裁判長の決定文

 (最新見直し2008.2.21日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 「パブかにっ子のジャスラック抗弁書1」、「パブかにっ子のジャスラック抗弁書2」のやり取りを経て、その後音沙汰が無く気にしていたところ、2008.1.25日、以下に記す決定が為された。この決定文は直ぐに郵送されず、次章の「執行、その後の経緯1」に記すように執行後に、かにこうせん経営者が裁判所まで取りに行ったことで入手されたものである。書記官は、それが普通だと説明したが、酷いのではないかと思うのは私だけだろうか。

 決定文を転写した後、これを批判する事にしてとりあえず転写を急ぐ。

 2008.2.21日 れんだいこ拝


【決定文】
 ここで、決定文を確認しておく。

 平成19年(ヨ)第168号 著作権侵害等仮処分申立事件

 決定

 (当事者略)

 上記当事者間の頭書事件について、当裁判所は、債権者に30万円の担保を申し立てさせて、次のとおり決定する。

 主文

 1、債務者は、***市***番地**所在の店舗「かにっ子」において、別添楽曲リスト記載の音楽著作物を、次の方法により営業のために使用してはならない。
 (1) カラオケ装置を操作し叉は従業員に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客叉は従業員に歌唱させ、若しくは自ら歌唱する方法。
 (2) カラオケ装置を操作し叉は従業員に操作させて伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法。

 2、債務者は、別紙物件目録記載のカラオケ装置に対する占有を解いて、これを執行官に引き渡さねばならない。
 執行官は、上記物件を担保しなければならない。
 執行官は、上記物件を債務者が使用できないような適当な措置を講じなければならない。


 理由

 第1 申立ての趣旨 

 主文同旨

 第2 事案の概要

 1 前提事実

 一件記録及び審尋の結果によれば、次の事実が認められる。

 (1) 債権者は、著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者であり、内国著作物については管理委託契約により国内の作詞者、作曲者、音楽出版社等の著作権者から著作権叉はその分支権(演奏権、上演権、録音権等)につき信託を受け、外国の著作物については日本国が締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約によるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配する事を主たる目的とする社団法人である。

 別添楽曲リストに記載の音楽著作物は、いずれも債権者が著作物を管理する音楽著作物である。

 (2) 債務者は、平成14年ころ、**市***において、飲食店である「かにっ子」(以下、「本件店舗」という)を開店し、現在まで営業している。

 (3) 債務者は、本件店舗において、平成14年12月ころから現在まで、午後6時30分ころから翌日御前1時ころまで営業し、店内に通信カビデオラオケ装置を設置して、客に飲食を提供し、カラオケ装置を操作して同装置に蓄積されている伴奏音楽を再生し、歌詞をモニターテレビに表示して再生し、伴奏音楽に合わせて客や従業員に歌唱させている。同伴奏音楽の大部分は、債権者が著作権を管理する著作物に該当する。
 
 (4) 債務者は、債権者との間に、音楽著作物利用許諾契約を締結していない。

 2 当事者の主張

 (1) 被保全権利について

 (債権者の主張)

 カラオケ装置を操作して、同装置に蓄積されている伴奏音楽を再生することは、演奏に該当し、無許諾の再生は演奏権の侵害となる。また、同装置に蓄積されている歌詞の文字をモニターテレビに表示して再生することは上映に該当し、無許諾の再生は上映権の侵害となる。

 債務者は、前記1(3)のとおり、著作権を侵害している。

 著作権法112条1項の差止め請求権により、カラオケ装置を操作して伴奏音楽に合わせて顧客叉は従業員に歌唱させ、もしくは自ら歌唱すること、及び、カラオケ装置を操作して伴奏者及び歌詞の文字表示を再生することの禁止並びに同条2項の「廃棄その他の侵害の停止叉は予防に必要な措置」としてのカラオケ装置の執行官保管等を求める。

 (債務者の主張)

 ア 債権者の音楽著作物利用許諾契約は、契約書の契約条項があまりにも小さな文字で書かれており、問題である。また、その内容も、契約後は債権者が立ち入り検査権を有し、契約者は報告書の提出を義務付けられ、値上げ通告にも従うしかなく、他所で歌唱する際には届出が必要という、強制的な契約になっており、問題がある。

 イ 著作物の使用料(以下単に「使用料」という。)はカラオケ装置のリース料に含まれており、債権者が使用料を個別店舗から徴収する権利は無い。

 ウ 債権者は音楽著作権料の収支の情報公開していない以上、使用料を徴収する聴取権利は無い。

 エ 債権者は音楽著作権者に対する配分決算書を公開する義務があり、これをしないまま使用料を徴収する権利は無い。

 オ 歌唱料を無料としている店舗からは使用料を徴収すべきではない。

 カ 債権者の行っている店舗面積別の課金は合理的な理由が無い。

 キ 使用料が必要なことの周知徹底がなされておらず、開店後に店舗に通知し請求するのは不当である。

 ク 債権者の請求は、社団設立の目的及び許可基準違反である。

 ケ 債権者の料金徴収活動は強制的であり不当である。

 コ 債権者の歩合給従業員を使用した取立は違法である。

 サ 放送業者及び歌唱教室が使用料の支払いを免除されている場合は、カラオケを使用する店舗も免除されるべきである。

 (2) 保全の必要について

 (債権者の主張)

 債権者は、債務者に対し、書面及び口頭で適法に音楽著作物を演奏利用するよう警告してきたが、債務者は著作権侵害を継続した。この状態が継続されると、著作権管理の公平を失するなどし、債権者の著作権管理業務が円滑に機能しなくなるおそれがある。

 また、債務者の著作権侵害行為は、債権者が日常監視できない店舗の内部で行われるものであるから、現に債務者が使用しているカラオケ装置の使用を不可能ならしめるための適当な措置を執行官が講ずる必要がある。

 (債務者の主張)

 争う。

 第3 当裁判所の判断

 1 被保全権利について

 (1) 飲食店等の経営者が、カラオケ装置を備え置き、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目につきカラオケ装置により音楽著作物である歌詞及び楽曲を上映叉は再生して、同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させるなど、音楽著作物を上映し叉は演奏して公衆に直接見せ叉は聞かせるためにカラオケ装置をしようし、もって客の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を上げることを意図しているときは、上記経営者は、当該音楽著作物の許諾を得ない限り、客や従業員による歌唱、カラオケ装置による歌詞及び楽曲の上映叉は再生につき演奏権ないし上映権侵害による責任を免れない(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁参照)。

 前記前提事実、一件記録及び審尋の結果によれば、債務者は、本件のカラオケ装置による楽曲及び歌詞の演奏・上映も店舗の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケパブとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図っていたことが認められるから、これにより営業上の利益を増大させることを意図していたというべきである。

 そうすると、音楽著作物利用許諾契約による許諾を得ていない債務者は、客や従業員による歌唱、カラオケ装置による歌詞及び楽曲の演奏叉は上映につき演奏権ないし上映権侵害による責任を免れない。従って、本件は、著作権法112条1項による、被保全権利が認められる。

 (2)ア 債務者は、債権者の音楽著作物利用許諾契約書について問題がある旨主張するが、本件の被保全権利は、債権者と債務者間の同契約により発生する性質の権利ではなく、契約を締結していないことが被保全権利の存在を否定する根拠とはならないから、債務者の主張は採用できない。

 なお、契約書上、契約条項が小さな文字で記載されていることのみで当該契約が違法になるものではなく、本件の契約の内容も、著作権者の権利保護のために止むを得ないものと認められる。もとより、音楽著作物を演奏・上映して営業を行う場合には、著作権者の許諾を得る必要があるのであるから、契約条項の表示方法及び契約内容に不服があるからといって、著作権者の許諾を得ることなく著作物を演奏・上映することが許されることにもならない。

 イ 債務者は、使用料はカラオケ装置のリース料に含まれている旨主張するが、通信カラオケ装置のリース行為自体は、著作権法上、音楽著作物の公衆送信及び複製という行為には該当するものの、装置を使用して店舗において公に演奏・上映するけんりは当然には含まれておらず、それぞれについて別個に使用料が支払われるべきものである。

 そして、本件について、債務者が装置を使用している店舗に於いて公に音楽著作物を演奏・上映する行為についても債務者にカラオケ装置をリースしているカラオケ装置業者が使用料を支払っているものと認めるに足りる資料は無い。従って、債務者の主張は採用できない。

 ウ 債務者は、歌唱料を無料としている店舗からは使用料を徴収すべきではない旨主張する。

 しかしながら、音楽著作物を上映し叉は演奏して公衆に直接見せ叉は聞かせるためにカラオケ装置を利用し、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を上げることを意図しているときは、そのことのみから営利を目的とした演奏等といえ、著作権法38条に該当せず、演奏権ないし上映権侵害による責任を免れないから、客から歌唱料の名目で料金を徴収しているかどうかは関係が無いものというべきである。従って、債務者の主張は採用できない。

 エ 債務者は、店舗面積別の課金は合理的な理由が無い旨主張する。しかしながら、音楽著作物を演奏・上映して営業を行う場合には、著作権者の許諾を得る必要があるのであるから、許諾の条件としての使用料の徴収方法に不服があるからといって、許諾を得ることなく著作物を演奏・上映することが許されることにはならない。

 なお、店舗面積に応じた課金をする方法は、免責により利用客数が推定され、それにより著作物の利用状況も推定されることから、合理性があると認められる。従って、債務者の主張は採用できない。

 オ その他、債務者は音楽著作物利用許諾契約締結及び使用料の支払いを不要とする理由を縷々述べるが、いずれも債務者の独自の主張に基くものであり、採用できない。

 2 保全の必要性について

 前記前提事実、一件記録及び審尋の結果によれば、今後、債務者による著作権侵害状態が継続され、債権者に著しい損害が生ずるおそれがあることが認められる。従って、必要性も認められる。

 3 以上によれば、本件申立ては理由がある。よって、主文のとおり決定する。

 平成20年1月25日 

 **地方裁判所第3民事部 裁判官 升川**

【決定文考総論】
 決定文から窺えることは、全編ジャスラックの言いなりであると云う事である。最高裁判決がこれを垂示しており、個々の裁判官はいとも容易く追従していることが判明する。個々の判決観点を取り出して批判してみても繰り返しになるので、最重要な論点を示しておく。

 升川決定文も最高裁判決文も、著作権法の解釈に於いて、それが元々著作権者の権利を利用して業者活動する者及び行為に対する規制であり、個々人のあるいは末端店舗レベルでの利用について規制するものでは無いと云う弁えに対して無自覚過ぎる。全ての誤りはここから発生しているように思われる。

 法が公布された当初の穏和な著作権が最近強権型著作権に転化しており、法の番人がこれに無自覚なままに後押ししているところに問題が発生していると思われる。司法が健全であれば、経済活動に於ける独占禁止法の如く、著作権の全面全域強権化に対して抑制するのを旨とするはずであるが、最近の司法はこの弁えを持っていない。

 それは偏に法哲学、法思想が貧弱なところに由来しているように思われる。法が政治と経済の走狗として権力的に利用されており、チェックアンドバランス機能を自ら壊死させんとしているところに問題が宿されているように思われる。しかしながら、これを幾ら説いたところで、これを聞き分ける能力も意思も無い輩にどう通じるものか。ここに嘆息がある。

 2008.2.22日 れんだいこ拝

【決定文考各論】
 升川判事は、凡そありきたりの判決をしているに過ぎないが、それにしてもジャスラックの全面的言いなりであり酷すぎる。全ての間違いは、制作及びその制作物販売レベルでの著作権適用と、それら制作物の愛好レベルでの著作権適用の是非を分別せず、川上から川下まで一貫適用していることにある。升川判事は、一貫適用論者であるので、以下のような判示になるのも致し方ない。

 升川判事は、カラオケ装置を単に営業的利用している場合と、それにより利益を上げている場合との識別をせず、営業的利用即権利侵犯なる見解に与し、ジャスラック側の対価請求当然論を判示している。

 升川判事は、「かにっ子」側がこれについて充分に批判してきたにも拘らず、最高裁判例を判示しながら「客の来集を図って利益を上げることを意図しているときは」だとか「これにより営業上の利益を増大させることを意図していたというべきである」と述べ、「演奏権ないし上映権侵害による責任を免れない」と結論している。

 しかし、この論法は、商売の基本的なからくりさえ不見識であることを証している。恐らく、士農工商社会に於ける商に対する不当な蔑視に由来しており、その観点を今日まで引きずっている事に関係しているように思われる。彼らは、「客の来集=利益」論に依拠しているが、正しくは「客の来集=売上」であり、売上と利益は大きく異なる。そ違いを弁える必要があろうが、にも拘らず売上=利益とみなすのは初歩的不見識であり、商の構造を余りにも知らなさ過ぎると云わざるを得ない。

 升川判事は、「かにっ子」側のジャスラックの音楽著作物利用許諾契約書について種々問題がある旨の主張に対して、「本件の契約の内容も、著作権者の権利保護のために止むを得ないものと認められる」と述べている。叉、「契約条項の表示方法及び契約内容に不服があるからといって、著作権者の許諾を得ることなく著作物を演奏・上映することが許されることにもならない」ともしている。典型的なジャスラック加担暴論であろう。

 本来の司法判断は、「著作権者の権利保護」のみ論うべきではなく、被請求者の権利保護をも考慮しつつ平衡的利益を図るべきであり、契約書の内容を逐一吟味して問題ありとみなせばその箇所につき早急に改善の余地有りと判示すべきであろう。既に反論書で述べているので繰り返さないが、類例の無い一方的強制契約であり常識外の内容が罷り通って要る。

 升川決定文は一事万事がこの調子であり、露骨な御用理論の開陳でしかない。結論として、「契約を締結していないことが被保全権利の存在を否定する根拠とはならないから、債務者の主張は採用できない」としているが、かにこうせん側の主張を捻じ曲げている。かにこうせん側は、契約を締結していないことを盾にしているのではない。契約しようにも各条項の内容が酷すぎて契約できない状態にあることを指摘しているのであり、このジレンマを抗弁している。裁判官には、これを如何にクリヤーするべきかが問われている。この問題に対しての見識を示すべきのところ言及しないままジャスラック見解に与している。いわば詐術を弄していることになる。


 升川判事は、これまたジャスラック見解を丸呑みして、カラオケ装置のリース料に含まれているのは音楽著作物の公衆送信及び複製に対してであり、公に演奏・上映する権利含まれておらず、別個に使用料が支払われるべきとしている。これも問題である。かにこうせん側は、カラオケ装置機器販売業者がジャスラックに支払っている著作権料の総額を明らかにさせて、ジャスラック側の権利分解理論の不毛とやり過ぎを突こうとしている。升川判事は、この問題に対して何ら見解を判示していないばかりか、ジャスラック見解を鵜呑みにしている。

 升川判事は、「かにっ子」側の「歌唱料を無料としている店舗からは使用料を徴収すべきではない旨の主張」に対して、「客から歌唱料の名目で料金を徴収しているかどうかは関係が無いものというべきである」としている。しかし、この結論もジャスラック見解丸呑みでしかない。

 敢えて考察するならば、歌唱料無料の場合、売上には寄与するものの利益には関係ない。判例が、売上に対してではなく利益に対して課金を判示している以上、利益が無ければ徴収できないとすべきであろう。従って、歌唱料無料制の場合、その当該店舗が赤字経営であるとするなら、取れないという推論がでてくるべきではなかろうか。こういうややこしい事になるのは、そもそも店レベルでの課金制を敷くからであり、その考察は徒労でしかない。

 升川判事は、ジャスラックの現行の店舗面積別課金制に対しても、「免責により利用客数が推定され、それにより著作物の利用状況も推定されることから、合理性があると認められる」としている。これもジャスラック見解丸呑みでしかない。「かにっ子」側は、その種の権利が仮に理論上は認められても、著作権法の趣旨からして著作権利用に対して直接請求されるべきであり、その課金システムが開発されていない以上開発されるまでは課金できないとすべきであるとの主張に対して何ら判示していない。

 升川判事は、「かにっ子」側のその他の指摘に対して、「その他、債務者は音楽著作物利用許諾契約締結及び使用料の支払いを不要とする理由を縷々述べるが、いずれも債務者の独自の主張に基くものであり、採用できない」としている。つまり、判示することを拒否している。このような姿勢で、結論として、ジャスラックの申し立てを全面的に認めた決定をしている。いかにも杜撰というべきではなかろうか。

 この間の経緯で判明した事は、判事及び書記官及び執行官が、まるでジャスラックの番犬かのごとく振舞っており、ジャスラック問題のもう一つの問題となっていることである。これを逆から云えば、ジャスラックはあたかも、弁護士及び判事及び書記官及び執行官を暴力団を使うが如く利用している。

 この不正を如何せんか。これが問われているのではなかろうか。私どもは新判例を期待する。

 2008.2.25日 かにこうせん


 



(私論.私見)