-堀さん自身が経営者であり、グロービスとしても経営大学院で未来の経営者を育成しています。囲碁と経営の共通点はありますか。
(囲碁と経営は)ほとんど一緒ですが、3つだけ違うと思っています。1つ目に、経営は複数の人が全く違うポジションで戦っていきますが、囲碁は1対1です。2つ目に、経営には人という要素があって、リーダーによって変わってくる。囲碁は人の要素がなくて、石が同じ力を持っている。3つ目は経済が動いたり、リーマンショックが起こったり、地震が起こったりするんですが、囲碁の場合はそういったことがない。
逆にその3つの要素を加味していくと、囲碁とAIは基本的に一緒。3つの要素を排除すれば、囲碁と経営の複雑性は一緒です。囲碁AIで人間を凌駕するものが作れるならば、経営においても、人間を凌駕するAIができてくる。ゆくゆくはAIが経営をする時代が来る。そのために何が必要か。複数のもっと複雑な経営環境の中で戦っていくということを、ディープラーニングを通して考えていく。人の能力をジャッジする力が必要になってきて、組み合わせた場合の組織の力を考えたり、経済的な要素とか、さまざまな自然災害などの不可抗力を加味していくと、囲碁と経営が、同じAIで判断できるようになる。囲碁AIの開発は、経営のAIを開発する一歩手前だと思っています。
-囲碁AIの開発目的を教えてください。
「GLOBIS-AQZ」によって強い囲碁AIを作ると、今度はそれを使って教育ができる。「グロービス杯世界囲碁U-20」という大会を運営していますが、そこで若手プロ棋士を強くしていこうと考えています。今度は経営の教育を行っていることを考えた場合、囲碁AIを使った教育を考えていきたい。つまり若手プロ棋士、10歳の仲邑菫さんとかもっと若い子に、AIを使った育成の方法論を作ることで、囲碁と経営が近いことを考えれば、経営教育でAIを使っていくこともできるはず。経営教育をやっているグロービスの目的は明確で、AIによって人間の経営者が強くなる可能性があります。
-海外に優秀な囲碁AIがある中で「国産AI」こだわる理由はなんですか。
自動車のF1のように、自ら開発した研究が残り、成果としてそれが日本に残っていくことが大きいと思っています。今度は作ったものを教育に活かしていくことができる。国産であることで研究レベルは上がっていくし、使うことの効果も大きい。AIで日本が戦っていき、日本で活かされることに大きな意味があります。
-囲碁の教育において人間とAIの違いはどこになりますか。
人間が間違えているというと語弊がありますが、定石がガラッと変わってしまったんです。昔はこうやるんだと思っていたもの、人間が言っていたものが(AIによって)否定されている。何が正しいかわからないんですね。今、正しいと言われているのがAIで、神みたいなものが出てきた。神に教わらず、間違ったものに教わってしまうと、間違った方向に育ってしまう。純粋にAIのみで育った方が、強い棋士が生まれていくと思う。変な発想ではなく、AIの頭にしていくことが、これからの棋士の育成法なんではないかなと思います。
-囲碁の世界では「AIネイティブ」という言葉も定着してきました。
これからはAIネイティブのみが生き残っている時代。若い棋士ほど強いですし。七冠を独占していた井山四冠も若手も負け始めている。10代のAIネイティブが、どんどん強くなっていく。AIの進化によって、人間の進化が加速している状況はすごくおもしろいです。
「GLOBIS-AQZ」は世界大会に向けて強化学習の成果を測るとともに、若手棋士育成の一環としてとして、強化学習1日目となる7月10日に天才少女・仲邑菫初段(10)、同5日目となる7月19日に10代ながらトップクラスの実力を誇る芝野虎丸七段(19)と対局を行う。世界一を目指す国産AIの挑戦が、いよいよ本格化する。(C)AbemaTV