人工知能開発史考 |
更新日/2020(平成31、5.1栄和改元/栄和2).7.11日
(囲碁吉のショートメッセージ) |
ここで、「イ・セドルと人工知能ソフト/アルファ碁の対局」を確認しておく。「2016.3.9 【第1戦はAlphaGo勝利】もし、AIが囲碁で人間を打ち負かしたなら」その他参照。 2016.03.10日 囲碁吉拝 |
【人工頭脳史その1、「アルファ碁」(AlphaGo)登場前まで】 | ||
1997年、IBM製コンピューター人工知能ソフト「ディープブルー」がチェスの世界王者ガルリ・カスパロフを撃破し、コンピューター人工知能が注目を浴びた。第一戦は1996年にフィラデルフィアで行われ、カスパロフが勝利した。第二戦は1997年にニューヨークで行われ、ディープ・ブルーが勝利し、トーナメント条件下で現役のチェス世界チャンピオンがコンピュータに初めて敗れた。 2002年、元日本チャンピオンの富永健太氏、当時24歳がLogistelloというパソコンソフトに2戦2敗している。今日既にチェス、チェッカー、バックギャモンに於いて人間のチャンピオンに勝利している。 2011年、IBM製コンピューター人工知能ソフト「Watson」(ワトソン)が米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」(「ジョパディ!」)に挑戦し、クイズ王を下し、その能力を誇示した。 日本製人工知能コンピューターも負けずとばかり進化し続けている。2012年、将棋の元名人で永世棋聖にして日本将棋連盟会長の米長邦雄とコンピューター将棋ソフト「ボンクラーズ」が対戦し、ボンクラーズが113手で米長永世棋聖を下した。公式対局で男性棋士がコンピューターソフトに敗れる初事例で、その後も将棋のプロ棋士対コンピューター人工知能の闘いが続いている。 しかしながら囲碁は難攻不落だった。何しろチェス8x8盤、将棋9x9盤に比べて碁盤は19x19盤で、終局までの着手変化数もチェス10の120乗、将棋10の220乗に対し、囲碁は10の360乗(10の800乗)ほどと膨大過ぎる。このことを「先の見えない変化の時代は、囲碁がいい」が次のように解説している。
松井琢磨氏の「爛柯の宴」では次のように解説されている。
「アルファ碁」を開発したディープマインドの共同創設者で最高経営責任者(CEO)のデミス・ハサビス氏が「宇宙の原子の数よりも囲碁の打ち手の数の方が多い(その変化が宇宙にある原子の数以上)」と評すほど人工知能にとって難敵である。囲碁の手数の組み合わせ数は将棋よりも100桁(10の100乗)も多いとも云われている。 別の論じ方として、チェスの平均的な手数はおよそ35通り(平均して24手)、囲碁のそれは250通り(200手近く)とされている。それぞれの手のあとには更に同様の選択肢がある。そういう訳で、余りに手数が多過ぎる為、幾らスーパーコンピューターでも最適な手を探すのが難しい、人工知能が囲碁に立ち向かえるのは無理とされていた。これ故に囲碁が難攻不落の最後の砦と考えられてきた。 ところが、何事も課題があれば挑むのが通例で人工知能の進化が凄まじかった。「勝利は永遠の先」と云われていたのが「勝利は当分先」となり、「少なくともあと10年はかかる」と云われるところまで進歩した。当初の人工知能はコンピューターの計算性能の向上を生かした「力業」で可能な限りの着手を探し出し、それぞれの先を読む方法を開拓してきた。ある局面から終局までの手を多数計算し勝率が高い手を選ぶと云う方法だった。しかしこの手法では、囲碁の場合には終局までの手順が多過ぎて計算が追いつかない。囲碁は攻めと守りが切り分けにくく良い手と悪い手の評価がはっきりしない。そこで囲碁というゲームの特性に合わせた手法として「モンテカルロ木探索」が導入された。この手法は、ランダムな手を打ってその中から最善の手を選ぶという、おおざっぱな先読みをする。これを編み出したことで囲碁ソフトが飛躍した。 |
【人工頭脳史その2、「アルファ碁」(AlphaGo)登場以降】 | ||||
そこへ「アルファ碁」(AlphaGo)が登場し歴史を塗り替えつつある。「アルファ碁」とは、英国の人工知能開発ベンチャーのスタートアップ「ディープマインド」(DeepMind)が開発したコンピュータ人工知能囲碁プログラムソフトを云う。コンピューターの頭脳にあたるCPUを1202個、GPUを176枚搭載し、1秒間に10万の検索も行える高性能囲碁ソフトとなっている。発明者はデビッド・シルバー(「創設者デミス・ハサビスと彼のチーム」ともある)。 ディープマインド社(英国ロンドン)は2010年に設立され、「知性を解明すること、それにより世界をよりよくすること」というミッションが掲げられている。設立時には、ピーター・ティールやイーロン・マスク、Skype共同創業者ジャン・タリン、ホライゾン・ヴェンチャーズの李嘉誠(リ・カシン)らがDeepMindに投資をしている。 DeepMindは、AI研究3名により創業された。トップはCEOのデミス・ハサビス。1976年ロンドンに生まれたハサビスは、4歳のときからチェスに没頭し、始めて2週間も経たないうちに大人を負かすようになったという。6歳でロンドンのU-8大会のチャンピオンになり、9歳で英国のU-11チームのキャプテンを務めている。13歳のときに、同年代で世界第2位のチェスプレーヤーになった。14歳でGCSE(英国の一般中等教育修了証)を獲得、15歳で数学のAレヴェル、16歳で高等数学・物理学・化学の単位を取得。15歳のときにケンブリッジ大学コンピューターサイエンス学部の試験に合格する(入学は16歳になってからという条件を出された)。ケンブリッジをダブル・ファースト(卒業試験での2科目優等生)で卒業すると、ライオンヘッド・スタジオというゲーム会社に就職。1年後には自身のスタジオ、エリクサーを立ち上げている。その後、認知神経科学の博士号を取るためにロンドン大学ユニヴァーシティカレッジで記憶と想像の研究を行う。彼の論文は2007年、Science誌が選ぶ10大ブレークスルーに選ばれている。ハサビスは同大学のギャツビー計算神経科学ユニットで計算神経科学を学びながら、MITとハーヴァードで客員研究員としても働いていた。 次がAI応用部門ヘッドを務めるムスタファ・スレイマン。彼は、オックスフォードで哲学と神学を専攻したが、2年生のときにドロップアウトし、ビジネスや政治の世界で働き始めることになる。ハサビスの弟とは親友だった。グーグルによる買収を経た現在では、DeepMindのAI技術をグーグルの製品に統合する仕事を担っている。
人工知能にとって、ファン・フイ氏との対局が初の対プロ勝利であったが、ファン・フイ氏は欧州囲碁チャンピオンとはいえ中国のプロ2段で世界ランク633位、「腕試し」にしかならなかった。そこで、「アルファ碁」は、ファン・フイ氏との対局後、より強い相手を求めてイギリス囲碁協会を通じ国際囲碁連盟へアジア最強の棋士との対戦を打診した。白羽の矢が当ったのが世界トップクラスの韓国人プロ棋士にして過去10年間のうちの大半を世界ランキングのトップに立っており、恐らく世界最強と目される現役棋士の李セドル9段である。2015.12月末、李セドル9段との対局が決まった。「アルファ碁」は、いきなり世界トップに挑戦することになった。こうして、共に世界最強と言われる人間頭脳と人工知能の頂上決戦が行われることになった。 人間と機械のどちらが優位かをめぐる戦いは過去約10年にわたる人口知能(AI)領域での成果を測る大きな試金石になっている。グーグル社によると、「アルファ碁」はファン・フイ氏との対戦時よりも強くなっていると云う。事前予想は互角である。もし「アルファ碁」が勝てば、人類はいよいよ、良くも悪くも自身の手に負えない「怪物」を生み出したことになる。 2016.3.11日、デミス・ハサビスCEOが韓国・大田で講演し、アルファ碁の実力向上をこう振り返っている。
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「囲碁の謎」を解いたグーグルの超知能は、人工知能の進化を10年早めた」を転載しておく。
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【「Google DeepMind Challenge Match対局前の李セドル9段の心境】 | |||||||||||||||
李セドル9段の対局直前の心境を確認しておく。
1916.2.22日、李セドル9段がソウルの韓国棋院で記者会見を行い、来月行われる人工知能のコンピューターソフト「アルファ碁」との対局(全5戦)への意気込みを次のように語っている。以下は李9段との一問一答。(「[インタビュー]人工知能との囲碁対局に自信 李世ドル九段」参照)
3.8日、対局を翌日に控えた李セドル9段は、ソウル(Seoul)で、デミス・ハサビスCEOのアルファ碁の技術と原理を説明する発表を聞いた後、記者会見で次のように述べた。
李セドル9段の記者会見の弁を聞いたハサビス氏は次のようにコメントした。アルファ碁ならではの強みとして、「疲れないこと、絶対におじけづかないこと」。アルファ碁の弱点について、「今回の対局でこれまで知り得なかった弱点を把握するのではないか。李9段のような天才的な棋士の技量を超える方法を把握したい」。 |
2016.2.25日、中央日報/中央日報日本語版] 「<囲碁>「アルファ碁、李世ドルに完勝する…グーグルの人工知能誇示」(1)」、 「<囲碁>「アルファ碁、李世ドルに完勝する…グーグルの人工知能誇示」(2)」。
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【ディープマインドのハサビスCEOの対局前コメント】 | ||||
2016.3.8日、中央日報/中央日報日本語版 「<囲碁>アルファ碁、勝負に関係なくグーグルが最大の勝利者」。
7日午前に仁川(インチョン)国際空港に到着したグーグル・ディープマインドのデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)は記者らに対し次のように語った。
李9段は次のようにコメントした。
この日、仁川国際空港の入国フロアには約20人の国内外の記者が集まり、「世紀の対決」への関心を表した。アルファベット(グーグル持ち株会社)のシュミット会長も今回の対局を観戦するため、9日に行われる「人間vs人工知能(AI)」の対決の前日8日に入国する。グーグルは大会の賞金に100万ドルを準備した。今回の対局に世界の耳目が集中し既にそれ以上のマーケティング効果を得ている。今回の「ビッグイベント」を生中継するところもユーチューブ。2006年にグーグルが買収した動画プラットホームである。「グーグルが開く祭りをグーグルのプラットホームを通じて全世界に伝える」仕掛けになっている。今後5回の対局の報道予想量まで勘案すると広報効果は金額で表せないほどである。今回の対局はどちらが勝つかに関係なくグーグルが勝者だ。アルファ碁が李九段に勝てばグーグルは人類科学技術史に新しい里程標を立てる。負けても人間の頭脳に挑戦したAIの代名詞企業という名声を固める。グーグルは今回の対局の最も大きな受恵者と見られている。 一回だけのイベントではなく、AIが招く未来の青写真を描くという点でも意味が大きい。モク・ジンソク9段は「囲碁を媒介にAIが人間の頭脳に代わるほど発展できるか公開的に検証する場」と評価した。今回は李9段の勝利を予想する人が多い。しかしこの優位は長く続かないという見方が支配的だ。アルファ碁は従来のAIとは違い、データを学習して推論し、自ら状況に合わせて判断するからだ。 こうしたAIの進化に対して懸念も強まっている。18世紀の産業革命がブルーカラーを追い出したとすれば、21世紀のAIはホワイトカラーを脅かすと云われている。AIの適用過程で法・制度の不備のため社会・経済システムが突然崩れるかもしれないという憂慮もある。 しかしAIが多様な感覚情報を人のように認識するには前途は長い。例えば自動運転車はビニール袋や段ボールを障害物と認識して停止するケースが多い。人間のように「安全に影響を与えないため踏んでかまわない」という判断ができないからだ。ソフトウェア政策研究所のキム・ジンヒョン所長は「李世ドル9段は囲碁もクイズもするが、アルファ碁は囲碁だけをし、ワトソンはクイズだけを解く」とし「AIが社会的な脈絡を理解したり複雑な意思決定をするのは遠い未来の話」と説明した。 |
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「グーグル持株会社会長が来韓 囲碁対局前の懇談会に登場」。 2016.3.8日、米グーグルを傘下に持つアルファベット社のエリック・シュミット会長が、人工知能(AI)のコンピューターソフト「アルファ碁」と韓国のプロ棋士、李セドル9段の対局を観戦するため来韓した。対局に先立ち同日午前にソウル市内で開かれた記者懇談会で、「人工知能と機械学習が発展するたびに人間一人一人が賢く有能になる」としながら、「今回の対局の結果にかかわらず勝者は人類となる」と強調した。AI分野は厳しい時期を経てこの10年間で大きく発展したとしながら、グーグルが開発したさまざまなサービスに言及した。ディープマインドについても、新たな技術を開発して不可能と思われたことを可能にし、囲碁の世界チャンピオンに挑むことになったと述べた。シュミット氏は「人類にとってきょうは大変重要な日になる」とし、こうした技術を守っていけば人間はより賢くなり、究極的により素晴らしい世界になると説いた。 |
2019.2.22日配信「囲碁AIブームに乗って、若手棋士の間で「AWS」が大流行 その理由とは?
」。
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(私論.私見)