科学技術庁資料「原発事故研究」その3 |
(最新見直し2011.03.21日)
附録 (D) 放出放射能の人体及び土地使用に及ぼす影響 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
I はしがき大型原子炉の大事故に際して、原子炉より放出された分裂生成物によつて、人体が蒙むる 影響は非常に複雑な様相を呈するもので、これにより人体の受ける被爆を正確に評価するこ とは非常に困難である。さらに放射性放出物が、土地・海水等を汚染し、これから何等かの food chain を通つて、人間が蒙むる影響をも附加して考慮しなければならないとすれ ば、その実態の把握と評価とはさらにきわめて困難なものとなる。 従つて、これから考察する影響の本当の実態については未知、不明の要素があまりにも多 く、科学的な推論といつても、その実は scientific fiction に近い面もあること はいなめない。 しかしながら、この種の影響についてのより合理的な推定を行うことは、大事故より起りう る損害をより合理的に評価するために欠くべからざる要素の―つであるとともに、 起りうべき損害を未然に防止するための基木となるべき資料の有力な手がかりを与える点か ら我々の推定は意味のある試みであると考えた。 そこで先ず、原子炉の事故に際して放出される核分裂生成物 (又は燃料の―部を含む) に よつて人体がどのような種類の被曝を蒙むる可能性があるかと考察すると、大体図 1 にか かげる図式の如くなり、これを整理すると、概ね次の如くなる。
注 * 呼吸器よりの Aerosol の侵入においては常に一部は、消化器に移行すると考えるのが妥当である。 これらの身体各部への各種の被曝量を支配する諸因子はまた、非常に複雑であり、これら のすべてについて考慮することは不可能であるが、概ね次の如きものが考えられる。 図1.1. 環境の諸因子
2. 放出物の物理的、化学的諸因子
3. 時間的諸因子
4. 生理的話因子
以上のごとく、身体の受ける被曝の種類とそれを支配する諸因子は誠に多岐に亘るのであ つて、これらについてすべてを、科学的資料と合理的な基礎の上に考察することはほとんど 不可能なことである。 従つて、今回の考察においては、被曝のあるものはこれを省略し、又あるものはその一部 のみを考慮し、また諸因子についても、多数の未知な因子について―定の想定を行い、又あ るものは全く無視するか、常に一定であるかの如き取扱いを行わざるを得なかつた。 故にこのようにして得られた結果については、現実に起り得ぺき被曝に対して、かなり大 きな偏異をもつている事も考えられ、又、その結果について、適切な評価を行うことは甚だ 困難であるが、その想定や省略を生物学的に見て出来るだけ合理的なものとするべく努力し した。しかし、要求されている問題の精度に対して、不必要に精細な計算を行うことは労力 と時間の制限からさけざるを得なかつたが、なお結果からみれば不必要な細かい考慮や、 不当な省略がなかつたとはいえない。ただ限られた時間と労力とにおいては、これもやむを 得ぬ事であつたと共に、今後の研究によつてこれらの不備な点を補足して行きたい。 従つてここの一文の論述においては、考えられる被曝の型の内 (1) コンテナーよりのγ 線被バク、(4) 皮フ表面に沈着した放出物より身体及ぴ体表面がうける被パク*及ぴ (8) food chain を通つて体に入つたものよりの被バク**を除いた各被曝についての み考察することにしている。
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
I 基本的諸条件
I はしがき / もくじ / 戻る / III 身体の各部の受ける被曝線量 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
III 身体の各部の受ける被曝線量1. 全身の受ける外部線量(全身γ線量)全身の受ける被曝線量は大きくわけて外部よりγ線によつて受ける被曝と、放出物が体 内に摂取される事により、内部より全身が受ける被曝線量(主としてβ線による)とにわ かれるが、ここでは全身が外部よりのγ線への被曝により受ける線量を算定する。 @ 今 C c-sec/m3の濃度・時間の放射能雲に潜没 (immerse) した場合に 放射能雲の拡がりが、そのγ線の飛程に対して充分大きな空間にひろがつているとすれ ば、それから全身が受けるγ線の線量は、(数式図略)。今、被曝時間が短時間であつて、その間の放出物の減衰が無視出来るものとすれば 放出後 t 時間目に放射能雲に immerse した人の全身の受けるγ線の線量は、 D = 0.173C (t / 24)-n である。 注* 組織−空気の stopping power ratio 考慮に入れなかつた。が、これを考慮すれば線量は約 10% 増となる。但し、(数式図略)。
しかしながら、被曝時間が比狡的長期に亘る場合は被曝中に放射能のエネルギーの減衰が あるため実際受ける線量は、これより小となる。 今エネルギーの減衰が図の如く行われるとすれば、(図略)。 |
放出後 1 時間目より被曝を受けて、それが 4 時間つづいたとすれば、減衰を考慮に入れて、
平均 Aav のエネルギー強度で 4 時間被曝を受けた
この値はいずれもそれぞれの被曝時間後夫々 1.4 及ぴ 2.0 時間たつたときの A の値 に近いので、夫々 A24 及ぴ A8 の値をもつて表わしてさし 放出後 1 時間目よりの被曝の場合は0.246 × 0.7 × 6.17C = 1.07 C rad Volatile F.P. のとき 0.246 × 0.7 × 1.55C = 0.268 C rad Total F.P. のとき. 放出後 6 時間目より被曝の場合0.246 × 0.7 × 2.41 C = 0.42 C rad Volatile F.P. のとき 0.246 × 0.7 × 1.25 C = 0.216 C rad Total F.P. のとき 以上のの結果を総合すれば放出後 24 時間目の濃度 C c - μc/m3の放射能雲に潜没 (immerse) した人の全身の受ける線量は (γ線被曝量) 次 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2. 肺の受ける線量について肺は放射能雲の吸入により肺に沈着又は吸収された放射性物質よりの放射線(主として β線を考えればよい) により被曝を受けるが、その被曝線量は、次の諸条件により異なる。
従つて、以上の諸条件に一応一定の値を想定しなければ、線量の算出が出来ない。 1)について、放射性放出物の空気中濃度は 放出後 24 時間目の濃度を C c-sec/m3 とするが 7) の被曝継続時間は、短時 間の場合を、約 1000 秒、やや長くつづく場合を約 15000 秒 − 約 4 時間と想定する。 従つて、濃度は、短時間被曝は大体 C / 1000 μC/cc やや長時間被曝でほ大体 C / 15000 μC/cc であると想定されたことになる。 但しこの濃度は放出後 24 時間目の空気中の濃度である。 2)については、最近における科学技術庁資源調査局の調査によれば、我が国における色々な作業、 労働時における空気の呼吸量は、
であるから、今放射能汚染空気を N hr 吸つたとし、その間、中等作業の時間 : 一般作業の時間 : 静止状態が、5 : 5 : 2 と想定すれば 20×5+13×5+8×2 呼吸率は ―――――――――― = 15 l/min = 250 cc/sec 12 従つて、呼吸量は 15×60 Nl = 90 QNl 故にここでは呼吸率として 15 l/min = 250 cc/sec をとるものとする。 4)については、粒度は一般にかなり巾のあるものであり、想定はかなり難しいが、ここで は比較的粒度大なる Aerosol として、粒度 7μ の場合と比較的粒度小なる Aerosol として粒度 1 μの場合の二つを想定する。 この想定は実際におこり得ると考えられているものの二つの典型をとつたものと考えてもよい であろう。現実にはこの二つの混合されたようなものが多くおこり、炉よりの距離がはなれ るにつれ、粒度は小になる傾向があると考えられる。 この場合、肺における Aerosol の沈着率は、後に述べる理由により(注1)
と想定することを得る。
注1今、空気中の Aerosol の粒度を 1μ及び 7μの二種類があるとすれば、その おのおのが肺における沈着率は次の各図から次表のようになると考えられる。
図 図 4)については、実際の放出物の溶解性(ここでは、厳密にいえば体液に対するもので あるが、大体水に対する溶解性を考えることとする)は非常に様々であろう。しかしそ れでは線量の算出が出来ないので、一応、放出物を soluble ,なものと insoluble なものとの混合物と考え、前者は、肺の中でかなり速かに溶解し、大体平均して肺 内での滞留時間は、100〜1000 秒であると想定する。又後者は、肺内での溶解が きわめてゆつくりで、肺の生理的な排泄機序だけによつて、肺外へ排除されるものと想 定する。 但、この二者の含有率は、前に掲げた放出された生成物の表中に掲げたものを参照し、 全放出物では放出後 1 時間目では Sol : Insol = 0.5 : 0.5 〃 6 時間目では Sol : Insol = 0.4 : 0.6 揮発性放出物では一様に Sol : Insol = 0.95 : 0.05 と想定する。 6) の被曝までの時間は 放出後 1時間及び6時間とする。 7) の被曝継続時間は既にのべた如く 1000 秒及約 4 時間(15000秒)とする。 8) については、 被曝後大体その 1 日間に受ける線量 〃 30 日間に受ける 〃 〃 90 日間に受ける 〃 〃 1 年間に受ける 〃 の 4 段階に分けて算出することにした。 又最後に 5) については Volatile Fission Products の場合は t At = A24 (――)-0.8 24 Total Fission Products t At = A24 (――)-0.2 24 とし、又 Insolable の物質だけを考慮する場合は 以上のような想定にもとずいて、肺の受ける線量を算出することが出来るが、これは 先ず被曝中(即ち放射能雲を吸入中)に受ける線量と、被曝が終わつてから一定時間まで に受ける線量とにわけて考察する。溶解性の物質に対しては後者はほとんど考える必要 がないが、不溶解後の部分はかなり肺及びその附近に長時間とどまるものが考えられ、 その肺に与える線量は非常に大きくなる場合がある。 又被曝時間が長くなればなる程不溶解性のものは、肺に蓄積する傾向があり、この点 の影響を確かめるため被曝時間を 1000 秒、3500 秒(約 1 時間)7000 秒(約 2 時間) 10000 秒(約 3 時間)、15000秒(約 4 時間)の五段階に分けて 比較して見た。 (A) 被曝時間中に肺の受ける線量を算出するには、
これはされに二つに分かれ、(a) 肺胞に沈着したものより受ける線量と (b) 肺上 気道に沈着したものより受ける線量とになる。 (i)と(ii)の線量の算出については参考文献(15)にゆずる〔本附録の末尾にある(注 2 )参照〕。 先ず Volatile F.P. に被曝したときを想定すれば この場合 C c-sec/m3に被曝したとして 放出 1 時間後及び6時間後共に Soluble のものが95% insoluble のものが 5% 含まれると想定する。 又 Total F.P. に被曝したときには 放出後 1 時間では、 Soluble の量が 50% insoluble のものが 50% と想定するが、6時間後では soluble のものの decay が早いので、 soluble が 40% になり insoluble のものが 60% になると想定する。 従つて Volatile F.P. の被曝では大部分の線量は、 soluble の Aerosol より来ると考えられるが。 Total F.P の被曝の場合は soluble からくるものつと、insoluble から来るものが半分くらいずつ になると考えられる。 (B)(1) Volatile F.P. に被曝したとき被曝中に受ける線量今放出後24時間において、放射能雲の濃度がχ24c/m3のものに t 秒間さらされたとする。 χ24× t = C c-sec/m3であらわすものとする。 事故放出後1時間で被曝がはじまつたとすると、
最高 0.245C 最高 0.337C 平均 0.22C 平均 0.3C 最低 0.196C 最低 0.24C 同上の比 1.25 同上の比 1.40 (2) Total F.P. に被曝したとき受ける線量同様に、放出後24時における放射能雲の 濃度 × 時間を C c-sec/m3 で表わすと 被曝が放出後1時間の場合で N = 0.2 のとき
最高 0.39C 最高 0.24C 最低 0.047C 最低 0.064C 比 8.3 比 3.75 事故発生後6時間で被曝がはじまつたとすると、 Volatile F.P. の場合は decay がすみやかであるので、 C c-sec/m3 より肺が受ける線量は、減少する。
最高 0.12C 最高 0.166C 平均 0.12C 平均 0.15C 最低 0.10C 最低 0.14C 比 1.2 比 2.8 Total F.P. の場合は のものの量が増大し、0.6になる。
最高 0.40C 最高 0.26C 最低 0.064C 最低 0.09C 比 6.25 比 2.8 全体における開き Volatile F.P. の場合 最高 0.337C 最低 0.10C 比率 3.37 Total F.P. の場合 最高 0.40C 最低 0.047C 比率 8.5 (c) 被曝後に肺の受ける線量吸入された Soluble Aerosol は大部分が速かに肺より溶解し去ると考え られるから、被曝後その影響があるのは高々 1 〜 2 hr であり、ここでは肺への滞留 は平均 1000sec としたから被曝後の長時間経つての soluble 物質の与える線 量は無視することができる。 しかるに Insoluble の物質は肺に沈着して後しばらく肺に滞留するから一 定期間に亘り相当量の線量を肺に与えることが考えられる。 この場合も (i) 肺胞に沈着した部分と (ii) 上気道に沈着した部分とは著しく異なる。 前者は相当長期間肺に留まるが(半減期 約100日) 後者は、気道の排泄機序によりかなり速かに肺外へ排除され、大部分は消化器へ移行 する。(半減期 2.5 時間とする) 従つて、先ず肺胞に沈着したものの与える線量は Aerosol の粒度と放射能の 物理的減衰係数により異なるが、次の如くなる。(註2を参照) 但しC' は C 中の insoluble の部分の濃度とする。
但し、放出後1時間目で被曝が短いときはこれに1.3を掛けた値になる。* 次に、肺上気道に沈着したものより受ける線量は、詳細は省略するが、粒度及び被 曝を受けた時間により異なるが、次の如く見なして良い。 (* なお、6時間目の被曝で4hr 続いた場合にはこの値に 0.9 を掛けた値になる。)
20時間以後は上気道への沈着する放出物の量は極めて小となるので、その後の 線量は無視してよい。 以上を加え合わせると被曝後20時間までに肺の受ける線量は次の如くなると考え られる。
ここに C' は C c-sec/m3中の insoluble の部分の濃度であつて、 1 Volatile F.P. の場合は C' = 0.05C = ―― C 2 0 Total F.P. の場合 1 放出後1時間目被曝では C' = 0.5C = ―― C 2 放出後6時間目被曝では C' = 0.6C 以上(A)(B)(C)を綜合して C c-sec/m3に被曝した人の受ける線量は、放射 性放出物の種類、粒度、被曝までの時間、被曝中の時間、放出物とくに insoluble の 部分の減衰の速さ、及び被曝後の時間により次の表のごとく考えられる。
以上の結果から、明らかな点は、肺に与える数量を最も大きく支配するのは、放出 物中の insoluble な部分の割合であり、次に大きな factor は粒度である。 又肺胞における生理的排泄の速度を半減期 100 日位と想定したが、これが変化す れば蓄積線量は大きく変化する。肺胞内における物質の排泄速度は物質の種類や溶解 度や粒度等によく著しく異るし、又多くの物質は1μくらいの粒子であればかなり溶解性 が高くなるので、ここにおける想定は充分に Conservative なものであると 考えられる。 要するに肺の受ける被曝線量は、これを支配する核種の要因が確定困難なもの、又 は未だ科学的に明らかでないものが多いため、場合により非常に大きな差異を生ず ることが判る。 WASH では甚だ簡単な想定により線量の算出を行つているが、このような想定は 生物学的には甚だ不合理な点が多いいので、ここではこれを出来るだけ生物学的に合 理性のあるものとしたが、ここに用いた想定が必ずしも、すべてより合理的であると いいきることは出来ない。 しかし、ここに見られる大きな巾から見て現実に怒り得る事故の影響はこの巾の範 囲内に入ることが多いと考えることはあまり不合理なことでは無いであろう。 1. 全身の受ける外部線量(全身γ線量) / もくじ / 戻る / 3.消化器の受ける線量 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3. 消化器の受ける線量呼吸器に吸入されて沈着した放射性 Aerosol の一部及び口腔等に付着した Aerosol の一部は、生理的機序に従つて、消化器へ移動する。 排泄機序は時間により変化するから、腸管の受ける線量を時間的に正確に算定するこ とは非常に困難であるので、ここでは呼吸器及び口腔に沈着した Aerosol のあ る割合が一定の時間の後に消化器に到達し、且つそれが、一定時間消化管内を通つて、 体外へ出るものと想定しその間に消化管が受ける総線量のみを算定する。 又放射性物質の吸入の続く時間及びその消化管への侵入は比較的短時間に完了す るものと想定する。 放射性物質が消化器中にとどまる時間は I.C.R.P. によれば次の如く想定されている。
次に呼吸器にQμc が沈着した場合そのどの位の割合が消化器へ移行するかは、 Aerosol の溶解性、と沈着部位に主として左右される。が、一応上気道に沈着 したもののみがいこうするし、 Volatile は soluble が 95% insoluble が 5% Total は 〃 50% 〃 50% 含 まれるとし、soluble のものの10% insoluble の全部が移行するものとする。 又上気道及び口腔への沈着率を 粒度小なものでは 10%、粒度大なものでは 80% とする。しかるときには、消 化管へ移行する放射性物質の量は空気中に含有されるものに次表の割合を掛けたもの となる。
従つて、消化管内へ移行する放射性放出物の割合を次のごとく想定する。
今 C c-sec/m3 に被曝した人の肺には CVμc の放出物が侵入する。故に 250C に表IIIの割合を掛けた放出物が消化器へ移行することになる。 消化管に移行する放出物の大部分は insoluble のものがあるから、この混合 物の物理的減衰係数は 0.2 〜 0.1 と考えられる。 今 C c-sec/m3 を放射後24時間後の値とすると、 放射後1時間目の放射物の強さは C24 (2/24)-0.2 = 1.65 C24 又は C24 (2/24)-0.1 = 1.28 C24 但し、被曝が4時間続いたとすると、I節に述べた如く、 放出物の平均の強さは C24 (24/24)-0.2 = 1.58 C24 又は C24 (24/24)-0.1 = 1.26 C24 としてこれが4時間つづいたと考えればよい。 放出後6時間目の被曝の場合には同様に考えて 短期被曝のとき 1.32 C24 1.15 C24 4時間被曝のとき 1.25 C24 1.12 C24 従つて消化器に入る放出物の線量は次表の通りと考えられる。
今、qμc が重量mgの消化管内にT時間あるときその消化管の受ける線量 DGI は 3.7 × 104 × 3600 × 1.6 × 10-6 1.06 DGI = ―――――――――――――――――― ∫qFβ dT = ∫qEβ dT 2 × 100 × m m 但し、消化管は管状と考えβ線の飛程から考え organ への線量の吸収は 2πで行 われるものとする。 Eβは放出物のβ線平均エネルギーとし、ここでは 0.4 Mev を想定する。 q は時間の函数で qT = q0 T-m とする。 但し q0 ははじめの放射性物質の量である。 n は0.2乃至0.1であるとする。 q0 は表 IV で示した数値である。 消化管の各部にとどまる時間及び organ の重量は表 I に示すとおりであると想定する。 又、被曝が短時間の場合は、吸入後平均して、2時間後に全放出物が胃に到着すると仮定すれば 胃の受ける線量は 1.06 × 0.4 3 Dst = ――――――― ∫ qo T-n dT rad 200 2 小腸の受ける線量は 1.06 × 0.4 7 DSI = ――――――― ∫ qo T-n dT rad 900 3 大腸の受ける線量は 1.06 × 0.4 33 DL.T. = ――――――― ∫ qo T-n dT rad 100 + 120 7 但し、a は小腸内における放出物の吸収率であつて、これは甚だ明らかでないが、一 応平均して 0.3 とする。 今 n=0.2 とすれば 3 Dst = 2.12 × 10-3 qo∫ T-0.2 dT 2 = 1.8 × 10-3 qo rad 7 DS.I = 4.7 × 10-4 qo∫ T-0.2 dT 3 = 1.37 × 10-3 qo rad 33 DL.I = 1.3 × 10-3 qo∫ T-0.2 dT 7 = 1.9 × 10-2 qo rad n = 0.1 とすれば 1 Dst = 2.12 × 10-3 qo × ―― ( 30.9 - 20.9 ) = 1.93 × 10-3 qo rad 0.9 1 DS.I = 4.7 × 10-3 qo × ―― ( 70.9 - 30.9 ) = 1.6 × 10-3 qo rad 0.9 1 DLI = 1.3 × 10-3 qo × ―― ( 330.9 - 70.9 ) = 2.4 × 10-2 qo rad 0.9 従つて、消化管の受ける全体の線量は n = 0.2 のとき Dst + DSI + DLI = qo( 1.8 × 10-3 + 1.37 × 10-3 + 1.9 × 10-3 ) = 2.2 × 10-2 qo rad n = 0.1 のとき qo( 1.93 × 10-3 + 1.6 × 10-3 + 24 × 10-3 ) = 2.75 × 10-2 qo rad 被曝が 4 時間続いた場合ににもその平均の強さの放出物が 1 時間に 1/4 ずつ入 つてきたと考えれば、全線量は同じ式で算出できる。故にこれらの結果を総合すれば、 消化管の受ける総線量は次表のごとくなり、この総量は大体 30 〜 40 時間の間に与 えられる。
§ 考察 §消化器の受ける線量の算出で問題になるのは (i) 消化器内における生理的滞留時 間 (ii) 消化器内における物質の吸収 (iii) 消化器内容物によるβ線の吸収、減弱等 である。 第一の滞留時間は食物の種類、食習慣、個人的生理差の巾等かなり大きく、これりよ り非常に、変化の巾があるものと予想される。従つて ICRP の想定が、どの程度、 このような場合の評価において妥当であるかはよく解らない。 第二の点は、腸内の放射性物質は、その化学的性質や他の物との共存、生理的状態な どで著しく異なるので、放出物全体として考慮することは本当は不可能である。従つ て、吸収率 30% という数時にはあまり有力な根拠はない。又、腸内での吸収は一時 に行われるのではなく、小腸を通過中に徐々に行われるのであるから、放射性放出物 の量や割合も連続的に変つて行くものであると考えられるが、ここではその点は全く 考慮していない。 もし小腸内での吸収が著しく悪いとすれば大腸がより大きな線量を受けることは明 らかである。(滞留時間が長いから) 第三の点も腸内の物質は常に激しい流動や運動をしてまぜ合されているし、又、次第 に流動体の濃度が変化していくのであつて、非常に想定が困難であるから、それによ るβ線エネルギーの減弱はないものとして、ただ 2π のジオメトリーのみを想定した。 2. 肺の受ける線量について / もくじ / 戻る / 4. I混合物により甲状腺の受ける線量 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
4. I混合物により甲状腺の受ける線量今、C c-sec/m3(この値だけは便宜上24時間目の値ではない)の放射能雲に被 曝した人は CRtV なる量の放射性物質を肺内に沈着させる。この中で I の占める割合を A とすれば、CRtVAμc の I 混合物が肺に沈着する。 I 混合物の種類を I131,I132,I133,I134,I135 とし、それぞれの含 有量(%)、及び減衰を次の通りとすると
I 混合物の物理的減衰は図VI A の如くなる。これによればI混合物の減衰は 1〜2hr より 20hr までは T-0.4 に比例し、 20hr より 200hr までは T-0.65 に比例し、 200hr 以降は I131 の物理的減衰に従うものと見ることが出来る。 今放出後1時間目、6時間目等の I 混合物の含有%を求めると、次の表の如くなる。
又被曝が4時間つづいた場合は夫々2.5時間後及び7.8時間後の値が4時間つづいたもの のと考えてもよい。* 又 1〜2〜20hr までの平均実効エネルギー E1 を 0.5** 20〜200hr までの 〃 E2 を 0.3 と想定する。 今、C c-sec/m3 に被曝した人の肺には q = CRt VA μc の I 混合物が沈着するから、これが直ちに溶解吸収さ れるとすれば、これが1時間に与える線量は 3.7×104 ×3600×1.6×10-6 DThyr = CRt VA × 0.3*** × E1 × ―――――――――――――― 20×100 = CRt VA × 1.6 × 10-2 rad/hr = CRt A × 4 rad/hr 但し、Aは、放出後1時間目より被曝の場合 被曝が短時間の場合は Total F.P. で 0.11 Volatil F.P. で 0.32 被曝が4時間つづいた場合は Total で 0.085 Volatil で 0.24 又、放出後6時間目より被曝した場合は 被曝が短時間の場合は Total F.P. で 0.062 Volatil F,P. で 0.19 被曝が4時間つづいた場合は Total で 0.055 Volatil で 0.17
である。又 Rt は、粒度小の Aerosol では 0.55 粒度大の 〃 では 0.75 と想定したから、C c-sec/m3 に被曝した人の甲状腺が最初の1時間に受ける線量は、
次に被曝してから20時間の間に受ける線量を求めると、短時間被曝の場合は 1〜20 20 DThy = DThy ∫ t-0.4 dt 1 = Dthy / 0.6 × ( 200.6 - 10.6 ) = 9.9 Dthy 被曝が4時間つづいた場合は 4 20 DThy = ∫ DThy dt + DThy ∫ t-0.4 dt 1 5 1 = DThy { 4 + ―― ( 200.6 - 50.6 )} = 11.2 Dthy 0.6 従つて、C c-sec/m3 に被曝した人の甲状腺が被曝より 20 時間に受ける線量は次 の表のごとくなるものと考えられる。
但し放出後6時間より被曝の場合は t-0.4 の法則が 26 時間まで保たれるものとし て計算したから、実際よりは少し大きく見積もられている。 なお、20 時間位の間では甲状腺における生理的減衰はほとんどないものと見なして計 算した。 次に、被曝後 20 時間経て後に甲状腺が受ける線量を算出する。20 時間より 200 時 間(約 8 日間)までの線量を求めるには甲状腺の生理的減衰を考慮しなければならぬ。今 被曝後 20 時間後における I 混合物の量は、甲状腺の生理的排泄を無視すれば、
とみなし得る。 又甲状腺の生理的減衰係数 λb は、 λb = 0.693 / 生理的半減期 = 2.1 × 10-4 / hr であると想定する。 (138日) 又、I132 及び I134 はほとんど無視できる位 decay するから、平均実効エネ ルギーは、約0.3Mev と見なし得る。 従つて、甲状腺が 20〜200hr 間に受ける線量は 3.7 × 104 × 3600 × 1.6 × 10-6 18C 0.3CRt VA20 × 0.3 × ―――――――――――――――――― ∫ t-0.65 e-λbt dt rad 2.0 × 100 1 この前項は 4.8CRtA20 であるが、後項の積分は解法が困難である。しかし、 λ = 2.1 × 10-4 程度であるから t ≦ 200 のハンイでは (λt)2 e-λbt = 1 - λt + ――― 2とおいても誤差はきわめて少ないのでこれにより e-λbt を置換してこの積分を解くと、 180 1 λt (λt)2 ∫ t-0.65 e-λbt dt = 〔 t0.35 ( ――― - ――― + ―――― )〕180 , 1 0.35 1.35 4.7 1 3.8×10-2 1.45×10-3 1 = 〔 1800.35 ( ――― - ――――― + ――――― ) - ――― 〕 0.35 1.35 4.7 0.35 = ( 6.15 × 2.822 - 2.85 ) = 14.5 故に求める線量は 69.5CRtA20 即ち、下表の如くである。
200時間目に甲状腺に残留するIはほとんどI131 のみであり、その量は Volatile F.P. の場合は 0.3 × CRt V × 0.025 × e-2.1×10-4×200 = 1.8 CRt μc Total F.P. の場合は 0.3 × CRt V × 0.0075 × e-2.1×10-4×200 = 0.54 CRt μc従つて、甲状腺が 1 日間に受ける線量は 0.54 3.7 × 104 × 1.6 × 10-6 × 3600 × 24 ―――――――――――――――――――― × E × or × CRt 20 × 20 1.8 E は I131 の実効エネルギー、即ち0.23Mev 即ち、Volutile F.P. の場合は 2.56 × E × 1.8 CRt = 1.05 CRt rad Total F.P. の場合は 2.56 × E × 0.54 CR = 0.32 CRt rad I131 の実効半減期は甲状腺に対して7.6日であるから、8日目より30日までに甲状腺の受ける線量は、 30 1.05CRt ∫ e-(0.693/7.6)t dt = 1.05CRt × 4.53 rad 8 30 0.32CRt ∫ d-(0.693/7.6)t dt = 0.32CRt × 4.53 rad 8 同様にして30日より90日までの甲状腺の線量を求めることがでぎる。
|
(私論.私見)