○野田(聖)委員
自由民主党の野田聖子でございます。本日は、参考人の皆様方、貴重な御意見を賜りまして本当にありがとうございました。私の方からは、時間が非常に短いので、皆様方の御意見序少し承らせていただきたいと思います。
今回は、訪問販売法の改正、電話勧誘販売が主でございまして、ややもすると連鎖販売取引というのは従というような立場に思えてならないのですが、私は、この従である連鎖販売取引の規制強化について私の意見を聞いていただき、それに対してのコメントを賜りたいと思います。
先ほど森嶌参考人、そして堺参考人のお話を聞いておりまして、そのお話の中で、例えば森嶌参考人は、連鎖販売取引はしばしば悪徳であるといったようなコメント、並びに堺参考人はもっと激しく、連鎖販売取引というのはいわば物品のネズミ講である、だからこれは実質的に禁止しなければいけないというようなお話がございました。
私は実は、現実の消費生活を振り返ってみて、果たしてそうだろうかと。確かに、悪質な業者また取引は厳しく取り締まらなければならないと思う反面、やはり良質な業者も随分存在しているのではないか。また、その良質な業者というのは、ここ近年、この法律ができてから約二十年ですが、急激にふえているという事実がある。これは、もし本当に悪質で世の中を混乱させてしまうようなものであれば、やはりある意味で自然淘汰というのが生まれてきてしかるべきなのに、これはむしろ逆に、数字であらわすならば、例えば訪問販売の場合、この二十年、昭和五十一年から今日の二十年にわたって、売り上げというのが四・六倍に伸びているわけです。金額にすると、昭和五十一年当時は六千八百億円の売り上げであったものが、現在三兆一千億円を超えている。
これは一つには、この連鎖販売取引という形をとっている訪問販売が、現在の消費者のニーズにかなっていて、消費者の側からもそういう形態を望んでいる声があるからではないか。そして、その中で確かに悪質なものもあって取り締まられてきたけれども、むしろ大多数は、協会等の自主規制の中でいいものが育ってきているんじゃないか。
そしてまた、女性の側から見ますと、大変この訪問販売員の方は女性の占める割合が多いわけです。この理由の一つには、こういう無店舗経営というのは、経営コストがかかりませんから、非常に気軽にそのビジネスに参入できる。ましてや現在、女性というのは、御承知のように就職難であり、子供さんとか御家庭にある中で収入を得ようと思っても、なかなかそういうビジネスチャンスに恵まれない。そういう中で、こういう訪問販売というのは、そういうハンディーは背負っているけれども女性として、社会人として、収入を得たいという女性にとっては、非常に格好の業界であるわけでございます。
そんな中で、今のように一部の悪質な例ばかりが強調されまして、マルチ商法とか連鎖販売取引というのは非常にうさん臭いものである、ネガティブな業界であるというようなものが蔓延すると、良質なもの、一生懸命頑張っている人のやる気をなくしてしまって、かえって新たな産業をつぶしてしまう一つの問題になるのじゃないかと思っているのです。先ほど堺参考人が、このような問題で、果たして政府が立てる立法で十分間に合うかどうか疑問であるというお話がございまして、私は、逆の意味でまさにそのとおりだと思っているのです。
この法律ができてから数回の改正が行われているにもかかわらず、堺参考人が望むような結論が得られていない。むしろその間、訪問販売、連鎖販売取引というのは増大している中で、これはもう政府が、国が、通産省が上から押さえつけるのではなくて、むしろ、そこに携わっている業界の商道徳を自主的に育てていただくこと、そして、コインの裏表みたいなのですが、あわせて消費者、私たちがやはり賢明で強くならなければならない。
だから、消費者保護という言葉のもとでこうやって網をかけていたところで、やはり消費者がそういうところに遭遇したときにきちんと対応できるような手だてをもっともっと講じた方がいいのではないか。具体的に申し上げるならば、クーリングオフとか、例えば返品規定の義務化の方がむしろ実効性が上がるのではないか。そういう末端の人たちにまで禁止行為の網をかけますよということは、決して今回の、堺参考人や森嶌参考人がおっしゃったような問題の抜本的な解決にはならないのではないかと思っているのですが、その点につきまして両参考人から御意見を賜りたいと思います。
○森嶌参考人
森嶌でございます。私は、当初に申し上げましたように、連鎖販売のすべてが悪徳ではないけれども、悪徳なものもあるというふうに申し上げたわけでありまして、その意味で、悪徳な連鎖販売業者の側面を眺めれば、堺参考人のおっしゃったとおりでありますし、それから、悪徳でない通常のまともな連鎖販売に携わっている者から見ますと、野田委員のおっしゃるとおりであります。
そこで、法律としてはどうするかということでございますが、法律としては、まともな業者を渦剰に規制をすることのないように、かつ、悪徳だ者もいることは確かでありますから、それをどうするかということで規制対象を広げておりますけれども、それはすべての業者を規制しているというのではなくて、その中で禁止行為に当たるよらなことをする者に対して、通産大臣が指示をして、あるいは業務を停止させるというようなことでございまして、これは、少なくともまともにやっていればこの法律を恐れることはないというふうに思っております。
○堺参考人
私も、訪問販売すべてが悪いと言っているわけじゃございません。例えば訪問販売の中でも、生鮮食料品を扱う行商であるとか、あるいは富山の配置薬制度、こういったものは消費者の支持を受けて、それこそ長年定着しているわけでございます。私どもが言っているのは、あくまでもマルチ商法の方でございます。
ただ、このマルチ商法問題につきましては、昭和五十一年に訪問販売法を制定する際に、立法に関与されました東京大学法学部の竹内昭夫先生が名言を残していらっしゃいます。今筑波大の先生でございますが。その当時、既に、完全禁止のできない理由がよいマルチと悪いマルチ商法があるということを通産省当局は述べられまして、その結果、我々は完全禁止を望んだのでございますが、実質禁止という立法趣旨のもとで行為規制法ができたということでございます。それに対して竹内先生はおっしゃいました、よいマルチというのは、無害なコレラ、安全なペストと言うに等しいと。今で言うならば、よい核実験、悪い核実験ということになろうかと思いますけれども、法概念的にそういったことはあり得ないのじゃないかということを述べられまして、私もそのとおりだと思っております。
今日、いわばよいマルチ、よい連鎖販売取引があるといたしますと、もちろんそれはトラブルがないということになるのでございましょうが、ただ、そういったものでも、これは構造的に、例えばある日突然経営方針が変わる、ある日突然経営者がかわる、ある日突然異質集団がその組織の中に入ってきて、そこから先を変えていってしまう、こういったことが起こりかねない。つまり、伝言ゲームが行われるのがこの種の組織の特徴でございまして、その点からは、よいマルチであってもやはり規制は必要であるというように私は考えます。
それから、公益法人、特に訪問販売法の中に正式に位置づけられました日本訪問販売協会というのがございまして、この中で現在自主規制というものが進められております。自主規制案が立てられまして、それが検討されておりますが、もちろんこれに期待をするのでございますけれども、アウトサイダーもいっぱいいる。それから、特にこの十条の二に定められた公益法人の目的は、単なる業界の利益代弁者でなくて、消費者利益も守ろことがうたわれておるわけですが、そこに団体加盟していた団体があるのですが、その中から警察の摘発業者が相次いだ事実があるわけでございまして、やはりこの日本訪問販売協会も今後の姿勢が問われるだろうというように思います。
それから、今度は末端まで法の規制対象になるということでございますが、実は我々がこれを望みました。確かに、これまで現行法は、統括者、勧誘者という、いわば販売員組織あるいは顧客紹介あっせん組織の上部者だけが法の対象になっておりますけれども、それを全構成員にすべきであるというように我々も望みました。
なぜならば、ネズミ講の禁止法がそうなっているからです。ネズミ講の禁止法は、末端で加盟した人が次の人を誘った場合、そこが罪に問われます。しかし、さりとて、全国の警察の留置場が末端の加盟者で満員になったことはございませんので、これは捜査当局において適宜判断してもらえるものだと思います。むしろ、末端の加盟者が必ずもうかると思い込まされている場合は、その上の人間の責任はより強いわけでございまして、またその上の人間はより強いということになりますから、私は、これはこれでよろしいのじゃないかと思いますけれども、いかがでございましょらか。
○野田(聖)委員
どうもありがとうございました。まさにそこがこれからの問題ではないかと思うのですけれども、末端といっても、現在訪問販売員というのは大体全国で約二百万人おみえになるそうです。きっと、もっともっと多いのだと思います。その末端のいわゆる統括者というのは、事実上の責任者ですから、そのことを熟知しておられるわけですから、今までの、不実の告知をしてはいけないとか、威迫行為ということを了解した上でマネジメントしておられる。ただ、末端にいきますと、その威迫行為という言葉自体非常にあいまいな規定でございます。具体性がございません。
ですから、私が秘書に、このシャンプーはいいから買いなさいと、私は本当にいいと思って勧めたのだけれども、秘書とすると、代議士の勧めを断るとひょっとしたら首になるかもしれない、そういうおそれがある、そういうふうに感じたときは、やはり威迫行為になるのじゃないか。もし私が三人の人から、おどかされたというふうに言われると、威迫行為として立証されるそうなんですが、私が三人の秘書に対して言って、彼らがそれぞれ、私はいいと思って勧めたのだけれども、彼らにとっては上部者から言われた、要するに、雇い主から言われたから言うことを聞かないと困るなというような、そこら辺が非常に難しいところなのでございます。
それをやはり何百万人の人に理解せしめるということは容易ではないのではないか。そういうことよりもむしろ、それ自体で今回の問題の解決に当たるのではなくて、もっともっと統括者が責任の重さを感じてもらえるような、むしろ、彼らがそういう重さを感じることによって、自主規制、自己責任の中でいわゆる末端の人たちにきちんと教育できるような前向きな制度を促進していく方が、より――国や通産省といっても数が知れております。それだけのいわゆるマルチな人々に対しての取り組みは難しいんじゃないか、啓蒙、PRが難しいんじゃないかという現実問題がある、そういうふうに感じております。
もう一つ最後に、この相談の被害者というか、国民生活センターにせよ、そういうところに一番相談をしてくる人は、調査室のデータによりますと、電話勧誘の場合ですと二十歳代の男性が七割である。また、訪問販売の方のクレーム、苦情を言ってくる人も二十歳代が非常に多い。私たちは、これから消費者保護ということを考えていく中で、保護もさることながら、やはり教育、こういう若い人たちがそういうところでひっかかってしまっていることに、やはりもうちょっと何か別な視点を持っていかなきゃいけないんじゃないか。守ることだけがいい消費者活動ができることではない。
そういうことについてはいかがお考えでしょう。もう一回堺参考人にお尋ねしたいと思います。
○堺参考人
先生おっしゃるとおりでございます。私も教育、啓発の必要性は十二分に感じます。特に今回、マルチ商法に限って申しますならば、全構成員、いわゆるビジネスをやろうとする全構成員が対象になりますから、これまで以上に業者の幹部、トップクラスは責任を問われるわけですし、国及び地方自治体におかれて実施される消費者啓発の内容につきましても、これまで以上のものが必要になってくるだろうと思います。
それから、私も陳情申し上げたことがあるんですが、文部省の方において中高校生段階からこういったものの実態を教えていっていただきたいと強く思います。今、大変若い皆さんは、私の分析では、パソコンは自由自在に操れたとしても、残念ながら社会的に無知でありまして、しかも無警戒でありまして、疑わず、断れない性格が目立ちます。そして、被害に遭った場合でも怒りませんし、文句言いませんし、すぐあきらめてしまいます。二十年前とえらい変わったなと思うんですが、そういった消費者のあり方についても、やはり教育というものが大事になってくるんだろうと思います。
特に、今回のこの法改正によりまして、通産省、経済企画庁にはより一層の消費者啓発をお願いしたいと思います。
○野田(聖)委員
ありがとうございました。
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