428954 有事法概説

 こたびの有事法制三法案の特徴の最大の問題点は、「武力攻撃事態」という新概念をつくったことにある。こうなるともはや、「有事」といういささか包括的な概念を通り越して、明確に「戦争」を前提にして条文化しているということになる。「周辺事態法」の云う「『有事=実際に日本が攻撃された場合』という概念を前提にしての『周辺事態=そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態』の際の武力行使では飽き足らず、「事態の進展によっては、武力攻撃事態と周辺事態が併存することは有り得る」(小泉首相答弁)ということであり、一瀉千里で戦争法案化させている。憲法9条が歯止めしてきた禁断扉をいよいよこじあけたということであろう。

 且つ、「武力攻撃事態」の中には、「@・実際に日本が攻撃された場合」だけでなくA・「攻撃が予測される場合」も対象に含ませたことにある。こうなると判断に恣意性が持ち込まれ、「アメリカの意向に忠実な政府の胸先三寸判断で運用される」怖れ充分であろう。小泉首相の答弁は早くもこれを裏付けている。「国際情勢、相手国の意図、軍事的行動を総合的に勘案して決める」とのみ述べており、ノンブレーキ的に政府権限が強化されている。武力攻撃事態と周辺事態の線引きは極めて曖昧模糊であることは云うまでも無い。

 なお、1999年に立法された周辺事態法は、防衛庁長官が首相の承認を得て自衛隊に行動を命じる仕組みになっている。こたびの武力攻撃事態法案は、首相が本部長を務める対策本部が対処措置を実施する。こうなると、両法案間の整合性は取れていない。小泉政権は、こういう肝要なところの解決をせぬまま、次から次へと矢継ぎ早に軍事立法化を急いでいるということになる。従来立法者が最も神経を使ってきた法理論的整合性さえ省みられていないという杜撰さであるが、これは本法を立案した者の責任が問われるべきであろう。大いに問題の点である。

 次に、法案は、武力攻撃事態における地方自治体に対する首相の指示、代執行の権限を認めたほか、国民の私権制限も包括的に盛り込んだ戦後初の有事立法になっている。盛り沢山に首相の強力な権限が盛られており、「緊急時には自治体や指定公共機関に指示し、従わない場合には代執行できる」としている。事前事後における議会の承認あるいはその進め方の規定はどうなっているのだろう。自治体や指定公共機関の不服従が法的に担保されているのだろうか。議会制民主主義の大綱としてのチェック・アンド・バランス的な理論的すり合せはどうなっているのだろう。まさか無規定ではないと思われるが、こうした重要な点での規定は無いようである。

 自衛隊法改正案では、自衛隊の防衛出動が発令された場合、私有地の強制収容や家屋の撤去なども可能にした。道路法などの適用除外も創設し、自衛隊の作成遂行の障害を取り外した。食料や燃料の確保のための民間業者に対する「物資保管命令」に違反した場合の罰則規定も明記した。つまり、極めて実践性の高い具体的段取りを為すべく周辺的な法整備にまで踏み出したところに特徴が認められる。

 してみれば、こたびの有事法制三法案を通じて戦前の「国家総動員法」並みの規制力を持つ社会の有事法制化を為し遂げようとしている、ということになる。

 ところで、法案は、有事敵性国をどこに想定しているのだろうか。その昔は、ソ連を代表とする社会主義圏全体で、地政学的にソ連、中国、北朝鮮の「極東有事」(安保条約6条)であったであろう。目下は、北朝鮮一本に絞られているのであろうか。あるいは中国と台湾との武力衝突事態まで想定しているのだろうか。

 れんだいこは、そういう枠組みだけではなく、ブッシュ政権が狙う世界の憲兵化の下僕として、地球の隅々まで自衛隊の派遣、それも実戦部隊としての派遣を画策しようとしているのではなかろうか、と勘ぐる。

 果たして、小泉が靖国神社に参拝し、英霊の御霊に頭を垂れる時、そういう報告を為しながら傲然と胸を張り得るとしたら、何ともはや異常人格と云わざるを得ないように思える。英霊の御霊は、そういう小泉によって慰霊されるであろうか。靖国神社側もこれにどう応えようとしているのだろう。もし、違和感無いというのなら、戦前も戦後も今も政治主義的な利用屋の巣窟に違いない。



【想定される主要公共機関の戦争協力化】
経済 日本銀行
医療 日本赤十字社
マスコミ NHK、民法(検討中)
道路 日本道路公団、首都高速道路公団、本州四国連絡橋公団、阪神高速道路公団、
鉄道 JR7社
ダム 水資源開発公団
空港 新東京国際空港公団、関西国際空港株式会社
輸送 日本通運
通信 NTT,NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、KDDI,NTTドコモ9社
電力 北海道・東北・東京・北陸・中部・関西・四国・中国・九州・沖縄の10電力、日本原子力発電株式会社
ガス 東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、
原子力 核燃料サイクル開発機構、日本原子力研究所、独立行政法人、放射線医学総合研究所
研究機関 独立行政法人消防研究所、同防災科学研究所


【想定される国民の自由と権利の規制】
人権全般 「国民の自由と権利が制限される場合がある」と明記(包括法)
思想・良心の自由(戦争協力の拒否) 戦争協力が国民の「努力」義務に(包括法)
物資保管命令違反は懲役刑・罰金
医療、土木・建築、輸送関係者などに業務従事命令(自衛隊法)
財産権 土地・家屋、物資の収容(自衛隊法103条)
言論・出版・集会など表現の自由 社会秩序の維持を口実に治安対策可能。
戦争反対行動を規制・取り締まり?(包括法、個別法)
「防衛秘密」漏洩・教唆も罪に(自衛隊法)
移転移動の自由 「住民の避難を口実に住民を統制、移動移転を制限(個別法、包括法)
自衛隊の「展開予定地域」設定。立ち入り制限、禁止、退去命令も?
通信の秘密 「通信に関する措置」で通信統制。「郵便通信の秘密制限法」が念頭?(包括法、個別法)


【在日米軍の「有事」支援要求(統合幕僚会議の内部文書から)】
自衛隊への要求
政府への要求
行政機関、自治体への要求 給水、給電、ゴミ処理などの支援
24時間通関態勢
民間空港での通信、宿泊給食
民間業者の動員 大量の軍事物資、弾薬などの輸送(トラック千数百台)
公共岸壁でパイロット、ダグボート、船舶修理、荷役人の支援・民間空港における労務
物資の確保や保管 NEO(非戦闘員避難)支援用寝具約3万セット
荷役機材(クレーン、フォーク計114台)
コンテナ(沖縄865、佐世保240、岩国228)
木材、梱包器材などの港湾用資機材
施設の使用 民間空港の使用
公共岸壁の確保や湾岸地域での事務所確保
資材保管地域の確保
特例措置 弾薬輸送に関する関係法規の緩和または特例措置


 【「社会秩序の維持に関する措置」について】

 この法律の全体の体系は、憲法で戦争放棄した日本が、国民が戦争に協力しなければ犯罪者にされてしまうというところにあります。(今後、整備する法制について)内閣官房から説明を受けました。たとえば、その中に「社会秩序の維持に関する措置」というのがありますね。この中に夜間外出禁止令が入るのかときくと、“当然、入ります”と。「国民の生活の安定に関する措置」は何かといえば、たとえば価格統制とか物資の統制とかの経済統制ですよね。文字通り戦時体制をつくって外出禁止令もやる、物資や物価の統制もやる、これがその中身ですよ。自衛隊=軍隊が街中にでてくるということです。


2002年4月26日(金)「しんぶん赤旗」

アメリカの戦争に国民を強制動員

阻もう「戦争国家法案」

きょう審議入り

筆坂秀世有事立法反対闘争本部長にきく


写真

インタビューにこたえる筆坂秀世書記局長代行

 有事三法案=戦争国家法案の国会審議が二十六日からはじまります。日本共産党は十六日、党声明(「アメリカの戦争に国民を強制動員する『戦争国家法案』を断固阻止しよう」)を発表し、有事立法反対闘争本部も設置してたたかいの方向、体制を明確にしています。審議入りを前に、闘争本部長でもある筆坂秀世書記局長代行に、同法案反対の世論を国民のなかでどうひろげていくのかなどについて、聞きました。

日本共産党の声明に熱い思い、大きな反響

 ――党声明への反響はどうでしょうか。

 筆坂 私たちも驚くほどの素早い反響が党の内外からありました。新宿駅頭で声明にそって宣伝しながら署名活動をすると行列ができたとか、大阪ではすでに六十七行政区のうち三十以上の行政区で首長との懇談をおこなうなど、声明をもっての行動が各地でひろがっています。特徴的なことは、「心に響いた」「これは大変な問題だ。いまたたかわなければ」「読んでいて震えてきた」など、平和への熱い思いがふつふつとわきあがっていることです。

 私たちは、今回の法案を「戦争国家法案」と名づけました。日本という国を戦争を最優先にする国にしていく、そのために国の仕組みをつくりかえていく、そこに法案の本質があるからです。この点をわかりやすくしめしたものとして、声明が歓迎されているのだと思います。

戦争にかりたてるため超憲法の仕組みつくる

 ――政府・与党は、いざというときに自衛隊が超法規的に行動しないようにする、暴走をおさえる仕組みを平時からつくっておくのが有事法制の目的だ、法治国家として当然だといっています。

 筆坂 今回の法案は、日本が戦争することを前提にしている点でも、戦争を優先させるため、国民の基本的人権や議会制民主主義、地方自治などを踏みにじっている点でも、二重三重に憲法をじゅうりんしています。いざというときに超法規どころか、それこそ超憲法の国の仕組みをつくるのが、今回の法案です。

 たとえば、国民の強制動員の仕組みです。すべての国民に戦争協力を義務づけるとともに、医療や輸送、建築、言論、通信など多くの分野で、まさに強制的な協力を押しつけようとしています。

 もう一つは、首相に戦争の権限を集中することです。戦争か平和かという国民にとっての一大事態であるにもかかわらず、あらゆる決定は首相がおこない、国民、自治体はそれに従うだけの仕組みができます。国会が関与しないまま有事法制が発動できるようになっている。いずれも、きわめて重大だといわざるを得ません。

 ――法案では、自衛隊が必要とする物資の保管命令に従わないとか、自衛隊による土地・施設の立ち入り検査に応じない国民にたいし、罰則が科せられることになっていますね。

 筆坂 罰則というのは、結局、戦争に反対することは許さないということです。しかし、どんな性格の戦争であれ、戦争に疑問をもったり、反対する国民はいます。政府の命令に従いたくないという国民もでてきます。ところが、今回の法案は、そんな国民の思想、信条、良心の自由を許さないというわけですから、これほど憲法をじゅうりんするものはありません。

 怖いのは、そうなれば、国民が戦争に反対しないように、平時から戦争への協力義務が学校教育などにも持ち込まれるようになることです。有事だけではないのです。

人権抑圧は戦争への道―歴史の教訓

 ――政府・与党は、国が侵略されているのだから、ある程度の制約は仕方がないじゃないかと決まり文句のようにいいますが、この点は…。

 筆坂 まったく歴史への無反省と無知をさらけだすものです。戦前、あの無謀な侵略戦争に、なぜ日本がつき進んでいったのか。人権抑圧こそが、その根底にありました。悪名高い国家総動員法は、中国への全面侵略と軌を一にしてつくられましたが、それだけではありません。なによりも国民主権がなく、思想・信条の自由や言論、表現、報道の自由もありませんでした。それどころか、戦争に反対するという平和の思想を犯罪として裁く治安維持法まであったのです。「自由と人権」の抑圧こそが、無法な侵略戦争への道だったのです。

 だからこそ、戦後、いまの憲法前文では「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」「主権が国民に存することを宣言」したのです。

 ――今回の法案が人権抑圧の国家体制をつくろうとしているのも、不法な戦争をやろうとしているからなんですね。

 筆坂 その通りです。それが、党の声明でのべているように、アメリカがアジアでおこなおうとしている介入戦争です。日本が外国の侵略をうける現実の危険などないことは、中谷防衛庁長官もみとめざるをえないことです。

 一方、アメリカのアジア介入戦争に日本が参加する危険は、戦後史のなかでかつてないほど高まっています。一つは、三年前に戦争法が成立し、法律にもとづいて日米共同作戦のシナリオができあがっていることです。もう一つは、ブッシュ政権が二十一世紀を「戦争の世紀」だと位置づけ、アメリカの国益のためには、軍事介入も当然だと考え、実行に移していることです。

 有事法制は、日米軍事同盟のもとで、憲法をふみにじって自衛隊が創設されて以来、アメリカと日本の政府の一貫した野望でしたが、いまのべたような新しい局面のもとで急浮上し、今国会に提出されたのだといえます。

有事法制が国の防衛に使われたことはない

 ――現実に日本が攻められるような危険がないことは政府も認めている。しかし、万が一の場合の備えなのだ、そしてそういう備えは、古今東西どの国もやっているというのが、政府・与党の主張ですね。

 筆坂 アジアで屈指の軍事大国は日本でしょう。軍事費はアジアでも突出しており、超最新の軍事力を備え、米軍との共同演習で、攻めるための「備え」までしているのが、日本の自衛隊なのです。その日本がアジアの国々を敵視し、いつ日本が攻められるかもしれないというのですから、日本に過酷な侵略をされたアジアの人たちはどう受け止めるでしょう。しかも、アジアでアメリカが介入戦争をやれば、これに国民を強制動員するというのが今回の法案なんです。

 ――そういう法制であっても、世界の多くの国々が有事法制をもっていることは事実ですね。

 筆坂 その問題では、戦後の現実をリアルにみる必要がある。有事法制を世界の国がもっているといっても、自国を防衛するためにそれが発動されたことは、まずないのです。

 フランスは、一九五八年に制定された現行憲法のなかに、非常事態の規定を盛りこみました。しかしこの規定は、フランスの防衛のためではなく、植民地であったアルジェリア(六一年)、ニューカレドニア(八五年)の独立運動を弾圧するために発動されたのです。

 イギリスも同様で、石炭の生産が落ち込んだストライキなどの際に発動されただけです。イギリスの防衛のためには使われていない。ドイツでも、六八年の憲法改正で非常事態が規定されましたが、その発動は現在まで一度も問題になっていません。

平和と憲法を大切にする人々と共同して

 ――最後に、こんごの有事法制阻止のたたかいについて。

 筆坂 いまでは、自由や人権は、日本国憲法にあるように、「侵すことのできない永久の権利」だと考えられるようになっています。そのうえ、戦争は禁止される時代になっています。国連憲章で、例外的に認められるのも、自衛のためのやむをえない戦争、侵略者にたいして国際社会が一致しておこなう軍事制裁だけです。反対する国民を弾圧してやるような戦争ではないのです。

 日本には、戦争を放棄した憲法第九条があります。その国で戦争に反対することが罰せられる、こんなことを絶対に許してはなりません。戦後の原点は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」してすすむことでした。この原点を引き継いでいくことは、いまを生きるものの責任ではないでしょうか。

 この思いは、広範な国民のみなさんも一緒だと思います。日本弁護士連合会や日本ペンクラブも反対決議をおこない、女優の中原ひとみさんや竹下景子さんら、本当に幅広い人が反対の声をあげています。平和を、憲法九条を大切にしたいと願うすべての人びとに心からの共同をよびかけ、阻止のため力をつくしたいと思います。

 また、そのためにも反戦・平和のために一貫してたたかってきた日本共産党とその支部が草の根からの運動の先頭に立つことが必要だと思います。

 宣伝、署名、団体訪問と対話、懇談など大きく広げようではありませんか。


日本国憲法より

 前文

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。

 第9条

 (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 第11条

 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 



週刊『前進』(2051号4面1)

 侵略戦争と国家総動員の攻撃=有事法制3法案を必ず葬り去れ

 徹底批判 “現代の非常事態法”

 外への侵略戦争貫徹のための自治体・民間に戦争協力義務

 日本帝国主義・小泉政権は、4月16日夜、有事立法3法案を閣議決定し、17日、国会に提出した。ついに戦後初めて戦争法体系が登場し、今国会中にその基本法部分の成立がもくろまれている。米帝ブッシュの世界戦争路線、中東侵略戦争、朝鮮・中国侵略戦争のたくらみに日帝が必死で対応して、参戦しようとしている。いや、現にアフガニスタン侵略戦争に参戦している。日帝が自らの主体的な「対テロ戦争」に打って出るために、集団的自衛権を合法化し、首相の独裁権限を強化し、地方自治体と公共機関の戦争動員の体制を作らなければならないと、背水の陣で3法案成立の強行突破を図ろうとしているのだ。今こそ、われわれは95年以来の第3次安保・沖縄闘争=新ガイドライン闘争の総決算をかけて死力を尽くして有事立法3法案の絶対粉砕をかちとろうではないか。

 第1章 集団的自衛権を合法化し米軍と統合作戦

 提出された有事法制3法案とは、次の3つである。
 @「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」(武力攻撃事態法案)
 A「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」(安保会議法改悪案)
 B「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(自衛隊法改悪案)
 この有事立法は結論的に言って、米帝のアジア・中東侵略戦争と一体化する日帝の世界侵略戦争宣言であり、明治憲法下の天皇の非常大権を復活させるものである。日本の労働者人民の最大級の革命的反戦闘争をたたきつけなければならない。
 まず今回の法案が「安保基本法」であると意義づけされていることは超重大である。この間、自民党などは、集団的自衛権の行使のための法制度の改悪は安保基本法でやるとしてきて、それとは別に、有事立法が必要だという議論をやってきた。それが、一気に「安保基本法」を組み込んだ有事立法体系―まぎれもない戦争法体系の制定に踏み込んできたのだ。
 具体的には、武力攻撃事態法案の第2条(定義)で「武力攻撃事態を終結させるために実施する措置」として、「武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動」が明記された。
 それは「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保」のために「自衛隊が武力を行使する」というのであるから、明々白々たる交戦権の発動である。日本が国家として国権を発動する戦争を行うということである。
 そもそも「武力の行使」という規定は、自衛隊法で規定されている以外には戦後日本の法体系の中には位置づけられておらず、基本的に排除されてきた。周辺事態法でもテロ特措法でも、「武力の行使」とは書き込まれないできた。周辺事態法では「周辺事態への対応措置の実施は、武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならない」(第2条2項)とせざるをえなかった。
 それが今回、「自衛隊の武力行使」を公然と宣言することで、憲法体系と相入れないことを百も承知で、有事立法=戦争法を新たな法体系として設定すること、そのことで自衛隊法をも本格的には初めて生かすことが狙われたのである。
 次に、この「自衛隊の武力行使」と並んで、「自衛隊の行動及びアメリカ合衆国の軍隊が実施する日米安全保障条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために(国、地方公共団体または指定公共機関が)実施する物品、施設または役務の提供その他の措置」を設定した。
 また、第3条(武力攻撃事態への対処に関する基本理念)において「武力攻撃事態への対処においては、日米安保条約に基づいてアメリカ合衆国と緊密に協力しつつ」と規定している。
 また第22条(事態対処法制の整備)において、関連する個別法の改悪を規定しているが、そこでいわゆる「国民有事法」の新設や「自衛隊有事法」の改悪・再編に続いて、「アメリカ合衆国の軍隊が実施する日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置」を設定している。
 つまり、まず米軍およびその侵略戦争への国・地方自治体・指定公共機関の総力を挙げた支援=戦争協力を明記しているのである。
 そして、有事立法の発動と、周辺事態法=新安保ガイドラインの発動(日米安保条約に基づいて……)とはほとんど重なり合うことを自認しているのである。その点は、従来からの有事立法の議論を超えて、有事立法に基づく日帝の主体的な侵略戦争行動が、米帝との共同的=競合的な侵略参戦であることを決定的に位置づけ直したのである。
 日本帝国主義が遂行しようとして想定している侵略戦争計画は、実際には自衛隊単独のそれはありえず、また米軍単独のそれもありえず、日米帝国主義軍隊の共同的=競合的な侵略戦争である。実際に米軍が北朝鮮、さらにはイラクへの空爆をすれば、北朝鮮やイスラム武装勢力によるそれへの反撃がありうる=「我が国に対する武力攻撃が発生した事態または事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」(第2条2項)と認定して、自衛隊も米軍との日米統合作戦に基づいて連動して侵略戦争を発動するために、今回の有事立法が出されている。
 すなわちそれは、「米韓5027計画」「対テロ戦争」への日本帝国主義の参戦という、集団的自衛権の行使そのものである。日本帝国主義は、「5027計画」をビルトインした新たな戦争法体系をつくりあげることに踏み切ったのである。今回、それがきわめて鮮明となった。
 憲法の明文改憲なしに、憲法第9条のじゅうりん・破壊が「合法化」されるということである。
 2月の日米首脳会談で、ブッシュが「米帝は一定の近い将来に必ず対北朝鮮攻撃と対イラク攻撃を実行する」という具体的な通告を行い、小泉に参戦体制の構築を迫ったことが決定的に明るみに出たのである。
 武力攻撃事態法は、第2条1項で、「我が国に対する外部からの武力攻撃をいう」と、定義している。ここで「外国」ではなく「外部」としていることは大問題なのだ。そもそも現行自衛隊法が「外部」となっているのである。
 帝国主義の伝統として、「国」ではなく民族解放闘争勢力あるいは民族解放戦争を常に想定していることがそこには示されている。
 しかも「我が国の領土」ではなくて「我が国」となっていることもまた重大な問題なのである。アジアや中東に侵略している商社とか大使館へのゲリラなどもそこには入るのだ。
 次に第2条2項は「武力攻撃事態」を次のように定義している。
 @「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)が発生した事態」
 A「または事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」
 また、B「緊急事態」概念を導入した。
 「我が国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、……武力攻撃事態以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態への対処を迅速かつ的確に実施するために必要な施策を講ずるものとする」(第24条)
 上記の@の規定自体がどこまでも拡張解釈可能なでたらめなものだ。
 加えて、「緊迫し、予測されるに至った」事態とは何か。それは新安保ガイドラインで言う「周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合」「両者が同時に生起する場合」(Y章1)のことなのである。周辺事態法はそれを受けて第1条(目的)で、周辺事態の最大の事例として「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」を規定している。
 この点について自民党幹事長の山崎は、「周辺事態が発展して日本有事に波及する場合、周辺事態と防衛出動待機命令の段階がダブることがある。両者の間にグレーゾーンは当然あり、きれいに線を引く方法はない」(4・3放映のテレビ)と開き直っている。
 同じく防衛庁長官・中谷は「周辺事態はわが国にとって武力攻撃の事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態だ。当然、周辺事態のケースはこの一つではないかと思う」(4・4衆院安保委員会の答弁)と一層明確に言っている。
 有事立法は「周辺事態」を対象としており、発動されるとしている。つまり有事立法は周辺事態法を組み入れることで、それを帝国主義的な真の戦争法に完成させるものなのである。
 その点からも、日帝が米帝の「5027計画」ないし対北朝鮮・対イラクの侵略戦争計画を一切の前提にしていることは明らかだ。
 これは、有事概念があいまいだという問題ではない。日帝が米帝の具体的な朝鮮・中国あるいはイラク・中東への侵略戦争計画を前提にして、そこに積極的にかみ込み、食い下がり、それを自分自身の主体的な戦争として遂行しようとしているのだ。だから、そこから有事概念を拡張しているのだ。
 さらにまた、「武力攻撃事態」に加えて「緊急事態」を押し込んでいることが、小泉の言う「テロ、不審船、拉致事件」を指しているものであることは明らかであり、その面でも、有事概念を根本的に変更し拡張しているのである。
 日帝は、有事の名による帝国主義の側からの積極的・先制的・挑発的な侵略戦争の発動をはっきりと狙っているのだ。
 ここに、日帝の外への侵略戦争の構想・作戦そのものが大きな質的転換をとげているのである。徹底弾劾しなければならない。

 第2章 首相独裁を軸に国家意思決定機構を再編

 首相直轄の事態対処専門委員会が恒常的機関として新設され、そのサポートを受けた首相の独裁権限を「有事」宣言とともに圧倒的に強化し、その首相を頂点とする「対策本部」が設けられる。内閣も議会も無意味化させ、首相―対策本部が一切の権限を集中した(委任された)権力として構築される。それは、全国的な軍事的指揮命令系統の導入という形で、非常事態宣言体制を構築するものである。憲法破壊は、まさにここに極まる。
 武力攻撃事態法案第9条(対処基本方針)と安保会議法改悪案によって、安全保障会議を再編、安保会議を専門的に補佐する「事態対処専門委員会」を新設し「調査及び分析を行い、進言する」(安保会議法改悪案第8条)としている。
 「臨時に内閣に武力攻撃事態対策本部を設置するものとする」(第10条・対策本部の設置)
 4月8日の要綱案の時点までは、「現地対策本部を置くことができる」とされていたが、これは法律で定めるものではないとして、削除された。だが、対策本部のもとに現地対策本部が置かれることは既定のものとなったのだ。
 「指定行政機関の長は、……必要な権限の全部または一部を当該対策本部の職員である当該指定行政機関の職員または当該指定地方行政機関の長若しくはその職員に委任することができる」(第13条・指定行政機関の長の権限の委任)
 「対策本部長は、対処措置を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、……対処措置に関する総合調整を行うことができる」(第14条・対策本部長の権限)
 「内閣総理大臣は、……所要の対処措置が実施されないときは、対策本部長の求めに応じ、……関係する地方公共団体の長等に対し、当該対処措置を実施すべきことを指示することができる」(第15条・内閣総理大臣の権限)
 「内閣総理大臣は、……自らまたは当該対処措置に係る事務を所掌する大臣を指揮し、当該地方公共団体または指定公共機関が実施すべき対処措置を実施し、または実施させることができる」(同)
 (指定公共機関とは、電気・ガス会社、NHK、JR7社などを指す)
 上記の諸規定は重大極まる問題を突き出している。
 すなわち、首相(=対策本部長)とその直属の事態対処専門委員会を軸にして、内閣とは別に安保会議が主要閣僚をもって構成される。有事を認定すると、安保会議に他の全閣僚も加わるものとして臨時の対策本部がつくられる。各省庁の権限の全部または一部はその対策本部に委任される。首相は、対策本部長(=実は首相自身)の求めに応じて、地方公共団体(自治体)に対して強大な「指示権」を持つものとされ、しかもその権限は、地方公共団体の長や公共機関が拒否したり、ちゅうちょした場合には、頭越しに首相自ら実施させることができる(いわゆる直接執行権の規定)のである。それは強権的指揮命令そのものだ。
 @国政選挙―議会―首相・内閣という制度とは別に、首相=安保専門委員会―安保会議を頂点とする対策本部がつくられ、Aしかも国家行政の権限がその対策本部に委任され、B首相=安保専門委員会―対策本部を基軸とする非常時の軍事的指揮命令系統をつくりだすのである。国家意思形成のシステムと機能の基本的枢軸が@にすっかり移行するのだ。
 事実上、公然と議院内閣制を否定して、国家行政から委任された絶大な権限を持つ軍事独裁権力を構築するということである。そこで言われている「委任」「指示」「自ら実施」という規定は、議院内閣制や立憲制とは相入れない概念であり、かつてのナチス・ドイツの全権委任法や明治憲法の天皇大権(議院内閣制度から見ると天皇への全権委任法体系)と本質的にまったく同じものである。
 実際、対策本部の所管区域はどう決められるのであろうか。それは、地方自治体の行政区分ではなくて、自衛隊の全国5方面隊(北部、東北、東部、中部、西部)および沖縄(南西拠点化)の6つの地域割りに従って決められると言われている。それは、まさに戦前の天皇制のもとでの軍令支配の復活であるということができる。地方自治体の長を飛び越して首相が直接に行政組織を動かすことができると定めることは、もはや完全な地方自治の否定・抹殺以外の何ものでもない。
 日帝は、有事立法をもって首相独裁の絶対権力を軸とする国家意思形成システムを構築しようというのだ。それは究極の憲法改悪攻撃であり、憲法を全面停止するものである。

 第3章 労働者人民の権利を圧殺し戦前型暗黒に

 有事立法の最重要の核心点は、非常事態宣言にあり、かつての天皇の非常大権のような権力を振るって一切の階級闘争を粉砕してしまうところにある。それを全労働者人民への義務の強制と権利の停止として行うものが、今回の有事立法なのである。
 「国は……武力攻撃事態において、我が国を防衛し、国土並びに国民の生命、身体及び財産を保護する固有の使命を有することから、……組織及び機能のすべてを挙げて、武力攻撃事態に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務を有する」(第4条・国の責務)
 「地方公共団体は、……国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する」(第5条・地方公共団体の責務)
 「指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する」(第6条・指定公共機関の責務)
 「国においては武力攻撃事態への対処に関する主要な役割を担い、地方公共団体においては武力攻撃事態における当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産の保護に関して、国の方針に基づく措置の実施その他適切な役割を担うことを基本とするものとする」(第7条・国と地方公共団体との役割分担)
 「国民は、国及び国民の安全を確保することの重要性にかんがみ、指定行政機関、地方公共団体、または指定公共機関が対処措置を実施する際は、必要な協力をするよう努めるものとする」(第8条・国民の責務)
 この「国民の責務」は第3条と一体のものとしてみなければならない。
 「武力攻撃事態への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない」(第3条・武力攻撃事態への対処に関する基本理念・1項)
 「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合は、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続きの下に行われなければならない」(第3条4項)
 国の責務、地方公共団体の責務、指定公共機関の責務と並んで、「努めるものとする」というきわめて強い表現をもった「国民の責務」の条文が追加して加えられたのである。まさに、有無をいわせぬ、国民の戦争協力の義務化である。
 そして、「国民の自由と権利の制限」を公々然とうたう条文が入っているのである。「制限は必要最小限」とか「公正かつ適正な手続き」とかの表現はペテン的なものである。実は、その部分は、6日の「原案」では、「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限するようなことがあってはならない」(第3条)という禁止規定であったのが、「制限が加えられる場合においてはこうこうすべきである」という逆のベクトルの表現―条件規定に変わっていることも重大である。
 「必要最小限」と言うが、これは戦争の「必要」(国家の必要だ)が増大すれば、「最小限」の範囲はどんどん広がり、やがて無制限に自由と権利が押しつぶされることになるのだ。
 明らかに私権の制限が狙われ、何よりも労働者人民の一切の権利、集会・結社の自由、言論・表現の自由を総体として圧殺することが狙われているのである。前述の首相―対策本部の軍事的独裁権力のもとでは、何が行われるかはあまりにも明らかではないか。
 自民党幹事長の山崎は、「私権の制限については、全体の利益ということだ(公共の福祉が私権より優先するという意味)。外国にじゅうりんされるに任せるのが最も国民の権利を損なう」(朝日新聞2・8付)などと強弁している。
 さらに、かつての梶山発言を想起してみよ。
 96年8月8日、当時官房長官の梶山静六は、日経連セミナーの講演で、有事立法の必要性を強調する中で次のように発言した。
 「恐ろしいことは朝鮮半島で何かあった時一番大変。朝鮮半島でドンパチやって日本に影響ないなんてことはない。例えば大量の難民が来た時、偽装難民もある。武器供与されたらどうする。彼らには国内に組織がある。南と北の。それが内紛状態になった時、日本の自衛隊はどう戦うか」
 梶山は、北朝鮮と一体となって日本の国内で呼応する在日朝鮮人民がいるのだと排外主義的に扇動し、朝鮮総連への治安弾圧、破防法適用を叫んだのであった。その帝国主義的民族排外主義が有事立法総体を根底から規定しているのだ。
 有事立法は在日・滞日のアジア人民およびイスラム諸国人民に対して、自衛隊が直接に武器を向け、使用し、取り締まり、虐殺することを合法化するものであることを、怒りを込めて弾劾しなければならない。

 第4章 自衛隊法改悪の狙い 陸海空を軍事最優先

 次に自衛隊法改悪のポイントを明らかにする。
 @「(防衛庁)長官は、……防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、……自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設を構築する措置を命ずることができる」(第77条の二・防御施設構築の措置)
 出動待機命令(=予測される事態)の段階であらかじめ陣地を構築することができるとするものである。
 自衛隊の戦闘行動の時点を早め早めに「予測される事態」に置き、しかも活動の範囲を大幅に拡大しているのである。
 A「通行に支障がある場所をう回するため必要があるときは、一般交通の用に供しない通路又は公共の用に供しない空地若しくは水面を通行することができる」(第92条の二・防衛出動時の緊急通行)
 B「(待機命令時の)自衛官は、……事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」(第92条の三・展開予定地域内における武器の使用)
 自衛官が自己の判断で武器を使用できるのである。
 C「立木等が自衛隊の任務遂行の妨げとなると認められるときは、……当該立木等を移転することができる。……(移転が困難なときは)処分することができる」(第103条3・防衛出動時における物資の収用等)
 「家屋を使用する場合において、……当該家屋の形状を変更することができる」(第103条4)
 軍事的な観点から、自衛隊の邪魔になる立木を移転あるいは処分し、家屋を破壊することが合法化されようとしているのだ。
 D「(防衛出動時に)都道府県知事は、……土地等を使用し、取扱物資の保管を命じ、又は物資を収用するため必要があるときは、その職員に施設、土地、家屋若しくは物資の所在する場所又は取扱物資を保管させる場所に立ち入り、当該施設、土地、家屋又は物資の状況を検査させることができる」(第103条13)
 これは、現行の自衛隊法第103条第2項で、防衛出動時に都道府県知事は、一定の地域内に限り、「施設の管理、土地等の使用若しくは物資の収用を行い、又は取扱物資の保管命令を発し、また、当該地域内にある医療、土木建築工事又は輸送を業とするものに対して、……(業務に)従事することを命ずることができる」とうたわれていることを、実際に貫徹するための改悪である。立入検査をすることで初めてこれらの強制が実効性を持つとしているのだ。 
 E「(待機命令時の)自衛隊の部隊等の任務遂行上必要があると認められるときは、都道府県知事は……土地を使用することができる」(第103条の二・展開予定地域内の土地の使用等)
 ここでも、「予測される」段階で土地の使用がどしどし行われるのである。軍事優先になり、労働者人民は私権が制限され、土地を追い立てられるのだ。
 F防衛出動時および防衛出動待機時に、以下の20の法律での適用除外その他の特例措置を設ける。(第115条)
 消防法、麻薬及び向精神薬取締法等、墓地・埋葬等に関する法律、医療法、漁港漁場整備法、建築基準法、港湾法、土地収用法、森林法、道路法、土地区画整理法、都市公園法、海岸法、自然公園法、道路交通法、河川法、首都圏近郊緑地保全法、近畿圏の保全区域の整備に関する法律、都市計画法、都市緑地保全法。
 たとえば、森林法で、立木の伐採は次のように規定されている。「立木を伐採するには、農林水産省令で定める手続に従い、あらかじめ、市町村の長に森林の所在場所、伐採面積、伐採方法、伐採齢、伐採後の造林の方法、期間及び樹種その他農林水産省令で定める事項を記載した伐採及び伐採後の造林の届出書を提出しなければならない」
 これが自衛隊法改悪による特例では、「伐採したときは、その旨を市町村の長に通知しなければならない」の一言に短縮される。伐採のための手続きは一切いらない。事後に通知さえすれば、どれほど伐採しても、後のことを考えなくてもいい、森林を破壊して道路や陣地を造るのは自衛隊の自由勝手ということである。他の19の法律でも、適用除外や特例はすべてこれと同じようになっている。
 まさに、土地も道路も港湾も海岸も河川も公園も森林も、すべて自衛隊の軍事目的に従属させられるのである。軍事優先社会に完全に切り替わるのだ。
 G「立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は……報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、20万円以下の罰金に処する」(第124条)
 これはDで挙げた「施設の管理、土地等の使用若しくは物資の収用を行い、又は取扱物資の保管命令」を実施するための立入検査に強制力をもたせるための条文である。戦争のために、土地の使用や物資の収用や保管に反対し、拒否して闘うことを罰するというものである。
 H「取扱物資の保管命令に違反して当該物資を隠匿し、毀棄(きき)し、又は搬出した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」(第125条)
 「前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する」(第126条)
 保管命令は具体的にはガソリンスタンド経営者、食糧品関連業者、流通業者、工場・倉庫など管理業者などに出される。この懲役刑を含む罰則規定は超重要である。
 これもDで挙げた、防衛出動を振りかざして物資を強奪することに伴う罰則であり、戦争に反対し物資の取り上げに反対すると監獄にぶち込むということをうたったものだ。
 今回は103条2の従事命令に罰則を導入することは見送ったとされている。しかし、保管命令に罰則が設定されること、「国民の責務」規定が明記されることなどと合わせると、医療労働者、土木建築労働者、運輸労働者の全般に対して事実上の国家的強制力が加えられる。罰則規定は戦前型の徴用の復活なのだ。
 戦争のためなら何でもできる、軍隊に必要ならどんなことでも許される、従わなければならない、そして戦争に駆り立てられ殺される。こんなことがどうして許せるか!
 有事立法攻撃とは、帝国主義的排外主義の扇動を決定的な武器として、反戦闘争を始め階級的闘いの全面圧殺、労働者階級の労働争議の全面禁圧の上に、国家総力戦・国家総動員体制を構築すること、そしてそのための全国的一元的な軍令を復活させることをもくろむものである。まさに戦前型の国家総動員体制を再現しようというものなのだ。

 第5章 有事法は憲法への死刑判決 革命的反戦闘争の大爆発を

 有事立法とは何か。それはあの沖縄戦を見よということである。
 アジア侵略戦争と米英との帝国主義間戦争の末、沖縄は「本土防衛」「国体護持」の盾として差別的に位置づけられて「玉砕の島」になることを強いられた。そこでは、日本軍が一切の権力を握り、有無を言わさず土地を取り上げて飛行場や陣地とした。働ける者はすべて勤労動員を強いられ飛行場建設などでこき使われた。軍の都合で家屋はどんどん接収された。食糧も軍に強奪された。医療は作戦の観点からのみなされ、重傷者は「自決」を強いられた。住民は防衛隊として、弾薬運びや伝令をやらされた。「スパイ」をデッチあげられて多くの人が殺された。邪魔だからと殺されたり、「集団自決」に追いやられた。日本軍が人民に銃を向けたことを絶対に忘れてはならない。
 帝国主義軍隊は「国体」「国家」を守ろうとはするが、人民を守ったためしはない。目的が違うのだ。有事立法の行き着く先は沖縄戦であることをきっぱりと見据えなければならない。
 自衛隊が「武力攻撃事態」「重大緊急事態」の名で勝手に土地を奪い、陣地を構築し、基地を建設し、道路でも畑でも山谷でもすべてを押しつぶして行軍し、住民を強制排除し、あるいは自衛隊の戦闘行動のために陸海空港湾労働者に軍需労働を強制し、それに従わないと罰則を加え、弾圧するというのが、有事立法なのである。
 自衛隊は現場判断で発砲し銃撃する武器使用をすることになる。それは現地対策本部への「委任」規定とあわせて考えると、現地対策本部の先陣を担う自衛隊への権限の委任であり、そこで武器使用が自由になるということであり、恐るべきことに、軍隊が自己運動しやりたい放題に何でもすることになる。
 同時に、沖縄基地が米日帝のアジア・中東侵略戦争の最前線出撃基地である現実を考えると、有事立法は、沖縄人民に新たにSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)路線=基地固定化、新基地建設を強制的に貫徹するものとなる。それは第2の沖縄戦を強制するものだ。
 有事立法は時限法とか暫定法とかではなく、恒久法として制定されようとしている。その点は実に重大な問題を突き出している。なぜなら、以上見たような有事立法という〈非常事態宣言法〉が、およそ現憲法と両立するものでないことはあまりにも明らかであるからだ。憲法を停止することを求める法律が成立するならば、それは憲法の排除が決定されたことをただちに意味する。
 他方、自民党は「憲法改正国民投票法」を今国会に提出するという。憲法改悪への道を強引に押し開こうというのである。
 有事立法の制定は、憲法とりわけ憲法第9条への死刑判決である。改憲攻撃がついに決定的に打ち下ろされたのだ。
 小泉は「憲法は永久不変のものではない。……21世紀にふさわしい憲法改正の議論が活発に展開されることを強く期待する」(2・7衆院代表質問への答弁)
 なぜ、いま有事立法か、を見るとき、やはり、米帝ブッシュの世界戦争路線への踏み切りが決定的な意味を持っているのである。
 米帝ブッシュ政権は、昨年秋、QDR(4年ごとの防衛見直し)を打ち出し、今年年頭の大統領一般教書(「悪の枢軸」論)を明らかにし、また3・11ブッシュ演説(9・11から半年にあたっての演説)を押しだし、核政策見直しを公然と明らかにしている。
 ブッシュはイラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけ、そればかりかパレスチナ解放闘争の「ハマス、イスラム聖戦、ヒズボラ」を「テロリスト」と決めつけた。米帝は、全世界のすべての被抑圧民族の解放勢力、そしてすべての被抑圧民族人民を「テロリスト」と呼び、その総せん滅の戦争をやり抜くしか、基軸帝国主義として延命できないという地点から「対テロ戦争」を決断している。その背景には、対中国の世界大的戦争や、さらには帝国主義間戦争さえ、設定しているのである。対中国の一大侵略戦争がQDRの核心をなしている。
 イスラエルを先兵としたパレスチナ人民への民族丸ごとの総絶滅戦争を見よ。被抑圧民族に対する極悪非道で徹底的に帝国主義的な侵略戦争が、今まさに21世紀の世界史をずたずたに切り裂いている。世界戦争の流れは始まっているのだ。 日帝は、この米帝の世界戦争路線に必死に食い下がっていくこと、そのことで生き残るしかないとしているのである。
 有事立法攻撃とは、日本帝国主義が、日帝版〈01年QDR〉を構築しようとするものである。米帝01年QDRでいう「脅威対応型から能力対応型への転換」を日帝自身がやろうと挑戦していると言える。日本帝国主義の、法律の形をとった世界侵略戦争宣言である。
 有事立法もこのような情勢の中で、いつでも、できるだけ早く使えるようにしようとあらゆる超反動的攻撃を盛り込んで立法化しようとしている。直ちに実戦化することが立法の基準となっているのだ。
 有事立法は、96年安保再定義―97年新ガイドライン―99年周辺事態法―01年テロ対策特措法と続いてきた一連の攻撃の集大成をなすものである。主体の側から言えば、95年の沖縄の反乱から始まる第3次安保・沖縄闘争、新ガイドライン闘争の総決着をつける闘いである。91年の「6月の挑戦」以来の営々たる蓄積のすべてをかけてかちとるべき総決算的大闘争である。
 パレスチナ人民の闘いに肉薄し、わがものとし、必死の連帯をかちとり、戦争によってしか生き残れない帝国主義に対する怒りを猛爆発させて、今こそ革命的反戦闘争を絶対に巻き起こさなければならない。
 陸・海・空・港湾労働者の決起を先頭に、日本労働者階級の革命的反戦闘争を大爆発させよ。鉄道、トラック、海運、航空、港湾などの運輸労働者が、いま激しい危機感と怒りをもって続々と闘いに立ち上がっている。軍事輸送、戦争協力を義務付ける有事法制3法案は、侵略への加担であると同時に、自らの命も危険にさらすものである。「平和な海」は海員労働者にとって絶対的な前提である。軍事輸送に協力した船舶が、軍隊によって航行を守られることなどないのだ。
 また、教育労働者にとっては、「教え子を再び戦場に送るな」の闘いの正念場である。国防の義務が「国民の責務」になると、その次は徴兵制だ。医療労働者は、「白衣を戦争の血で汚すな」の闘いに立とう。マスコミ労働者は、戦争協力の道は「大本営発表」につながっていることを想起しよう。すべての労働者が、有事立法は他民族圧殺と自らの犠牲なのだということを心に刻んで闘いに総決起する時だ。社会全体が戦争優先になる時、だれひとり例外はない。
 学生諸君。有事立法は徴兵制と学徒動員の第一歩だ。戦争に反対する全学生の決起をつくりだそう。
 同時に、有事立法粉砕闘争を反軍闘争としてかちとろう。自衛隊兵士を革命の側が獲得しなければならない。兵士諸君! 今こそ隊内から立ち上がれ。
 帝国主義の危機は深く、その没落は不可避である。反帝国主義・反スターリン主義世界革命の確信も固く総決起する時である。パレスチナ反戦闘争、パレスチナ人民の蜂起への熱烈な連帯闘争を爆発させよ。
 有事立法阻止・教育基本法改悪阻止―改憲粉砕、日帝・小泉政権打倒の闘いを爆発させよ。4―6月の革命的反戦闘争に全力で取り組もう。

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4月27日 2:14
クローズアップ:
有事法制5つのポイント


 有事法制関連3法案の衆院本会議での趣旨説明が26日行われ、戦後の安保政策の大きな転換点となる国会審議がスタートした。緊急時における国家の基本権、個人の私権制限、自治体の関与など多くの課題を含む有事法制。この日の与野党質問と政府答弁で浮き彫りになった論点は――。

 ◇武力攻撃事態の定義

 「武力攻撃が予測される事態まで対象にすると政府に都合のいい主観的恣意的運用になる余地が生じる。明確な判断基準を示すべきだ」(民主党・伊藤英成氏)

 「事態の判断は、国際情勢、相手国の意図、軍事的行動などを総合的に勘案してなされる」(小泉純一郎首相)

 武力攻撃事態の定義について、野党からは「あいまいだ。有事の対象がどんどん広がる」との懸念が相次いだ。

 首相は明確な事例を挙げて説明することを避けた。政府内には「あえてあいまいなままにしておく方が効果的な抑止力となる」(防衛庁幹部)との判断もあるからだ。いわば「戦略的なあいまいさ」と言える。

 ただし、国民感覚では「平時」でも政府が「予測される事態」と判断することで、恣意的な私権制限がまかり通る懸念は残る。与党内にも「もう少しわかりやすく説明できないか」との意見もあり、今後の審議ではある程度具体的な説明も必要になりそうだ。

 また、首相は、武力攻撃事態と周辺事態との関係について「事態の進展によっては両者が並存することはあり得る」と答弁した。共産党や社民党は「周辺事態法が発動され自衛隊が米軍の戦争に参戦する時、国民を強制的に総動員するのが有事法制の真の狙いでは」と批判する。米軍支援の法制は2年以内に整備するが、集団的自衛権の行使を認めていない政府の憲法解釈の範囲でどこまでの支援ができるか、難しい問題もある。

 ◇首相の指示権・代執行権

 「首相は地方公共団体に指示し、従わないと代執行できるが、具体的にどんな場合を想定しているか」(伊藤氏)

 「避難勧告で住民を移送する時、自治体の態度が決まらなければ国が直接やる場合もある」(片山虎之助総務相)

 具体的ケースを挙げてのこんなやりとりもあった。片山氏は、首相の指示権の例として「住民避難で受け入れる自治体が複数あって決まらない時に、国が責任もって指示し(ある地方自治体に)引き受けてもらうことなど」とも言った。

 法案の理解を得るためにこうした具体的イメージを今後もできるだけ示すことが、政府側の最低限の義務だろう。

 ただ、どんな指示や代執行ができるのかは今回の3法案には書いておらず、新たに法律を整備して規定しなければならない。野党側は首相の指示や代執行権だけ認めてあとは政府の自由裁量にならぬよう、委員会で追及していく構えだ。

 また、日銀やNHKなどが対象となる指定公共機関に民放など他のメディアも入るかどうかについて、片山氏も「どの機関が入るかは政令で定める。機関の意見も聞いたうえで決めていく」と述べただけ。公共機関や自治体には情報不足との懸念が出ており、突っ込んだ論議が必要だ。

 ◇国民の協力・保護・罰則

 「『国民は対処措置を実施する際は必要な協力をするよう努める』と明記しているが、国民に戦争への協力を義務づけるものではないか」(共産党・石井郁子氏)

 「その指摘はあたらない」(小泉首相)

 法案は国民の私権制限を包括的に定めたことから、憲法の基本的人権の尊重との関係をどうするかが焦点になる。

 与党間協議で保守党は「『協力』は『責務』とすべきだ」と主張していたが、国に国民が強制的に動員されるイメージが強く、公明党が慎重姿勢を示し『協力』に落ち着いた。首相の「協力を義務づけるものではない」との趣旨の答弁は明党への配慮でもある。

 一方で、この日はこんな答弁もあった。

 「罰則は主として積極的な行為、義務の履行を確保するためのものではない。妨害等を行わないという不作為を要求し違反する行為に課すなど公共の福祉を確保するための必要最小限の制限として憲法上許される」(中谷元防衛庁長官)

 有事の際の「不作為」を要求、とは要するに自衛隊の行動を邪魔しないように、ということだ。積極的な妨害でなければ罰しない、との説明は、実際の運用はともかく、国民の私権制限に対する国民の拒絶反応を少しでも和らげたいといった意図がありそうだ。

 ◇テロ・不審船は後回し

 「戦闘機や艦船を使って上陸し攻めてきた敵に戦闘機や戦車で応戦するという古い戦争観は通用しない。テロで国中をパニックに陥らせてから攻撃したり、いきなりミサイルや生物・化学兵器で日本の戦闘能力を奪うシナリオが考えられる。冷戦後の有事の中心と見られるテロへの対処をなぜ後回しにしているか」(自由党・東祥三氏)

 「武力攻撃事態以外の緊急事態への対処についても、一層、改善強化するための施策を講じることとしている。後回しにするとの指摘は当たらない」(小泉首相)

 今回の法案は、昨年9月の米同時多発テロや同12月の東シナ海における武装不審船問題を追い風に国会提出にこぎつけたが、大規模テロや武装不審船対策が盛り込まれておらず、与野党双方に強い不満感がある。

 首相も気にはしているようだ。法案には「武力攻撃事態以外の緊急事態への対処を迅速かつ的確に実施するために必要な施策を講じる」との条項を首相の指示で盛り込んだ。法案の閣議決定にあわせ不審船やテロ対策を「引き続き推進する」との内容を盛り込んだ首相談話も発表した。

 ただ、政府内には「テロ・不審船対策は現行法制の運用を改善することでかなりの部分まで対応できる」(防衛庁幹部)との見方も強い。テロや不審船対策の法案整備は今回は時間的に無理だという現実もある。

 ◇政治への不信と文民統制

 「国民生活に重大な影響を及ぼす法案が、疑惑を指摘されている議員や役所の主導で審議されるのでは国民の理解が得られない」(伊藤氏)

 「一日も早く国民の信頼を回復し国益を増進する体制を整える決意だ」(川口順子外相)

 伊藤氏は有事法制の必要性を認めつつ、一時的に国民の権利を制約する法案である限り、政治に対する国民の信頼が不可欠との論理で政府に迫った。

 「シビリアンコントロール」(文民統制)は単に法的枠組み作りを指すのではない、との主張だ。外務省や与党議員の不祥事が相次ぐ政権がこうした「私権制限」法案を国会に諮ることの是非は、民主主義の理念から言っても、法案の内容以上に重い意味を持つ場合がある。政府がこれを政局論として排除するのか、政治の信頼確保に口先だけでなく態度と実績で誠実さを見せるのか。国民の賛否はそれに負うところも大きい。

 この日の本会議場は前日の個人情報保護法案審議と同様、空席が目立ち、社民党の金子哲夫氏が質問の中で関心の低さを指摘した。後半は自民党がベテラン議員を中心に出席は半分。民主党も約3分の1が空席。政府だけでなく国会も、文民統制にふさわしい場かが問われる。

[毎日新聞4月27日] ( 2002-04-27-02:15 )



日本共産党

2002年4月28日(日)「しんぶん赤旗」

日本が危ない 戦争国家づくり(8)

罰則規定

協力しないと懲役刑も


 一兆九千四百億円。

 二〇〇〇年度に防衛庁が中央、地方で調達した物資の金額です。品目の中には、戦車や航空機、艦船などの主要兵器だけでなく、衣料品や燃料、IT関連のソフトウエア、医療品、食料なども含まれます。

 防衛庁と契約するためには、防衛庁契約本部の資格審査をパスしなければなりません。パスした企業が登録されている有資格者名簿に載っている企業は、関東・甲信越地方だけで、一万八千六百社あります。

 「平時」でも、自衛隊は、二万社近くの企業から物資を調達できるように網の目を築き、実際に二兆円近くの物資を民間から調達しているわけです。

 これが「有事」ではどうなるのか――。

苦役を強いる

 有事三法案の一つ、自衛隊法改悪案は、自衛隊が必要とする物資をもっている業者などに「公用令書」で保管命令を出すことができるとしています。これに違反した者は、六月以下の懲役、三十万円以下の罰金が科されます。「有事」の際に、戦争遂行上、さらに必要となる物資を国民から確実にとりあげるために設けた規定です。

 かつては、政府でさえ、物資保管命令違反を罰することに、「慎重な上にも慎重な検討が必要であろう」と答弁したことがあります(一九八一年五月八日の衆院安全保障委員会、角田礼次郎内閣法制局長官の答弁)。

 それは、保管命令が、国民に危険な“苦役”を強いるおそれもある命令だからです。

 角田長官は、保管命令が、自衛隊が戦闘している地域の国民に出された場合、「相当危険な地域」で国民が保管業務に従事させられることもありえるとし、「国民の基本的人権との調整ということは当然問題になる」と指摘せざるをえなかったのです。

米軍への提供明記

 「悪質な違反に限定する」 法案の国会審議の初日となった二十六日の衆院本会議。小泉純一郎首相は、罰則についてこう答弁しました。

 しかし、「悪質」かどうかを判断するのは政府。損をしたくないからと物資を隠したり、横流しする場合だけが「悪質」ではありません。政府が始めた戦争に反対だからと、引き渡しを拒否しても「悪質だ」と判断される場合もありえます。ここに、戦争を国家の最優先の価値とする「戦争国家法案」の持つ危険な本質があらわれています。

 武力攻撃事態法案では、「対処措置」の定義として、自衛隊だけでなく米軍にも「物品、施設又は役務の提供」をおこなうと明記しています。米軍への物品・役務の提供を具体化する法律・協定も、これから準備されます。(つづく)

調達品目別の契約企業
調達品目 契 約 企 業
燃  料 コスモ石油、カメイ、エッソ石油
弾火薬 小松製作所、アイ・エイチ・アイ・エアロスペース、ダイキン工業、横河電子機器、石川製作所
ソフトウエア 三菱電機、日本電気、東芝、日本電子計算機、日立製作所、富士通、沖電気工業
通  信 三菱電機、日本電気、東芝、日立製作所、富士通、沖電気工業、エム・シー・シー、日立国際電気
車  両 三菱重工業、小松製作所、アイ・エイチ・アイ・エアロスペース、いすゞ自動車
機  械 三菱重工業、日立製作所、横河電子機器
電  気 三菱電機、富士通
防衛庁中央調達実績の上位30社(2000年度)から作成

 



▼基地・安保
過去の記事
核軍拡を促進する「ミサイル防衛」構想への「理解」を批判
 

この間、いろんな学習会や集会で有事法制について話してきましたが、その一部をまとめたものが雑誌『前衛』に掲載されましたのでお読み下さい。
●「米戦争協力のための有事立法危険な内容」


 小泉首相は、二月四日の施政方針演説で、「有事に強い国づくりを進めるため、与党とも緊密に連携しつつ、有事への対応に関する法制について、取りまとめを急ぎ、関連法案を今国会に提出します」とのべ、歴代首相としてはじめて「有事立法」の国会提出を断言しました。
 小泉首相は、就任当初から、集団的自衛権の行使を主張し、靖国神社の公式参拝を公言・実行し、テロ対策特別措置法では、はじめて自衛隊の戦地への派兵を実行するという憲法やぶりの政治をすすめてきました。そして、こんどは、「有事立法」、つまり「戦時立法」を強行しようとしています。
 小泉内閣は、いったいどのような「有事立法」を考えているのか、その目的はなんなのか、どこにその本質があるのか、国会のこれまでの議論を踏まえながら報告します。


1、いまなぜ「有事立法」なのか

 まず、小泉内閣が、「有事立法」を急ぐ理由はどこにあるのでしょうか。
 小泉内閣は、テロ事件や昨今の不審船事件などを煽りながら、この機に乗じて、アメリカへの戦争協力をいっそう拡大するために、憲法やぶりの戦争体制をつくりあげる、ここに「有事立法」の策定を急ぐ第一の理由があります。
 
【根拠のない「日本有事」】

 小泉首相は、『有事立法』は、日本がどこかの国から攻め込まれた場合の『備え』だ」と強調しています。しかし、これまでの歴代の自民党政府でさえ、日本有事にはなんの根拠もないことをくり返し言ってきました。
 昨年五月、日本共産党の吉岡吉典議員が、「日本を攻める能力のある国はあるのか」と追及したのにたいし、中谷元防衛庁長官は、「三年から五年のスパン(期間)では想像できないかも知れない。……現実にどこが攻めてくるとかそういうことを言うことはできない」(参院外交防衛委員会、五月三一日)と答弁しています。
 七八年、「有事立法」が国会で大問題になった当時、福田首相は、日本有事というのは、「万万万が一の備えのためだ」と、万を三回も並べました。「万が一」というのを「広辞苑」で引きますと、「ほとんどないが、まれにあること」で、一万回に一回あることとされています。その「万が一」が三回になると、一〇〇〇億年をはるかに超えて一兆年に一度起きるかどうかということですから、福田首相自身が、きわめて無きに等しい事態だということを認めたことでした。
 ですから、小泉首相は、こんどの国会でこの点を追及され、「我が国に脅威を与える特定の国を想定しているわけではございません」(参本会議、二月八日)というあいまいな答弁に終始しています。
 このように、根拠のない「日本有事」で、憲法に明記された国民の財産の保護、基本的人権の尊重など民主的権利を奪う「有事立法」の強行は、あまりにも重大な問題を含んでいると思います。
 
【根源は、アメリカの戦争への参戦体制】

 それにもかかわらず、「日本有事」が叫ばれるのはなぜでしょうか。それは日米安保条約のもとで、アメリカがアジアで起こす戦争に日本が戦争協力をし、自衛隊が参戦する、海外派兵する、ここに根源があるからです。
 一九九九年四月、日米ガイドライン関連法、「周辺事態法」が成立しました。「周辺事態法」は、日本国憲法のもとで、日本ではじめての「戦争法」です。そして昨年一〇月には時限立法であるテロ特措法が成立しました。
 この二つの法律が想定するのは、「日本有事」ではありません。「周辺有事」、つまりアメリカ「有事」のための法律です。小泉首相は、いま「日本有事の備えは重要だ」としきりに強弁しますが、そうであるならば、なぜアメリカ「有事」の「戦争法」がつくられなければならないのか、国民にまったく説明していません。
 いわゆる米ソ対決の時代にも、「単独の日本の有事はありえない。唯一ありえるのは、米ソ戦争で、日本が戦争に巻き込まれる場合だ」ということは、日米政府当局者の一致した見解でした。
 レーガン米政権下の八二年、米議会で日本問題の公聴会がありました。ギン在日米軍司令官は、「日本だけが攻撃され、単独で対応しなくてはならないような事態はありえず、日本へのソ連の限定攻撃は米ソの世界的対決のなかでだけありうる」(米下院外交委、八二年三月一二日)と証言しています。同じく、ウェスト国防次官補は、「日本だけが孤立したかたちで攻撃されることはありそうにない」(米下院外交委、八二年三月一日)としています。
 日本側では、日米ガイドラインの日本側担当者の左近允尚敏元自衛隊統合幕僚会議議長が、「恐らく例えば、朝鮮半島で動乱が起き、それが日本に波及して、日本も防衛出動が発せられる、あるいは中東で紛争が発生し、それが大きな戦争に発展し、さらにこちらに波及する、あるいはヨーロッパで戦争が起きてこの地域に波及し、日本でも防衛出動が下令される、といったものになりそれぞれのシナリオについて今後作戦計画の案がつくられる」(安全保障制度調査会、八一年八月一七日)とのべています。また、永野茂門元陸上自衛隊幕僚長(元法務大臣)は、「米ソが開戦して、日本がいつ火の粉をかぶるか、……巻き込まれるということを前提に、法制面その他必要な手を打っておかなければならない」としています(『日米共同作戦』大賀良平ほか著)。
 今日でも政府は、「地域紛争などの不確定、不安定な要素」を、「日本有事」の根拠としています。
 これらは、「日本有事」の根源が、アメリカがアジアで先制的に戦争を起こす、それに日本が丸ごと巻き込まれて積極的に戦争支援をおこなうことにあることを示しています。
 
【ブッシュ米政権の戦争政策と対日圧力】

 では今、アメリカはどういう政策をすすめようとしているのでしょうか。
 ブッシュ米大統領は、対テロを口実にアフガニスタンでの戦争をすすめていますが、さらに「テロ対策」を利用して、戦争拡大に躍起になっています。
 ブッシュ大統領は、昨年暮れのインタビューで、「二〇〇二年は戦争の一年となる」(ロイター電、〇一年一二月二一日)と驚くべき発言をしています。二月の「一般教書」演説では、イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」とよんで、武力行使を辞さないことを宣言しました。この「悪の枢軸」発言は、当事国はもとより A中国やロシア、フランス、それからアメリカ国内でも批判と懸念の声が広がっています。
 ところが小泉首相は、今国会の衆院予算委員会の答弁で、「(『悪の枢軸』発言は、)ブッシュ大統領のテロ対策の決意のあらわれ」と絶賛するありさまです。しかも現在、自衛隊は、テロ特措法にもとづいて、インド洋に居座りつづけています。重大なことに、今度の派兵で自衛隊が行動できる範囲には、アメリカが対テロ戦争の拡大対象にあげているイラクやイラン、ソマリアなども含まれています。
 小泉内閣は、ブッシュ政権がすすめる戦争拡大政策に、批判や懸念を伝える世界各国と違って、これまでどおり忠実な「属国」として積極的な協力をすすめようとしています。今年、『Newsweek日本版』(一二月二六日号)が、「属国ニッポン」と題した特集をおこないましたが、アメリカの戦争政策に唯々諾々と従っている、まさにそのタイトルどおりのことをすすめているのが小泉内閣です。
 二〇〇〇年一〇月、ブッシュ政権で国務副長官をつとめているアーミテージ氏が中心となってつくられた米国国防大学国家戦略研究所の報告書は、日本に対して、集団的自衛権の行使を要求するとともに、「危機管理法の立法措置を含む改定日米防衛協力指針のしっかりとした実施」を提言しました。「有事立法」は、アメリカの対日圧力によって強行されようとしているのです。最近、内閣官房が発表した文書でも、有事立法整備は、「日米安保体制の信頼性を一層強化することになる」と書かれていることは、このことをはっきり示していると思います。
 小泉首相は、「日本有事の備え」といいますが、その「備え」は、アメリカの戦争への協力のための「備え」でしかありません。
 戦争の根源、米軍基地や日米安保条約をなくすこと、アメリカへの戦争協力政策を変えること、このことこそが、日本が攻め込まれない最大の「平和の備え」だということを強調したいと思います。
 
【憲法九条こそ平和のたしかな備え】

 「有事立法」の最大の問題は、日本国憲法になんらの根拠をもたないことです。それは、憲法が「有事の備え」に何もしないということではありません。憲法は、戦前の侵略戦争と軍国主義による暗黒政治の痛苦の反省から、日本の平和と安全は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」(前文)かちとるものであると宣言しています。九条は、戦争を放棄し、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としています。つまり、国際協調と平和外交によって、日本の平和と安全をまもることを宣言しているのです。日本共産党の志位委員長は、衆院代表質問で、「憲法九条が平和の備え」と強調しましたが、これが日本国憲法が世界に宣言した立場です。
 戦後五〇年、米ソが対決してきた時代にも、日本はどこの国からも攻められることはありませんでした。政府や防衛庁は、日米安保条約や自衛隊が「抑止力」となった、「日米安保のおかげ」と強調しますが、そうではありません。
 アメリカのベトナム侵略戦争では、韓国やフィリピン、タイは参戦しましたが、日本は、憲法九条があり、参戦しませんでした。戦争に直接巻き込まれることはありませんでした。日本が攻め込まれなかったのは、「憲法九条のおかげ」なのです。
 いま政府は、同時多発テロや不審船事件を盛んに煽っています。日本共産党は、不審船事件で見解を発表しました。政府は、国際法や国内法の明確な根拠もなく、領海外の「排他的経済水域」で不審船を追跡したうえで、実弾船体射撃までおこなう誤った対応をしています。そしてあたかも不審船事件で、「有事」の対応が必要だと煽っています。これらは、「日本有事」とは違う次元の問題で、「有事立法」の根拠にはなりえない問題です。
 私は、この不審船事件を省みるたびに、「ソ連脅威」論を思い出します。約一〇年前までは、”日本周辺にソ連の原子力潜水艦がうようよしている、バックファイアーというソ連爆撃機が日本周辺を飛行している、北海道に上陸するかもしれない”と、「ソ連の脅威」がまことしやかに煽られました。その結果、「ソ連原潜を探知する」といって一機約一〇〇億円のP3C対潜哨戒機を一〇〇機以上買いました。今、そのP3Cは、ソ連原潜がなくなり、まったく役立たずです。まさに「ソ連脅威」を煽って自衛隊の軍備増強がおこなわれたのです。しかし、ソ連は崩壊しました。
 いま、このような「ソ連脅威」と同様に、不審船やテロを絶好の契機として、「有事立法」の必要性が説かれています。このような根拠のない理由で、「有事立法」や軍備拡張を煽るやり方は正さなくてはなりません。
 憲法九条を高くかかげ、これを日本の政治、外交に生かすことが、平和の「備え」の最大で確かな保障であるということを、多くの国民に、大いに訴えていきたいと思います。


2、「有事立法」の危険な内容

 では、小泉内閣は、どのような「有事立法」を考えているのでしょうか。
 二月五日、政府・与党は、「武力攻撃事態の対処に関する法制整備の全体像のイメージ(案)」を発表しました。内閣官房の説明によると、この「全体像案」で、「有事立法」をまとめるとのことです。実際にはこれからの作業によりますが、これを土台に「有事立法」の危険な内容を検討してみたいと思います。
 
【憲法に真っ向から反する超憲法的体制づくり】

 政府・自民党はこれまで、「有事立法」の策定にあたって、「安全保障基本法」とか「緊急事態基本法」の制定をめざしていました。「安全保障基本法」では、憲法で禁じられている集団的自衛権の行使を認める内容も検討されていました。
 しかし、このような「基本法」の場合、憲法上規定のない「有事」という概念をどのように規定するのか、ここが最大の問題となります。そのため、政府や自民党の内部では、「日本有事」には、テロ・不審船を含めるとか、含めないとか、迷走に迷走を重ね、結論として出されてきたのが、今回の「全体像のイメージ(案)」(以下「全体像」)です。ここでは、テロや不審船対策は、別途必要な検討を加える」とされ、「日本への武力攻撃」に限定されています。しかし、それで憲法との矛盾は解決されたのかといえば決してそうではありません。
 「全体像」は、「全般」と「個別」に分かれ、それを「包括」した形で法案を提案するとされています。「全般」のなかで、「武力攻撃事態への対処に関する法制」作成の段取りを明らかにするとしています。「個別」の部分は、そのほとんどが、これまで約二五年間、防衛庁が積み重ねてきた有事立法研究をすべて網羅するという形になっています。
 つまり、「全体像」は、憲法上規定のない「有事」についての「正面突破」を避けながら、「戦争体制」の法制を日本の法体系に導入することにあります。
 しかも、その全容は、「有事」を口実にして、国民の権利を制限することに最大の眼目があります。憲法で定められた財産権の保護(二九条)をはじめとする基本的人権(一一条〜四〇条)を根本から侵害するという最初から憲法に真っ向から反する超憲法的な体制づくりにほかなりません。
 「有事立法」が国民の権利を侵害することは、自民党政府がすでに認めていることです。森前内閣は、昨年三月三〇日、楢崎欣弥議員の質問趣意書に答えて、「合理的な範囲内において法律で国民の権利を制限し、又は国民に特定の義務を課すことも憲法上許されるものと考えている」との答弁書をだしています。つまり、「公共の福祉」を口実にして、「有事」は、「公共の福祉」だから、国民の権利侵害もできるというのです。
 しかし、多くの憲法学者の見解は、「このような(侵略戦争の)歴史的体験を背景にして制定された日本国憲法のもとでは、有事立法によって国民の基本的な人権を制限、剥奪することは、いかなる論理をもってしても、『公共の福祉』をもってしても、許容されないというべきである」(演習『憲法』芦部・池田・杉原編)というものです。「戦争放棄」の憲法をもつ日本においては、戦争法が「公共の福祉」にあたらないことは当然なのです。
 ところが、自民党の山崎幹事長は、「全体像」を発表したさいの記者会見で「今度の有事立法というのは、国民の生きる権利を守るための行動だ。国民の権利を侵害するために行動するわけではない」とのべました。これほど、逆立ちした発言はありません。「有事立法」は、生きる権利を守るための行動ではなく、国民の権利を侵害する以外のなにものでもありません。
 
【周辺事態法と一体となった有事立法】

 では今回の政府が提出する「有事立法」の特徴はどこにあるのかという点です。
 第一に、アメリカの戦争協力のための「有事立法」だということです。
 今回政府が発表した「全体像」では、「米軍支援法」をつくることをはっきり明記しています。「日本有事」の際、自衛隊に適用されるものを米軍にも適用できるようにすることが中心的な内容になります。また、山崎自民党幹事長は、ACSA(日米物品・役務提供)協定の改定をうちだし、自衛隊が強制収用した物資を米軍に提供できるようにすることが検討されています。
 二〇〇一年版の「防衛白書」は、「有事立法」研究の目的を三つあげ、(1)自衛隊の行動にかかる法制、(2)米軍の行動にかかる法制、(3)国民の財産や権利に関する法制をあげています。米軍のための「有事立法」は、すでにさまざまな形で検討されてきたのです。
 今政府がすすめているのは、「日本有事」であって、アメリカのアジアでの戦争とは関係ないのではないかという疑問をお持ちの方もいると思います。
 しかし、九七年九月二三日、日米両政府で合意された「日米防衛協力の指針の見直し」(新ガイドライン)は、日米共同作戦計画や対米支援計画をつくるうえで、「周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合または両者が同時に生起する場合に適切に対応し得るようにする」ことをはっきりと明記しています。ですから、佐々淳行元防衛庁官房長は、「有事法制と周辺事態というのは、密接不可分にあるので、有事法制を考えるべき時にきている」(「読売」九九年五月二一日付)と語っているのです。
 このことはまた、内閣官房文書が、「日本有事」ではない、「武力行使に至らない段階から」有事立法が発動するという見解をしめしていることにも示されています。
 これまで自民党政府は、自衛隊が、日本への武力攻撃がなくても、米軍との共同軍事作戦行動をおこなうために、さまざまな拡大解釈をすすめてきました。
 日米共同軍事作戦行動をさだめた日米安保条約第五条は、日本の領海・領域にたいする武力攻撃がおこなわれた場合にのみ、それを認めていましたが、旧日米ガイドライン(七八年一一月)では、日本への武力攻撃の「おそれ」を挿入して、武力攻撃がなくても共同軍事作戦行動をとることで合意しました。それが「周辺事態法」では、自由党の修正案で、「周辺事態」の定義のなかに、「そのまま放置すれば武力攻撃に至るおそれのある事態」と規定されるにいたりました。私は、内閣官房の担当者に、「そのまま放置すれば日本への直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」は、「日本有事」ということになるのかと聞きました。答えは、自衛隊の行動は(防衛出動待機命令があるから)入らないが、その他の問題は含まれる可能性はあるということでした。
 「有事立法」は、日本への直接の武力攻撃がない場合、つまり「周辺事態」のような場合においても、アメリカへの対米支援を完璧におこなうことができるように、いつでも日本国内に戦争体制をつくることができるようにすることが最大の眼目です。
 
【アメリカ「有事」で日本国民を動員】

 たしかに今回の「有事立法」は、条文のうえで「日本が武力攻撃を受けた場合」に限定されるかもしれません。しかし、それは、日米ガイドラインの強化につながっています。
 「周辺事態法」は、アメリカがアジアで戦争を起こしたとき、日本が弾薬や武器の輸送、傷病兵のための医療、物資の提供について協力すると定めています。しかし、具体的にどのように協力するのかについては、自治体や民間の動員ができるとしか定めていません。しかも、「周辺事態法」九条では、自治体に対しては、一般的な「協力」義務、民間には「依頼」しかできないことになっています。
 志位書記局長(当時)は、「周辺事態法」の審議で、九四年の北朝鮮制裁のさい、米軍が一五九九項目の対日要求を提出したことを暴露しました。そこには、米軍の艦船・航空機の国内港湾・空港の優先使用、国内陸上輸送のための道路の優先使用、交通統制、電波の統制等々が公然と要求されています。これらは、今回の「全体像」にすべて含まれています。これらの要求が、アメリカがアジアで戦争状態になったときに、一般的な「協力」や「依頼」だけでできるのかということは、アメリカ側からのつよい懸念・疑念であります。
 グリーン米外交問題評議会主任研究員は、「周辺事態法」を「自衛隊にその役割(東アジアでの対米軍事支援)を担う権限が認められた」と高く評価するとともに、「しかし、協力に消極的な民間機関や地方公共団体に対し、必要な協力を行うよう強制できる権限を総理大臣に与えるよう、さらに立法措置が必要である」(「冷戦後の日米同盟」、坂元一哉氏との共同論文)と強調しています。つまり、「周辺事態」で、日本国民を動員するための「強制措置」が必要だというのです。
 「周辺事態法」の際には、米軍基地をかかえる県・市町村をはじめ、動員要請される陸海空の輸送業者や労働者から、「強制措置がとられるのではないか」との不安と懸念が表明されてきました。政府は、「あくまで協力か依頼である」と強弁してきましたが、「有事立法」の推進で、この「強制措置」が浮上することは決して否定できません。この点を自治体や労働組合に訴えて、自治体ぐるみのたたかいをすすめる必要があると思います。
 
【国民財産の強制収用と国民への従事命令】

 第二の特徴は、憲法やぶりの「戦争をする国」となるために、自衛隊を中心とした軍事優先の体制づくり、戦争国家体制づくりをめざす、そのために国民の基本的人権を制限することが中心的な内容だということです。
 「全体像」は、「第一分類」として、自衛隊法一〇三条をあげています。
 一〇三条は、日本国内の戦闘地域で、自衛隊が、都道府県知事に要請して、国民の土地や財産を強制的に収用することができる、食糧や水、衣料品などのあらゆる物資を強制収用する、保管命令を発することができると定めています(一項)。また、戦闘地域以外で、医者や看護婦などの医療関係者、トラック運転手、パイロット、スチュワーデス、船員などの輸送業者、大工、左官、建築士などの土木工事者を戦争に動員することができるとしています(二項)。
 一〇三条は、自衛隊法を制定する当時から存在していましたが、あまりにも戦前の国家総動員法と類似しているために、一〇三条を実際に運用できるようにするための政令ができませんでした。この経過は、宮崎弘毅元保安隊法規班長が論文に書いています(『国防』七八年五月号)が、「関係省庁との協議が極めて困難であったこと」をあげています。
 私は、自衛隊法一〇三条と戦前の国家総動員法を比較してみました。国家総動員法では、当時の帝国軍隊が、「総動員業務」と「総動員物資」を徴用(国民などを強制的に動員すること)できるしくみをもっています。しかし、驚いたことに、国家総動員法の「総動員物資」にあげられているものは、一〇三条によってすべて強制収用することができるのです。しかも、防衛庁の「有事立法中間報告」では、国家総動員法の「総動員物資」のようにあらかじめ物資の範囲を規定しないので、あらゆる物資を強制収用することができることになります。この点だけについて言えば、国家総動員法を上回る内容をもっているということができます。
 今回の「有事立法」では、この一〇三条の政令をつくることによって、死文化していたものを復活させ、事実上、国家総動員法に匹敵する権限を自衛隊に与えようというのです。しかも、この強制収用では、一片の「公用令書」があれば収用できることになります。強制収用に応じない国民や従事命令に従わない国民には「罰則」を科すことも検討されています。
 憲法のもとでは、道路や鉄道建設などの公共事業の際、土地収用法によって、強制収用は、正当な手続きなしにできないことになっています。ところが、今度の「有事立法」では、「公用令書」を示すだけで、その土地を強制収用できる。しかも、一〇三条一項では、「緊急を要すると認められるとき 」には、都道府県知事にかわって、自衛隊の司令官がみずから強制収用できるとなっています。
 これまで事実上死文化していた自衛隊法一〇三条を復活させる、この問題一つとっても、「有事立法」が、憲法が保障している国民の財産、国民の基本的人権を、根こそぎ奪う、超憲法的な内容をもっていることがはっきりすると思います。
 一〇三条の政令案は、国会の議決が必要な立法化ではありません。その意味でも、一〇三条そのものの危険な内容を多くの国民に先制的に訴える必要があります。
 
【自衛隊の軍事優先体制づくり】

 「全体像」があげているもうひとつの問題は、米軍・自衛隊の戦争体制、軍事優先体制をつくる、さらに戦争へ国民を総動員するための体制をつくるという点であります。いわゆる「有事立法中間報告」にある「第二分類」・第三分類」といわれるものです。
 「第二分類」では、自衛隊や米軍がいつでもどこにでも陣地や戦闘指揮所をつくれるようにする特例措置が検討されます。弾薬や燃料を輸送する際の自衛隊の制限が取り払われ、優先体制がつくられることになります。野戦病院の設置や民間病院の「接収」なども当然考えられることになります。今回の「有事立法」では、道路法や医療法、火薬取締法などが七項目にとどまっていますが、当面は、最小限度にとどめ、つぎつぎと拡大する手法がとられようとしています。
 「第三分類」では、民間船舶や航空機を統制する、電波周波数を統制し、軍事行動優先にきりかえることが検討されています。
 例えば、「民間航空機の航行の安全確保」では、「航空機の航行する航空機・空域等の指定」(「有事法制の整備について」〇二年一月、内閣官房)があげられています。現在、米軍には、「日米航空合意」(一九五九年)で、朝鮮半島で「有事」が起きた場合に、米軍が一直線に武力攻撃ができるようにするための米軍専用空域、「ブロック・エリア」を優先的に設定することができることになっており、実際、一九六八年のプエブロ号事件ではこれが設定されました。しかし、これらの優先体制は、自衛隊に適用されていません。
 まさに、「そこのけそこのけ戦車・戦闘機・軍艦が通る」という陸海空全域にわたる軍事優先体制をつくる以外のなにものでもありません。
 しかも、「第三分類」では、「民間防衛体制の確立」や「国民の避難誘導の円滑化」が強調されています。とくに「民間防衛」は、自衛隊法一〇三条の従事命令が特定の業種に限定されているのに比して、全国民を対象とした戦争推進体制をつくりあげるもので、国民総動員の体制づくりです。これらの法制は、現段階では、「今国会か次期国会以降に提出」されるとされています。
 
【戦前の戦争体制復活につながるたくらみ】

 「有事立法」策定の目的は、以上の問題だけにとどまりません。「有事立法」が、今国会で提出されようとしている内容をはるかに超えて、戦前の戦争体制の復活に突き進むことは、これまでの自民党政府の見解を見ても明らかです。
 小泉首相は、「有事立法」について、「憲法の範囲内」であり、「基本的人権を尊重」し、「正当な手続きでやる」とくりかえし弁明しています。これは、七八年の「中間報告」にある「憲法の範囲内で行うものであるから、旧憲法下にあった戒厳令や徴兵制のような制度を考えることはありえない、言論統制などの処置も検討の対象にしない」(九月二一日)との見解をおうむ返しに言っているにすぎません。
 今国会に提出予定の自衛隊法の一〇三条の復活、米軍と自衛隊の軍事優先体制の確立だけをとってみても、憲法に真っ向から挑戦する内容をもっていることは明らかですが、この見解がだされて間もない時期から、戒厳令や秘密保護法など戦前の戦争体制の復活をめざす重大な見解がつぎつぎと打ち出されました。
 七八年一〇月九日の衆議院予算委員会では、福田首相が、「ただちに秘密保護法の改正というようなことは検討課題にはいたしませんけれども、将来それは全然野放しにしておくんだということは私は妥当ではない。検討はとにかくする」と発言しました。さらに真田秀夫法制局長官は、一〇月一七日の参議院内閣委員会で、日本共産党の山中いく子参院議員の追及に、「旧憲法下の戒厳令や徴兵制は許されないが、命令の中身、手続きなどについては許されるものもあり、法文化する必要があれば審査する」と答弁しています。
 秘密保護法の問題では、昨年テロ特措法と一緒に、軍事機密保持と罰則を強化する自衛隊法改悪が成立しました。軍事機密の保持は、必然的に国民の「知る権利」を侵害します。これらが「有事」を口実に、国民を統制する内容に強化されることになります。
 戒厳令についていえば、戦前の戒厳令はわずか一六条にすぎない法律です。しかもその内容は、軍隊が憲法を停止させて、政治・司法をすべて牛耳るという軍事独裁体制をとるものです。戒厳令は第二次世界大戦の中で一回も適用されていません(二・二六事件の場合は、戦時下でなかったため、勅令で一部を適用)。日本本土が戦場となった沖縄戦の時にも、一度も適用されていません。このような重大な内容をもつ戒厳令を、「(現憲法下で)許されるものもあるかも知れない」として、「法文化する必要がある場合は審査する」というのですから驚くべきことです。
 これが自民党政府の「憲法の範囲内」という「憲法感覚」です。極めて超法規的な、超憲法的な内容にほかなりません。
 すでに防衛庁内部では、国会で暴露された一九六三年の秘密研究「三矢作戦計画」があります。これは、朝鮮半島「有事」の際に、米軍と自衛隊が戒厳令や国家総動員体制をとるという超憲法的戦争体制の研究でありました。この研究は、防衛庁が本当にめざしている「有事立法」の本質をすべて描いています。
 「有事立法」が「戦時立法」である以上、今回しめされた「全体像」の内容は、ほんの入り口にすぎず、その本質は、軍事優先の暗黒政治に道をひらくものであることは、歴史が証明しています。


3、国民との共同で、有事立法をくいとめよう

 今国会にどのような内容の「有事立法」が提出されようとも、その内容は、「憲法の範囲内」と言いながら、実際には、国民の財産を取り上げ、憲法で保障された国民の基本的人権を著しく侵害する内容になることは明白です。しかも、日本国民をアメリカの戦争に総動員するという、二重三重の反国民的な戦時立法であることは明らかです。
 小泉内閣は、「有事立法」の策定を、集団的自衛権の行使をはじめ憲法改悪の道への跳躍台にしようとしています。このようなたくらみは、絶対に認められません。憲法をまもる多くの国民と力をあわせてくいとめていきたいと思います。
 今日、「テロ対策」といえば、戦争をしてもかまわないという風潮がつくられようとしています。しかし、アフガニスタンでの戦争で、三七六七人にのぼる民間人が戦争に巻き込まれ、命を落としたと、アメリカの研究者が、報告しているように、戦争が女性や子どもたちをはじめ民間人を巻き込む悲惨な結果を生むことは歴史の教訓です。今日重要なことは、戦争や「有事」を煽ることではありません。平和外交を積極的にすすめ、「有事」を起こさせない努力をつよめることです。
 国連の玄関には、ピストルの銅像があります。このピストルは、銃口がねじ曲げられています。これは、国連が、第一次世界大戦、第二次世界大戦での悲惨な戦争体験をもとに、ふたたび戦争は許さない、戦争を違法化する世界の流れの中で結成されたことを示しています。国連憲章は、「武力の威嚇、武力の行使」の禁止、国際紛争は平和的に解決することを宣言しています。「戦争は違法だ」、これは人類がつくりあげた最大の財産です。テロ対策は、この国連憲章の立場から、国連を中心とした法の下の裁きによって解決すべきです。日本国憲法は、この国連憲章の立場をいっそう強化したものであり、国連憲章と憲法をまもることが、世界と日本の平和に貢献する道です。
 いま政府の「有事立法」策定のたくらみにたいし、共同通信などの世論調査では、「慎重」が六四%にのぼっています。国民は、憲法やぶりの「有事立法」に大いなる疑問と懸念をもっています。
 「有事立法」が、アメリカの起こす戦争の「備え」であること、その戦争で、憲法に明記された日本国民の権利、人権が侵害されるという、屈辱的で危険な内容を訴え、多くの国民との共同で、「有事立法」をくいとめていきたいと思います。

〔本稿は、東京都内でおこなった講演に加筆したものです〕

|小泉親司日本共産党参院議員HOME

朝生−−日共参議院議員・小泉親司の馬鹿発言−−
火河渡(02/4/27 03:42)


 4月27日、午後2時頃『朝まで生テレビ』において、日共・参議院議員・小泉親司が珍発言を繰り返して視聴者の失笑をかっているので紹介する。

田原「共産党は昔から非武装中立論だったじゃないか」
小泉「そんなことないですよ。」
田原「いやいや、昔から非武装中立論ですよ。」
 (注・・・田原はここで間違ったことを言っており、日共はもともと武装中立論なのである。)
小泉「・・・そうですよ。」
 (注・・・日共の持論であった武装中立論をテレビ放送してしまうと、党本部に帰って不破から大目玉を食らうため、歴史を偽造する小泉)
田原「将来的には、自衛隊を廃止するけど、現在の自衛隊は認めるんですよね。」
小泉「認めはしないですよ。」
田原「そんなことない。こないだ共産党の人と話したとき・・・」
小泉「現在ある自衛隊は認めるけど、将来は廃止するんですよ。」
田原「日本に不当な侵略があったら、どうするんですか? 万、万が一。」
小泉「万が一不当な侵略があったら・・・そのときは、当然、自衛隊を活用しますよ。」
田原「じゃあ、将来廃止するっていうけど、自衛隊がなかったらどうするんですか?」
小泉「そのときは国民がいっしょになって闘うんですよ。ベトナムだってそうでしょ・・・・」
田原「そのとき、武器はどうするんだ。武器は?」
小泉「だからね、自衛隊を活用して・・・」以下、無様な沈黙。


 日帝の国家暴力装置=自衛隊を認めた日共。
 自衛隊パラノイアが高じた党官僚・小泉は、将来これを廃止するといいながらも、もはや外敵の防衛を大前提にし、自衛隊による防衛を完全に肯定している。
 将来、自衛隊を廃止したとき、外国に攻められたら、武器はどうする?と、つめよる田原に対して、またぞろ自衛隊を持ち出す小泉。
 もはや自衛隊なくしては思考も回らない。

 すべての良心的日共党員・支持者の諸氏は、自衛隊を肯定し、祖国防衛主義に陥ったこの党から、一日もはやく決別すべきである。



Re:大変勉強になります
鶺鴒子(02/4/29 13:01)

> 今までのところ、共産党の小泉議員をフォローする共産党支持者の意見はないと思いますが、支持者の方はどうなんでしょうか。
> 特に、共産党は非武装中立なのか、武装中立なのか、という問題。共産党の小泉さんは何故、ここでころころと言っていることが変わったのか。個人的な勉強不足なのか、それとも党内の混乱なのか。
 火河渡さんの指摘された、朝生。笑えました。共産党に対する「怒り」から「あきれ」へと見ているうちに変化し、そのうち、「哀れ」さえもよおしました。小泉議員のウロタエは共産党の混乱とご本人の「勉強不足」の両方でしょう。共産党の自衛隊政策は20回大会において、それまでの「武装中立」から憲法擁護(護憲)に転換する中で、「基本的」に「非武装」(厳密には非武装という用語を使用すると、あらゆる武力を否定するということから、警察力は武力に相当するかどうか、という「不毛」の議論を併発します。ですから、憲法上の「戦力」について、もう少し厳密な定義をする必要があります)に転換をしています。

 小泉氏は、共産党の政策を正確に敷衍して、以下のように述べるべきでした。
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@20回大会までは、基本的に「武装中立」でした。この考えは、現在の憲法の下では、自衛隊はどう見ても違憲なのでこれを解消する。しかし、「自衛権」そのものは、国家に認められているので、将来は国民の世論の動向を見て、憲法を改正して、「真に」国民を守る軍隊を創出する(宮本顕治は、中曽根とのやり取りの中で、徴兵制ではなく、「志願兵と一応しておく」、と述べている)。そして、安全保障政策は、「中立」(日米安保からの離脱が前提になっている)である。
A22回大会では、憲法9条の理念と社会主義の理念は共通すると述べた。ここで、「武装中立」から憲法9条の理念に転換し、同時に、自衛隊の解消については、「段階的解消」を提起した。その中で、解消する以前に「急迫不正の主権侵害」があった場合は、現に存在する自衛隊を「活用」する、という提起を行った。
B22回大会では、読みようによっては(大会期間中に文章を修正)、民主連合政権の下で自衛隊を「改革」してから(侵略性を除去するという、「主観的」なものだが)、「活用」すると理解もできるが、不破委員長の朝日新聞へのインタビューでは、どいう性格の政権(野党連合政権などが想定されていた)でも「急迫不正の事態」で自衛隊を活用する方針であると明確に述べられている。(大会では、この不破の言明については不問。赤旗の朝日インタビュー解説記事では、この自衛隊活用論は12回大会以来の一貫した方針であると強弁。この記事を書いた記者が処分されたとは聞いていない)
C自衛隊の段階的解消の方針については、民主連合政権を確立して、安保を廃棄する。安保廃棄と自衛隊解消は国民の理解度が違うので、安保廃棄後、自衛隊について議論をする。その中で、自衛隊を「改革」する。国民が自衛隊がなくても「大丈夫」という情勢認識に達したら、これを解消する。自衛隊の解消は21世紀(100年ある!)の課題である。
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この辺りまでが、共産党の政策(私の解説も入っていますが)で「言い得る」ことです。
しかし問題は一杯あります。
@現在の自衛隊が違憲なら、急迫不正の侵害があった場合、これを使用するのはどういう法的根拠からか、全く説明がない。それこそ「超法規的」な使用になる可能性が高い(プロレタリアート独裁なら、それでよいが)。超法規的な使用でない場合は、当然、自衛隊法によって使用する。しかし、現在の有事法制議論が示しているように、自衛隊法は政令も不備だし、何より有事における指揮や国民との関係が整備されていない。従って、自衛隊を活用するなら、当然のことととして「有事法制」が必要である。なぜ、自衛隊を認めておいて、有事法制に反対をするのか、全く支離滅裂である。現在の自衛隊は、法的には活用しようにも活用できないものなのである。
A憲法9条と言っておきながら、急迫不正の事態で自衛隊を活用(どの政権レベルで活用するかは、ここでは問わない)するというのは、結局、急迫不正の事態が生ずる場合(可能性は問わない)、軍事力が必要だと言っているわけである。これは憲法9条の考え方とは無縁です。こういう議論をするのであれば、「武装中立」の方が、はるかにスッキリとします。
B自衛隊解消の時期を「国民の判断」に委ねる方向を示しているが、こういう漠然とした議論で、21世紀には解消できる状況になる、などの議論は全く無責任である。解消したいのであれば、解消しても問題はないこと、むしろ、自衛隊の存在そのものが国民の安全に有害であることを示し、これに替わる安全保障についての政策を明確に示すことが必要である。イザを言うときは使用してしまうような軍隊を、将来は解消するといっても国民は絶対に信用しない、というトートロジーに陥っているのである。これでは、軍事力が必要ない国際社会を「どうやって形成するのか」、共産党自身は他人任せになる、ということでしょう。
 まだ、色々といいたいことはありますが、今回はこの辺で。