イ・セドルとアルファ碁の名勝負考

 (最新見直し2016.03.19日)

 (囲碁吉のショートメッセージ) 
 ここで、「イ・セドルと人工知能ソフト/アルファ碁の対局」を確認しておく。「2016.3.9 【第1戦はAlphaGo勝利】もし、AIが囲碁で人間を打ち負かしたなら」、「wired」その他参照。

 2016.03.10日 囲碁吉拝


【「Google DeepMind Challenge Match/李セドル9段vsアルファ碁/第1局」その1】
 2016.3.9日13時、「最高の人間頭脳vs最高の人工知能」の「世界が注目する世紀の頂上決戦/Google DeepMind Challenge Match」第1戦のゴングが鳴った。「最高の人間頭脳」とは、「人類最強の囲碁棋士」と云われる李セドル9段(Lee Se-Dol、韓国、33歳)。2001年以降に決着した主要な国際大会で最多18回の優勝を誇り「世界棋士レーティング」の2016年3月時点で世界ランク4位。「最高の人工知能」とは、コンピューター人工知能(AI)ソフト「アルファ碁」(AlphaGo)。

 両者の戦いが予想を超える高い関心を集め、韓国だけでなく米国、英国、ドイツ、日本、中国など各国の報道陣300人余が詰め掛ける中、ソウル(Seoul)市光化門(クァンファムン)のフォーシーズンズホテル(Four Seasons Hotel Seoul)で行われ中継された。対戦は3月15日までの5番勝負、持ち時間は各2時間(使い切ったら1手60秒の秒読み3回)、中国ルール(コミ7目半)で実施される。ちなみに韓国ルールではコミ6目半である。 9、10、12、13、15日の各午後1時から行われ、3勝以上した側に賞金100万ドル(約1億1300万円)が贈られる。「アルファ碁」側は賞金を獲得した場合、国連児童基金(ユニセフ)などに寄付することを明らかにしている。李セドル9段には手合料として5局で15万ドル、1勝ごとに2万ドルが追加される。

 対局は人工知能開発ベンチャー「ディープマインド」(英国)のプログラマーAja Hunagさん(台湾系の英国人であり、グーグルディープマインドの職員でアマ6段)が李セドル9段と対面し、盤のそばに置いたパソコンに示された「アルファ碁」の手を盤上に打つ形で実施された。今回使用されたコンピューターのスペックはファン・フイ(樊麾)戦と同じくCPU(中央演算処理装置)1202台、GPU(画像処理装置)176台だった。Aja Hunagさんとニギリをして選択権を握った李セドルが黒を選択した。 メディア解説室には韓国語の解説室と海外メディアのために英語の解説室が設置された。英語の解説室では日本棋院所属の米国人棋士マイケル・レドモンド9段が担当した。対局の様子はユーチューブで生配信され、世界中が見守った。日本でも日本棋院の「幽玄の間」で生中継した。 

【「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第1局」その2】
 2016.3.9日、「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第1局」。  

 
立ち上がりから激しい攻防が続き接戦となった。中盤以降、李セドル9段が優勢になったように思えたが、右辺に白が打ち込んできたあたりから手が乱れて劣勢に陥る。右辺の攻防で勝ちを決める手があったのかもしれないが、アルファ碁が勝負手を繰り出して逆転し、そのまま優勢を維持し終盤に向かった。石田9段は、127手目のツケて伸びた手でツケて押さえていたらどうだったのか?と云う。中央黒2子を取った時点では、人間は黒有利と見ていてもコンピュータは人間の見ていない手が見えているような感じ。最後の寄せでも乱れず押し切った。作り碁にすると盤面で少し黒がいいようだがコミがかりで白勝ちの形勢は揺るがない。3時間半に及ぶ熱戦の末の16時30分頃、李セドルがアルファ碁の186手を見て投了、アルファ碁が白番中押し勝ちした。

 これにより頭脳ゲームで最も人間に追いつくことが難しいとされてきた「最後の砦」囲碁が陥落し人工知能に軍配が上がった。1局だけでの判断は早計なので控えめに評すると、「少なくとも人工知能コンピューターが囲碁のトップ棋士と肩を並べたことを証明した」ことになる。
 「2016.3.9日は人工知能史の重要な日となった。かってチェス王者のカスパロフ、そして今、囲碁王者の李セドルの名前が、人工知能コンピューターに敗北を喫した人間の名前として歴史に刻まれることになった」。

 「人工知能のアルファ碁がイ・セドル九段に勝つ」によれば、投了後、イ・セドル九段はぎこちなく笑って対局場に座ったまま勝負を復碁し始めた。機械を相手に人間を代表してひとりで対局場に残り、予想外の敗北を喫したイ・セドルは孤独に見えた。 40分後、イ九段は複雑で苦し気な表情でメディアブリーフィングルームに入ってきた、とのことである。

 負けを認めた瞬間、李セドル9段は深く息をしてうなだれた。次のような敗戦の弁を述べ第2戦以降での雪辱を誓った。
 概要「負けると思っていなかったので、(結果に)とても驚いた。こんなに完璧な囲碁を打つとは思わなかった。序盤のミスが響いたようだ。衝撃的だが楽しめた。序盤のミスが響いたのは確かですが、あれだけ完璧に優勢を守りきるとは思いませんでした。この勝負をうけたことは後悔しておりません。まけたことはショックだが、この勝負を楽しんでおります。今日は負けたが明日は自信がある。今後は(勝利の可能性は)五分五分ではないかと考える」。
 アルファ碁の序盤解決能力と虚を突く決定的な手に対し、「どうしても序盤はアルファ碁は苦しいのではないかと思っていたが、解いていく能力は驚くべきものだった。 また、互いに難しい碁を打つのではないかと思っていたが、勝負手のようで(その一方で)まったく考えられない手が出て来て、再び驚いた」。
 アルファ碁とはどんな存在かという質問に、あごに手を当ててしばらく考えた後、「本当に驚きをくれたアルファ碁だが、まだどんな存在かを正確に言うことは難しい」。

 グーグルディープマインドのデミス・ハサビス最高経営者とデービッド・シルバー開発者が「イ・セドル九段に尊敬を表する」と言うと、イ・セドル九段は次のように応じた。

 「アルファ碁がこのような完璧なゲームをするとは思わなかった。非常に素晴らしいプログラムであり、ハサビス氏が私に対して敬意を表していたが、反対にこのような素晴らしいプログラムを作ったプログラマーの方々に深い尊敬の念を伝えたい」。

 李セドル9段は、日本の7大タイトル独占に挑んでいる井山裕太碁聖と今月4日に対戦し勝利している実力者で、日本の囲碁界にも衝撃が広がっている。井山王座は次のように観想している。

 「衝撃がすごい。びっくりしました。李セドル9段が負ける姿を想像していなかった。とりあえず1局目ではありますが、これだけ打てるとはすごい」。

 デミス・ハサビス氏は記者会見で次のようにコメントした。
 「うれしい。歴史的瞬間だ。我々は月面に着陸した。開発チームのことを誇りに思う」。

 毎日新聞の見出しは編集委員・金沢盛栄記事「驚天動地の完勝 人工知能、トップ棋士を撃破」を掲載した。これを転載する。
 まだ1局目であるが、驚天動地のことが起こってしまった。「プロ棋士に対等の条件で勝った」という衝撃のニュースから約半年。グーグルが開発した囲碁ソフト「アルファ碁」は世界トップの一人に数えられる李セドル九段を「完勝」とも言える内容で破ってしまったからだ。

 昨年10月の段階で、「アルファ碁」が英国で負かした相手の実力は「プロ」とはいえ、アマチュアトップ級だった。そのままなら、李九段の敵ではないと、世界の囲碁界をけん引する日中韓のプロ棋士たちは見ていた。ところがである。「アルファ碁」は一日も休むことなくデータを積み重ね、棋力を着実に上げていた。その部分がベールに包まれていただけに「ひょっとすると……」との悪い予感が、私にはあった。

 ふたを開けてみると、「アルファ碁」は序盤から李九段と対等に打ち進め、互角の形勢。中盤戦、盤面右辺で強手を放って局面の主導権を握ると、李の緩着もあり、一気に優位に立った。計算の分野となる終盤に入ってからは、コンピューターらしく万全の打ち回しで李を投了(負けを宣言すること)に追い込んだ。

 李はこれまで世界戦、韓国国内戦の優勝は数知れず、先週の国際戦でも日本のエース、井山裕太6冠を破っている。私の取材に対し、井山6冠は「びっくりしました。とりあえず1局目ではありますが、これだけ打てるとはすごい」と語った。 しかし、これで本シリーズが終わったわけではない。残り4局で李がどんな戦いぶりを見せるのか。人間の知恵が試されている。

 この日、WIRED日本版では、対局が中継された「YouTubeライヴストリーミング」を、日本が誇るコンピューター囲碁研究に携わる研究者、開発者らと共に見届けた。終局後の彼らとの対話の内容を抜き出しておく。
 「DeepMindが打った手には『人であれば打たないだろう』と思えるものもあった」。
 「その瞬間は、その手が有効だとは思えなかった」。
 「しかし終わってみれば、それがあったからこそDeepMindは勝てたのかも知れない」。
 「あるいは、勝敗とは関係ないのかも知れない」。

 AIは人が盤上に見出せていない何かを見ているのかもしれない。戦いはまだ終わっていない。決戦の詳細については4月9日に発売となる雑誌「WIREDVOL.22」にてレポートをする。

 中央日報は「囲碁界やIT業界は当初、李9段の圧倒的優勢を予想していたが、データが人間の直感を上回った歴史的瞬間と受け止めた」と報道した。韓国日報は「全世界が衝撃を受け、一部には人間を超えた人工知能への恐怖感もある」と伝えた。評し方はいろいろあろうが、囲碁の世界でコンピュータが囲碁のプロに勝つのはまだまだ先と思われていたのだが、あっさりと勝ってしまった衝撃的な事件で、これを為したのがグーグルアルファ碁であること、昨日までが人工知能囲碁史の前史であり今日からが本史となったことは疑いない。私はこう評する。

【第2戦直前のThe Vergeのハサビス氏インタビュー】
 AlphaGo VS 囲碁界の魔王イ・セドル(李世乭)九段の世紀の対決の第1戦が終了した翌日の第2戦が始まる前、The Vergeがハサビス氏にインタビューしている。インタビューが行われのはフォーシーズンズホテル・ソウルの一室。ハサビス氏は、あまりの反響の大きさに驚いており、「ものすごく注目をあつめる『何か』を見るのは楽しいものですね」と話してインタビューはスタートしている。(2016年03月11日付けブログ「囲碁チャンピオンを打ち破ったGoogleの人工知能「AlphaGo」を作った天才デミス・ハサビスが人工知能を語る」参照)
Q 昨夜の出来事をAIの歴史において、どう位置づけていますか?
ハサビス 囲碁は情報ゲームの最高峰です。チェスよりもはるかに複雑な囲碁でトップ棋士に勝つことは、チェスのチャンピオンをIBMのディープブルーが打ち破って以来、常に最大の挑戦でした。そして、ついにAlphaGoはやりました。
Q AlphaGoの戦いぶりには驚きましたか?
ハサビス 大きな衝撃でした。しかし、セドル九段にとっては私たち以上の驚きだったでしょう。彼の表情からはそう見えました。ApphaGoがセドル九段の左サイドに深く切り込んでいったことは私たちにも予想外の動きでした。
Q 予想以上に攻撃的だったと?
ハサビス AlphaGoは攻撃的で大胆でした。それはセドル九段も同じでしょう。彼は独創的な戦い方をすることで有名です。対決の序盤はとても落ち着いていて、碁盤全体を大きく使う戦いでした。伝統的なコンピューターは、個々の局面での計算(勝負)には強いのですが、局全体を見通すビジョンという点では分が悪いものなのです。
Q AlphaGoVSイ・セドル九段の対決の大きな目的は、現時点でのAI技術の能力を見極めることでした。昨日の戦いから何が得られましたか?
ハサビス  私たちが望んだ通りの進化の道をたどっていると推察しています。対戦の前に勝てるかどうかは五分五分だと話しました。それはおそらく正しいと思います。セドル九段は今日(の第2戦)は異なる戦法をとると思います。本当に面白い勝負になるはずです。

 先ほどのAIの歴史についての質問を完結させるならば、ディープブルーとAlphaGoの違いが重要な事です。それは、ディープブルーはチェスのルールや情報について非常に高度にプログラムされていたのに対して、AlphaGoは状況や対戦から自分で学び取る様に作られています。誰かにプログラムされたのではなく自ら学んでいくという、より人間に近い行動をとる点が重要なことです。

Q もしもAlphaGoがこのまま5連勝したならば、次の目標は?他のゲームでも戦うのですか?
ハサビス 私が思うに囲碁は完全情報ゲームです。囲碁こそ最高峰です。とはいえ、確かにゲームは他にもあります。たとえば青天井のポーカーは非常に難しいものです。また、複数人との対決というのは情報が完全ではないが故の難しさもあります。戦略を要するゲームは他にもあります。しかし、囲碁はあらゆる要素を持ったゲームで、コンピューターにとって最も難しい対象なのです。
Q BMのWatsonがヘルスケア(医療)分野で、例えばがん診断などの分野で研究を行っています。DeepMindは同じ土俵に上がるのでしょうか?
ハサビス 医療分野はDeepMindにとってはほんの初期の研究という段階です。数週間前にNational Health Service(国民保健サービス)との提携を発表しましたが、それは単に医療分野で機械学習を行えるプラットフォーム作りを始めるためであって、IBMのWatsonの取り組みとは異なります。私の理解ではWatsonはエキスパートシステムのようなもので、私たちのAIとは異なるスタイルだと思います。
Q AIのあらゆる可能性の中で明らかなのは、DeepMindの研究がGoogleのサービスにつながるということ?
ハサビス ええ。
Q Googleのサービスのロードマップやビジネスモデル一般へAI研究を適合させるように指示が与えられているのですか?(注:DeepMindはGoogleに買収されてなお拠点をイギリスに構えている)
ハサビス いいえ。私たちは状況を進めるために最善のこととして何をやるのか、やりたいのかを決めることができ、研究活動についてかなりの自由が与えられています。それこそが私たちのやりたかったことだし、Googleに加わった理由ですから。自由のおかげで飛躍的な進歩が望めます。実際、ここ数年はその通りになっています。もちろんGoogleのサービスの中でも機能するようにAIを活用する取り組みは行っていますが、それらはすべてまだ始まったばかりで何かを話せるようなものはありません。けれど、スンダー・ピチャイCEOとは将来の製品作りのコアな部分を共有しています。
Q Googleは例えば人工知能ネットワーク構想「Google Brain」のような取り組みも行っています。Googleが行う他の人工知能研究とDeepMindの活動とで、接点や重なっている部分はあるのですか?
ハサビス 実際のところ、GoogleとDeepMindはかなり補完的に活動しています。毎週対話は行われます。Google Brainの焦点は主にディープラーニングです。ジェフ・ディーンのように信じられない技術を持つ人がGoogle内の要所要所にいて、Googleフォトの分類機能などのような素晴らしい技術を実現しています。また、Google Brainのメンバーはカリフォルニア州マウンテンビューに拠点を構えていて製品開発チームとの距離も近くて、12カ月から18カ月周期のスパンで開発を行っています。これに対してDeepMindはアルゴリズムのような開発を2年から3年というスパンで行っています。DeepMindでは研究の開始時点で何か製品への応用を直接目指すことは必要条件としていません。
Q: AlphaGoの開発にあたってGoogleのサポートは重要でしたか?DeepMind単独でも可能だったのでしょうか?
ハサビス Googleの役割はとても重要でした。AlphaGoはプレイ中は特別優秀なハードウェアが必要ということはありませんが、AlphaGoを"鍛える"ためには多くのハードウェアが必要でした。さまざまな異なるバージョンを開発して、それぞれをクラウド上でトーナメント形式で対決させました。Googleのバックアップとさまざまなハードウェアのおかげで効果的な開発ができたのであり、そのようなリソースを持たない私たち単独ではこのような短いスパンでAlphaGoを進化させることはできなかったでしょう。
Q 話をロボット工学に移します。私はいま日本を拠点に活動しているのですが、日本はロボット技術の先端を行っています。日本でのロボットは2種類に分かれ、一つはファナックが作るような産業ロボットで、もう一つはソフトバンクのPepperのようなコンシェルジュタイプのロボットです。これらのロボットについてどう考えていますか?
ハサビス ファナックのロボットについて言えば、物理的なことは素晴らしくできるが、「知能」という要素が欠けています。コンシェルジュロボットはスマートフォンのパーソナルアシスタントのようなもので、事前にプログラムされたテンプレート(質問・回答例)に基づいていて、予定調和ではないイレギュラーな場面では混乱します。
Q では、機械学習はどのようにしてロボットの可能性を向上させるのでしょうか?
ハサビス 機械学習は完璧に異なるアプローチです。私たち人間は新しいことから学んで能力を徐々に高めていきます、そして予想外のことに対処できます。これこそが現実世界でロボットやロボット用のソフトウェアに求められることだと思います。手順を極限レベルで数多く学習できることが、これを実現する方法だと考えています。
Q 学習できるロボットによって最も近い将来、実現するサービスは何だと思いますか?
ハサビス 「なぜまだその製品がないのか?」を考える必要があると思います。なぜ、あなたの代わりに家中をくまなくきれいにしてくれるロボットはないのか?それは、家はそれぞれまったく違うものだからです。間取り、家具、散らかり具合はさまざまです。同じ家の散らかり具合ですら時間によってまちまちでしょう。そのため、あらかじめロボットにプログラムするというのは不可能です。家のことをよく知り、主人のこと、主人の部屋の収納がどこにあるのかまで知るロボットが必要です。実際、これはとても複雑な問題で、まっさきに解決しなければならない問題だと思います。
Q 個人的興味から聞きますが、ロボット掃除機をもっていないのですか?
ハサビス うーん。以前は持っていましたが……。あまり便利ではないので……(笑)食洗機やロボット掃除機などは比較的安価な製品だからみんなは買うのだと思います。しかし、これらの製品は実のところ知性を持っていません。徐々にですがステップをのぼっていくことで(知的になっていくことで)より便利な物になると思います。
Q 多くの人がSFさながらに進化しているAIに少なからず恐怖を感じています。将来、人とロボットやAIとの関係はどうなると思いますか?
ハサビス  ロボット工学について個人的にあまり考えたことがありません。私が本当にエキサイティングだと思っているAIとは科学的な部分で、科学をより早く進化させるところです。私はAIによってアシストされる科学を見たいと思います。そこでは、AIは効果的に研究を助け、多くのつまらない労働をサポートして、興味深いことを教えてくれ、山のようなデータから構造を見つけてくれ、人間のエキスパートや研究者がブレイクスルーをもっと素早く達成できます。数カ月前にCERNの研究者と話す機会がありましたが、彼らは世界で最も多くのデータと格闘しています。データの量があまりに膨大で処理できないほどです。AIが膨大なデータの中から新しい何かを見つけてくれる未来はクールだと思います。

【「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第2局」】
 3.10日、「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第2局」。夫人のキム・ヒョンジン氏と娘のイ・ヘリムちゃんも画面を見ながら応援した。オンライン生中継には50万人以上がアクセスし世紀の熱戦を見守った。

 白56手目で黒2子を取った段階では、白のセドル9段の方が有望な碁形だと云われていた。手が進むとそうでもないところから、実際には早い段階から黒が優勢のまま白に傾くことなく終局した可能性が強い。プロ棋士の感想では今日はセドル九段に悪い手は見当たらないとのこと。でも気が付くとアルファ碁が優勢だった。以前あった電王戦で将棋のプロ棋士がコンピュータ将棋に負ける時と同じパターンのようです。セドル9段を寄せ付けないとは、いや恐ろしいですアルファ碁。アルファ碁の手は通常悪いだろうと思われる手でも後になるとその意味がわかってきてその手は良い手だったとなることが多くあり、人間の感覚では良くないだろうと言う石の流れでも気が付くとアルファ碁が常に地合いでは優勢を保っていて何だかお釈迦さまの手のひらの上の土俵で戦っているようにも感じた。アルファ碁には人間が見えていないことが見えているようである。形勢判断がしっかりしていて石が崩れなくて安定力があるのをこの対局でも感じた。

 プロの囲碁棋士で解説者の金成龍(Kim Seong-Ryong)氏によると、李氏はアルファ碁が序盤で「衝撃的なまでに型破りな」手を何度か打ったところで、苦戦し始めたようだったという。金氏はアルファ碁が打った型破りな手の一つについて、「もし韓国、日本、中国のプロ囲碁棋士1300人全員を調査しても、誰一人としてあの手を打たなかっただろう」と評した。4時間半の激闘の末、アルファ碁が初戦に続いて勝利を収め2連勝した。アルファ碁の勝利が偶然の産物ではないことを証明してみせた。AIは衝撃的な世界デビューを果たした。
 戦前の李セドルは、AIに対して自らの「大勝」を予見していた。だが対局後、李氏は青ざめた顔で記者団に対し次のように語った。
 「今日は言葉がない。私の完敗だったことを認める。有利な瞬間はありませんでした。アルファ碁は今日ほぼ完ぺきな囲碁を打った。弱点がなかった。(中略)明日は自信がないですが、全力を尽くして、少なくとも1勝はしたい。勝てるよう頑張りたい。中盤で勝負がつくようにしないといけないと感じました」。
 囲碁プログラム開発に携わっている銘エン9段の評は「アルファ碁の連勝は全然予想していなかった。予想以上兄強い」。李セドルは、このシリーズに勝利するためには残り3局全てに勝たなければならないことになった。

【「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第3局」】
 3.12日午後、第3局がソウル市内のホテルで行われ、この日は李セドルの誕生日だったが勝利を飾れず、アルファ碁が3連勝した。対局は15日まで全5局行われるが、2局を残してアルファ碁が勝ち越し勝利を決めた。一部の韓国メディアが「4000年の歴史を誇る囲碁が人工知能によって崩れ落ちた」と伝えるなど、衝撃が走っている。

村)囲碁の人工知能(AI)対人間の対局、「アルファ碁」が韓国のイ・セドル九段に勝ちました。これでアルファ碁の3連勝。勝ち越しが決まりました。AIがチェス王者を破ってから約20年。今年1月に彗星のように現れた囲碁AIが、あっという間に世界トップクラスの棋士を凌駕しました。

 2016.3.12日、「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第3局」。

 今回の対局では序盤に左上の黒の小目に白1間高ガカリ、黒コスミの受けに2間トビ(白14手目)という古い昔の手をアルファ碁は打ちます。セドル九段は黒15手目でツケて2間のトビを分断しに行った。解説の高尾9段の話ではこれは昭和の段階で黒が悪いという結論に達しているそうです。これ以降はずっとセドル9段苦しい展開のまま進みましたからやはりこの黒15手目が悪かったんじゃないでしょうか? 早い段階ではもう黒つぶれそうでしたがちょっと持ち直して最後はどうみても手になりそうにない下辺でコウを作ってセドル9段見せ場を作ってくれた。1、2局を見る限りアルファ碁には弱点見当たらなかったがどうやらコウに弱いことがわかった。それ以外はアルファ碁は石が安定していて崩れない。逆にあまり崩れることのないセドル9段の石が乱れていた。アルファ恐るべし。回数を重ねるごとにさらに強くなっているような気さえする。

 第3局は開始後4時間余りで、176手目の後に李9段が投了、アルファ碁が中押し勝ちした。李9段が2時間の持ち時間を使い切ったのに対し、アルファ碁は8分31秒を残していた。対局後、李9段は悔しさをにじませながら次のように語った。
 概要「何と言っていいか分からないが、まず謝りたい。こんな無力な姿を見せて申し訳ない。多くの人たちの期待に応えられず申し訳ない。私の力不足です。この三局を振り返ってみました。たとえ第一局をやり直したとしても、おそらく勝つのが難しいだろうと思います。第二局は、私の狙い通りに展開したにも関わらず、チャンスを生かしきれなかった局面がありました。今日の第三局は、長い囲碁人生の中でも、比べようもないほどにプレッシャーを感じていました。こんなに圧迫感と負担を感じたことはありません。どうしてもそれを克服することができませんでした。私はアルファ碁の能力を読み違えていました。乗り越えるには私は能力が足りません。第四局、第五局も皆さんが関心を持って観戦してくださることを期待しています」。

 一方、アルファ碁を開発したグーグル傘下のAI開発企業グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)のデミス・ハサビス(Demis Hassabis)最高経営責任者(CEO)は、「正直いうと、あっけに取られていて言葉が出てこない」と笑顔でコメントし、李氏の敗北を、人類がコンピューターに敗北したというマイナスイメージで捉えるべきではないと強調した。更にほかに次のように述べている。
 「今日は人類が成し遂げたこと、つまり天才棋士イ・セドルさんと、この大きな科学的進歩を可能にした人々を、心から讃えたいと思います。私たちは、この結果に非常に驚いています。言葉を失った、と表現するほうが正しいかもしれません」。
 「アルファ碁が毎秒あたり数万におよぶ手を読んでいるのに対し、セドルさんは彼自身の頭脳だけで、あれだけの接戦を演じ、毎回、アルファ碁を限界まで追い詰めています。結果として、今日、アルファ碁がチャレンジマッチを制したことに、私たちは大変興奮しています。これは私にとって生涯の夢でしたし、人工知能に携わる者にとっては、まさにグランドチャレンジだったからです。まだ、DeepMindチャレンジは2局を残しており、挑戦は終わりません。そして、このチャレンジは囲碁にとどまらず、この技術をどのように活用すれば、社会問題を解く手助けとなるのかを解き明かすという、長い道のりが待っているのです」。
 「人間と同等の汎用人工知能ができるのは、まだ何十年も先の話です」、「ぼくたちはいま、梯子の1段目に登ったところです。この先10や20のブレークスルーを起こさなければ、その梯子が全部でいったい何段あるのか、そして『知性とは何か』を解明することはできないでしょう」(「『WIRED』vol.20「人工知能」特集」)。

 事前の予想を覆す圧勝で、韓国メディアは「衝撃の敗北だ」と報道。勝負はついたが、残り2局を残しており、今や「人間が人工知能に一矢報いることができるのか」が焦点となっている。
 権甲龍八段(イ・セドルの師)は次のようにコメントしている。
 「アルファ碁は驚くべき人工知能です。アルファ碁と激しい接戦を繰り広げたイ・セドルは勝者であり、誇りに思います。彼は対局を通じ、奥深い囲碁の世界を見せてくれました。残りの対局では、彼らしく自由にプレイしてくれることを期待しています」。

 李賢旭八段評は次の通り。

 「イ・セドルは良い対局をしました。ほぼ完璧とも言えるアルファ碁に対して全三局を通して挑み続けた彼に、同じプロ棋士として敬意を評したいと思います。今回、イ・セドルは、アルファ碁をより理解するために、後半にいくつかの異なる手を試しました。残りの対局が楽しみです」。

 マイケル・レドモンド九段評は次の通り。

 「最初の二局において、イ・セドルはコンピューターの弱点を探るために自身の対局スタイルと異なる打ち方をしていたように感じます。一方、今日の対戦においては、強気の序盤から後半の複雑なコウの動きに至るまで、イ・セドルは間違いなく彼本来のスタイルで戦っていたと思います。しかしながら、アルファ碁はコウも含む状況に柔軟に対応し、それが最終的には勝利に繋がりました。アルファ碁は芸術以外の何物でもない。これを成し遂げたすべての人々に敬意を評します」。

【「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第4局」】
  2016.3.13日、「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第4局」がソウルで行われた。 

 今日のセドル9段はじっと耐えた。上辺に白持ち込みで大きな黒地ができ、セドル9段に勝ち目がないと思われた。白72のキリを入れてその後に白78手目の割り込みが妙手!だった。アルファ碁はこの手を予想できてなかったようだ。天才セドル九段の瞬間を見た。その後アルファ碁はうろたえだす。あれだけ完璧な碁を打っていたアルファ碁がセドル9段の割り込みの手の後、おかしな手を連発する。黒97手目、こんな割り込み切られて持ち込みになるのはすぐ見えているのでありえない手である。アルファ碁の開発者デミス・ハサビス氏が79手目で間違え、87手目でその間違えに気がついたと発表している。劣勢になると手のクオリティが落ちることが分かった。アルファ碁が180手で「投了」を意思表示し、セドル9段が第4局にして「中押し勝ち」で初勝利した。3連敗から一矢報いた。満面の笑みをこぼしながら語った。
 「1局の勝利でこれほど祝ってもらったのは初めて。今日の勝利は皆さんから頂いた応援とサポートの賜物。ありがとうございました。本当に何にも変えがたい、値打ちをつけられない1勝だ」。

 グーグルディープマインド・アルファー碁開発主任研究者のディビッド・シルバー氏は次のようにコメントした。
 「アルファー碁は自ら学習し、自己対戦を通してその能力を向上させています。その中でいつどこに盲点が出てくるかは、ほとんど予想できません。しかし強い対戦相手であれば、アルファー碁を追い詰めて盲点や弱点を見つけることは可能です。ディープマインド内部の検証だけで弱点を突き止めるのは困難であり、創造力に富んだ天才の協力が必要だったのです。セドルさんに心から賛辞を送ります」。

 2016年03月13日、「【AlphaGo】「最後の第5局は黒番で打つ!」イ・セドルvsAlphaGo第4局記者懇談会」。
 イ・セドル
 (記者たちの歓声の中に登場して)ひと勝負に勝っただけでこのように祝いを受けるとは思わなかった(笑)。今回の対局をする前に私が4-1あるいは5-0で勝利をすると話した。事実私が3-0で先んじてひと勝負を敗れたと仮定するならば、とても痛かっただろう。かえって3連敗にあって勝利したのでこのようにうれしい事はない。この喜びは今までに何とも、そして今後も何とも代えがたいものだろう。本当にうれしい。皆さんの応援のおかげで今日ひと勝負でも勝った事ではないかと考える。感謝申し上げる。
 デミス・ハサビス(GoogleディープマインドCEO)
 イ・セドル9段、心よりおめでとう。本当に素敵な勝利であった。もう一度イ・セドル9段がどれくらいものすごい囲碁棋士なのか見せたと考える。イ・セドル9段は今日AlphaGoにとってとても手ごわい相手であった。序盤が始まった時AlphaGoは自ら優勢を推定した。このような進行にイ・セドル9段の妙手が出てきてAlphaGoが失敗を犯した。局面が複雑になった瞬間に出てきたイ・セドル9段の妙手がAlphaGoを揺さぶったのだ。AlphaGoの限界をテストするために韓国でイ・セドル9段と対局したことなのだが私たちはまた成果を達成した。AlphaGoの弱点が分かってこそ改善する事ができる。イ・セドル9段のような創意的な天才との対局をするだけでAlphaGoの弱点を発見する事ができると考えた。本当にイ・セドル9段は戦闘的な勢いを見せた。3度連続で敗北したのだが今日立派な対局を繰り広げた。今日のこの敗北はAlphaGoにとって非常に大切だ。我々が英国に戻ってイ・セドル9段との棋譜を綿密に分析するだろう。統計数値を分析してAlphaGoを補完するのに活用する計画だ。もう一度イ・セドル9段にお祝い申し上げて火曜日(15日)に開かれる最後の5局を期待する。
 デービッド・シルバー(ディープマインド チームリーダー)
 もう一度イ・セドル9段の勝利を祝うという事を申し上げたい。私どもはAlphaGoが自ら繰り返して学習するようにした。どうしてもそのようにして学習された知識は弱点が存在する他ない。しかし私どもの開発者は囲碁上手ではないのでその弱点を把握できなかった。だがイ・セドル9段のような上手との対局をするだけでAlphaGoの弱点を把握できたのだ。今日の中央の戦闘のような複雑な部分がまさにAlphaGoの弱点だった。イ・セドル9段の強い実力のおかげでAlphaGoは今日大切な経験をした。戻って今日の対局の中央接戦を分析してAlphaGoを補完する資料とする。 
 マイケル・レドモンド(現場英語解説者)
 イ・セドル9段の勝利を祝う。今日進行された対局を見ればAlphaGoが序盤から興味深く対局を進行した。混戦状況でイ・セドル9段が白78の妙手を打った。私も驚いて、AlphaGoではなくとも誰でも驚いただろう。 
 ソン・テゴン(現場韓国語解説者)
 イ・セドル9段がプレッシャーを払い落として自身の碁を打った。中央でのイ・セドル9段の勝負の賭けがとても素晴らしかった。イ・セドル9段がますますAlphaGoに習熟していく、AlphaGoの考えを知っていくという感じを受ける。今日AlphaGoの弱点があらわれただけに続く5局でもイ・セドル9段が良い勝負を展開すると期待される。
 以下質疑応答
 多くの専門家たちがAlphaGoの手を分析する時、この手は完全に失敗だったといったのだが後で見れば妙手である場合があった。もし医学に融合させるならば、医学専門家たちが見た時変に見えてもそれが囲碁の妙手と同じならば混乱することがあるのではないか?
 デミス
 AlphaGoはプロトタイプだ。まだベータ段階でもなくてアルファ段階でもない。AlphaGoがどんな問題があるのか短所があるかをずっと対局をしてこそ知ることが出来る。事実、囲碁棋士として世界的な技量を備えた棋士はそれほど多くない。囲碁というゲームは美しいゲームだ。医療とは完全に領域が違う。AlphaGoは今後とても厳格な試験段階を経なければならないだろう。AlphaGoはまだプロトタイプであるから医療と科学のような精密さが要求される分野に組み合わせることは時期尚早だ。
 AlphaGoは二種類のバージョンがあるといった。以前のバージョンをそのまま使ったのか、他のバージョンを使ったのか? 
 デミス
 私どもが使ったシステムは分散型システムだ。バージョン18AlphaGoを使って、すべての対局で同じバージョンを使った。公式的な媒体ではシングル型より強力な分散型を使う。
 (KBS記者)解説者が失敗という話をたくさんした。AlphaGoが打った手が失敗なのか、解説者がAlphaGoの手の意図を把握できなかったのではないかと気になる。
 デミス
 AlphaGoの手が後ほど妙手である事もあるがそのまま失敗もある。ゲームの最終勝敗がその手がどんな手だったのかに対する結果を反映してくれる。今日AlphaGoは敗れた。したがってAlphaGoの手は失敗だったことだと考える。
 ※囲碁に最初から門外漢である国内記者の質問で、AlphaGoの明白な失敗という手さえも'人間が分からないAlphaGoの妙手だ'と主張する見解だ。 価値がない質問だが質疑応答をのせるために入れたことを明らかにして、自身が分からない分野に対して何の勉強もせずに訪ねてきてレベルの低い質問を行う国内取材記者の問題は今後取材手帳を通じて報道するようにする。 
 今まで大きい点差でAlphaGoが勝ったことはないが、ひょっとして相手のレベルに合わせてAlphaGoが碁を打つのか気になる。
 デミス
 AlphaGoは相手が誰なのか関係なく相手は最高の手を打つという仮定の下に自らの勝率を最大化するための手を検討する。正確な手を打ってこそ自身の勝率が最大化されるのかどうか、ただそれだけ探す。
 今日中押し負けを宣言する時モニターにどんな表示が出てきたのか気になる。
 デービッド
 まずAlphaGoは色々な場合の数の確率を計算する。勝率値を最大化させるのがAlphaGoの目的だ。それが基準値以下に落ちれば中押し負けという値を現わして、アジャ・ファンが実際に中押し負け宣言をする。
 AlphaGoの弱点は何か?
 イ・セドル
 ひとまずAlphaGoが露出させた弱点は二つある。基本的に白番よりは黒番を大変とするのではないかと思う。今日予想できない手が出てきた時、一種のバグ形態で数手進行された。考えることが出来なかった手に対する対応力が落ちる。白よりは黒を難しがるという点もAlphaGoの弱点だ。
 世間で議論になる情報の非対称問題はどう思うか?
 イ・セドル
 大きな問題ではない。基本的に私の実力が不足した。
 デミス
 AlphaGoを訓練させた方式はイ・セドル9段の棋風や方式に合わせてしたのではない。一般的な囲碁の訓練をさせたのだ。インターネットで進行されるアマチュアの棋譜をAlphaGoに入力した。その後でご存じのようにAlphaGo自ら碁を打つようにする方式を使った。事実私どもがそのように(イ・セドル オーダーメード型で)したいといってもできない。 数百万、数千万の棋譜に基づいてAlphaGoを訓練させることができることであって、イ・セドルの棋譜少数だけでは訓練させる事が不可能だ。
 3敗にあった後、対局を中断しなければならないという話に対してどう思うか?
 イ・セドル
 衝撃が最初からなかったとは申し上げることができないが、対局を中断する状態ではなかった(笑)。もちろん結果が良くなかったためにそのような話が出てくるようだ。そこまで大きいダメージを受けた事ではなかったと申し上げる。
 今後5局の展望は?
 イ・セドル
 最後の5局では黒番で勝ってみたい。白番で勝つことよりは黒番で勝つ方がさらに値打ちがあるので最後の5局は黒番で打ちたい。グーグルに提案する。最後の5局は私が黒番でいいだろうか?
 デミス
 良い。承諾する。
 美しい対局をして下さったイ・セドル9段に感謝申し上げる。78のワリコミについてお聞きしたい。中国の古力は神の一手だと話した。当時その手についてどんな考えをしたか?
 イ・セドル
 私は実際簡単な手だと考えた(笑)。だが思ったより難しくて今回また負けるのではないかと思った。その手を打った理由はそこしか打つところがなかったためだ。その手以外はない手であった。そのように称賛を受けてかえって戸惑う。  [チャレンジマッチ]イ・セドル"何にも変えることはできない勝利であった"
 ▲イ・セドル9段が記者たちの質問に答えている。
 イ・セドルvsAlphaGo、第4局プレス ブリーフィング 
 ハサビス"今日のイ・セドルは困難な相手であった"
 驚異的な勝利であった。 難攻不落と見なされたAlphaGoをとうとう押し倒した。シリーズ勝負と関係がなかったがイ・セドルは人間の優秀性を天下に見せてくれた。渾身の働きをした。 自身が持つすべての尽力を注ぎ込んだことは時間使用にもそっくり現れた。90手目で制限時間を全て使って秒読みに入った。あまりにも早い時刻だった。その時AlphaGoは1時間7分も残っていた。108手を打つ前には最後の秒読みに入った。それから囲碁は70余手さらに続いて、イ・セドルは秒読みだけで2時間近くを持ちこたえた。4時間44分間の血がにじんだ死闘。人間の勝利であった。
 ▲プレス ブリーフィングをしているイ・セドル9段、デミス・ハサビスCEO、デービス・シルバーチームリーダー(左側から)。
 イ・セドル9段
 "感謝する。 ひと勝負に勝ったがこのように祝いを受けることは初めてであるようだ(笑)。今回の試合をする前に5-0、4-1このような話をした事を思い出す。 たとえば3-1で先んじているならばひと勝負を負けたのが痛くないだろうかという気がするのだがかえって3連敗にあって1勝をしたのでこのようにうれしいはずがない。 (現場歓声~~) 

 この1勝は本当に以前の何も、今後も変えることはできない本当に値を付けることはできない1勝ではないか…、本当にうれしくてこのように多くの応援と激励のおかげでひと勝負でも勝つことができたのではないのかと思う。 感謝する。"▲ "値打ちを付けることはできない1勝だ" (イ・セドル9段)
 デミス・ハサビス(ディープマインドCEO) 

 "イ・セドル9段に心よりお祝い申し上げる。 本当に素敵な勝利をし、どれくらいものすごい棋士なのかもう一度私たちによく見せてくれた。イ・セドル9段は今日AlphaGoにとってとても手ごわい相手であった。 序盤は事実AlphaGoが優勢だった。 AlphaGoは自らの推定で自身の形勢が優勢だと推定値を出したが、このように進行されてイ・セドル9段の妙手、そして複雑な形勢によってAlphaGoの失敗が出てくる局面が作られた。

 今日の結果はとてもうれしい。 このように韓国で試合を繰り広げるのはAlphaGoの限界をテストするためだ。 AlphaGoの短所が何なのかを分かってこそ今後さらに改善させることができるためだ。 AlphaGoをさらに改善させるためにはイ・セドル9段のような創意的な天才が必要だ。 そうしてこそAlphaGoの問題が何か知ることが出来て、露出させることができるためだ。 

 イ・セドル9段は本当に戦闘的な勢いを見せてくれた。3度の敗北にもかかわらず、立派な試合を見せてくれた。 今日の敗北はAlphaGoにとって非常に大切だ。 英国に戻って棋譜を綿密に検討する事であり、色々な統計数値を見てどんなものが問題になったかを把握して今後AlphaGoを改善する事に活用するだろう。 最後の火曜日に開く対局を期待する。"
 ▲ "今日のイ・セドル9段はAlphaGoにとって手ごわい相手であった。" (ハサビスCEO)
 デービス・シルバー(ディープマインド チームリーダー) 
 "AlphaGoを開発するにあたって重要なことの中の一つはAlphaGoが自ら学習するところにある。 自ら色々な対局を打つようにする事だ。 そのようにして蓄積された知識にはどうしても弱点が存在する他ない。ところが私たちのような開発者は囲碁棋士ではないので弱点が何なのかを把握する事ができない。 それでイ・セドル9段のような世界最強の棋士がAlphaGoとともに試合をおこなうことによってAlphaGoの限界を実験して弱点を把握できるように助けになることだ。今日中央での手順を見ればAlphaGoがたくさん押された。 AlphaGoの限界が試験される瞬間だったし結局短所が露出した。今日習ったことはとても大切な知識だ。 戻ってシステム開発にさらに反映して改善する事に活用するだろう。未来の進歩に寄与するだろうと考える。"
 ▲ "中央でAlphaGoがたくさん押された。" (デービス・シルバーチームリーダー)
 マイケル・レドモンド9段(英語解説担当) 
 "AlphaGoが序盤から興味深く良い試合を進行した。 そうするうちにイ・セドル9段が78手目で妙手を打って、私も驚いた。 相手が誰だろうが、AlphaGoも驚いたことと考える。"  ▲ "イ・セドル9段の妙手に驚いた。" (マイケル・レドモンド9段)
 ソン・テゴン9段(韓国語解説担当) 
 "負担感が著しかったはずなのだがイ・セドル9段が自身の囲碁をよく打って、中央勝負の賭けが粋あった。 ますます対局してAlphaGoの考えを知っていく、慣れて行く、そのような感じがする。 今日AlphaGoの微細な弱点が見えたので5局ではもう少しおもしろい勝負を広げるのではないだろうかと予想される。" ▲ "イ・セドル9段がAlphaGo考えを知っていくようだ。" (ソン・テゴン9段)
 質疑応答 
 AlphaGoが打った手が完全に失敗だったと考えられたのが後ほど妙手と明らかになったりもする。医学に接続させれば、人の生命と関連するといえば混乱を招かないだろうか。
 (ハサビス)"AlphaGoはベータ段階でもなくてアルファ段階でもないので短所とどんな問題があるかは試合を持続的にしていってこそ知ることができる。囲碁はとても美しいゲームだ。医療、保健は完全に違った領域なのでとても厳格な試験段階を経なければならないだろう。ソフトウェア テストが必要だ。AlphaGoと医療側とはまだ差があるということを認められなければならない。"
 AlphaGoは二種類のバージョンがあるといった。シングル バージョンと分散バージョンがあると聞いたが、今日使ったシステムが先立って三回対局したのと他のバージョンではないのか、また、解説者が'失敗'という単語をとてもたくさんするのだが実際に失敗をするのか、人間が理解できないことでないか。そしてAlphaGoの弱点が把握されたのがあるならばどんなものがあるのか。 
 (ハサビス)"分散型システム'バージョン18AlphaGo'を使って、すべての対局で同じバージョンを使っている。シングル バージョンもあることはあったがどうしても分散型よりは弱い。公式的なマッチでは分散型バージョンを使っている。二つ目の質問はAlphaGoの手は人間専門家たちが見るのだが瞬間直観的でないこともある。 その手が後ほど妙手として発見される事もできそのまま失敗でもある。ゲームにあって興味深い点は客観的な基準が存在するということだ。そのゲームの最終勝敗がその手がどんな手であったかを結果で反映すると考える。今日はAlphaGoが負けたのでその手は失敗だったと考える。"
 中押し負け宣言をする時、画面に何か書かれていたのか、また、相手水準に合わせて人為で実力を調整するのかも気になる。
 (シルバー)"色々な手において場合の手、確率計算をする。勝率値を最大化させることがAlphaGoの主目的なのだが、その手を最大化させるために色々手を数えて基準値の下に落ちることになればコンピュータ モニター上で中押し負けに対する部分を表示して、するとAja Hunagがそれを見て中押し負けを確認して物理的に石をおさめることになる。相手が誰なのか、形勢と無関係に常に相手が最高の手を打つという仮定の下に自らの勝率を最大化するための手を計算して出す。それで正確に打ってこそ自身の勝率が最も高くなり、そこにより決めて着手する事になることだ。" 
 今日対局が自身の意図のとおり解けたのかAlphaGoのミスで得た勝利なのか。そしてこれまでAlphaGoをよく知らずにいたという情報の非対称性に対する指摘があったが四回の対局でどの程度解けたのか。
 (イ・セドル)"AlphaGoが露出させた弱点は二つ程度のようだ。基本的には白番より黒番を少し苦しがるのではないのかと思って、自分が思いつかなかった手が打たれた時はバグ形態で数手が進行された。考えられなかった時に対処能力が落ちること、黒番である時少し気兼ねする事が弱点なのではないのかと思う。 そして情報の話があったりしたがもちろんAlphaGoに対して初めからある程度情報があったとすればもう少し簡単になったが基本的に能力が不足しておきたことだと考えるので情報非対称は大きな問題ではないと考える。"
 (ハサビス)"AlphaGoの訓練方式はイ・セドル9段の棋風や方式に合わせてさせたことではなくてそのまま一般的な囲碁訓練をした。インターネットで進行されるアマチュア囲碁ゲームをAlphaGoに教えて訓練させた。そしてAlphaGo自らが碁を打つようにする汎用学習方法を使った。私たちが考えるのだが情報の非対称性はなかったと考える。 イ・セドル9段の棋譜を直接入力したとか集中トレーニングさせたのではない。そのようにしたくてもできない。AlphaGoが学習するには数百万、数千万に達するゲーム情報が必要で数百または、数千個の情報や棋譜だけではAlphaGoを学習させることはできない。"
 3連敗して精神的ダメージが大きくないだろうかと思うファンたちの心配が多かった。今でも残った対局を中断させなければならない話までも出てきたがファンたちに一言、そして残った試合の負担感はないのか、勝利を確信するのか。
 (イ・セドル)"衝撃が最初からなかったとは言えないしある程度はあった(笑)。それでも対局を中断させるほどのそのような状態ではなかった(笑)。結果が良くなくてストレスを受けたが楽しく打ったので大きいダメージを受けた程ではなかった。今回のひと勝負に勝ったからかたくさん飛んで行った。 今回白番で勝ったので最後の5局では黒番で打ちたくて、白番で勝つことより黒番で勝つ方がさらに値打ちがあるので必ず黒番で勝ってみたい。お二方(ハサビスとシルバー)に要請があるのだが最後にニギリをする事になっているが白番では一度勝ったからそのまま黒番で決めておいて対局するのはどうかと提案をしたい。
 (ハサビス)はい、そのようにしましょう。"
 78手目に対して質問をする。当時誰も予想できなかった手を打って、中国の古力9段も'神の一手'といった。その手を打ってどんな考えをしたか。
  (イ・セドル)"より簡単にすることができた、実際(笑)。さらに簡単に何とかなると思ったが思ったよりちょっと難しくて、また、今回負けるのではないかとそのような考えも多く入った。まあ、その手を打った理由はその方法しかなかった、その場面で。他の手はいくら探しても見えないのでやむを得ず打つほかはなかった一手だったがこんなに称賛を受けてかえって戸惑う。▲AlphaGoが推算した勝利確率は77手で70%に達したが87手からは50%以下に急落した。

【「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第5局」】
 2016.3.15日、「Google DeepMind Challenge Match/李セドルvsアルファ碁/第5局」。李9段が初勝利し雪辱を果たし3連敗後、一矢報いた。最終局はニギリで行われる予定だったが、李9段が「先番で勝ちたい。最終局は黒で打たせて欲しい」とハサビス氏に要求し、了承されて先番で打った。

 5局の布石の中で今回が一番セドル9段がいい感じで打てていた。序盤右下で石塔シボリで白を取れて黒形勢良し。開発者の話ではアルファ碁はこの石塔シボリがわからなかったとのこと。その後じわじわとアルファ碁が寄り付き、気がつくと白厚い碁形になっている。黒143手目で割り込みのチャンスがあった。割り込んだら勝負はどうなったのだろうか。セドル9段必死に最善を尽すが投了を余儀なくされた。盤面では黒がいいがコミがかりで白の勝ちは揺るがない。

 対局終了後、韓国棋院は、アルファー碁にプロの名誉9段を贈呈した。

 「『またこれから学ぶことが増えました』AlphaGoとイ・セドルが、囲碁にもたらしたもの、AIにもたらしたもの」。

 DeepMindの囲碁AI「AlphaGo」と世界最高峰の棋士のひとり、イ・セドルとの最後の対局は、AlphaGoの勝利で幕を閉じた。世界中が注目した対局を終え、関係者たちがいま思うこと。AlphaGo Vs. イ・セドル。3月9日に始まった前代未聞の対決は、4勝1敗でAlphaGoの勝利という結果をもって幕を下ろした。囲碁ファンはもとより、囲碁はまったくわからないという人々までをも巻き込んで、全世界が注視するイヴェントとなった「Google DeepMind Challenge」は、人工知能というテクノロジーの驚異を見せつけるとともに、囲碁というゲームの謎めいた奥深さを知らせしめ、そしてその世界におけるトップランナーたちの偉大さを感じさせてくれたのだった。かつてアインシュタインが愛し、アラン・チューリングをも魅了したという「囲碁」。その神秘に人工知能をもって迫ろうとした科学者・エンジニアたちの長年の苦闘を知ればこそ(必読!:なぜ「囲碁」だったのか。なぜ「10年かかる」と言われていたのか──AlphaGo前日譚)、DeepMindの偉業はいっそう価値あるものとして感じられるに違いない。しかし、人工知能によってその「神秘」がすべて明かされ、剥ぎ取られてしまったのかといえば、決してそうではないのだろう。囲碁の謎は、この対局によって、また深まったのかもしれない。

 以下、最終局を終えた、関係者のコメント。

──イ・セドル九段

 「実力というより、集中力で人間はついて行けない」。「有終の美を飾りたかった。人間がまだかなうレベルと思えるだけに悔しい」。「(9日からの全5戦を)心から楽しんだ」。

 「Google DeepMind Challengeが終わってしまいとても残念です。今日はよい形で終わりたいと思っていましたが、希望通りの結果にはなりませんでした。わたしとしてはこの結果に満足していませんが、すべての対局を通じて応援し励ましてくださった皆さんに心より感謝しています」。

 「囲碁はプロ、アマ問わず楽しむべきものだが、過去、自分が本当に囲碁を楽しんでいるのかどうかを疑問に思ったこともあったのですが、今回のAlphaGoとの対局は5戦ともすべて楽しむことができました。創造的なアルファー碁の手を前にショックを感じました。これまでの囲碁格言など我々が正しいと思っていたものを、考え直すきっかけとなりました。AlphaGoとの対局で、わたしは古い考え方に少し疑問をもったような気がします。これから学ぶことが増えました。これからさらに研究が必要ですね」
。

 ─デミス・ハサビス(Google DeepMind ファウンダー・CEO)

 「この10日間、わたしたちは囲碁がもつ素晴らしい文化に触れ、興奮と熱狂を目の当たりにしました。現存する最古のゲームである囲碁に、この1週間、アジアそして世界中の人々の関心が集まったのです。このチャレンジを共催してくださった韓国棋院、そして対局をご覧くださった皆さんに、心より感謝いたします。そしてなにより、快くわたしたちの挑戦を受け入れ、すべての対局においてその驚くべき才能を発揮したイ・セドルさんに最大限の賛辞を送りたいと思います。彼の力なくして、わたしたちはAlphaGoの限界に挑戦することはできなかったでしょう」

 「わたしたちは、プロ棋士達の棋譜を与え、学習させることで、最高の棋士を打ち負かせるシステムをつくれるのかが知りたくて、この挑戦にチャレンジしました。わたし自身の生涯を通しての夢であったその大きな一歩を達成できたことに、いまは興奮を抑えることができません。今後、わたしたちはこの技術を、より高度なスマートフォンのアシスタント技術や医療、翻訳などといった他の分野に応用していきたいと考えています」

──マイケル・レドモンド九段

 「今日の対局は、序盤から終盤まで接戦で、勝敗を見極めるのは困難でした。第4局と同様、アルファ碁は48手目に盤中央付近でミスを犯したように見えましたが、その後、巻き返しに成功し、手が長く複雑な局面に進みました」

 「もしAlphaGoを手軽に自宅で使うことができるようになれば、わたしたちプロ棋士にとって非常に重要な練習ツールとなると思います」

──宋泰坤九段

 「科学者のように、囲碁の棋士も新しいアプローチやこれまでにない手法を日々模索しています。そして、それを見つけたときの喜びは何にも代えがたいものです。今回の一連の対局は、わたしたち棋士がこれまで見たことのない世界を見せてくれました。そして囲碁への関心も高まったと思います。この1週間で、わたしの囲碁の腕前はさらに上達したのではないかと思います」

──クリス・ガーロック(American Go E-Journal マネージングエディター)

 「盤上で繰り広げられたドラマ、歴史的な意味、碁の内容、AlphaGoの想像を超えた技量、イ・セドルさんの才気、そして世界中のメディアの注目と、どれをとっても、このチャレンジマッチは素晴らしかったと思います。これは囲碁への贈り物であり、Google DeepMindのAlphaGo開発チームに心から感謝しています。今回の一連の対局で新たな囲碁のファンが増えると思いますし、これほどの素晴らしいイヴェントになるとは思っていませんでした。本当にどの対局も美しかった。Google DeepMind Challengeはこれまで囲碁がやってきたこと──人びとを結びつけること──を実現しました。対局の美しさと同様に、本当に美しいチャレンジマッチでした」

 関連記事:4億ドルの超知能、DeepMindの正体


 「<囲碁:人間vs人工知能>李世ドル/必ず勝ちたかったが、3連敗した時より今日のほうが辛かった」。
 15日、1週間余りの大長征を終えた李世ドル(イ・セドル)九段は虚しい表情だった。この日ソウル光化門(クァンファムン)のフォーシーズンスホテルで開かれた最終局で彼は、280手の末に中押し負けし1対4でアルファ碁に最終勝利の席を譲った。閉会式などの行事を終えて兄のイ・サンフン九段らと酒の席を囲んでいた彼に単独で会った。酒の席は午後8時から12時まで続いた。

  李九段は4時間中ずっと「第5局に負けて恥ずかしい。囲碁で飯を食っている、囲碁が仕事である人間が、人間的感情を徹底的に排除して碁を打たなければならなかったのに、それができなかった」として自ら叱責していた。「ほかの人々は私を人間的だというが、それは冷静な勝負の世界では話にならない声であり、人間的であることがかえって弱点」とも語った。

  また「私が私を超えななければいけないのにそれができなかった。だが、それは私の限界であって人間の限界だとは思わない」と言った。彼は対局直後、周辺の親しい人に「勝ちたかったが辛すぎる。3連敗よりも辛い」と話して遺憾を表わした。「閉会式に行きたくなかった」と吐露した。

  李九段は「第3局までは情報も足りずまともに戦える状況ではなかった。第4局で勝ち、ただひたすら真剣勝負がしたくて第5局のために一番多く準備したのに残念だ」と口を開いた。この日の対局内容については「上辺を削る時に中央に行くべきだったのに深々と肩をついたために欲張ったし、対局内容が私の望む方向に流れなかった」と残念がった。

  「人々が私を人間的英雄として接してくれるのは感謝しているがプロとしては非常に恥ずかしい。相手が機械だという点を意識して感情的に揺らいだ部分があり、必ず勝ちたいという思いに欲が出た」と話した。

  アルファ碁の実力については「アルファ碁がうまく置いたのはその通りだが、囲碁の神というほどではない。私ではなく若いプロ棋士の朴廷桓(パク・ジョンファン)氏が置いていたら十分に勝てただろう」と話した。「碁を打ってみると人工知能は実質的にまだ人間の領域がついて来られない部分が多かった。ところが私の勝とうとする気持ちに欲が出て、まともに冷静に勝負を展開できなかった。人間の能力の最大値を見せられなかった。それは私の限界、李世ドルの限界だ」と語った。

  彼はまた「今まで人生最大の対局は(中国の)古力九段との10回戦だったが、彼には申し訳ない話だが今回の対局、特に第5局が人生で最も忘れられない対局になった」とした。インタビューをしながらも彼はずっと携帯電話の棋譜アプリで第5局の棋譜を見ながら復碁をし、惜しい点を兄に尋ねていた。

  第5局で黒を選んだ(先手を取った)理由についても詳しく説明した。第4局が終わった後、グーグルのディープマインドのデミス・ハサビスCEOとのティータイムで「アルファ碁が白をとって置く時の勝率が52%だと言うので私は48%の勝率である黒番で挑戦したかった」と話した。「十分に勝つだけのことはあると考えたし心機一転して挑戦したが、負けて残念だ」とした。

  対局中に復碁できず苦しくなかったかと尋ねると「私の手に私が納得することが重要なことで、相手がどんな意図で置いたのかは重要ではない。私がとった手について改善策を探すことが重要だ」と語った。

  家族に対しては「ヘリムと妻に申し訳ない。久しぶりに会ったが気を遣うことができなかった。感情が揺らぐかと思ってヘリムともまともに遊べなかった」とした。

  また李九段は「プロ棋士として再びこんな対局はしたくない。人間的にあまりにも荷が重かった」と、これまで公開的に話さなかった苦しみも訴えた。だが「私がすることにしたのだから、耐えられた。4対1で負けて恥ずかしくなる。弁解の余地がない。それが私の限界」と淡々と吐露した。

 2016.3.13日、「人間を破った人工知能をつくったDeepMindとは何者か?」。
 ついにAIが囲碁で人間を負かした。あと10年はかかるといわれていたその偉業を成し遂げたのは、グーグルが4億ドルで買収したロンドンのAIスタートアップ・DeepMindだ。彼らの軌跡を振り返ってみよう。

 世紀の囲碁決戦に際して、イ・セドル九段(写真左)とともにポーズを取るDeepMindのCEO、デミス・ハサビス。2016年3月9日は、人工知能(AI)の歴史において重要な日となった。世界最高の棋士のひとり、イ・セドルが囲碁AIソフトウェア「AlphaGo」に敗れたのだ。

 関連記事:グーグルの囲碁AI「AlphaGo」が最強の棋士を破った日

 AlphaGoをつくったのは、DeepMind(ディープマインド)というロンドンのスタートアップ。2014年にグーグルが4億ドルで買収した、最注目のAIカンパニーである。

 知性を解明すること

 DeepMindの創業は2010年。彼らのウェブサイトには「知性を解明すること、それにより世界をよりよくすること」というミッションが掲げられている。彼らはディープ・ニューラルネットワークと強化学習アルゴリズムの2つの研究領域を統合することで、そのミッションに挑んでいる。設立時には、ピーター・ティールやイーロン・マスク、Skype共同創業者ジャン・タリン、ホライゾン・ヴェンチャーズの李嘉誠(リ・カシン)らがDeepMindに投資をしている。創業から約3年後にはグーグルが同社を4億ドルで買収した(ちなみにこの金額は、グーグルにとってヨーロッパ地域での過去最大の投資だった)。

 2015年2月、DeepMindは「DQN」(Deep Q-Network)と呼ばれる彼らのAIが、Atari2600用の49本のTVゲームをほとんど何も教えることなくプレイすることができたという内容の論文を『Nature』に提出。ブロック崩しを行うDQNの動画が話題となった。はじめは素人のような動きだったDQNは、数時間のうちにゲームのコツを学んでいき、ついには人間が思いつかなかったような裏技まで発明してしまったのだ。 

 関連記事:ゲーム攻略で人間を超えた人工知能、その名は「DQN」

 3人のブレイン

 DeepMindは、まさにAI研究を行うために生まれてきたようなデミス・ハサビスら3人によって創業されている。

 まず、CEOのデミス・ハサビスだ。1976年ロンドンに生まれたハサビスは、4歳のときからチェスに没頭し、始めて2週間も経たないうちに大人を負かすようになったという。6歳でロンドンのU-8大会のチャンピオンになり、9歳で英国のU-11チームのキャプテンを務めている。13歳のときに、同年代で世界第2位のチェスプレーヤーになった。14歳でGCSE(英国の一般中等教育修了証)を獲得、15歳で数学のAレヴェル、16歳で高等数学・物理学・化学の単位を取得。15歳のときにケンブリッジ大学コンピューターサイエンス学部の試験に合格する(入学は16歳になってからという条件を出された)。ケンブリッジをダブル・ファースト(卒業試験での2科目優等生)で卒業すると、ライオンヘッド・スタジオというゲーム会社に就職。1年後には自身のスタジオ、エリクサーを立ち上げている。その後、認知神経科学の博士号を取るためにロンドン大学ユニヴァーシティカレッジで記憶と想像の研究を行う。彼の論文は2007年、『Science』誌が選ぶ10大ブレークスルーに選ばれている。ハサビスは同大学のギャツビー計算神経科学ユニットで計算神経科学を学びながら、MITとハーヴァードで客員研究員としても働いていた。

 つぎに、AI応用部門ヘッドを務めるムスタファ・スレイマンは、オックスフォードで哲学と神学を専攻したが、2年生のときにドロップアウトし、ビジネスや政治の世界で働き始めることになる(ハサビスの弟とは親友だった)。グーグルによる買収を経た現在では、DeepMindのAI技術をグーグルの製品に統合する仕事を担っている。

 最後に、シェーン・レグ。現在チーフサイエンティストを務める人物だ。彼はニュージーランドの大学で複雑系の理論を学んだあと、スイスのIDSIA(Dalle Molle Institute for Artificial Intelligence)に入り、機械知能の計測方法に関する研究で博士号を取得する。その後、神経科学を学ぶためにユニバーシティカレッジのギャツビー計算神経科学ユニットに移り、ハサビスと出会った。

 20年の梯子

 2016年1月下旬、DeepMindはグーグルによる買収から再び世界を驚かせた。「AlphaGo」と呼ばれる彼らの囲碁ソフトが、15年10月、秘密裏に現欧州チャンピオンであるファン・フイと対局しており、5局すべてでフイを破ったというのだ。

 関連記事:「囲碁の謎」を解いたグーグルの超知能は、人工知能の進化を10年早めた

 そして彼らは、3月には公の場で、AlphaGoが世界最高峰の棋士のひとり、イ・セドルと大局することを宣言。冒頭に記した通り、AlphaGoが勝利を収めたのである。果たしてこの勝利は何を意味するのだろうか? 囲碁という複雑なゲームにおいて、AIが人間を超える次元でふるまったという事実は、“対立”、あるいは“戦略が求められるもの”すべてにおけるAIの可能性を示している(「これには戦争やビジネス、金融取引も含まれる」とディープラーニング研究を行うスタートアップSkymind創業者のクリス・ニコルソンは言う)。ハサビスにとっては、今回の勝利も「小さな一歩」にすぎないのかもしれない。AI研究を現代の「アポロ計画」になぞらえる彼によれば、ディープマインドは「20年ロードマップ」に従っているのだから。

 『WIRED』vol.20「人工知能」特集で掲載したディープマインドについての記事でも、ハサビスは「人間と同等の汎用人工知能ができるのは、まだ何十年も先の話です」と語っている。「ぼくたちはいま、梯子の1段目に登ったところです。この先10や20のブレークスルーを起こさなければ、その梯子が全部でいったい何段あるのか、そして『知性とは何か』を解明することはできないでしょう」。AIの進化は、まだまだ序章にすぎないのだろう。だが少なくとも、ぼくらはその梯子のひとつが登られた瞬間を目にしたのである。


【日本の人工知能ソフト会社ドワンゴが「アルファ碁」に勝てるソフトの開発宣言】
 「世界最強の囲碁ソフト開発へ=米グーグルに挑戦-ドワンゴ」。

 世界最強囲碁ソフト開発の会見に出席した(左から)川上量生ドワンゴ会長、ソフト開発者の山本一成さん、加藤英樹さん、松尾豊准教授、和田紀夫日本棋院理事長=1日午後、東京都千代田区の日本棋院

 ドワンゴ(東京都中央区)などは1日、世界最強の囲碁ソフトを開発するため「DeepZenGo(ディープゼン碁)プロジェクト」をスタートさせると発表した。半年から1年後をめどに米グーグル社などが開発した「アルファ碁」に勝てるソフトを目指す。アルファ碁は昨年、欧州のプロ棋士に5戦全勝。今月9~15日には、世界最強レベルの韓国のイ・セドル九段と5番勝負を戦う予定で、世界の注目を集めている。日本には強豪ソフト「Zen(ゼン)」があり、自ら学習する人工知能開発技術を導入している。Zenの開発者加藤英樹さんは「現時点で、Zenがアルファ碁に勝てる確率は3~4%。これを1年以内に対抗できるところまで引き上げる」と話す。(2016/03/01-16:10)

 2016年03月14日、「囲碁チャンピオンを倒した「AlphaGo」について、チェス世界王者を倒したAI「ディープ・ブルー」の開発者が語るBy Buster Benson」。
 AlphaGoとセドル九段の対局のように、囲碁や将棋、チェスのような知能ゲームの世界トップレベルのプレイヤーと人工知能(AI)が対決することはこれまでにも数多くあったのですが、当時のチェス世界王者であるガルリ・カスパロフ氏を倒したことで世界中から大きな注目を浴びた、AIトッププレイヤーの元祖とでも言うべきIBMの「ディープ・ブルー」の開発者が、AIやAlphaGoについてのインタビューに答えています。

 Googleが2014年初頭に500億円以上をかけて買収した人工知能(AI)開発スタートアップがDeepMindです。GoogleはDeepMindのAI技術を発展させ、これまでコンピューターソフトウェアでは倒すことができなかった囲碁のプロ棋士に挑戦するために、AIソフト「AlphaGo」を開発。そして、2016年3月にはAlphaGoが囲碁界のトップ棋士であるイ・セドル九段に勝利しました。対局は五番勝負となっており、記事作成時点ですでにAlphaGoの3勝1敗と、セドル九段の負け越しは確定しています。

 この歴史的快挙のちょうど20年前、IBMが開発したAIのディープ・ブルーは、チェスの世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏に勝利しました。そのディープ・ブルーを開発したメンバーのひとりであるマレー・キャンベル氏は、現在もIBMで働いており、IBMのAI「Watson」を開発するコグニティブ・コンピューティング部門の上級管理者を務めています。そんなキャンベル氏がディープ・ブルーやGoogleのAlphaGoについて語っています。

 キャンベル氏は当時のディープ・ブルー開発のプロセスについて「我々は純粋な力業ではチェスの世界王者を倒すことができないと考え、その代わりに莫大な計算能力を用いて違いを生み出すというアプローチをとりました」「そこで、AIタイプの先進的なアルゴリズムと、スーパーコンピューターレベルのマシンパワーを導入し、チェスの世界王者レベルのAIソフトを生み出すことに成功しました」と語ります。

 また、ディープ・ブルー開発に「チェスの知識はどれくらい必要だったのか?」という質問に対しては、「ある程度のチェスの知識は必要」と前置きしつつ、開発初期段階では開発者側が強いチェスプレイヤーである必要はなかったし、実際開発者は誰も優れたチェスプレイヤーではなかったことを明かしています。しかし、ディープ・ブルーの開発が最終段階に差し掛かった頃、一般的なグランドマスター(世界チャンピオンを除く、チェス選手の最高位のタイトル)がどのような練習や打ち方をするのかの詳細を調べる必要があったそうで、その際にはプロ選手のグランドマスターであるジョエル・ベンジャミン選手などからアドバイスをもらったそうです。さらに、ディープ・ブルーの完成度を確かめるためにもチェスの上級者と対戦させる必要があった、とのこと。

 現在ではディープ・ブルーは解体されてしまっているのですが、使用されたラックの一部がコンピュータ歴史博物館に展示されています。

 1997年にディープ・ブルーがチェス王者のカスパロフ氏を倒した際、多くのチェスプレイヤーがAIの異常な打ち手に驚いたそうで、そういった人間では打ちそうもない手は「computer move」と呼ばれたそうです。キャンベル氏はこの「computer move」もAIがチェスのプロ選手に勝てた大きな要因とみているそうで、「とても異常な手を打つため、人間は対局の流れを読むことができない」と語っています。しかし、次世代の若いグランドマスターはより有能で、年をとったグランドマスターたちよりも「computer move」に対応できる能力があるそうです。これは「コンピューターと対局することでチェスプレイヤーが成長した証です」とキャンベル氏。

 「コンピューターサイエンスの観点から、囲碁とチェスで求められることの違いはどのようなものでしょうか?」という質問に対しては、囲碁を打ったことがないが多くの知識を持っていると前置きしつつ、「チェスよりもプレイヤーの状況を測るのが難しい」とコメント。囲碁は相手との対話でゲームが動くのに対し、チェスは駒が盤上を動くという異なる性質を持っているので、どちらのプレイヤーがどれだけ駒を持っているのかを見ればどちらのプレイヤーが優勢なのかは推し量りやすいとのこと。しかし、囲碁では必ずしも石を多く持っているからといって対局が優勢に進んでいるというわけではなく、評価が難しいそうです。

 「AlphaGoについてどう思うか?」と云う質問に対するキャンベル氏の回答。(「By Kenming Wang」)
 「AlphaGoは最先端技術を進歩させたものだということが明白にわかる代物で、囲碁の一般的なメカニズムだけでなく、あらゆるゲームのそれを学んでおり、とても感動的なものです」。
 「AlphaGoと同じアプローチ方法でチェス用AIを作成したなら、全てのグランドマスターを倒せるAIが誕生するだろう。それは最先端技術にはなり得ないとのことで、それは最先端のチェス・プログラムが信じられないほど強く、人間よりもはるかに優れたものであるからである。なぜチェス界ではそのような信じられないほど強いプログラムが生まれているのかというと、チェスが囲碁よりも「読み」が重要なゲームだからである。対する囲碁は深読みよりもより直感や目算から、相手がどのように動いてくるかを測ることが重要なゲームだからである」。

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