国際民営軍隊(現代傭兵軍)考

 (れんだいこのショートメッセージ) 
 読売、産経が、2005.5.10日に発生した仮称「斉藤捕虜事件」に言及しないとしたら滑稽なことだ。自己責任論の論陣を堂々と張ってみよ。且つこうした「現代傭兵軍」の実態を明るみに出して是認してみよ。お前達の口の廻し方を聞いて見たいぜよ。

 2005.5.13日 れんだいこ拝


【「日本人傭兵被捕獲事件」】 
 2005.5.10日、イラクのバグダッド西方約180キロのアルアサド付近で、民間軍事会社(PMC)の英国系民間軍事及び警備会社ハート・グループ社の邦人社員・斎藤昭彦(東京出身の44歳、元自衛隊員)氏が、武装組織「アンサール・スンナ軍」に拘束されたとみられる事件が発生した。ハート社担当者から入った連絡では「7遺体を確認。生存者はイラク人4人、英国人1人、南アフリカ人1人」とされた。斎藤さんの安否は不明、但し襲撃の際に斎藤さんがけがをしたという生存者の目撃情報が寄せられている。

 一行を襲撃した武装勢力のアンサール・アルスンナ軍は、イスラム教スンニ派の武装組織。これまでもイラクで多くの外国人拉致、殺害を行ってきた。犯行声明で、全員を拘束して16人を殺害、1人を拘束したとしている。

 イラク戦争後に現地で日本人が巻き込まれたこれまでの事件は次の通リ。
2003.11月  外務省の奥克彦参事官(当時)ら2名殺害事件。
2004.4月  ファルージャ西方でNGO活動家の高遠菜穂子さんら3名拘束事件。
同年4月  バグダッド西方でフリージャーナリストの安田純平さんらが武装グループに拉致された事件。
同年5月  フリージャーナリストの橋田信介さんら2人が殺害された事件。
同年10月  旅行者香田証生さんが人質に取られ殺害された事件

 5.11日、小泉首相は、午前の参院本会議で「仮に(斎藤さんの)拘束が事実であるとすれば、一刻も早い無事の解放に向け全力をあげて取り組む考えだ」と述べた。細田官房長官は記者会見で「拘束されているかどうかを含めて安否は不明だ」と語った。小泉首相は今のところ「自己責任論」を述べていない。「高遠菜穂子さんら3名拘束事件」時の対応差が注目される。
 斎藤氏は、陸上自衛隊勤務2年間(その間、対テロ・ゲリラ戦部隊にも人材を出すエリート集団第一空挺(くうてい)団にも所属)を経てフランス外国人部隊に21年勤務したエキスパート軍人だった。

 「仲間にはロシアや東欧、中国、アフリカ諸国、フランス人、韓国軍の精鋭部隊から転身してきた者もいた。日本人の姿もあちこちで見かけた。九一年に始まった湾岸戦争時は約六十人いたという」とある(「日本人が世界の無法者として嫌われるのを恥じる必要がある」)。
 斉藤氏が元自衛隊員にして海外で傭兵的な仕事をしていたことが判明したが、これは由々しきことではなかろうか。日本政府がどこまで承知していたのか、あるいは裏で関与している可能性は無いのか、日本が既にアメリカの下請けとして「民営」的に参戦している可能性は無いのか。これらはいずれも政府の政治責任が問われる問題であり、この事件を契機に早急に実態解明されねばならない。

 小泉首相のイラク戦争関与を批判して退官させられた元外務官僚・天木氏は、「今日の言葉」で次のように述べている。
 「それは日本の自衛隊にかつて勤務し、訓練を受けていた者が、いかなる理由にせよ、みずから外国の傭兵に志願し、世界の戦争に参加していたこと、そして今度のイラク戦争でイラク人に敵対し米軍を警護していた事を我々日本国民はどう考えればよいか、自衛隊幹部や防衛庁長官、小泉首相はどう考えるのかと言う点である。平和憲法の下で、専守防衛の自衛隊が、自衛隊員をどのように教育しているか私は知らない。しかしたとえ平和教育をしているとしても自衛隊は軍隊である、軍隊である以上、実戦に憧れる、そして実戦に従事すれば人を殺す事に専念する、それを仕損じた時に敵の攻撃にさらされる、これが戦争の現実なのである。税金を使って育て上げた専守防衛の自衛隊員の中には斎藤氏以外にも同様の考えを持った者が他にもいるという記事を読んだ。我々はこれを真剣に考えるべきだろう。

 イラク情勢はかつてないほど危険になってきている。もはや世界の誰も今のような状態でイラクの治安が回復するとは思っていないであろう。あのアフガニスタンの状況さえ治安回復には程遠いのだ。そんな中で一人米国だけが民主化は成功させるとテロ掃討作戦を激化させている。世界は最悪の方向へ向かいつつあるような気がする」。

【チェイニー米国副副大統領が黒幕】 

 「外国人部隊史」は今や検証されるに値するが定本は無い。

 ちなみに、ハート・グループ社の履歴は次の通り。1997.7月、SAS士官のリチャード・ベセル氏が設立した。ほかの警備会社も英国のSASに起源がある。SASは1941年に対ドイツ戦のため、創設された。その創始者デビッド・スティアリング氏が1967年に設立した「ウオッチ・ガード・インターナショナル」社が一連の傭兵警備会社のはしりとされる。同社は当時、主に湾岸首長国の軍の訓練に当たっていた。1975年にもSAS士官の三人が「コントロール・リスク」社を設立している。

 1980年代に入り、米レーガン、英サッチャー両政権が掲げた民営化政策では軍も例外ではなく「軍隊の民営化」が加速した。米国では1985年、LOGCAP(兵站(へいたん)民間補強計画)が導入された。湾岸戦争終結後の1991年、チェイニー米国防長官(当時)は民間委託で何ができるかを調査させ、それを実行に移したのがボスニア紛争だった。

 チェイニー副大統領が最高経営責任者(CEO)を務めていたハリバートン社の子会社「ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)」社が急成長する。もはや、「(米国の)28%の武力が既に民間に委ねられており、民間軍事会社抜きに戦争はできない」とまで云われている。KBR社と米ブーズ・アンド・ハミルトン社の二社だけで、イラクに限っても国防総省発注業務の九割を受注している。

 1990年代には冷戦崩壊と南アでのアパルトヘイト(人種隔離)政策の禁止で、旧ソ連兵や南アの白人兵士があふれた。彼らが、米中枢同時テロ後のアフガン、イラク戦争で駆りだされ、傭兵市場は空前のバブルに沸いているという。

 
「表立ってできない軍事作戦をPMCを通じて行えば、国家として責任を問われないし、PMC側も『特定の国から命じられたわけではない』と言い逃れることができる」(江畑氏)という“便利さ”は、資金洗浄(マネーロンダリング)にも似た面をもつ。

 「傭兵の法的な立場」が問題になる。「傭兵はジュネーブ条約で保護された兵士ではないため国際法上の規定がない。よって万一相手の部隊に拘束された場合、非戦闘員の人道的待遇を定めたジュネーブ条約の適用を受けられない。当然補償はない」、「民間警備会社の傭兵が人を殺害した場合など傭兵の行為は、法的にどうなのか」。まさに現実が法を上回って動いていることになる。

【国際民営軍隊(現代傭兵軍)の驚くべき実態】
 この事件により、国際民営軍隊(現代傭兵軍)の驚くべき実態が露呈しつつある。高給に釣られてのビジネス感覚ないしは「実戦経験を磨きたい」という思惑ないしは何らかの事情で志願する者が多い、と云う。

 フランス外国人部隊の場合、志願者の国籍や宗教、政治信条が一切問われず、5年間勤務すれば仏国籍を取得でき、5年の契約期間を更新して、計15年勤務すれば年金も受給できることから旧東欧諸国の出身者が増えている。約7600人の隊員を抱える同部隊の2003年の入隊者は、1位がルーマニアの138人で、ポーランド(65人)、ハンガリー(58人)、ロシア(54人)、スロバキア(45人)と続き、上位5位を旧東欧諸国が占めている、と云う。

 こうした「アウトソーシング(外部委託)」系軍事請負民間会社PMCは既に50ー60社存在し、進出外資企業の保全は無論のこと非政府組織(NGO)、国連機関もPMCなしには活動できない現実があると云われている。「イラクには、戦争請負会社、民間警備会社を通じて、傭兵が二万人入っているといわれている」。

 その最大手は米ハリバートン社の子会社ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)社。米国の報道では、同社は下請け会社などを通じ、イラク−クウェート地域に二万四千人を配置し、補給線を設け、常時七百台以上のトラックを輸送に当たらせている。2003.4月以降、米軍の食事4千万食や食事施設64カ所を提供、大量の洗濯物やごみの処理、郵便物運搬なども行っている。

 同社は米国政府や米軍との間で計百八十億ドルもの業務委託契約を結んでいるとされ、有事となれば15日以内に米軍2万5千人のための兵站(へいたん)支援を確保するとの契約をしているという。

 ハリバートン社をめぐっては、2000年までの5年間、チェイニー米副大統領が最高経営責任者(CEO)で、政権中枢との癒着が指摘される。水増し請求などでも批判され、昨年には米連邦捜査局(FBI)が捜査着手との報道も。

 「民間軍事会社の分類と主な業務」は次の通り。

直接的戦争関与  戦略や作戦の立案に関する助言、実際の戦闘に参戦。
後方支援的戦争関与  軍隊及び物資の補給、輸送、情報収集などに関する助言や業務。
間接的戦争関与1  捕虜の尋問拷問。アブグレイブ刑務所での虐待には米国の警備会社がかかわっている。
間接的戦争関与2  スパイの養成訓練。
安全保障警備  政府、軍隊、国際機関、企業や関係者の警備、危機管理。
軍事コンサルティング  戦略や作戦の分析、軍組織運営などに関する助言や訓練。

 日本人傭兵はどのくらいいるのか。「湾岸戦争時には、フランス外人部隊八千人のうち、1%に当たる八十人が日本人だった」と云われている。民間警備会社は詳細を明かさないので実態不明。





(私論.私見)