カラオケ法理考

 (最新見直し2007.11.15日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、「カラオケ法理」を検証する。既成の解釈は、殆ど全て御用解説であり役に立たない。

 2005.1.27日 れんだいこ拝



イメージシティ事件判決(3)
オーソドックスな判決だが適用範囲には疑問も

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 前回,イメージシティ事件判決の考え方について検討しました。今回のこの判決については,IT業界の関係者からはかなり批判的な意見が多かったようです。裁判長のことを,ともすればおかしな判決を出す傾向があるかのような批判もありました。

 当然ながら,判決自体を批判することは自由であるべきだと思います。しかし,今回の判断が一裁判長の個性に基づく判断であるというのは少し的はずれです。IT業界の関係者が本判決の結論に違和感を感じることはよく分かるのですが,この判決で採用されている考え方は本判決で突然発生したものではありません。いままでの判例法理,あるいは最近の下級審判決の流れに沿ったものです。ある意味,オーソドックスな判決といっていいでしょう。

 ここでいう判例法理とは,いわゆる「カラオケ法理」と呼ばれるものです。この理論ですが,もともと,キャバレー,スナック等においての無許諾での演奏・上映について,スナック等の経営者を著作権侵害の主体ということができるのか,というものです。仮に,スナック等の経営者は著作権侵害の主体ではないということになれば,カラオケを歌っている客の歌唱自体は著作権侵害にあたらないため(注1),著作権侵害は成り立たないことになります。クラブ・キャッツアイという事件では,最高裁まで争われました。

 この点について,クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決(注2)は,スナックの経営者を音楽著作物の利用主体として認めました。同最高裁判決は,物理的に演奏行為等を行っていなくとも,規範的な見地から利用主体を判断するという考え方をとり,(1)著作物の利用についての管理・支配の帰属,(2)著作物の利用による利益の帰属,の2点を総合的に判断するという判断の枠組みを採用しています。

 その後も,同様の考えに基づき下級審判決が積み重ねられました。クラブ・キャッツアイ事件はスナックでの歌唱行為の事案でしたが,その後,カラオケボックスの事案(注3)においても,このような考え方は踏襲されています。

 カラオケボックスの事案においては,「顧客は被告らの管理の下で歌唱し,被告らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば,各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても,その主体は本件店舗の経営者である被告ら」であるとして,カラオケボックスの経営者が侵害の主体であると認定しています。また,その認定の中で「本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから,右の演奏及び上映は,公衆に直接聞かせ,見せることを目的とするものということができる」とも言っています。イメージシティ事件判決の「公衆」の認定と,同じ考え方であるといえるでしょう。

判例の積み重ねに忠実な予想された判決だった

 このように,カラオケに関連して判例は積み重ねられています。また,カラオケ以外にカラオケ法理が適用されたのは,イメージシティ事件判決が初めてではありません。既にいくつかの判決が,このような考えに基づいて出されています。

 まず,ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービスの事案であるファイルローグ事件(注4)があります。中間判決では,ファイル交換サービスの提供者が送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体であるかどうかについて,

i)同サービス提供者の行為の内容・性質
ii)利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度
iii)同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況

等を総合斟酌して判断すべきであるとした上で,サービス提供者を侵害の主体と認定しています。控訴審判決でも若干認定理由は異なりますが,同様の判断をしています。

 これ以外にも,サービス提供者がテレビチューナー付きのパソコンを設置して,インターネットを通じて利用者がテレビ録画を予約,視聴できるようにしたサービスに関する「録画ネット」事件(注5),録画ネットと同様のサービスをソニーが販売しているロケーションフリーテレビを使用して提供した「まねきTV」事件(注6),集合住宅向けのテレビ放送を対象としたハードディスクレコーダー・システムに関する「選撮見録」事件(注7)は,いずれも著作権侵害の主体が誰かという論点が問題となっています。

 なお,録画ネット事件とまねきTV事件は,結論は正反対になりました。録画ネット事件はサービス提供者側の敗訴,まねきTV事件はサービス提供者側の勝訴です。しかし判例法理に関しては,どちらも基本的にカラオケ法理に従っています。結果の違いは事実の“あてはめ”の違いに過ぎず,まねきTV事件の判決がカラオケ法理を採用していないわけではありません。

 従って,イメージシティ事件判決は,一裁判官(あるいは一合議体)の判断の問題ではなく,判例法理から導かれた結論であるということを押さえておく必要があります。これだけ判決例が積み重ねられていると,実務的には無視できない重みがあります。イメージシティ事件の判決は,このようなカラオケ法理に忠実な判決であり,本判決は予測された結論ということになるのでしょう。

 ただし,私自身はこの判例法理をIT関連サービスにそのまま適用することがよいのか(特に射程範囲)については,懐疑的です。IT系のサービスへのカラオケ法理の適用(拡張)については,批判的に検討すべき点もあるのではないかと思います。特に疑問に思っているのは,本判決のような考え方をとると,当該本人以外の人物による著作物利用を回避しようとして,個人認証をしっかりすればするほど,サービス提供者の積極的関与が認定され,著作権侵害の主体がサービス提供者であると認定されてしまう,というところです。

 複製権侵害の点については,分析的に見れば確かに複製は行われているわけですが,「果たしてその複製(あるいは,本事案のような形の送信)で著作権者が損害を被るのか?」というところが根本的な問題でしょう。通常のカラオケの場合には,まだしも著作権者の損害というのが想像しやすいのですが,本判決のような事案で「著作権者に何か損害があるか」と問われるとよく分かりません。

 著作権者に損害がなければ複製をしても構わないという理屈は,著作権法上認められているわけではありません(もちろん,私的利用の複製等は認められていますが,損害の有無と直接は関係しません)。しかし,個人が適法に取得したコンテンツをその当該個人が便利に利用する行為自体は,他人が関与する部分があったとしても許されても良いように思います。その意味でカラオケ法理の修正というものも考えられるべきではないかと思います。

(注1)著作権法38条1項により,営利を目的にしない上演,演奏,上映等は著作権者の許諾を得ないで,上演等を行うことができます。カラオケとして歌う場合には,聴衆からお金をもらうわけではないので,同38条1項が適用されることになります
(注2)最高裁昭和63年3月15日判決
(注3)東京地裁平成10年8月27日判決「カラオケボックス・ビッグエコー事件
(注4)東京地裁平成15年1月29日中間判決および東京高裁平成17年3月31日判決
(注5)知財高裁平成17年11月15日決定(著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件)
(注6)原審:東京地裁平成18年8月4日決定および抗告審:知財高裁平成18年12月22日決定
(注7)大阪地裁平成17年10月24日判決および大阪高裁平成19年06月14日判決


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。
 「カラオケ法理」とは、

カラオケ機器を店に置いて客に歌わせているスナックが、「歌ってるのは客であって、店ではないので、店がJASRACに著作権料を払う必要はない」と主張したのに対して、「店はカラオケの設置によって客を呼び込んで間接的に利益を得ているし、機器の管理もやっているので、店が歌っているのと実質同じ」と解釈して、店側にの著作権料支払いを命じたというものです。最高裁判決。

カラオケ法理(からおけほうり)とは、著作物の物理的な利用者(甲)と、その利用行為に関与する者(乙)が存在するときに、乙が甲の著作物利用行為を支配・管理し、甲の利用行為によって乙が利益を得ているなどの事実が認められる場合には、乙もその著作物の利用者(利用主体)であるとみなし、乙の著作権侵害責任を問いうるとする日本国著作権法解釈をいう。

カラオケ法理」の名称は、カラオケスナック店の著作権(演奏権)侵害が問われた「クラブキャッツアイ事件」の最高裁判所判決(昭和63年3月15日)で判示されたことに由来し、「クラブキャッツアイ法理」、「利用主体拡張法理」とよばれることもある。

同事件では、カラオケスナックにおいて客に有料でカラオケ機器を利用させていた店側に対し日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権料の支払いを求めたのに対し、店側は「著作権を侵害しているのはカラオケ機器を利用して歌を歌う客であり、店はただ機器を提供しているだけに過ぎず、著作権料の支払い義務はない」と主張した。これに対し最高裁は「店側はカラオケ機器を設置して客に利用させることにより利益を得ている上、カラオケテープの提供や客に対する勧誘行為などを継続的に行っていることから、客だけでなく店も著作物の利用主体と認定すべきである」として、店側に著作権料の支払いを命じる判決を下した。

この判決自体は法律関係者の間では概ね妥当なものと考えられているが、後のファイルローグ事件などにおいてはこの法理を元に、直接的な著作権の侵害者(ファイルを不正コピーした者)だけでなくそのためのツールを開発・提供した者についても著作権侵害を認め、損害賠償の支払いやサービスの停止を命じる判決が出されていることから、「今後同法理の拡大解釈により、著作権侵害の範囲が必要以上に広く認定され、Winny事件判決[1]に見られるように、ソフトの開発等に伴うリスクが高まるのではないか」と危惧する意見も一部では出されている。しかしこのような意見に対しては、「この判決は、ソフトの開発自体を著作権侵害の幇助になるとしているのではなく、ユーザーが著作権侵害に利用するであろうことを認識、認容しつつ、当該ソフトを被告が提供したという理由で有罪としたものである」[2]との論評があるように、著作権独自の問題ではなく、一般刑法上の幇助故意責任とその事実認定の問題であるとする指摘がなされているところである。

カラオケ法理については、著作権侵害の主体の認定の範囲において立法によらなければ認定し得ない者についても適用される場合があるのではないかとの指摘がなされている。この点、デジタル化・ネットワーク化時代においても著作権保護を確保するために、著作権侵害を効果的に拡大防止すべきと同時に、著作物の利用の促進を図るという観点から、物理的利用行為によらずに著作権侵害に関与している者のうち、いかなる範囲の者を差止請求の範囲とすべきかについて、立法措置が望まれている。


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03/04/2006

「カラオケ法理」は必要悪だったのか

 いわゆる「カラオケ法理」の主たる機能の一つに、適法な行為に間接的に関与する行為を違法化する機能があります(特別の規定がない限り適法な行為を幇助しても適法であることとは大違いです。また、米国の寄与侵害責任、代位責任、誘因責任とも、「違法な行為」にも関与していることが責任の前提です。)。

 この適法な行為に関与する行為を違法化する機能の嚆矢は、なんといってもクラブキャッツアイ事件最高裁判決です。カラオケスナックで楽しそうにカラオケを楽しんでいる客のほとんどは、「公衆に直接聞かせる」目的もなしに、無償かつ非営利目的で歌を歌っています。従って、客による歌唱自体は著作権侵害とはなりませんから、客による歌唱を幇助したということでカラオケスナックの経営者に幇助責任を問うことはできなかったのです。だからこそ、最高裁は、JASRACの要望を聞き届けるために、カラオケスナックの経営者を歌唱の主体と認定するという荒技を用いる必要があったのです。

 しかし、翻って考えてみると、最高裁判所はそのような禁じ手のような技法を用いてまでクラブキャッツアイ事件でJASRACを勝訴させる必要があったのかというと、それは大いに疑問だったりします。

 クラブキャッツアイ事件当時、音楽著作物(特にカラオケでの歌唱の対象となるような大衆音楽)の著作権者がその音楽著作物を経済的に利用する方法としては、主として、コンサートなどでプロの歌い手に歌ってもらい、レコード等に収録して広く頒布してもらい、テレビやラジオで放送してもらう等することであって、それらを通じてその音楽のファンになった大衆がその歌を口ずさむこと自体から収入を得るということはそもそも収入源としては想定されていませんでした。そして、その楽曲のファンがカラオケスナック等でその歌を気持ちよく歌うということは上記レコード等の売り上げやコンサート収入、テレビ・ラジオ等のスポンサー料等を減少させるものではなく(注1)、従って、著作権者の著作権収入を減少させるものではありませんでした。したがって、クラブキャッツアイ事件でJASRACを敗訴させた結果カラオケスナックにおける客の歌唱に関してJASRACが著作権使用料の支払いを受けられないということになったとしても、それにより作詞家、作曲家たちの創作へのインセンティブが低下するということはなかったということができます(所詮、現状維持なのですから。)。

 もちろん、作詞家・作曲家の創作へのインセンティブをより高めるために、カラオケスナックでの客の歌唱について作詞家・作曲家等が収入を得られるようにしようという政策論議というのはあり得ると思います。しかし、そのような新たな政策を実現するのは、裁判所ではなく、議会の役割であったはずです。従って、著作権法を改正したり特別立法をしたりなどしてカラオケスナックでの客の歌唱について作詞家・作曲家等が収入を得られるようにするというのはそれはありだと思うのですが、裁判所が過度に技巧的な解釈を行うことによって議会の承認を得ずしてカラオケスナックでの客の歌唱について作詞家・作曲家等が収入を得られるようにしてしまうというのは、やはりまずかったのではないかと思います。

 今後、著作権法についても間接侵害の規定を設けることの当否が議論されることになるかとは思います。その際には、適法な行為への関与を違法化する機能は「カラオケ法理」から継承しないようにしてもらいたいと思います。

注1
 その後しばらくして、むしろ、新曲をいち早くカラオケで披露したいがために音楽CDを購入することが広く行われるようになり、それが90年代前半の音楽CDバブルを牽引したことは記憶に新しいです。

【今日聴いた曲の中でお勧めの1曲】


The World Is Mine

    by David Guetta

Posted by H_Ogura at 05:45 PM dans sur la propriètè intellectualle |

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Voici les sites qui parlent de 「カラオケ法理」は必要悪だったのか:

Commentaires

  これ、比較法的にはどうなんでしょ。
 村林古稀でまはらじゃ事件の判例評釈をかくときに特にしなかったんですけど、学者のかたでやっているかたはいないんでしょううか。

Rédigé par: madi | le 03/08/2006 à 16:27


カラオケ法理と刑事罰

 ライブハウスの経営者に有罪判決が下された事案が紹介されていますが、刑事法の分野でもカラオケ法理が適用された裁判例としては、大阪地判平成6年4月12日判タ879号279頁)があります。

 この事件でも、弁護人は、カラオケ法理を刑事法に適用するのは罪刑法定主義に反するとの批判をしていますが、これに対して裁判所は次のように判示しています。

弁護人は、カラオケの伴奏部分は適法とされているにもかかわらず、客等の歌唱の部分のみを取り上げて演奏権を侵害するというのは、犯罪構成要件明確性の原則、類推解釈禁止の原則を唱った罪刑法定主義に違反する旨主張するが、カラオケ伴奏自体はやはり歌唱に対して付随的役割を有するにすぎないとみざるを得ず、カラオケ店における客によるカラオケを伴奏とする歌唱が、店の経営者による演奏権の侵害になるという結論自体は前記の判例等から確定的であるといってよい。然るに、民事上は演奏権の侵害とされるのは仕方がないとしても、刑事上は罪刑法定主義の観点から演奏権の侵害にはならないかの如き解釈は、演奏権の概念を徒らに混乱させるものであって、到底採り得ない。演奏権の概念自体は民事上、刑事上を問わず一義的に明確であるべきものであり、また同一内容のものとしてとらえるべきものと解する。

 河上元康裁判長は、民事と刑事とでは、法解釈の限界に差違がないとの見解にお立ちなのではないかと思われます。

Posted by H_Ogura at 11:37 AM dans sur la propriètè intellectualle |


[][]刑事事件とカラオケ法理Add Star

著作権違反での逮捕事例(2)/刑事事件としての著作権違反と民事事件としての著作権侵害 - 言いたい放題の一審判決がありました。

著作権料不払い>元ライブハウス経営者に有罪 名古屋地裁

 著作権料を支払わずに飲食店で生演奏をさせたとして、著作権法違反の罪に問われた名古屋市中区大須2、元ライブハウス経営田中まり子被告(45)に対し、名古屋地裁は19日、懲役1年、執行猶予3年を、同被告社長を務めていた「ワールド・コーポレーション」に求刑通り罰金80万円をそれぞれ言い渡した。

毎日新聞) - 5月19日15時19分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060519-00000068-mai-soci

まだまだ頭の中で整理できていませんし、判決文も読んでみたいところですが、少し思うところを。

これって、個人(社長)と会社起訴されていたんですね。

犯罪主体は誰なんでしょう?

おそらく社長(法人代表者)が犯罪主体で、両罰規定適用で、会社罰金ではないかと。

ただ、本件で著作物を現実に演奏したのは演奏者。

演奏者から、いわゆるカラオケ法理で利用責任主体性を転換するのであれば、

利益帰属は法人たる会社そのものというべきであって、個人に帰属させるは困難ではないかと(私見)。

本来会社が主体だが、もし会社と個人を実質的に同一視するというのであれば、両罰適用は実質的に二重処罰になる。

(少なくとも、本件で代表者を処罰するのであれば、法人処罰は否定すべき)

おそらく民事事件(特に差し止め請求)であれば、法人の責任を認めれば足りる(私見では、責任主体は会社であるべき)。

刑事事件の場合、法人の犯罪能力(否定)論ともかかわってくると思うのだが、

かなり技巧的にならざるを得ず、ここまで拡張的にカラオケ法理を適用することは

罪刑法定主義の観点から問題があるように思うのである。

前回、

(ただし、記事からみえる本事例についてあてはめることについては不当とは思いません。)

としたが、上記のようなわけで「本事例については不当」と改めたい。

刑事事件については、罪刑法定主義という憲法上の要請が働く以上、

カラオケ法理の適用については、より慎重であるべきように思う。

もちろん上記私見によれば、法人経営の場合と個人経営の場合と不均衡と思えなくはない。

しかし、そうであれば、むしろいずれも処罰を否定すべきであり、不都合は立法措置で補うべきであろう。


ところで、上記判決の2日前、

「464.jp」運営者に有罪判決

2006年05月17日 20時29分 更新

 人気漫画を違法ネット公開したとして著作権法違反の罪に問われていた「464.jp」運営者ら3人に対する判決公判が5月17日、福岡地裁であり、主犯格の東京都大田区のネット喫茶経営の男(52)を懲役2年執行猶予3年とするなど、それぞれ有罪判決が言い渡された。

(以下、略)

[ITmedia]

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0605/17/news112.html

という判決もあった。

この漫画喫茶事案が、典型的な刑事事案。

もし、これが法人(に準ずるもの含む)なら、会社に両罰規定適用しうることになる。

代表者、従業員ですら、利益帰属主体たる法人に犯罪を課すには両罰規定が必要なのである。

もちろん、両罰規定は非自然人に刑罰を科すための規定であるといえば、それまでだが、

価値判断としては、やはり不均衡さが残る。


まだまだ整理中なのだが、判決文が公表されれば、じっくり考えてみたい事件である。

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カラオケ法理

Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…

Q:はじめまして。私は都市部のとある公立図書館で司書をしている公務員です。たまたま図書館と著作権についてヤフーで検索していたら、このブログのQ6を見つけたので、図書館の著作権問題について質問させていただきます。

公立図書館でコピーをする場合には著作権法31条によりある一定の条件でコピーをすることが例外的に認められているのは知っていますが、当館の利用者から図書の一部分(半分)しかコピーできないのにおかしい、コンビニでセルフコピーをしても全部分のコピーが認められるのに、時代遅れでお役所的な仕事であるとのクレームが多数ありました。

そこで考えに考えた末、図書館の図書・雑誌のコピーは利用者が個人的に使用する目的で行われるのであるから、著作権法30条1項による私的複製によるコピーということにしようと考えつきました。これだったら複写の量の制限はありません。当館はあくまでコピー機の場所貸しをしているだけという立場に立ち、コピーは利用者とコピー機業者の間の問題であると処理することにしました。

早速実施したところ、利用者からのコピーについてのクレームはなくなり、職員も利用者も万々歳という状況になりました。ところがそれから1年経ったころ、わが市のウェブサイトの「市民なんでも目安箱」に、当館で行っているコピーサービスは著作権侵害であり直ちにやめるべきであるとの意見が寄せられました。

この意見に対しては、コンビニでセルフコピー機を便利に使える時代になったのに、著作権法31条は図書館利用者の利便性を阻害する時代遅れのものであるため、来館者の声を反映させて著作権法30条による複写とみなし、時代に順応した措置を行った旨回答しました。

これに対して意見提出者から、コンビニでのコピーは100%持込み資料であるのに対して、図書館でのコピーは図書館資料を使うものであり、著作権侵害を助長する許されない行為であるとの再意見が出されました。

一方のクレーマーを処理したと思ったら、またクレーマーが出てきて苦慮しておりますが、この「目安箱」への意見提出者の言っていることは本当なのでしょうか。よろしく御教示ください。

A:図書館員って憧れる人が多いけど(特にインテリなのんびり系の女性に)、実際は仕事のメインがクレーマー処理っつーのも因果なものだなあ。平日の昼間からノコノコやって来る客はまともに税金も払ってねー奴が多いのにな。せめて入館料は取った方が社会貢献のためだぜ。にもかかわらず「図書館無料利用の原則は憲法で保障された人権である」という意見が図書館業界誌に載っているのを見たことがあるが・・・。

質問だけど、「目安箱」のクレーマーが言っているとおり、あんたの図書館は著作権法上危ない橋を渡っているといわざるを得ないな

個人利用目的で図書館のコピー機で図書館資料をセルフコピーする利用者に着目した場合、著作権法上次の2つの法的構成が考えられる。

【1】図書館が主体として著作権法31条に基づき複写を行い、利用者が図書館の手足として複写を行う考え方(『大学図書館における著作権問題Q&A(第5版)』1頁、附録3(国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会、2006)参照)

この場合には、図書館は次の5つの要件を満たす場合に限り、利用者に著作権法31条の範囲内(図書館資料の一部分に限り複写可能等)セルフコピーを行わせることができる。

① 図書館及び文献複写のために利用者の用に供する各コピー機について、管理責任者(及び運用補助者)を定める。

② コピー機の管理責任者は、司書またはそれに準じた者とする。

③ 図書館は、各コピー機の稼働時間を定めて掲示する。

④  コピー機の管理責任者は、管理するコピー機による文献複写の状況を随時監督でき  る場所で執務する。

⑤ 図書館は、コピー機の稼動記録を残す

【2】図書館利用者が複写の主体として個人利用目的で著作権法30条1項に基づき複写を行えるとする考え方

なお、コンビニ設置のコピー機のように、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合には原則として私的複製から除かれるが(著作権法30条1項1号)、文書又は図画の複製に利用する場合には暫定的に適用除外されている(附則5条の2)。

これら2つの考え方のポイントは、複写の主体をどのように捉えているかである。セルフコピー機で作業しその成果物を取得するのが利用者であることを考えれば、【2】の考え方が自然であろう。あんたの図書館もそう考えてんだろ。しかしそうするとだなあ、著作権法31条で複写の要件を定めている意味は何なのか、ということになろう。この【2】の法的構成については出版社ひつじ書房・松本功氏など)や著作権管理団体(日本複写権センター「オピニオン/図書館におけるコピーサービス」コピライト477号(2001)67頁-68頁)など)が批判をしている。

この批判に対しては、あんたが「目安箱」で反論したように著作権法31条なんてセルフコピー機がない時代の古い規定だと言われそうだが、そうすると逆に、こんなに大量複写が可能になった時代に、(コピー機があまりなかった立法当時(昭和40年代前半)を前提にした)著作権料無料の複写を図書館(及びそれによってコピーをゲットできる利用者)に認めること自体がおかしいと言われかねないな。実際に現行著作権法を制定した加戸守行氏は図書館も一定の料金を払うべきであり31条自体が要らないと述べており、またその上司であった佐野文一郎氏に至っては「31条なんていうのは、かなり著作権思想の普及にとっては悪影響を与えているでしょうね」とまで言っている(加戸守行ほか「座談会 著作権法制100年と今後の課題」ジュリスト1160号(1999)25頁)

では【2】の考え方を採った場合、図書館利用者は著作権法上堂々とセルフコピーを無限に行え、一方で図書館はクレームが減って、両者ともに「わたしはハッピー、あなたもラッキー」というWIN-WIN状態になるのだろうか。

ところがどっこい、その場合でも個々の利用者のセルフコピー全体の複写の主体を図書館と捉え、複製権侵害と認定される可能性がある。その根拠となるのがカラオケ法理だ。この法理は、物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、「著作権法上の規律の観点」を根拠として、①管理(支配)性および②営業上の利益という二つの要素に着目して規範的に利用行為の主体と評価する考え方であり、クラブ・キャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁)において採用されたものとされている(上野達弘「いわゆる『カラオケ法理』の再検討」紋谷暢男教授古稀記念『知的財産権法と競争法の現代的展開』783頁(発明協会、2006))

この法理を利用者のセルフコピーに適用した裁判例として、最近「土地宝典複写事件」判決東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)が出された。この事件は、土地宝典という法務局備付けの「公図」に旧土地台帳の地目・地積等の情報を追加して編集したものを法務局が利用者(主に不動産・金融機関関係の業者)に貸し出した上、同局内にある民事法務協会(法務局の天下り的な財団法人)が設置するコインコピー機で複写させることが、土地宝典の著作権侵害行為に当たるかということを争ったものである。

この点裁判所は、コインコピー機の直接の管理者であり多数の一般人に土地宝典の複製行為をさせ利益を得ていた民事法務協会を侵害主体と認定すると同時に、法務局が同協会にコインコピー機の設置許可を与え、同設置場所の使用料を取得し、同コピー機が法務局が貸し出す図面の複写にのみ使用され、さらにコインコピー機の設置場所についても直接管理監督していることを考慮して、土地宝典の複製を禁止しなかった法務局は民事法務協会とともに複製権侵害の共同侵害主体であると認定している。さっき書いたカラオケ法理の①、②の要件を満たしているということだな。

この判決を踏まえると、おまえの図書館も、コピー機業者にコピー機の設置許可を与え、そいつから設置使用料を徴収していれば、カラオケ法理によって図書館が各利用者の複製行為の主体と認定され、著作権侵害!!という判決をされるおそれがあるということだな。

なお本件では、コピー機利用者は複数の公的申請の添付書類として土地宝典の写しの提出が求められ、あるいは他の書類に代えて土地宝典の写しを提出するなど業務目的で行っていることから、著作権法30条1項の私的複製とは認められていない(だからこそ、本件ではコピー機設置者の民事法務協会も、コンビニがセルフコピー機で複写されるのとは異なり、著作権侵害の主体と認定されたのだろう)。またコピーされているのは「土地宝典」という特定の著作物であり、様々な図書館資料を所蔵している図書館でのセルフコピーとは状況が異なる。

しかし前者については、先に述べたクラブキャッツアイ事件ではカラオケの楽曲を直接歌っている客は著作権法38条1項により著作権侵害とならない(演奏権制限)ことからカラオケ法理が考えられたように、同法理が適用される場合には直接の利用者が著作権侵害であるかどうかを問わず「著作権法上の規律の観点」からその利用者を支配する間接的関与者が著作権侵害の主体と認定される。また後者については、本件事案では土地宝典という特定の著作物の著作権者(株式会社富士不動産鑑定事務所)が訴えた事案であるが、確かに図書館では多くの著作物が所蔵されており、またその中には館内で複製利用されずに貸出しをされるものがあるため、特定の著作物の著作権者が図書館を訴えることは本件に比べ困難であろう。しかし日本複写権センターのような複製権管理団体が行えば複製権侵害された著作物の特定はある程度緩和され、またどれだけ館内複写されて損害が発生したかという損害額の認定については著作権法114条の5の適用(あるいは類推適用)によりクリアーされる問題であろう。

つうことで、Q6でも述べたが、法律上の無難さをこよなく愛する役人マインドからすれば、利用者のセルフコピーについて「そんなの関係ねぇ!」と言ってられないつーことだな。まあ、一民間人に過ぎない俺様の戯言など、ほとんど無視されるんだろうがな。

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イメージシティ事件判決(3)
オーソドックスな判決だが適用範囲には疑問も

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 前回,イメージシティ事件判決の考え方について検討しました。今回のこの判決については,IT業界の関係者からはかなり批判的な意見が多かったようです。裁判長のことを,ともすればおかしな判決を出す傾向があるかのような批判もありました。

 当然ながら,判決自体を批判することは自由であるべきだと思います。しかし,今回の判断が一裁判長の個性に基づく判断であるというのは少し的はずれです。IT業界の関係者が本判決の結論に違和感を感じることはよく分かるのですが,この判決で採用されている考え方は本判決で突然発生したものではありません。いままでの判例法理,あるいは最近の下級審判決の流れに沿ったものです。ある意味,オーソドックスな判決といっていいでしょう。

 ここでいう判例法理とは,いわゆる「カラオケ法理」と呼ばれるものです。この理論ですが,もともと,キャバレー,スナック等においての無許諾での演奏・上映について,スナック等の経営者を著作権侵害の主体ということができるのか,というものです。仮に,スナック等の経営者は著作権侵害の主体ではないということになれば,カラオケを歌っている客の歌唱自体は著作権侵害にあたらないため(注1),著作権侵害は成り立たないことになります。クラブ・キャッツアイという事件では,最高裁まで争われました。

 この点について,クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決(注2)は,スナックの経営者を音楽著作物の利用主体として認めました。同最高裁判決は,物理的に演奏行為等を行っていなくとも,規範的な見地から利用主体を判断するという考え方をとり,(1)著作物の利用についての管理・支配の帰属,(2)著作物の利用による利益の帰属,の2点を総合的に判断するという判断の枠組みを採用しています。

 その後も,同様の考えに基づき下級審判決が積み重ねられました。クラブ・キャッツアイ事件はスナックでの歌唱行為の事案でしたが,その後,カラオケボックスの事案(注3)においても,このような考え方は踏襲されています。

 カラオケボックスの事案においては,「顧客は被告らの管理の下で歌唱し,被告らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば,各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても,その主体は本件店舗の経営者である被告ら」であるとして,カラオケボックスの経営者が侵害の主体であると認定しています。また,その認定の中で「本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから,右の演奏及び上映は,公衆に直接聞かせ,見せることを目的とするものということができる」とも言っています。イメージシティ事件判決の「公衆」の認定と,同じ考え方であるといえるでしょう。

判例の積み重ねに忠実な予想された判決だった

 このように,カラオケに関連して判例は積み重ねられています。また,カラオケ以外にカラオケ法理が適用されたのは,イメージシティ事件判決が初めてではありません。既にいくつかの判決が,このような考えに基づいて出されています。

 まず,ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービスの事案であるファイルローグ事件(注4)があります。中間判決では,ファイル交換サービスの提供者が送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体であるかどうかについて,

i)同サービス提供者の行為の内容・性質
ii)利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度
iii)同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況

等を総合斟酌して判断すべきであるとした上で,サービス提供者を侵害の主体と認定しています。控訴審判決でも若干認定理由は異なりますが,同様の判断をしています。

 これ以外にも,サービス提供者がテレビチューナー付きのパソコンを設置して,インターネットを通じて利用者がテレビ録画を予約,視聴できるようにしたサービスに関する「録画ネット」事件(注5),録画ネットと同様のサービスをソニーが販売しているロケーションフリーテレビを使用して提供した「まねきTV」事件(注6),集合住宅向けのテレビ放送を対象としたハードディスクレコーダー・システムに関する「選撮見録」事件(注7)は,いずれも著作権侵害の主体が誰かという論点が問題となっています。

 なお,録画ネット事件とまねきTV事件は,結論は正反対になりました。録画ネット事件はサービス提供者側の敗訴,まねきTV事件はサービス提供者側の勝訴です。しかし判例法理に関しては,どちらも基本的にカラオケ法理に従っています。結果の違いは事実の“あてはめ”の違いに過ぎず,まねきTV事件の判決がカラオケ法理を採用していないわけではありません。

 従って,イメージシティ事件判決は,一裁判官(あるいは一合議体)の判断の問題ではなく,判例法理から導かれた結論であるということを押さえておく必要があります。これだけ判決例が積み重ねられていると,実務的には無視できない重みがあります。イメージシティ事件の判決は,このようなカラオケ法理に忠実な判決であり,本判決は予測された結論ということになるのでしょう。

 ただし,私自身はこの判例法理をIT関連サービスにそのまま適用することがよいのか(特に射程範囲)については,懐疑的です。IT系のサービスへのカラオケ法理の適用(拡張)については,批判的に検討すべき点もあるのではないかと思います。特に疑問に思っているのは,本判決のような考え方をとると,当該本人以外の人物による著作物利用を回避しようとして,個人認証をしっかりすればするほど,サービス提供者の積極的関与が認定され,著作権侵害の主体がサービス提供者であると認定されてしまう,というところです。

 複製権侵害の点については,分析的に見れば確かに複製は行われているわけですが,「果たしてその複製(あるいは,本事案のような形の送信)で著作権者が損害を被るのか?」というところが根本的な問題でしょう。通常のカラオケの場合には,まだしも著作権者の損害というのが想像しやすいのですが,本判決のような事案で「著作権者に何か損害があるか」と問われるとよく分かりません。

 著作権者に損害がなければ複製をしても構わないという理屈は,著作権法上認められているわけではありません(もちろん,私的利用の複製等は認められていますが,損害の有無と直接は関係しません)。しかし,個人が適法に取得したコンテンツをその当該個人が便利に利用する行為自体は,他人が関与する部分があったとしても許されても良いように思います。その意味でカラオケ法理の修正というものも考えられるべきではないかと思います。

(注1)著作権法38条1項により,営利を目的にしない上演,演奏,上映等は著作権者の許諾を得ないで,上演等を行うことができます。カラオケとして歌う場合には,聴衆からお金をもらうわけではないので,同38条1項が適用されることになります
(注2)最高裁昭和63年3月15日判決
(注3)東京地裁平成10年8月27日判決「カラオケボックス・ビッグエコー事件
(注4)東京地裁平成15年1月29日中間判決および東京高裁平成17年3月31日判決
(注5)知財高裁平成17年11月15日決定(著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件)
(注6)原審:東京地裁平成18年8月4日決定および抗告審:知財高裁平成18年12月22日決定
(注7)大阪地裁平成17年10月24日判決および大阪高裁平成19年06月14日判決


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

著作者の権利

4.著作者の権利の内容

著作者の権利は、著作財産権と著作者人格権に大別されます。また、著作財産権、著作者人格権はさらに多数の支分権に分かれます。

著作者の権利 著作財産権 複製権、上演権・演奏権、公衆送信権・公の伝達権
口述権、展示権、譲渡権、頒布権、貸与権
翻案権、二次的著作物利用権
著作者人格権 公表権、氏名表示権、同一性保持権 

1)著作財産権

(1) 複製権

著作者は、その著作物を複製する権利を専有することができます(著21条)。これを複製権といいます。
「複製」とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著2条1項15号)、有体物への固定がその要件となります。
そのため、コピーや手書き模写、MDへの録音、ハードディスクへの保存などは複製にあたりますが、歌唱、口述のような無形的利用は複製にはあたりません。

(2) 上演権・演奏権

著作者は、その著作物を、公に上演し、又は演奏する権利を専有することができます(著22条)。これを上演権・演奏権といいます。
ここでいう「公に」とは、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とした場合を意味しますが、「公衆」には、特定かつ多数の者が含まれます(著2条5項)。
また、同条にいう「演奏」には、録音物の再生も含まれます(著2条7項)。

※ カラオケスナックと演奏権侵害-カラオケ法理
平成11年改正前の附則14条では、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、当分の間、一定の場合を除き、演奏権の効力は及ばないとされており、カラオケスナックが、伴奏テープを再生する行為には、演奏権の効力は及ばないとされていました。しかし、この原則を貫くと、カラオケスナックがテープ等で伴奏を流し、客が歌唱する行為につき、作詞家、作曲家の著作権を及ぼすことができなくなります。そこで、考え出されたのが、カラオケ法理です。最高裁は、(1)管理性、(2)利益性という2つの基準に基づき、演奏(歌唱)の主体はスナックであるとして、著作権侵害を肯定しました。

資料を表示する 【参考裁判例】
・クラブ・キャッツアイ 事件(最判昭和63年3月15日)

(3) 上映権

著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有することができます(著22条の2)。これを上映権といいます。
「上映」とは、著作物を映写幕その他の物に映写することをいい(著2条1項17号)、映画館における映画の上映のほか、ゲームセンターや漫画喫茶におけるゲーム機の設置、講演会におけるOHPを用いた著作物の提示等がこれに該当します。

(4) 公衆送信権

著作者は、その著作物を公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む)をする権利を専有することができます(著23条1項)。これを公衆送信権といいます。
「公衆送信」には、(1)テレビ・ラジオなどの放送、(2)ケーブルテレビ等の有線放送、(3)インターネット等を通じたサーバからのインタラクティブ通信、(4)その他の通信(電話注文に応じたファックスサービス等)のほか、サーバへのアップロードのような送信可能化行為も含まれます。
なお、データのダウンロードについては、複製権の成否が問題となりますが、個人が行う場合には私的使用(著30条1項)にあたり、著作権侵害が否定される場合があります。

※ ファイル交換ソフトとカラオケ法理
近年、サーバにデータをアップロードすることなく、個人のパソコン内の共有フォルダに著作物を蔵置することによって、ユーザ間でファイルをダウンロードできる状況を作り出すシステム・ソフトが誕生し(ファイル交換ソフト)、音楽業界は頭を悩ませています。かかるサービスにおいては、利用者個人の行為が著作権侵害になるとしても、全利用者に対し、差止、損害賠償の請求をすることは事実上困難だからです。この問題に関し、東京高裁は、クラブ・キャッツアイ事件のカラオケ法理と類似の構成によって、システム提供者の侵害行為主体性を肯定しています。

資料を表示する 【参考裁判例】
・ファイルローグ事件(東京高判平成17年3月31日)

(5) 公の伝達権

著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有することができます(著23条2項)。これを公の伝達権といいます。
たとえば、放送される生ライブを大型スクリーンに映写する行為や通信カラオケで送られてくる映像を画面に映し出す行為等がこれにあたります。
もっとも、この権利には例外があり、非営利かつ無料の場合、通常の家庭用受信装置による場合には、権利が及ばないとされています(著38条3項)。

(6) 口述権

著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有することができます(著24条)。これを口述権といいます。
「口述」とは、朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達することをいい、実演に該当するものは除かれます(著2条1項18号)。

(7) 展示権

著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有することができます(著25条)。これを展示権といいます。

(8) 頒布権

著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有することができます(著26条)。これを頒布権といいます。 「頒布」とは、一般には、公衆に譲渡または貸与することをいいますが、「映画の著作物」の場合は、直接に譲渡または貸与する相手が公衆でない場合(特定少数の場合)であっても、公の上映を目的としている場合には「頒布」に該当します(著2条1項19号)。「映画の著作物」の意義に関して、著作権法は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むとの規定を置いています(著2条3項)。 この規定によれば、純粋な映画のほか、ビデオカセットやビデオゲーム等も映画の著作物に含まれることになります。

資料を表示する 【参考裁判例】
・中古ゲームソフト事件(最判平成14年4月25日)

(9) 譲渡権

著作者は、その著作物(映画の著作物を除く)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有することができます(著26条の2 第1項)。これを譲渡権といいます。譲渡権に関しては、権利消尽(国内消尽、国際消尽)に関する規定が、明文で規定されています(著26条の2 第2項)。そのため、著作権者が国内または国外で適法に譲渡した後は、その商品の再譲渡を禁止することはできません。もっとも、平成16年の法改正で新設された著作権法113条5項の規定により、商業用レコードの並行輸入に関しては、一定の場合には著作権侵害になるとの例外が設けられています。

(10) 貸与権

著作者は、その著作物(映画の著作物を除く)をその複製物の貸与により公衆に提供する権利を専有することができます(著26条の3)。これを貸与権といいます。映画の著作物および複製されている著作物については、頒布権で処理されるため、貸与権は及びません。

[例]CDレンタル、コミックレンタル

(11) 翻訳権・編曲権・変形権・翻案権

著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有することができます(著27条)。これを翻訳権・編曲権・変形権・翻案権といいます。

[例] 英語の書籍の日本語訳、小説のドラマ化、脚本の映画化、要約文の作成 

(12) 二次的著作物利用権

二次的著作物の原著作物の著作者は、その二次的著作物の利用に関し、二次的著作物の著作者と同様の権利(複製権、上演権・演奏権、公衆送信権、公の伝達権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻案権)を専有することができます(著28条)。例えば、小説をもとにした映画をDVDとして発売する場合には、小説の著作権者の権利が及ぶことになります。二次的著作物利用権に関しては、二次的著作物の作成に際し付加され、原著作物の創作的表現があらわれていない部分にも原著作者の28条の権利が及ぶかが議論されています。この点に関し、判例は、かかる部分にも28条の権利が及ぶ旨判示していますが、学説では原作者の創作性がない部分に権利がおよぶのはおかしいとして、これを否定する見解も有力です。

資料を表示する 【参考裁判例】
・キャンディキャンディ事件(最判平成13年10月25日)

2)著作者人格権

著作権法は、前述した著作財産権のほか、著作者の人格的利益を保護する権利である著作者人格権につき規定しています。著作者人格権は、著作財産権とは異なり、著作者の一身に専属し、譲渡することができないものとされています(著59条)。

(1) 公表権

著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有します(著18条1項)。もっとも、著作者が著作物を譲渡した場合など一定の場合には、公表に同意したものと推定され、公表権侵害は成立しないとされています(著18条2項、3項、4項)。

(2) 氏名表示権

著作者は、著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有します(著19条1項)。たとえば、A作曲の歌を「作曲者B」として放送した場合には氏名表示権の侵害となります。
もっとも、以下の場合には、氏名表示権は及びません(著19条2項3項)

(1)著作者がすでに行った表示に従った場合
[例]すでに書籍として出版されている著作者名に従った場合

(2)著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがなく、公正な慣行に反しない場合
[例]レストランのBGMとして音楽のメドレーCDをかけること

(3) 同一性保持権

著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない権利を有します(著20条1項)。たとえば、絵画集を出版する際に出版社が無断で絵の上下をカットした場合などには同一性保持権の侵害が問題となります。
もっとも、以下の場合には、同一性保持権は及びません(著20条2項)。

(1)著作物を教科書等に掲載する場合等における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
(2)建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
(3)特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
(4)著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

資料を表示する 【参考裁判例】
・脱ゴーマニズム宣言 事件(東京高裁平成12年4月25日)
・ときめきメモリアル事件(最判平成13年2月13日)


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裁判例からのアプローチ

   以下、本件に関連する主要な裁判例を概観する。

(1)  カラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)関係

  1  侵害主体を著作権法の規律の観点から規範的に捉えるとされるものとして、裁判例上、次のようなカラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)と呼ばれる法理が用いられている。

 〔1〕最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〈クラブキャッツアイ事件〉は、スナック等の経営者が、カラオケ装置とカラオケテープとを備え置き、ホステス等の従業員においてカラオケ装置を操作し、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させるなどし、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を上げることを意図しているという事実関係のもとにおいては、ホステス等の従業員が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上記経営者であると判示する。その理由付けとしては、客のみが歌唱する場合でも、客は、上記経営者と無関係に歌唱しているわけではなく、上記経営者の従業員による歌唱の勧誘、上記経営者の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上記経営者の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上記経営者の管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上記経営者は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上記経営者による歌唱と同視しうるとする注釈1
 なお、この法廷意見に対しては、客のみが歌唱する場合についてまで、営業主たる上記経営者をもって音楽著作物の利用主体と捉えることは、いささか不自然であり、無理な解釈ではないかとし、この場合には、客の自由意思によって音楽著作物の利用が行われているのであるから、営業主たる上記経営者が主体的に音楽著作物の利用にかかわっているということはできず、これを上記経営者による歌唱と同視するのは、擬制的にすぎて相当でないとする伊藤正己裁判官の意見が付されている。
 上記のカラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)については、〔2〕最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〈カラオケリース事件(ビデオメイツ事件)〉においても、基本的に再確認されている。

注釈1  そして、本文上記の点から、上記経営者が、権利者の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により上記経営者の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れないとしている。


 このカラオケ法理は、カラオケスナック等の場合だけでなく、カラオケボックスの場合においても、下級審裁判例において踏襲されている。例えば、〔3〕東京地判平成10年8月27日知裁集30巻3号478頁〈カラオケボックス・ビッグエコー事件〉は、カラオケ店舗の経営者が、同店舗の各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払って歌唱し、歌唱する曲目は上記店舗経営者が用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られるという事案につき、顧客による歌唱は、上記店舗経営者の管理の下で行われているというべきであり、また、カラオケボックスの営業の性質上、上記店舗経営者は、顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による著作物の演奏についても、その主体は上記店舗経営者であると判示している。
 また、前記カラオケ法理の適用範囲は、カラオケ関係以外にも拡大されてきている。例えば、〔4〕東京地判平成10年11月20日知裁集30巻4号841頁〈アダージェット・バレエ作品振付け事件〉は、舞踊の著作物の上演の主体につき、実際に舞踊を演じたダンサーに限られず、当該上演を管理し、当該上演による営業上の利益を収受する者も、舞踊の著作物の上演の主体であり、著作権又は著作者人格権の侵害の主体となり得ると判示している。

  2  前記カラオケ法理は、ファイル交換事件関係でも、基本的には踏襲されているもののように見受けられる。

 〔5〕東京地中間判平成15年1月29日判時1810号29頁〈ファイルローグ事件中間判決〉は、ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービスの事案において、同サービスの提供者が、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては、a)同サービス提供者の行為の内容・性質、b)利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度、c)同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきであるとした上で、1)同サービスは、MP3ファイルの交換に係る分野については、利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること、2)同サービスにおいて、送信者がMP3ファイルの自動公衆送信及び送信可能化を行うことは同サービス提供者の管理の下に行われていること、3)同サービス提供者も自己の営業上の利益を図って、送信者に同行為をさせていたことから、同サービス提供者を、侵害の主体であると判示している。ここでは、前記カラオケ法理と基本的に共通するb)、c)の点に加えて、a)の点を考慮要素としている点、また、これらの3つの要素につき、「総合斟酌」するとしている点が注目される。

 なお、同事件の控訴審の〔6〕東京高判平成17年3月31日最高裁HP(平16(ネ)405)注釈2〈ファイルローグ事件控訴審判決〉は、単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず、同電子ファイル交換サービスが、その性質上、具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり、同サービス提供者がそのことを予想しつつ同サービスを提供して、そのような侵害行為を誘発し、しかもそれについての同者の管理があり、同者がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは、同者はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、その責任を問われるべきことは当然であり、同者を侵害の主体と認めることができるというべきであると判示している。その上で、a)同サービスの性質、b)管理性、c)同サービス提供者の利益の存在の各点につき検討し、これら各点を総合考慮すれば、同サービス提供者は、同サービスによる本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体であると認めることができるとしている。

注釈2  東京高判平成17年3月31日最高裁HP(平16(ネ)446)も同旨。


(2)  侵害行為の幇助者に対する差止請求の可否

 〔7〕大阪地判平成15年2月13日判時1842号120頁〈通信カラオケ装置リース事件(ヒットワン事件)〉は、著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解されるが、侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、a)幇助者による幇助行為の内容・性質、b)現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、c)幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接なかかわりを有し、当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるとして、一定の場合において幇助者に対する差止請求を肯定している。

 これに対して、〔8〕東京地判平成16年3月11日最高裁HP(平15(ワ)15526)〈2ちゃんねる小学館事件第一審判決〉は、著作権法112条1項は、著作権の行使を完全ならしめるために、権利の円満な支配状態が現に侵害され、あるいは侵害されようとする場合において、侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって、いわゆる物権的な権利である著作権について、物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが、同条に規定する差止請求の相手方は、現に侵害行為を行う主体となっているか、あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当であるとして、特許法101条や商標法37条のような規定を要するまでもなく、権利侵害を教唆、幇助し、あるいはその手段を提供する行為に対して、一般的に差止請求権を行使し得るものと解することはできないと判示する注釈3注釈4
 また、現に著作権等の侵害が行われている場合、あるいは行われるおそれの高い場合に、権利を侵害された者において侵害行為を行った主体に対する差止請求を行うことが容易ではない一方で、幇助者の行為が著作権等の侵害行為に密接な関わりを有し、かつ幇助者が被害の拡大を容易に防止することができる立場にあるような場合には、当該幇助行為を行う者は著作権等の侵害主体に準ずる者として、著作権法112条1項に基づく差止請求の相手方になり得るという前記大阪地判の立論とほぼ同様の主張については、採用することができないと明確に判示している注釈5

注釈3  なお、「もっとも、発言者からの削除要請があるにもかかわらず、ことさら電子掲示板の設置者が、この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には、電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて、電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが、そのような事情の存在しない本件において、被告に対する差止請求を認める余地はない。」とも判示する。

注釈4  なお、上記のような差止請求のほか、損害賠償請求については、作為義務も過失も否定されるとして否定している。

注釈5  特許法に関するものではあるが、〔9〕東京地裁平成16年8月17日判時1873号153頁〈切削オーバーレイ工法事件〉は、「特許法100条は、特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが、同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは、自ら特許発明の実施(特許法2条3項)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい、それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。」として同旨を明確に判示する。


(3)  その他

 前記〔8〕事件の控訴審である〔10〕東京高判平成17年3月3日最高裁HP(平16(ネ)2067)〈2ちゃんねる小学館事件控訴審判決〉は、前記〔8〕地裁判決とは逆に、差止めと損害賠償の双方を肯定している。この〔10〕高裁判決は、「自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は、これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには、そのような発言の提供の場を設けた者として、その侵害行為を放置している場合には、その侵害態様、著作権者からの申し入れの態様、さらには発言者の対応いかんによっては、その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。」等とした上で、掲示板運営者は、著作権法112条にいう「著作者、著作権者、出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当するとして、掲示板運営者に対する差止請求を肯定している。
 この〔10〕判決については必ずしも判然としない面もあるが、上記判示部分からすると侵害行為の放置自体をもって著作権侵害行為と評価すべきものとしているようであり注釈6、少なくとも、カラオケ法理に立脚して侵害行為主体性を肯定したものとは言い難く、また、掲示板運営者を侵害行為の幇助者と位置付けた上で幇助者に対する差止請求を肯定したものとは言い難いように見受けられる。上記判断においては、掲示板ないしその運営者の特殊性が重要性を有しているように窺われる注釈7注釈8
 なお、不法行為に基づく損害賠償請求権に関するものではあるが、〔15〕最判平成13年2月13日民集55巻1号87頁〈ときめきメモリアル事件〉は、専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた者は、他人の使用により、ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、ゲームソフトの著作者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判示している注釈9。ちなみに、これも不法行為に基づく損害賠償請求権に関するものではあるが、前記の〔2〕最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〈カラオケリース事件(ビデオメイツ事件)〉は、カラオケ装置のリース業者は、カラオケ装置のリース契約を締結した場合において、当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは、リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、同相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うと判示して、カラオケ装置のリース業者に対する損害賠償請求権を肯定している。

注釈6  ちなみに、この視点自体は、前記〔8〕地裁判決も示唆していたところではあるといえよう。前掲注3参照。

注釈7  ちなみに、本文上記の掲示板とは全く異なる事案についてであるが、〔11〕東京地決平成17年5月31日(平16(モ)15793)〈録画ネット事件仮処分異議決定〉は、「録画ネット」という名称で運営している放送番組の複製・送信サービスにおいて、同サービスの利用者と同サービスの提供者が、当該放送の複製を共同行為者として行っているとして、同提供者への差止めを肯定している(原決定認可)。なお、同事件の原仮処分決定である〔12〕東京地決平成16年10月7日(平16(ヨ)22093)〈録画ネット事件仮処分決定〉においては、同サービスにおける複製の主体は、同サービスの提供者であるとして、同者への差止めを肯定していた。

注釈8  なお、商標法に関するものではあるが、〔13〕大阪地判平成2年3月15日判時1359号128頁〈小僧寿し事件(大阪)〉は、フランチャイジーが商標権侵害をした場合において、その指導をしているフランチャイザーを被告として、フランチャイジーに商標権侵害をさせないように求める請求について、当該フランチャイザーは、フランチャイジーの商号、商標の使用に関し指導、監督し得る法的地位を有しており、実際にも、当該フランチャイザーは、フランチャイザーとして、各フランチャイジーに対し店舗店頭の正面看板等の表示の仕方について指導していることに鑑みると、当該フランチャイザーには、フランチャイジーをして、商標権侵害をさせないようにする義務があるとして、上記請求を認めている。〔14〕高知地判平成4年3月23日判タ789号226頁〈小僧寿し事件(高知)〉も、同種の事案につき、基本的に同様の理由から、当該フランチャイザーには、フランチャイジーをして、商標権侵害をしないように指導する義務があるとして、上記と同様の請求を認めている。

注釈9  〔16〕東京高判平成16年3月31日判時1864号158頁〈DEAD OR ALIVE事件控訴審判決〉も、上記〔15〕最判を引用して、専らゲームソフトの改変のみを目的とする編集ツールプログラム収録したCD-ROMを販売し、他人の使用を意図して流通に置いた者は、他人の使用により、ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、ゲームソフトの著作者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判示している(〔17〕東京地判平成14年8月30日判時1808号111頁〈DEAD OR ALIVE事件第一審判決〉も同旨)。


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P2Pやアクティベーションで問われる法的責任とは


 11月12日に横浜の情報セキュリティ大学院大学で開催された「法とコンピュータ学会・第29回研究会」では、P2Pや知的財産権・通信ログの保全などに関する法的問題についての発表が行なわれた。今回はテーマが「手続的正義」ということで、従来は公的機関に対して問題になることが多かった業務執行における適正手続(Due Process)の問題について、インターネットの普及によって民間レベルでも問題になりつつあるということを踏まえ、それに対する法的見解についての発表が主となった。

P2Pにおける利用者・システム提供者の法的責任は?

小倉秀夫弁護士
 P2P型ファイル交換サービス「ファイルローグ」の裁判で被告(日本MMO)側の弁護人を務めた小倉秀夫弁護士は、「P2Pに関する法律問題」と題して、P2Pによるファイル共有ソフトの利用者・システム提供者それぞれについて問題となる可能性のある法的問題について解説を行なった。

 ファイル共有ソフトの利用者については、小倉氏は対象となる情報を「名誉毀損・信用毀損情報」「プライバシー情報」「わいせつ情報」「第三者の著作物」という4つの類型に分けて、それぞれ問題となりうる条文を解説。いずれの場合も、実際にファイルが他人にダウンロードされた場合には何らかの法律違反となる点では共通しているが、単にファイルを共有状態に置いただけで、誰もそのファイルをダウンロードしなかった場合にはどうなるかという点を解説した。

 この場合、わいせつ情報(わいせつ物公然陳列罪)や第三者の著作物(送信可能化権侵害)は法律違反となり、プライバシー情報についても「人格的自律や私的生活の平穏を害することになるもの」としてプライバシー権侵害が認められると小倉氏は述べた。一方で、名誉毀損・信用毀損情報については「明示的に判示した裁判例がない」として、単に共有状態に置いただけでは名誉毀損などに当たらない可能性があるとの見解を示した。

 システム提供者側については、小倉氏は「そもそもプロバイダー責任制限法は、いわゆるISPやレンタルサーバー事業者に対する刑事免責を与えていないためにザル法化している」と述べた上で、ファイルローグ事件の第一審中間判決では「システム提供者の義務として『権利侵害の申告があったら情報を削除する』だけでは足りず、利用者の実名や住所を登録させるべきだったとの判断が下ったが、この点は非常に問題だ」と語った。

 また、小倉氏はこの手の裁判でしばしば引用される「クラブキャッツアイ事件」の最高裁判決をきっかけに生まれた「利用主体拡張の法理」についても言及。クラブキャッツアイ事件とは、JASRACに著作権料を納めていなかった「キャッツアイ」というスナックがカラオケ機材を客に提供したとして、裁判所がスナックの著作権侵害を認めたというもの。

 「クラブキャッツアイ事件の場合は、どのカラオケを客に歌わせるかの積極的コントロールを経営者側が行なうことが可能だったが、ファイルローグやレンタルサーバーなどでは流通するファイルを積極的にシステム提供者側がコントロールすることは困難である」と指摘。「利用主体拡張の法理を適用するためには、少なくとも権利を侵害される客体(曲・ファイルなど)を管理者側が積極的にコントロールできることを要件としないと、レンタルサーバーなどの提供は困難になってしまう」と述べた。

 最後に小倉氏はWinny事件についても触れ、「世の中で利用される通信サービスは全て不法行為のために使われる可能性があり、従ってWinnyの作者に幇助が認められると通信サービス事業者は全て幇助に問われる可能性が出てくるが、それは社会的によろしくない」と述べ、それを防ぐためにもなんらかの法的解釈により、サービス提供者が刑事責任を負う範囲を制限すべきだとの見解を示した。

ソフトのアクティベーションや違法著作物の検索システムは合法か?

小川憲久弁護士
 弁護士の小川憲久氏は、「知的財産権の保護と自力救済」と題した講演を行なった。最近では主にソフトウェア分野で、ソフトのインストール時にアクティベーションを行なわないとソフトが起動しないものや、違法に流通しているシリアル番号を入力するとソフトが消去されるといった例が見られるが、これらが果たして法律の世界で言うところの「自力救済の禁止」原則(例えば家族が殺された場合に自分で敵討ちを行うことは許されない、など)に違反していないのか、という点について小川氏は考察を行なった。

 小川氏は、自力救済が法的に認められるための条件として「事態の緊急性」「手段の相当性」の2つの条件が必要だという最高裁の基準を示した上で、「従来はいわゆる物権や占有権(借家の立ち退きなど)に適用されてきた原則だが、知的財産権だけに特別に自力救済を認める理由はない」と述べ、ソフトウェアや音楽データなどの著作物についても同様の原則が適用されるべきだとの見解を示した。

 その上で具体的な事例における判断基準として、小川氏は「ユーザー側のシステムへの侵入・干渉がない場合には自力救済には当たらないが、侵入・干渉を伴うものについては自力救済とみなして要件を厳しく吟味すべきである」という基準を示した。これに当てはめると、例えばライセンス契約が切れた後にソフトウェア提供元が運営するサーバーへのアクセスを拒否するといった場合は、ユーザー側のシステムに侵入しているわけではないので自力救済には当たらない。一方、ユーザー側のシステムにインストールされているバイナリ自体を消去するような場合は、ユーザー側のシステムに格納されているデータを勝手に操作していることになるため、自力救済に当たるという。

 ちなみに、アクティベーションを行なわない場合やライセンス契約が切れた場合にソフトを起動できなくするようなタイプのコントロールについては、「そのようなケースではライセンス契約にその旨が書かれているはずであり、従って他のシステムに悪影響を及ぼさない限りにおいては適法と考えるべき」とした。一方で、JASRACが運営する「J-MUSE」に代表される検索ロボット技術を使った違法著作物検索システムについては、「他人のシステムへの侵入に当たるために自力救済と考えられる可能性があり、(前記の2条件が満たされない限り)違法と判断されることもあり得る」と指摘した。

 最後に小川氏は「この分野は日本ではまだほとんど研究されていないために情報が不足している」とも述べ、今後さらに研究や議論を重ねて行く必要があるとして講演を締めくくった。







 



(私論.私見)