米国で起きたカレン・シルクウッド事件を例にとって対策を考えてみたい。
「カレン・シルクウッド」 (Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%
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カレンは、原子力関連企業カー・マギー社の核燃料製造プラントで、化学技術者として核燃料の製造に従事していたが、社内で多くの不正行為が行われていることに気づいた。それをアメリカ原子力委員会(AEC)に証言したが、その後、彼女の体や自宅が不自然かつ深刻なプルトニウム汚染を受けていることが発覚。会社はそれを理由に、彼女の家を除染、私物もすべて没収する。彼女は事実を公けにするため証拠書類を持ってニューヨーク・タイムズの記者に会いに行く途中で、自動車事故で死亡。助手席にあったはずの書類は行方不明となる。おそらく、新聞への公表を阻止するために殺されたのだろうと言われている。この事件はメリル・ストリープの主演で映画化もされた。かなり事実に忠実な興味深い内容なので、機会があったらぜひ観ていただきたい。
「映画 シルクウッド(マイク・ニコルズ監督 1983年)」 (Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%A6%E3%83%
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この事件から、政府や企業の不正の告発について学ぶことは多い。以下、いくつか挙げてみよう。
(1) 巨悪を敵にする覚悟はあるか?
原子力は国家犯罪であり、企業のみならず、政府、警察、マスコミ、そしてヤクザまでが全部グルである。彼らに不都合な真実を告発すれば、当然、自分の身が危険に晒される。殺される可能性も高い。誰も守ってくれない。政府、大企業を敵に回して、命をかけて戦う覚悟があるか、よく自分自身に問うことだ。平和で安全・安泰な人生を歩みたいのなら、告発はやめることだ。従順な羊のまま人生を終えること。自らを犠牲にしても不正を正したいと強い意志がある人にのみ告発の資格はある。
(2) 失職、収入減、家族との別居や離婚の覚悟はあるか?
内部告発しても会社にいられると思ったら大間違いだ。会社どころか業界全体からも完全に追い出されると思ったほうがよい。A・ガンダーセン氏は、優秀な原発技術者だったが、会社の不正を原子力規制委員会(NRC)に告発したところ、業界から追放されてしまった。彼の雇用主はNRC監督官を買収し、彼はスラップ訴訟にも巻き込まれた。反原発でもなかったのにこの仕打ちである。原子力業界の凶悪さ、陰湿さがよくわかる例である。不正を告発する前に、その会社はさっさと辞めるべきだ。辞めないとパワハラどころか、殺されるかもしれない。内部告発によって会社がまともになるだろうとは決して考えてはならない。腐った果実は決して元に戻らない。労働組合もグルだ。会社側に通じていると思ったほうがよい。
会社にいながら不正を告発したカレンは、あまりにもナイーブだった。不正を世間に公表すれば、政府が何とかしてくれる、会社も改心すると思っていたのだ。政府も原子力業界も完全に癒着していることを知らなかった。彼女が思うよりもはるかに敵は巨大かつ凶悪だったのだ。原子力業界だけではない。今やマスコミも原子力業界の広報部と化している。木下黄太氏や堀潤氏のように、真実の追及のためには職を捨てる覚悟が必要だ。元原発技術者で現在は反原発活動をしている菊池洋一氏は、家族に危害が加えられる可能性があるので別居しているとのこと。家族を守るため、別居や場合によっては離婚もやむなしである。もちろん失職による収入減は避けられない。そういった犠牲を払う覚悟が、あなたにはあるだろうか?
(3) 信頼できる弁護士に相談する
とくに内部告発では、会社の内部情報をむやみに公表すれば、逆に訴えられる可能性がある。嫌がらせのスラップ訴訟を起こされる可能性もある。信頼できる弁護士、できれば内部告発に詳しい専門家に相談することが大切だ。相談料は1回につき1-2万円程度だ。こういう出費をケチってはいけない。素人判断で勝手に行動し、のちのち厄介なトラブルに巻き込まれることを考えたら安いものである。
(4) 不正の調査は極秘に行ない、調査が終わるまで一切公表しないこと
社員のあなたが内部の不正を調べていると会社が知ったら、当然妨害に出る。だからできるだけ目立たないよう模範社員でいながら、極秘に調査を進めるべきだろう。この点もカレンは問題だった。会社の不正行為の問題は別としても、彼女は組合活動に熱心で会社は問題視していた。目立ち過ぎていたのだ。調査をすべて終えるまでは、一切公表してはならないのも鉄則である。これは何も内部告発だけではない。たとえば、怪しい業者が廃棄物を近所にこっそり投棄しているのをあなたが見つけたとしよう。線量計が明らかに反応する。放射性廃棄物の不法投棄である。あなたは廃棄物や線量計の測定値、輸送トラックのナンバーなどの証拠写真を撮ったり、トラックを尾行して業者を突き止めようとするだろう。これを「次回ツイートに乞うご期待」などと、小出しにツイッターなどで報告するのは極めて危険だ。相手はあなたを殺してでも口封じをしようとする可能性が高い。とくに産業廃棄物には暴力団がかかわっていることが多いので大変危険である。情報は小出しにせず、すべて極秘で調査を済ませてから一気に公表すべきである。カレンはこの点でもまずかった。無視されるのがわかっているのに原子力委員会(AEC)で証言したから、いっそう危険分子として監視されるようになってしまった。
(5) 信用できる少数の仲間と活動する、情報を共有する
単独ではなく、信頼できる仲間数人と活動するのがベストだろう。一人ならともかく、何人も自殺や事故にみせかけて殺すのは困難だ。また複数で情報を共有しておけば、万一、自分の身に何かがあった場合でも、その情報を公表してもらえる。仲間は秘密が漏れないよう少数に限り、スパイがはいりこまないよう注意しよう。次項で述べるが、仲間とのやりとりにも細心の注意が必要だ。残念ながら、カレンは情報を共有できる仲間がいなかったようだ。社内でも孤立していた。得た情報を仲間と共有しておけば、たとえ殺されて証拠書類を奪われても、カー・マギー社の不正が闇に葬られることはなかったはずだ。やはり持つべきものは友である。
(6) 盗聴・盗撮に気をつける
固定・携帯電話、ネット上の通信はすべて傍受されていると思うこと。盗聴・盗撮の可能性あり。相手は国家なのだから何でもできる。郵便も勝手に開封される可能性がある。信書の自由などないも同然である。差出人に知人の住所氏名を借りるか、直接手渡ししたほうがいいかも知れない。重要な情報は裸でPCや携帯に保存せず、少なくともパスワード設定をすべきだろう。誰がのぞくかわからない。携帯を紛失したり盗まれたりする可能性もある。使用しているPCや携帯はウイルス感染していないか注意すること。カレンの家の電話も盗聴されていたし、尾行もされていた。FBIはカレンを原発に反対する危険人物として1000ページにもおよぶ報告書を作成していた。一挙一投足を監視していたのだ。彼女の行動を完全に把握していたからこそ、事故に見せかけて殺すことができたのだ。そして、事故を調査し事件性なしと結論したのもFBIなのだ。
(7) 防犯対策は厳重に
玄関だけでなく就寝前は各部屋のドアにも施錠する、鍵を二重にする、防犯カメラを設置するなど、防犯対策は万全にしたい。オウム真理教に殺害された坂本堤弁護士一家は、犯行の夜、何と玄関に施錠しないで寝ていたため、犯人たちは簡単に侵入することができたという。施錠していたらそう簡単には殺されなかったろう。鍵一つが運命を左右したのだ。また危害を加えないまでも、工作員が留守の間に忍び込んで、資料などを調べたり、毒物を仕込んだり、不法所持で逮捕できるよう大麻や違法薬物をこっそり置く可能性もある。カレンの自宅は不自然にプルトニウムで汚染されていたことから、何者かが忍び込んで工作したことは確実だ。おかしな人間がうろうろしていないか、尾行されていないか、身辺にも注意すべきだ。石井紘基議員の殺人犯は数日前から彼の自宅のまわりをうろついていたそうだ。高木仁三郎氏は、生前、何度も車で轢き殺されそうになったという。
決まった行動パターンは避けること。毎日、同じ時刻に同じ道を歩き、同じ電車に乗り、という行動をとれば、当然狙われやすくなる。単独行動にも気をつけること。とくに調査活動中や夜間は要注意。二人以上で行動すれば、危害を加えたり拉致することは難しい。ここでも共に行動する仲間がいれば助かるということだ。車もブレーキなどに細工をされる可能性があるので注意しよう。
(8) 放射性物質・毒物に注意する
相手は原子力業界だから、どんな危険な放射性物質でも手にはいる。あなたの知らない間に、飲食物やタバコに混ぜるかも知れない。福島原発事故で、深刻な放射能汚染が拡がっている。放射性物質を盛られて体調不良になり、あるいは死んでも、それを怪しむ人はいない。完全犯罪である。知らない人にすすめられても安易に食べない、飲まない、吸わないことだ。とくに、原子力業界が主催するイベントでは注意すること。ホットスポットがあちこちにある現在、自宅が故意に汚染されても、それを立証することは困難だ。汚染を理由にあなたの身柄を拘束・隔離したり、持ち物を没収廃棄することも正当化できる。カレンも知らない間にプルトニウムを盛られ、自宅も汚染された。遺体は解剖されるとプルトニウムを盛られていたことが発覚するので、汚染を理由に遺族に返さず、ロスアラモス研究所で「特殊処理」した。彼女は車の事故で死ななくても、長生きはできなかったかもしれない。
(9) 万一に備えて、逃亡・潜伏の準備をしておく
いくら注意を払っていても、身の危険を感じたら逃げなければならない。万一に備えて、ほとぼりがさめるまで、どこに逃げるか、潜伏するか考えておいたほうがよい。これも、仲間がいればとても助かることは言うまでもない。悪いことはしていないのに、なぜコソコソ逃げなければいけないのか、堂々としていればよいではないかと思う人は、そもそも告発者には向いていない。何でもできる巨大かつ凶悪な国家が相手だということを理解していない。そんな認識では、いくつ命があっても足りないだろう。
(10) 自殺は決してしないと宣言する
自殺に見せかけて殺されないよう、自分は絶対に自殺しない、不審死は他殺であるから捜査するよう書き残しておくか、ツイッターやブログで公言する。証拠を残しておくことだ。これで暗殺手段が確実に一つ減り、彼らは、事故死に見せかけるなど、より手のかかる方法を選ばなければならなくなる。新潟県の泉田知事が自殺しないと公言したことはご存知のとおり。岩路ディレクターも、はっきり自殺しないと公言していれば殺されなかったかも知れない。ついでだから私も宣言しておこう。「私、魑魅魍魎男は絶対に自殺しないことをここに宣誓します。不審な死に方をしたら、他殺だと思ってください」。
(11) 信用失墜、冤罪工作にも注意
根も葉もない悪いウワサを故意に流したり、冤罪に陥れたりして、告発者の信用や評判を失墜させるのも、彼らの常套手段だ。阿修羅でも、反原発活動をしている人を中核派だ、過激派だ、犯罪者だと貶める投稿を工作員がしていることはご存知のとおり。植草一秀教授の痴漢事件、高橋洋一教授の窃盗事件などは冤罪の可能性が高い。ちなみに上杉隆氏は痴漢の冤罪を避けるため、電車には乗らないそうだ。カレンも、麻薬常習者だ、同性愛だ、プルトニウムを闇市場に流しているなど、評判を落すデマが盛んに流された。彼らは対象者の私生活を徹底的に調べ上げ、不倫、借金漬け、脱税(申告漏れ)、アル中などの問題があれば、必ずその弱点を突いてくる。また泥酔すれば、すかさずそれを利用して痴漢行為などの濡れ衣を着せる。とにかくスキを見せてはいけない。私生活に問題を抱えているようでは、国家を相手に戦えないと思ったほうがよいだろう。
以上、カレンの事件を例に考えれれる対策を述べたが、「不都合な真実」を調べて公表する場合は、くれぐれも気をつけてほしい。
福島原発事故後、以前にくらべれば原子力業界は弱体化しつつあるが、まだまだ巨大かつ凶悪だ。どう猛なトラが風邪で寝ている程度だと思ったほうがよい。うかつに近寄ればガブリとやられる。油断は禁物である。繰り返すが、安全・安泰な人生を歩みたいのなら告発はおやめなさい。おとなしい羊のまま、平和に人生を終えることだ。自らを危険に晒しても不正を正したいという強い意志と決意がある人のみに、告発する資格はあるのだ。
(関連情報)
「高木仁三郎『プルトニウムの恐怖』(岩波新書) 」 (フォーラム自由幻想 2012/12/12)
http://jiyuu-gennsou.at.webry.info/201212/article_4.html
「東電はおっかない会社 ヤクザが幼稚園児に見えるくらい怖い (福島 フクシマ FUKUSHIMA)」
(拙稿 2014/11/19)
http://www.asyura2.com/14/genpatu41/msg/256.html
「自殺の岩路真樹ディレクター 『私が死んだら殺されたと思ってください』」 (柳澤史樹氏 facebook)
(拙稿 2014/9/5)
http://www.asyura2.com/14/genpatu40/msg/207.html
「ナゾの死を遂げたもんじゅ調査担当者 死の直前の言葉〈週刊朝日〉」 (阿修羅・赤かぶ 2013/3/6)
http://www.asyura2.com/13/genpatu30/msg/560.html
「かつては花形原発設計者だったA・ガンダーセン氏 内部告発をきっかけに業界を追放される」
(拙稿 2012/9/9)
http://www.asyura2.com/12/genpatu27/msg/199.html
「岩上安身氏が体調不良だそうだが、ひょっとしてワナにはまったのではないか」 (拙稿 2012/4/25)
http://www.asyura2.com/12/genpatu23/msg/246.html
「あの福島女性教員宅便槽内怪死事件も原発がらみか 」 (拙稿 2012/1/28)
http://www.asyura2.com/12/genpatu20/msg/549.html
「原発によって消されたシルクウッド、その物語」 (阿修羅・たけしくん 1999/3/2)
http://www.asyura2.com/sora/bd19991/msg/403.html