1996.4.10−11衆院商工委員会会議録、野田議員質疑

 (最新見直し2008.10.18日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 

 2005.1.10日、2,006.11.24日再編集 れんだいこ拝


 「1996.4.10日付け第136回国会商工委員会第7号」(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/136/0260/13604100260007a.html)(「国会会議録検索システム」から)


○野田(聖)委員 

 自由民主党の野田聖子でございます。本委員会に付託されております訪問販売等に関する法律等の改正の議論に先立ちまして、まず初めに、現行法の生い立ちとか考え方をここでもう一度確認したいと思います。

 まず初めに、日弁連の「訪問販売法改正に関する意見書」という資料がございまして、それを読みますと、「連鎖販売取引」のところで、連鎖販売取引規制というのは、昭和四十九年七月の国民生活審議会消費者保護部会の中間覚書、または同じ年の十二月の産業構造審議会流通部会の中間答申の「基本的には、マルチ商法が上述のような種々の問題を抱え、社会的トラブルの原因にもなっていることに鑑み、その活動を実質的に禁止するよう厳しい規制を行うべき」との方針に基づくものであるというふうに述べられております。

 つまり、昭和五十一年に制定されている一番最初のこの法律というのは、マルチ商法というのができ始めてさまざまな被害が増大したから、これは実質悪であるという前提に立って、とりわけ連鎖販売取引というのが実質悪いものである、だから取り締まっていくというようなベースにあるのではないかと思っています。

 ところで、今非常にわかりづらいのは、訪問販売というのと連鎖販売取引というのの違いが非常にわかりづらい。むしろそれはリンクしているのではないかという感じがいたします。

 ただ、現実問題、この法律に基づいて、世間的に連鎖販売取引というのは悪名が高いものですから、その名を名乗るよりも、むしろその要件のうちの特定負担二万円以上にかからないものは、実態は連鎖販売取引であっても訪問販売ということを名乗れるわけですから、そちらの方が世間一般の通りがいいということで、多くの業界が、実質は連鎖販売取引の形態があるにもかかわらず、特定負担金が二万円以上でないということを理由に訪問販売という形をとらざるを得ない。訪問販売という名前の方が連鎖販売取引よりも世間の消費者の受けがいいというような、そういうねじれ現象を起こしているのではないかということを感じております。

 そこで、つまり私が申し上げたいのは、連鎖販売取引というのがあらかじめ悪質であるという前提に立ってこの法律が制定されているのではないか、そして、その連鎖販売取引というのはすなわち訪問販売の取引の一部の形であるということで、訪問販売というのと連鎖販売取引というのは別個のものではなくて、ほとんど同じものになってくるのではないかということを確認しなければならないと思います。

 そこで、これは昭和四十九年にそういう中間の答申があって、五十一年にできた法律ですけれども、平成八年の現在、訪問販売とか通信販売という業界はもう極めて日常的な消費活動になっているのではないかと思います。私自身、何か物を買うときも、デパートや商店街に行くことと同じぐらいの頻度で通信販売のカタログを利用したり、やはり友人がやっている訪問販売によって商品を買うということが日常茶飯事、当然のことのように行われている現在になってきている。

 また、それはただ感覚だけではなくて、実際に数字の上でもあらわれているわけで、例えば調査室が出してくださったこの資料を見てみましても、法律ができた当時、昭和五十一年の売り上げというのが六千八百億円であった訪問販売は、平成六年には三兆一千億円になっている。あわせて通信販売の方も、昭和五十一年、二千八百億円であったものが、平成六年においては二兆円を超える額になっている。非常に、消費者にとって通信販売とか訪問販売というのが当たり前の消費活動になっている中で、今回、その法律の改正が改めて行われることになりました。

 ところで、それとは別な話として、最近の日本の国における産業政策、これはまあ大臣も所信でおっしゃっておられましたけれども、やはり今までの産業構造では行き詰まってしまうから、新たに抜本的に変えていこうという意見が大であります。そんな中で、ベンチャービジネスとかアントレプレナーを育成していこうということに力点が置かれています。

 私はここで、訪問販売、これは連鎖販売取引の形をとっているものが多いわけですけれども、この業界こそいわゆるベンチャービジネスのさきがけとして存在しているのではないか。そうであれば、今までの連鎖販売取引イコール悪であるというような考え方を大きく転換しまして、この際、日本の次代の産業を支えるいわゆるベンチャービジネスの一つ、新産業としての認知をし、かつその業界の健全な発展を支援するというふうな立場で、これからはこの法律を通じて国は取り組んでいくのではないかということを考えております。

 それにつきまして政府のお考えをお尋ねしたいと思います。

 ○大宮政府委員 

 ただいま野田委員から御質問のありました、いわゆる新しいビジネスとしての取引のあり方ということでございます。我が国の例えば通信販売でございますけれども、今御指摘ありましたように、非常に景気が悪い状況でございますけれども、通信販売については売上高ベースで四、五%の成長を維持しておりまして、平成六年度にはその売上高が二兆円に達する、これは先生御指摘のあったとおりでございます。

 また、訪問販売につきましても、近年その伸びは鈍化はしておりますけれども、売上高は約三兆円でございまして、世界第一位の水準になっているところでございまして、私どもとしては、こういう訪問販売、通信販売は今後とも有望な産業分野であるというふうに考えております。

 また、規制緩和の流れの中で、消費者にも、自己責任の原則のもとに、みずから商品、サービス等の質、性能、効用を適切に評価、判断することが求められておりまして、いわゆる自己責任というものもこれから求めていかなければならないというふうに考えております。

 ただ、ただいまお話ありました連鎖販売、訪問販売等につきましては、大多数の事業者は非常に健全にやっておるわけでございますけれども、片一方にあっては、消費者が適切な評価、判断を行うために商品等の正確かつ十分な情報提供がないとか、あるいは、契約締結に際して冷静な判断環境が確保されねばならないというような状況がございまして、実際には、消費者と事業者の間で、情報量とか契約に至るまでのイニシアチブ等の面で非常にある程度の格差があるわけでございます。

 こういった観点から、訪問販売法では、これら消費者の適切な判断を阻害する悪質な勧誘行為を禁止するとともに、書面交付、クーリングオフ等の規定を置きまして、事業者と消費者の間のこういったギャップを是正し、消費者が適正に判断できる環境整備を図るというのがこの法律の趣旨でございます。

 今回の改正におきましても、電話勧誘販売等につきましては、事業者からの巧妙かつ執拗なアプローチに対応するため、電話勧誘販売につきまして訪問販売法と同様のルールを適用するということを考えているものでございます。


 ○野田(聖)委員

 ただいまの御答弁ではっきりされなかったことは、昭和四十九年当時に日本国内で、いわゆるマルチ商法とか連鎖販売取引というのは悪いものであって、これはもう全面禁止していかなきやならないという基本的な考え方があったんだと思うんです。それについては、この平成八年の現在はそうではないということをおっしゃっていただけるのでしょうか。

 ○大宮政府委員 

 いわゆるマルチ商法といいますのは非常に業種、業態が多様でございまして、一体これをどういうふうに定義するか非常に難しい問題がございます。今御指摘ありましたように、昭和五十一年の訪問販売法の制定のときに、これについてもこの商工委員会で大変な議論がございまして、いわゆる悪質なマルチ商法については、これは法的に全面禁止してはどうかという議論もあったわけでございます。これについては、仮に悪質なマルチ商法を全面禁止にしょうとした場合には、罪刑法定主義の観点から非常に構成要件を厳密に、かなり狭く規定せざるを得ない。その結果、悪質業者による脱法行為が行われまして、取り締まりの観点から見てかえって適当ではないんじゃないかと、こういう判断が行われました。したがって、実は現行法体系では、悪質なマルチ商法を全面禁止するというよりは、むしろある程度緩やかな要件で定義を行いまして、網をかけた中で勧誘方法が不当である場合にはこの行為を規制し、それによって悪いマルチ商法を実質的に禁止するというのが有効ではないか、こういう考え方に立っております。

 この考え方は実は六十三年の改正時においても引き継がれておりまして、現在も我々としてはこういう考え方に立って、悪質なマルチ商法については広い網をかげながらその中で行為を規制していく、こういう考え方に立っております。

 ○野田(聖)委員 

 今の御答弁で、つまりマルチ商法とか連鎖販売取引という言葉自体は悪質ではない、正当な業であると、ただし、悪質なものと良質なものを区別してこれからは対応していくというふうに理解させていただきたいと思います。

 そんな中で、今回、禁止行為の対象が拡大されております。これは、今まではいわゆるリーダー格の人を罰するわけですけれども、今後は末端の人たちにまでその規制というか罰を、ペナルティーを科すというような大網をかけるやり方になっているわけです。

 確かに、これだけマーケットも大きくなり、悪質な業者が実際存在するということで、それらの人たちに対して厳しく取り締まりをしなければならないことは十分承知しておりますが、かえってこの方法をとることが一番いいことなのか。むしろ、例えば田んぼにある雑草を農薬で駆除しようと思ったら、いい作物まで枯れてしまう、そういうようなことになりかねないのではないかということを懸念しております。

 なぜならば、例えば、今回禁止行為の拡大をするものの一つに威迫行為というのがあります。これは、その相手をおどかして無理やり買わせたり、そういうことをしてはいけないということなのですが、ただ、この威迫という言葉は極めてあいまいで、非常に感情的だと思います。例えば、私がそういう意思がなく依頼したとしても、受け取った側には非常に威迫であったというようなことが人間社会の中で間々あるわけでございます。身近な例ではセクシュアルハラスメントがそのいい例で、男性からするとそんなつもりではなかったけれども、そのことをされた女性からするとこれはセクシュアルハラスメントであるという不毛の議論が、実際に今、日本で起きていて、それに近いものがこの威迫という言葉にも含まれているのではないかと思います。

 もし末端の人たちにまで禁止行為の対象を拡大させるとするならば、もう少し懇切丁寧に、具体性のあるものを提示していかなければならないのではないか。これは非常に感覚的なもので、あいまいではないかということが心配されるところです。むしろ、あいまいであるがゆえに、良質な活動を行っている人たちが非常に不安を感じたり、せっかく一生懸命頑張ろうと思っても、何だかちょっとしたことで自分たちは捕まるかもしれないというような、そういうおそれを抱かせて、せっかくこれから伸び行く良質のマーケットがしぼんでいくということは、これは非常に残念なことではないかと思います。

 そこでむしろ、現行法の規制の統括者へのペナルティーというのはさらに厳しくしたとしても、私たちは今後、消費者保護という、またこれもわかりづらい言葉なんですけれども、消費者を危ないものに近づけないという考え方よりも、やはり賢明な消費活動ができる国民を育てていくという方向に、少なくとも通産省は進んでいかなければならない。なぜならば、通産省が推進している規制緩和というのは、消費者等の自己責任が表裏一体であるわけです。

 そういうことで、むしろこの場合は、国が公権力を介入することによって大網をかけるというよりも、業界を発展させて、その中での自主規制とか商道徳を育てていくような、そういう支援を振り向けていくことはできないのか。また、消費者保護ということであれば、一たん受け取ったものに対して不満があれば、それを完璧な形で返品できるような、そういうものを担保した方が具体的な消費者保護につながっていくのではないかということを思っていますが、いかがでしょうか。

 ○大宮政府委員 

 ただいま御指摘ございましたように、まさに先生のおっしゃるとおりでございまして、基本的に消費者行政というのは、規制は最小限にしまして、いわゆる消費者の自己責任あるいは事業者の自主規制というものをベースに我々は基本的に考えたいというふうに思っております。

 ただ、今回我々が提案をしております、特に連鎖販売についての下位加盟者への規制の拡大でございますけれども、これは実は前にも、国民生活センターの統計によりますと、昭和六十三年ごろから一時鎮静化していた連鎖販売取引に関する苦情がここ数年非常に急増しておりまして、その実態の一つが、いわゆる統括者あるいは勧誘者と言われるリーダーだけを現在の法体系では縛っておるわけでございますけれども、むしろ実際には、下位加盟者が悪質な勧誘行為を行ってマルチ販売を行っておるという問題点が指摘されておりまして、そういった観点から、やはりそこを押さえなければ悪質なマルチ商法を取り締まれないという観点に立ちまして、今回法改正を提出したものでございます。

 それから、今御指摘ありました威迫困惑、これは禁止行為ということになっておりますけれども、確かに、この威迫行為、困惑行為というのは一体どういうものを指すのか。これは状況によって非常に変わるわけでございまして、私はいつも例で申し上げますけれども、おれは臭い飯を食って出てきたところだというふうに私が今申し上げてもだれも驚かないわけでございますけれども、夜、例えば電話でひそかに申し上げると驚く人もいるということでございまして、おっしゃるとおりでございますが、これは実は今回連鎖販売だけで取り入れたわけではございませんで、前から訪問販売法にも入っておりますし、政府のほかの法律体系、幾つかの、ゴルフ場事業法等にもございますけれども、そういう法律体系で、一つの法律概念としては確立した概念でございます。

 これは、具体的に判断するときは、今先生おっしゃったように個々のケースによって判断をするということでございますけれども、法律規定としてはこういった書き方でやむを得ないかなというふうに判断をしております。

 ○野田(聖)委員

 時間がなくなりましたのでこれで終わりますが、この訪問販売には随分女性がかかわっております。そういう女性が健全な活動ができるように、なるべく厳しくするのではなくて育て上げていくような、そういう政策を考えていただきたいとお願い申し上げまして、質問を終わります。ありがとうございました。


 「1996.4.11日付け第136回国会商工委員会第8号」(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/136/0260/13604100260007a.html)(「国会会議録検索システム」から)

 ○野田(聖)委員 

 自由民主党の野田聖子でございます。
本日は、参考人の皆様方、貴重な御意見を賜りまして本当にありがとうございました。私の方からは、時間が非常に短いので、皆様方の御意見序少し承らせていただきたいと思います。

 今回は、訪問販売法の改正、電話勧誘販売が主でございまして、ややもすると連鎖販売取引というのは従というような立場に思えてならないのですが、私は、この従である連鎖販売取引の規制強化について私の意見を聞いていただき、それに対してのコメントを賜りたいと思います。

 先ほど森嶌参考人、そして堺参考人のお話を聞いておりまして、そのお話の中で、例えば森嶌参考人は、連鎖販売取引はしばしば悪徳であるといったようなコメント、並びに堺参考人はもっと激しく、連鎖販売取引というのはいわば物品のネズミ講である、だからこれは実質的に禁止しなければいけないというようなお話がございました。

 私は実は、現実の消費生活を振り返ってみて、果たしてそうだろうかと。確かに、悪質な業者また取引は厳しく取り締まらなければならないと思う反面、やはり良質な業者も随分存在しているのではないか。また、その良質な業者というのは、ここ近年、この法律ができてから約二十年ですが、急激にふえているという事実がある。これは、もし本当に悪質で世の中を混乱させてしまうようなものであれば、やはりある意味で自然淘汰というのが生まれてきてしかるべきなのに、これはむしろ逆に、数字であらわすならば、例えば訪問販売の場合、この二十年、昭和五十一年から今日の二十年にわたって、売り上げというのが四・六倍に伸びているわけです。金額にすると、昭和五十一年当時は六千八百億円の売り上げであったものが、現在三兆一千億円を超えている。

 これは一つには、この連鎖販売取引という形をとっている訪問販売が、現在の消費者のニーズにかなっていて、消費者の側からもそういう形態を望んでいる声があるからではないか。そして、その中で確かに悪質なものもあって取り締まられてきたけれども、むしろ大多数は、協会等の自主規制の中でいいものが育ってきているんじゃないか。

 そしてまた、女性の側から見ますと、大変この訪問販売員の方は女性の占める割合が多いわけです。この理由の一つには、こういう無店舗経営というのは、経営コストがかかりませんから、非常に気軽にそのビジネスに参入できる。ましてや現在、女性というのは、御承知のように就職難であり、子供さんとか御家庭にある中で収入を得ようと思っても、なかなかそういうビジネスチャンスに恵まれない。そういう中で、こういう訪問販売というのは、そういうハンディーは背負っているけれども女性として、社会人として、収入を得たいという女性にとっては、非常に格好の業界であるわけでございます。

 そんな中で、今のように一部の悪質な例ばかりが強調されまして、マルチ商法とか連鎖販売取引というのは非常にうさん臭いものである、ネガティブな業界であるというようなものが蔓延すると、良質なもの、一生懸命頑張っている人のやる気をなくしてしまって、かえって新たな産業をつぶしてしまう一つの問題になるのじゃないかと思っているのです。先ほど堺参考人が、このような問題で、果たして政府が立てる立法で十分間に合うかどうか疑問であるというお話がございまして、私は、逆の意味でまさにそのとおりだと思っているのです。

 この法律ができてから数回の改正が行われているにもかかわらず、堺参考人が望むような結論が得られていない。むしろその間、訪問販売、連鎖販売取引というのは増大している中で、これはもう政府が、国が、通産省が上から押さえつけるのではなくて、むしろ、そこに携わっている業界の商道徳を自主的に育てていただくこと、そして、コインの裏表みたいなのですが、あわせて消費者、私たちがやはり賢明で強くならなければならない。

 だから、消費者保護という言葉のもとでこうやって網をかけていたところで、やはり消費者がそういうところに遭遇したときにきちんと対応できるような手だてをもっともっと講じた方がいいのではないか。具体的に申し上げるならば、クーリングオフとか、例えば返品規定の義務化の方がむしろ実効性が上がるのではないか。そういう末端の人たちにまで禁止行為の網をかけますよということは、決して今回の、堺参考人や森嶌参考人がおっしゃったような問題の抜本的な解決にはならないのではないかと思っているのですが、その点につきまして両参考人から御意見を賜りたいと思います。

 ○森嶌参考人 

 森嶌でございます。
私は、当初に申し上げましたように、連鎖販売のすべてが悪徳ではないけれども、悪徳なものもあるというふうに申し上げたわけでありまして、その意味で、悪徳な連鎖販売業者の側面を眺めれば、堺参考人のおっしゃったとおりでありますし、それから、悪徳でない通常のまともな連鎖販売に携わっている者から見ますと、野田委員のおっしゃるとおりであります。

 そこで、法律としてはどうするかということでございますが、法律としては、まともな業者を渦剰に規制をすることのないように、かつ、悪徳だ者もいることは確かでありますから、それをどうするかということで規制対象を広げておりますけれども、それはすべての業者を規制しているというのではなくて、その中で禁止行為に当たるよらなことをする者に対して、通産大臣が指示をして、あるいは業務を停止させるというようなことでございまして、これは、少なくともまともにやっていればこの法律を恐れることはないというふうに思っております。

 ○堺参考人 

 私も、訪問販売すべてが悪いと言っているわけじゃございません。例えば訪問販売の中でも、生鮮食料品を扱う行商であるとか、あるいは富山の配置薬制度、こういったものは消費者の支持を受けて、それこそ長年定着しているわけでございます。私どもが言っているのは、あくまでもマルチ商法の方でございます。

 ただ、このマルチ商法問題につきましては、昭和五十一年に訪問販売法を制定する際に、立法に関与されました東京大学法学部の竹内昭夫先生が名言を残していらっしゃいます。今筑波大の先生でございますが。その当時、既に、完全禁止のできない理由がよいマルチと悪いマルチ商法があるということを通産省当局は述べられまして、その結果、我々は完全禁止を望んだのでございますが、実質禁止という立法趣旨のもとで行為規制法ができたということでございます。それに対して竹内先生はおっしゃいました、よいマルチというのは、無害なコレラ、安全なペストと言うに等しいと。今で言うならば、よい核実験、悪い核実験ということになろうかと思いますけれども、法概念的にそういったことはあり得ないのじゃないかということを述べられまして、私もそのとおりだと思っております。

 今日、いわばよいマルチ、よい連鎖販売取引があるといたしますと、もちろんそれはトラブルがないということになるのでございましょうが、ただ、そういったものでも、これは構造的に、例えばある日突然経営方針が変わる、ある日突然経営者がかわる、ある日突然異質集団がその組織の中に入ってきて、そこから先を変えていってしまう、こういったことが起こりかねない。つまり、伝言ゲームが行われるのがこの種の組織の特徴でございまして、その点からは、よいマルチであってもやはり規制は必要であるというように私は考えます。

 それから、公益法人、特に訪問販売法の中に正式に位置づけられました日本訪問販売協会というのがございまして、この中で現在自主規制というものが進められております。自主規制案が立てられまして、それが検討されておりますが、もちろんこれに期待をするのでございますけれども、アウトサイダーもいっぱいいる。それから、特にこの十条の二に定められた公益法人の目的は、単なる業界の利益代弁者でなくて、消費者利益も守ろことがうたわれておるわけですが、そこに団体加盟していた団体があるのですが、その中から警察の摘発業者が相次いだ事実があるわけでございまして、やはりこの日本訪問販売協会も今後の姿勢が問われるだろうというように思います。

 それから、今度は末端まで法の規制対象になるということでございますが、実は我々がこれを望みました。確かに、これまで現行法は、統括者、勧誘者という、いわば販売員組織あるいは顧客紹介あっせん組織の上部者だけが法の対象になっておりますけれども、それを全構成員にすべきであるというように我々も望みました。

 なぜならば、ネズミ講の禁止法がそうなっているからです。ネズミ講の禁止法は、末端で加盟した人が次の人を誘った場合、そこが罪に問われます。しかし、さりとて、全国の警察の留置場が末端の加盟者で満員になったことはございませんので、これは捜査当局において適宜判断してもらえるものだと思います。むしろ、末端の加盟者が必ずもうかると思い込まされている場合は、その上の人間の責任はより強いわけでございまして、またその上の人間はより強いということになりますから、私は、これはこれでよろしいのじゃないかと思いますけれども、いかがでございましょらか。

 ○野田(聖)委員 

 どうもありがとうございました。
まさにそこがこれからの問題ではないかと思うのですけれども、末端といっても、現在訪問販売員というのは大体全国で約二百万人おみえになるそうです。きっと、もっともっと多いのだと思います。その末端のいわゆる統括者というのは、事実上の責任者ですから、そのことを熟知しておられるわけですから、今までの、不実の告知をしてはいけないとか、威迫行為ということを了解した上でマネジメントしておられる。ただ、末端にいきますと、その威迫行為という言葉自体非常にあいまいな規定でございます。具体性がございません。

 ですから、私が秘書に、このシャンプーはいいから買いなさいと、私は本当にいいと思って勧めたのだけれども、秘書とすると、代議士の勧めを断るとひょっとしたら首になるかもしれない、そういうおそれがある、そういうふうに感じたときは、やはり威迫行為になるのじゃないか。もし私が三人の人から、おどかされたというふうに言われると、威迫行為として立証されるそうなんですが、私が三人の秘書に対して言って、彼らがそれぞれ、私はいいと思って勧めたのだけれども、彼らにとっては上部者から言われた、要するに、雇い主から言われたから言うことを聞かないと困るなというような、そこら辺が非常に難しいところなのでございます。

 それをやはり何百万人の人に理解せしめるということは容易ではないのではないか。そういうことよりもむしろ、それ自体で今回の問題の解決に当たるのではなくて、もっともっと統括者が責任の重さを感じてもらえるような、むしろ、彼らがそういう重さを感じることによって、自主規制、自己責任の中でいわゆる末端の人たちにきちんと教育できるような前向きな制度を促進していく方が、より――国や通産省といっても数が知れております。それだけのいわゆるマルチな人々に対しての取り組みは難しいんじゃないか、啓蒙、PRが難しいんじゃないかという現実問題がある、そういうふうに感じております。

 もう一つ最後に、この相談の被害者というか、国民生活センターにせよ、そういうところに一番相談をしてくる人は、調査室のデータによりますと、電話勧誘の場合ですと二十歳代の男性が七割である。また、訪問販売の方のクレーム、苦情を言ってくる人も二十歳代が非常に多い。私たちは、これから消費者保護ということを考えていく中で、保護もさることながら、やはり教育、こういう若い人たちがそういうところでひっかかってしまっていることに、やはりもうちょっと何か別な視点を持っていかなきゃいけないんじゃないか。守ることだけがいい消費者活動ができることではない。

 そういうことについてはいかがお考えでしょう。もう一回堺参考人にお尋ねしたいと思います。

 ○堺参考人 

 先生おっしゃるとおりでございます。私も教育、啓発の必要性は十二分に感じます。
特に今回、マルチ商法に限って申しますならば、全構成員、いわゆるビジネスをやろうとする全構成員が対象になりますから、これまで以上に業者の幹部、トップクラスは責任を問われるわけですし、国及び地方自治体におかれて実施される消費者啓発の内容につきましても、これまで以上のものが必要になってくるだろうと思います。

 それから、私も陳情申し上げたことがあるんですが、文部省の方において中高校生段階からこういったものの実態を教えていっていただきたいと強く思います。今、大変若い皆さんは、私の分析では、パソコンは自由自在に操れたとしても、残念ながら社会的に無知でありまして、しかも無警戒でありまして、疑わず、断れない性格が目立ちます。そして、被害に遭った場合でも怒りませんし、文句言いませんし、すぐあきらめてしまいます。二十年前とえらい変わったなと思うんですが、そういった消費者のあり方についても、やはり教育というものが大事になってくるんだろうと思います。

 特に、今回のこの法改正によりまして、通産省、経済企画庁にはより一層の消費者啓発をお願いしたいと思います。

 ○野田(聖)委員 

 ありがとうございました。






(私論.私見)