科学技術庁資料「原発事故研究」その2

 (最新見直し2011.03.21日)

附録(A) 事故の種類と規模
 原子炉には核分裂の結果生じた分裂生成物が内蔵されており、これが仮りになんらかの原因で大量に放散されるような事態にたち到ると原子炉敷地の周辺に対して大きな災害を及ぼすようになることはいうまでもない。このような原子炉事故の性質について実際的な知識のなかつた初期の研究においては種々の仮想的な放散の観点から理論的研究が行われ、これら の研究は原子炉の災害についての認識を与え、事故対策を樹立、推進するのに役立つたが、今日では、原子炉の継続運転とそれに関連した研究による知識と経験 も次第に増えており、より現実的な想定に基いて装置の故障あるいは運転の誤りによつて起り得ると考えられる事故の経緯を推測しその結果を考慮して原子力発 竜所の安全性を評価する手法が一般的に行われている。そしてそのような起り得ると考えられる事故のうちで最大のもの、Maximum Credible Accident(以下 MCA と略称する) が起きたとしても周辺の公衆に対してほとんどの障害をも及ぼさないように施設し、敷地を選定することが要求されている。ここで、当面我国に設置を予定され ている水冷却炉、ガス冷却炉の最悪想定事故について夫々の主な開発国である米国、英国の考え方を概観して次に記す,

 (1) 水冷却炉の MCA (米国の考え方)(参考文献 (2)、(3)、(7))

 ―次冷却系の大きな破損の結果、炉心の冷却が充分に行われなくなり、炉心の相当な部分(10% 程度)に含まれていた分裂生成物が放散されて格納容器内に充満して、これが徐々に漏洩するような事故が考えられている。漏洩率は事故の直後において約 0.5% / 日であつて、(表 1 を参照)撒水その他の手段によつて圧力が低下するため、事故発生後半日問の漏洩量は約 0.1% 程度と想定されている。※その後も多少の漏出はあろうが、半日以上も、一定の気象条件が統く可能性は少く、しかも、圧力低下による漏洩率の減少、分裂生成 物の崩壊、住民の移動等によつて、その照射量は漸減する傾向にあり、最初の半日以内の漏洩によるものが支配的であると考えられる。

 (2)ガス冷却炉の(英国の考え方)

 燃料被覆に小さな漏洩がある状態で、一次冷却系が破損して空気が侵入しウランの酸化が進む状況を解析した結果、数時間に亘つて全沃度 250キュリー(全分裂生成物 2×103キュリー相当)と少量の Sr が放散きれると想定している。

 以上のような MCA の際の災害は皆無といつてもよい程であり、逆にいえば、皆無に近いことが原子炉設置の基準とされているにもかかわらず、各国とも原子炉事故に伴う第三者災害保険制度を設けさらにある限度以上の事故に対しては国家補償を考慮している実情である。

 この矛盾仁ついて、原子炉の事故をもう少し深く掘り下げて考えて見ると、MCAというものは、起り得ると信じられる事故 credible accidents (例えば、小量の分裂生成物が一次冷却系に充満するような事故)と、想像上の事故 conceivable accidents (例えば、格納容器に分裂生成物が充満しているとき何等かの原因で格納容器が破損するような事故)の境界にあるものであつて、未だ原子炉の運転経験に乏し く客観的な基準の得難い今日では、どこまでを起り得る (credible) と考えるかは専門家の洞察に基く判断に依存せざるを得ない状況の下にある。(Rf3、P/2407)

 それ故我々は損害評価を行うべき事故の規模としては、MCA 以上の仮想的な事故を敢えて想像しその 100〜1,000 倍の事故に相当する105-107キュリー放散の場合を考えることにする。なお現在までに実際におきた事故は少数で少規摸のものであるが、参考のためその主要なものについての概略を表 2 にまとめておいた。


※ 500MW の原子炉のこの場合漏洩量は
( 5×108 キュリー) × 10/100 × 0.1/100 = 5×104 キュリー(全分裂生成物)〜104 キュリー (揮発性分裂生成物)
となる。
 
表1 各種原子炉のコンテナー漏洩率(規定漏洩率は設計圧力における 24 時間の漏洩率を百分率で表してある)
原子炉 格納容器
名称 所有者 熱出力(MW) 全容積(ft3) 設計圧力(psig) 規定漏洩率(%) 建設された年
EBWR 米 AEC 20 597,500 15 0.25 1995
EBR-2 米 AEC 62.5 〜595,000 24 0.2 1958
SIR-A 〃 AEC n.a 6,000,000 20 0.5 1953
APPR-1 〃 USA 10 53,700 66.3 0.76 1956
VBWR 〃 GE 30 〜160,000 45 1.0 1956
Shippingport 〃 AEC 231 6000,000 52.8 0.10 1956
Dresden 〃 Commonwealth Edison 626 3,600,000 29.5 0.5 1958
Elk River 米 AEC 73 405,200 21 0.1 建設中
Enrico Fermi 〃 PRDC 300 415,800 32 0.11 1957
Indian Point 〃 Consolidated Edison 385 2,140,000 25 0.1 建設中
Yankee 〃 Yankee 392 1,020,000 34.5 0.1 建設中
NASATR 〃 NASA 60 520,500 5 0.3 1958
PRTR 〃 AEC 70 504,500 15 0.2 建設中
AFNETR 〃 USAF 10 739,000 12.8 12.8 0.1
BR-3 ベルギー CEN 43 215,500 45 0.1 1959

 表 2 主な原子炉事故

 現在までに原子炉で発生じた主な事故は 4 件ある。

  1. 1952年12月12日 NRX(カナダ)の暴走
  2. 1955年11月29日 EBR-1(アメリカ)の暴走
  3. 1957年10月l0日 Windscale (イギリス) の燃料体火災、放射能放出
  4. 1958年 5月23日 NRU(カナダ)の燃料体火災

 以下にその概略をのぺる。

 @ NRX (カナダ、チョークリバー研究所)

 NRX は天然ウラン、重水減速、軽水冷却型、熱出力 3 万KWの研究炉である。
日 時 1952年12月12日
原 因 起動のさいの過誤の重複による暴走
状 況 原子炉の停止中に、地下室の作業員が誤まつて制御系統の空気弁を開いたため、制御系が動作不良となり、さらに誤まつた起動操作が行われたため、暴走して出力が急に上昇した。
起動して約 20 秒後に停止換作を行なつたが効果なし。
さらに 20 秒後重水の排出を行なつた。
さらに約 30 秒後に低出力にもどつた。
空気の放射能が増加し退避命令を出した。
冷却回路が破損して冷却水が噴出してきたが、冷却水を停止することなく原子炉の冷却をつづけた。
結 果 原子炉の炉心部が修理不能の程度に破損。
燃料体が溶けて被覆、冷却系統が破損。
強い放射能が炉内に残留。
冷却水は、約4.000m3が約1万キュリーの放射能を帯びて地下室にあふれた。
放射能がコンクリート内にしみこんだために、汚染除去が非常に困難。
損 害 除染作業および炉心交換作業で約130万ドル?
14ヵ月後に運転再開。
作業員の過剰被爆なし。
措 置 制御系統を改良した。
コンクリートを防水化して除染が容易になるようにした。

 AEBR-1 (アメリカ、国立原子炉試験場)

 EBR-1は、高速中性子増殖炉で、浪縮ウラン、Na冷却型、熱出力 1,400KW である。
日 時 1955年11月29日
原 因 出力急上昇実験中に、操作員の過誤により fast scram の代りに slow scram を行なつた。
状 況 燃料体の温度係数の測定のため、出力急上昇芙験を行なつていた。 実験担当の科学者の指示により、操作員が fast scram を行なうことになつていたが、指示のあつたときに操作員が誤つて slow scram を行なつた。同科学者は事態に気付いて自ら約 fast scram を行なつた。冷却材は流されていなかつた。
結 果 15分後に建物の排気から放射能を検出。
損 害 炉心の一部が融けた。
放射能の大量放出なし。
損害額不明

 B Windscale (イギリス)

 Windscale の Pu 生産炉は天然ウラン、黒鉛減速・空気冷却型で、熱出力は不明。2基のうち、第1号炉で事故発生。
日 時 1957年10月10日
原 因 Wigner release 中に燃料体の過熱。
状 況 Wigner release のために、10月7日に第1回加熱を行ない、10月8日に第2回加熱を行なつた。
計測装置が Wigner release に対して適切なように配置されていないため、ウランの温度を正確に測定できないという欠点に気がつかず、計器の数値を信頼したため、温度を上げすぎた。10月8日に、すでに燃料体の破損が生じていたと推定される。
10月10日、排気中に放射能を検出、燃料体の破損と見られたが、破損燃料体探査装置が操作不能となつていた。
視察によつてウラン体が赤熱しているのを発見。
炭酸ガスを注入したが効果なし。
10月11日朝より注水を行なう(約24時間)。
結 果 14名が週許容線をこえた。
I-131 20,000キュリー、Ce-137 600キュリー、Sr-90 100キュリーを大気中に放散
牛乳を一時的に飲用制限
原子炉を2基とも閉鎖
損害額不明

 C NRU(カナダ、チョークリバー)

 天然ウラン、重水減速・軽水冷却型、熱出力 20 万 KW の研究である。
日 時 1958年5月23日
原 因 破損した燃料体交換機で貯蔵プールへ運ぶ途中で落下して発火。
状 況 原子炉内で燃料体が破損したので、これを取り出して貯蔵プールへ燃料体交換機で連ぶ途中で落下して発火。作業員が防毒面をつけ湿つた砂をかけて15分で鎮火。
建物内がひどく汚染された。一部は排気から外部へ放出、放射能の 放出量不明。発火したウラン全体には 20 万キュリー核分裂生成物 I-131-700キュリーを含む。
被 害 最高被爆者 5.3 rem
損害及び除染作業費不明。
3ヵ月後に運転再開。

 I 典型的原子炉と炉内の分裂生成物の容量

 考察する原子炉はウランを燃料とする熱出力約 50 万KW、中性子束平均 1013の原子炉で平均燃料取替周期は 4 年とする。この調査で仮定される事故は炉内燃料が平衡状況に達し分裂生成物が最大になつて後におきるものと考える。燃料取替の周期を長くとつたこと、後に 敷地条件の項でのべるように敷地は主として動力炉用地という観点からきめるので、本調査の結果は動力炉の場合に最もよく適合するものである。同じ出力であ つても材料試験炉の場合は燃料サイクルが短いと想像されるので、放射能内蔵量とその内分けが変つくる上、燃料の種類、運転方法の相違などによつて同じ放散 キュリー数の場合の損害額は若干変動するものと思われる。少くとも動力炉に関するかぎり現在においては燃焼率の向上と運転中燃料取替が進歩の方向であるこ と、現在の設計値を集めてみると大雑把にいつて 1 年ないし数年にわたつていること、更に身体障害に影響をもつ核種のインベントリーはこれ位の燃焼時間では末だ飽和量に達していないこと、などを上記のよう な考え方によつて判断し、燃料サイクルは 4 年とすることにした。このような原子炉中にある分裂生成物の組成を計算し。次項にのべる放出の割合を考慮して、放出分裂生成物 1 キュリー中に含まれ種々の核種別のキュリーを決めた (附録(D)の表1を参照)

 II 放散される分裂生成物の粗成

 放射能を持つた燃料体を溶融させ、放散物を集めるという最近行われた一連の重要な実験の結果によれば、放散の割合は主として分裂生成物の蒸気圧によることが判明しており、その値は大体次の通りである。
希ガス 100%
沃度 50%
骨に集まる元素 1%
セシウム 10%

 従つて、ここではこの割合で分裂生成物が放散される場合を第一に想定した。しかしながら、この点に関しては今後の研究にまつべき点も多いので、極端場合として 分裂生成物が、その内蔵量に比例して一様に放散される場合も想定した。

 III 放出分裂生成物の性質

 種々の気象条件のもとでの風下における影響を算出するとき最も重要な要素は放散時間と放出物中に含まれる粒子の粒度分布と放出時の煙務の温度とであ る。放散時間については、燃料の酸化或いはコンテナーからの漏洩などのような比較的長時間にわたる放出を代表する場合として数時間に亘つて放散される場合 と事故直後短時間に放散される仏場合の二つを想定した。

 粒子の粒度分布と煙霧の温度については、WASH で与えられている以上の具体的な根拠をうることは実際に不可能であつたので、WASH の値をそのまま採用し、それぞれおこりそうと思われる場合を代表する 2 つの場合を考えた。すなわち放出温度に対しては常温と高温(3000°F、1650°C)とをとつた。

 粒度分布は煙と工場塵の典型に相当する直径 1μ、7μをそれそれ質量中央値とする二つの分布を考えた。


 参 考 文 献

(1) WASH-740, Theoretical Possibilities & Consequences of Major Accidents in Large Nuclear Power Plants, U.S.A.E.C., March, 1957
(2) Reactor Safty & Containment, Power Reactor Tecnology, AEC, June, 1959(邦訳:原子力資料 No34、日本原子力産業会議、昭和 34 年 11 月)
(3) Safety Factors to be Considered in Reactor Siting, by Clifford K.Beck, U.S.A.E.C., presented at the 6th Rome nuclear Conference, June 1959.(邦訳同上)
(4) Siting in Relation to Normal Reactor POperation and Acciedent Conditions, by F.R.Farmer & P.T.Fletcher, presented at the 6th Rome Nuclear Conference, June 1959
(5) A/conf. 15/P/1551, The experience in the United States with reactor operation and reactor safeguards, by C.Rogers McCollough, U.S.A.C.R.S., Sept. 1958(邦訳:原子力資料 No27、日本原子力産業会議、昭和33年12月)
(6) A/Conf. 15/P/1551, Reactor Safety, hazards evaluation and inspection, by C.K.Beck, M.M.Mann and P.A.Morris, U.S.A.E.C. Sept. 1958
(7) 原子力発電所の安全対策(安全特別研究会中間報告書)日本原子力産業会議原子動力研究会、1959年12月
(8) 1958年度原子動力年次報告書、放射線防護篇(III)〃原子力発電所の放射線防護について〃日本原子力産業会議原子動力研究会、1960年2月
 附録(B) 想定する原子炉設置点と周辺の状況

 I 典型的敷地

 損害の評価に当つては、原子炉が設置される地域の状況を想定する必要がある。しかしわが国では、大型原子炉の敷地として現在確定しているのは東海村以外にないし敷地基準というものも確定していない現状なので典型的な原子炉敷地を想定することは極めて困難である。

 そこで東海村および若干の大型原子炉候補地の周辺状況を検討した結果、ここでは電力需要の中心地である大都市からおよそ 100Km ないし 150km 離れ、かつ海岸に面した任意の 2、3 の地点を選び、これらにもとづいて類型的な原子炉敷地と周辺の状況を想定することにした。

 電力需要中心地からの距離は送電費にも関連し当然近い程有利であるが、「安全性の考慮によつて、在来発電所敷地として最適であると思われる地点から、30マイル離れた場所に設置するものと想定する」というアメリカ等での考え方 (1) からみても、上記の数字は、人口密度の高いわが国の場合、―応妥当なものと思われる。

 また海岸附近に設置するとしたのは、常時多量の冷却用水を河川のみから得ることは、わが国河川の実態からみてかなりの困難さがあると考えられるからである。

 さらに、わが国の一般的地理特性をも考応する必要があつた。周知のように、わが国は北東から南西にかけて弧状に長くのびた島国であるが、そ の 200Km ないし 300Km の狭少な幅をもつ陸地の中央部には、背稜山脈が走つており、沿岸および河川にそつて僅かに平野部が存在するのみである。

 人口は概ねこの平野部に集つているが、そのうち比較的広い沖積平野をなし、かつ湾に面した京浜、阪神、中京地区にはとくに人口が密集し全国人口の約 1/3 がこの地域において所謂日本の 3 大エ業地帯を形成している。たとえば、全国の平均人口密度が 241 人/Km2であるのに対して、東京都区部の人口密度は 12,236.8人 /Km2、大阪市は12.591.2人/Km2、名古屋市は 5,345.6人/Km2で、その中には 3 万人を越す高い人口密度を示す地域すらある。

 本調査に使用した資料 (2) は、昭和 30 年の国勢調査にもとづいたものであるが、人口の増加、とくに都市部における高い増加率を指摘しておかなければならない。すなわち昭和 25 年〜昭和 30 年の全国平均増加率は、7.3% であつたのに対して、東京都区部 29.4%、大阪市 26,4%、名古屋市 23.4%であつた。

 なお、わが国は四面海に接しているが、図 1 から明かなように、僅か 1,000Km ないし 1,500Km にして、ソ連、中国、朝鮮など諸外国の領土に達することを、損害評価の上からあらかじめ十分留意しておく必要があると思われる.

 以上の仮定およびわが国の特性から、損害評価に必要な原子炉設置点およびその周辺の状況を類型化して、図2 に示すようなものに想定した。

 すなわち、全般的な地形の外観として、海岸線に平行に走る山地を考え、500km およぴ 1,000m の等高線が原子炉の設置される海岸からそれそれ 80Km および 100Km の地点にあるものとした。

 原子炉の敷地境界は、アメリカの 2、3 の例をも参考とし、その半径を 800m と仮定した (シツピングポート、2,600フィート、ヤンキー、2,000フイート、ドレスデン 2,600フィート)。

 つぎに、原子炉周辺の人口分布については、原子炉から50Km に至る地域の実際の人口について調べた結果、原子炉から半径 20Km 以内の地域における人口は、図 3 に示されているように、

 P = 393R2.19( P は半径 RKm の半円内の人口)

 の式に従つて増加すると考えるのが、適当であることがわかつた。20Km 以遠の地域については、図 3 でも明かなように増加の傾向を異にしており別に考慮することにした。

 図 4 は我々が取上げた地点のうち 2、3 のものについて、その周辺地域における都市の分布状況を示すものであるが、これは各地点におけるものを原子炉を中心とした同一円内に、大郡市に向う方向を 一致させてプロットしたもので、これによつて概略その特徴を知ることができた。すなわち、原子炉から 100Km ないし 140Km に大都市が集中しており、しかも大都市の周辺 30Km ないし 40Km にかなり人口の密集が見られること、また原子炉から 15Km、ないし 20Km に、中小都市の散存していることが示されれた。

 そこで都市人口の実態をも調べたのもち、これを類型的に、次のようなものに想定した。すなわち、大都市は原子炉から 120Km の地点にあり、その払がりは直径 25Km の円で、人口密度は 12,200人/Km2 である (全人口 約 600 万人)。さらにその周りに人口密度 2,200人/Km2、20Km の幅をもつ都市周辺地帯がある。また、原子炉の比較的近傍にある中小都市は。原子炉から 20Km の距離にあり、人口 10 万人、その拡がりは直径 10Km の円である (人口密度 1,270 人/Km2)。その他の地域についても全国の平均人口および海岸地帯の特性を考慮して、300人/Km2 の人口密度で一様に拡がつているものとする。

 事故時における放射性煙霧の拡散状況とそれによる損害評価の性格からして、最も重要であるのは煙霧の通過する地帯の人口密度と拡がりとであり、また事故の程度、原子炉からの距離の相関関係によつて、全人口もまた重要な因子となつてくるのであろう。

 こうした重要度の考察から、平均的というよりもむしろ類型的に上記の数字をあげたのであるが、これによつて損害の過少評価をさけうるであろうし、また不当に過大なものともならないであろう。

 なお、原子炉を海岸に設置するものと想定した当然の結果として、沿岸漁業に対する考慮も必要となる。全国の海岸延長が 26,819.1Km であるのに対して、第 1 種ないし第 4 種の漁港総数は 2,627 港で、海岸線約 10Km に 1 漁港の分布割合となる。

 (第 1 種 2,199、第 2 種 294、第 3 種 78、第 4 種 56。計 2,627 ― 昭和 32 年(3))

 以上のように、原子炉設置点およびその周辺の状況を想定したが、もちろんこの通りの敷き地が現実に存在するかどうかは別問題であり、またこ れが敷地基準となるべきものでもないことはいうまでもない。そうかといつて、これは全く非現実的な想定でもない。原子炉が大都市からおよそ 100Km ないし 150Km の海岸附近に設置されるとすれば、おそらくかかる想定を現実なりなものとして考えざるをえなくなるであろう。

 参考文献

(1) Reactor Safety and Containment -- Power Reactor Technology,vol.2, No.3 June 1959
(2) 総理府統計局 昭和 30 年国勢調査報告及び同附図
(3) 総理府統計局 第 9 回日本統計年鑑、昭和 33 年

 II 敷地と気候

 上に典型的敷き地としてとり上げた敷き地における気象条件については、WASH のデータをそのまま使うことがゆるされないのはいうまでもない。我々は典型的敷地を作成したときとりあげた東海村ほか数地点のうち現実に観測データが存在 するものについてできるだけ正確な資料をうることを検討したが、我々が必要とするデータがすべてそろつている地点はほとんどないので、時間的資金的な制約 を考慮して、東海村附近と島根県米子附近の 2 ヵ所について気象庁観測部の協方を得て調査を行なつた。なお米子附近をとりあげたということは、米子附近に大型炉の候補地が存在するという意味ではなく、 いくつかの候補地と目されている地点と気象状況が比較的似ていると判断されかつデータが或る程度整備しているという理由にもとづくものである。結果的にみ て表日本、裏日本の代表的と思われる 2 地点を調査対象にとりあげたので、現在のような敷地選定の考え方によつて敷地が選ばれるかぎり、ここに得られた気象データはかなりの普遍性をもつているも のと思われる。それそれの結果は次の諸表の通りである。このデータを平均化したものを典型的敷地における気象条件とみなして、拡散方程式などに入れる常数 はそれによつた。
東海村付近
温 度 安 定 性
てい減 69% 逆転 31%
温度てい減率(°C/100m) -1.2 1.1
平 均 気 温 (°C) 15.6 7.9
降 雨 時 間 (%) 17 0※
地表平均風速(m/sec) 3.7 2.3
400―800m    
平 均 風 速 (m/sec) 7.1 6.8
※ 1% にみたない
年間総降雨量 1,428mm(平年 1,383mm)
最ももくあると思われる降雨量率0.7mm/hour
時間の 10% だけこえた降雨量率2.4mm/hour
表 2
風 向 地 表 風 上層風
(400〜800m)
てい減 逆転
N 10.7 7.0 2.4
NNE 5.1 1.1 5.4
NE 7.2 0.7 9.7
ENE 7.7 0.5 10.4
E 5.3 0.3 7.0
ESE 2.4 0.1 6.6
SE 1.7 0.1 4.9
SSE 1.3 0.3 4.0
S 2.3 0.6 5.4
SSW 3.4 1.0 10.1
SW 4.1 1.2 8.7
WSW 1.0 1.1 4.7
W 3.1 1.8 5.5
WNW 0.8 0.6 6.9
NW 1.9 3.0 5.7
NNW 7.5 8.1 2.7
Calm 3.9 3.9 0.0
  69.4 31.4 100.1
表 3 山陰地方 (米子付近)
温度安定性
てい減 76% 逆転 24%
温度てい減率 (°C/100m) -1.2 1.1
平均気温 (°C) 16.0 12.5
降雨時間 (%) 23 0※
地表平均風速 (m/sec) 4.0 2.0
400 〜 800m
平均風速
7.0 5.4
※1% にみたない
年間総降水量 2,130(平年 1,811mm)
最もよくあると思われる降雨量率0.7mm/hour
時間の 10% だけこえた降雨量率2.2mm/hour
表 4
風 向 地 表 風 上層風
(400〜800m)
てい減 逆転
N 2.2 0.1 2.8
NNE 8.4 0.1 3.9
NE 11.0 0.7 7.3
ENE 2.9 0.9 8.5
E 1.6 0.7 3.9
ESE 1.0 1.1 2.1
SE 3.6 4.1 3.1
SSE 7.7 7.6 5.3
S 5.6 2.6 6.1
SSW 4.1 0.9 7.5
SW 4.3 0.5 10.6
WSW 5.0 0.5 13.5
W 6.1 0.4 11.7
WNW 4.5 0.2 6.4
NW 2.3 0.1 3.9
NNW 1.6 0.0 3.5
Calm 4.6 3.3 0.0
  76.0 24.0 100.0

 1. 調査方法

 (1) 資料

東海村付近
(イ) 1958年1月〜12月の1ヵ年にわたる下記の観測値を用いて統計してある。
(ロ) 気温、降水量、地表風向、風速は水戸地方気象台におげる毎日の0、3、6、9、12、15、18、21時の1日8回観測値による。天気、雲量、雲形は3、9、15、21の1日4回観測値による。
(ハ) 上層風の風向、風速は館野高層気象台における 0、6、12、18 時の 1 日 4 回観測値による。
山陰(米子)地方
(イ) 1959年1月〜12月の1ヵ年における下記の観測値を用いて統計してある。
(ロ) 気温、降水量、地表風向、風速、天気、雲量、雲形は米子地方気象台における毎日の 0、3、6、9、12、15、18、21 時の 1 日 8 回観測値による。
(ハ) 上層風の風向、風速は米子地方気象台における 0、6、12、18 時の 1 日 4 回観測値による。

 (2) 逆転、てい減の区分

 1 日 2 回の高層観測では各時刻に対し定められないので、これらを参照の上他の気象観測資料(雲、天気現象)から求めた。雲、天気と逆転、てい減との関係は埼玉県 川口市の鉄塔による減率観測結果ならぴに英国気象局の安定度、分類方法を参照して次の規準により分類した。
(イ) 昼間はてい減状態
(ロ) 夜間は雲量、雲形と天気により区別する。快晴、晴、薄曇は逆転、高曇、本曇は大体てい減、雨の場合はてい減とし、その他風じん、雷雨、前 1 時間内の降水の場合はてい減、霧の場合は逆転と定めた。

 (3)

 1 日 2 回 (0、12時)の全国の高層観測結果から地上と 200m の高さの温度差を°C/100m にしてそれぞれてい減、逆転の平均減率を求めてみたが全国ともほとんど同じ値であつたので全国平均を用いた。

 (4) 降 水 量

(イ) 年間総降水量は年によりかなり変動がみられるので参考のため累年平均値 (1940〜1952 年) を括弧を付して表に示しておいた。
(ロ) 最もよくあると思われる降雨量率は降水があつた場合 50% の確率をもつ量であらわしてある。
(ハ) 時間の 10% だけこえた降雨量率は 90% 迄はこの価以下の量で発生しこの価以上が発生するのは10%であるという量でもつて示してある。

 2 調査結果の評価

 (1) てい減、逆転の発生時間率について

 WASH にある米国の発生時間率は 1 日 2 回の特定時刻の観測値のみを用いて統計したものと思われ、ややかたよつた値となるが、今回の調査では 1 日 8 回の資料を用いて求めてあるので一層ならされた平均値と考える事ができる。

 なお、埼玉県川口市の鉄塔高さ 300m において約 1 年間 (1943 〜 1944年)にわたり毎時間の温度観測が行われているので、この資料によりしらべた結果はてい滅 64% 逆転 36% で今回の調査(東海村)とほとんど同じ値が得られている。

 (2)降雨時間について

 降水状態で逆転が存在することは気象学的にも非常にわずかの回数と予想されるが、今回の調査でも全時間の 1% 以下であつた。さきに示した。川口市の鉄塔の観測によると、逆転 106 日のうちわずか 3 回だけが降水中に発生する逆転として観測され、全時間に対しては 1% 以下となつた。WASH にある全時間の 3% が逆転で降水をともなうという米国の結果とは若干異る結果となつた。

 (3) 地域による違いについて

 気候学的に見ると東海村は表日本的、米子地方は裏日本的な気候特徴をもつているその影響が最もよく現われているのは逆転、てい減の比率であつて、米 子地方でけ冬季、曇、雨天が多いので逆転の比率が小さい。それに関連して米子地方は降雨時間が長い。また逆転時の気温冷却ほ表日本の方が非常に大きいのも 著しい特徴である。上層風の風向頻度は両地方とも大勢的にはよく似ているが地上風向は海岸線、地形などの影響が大きくきいてくるので、食違いが大きく局地 性が著しくあらわれている。


図 4 想定原子炉設置点周辺における都市分布状況


 附録(C) 煙霧の拡散、沈下

 は し が き

 原子炉の事故にともなつて放射性物質は原子炉の風下地域の空間および地表に分布する。そしてその濃度分布の様子は、原子炉附近では、事故の様相、す なわち、放射性物質の種類、温度、放出継続時間、放出速度や気象状態によつて左右される。原子炉から遠くはなれたところでは、主として気象因子が放射性物 質の濃度分布に影響を及ぼす。本附録では分布の見積りめための方程式、および、放出物の初期条件、気象因子が拡散に及ぼす影響を記述する。

 I 放出物の初期条件

 放出物は、放射性物質の気体および微粒子からなる煙霧として風下地域に運ばれるのであるから、放出温度と放出の行なわれる時間とは拡散における重要 な因子である。これらは、いずれも原子炉の事故の様相に依存している。拡散のはじまる放出源の高さは、その後の地表面での濃度に大きく影響する。しかし放 出温度と高さとの関係は現在のところ精密には知られていない。本調査では WASH にしたがい高温放出の場合には、逓減時には 860m、送転時には 400m に上昇するものとした。これは放出物が 1,650°C の場合に対応している。

 II 拡散方程式について

 大気拡散の実検は規模が大きくなり、測定方法および装置も簡単でなく人員、経費も大きくなるのであまり行われていない。従つて、実験研究の報告は後 に引用される二三のもの以外はほとんどないといつてよい。しかもそれらは比較的近距雑の実験のみである。したがつて、大気中の拡散の研究の大部分は理論的 研究である。その上、これら理論的研究も、濃度の空間分布を明確に示す式を与える報告は少なく、その分布の標準偏差が時間あるいは風下距離と共にどのよう に変るか、気層の安定度との関係はどうかという研究が多い。(1)これに対し実際上必要な空間渡度分布に計算出来る具体的の式もいくつか出されている。 (2)(3)(4)(5) それらは、たとえば WASH も指摘するように、厳密な理論的根拠に立つものではないが、拡散のパラメーターに適当な値をとるならば、たいていの式は、許される範囲内の精度で使用する ことができるものとみられている。なかでも Sutton によつて与えられた式は、実際の計算上適当と考えられ、アメリカにおける災害評価要約報告 (Hazard Summary Report)(6)、イギリス気象局の方法(7)など現在行われている事故解析の大部分はこの式にもとづいて直接的、間接的に計算を実施している。

 Sutton の式 持続点状源に対する Sutton の式は、風下の点(x、y、z)での空間濃度を χ とすれば、(図略)で与えられる。こゝで h は源の地上高、x、y、z はそれぞれ濃度測定地点の源からの風下距離、主線から横方向の距離および地上高である、q は単位時間の放出量、u は平均風速、n、Cy、Cz は気象状態により定まる常数である。

 源の種々の状態に対する一連の濃度計算式が得られているが、この式の形、とくに垂直濃度分布を実測値と厳密に比較してその妥当性をデータの提示によ つて吟味した論文はなく、またn、Cy、Cz の値と気象条件との関係も明確に定められてはいない。多くの論文たとえば後記の Chamberlain (13) の論文も Sutton によつて与えられた値の種々な不一致を指摘している。

 しかしこれら主な困難は理論それ自身から生じてくるより、むしろ大気の状態変化の多様さから来るものとみられる。

 坂上の式 坂上(7) は Sutton による垂直濃度分布の式が実測と合わない点を改良するため、新しい微分方程式を解き別の形の式を得た。すなわち(1)および(2)に対して(図略)が、それである。ここで J0 は零次の第 1 種 Bessel 函数であり、i は虚数単位またβ、γ、m、m1 は気象のパラメーターである。

 両者の式のとくに大きい相異は(1)および(3)に判るように、鉛直方向の拡散を示す項の中に(1)では Z2 として、(3) では Z として入つているし、又分母に入る量 B が (1) では√Bであり (3) では B である。したがつて垂直分布の差の他に風下距離による濃度の稀釈率に大いに差があり、その差は遠距離の拡散には著るしく影響する。坂上の式と Sutton の式の比較は、最近公表された精密な濃度の空間分布の測定の報告 (8)(9)(2) にもとずいて、坂上自身によつてなされている。(10)(11) ここではその結果について詳しく述べることはできないが、近距離については水平濃度分布およぴ垂直濃度分布について、 Sutton の式より坂上の式がよりよい―致を見せたと発表されている。

 英国気象局の方法 この方法は 1959 年英国気象局が発表したもので (7) いわゆる「英国法」とよばれているものである。これは Sutton の式を基礎にし地上濃度を、(図略)で与える。γは源からの距離、θはその距離で最大濃度の 1/10 の濃度になる両端の位置の角距離、H は雲の高さであつて、θおよび H は気象状態すなわち、風速、日射、雲量によつて定まる A〜F の 6 つのカテゴリーについてそれぞれ図および表によつて与えられている。この方法の計算は比較的簡単で大体の見積もりには一応利用出来るが実測との比較資料が 提示されていない。昭和 34 年 2 月および 6 月に原子力気象調査会が行つた水戸および東海村における 4 回の中立状態の方の拡散実験の結果だけが現在入手できる実測との比較の報告でそれによれば、10土1 の範囲内で合うとの結論が出されている。(12) なお、主線上濃度について上記三者を比較して結果を図 1 および図 2 に示す。

 本調査で、人的損害および物的損害の試算にもちいた拡散の方程式は Sutton の式である垂直方向に分布に関して、近距離での実験値とm、Cy、Cz、の気象パラメーターの気象学的根拠についていろいろ問題点が指摘されている。その Sutton の式を選んだのは主につぎの理由によつている。まず英国気象局の方法は計算も簡単で、風下地城における放出物分布のだいたいの様子を知るためには便利であ るが、数式的にあらわされておらず、本調査で利用するためには不便なので採用しなかつた。また東海村での実験、その他近距離の実験の比較でよい結果を得た といわれる坂上の式と Sutton の式を比較したところすでに指摘したように遠距離で大きな差が見られた。図 4 に地表面での濃度分布を比較したものを示す。この図の計算に用いられた気象パラメーターは Sutton の式については WASH において使用された典型的逓減および典型的逆転に対する値を用い坂上の式については、気層の安定度を示すζのうち逓減および逆転に対応するものとして 0 およぴ 0.3 が選ばれ計算につかわれている。この比校から、われわれは、 Sutton の式をもちい、WASH でつかわれているバラメーターによれば本調査で要求されているような災害の上限と下限を示すことができるものと判断した。すなわち、この上限は過少評価に なつていないという点で、また下限は過大評価になつていないという点で、十分意味をもつものであると図 4 および考えたのである。

 なお、図 5 には Sutton の式におけるパラメーターを、たとえば、最近問題になつた Farmer 論文(14) あるいは Chamberlain ら(15)が使用している値をつかつた場合その濃度分布がどう変るか影響をうける面積がどう変るかを示してある。

表1 本調査で使用した拡散のパラメーター
煙霧の拡散が
始まる高度(m)
n Cy Cz 風速u(m/sec)
逓 減 0 0.25 0.40 0.40 4
860 0.25 0.40 0.40 7
逆 転 0 0.55 0.40 0.05 2
040 0.55 0.40 0.05 6

 拡散の結果は図 6 から図 10 に要約されている。(たゞし図 9図 10 は 107キュ リーの放出について人的被害の様子を例示したものである。)これらによれば逆転状態と逓減状態とではいちじるしい差が見られる。すなわち、逆転時には濃度 のかなり濃い煙霧が相当遠距離まで運ばれる可能性があるということである。もちろんある気象状態が数時間にわたつて継続すると考えることは現実的でない。 しかし、それでも煙霧がかなりの距離に達すると考えられようし、また風向などの変化は、平均的には濃度は薄くなるであろうが、影響をうける面積はずつと拡 がるであろう。格納構造物が破壊される程の急速な放出として仮定された高温放出の場合には煙霧は最初上昇し、それから拡散して地表にもどつてくる。この高 温放出の場合には大気により稀釈される効果が大きいので地表面での放出より当然地表最大濃度は小さくなり、また、原子炉からはなれたあの地点で最大にな る。

 III 沈着と雨による降下

 原子炉から放散された放射性物質が微粒子あるいは気体として拡散する場合地表面に沈着したり、また雨によつて沈着したりすることが当然予想されよ う。この間題は、原子炉事故の発生または原子炉の煙突等からの気体放射性物質廃棄にともなつて、風下地域の農作物、牧草、公衆の居住に大きな影響を及ぼす 重要なものであることは明らかである。

 図6図7図 8 はこれらの効果を考慮した場合の風下地表面の濃度をあらわしている。

 本調査では沈者および降雨の効果の問題についての取扱は WASH と同様 Chamberlain による研究の結果を使つた。ただし微粒子の沈降速度としては質量中央値直径が 1 μの粒子グループに対しては 10-4m/sec 7μ の粒子には 10-2m/sec という値をもちいてある。

 Chamberlain によれば、晴天では、微粒子は、このうちの低い部分だげから起ると仮定され、また地上に沈着した粒子の量だけ放出源の強さが直ちに減少したと同じ影響を受 けるものと、仮定する。すなわち Sutton の式をもちいた場合沈着量 は Vg を沈降速度とすれば(図略)。また、地上濃度は、(図略)。

 雨によつておこる放出物の降下のために空中に存在する量の減少は、であらわされ、したがつて浮遊物の濃度は拡散の式にこの因子をかければよいことになる。この場合のΛの値は Chamberlain によつて与えられてものを使う。(表 2 は、われわれの計算に使用した値を示す)

 一方雨による地表に運ばれた量ωは、(図略)で表わされる。雨によらない沈着量および降雨による沈着量は図 12 以下に示されている。

表 2
粒子 毎秒除去される煙霧の割合
降雨(0.7mm/hr) 降雨(2.4mm/hr)
大(7μ) 2.3×10-4 6.2×10-4
小(1μ) 1.0×10-5 2.0×10-5

 沈着による効果が地上濃度に及ぼすのは質量中央値 7μ相当の粒子で、しかも逆転時の場 合に大きい。また降雨の影響は逓減時に粒子の大きい場合にきいてくる。なお、降雨の効 果は(6)式からわかるように高温放出でも放出源の高さの影響はあらわれてこない。

 参考文献

  1. 井上、小倉ほか
  2. Roberts, O.F.T., The Theoretical Scattering of Smoke in a Turbulent Atmosphere, Proc. Roy. Soc. (London) A 104 640-654, 1923
  3. Bosanquet, C.H and Pearson, J.L., The Spread of Smoke and Gases from Chimneys, Trans, Faraday Soc., 32, 1249-1264 1936
  4. Sutton, O.G, A Theory of Eddy Diffusion in the Atomosphere, Proc. Roy. Soc., A 135 143-164, 1932
  5. 坂上治郎 地面付近の濶動拡散、気象集誌II 19 1-7 Sakagami, J., On the Turbylent Diffusion in the Atomosphere Near the Ground, Natural Science Rep. Ochanomizu Umiv. 5, 79-91, 1954
    Sakagami, J., On the Atmospheric Diffusion of Gas and Aerosol Near the Ground, Natural Science Rep. Ochanomizu Univ., 7, 25-61, 1956
  6. たとえば日本原子力産集会議原子動力研究会編”原子力発電所の対策”(1959年12月)
  7. Meade. P.L., The Effects of Meteorological Factors on the Dispersion of Airborne Material, 1959 6 Rome International Symposium on Safty and Siting of Nuclear Plants
  8. Stewart, N.G., Gale, H.J. and Crooks, R.N., The Atmospheric Diffusion of Gases Discharged form the Chimney of the Harwell Pile (BEPO), A.E.R.E. Harwell/JYH, 1954 HD 1332
  9. Barad, M.L., Project Prairie Grass, A Field Program in Diffusion Vol. I, II, III, Geophysical Ressearch Papers No.59, G.R.D., ARCRC-TR-58-235
  10. 坂上治郎 ”水戸における小規模拡散実験結果の整理について” 昭和 34 年 5 月 原子力気象調査会
    坂上治郎 ”昭和 34 年 6 月拡散実験の解析” 昭和 34 年 9 月 原子力気象調査会
  11. Sakagami, J., On the Analysis of the Results of Project Prairie Grass, Natural Science Rep. Ochanomizu Univ. 11 1960
  12. 原子力気象調査会 ”東海村原子力気象調査 ― 東海村の煙突から出る廃棄物の拡散に関する調査”昭和 34 年 12 月
  13. Chamberlain, A.C., Aspects of travel and Deposition of Aerosol and Vapour Clouds, AERE HP/R, 1261, 1955
  14. F.R.Farmer, P.T. Flecher, ローマ会議、1959 年 6 月
  15. Chamberlain & Megaw. Sape Distance in Reactor Siting, AERE. HP/M 109

 図





(私論.私見)