科学技術庁資料「原発事故研究」その4

 (最新見直し2011.03.21日)

6. 吸収された放出物により骨・消化器・肺・甲状腺以外の主要な身体部分が受ける線量

身体に摂取された放射性放出物による上記各臓器に対する被曝線量は 2〜5 節によつ て算出されたが、体内に吸収摂取された放出物は上記の核臓器ばかりでなくその他全身 体部分に対しても線量を与えるものと考えられる。

しかしながらどの核種が身体のどの部分にどの位の割合で蓄積し、且つ、どの程度の 線量を与えるかはきわめて複雑な問題であつて、これを一つ一つの核種について考慮す ることは不可能であるので、非常に大雑把な想定により、放出物全体について、次のよ うに考える。

(1)

摂取された放出物の内、肺胞内に沈着した insoluble の物質と、消化管内 に入つた insoluble の物質の内の一部をのぞき、すべては一応体液内に吸収さ れて、身体を循環するものとする。

Cc-sec/m3 に被曝したとき、このように身体内に入り、一応体内を循環する と考えられる物質の割合は、次の想定によるものとする。

Volatile F.P. Total(放出1hr後) Total(放出6hr後)
粒度小 粒度大 粒度小 粒度大 粒度小 粒度大
% % % % % %
肺(胞)内に長く滞留するもの 2.5 0.5 2.5 5 30 5
消化管へ移行するもの 1 12 5.5 45 6.5 50
消化管より吸収されるもの 0.5 3.5 1.5 10 2 10
消化管より直接排泄されるもの 0.5 8.5 4 35 4.5 40
一応循環系へ入つたもの 52* 71* 26* 40 20 35
体内に沈着した放出物の合計 55 80 55 80 55 80

*それぞれ50%、70%、25%とする。計算の便のように。

従つて、一応循環系へ入つた放射性放出物の量は、呼吸量を250cc/sec と すれば、次の通りとなる。

体循環系へ一応入つたと考えられる放出物の量

放出後 被曝
時間
Voltile F.P. の場合 Total F.P. の場合
粒度小 粒度大 粒度小 粒度大
1時
間目

4時間
901.21μc × C
788.7μc × C
1257μc × C
1104.2μc × C
115.6μc × C
98.7μc × C
185μc × C
158μc × C
6時
間目

4時間
378.7μc × C
301.2μc × C
530.2μc × C
421.7μc × C
66μc × C
62μc × C
115.5μc × C
108.5μc × C

但し、Cは放出後24時間目における放出物の濃度 - sec とする。

(2)

骨、消化器、肺をのぞいた身体の主要部分の重量を、ここでは一応45,000g と想 定する。

(日本人標準体重は55Kg とし、骨は 5.5Kg、肺は1Kg、消化管は 1.5Kg とし、 さらに、その他2Kg が放出物の浸とうしない部分とする)

qμc の放射性放出物が身体内のにあり、この平均実効エネルギーを 0.4Mev と想定 すれば、

qが身体に1時間に与える線量は

                    3.7×10
4
×3600×1.6×10
-6
       q × 0.4 × ――――――――――――――
                         100 × m

m は45000gであるから、この値は、1.9×10-5 q rad である。

これを Dfq とする。

(3)

今、Volatile F.P. の約半分は、 Noble Gas であるから、身体内に 入つた放出物は、被曝後1時間後に半分になると見ることができる。

この間物理的減衰がないとみなせば、この1時間にDf×表2の Volatile F.P. の数値× 3/4 の線量が与えられるが、実際は減衰が早いので線量はさらにその何割かにな る。これは A∫12A-0.8 dt/A としてまとめると約 3/4 となる。

従つて、この1時間に身体の受ける線量 Df1 は Df1 = Df×表2の Volatile F.P. の数× 3/4 × 3/4 とみなしてよい。

ただし放出後1時間目の被曝の短いときは減衰がないので Df1=DfA×3/4、 Total F.P. の場合には、 Noble Gas は約 10% であるから、摂取した全放出物の生理的減衰はそれ程早くないとして取扱うことができる。

(3)

被曝終了後1時間後には Volatile F.P. の量は 1/2 × 3/4 に減少している から、この量を 3/8 Aμc とする。Aは表 II の Volatile の数値である。一般 に放射性物質の soluble なものを体内に入れた場合は非常に生理的な排泄速度 が早く、90%程度がはじめの1日位のうちに、体外へ出る傾向があるから、これを一 応20時間で90%を排泄するとすれば、約 3/8 DfA × 1/2 × 20 rad の線量を 排泄するまでに与えると考えられる。

この間 t-0.8の減衰があるとすれば、 それの補正により 1/4 位の線量と見なしてよい。

但し、放出後1時間目の短時間被曝の場合は3/8 は 1/2 とする。従つて、Volatile F.P. への被曝が終つてから20時間位までに全身に与える線量は、物理的減衰をも 考慮すれば

              3     1
        D
f
A( ― + ― × 10 ) = 5.7 D
f
A より
              4     2

              9     3        1
        D
f
A( ― + ― 10 × ― ) = 1.5 D
f
A
             16     8        4
位の間にあると考えられるので、平均3.5DfAと見なす。

20時間ごに全身中に残る放出物の分量は5%位となる。これがさらに1週間で大 部分焼失すると想定すれば、その間全身に与える線量は

             A    1
      D
f
 × ― × ― ( 170 − 20 ) = 3.5 DfA
            20    2
(但し、物理的減衰は)不明なので考えない)

従つて他以内に摂取された Volatile F.P. により、1週間以内に全身の主要部 分に与えられる線量は、大体

     (3.5 + 3.5) D
f
A = 7D
f
A 程度である。

又1週間以後は残りの各核種は消失するか又はそれぞれの Critical Organ は蓄積するものと考える。

(4)

Total F.P. の場合は Noble Gas の割合が少いので、生理的排泄は Volatile F.P. ほど早くないので、一応体内に吸収されたものの 90% が 20時間で排泄され、残りは1週間の内に排泄されると想定すればはじめの20時間 に全身の受ける線量は

        1 + 0.1
  D
f
A ( ―――― × 20 ) = 11D
f
A
           2

  ( N = 0.2とすれば大体 2/3 位)

  その後1週間以内に受ける線量は、

          1      1
  D
f
A × ―  × ― ( 170 − 20 ) = 7.5 D
f
A
         10      2
物理的減衰を考慮しても この際は減衰係数が小で あるとされるから大した 減衰はないとする。 (物理的減衰はないものとする。)

従つて被曝後1週間に受ける線量は、

    18.5 D
f
A 〜 15 D
f
A 程度である。

以上を綜合すれば、放射性放出物の摂取により、身体の内部より全身の主要部分が被 曝終了後1週間に受ける線量は、

        Volatile F.P. の場合は大体     7 D
f
A 程度
        Total    F.P. の場合は大体    17 D
f
A 程度     と考えられる。

以上に表2の数値をあてはめて計算すれば、全身の受ける線量 (主にβ線により与えられるものとする。)は次の表の如くとなる。

被曝
時間
Volatile F.P. (rad) Total F.P. (rad)
粒度小 粒度大 粒度小 粒度大
放出後
1時間

4hr
0.12C
0.10C
0.17C
0.15C
0.04C
0.03C
0.06 C
0.05 C
放出後
6時間

4hr
0.05C
0.04C
0.07C
0.06C
0.02C
0.02C
0.04 C
0.035C

ここにおいて全身がγ線によつて受ける部分はほとんど negligible であると 考えられる。

ここに算出された全身線量は外部よりのγ線被曝量に対して、比較的少量であるが、 それでも約20〜10%位の量となることを考えると決して、軽視できない場合がある。

とくに全身線量は、放射性感受性の強い組織や器官にも一様に与えられ、又 Volume-dosis より見るとかなり大きな値を示すものであつて注意すべきものであると考 えられる。さらに骨及ぴ甲状腺以外の個々の Critical Organ については考 えなかつたので、全身を一つの代表的な値として考える。

ただ全身を Critical Organ として見たときの放射性物質の全体としての排 泄速度や機序が甚だ未解明であるので、この計算には 2〜3 倍の誤差が容易におこり 得ることを考慮しなければならない。


5. 吸収された放出物により骨が受ける線量 / もくじ / 戻る / 7. 考察及び総括

7. 考察及び総括

以上身体各部の受ける線量として、

(1) 全身の受ける外部γ線被爆量
(2) 肺の受ける内部β線被曝量
(3) 消化器の受ける内部β線被曝量
(4) 甲状腺が I 混合物によつて受ける被曝量
(5) 吸収された放出物中の 11 種の Bone Seeker より骨が受ける被曝線量
(6) 摂取された放出物により、前4器官以外の主要な身体部分が受ける線量

を被曝後の色々な時間的段階において算出を試みた。

すでに述べた如く、身体全部が放射性放出物より蒙る被曝を単に上記の六つの部分の線 量だけで代表させるということは、生物学的な評価の立場からは必ずしも妥当で合理的な ものであるとはいえない。

しかし色々な未知の要素や労力を考え、一応これ等をもつて、身体が受ける代表的な 被曝線量であると考えて、これにもとずいて起り得べき効果を評価することにした。従つ て、今後未知の要素や労力の不足がのぞかれる場合には、さらに多くの重要な部分(生物 学的に)の受ける線量が算出され且つ既算の数値が修正されて、より合理的な評価が可能 になることが予想されるが、今回は上記の六部分の受ける被曝線量を評価の基準としC単 位の倍数として総括したものが次の各表である。

表Aの1 Volatile Fission Products の粒度小なるものに被曝した
被曝が放出後1時間目に起つた場合
身体区分\時間のファクター 被曝継続時間 物理的減衰係数 被曝中 被曝より20時間(約1日)まで(最初の1日の間) 被曝より8日まで(最初の1週間) 被曝より1ヶ月の間 被曝より3ヶ月の間 被曝より1ヵ年の間 3ヶ月後より1ヵ年の終わりまで 被曝後5ヵ年間 被曝後50年間
全身の受ける線量(内部、外部照射を含む)
1.26C
1.07C
1.30C
1.10C
1.38C
1.17C
           
肺の受ける線量(主としてβ線によるもの) 0.2
0.1
0.28C
0.28C
0.41C
0.45C
  2.58C
4.53C
5.81C
11.65C
<14.5C
<20C
<8.5C 無視できる。  
0.2
0.1
0.2C
0.2C
0.3C
0.33C
  2.06C
3.46C
4.46C
8.96C
<11C
<13.5C
<6.5C 無視できる。  
消化管の受ける線量(主として insoluble なものによる) 0.2
0.1
  0.05C
0.05C
0.1C
0.094C
  0.1C
0.1C
  0    
0.2
0.1
  0.04C
0.04C
0.09C
0.087C
  0.09C
0.09C
  0    
甲状腺の受ける線量
  50.0C
37.2C
74C
61.2C
89.6C
76.8C
92C
79C
  negl    
骨の受ける線量 無視できる   0.31C 1.92C 4.6C 10.7C 6.2C 18.6C 36C
表Aの2 被曝が放出後6時間目に起つた場合
全身の受ける線量(内部、外部照射を含む)
  0.52C
0.42C
0.57C
0.36C
0.57C
0.46C
    0      
肺の受ける線量(主としてβ線によるもの) 0.2
0.1
0.12C 0.22C
0.25C
  1.98C
3.38C
4.38C
8.88C
<11C
<15.5C
<6.5C    
0.2
0.1
0.12C 0.21C
0.24C
  1.8C
3.06C
3.96C
8.04C
<10C
<13C
<5.85C    
消化管の受ける線量(主として insoluble なものによる) 0.2
0.1
  0.04C
0.04C
0.073C
0.08C
    0      
0.2
0.1
  0.03C
0.04C
0.068C
0.077C
    0      
甲状腺の受ける線量
    12.7C
10.0C
22.9C
20.2C
30.7C
28C
32C
29C
  ncgl    
骨の受ける線量   無視できる   0.13C 0.82C 1.96C 4.6C 2.7C 7.9C 15.5C
表Aの3 Volatile Fission Products の粒度大なるものに被曝した
被曝が放出後1時間目に起つた場合
  被曝時間 及減衰 被曝中 被曝より20時間(最初の1日の間) 被曝より8日(最初の1週間) 被曝より1ヶ月の間 被曝より3ヶ月の間 被曝より1ヵ年の間 3ヶ月後より1ヵ年の終わりまで 被曝後5ヵ年間 被曝後50年間
全身の受ける線量
  1.26C
1.07C
1.40C
1.20C
1.43C
1.22C
      0    
肺の受ける線量 0.2
0.1
0.4C 0.46C
0.46C
  0.69C
0.86C
1.01C
1.58C
<1.9C
<2.45C
<0.85C    
0.2
0.1
0.24C 0.28C
0.28C
  0.46C
0.59C
0.7C
1.14C
<1.35C
<1.8C
<0.65C    
消化管の受ける線量 0.2
0.1
  0.61C
0.58C
1.22C
1.16C
  1.22C
1.16C
  0    
0.2
0.1
  0.52C
0.52C
1.04C
1.04C
  1.04C
1.04C
  0    
甲状腺の受ける線量
  68.9C
50.8C
101.9C
83.8C
123.5C
105.4C
127C
109C
  negl    
骨の受ける線量   negl   0.11C 0.68C 1.6C 3.3C 1.8C 6.3C 16.2C  
表Aの4 被曝が放出後6時間目に起つた場合
全身の受ける線量
  0.52C
0.42C
0.6C
0.48C
             
肺の受ける線量 0.2
0.1
0.16C 0.21C
0.21C
  0.39C
0.52C
0.63C
1.07C
<1.3C
<1.7C
<0.65C    
0.2
0.1
0.15C 0.18C
0.19C
  0.34C
0.47C
0.56C
0.97C
<1.2C
<1.6C
<0.58C    
消化管の受ける線量 0.2
0.1
  0.44C
0.48C
0.87C
0.95C
           
0.2
0.1
  0.41C
0.46C
0.82C
0.95C
           
甲状腺の受ける線量
  17.1C
13.7C
31.2C
27.8C
42C
38.6C
44C
40C
       
骨の受ける線量   negl     0.05C 0.29C 0.68C 1.4C 0.76C 2.7C 6.98C
表Aの5 Total Fission Products の粒度小なるものに被曝した
被曝が放出後1時間目に起つた場合
  被曝時間 減衰 被曝中 被曝より20時間(最初の1日の間) 被曝より8日(最初の1週間) 被曝より1ヶ月の間 被曝より3ヶ月の間 被曝より1ヵ年の間 3ヶ月後より1ヵ年の終わりまで 被曝後5ヵ年間 被曝後50年間
表A の6 被曝が放出後6時間目に起つた場合
全身の受ける線量
0.28C
0.27C
0.30C
0.3 C
0.32C
0.3 C
      0    
肺の受ける線量(主としてβ線によるもの)
0.2
0.1
0.05C 1.35C
1.75C
  23.1C
42.6C
55.4C
11.4C
<140C
<200C
<85C    

0.2
0.1
0.39C 1.33C
1.68C
  18.9C
33 C
42.9C
89C
<108C
<155C
<65C    
消化管の受ける線量 0.2
0.1
  0.29C
0.27C
0.57C
0.53C
  0.57C
0.53C
  0    
0.2
0.1
  0.25C
0.24C
0.49C
0.48C
  0.49C
0.48C
  0    
甲状腺の受ける線量
  3.9C
3.3C
6.1C
5.5C
7.3C
6.7C
7.5C
7 C
  0    
骨の受ける線量   negl     1.94C 1.34C 26.8C 53.6C 26.9C 82.5C 149.5C
全身の受ける線量
  0.23C
0.22C
0.25C
0.24C
0.25C
0.24C
      0    
肺の受ける線量
0.2
0.1
0.06C 1.21C
1.63C
  2.24C
39.2C
51.2C
132C
<130C
<210C
<78C    
0.2
0.1
0.4C 1.42C
1.79C
  20.4C
35.6C
46.4C
95C
<117C
<165C
<70C    
消化管の受ける線量 0.2
0.1
  0.25C
0.26C
0.49C
0.51C
      0    
0.2
0.1
  0.22C
0.25C
0.44C
0.49C
      0    
甲状腺の受ける線量
  1.85C
1.65C
3.35C
3.15C
4.55C
4.35C
<4.8C
<4.6C
  0    
骨の受ける線量   negl     1.57C 10.9C 21.7C 43.5C 21.8C 67C 121.2C
表Aの7 Total Fission Products の粒度大なるものに被曝した
被曝が放出後1時間目に起つた場合
  被曝時間 減衰 被曝中 被曝より20時間(最初の1日の間) 被曝より8日(最初の1週間) 被曝より1ヶ月の間 被曝より3ヶ月の間 被曝より1ヵ年の間 3ヶ月後より1ヵ年の終わりまで 被曝後5ヵ年間 被曝後50年間
表A の8 被曝が放出後6時間目に起つた場合
全身の受ける線量
0.28C
0.27C
0.30C
0.30C
0.34C
0.32C
      0    
肺の受ける線量 0.2
0.1
0.66C
0.69C
  2.96C
4.7C
2.96C
4.7C
6.2C
11.9C
<15C
<20.5C
<8.5C    
0.2
0.1
0.60C
0.63C
  2.4C
3.73C
2.4C
3.73C
4.8C
9.2C
<11.5C
<16C
<6.5C    
消化管の受ける線量 0.2
0.1
2.3C
2.1C
2.3C
2.1C
4.55C
4.2C
  4.55C
4.2C
  0    
0.2
0.1
  2.0C
2.0C
3.9C
3.9C
  3.9C
3.9C
  0    
甲状腺の受ける線量
  5.4C
4.6C
8.4C
7.6C
10C
9.2C
10.3C
9.5C
  0    
骨の受ける線量   negl   0.55C 4.3C 7.7C 14.9C 7.2C 26C 64C
全身の受ける線量
0.23C
0.22C
0.27C
0.26C
0.27C
0.265C
      0    
肺の受ける線量 0.2
0.1
0.09C 0.66C
0.69C
  2.82C
4.41C
5.7C
13.7C
<14C
<22C
<7.8C    
0.2
0.1
0.26C 0.64C
0.60C
  2.59C
3.95C
5.2C
9.9C
<13C
<17C
<7C    
消化管の受ける線量 0.2
0.1
  1.8C
2.0C
3.63C
4.0C
      0    
0.2
0.1
  1.7C
2.0C
3.43C
3.9C
      0    
甲状腺の受ける線量
  2.5C
2.35C
4.5C
4.35C
6.1C
6C
<6.5C
<6.3C
  0    
骨の受ける線量   negl   0.45C 3.5C 6.2C 12.1C 6C 21C 52C

以上の結果を見て気のつくことは、身体の各部の受ける線量は被爆よりの時間によ り大きく変化するが全身に対する線量は、大体最初の1日中に大部分を受けその後 は微小な線量しか受けないが、肺はかなり長期間にわたつて線量を受けつづけ、大体 9〜6ヵ月間位つづく。又甲状腺は1ヵ月間位の間にわたつて、線量を受けるが最初 の1週間位が最も大量の線量を受けることになる。

これに対し骨は、はじめの1週間位は線量が少いが、その後次第に蓄積線量が大と なり、1ヵ月後で約5倍、3ヵ月後で約10倍、1年では20倍以上となる。そして、 その後も50年間にわたつてその数倍の線量を受けることになる。

以上の如く、全身各部の蓄積線量は時間と共に変化するばかりでなく、各部の受け る線量の比率も時間と共に著しく変化するのであるがら、これを―括して、加算をす るというようなやり方では本当の生物学的な効果を評価することは出来ない。

又、これによりわかる通り肺の受ける線量は大きな変動があるが、これは肺に沈着 した Aercsol の非溶解性のものの物理的減衰が不明であるためにおこつたもの で、実際の値はこの中間にあると考えてよいであろう。

又全放出物による肺の線量が非常に大きくなつているが、これは放出物の半分は非 溶解性で肺の内で体液にはほとんど溶解しないと仮定したからで、この仮定が修正さ れれば変るものであると考えられる。

又全身の受ける線量はγ線による外部被曝と放出物摂収による内部被曝が加算して ある。


6. 吸収された放出物により骨・消化器・肺・甲状腺以外の主要な身体部分が受ける線量 / もくじ / 戻る / IV 身体の■る被曝線量より見た被曝濃度の安全限界の評価

IV 身体の■る被曝線量より見た被曝濃度の安全限界の評価

前節による考祭の結果として、事故発生後一定時間後に放射性放出物Cc-sec/m3に 被曝した人が身体の各部に受ける線量は、種々の条件のちがいにより著しく異ることがわか る。これ等の諸条件の内最も大きな影響を与えると考えられるものは放出物の種類・粒度、 放出後の時間及ぴ被曝後の時間であるが、これ等四つの条件のちがいによる身体各部の受け る被曝線量をCの倍数として示したものが、次の表 B1〜8 である。

なお、この表には判定に便なるため放出後被曝受けるまでの時間が、
 1時間の場合( 近距離の人々 )及ぴ.
 6時間の場合( 相当遠距維の人々)
について別々に算出してある。但し単位は rad である。

この表B は前節の総括の表Aを平均化、又端数取捨等を行うことにより簡略化したもので あるが、肺、甲状腺等では種々の条件によりなおかなり大きな巾が生ずる場合があるのでそ の平均に近い値をもつて、被曝の代表値として()内に記載し、これを被曝量と見なした。

そこで表Bによつて示された身体各部の被曝線量による身体の蒙る生物学的な影響を評価 し被曝量の安全限界(これ以下の被爆の場合には一応身体には損害が与えられないと見な し得る限界)を推定することが、課せられた最終的目標であるが、このように外部被曝、内 部被曝の混合し、時間的にも複雑に変化のある各種の被曝量を合理的に評価することはきわ めて難しい多くの問題を含み、その合理的結論を得ることは甚だと困難である。

即ちこのような被曝はただこれを単純に加算して見るというような方法では生物学的には 全く無意味である。

例えば24時間後の値として100 sec/m3 の放射能雲の被曝を事故発生後1時間目 に被曝した人を想定して見よう。もしこの放出物が揮発性のもので粒度が7μ前後の平均的 大きさをもつものからなるとすると、この人は全身に 120 rad のγ線を受け、さらに摂 取された放出物より最初の1〜2日間に約10rad のβ線の被曝を全身に対して受ける。 さらにこの人は、1週間以内に肺に約5.0rad 消化器に100rad 甲状腺に10,000rad 位の被曝を受ける。 さらに、被曝にひきつづく3ヵ月の間にこの人は肺に大体 150〜100rad 位。甲状腺には実に 13,000〜11.000rad の被曝を受けるが 骨には 160rad 位の被曝しか受けないであろう。しかしその後、骨以外の臓器の被曝は 終るが、骨はさらに引つづいて被曝を受け5年間で630rad、50年間では 1620 rad の被曝を受けることになる。

したがつてこれ等の被曝量をただ加算して見ただけでは生物学的には何を意味しているか 全く不明確であつて評価は甚だ困難である。しかるに同じ 100C c-sec/m3 に被曝した としても、もしその Aerosol が Total Fisson Products で粒度が 1μ 前後の小たるものであつたとすると、この人の受ける被曝は全く様相を異にする。

表B 放出後1時間目に C c-sec/m3 (24時間目の値として)に被曝した人が身体各部に受ける線量

1.
身体各部 被曝後1日間に受ける線量 被曝後3ヶ月間に受ける線量 被曝後1ヵ年間に受ける線量 4ヶ月目より1年終わりまでに受ける線量 被曝後50年間に受ける線量







全身 1.4 〜 1.2 C (1.3C) negl   0  
0.45 〜 0.3C (1.3C) 11 〜 5C (8C) 20 〜 11C (16C) 9 〜 6C (7.5C)  
消化器 0.05 〜 0.04C (0.05C) 0.1 〜 0.09C (0.1C)   0  
甲状腺 60 〜 45C (53C) 92 〜 80C (86C)   negle  
negl   10.7C 36C
2.
  同上 同上 同上 同上 同上  







全身 1.4 〜 1.2C (1.3C) negl   0  
0.46 〜 0.28C (0.4C) 1.6 〜 0.7C (1.2C) 2.5 〜 1.5C (2.0C) 0.9 〜 0.7C (0.8C)  
消化器 0.6 〜 0.5C (0.6C) 1.2 〜 1.0C (1.1C)   0  
甲状腺 82 〜 58C (70C) 128 〜 108C (118C)   negl  
negl   3.3C   16C
3.
  同上 同上 同上 同上 同上 同上





全身 0.31C negl      
1.7 〜 1.35C (1.5C) 110 〜 4.5C (80C) 200 〜 100C (150C) 90 〜 55C (70C)  
消化器 0.3 〜 0.25C (0.3C) 0.6 〜 0.5C (0.6C)      
甲状腺 4.8 〜 4C (4.4C) 7.6 〜 7C (7.3C)      
negl   53.6C   150C
4.
  同上 同上 同上 同上 同上 同上





全身 0.33C negl      
0.7 〜 0.6C (0.7C) 11 〜 5C (8C) 20 〜 11C (16C) 9 〜 6C (7.5C)  
消化器 2.3 〜 2.0C (2.2C) 4.5 〜 3.9C (4.2C)      
甲状腺 6.6 〜 5.5C (6C) 10.2 〜 9.4C (9.8C)      
negl   15C   64C

表B 放出後6時間目に C c-sec/m3(24時間目の値として)に被曝した人が 身体各部に受ける線量

5.
  身体各部 被曝後1日間に受ける線量 被曝後3ヶ月間に受ける線量 被曝後1ヵ年間に受ける線量 4ヶ月目より1年終わりまでに受ける線量 被曝後50年間に受ける線量







全身 0.6 〜 0.46C (0.55C) negl      
0.25 〜 0.2C (0.25C) 8.9 〜 4C (6.5C) 15.5 〜 10C (13C) 6.5 〜 6C (6.5C)  
消化器 0.04C 0.08 〜 0.7C (0,8C)      
甲状腺 15 〜 12C (14C) 22 〜 20C (21C)      
negl   4.6C   15.5C
6.
  同上 同上 同上 同上 同上 同上







全身 0.6 〜 0.5C (0.6C) negl      
0.2C 1.1 〜 0.6C (0.9C) 1.7 〜 1.2C (1.5C) 0.7 〜 0.6C (0.7C)  
消化器 0.5 〜 0.4C (0.5C) 1 〜 0.8C (0.9C)      
甲状腺 20 〜 16C (18C) 43.5 〜 40.5C (42C)      
negl   1.4C   7C
7.
  同上 同上 同上 同上 同上 同上





全身 0.25C negl      
1.8 〜 1.2C (1.5C) 130 〜 50C (90C) 210 〜 120C (165C) 80 〜 70C (75C)  
消化器 0.25C 0.5C      
甲状腺 2.3 〜 2C (2.2C) 4.8 〜 4.6C (4.7C)      
negl   43.5C   121C
8.
  同上 同上 同上 同上 同上 同上





全身 0.27C negl      
0.7 〜 0.6C (0.7C) 14 〜 5C (10C) 22 〜 13C (18C) 8 〜 7C (7.5C)  
消化器 2.0 〜 1.7C (1.9C) 4 〜 3.5C (4C)      
甲状腺 3.0 〜 2.9C (3C) 6.3 〜 6.2C (6.3C)      
negl   12C   52C

即ち、この人は全身にわずかに 28rad 位のγ線被爆を受けるだけで、その後摂取され た放射性物質を考慮しても高々全身に 30rad 位しか受けないが、その代り肺は3ケ月位 の間に 10000〜50U0rad という大量のβ線被爆を受ける。この間甲状腺は、大体 750rad 位の被曝を受けるにすぎない。しかし腸管は 2〜3日の間に約 55rad の被 曝を受けるであろう。又骨ははじめは少いが時と共に蓄積線量は増大し3ヵ月では約 2700rad、5年では8250rad、50年間は実に15000rad位を受ける ことになる。このように同じ100 c-sec/m3 にさらされた場合といえども、その条 件こよりその人が受ける生物学的被曝は著しく異るということが、明らかであるが、もう 一つ考慮しなければならない重要なことは、色々な臓器の放射線への感受性とその受ける Dose rate が著しく異るということである。例えば全身が受けた100rad と肺、 甲状腺等が受けたけた100rad とは明かに生物学的には等価のものではない。又肺が100 rad を受ける場合と甲状腺が受ける場合とではその受ける期間が全然異り、甲状腺は その大部分を1ヵ月以内に受けるが、肺は9ヶ月位かかつて受ける。従つて、平均の Dose rate は甲状線の方が10倍位大きいと考えられる。

従つてこのように量的及ぴ質的に異る被曝を何か一つの単位に還元することが生物学的 に可能であるかどうかは甚だ疑問であるが、少くも単なる加算は全く無意味であることは 明らかである。そこで還元的な処理をもう少し生物学的に合理化するため次のような考え 方を取つて見る。

即ち先ず身体各部分の受ける被曝を
1) 短期被曝 被曝後1日間位のきわめて短期間に受ける被曝量
2) 中期被曝 被曝後1〜2日後より約1ヵ年間位の期間に受ける被曝量
3) 長期被曝 1年以上数年又は数10年にわたつて受けつづける被曝
の3種類に分類して見る。

生物学的に見ると 1)によつてうける影響は所謂急性効果 ( Acute Effect ) であつて組織の急性壊死と造血器病変とを主徴候とする典型的な障害をおこす。
2)によつておこると考えられるものは、所謂急性又は慢性的な臓器効果であつて、臓器 の種類によつて夫々の特有な疾患を生ずると考えられる。
3)によつておこるものは、所謂超慢性的な効果であり、即ち、悪性新生物の発生率の増 加、慢性的退行性現象(寿命の短縮はその総合的あらわれ)などであると考えられる。

又 1)では期間が短いので、被曝量は線量率として考えてよいが、 3)では線量率 は通常きわめて小であつて、影響は大体総蓄積線量によつて左右されると考えられる。
2)ではこの中間であつて、線量率と総線量とが両方関係するものと考えられる。

勿諭この区分は相対的なものであるから、各期の長さはどの位が適当であるかは確実な 根拠はないが、ここに問題とされている災害においては、
短期は一応、20時間以内(約1日)
中期は大体 1ヵ年以内
長期は骨のみについて問題があるので50年間とした。

そこで全身への被曝は大体大部分が20時間以内に終るので、短期だけを考え、又骨は 数10年にわたつて被爆を受けるので長期だけを考え、他の臓器は大体1ヵ年以内に被曝 が終るので短期と中期を考えるとととする。

そこで、短期被曝による効果は主として全身急性効果を中心としたものであるから、こ の期間においては Critical Organ を全身とし、その他の臓器の受ける被曝は それが、どの程度全身障害に対して寄与するかという点に注目して、評価を行うものとす る。

この場合、各部分の受ける線量を全身に等価な線量に換算をする係数を定めて、これに より、各部の線量の加算をし、これを全身等価線量と定義する。

この場合全身等価換算係数は生物学的な影響を考慮して次の如く定めることとする。

1/5
消化器 1
甲状腺 1/100*

* 肺は容憤も大きく且つ附近に心臓などの重要器菅があり、且つ淋巴腺にも富んでいる ので急性の被曝に対しては甲状腺より重く考える。消化管は急性全身症に対してはとく に関係が深く、影響が大きい。これに対し甲状腺は急性症状に対しは相当耐久性があ ると考えられる。

例えば、揮発性放出物粒度小 放出後1時間目の被曝の場合を例にとれば 最初の約1日の被曝は大体全身1.3Crad 肺 0.4C rad 消化器 0.05C rad 甲状腺 53C rad であるから、これを短期の全身等価線量に換算すれば

                       1                      1
       1.3C + 0.4C × ― + 0.05C + 53C × ―― = 1.96C rad
                       5                     100

となる。このようにして各場合の短期被曝量をそれぞれ全身の等価線量に換算することが 出来る。

次に中期被曝ではこのような換算は生物学的にあまり意味がない。 この間の被曝については、もし各臓器間における Synergic な影響があまりない ものとすれば、** 各部分の放射線感受性、各部の受ける平均的な線量率、各部分が生命 の維持についての重要度等を考慮して、夫々の臓器について、臓器耐久線量を定め、夫々 の臓器の受ける被曝がその何部に当るかを見ることにより、それぞれの部分の被曝の効果 を比較検討することが出来ると考えられる。

そこでこのような考慮の下に、中期被曝の臓器耐久線量を一応次のように定めることと する***
肺では 75 ± 25 rad
消化器では 36 ± 12 rad
甲状腺では 75 ± 25 rad
**

ここで取扱つている部分即ち肺、甲状腺、消化器では相互に Synorgic な 影響はあまりないと考えられる。但し、線量が大きくなつてくると、それぞれの影 響が全体の機能に大きく影響するようになるからこの考え方は適応できない。

***

原子力委員会原子炉安全基準専門部会災害評価小委員会の提案による。

この線量でそれぞれの臓器被曝量を割つたものが臓器耐久単位と呼ぶ事とする。

最後に長期の被曝量を考えるが、ここでは骨だけが問題となる。

そこでこの場合、骨が50年間に受けることを許されると考えられる線量を基準とし、 この線量で骨の50年間の蓄積線量を割つて、その商を、骨の蓄積許容単位と呼ぶことに する。そしてこの量をもつて他の臓器又は全身への効果と比較することとした。

そこで骨の蓄積許容線量であるが原子炉安全基準部会は骨に対して 45±15 rad を許すという提案をしているが、骨の受ける線量は、きわめて長時間徐々に与えられるの で、むしろ年間の線量率というようなものを考える方が合理的かも知れない。

M.R,C.( British Medical Research Council ) の提案によれば Sr90 に対して年間 1.5rad を許し得るといつているから、これに50年を掛けると、 50年間に75radまで許すとして、年間平均 1.5rad を許したことになる。

従つて、ここでは一応この二つの提案の値を基準として計算を行つた*

かくして、これ等の基準にもとずき表Bの各表の値に対しそれそれ全身等価線量、臓 器耐久単位、骨蓄積許容単位を算出し全身に1日に許し得る線量を12rad として、 これで全身線量を割つたものを全身等価許容単位とすると、表Cを得ることが出来る。

* Evens et al. の研究によれば Ra を摂取した人約30名をしらべ、障害のな かつた群の最高の Body Burden は約 0.5μc であつた。又摂取後の時間の平 均は約20年間であつた。0.5μc を20年間骨に保持したとして骨の受ける総線量に 約 300 rad であるが I.C.R,P.に示された Ra の許容量 0.1μc をとるとこ の 1/5、即ち60rem が許容値だということになる。
表C 1 c-sec/m3(24時間後の値)に被曝した人が身体各部こ受ける基準単位量
      全身等価線量(rad) 全身等価単位 肺耐久単位 GI耐久単位 甲状腺単位 骨蓄積単位
(45rad) (75rad)
放出後1時間目 揮発性放出
粒度小
粒度大
1.96
2.68
0.16
0.22
0.21
0.027
0.028
0.031
1.15
1.57
0.8
0.36
0.48
0.21
全放出
粒度小
粒度大
0.95
2.73
0.079
0.23
2
0.21
0.017
0.12
0.098
0.13
3.3
1.42
2.0
0.85
放出後6時間目 揮発性放出
粒度小
粒度大
0.78
1.22
0.065
0.10
0.17
0.02
0.022
0.025
0.28
0.55
0.34
0.155
0.21
0.093
全放出
粒度小
粒度大
0.82
2.34
0.068
0.19
2.2
0.24
0.014
0.11
0.063
0.084
2.7
1.15
1.61
0.69
但し 全身に1日間にゆるし得る線量を 12 rad とする
肺に1ヵ年間に許し得る線量を 75±25 rad とする
GI に3ヵ月間に許し得る線量を 36±12 rad とする
甲状腺に3ヵ月間に許し得る線量を 75±25 rad とする
骨に50年間に許し得る線量を @45±15 rad とする
A1.5rad/年×50年=75rad とする
短期被曝量の
全身等価換算係数は 1/5
消化器 1
甲状腺 1/100 として算出する。
表D 上記の基準量を許し得るとしたときの安全限界 (24時間目の c-sec/m3として)
被曝時 放出物 粒度 全身に対し 肺に対し GIに対し 甲状腺に対し 骨の蓄積線量により
(45rad)として (75rad)として
放出後1時間目 揮発性放出
6.25
4.55
4.75
37
36
32
0.87
0.64
1.25
2.8
2.08
4.75
全放出
12.6
4.35
0.5
4.75
59
8.3
10.1
7.7
0.3
0.7
0.5
1.18
放出後6時間目 揮発性放出
15.4
10
5.95
5.0
45.5
40
3.6
1.8
2.95
6.45
4.75
10.7
全放出
14.7
5.15
0.45
4.15
71
91
15.9
11.9
0.37
0.87
0.62
1.45

即ち C c-sec/m3(24時間後の値)の被曝を受けた人々は身体各部に表Cの値 のC倍に当る相対的効果を受けていると判断することが出来る。

これ等の各効果は、生物学的な立場から見て質のちがつたものであるから、これ等をむ やみに足し重ねることは無意味である。

且つ、線量が非常に少い間はこれ等各効果の間には Synergic な影響は先ずない であろうと考えることは生物学的にはさほど不当ではない。

従つてこれ等の効果の内最高のものをとつて、これを1におさえるような被曝量を c-sec/m3単位で示すとすればこの量が生物学的に見て、人体に何等の障害をあたえ ることのない被曝の安全限界をあらわすものと考えることはあまり不合理ではないと思わ れる。

従つて、各単位が丁度1になるような被曝を、24時間後の放射能雲の濃度・時間単位 c-sec/m3で求めると表Dを得る。

即ちこの表Dの意味は、前述した各期間毎のそれぞれ身体部分における許容単位が1で あるような被曝量は、それぞれの部分に対して、全く等価な影響を与えると考え、且つそ れらの影響間には相互に Synergic な効果はないと想定するとき、各部分に与える 効果が丁度許される限界に達するような放射能雲への被曝量を放出24時間後の c-sec/m3 の単位であらわしたものである。

従って、各条件の場合この表の最低の値を安全限界としてとればその他の効果は絶対に 許容限度をこえることはないので、 Synergic の効果がないという想定が正しいと すればこれにより身体のどの部分も障害を蒙ることはないであろう。

従って、ここではそのような濃度時間を被曝の無障害安全限界と定めることとする。

即ちこの限界は表中(下線)をひいた部分である。しかしながら、その部分が骨の蓄積 許容量を50年間で45radとした点に集中されておるが、この量はRaによる人体の 経験から見ても50年間の蓄積許容量としてはあまりに小さすぎると考えられる。

従って M.R.C.の勧告による75rad(50年間)をとるとすれば表中 のマークの部分が安全限界をきめる値となる。従ってこれを整理すると

揮発性放出物 粒度 放出後1時間目被曝の場合 0.87 c-sec/m3
     〃 6時 〃   〃 3.6
粒度  〃 1時 〃   〃 0.64
     〃 6時 〃   〃 1.8
全放出物 粒度 放出後1時間目被曝の場合 0.5 c-sec/m3
     〃 6時 〃   〃 0.45
粒度  〃 1時 〃   〃 1.18
     〃 6時 〃   〃 1.45

のような結果を得る。

この端数を適当に取捨する場合若干の他の部分への影響を考えて整理すると、次の如き被 曝濃度・時間(但し24時間後の値として)が無障害の安全限界であると考えて、生物学的 にはあまり不合理でないと考える。

放出より被曝までの時間 揮発性放出物 全放出物
粒度1μ位 粒度7μ位 粒度1μ位 粒度7μ位
1時間 1
 (甲状腺)
0.5
 (甲状腺)
0.5
 (肺・骨)
1
 (骨)
6時間 3
 (甲状腺)
2
 (甲状腺)
0.5
 (肺・骨)
1
 (骨)

単位は放出後24時間目の値としての c-sec/m3
()内は安全限界をきめる場合の Critical Organ である。

従つて、この結果から最も危険な場合は、揮発性放出物の粒度大なるものを事故後比較 的短時間に受ける場合、及ぴ全放出物の粒度小なるものに被曝する場合であると考えられ る。

又、全体的に見て、揮発性放出物は全放出物に対してより安全であり、安全の度合は大 きた場合で6倍位に及ぷと考えることが生物学的に合理的であると考えられる。

又揮発性放出物の場合は、事故後放射能雲が到達するまでの時間が安全限界を定めるの に大きく影響し、即ち炉よりの距離が遠くなればなるほどより安全な範囲がが速に拡がる が、全放出物の場合は。拡散によるうすまりの他はあまり期待が持てないことがわかる。


7. 考察及び総括 / もくじ / 戻る / V 土地よりの立退基準及び住居制限

V 土地よりの立退基準及び住居制限

1.

土地よりの立退及ぴ主居の制限については土地に沈着した放射性放出物により人体が受 ける被曝線量により評価されるべきである。

先ず汚染された土地よりのγ線量を見ると、線量は一様の汚染度 Sa c/m2 の土地 (平面とする)の上の人体が高さhにおけるγ線量率はγ線の平均エネルギーを

      γ
     E
av
 とすれば                                        (13)


                                      γ       ∞   e
-y
     R = 1.07 × 102 (μm) tissne × E
av
 S
a
 〔∫  ―― dy + e-μh 〕rad / hr
                                              μh   y

となる。

但し(μm) tissue はEγ 0.1 〜 2Mev のハンイでは0.03cm2/g とする。

      h = 1m とすれば、計算より

         ∞  e-
y
      〔∫  ―― dy + e
-μh
 〕≒ 5.0
        μh  y

とすることが出来るから

       γ
      E  = 0.7 Mev とすれば
       av

土地平面上 1m の高さの人体の受けるγ線量率は

     R = 1.07 × 10
2
 × 0.03 × 0.7 × 5.0 × S
a
 = 11.2 × S
a
 rad/hr

今 Sa c/m2 を事故後24時間後の沈着濃度とし、放射性物質の崩壊は t-m の法則によるとすれば、事故後2時間目の汚染度は

                    2
     S
a
 2h = S
a
 ( ―― )
-m
                    24

従つて2時間目より14時間目までに受ける線量は

       2〜14                14    t
     D      = 11.2 × S
a
 ∫   ( ―― )
-m
 dt rad
       S                    2     24

Total F.P のときは m=0.2 と想定するから、

       2〜14                14    t                      2.4
0.2
     D      = 11.2 × S
a
 ∫   ( ―― )
-m
 dt = 11.2 S
a
 × ―― (14
0.8
  - 2
0.8
 )
       TFP                  2     24                     0.8


                              1.88
            = S
a
 × 11.2 × ――― ( 14
0.8
 - 2
0.8
 ) = S
a
 × 11.2
                              0.8


                 1.88
             × ――― ( 8.248 - 1.741 )
                  0.8


                             1.88
           = S
a
 × 11.2 × ――― × 6.507 = 173 S
a
                             0.8


Volatile F.P. のときは m = 0.8 とするから

         2〜14              14    t                              12.7
       D       = 11.2 S
a
 ∫   ( ―― )
-0.8
 dt = S
a
 × 11.2 × ――― × 0.547 = 390 S
a
         V.F.P.             2     24                             0.2



もし放出後6時間目に放射能雲が飛来したとすれば、

       Total F.P. のとき

        6〜18              18   t
       D      = 11.2 S
a
 ∫  ( ―― )
-0.2
 dt = 155 S
a
        TFP               6     24



       Volatile F.P. のときは

        6〜18              18   t
       D      = 11.2 S
a
 ∫  ( ―― )
-0.8
 dt = 250 S
a
        VFP               6     24


Volatile F.P. の減衰を3ヶ月まで-0.8が有効と想定すれば、3ヶ月間に受け る線量は

      Total F.P. では


        〜3ヶ月              2160    t
      D         = 11.2 S
a
 ∫     ( ―― )
-0.2
 dt
       TFP                   2       24


                = 12200 S
a
 rad



      Total F.P. では

        〜3ヶ月              2160    t
      D         = 11.2 S
a
 ∫     ( ―― )
-0.8
 dt
       VFP                   2       24


                = 2580 S
a
 rad

      となる。

従つて、1日目より3ヶ月までの、1日の平均線量率は

       Total F.P. では      12200 S
a
 ÷ 90 = 135 S
a
 rad/日
    Volatile F.P. では       2580 S
a
 ÷ 90 = 29  S
a
 rad/日

となる。

2 土地よりの立退基準

今、被曝後12時間以内に12rad以上の被曝を受ける地域をA級の緊急立退地域と すればその限界は

揮発性放出 1時間後の被曝地では 12/390 = 0.03 C/m2
6  〃  〃 12/250 = 0.05 C/m2
全放出 1  〃  〃 12/173 = 0.07 C/m2
6  〃  〃 12/155 = 0.08 C/m2

次に被曝後3ヶ月以内に25rad 以上を受けるおそれのある区域をB級の立退地域と すれば、これに当る土地汚染の限界は

  全放出物の汚染では
      25 ÷ 12200 = 2 × 10-3 C/m2
  揮発性放出物による汚染では
      25 ÷ 2580 = 1 × 10-2 C/m2
   である。

3. 住居制限

地表面の汚染より受ける線量は自然の物理的減衰、雨、風等による地表面よりの移動等 の原因により、次第に減弱するから、一定の期間の後には汚染された地上において単に居 住する程度の事はさしつかえなくなるであろう。とくに都市においては食物等をたの汚染 のない地域より移入し、又飲料水を適当に浄化する施設があるとすれば、単なる地面の若 干の汚染により住居の永久制限をすることは甚だしく不経済であり、且つ、大きな社会 的負担となるから、住居のみを許し得る限界、とくに一定の期間の後に再び住居してよ い限界というものをきめる必要がある。このような限界をC級の住居制限限界とすれば、 これをどのような基準で行うかが問題となる。

  Volatile F.P. の自然減衰は比較的早く
  はじめの1ヶ月間の平均日線量率は    53 Sa rad/日
      3ヶ月間の平均日線量率は    29 Sa rad/日    である。

従つて、1ヶ月以後毎日の線量として、0.033rad(年間12rad、13週間 3rad) を許される線量とすれば1ヶ月後に居住が許されると考えられる地域は、 0.033 ÷ 29 ≒ 1.1 × 10-3 C/m2 である。(長期の平均日線量率は明らかに 30 Sa rad/日より小となる)

Total F.P. による汚染の場合は、自然減衰がかなりゆつくりであるから 住居許容限界基準はより severe にする必要がある。

  1ヶ月の平均日線量率は


         〜1ヶ月    26.3 × S
a
( 192.8 - 1.74 )
        D       = ――――――――――――――― = 170 S
a
 rad/日
          /30日               30


  3ヶ月の平均日線量率は


         〜3ヶ月    26.3 × S
a
( 464.5 - 1.74 )        12200
        D       = ――――――――――――――― = ―――― S
a
 = 135 S
a
 rad/日
          /90                 90                       90


  1ヵ年間の平均日線量率は


         〜1ヵ年    26.3 × S
a
( 1424 - 1.74 )       37000
        D       = ―――――――――――――― = ―――― S
a
 = 100 S
a
 rad/日
          /365                365                    365


従つて、事故後1ヶ月たつて、居住を認めるとして、その後日平均線量率が 0.0135 rad をこえない(即ち年間5radをこえない)地域を居住許容地域とすれば、その ような地域は表面汚染として

        0.0135 ÷ 135 = 10
-4
 C/m
2
 より低い地域とすれば間違いない。

以上を総括して、C級の地域として、1ヶ月後に居住を容許し得る地域とし

揮発性放出物の汚染では               10
-3
 C/m
2
   以下
全放出物の汚染では                   10
-4
 C/m
2
   以下
とすることが妥当と考えられる。

しかし、日本の特異性と計算の便宜とを考慮して、附録(E) にある農耕禁止の基準 6×10-4 4×10-5 にそれぞれ合わせることにした。

但し、気象条件などによる地表の除染効果を大きく認め得るとすればこの限界はさらに中に入り得ると考えられる。













二頁欠け。おそらく、この間にVからVIに入ると思われる。入手次第掲載予定。










D 25 〜 100r {90日間の医学的検査及び観察を必要。
E 25r 以下 障害はない。

以上の想定の上、治療及び検査の内容を具体的にあてはめれば、それらの計算は可能となる。

2.次に、事故後に放出された分裂生成物の煙霧に曝された場合、人体の受ける線量は別の 計算により第B表の如くなる。この表のCの値を種々変えると、全身その他の臓器の被曝 線量が分る。これにより、1で述べた全身一時被曝による障害と同程度の障害を与えると 考えられるCの価を決定すれば、人体に対する災害の評価を行いうる。

この場合、判定の基準を主として被曝後1日間に受ける線量におき、それ以後の被曝量 は参考とすることにした。その理由は、例えば骨が1年間に何rad受ければ死亡するが、 或いは何radで治療を要する障害が現れるかということは分つていないからである。勿論 1日目の被曝にしても、各臓器の被曝が占める割合を決定的にいうのは困難であるが、長 期のことを考えるよりは容易であろう。

また、白血病、骨腫瘍、白内障等が、放射線被曝によつて後年、発生率が高くなるで あろうことは想像出来る。然し、被曝線量と発生率の関係は決定的なことはいえない。

従つて、ここではこれらの考え得る晩発症については、一応除外した。然し、これらの 補償については別に考慮する必要があろう。

1)揮発性放出

500c-sec/m3の被曝では a) 粒度小で放出後1時間目なら、全身 に715rad、肺に220rad、消化管に27.5rad、甲状腺には29.150 radを第1日に受け、骨は1年間に5.885radを1年間に受けることになる。

この時の甲状腺の被曝は、放射能症の発生やそれによる死亡には、決定的な寄与を なすものとは考えられず、また、肺、消化管の被曝量は比較的少い。従つて全身被 曝量のみを注目してよかろう。

700r 相当量=550 c-sec/m3
200r  〃 =150
100r  〃 = 80

b) 粒度大なる場合は、消化管の被曝量が、a)に比して約12倍となる。これは 全身状態に影響するだろうが、550 c-sec/m3 の濃度で消化管は 330 radを受ける。消化管の被曝を全身被曝と等価とみると、700rに相 当するのは400c-sec/m3位という計算になるが、両者にはそれ程大きい 差は実際には存在しないだろう。

また、検査のみ実施する範囲は、安全限界を越える被曝で、100〜相当濃度 以下にすべきであろう。

放出後6時間目の被曝では、それぞれ1時間目に比し、約2倍の濃度となるだろう。

全放出物(1時間目及6時間目)

a)粒度小

上と同様にして推定するが、肺及び消化管の被曝を考慮して、全身被曝に加算 した。

700〜 =800 c-sec/m3
200〜 =200
100〜 =100 c-sec

a)粒度大   同様にして

700r =250 c-sec/m3
200r =80
100r =40

a)で最も問題となるのは、被曝后1年間に受ける骨の線量の判定であろう。従来も 長年月(20年以上)のRa障害者に骨腫瘍の発生をみた報告もあるが、被曝後、初期 における見通しは立てられない。また、投書の1年間に大量の被曝を骨が受ければ、造 血障害も起り得ると思われるが、治療費の計算を行い得る程のデーターはないため除外 した。

以上の数値は大部分推量である。出来るだけ既存のデーターを参考にしたが、これは あく迄も、災害評価のために引いたラインであると考えていただきたい。


IV 身体の■る被曝線量より見た被曝濃度の安全限界の評価 / もくじ / 戻る / VI Pu239 による危害の評価

Pu239 による危害の評価

事故による放出物中には、微量ではあるが Pu239 が含まれていることは II 節の第 1 表に記された如くである。Pu は色々な理由から非常に微量でもかなりな危害を与えることが わかつているので、これについて一応の危害評価を行い、既に述べられた安全限界に対して、 これがどのような程度の危害をもつかを検討する必要がある。

最近発表された Pu の生理学及危害評価の結果によれば* Pu は
(i) 一度体内に摂取されると非常にゆつくり排泄されその半減期は約200年と考えられる。
(ii) Pu の大部分は非溶解性の形をもち、腸管よりの吸収はきわめて悪く 0.3% 位である。
(iii) Pu は体内では 70% が骨、30% が肝臓などの網状内皮系に蓄積する。骨では最も骨髄に近い部分に多い。
(v) 従つて、Pu はきわめて有毒であつて、Ra にくらべて 2〜3 倍の毒性があると考えられる。
故にその最大許容 Body Burden は 0.04μc と考えられる。
等である。

この結果により今回の場合による危害の評定を行うと、最も危険な場合として、全放出物 粒度小の 1 時間目被曝を考えると、1 c-sec/m3 に被曝した人は、肺内に 2×10μμc-sec/cc × 0.5 cc/sec × 0.5 = 2500μμc の Pu を沈着させる。 消化管へ移行したものはほとんど吸収されないで排泄されるから無視する。

但し、これは 24 時間後の値としてであるからこれを放出後 1 時間目に換算するために係 数 1.6 をかけねばならず、この人は 24 時間後の値として 1 c-sec/m3 に被曝した 場合は実際は 2500 × 1.6 μμc の Pu を体内に摂取すると考えられるが、これは 0.004 μc に当る。

今 Pu の生理的排泄は全く無いと考えると、許され得る Body Burden は 0.04 μc であるから、これに 至るまでには 10c-sec/m3 の被曝を受けても良いことになる。即ち Pu の Body Burden に着目した場合の 安全限界は他の核種の混合物に比して 10〜20 倍の値であるから、Pu はこの場合には limiting factor にならないと考えることが出来る。

*

Physiology and toxicology of Pu-239 and its industrial medical control : W.H.Langham, Health Physics. Volum 2. Oct. 1959. No.2.


V 土地よりの立退基準及び住居制限 / もくじ / 戻る / VII 人体の障害の評価

VII 人体の障害の評価

  1. 放射能の人体に及ぼす影響については不明の点が少くなく、特に身体各臓器の受ける 障害或は晩発性と被曝線量との関係については解明されていない点の方が多い。従って 人体への障害の程度を分けることは、大部分は推定による他はない。

    人体の放射能症について比較的明らかにされているのは全身一時被曝に由来する放射能症の 発生率或はそれによる死亡率と被曝線量との関係である。これについては諸家の 見解も略々一致している。ここでは次図を採用した。

    また被曝に伴う死亡或は治療の状況を次の如く想定した。

    A 700r 以上 全員被曝後 14 日以内に死亡
    B 200 〜 700r 全員放射能症を呈し、次図の死亡率で死者を出す。
    死者は被曝後 60 日以内に死亡し、その他は 180 日の入院を必要
    C 100 〜 200r 死亡者はない。90日の入院を必要。
    D 25 〜 100r {90日間の医学的検査及び観察を必要。
    E 25r 以下 障害はない。

    以上の想定の上、治療及び検査の内容を具体的にあてはめれば、それらの計算は可能となる。

  2. 次に、事故後に放出された分裂生成物の煙霧に曝された場合、人体の受ける線量は別の 計算により第B表の如くなる。この表のCの値を種々変えると、全身その他の臓器の被曝 線量が分る。これにより、1で述べた全身一時被曝による障害と同程度の障害を与えると 考えられるCの価を決定すれば、人体に対する災害の評価を行いうる。

    この場合、判定の基準を主として被曝後1日間に受ける線量におき、それ以後の被曝量 は参考とすることにした。その理由は、例えば骨が1年間に何rad受ければ死亡するが、 或いは何radで治療を要する障害が現れるかということは分つていないからである。勿論 1日目の被曝にしても、各臓器の被曝が占める割合を決定的にいうのは困難であるが、長 期のことを考えるよりは容易であろう。

    また、白血病、骨腫瘍、白内障等が、放射線被曝によつて後年、発生率が高くなるで あろうことは想像出来る。然し、被曝線量と発生率の関係は決定的なことはいえない。

    従つて、ここではこれらの考え得る晩発症については、一応除外した。然し、これらの 補償については別に考慮する必要があろう。

1)揮発性放出

500c-sec/m3の被曝では a) 粒度小で放出後1時間目なら、全身 に715rad、肺に220rad、消化管に27.5rad、甲状腺には29.150 radを第1日に受け、骨は1年間に5.885radを1年間に受けることになる。

この時の甲状腺の被曝は、放射能症の発生やそれによる死亡には、決定的な寄与を なすものとは考えられず、また、肺、消化管の被曝量は比較的少い。従つて全身被 曝量のみを注目してよかろう。

700r 相当量=550 c-sec/m3
200r  〃 =150
100r  〃 = 80

b) 粒度大なる場合は、消化管の被曝量が、a)に比して約12倍となる。これは 全身状態に影響するだろうが、550 c-sec/m3 の濃度で消化管は 330 radを受ける。消化管の被曝を全身被曝と等価とみると、700rに相 当するのは400c-sec/m3位という計算になるが、両者にはそれ程大きい 差は実際には存在しないだろう。

また、検査のみ実施する範囲は、安全限界を越える被曝で、100〜相当濃度 以下にすべきであろう。

放出後6時間目の被曝では、それぞれ1時間目に比し、約2倍の濃度となるだろう。

2)全放出物(1時間目及6時間目)

a)粒度小

上と同様にして推定するが、肺及び消化管の被曝を考慮して、全身被曝に加算 した。

700〜 =800 c-sec/m3
200〜 =200
100〜 =100 c-sec

a)粒度大   同様にして

700r =250 c-sec/m3
200r =80
100r =40

a)で最も問題となるのは、被曝后1年間に受ける骨の線量の判定であろう。従来も 長年月(20年以上)のRa障害者に骨腫瘍の発生をみた報告もあるが、被曝後、初期 における見通しは立てられない。また、投書の1年間に大量の被曝を骨が受ければ、造 血障害も起り得ると思われるが、治療費の計算を行い得る程のデーターはないため除外 した。

以上の数値は大部分推量である。出来るだけ既存のデーターを参考にしたが、これは あく迄も、災害評価のために引いたラインであると考えていただきたい。


VI Pu239 による危害の評価 / もくじ / 戻る / 参考文献

参考文献

1.

Teoretical Possiblities and Consequences of Major Accident in Large Nuclear Power Plants : WASH-740, U.S.A. E.C. 1957, Aug. by Beck, K. Clifford et al

2.

Reactors. Hazard v s.Power Level : Nucl. Science and Eng. 2, 382-393 (1957) by Thomas, J. Burnett.

3.

原子炉等非常事故時における一般公衆に対する退避、食物制限等の措置に関する線 量について:(中間報告)、Dec,1959 原子炉案線基準専門部会第1小委員会

4.

Reprt of Committee II ; International Commission on Radialogical Protection on Permissible Dose for Internal Radiation, 1958, Revision received by K.Z.Morgan, chairman of committee II.

5.

Maximum Permissible Dietary Contamination after the Accidental Release of Radioactice Material from a Reactor: Report to Medical Research Council by its Committee on P Journal, April. 1959. p.967.

6.

Industrial Dust: by Drinker and Hetch p.93-95. Second Edit. McGraw-Hill Co. 1954

7.

The Shorter-term Biological Hazards of a Fall out Field: Edit by G.M.Dunnig, U.S.A.E.C., Dec. 1956 Topic II. IV and V. U.S.Gov. Print. Office. Washington D.C

8.

Synergic Effects of Aerosol; Rate of Clearance from the Lung : by C.W. LaBelle and H.Brieger, A.M.A.Arch. Ind. Hlth. Vol.20, Aug. 1959. No.2.

9.

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10.

Radiation Dosage to Lungo from Radon and its danghter products : by W.F.Bale and J.V.Shapiro Atoms for Peace Geneva Conf. Paper, Aug. 1955

11.

Control of Radon and Daughters in U. mines and calculations on Biological Effects ; Section IV.; by D.A.Holaday et al. public Health Servece Public. No.494: U.S. Dept of Hlth. Educ. and Welf.; Pub. Hlth. Service.

12.

Late Effects of Internally-deposited Radioactice Materials in Man : by J.C.Aub, R.D.Evans, L.H.Hempelmann and H.S. Martland. Medicine, Vol 31, No.3, Sept. 1952

13.

Mathematical aids in the Understanding of the Biological Hazards of Residual Radiation. by J.T.Brennan. in Ref.7.

14.

Physiology and toxicology of Pu-239 and its industrial medical Control : by W.H.Langham. Health Physics. Vol.2. Oct. 1959. No.2.

「原子炉の事故時の放出放出物の吸入によつて肺の受ける線量について」: 鈴木間左支
(未発表資料.近く原子力学会誌に発表の予定)

「原子炉の大事故に際し、放出される放射性 Aerosol による危害の生物学的評価について」: 鈴木間左支(放射線医学総会研究所)(未発表資料)


(註2)

(1) 空気中の濃度χμc/cc の Aerosol を毎秒 Vcc ずつ t 秒間吸入した とき肺内に沈着している Aerosol の量は

      χVR/λ(1-e
-λt
)e
-λ(T-t)

但しRは肺内での沈着率、λは肺の生理的排除指数である。λは Soluble のものでは大きく10-3以上を考えてよい。(肺での滞留時間約1000秒とする。)

又 Insoluble には肺胞でのλは 0.8×10-7/sec (半減期100日)、 上気道でのλは 0.8 × 10-4/sec (半減期2.5時間)と想定した。Tは被曝後 の線量算出までの時間。

(2) 以上の事から Soluble のものから肺が受ける線量は、

      d = 7.5 × 10
-2
 RC rad

R は粒度により 0.75 又は 0.55。これに一定の係数 a をかければ放出後 t 時間目 の肺の線量が算出できる。

(3) Insoluble については、肺胞と上気道をわけて計算する。肺胞ではλは非 常に小さいとして

     D(肺胞) = 1.85 × 10
-4
 R
av
aCt rad

上気道ではλは10-4/sec 位であるから被曝中の生理的減衰を考えねばならな いから

                                            χ  t
     D(上気道) = 7.4 × 10
-7
 × R
up
 VE
β
 × ― ∫ ( 1 - e
-λt
 ) dt
                                            λ  0


                                     1 - e-λt
               ≒ 0.1 × RupaC ( 1 - ――――― ) rad
                                         λ

となる。以上のように insoluble のものよりの線量は C だけの函数ではな く、t の函数でもあるから被曝が長時間になると c.sec/m3 単位で表わすことに は問題がある。

(4) 放射能煙霧の吸入が終つて後の肺線量は insoluble だけを考えればよい が、このうち上気道に沈着したものは1日後においては95% 以上が排泄されてし まうと考えられるから、実際的には肺線量は肺胞からのものだけを考えればよい。

算出方法の概略は次の通り

t 放間の被曝が終了したとき肺胞間に存在する Aerosol の量は q(t) = q(t) = RavVac(μc) とみてよいから1時間に受ける線量は

                 3.7 × 10
4
 × 3600 × 1.6 × 10
-6
      D = q × ――――――――――――――――――   E
β
 rad
                            100 × 80

しかしその後 T 時間目に肺内にある放射能の量は

      q(T) = qe
-λT
T
-n

であるから1時間目からT時間目までに肺の受ける線量は

         T
      D ∫ e
-λT
 T
-n
 dT
         1

である。T の大きくないときは、λを小として近似的な計算を行なつた。T が大の ときは q(T) はかなり小トなるから3ヶ月以上については生理的減衰だけを考えて計算した。


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(私論.私見)