田中真紀子外相に対するアーミテージのいたぶり |
第一次小泉内閣発足時の田中真紀子外相就任間もなく「アーミテージとの会談キャンセル」が問題になったことがある。マスコミ・メディアはこぞって田中外相の無能力を批判したが、れんだいこは、この問題にはかなり深い意味があると考えるようになった。 そこで、インターネットで資料検索してみたが日時さえはっきりしない。当時れんだいこはさほど注目しなかったので記録を残していない。辛うじて手に入る資料を元に最低限云っておかねばならないことを以下記録しておく。 2004.3.15日 れんだいこ拝 |
インターネット検索で呼び出したところ「外交−田中外相について」なるサイトが出てきた。「Copyright(C)1999-2001 Policy Research & Analysis
Network http://pranj.org 許可無く転載することを禁じます」とあるので要約しようと思うが、論者の多くが一様に田中外相の無能ぶりを責めていることで共通しているように思われる。 渡部恒雄(CSIS戦略国際問題研究所主任研究員)は、「日本政府では極めて一般的な、しかし致命的な問題を、さらけ出してしまいました」、「外相をきちんと抑えられないのは首相の責任だと思います」と批判している。加瀬みき(アメリカンエンタープライズ研究所客員研究員)も、「内閣の一員がばらばらの(田中外相の場合はあまりにも外交音痴、その上国益にも反する)言動をするようでは、国としての政策が遂行できるはずはありません。またそれを許すようでは政府の長(head of government)としての資質が問われます」と批判している。 田中外相にそういう批判を浴びせる他方で、アーミテージに対しては次のような歯の浮くようなお世辞を垂らしている。前述の渡部氏は、「アーミテージ氏というのは、私自身も面識がありますが、官僚的ではなく、ダイナミックかつ真摯に物事を考え、かつ人間関係を大事にするきわめて魅力的な人物です。それゆえに、ワシントンのおける彼の強い影響力があるわけです」、「アーミテージ国務副長官というのは、ワシントンにおける対日政策の中心人物であり、8年間のクリントン政権はおろか、日米関係を重視していたレーガン、ブッシュ政権でも存在しなかった日米同盟派の最も力のある政府高官です。彼は、パウエル国務長官の親友ですし、昨年の大統領選挙中はブッシュ候補の外交安保問題の指南役でした。例えば、クリントン政権後期では、対日政策の中心は、国防次官補代理のキャンベル氏(現在は私のいる研究所の副所長)でしたが、国務副長官と国防次官補代理のランクの違いは、日本の役職でいえば、外務次官と局次長、あるいは副社長と部長代理ぐらい違います」と大物振りを指摘している。 加瀬氏も、「アーミーテージが受けたひどい扱いがアメリカで報道されない理由の少なくとも大きな理由は彼自身がそれを望まないからだと思います。アーミーテージはそもそも親日派というレッテルをはられている人物。その彼が日本を批判したらどのようなことになるかは明瞭です。ブッシュ政権の日本に対する印象を悪くし、今後の関係をぎくしゃくしたもににするばかりでなく、日本を理解し、真のパートナーとなることを望んでいるアーミーテージの立場を非常に悪くします」、「中国ロビーばかりでなく日本をなんとなくうさんくさいと思う、あるいは不信感を抱く人は少なくないのですから。レーガン政権時代にアーミーテージが受けた批判をみてもそれは明らかです。アーミーテージ氏本人は大きな目的のためには些細なことにいちいちぶつぶつ言う人ではありません。しかし、彼の立場、そしてなんと言っても重要性(Powellが一番信頼している友でおまけに今回は大統領のある意味で「特使」)を全く無視した対応は外交上大問題になってもいいものです。アメリカで問題にならないのは本当に幸運です」と述べている。 しかし、世間は広い。野矢テツヲ氏の「アーミテージ書簡をめぐる論争を評す」なる副題付きの「NMDに関する田中外相の見解(1)」で貴重な指摘が為されている。それによれば、野矢氏はアーミテージの人物的危険性を指摘し、これと一定の距離を保った田中外相の外交能力振りを評価するという見解を披瀝する事で一家言為している。 野矢氏は、我が国の国防対策として「ミサイル防衛システム(NMD)計画」が推し進められている状況を指摘し、このことに関して、「我が国は未曾有の世界的国際緊張の中に引き入れられるばかりでなく、意図に反して核戦争そのものの戦場となる恐れがある」として反対している。小泉政権はこれを推進しており、田中外相は危惧を表明していたと云う。「従って、田中外相が個人的にこれに関して反対の意見を抱いているのは当然のことであり、さらに伝えられているように、機会を捉えた私的、公的発言の形で各国外相にこの見解を披瀝したとされているのが事実であるとすれば、これは内外の世論の喚起を狙った賢明な政治的マヌーバーとして、極めて適切な言動として高く評価されるべきである」と述べている。 外務省高官の田中外相イジメも次のように分析されている。「これに対して、一部の外務省在職者にとっては規律違反を意味する意図的機密漏洩による一連の反田中メディア・キャンベーンの責任者達は、大臣室を不法占拠して田中外相を“恫喝”したばかりでなく、外相の了解もなく、また当然附けられてしかるべき進退伺いの提出も伴うことなしに、見解の相違その他について“直訴”ないし“越訴”を敢てしたと伝えられる飯村豊官房長、川島裕事務次官と共に、これらが事実であるとすれば即時閣議にかけた上、罷免にされてしかるべきである」。 「彼らはまた、三菱重工業を中心とする8社からなるSDI(戦略防衛構想:NMDの前身)とその不可欠の“部品”であるTMD(西太平洋地域ミサイル防衛構想)受注準備グループと利権的に密着している北米1課や、このグループの宣伝機関の役割を果たしている産経新聞を先頭とする各メディアなどが協同して展開している田中外相追い落としキャンペーンの首謀者と目されるからである」。 このような観点から、「折角“生命がけで”正論に基づく疑問を半ば公然と提起した田中外相」云々、「素直な疑問点について度々放言や失言を公然と行うというマヌーバー戦術も田中外相から大いに学ぶべきであり、“閣僚の発言は慎重に”などという福田官房長官の公式声明などは公然と叱りとばしてしかるべきである」とも述べている。 さて、渡部、加瀬氏らの見解と野矢氏の見解のどちらに正がありや。云うまでも無かろう。 2004.3.15日 れんだいこ拝 |
(私論.私見)
○ドタキャンは反米以前の問題
アーミテージとの会談キャンセルも、彼女の無能ぶりをよく示している。
彼女は当初(5月14日)、国会(民主党の岡田克也成長会長)でこの件(アメリカのミサイル防衛構想)を追求された際、答えに窮し「事務方から中身を聞いていない」といったんは答えた。ところが、その後、実は事前に報告を受けたことを忘れていたと答弁を修正した。田中によれば、分厚い資料の冊子を渡されていたが、彼女がほしかったのは内容をかいつまんだメモだった、のだそうである。
このカラクリを説明するとこうなる。外務官僚がブリーフィング用に用意した資料冊子の表紙や目次には、おそらくNMDという言葉がなかったのだ。なぜだ?……理由は簡単。ブッシュ共和党政権は、公式にはNMDという言葉を使っていないからである。
NMDは朝日新聞をはじめとする世界中のリベラルな、つまり親中国的なメディアによって、批判されている。しかし、国防総省のミサイル防衛政策立案の中核であるネットアセスメント室の報告書(たとえば1999年に作成された『Asia 2025』)には、NMDという言葉はない。あるのは、ただ弾道ミサイル防衛(BMD)のみである(BMDのうち、アメリカ軍の駐留する、日本や欧州など「出先」の戦域で展開するものは戦域ミサイル防衛、略してTMDと呼び、この言葉は90年代初めから使われている)。
1999年当時、アメリカ大統領は民主党のビル・クリントンだったが、国防長官は共和党のコーエンだった。このため、国防総省はBMDとTMDしか研究していないのに、大統領のところに研究結果が上がると、突如としてNMDという奇妙な概念が付け加えられた。曰く、アメリカは、本土を防衛するには、TMDより技術レベルの高い特別なミサイル防衛システム、NMDによって守り、同盟国についてはほどほどの技術システム(TMD)で守る、というものである。日欧の同盟国が聞けば「アメリカだけが安全になるための構想」と反発されるのは必至だ。クリントンは卑劣にも、本件の研究を担当する「事務方」の国防総省(ネットアセスメント室)がひとことも言っていないNMDなどというアメリカ一国主義のエゴイスティックな概念をでっちあげ、わざと同盟国の反発を誘発して、ミサイル防衛構想全体の挫折をねらったのだ。
おまけに、すでに本コーナーで述べたとおり、クリントンはわざとBMD(NMD)実現のための技術の実証試験のレベルを下げ、日程を遅らせることによって、それがいかにも技術的に実現し難い(単なる軍需産業の金儲けの手段にしかならない)ものであるかのように、偽装することに成功した(このあまりに卑劣な妨害は、クリントンが軍の最高司令官として国防政策を指揮するのを「制限」しようと試みた、共和党への報復、という側面も否定できまい。クリントンは1990年代後半にはセックススキャンダルの追求で、政治的に「死に体」寸前まで行ったが、本誌既報のとおり、スキャンダル追求の急先鋒だったケネス・スター独立検察官と、ユタ州選出上院議員のオリン・ハッチ上院司法委員長はともに共和党員であった。筆者の「報復」説はともかく、これら共和党員の名前は覚えておいてほしい)。
こういう「中国の手先」クリントンの悪質な妨害工作の結果を真に受けて「NMDは机上の空論」とか「新たな軍拡を招くだけ」とか断じるのは、ジャーナリストや学者としては恥ずべきことだが、朝日新聞に限らず世界中の多数の「リベラル」なメディアや、「ハト派」の政治家がこれに同調しているのは嘆かわしい限りだ。
さて、日米同盟を機軸と考える日本の外務省の幹部は、当然のことながら『Asia 2025』ぐらいは読んでいるし、外相に報告を上げる際の資料にNMDなどという非公式な言葉は使うまい。外相が「事務方」から受け取った資料冊子の表紙や目次にはおそらくBMDの文字はあっただろうが、NMDの文字はなかったに相違ない。田中はそういう表紙や目次を見て「この資料には、いまマスコミで話題のNMDについては書いてない」と判断し、読むのをやめたのだ。そして「アーミテージがNMD関連の大統領親書を携えて来るというのに、『事務方』は何も教えてくれないので、会談に出たら恥をかく」とパニックに陥り、外務省を逃げ出して国会図書館にこもっていた、というのが真相である。だからこそ国会で、いったん「事前には報告を受けていなかった」と述べ、そのあとで「報告を受けていた(けど忘れていた)」と修正したのだ。NMDの「N」がなくても、BMDの中に「MD」つまり「ミサイル防衛」という言葉はあるのだから、なにも難しい軍事専門書など読まずとも、外交防衛関係の新聞記事を読んでいればわかりそうなものだが、彼女にはその程度の教養もないらしい。すくなくとも国会で当初「報告を受けていなかった」と答弁した時点で、田中がミサイル防衛について何も知らなかったことは間違いない。
こういうのを日本語でバカという。
一説には、田中は小泉を「恫喝」して外相ポストをもぎ取ったと言われている。田中は、総裁選で小泉を応援して大衆的支持を煽った功績をタテに小泉首相に入閣を迫ったところ、彼女の失言を心配する首相周辺は「官房長官や外相など国家安全保障にかかわるポストは外交上危険」と判断して、文部科学相や行革担当相のポストを提示して「論功行賞」にしようとした。ところが、「小泉総裁実現の最大の功労者」を自負する田中は、当然官房長官になれると「勝手に」期待しており、小泉の提示するをポストを「格下」と思い込み
「だれのお陰で総理総裁になったと思うの!!」
と怒鳴りつけて外相ポストを獲得した、という説がある(『週刊ポスト』2001年6月1日号 p.p 27-28)が、もしそれが事実なら、言語道断である。アメリカの現共和党政権の国防・外交上の最重点政策はBMDであり、アメリカは日本の唯一の同盟国である。たとえ日米安保やBMDに反対する立場の政治家であっても、BMDのことを何も知らない者が外相ポストを要求するなど、思い上がりも甚だしい。外相ポストは、政治家の見栄や虚栄心のためにあるのではなく、日本が敵味方を方問わず全世界を相手に国益をかけた駆け引きをするためにあるのだから。
困ったことに、この外相は、その後朝日新聞などのリベラルなメディアの情報だけを収集して(BMDでなく)NMDについて「学習」したらしい。彼女は5月下旬に北京で開かれたASEM(アジア欧州外相会議)の昼食会で、ドイツ、イタリア、オーストラリアの外相を相手に「結束してNMDに反対しよう」と呼びかけたという。とくに、オーストラリアのダウナー外相には「(NMDを推進する)ブッシュ大統領は父親が大統領だったころのアドバイザーや保守的な人々に周りを囲まれており、地元テキサスの石油業界関係者ら支持団体の影響」を受けて政策を遂行している「石油屋さん」だと批判したという(読売新聞2001年6月2日付)。
つまり、彼女は、ブッシュ政権をロックフェラー財閥など国際石油資本の手先とみなし、かつ、70年代に自分の父親を首班とする田中角栄内閣とオーストラリアのホイットラム内閣が相次いで潰れたのは、角栄とホイットラムが国際石油資本に逆らってウラン・原子力開発を進めたから、と見ているのだ(この点だけでは、田中外相と筆者の見解は完全に一致する)。
が、筆者は一介の作家なのでどのように「言論の自由」を発揮してもかまわないが、彼女は一国を代表する外務大臣である。日本国の外相が、他国の外相の前で、日本の唯一の同盟国の国家元首を「石油屋さん」と罵ってよいのだろうか? (それを言うなら、田中さんちは「土建屋さん」でしょ(^^;))
各種世論調査を見ると、田中外相の外務省「機密費疑惑」解明への支持は高い。が、外相に「日米関係を壊してください」と頼んだ国民はいない。どうしても日米関係を壊したいなら、外相を辞して社民党に入党すべきである。
最近(2001年5月下旬)田中外相は対米関係修復のために6月に訪米したい、と表明しているが、アメリカはこの「訪米」問題を使って、田中を辞任に追い込む可能性もある。2001年3月、政権延命のために訪米を希望する当時の森喜朗首相に対して、アメリカ政府は用意に首をタテに振らず、結局「退陣」を表明するまで、訪米を許さなかったのだから、同じ手口を使えば田中外相を葬ることは可能だ。
○後任の外相も女性
したがって、首相周辺が、田中真紀子外相の後任の人選にはいっていることはほぼ間違いあるまい。上記のファンメールでは、首相は支持率の低下を恐れて、大衆に人気のある田中真紀子を更迭できないのではないか、と指摘していた。
たしかに、人気のある、しかも外務省の機密費疑惑解明をめざす彼女を切ると、「小泉改革」の挫折を印象付け、支持率低下につながりかねない。が、5月23日、ハンセン病訴訟での異例の「英断」(法理上の問題はさておき、筆舌に尽くし難い差別と苦難を受けた患者たちの救済を優先して、被告・国側の責任を広範に認めた熊本地裁の一審判決を受け入れて、政府として控訴しないこと)で首相の求心力は高まった。したがって、「切る」なら、いまだ。
外務省の在外公館はスパイによる情報収集に際して、あたりまえのことだが「領収書を取らずに」報酬を払う。これがいわゆる外務省がらみの「(官邸)機密費」の起源である。当然のことながら、これをなくせば日本の対外情報網は壊滅する。
また、外務省は旧建設省などと違って利権官庁でないので外務官僚には天下り先があまりなく、退任後の外交官の生活は、在任中の(大使公邸などでの派手な)生活に比べて相当にみじめなものだから、機密費の「流用」をなくせば外交官のなり手はなくなってしまう。この意味からも、大衆迎合型の「人気取り」のために素人じみた過激な言動で「外務省改革」を進める田中外相は更迭しなければならない。さもないと、外務省は崩壊してしまう。
さて、その場合、後任にはだれをあてるべきか……本来なら衆議院議員の加藤紘一(元自民党幹事長)、評論家の岡崎久彦(元外務省情報局長)、国際コンサルタントの岡本行夫(元外務省北米課長)らが、キャリアから見てうってつけである。
が、彼らはみな「元外交官」なので、そういう者を外相にすると「昔の仲間といっしょになって、機密費に関する旧悪を暴露されないために隠蔽工作をしている」という印象になってしまう。元外交官でない男性の政治家でも、田中外相のイメージが強すぎたので、「派閥にとらわれず、女性閣僚5人起用」を看板に発足した小泉内閣にとっては、改革のイメージの「後退」につながる恐れがある。
となると「女性から女性へ」変える必要がある。
扇千景・国土交通相(保守党)は「パニックに陥った」という田中のばかげた国会答弁に怒り、「今後、こういうポスト(外相)は女性には向かない、という偏見が政界に定着したらどうしてくれる」と閣議の席で批判したというが、もっともな意見である。小泉首相もこの指摘は無視できまい。
本ページですでに述べたように、女性政治家で、この時期の外交を任せられそうな人物としては、小池百合子(保守党衆議院議員)がいる。彼女は、法律や原則をねじまげて李登輝前総統の訪日を阻止しようとした、外務省親中国派のリーダー格、槙田邦彦アジア大洋州局長の更迭を求める超党派国会議員団のメンバーであるばかりでなく、なんと来日した李登輝に会っているぐらいだから、日本の保守政界の「親台湾派のリーダー格」と見てよい。
彼女は昔は自民党に近く、カイロ大学卒でアラビア語が堪能なことから、1990年の湾岸危機で中曽根康弘元首相(当時はすでに首相を辞めたあとの、単なる国会議員だったが、外交官を同行した、一種の特使のような立場だった)がイラクを訪問して「人質解放交渉」をした際にも同行している。小池はのちに日本新党にはいって、新進党の結党に参加し、新進党の最初(で最後)の党首選挙では、「イチロー、男をかけます」のキャッチコピーを作って小沢一郎の当選に貢献した。
が、残念ながら当面、彼女の入閣はない。理由は彼女は保守党員なので、すでに扇党首が入閣している以上、また保守党より議員数の多い公明党から1人しか入閣していない以上、議員数の少ないほうに多くの閣僚ポストを配分するのは議院内閣制の原理に反するからである。そこで、以下の2人に絞り込まれた、と筆者は見る。
ここから先の、後任人事の予測について、筆者はこの2週間ほど書くのをためらっていた。が、田中外相についての新聞報道を読み返し、彼女が就任早々外務官僚に「外国の新聞を紙で読ませろ」と要求し、それがなかなか実現しないことを記者会見で暴露して怒りをあらわにしていたことを思い出して、ようやく書いても大丈夫という判断に至った。筆者は、ウォールストリートジャーナル(WSJ)など多数の外国の新聞をインターネットで読んでいるが、田中は「紙」に執着するところを見ると、どうやらインターネットは苦手らしい(田中以外の政治家や、政治家と親しいジャーナリストのなかには、本誌の読者はけっこういるらしい。以前、ドメイン別のアクセス解析で「shugiin.go.jp」から多数のアクセスを得ていたこともあるので)。
そこで、筆者が本誌上で後任外相候補2名の名前をあげても、田中がそれに気付くことはないだろうし、その2人のもとに田中が「怒鳴りこみ」(>_<;)に行く心配はなかろうと判断し、以下に予測を書かせて頂く。どうか、読者の皆さんも、本記事について「またもや佐々木が予言した」などと、あまりあちこちに広めないようお願い申し上げたい。
田中外相就任以来の日米関係の停滞を挽回するには「知米派文化人の女性」が望ましく、それはおそらく、アメリカの推進するTMDなどミサイル防衛に詳しい
猪口邦子・上智大学教授(国際政治学者)
が最適任であろう。彼女は、細川内閣ではTMDに関する諮問機関のメンバーで、彼女の賛成意見もあって、日本政府は94年度からTMDに関する調査費を予算に計上するようになったのだ。
が、彼女は永田町の人ではなく「民間人」で2児の母でもあるので、急に政界入りを打診されてもとまどうであろう。いくら国際政治学者でも、外相となれば欧米など自分の「得意な」国だけを相手にするわけにはいかず、世界の180か国すべてを相手に、学者時代には考えられなかったような(一見無意味な)儀礼的な仕事もしなければならない。
そこで、こういう人に交渉するには、断られた場合の「最後の切り札」が必要である。小泉首相は4月の組閣に際して、トヨタ自動車の奥田会長に入閣を打診する前に、親しい森派の塩川正十郎・衆議院議員にこの「最後の切り札」になってくれるように頼んでおき、そのあと奥田に断られられたので「塩川財務相」が実現したといういきさつがある。塩川は、政策全般をよく知る大ベテランではあるが、とくに財政に強いという印象はなく、組閣直後には「なぜ財務相?」と思った者が多かったのだが、それはこういう事情によるのである。
では、猪口に交渉する場合には、だれを「切り札」にすればよいのか……それは塩川と同様、小泉に近い人で「あっちで断られたからよろしく」と言われても、だれかさんのように「格下扱いするのか!」などとすぐに怒らず、寛大な理解を示せる人に限られる。もちろん、民間人ではなく、国会議員(永田町の政治家)でなければならない。
この条件を満たす女性政治家はほとんど1人しかいない。それは、高市早苗・衆議院文部科学委員長である。
彼女は、かつてはアメリカで下院議員のスタッフをしたこともあって語学は堪能だが、教育、経済などが専門でとくに外交が強いというわけではない。が、森派(清和会)で「小泉応援団長」のような形で総裁選中テレビに出演しており、また、森内閣発足時の「小泉組閣試案」では「5人の女性閣僚」のなかにはいっていた。
この「試案」は、当時森派会長だった小泉が「森政権は密室でできた、と評判が悪いから女性を5人ぐらい閣僚にしてイメージアッ プしてはどうか」と作ったものである。
この5人のうち4人は現在そのとおり閣僚の任にある。ただ1人高市だけははずれているが、その理由は「小泉は派閥解消を言いながら、森派ばかり優遇するのか」との批判を恐れたために相違あるまい。田中外相が「予想外に非常識で、対米関係が停滞」するという「突発 事故」へのやむをえない策としてなら、森派の高市を(派閥離脱を条件に)閣僚に起用する大義名分は十分に立つ(しかも、高市は明白な「台湾派」であり、ごく最近、自民党の親台湾派議員団の発起人になっている。中国が軍拡を続けて台湾侵略の意志を隠さない昨今の国際情勢下では、誠に頼もしい限りである)。
何を無責任な、とご当人は怒るかもしれない。田中外相が「荒らしまわった」外交の後始末をさせられるなんて、苦労するのが目に見えている、と上記の2人は(もしも首相から入閣を要請されたら)思うかもしれない。
が、現在の外務官僚は親中派、親米派を問わず全員「真紀子以外ならだれでもいい」(^_^;)と思い、一刻も早く、官僚を使用人扱いするあの非常識な「独裁者」をクビにしてほしいと願っている。上記の2人ならどちらが来ても、外務官僚はみな涙を流して喜び、全面的に協力するだろう。少々ミスをしても、すくなくとも外務省内では官僚は多めに見てくれるし、いくらでも助けてもらえる。
田中真紀子は、機密費問題など外務省の機構改革では熱意を見せたが、肝心の外交では失態続きで、すでに相手国から赴任の同意を得ている大使数十人が赴任できずに「足止め」されるという異常事態が起き、外交に空白が生じている(6月2日現在)。これほど無能な人物を更迭するのに、なんの遠慮が要るだろうか。6月5日に「機密費2割削減」を柱にした、外務省の機構改革案が発表されるので、それが終われば、田中の唯一有能かもしれなかった部分も終わるわけで、あとは「無能な部分」を発揮されないように更迭するのは、小泉の首相としての当然の責務であろう。
たしかに、一部の心ない週刊誌(某女性誌)などが、田中真紀子への自民党内からの批判を「男の嫉妬」と歪曲して報じるなど、あしきポピュリズムの雰囲気はあり、こういう無党派層の支持を得やすい「アイドル」を更迭するのは容易なことではない。
が、1994年の、羽田内閣の例を思い出そう。
現在の小泉内閣並みに無党派の強い支持で誕生した細川護煕内閣の支持率は発足時の1993年に70%以上だったが、細川がスキャンダルでつまずいて退陣し、その後同じ連立の枠組みの中で発足した羽田孜内閣は、首相の首がすげかわってもなお「改革断行内閣」と国民からみなされ、社民党が自民党にすり寄った結果として退陣に追い込まれるまで60%近い支持率を維持した。まして、田中外相の更迭は、首相の交替ではなく、(いかに人気者とはいえ)一閣僚の交代にすぎない。「女性から女性へ」の交替なら、真紀子人気に便乗してきたポピュリズム型マスコミの批判も十分に吸収でき、支持率は、せいぜい80%台から70%台に下がるだけだろう。小泉首相には、日本の世論のほか、アメリカ政府(共和党)や、日本の無党派層や民主党や自由党(の支持者の80〜90%)、共産党支持者(の60%)、さらには世界各国のメディアの支持まであるが、他方、田中には国内の人気を除くと、アメリカはもちろん中国の支持もない。田中に反米、反NMDの話を持ちかけられた独伊豪の外相もまったく相手にしなかった。小泉は田中を恐れる必要などないのだ。
田中真紀子は外相就任当時、李登輝台湾前総統の訪日ビザ発給に誠実に対応した川島裕外務次官を念頭に置いて「(機密費問題の責任者を)スパッと切って終わりにしたい」と述べていた。さらに6月2日のテレビ報道では、田中は柳井駐米大使の更迭までねらっており、だれに頼まれたわけでもないのに、対米関係の「破壊」を自分の使命と思い込んでいるフシがある。これは会社で言えば「背任罪」である。
小泉首相はいま田中外相を「スパッと切って」おかないと、これからジェノバ・サミットなどで相当困ったことになろう。
さっさとやれ!!
○「味方ながらバカ」
田中は2001年5月下旬、ASEMで北京を訪れた際に、中国の江沢民主席に中国語で話しかけ、オベンチャラを言ってほめられたらしい。もし、彼女が外交では「相手の言い分を聞けば気に入られる」と思っているのなら、大間違いだ。
たとえば、彼女の父親、田中角栄は首相のとき訪中して日中復交を実現したが、その交渉の過程で、訪中した角栄は、日本の国益を守るため、徹頭徹尾、中国の周恩来首相の謝罪要求をはねつけた。角栄は、露骨なごまかしで第二次大戦中の日本の中国への「侵略」を認めず、謝罪の代わりに「迷惑をかけた」という言葉でやりすごそうとした。この結果、国交回復交渉は暗礁に乗り上げ、周恩来は交渉を投げ出し、角栄は毛沢東・中国共産党主席のもとに行った。毛沢東は「迷惑とは、道で肩が触れたときに使う言葉だ」と角栄を非難したが、角栄はそれでもなお譲らず「日本では万感の思いを込めて詫びるときにも使います」と居直った。
すると、毛沢東は怒るどころかにやっと笑って「迷惑という言葉の使い方はあなたのほうがうまいようだ」と角栄をほめ、日中復交は、謝罪をネタにした際限のないゆすりたかり(国家賠償)を伴うことなく、実現した。理由は、もちろん、日本の国益を必死に守ろうとする角栄の愛国的な態度に、毛沢東が敬意を持ったからにほかならない。田中角栄はその後、ロッキード事件で刑事被告人となり、さらに脳梗塞もわずらって寂しい境遇に転落するが、その間一貫して死ぬまで、ケ小平らの中国首脳は、来日のたびに目白の田中邸を訪れて「水(友好関係)を飲むときは井戸(復交)を掘った人の苦労を忘れては成らない」と敬意を表し続けた。その理由は、田中が外国の言い分をなんでも聞く売国奴ではなく、愛国者として中国から「敵ながらあっぱれ」の尊敬を得ていたからである(もちろん、真紀子外相は「味方ながらバカ」なので中国から軽蔑されていることは間違いない)。
真紀子は、こういう父親の、真に偉大な業績をわかっているのだろうか。おそらく父親からは、政治の表面的な「オベンチャラ」の部分しか学ばなかったに相違ない。彼女は科学技術相時代、ふだんは景気のいい「漫談」を披露するために記者会見に出ていたのに、科学技術庁が国産実験衛星の打ち上げ失敗という失態を演じると、途端に会見をキャンセルしたという「前科」がある。まさに、手柄はぜんぶ自分のもので、失敗の責任はすべて「事務方」に押し付ける、という「卑怯な上司」の見本を演じたわけで、多くの官僚のハートをつかんでいた父角栄とは大違い……。
こんなことを書くと、いつかどこかで本誌が真紀子に読まれたときに「父親のことは私がいちばんよく知っている!!」と怒鳴りこまれそうなので、こわいから、このへんでやめとく。
(^^;)