人工知能(AI)と将棋棋士の行脚考(藤井聡太の場合)

 更新日/2020(平成31、5.1栄和改元/栄和2).7.18日

 (囲碁吉のショートメッセージ) 
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 2016.01.28日 囲碁吉拝


【人工知能(AI)と棋士の行脚考(藤井聡太の場合)】
 2020.7.17日、日刊スポーツ新聞社(松浦隆司、赤塚辰浩)「谷川浩司九段、藤井棋聖は「大谷選手です」/連載」、 「藤井棋聖のAI超え五感、師匠が茂木氏が分析/連載 」。
 <藤井聡太棋聖が歩む未来~AI時代とともに~>(上)

 歴史的快挙を達成した藤井聡太棋聖(17)が憧れの存在と公言し、同じく14歳、中学2年でデビューした谷川浩司九段(58)が日刊スポーツの取材に応じ、異次元の強さを見せる17歳の「未来」を語った。「将棋の概念を打ち破るかもしれない」。将棋界では人工知能(AI)による研究が全盛時代を迎えている。AIと共存しなければいけない時代、藤井はどんな未来を生きるのか。「藤井聡太棋聖が歩む未来~AI時代とともに~」と題し、3回にわたり、連載をスタートします。

 史上最年少の21歳で棋界の頂点となる名人位を獲得した谷川は、藤井の驚異的な進化に驚きを隠せない。「完成度が高い上に、まだ伸びしろがある」。自らの17歳との比較について「あえてわかりやすい表現をすると」と前置きし、「野球に例えるならストレートの速さは、いい勝負になる。だけど球種と制球力はまったくかなわない」と話した。さらに舌を巻くのは緩急の自在さだ。「棋聖戦の挑戦者決定戦。永瀬2冠と、一直線に切り合う局面になりそうな時、流れをせき止め、緩やかにして、次の戦いに持ち込んだのは印象的だった」。

 90年代、羽生善治九段(49)の最大のライバルだった谷川は「この緩急自在の指し方は、プロでもできる人が少ない。羽生さんはそこがうまい。ただ羽生さんも、さすがに10代後半ではそれは持ち合わせていなかった」と振り返った。

 「怪物」とも呼ばれる17歳はAI世代でもある。平成時代の後期、将棋界に最も大きな影響を与えたのがAIの進化だった。いまでは「人間以上」の棋力とされるソフトを多くのプロ棋士が研究に取り入れている。藤井も例外ではない。ただAIの「答え」をうのみにはしない。AIから得られる知識をうまく生かしながら、自らが考えて結論を出す。新時代にあった「藤井将棋」を作り上げていっている。

 近い将来、急速に発展するAIは、さまざまな分野で人間の仕事を代用できるようになるといわれる。AIと共存するために最も必要とされるのは人間の「先を読む力」だとされる。藤井と対局した棋士が驚くのが「圧倒的な先を見通す力」だ。

 将棋界のレジェンド・谷川が直感する「将棋の考え方、概念を打ち破るかもしれない」。大の阪神ファンの谷川は藤井を「大谷選手です」と例えた。メジャーリーガー、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平(26)は投手と野手の「二刀流」を続け、日米野球界の既成概念を覆した。

 「大谷選手のようにスター性があり、藤井さんの将棋には華がある。プロが見ても、おもしろい将棋。プロ棋士の予想を超える手が出る」。盤上にプロたちもうならせるような「作品」を生み出すことができる。進化したAIをもってしても、藤井の1手を予想できない時がある。天才たちがしのぎを削る将棋界に、どんな変化をもたらすのか。「多くの棋士が藤井の将棋をまねる時代が来るかもしれない」。かつて、そう予言した棋士がいた。

 <藤井聡太棋聖が歩む未来~AI時代とともに~>(中)

 史上最年少で将棋タイトルを獲得した藤井聡太棋聖(17)の地元・愛知県瀬戸市では歴史的な快挙から一夜明けた17日、お祝いムードに包まれた。市役所に「祝プロ棋士藤井聡太棋聖 史上最年少タイトル獲得!」と書かれた懸垂幕が掲げられ、喫茶店でも特別メニューが出されるなどした。藤井は大阪市の関西将棋会館で記者会見。歴史的な快挙を達成した17歳はどんな「未来」を歩むのか。集中連載の2回目をお届けします。

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 「多くの棋士が藤井の将棋をまねる時代が来るかもしれない」。かつて、そう予言したのは師匠の杉本昌隆八段(51)だった。16年10月、最年少の14歳2カ月でプロ入り。数々のスピード記録を塗り替えていた藤井が、まだ四段のときだった。弟子の驚異的な進化のスピードを感じながら、その思いを強くしていた。

 藤井が人工知能(AI)を搭載した将棋ソフトを使うようになったのはプロ入りを争う奨励会の三段リーグ戦に参加した中学生からだった。藤井が小学校時代、杉本は母裕子さん(50)からソフトの使用について相談されたが、待ったをかけた。「自分で考えて自分で結論を出してほしかった。ソフトの判断を信じて思考停止するのが怖かった」。小学4年で弟子入りした藤井は才能が突き抜けていた。「プロのセオリーであったり、こういう指し方のほうが勝率が高い、そんな教え方をしないほうがいい」。手軽にソフトに「答え」を求めるのではなく、思考力を研ぎ澄ませてほしかった。

 初タイトルを奪取した今シリーズは、難解な読み合いが続いた。藤井の強さが集約されていたのは第2局だった。その妙手は「AI超え」とも言われた。攻めのため駒台に置いていた銀を受けに使った「後手3一銀」だ。この局面で4億手を読んだ最強将棋ソフトは当初、最善とは判断しなかった。ところが、長時間かけて6億手まで検討すると、絶妙手と分かった。藤井は23分考えて指した。最善手を短時間で指す「6億手を読む棋士」。最強将棋ソフトが導き出す「定跡」を覆す藤井将棋の真骨頂だった。

 杉本は言う。「たぶんひらめきが先にきている。読みから入ったら速すぎる」。では、そのひらめきはどこから来るのか。「人間」藤井が持つ感性から生まれるのではないかとみている。

 脳科学者の茂木健一郎氏(57)は「定跡を研究するより、ゼロから自分で考えて最善手を導き出す。そのアプローチが徹底している。藤井さんは、常識とか知識にとらわれない、自由形の思考回路の持ち主。AI時代における人間の学習方法のモデルケースであり、偉大な実験の先頭を行く麒麟児(きりんじ)でしょう」と言う。

 藤井はAIに思考を委ねることの危険性も自覚している。第4局の終局後の記者会見で「ソフトの読み筋や評価値を見て、自分の考えと照らし合わせてという使い方が多いです」。ITと棋士がどう協調していくのか。その道を探った中学生棋士としてデビューした「先駆者」がいた。


 2023.10.12日、「将棋AI「水匠」の開発者が語る 藤井聡太八冠が「AI超え」をする理由」。
 「AI超え」。藤井聡太八冠(21)が繰り出す妙手は時に、何億通りもの候補から最適解を即座に導き出す人工知能を上回ると評されることがある。だが、その人間離れした強さの理由は、人間だからこその強さでもあった。2020年の世界コンピューター将棋オンライン大会、22年の世界将棋AI電竜戦で優勝し、藤井も研究に活用している将棋ソフト「水匠(すいしょう)」開発者の杉村達也さんに話を聞いた。(瀬戸 花音)

 藤井はなぜ、AIを陵駕(りょうが)する手を指すことができるのか? 杉村さんは、藤井の強さの理由に「良い手に早くたどり着く大局観」「最善を指し続けられる精度の高さ」「人間的に難易度が高い局面を提示する能力」を挙げた。  最新の「水匠」では、1秒間に1億手近い候補手を読むことができる。それでも、人間がより早く最善手にたどり着く可能性はあるという。大局観という点では、2つのポイントがある。「『この手もあるんじゃないか』と思いつく力。かつ『この手はいい手なんだ』と評価できる力。その2つがかみ合わさって妙手が生まれているのではないか。AIは網羅的に手を調べますが、ピンポイントに良い手だけを読む藤井先生の力が、将棋AIを上回る時がある」とした。  また、藤井の精度の高さの理由は、AIを使った研究方法にあるともみている。「序盤研究と自身の対局の振り返りにAIを使う棋士が多いですが、藤井先生は他に自分の知らない局面から将棋AIと実際に指してみることがあると聞く。中盤の大局観や終盤の読みの力を鍛えるためにやったのではないかと。それで鍛えられたからなのかは分かりませんが、最善を指し続けられる強さがあります」 「対人間」間違えさせる能力 何より強さの要因として最も大きいと考えるのが、対人間にのみ使える「間違えさせる」能力だ。杉村さんは例として、今年6月の王座戦本戦、村田顕弘六段戦を挙げた。藤井は最終盤で自玉の逃げ道を作るため銀を上がり、圧倒的劣勢から大逆転につなげた。  「これはAI的にはいい手じゃない。ただ、相手の選択肢がとても多い局面だった」。杉村さんは、人間的にどの手が指しやすいかという数値を推定選択率と呼んでいるそうだが「この局面で推定選択率が80%の手はなくて、村田先生は20%、20%…と並んでいる中で一つだけの正解をみつけなければならなかった」。  藤井は惑わせる手を指し、村田は誤った選択をした。「相手を間違えさせる手を選ぶのはAIにはない感覚。人間に勝つという意味ではAIを超えているかもしれません」と、藤井のすごさを語った。  

 20世紀からコンピューターが詰将棋を解くことは研究されていたが、棋士との対戦は21世紀に入ってから。

 2005年、棋士として平手(ハンデなし)で初めて対局した橋本崇載五段(肩書は当時、以下同)が、特別公開対局で「タコス」に大苦戦するも126手で辛勝した。  
 07年、渡辺明竜王が「ボナンザ」と大和証券杯ネット将棋棋戦の特別対局で激突。序盤は苦戦を強いられたが、後半で渡辺竜王が貫禄を示し112手で勝利。
 10年、清水市代女流王将が「あから2010」と対局し、大激戦の末に敗れた。  
 13年、棋士とコンピューターが五番勝負を戦う「第2回電王戦」第2局で「ポナンザ」が佐藤慎一四段に勝利し、公の場で初めて現役棋士に勝ったAIに。
 17年には「ポナンザ」が佐藤天彦名人に2連勝し、“名人超えAI”の誕生は棋界に衝撃を与えた。藤井は16年から研究にAIを使用している。  

 ◆藤井の大逆転劇  ▼2020年7月13、14日・王位戦第2局 先手の木村一基王位が相掛かりを選択。一時はAI評価値85%と優勢になったが、藤井が粘って終盤に攻防の妙手を放つ。双方1分将棋に入り、最後は木村の猛攻をかわした藤井が逆転で2勝目を挙げた。  ▼21年2月11日・朝日杯準決勝 渡辺明名人が終盤、一時はAI評価値99%と圧倒的優勢になったが、藤井が粘り強く指し続け大逆転勝ち。「一瞬勝ちかなと思ったんですけど、間違えてしまいました」(渡辺)  ▼23年9月27日・王座戦第3局 後手の永瀬王座が中盤のねじり合いから攻めを続け、終盤にはAIの評価値が永瀬優勢90%に。しかし藤井の王手に永瀬が対応を誤り形勢逆転。秒読みの中、正確に寄せ切って2勝目を挙げ、王座奪取に王手をかけた。

報知新聞社











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