くなるほど平均的なも のに近づくことはいうまでもない。極端いつて日本全土が被災した場合には、都会、農村の区分も不要となるわけである。しかし実際にはある任意の一定地城に 限定されるところに問題がある。附録 (B) において想定されたように、想定被災地城には大都市も中小都市も、農村も漁村もあろう。その各々について財産の賦存状態は平等でない。したがつて同じく 1 人当り平均額を考える場合にも、その各々について計算を行えれば、誤差はより少くなろう。

つぎに都会資産、あるいは農村資産の定義はどうか。ここでいう都会、農村の区分は、都会あるいは農村という言葉で代表される地域上の分類で ある。農業のための資産であつても、それが都会地に存在する限り、それは都会資産と見做されよう。例えば、市部に存在する土地は、それが農地であつても都 会の土地として整理されるのを至当とする。

本試算においては、以上 2 つの考え方、すなわち細く区分すること、明確な定義による区分を行うことに努力した。しかし、実際には都会と農村の 2 つに区分することすら厳密明確な統一的見地からは不可能であり、各資産項目のそれぞれについて便宜的方法によつた点の多いことをことわつておく。

以上の 2 点を WASH についてみると、区分は都会、農村の 2 つとなつている。区分方法はさして明確とは思えない。公共団体所有 (Institutional) 政府所有 (Governmental) の構築物、生産者の耐久設備 (Producer Durables) の一部をそのまま都会資産として整理している。また、土地については前述の通り農地と森林を全部農村資産に計上しながら、その一部が都会にあると思われる 「その他の私有地」「公有地」は全部脱漏している。この他は家畜類 (Live Stock)。作物 (Crops) など概ね農村に所在すると断定できるものを農村資産とし、農業用でない (Nonfarm) と明記されている構築物を都会資産とするなど無難なものも多いが、WASH の区分方法にもかなりの問題がある。

WASH の場合には都会資産と農村資産の 1 人当り平均額が偶然一致したのに対し、本試算では後述のように両者に大幅な差が生じたので、各級の損害計算にはかなり大きな影響をもつこととなつた。それ 故、都会、農村の区分方法を詳述しておく方がよいと思われる。以下人口および各資産についてその区分方法を示せば次の通りである。

(イ) 人口

附録 (B) で想定した典型的地理条件から考えて、仮定被災地域の区分を 4 種とすれば都会、農村人口の割合は次の通り 6:4 となる。


都会人口と農村人口の比率
都会人口 農村人口
A 100 0
B 90 10
C 70 30
D 40 60
全国平均 60 40

この比率を昭和 32 年の総人口 91,100 千人に適用すれば、都会人口 54,660 千人、農村人口 36,440 千人となる。以上の計算は他の資料から推定される人口比率と大差はないので、本試算ではこの計算方法による人口をそのまま採用する。

(ロ)有形固定資産および棚卸資産(除く家計資産)

経済企画庁調べ昭和 30 年国富調査および大蔵省調べ法人企業統計の業種別分類から農林水産関係資産を農村資産とし、その他を全額都会資産とする。

(ハ)家計財産

上述の国富調査から引用したが、これを区分する適切な方法がないので、WASH におげる消費者の耐久設備 (Consumer durables) と同様に、都会、農村に平等に配分した。

(ニ)土地

土地価格の計算は便宜上耕地、山林、原野、宅地、牧場、その他の 6 種に分類したが、その面積について農林省の統計があるのみで他は正確な資料がない。その各々については土地価額の算出方法とともに後述するが、「自治庁調 べによる課税対象民有地の市部、郡部の区分、および前述の人口区分を考慮して適宜査定した。

2 損害額の試算方法と結果   ――   1 人当りあるいは 1 平方粁当り損害額

前述の通り、沈着放射能により影響をうける度合に従い 4 つの級別に分けた。

A 級と B 級は、立退きの緊急性においてやや相違があるが、この級に属する人々は立退きを強制され 1 年かそれ以上家に戻ることを許されない。

C 級では、農業は相当長い間停止されるが、都会居住者は、一時的立退きで済む。都会居住者の立退き期間は 6 ヵ月として試算した。

D 級では、都会居住者は影響なく、農業においてのみ現有作物の破滅と 1 年間の農業制限をうけることとした。

本調査における他グループの研究結果によれば、WASH の場合と若干の相違はあるが、ほぼ以上の 4 級別の分類ができ、損害計算も容易となるので、この方法によつた。

A 級 、B 級 : 立退き

    1 人当り損害額    都 会   600 千円
                      農 村   350  〃

この級に属する人々は土地の使用不能を含め全財産を喪失する。したがつて、損害額は土地を含めた全資産の合計額となる。

試算結果は第 1 表の通りであるが、都会と農村の損害額は、WASH の場合と異り大幅な差異が生した。わが国の場合、有形資産は主として都市に偏在し経済生活にも都会と農村とではかなりの懸隔があることを考えれば、このこ とはむしろ当然であろう。前述の通り、家計資産について都会、農村別ウエイトを同一にした点からみても、都会資産はむしろ相対的に過少評価されているとも いえる。なお WASH では計算結果を 1 世帯の平均給与と比較して大まかな験算を行つているが、本試算結果について同様な験算を行える適当な方法はない。因みに、これを WASH の結果と比較してみると、都会では米国の 33% 農村では20%となる。

損害の対象とした資産内容について前述の通りの土地の範囲、資料の採用年次に大きな相 違のあること等を考慮して種々検討した結果、上記の数値は WASH の値との対比におい ても一応の妥当性をもつものと判断された。

(立退のための損害額試算方法)
@ 有形固定資産および棚卸資産 (除く家計資産)

基本として経済企面庁調べの国富調査(昭和 30 年)の有形資産評価額(除く家計) をとつた。本調査は調査年次が昭和 30 年であり,現状とかなりの差があると思われ るので、このうち営利法人資産を大蔵省調べの法人企業統計(昭和 33 年)に表示さ れた数値と置きかえた。

都会と農村との区分は、国富調査、法人企業統計とも農林水産業に属する資産を農 村の有形資産とし、他を都会の有形資産とした。

A 家 計 資 産

同じく国富調査から家計に属する有形資産評価額を採つた。調査年次は昭和 30 年。

B 土 地

前述の通り土地を 6 種類に分類して計算したが、面積および単位当り価格の出所は 次の通り。

a 耕 地
面 積 ‥‥‥ 農林省統計調査部資料(昭和 32 年)
価 格 ‥‥‥ 日本勧業銀行調査部調べによる全国平均中品等売買価格(昭和 33 年)
都会と農村の区分方法

自治庁税務部調べによる田畑の市部、郡部別の比率(昭和 31 年)を全面積に適用すると、やや都会の耕地面積が過大になると思われたので、市部に存在する民有地をそのまま都会の耕地面積とし、他を農村に所在する耕地とした。

b 山 林
面 積

林野庁調査(昭和 31 年)によつたが、賠償の対象とする範囲と売買価格調査方法から考えて、全面積から「林道の新設によつて開発しうる森林」および開発の困難な森林」(両者合計で全面積の 12.9% )を除く面積を採つた。

価格 ‥‥‥ 日本勧業銀行調査部調べによる全国平均山林素地売買価格(普通)― 昭和33年。

なお、この価格は市町村内の中庸地の価格であり、交通運材ともに不便な水源地帯などの分は含まれない。

都会と農村の区分方法

自治庁税務部調べによる市部、郡部別の比率は 19.8 : 80.2 となるが、実情から考えて全面積を農村とした。

以上は全て山林素地についてであつて立木価額は資料の関係から計上できなかつた。実際には素地のみでなく立木 (蓄積石数と樹齢から考えた成長良) も賠償の対象として考慮すべきであろう。

c 宅 地
面 積

全国の総面積を調査した資料がえられなかつたので、自治庁税務部調べの課税 対象民有地面積 (昭和 31 年) を計上した。都会と農村の区分も同調査による市部、郡部の比率をそのまま採用した。

価 格

単位当りの売買価格の調査資料はない。しかし都市の売買価格については、 自治庁税務部において勧銀調査資料から換算した推定売買価絡 (都市分) ― 昭和 33 年 ― が あるので、これを都会の宅地売買価格とした。

農村の宅地売買価格については推定した資料もない。それ故宅地以外についての自治庁の評価指示価格と勧銀の売買価格との比率を参考として評価指示価格から売買価格を推定し、これを農村宅地の売買価格とした。

d 原野および牧場

面積および部市、農村の区分方法

原野の総面積について農林省統計調査部の資料 (昭和 32 年) があるのでこれ を採つたが、牧場については正確な資料がないので、自治庁税務部調べ (昭和 31 年)による課税対象民有地面積をそのまま全面積とした。

都会、農村の区分は、牧場については自治庁調べの市部、郡部別の面積を夫夫 都会、農村の面積とした。原野については、市部の民有地を都会の原野面積とし総面 積からこれを差引いたものを農村の原野面積とした。

価 格

農村宅地と同様な方法によつて算出した。評価指示価格の売買価格に対する比 率を 0.24 とした。

e そ の 他

以上の耕地、山林、宅地、原野、牧場の他の主なものとしては、塩田があるが、これは地域的に偏在しており、全国平均数値に算入するのは適切でないと思われるので、とくに価格の計算から除外した。

以上から、立退きのための全国平均 1 人当り損害額は表 1 の通りとなつた。
表 1 立退のための損害額(全国平均)
都 会 人 口 54,660千人
農 村 人 口 36,440  
1. 都 会
億円 千人 円/人
有形固定資産および棚卸資産 161,781 / 54,660 / 295,977
(除く 家 計) 億円 千人 円/人
家計に属する有形資産 60,054 / 91,100 65,921
土 地 124,273 / 54,660 227,356
計 589,254円/人
 
2.農 村 億円 千人 円/人
有形固定資産および棚卸資産 11,209 / 36,440 30,760
(除 く 家 計)
家計に属する有形資産 60,054 / 91,100 65,921
土 地 95.416 / 36,440 261,844
計 358,525 円/人

C級 : 一時立退、または生活様式に厳重な制限

1人当り損害額 都 会 100 千円
農 村 350 〃 

WASH によれば、この級での 1 人当り損害額の次のような老え方から計算されている。 すなわち、農家については、農業が相当長期間停止される結果 B 級と同様な損失をうける のに対し都会居住者は 6 ヵ月程度の一時立退で済むことになつている。

本調査においても、一応この WASH の規定した第3級の定義によつて損害額の平均の 試算を行つてみた。

しかし、わが国の場合この C 級に示された損害頭の計算方法の適用されるケースは、極 めて少ないであろうと考えられる。何故ならば、この場合都会の建物については、6 ヵ月 間における放射能の自然減衰と人為的な汚染除去によつて、その後における居住が可能に なるわけであるが、このためには当然建物内の汚染程度は戸外に比しかなり低いことが前 提となつている考えられるからである。わが国の居住家屋の大半が木造であるとした場合、 果して戸外、屋内の汚染程度の差を想定できるかは疑問であろう。大都布の中心部に位置 するピル街については、ほゞ米国と同様に考えられようが、居住地域について建物の内外 とも同程度汚染したと考えた方がよかろう。したがつて、この級におけるような損害額算 定方法は、理論上では一応想定できても実際には余り意味がないといえる。

以上のことを敢えて無視して、都会居住者についての試算方法と結果を述べれば次の通 りである。

都会居住者ほ、WASH と同様 6 ヵ月間住居を移転するものとする。移転先はもちろん 千差万別であろうが、―応現住地から 500 粁以上の移転するものとする。なお、以下の 数値は全て 1 世帯平均人員を 4.46 人 (総理府統計局調べによる全都市勤労者世帯 ― 33 年) としての計算の結果である。

一時立退きによる損害額 (1 人当り)

(a) 移転費用 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 10,000円

移転のための往復交通費のほか雑費を含む。

(b) 移転の間の収入喪失 ‥‥‥‥‥‥‥   2,044円

前述の通り、立退き期間中において当然予想される収入喪失ないし収入減少はあえて 考慮せず、WASH と同様移転に要する往復期間のみ収入を喪失するものと仮定した。

計算は、総理府統計局調べの全都市勤労者世帯の実収入額、月額 34,663円 (昭 和 33 年平均) を基礎とした。

(c)新しい宿舎の費用 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6,726円

立退き先が縁故地であるか否かによつて費用は異るであろうが、4.46人家族の居住 可能家屋の平均家賃を月額5,000円とした。

(d)立退き期間中の家計支出の増加額 ‥‥‥‥‥ 34,031円

短期間中における大人数の移転、家具などの汚染などの事情を考慮すれば、移転先に携行できるものは家財の一部にすぎず、大部分は現住居に放 置することとなろう。したがつて、移転先において家具、什器、衣服および身回り品などの最低生活必需品を新たに購入する必要がある。WASH ではこうした事情に基づく支出堵加を考慮していないが、家具などが家屋に付随している米国の場合とは事情は異る。
勤労世帯の家財(1世帯当り)
家具、什器 46,569 円
衣服および身回品 105,209  

151,778  
(昭和 30 年国富調査)

(e) 所有物の汚染除去 ‥‥‥‥‥ 46,285円

WASH の費用をそのまま計上した。

(f) 合計 (a-e) ‥‥‥‥‥ 99,086円

D級:手崩す作物・の破滅と1年閲濃業制限

1 平方粁当り損害額:5,000千円

WASHによれば、この級では損失は農業についてのみ考えればよく、損害額は 1 年間の農業収入を見積りの対象としている。

本調査もこれとほゞ同様に考えるが、1 年間の農業制限の結果として 1 年問の農業所得の喪失を考慮するのは必ずしも妥当といえない。

農業所得は月々かなり大幅な変動を示すのが音通である。したがつて、原子炉事故が何時起るかによつて損害額は異る。こうした事故の時期につ いて一つの仮定を設ける必要はないだろうが、仮りに 1 年間の農業制限とは、1 年間農耕が営めず、被災時にあつた収獲物は廃棄するものとすればこのことは少くとも 1 年半程度の農業収人の喪失となるであろう。たとえば、いま原子炉事故が 8 月に起つたとしてみよう。稲作のみを収入源とする農家では、当該年間の収入喪失となるのみならず、翌年の稲作も不能となる結果 2 年間の収入喪失となろう。また稲作と麦作を営む農家では、2 年分の稲作収入と 1 年分の麦作収入を失うだろう。この場合もし稲作と麦作所得とを同額とすれば、1 年半の農業所得中喪失と仮定できる。したがつて、本調査では D 級における損害額を 1 年半の農業所得相当額と考える。

@ 全国平均農業所得 (昭和 32 年度)
1戸当り            192,713円   (A)
A 全国農家数 (昭和 30 年)
1戸当り           6,042,915戸   (B)
B 全国農業所得 ( 1 ヵ年)
(A) × (B) 11,645億円   (C)
C 全国総面積
369,662平方粁   (D)
D 1平方粁当り農業所得 (1ヵ年)
(C)
―― ‥‥‥‥‥‥ 3,150 千円   (E)
(D)
E 1 平方粁当り損害額
(E) × 1.5 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 4,725千円

(注)
@ 農業所得、農家数はともに農林省統計調査部調べ
A 農業所得には自家消費分を含む
B WASH の1平方マイル当り 25 干ドルを換算すると、1平方粁当り 3,475 千円 (1 年間)となる。

この場合、WASH においては被災地域が米国東部海岸に限られるとして計算しているが、わが国の場合最大事故に伴う被災範囲半径には全国土が包含されることも予想されるので、特定地域を考えず全国平均の農業所得を損害計算の基礎とした。


I はしがき / もくじ / 戻る / III 人的損害額の試算基礎

II 人的損害額の試算基礎

人的損害の評価に当つて、まず問題となるのは、人間の価値を一律に金銭的に換算した価額が存在するかということである。人間の尊厳と平等の原理からすれば、何かこうした一定の絶対的な価額が存在して然るべきかめようにも思われるが、こうした数値は現実には見出せない。

身体、生命の侵害に際して支払われた額を実際の事例についてみると、その額は性別、年令、社会的地位(主としてその者の収入)、損害発生の 状況、事後の経過等により全く千差万別である。精神的損害に対する慰謝料は、ある意味で財産的損害に比べて個々人の性別、年令、社会的身分に左右されない 固定的部分であるべきであるが、実際にはこれも損害賠償額の中で物質的損害の不均衡を是正したり、被害者と加害者との関係を調整したりする緩衝地帯的な役 割を果しているのにすぎない。

戦後発生した幾多の交通事故による集団災害についてみても、そのほとんどが訴訟事件とならず示談による慰謝金の支払となつており、表 2 に示す通り、その金額は 1,000 円から 1,000,000 円以上まで種々様々であり、しかも示談の場合には関係当事者がその内容の公表をはばかるため不明確な点が多い。

本調査における人的損害額の算出は、物的損害額の試算の場合と同様に、影響の度合によつて 4 つの級別に分け、その各々について 1 人当りの損害額を試算するという手法を採つたが、以上のよう諸事情からその試算には非常は無理が伴つた。

このような平均一律の 1 人当りの損害額を試算するという方法は、主として人的損害の総額を算出するための計算上の便宜的手段ではあるが、といつてその結果に人数を掛けた損害額は 必ずしも実情と全然かけはなれたものになるとはいえない。何故ならば、これを 1 人当りの評価額としてのみ考えると無理のある数値であつても、特定の被災集団の年令、性別、社会的身分等の構成が、全国のそれと全く同一のものであると考 えるならば、この 1 人当りの数値に人数を乗じて得られる損害額は、より適正なものに近づくからである。本調査における人的損害の試算方法は、以下に述べる通り、次のような各 項につき通常の損害賠償額の算出方法にのせてこれを評価した。

原子炉事故に伴う賠償金の支払いは、近く国会に上提が予定される原子力損害賠償保障法により、明確な法律上の損害賠償責任の履行という形をとるか ら、このような項目による損害額試算方法も決して的はずれのものでない。また試算結果については、実際に起つた集団災害の事例によつてこれをチエツクし た。

なお試算の前提とした放射線の被曝量と障害、死亡の発生率との関係は附録 (D) 第 7 図を参考として決めた。

以上を基礎として被曝線量と影響をうける度合との関係を次のように 4 つの級別に区分し た。その各人における治療費および治療期間は表 1 に示す。
第 1 級 ‥‥‥‥ 被爆量 700r 以上
被爆後 2 週間以内に全負死亡
第 2 級 ‥‥‥‥ 被曝量 700r 〜 200r
全員放射線障害の病状を現わし一部は死亡
第 3 級 ‥‥‥‥ 被爆量 200r 〜 100r
障害はうけるが全員治癒
第 4 級 ‥‥‥‥ 被爆量 100r 〜 25r
明確な障害の発生はないが、診療と検査は必要
表 1  放射線被曝量と治療費とその関係
1 点 (甲地) 10.50円
(乙地) 10.00円
第 1 級 : 700r 以上 ・・・ 被曝後 2 週間以内に死亡するものとする。
(a) 治療費
入院料 61 点× 14 = 854点
輸液 (糖リンゲル 3,000CC/日として)
167点×14=2338点
輸血 (400CC/日として)
325点×10=3,250点
抗生物質 (テトラサイクリン 1.0g/日として)
41点×14=574点
(b) 検査料
末梢血 58点×14=812点
ヘマトクリツト 12点×5=60点
骨髄検査 110点×3=330点
心電図 80点×2=160点
脳 波 160点×1=160点
X 線撮影 70.9点×4=283.6点
電気泳動 50点×2=100点
その他 300点×1=300点
第 2 級 : 200 〜 700r ・・・ すべて放射線障害の病状を現わし、別表の死亡率で死者を出すものとする。。
(a) 治療費 (死者は 60 日以内に死亡するものとする)
入 院 料 (180日の入院を必要とみて計算)
第 1 月 61点×30=1,830点
第 2 月 58点×30=1,740点
第 3 月 〃×30=1,740点
第 4 月 55点×30=1,650点
第 5 月 〃×30=1,650点
第 6 月 〃×30=1,650点
輸   液 (糖リンゲル 2,000CC/日として
133点×30=3,390点
輸   血 (200CC/日として)
165点×10=1,650点
抗生物質 (テトラサイクロン 1.0g/日として)
41点×20=820点
(b) 検査料
末梢血 58点×30=1740点
ヘマトクリツト 12点×20=240点
骨髄検査 110点×10=1110点
心電図 80点×5=400点
脳 波 160点×2=320点
X 線撮影 70.9点×5=354.5点
電気泳動 50点×3=150点
その他 600点×1=600点
第 3 級 : 100 〜 200r ・・・ 死者はないものとする。
(a) 治 療 費
入 院 料 (90日の入院を必要とみて計算)
第 1 月 1,830点
〃 2 〃 1,740点
〃 3 〃 1,740点
輸   液 (糖リンゲル 1,000CC/日として
59点×14=826点
輸   血 (200CC/日として)
165点×10=1,650点
抗生物質 (テトラサイクロン 1.0g/日として)
41点×14=574点
(b) 検 査 料
末梢血検査 58点×30=1740点
骨髄検査 110点×6=660点
ヘマトクリツト 12点×10=120点
心電図 80〃×2=160〃
脳 波 160〃×2=320〃
X 線撮影 79.5〃×3=238.5〃
電気泳動 50〃×3=150〃
その他 500〃×1=500
第 4 級 : 25r 〜 100r ・・・ 検査のみ 90 日間観察するものとする。
検 査 料
初診料 18点
末梢血検査 58点×4=232点
電気泳動 50〃×1=50〃
その他 300〃×1=300

1 障害

物質的障害

(a)得べかりし利益の喪失(休業補償)

ここでは障害を受けた人が病院に入院し治癒までの期間職業につけないものとしてその場合の収入の喪失を計算する。その場合 1 人 1 日の収入は次の如く計算した。

昭和 33 年度経済企画庁編「国民所得報告書」の可処分所得のうち勤労所得と個人事業主所得の合計金額 68,865億円を、その年度の推定総人口 9,205万人で除すると 1 人当り平均所得は年額 74,812円、1 日当り約 205 円となる。したがつて 180 日入院の場合は 36,900円、90 日の場合は 18,450 円となつた。

この場合可処分所得のうち、障害を受けて働けなかつた期間に失うのは、主として勤労所得と個人事業所得であるから、死亡の場合も同じ)、他の種類の 所得はすべて対象としなかつた。ここでこれらの所得を総人口て割ることが問題であるが、所得を有する者と有しない者との区別を年令的に一線を引くことは繁 雑であり、また特定被災地域の所得額を算出することはできないので、被災集団人口構成(有所得者と無所得者のだ比)およびその所得が全国平均と同じと考え て、便宜上全員が所得を有することとした(他所においても同一の考え方)。

ここでは、休業補償のみを取扱い、一度一定の線量を受けたため、後で特定の職業 にはつけなくなるとか、あるいは、レントゲン技師のような場合は治癒しても再ぴそ の職業をつづけるのに困難を生ずるような場合は一生を通じての得べかりし利益の喪失 があるが、算出の手がかりがつかめないので省略することとし休業補償のみを考えた。

(b) 治 療 費

治療費は被爆線量と治療期間を示した表 1 にしたがつて点数を計算しこれに甲地 の 1 点単価 10.50 円を乗じてきめる。乙地の単価を採用しなかつたのは、これらの 治療は都会の大きな病院でしかおこない得ないような種類のものが多いからであり、 相当十分な手当をするものとした。年令、性別による治療期間の差違はここでは考え ない。

治  療  費
(i) 180日の入院 ‥‥‥ 10.50円 × 21,034.5点 = 220,862円(第 2 級)
(ii) 90日の入院 ‥‥‥ 10.50円 × 12,248.5点 = 128,609円(第 3 扱)
(iii) 検 査 のみ ‥‥‥ 10.50円 × 600 点 = 6,300円(第 4 級)

(2) 精神的損害 ― 慰謝料

前述の如く慰謝料には、一定の金額もまた確定された算出方法もない。したがつて最 近の判例のいくつかを参照して決めることとした。放射線障害では、交通事故の如く手、 足を失つたりすることはないが、たとえ一度治癒しても遅発生障害の危険性には絶えず おびやかされるものであり、この点から考えても以下の慰謝料は高くないと考えられる。 第 4 級は5万円と一応考えたが治療費とのパランスから多少引き下げることとした。

昭和 32 年度の下級裁半所民事裁判例の交通事故の傷害についての慰謝料を集計する と表 2 の如く 5 万円から 15 万円の幅になる級別によつて下記の如く分けた。障害の場 合の慰謝料については、被害者の近親者からの請求も考えなければならないこともある が、ここでは省略する。もつとも放射線障害の場合は、実際上はあまり問題にならない と思われる。

第 2 級 15万円
第 3 級 10万円
第 4 級 5万円
表 2  傷害の場合の慰謝料の金額
5万円
未満
5万円
以上
10万円
未満
10万円
以上
15万円
未満
15万円
以上
20万円
未満
20万円
以上
25万円
未満
25万円
以上
30万円
未満
30万円
以上
35万円
未満
35万円
以上
40万円
未満
40万円
以上
45万円
未満
7件 10 8 1 4     1  
1〃 1              
子供   2 2   2       1
8〃 13 10 1 6 0 0 1 1

2 死 亡

(1) 物質的損害

(a) 得べかり利益の喪失

一般に得べかりし利益の算出は、死亡した者の生存するはずであつた平均余命を調 べて、その期間に入る収入を計算する。そしてさらにこれをホフマン式計算法により 中間利息を控除して一時支払額を決定する方式をとつている。不特定多数の集団にお ける得べかりし利益の算出をこのホフマン方式でおこなうこと自体無理であるが、何 とかこの方式にのせる形をつくつてみると以下の如くになる。

死亡の場合の物質的損害は死者の得べかりし利益の損害賠償請求権が相続された時 に問題となる。この場合被扶養者が被扶養権の侵害という形で得べかりし利益の賠償 をおこなうこともあるが、ここでは、一度本人に生じた損害賠償請求権が相続された ものと考える(判例ではこの考えを否認したものもあるが学説はいろいろな角度か らこれを説明して肯定する立場をとつている)。1 人当り損害額についてホフマン方 式をあてはめる場合に必要な数値は、得べかりし利益の年額と平均余命である。得べ かりし利益は収入から生活費を差引いたもので、収入金額としては前述の障害の場合 と同じ国民所得の 1 人当りの数値をとることとする。この点の考え方については前述 の通りである。しかし判例では、現実に所得のない学生、女性について、前者の就職 した場合の初任給、後者の一般的労働所得を類推してホフマン方式を適用した例もあ る(戦後では女性や学生等の場合請求する方が慰謝料しか請求していないので、この 点は決定的ではない)。 そのような考え方に立てば国民所得の実績にさらに何パー セントかプラスをしたものを得べかりはし利益とせねばならないが、これこついての適 切な推定方法がないので、評価の対象としなかつた。生活費は扶養家族のない場合に は収入の 80% と見做されることとなつている。したがつて得べかりし利益の年額は 14,962円となる。

つぎに平均余命であるが、被災集団の年令性別構成が全国平均と同じであると考え て、その集団の平均余命としては、男女各々の年令別の平均余命に、その年令の人口 を乗じたものの総計を全人口で割つたものを用いることとする以外に方法がないと思 われる。これを計算すると 41.2 年となるのて法定利率を 5 分としてホフマン方式を 適用することとした。以上の数値は最近の資料がないので、性別、年令別人口は昭和 30 年の日本統計年鑑により、年令別平均余命は第 9 回生命表(昭和 25 年〜 27 年) を使用した。

ホフマン方式として従来もつとも利用されたのは、Aを得べかりし純利益の年額、 nを年数とすると、という式であつたが、これでは年々収入がある のに最初の第 1 年目の収入についても n 年分の利息を引くことになり、損害額は不当 に小さくなるので、最近では、1 年毎の純利益について別々に中間利息を引く方法、 すなわち

という式、さらには 1 ヶ月毎に計算する式、すなわち
という式が多く使われており、今後はこの式が一般式となろう。したがつてここでは第 3 式によることとした。この計算は非常に複雑であるが、速算表が出来ており、裁判所にも備えられている。

以下それぞれの場合を示すこととする
(第 1 式)    国民の
個人所得×

× 国民の
平均余命年数
総人口

1 + 0.05 × 国民の
平均余命年数
74,812円 × × 41.2
=
= 201.134 円
1 + 0.05 × 41.2
第 2 式 平均余命年数後 1 度に収入するものとせず、1 年毎に、収入するものとして計算する
74,812円 × × 21.97048397 = 328,724 円
第 3 式 1 月毎に収入するものとして計算する
74,812円 × × × 268.278441 = 334,507 円
※法定利率による単利年金現価表による

(b) 治 療 費

この場合は死亡までの治療費である。これは本来相続人ないしは扶養義務者から請 求されるが、ここでは本人の損害として考えることとする。その期間と費用は以下の 通りである。

                 治 療 費   (死亡までの)
    (i)  14日以内の入院後死亡     10.50円 ×  9,221.6点 =  96,867円
    (ii) 60日以内の入院後死亡     10.50円 × 14,344.5点 = 150,617円
(c) 葬 祭 費

葬祭費については、全く一定した金額がないので、昭和 32 年度下級裁判所民事裁 判例から、50,000円と推定した。その根拠は次のとおりである。

葬 祭 費 用 の 例
(i) 50,000 (i) 85,000
(ii) 100,000 子供 (i) 55,000
(iii) 87,000 (ii) 16,000
(iv) 50,000 (iii) 10,000
(v) 88,000 (iv) 32,000
(v) 46,000

精神的損害 ― 慰謝料

生命侵害の場合の慰謝料も、民法 711 条がある以上近親者の請求で問題となりうる と考えた方が論理的で、慰謝料請求権は相続されず一身専属的なものであろうが、ここ では、一応物質的損害と同様に考えることとする。この算出も逐次定型化されつゝある が、現在未だ明確ではなく、障害の場合と同じく昭和 32 年度下級裁判所民事裁判例の 中、交通事故による死亡に対する慰謝料をみると下記の如くであり、さらに集団災害の 事例を考慮して 350,000円とした。

死亡者の場合
0〜

5万円
未満
5万円
以上
10万円
未満
10万円
以上
15万円
未満
15万円
以上
20万円
未満
20万円
以上
25万円
未満
25万円
以上
30万円
未満
30万円
以上
35万円
未満
35万円
以上
40万円
未満
40万円
以上
45万円
未満
  1 2   3   4    
      1 1     1 1
子供   1   1 1 1 3   3
  2 2 2 5 1 7 1 4
45万円
以上
50万円
未満
50万円
以上
55万円
未満
55万円
以上
60万円
未満
60万円
以上
65万円
未満
65万円
以上
70万円
未満
70万円
以上
75万円
未満
75万円
以上
80万円
未満
80万円
以上
85万円
未満
  1            
  1     1      
  1           1
  3     1     1

むすび

以上を一表にまとめると、それぞれの場合の 1 人当りの死亡および障害による損害賠償 額は被曝量との関係において次の如くになる。
第 1 級 第 2 級 第 3 級 第 4 級
700r以上 700r 〜 200r 200r
〜 100r
100r
〜 25r
全員 2 週間
以内に死亡
死亡者は 60 日
以内に死亡
障害者は
180 日で治癒
90日で
治 癒
検査のみ




得べかりし
利 益
(死亡者)
334,507円 334,507円
休業補償
(障害者)
36,900円 18,450円
治療費 96,827 150,617 220,862 128,609 6,300
葬祭費 50,000 50,000
小計 481,334 535,124 257,762 147,059 6,300




慰謝量 350,000 350,000 150,000 100,000 30,000
総計(1人当り) 831,334 885,124 407,762 247,059 36,300

ちなみに、戦後の著名な集団災害における慰謝金支払の例をみると次のようになる。

集団災害の慰謝金
事件名 事件発生
年月日
死者数 1 人当り慰謝金
児童(1才〜10才) 青年男女(主として学生) 成人 備考
ジフテリヤ予防接種禍事件 23.10 68人 100,000円 平  ― 平均年令 2 才
桜木町事件 26.4.24 103 人 187,000円
木星号事件 27. 4. 9 37 人 平均 1,000,000円
一律  100,000円
100,000円は葬祭料
洞爺丸事件 29. 9.26 1,052人 事件当時    100,000円 300,000円 500,000円 海難審判で過失が確定
65,000 円 65,000 円 65,000 円  
その後    200,000 円 200,000 円+α 200,000 円+α 10,000円は供物料
10,000 円 10,000 円 10,000 円 αは個人差による
1人平均 1,050,000 円になる    
相模湖事件 29.10. 8 22 人 1,000 〜 2,000 円 履行したか否かも不明
森永ドライミルク事件 30. 6 79 人 250,000 円      
参宮線 31.10.15 39 人 平均   700,000 円?

II 物的損害額の試算基礎 / もくじ / 戻る / 附録 (G)

附録 (G)

大型原子炉事故から生じうる人
的物的の公衆損害の試算結果

本調査で仮定した数多くの前提にもとずいて公衆損害額の試算結果を示す。我々は大型原子炉の事故が生じた場合いかなる公衆損害を生ずるかについてそ の大きさの程度を知るため、次のようないくつかの場合の結果を示す。これらの結果を通して、それぞれの前提がちがつた場合の結果を一般的に想定できるよ う、種々の点につき楽観的悲観的な両方の代表を選ぶようにしているので、実際的な数値はこれらの幅の中におちるであろうと考えられる。但し、我々は楽観、 悲観の代表をとつているのであつて両極端を取つているのではないから、これ以上乃至以下の損害が生じる可能性も理論的には存在しうるものである。

考察する原子炉は事故が起きる前に約 4 年間運転した熱出力 50 万 KW の動力炉とする。

(1) 分裂生成物の放出について次の場合を示す。その他の場合の大体の傾向は以下の結果から推定できよう。
(イ) 揮発性放出 稀ガスの全部と妖度の 50% と向骨性元素の 1% とセシウムの 10% とが放出
キュリー数としては (24 時間後の値で)
(イ) 105キュリー    (ロ) 107キュリー
(ロ) 全放出 炉内の内蔵分裂生成物に比例した割合で放出
(イ) 105キュリー    (ロ) 107キュリー
(2) 放出温度については 2 つの場合を考える。
(a) 低温 普通の大気温度
(b) 高温 約 3,000°F
(3) 放出粒子の大きさについては質量の中央値が次の直径であらわされる 2 つの典型的分布を考える。
(a) 1 μ 煙の粒度分布に相当
(b) 7 μ 工場塵の粒度分布に相当
(4) 気象条件については次の 2 つの気象変化の組合せを考える。
(a) 気温逓減又は逆転
(イ) 普通の温度逓減状態 日中に相当
(ロ) かなり強い温度逆転状態 夜間の或る時間に相当
(b) 乾燥又は湿潤
(イ) 乾燥 雨無し
(ロ) 0.7mm 最もよくあると思われる降雨量率

但し、雨天時には温度逆転状態はほとんどないと考えられるので、これは除外する。

表 1 全放出、低温、粒度大
逓減 逆転
乾燥 乾燥
105キュリー
(1) 人的損害
 死 亡 (人)
 障 害 (〃)
 要観察 (〃) 24
 金 額 (百万円) 1
(2) 物的損害
 A 級 (人) 84 93 160
 B 級 (人)
 C 級 (人) 11,000 8,600 2,400
 D 級 (平方粁) 280 84 27
 金 額 (百万円) 4,200 2,500 707
合計損害額 (億円) 42 35 7.1
該当気象条件の時間的割合
(以下同じ)
8% 1.5% 0.5%
 
107キュリー
(1)人的損害
 死 亡 (人) 8
 障 害 (〃) 67 15 90
 要観察 (〃) 2,700 1,300 1,400
 金 額 (100万円) 120 7 87
(2)物的損害
 A 級 (人) 35,300 8,700 6,200
 B 級 (人)
 C 級 (人) 8,000,000 120,000 49,000
 D 級 (人) 36,000 170 240
 金 額 (100万円) 1,100,000 42,000 145,000
総計損害額 11,000 420 145



表 2 全放出、低温、粒度小
逓減 逆転
乾燥 乾燥
105キュリー
(1) 人的損害
 死 亡 (人)
 障 害 (〃)
 要観察 (〃) 9 8 13,420
 金 額 (百万円) 0.3 0.3 540
(2) 物的損害
 A 級 (人) 64
 B 級 (人)
 C 級 (人) 30 46,000 17,400
 D 級 (平方粁) 2.7 2,912 340
 金 額 (百万円) 21 11,800 5,250
合計損害額 (億円) 0.2 118 58
 
107キュリー
(1)人的損害
 死 亡 (人) 540
 障 害 (〃) 2,900
 要観察 (〃) 6,780 6,600 4,000,000
 金 額 (100万円) 272 270 163,000
(2)物的損害
 A 級 (人) 96 99,000 30,000
 B 級 (人)
 C 級 (人) 13,500 17,600,000 3,700,000
 D 級 (平方粁) 350 150,000 36,000
 金 額 (100万円) 5,100 3,700,000 800,000
総計損害額 53 37,300 9,630



表 3 揮発性、低温、粒度大
逓減 逆転
乾燥 乾燥
105キュリー
(1) 人的損害
 死 亡 (人)
 障 害 (〃)
 要観察 (〃) 9 20 66
 金 額 (百万円) 0.3 0.8 3
(2) 物的損害
 A 級 (人) 14
 B 級 (人)
 C 級 (人) 340 910 420
 D 級 (平方粁) 16 30 7
 金 額 (百万円) 160 380 154
合計損害額 (億円) 1.7 3.8 1.6
 
107キュリー
(1)人的損害
 死 亡 (人) 5
 障 害 (〃) 163
 要観察 (〃) 6,700 3,700 1,900
 金 額 (100万円) 270 150 125
(2)物的損害
 A 級 (人) 4,270 3,800 3,200
 B 級 (人)
 C 級 (人) 108,000 62,000 16,000
 D 級 (平方粁) 2,700 51 132
 金 額 (100万円) 37,200 13,700 5,400
総計損害額 375 138 55



表 4 揮発性、低温、粒度小
逓減 逆転
乾燥 乾燥
105キュリー
(1) 人的損害
 死 亡 (人)
 障 害 (〃)
 要観察 (〃) 3,800
 金 額 (百万円) 150
(2) 物的損害
 A 級 (人)
 B 級 (人)
 C 級 (人) 110 350
 D 級 (平方粁) 0.16 49 15
 金 額 (百万円) 8 270 135
合計損害額 (億円) 0.08 2.7 2.9
 
107キュリー
(1)人的損害
 死 亡 (人) 720
 障 害 (〃) 5,000
 要観察 (〃) 3,100 3,100 1,300,000
 金 額 (100万円) 120 120 54,000
(2)物的損害
 A 級 (人) 2,400 4,800
 B 級 (人)
 C 級 (人) 510 3,600,000 280,000
 D 級 (平方粁) 20 37,500 34,000
 金 額 (100万円) 2,250 565,000 59,700
総計損害額 23 5,650 1,140



表 5 全放出、高温、粒度大
逓減 逆転
乾燥 乾燥
105キュリー
(2) 物的損害
 A 級 (人) 477
 B 級 (人)
 C 級 (人) 320 73,000
 D 級 (平方粁) 120 1,160
 金 額 (百万円) 710 24,100
合計損害額 (100円) 7 241
 
107キュリー
(2)物的損害
 A 級 (人) 6,700 220,000
 B 級 (人)
 C 級 (人) 4,700,000 8,700,000 2,000,000
 D 級 (人) 24,800 1,500 36,000
 金 額 (100万円) 678,000 1,095,000 421,000
総計損害額(億円) 6,780 11,000 4,210


その他の場合

高温放出の場合は、概して公衆損害は少なく、揮発性放出で乾燥時には、105キュリー、107キュリー放出に対しては公衆損害はゼロである。しかし、揮発性で高温の場合でも粒度大ならば逓減時には107キュリーの時約 200 億円の物的損害を生ずる。

高温でも雨天時には物的損害は巨大なものになりうる。(表 5107キュリー、逓減雨天の項を参照)


図 1 放出キュリー数と合計損害額との関係
附録 (F) / もくじ / 戻る





(私論.私見)