碁盤、碁石、碁笥/考

 更新日/2023(平成31.5.1栄和改元/栄和5).7.12日

 (囲碁吉のショートメッセージ) 
 ここで、「碁盤、碁石、碁笥」について確認しておく。

 2005.6.4日 囲碁吉拝


【碁盤の素材について】
 囲碁の道具は基本的に碁盤(ごばん)、碁石(ごいし)、碁笥(ごけ)の3つです。
 囲碁・将棋用具には以下のような材を使っている。(「碁盤の素材について」参照)
碁盤材 本榧(かや)が一番。他にヒバ(草槇)、ヒノキ(檜)、イチョウ(公孫樹)、新榧(スプルース)、桂、合成圧縮材
碁器箱材 桐、もみ
盤覆材 桐、布
碁石材
白石 日向産蛤石、メキシコ産蛤石、プラスティック白石、硬質ガラス白石
黒石 那智黒石、プラスティック黒石、硬質ガラス黒石
碁器(碁笥)材 栗、紫檀(したん)、欅(けやき)、黒壇、桜本桑、花林、中国桑、プラスティック特殊材
将棋盤材 囲碁盤材と同じ。本榧、ヒバ(草槇)、ヒノキ(檜)、イチョウ(公孫樹)、新榧(スプルース)、桂、合成圧縮材
盤覆材 桐、布
駒材 本ツゲ、シャムつげ、椿、イタヤ(カエデ)
駒箱材 桐、榧、桑、黒柿、黒檀
駒台箱
駒台材 本榧、本桑、新榧(スプルース)、桂

【碁石の基礎知識】
 碁石は白石と黒石の二種類で丸い形をしています。標準のサイズは白石の直径7分2厘(りん)(2.19㎝)、黒石の直径7分3厘(りん)(2.37㎝)。黒石が白石より一回り大きいのは白が膨張色、黒が収斂色の為、調整している。石の厚さは、黒石が白石より2分(0.6mm)厚い。実際の厚さは様々であるが但しあまり厚いとコロコロする。碁石は厚さで等級をつけていて34号(9.5ミリ)、33号(9.2ミリ)、32号(8.8ミリ)となっている。

 石の数は盤に置くことができる限度を考えて、通常黒石181個、白石180個が用意されている。普通の囲碁の対局では、これほどの石が使われることなくゲームが終了する。ただし、囲碁では、盤上の石が取り去られて、その取り去られた跡にまた石を置くことがあったり、コウ争いで石を使うことがあり、稀にゲームの手数が361手を超えることもある。その場合には、石が足りなくなる。そのときは通常、使い終わった石を交換したりして解決している。

 白石の自然物は蛤(はまぐり)から作られている。10キロ海岸の日向の御倉ケ浜でとれる蛤を最高とする(「日向産小倉浜で取れるスワブテ蛤」ともある)。生産量は限られるので輸入物に頼ることになる。「メキシコ産」が多い。碁石の品質は「雪印」、「月印」、「花印」、「実用品」とランクされる。なお、「日向特産雪印」のように「特産」とあれば日向蛤を意味している。これを「本蛤」とも云う。「日向特製雪印」と「特製」とあればメキシコ産を意味している。「日向産」は宝石と同じで一個数万円する。それが180個であるから大変な金額になる。

 黒石は「那智黒石」(和歌山県東牟婁(むろ)郡那智)(三重県熊野市で産する黒色頁岩または粘板岩)が名品とされる。

 一般に色には色相、明度、彩度の三要素がある。色相は、「赤味がかったリンゴ」などというときの「色のアジ」。明度は「明るさ」。彩度は「あ ざやかさ」。黒と白は色相ゼロ、彩度ゼロ、明度しかない。ほかの有彩色と区別して無彩色と云う。黒と白はすべての色の明度の両端に位置しており、原初の色-色の元祖である。この元素的対称性から白黒が使われていると思われる。ちなみに白の意味には「賢い、清い、飾らない」等の意味がある。黒の意味には「天の色、尾玄(くろ)に通じる奥深い、何度も染め直した黒い色」等の意味がある。上手、下手の色は、昔は上手が黒、下手が白であったが今は逆に上手が白、下手が黒を持つ。
 「碁石」を参照する。
 碁石に関する日本最古の文献は733年頃成立の風土記に見られ、常陸国風土記に鹿島のハマグリの碁石が名産として記述されている。また出雲国風土記に「玉結浜」の伝説があり、この海岸からも碁石に適した石が採れたという。奈良県の藤原京で発掘された碁石は丸い自然石で、材質は黒石が黒色頁岩、白石が砂岩。7世紀末~8世紀始めに使用されていたと推定される(週間碁)。自然石の碁石は江戸期まで使用された。本因坊道策が幼いころ使ったという碁盤と自然石の碁石が現存している。

 正倉院に所蔵された聖武天皇愛用の碁石は紅牙撥鏤碁子(こうげばちるのきし)と名づけられ、直径1.6cm 厚さ0.8cm。当初は600枚が納められたと伝えられるが現存するのは252枚である。象牙を染めて花鳥の文様を彫り付けたものであり、色は緑と紅色である。源氏物語絵巻では碁石は黒と白のものが使用されていることがわかる。

 現在は黒は黒色の石を用い、那智黒石(三重県熊野市で産する黒色頁岩または粘板岩)が名品とされる。白はハマグリの貝殻を型抜きして磨いたものである。碁石の材料となるハマグリの代表的な産地は古くは鹿島海岸や志摩の答志島、淡路島、鎌倉海岸、三河なども碁石を産した。鹿島のハマグリは殻が薄く、明治期の落語の速記本に「せんべいの生みたく反っくりけえった石」と描写されるように、古い碁石は5mm以下の薄いものが多い。その後、文久年間に宮崎県日向市付近の日向灘沿岸で貝が採取されるようになり、明治中期には他の産地の衰退とともに市場を独占し上物として珍重された。現在では取り尽くされてほとんど枯渇してしまっている。現在一般に出回っているものはメキシコ産である。黒石に対してハマグリ製の白石は非常に値が張る。高級品は貝殻の層(縞のように見える)が目立たず、時間がたっても層がはがれたり変色したりしない。

 ハマグリの碁石は庶民が気軽に買えるものではなく、明治期には陶器や竹製の安物の碁石が存在した。大正時代にガラスの碁石が試作されたが、当初は硬化ガラスではなく普通のガラスだったので極めて割れやすいものだった。その後プラスチックや硬質ガラス製の製品が出回った。安価な用具の大量生産が囲碁の普及に果たした役割は大きいと言える。近年では持ち運び用のマグネット製のものもある。メノウ製の高級品もある。


【碁盤の基礎知識】
 碁盤はほぼ正方形で、現在の標準的な盤は縦45.45cm×横42.42cmとやや(1寸3㎝)縦長に作られている。縁4分(1.21㎝)、脚の長さ4寸(12.12㎝)。本因坊道悦が門下の板垣友仙と吟味し定めた標本碁盤の寸法は、総高7寸8分(23.6㎝)、厚3寸九分(11.8㎝)、長1尺4寸5分(43.9㎝)、広1尺3寸5分(40.9㎝)、縁3分(0.9㎝)。

 盤の上には縦19本、横19本の直線が網の目状に引かれている。これを十九路盤と云う。これが囲碁の正規盤である。入門者用、初心者用として9×9の九路盤、13×13の十三路盤の小型盤が使われる。

 このような網の目のように線を引いた盤を使うゲームとしては、囲碁の他に将棋、チェス、オセロ、チェッカー、連珠(五目並べ)などがある。将棋やチェスでは、盤のマス目の中に駒を置いてゲームを行うが、囲碁では、中国将棋や連珠と同じで、マス目の中ではなく、縦線と横線が交わる交点に石を置く。十九路盤では交点の数は19×19の361個所になる。


 盤は日向榧(かや)が最高級。榧の大木は少ない為、普通は桂などで作る。近年、新榧と称する榧に似た木から作られた盤が売られている。輸入されたスプルース材で作られており本榧に比べて格段に安い。
 厚い足付き碁盤の裏側の中央部分には窪み(へこみ)がある。これは「へそ」と呼ばれる。木材の乾燥による歪みや割れの防止と、石を打った時の音の響きを良くする効果があって作られている。2寸程度の薄い足付き盤にはへこみはない。

 このへこみは別名「血溜まり」とも呼ばれている。これは、「待った」をした者の首を載せるところ、あるいは対局中に横から口を挟む人間の首を刎ね、このくぼみに乗せるところとも云うと戒められている。

【碁盤足の基礎知識】
 碁盤の足の先端はクチナシの実に似せてあり「クチナシ足」と云われる。クチナシは、本州中部以南でポピュラーなアカネ科の常緑低木。クチナシの実は、「長さ三センチの長楕円形で蕚筒(がくとう)に包まれたまま黄赤色に熟す。実が蕚筒に包まれたまま熟す、つまり口を開かずに熟すので「口なし」とシャレたのが木の名の語源のようである。漢方では山梔子(さんしし)といって利尿剤にする。古くから黄色染料に用いられ、碁石の黒・白に一番能く調和する盤面の色になっている。碁盤の足は最初からクチナシ足だった訳ではない。早くても近世の初頭にようやく生まれ、時代とともに正統派としての地歩を占め、現代に入って広く普及したようである。

 碁盤のクチナシ足は対局者に「”口なし” であれ」と緘口令布く意図を持つと云われる。正しくは、囲碁の別称「手談」に由来すると思われる。「手談」は、二千年以上も前の中国の晋の時代の支道林という博学の坊さんが考え出した囲碁の古い古い別称である。意味は、「盤をはさんで碁を囲めば、 まったく無言-”口なし”-で対局者の情意は通い合う」。いかにも高僧の創作にふさわしく、ゲームとしての囲碁の真髄の一半を洞察した別称である。

【碁笥(ごけ)の基礎知識】
 碁石の入れ物を碁笥(ゴケ)と云う。対局が始まると、碁笥の蓋を取り、碁笥(ゴケ)の中から碁石を取り、碁盤上の任意の好点に打ち置く。碁笥の蓋は裏返して置き、その凹みの中にゲームの進行中に捕えた相手の石を収納し保管する。相手が石数を数え易いようにするのが原則です。





(私論.私見)