|
「迷亭君、君の碁は乱暴だよ。そんな所に這入ってくる法はない」 |
|
「禅坊主の碁にはこんな法は無いかも知れんが、本因坊の流儀じゃ、あるんだから仕方がないさ」 |
|
「然し死ぬばかりだぜ」 |
|
「臣死をだも辞せず、況や璏肩(ていけんー豚の肩の肉のこと)をやと、一つ、かう行くかな」 |
|
「さう御出になったと、よろしい。薫風南より来って、殿閣微涼を生ず。かう、ついでおけば大丈夫なものだ」 |
|
「おや、ついだのは、さすがにえらい。まさか、つぐ気遣はなかろうと思った。ついでくりゃるな八幡鐘をと、かうやったら、どうするかね」 |
|
「どうするも、かうするもない。一剣天に倚って寒し――ええ、面倒だ。おもいきって切って仕舞へ」 |
|
「やや、大変大変。そこを切られちゃ死んで仕舞ふ。おい冗談ぢゃない。一寸待った」 |
|
「それだから、さっきから云わん事ぢゃない。かうなってる所へは這入れるものぢゃないんだ」 |
|
「這入って失敬仕り候。一寸この白をとって呉れ玉へ」 |
|
「それも待つのかい」 |
|
「序に其の隣りのも引揚げて見てくれ給へ」 |
|
「づうづうしいぜ、おい」 |
|
「DoYouseetheboyか。ーなに君と僕との間柄ぢゃないか。そんな水臭い事を言わずに、引揚げてくれたまへな。死ぬか生きるかと云ふ場合だ。しばらく、しばらくって花道から駆け出してくる所だよ」 |
|
「そんな事は僕は知らんよ」 |
|
「知らなくてもいいから、一寸どけ給へ」 |
|
「君さっきから六返まったをしたぢゃないか」 |